JP3846615B2 - 薄膜ガスセンサ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、電池駆動を想定した低消費電力型薄膜ガスセンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的にガスセンサは、特に家庭用ガス漏れ警報器などの用途に用いられる場合、CO,CH4 ,C3 H8 ,C4 H10等に選択的に感応するデバイスであり、その性格上高感度,高選択性,高応答性,高信頼性,低消費電力が必要不可欠である。
ところで、家庭用として普及しているガス漏れ警報器には、都市ガス用やプロパンガス用の可燃性ガス検知を目的としたものと、燃焼機器の不完全燃焼ガス検知を目的としたもの、または、両方の機能を合わせ持ったものなどがあるが、いずれもコストや設置性の問題から普及率はそれほど高くない。このような事情から普及率をアップさせるべく、設置性の改善、具体的には電池駆動としてコードレス化することが望まれている。
【0003】
電池駆動を実現するためには小型化し、低消費電力化することが不可欠であるが、従来一般的に用いられる接触燃焼式や半導体式のガスセンサでは、粉末を焼結する方法で製造されており、スクリーン印刷等の方法を用いたとしても小型化には限界がある。
一方、比較的小型化が容易である半導体微細加工プロセスを用いたセンサも知られており、これは、基板上に絶縁膜,ヒータ,電極,感応膜などをCVD法や蒸着,スパッタ法により積層し、さらにセンサの熱容量を小さくし、かつ熱絶縁を図るために、基板をエッチングすることで薄くしたり、あるいは完全に除去するといった方法がとられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のような微細加工プロセスを用いたセンサにおいては、エレクトロマイグレーションなどの耐久性を加味すると、ヒータ抵抗の比抵抗ρH はセンササイズにより次の(1)式で示すような制約を受ける。
ρH ≧Vappl/(Jmax L) …(1)
(Vappl:印加電圧、Jmax :最大電流密度、L:ヒータの長さ)
例えば、Vappl=2V、Jmax =5×109 A/m2 、L=500μmとすると、ρH ≧80μΩcmとなる。
【0005】
一般的に用いられるPtをヒータに使うと、その比抵抗が10μΩcmであるため、電流密度Jは4×1010A/m2 となり、エレクトロマイグレーションにより容易に抵抗が劣化し、短時間で断線することが確認されている。勿論、Lを長くすることで計算上はより比抵抗の低い材料の選定も可能であるが、現実には限られたスペース、例えば100μm角の面積上に長いヒータを配するためにはヒータ幅を狭くする必要があり、微細加工上の制約や、信頼性上の制約のため、現実的にはLは500μm程度となってしまう。なお、温度に対する応答性を考慮するとセンサは100μm角より小さいことが望ましい。
【0006】
また、低消費電力化のためには、ヒータ部での発熱とダイアフラム全体からの放熱を考えなくてはならない。以下に、図2を参照して、熱収支について考察する。同図では発熱部を板状で表わしているが、実際には蛇行状ヒータを用いるのが一般的である。
さて、ヒータ発熱部の抵抗をRH 、ダイアフラム支持層上にあるヒータリード部2本の合計の抵抗をRL とするとき、各部の発熱量WH ,WL は、
WH =IT 2 RH …(2)
WL =IT 2 RL …(3)
と表わされる。ただし、電流IT は、
電流IT =Vappl/(RH +RL ) …(4)
である。
【0007】
一方、ダイアフラム支持層上のヒータリード部と支持層からの放熱は、支持層からの熱伝導による加熱WDS、ヒータリード部からの熱伝導による放熱WDL、大気への熱伝達による放熱WDV、大気中への熱放射による放熱WDE、とし全放熱量をWDTとすると、
WDT=WDS+WDL+WDV+WDE …(5)
となる。
【0008】
各放熱量はそれぞれ(6)式,(7)式,(8)式および(9)式の如く示される。
WDS=2πΔTΣ(λi ti )/ln(rd /rh ){i=1,2,3…}
(中括弧内はλi ti について積和をとることを示している) …(6)
WDL=2tL dL λL ΔT/(rd −rh ) …(7)
WDV=∫2πrhΔT(r)dr{r=rh 〜rd } …(8)
