JP3848377B2 - 分離剤の製造法 - Google Patents
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【産業上の利用分野】
本発明は、クロマト用分離剤に関するものであり、特にラセミ体化合物の光学分割剤として有用な、特定の多糖誘導体とシラン処理したシリカゲルとを多官能の反応性誘導体を介して化学結合させてなる分離剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来、多糖誘導体を用いた分離剤は液体クロマトグラフィー用の固定相として多種多様のラセミ体化合物に対して優れた分割能力を示すことが知られているが、その分割には多糖誘導体の高次構造がラセミ体化合物の構造に良好に適合し、両者の間で種々の吸着的相互作用が効果的に働くことが重要と考えられている。しかし、分割能力に優れている多糖誘導体を用いても分割することが難しい化合物が存在するのも事実である。
また、多糖誘導体の種類によっては、耐溶剤性が悪く、液体クロマトグラフィー用分離剤として用いるとき使用できない溶離液がある。
【0003】
従って、本発明の目的は、耐溶剤性が良好で、従来分割が困難であったラセミ体化合物を分割し得る新規な分離剤を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、アミロースを除く多糖が持つ6位の水酸基を保持し、2級水酸基のみを選択的に誘導体化してなる多糖誘導体と、シラン処理したシリカゲルとを多官能の反応性誘導体を介して化学結合させてなる分離剤を用いることによって、ある種の化合物に対し分離能が向上することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0005】
即ち本発明は、アミロースを除く多糖が持つ2級水酸基のみを選択的に誘導体化した一般式(1) で表される多糖誘導体と、シラン処理したシリカゲルとを多官能の反応性誘導体を介して化学結合させてなる分離剤の製造法を提供するものである。
【0006】
【化2】
【0007】
(式中、R は炭素数1〜30の1価の基であり、2級水酸基とはエステル結合、ウレタン結合もしくはエーテル結合をしている。またX は酸素原子である。)
一般式(1)中のRとは、炭素数1〜30の1価の基であり、多糖が持つ2級水酸基とエステル結合、エーテル結合あるいはウレタン結合をしている。具体的にエステル結合では、R は炭素数1〜30、好ましくは1〜20の脂肪族アシル基、あるいは炭素数5〜30の芳香族アシル基等であり、脂肪族アシル基としては、例えば
【0008】
【化3】
【0009】
エーテル結合では、R は炭素数1〜30、好ましくは1〜18のアルキル基、あるいは炭素数5〜30、好ましくは5〜10の芳香族基等であり、アルキル基としては、例えば −CH2-CH3 、
【0010】
【化4】
【0011】
またウレタン結合では、R は炭素数1〜30の1価の基、好ましくは炭素数6〜15の芳香族基あるいは置換芳香族基等であり、例えば
【0012】
【化5】
【0013】
本発明における多糖とは、合成多糖、アミロースを除く天然多糖及び天然物変成多糖のいずれかを問わず、光学活性であればいかなるものでも良いが、好ましくは結合様式の規則性の高いものである。例示すれば、β−1,4 −グルカン(セルロース)、α−1,6 −グルカン(デキストラン)、β−1,6 −グルカン(プスツラン) 、β−1,3 −グルカン(例えば、カードラン、シゾフィラン等)、α−1,3 −グルカン、β−1,2 −グルカン(Crown Gall 多糖) 、β−1,4 −ガラクタン、β−1,4 −マンナン、α−1,6 −マンナン、β−1,2 −フラクタン( イヌリン) 、β−2,6 −フラクタン(レバン)、β−1,4 −キシラン、β−1,3 −キシラン、β−1,4 −キトサン、β−1,4 −N−アセチルキトサン(キチン)、プルラン、アガロース、アルギン酸等であり、アミロースを含有する澱粉なども含まれる。特に好ましいものは高純度の多糖を容易に得ることのできるセルロース、β−1,4 −キトサン、キチン、β−1,4 −マンナン、β−1,4 −キシラン、イヌリン、カードラン等である。
これら多糖の数平均重合度(1分子中に含まれるピラノース或いはフラノース環の平均数)は5以上、好ましくは10以上であり、特に上限はないが、500 以下であることが取扱いの容易さにおいて好ましい。
【0014】
本発明に係わる多糖誘導体の合成法としては、例えば、多糖が持つ反応性の高い、1級水酸基を選択的にトリフェニルメチル基等の保護基で保護した後、残りの2級水酸基を相当する酸ハライドあるいは相当するイソシアネートと、ピリジン等の反応溶媒中で反応させるか、またはエーテル結合の場合は、1級水酸基がトリフェニルメチル基等の保護基で保護された多糖をアルカリ条件下で相当するハロゲン化物と反応させた後、得られた誘導体の保護基を希塩酸/メタノール中で脱保護することにより目的の多糖誘導体を得ることができる。
【0015】
本発明において基材として用いられるシリカゲルの粒径は1μm 〜1cmであり、好ましくは1μm 〜1000μm であり、更に好ましくは1μm 〜300 μm である。平均孔径は10Å〜 100μm であり、好ましくは50Å〜 50000Åである。また、孔径対粒径の比は1/10以下である。
【0016】
本発明に用いられるシラン処理剤としては、従来シランカップリング剤として市販されているものが好適であるが、具体的には次の一般式で示されるものが挙げられる。
【0017】
【化6】
【0018】
尚、上記式中の記号の定義は次の通りである。
