JP3696083B2 - 平面型電子放出素子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一対の導電性薄膜の微小間隙部(境界部)を電子放出部とした平面型の電子放出素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高画質映像を大画面で提供できる表示装置として、薄型のプラズマディスプレイパネル(PDP)が実用化されている。このPDPは、印刷方式で配線や画素を形成できるため、ローコストで大画面パネルが実現できる。また、PDPは、画素毎の放電と放電により発生する紫外線によりパネル全面に形成された蛍光体を発光させて画像を得るため、原理的にはブラウン管と類似した画像生成原理により映像を表示することができる。
【0003】
しかし、紫外線による蛍光体の励起発光であるため蛍光体材料の発光効率が低く消費電力が大きいこと、さらに放電時間が瞬時であるため高輝度を実現するためにはフィールド時間一杯をかけて発光を繰り返す必要があり、このため動画像に不自然な動きが見られること、さらに放電電圧が200V程度と高いため高耐圧の駆動ICが必要でありドライバICのコストが相対的に高いこと、などの課題がある。
【0004】
一方、最近注目されてきた大画面薄型ディスプレイに、平面型電子源(電子放出素子)を用いた電子線励起型蛍光体表示装置がある。文献でも報告があるように、電子放出素子アレイが印刷技術を用いて形成できること、電子による蛍光体励起発光のためブラウン管と同じ発光原理を用いていること、さらに平面型電子源は十数Vの電圧で駆動できるため耐圧の低い駆動ICを用いることができる、などのメリットがある。その基本構成及び製造方法,駆動方法などは、文献(E.Yamaguchi,et.al.,“A 10-in.SCE-emitter display”,Journal of SID,Vol.5,p.345,1997.)に詳細に述べられている。
【0005】
平面型電子源を用いた電子線励起型蛍光体表示装置では、リアプレートとなるガラス基板上に平面型電子源がマトリックス状に形成されている。平面型電子源は電極に印加された電圧により駆動される。リアプレートと対向してフェースプレートと呼ばれるガラス基板上に画素毎にR,G,Bの発光を行う蛍光体膜が塗布されており、その上にはアルミニウムからなるアノード電極が形成されている。両プレート間は真空状態に保持されており、平面型電子源から放出された電子はアノード電圧により加速されて蛍光体層に照射される。この加速電子のエネルギーにより蛍光体を励起発光させる。
【0006】
発光そのものはブラウン管と同じ原理であるが、ブラウン管が電子銃から放出された電子ビームを偏向コイルなどによりスキャンさせて画面内を走査させるのに対して、平面型電子源を用いた電子線励起型蛍光体表示装置では、各画素毎に設けた平面型電子源から電子放出が行われ、それぞれの画素の蛍光体層を励起発光させる。また、リア及びフェースプレート間は数mm程度の間隔であり、薄型の表示装置であることにブラウン管との大きな違いがある。
【0007】
このような平面型電子源を用いた電子線励起蛍光体表示装置は、発光効率の高い電子線による蛍光体励起発光を用いるため、大画面であっても消費電力が少ない。さらに、蛍光体の発光は走査線が選択された極短い時間だけであるため、液晶表示装置(LCD)やPDPのようなホールド型の表示とならない。このため、動画像表示においてもごく自然な映像を表示できる。また、LCDのように画面輝度の視覚依存性はなく広い視覚特性を有し、さらに平面電子源は十数Vで動作するため耐圧の低いドライバICで駆動することができる、などの優れた特徴がある。
【0008】
しかしながら、この種の平面型電子源にあっては次のような問題があった。即ち平面型電子源では、ほぼ平行直線電極間に電子放出部を形成した場合(例えば、特開平9−265894号公報,特開平9−298029号公報,特開平9−106759号公報,特開平9−102270号公報)、放出される電子が飛翔する空間が電極間の導電性薄膜上になるため、大半の電子はこの導電性薄膜や電極により吸収されてしまう。このため、電極間を流れる電流(If)とアノード電極へ流れる電流(Ie)の比、つまり電子放出効率(Ie/If)が極めて小さくなるという問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
