JP3843757B2 - モータ制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は位置検出センサを用いて永久磁石同期モータを180度通電(正弦波)駆動するモータ制御装置の制御法に係り、位置検出センサの取り付け精度が悪く位置検出信号のばらつきが有ってもそれを抑制して正弦波状の電流波形に制御する制御法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ホールIC等の位置センサを用いて永久磁石同期モータを180度通電駆動するモータ制御装置は多数発表されている。平成11年度電気学会東京支部茨城支所研究発表会論文「インバータ制御全自動洗濯機の開発」には、ベクトル制御を採用し180度通電することにより低騒音化を実現したモータ制御装置が記載されている。
【0003】
上記論文で記載されているモータ制御構成は図9に示す通り、ホールIC(図示せず)の位置信号U,V,Wを用いて永久磁石同期モータの回転速度ωrを演算する速度演算部1000と、前記ホールICの位置信号U,V,Wから前記永久磁石同期モータの磁極基準位相θdps を求め、前記磁極基準位相θdps と制御装置の内部位相θdとの位相誤差を算出し補正信号ωpll を出力する位相補正部2000と、前記回転速度ωrと前記補正信号ωpll から前記内部位相θdを算出する位相更新部3と、速度指令ωr*と前記回転速度ωrから電流指令Iq*を算出する速度制御部4と、回転速度ωr及び電流指令Iq*,Id*から前記永久磁石同期モータへの電圧指令Vq*,Vd*を算出するベクトル演算部5と、前記電圧指令Vq*,Vd*と前記内部位相θdから印加電圧指令Vu,Vv,Vwを算出する印加電圧指令作成部6から構成されている。
【0004】
なお、前記永久磁石モータの磁極位置を検出するホールICは電気角120度間隔で取り付けられている。このため、上記磁極位置信号を用いて電気角60度毎の位置が把握できる。
【0005】
上記従来技術は位相補正部2000において前記位置信号U,V,Wのエッジ毎に前記位相誤差を算出して前記補正信号ωpll を出力する。言い換えると、電気角60度毎に磁極基準位相θdps と内部位相θdを比較してその位相誤差から補正信号ωpll を算出する。
【0006】
また、前記速度演算部1000からの回転速度ωrと上記補正信号ωpll から補正速度ω1を作成し、前記位相更新部3を用いて前記内部位相θdを算出する。上記構成により、電気角60度間隔の磁極基準位相θdps から微細な内部位相θdを作成する。この微細な内部位相θdを用いて180度通電制御を行っている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来技術はホールICの取り付け誤差等に起因する位置信号のばらつきが考慮されていない。前記位置信号を出力するホールICは機械的に取り付けられており、一般的にその取り付け誤差は±10度(電気角)前後ある。ホールICの取り付け精度が悪く電気角が120度間隔になっていない場合、位置信号は電気角60度間隔とは成らず、例えば電気角55度と65度のような変則間隔になる。
【0008】
上記従来技術は磁極基準位相θdps は電気角60度毎に検出されるものと仮定して動作しているため、間隔がずれていると誤った位相誤差を算出し、誤った位相誤差を用いて補正信号ωpll を算出する。このため、電気角60度毎の位相更新幅が大きく変化し、モータ印加電圧も電気角60度間隔で変動し、モータ電流が正弦波とならずに歪んだ波形となる。
【0009】
また、低回転域では位置信号の電気角60度の時間間隔が長いため、位相補正部の補正処理が長い周期でしか実行できなくなり、補正が十分でない場合がある。言い換えると、位相補正部の補正に誤差を生じる。
【0010】
さらに、高速領域では上記とは反対に位置信号の電気角60度の時間間隔が短くなり、前記位相補正部の処理時間より短くなると、その補正処理が実行できなくなる問題が発生する。
【0011】
一方、位相補正部で算出する補正信号ωpll の演算において、ゲイン設定が不十分で演算の時定数が長い場合は、モータの急激な加減速あるいは突発的な外乱によって負荷が急変した場合にも位相補正部の補正量に誤差を生じることになる。モータの回転速度が急変している状態で生じた位相補正誤差は、速度制御の追従性を悪化させる不具合をもたらし、最悪の場合はモータが脱調し、運転が継続できなくなる問題を引き起こす。
【0012】
また、モータの通電開始時から一定速度状態に至るまでの加速中は、最もモータの回転速度が急変する状態と言え、特に前記位相誤差に起因したモータの過電流が発生しやすく、最悪の場合は制御装置が破壊することも起こりうる。
