JP4642201B2 - セメント混和材及びセメント組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に、土木・建築分野において使用されるセメント混和材及びセメント組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
セメント・コンクリートのひび割れ低減や曲げ耐力の向上は、コンクリート構造物の信頼性、耐久性、美観等の観点から重要であり、これらを改善する効果のある、セメント混和材であるセメント系膨張材のさらなる技術の進展が望まれている。従来より、セメント・コンクリートに膨張性を与えるセメント混和材としては、例えば、遊離石灰−アウイン−無水セッコウ系膨張材(特公昭42-21840号公報)や、遊離石灰−カルシウムシリケート−無水セッコウ系膨張材(特公昭53-31170号公報)等があった。
【0003】
【発明が解決しよとする課題】
近年では、コンクリートの高性能化を目的として、高流動コンクリートや高強度コンクリートの開発が盛んに行われている。しかしながら、これらの高性能なコンクリートではセメント系膨張材の効果が十分に発揮されないことが指摘されており、混和率が小さくても大きな膨張性を付与できる膨張特性の優れたセメント系膨張材の開発が待たれているのが実状である。
また、最近では、従来の仕様規定型の設計体系から、性能規定型の設計体系へ移行が検討されている。これまでやや軽視されていた耐久性についても明確な性能規定が定められるものと考えられる。即ち、ひび割れの耐久性に対する影響の定量化がなされるため、ひび割れの低減は緊急の課題となる。ひび割れ低減に効果のあるセメント系膨張材を広範に利用するためには、使用量を少なくして、経済的負担を小さくすることが不可欠である。
本発明者らは、これらの課題を解決すべく種々の検討を重ねた結果、特定のセメント混和材を使用することにより、前記課題が解決できるとの知見を得て本発明を完成するに至った。
【0004】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、CaO原料、Al2O3原料及びFe2O3原料を熱処理して得られる遊離石灰、C3A及びカルシウムアルミノフェライトを含有するクリンカーと、セッコウ類と、珪酸率が1.0未満の範囲でカルシウムシリケートとを含有してなり、セメント混和材100部中、遊離石灰30〜60部、C 3 A10〜35部、カルシウムアルミノフェライト5〜20部、セッコウ類10〜40部であるセメント混和材であり、遊離石灰含有量が30〜60%であることを特徴とする該セメント混和材であり、セッコウ類が無水セッコウであることを特徴とする該セメント混和材であり、さらに、セメントと、該セメント混和材とを含有してなるセメント組成物である。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0006】
本発明のセメント混和材は、遊離石灰、C3A、カルシウムアルミノフェライト及びセッコウ類を含有してなるものである。これら化合物の割合は、特に限定されるものではないが、セメント混和材100部中、遊離石灰は30〜60部が好ましく、35〜55部がより好ましい。C3Aは10〜35部が好ましく、15〜25部がより好ましい。カルシウムアルミノフェライトは5〜20部が好ましく、10〜15部がより好ましい。セッコウ類は10〜40部が好ましく、14〜30部がより好ましい。セメント混和材中の各化合物の組成割合が前記の範囲にないと、優れた膨張特性が得られない場合がある。
なお、本発明で使用する%、部は質量単位である。
【0007】
本発明のC3Aとは、CaO−Al2O3系化合物のうちの3CaO・Al2O3で表せる化合物であり、特に限定されるものではない。3CaO・Al2O3にはNa2OやK2Oなどの微量成分が固溶することが知られており、これらも含まれる。
本発明のカルシウムアルミノフェライトとは、CaO−Al2O3−Fe2O3系化合物を総称するものであり、特に限定されるものではないが、一般的に、CaOをC、Al2O3をA、Fe2O3をFとすると、C4AFやC6A2F等の化合物がよく知られている。通常は、C4AFとして存在していると考えて良い。本発明では、カルシウムアルミノフェライトを以下、C4AFと略記する。
【0008】
本発明のセメント混和材を製造する際、CaO原料、Al2O3原料及びFe2O3原料を熱処理して、遊離石灰、C3A及びC4AFからなるクリンカーを合成し、これをセッコウ類と共に粉砕することにより、あるいは別々に粉砕した後に混合して製造される。遊離石灰、C3A及びC4AFを別々に合成し、これらを混合したものでは、本発明のような効果は得られない。
【0009】
CaO原料、Al2O3原料及びFe2O3原料を熱処理して、遊離石灰、C3A及びC4AFからなるクリンカーを合成してこれをセッコウ類と共に粉砕することにより、あるいは別々に粉砕した後に混合して製造されたものか否かを確認する方法としては、例えば、セメント混和材の粗粒子、具体的には100μmよりも大きな粒子を顕微鏡(SEM-EDS)等により観察して組成分析を行い、粒子中に遊離石灰、C3A、C4AFが混在していることを確認することによって容易に判別できる。