このように従来、一対の電極間に導電性薄膜を形成し、この薄膜に微小間隙等を設けて電子放出部を形成した平面型電子放出素子においては、大半の電子が導電性薄膜や電極により吸収されてしまうため、電子放出効率(Ie/If)が極めて小さいという問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情を考慮して成されたもので、その目的とするところは、電子放出効率(Ie/If)の改善をはかり得る平面型電子放出素子を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
(構成)
上記課題を解決するために本発明は次のような構成を採用している。
【0012】
即ち本発明は、基板上に形成された一対の電極と、これらの電極間に各々の電極に電気的に接続されて形成され、且つ電子放出部を隔てて形成された一対の導電性薄膜とを備えた平面型電子放出素子であって、前記電子放出部を挟んだ一対の導電性薄膜の幅が異なり、幅の狭い方の導電性薄膜が幅の広い方の導電性薄膜内に入り込んだ形状となっており、幅の狭い方の導電性薄膜に幅の広い方の導電性薄膜よりも低い電位を印加することを特徴とする。
【0015】
ここで本発明の望ましい実施態様としては次のものが挙げられる。
(1) 電子放出部の両端は、幅の狭い方の導電性薄膜側に曲がっていること。
(2) 電子放出部を挟んだ一対の導電性薄膜は、幅の広い方が幅の狭い方よりも膜厚が厚いこと。
【0016】
(3) 平面型電子放出素子がマトリックス配置されて電子放出素子アレイを構成していること。
(4) 電子放出素子アレイと、この電子放出素子アレイから放出された電子ビームの照射により発光する蛍光体を備えた対向基板とを配置して、平面型ディスプレイを構成していること。
【0017】
(作用)
本発明の電子放出素子の構成を図5に示し、比較のために従来の電子放出素子の構成を図6に示す。図中の10は絶縁性基板、11,12は素子電極、13,14は導電性薄膜、15は導電性薄膜13,14の境界部に形成された電子放出部を示している。
【0018】
本発明の電子放出素子は、従来構成とは異なり、導電性薄膜13の領域幅が導電性薄膜14の領域幅よりも広くなっており、導電性薄膜14の端部は導電性薄膜13内に入り込んでいる。また、電子放出部15は直線状ではなく、その両端が導電性薄膜13側に曲がっている。そして、電子放出部15を挟んだ幅の狭い領域14から広い領域13へ向かって電子を放出させるようになっている。
【0019】
図5や図6の構成の電子放出素子において、電子放出素子の上部に図示しないアノード電極を配置し、電極11,12間に所定の電圧を印加すると共に、アノード電極にプラス電圧を印加すると、導電性薄膜13,14間に電流(If)が流れると共に、アノード電極へ電流(Ie)が流れる。
【0020】
本発明者らは、図5の構成において、電子の放出方向が電極12から電極11となるように導電性薄膜13,14間に電圧を印加すると、電流(If)と電流(Ie)との比(Ie/If)がその逆方向へ電流を流したときに比べて大きくなることを見出した。これは、以下のような理由で電子放出効率(Ie/If)が増加しているためと推察している。
【0021】
即ち、図5中に矢印で示すように、中央部付近を飛翔する電子は導電性薄膜13へ向かって飛翔し、大半が導電性薄膜13に吸収されるのに対し、電子放出部15の端部の電子放出は導電性薄膜14から13へ向かうものの、導電性薄膜13の幅が電子放出方向に対して短く、直ぐに絶縁体領域になることから、放出された電子は導電性薄膜13によって吸収される割合が少なくなる。また、絶縁体領域のチャージアップが生じることにより、飛翔してくる電子が反発されアノード方向に飛翔する割合が増えるものと推定している。この結果は、図5に代表されるように、電子放出部15の端部が内側に向きを変えていることにより生じているものと考えられる。