【0013】
また、従来技術では、ベクトル演算部5で、電流指令Iq*,Id*に加えて、回転速度ωrから前記永久磁石同期モータへ印加する電圧指令Vq*,Vd*を算出する。このため、特に起動時には回転速度が0であることから、起動に必要な電圧を確保することが出来ず起動失敗をする問題があった。
【0014】
本発明の第1の目的は、位置信号がばらついてもそのばらつきを吸収して、モータ電流を正弦波状に制御する180度通電制御装置を提供することであって、位相補正部の補正が確実に行える回転数になるまで前記内部位相θdを直接書き換える内部位相補正方法を提供することである。
【0015】
本発明の第2の目的は、モータの回転速度が一定状態では位置信号のばらつき吸収しつつ、さらにモータの急激な加減速あるいは突発的な外乱によって負荷が急変した場合にも位相補正誤差を低減できる内部位相補正方法を提供することである。
【0016】
また、本発明の第3の目的は、ホールICの取り付け誤差等に起因する位置信号のばらつきに対する影響を除外した、モータ内部に制御回路を実装したモータ制御装置を提供することである。
【0017】
本発明の第4の目的は、起動失敗することのない電圧指令の作成法を提供することである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明のモータ制御装置は、前記位相補正部で作成される位相誤差を、所定の期間、例えば電気角360度時間、言い換えれば1周期もしくは、その整数倍で平均して補正信号を作成することにより、前記位置検出部の取り付け誤差等に起因する磁極位置信号のばらつきを吸収し前記内部位相の更新を滑らかに行い、安定した180度通電制御をする。
【0019】
さらに、本発明のモータ制御装置は、前記速度演算部の演算も前記位相補正部同様に電気角の1周期分もしくは、その整数倍の周期の時間で行うことにより回転速度の変動を抑制し、さらに変動の少ない180度通電制御を行う。
【0020】
また、本発明のモータ制御装置は、低速回転域において、前記内部位相を前記位置信号のエッジの入力時に磁極基準位相に書き換える手段を導入することにより、低速回転域での前記位相補正部の補正誤差を補うことができる。
【0021】
さらに、本発明のモータ制御装置は、高速領域において、処理時間不足を防止するために、前記速度演算部と前記位相補正部の処理を電気角1周期に1回に変更する。これにより、処理時間の確保と位置信号ばらつきの吸収を同時に満足できる。
【0022】
また、本発明のモータ制御装置は、モータの急激な加減速あるいは突発的な外乱によって負荷が急変した場合には、前記内部位相を前記位置信号のエッジの入力時に磁極基準位相に書き換える手段とし、モータの回転速度が安定状態にある場合は、前記位相補正部と前記速度演算部の演算を所定の期間で平均化し、同演算結果を前記内部位相に反映させる手段とした2つの方法を、モータの回転速度に応じて併用して、モータの回転速度に依存しない安定した180度通電制御ができる。特に、最もモータの回転速度が急変するモータの通電開始時から一定速度状態に至るまでの加速中は、一定時間あたりの速度指令変化率を、一定速度状態に至った後の値よりも小さい値に設定することで、モータ電流が過大となることを抑制した、より安定性を高めた180度通電制御ができる。
【0023】
また、本発明のモータ制御装置は、電流指令Iq*,Id*に加えて、速度指令ωr*から前記永久磁石同期モータへ印加する電圧指令Vq*,Vd*を算出して、起動時の電圧を速度指令の上昇と共に増加させることにより、必要な電流を流すことができ、起動失敗を防ぐことができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
<実施例1>
以下、本実施例を図1から図8を用いて説明する。図1は本実施例の制御構成図である。永久磁石同期モータやインバータ回路等は図示してなく、マイクロコンピュータを用いて実現している制御部分のみを示す。実際のシステムでは永久磁石同期モータの磁極位置を検出し磁極位置信号を出力するホールIC、本制御装置に速度指令を送る上位コントローラ、本制御装置の印加電圧指令に従って動作するインバータ回路が付随する。
【0025】
本実施例の永久磁石同期モータは3相8極の非突極型モータであって、ホールICは電気角でおおよそ120度間隔に3個取り付けられている。図6に永久磁石同期モータの誘起電圧とホールICの位置信号の関係図を示す。図6は正転(CW)方向に回転した場合の関係図であり、同時に後述する制御で使用する位置検出パターンと位置検出番号iの関係も示す。ホールICは図6に示す関係になるように取り付けられている。
【0026】