WDE=∫2πrσΔT(r)4 dr{r=rh 〜rd } …(9)
(8,9式の中括弧内はΔT(r)についてrh 〜rd まで積分する
ことを示している)
また、上記(6)式〜(9)式の各符号の意味は次の通りである。
ΔT:発熱部とダイアフラム外周部の温度差、rd :ダイアフラム径、rh :発熱部径、λi :支持層iの熱伝導率、ti :支持層iの厚さ、λL :ヒータリード部の熱伝導率、tL :ヒータリード部の厚さ、dL :ヒータリード部の幅、h:大気中への熱伝達係数、σ:大気中への熱放射率
【0009】
電池駆動型ガスセンサの命題である低消費電力化のためには、ヒータ発熱部の消費電力WH を小さくするだけでなく、ヒータリード部の消費電力WLLとの総和fT を小さくすることが必要である。ここにfT は、
fT =WH +WLL≒WDT+WLL=Dconst +WDL+WLL …(10)
と表わすことができる。ただし、Dconst =WDS+WDV+WDEで、これは発熱部,ヒータリード部の材料には依存しない値である。これから、発熱部とリード部を含むヒータ部の総消費電力fT を小さくするには、ヒータリード部の発熱WLLとヒータリード部からの熱伝導による放熱WDLとの和(WLL+WDL)を小さくすれば良いことが分かる。
【0010】
一例として、リード部でのジュール熱による損失をヒータ発熱部における発熱の10%に抑える場合について考えてみる。
例えば、ヒータ部の発熱を30mW、リード部の長さLを100μmとし、印加電圧を2Vとすると、リード部に流れる電流は16.5mAとなり、これによる発熱を3mWに抑えるには、リード部の抵抗は11Ω以下にすることが要求される。したがって、リード部の厚さを0.5μm、幅を10μmとすると比抵抗ρL は55μΩcm以下に制約される。このように、発熱部とリード部材料に求められる比抵抗の幅(差)はなく、両方を満足する材料の選定は非常に難しいものとなってしまう。さらに、リード部では比抵抗が小さいことに加えて、熱伝導によるエネルギー損失が少ないことや、熱膨張による応力が小さいことが要求され、ますますヒータ材料選定の幅が狭くなり、要求性能を満足する材料選定が極めて難しいという問題がある。
したがって、この発明の課題は、要求性能を満足するための材料選定幅を広げ、材料選定を容易にすることにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題の解決を図るべく、請求項1の発明では、Si基板の一側面中央部がダイアフラム様にくりぬかれた基板面上に、電気絶縁性の支持膜を介して薄膜ヒータを形成した後、さらに電気絶縁膜を介してその上に感知膜を形成した薄膜ガスセンサにおいて、
前記薄膜ヒータを発熱部と電流を導入するヒータリード部とに分けたとき、少なくともダイアフラム支持層上のヒータリード部が発熱部を構成する材料と異なる材料からなり、前記ヒータリード部からの熱伝導による熱損失をW DL 、ヒータリード部の抵抗による発熱量をW LL 、さらに前記発熱部を構成する材料と同一の材料でヒータリード部を作製した場合に発生する熱伝導による熱損失をW DL ’、この発熱部の抵抗による発熱量をW LL ’、とするとき、(W DL +W LL )<(W DL ’+W LL ’)なる関係を満たすようにすることを特徴とする。
【0012】
上記請求項1の発明においては、前記ヒータリード部の熱伝導率をλL、比抵抗をρL、発熱部材料の熱伝導率をλH、比抵抗をρHとするとき、各々の積がλLρL<λHρ H なる関係を満たすようにすることができ(請求項2の発明)、または、前記ヒータリード部の熱伝導率をλL、比抵抗をρL、発熱部材料の熱伝導率をλH、比抵抗をρHとするとき、λL/λH<1,かつρL/ρH<1なる関係を満たすようにすることができる(請求項3の発明)。
【0013】
また、上記請求項1〜3のいずれかの発明においては、前記ヒータリード部材料がNb−N化合物,Ta−N化合物,Fe−Ni−Co合金,Fe−Ni−Cr合金の内のいずれか1つであることができ(請求項4の発明)、請求項1〜4のいずれかの発明においては、前記ヒータ発熱部がTiSi2またはHfB2であることができる(請求項5の発明)。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1にこの発明の実施の形態を示す。
