JP3848397B2 - 高効率で且つ均一性の良い強靭厚鋼板の製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は強靭な厚鋼板の製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼構造物の大型化に伴い、より強靭な鋼の開発が求められている。通常引張り強度60kgf/mm2 以上の鋼は、焼き入れによりマルテンサイトまたは下部ベイナイト変態を生じせしめ、その後の焼き戻し処理により過飽和固溶炭素を炭化物として析出せしめる方法で製造されている。このような製造法は製造に要する時間も長くかつ製造費用も多大である。
【0003】
近年、このような通常の焼き入れ焼き戻し処理の欠点を補うべく、圧延後そのまま焼き入れを行う直接焼き入れ技術が開発された。この方法は製造費用の低減と鋼の強靭化の面である程度の効果を生んでいる。このような製造法としては、例えば特公昭53−6616号公報、特公昭55−49131号公報、特公昭58−3011号公報等がある。
しかしこのような技術では、焼き戻し工程が従来のままであるために、その低生産性に起因して基本的には製造コストが高い。また冶金面から見て最適な金属組織の状態を得られているとは言いがたい。
【0004】
さらに、近年焼戻し時の昇温速度を大きくすることにより従来以上の強靭化を図る技術として、特開平2−015753号公報が報告されている。しかしこの方法では、圧延未再結晶温度域から直接焼き入れるため、材質異方性が大きくなることは避けえず、さらに加工歪みが残った状態からの直接焼き入れに伴う低成分系鋼の材質劣化も避けえない。
【0005】
さらに、通常の炉加熱による焼戻し時の昇温速度を大きくすることは、必然的に板周囲が板中心部に比べて過度に加熱され温度が高くなる。このため、板内部の材質変動が避け得ないという欠点があった。このため、板内部の材質が均一で且つ強靭な鋼を高効率に製造できる方法が強く求められてきた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、強靭で且つ均質な厚鋼板を高効率に製造する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記のような従来法の欠点を有利に排除しうる製造法を提供するものであり、所定の条件で焼き入れた厚鋼板を連続的に焼き戻す場合に、炉温度の設定方法を制御することで、大きい昇温速度で均一に焼き戻すことにより、強靭で且つ均質な厚鋼板を製造する方法であり、その要旨は次の通りである。
【0008】
(1)重量%で、
C :0.02%〜0.25%、 Si:0.03%〜2.0%、
Mn:0.30%〜3.5%、 Al:0.002%〜0.10%、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延後、直接焼き入れを行うかあるいは室温まで温度が低下した後に加熱・焼き入れを行った厚鋼板を、ラジアントチューブ方式又は電気炉方式の加熱炉において、当該炉内で連続的に搬送して焼き戻す場合において、炉の内部に温度の傾斜をつけ、炉の入り側を350℃以上Ac1 点+100℃以下の範囲内で所定の焼き戻し温度より200℃以上高く設定し、炉の出側に向かって段階的に設定炉温を低下させ、炉の出口前での炉の設定温度を前述の焼き戻し温度±50℃以内とすることを特徴とする、高効率で且つ均一性の良い強靭厚鋼板の製造法。
【0009】
(2)更に重量%で、Nb:0.002%〜0.10%、Ti:0.002%〜0.10%の1種または2種を含有することを特徴とする(1)記載の高効率で且つ均一性の良い強靭厚鋼板の製造法。
【0010】
(3)更に重量%で、Cu:0.05%〜3.0%、Ni:0.05%〜10.0%、Cr:0.05〜10.0%、Mo:0.05%〜3.5%、Co:0.05%〜10.0%、W:0.05%〜2.0%の1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の高効率で且つ均一性の良い強靭厚鋼板の製造法。
(4)更に重量%で、V:0.002%〜0.10%を含有することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の高効率で且つ均一性の良い強靭厚鋼板の製造法。
【0011】
(5)更に重量%で、B:0.0002%〜0.0025%を含有することを特徴とする(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の高効率で且つ均一性の良い強靭厚鋼板の製造法。
(6)更に重量%で、Rem:0.002%〜0.10%、Ca:0.0003%〜0.0030%を含有することを特徴とする(1)乃至(5)のいずれか1つに記載の高効率で且つ均一性の良い強靭厚鋼板の製造法。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下本発明について詳細に説明する。本発明の根幹をなす技術思想は以下のとおりである。
引張り強度60kg/mm2 以上の鋼は、焼き入れ焼き戻しまたは圧延後の直接焼き入れと焼き戻しにより製造される場合が多い。その強度・靭性のバランスは、金属組織がマルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織となる場合に最良となることが知られている。
【0013】
