JP3692565B2 - B添加高張力鋼の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、Bを添加した高張力鋼の製造方法に関し、特に建築用厚鋼板などとして用いられる低降伏比高張力鋼の製造に有利に適用されるB添加高張力鋼の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
建築物などの鋼構造物の分野において、最近、経済性や耐震性の面から、低降伏比の高張力鋼が適用される傾向にある。
ところで、一般に、鋼の高張力化を、高価な合金元素を多量に添加しなくても効果的に達成する方法として、低合金鋼にBの焼入れ性向上効果を利用する方法が知られている。例えば、「鉄と鋼」第74年(1988)第5号P910〜917および同第12号P2337〜2344などには、B添加鋼のオーステナイト(γ)単相域からの焼入れ性に関して、B添加による焼入性向上の機構、その効果を最大にするのに必要なB量、あるいは熱処理条件等についての研究成果が報告されている。
一方、高張力鋼における降伏強さ(YS)/引張強さ(TS)の低下、いわゆる低降伏比(低YR)を図る技術としては、2相域からの焼入れが効果的であり、例えば、特開平5−171263号公報には、B添加鋼に、1次焼入れに次いで(α+γ)2相域からの2次焼入れを施す方法が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特開平5−171263号公報に開示の技術では、強度レベルが必ずしも十分ではないほか、強度、降伏比および靱性を含む総合バランスが劣るという問題があった。
【0004】
そこで本発明の目的は、上記既知技術が抱えていた問題を解決する、低降伏比高張力鋼の製造方法を提案するところにある。
本発明の他の目的は、引張強さが80kg/mm2 以上、降伏比が85%以下であって、かつ引張強さ(TS(kg/mm2 ))、降伏比(YR(%))および靱性(破面遷移温度 vTrs(℃))の総合バランスを表すパラメーター
(TS−80)×(− vTrs)×(85−YR)/100が10以上である低降伏比高張力鋼の製造方法を提案するところにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上掲の目的を実現するべく、B添加鋼を、1次焼入れと(α+γ)の2相域から焼き入れする2次焼入れとからなる2回焼入れ処理を行う場合に、とくに2次焼入れ時のBによる焼入性改善が効果的に得られる成分系および前処理の方法について鋭意研究した。
その結果、
▲1▼Bは、α粒子とα粒子との粒界(α−α粒界)には偏析せず、γ粒子とγ粒子との粒界(γ−γ粒界)のみに偏析し、このγ−γ粒界に偏析したBのみが2次焼入れ性を改善する。
▲2▼したがって、2次焼入れ性の向上のためにはγ−γ粒界面積を増やすことが有効であり、そのためには、2次焼入れの前処理によってγ粒径、組織を適正に制御することが必要である。
▲3▼また、2次焼入れ時にBNが生成していると焼入れ性が低下するので、焼入れ性の低下を防止するために、鋼成分のうちN含有量とTi含有量の関係を適正に制御することが必要である。
ことを知見し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明の要旨構成は下記のとおりである。
(1) C:0.05〜0.30wt%、Si:0.02〜0.80wt%、Mn:0.50〜2.50wt%、Al:0.005〜0.100wt%、B:0.0005〜0.0025wt%、N≦0.0050wt%を含み、Ti量を0.0096wt %以上かつN量に応じてTi:(47.9/14)N〜{(47.9/14)N+0.01}wt%の範囲で含み、かつCu:0.5wt %以下、Ni:2.0wt%未満、Cr:1.0wt%未満、Mo:1.0wt%未満のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延した後、直ちに水冷し、次いでオーステナイト域に加熱して空冷速度以上の速さで冷却し、その後(Ac1変態点)〜(Ac3変態点)の2相域温度に加熱して空冷速度以上の速さで冷却し、さらにAc1変態点以下の温度範囲で焼もどすことを特徴とするB添加高張力鋼の製造方法。
【0007】