m:1より3までの整数で、好ましくは1である。
R1:1より30までの炭素数を持つ2価の炭化水素基。
R2:水素原子又は1より30までの炭素数を持つ1価の炭化水素基。
Y :少なくとも1個はハロゲン原子又は炭素数1〜5までのアルコキシ基。
【0019】
本発明において、化学結合を形成せしめる多官能の反応性誘導体としては、脂肪族もしくは芳香族多官能イソシアネート等が挙げられる。具体的に例示するなら、2,4 −トリレンジイソシアネート、2,6 −トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6 −ジイソシアネート、テトラメチレン−1,4 −ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4 −ジイソシアネート、ナフタレン−1,5 −ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4'−ジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、1,4 −ベンゼンジイソシアネート、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ジフェニルジイソシアネート、 m−フェニレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、4,4'−ビフェニレンジイソシアネート、4−イソシアナトシクロヘキシル−4'−イソシアナトフェニルメタン、 p−イソシアナトメチルフェニルイソシアネート等があり、特に多官能でもジイソシアネートが好ましい。
【0020】
本発明においてシリカゲルのシラン処理は、従来公知の方法で実施できる。
このシラン処理したシリカゲルに、多官能の反応性誘導体を介して、前記一般式(1) で表される多糖誘導体の水酸基の一部を反応させる。この反応は従来公知の方法を用いることができる。
【0021】
なお、この時の化学結合の割合(架橋率)は、1 〜20%が好ましい。ここで架橋率とは、前記一般式(1) で表される多糖誘導体の水酸基と多官能の反応性誘導体が1対1に反応するとした際、水酸基の反応率に相当する値である。
【0022】
このようにしてシリカゲルに化学結合された前記一般式(1) で表される多糖誘導体はそのままでも分離剤として使用できるが、光学分割用分離剤として使用する場合は更に加熱処理により一層優れた性能を付与することができる場合がある。加熱処理は、例えば高沸点熱媒中分散させて行うか、カラムに充填後外部から加熱することにより行う方法が容易であり好ましい。加熱温度は35℃乃至 250℃が好ましい。
【0023】
また、適当な溶媒を用いて、分離能を向上させることも可能な場合がある。例えば多糖誘導体そのものを溶解する溶媒にシリカゲルに化学結合した多糖誘導体を接触させた後、多糖誘導体そのものを溶解しない溶媒に置換する場合、置換する前に一度溶媒を留去するか否かで特定化合物に対する光学分割能が大きく変化する場合があり、使用目的に応じて処理条件を適宜選択することができる。
【0024】
本発明の分離剤を用いて化合物の混合物や光学異性体混合物を分離するには、本発明の分離剤を充填したカラムを用いるガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー及び超臨界クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー法を用いるのが適している。
【0025】
液体クロマトグラフィーあるいは薄層クロマトグラフィーを行う場合の展開溶媒としては本発明の分離剤を溶解させたり、またはこれと反応するものを除いて特に制約はない。
一方、薄層クロマトグラフィーを行う場合には、 0.1μm 〜0.1mm 程度の粒子からなる本発明の分離剤と、必要であれば少量の結合剤より成る厚さ0.1mm〜100mmの層を支持板上に形成すれば良い。
【0026】
【発明の効果】
本発明に係わる、シリカゲルと位置(6位)選択的に化学結合した多糖誘導体からなる分離剤は、耐溶媒性に優れ、特に光学分割用充填剤として有用なものである。
【0027】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び応用例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1
表面処理したシリカゲルに化学結合したセルロース 6−ヒドロキシ− 2,3 −ビス (3,5 −ジメチルフェニルカルバメート)からなる分離剤の合成
(1) 6−O−トリチルセルロースの合成
セルロース5g(30.5mmol)、トリチルクロライド(東京化成(株)製)34.4g(4倍当量) を乾燥ピリジン100ml 中、80℃、2日間反応させた。反応系は、黄色い均一系になった。反応溶液をメタノール400 ml中に注ぎ、沈澱をガラスフィルターで濾取した。
【0029】
(2) セルロース 6−O−トリチル−2,3 −ビス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)の合成
(1) で得られた6−O−トリチルセルロース4.7 gと3,5 −ジメチルフェニルイソシアネート18.15 gを乾燥ピリジン80ml中、90℃で約24時間反応させた。反応溶液をメタノール中に注ぎ、得られた沈澱をガラスフィルターで濾取した。
【0030】
(3) セルロース 6−ヒドロキシ−2,3 −ビス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)の合成