図1に示すように、ホールICの位置信号U,V,Wで永久磁石同期モータの回転速度ωrを演算する速度演算部1と、前記ホールICの位置信号U,V,Wから前記永久磁石同期モータの磁極基準位相θdps を求め、前記磁極基準位相θdps と制御装置の内部位相θdとの位相誤差を算出し補正信号ωpll を出力する位相補正部2と、前記回転速度ωrと前記補正信号ωpll から前記内部位相θdを算出する位相更新部3と、上位コントローラからの速度指令ωr*と前記回転速度ωrから電流指令Iq*を算出する速度制御部4と、回転速度ωr及び電流指令Iq*,Id*から前記永久磁石同期モータへの電圧指令Vq*,Vd*を算出するベクトル演算部5と、前記電圧指令Vq*,Vd*と前記内部位相θdからインバータ回路への印加電圧指令Vu,Vv,Vwを算出する印加電圧指令作成部6とを備える。
【0027】
速度演算部1は前記位置信号U,V,Wの各エッジ間(電気角60度に相当)の時間を測定し回転速度ωrを演算する。位相補正部2で使用する磁極基準位相θdps は、前記位置信号U,V,Wの各エッジに対応した位相角度であり、図6に示す通り、30,90,150,210,270,330度であり、図6に示す位置検出番号iを用いて
θdps =60×i+30 …(1)
で算出される。
【0028】
また、磁極基準位相θdps と内部位相θdとの位相誤差演算は上記同様、前記位置信号U,V,Wの各エッジ毎に行われる。言い換えると、電気角60度毎に位相誤差演算を行う。補正信号ωpll は前記位相誤差6個(電気角1周期分)の平均値を使用して比例積分演算を用いて算出する。ここで、補正信号ωpll の算出に比例積分演算を用いているが、比例演算のみでも可能である。位相更新部3は上記回転速度ωrと上記補正信号ωpll の和である補正速度ω1を用いて下式で演算する。
【0029】
θd(n+1)=θd(n)+ω1×Δt …(2)
ここで、Δtは演算周期であり、具体的には、PWM出力処理毎に位相更新部の処理を実行のため、インバータのPWM半周期である。速度制御部4は比例積分演算を用いて電流指令Iq*を算出する。本実施例の永久磁石同期モータは突極性がないモータであるため、電流指令Id*は零と固定する。ここで、使用するモータに突極性がある場合等は、電流指令Id*を電流指令Iq*から算出したり、効率が最大に成るように電流指令Id*を演算するなどの手段を追加して良い。
【0030】
ベクトル演算部5は下式に示すモータモデル式に従って演算する。ここでも、使用するモータに突極性がある場合はそのモータモデル式を使用する。
【0031】
Vd*=r・Id*−ωr・L・Iq* …(3)
Vq*=ωr・L・Id*+r・Iq*+kE・ωr …(3′)
ここに、Vd*:d軸電圧指令、Id*:d軸電流指令、Vq*:q軸電圧指令、Iq*:q軸電流指令、r:巻線抵抗、L:インダクタンス、kE発電定数、ωr:回転速度である。
【0032】
印加電圧指令作成部6はd−q座標系で算出された電圧指令Vq*,Vd*を3相座標系に変換し、印加電圧指令Vu,Vv,Vwを算出する。具体的には、印加電圧値を演算する印加電圧演算部61と、内部位相θdと負荷角δから印加電圧の位相を演算する電圧位相演算部62,印加電圧と誘起電圧の位相差である負荷角δを演算するδ演算部63から構成されている。
【0033】
次に上記制御構成をソフトウエアで実現するソフトウエア構成をフローチャートで説明する。但し、本発明の説明で必要な部分のみを示す。図2にソフト全体構成、図3に位置検出処理、図4に速度演算処理とPWM処理、図5に位相補正処理を示す。図2に示すように、通常処理であるメイン処理と、割込み処理である位置検出処理,PWM処理,制御周期処理で構成されている。割込み処理は、それぞれの割込みイベントが発生した時に処理が実行される。位置検出処理は位置信号の各エッジ入力時、PWM処理はPWM半周期時、制御周期処理は制御周期タイマのオーバーフロー時である。制御周期処理は、制御周期の基本時間の作成や保護チェック処理,A/D変換処理等、定期的に実行すべき処理の起動を行っている。ここで、制御周期の基本時間は1msであり、1msを基本タイマとして10ms時間等を作成する。メイン処理の速度演算処理等は10ms周期で実行される。
【0034】
メイン処理を以下簡単に説明する。メイン処理は、モータの運転/停止判定処理,速度演算処理,速度制御処理,位相補正処理及び、停止処理により構成されている。メイン処理は通常上記処理を繰り返し実行しており、無限ループとなっている。まず、上位コントローラからの運転指令のチェックを行い、運転指令が停止の場合は停止処理、運転の場合は回転数指令の読み込み、PWM出力の許可を行う。ここで、停止処理ではPWM出力の停止と各変数の初期化を行う。停止処理実行後はまた、運転指令チェックを行う。
