JP3850189B2 - 固形製剤とその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬用、農薬用、食品用、その他の工業用として用いられる固形製剤及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
医薬用、農薬用、食品用、その他の工業用に錠剤、顆粒剤などの固形製剤が用いられているが、これらは一般に主薬と賦形剤や崩壊剤、結合剤などの添加剤を混合して打錠したり、それらの混合物に水や結合剤を添加して攪拌又は練合した後、製粒することにより顆粒剤や細粒剤などの剤形で用いられている。そして、これらの固形製剤には、崩壊剤兼結合剤として日本薬局方に収載されている低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(以下、「L−HPC」ともいう。)が用いられる(特公昭48−38858号公報、特公昭51−19017号公報、特公昭57−53100号公報、特開平7−324101号公報)。
【0003】
L−HPCはセルロースエーテルの一種であり、結合剤として汎用されるヒドロキシプロピルセルロース(以下、「HPC」ともいう。)と類似するが、その性質を異にする。すなわち、HPCとL−HPCの本質的な違いは、L−HPCのヒドロキシプロポキシル基含量にあり、その値はHPCで53.4〜77.5%であるのに対し、L−HPCでは5〜16%である。この値は日本薬局方に収載されている方法で測定し、その範囲は日本薬局方「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」のモノグラフで明確に規定されている。
【0004】
しかしながら、従来L−HPCとして市販されているものは、ゆるみ嵩密度が0.3g/ml程度で粉体の流動性に乏しいことから、以下のような問題を生じていた。まず、流動層造粒により顆粒を調製する場合、L−HPCが有する粉体特性より顆粒の嵩密度が低く流動性が低いものとなってしまう。そして、この顆粒をハードカプセルに充填してカプセル剤とすると所望の用量を充填できなくなってしまう。また、顆粒を打錠して錠剤を製造するプロセスにおいて、高速で打錠するとその嵩高さや流動性の悪さから錠剤の重量偏差が大きくなる。さらに、根本的な問題としてL−HPCの添加量が特に多い場合、流動層造粒そのものが困難になる。これは、造粒中の粉体が吸水膨潤して嵩が増えて、流動が停止してしまうか、或いは不良になって粒度分布がかなり不均一なものとなってしまうということによるものである。一方、直接打錠の場合はL−HPCとそれ以外の成分を混合して打錠することになるが、L−HPCの添加量を増やすと粉体の流動性が低下するため、前述の顆粒打錠と同様な問題が生ずる。
さらに、L−HPCを添加した製剤は、口に含んだ場合に舌触りが不良であるという問題もあった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、顆粒を重質なものとし流動性に富ませ、ハードカプセルに充填する場合に用量を高くでき、高速打錠時に重量偏差が少なくするとともに、得られた製剤の舌触りが改善され、流動層造粒を行う場合の流動停止などの問題を減少させ、直接打錠の場合にL−HPCの含有量を高めても重量偏差の問題が少ない低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む固形製剤及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題の解決のために鋭意検討した結果、0.40g/ml以上であり、かつ固め嵩密度が0.60g/ml以上である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有することを特徴とする固形製剤を使用することにより、流動性や舌触りが改善され、高速打錠時に重量偏差が少なくするとともに、流動層造粒を行う場合の流動停止などの問題を減少させ、直接打錠の場合にL―HPCの含有量を高めても重量偏差の問題が少なくすることができることを見出し本発明をなすに至ったものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明でいう「ゆるめ嵩密度」とは、疎充填の状態の嵩密度をいい、直径5.03cm、高さ5.03cm(容積100ml)の円筒容器へ試料をJISの24メッシュの篩いを通して、上方から均一に供給し、上面をすり切って秤量することによって測定される。