(2) で得られたセルロース 6−O−トリチル−2,3 −ビス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)2.2 gを塩酸0.5 ml/メタノール100 ml中で約20時間攪拌した。遠沈後、上澄みを除き、乾燥した。
【0031】
(4) シリカゲルの表面処理
多孔質シリカゲル(LiChrospher SI-1000, Merck 社) を約 180℃で2時間真空乾燥を行い、窒素気流下でシリカゲル100gにつき金属ナトリウムで乾燥したベンゼン600ml 、ピリジン6ml、3−アミノプロピルトリエトキシシラン20mlの割合で各試薬を加え16時間加熱還流を行った。反応液をメタノールにそそぎ入れ濾過しメタノールで洗浄した後乾燥した。
【0032】
(5) セルロース 6−ヒドロキシ−2,3 −ビス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)と表面処理したシリカゲルの反応
(3)で得られたセルロース 6−ヒドロキシ−2,3 −ビス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)0.89gをテトラヒドロフラン(THF) に溶かし、(4) で得られた表面処理したシリカゲル3.3 gを入れた。さらに4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート14.65 mgをトルエン10mlおよびピリジン2ml中に溶かし、90℃で5時間反応させた。さらに3,5−ジメチルフェニルイソシアネートを0.557g加えて24時間反応させた。大量のテトラヒドロフラン中に反応物を入れてガラスフィルターで濾過し乾燥して分離剤を得た。
以下に、上記(1) 〜(5) の工程を反応式で示す。
【0033】
【化7】
【0034】
【化8】
【0035】
比較例1
(1) シリカゲルの表面処理
多孔質シリカゲル(LiChrospher SI-1000, Merck 社) を約 180℃で2時間真空乾燥を行い、窒素気流下でシリカゲル100 gにつき金属ナトリウムで乾燥したベンゼン600ml 、ピリジン6ml、3−アミノプロピルトリエトキシシラン20 mlの割合で各試薬を加え16時間加熱還流を行った。反応液をメタノールにそそぎ入れ濾過しメタノールで洗浄した後乾燥した。
【0036】
(2) セルロースが担持されたシリカゲルの調製
グルコース単位で約1.5個のトリチル基が反応したトリチルセルロース3.0gをテトラヒドロフラン(THF)10ml に溶かし、上記(1) で得た表面処理を行ったシリカゲル6.6 gに均一に振りかけ、溶媒を留去してトリチルセルロースを担持した。これにメタノール30ml、濃塩酸0.3ml をそそぎ、一晩室温に放置してトリチル基を除去した。濾過の後、メタノールで洗浄した。これにメタノール30ml、トリエチルアミン0.3ml をそそぎ、再度濾過し、メタノールで洗浄してから乾燥した。
【0037】
(3) 架橋率3%セルロース 3,5−ジメチルフェニルカルバメートの調製
前記(2) で得たセルロースを吸着させたシリカゲル3.3 gへ、窒素気流下で乾燥トルエン8mlをそそぎ、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート61mgを加えてよく振り混ぜてから80℃に加熱し、2時間後ピリジン2mlを加えた。3時間後3,5 −ジメチルフェニルイソシアネート2mlとピリジン5mlを加え120 ℃に加熱し反応させた。16時間後グラスフィルターに取り出して濾過し、THF で洗浄し乾燥した。濾液は濃縮しヘキサンにそそぎ入れ、析出した白色沈澱をグラスフィルターに集め真空乾燥を行い0.96g 得た。
【0038】
応用例1
実施例1で得られた位置(6位)選択的に化学結合した分離剤と、比較例1で得られたランダムに化学結合した分離剤をそれぞれ、スラリー法により、内径0.46cm、長さ25cmのステンレス製カラムに充填した。
このカラムを用いて表1に示す種々のラセミ体化合物について、以下の条件で光学分割を行った。結果を表1に示す。
<分離条件)
移動相:n−ヘキサン/2−プロパノール=90/10(v/v)
流 速:0.5 ml/分
温 度:25℃
尚、表中の分離係数(α)は、下式により定義される。又、表中のPhはフェニル基を示し、表中のかっこ内の符号は溶出物の施光度の符号である。
【0039】
【数1】
【0040】
【表1】
Claims (1)
- アミロースを除く多糖が持つ2級水酸基のみを選択的に誘導体化して一般式(1) で表される多糖誘導体を得た後、この多糖誘導体と、下記式(i)〜(iii)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種のシラン処理剤によりシラン処理したシリカゲルを、脂肪族若しくは芳香族ジイソシアネートを介して反応させる、多糖誘導体の6位の1級水酸基にシラン処理したシリカゲルが脂肪族若しくは芳香族ジイソシアネートを介して、6位の1級水酸基とジイソシアネートの−NCO基の化学結合、及びシラン処理剤のアミノ基、水酸基又はメルカプト基とジイソシアネートの−NCO基の化学結合により結合した分離剤の製造法。
式(i)〜(iii)中、mは1より3までの整数、R1は1より30までの炭素数を持つ2価の炭化水素基、R2は水素原子又は1より30までの炭素数を持つ1価の炭化水素基、Yは少なくとも1個はハロゲン原子又は炭素数1〜5までのアルコキシ基を示す。)
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