【0035】
本実施例ではモータの運転指令と回転数指令が別々に入力されているが、運転指令と回転数指令を併用し、回転数指令が零の場合を停止、それ以外の値のときは回転数指令として使用しても問題ない。運転中の場合は、上記で述べた制御周期タイマをチェックして、所定の時間(10ms)毎に速度演算処理,速度制御処理,位相補正処理を続けて実行する。上記処理を繰り返し実行することによりモータの速度制御ができる。
【0036】
図3に割込み処理である位置検出処理のフローチャート(図3(A))と本処理で格納されるデータの格納方法(図3(B),(C))を示す。本処理は図1に示す速度演算部1と位相補正部2の一部の処理であり、上記で使用する電気角60度時間と位相誤差を演算する処理である。位置検出処理は先にも述べたが、ホールICの位置信号U,V,Wの各エッジ毎に割込み処理として起動される。
【0037】
まずステップ(ア)で、読み込んだ位置検出パターンに応じた位置検出番号iの設定と位置検出回数の更新を行う。ここで、位置検出番号iとは、図6に示す通り、電気角60度毎に割振った位相番号である。本制御ではこの位置検出番号iを基にして磁極基準位相の演算を行う。また、位置検出回数とは、制御周期10ms時間内の位置検出割込み回数を示す。
【0038】
ステップ(イ)で、先に述べた次回位置検出パターンの設定を行い、その後ステップ(ウ)で、位置検出時間の読み込みと更新を行う。本割込み処理では位置信号のエッジ割込みをインプットキャプチャ割込みで行っているため、位置信号のエッジ割込み時の時間が自動的に確保されている。ここではこの時間をレジスタから読み込み、専用のRAMエリアに保管する処理である。
【0039】
ステップ(エ)で、上記で読み込んだ位置検出時間と前回値から電気角60度分の時間を演算し、その値を専用のRAMエリアに格納する。60度時間格納エリアは図3(B)に示す通り6個あり(電気角360度分)、最新時間が最上位に格納される。言い換えると、電気角1周期分の60度時間が確保でき、1周期後に消去される。次にステップ(オ)で前記で述べた式(1)を用いて磁極基準位相を演算し、ステップ(カ)において、上記磁極基準位相θdps と前記内部位相θdを用いて位相誤差を演算し、その値を専用RAMエリアに格納する。格納エリアを図3(C)に示す。内容は前記60度時間と同様である。以上が位置検出処理の内容である。この処理の実行により、電気角60度毎に60度時間と位相誤差が算出される。
【0040】
次に10ms周期で実行される速度演算処理と位相補正処理及び、内部位相θdの更新を行っているPWM処理を図4,図5を用いて説明する。
【0041】
図4(A)に速度演算処理のフローチャートを示す。本処理は、前述した位置検出回数の読み込みとクリア及び、前記位置検出処理で求めた60度時間を用いて回転速度ωrを算出する処理であって、図1に示す速度演算部の処理である。速度演算は前記60度時間6個を用いて360度時間として回転速度ωrを演算する。なお、回転速度演算法としては、60度時間から回転速度ωrを演算し、その値6個を用いて平均化する方法や、低速回転の場合、偶数個の60度時間から回転速度ωrを演算する方法などがあって、どの方法でも位置信号のばらつきを抑制して安定した回転速度ωrの演算ができる。
【0042】
図4(B)にPWM処理のフローチャートを示す。本処理は、内部位相θdの更新と通常のPWM出力処理を行っている。図1に示す位相更新部3と電圧指令作成部6の出力段もこの処理内である。PWM出力処理をは説明を省略する。
PWM処理は本制御処理内で最小の時間周期で実行されている処理である。そこで、内部位相θdの更新を本処理内で行っている。実行内容は前記の式(2)に示す通りである。
【0043】
図5に位相補正処理のフローチャートを示す。本処理は前記位相誤差から補正信号ωpll を算出する処理であり、図1に示す位相構成部2の中心処理である。まず、ステップ(キ)において電気角1周期分経過したかどうかをチェックする。10ms中に1周期回転していればステップ(ク)に進むが、そうでない場合は処理を終了(メイン処理に戻る)する。
【0044】
ステップ(ク)では、図3(C)に示した位相誤差格納エリア6個分の値を用いて平均位相誤差を演算する。具体的にはすべてのデータを合計して6で割る。ステップ(ケ)では、上記で位相誤差を使用したので、そのデータをすべてクリアする。ステップ(コ)では、上記で求めた平均位相誤差値を用いて補正信号ωpll を算出する。算出方法は上述した通り、比例積分演算を用いて算出する。
【0045】