これは、両面に熱酸化膜が付いたSi基板上にダイアフラム構造の支持膜および熱絶縁膜としてSiNとSiO2 膜を順次プラズマCVD法にて形成する。なお、ダイアフラムとは薄膜状の支持膜の周囲をSi基板により支持し、周囲が厚く中央部が薄く形成されたものをいうこととする。その上にこの発明によるヒータ層(発熱部)1として、TiSi2 膜を0.5μm形成した。また、ヒータリード2としてはNbN膜を0.5μm形成した。さらに、SiO2 絶縁膜を介して感知膜用の電極4をPt/Taにより形成した後、スパッタ法により感知膜となるSnO2 膜3を形成した。最後に、基板裏面よりエッチングによりSiを除去し、ダイアフラム構造とした。ヒータ層であるTiSi2 膜の形成には混晶ターゲットによるスパッタ法を用い、200℃の成膜温度にて実施した。スパッタ後、TiSi2 膜の結晶化を行なうためにN2 雰囲気中にて850℃,3H(時間)の熱処理を行なった。
すなわち、上記の如き構造自体は公知であるが、ヒータの発熱部がTiSi2 からなり、ヒータリード部がNbNからなる点で従来のものと異なっている。
【0015】
上記(10)式でも説明したように、ダイアフラム構造が決まれば、消費電力を低減することと、ヒータリード部における発熱量WLLとヒータリード部からの熱伝導による放熱WDLとの和(WLL+WDL)を小さくすることとは等価である。したがって、ヒータ発熱部に用いられる材料でヒータリード部を作製した場合、すなわち、発熱部とヒータリード部を一体で作製した場合のWLLをWLL’とし、WDLをWDL’とすると、
(WLL+WDL)<(WLL’+WDL’) …(11)
なる関係が成り立つ材料を組み合わせれば、ヒータ発熱部とヒータリード部を異なる材料にすることによるメリットが出てくることになる。
【0016】
また、ヒータ部は円状または矩形状で示しているが、実際は例えば10μmの線幅にて約500μmの長さで形成した。ヒータ部の抵抗値はおよそ60Ωである。また、従来技術との比較のため、ヒータリードを発熱部と同じTiSi2 膜でも作製した。これらの薄膜ガスセンサにおいて、薄膜ガスセンサの表面温度が450℃になったときの、定常状態の消費電力を次の表1のNo.1とNo.7に示す。さらに、NbNの代わりにリード部をTa−N化合物,Fe−Ni−Co合金,Fe−Ni−Cr合金,Ptでも作製した。これらの消費電力を表1のNo.2からNo.6に示す。表1からも明らかなように、発熱部とリード部をともにTiSi2 単体で作製したNo.7の場合よりも、リード部に別の材料を用いたNo.1〜6の方が消費電力が低減していることが分かる。
【表1】
【0017】
発熱部のTiSi2 をHfB2 に替え、同様の実験を行なった場合の消費電力を表1のNo.8からNo.14に示す。これからも、発熱部とリード部を異なる材料で作製した方が消費電力が低いことが認められる。また、表1のNo.15からNo.19はリード部に選定した材料でヒータ発熱部とリード部を一体に作製した場合で、ここに示した材料はTiSi2 単体やHfB2 単体に比べて低消費電力ではあるが、この発明の組み合わせに比べると、低消費電力化は十分ではない。比抵抗の低いPtでは、450℃で40H程度通電するだけで断線が発生した(No.19参照)。
【0018】
上記のようなヒータ材料の組み合わせは、従来方法に比べれば優れた方法ではあるが、実際にはダイアフラム構造上に発熱部やヒータリード部を作製してはじめて熱収支を評価できる。この発明は(11)式を基に考察を加え、実際にダイアフラム構造を作製しなくとも、発熱部とヒータリード部を構成している材料の比抵抗と熱伝導率から、以下のように最適な組み合わせを判断することを提案するものである。
すなわち、先の(2),(3)式から、
WH =RH WL /RL …(12)
で、また発熱,放熱のバランスから、
WH =WDL+Dconst …(13)
であるので、
WL =WDLRL /RH +Dconst RL /RH …(14)
となる。
【0019】
ここで、
fL =WLL+WDL,fH =WLL’+WDL’ …(15)
とすると、次式が得られる。
fL =WDLRL (1/RH +1/RL )+Dconst RL /RH …(16)
fH =WDL’RL ’(1/RH ’+1/RL ’)+Dconst RL ’/RH ’…(17)
(16),(17)式から、RL /RH ≒RL ’/RH ’で、(1/RH +1/RL )≒(1/RH ’+1/RL ’)の場合に、(11)式が成り立つためには、次の(18)式を満たす必要がある。