【0022】
また、電子放出部15を挟んだ一対の導電性薄膜領域で電子放出部15を境にした導電性薄膜13,14の膜厚は、幅の広い方が幅の狭い方よりも厚いことが望ましい。これは、膜の厚さが薄い方から厚い方へ電子を放出させることによって、より上部に形成されたアノード電極方向に電子が飛翔しやすくなると考えられるからである。
【0023】
そして、本発明の電子放出素子を蛍光体を有する発光装置(薄型ディスプレイなど)に適用した場合、電子放出効率(Ie/If)の向上をはかり得ることから、低消費電力化が可能となる。また、電子ビームが広がるため、蛍光体への単位面積当たりの電子注入量を低減することができ、蛍光体の劣化を抑制することも可能となる。
【0024】
また本発明では、電極11,12間の導電性薄膜領域に電子放出部15を形成する工程において、電極11,12に印加するパルス電圧をそれぞれ異なる電圧とする、或いは電極11,12に加える電圧パルスの幅をそれぞれ異なる幅とする、或いはこれらの組合せを行うことによって、図5に示した形状の電子放出部15を得ている。
【0025】
ここで、特開平11−283493号公報には、素子の特性を向上させるために活性化開始時は電圧やパルス幅を同じにしておき、工程が進むにつれて一方の電極の電圧やパルス幅を徐々に減らしていき、最後にその一方の電極側には電圧を印加しない状態で終了することが記載されている。これに対し本発明では、最初に電圧を印加するときから電圧或いはパルス幅、或いはその両方を異なる値として電子放出部を形成している。特に、パルスを印加し始める初期においてこれらがそれぞれ異なる値であることは重要であり、この点が上記の公報とは大きく異なっている。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細を図示の実施形態によって説明する。
【0027】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係わる平面型電子放出素子の概略構造を説明するためのもので、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【0028】
絶縁性基板10の表面に素子電極11,12が設けられ、その間に導電性薄膜13,14が設けられ、導電性薄膜13,14の境界(微小間隙部)で電子放出部15が形成されている。電子放出部15を境に導電性薄膜13,14の幅が異なり、電子放出部15の両端は曲がっている。即ち、導電性薄膜13の領域幅d2は導電性薄膜14の領域幅d1よりも広くなっており、導電性薄膜14の端部は導電性薄膜13内に入り込んでいる。また、電子放出部15の形状は直線状ではなく、その両端が導電性薄膜13側に曲がっている。
【0029】
基板10には、絶縁性或いは高抵抗の材料を用いることができる。従って、石英ガラス,クオーツ,ナトリウムガラス,ソーダライムガラス,硼珪酸ガラス,燐ガラスなどの、SiO2 を主成分とする基板、Al2 3などのその他の絶縁性酸化物基板、AlNなどの窒化物絶縁体からなる基板などをから適宜、経済性や生産性などの要因を考慮して選択することができる。基板表面近傍では、107 V/cm以上の耐圧を持つことが好ましい。このため、Na+ イオンなどのモバイルイオン種は表面近傍から予め除去されている必要がある。従って、ナトリウムガラスなどのモバイルイオン種を含む材料を用いる場合は、その表面に、SiNなどの拡散防止層を形成し、更にその表面にSiO2 膜などの表面層を形成しておいてもよい(不図示)。
【0030】
素子電極11,12は、導電性の金属,半導体,半金属材料から選ばれた材料を用いることができ、好ましくは、導電率が高く、耐酸化性の高い遷移金属を用いることができる。例えば、Ni,Au,Ag,Pt,Irなどが好ましい。厚さは数十nm〜数μm程度の範囲で、十分な導電性を有することが好ましい。また、膜厚は均一に形成されていることが好ましく、膜剥がれ,浮き,めくれは極力存在しないことが好ましい。
【0031】