一方、「固め嵩密度」とは、これにタッピングを加えて密充填にした場合の嵩密度である。タッピングとは、試料を充填した容器を一定の高さからくり返し落下させて底部に軽い衝撃を与え、試料を密充填にする操作である。実際には、ゆるみ嵩密度を測定する際上面をすり切って秤量した後、さらにこの容器の上にキャップをはめ、この上縁まで粉体を加えてタップ高さ1.8cmのタッピングを180回行う。終了後、キャップを外して容器の上面で粉体をすり切って、秤量し、この状態の嵩密度を固めかさ密度とする。これらの操作は、ホソカワミクロン社製パウダーテスターを使用することにより測定できる。
【0008】
本発明のL−HPCは、ゆるめ嵩密度が0.40g/ml以上で、固め嵩密度が0.60g/ml以上であればその目的を達成することができるが、ゆるめ嵩密度と固め嵩密度の比によって決定される以下の式で示される圧縮度が35%以下、特に32%以下が好ましい。圧縮度が35%を超えると、打錠する時にホッパーの形状によっては流動性が不足する場合がある。
なお、圧縮度は、嵩減りの度合いを示す値であり、以下の式で求められる。
圧縮度(%)={ (固め嵩密度―ゆるめ嵩密度)/固め嵩密度}×100
【0009】
本発明でいうL−HPCは、粉体の流動性が良いものが好ましいが、流動性を示す指標として前述の嵩密度や圧縮度以外にカル(Carr)によって提唱された流動性指数がある(R.L.Carr, Chem. Eng., vol.72, Jan.18, p163 (1965); 同雑誌同巻, Feb.1, p69 (1965); 同雑誌, vol.76, Oct.13, p7 (1969)及び「改訂増補,粉体物性図説」、粉体工学会・日本粉体工業協会編、日経技術図書、1985年、第151頁)。
流動性指数は、前述のホソカワミクロン社製のパウダーテスターを用いて安息角、圧縮度、スパチュラ角、均一度の4種類を測定し、その値からそれぞれについて指数を求めてそれらを総和する。安息角は、直径8cmの円板上に漏斗を介して注入して形成させた円錐状の堆積層の角度を分度器を用いて直接測定する。スパチュラ角は、22×120mmの金属製のへら(スパチュラ)を水平にしてその上に粉体を堆積させてプリズム状の粉体層を形成させ、側面の傾斜角により示す。均一度は、篩により粒度分布を測定した時の40%粒径を90%粒径で割ったものである。詳しくは、前記「改訂増補 粉体物性図説」に記載されている。
本発明のL−HPCの流動性指数は、60以上、特に63以上が好ましい。流動性指数が60未満だと、打錠する時にホッパーの形状によっては流動性が不足する場合がある。
【0010】
また、本発明におけるL−HPCの粒度については特に限定されないが、乾式レーザー回折法(例えばドイツSympatec社のHELOS装置を用いた方法)により測定される体積平均粒子径が、500μm以下、特に100μm以下が好ましい。500μmを超えると他の成分との混合が不均一になる場合があるからである。
また、乾式レーザー回折法とは、粉体試料を圧縮空気などで噴霧させ、これにレーザー光をあててその回折強度から粒径を求める方法で、得られる平均粒子径は体積平均粒子径となる。
【0011】
本発明のL−HPCは、以下に示す方法により製造できる。
まず、パルプをアルカリ溶液に浸漬してアルカリセルロースとし、これを酸化プロピレンと反応させる。この段階までは従来の嵩密度のものの製法と同じであるが、この後の工程において生成物を水又はアルカリ性に調節した水に投入して溶解させ、ほとんど均一な不透明なスラリー状(完全溶解状態)にしてから塩酸で中和して析出されたL−HPCを回収後、水で洗浄し乾燥して粉砕する。
従来法では、部分的に中和を行い溶解を不完全とさせて半溶解状態とし、この状態をコントロールすることにより繊維分率を変えて嵩密度を調節するが、本発明では生成物を完全溶解状態にすることにより、L−HPCの流動性を改善することができる。
ここでいう完全溶解状態とは、生成物がその形状をほぼ完全に失う状態を意味する。すなわち、完全に透明になることはもとより、不透明のスラリー状態や3リットルのスラリー中に5〜10個の割合で生成物小魂の残留が認められる程度も含む。溶解したあとの状態は高粘性のスラリー状であり、ニーダーなどの撹拌力の強い練合機が必要である。この後は、従来法通り塩酸等の酸で中和することによりL−HPCが析出し、この物を回収して洗浄、乾燥、粉砕して製品とする。