(2) C:0.05〜0.30wt%、Si:0.02〜0.80wt%、Mn:0.50〜2.50wt%、Al:0.005〜0.100wt%、B:0.0005〜0.0025wt%、N≦0.0050wt%を含み、 Ti量を0.0096wt %以上かつN量に応じてTi:(47.9/14)N〜{(47.9/14)N+0.01}wt%の範囲で含み、かつCu:0.5wt %以下、Ni:2.0wt%未満、Cr:1.0wt%未満、Mo:1.0wt%未満、のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにNb:0.05wt%未満、V:0.20wt%未満のうちの1種または2種を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延した後、直ちに水冷し、次いでオーステナイト域に加熱して空冷速度以上の速さで冷却し、その後(Ac1変態点)〜(Ac3変態点)の2相域温度に加熱して空冷速度以上の速さで冷却し、さらにAc1変態点以下の温度範囲で焼もどすことを特徴とするB添加高張力鋼の製造方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明における鋼の成分組成を限定する理由について説明する。
C:0.05〜0.30wt%
Cは、鋼の強度を確保するために0.05wt%以上含有する必要があるが、0.30wt%を超えると低温靱性を低下させ、溶接割れを引き起こす。したがって、Cの含有量は0.05〜0.30wt%、好ましくは0.05〜0.20wt%とする。
【0009】
Si:0.02〜0.80wt%
Siは、脱酸および強度確保のために0.02wt%以上含有する必要があるが、0.80wt%を超えて添加すると低温靱性を低下させる。したがって、Siの含有量は0.80wt%、好ましくは0.02〜0.40wt%とする。
【0010】
Mn:0.50〜2.50wt%
Mnは、強度および靱性の確保のために0.50wt%以上含有する必要があるが、2.50wt%を超えて添加すると溶接性を低下させる。したがって、Mnの含有量は0.50〜2.50wt%、好ましくは0.50〜1.5 wt%とする。
【0011】
Al:0.005 〜0.100 wt%
Alは、脱酸のために0.005 wt%以上は必要であるが、0.100 wt%を超えて添加するとアルミナ系介在物の増大により、靱性の低下をもたらすため、0.005 〜0.100 wt%、好ましくは0.015 〜0.08wt%とする。
【0012】
B:0.0005〜0.0025wt%
Bは、その焼入性向上効果を発揮させるには、0.0005%以上の添加が必要である。しかし、0.0025%以上に添加しても焼入性向上の効果が飽和し、かえって低温靱性を低下させることになる。したがってBの添加量は0.0005〜0.0025wt%、好ましくは0.0005〜0.0020wt%とする。
【0013】
N≦ 0.0050 wt%
Nは、BNを形成し、Bの焼入性を低下するので皆無にすることが望ましい。ただし、微量のNならば、このNをTiで固定することにより、Nの弊害をまぬがれることができる。しかしながら、このN量が0.0050wt%を超えると、0.017 wt%を超えるTi量が必要となり、多量に生成するTiN により靱性の劣化を招く。したがって、N量は0.005 wt%以下に限定する。
【0014】
Ti:0.0096wt %以上かつ(47.9/14)N〜{(47.9/14)N+0.01}wt%
B、Nが共に存在してBNを形成すると、このBNが変態の核として作用するため鋼の焼入れ性を低下させる。そのために、不可避的に含有するこのNの影響を除くためには、Tiを添加してNの固定を図る必要がある。そこで、不可避的に含有するNを固定するための、Ti量は、0.0096wt %以上かつ(47.9/14)Nwt%以上必要である。一方、このTi量が{(47.9/14)N+0.01}wt%を超えて添加すると、炭化物の析出により低温靱性を低下させる。したがって、Tiの添加量は0.0096wt %以上かつ(47.9/14)N〜{(47.9/14)N+0.01}wt%の範囲としなければならない。
【0015】
Cu:0.5wt %以下、Ni:2.0wt%未満、Cr:1.0wt%未満、Mo:1.0wt%未満
Cu、Ni、CrおよびMoは、鋼の強度、靱性を向上させる元素であるが、過剰に添加しても効果が飽和するほか、溶接性を低下させるので、それぞれCu:0.5wt %以下、Ni:2.0wt%未満、Cr:1.0wt%未満、Mo:1.0wt%未満の範囲でこれらの元素のうちの少なくとも1種を添加するものとする。なお、好ましいNi , Cr , Mo の添加量は、 Ni:1.2wt%以下、Cr:0.6wt%以下、Mo:0.7wt%以下である。
