JP3842643B2 - 適応制御法を用いた能動的振動制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、制御対象の振動を能動的に除去するための適応制御法を用いた能動的振動制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、適応制御法を用いた能動的振動制御方法としては、例えば図14に示すような適応最小平均自乗フィルタ(以下、Filtered-X LMSと記す)を用いた適応制御が知られている。すなわち、例えば制御対象である自動車のエンジン等の振動発生源35から、クランク軸回転パルスやイグニッションパルス信号をセンサにより取り出して、波形整形されて制御対象信号と同一周波数のパルス信号sにされる。また、振動発生源35からの振動波が、伝達系36(G′)を通して車室内に外力dとして伝播される。パルス信号sは、参照信号生成部1により制御対象信号と同一周波数の正弦波に変換して下記数1に示す参照信号Xとしている。
【0003】
【数1】
X=[x(n),x(n−1),・・・,x(n−N+1)]T
【0004】
ただし、[]T は転置行列を、nはサンプリング順位(時刻)を示す。
そして、参照信号Xは、数2に示す振幅補償係数及び位相補償係数の関数である適応フィルタW2のフィルタ係数により振幅補償及び位相補償され、下記数3に示す出力信号yが形成される。
【0005】
【数2】
W(n)=[w0(n),w1(n),… ,wN-1(n)]T
【0006】
【数3】
y(n)= WT(n)・X(n)=Σwi(n)x(n−i)
【0007】
出力信号yは、制御対象系の伝達経路(伝達関数G)3に入力され、制御対象系の伝達経路3を経て処理信号zが出力される。^を冠して標記される推定伝達関数G^4は、制御対象系の伝達経路(伝達関数G)3を予めインパルス応答測定か、周波数掃引加振試験等によって得られた推定の伝達関数であり、下記数4に示す制御対象系の伝達経路(伝達関数G)3の推定値が制御プログラム内で、制御対象の各周波数に対応して記憶されて、適応フィルタの更新時に引用される。
【0008】
【数4】
G=[g0,g1,……,gM−1]T
【0009】
処理信号zはエンジンの振動等である伝達系36(G′)を経た外力dが加算され、観測値としてセンサにより検出される。振動制御においてはセンサの検出値の目標は0であり、目標との差が誤差信号eになる。この誤差信号e(n)と推定値gを用い、FIRフィルタ(有限インパルスレスポンスディジタルフィルタ)5により適応フィルタWが数5に示すように逐次更新される。
【0010】
【数5】
W(n+1)=W(n)−μe(n)R(n)
【0011】
ここで、μe(n)はステップサイズパラメータであり、R(n)は、数6に示す通りであり、r(n)は数7に示す通りである。
【0012】
【数6】
R(n)=[r(n),r(n−1),…
,r(n−N+1)]T
【0013】
【数7】
r(n)=GT・X(n)= Σgix(n−i)
【0014】
以上に示したように、Filtered-X LMSによる適応制御系においては、最適に更新された適応フィルタWを用いて振幅及び位相調整された処理信号zにより外力が除去されるようになっている。
【0015】
一方、このFiltered-X LMSによる適応制御法におけるフィルタ係数の演算量を低減する他の適応制御法として、図15に示すような、遅延調和シンセサイザ最小平均自乗フィルタ(以下、DXHS
LMSと記す)を用いた適応制御法が知られている。この適応制御法では、例えば信号源である自動車のエンジン等の振動発生源35から、クランク軸回転パルス等をセンサにより取り出して、周波数判定部41にて制御対象周波数ωであることが判定されると共に、制御対象周波数ωの制御対象信号が選択され、正弦波の入力信号xとして適応フィルタW42に出力される。入力信号xは、適応フィルタW42のフィルタ係数により振幅補償及び位相補償され、かつ正弦波の出力信号yに合成されて出力される。出力信号yは、制御対象系の伝達経路(伝達関数G)43を通過後、処理信号zが出力される。処理信号zにはエンジンの振動等である伝達系36(G′)を経た外力dが加算され、観測値としてセンサにより検出される。振動制御においてはセンサの検出値の目標は0であり、目標との差が誤差信号eになる。この誤差信号e(n)と推定伝達関数44の推定値gを用い、デジタルフィルタ45(DXHS
LMS)により適応フィルタW42のフィルタ係数が以下に示すように逐次更新される。
【0016】