さらに、変態後の組織中に引継がれた転位は、焼き入れ後の通常の焼き戻し条件では消失してしまうが、焼き戻し温度にいたるまでの昇温速度を速くすることにより、転位を多量に残存させながら固溶炭素を炭化物として析出せしめることが可能で、さらなる強靭化も可能である。
【0014】
しかしながら、厚鋼板の強度・靭性は焼き戻し温度依存性が強いため、焼き戻し後の板内部に温度差が生ずると材質変動も大きくなるという実用上大きな問題がある。すなわち、焼き戻し温度にいたるまでの昇温速度を速くするために熱処理炉の設定温度を高くすると、必然的に板内部の温度差が大きくなるため、事実上焼き戻し温度にいたるまでの昇温速度を速くすることは不可能であった。
【0015】
しかるに本発明者らは、熱処理炉の設定炉温を制御することにより、焼き戻し温度にいたるまでの昇温速度を速くでき、且つ板内部の温度差も低減する方法を見出した。これは、熱処理炉の入り側の炉温度のみを高温に設定して、焼き戻しの初期の昇温速度を大幅に増加させ、熱処理炉の出側の炉温度を目的とする焼き戻し温度近傍に設定して、板内部についた温度差を収斂させる方法である。
【0016】
これにより、板全域にわたりほぼ同等に変態転位を多量に残存させながら、固溶炭素を炭化物として析出せしめることが可能となり、焼き戻し後の厚鋼板を極めて均質且つ強靭にすることが可能となった。
このような新しい知見に基づき、鋼の化学成分、鋼の製造条件を詳細に調査した結果、本発明者らは特許請求の範囲に示したような強靭鋼の製造法を導いた。
【0017】
以下に製造方法の限定理由を詳細に説明する。まず本発明における出発材の成分の限定理由について述べる。
Cは、鋼を強化するのに有利な元素であり、0.02%未満では十分な強度が得られない。一方、その含有量が0.25%を超えると溶接性を劣化させる。
Siは脱酸元素として、また鋼の強化元素として有効であるが、0.03%未満の含有量ではその効果がない。一方、2.0%を超えると鋼の表面性状を損なう。
【0018】
Mnは鋼の強化に有効な元素であり、0.30%未満では十分な効果が得られない。一方、その含有量が3.5%を超えると鋼の加工性を劣化させる。
Alは脱酸元素として添加される。0.002%未満の含有量ではその効果がなく、0.1%を超えると鋼の表面性状を損なう。
【0019】
NbおよびTiは、いずれも微量の添加で結晶粒の微細化と析出硬化の面で有効に機能するから、溶接部の靭性を劣化させない範囲で添加しても良い。この観点からNb,Tiともその添加量の上限を0.10%とする。両者とも添加量が少なすぎると効果がないため、添加量の下限を0.002%とする。
【0020】
Cu,Ni,Cr,Mo,Co,Wは、いずれも鋼の焼き入れ性を向上させる元素である。本発明における場合、その添加により鋼の強度を高めることができるが、過度の量の添加は鋼の溶接性を損なうため、Cu≦3.0%、Ni≦10.0%、Cr≦10.0%、Mo≦3.5%、Co≦10.0%、W≦2.0%に限定する。また添加量が少なすぎると効果がないため、添加量の下限をいずれの元素とも0.05%とする。
【0021】
Vは、析出硬化により鋼の強度を高めるのに有効であるが、過度の添加は鋼の靭性を損なうため、その上限を0.10%とする。また添加量が少なすぎると効果がないため、添加量の下限を0.002%とする。
【0022】
Bは鋼の焼き入れ性を向上させる元素である。本発明における場合、その添加により鋼の強度を高めることができるが、過度の添加はBの析出物を増加させて鋼の靭性を損なうため、その含有量の上限を0.0025%とする。また添加量が少なすぎると効果がないため、添加量の下限を0.0002%とする。
【0023】
RemとCaはSの無害化に有効であるが、添加量が少ないとSが有害のまま残り、過度の添加は靭性を損なうため、Rem:0.002%〜0.10%、Ca:0.0003%〜0.0030%の範囲で添加する。
【0024】
次に、本発明における製造条件について述べる。
本発明はいかなる鋳造条件で鋳造された鋳片についても有効であるので、特に鋳造条件を制限する必要はない。また鋳片を冷やすことなくそのまま熱間圧延を開始しても、一度冷却した鋳片をAc3 点以上の温度に再加熱した後に圧延を開始しても良い。また、圧延条件を特に規定する必要もない。
【0025】
本発明の効果は、圧延後直接焼き入れる場合でも、圧延後に一度室温まで板の温度が低下した後に再度加熱して焼き入れる場合でも有効である。焼き入れ後の組織を十分マルテンサイト、ベイナイトおよびそれらの混合組織とするために、焼き入れ時の冷却温度を高くする必要があり、通常は2℃/s以上の冷却速度で冷却する。冷却終了温度が550℃以上では十分にマルテンサイトおよびベイナイトに変態させることができいないため、550℃以下まで冷却することが望ましい。
【0026】
焼き戻し温度は350℃未満では固溶炭素が十分に析出せず、またAc1 点+100℃以上では、逆にオーステナイトへ変態する率が高くなりすぎて強度が低下するため、目的とする焼き戻し温度を350℃以上Ac1 点+100℃未満とすることが望ましい。
【0027】
焼き戻し中の昇温速度が低いと、固溶炭素の析出に先立って転位が消失してしまい靭性が劣化するため、焼き戻し初期の昇温速度は0.5℃/s以上とすることが望ましい。そのために、熱処理炉の設定炉温を、炉の入り側では所定の焼き戻し温度より200℃以上高く設定する。所定の焼き戻し温度+200℃以下に設定した場合では、板厚の厚い場合の昇温速度は0.5℃/s未満となる場合が多い。
【0028】