【0010】
本発明のセメント混和材を製造する際の熱処理温度であるが、1100〜1600℃の範囲が好ましく、1200〜1500℃の範囲がより好ましい。1100℃未満では、得られたセメント混和材の膨張特性が十分でなく、1600℃を超えてもさらなる効果の増進が期待できない。
【0011】
CaO原料としては、石灰石や消石灰等が挙げられ、Al2O3原料としては、ボーキサイトやアルミ残灰等が、Fe2O3原料としては、圧延スケール、銅カラミ、鉄粉、鋼スラッジ及び市販の酸化鉄等が挙げられる。
【0012】
本発明のセメント混和材中には不純物が存在する。その具体例としては、SiO2、MgO、TiO2、P2O5、Na2O、K2O、CuO、ZnO、Ag2O等が挙げられ、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では特に問題とはならないが、これらのうちで、特に、SiO2は珪酸率で1.0未満の範囲であることが好ましく、0.6未満の範囲がより好ましい。珪酸率が1.0以上では優れた膨張特性が得られない場合がある。本発明でいう珪酸率とは、クリンカー中のSiO2量、Al2O3量、及びFe2O3量より次式から算出される。
珪酸率=SiO2/(Al2O3+Fe2O3)
また、クリンカー中のSiO2量は、5.0%以下が好ましく、3.0%以下がより好ましい。5.0%を超えると優れた膨張特性が得られない場合がある。
【0013】
本発明でいうセッコウ類とは、二水セッコウ、半水セッコウ及び無水セッコウ等が挙げられ、特に限定されるものではないが、本発明の効果が顕著であることから、無水セッコウを使用することが好ましい。
【0014】
本発明のセメント混和材の粒度は、特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積で1500〜9000cm2/gが好ましく、2500〜5000cm2/gがより好ましい。セメント混和材の粒度が1500cm2/g未満では、長期耐久性が悪くなる場合があり、9000cm2/gを超えると十分な膨張特性が得られない場合がある。
【0015】
本発明のセメント混和材の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、セメントとセメント混和材からなるセメント組成物100部中、5〜15部が好ましく、7〜12部がより好ましい。5部未満では、充分な膨張特性が得られない場合があり、15部を超えて使用すると長期耐久性が悪くなる場合がある。
【0016】
本発明のセメントとしては、普通セメント、早強、超早強、低熱及び中庸熱等各種ポルトランドセメントと、これらセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ及びシリカを混合した各種混合セメント、並びに石灰石粉末等を混合したフィラーセメント等がある。
【0017】
本発明では、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、高分子エマルジョン及び凝結調整剤、並びにセメント急硬材、ベントナイト等の粘土鉱物及びハイドロタルサイト等のアニオン交換体等のうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0018】
本発明では、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、予めその一部、或いは全部を混合しておいても差し支えない。混合装置としては、既存の如何なる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ及びナウターミキサ等が挙げられる。
【0019】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0020】
実施例1
CaO原料、Al2O3原料及びFe2O3原料を配合し、混合粉砕した後、電気炉で1350℃、3時間熱処理して遊離石灰、C3A及びC4AFを含有する様々な組成のクリンカーを合成した。次いで、無水セッコウと各種クリンカーをボールミルを用いて混合粉砕し、ブレーン比表面積3500±200cm2/gに粉砕して表1に示すような組成のセメント混和材を調製した。
なお、クリンカーを粉末X線回折法で同定したところ、遊離石灰、C3A及びC4AFを含有していた。セメント混和材の化合物組成は化学組成を基に計算により算出した。化学組成はJIS R 5202に準じて求めた。
セメントと、セメント混和材からなるセメント組成物100部中、セメント混和材を9部使用し、水/セメント組成物比=50%、セメント組成物/砂比=1/3のモルタルを調製し、膨張率の測定を行った。なお、比較のために、遊離石灰、C3A及びC4AFを別々に合成して粉砕し、実験No.1-3と化合物組成が同じとなるように配合したセメント混和材についても同様の実験を行った。その結果を表1に示す。
【0021】
<使用材料>