素子電極11,12を形成するための膜の基板上への形成方法としては、真空蒸着や、メッキ、コロイド液からの析出などの方法から選択して用いることができる。膜の基板への密着性が乏しい場合は、基板の表面にナノスケールの荒れた表面を形成しておくこと、或いは基板と膜との間に密着層となる第2の材料(不図示)を予め形成しておくことが必要である。膜のパターニング方法として、マスク蒸着、レジスト露光によるパターンニングとエッチング、リフトオフ、スクリーン印刷、オフセット印刷などの方法から任意に選んで用いることができるが、膜の端部でめくれが起こりにくい方法が好ましい。
【0032】
導電性薄膜13,14には、同様に金属,半金属,半導体から選ばれた材料を用いることができる。不連続となる限界程度に薄く、導電性があるのに必要十分な厚さに形成されていることが好ましい。Ni,Co,Fe,Pd,Au、Pt,Irなどの、触媒性の遷移金属を用いることが特に好ましいが、これに限定されるものではない。薄膜13,14は通常連続して形成された後に、通電加熱などの方法によって電気的に寸断されているものである。形成方法としては、スパッタ,CVD,MBE,レーザアブレーションなどの真空蒸着、めっきやコロイド溶液からの析出、表面をアルカンチオールなどの有機分子で安定化した金属・半導体超微粒子による自己組織化膜析出などの方法から選択して用いることができる。
【0033】
次に、本実施形態における平面型電子放出素子の製造方法を、図2を参照して説明する。
【0034】
まず、図2(a)に示すように、清浄化した石英基板10上にフォトレジスト21を塗布した後、素子電極11,12に相当する部分の形状をフォトリソグラフィ法を用いて開口した。続いて、図2(b)に示すように、素子電極を形成するために、厚さ10nmのTiを蒸着し、更に100nmのCu層を蒸着した。その後、図2(c)に示すように、レジスト21を剥離し、リフトオフ法で素子電極11,12を作成した。ここで、素子電極11,12間は20μm、電極幅は400μmである。
【0035】
次いで、図2(d)に示すように、電極11,12間に酸化パラジウムからなる幅約100μmの導電性薄膜13,14を形成した。このとき、導電性薄膜13,14は連続している。次いで、上記素子を真空容器内に設置し、パルス通電処理することにより、図2(e)に示すように、導電性薄膜13,14に極めて微小な亀裂を生じさせて電子放出部15を形成した。このとき、電子放出部15は概ね前記図6のような形状をしている。
【0036】
次いで、真空容器中に有機材料気体を導入し、通電処理することで、有機材料の分解生成物が電子放出部15に着膜し、素子放出特性がより安定化される。より具体的には、導電性薄膜13,14及び電子放出部15上に有機材料の分解生成物(例えば炭素)が付着することになる。本実施形態では、アセトンを約1.3×10-2Pa導入し、素子電極11,12間に電極11側に電圧16V、パルス幅1msec、パルス間隔10msecの電圧を、また電極12側に電圧14V、パルス幅1msec、パルス間隔10msecの電圧を印加した。
【0037】
このときのパルス波形を、図3に示した。電極11側に電圧16Vを印加する場合は電極12側が接地であり、電極12側に電圧14Vを印加する場合は電極11側が接地である。これは、電極12を接地し、電極11に電圧16Vと−14Vを交互に印加することと等価である。通電時間を60分間とした。これにより、電子放出部15の形状は前記図1のようになった。即ち、印加パルス電圧の非対称性に応じて電子放出部15の形状が非対称に形成された。このような電子放出部15の形状変化は、導電性薄膜13,14のへの分解生成物の付着量の差異に基づくものと考えられる。
【0038】
なお、素子電極11,12間に印加する電圧差は、本実施形態のように2Vであれば本発明の形状を得ることが可能である。しかし、非対称な電子放出部15を形成するためには、パルス電圧の非対称の程度は本実施形態に限定されるものではない。高電圧パルスの電圧VH と、低電圧パルス電圧VL との差分ΔVが、VH とVL の平均電圧VA ={=(VH +VL )/2}の2%以上あれば、図1に示す非対称な電子放出部15を形成できる。
【0039】
