JP3853118B2 - セメント混和材及びセメント組成物 - Google Patents

セメント混和材及びセメント組成物

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に、土木・建築業界において使用されるセメント混和材及びセメント組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
セメントは安価でしかも、大きなコンクリート構造物を任意の形に造れる優れた材料である。更に、セメント混和材を併用することによって、構造物の強度や耐久性を向上させることが可能である。此までにセメント混和材は数多く提案されているが、最も使用されているものとしては、コンクリートに膨張性を付与するセメント混和材がある。ここで、コンクリートとは、セメント、モルタル及びコンクリートを総称するものである。
【0003】
コンクリート構造物に膨張性を付与するセメント混和材としては、例えば、CaO-Al23-SO3系化合物を有効成分とするものが知られている(特公昭42-21840号公報、特公昭42-19473号公報、特公昭53-16007号公報等)。しかしながら、従来のCaO-Al23-SO3系化合物を有効成分とするセメント混和材は、SO3含有量が高く、製造時に大気中に放出されるSOXが問題視されている。最近では、膨張性を付与するセメント混和材に要求される性能は、益々高まってきており、混和率が少なくても優れた膨張性能を付与できるセメント混和材の開発が待たれているのが実状である。
【0004】
又、従来の膨張性を付与するセメント混和材は、貯蔵によって膨張性能が大きく低下するという課題を有していた。これは、水濡れや破袋に起因する風化が大きな原因である。しかし、貯蔵状態が良好であっても、貯蔵期間が6ヶ月程度になると膨張性能は低下してしまうという課題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、このような状況を鑑み、前記課題を解消すべく種々検討した結果、特定の膨張物質と脂肪酸及び/又はそれらの塩類を配合することによって、膨張性能に優れ、しかも貯蔵安定性も良好なセメント混和材とすることが可能であることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0006】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、CaO 原料、 Al 2 O 3 原料、 Fe 2 O 3 原料、及び CaSO 4 原料を熱処理し、遊離石灰、カルシウムアルミノフェライト、及び無水セッコウからなるクリンカーを合成し、これを粉砕してなり、遊離石灰、カルシウムアルミノフェライト、及び無水セッコウを構成化合物とし、遊離石灰が30〜60%、カルシウムアルミノフェライトが10〜40%、及び無水セッコウが10〜40%である膨張物質と、脂肪酸及び/又はそれらの塩類とを含有してなるセメント混和材であり、脂肪酸及び/又はそれらの塩類が、セメント混和材100重量部中、0.005〜5重量部である該セメント混和材であり、セメントと該セメント混和材とを含有してなるセメント組成物であり、セメント混和材が、セメント組成物100重量部中、3〜12重量部である該セメント組成物であり、セメントと、CaO 原料、 Al 2 O 3 原料、 Fe 2 O 3 原料、及び CaSO4 原料を熱処理し、遊離石灰、カルシウムアルミノフェライト、及び無水セッコウからなるクリンカーを合成し、これを粉砕してなり、遊離石灰、カルシウムアルミノフェライト、及び無水セッコウを構成化合物とし、遊離石灰が30〜60%、カルシウムアルミノフェライトが10〜40%、及び無水セッコウが10〜40%である膨張物質と、脂肪酸及び/又はそれらの塩類とを含有してなるセメント組成物である。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明の膨張物質は、遊離石灰、カルシウムアルミノフェライト及び無水セッコウを主要な構成化合物としており、その配合割合については、特に限定されるものではないが、遊離石灰は30〜60%が好ましく、40〜50%がより好ましい。カルシウムアルミノフェライトは10〜40%が好ましく、15〜30%がより好ましい。無水セッコウは10〜40%が好ましく、20〜35%がより好ましい。膨張物質中の各化合物の組成割合が前記の範囲にないと、優れた膨張特性の得られない場合がある。ここで、%は重量百分率を示す。