さらに、生成物を完全溶解させるためにはアルカリセルロースの調製条件が影響し、特に浸漬用アルカリ溶液が濃度45重量%以下の水酸化ナトリウムの時に完全溶解状態となりやすいことを見出した。
従来は49重量%の水酸化ナトリウム溶液を用いて行っているが、その濃度を下げることにより、反応の均一性が増して溶解性が向上したためと考えられる。
【0012】
本発明における固形製剤は、錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤などをいう。これらの固形製剤の製造方法については、錠剤については、直接打錠、湿式打錠、顆粒剤や細粒剤については、湿式造粒、乾式造粒などいずれの方法も適用される。
直接打錠は、主薬と添加剤を混合してそのまま打錠するものであり、湿式打錠は、主薬と添加剤の混合物を結合剤溶液や水等の適当な溶媒と練合して造粒し、これを乾燥した後で打錠するものである。後者は主薬や添加物の粉体の流動性が悪い場合にその流動性を高める目的で行われる。
乾式造粒は、主薬が水の存在下で不安定な場合、主薬と添加剤を混合してロール混合機などで圧縮し、それを粉砕、整粒して製する。また、顆粒剤や細粒剤は湿式あるいは乾式造粒したものをそのまま用いるか、あるいは主薬と添加剤の混合物を水または結合剤溶液で練合したものをスクリーンで押し出し成形したのち粉砕、整粒して製する。また、カプセル剤は、顆粒や細粒をゼラチンやセルロース誘導体を材質としたハードカプセルに充填して製する。
錠剤または顆粒剤や細粒剤の湿式造粒法における主な造粒プロセスには、高速撹拌機を使用する撹拌造粒と流動層を使用する流動層造粒がある。
ここで、流動層造粒は、撹拌造粒に比較して造粒物の粒度分布が狭く、また、工程管理が行いやすい点で近年好んで行われているが、流動層造粒に従来のL−HPCを使用すると、非常に嵩高い造粒物となってしまい、流動性に劣るため打錠機のホッパーから流出せずに打錠が不可能であったり、あるいは錠剤の重量偏差が著しく大きくなってしまう。しかし、本発明のL−HPCは、流動層造粒にも対応できることを特徴とする。
【0013】
これらの固形製剤に含有されるL−HPCの量は、主成分の添加量と性質により適宜決められる。
また、固形製剤に加える主成分も、医薬品であれば解熱鎮痛剤、抗生物質、抗炎症剤、食品であればビタミンや栄養物、その他農薬や洗剤など特に限定はされず、また他の添加剤である崩壊剤、結合剤、賦形剤、滑沢剤なども必要に応じて添加される。
【0014】
【実施例】
以下に本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明はこれら実施例の内容のみに限定されるものではない。
実施例1
木材パルプを40重量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬後、圧搾してアルカリセルロースを得た。このアルカリセルロース800gを反応機へ仕込み、窒素置換を行った。置換後、酸化プロピレンを反応機へ仕込み撹拌しながら40℃で1時間及び70℃で1時間反応して生成物を得た。
5リットル双腕ニーダーに65℃の熱水2リットルを入れ、生成物を投入して、生成物の形状がほぼ完全に消失する(約3リットルのスラリー中、5〜10個の生成物小塊の残留が認められる程度)まで約10分練合した後、酢酸で中和して晶出させた。
なお、溶解時、これを90℃の熱水で洗浄後、圧搾して脱水し、乾燥した後に、高速回転衝撃粉砕機で粉砕してヒドロキシプロポキシル基含有量が6.0重量のL−HPCを得た。
L−HPCのヒドロキシプロポキシル基含有量は日本薬局方による方法により、体積平均粒子径はSynpatec社のHELOSにより、その他はホソカワミクロン社のパウダーテスターにより測定した。
【0015】
実施例2〜4
酸化プロピレンの添加量や体積平均粒子径等を適宜調節した以外は、実施例1と同様な方法によりL−HPCを得た。ヒドロキシプロポキシル基含有量は、10.8%(実施例2、実施例4)、15%(実施例3)であった。
【0016】
比較例1〜2
L−HPCとして、表1に示す粉体物性を有する信越化学工業社製LH−21とLH−31を用い、それぞれ比較例1と2とした。
【0017】
流動層造粒と打錠による試験