【0016】
Nb:0.05wt%未満、V:0.20wt%未満
Nb、Vは、鋼のさらなる強度、靱性を向上させる元素であるが、過剰に添加しても効果が飽和するほか、溶接性を低下させるので、それぞれNb:0.05wt%未満、V:0.20wt%未満の範囲でこれらの元素のうちの少なくとも1種を添加するものとする。なお、好ましい添加量は、Nb:0.03wt%以下、V:0.1 wt%以下である。
【0017】
上述した成分系からなる鋼を通常の造塊または連鋳法によりスラブとした後、このスラブを熱間圧延して所定板厚の鋼板として、本発明に特有な次のような熱処理を施すことが必要である。
すなわち、熱間圧延した後、直ちに水冷し、次いでオーステナイト域に加熱して空冷速度以上の速さで冷却(1次焼入れ)し、その後(Ac1変態点)〜(Ac3変態点)の2相域温度に加熱して空冷速度以上の速さで冷却(2次焼入れ)する。以下に、本発明において、このような熱処理を行う理由について説明する。
【0018】
図1は、表1の組成からなる鋼スラブを板厚40mmの鋼板に熱間圧延し、直ちに空冷または水冷により冷却し、この鋼板を920℃に加熱して空冷または水冷の速さで冷却(1次焼入れ)し、さらに780℃に加熱して2相域焼入れ(2次焼入れ)を行い、550℃で焼もどし処理した場合における、それぞれのYSとTSの値を示すものである。
この図からわかるように、YSとTSの値はいずれも、圧延直後の冷却を水冷にしたときに高く、これよりも遅い空冷にしたときには低下する。したがって、高強度鋼を得るためには、圧延直後の冷却は水冷することが有効であるといえる。なお、このときの圧延終了温度は、フェライト生成を抑制し、水冷(1次焼き入れ)後の組織のマルテンサイト比率を高めて最終製品の強度を確保するために、Ar3変態点以上の温度範囲とするのが望ましい。
【0019】
【表1】
【0020】
このことは、顕微鏡による組織観察の結果、圧延直後の冷却が水冷のときには、γ粒径が小さくかつ、焼入れ組織がマルテンサイトとなり、そのため次のオーステナイト温度域への加熱時にγ粒径が微細となり、2相域加熱時には微細化する結果、γ−γ粒界が増加し、Bの焼入れ性向上効果が有効に発揮されたことによるものである。これに対し、圧延直後の冷却が空冷のときには、γ粒が粗粒であるか、ベイナイト組織が生成するか、あるいはこれらの両者が同時に起こるかのいずれかとなり、その結果、その後の組織が粗大となり、γ−γ粒界が減少し、Bの焼入れ性向上効果が低下したことによるものである。
なお、1次焼入れ後の冷却速度は、水冷および空冷のいずれの冷却においても得られるので空冷以上の冷却速度とし、この1次焼入れ時の加熱温度はオーステナイト域であればよい。
【0021】
次に、2相域焼入れ(2次焼入れ)条件であるが、圧延後の冷却および1次焼入れの条件を前述のとおりにすれば、Ac1変態点〜Ac3変態点の2相域温度から空冷速度以上の速さで焼入れた場合に、Bの焼入性向上効果が認めれれる。
すなわち、この2次焼入れ条件において、冷却速度を空冷速度よりも速い速度にする理由は、例えば板厚100mm 程度の厚肉材では空冷速度よりも遅い冷却になると焼入性が低下し、2相域焼入れによるγ相の変態組織はマルテンサイトからフェライト+ベイナイト組織となるため強度が低下するので、空冷以上の冷却速度とするのである。
また、二次焼入れ温度をAc1変態点〜Ac3変態点の範囲とする理由は、Ac1変態点未満では焼きもどし後の高強度が得られなくなること、一方Ac3変態点を超えるγ単相域からの焼入れではマルテンサイトもしくはベイナイト組織となり高強度が得られるものの、YRが高くなり、YR≦85%の低降伏比の鋼が得られなくなるからである。
【0022】
また、焼もどし温度は、Ac1変態点を超えると2次焼入れによる硬質相が消失し、強度低下が起こるので、焼もどし温度はAc1変態点以下とする。また、焼もどし温度の下限は、目標とする強度と靱性により変わるが、靱性確保のためには、500℃以上とするのが好ましい。なお、焼もどし時間は板厚によって適正時間は異なり材質均一化のためには1hr/25mm程度とするのが望ましい。
【0023】