所定の焼き戻し温度+200℃以上に設定することにより、0.5℃/s以上の昇温速度は達成できるが、板端部は板中心部より過度に加熱され、過剰に焼き戻しを受けることにより強度低下の原因となる。そのため、板端部と板中心部の温度差を低減するために、炉の出側に向かって段階的に設定炉温を低下させ、炉の出口前での炉の設定温度を所定の焼き戻し温度±50℃以内とすれば、板内部の温度差は徐々に収斂し、最終的に得られる板の材質変動もほとんどなくすことができる。
【0029】
炉の出口前での炉の設定温度を、所定の焼き戻し温度+50℃以上あるいは所定の焼き戻し温度−50℃未満とすると、板内部の温度差が十分に収斂せず10℃以上の差が残るため、実用上の問題が生ずる。
【0030】
【実施例】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
まず表1に示す成分の鋼について、表2に示す寸法の厚板に熱間圧延後、直接焼き入れまたは再加熱・焼き入れを行った後に、表3(熱処理炉▲1▼の仕様一覧表)あるいは表4(熱処理炉▲2▼の仕様一覧表)に示す炉を用いて熱処理を行った。
熱処理の際の炉温度設定条件として、表5に示す熱処理条件で本発明方法および比較方法を適用した場合、表6(熱処理時間および鋼材の機械的性質の比較結果)のような厚鋼板の中心部および角部の強度・靭性が得られた。
【0031】
【表1】
Figure 0003848397
【0032】
【表2】
Figure 0003848397
【0033】
【表3】
Figure 0003848397
【0034】
【表4】
Figure 0003848397
【0035】
【表5】
Figure 0003848397
【0036】
【表6】
Figure 0003848397
【0037】
表6によると、焼き戻し初期の設定炉温が高く、昇温速度が高い場合は、強度・靭性バランスが向上している。しかし、設定炉温を高温のままとした厚鋼板の材質は板角部と板中心部で大きな差が生じている。設定炉温を初期に高温、後期にいたるにつれて低温に設定した本発明法では、強靭効果を保ったまま板角部と板中心部の材質変動を回避し得ていることが分かる。
【0038】
熱処理初期の設定炉温が所定の焼き戻し温度+200℃未満では、強靭化効果が不十分である。また、炉出口直前の炉温度が所定の焼き戻し温度±50℃の範囲をはずれた場合には、板角部と板中心部の材質差が残る。
【0039】
さらに、同じサイズの鋼材で熱処理時間を比較した場合、本発明の炉内雰囲気温度を段階的に低下させて設定した熱処理法で要する熱処理時間は、炉温を低温の一定温度に設定した従来の熱処理法で要する熱処理時間より明らかに短く、本発明により熱処理の効率が改善されることも分かる。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、強靭でしかも均質な厚鋼板を高効率で製造でき、産業上の効果が多大である。

Claims (6)

  1. 重量%で、
    C :0.02%〜0.25%、
    Si:0.03%〜2.0%、
    Mn:0.30%〜3.5%、
    Al:0.002%〜0.10%、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延後、直接焼き入れを行うかあるいは室温まで温度が低下した後に加熱・焼き入れを行った厚鋼板を、ラジアントチューブ方式又は電気炉方式の加熱炉において、当該炉内で連続的に搬送して焼戻す場合において、炉の内部に温度の傾斜をつけ、炉の入り側を350℃以上Ac1 点+100℃以下の範囲内で所定の焼戻し温度より200℃以上高く設定し、炉の出側に向かって段階的に設定炉温を低下させ、炉の出口前で炉の設定温度を前述の焼戻し温度±50℃以内とすることを特徴とする、高効率で且つ均一性の良い強靭厚鋼板の製造法。
  2. 更に重量%で、
    Nb:0.002%〜0.10%、
    Ti:0.002%〜0.10%
    の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1記載の高効率で且つ均一性の良い強靭厚鋼板の製造法。
  3. 更に重量%で、
    Cu:0.05%〜3.0%、
    Ni:0.05%〜10.0%、
    Cr:0.05%〜10.0%、
    Mo:0.05%〜3.5%、
    Co:0.05%〜10.0%、
    W :0.05%〜2.0%
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の高効率で且つ均一性の良い強靭厚鋼板の製造法。
  4. 更に重量%で、V:0.002%〜0.10%を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の高効率で且つ均一性の良い強靭厚鋼板の製造法。
  5. 更に重量%で、B:0.0002%〜0.0025%を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の高効率で且つ均一性の良い強靭厚鋼板の製造法。
  6. 更に重量%で、
    Rem:0.002%〜0.10%、
    Ca :0.0003%〜0.0030%
    を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の高効率で且つ均一性の良い強靭厚鋼板の製造法。
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