アセトアミノフェン40重量部、乳糖14重量部、コーンスターチ6重量部、実施例1〜4及び比較例1〜2得られたL−HPC40重量部を混合し、流動層造粒装置(フロイント社フローコーターFLO−1型)に投入した。これにヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製HPC−L)の5重量%水溶液を結合剤として、以下に示す造粒条件により造粒を行った。
<流動層造粒条件>
仕込み量 1kg
吸気温度 60℃
排気温度 30〜 35℃
流動空気量 1.6 m3/h
スプレー速度 50kg/min
スプレー圧 3kg/cm2
後乾燥 吸気70℃で 30分
流動層造粒の途中で内容物を観察し、問題なく流動が続いたものを「良」、途中で流動がストップしたか、或いは流動が低下して風量を上げるなどの操作が必要性があったものを「不良」とした。得られた造粒物の嵩密度をパウダーテスターにより測定した。
また、圧縮度は、ゆるみ嵩密度と固め嵩密度から計算した。
【0018】
造粒物に0.5重量%の割合でステアリン酸マグネシウムを混合し、以下に示す条件で打錠した。
<打錠条件>
装置 菊水製作所 VERGO
予圧 0.3 t
本圧 1 t
錠剤サイズ 直径8mm、曲率半径 7.5mm
錠剤重量 約170mg
打錠速度 40rpm (480錠/分)
錠剤50錠の重量を精密にはかり、重量偏差(CV%)を計算した。
【0019】
直接打錠試験
直打用乳糖70重量部、実施例1〜4及び比較例1〜2得られたL−HPC30重量部、ステアリン酸マグネシウム 0.5重量%を混合して打錠末を調製した。これを上記打錠条件と同様にで打錠して実験1と同様に重量偏差を測定した。
【0020】
舌触り試験
直接打錠試験で調製した錠剤を舌の上にのせ、その触感を官能的に評価した。ざらつきが感じられたものを「不良」、それほど感じられなかったものを「良」とした。
【0021】
以上の結果を表1に示す。実施例1〜4は、比較例1〜2のものに比べて、流動層造粒において流動停止などの問題が見られず、得られた造粒物が重質で流動性が高く打錠においても重量偏差のより少ないものであった。また、舌触りのざらつき感も少なく良好であった。
【0022】
【発明の効果】
本発明によれば従来のL−HPCを使用する場合と比較して、顆粒が重質なものとなって流動性に富み、ハードカプセルに充填する場合に用量を高くでき、高速打錠時に重量偏差が少なくなる一方、 得られた製剤の舌触りが改善される。また、流動層造粒を行う場合に流動停止などの問題が減少し、 直接打錠の場合はL−HPCの含有量を高めても重量偏差の問題が少なくなる。
【0023】
【表1】
Figure 0003850189

Claims (5)

  1. ゆるめ嵩密度が0.40g/ml以上であり、かつ固め嵩密度が0.60g/ml以上である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有することを特徴とする固形製剤であって、上記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの圧縮度が、35%以下であることを特徴とする固形製剤
  2. 上記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの流動性指数が、60以上であることを特徴とする請求項1に記載の固形製剤。
  3. 上記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの体積平均粒子径が、乾式レーザー回折法で500μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固形製剤。
  4. さらに、剤形が、錠剤、顆粒剤、カプセル剤から選ばれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の固形製剤。
  5. 低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有する固形製剤の製造方法において、請求項1〜4のいずれかに記載の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを使用することを特徴とする固形製剤の製造方法
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