上述した理由により、本発明において、TS≧80kg/mm2 以上、YR≦85%で、かつTS、YRおよび靱性( vTrs(℃))の総合バランスが、(TS−80)×(− vTrs)×(85−YR)/100≧10を達成するためには、熱間圧延した後、直ちに水冷し、次いでオーステナイト域に加熱して空冷速度以上の速さで冷却し、その後(Ac1変態点)〜(Ac3変態点)の2相域温度に加熱して空冷速度以上の速さで冷却することが必要となる。そして、このような熱処理工程を経ることにより、微細な軟質のフェライトと硬質相の複合組織とすることで、これらすべての特性を満たす低降伏比高張力鋼の製造が可能となる。
【0024】
【実施例】
用いた鋼(供試材)の化学成分を表2に示す。供試材A〜C鋼は、本発明方法に適合する成分組成を有する鋼で、D〜H鋼は本発明の条件から外れる比較鋼である。
これらの鋼を溶製、鋳造してスラブとし、熱間圧延を施して冷却し、一次焼入れ処理、2次焼入れおよび焼きもどし処理を施し、機械的性質を調べた。それらの製造条件と材質調査の結果を表3に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
表3に示す結果からわかるように、比較例のうち、A6〜A9,E,Hでは、TS:59〜78kgf/mm2 しか得られず、またD,F,GではTS:80〜83 kgf/mm2は得られるものの、 vTrsは−45〜−46℃と劣る。また比較例では、機械特性の総合バランス、(TS−80)×(− vTrs)×(85−YR)/100も−110〜1の範囲に止まる。
これに対し、本発明にかかる方法A1〜A5,B,Cでは、2相域焼入れにおいてもBの効果が十分に発揮され、TS:80kg/mm2 以上、YR:85%以下、(TS−80)×(− vTrs)×(85−YR)/100:10〜27であり優れた機械特性を有していると言える。
【0028】
【発明の効果】
かくして本発明方法によれば、B添加鋼の焼入性の向上を発揮させることが不十分あった2相域焼入れ法においても、Bの効果を十分に発揮させることが可能となり、強度、降伏比および靱性の総合バランスが優れた低降伏比高張力鋼の製造が安定して、しかも経済的に製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】圧延後の冷却、1次焼入れ時の冷却と引張特性の関係を示すグラフである。
Claims (2)
- C:0.05〜0.30wt%、Si:0.02〜0.80wt%、Mn:0.50〜2.50wt%、Al:0.005〜0.100wt%、B:0.0005〜0.0025wt%、N≦0.0050wt%を含み、Ti量を0.0096wt %以上かつN量に応じてTi:(47.9/14)N〜{(47.9/14)N+0.01}wt%の範囲で含み、かつCu:0.5wt %以下、Ni:2.0wt%未満、Cr:1.0wt%未満、Mo:1.0wt%未満のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延した後、直ちに水冷し、次いでオーステナイト域に加熱して空冷速度以上の速さで冷却し、その後(Ac1変態点)〜(Ac3変態点)の2相域温度に加熱して空冷速度以上の速さで冷却し、さらにAc1変態点以下の温度範囲で焼もどすことを特徴とするB添加高張力鋼の製造方法。
- C:0.05〜0.30wt%、Si:0.02〜0.80wt%、Mn:0.50〜2.50wt%、Al:0.005〜0.100wt%、B:0.0005〜0.0025wt%、N≦0.0050wt%を含み、 Ti量を0.0096wt %以上かつN量に応じてTi:(47.9/14)N〜{(47.9/14)N+0.01}wt%の範囲で含み、かつCu:0.5wt %以下、Ni:2.0wt%未満、Cr:1.0wt%未満、Mo:1.0wt%未満、のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、さらにNb:0.05wt%未満、V:0.20wt%未満のうちの1種または2種を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延した後、直ちに水冷し、次いでオーステナイト域に加熱して空冷速度以上の速さで冷却し、その後(Ac1変態点)〜(Ac3変態点)の2相域温度に加熱して空冷速度以上の速さで冷却し、さらにAc1変態点以下の温度範囲で焼もどすことを特徴とするB添加高張力鋼の製造方法。
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