以上のようにして得られた電子放出素子を、図4に示すように、真空処理装置内でアノード電極17と対向配置させて、IeとIfの測定を行った。なお、アノード電極17は図示しないガラス基板等に被着されており、またアノード電極17の表面には蛍光体18が形成されているものとする。
【0040】
測定条件は、アノード電極17への印加電圧は6kV、アノード電極17と電子放出部15との距離は4mmとした。素子電極11,12間に15V(電極11側に+15V)、パルス幅60μs、パルス周期60Hzの矩形波を印加して測定を行った。その結果、アノード電流Ieの素子電流Ifに対する比、即ち電子放出効率(Ie/If)は0.9%となった。次に、アノード電流が5μAとなるようにパルス電圧を調整し、アノード電極17上に形成した蛍光体18の発光輝度の低下を測定したところ、3000時間の駆動で−3%となった。蛍光体18の発光領域の広さは160×250μm2 であった。
【0041】
なお、出来上がった導電性薄膜13,14の長さを比較すると、13の幅が平均100μm、14の幅が平均90μmであった。また、3次元走査型電子顕微鏡観察の結果、導電性薄膜13の厚さは導電性薄膜14と比べて平均40nm厚いのが確認された。
【0042】
(第2の実施形態)
第1の実施形態と同様の素子を作成し、素子電極11,12間に印加する電圧条件のみを変更した。素子電極11,12間に電極11側に電圧16V、パルス幅1msec、パルス間隔10msecの電圧を、また電極12側に電圧16V、パルス幅0.05msec、パルス間隔10msecの電圧を印加した。通電時間を60分間とした。
【0043】
素子電極11,12間に印加するパルス幅差は、本実施形態のように0.95msecで本発明の形状を得ることが可能である。しかし、非対称な電子放出部を形成するためには、パルス幅の非対称の程度は本実施形態に限定されるものではない。高時間パルス幅PL と、短時間パルス幅PS との差分ΔPが、PL とPS の平均パルス幅PA ={=(PL +PS )/2}の4%以上あれば、図1に示す非対称な電子放出部を形成できる。また、パルス幅差と電圧差の両方が組み合わさっていても、本発明の形状の素子を得ることは可能である。
【0044】
以上のようにして得られた素子の特性を、引き続き図4に示す位置関係にある真空処理装置内で、IeとIfの測定を行った。測定条件は、アノード電極17への印加電圧は6kV、アノード電極17と電子放出部15との距離は4mmとした。素子電極11,12間に15V(電極11側に+15V)、パルス幅60μs、パルス周期60Hzの矩形波を印加して測定を行った。
【0045】
その結果、アノード電流Ieの素子電流Ifに対する比、即ち電子放出効率(Ie/If)は0.8%となった。次に、アノード電流が5μAとなるようにパルス電圧を調整し、アノード電極17上に形成した蛍光体18の発光輝度の低下を測定したところ、3000時間の駆動で−3%となった。蛍光体18の発光領域の広さは150×240μm2 であった。
【0046】
なお、出来上がった導電性薄膜13,14の長さを比較すると、13の幅が平均95μm、14の幅が平均85μmであった。また、3次元走査型電子顕微鏡観察の結果、導電性薄膜13の厚さは導電性薄膜14と比べて平均30nm厚かった。
【0047】
(比較例)
第1の実施形態と同様の素子を作成し、素子電極11,12間に印加する電圧条件のみを変更した。素子電極11,12間に電極11側に電圧16V、パルス幅1msec、パルス間隔10msecの電圧を、また電極12側にも電圧16V、パルス幅1msec、パルス間隔10msecの電圧を印加した。通電時間を60分間とした。
【0048】
以上のようにして得られた素子の特性を、引き続き図4に示す位置関係にある真空処理装置内で、IeとIfの測定を行った。測定条件は、アノード電極17への印加電圧は6kV、アノード電極17と電子放出部15との距離は4mmとした。素子電極11,12間に15V(電極11側に15V)、パルス幅60μs、パルス周期60Hzの矩形波を印加して測定を行った。その結果、アノード電流Ieの素子電流Ifに対する比、即ち電子放出効率(Ie/If)は0.4%となった。