【0009】
本発明のカルシウムアルミノフェライトとは、CaO−Al23−Fe23系化合物を総称するものであり、特に限定されるものではないが、一般的に、CaOをC、Al23をA、Fe23をFとすると、C4AFやC62F等の化合物がよく知られている。通常は、C4AFとして存在していると考えられ、本発明では、カルシウムアルミノフェライトを以下、C4AFという。
【0010】
本発明のセメント混和材を製造する際、CaO原料、Al23原料、Fe23原料及びCaSO4原料を熱処理して、遊離石灰、C4AF及び無水セッコウからなるクリンカーを合成してこれを粉砕して製造される。遊離石灰、C4AF及び無水セッコウを別々に合成し、これらを混合したものでは、本発明のような効果は得られない。CaO原料、Al23原料、Fe23原料及びCaSO4原料を熱処理して、遊離石灰、C4AF及び無水セッコウからなるクリンカーを合成したかどうかは、例えば、粉砕物中の100μm以上の粗粒子を顕微鏡観察等を行い、その粒子中に遊離石灰、C4AF及び無水セッコウが混在していることを確認することによって判別できる。
【0011】
本発明のセメント混和材を製造する際の熱処理温度であるが、1100〜1600℃の範囲が好ましく、1200〜1500℃の範囲がより好ましい。1100℃未満では、得られたセメント混和材の膨張性能が十分でなく、1600℃を超えると無水セッコウが分解する場合がある。
【0012】
CaO原料としては、石灰石や消石灰等が挙げられ、Al23原料としては、ボーキサイトやアルミ残灰等が挙げられ、Fe23原料としては、銅カラミや鉄粉及び市販の酸化鉄等が挙げられ、CaSO4原料としては、二水セッコウ、半水セッコウ及び無水セッコウ等が挙げられる。これら原料中には、各種の不純物が存在し、その具体例としては、SiO2、MgO、TiO2、P25、Na2O、K2O等が挙げられ、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では特に問題とはならないが、これらのうちで、特に、SiO2は珪酸率で0.5未満の範囲であることが好ましい。珪酸率が0.5以上では優れた膨張性能が得られない場合がある。本発明でいう珪酸率とは、セメント混和材中のSiO2量、Al23量及びFe23量より次式から算出される。
珪酸率=SiO2/(Al23+Fe23
【0013】
又、セメント混和材中のSiO2量は、5.0%以下が好ましく、3.0%以下がより好ましい。具体的には、5.0%を超えると優れた膨張性能が得られない場合がある。
【0014】
本発明の脂肪酸とは、一般に、RCOOH(Rは飽和又は不飽和の炭化水素基)で表される化合物を総称するものであり、特に限定されるものではないが、その具体例としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、パルミチン酸等が挙げられる。又、本発明では、これら脂肪酸の塩類も使用可能であり、その具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等が挙げられる。更に、脂肪酸は天然油脂として入手することもでき、その具体例としては、例えば、大豆油、ヤシ油、パーム油、オリーブ油、アマニ油、綿実油、ナタネ油、キリ油、ヒマシ油、牛脂、スクワラン、ラノリン、硬化油等が挙げられる(以下、脂肪酸類という)。本発明ではこれらのうちの1種又は2種以上が使用可能であるが、ステアリン酸を用いた場合が最も好ましい。
【0015】
セメント混和材中の膨張物質と脂肪酸類の配合割合は、特に限定されるものではないが、通常、膨張物質はセメント混和材100重量部中、95〜99.995重量部が好ましく、99〜99.95重量部がより好ましい。95重量部未満では、強度発現性が悪くなる場合があり、99.995重量部を超えると貯蔵安定性が悪くなる場合がある。脂肪酸類の配合割合は、0.005〜5重量部が好ましく、0.05〜1重量部がより好ましい。0.005重量部未満では、貯蔵安定性が悪くなる場合があり、5重量部を超えると強度発現性が悪くなる場合がある。
【0016】
本発明のセメント混和材の粒度は、特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積で1500〜6000cm2/gが好ましく、2500〜4000cm2/gがより好ましい。1500cm2/g未満では、強度発現性が悪くなる場合があり、6000cm2/gを超えると優れた膨張性能が得られない場合がある。