以上の処理を繰り返し実行して、モータの速度制御が可能となり、速度演算処理や位相補正処理を電気角1周期分で平均化して演算することにより、位置信号のばらつきがあっても、そのばらつきを吸収して安定したモータの制御ができる。
【0046】
本実施例で説明したモータ制御装置は、安価な回路構成で180度通電制御が可能であり、モータ及び取り付けユニットの低振動・低騒音化が図れるので、本実施例のモータ制御装置は、洗濯機,ファンモータ,ポンプ駆動モータ等に好適である。図7にエアコンの室外機用ファンモータに適用した場合の取り付け概観図を示す。図7の100が室外ファン、200が圧縮機制御基板、300が圧縮機を示す。また、図8に室外ファンモータの断面図を示す。ファンモータは制御基板800が内蔵されている。ここで、400がモータの固定子、500が回転子、600,601がベアリング、700がモータシャフト、801が制御用マイコン、802がインバータ、803がホールICを示す。図7に示すファン100は上記シャフト700に直結されている。
【0047】
このように、本実施例ではホール素子の取り付けバラツキにより発生する問題を解決できるので、逆に、従来技術によるものより、ホール素子取り付け精度は必要とされない。このことから、部品の実装密度を上げて、制御基板を小さくすることによりモータ内部に制御基板を取り付けることが容易になる。
<実施例2>
本実施例を図10から図12を用いて説明する。本実施例の基本的動作は実施例1と同様であり、同一符号は同一の動作を行う。
【0048】
図10に制御構成図を示す。図1と異なる部分は速度演算部10と位相補正部20と位相書換手段7の追加及び、ベクトル演算部50で用いているモータモデル式である。本実施例は実施例1の動作以外に、低速回転域において、内部位相θdを位置信号のエッジの入力時に磁極基準位相θdps に書き換える位相書換手段7を導入し、実施例1の位相補正部2の補正誤差を補っている。また、高速領域での、処理時間を確保するために、実施例1の速度演算部1と位相補正部2の処理を電気角1周期に1回に変更する。これにより、処理時間の確保と位置信号ばらつきの吸収を同時に実現する。
【0049】
さらに、実施例1の位相補正部2の出力である補正信号ωpll を補正信号αに変更し、回転速度ωrとの積で補正速度ω1を算出する。これは、回転速度の大きさに対する補正信号の比率を同一にするためのものである。また、ベクトル演算部50の演算を式(4)に示すように、電流指令,モータ定数に加えて、回転速度ωrの変わりに指令速度ωr*を用いて行っている。これにより電圧指令の演算がフィードフォワード形になり、素早いモータ電圧の印加ができる。
【0050】
Vd*=r・Id*−ωr*・L・Iq* …(4)
Vq*=ωr*・L・Id*+r・Iq*+kE・ωr* …(4′)
まず位相書換手段7を説明する。位相書換手段7は回転速度ωrと位置信号U,V,Wを用いて、低速時に位置信号U,V,Wの各エッジで磁極基準位相θdps値を算出し、その値を直接内部位相θdとして書き換える処理である。低速時は60度時間の更新周期が長く、1周期時間となるとさらに長い時間を有する。その間、処理が実行されないため誤差が大きくなることがある。特に、内部位相θdは大きな誤差を生じる可能性がある。そこで、位置信号U,V,Wのエッジ、言い換えると、電気角60度毎に内部位相θdを磁極基準位相θdps に書き換えるものである。これにより、内部位相と実際のモータの位相誤差を極力小さくできる。
【0051】
次に位置検出処理の変更点を図11を用いて説明する。本処理も基本的動作は実施例1と同様であり、異なる部分は、速度モードの判定及びチェックと、電気角360度時間の演算及び格納である。速度モードとは内部位相θdの書き換えを行う低速モードと、実施例1同様の処理を実行する中速モード、実施例1の速度演算部1と位相補正部2の処理実行を電気角1周期に1回に変更する高速モードである。
【0052】
これらのモード設定は図11(い)及び(う)で行う。速度モードの判定は図11(あ)で行い、低速モード時は内部位相θdの書き換えを行う。また、高速モード時は中速モード時の60度時間に変わって360度時間の演算及び格納処理を行う。ここで、中速モードでは次回位置検出パターンの設定が行われていたが、高速モードではこの設定はしない。言い換えると、次回位置検出パターンも今回と同じパターンなので設定を省略する。
【0053】
次に速度演算処理の変更点を図12を用いて説明する。異なる部分は図12(え)の部分であり、高速モード時の速度演算処理を追加した仕様となっており、処理動作自体は低中速モード時と同じである。高速モード時は位置検出回数が1回でもあれば電気角360度回転しているため、360度時間より速度を演算する。以上により、低速回転域において、内部位相と実際のモータの位相誤差を極力小さくできる。また、高速領域で、処理時間を確保して安定したモータの速度制御を実現できる。