このDXHS LMSによる適応制御法のアルゴリズムについて、以下に簡単に説明する。周波数判定部41では、制御対象である入力信号xは、下記数8で与えられる。信号xは、演算過程で数値として生成・処理される信号であり、外部から得られる信号ではなく、制御対象信号の同期信号となる外部入力信号例えばエンジンのクランク角信号、イグニッションパルス信号等より算出されるものである。
【0017】
【数8】
x=Xexp(jωt)
【0018】
ここで、jは虚数単位、ω=2πfは制御対象角周波数、fは周波数、tは時刻を表すものとし、以下同じである。
適応フィルタW42は、1つの周波数成分に対して1つが用意され、振幅補償項a、位相補償項φの2つの変数により下記数9に示すように構成されている。
【0019】
【数9】
W=[a,φ]T
【0020】
ただし、[ ,]Tは転置行列を示す。
入力信号xは、適応フィルタWにより振幅補償及び位相補償され、下記数10に示す出力信号yとして出力される。
【0021】
【数10】
y=aXexp[j(ωt+φ)]
【0022】
つぎに、制御対象系の伝達経路(伝達関数G)43においては、ゲインAω、位相遅れΦωの伝達関数を有し、下記数11に示す制御対象系の伝達経路(伝達関数G)43を通過した後、処理信号zとして出力される。^を冠して標記される推定伝達関数G^44は、制御対象系の伝達経路(伝達関数G)43を予めインパルス応答測定か、周波数掃引加振試験等によって得られた推定の伝達関数であり、制御対象系の伝達経路における伝達関数Gに関する推定値として予め制御プログラム内で周波数に関してマップ化されて記憶され、適応フィルタ42の更新時に引用される。
【0023】
【数11】
【0024】
そして、処理信号zは、作用点にて例えば車両におけるエンジン振動等の外力dが加算され、観測値としてセンサにより検出される。振動制御においては、センサの検出値の目標値は0であり、処理信号zと外力dの差がエラー信号eとなる。エラー信号eはデジタルフィルタ45に戻され、係数を修正し無制御状態に適応フィルタを収束させないようにして、適応フィルタWが勾配法により逐次更新される。評価関数Jは、エラー信号eの二乗で表され下記数12に示すとおりである。勾配▽は、評価関数を適応フィルタWで偏微分することにより得られるもので下記数13によって表される。また、適応更新式は下記数14によって示される。
【0025】
【数12】
J=e2 =(d−z)2
【0026】
【数13】
【0027】
【数14】
Wn+1 =Wn +μ(−▽)
【0028】
なお、数13で、ゲインAω及び位相遅れФωの上部に付した「^」は、推定値であることを意味するものである。数14で、μはステップサイズパラメータで、適応システムの性能を決定するパラメータである。nは、サンプリング順位(時刻)である。上記数13及び数14により、数15に示すように適応更新式Wが得られる。
【0029】
【数15】
【0030】
なお、μa は振幅のステップサイズパラメータであり、μp は位相のステップサイズパラメータである。
【0031】
以上に示したように、上記DXHS LMSを用いた適応制御のアルゴリズムにおいては、係数更新のための畳み込み演算を必要とせず、参照信号の生成においても畳み込み演算は不要であり、そのため、周期性の振動あるいは騒音において、その基本波とその高次成分を制御対象とした場合に、入力に外部からの高調波信号を必要としない。また内部で仮想入力の算出を行うことなしに基本周期のみから演算処理が可能であり、フィルタ係数更新及び参照信号生成のための畳み込み演算も不要となる。
【0032】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記適応制御法を用いた能動的振動制御方法においては、車両等の制御対象において、経時変化、温度等の環境変化により、制御対象系の予め定めた推定伝達関数データと実際の伝達関数との間に必然的に差が生じ、特に伝達関数の位相データの差が大きくなる。このような位相データの差が生じることにより、適応制御が安定して行われる範囲を超えることになり、制御対象系において発散や、過電流等の不具合が生じるという問題があった。
【0033】
これに対して、Filtered-X LMSによる適応制御法では、例えば特開平9−319380号公報に示すように、フィルタ係数の更新式に発散抑制作用を有する発散抑制係数を含め、制御の発散が検出されたときには、発散抑制係数を発散抑制方向に変化させることにより、発散を抑制するようにした能動型騒音振動制御装置が知られている。しかし、この適応制御法の場合、上記説明から明らかなようにもともとのアルゴリズムが複雑である上に、フィルタ係数に発散抑制係数を加えることにより、さらに演算が複雑になる。そのために、発散抑制の制御コストが増大すると共に、発散抑制のための制御時間が非常に長くなるという問題がある。さらに、この適応制御法によれば、フィルタ係数の演算過程でオーバーシュートが発生し、その為に信号が不安定になるという問題もある。