【0017】
本発明のセメント混和材の配合量は、特に限定されるものではないが、通常、セメントとセメント混和材からなるセメント組成物100重量部中、3〜12重量部が好ましく、5〜9重量部がより好ましい。3重量部未満では本発明の効果が十分に得られない場合があり、12重量部を超えて使用すると、強度発現性が悪くなる場合がある。
【0018】
本発明に係わるセメントとは、JIS R 5210に規定される各種ポルトランドセメント、JIS R 5211、JIS R 5212、JIS R 5213に規定される各種混合セメント、JISに規定された範囲以上に混和材を混合して作製した高炉セメント、フライアッシュセメント及びシリカセメント、石灰石粉末等を混合したフィラーセメント、並びにアルミナセメント等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が使用可能である。
【0019】
本発明では、本発明のセメント混和材及びセメント組成物に、砂、砂利等の骨材の他、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、高分子エマルジョン、凝結調整剤、セメント急硬材、ベントナイトやゼオライト等の粘土鉱物、ハイドロタルサイト等のイオン交換体等のうちの1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0020】
本発明において、膨張物質と脂肪酸類は予め配合するが、それ以外の各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、予め一部、或いは全部を混合しておいても差し支えない。混合装置としては、既存の如何なる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサー、オムニミキサー、ヘンシェルミキサー、V型ミキサー及びナウターミキサー等の使用が可能である。
【0021】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0022】
実施例1
試薬特級のCaO原料、Al23原料、Fe23原料及びCaSO4原料を配合して、電気炉を用いて、1350℃で2時間熱処理することによって、表1に示す様々な組成の膨張物質を製造し、各膨張物質99.5重量部と、脂肪酸A0.5重量部とを混合粉砕してブレーン比表面積3500±200cm2/gのセメント混和材を調製した。
セメント混和材の貯蔵安定性を確認するために、セメント混和材を紙袋に入れてミシン縫いで閉袋した状態で、温度20℃、相対湿度80%の試験室内で貯蔵した。更に、セメントとセメント混和材からなるセメント組成物100重量部中、セメント混和材を7重量部使用し、水/セメント組成物比=50%、砂/セメント組成物比=1/3のモルタルを調製して膨張率の測定を行い、セメント混和材の貯蔵期間と膨張率の関係を確認することによってセメント混和材の貯蔵安定性を評価した。
尚、セメント混和材を粉末X線回折法(XRD)により同定し、遊離石灰、C4AF及び無水セッコウが主要な構成化合物とすることを確認した。又、化学組成は化学分析により求め、化合物組成は化学分析の結果より、計算によって算出した。膨張率の測定結果を表2に示した。
【0023】
<使用材料>
脂肪酸類A:市販のステアリン酸
セメントα:市販普通ポルトランドセメント
水:水道水
砂:ISO679準拠、標準砂
CaO原料:試薬特級炭酸カルシウム
Fe23原料:試薬1級酸化鉄
Al23原料:試薬特級酸化アルミニウム
CaSO4原料:試薬特級無水セッコウ
<測定方法>
化学分析:JIS R 5202に準じて測定。
化合物組成:最初に遊離石灰含有量をJIS R 5202に準じて測定し、それ以外の化合物については計算によって求めた。即ち、Fe23量からC4AF量を算出し、次いで、SO3量から無水セッコウ量を算出した。
膨張率:JIS A 6202 Bに準じて測定。
【0024】
【表1】
Figure 0003853118
【0025】
【表2】
Figure 0003853118
【0026】
本発明のセメント混和材を配合したモルタルは、比較例の遊離石灰、C4AF及び無水セッコウを別々に合成し混合して調製したセメント混和材を配合したモルタルと比べ、製造直後及び長期間保管した後も優れた膨張性能を示した。