【0054】
ここで、本実施例では低速時に内部位相を磁極基準位相に直接書き換える動作を説明したが、本位相書き換え処理は、モータの回転数が不安定な状態の時には有効な方法である。言い換えると、モータの回転数が不安定な状態では、位相補正処理の補正信号が安定しない可能性がある。このような時は、内部位相を位置信号により直接変更すると、内部位相と実際のモータ位相の誤差を極力小さくできる。よって、本実施例は、例えば、高速回転時や起動時、あるいは回転数が変動している時などでも好適である。
<実施例3>
本実施例を図13を用いて説明する。本実施例の基本的動作は実施例2と同様であり、同一符号は同一の動作を行う。図13に制御構成図を示す。図10と異なる点は、位相書換手段70に速度指令ωr*を入力し、回転速度ωrとの比較機能を持たせたことである。
【0055】
本実施例は実施例2の動作以外に、内部位相θd更新方法として、位相書換手段70によって判定される速度指令ωr*と回転速度ωrの速度差が、あらかじめ設定した一定の範囲以内ならば、実施例2における中高速モード時の方法を採り、前記速度差があらかじめ設定した一定の範囲を超える場合には、実施例2における低速モード時の方法を採ることである。
【0056】
位相補正部20で算出する前記補正信号αの演算で、ゲイン設定が不十分で演算の時定数が長い場合は、モータの急激な加減速あるいは突発的な外乱によって負荷が急変すると、位相補正部20の補正量に一時的ではあるが大きな誤差を生じることになる。モータの回転速度が急変している状態で生じた位相補正誤差は、速度制御の追従性を悪化させ、最悪の場合はモータが脱調し、運転が継続できなくなる。
【0057】
そこで、本実施例では、まずモータの回転速度が急変した場合を、速度指令ωr*と回転速度ωrの速度差があらかじめ設定した一定の範囲を超える場合として定義し、これを位相書換手段70によって判断する。そして同速度差があらかじめ設定した一定の範囲を超えた場合は、実施例2における低速モード時の方法、すなわち電気角60度毎に内部位相θdを磁極基準位相θdps に書き換える。これにより、前記補正信号αの演算時定数が遅い場合でも、確実に内部位相θdを回転速度に追従して更新していくことができる。ここで、速度指令ωr*と回転速度ωrの速度差を、例えば3Hzに設定する。
【0058】
一方、前記速度差があらかじめ設定した一定の範囲以内ならば、実施例2における中高速モード時と同様に、すなわち前記位相補正部で作成される位相誤差を、所定の期間で平均して補正信号を作成し、前記回転速度と前記補正信号から前記内部位相を算出する。これにより、位置検出センサの取り付け精度が悪く位置検出信号のばらつきが有ったとしても、それを抑制して綺麗な電流波形に制御できる。
【0059】
以上2つの内部位相更新方法を、速度指令ωr*と回転速度ωrの速度差に応じて切り換える併用構成とすることによって、前記補正信号αの演算において、ゲイン設定が不十分で演算の時定数が長い場合でも、モータの回転速度が安定な状態では位置信号のばらつき吸収しつつ、さらにモータの急激な加減速あるいは突発的な外乱によって負荷が急変した場合にも位相補正誤差を低減できる内部位相補正方法を提供できる。すなわち、モータ回転速度の急変にも強いモータ制御装置を提供できる。
<実施例4>
エアコンの室外機ファンのような外力によって回されることのあるシステムでは、モータが未通電状態時に制御装置の回転方向指令とは逆に回転している場合がある。この場合、モータを所望の速度指令に応じて運転するためにモータに通電すると、最も回転速度が急変する状態になる。ここで、前記補正信号αの演算において、ゲイン設定が不十分で演算の時定数が長い場合は、上述した低速モード時の方法を用いても、位相補正誤差を低減しきれずにモータ電流が過大になる場合が起こり得る。そこで、モータの回転速度がモータへの通電開始時を起点として、所望の速度指令に応じた回転速度に達し、かつ一定速度に移行した時点を終点とする期間を初期加速期間と定め、まずモータの運転状態が該初期加速期間にあるかを判断する。
【0060】
もし、モータの運転状態が初期加速期間に該当する場合は、初期加速期間終点以降における一定時間あたりの速度指令変化率に対して、小さい値の速度指令変化率となるようにする。これによって、モータが逆回転している状態からモータ通電を開始した場合でも、位相補正誤差の演算における遅れの影響を低減することが可能となり、モータ電流が過大になることを抑制したモータ運転が実現できる。
【0061】