【0034】
本発明は、上記した問題を解決しようとするもので、制御対象における経時変化、温度等の環境変化等により、制御対象系の予め定めた推定伝達関数データと実際の伝達関数との間に差が生じ、適応制御が安定して行われる範囲を超えた場合でも、制御対象系において生じる発散や過電流等の不具合を、簡易な構成により短時間にかつ安価に抑制することが可能な適応制御法を用いた能動的振動制御方法を提供することを目的とするものである。
【0035】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、上記請求項1に係る発明の構成上の特徴は、振動発生源からの周期性の入力パルス信号に応じて周波数判定部により入力パルス信号の周波数である制御周波数を求めると共に制御周波数の正弦波である入力信号を形成し、入力信号に対して適応フィルタの振幅係数及び位相係数の関数であるフィルタ係数により振幅及び位相補償を行い、振幅及び位相補償された出力信号が制御対象系の伝達経路を通過した後、伝達経路通過後の出力と振動発生源からの外力を加算し、加算の結果である誤差と制御対象系の予め規定された推定伝達関数により入力信号を振幅及び位相処理した処理信号とに基づいてデジタルフィルタにより振幅係数及び位相係数の逐次更新を行い、伝達経路通過後の出力によって外力を抑制するようにした遅延調和シンセサイザ最小平均自乗フィルタによる適応制御法を用いた能動的振動制御方法において、予め、振幅係数の適正な値を抑制係数として全制御周波数帯域にわたって所定周波数毎に定めておき、デジタルフィルタによって更新された振幅係数が抑制係数より小さいときは、振幅係数をそのまま使用し、更新された振幅係数が抑制係数より大きいときは、振幅係数として抑制係数の値を使用するようにし、制御対象系の運転状態の変更に応じて、抑制係数の値を変更するようにしたことにある。このような制御対象系の急激な変化を伴う運転状態の変更としては、例えば制御対象系を車両としたときのシフトレバーの位置、エアコンのオン・オフ、冷却水温等がある。
【0036】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、適正な振幅係数の値である抑制係数が、予め全制御周波数帯域にわたって所定周波数毎に定められており、この抑制係数とデジタルフィルタにより更新された振幅係数との大小が比較される。更新された振幅係数が抑制係数より小さいときは、振幅係数がそのまま使用され、入力信号に対して適応フィルタにより振幅及び位相補償が行われるので、発散等の不具合発生のおそれはない。また、更新された振幅係数が抑制係数より大きいときは、振幅係数として安定した適応制御が行われることが保証されている抑制係数の値が使用され、入力信号に対して適応フィルタにより振幅及び位相補償が行われるので、やはり発散等の不具合が発生するおそれはない。さらに、請求項1の発明においては、単に抑制係数を閾値として振幅係数の切替を行う制御になっているため、制御構成が簡易であると共に制御を短時間で行うことができ、さらに、振幅係数の切替制御において、オーバーシュートの発生を防止することができる。また、このような運転状態の変更に応じて抑制係数を変更することにより、運転状態の変更に対してもより適正な振動制御を行うことができる。
【0037】
また、上記請求項2に係る発明の構成上の特徴は、前記請求項1に記載の適応制御法を用いた能動的振動制御方法において、抑制係数として、適応制御が行われている状態での適正な振幅係数値を中心とした振幅係数の±5%の範囲内で決められた値とすることにある。このように抑制係数には幅を持たせたことにより、制御対象の経時変化等に対しても対応できる抑制係数とすることができる。
【0038】
また、上記請求項3に係る発明の構成上の特徴は、前記請求項1に記載の適応制御法を用いた能動的振動制御方法において、抑制係数が、非制御時において制御対象系での誤差測定点で得られた振動レベルを、前記制御対象系の予め規定された推定伝達関数のゲインで割った値に基づいて決められることにある。このように抑制係数を定めることにより、制御対象の経時変化等に対しても対応できる抑制係数とすることができる。
【0040】