【0027】
実施例2
工業原料であるCaO原料、Al23原料、Fe23原料及びCaSO4原料を配合して、ロータリーキルンを用いて、1400℃で熱処理することによって、表3に示す組成のクリンカーを製造したこと以外は、実施例1と同様に行った。表4に化学組成から算出した化合物組成を示し、膨張率の測定結果を表5に示す。比較のため、市販品についても同様の実験を行ったが、市販品は脂肪酸類Aを配合せずにそのまま用いた。
【0028】
<使用材料>
CaO原料:新潟県青海鉱山産石灰石
Al23原料:中国産ボーキサイト
Fe23原料:工業用酸化鉄。
CaSO4原料:タイ産天然無水セッコウ
膨張材A:市販カルシウムアルミネート系膨張材
膨張材B:市販生石灰系膨張材
【0029】
【表3】
Figure 0003853118
【0030】
【表4】
Figure 0003853118
【0031】
【表5】
Figure 0003853118
【0032】
本発明のセメント混和材を配合したモルタルは、市販のカルシウムサルホアルミネート系膨張材及び生石灰系膨張材を配合したモルタルと比べ、製造直後及び長期間保管した後も優れた膨張性能を示した。
【0033】
実施例3
実施例2の本発明の膨張物質を使用し、脂肪酸類の種類とセメント混和材中の配合割合を表6に示すように変えたこと以外は、実施例2と同様に行った。その結果を表6に示す。
<使用材料>
脂肪酸類B:市販オレイン酸
脂肪酸類C:市販ラウリン酸
脂肪酸類D:市販ヤシ油
脂肪酸類E:市販パーム油
脂肪酸類F:市販牛脂
脂肪酸類G:市販ステアリン酸ナトリウム
脂肪酸類H:市販オレイン酸ナトリウム
脂肪酸類I:脂肪酸類Aと脂肪酸類Dの等重量混合物
脂肪酸類J:脂肪酸類Aと脂肪酸類Dと脂肪酸類Hの等重量混合物
【0034】
【表6】
Figure 0003853118
【0035】
本発明のセメント混和材を配合したモルタルは、脂肪酸類を配合していない比較例のモルタルと比べ、長期間保管した後も優れた膨張性能を示した。
【0036】
実施例4
実施例2の本発明の膨張物質99.5重量部と脂肪酸類A 0.5重量部からなるセメント混和材を使用し、セメント組成物100重量部中のセメント混和材の配合量を表7に示すように変えたこと以外は、実施例2と同様に行った。その結果を表7に示す。
【0037】
【表7】
Figure 0003853118
【0038】
本発明のセメント混和材を配合したモルタルは、本発明のセメント混和材を配合していないモルタルと比べ、製造直後及び長期間保管した後も優れた膨張性能を示した。
【0039】
【発明の効果】
本発明のセメント混和材及びセメント組成物は、膨張性能に優れるばかりでなく、貯蔵安定性が良好であり、長期に亘って高い品質を保つことができる等の利点を有する。

Claims (5)

  1. CaO 原料、 Al 2 O 3 原料、 Fe 2 O 3 原料、及び CaSO 4 原料を熱処理し、遊離石灰、カルシウムアルミノフェライト、及び無水セッコウからなるクリンカーを合成し、これを粉砕してなり、遊離石灰、カルシウムアルミノフェライト、及び無水セッコウを構成化合物とし、遊離石灰が30〜60%、カルシウムアルミノフェライトが10〜40%、及び無水セッコウが10〜40%である膨張物質と、脂肪酸及び/又はそれらの塩類とを含有してなるセメント混和材。
  2. 脂肪酸及び/又はそれらの塩類が、セメント混和材100重量部中、0.005〜5重量部である請求項1記載のセメント混和材。
  3. セメントと、請求項1又は請求項2記載のセメント混和材とを含有してなるセメント組成物。
  4. セメント混和材が、セメント組成物100重量部中、3〜12重量部である請求項3記載のセメント組成物。
  5. セメントと、CaO 原料、 Al 2 O 3 原料、 Fe 2 O 3 原料、及び CaSO 4 原料を熱処理し、遊離石灰、カルシウムアルミノフェライト、及び無水セッコウからなるクリンカーを合成し、これを粉砕してなり、遊離石灰、カルシウムアルミノフェライト、及び無水セッコウを構成化合物とし、遊離石灰が30〜60%、カルシウムアルミノフェライトが10〜40%、及び無水セッコウが10〜40%である膨張物質と、脂肪酸及び/又はそれらの塩類とを含有してなるセメント組成物。
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