上記内容を実現する本実施例の制御構成図を図14に示す。本実施例は実施例3に内部速度指令部8を追加した内容となっているが、第1及び、実施例2に内部速度指令部8追加してもよい。内部速度指令部8は上位コントローラからの速度指令ωr*を読み込み内部速度指令ωr** を算出する。このとき、内部速度指令ωr** は速度指令ωr*に対して所定の変化率に応じて増減する。上記、内部速度指令ωr** と速度指令ωr*の変化の様子を図15に示す。また、本内部速度指令部8は前記初期加速期間の判定も同時に行っている。このため、内部速度指令ωr** の増減率は自動的に変化する。
【0062】
なお、本実施例では実施例3で使用していた速度指令ωr*は全て内部速度指令ωr** に置き換わる。以上により、モータの回転速度が急変するモータの通電開始時から一定速度状態に至るまでの加速中は、一定時間あたりの速度指令変化率を、一定速度状態に至った後の値よりも小さい値に設定することで、モータ電流が過大になることを抑制し、より安定性を高めた180度通電制御を行うことができる。
【0063】
ここで、本実施例ならびに実施例1から3は永久磁石同期モータは3相8極の非突極型モータとし、ホールICは電気角で120度間隔に3個取り付けられている場合を説明したが、位置検出センサは2個ないし1個でも可能である。但し、位置検出センサ1個の場合は、前述の中速モードの動作はない。
【0064】
【発明の効果】
本発明のモータ制御装置を用いれば、位置検出部の取り付け誤差等に起因する位置信号のばらつきを吸収し内部位相の更新を滑らかに行え、安定した180度通電制御ができる。これに伴い、ホールICの取り付け精度に対する要求も緩やかでよく、基板実装を高密度にできることから、制御回路を小さくして、モータ内部に組込みが可能になる。
【0065】
さらに発明のモータ制御装置は、速度演算部の演算も位相補正部同様に電気角の1周期分で行うので回転速度の変動も抑制され、さらに変動の少ない180度通電制御が行える。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のモータ制御装置の制御構成図である。
【図2】実施例1の制御ソフト全体構成図である。
【図3】実施例1の位置検出処理フローチャートである。
【図4】実施例1の速度演算処理及びPWM処理フローチャートである。
【図5】実施例1の位相補正処理フローチャートである。
【図6】実施例1の永久磁石同期モータの誘起電圧と位置信号の関係図である。
【図7】実施例1のモータ制御装置を適用したエアコンの室外機の説明図である。
【図8】実施例1のモータ制御装置を適用したファンモータの説明図である。
【図9】従来技術のモータ制御装置の制御構成図である。
【図10】実施例2のモータ制御装置の制御構成図である。
【図11】実施例2の位置検出処理フローチャートである。
【図12】実施例2の速度演算処理フローチャートである。
【図13】実施例3のモータ制御装置の制御構成図である。
【図14】実施例4のモータ制御装置の制御構成図である。
【図15】実施例4の内部速度指令変化図である。
【符号の説明】
1,10,1000…速度演算部、2,20,2000…位相補正部、3…位相更新部、4…速度制御部、5…ベクトル演算部、6…電圧指令作成部、7,70…位相書換手段、8…内部速度指令部、80…ホールIC、400…モータ固定子、500…モータ回転子、600,601…ベアリング、700…モータシャフト、800…モータ制御基板、801…制御用マイコン、802…インバータ。
Claims (13)
- 永久磁石同期モータの磁極位置信号を出力する位置検出部と、前記位置検出部の磁極位置信号を用いて前記永久磁石同期モータの回転速度を演算する速度演算部と、前記位置検出部の磁極位置信号から前記永久磁石同期モータの磁極基準位相を求め、前記磁極基準位相と制御装置の内部位相との位相誤差を算出し補正信号を出力する位相補正部と、前記回転速度と前記補正信号から前記内部位相を算出する位相更新部を備えたモータ制御装置において、
前記位相補正部で作成される位相誤差を、電気角1周期分もしくはその整数倍周期または位置検出の複数回数の周期で平均して補正信号を作成することを特徴とするモータ制御装置。 - 請求項1記載のモータ駆動装置において、前記速度演算部で演算される回転速度を、電気角1周期分もしくはその整数倍周期分または位置検出の複数回数の周期の時間を基に演算することを特徴とするモータ制御装置。
- 永久磁石同期モータの磁極位置信号を出力する位置検出部と、前記位置検出部の磁極位置信号を用いて前記永久磁石同期モータの回転速度を演算する速度演算部と、前記位置検出部の磁極位置信号から前記永久磁石同期モータの磁極基準位相を求め、前記磁極基準位相と制御装置の内部位相との位相誤差を算出し補正信号を出力する位相補正部と、前記回転速度と前記補正信号から前記内部位相を算出する位相更新部を備えたモータ制御装置において、