WDLRL <WDL’RL ’ …(18)
【0020】
ここで、ヒータリード部の形状が選んだ材料に依らず同じとすると、上記(18)式から、
λL ρL <λH ρH …(19)
となる。金属材料においては、一般にλρ積は次のWiedemann−Franzの関係式(20)で示される定数となるが、実際には完全に当てはまることはなく、このため、(19)式を満足する材料の組み合わせが低消費電力化には望ましい組み合わせとなる。
λρ=(πkB /e)2 T/3 …(20)
先の表1には消費電力の他にλL ρL とλH ρH も示しているが、この発明の組み合わせでは(19)式を満足しており、その着眼点の正しさが確認されている。
【0021】
また、(11)式が常に成り立つためには、次式が成り立つ必要がある。
WLL/WLL’<1で、かつWDL/WDL’<1 …(21)
WLL/WLL’=λL /λH で、WDL/WDL’=ρL /ρH …(22)
であるので、(21)式が成り立つためには(23)式が必要である。
λL /λH <1 かつ ρL /ρH <1 …(23)
したがって、材料の物性値だけで、ヒータ発熱部材料とヒータリード部材料の組み合わせを選定することができる。表1の組み合わせでは、(23)式を満足するのは、No.2,3,8〜11で、いずれも優れた低消費電力化を達成している。
【0022】
上記では主として半導体式の薄膜ガスセンサについて説明したが、この発明はこれと同様の接触燃焼式ガスセンサについても同様にして適用することが可能である。
【0023】
【発明の効果】
この発明によれば、発熱部の材料とヒータリード部の材料を異ならせることにより、消費電力を低減する材料の組み合わせを容易に見つけることができ、実用に耐える電池駆動型ガスセンサを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態を示す断面図である。
【図2】ヒータ発熱部およびリード部の熱収支説明図である。
【符号の説明】
1…ヒータ層、2…ヒータリード部、3…感知膜、4…感知膜電極。
Claims (5)
- Si基板の一側面中央部がダイアフラム様にくりぬかれた基板面上に、電気絶縁性の支持膜を介して薄膜ヒータを形成した後、さらに電気絶縁膜を介してその上に感知膜を形成した薄膜ガスセンサにおいて、
前記薄膜ヒータを発熱部と電流を導入するヒータリード部とに分けたとき、少なくともダイアフラム支持層上のヒータリード部が発熱部を構成する材料と異なる材料からなり、前記ヒータリード部からの熱伝導による熱損失をW DL 、ヒータリード部の抵抗による発熱量をW LL 、さらに前記発熱部を構成する材料と同一の材料でヒータリード部を作製した場合に発生する熱伝導による熱損失をW DL ’、この発熱部の抵抗による発熱量をW LL ’、とするとき、(W DL +W LL )<(W DL ’+W LL ’)なる関係を満たすようにすることを特徴とする薄膜ガスセンサ。 - 前記ヒータリード部の熱伝導率をλ L 、比抵抗をρ L 、発熱部材料の熱伝導率をλ H 、比抵抗をρ H とするとき、各々の積がλ L ρ L <λ H ρ H なる関係を満たすようにすることを特徴とする請求項1に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記ヒータリード部の熱伝導率をλL、比抵抗をρL、発熱部材料の熱伝導率をλH、比抵抗をρHとするとき、λ L /λ H <1,かつρ L /ρ H <1なる関係を満たすようにすることを特徴とする請求項1に記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記ヒータリード部材料がNb−N化合物,Ta−N化合物,Fe−Ni−Co合金,Fe−Ni−Cr合金の内のいずれか1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜ガスセンサ。
- 前記ヒータ発熱部がTiSi 2 またはHfB 2 であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の薄膜ガスセンサ。
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