CaO原料:試薬1級、炭酸カルシウム
Al2O3原料:試薬1級、酸化アルミニウム
Fe2O3原料:試薬1級、酸化第二鉄
セッコウ類A:試薬1級、無水セッコウ
遊離石灰:CaO原料を1350℃で3時間熱処理して合成。
C3A:CaO原料3モルとAl2O3原料1モルの割合で配合した原料を混合粉砕した後、1350℃で3時間熱処理する工程を3回繰り返して合成。
C4AF:CaO原料4モル、Al2O3原料1モル及びFe2O3原料1モルの割合で配合した原料を混合粉砕した後、1350℃で3時間熱処理して合成。
砂:JIS標準砂(ISO679準拠)
【0022】
<測定方法>
長さ変化率:JIS A 6202に準じて材齢7日で測定。
【0023】
【表1】
【0024】
表1より、本発明のセメント混和材を使用したモルタルは、比較例の実験No.1-1,1-13と比べ、優れた膨張特性を示すことが判る。
【0025】
実施例2
実施例1の実験No.1-3で使用したクリンカーを使用し、セッコウ類の種類を変えたこと以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表2に示す。
【0026】
<使用材料>
セッコウ類B:試薬1級、半水セッコウ
セッコウ類C:試薬1級、二水セッコウ
【0027】
【表2】
【0028】
表2より、本発明のセメント混和材を使用することにより、何れのモルタルも優れた膨張特性を示しているが、中でも無水セッコウを使用した実験No.1-3が優れていることが判る。
【0029】
実施例3
CaO原料、Al2O3原料、Fe2O3原料及びSiO2原料を配合し、混合粉砕した後、1350℃で3時間熱処理して遊離石灰、C3A、C4AF及びカルシウムシリケート(C3S)を含有する様々な組成のクリンカーを合成した。次いで、無水セッコウと各種クリンカーをボールミルを用いて混合粉砕し、ブレーン比表面積3500±200cm2/gに粉砕して表3に示すような組成のセメント混和材を調製したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0030】
<使用材料>
SiO2原料:試薬1級、二酸化ケイ素
【0031】
【表3】
【0032】
表3より、珪酸率が1.0未満の範囲でカルシウムシリケートを含有する本発明のセメント混和材を使用したモルタルは、優れた膨張特性を示すことが判る。
【0033】
実施例4
工業原料であるCaO原料、Al2O3原料及びFe2O3原料を配合し、ロータリーキルンを用いて、焼点温度1400℃で焼成して表4に示すような化学組成のクリンカーを合成し、ボールミルを用いて、無水セッコウと共に混合粉砕してブレーン比表面積3500cm2/gのセメント混和材を調製したこと以外は、実施例1と同様に行った。化学組成を基に算出した化合物組成を表5に示す。比較のために、市販のカルシウムサルホアルミネート系膨張材(膨張材A)と石灰系膨張材(膨張材B)の結果についても併記した。長さ変化率の測定結果を表6に示す。
【0034】
<使用材料>
CaO原料:新潟県青海鉱山産石灰石
Al2O3原料:中国産ボーキサイト
Fe2O3原料:圧延スケール
無水セッコウ:天然無水セッコウ
膨張材A:市販のカルシウムサルホアルミネート系膨張材、ブレーン比表面積2940cm2/g
膨張材B:市販の石灰系膨張材、ブレーン比表面積3610cm2/g
【0035】
【表4】
【0036】
【表5】
【0037】
【表6】
【0038】
表6より、本発明のセメント混和材を使用したモルタルは、市販の膨張材を使用したモルタルと比べ、優れた膨張特性を示すことが判る。
【0039】
実施例5
実施例4の実験No.4-1で使用したセメント混和材を使用し、セメント組成物100部中のセメント混和材の使用量を変えたこと以外は、実施例3と同様に行った。その結果を表7に示す。
【0040】
【表7】
【0041】
表7より、本発明のセメント混和材の使用量を大きくすると、モルタルの膨張特性が向上することが判る。
【0042】
【発明の効果】
本発明のセメント混和材を使用することにより、優れた膨張特性を有するセメント組成物が得られる。
Claims (4)
- CaO原料、Al2O3原料及びFe2O3原料を熱処理して得られる遊離石灰、C3A及びカルシウムアルミノフェライトを含有するクリンカーと、セッコウ類と、珪酸率が1.0未満の範囲でカルシウムシリケートとを含有してなり、セメント混和材100質量部中、遊離石灰30〜60質量部、C 3 A10〜35質量部、カルシウムアルミノフェライト5〜20質量部、セッコウ類10〜40質量部であるセメント混和材。
- 遊離石灰含有量が30〜60質量%であることを特徴とする請求項1に記載のセメント混和材。
- セッコウ類が無水セッコウであることを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント混和材。
- セメントと、請求項1乃至3の何れかに記載のセメント混和材とを含有してなるセメント組成物。
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