前記位相補正部で作成される位相誤差を、電気角1周期分もしくはその整数倍周期または位置検出の複数回数の周期で平均して補正信号を作成し、前記回転速度と前記補正信号から前記内部位相を算出する第1の内部位相更新手段と、前記内部位相を前記磁極基準位相に直接書き換える第2の内部位相更新手段を具備したことを特徴とするモータ制御装置。 - 請求項3記載のモータ制御装置において、前記第1の内部位相更新手段と前記第2の内部位相更新手段を併用することを特徴とするモータ制御装置。
- 請求項3記載のモータ制御装置において、常時前記第1の内部位相更新手段を用いて内部位相の更新を行い、所定の条件のときに前記第2の内部位相更新手段を併用して内部位相を更新することを特徴とするモータ制御装置。
- 請求項5記載のモータ制御装置において、所定の条件として、低速回転時,高速回転時,速度指令と回転速度の差が予め定めた値より大きい時、起動時,回転速度が予め定めた変動範囲より大きい時のいずれかを用いることを特徴とするモータ制御装置。
- 請求項3記載のモータ制御装置において、前記第1の内部位相更新手段と前記第2の内部位相更新手段を切り換えて内部位相の更新を行うことを特徴とするモータ制御装置。
- 永久磁石同期モータの磁極位置信号を出力する位置検出部と、前記位置検出部の磁極位置信号を用いて前記永久磁石同期モータの回転速度を演算する速度演算部と、前記位置検出部の磁極位置信号から前記永久磁石同期モータの磁極基準位相を求め、前記磁極基準位相と制御装置の内部位相との位相誤差を算出し補正信号を出力する位相補正部と、前記回転速度と前記補正信号から前記内部位相を算出する位相更新部を備えたモータ制御装置において、
前記速度指令と前記回転速度の速度差が一定範囲以内ならば、前記位相補正部で作成される位相誤差を、電気角1周期分もしくはその整数倍周期または位置検出の複数回数の周 期で平均して補正信号を作成し、前記回転速度と前記補正信号から前記内部位相を算出し、前記速度指令と前記回転速度の速度差が一定範囲を越える場合には、前記内部位相を前記磁極基準位相に直接書き換えることを特徴とするモータ制御装置。 - 請求項1において、
速度指令から所定の速度指令変化率にしたがって変化する内部速度指令を作成する内部速度指令部を具備し、
モータの回転速度がモータへの通電開始時を起点として、所望の速度指令に応じた回転速度に達し、かつ一定速度に移行した時点を終点とする期間を初期加速期間と定義し、モータの運転状態が該初期加速期間にある場合は、該初期加速期間終点以降における速度指令変化率に対して、小さい値の速度指令変化率となるようにしたことを特徴とするモータ制御装置。 - 永久磁石同期モータの磁極位置信号を出力する位置検出部と、前記位置検出部の磁極位置信号を用いて前記永久磁石同期モータの回転速度を演算する速度演算部と、前記位置検出部の磁極位置信号から前記永久磁石同期モータの磁極基準位相を求め、前記磁極基準位相と制御装置の内部位相との位相誤差を算出し補正信号を出力する位相補正部と、前記回転速度と前記補正信号から前記内部位相を算出する位相更新部を備えたモータ制御装置において、
速度指令と前記回転速度から電流指令を算出する速度制御部と、前記速度指令、前記電流指令及び複数のモータ定数から前記永久磁石同期モータへの電圧指令を算出するベクトル演算部と、前記電圧指令と前記内部位相から印加電圧指令を算出する印加電圧指令作成部を備えたことを特徴とするモータ制御装置。 - 請求項10において、
前記位相更新部は、前記回転速度と前記補正信号との積とから、前記内部位相を算出することを特徴とするモータ制御装置。 - 永久磁石同期モータの磁極位置信号を出力する位置検出部と、前記位置検出部の磁極位置信号を用いて前記永久磁石同期モータの回転速度を演算する速度演算部と、前記位置検出部の磁極位置信号から前記永久磁石同期モータの磁極基準位相を求め、前記磁極基準位相と制御装置の内部位相との位相誤差を算出し補正信号を出力する位相補正部と、前記回転速度と前記補正信号から前記内部位相を算出する位相更新部を備えたモータ制御装置において、
前記位相更新部は、前記回転速度と前記補正信号との積とから、前記内部位相を算出することを特徴とするモータ制御装置。 - 請求項1乃至請求項12のいずれかに記載のモータ制御装置を用いて永久磁石同期モータの制御を行う制御基板を前記永久磁石同期モータの回転子と固定子と同一のケースに実装したことを特徴とする永久磁石同期モータ。
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