【0049】
次に、アノード電流が5μAとなるようにパルス電圧を調整し、アノード電極17上に形成した蛍光体18の発光輝度の低下を測定したところ、3000時間の駆動で−7%となった。蛍光体18の発光領域の広さは130×150μm2 であった。
【0050】
このように、第1及び第2の何れの実施形態においても、電子放出部15を形成する際に、電極11間に交互に逆極性のパルス電圧を印加し、その大きさ又はパルス幅を非対称とすることにより、電子放出部15の電子放出効率(Ie/If)を従来の2倍程度に向上させることができた。また、長時間使用による蛍光体の輝度の低下も1/2程度に少なくなった。実施形態において蛍光体の輝度低下が改善されるのは、電子放出部端部での放出電子の放出方向が外側へ広がる方向となり、結果として蛍光体層の蛍光面積が広がることとなり、単位面積当たりの蛍光体膜への注入電荷量が減るためである。
【0051】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。実施形態では、単一の素子のみについて説明したが、これをマトリックス状に配置することにより、平面型ディスプレーや露光装置に適用することが可能となる。また、各部の材料や製法等は、仕様に応じて適宜変更可能である。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することができる。
【0052】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、電子放出部を挟んだ一対の導電性薄膜の幅が異なり、幅の狭い方の導電性薄膜が幅の広い方の導電性薄膜内に入り込んだ形状となっており、幅の狭い方の導電性薄膜から幅の広い方の導電性薄膜へ向かって電子を放出させる構成としているので、アノード方向に飛翔する電子の割合を増やすことができ、これにより電子放出効率(Ie/If)の改善をはかることができる。さらに、電子放出部を挟んだ一対の導電性薄膜の膜厚が異なり、膜厚の薄い方の導電性薄膜から膜厚の厚い方の導電性薄膜へ向かって電子を放出させる構成とすることによっても、上記と同様に電子放出効率(Ie/If)の改善をはかることができる。
【0053】
また、電子放出部を形成する際に、電極間に交互に逆極性のパルス電圧を印加し、且つ電極の一方側を正とするパルス電圧と他方側を正とするパルス電圧とで、その大きさ及びパルス幅の少なくとも一方を非対称にすることによって、本発明の構成に必要な電子放出部の形状を簡易に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態に係わる平面型電子放出素子の構造を示す平面図と断面図。
【図2】第1の実施形態に係わる平面型電子放出素子の製造工程を示す断面図。
【図3】素子電極に対する印加パルスの例を示す図。
【図4】平面型電子放出素子に対するアノード電極の位置関係を示す図。
【図5】本発明の平面型電子放出素子の構造を示す平面図。
【図6】従来の平面型電子放出素子の構造を示す平面図。
【符号の説明】
10…絶縁性基板
11,12…素子電極
13,14…導電性薄膜
15…電子放出部
17…アノード電極
18…蛍光体

Claims (3)

  1. 基板上に形成された一対の電極と、これらの電極間に各々の電極に電気的に接続されて形成され、且つ電子放出部を隔てて形成された一対の導電性薄膜とを具備してなる平面型電子放出素子であって、
    前記電子放出部を挟んだ一対の導電性薄膜の幅が異なり、幅の狭い方の導電性薄膜が幅の広い方の導電性薄膜内に入り込んだ形状となっており、幅の狭い方の導電性薄膜に幅の広い方の導電性薄膜よりも低い電位を印加することを特徴とする平面型電子放出素子。
  2. 前記電子放出部の両端は、幅の狭い方の導電性薄膜側に曲がっていることを特徴とする請求項1記載の平面型電子放出素子。
  3. 前記電子放出部を挟んだ一対の導電性薄膜は、幅の広い方が幅の狭い方よりも膜厚が厚いことを特徴とする請求項1記載の平面型電子放出素子。
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