また、上記請求項4に係る発明の構成上の特徴は、振動発生源からの周期性の入力パルス信号に応じて周波数判定部により入力パルス信号の周波数である制御周波数を求めると共に制御周波数の正弦波である入力信号を形成し、入力信号に対して適応フィルタの振幅係数及び位相係数の関数であるフィルタ係数により振幅及び位相補償を行い、振幅及び位相補償された出力信号が制御対象系の伝達経路を通過した後、伝達経路通過後の出力と振動発生源からの外力を加算し、加算の結果である誤差と制御対象系の予め規定された推定伝達関数により入力信号を振幅及び位相処理した処理信号とに基づいてデジタルフィルタにより振幅係数及び位相係数の逐次更新を行い、伝達経路通過後の出力によって外力を抑制するようにした遅延調和シンセサイザ最小平均自乗フィルタによる適応制御法を用いた能動的振動制御方法において、全制御周波数帯域にわたって所定周波数毎に、制御対象系が安定状態で適応制御が行われているときの振幅係数を求めて、振幅係数の値を抑制係数として規定し、さらに抑制係数の前後を含む所定範囲を抑制範囲として定めておき、その後の適応制御の際に、更新された振幅係数が抑制範囲内にあるときは、振幅係数をそのまま使用し、更新された振幅係数が抑制範囲を外れたときは、振幅係数として抑制係数の値を使用するようにし、制御対象系の運転状態の変更に応じて、抑制係数の値を変更するようにしたことにある。
【0041】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、適応制御の実行中に、安定状態での適正な振幅係数値が抑制係数として規定され、この抑制係数が、全制御周波数帯域において所定周波数毎に定められる。さらに、この抑制係数に基づいてその前後を含む所定範囲が抑制範囲として定められる。そして、デジタルフィルタにより更新される振幅係数の値が、この抑制範囲内に含まれるか否かが比較される。更新された振幅係数が抑制範囲内にあるときは、振幅係数の値がそのままフィルタ係数として使用され、入力信号に対して適応フィルタにより振幅及び位相補償が行われるので、発散等の不具合発生のおそれはない。また、更新された振幅係数が抑制範囲を外れたときは、振幅係数として安定した適応制御が行われることが保証されている抑制係数の値が使用され、入力信号に対して適応フィルタにより振幅及び位相補償が行われるので、やはり発散等の不具合が発生するおそれはない。さらに、請求項5の発明においては、単に振幅係数が抑制係数を中心値とした抑制範囲内にあるか否かによって振幅係数の切替を行う制御になっているため、制御構成が簡易であると共に制御を短時間で行うことができ、さらに、振幅係数の切替制御において、オーバーシュートの発生を防止することができる。また、このような制御対象系の急激な変化を伴う運転状態の変更に応じて抑制係数を変更したことにより、運転状態の変更に対しても適正な振動制御を行うことができる。
【0042】
また、上記請求項5に係る発明の構成上の特徴は、前記請求項4に記載の適応制御法を用いた能動的振動制御方法抑制範囲として、抑制係数値を中心とした抑制係数の±5%の範囲としたことにある。このように抑制範囲を定めたことにより、制御対象の経時変化等に対しても対応できる抑制範囲とすることができる。
【0043】
また、上記請求項6に係る発明の構成上の特徴は、前記請求項4又は5に記載の適応制御法を用いた能動的振動制御方法において、更新された振幅係数が抑制範囲内にあり、かつ適応制御が安定状態で行われているときに、振幅係数の値によって抑制係数を更新するようにしたことを特徴とすることにある。これにより、抑制係数を適正な値の保持することができる。このように、適正な振幅係数によって抑制係数が更新しつづけられることにより、常に適正な抑制係数が得られる。
【0045】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、参考例1である車両に適用されたDXHS LMSによる適応制御法を用いた能動的振動除去システムを模式図により概略的に示し、図2はエンジンマウントを断面図により概略的に示し、図3は振動除去システムの能動制御構成をブロック図により示したものである。振動除去システムは、車体10に搭載されたアクチュエータ搭載エンジンマウント20と、振動発生源であるエンジン11の回転数を検知する回転数センサ12と、シート13の下に設けられたピックアップ加速度センサ14と、電気制御装置30とを備えている。
【0046】
エンジンマウント20は、例えば図2に示すように、筒状のケース21内に、防振ゴム22と、防振ゴム22の下方にエンジンの動的変位を制御する電磁式アクチュエータ23を備えている。防振ゴム22は、ケース21の軸方向中間位置にて内壁に固定されると共に、固定金具24に取り付けられている。固定金具24には、防振ゴム22のストッパ部22aが、ケース21の一端に向けて設けられている。固定金具24の軸心位置には、固定軸25が軸方向に向けて取り付けられており、その先端がケース21の一端側に設けた貫通穴21aから突出している。ケース21の他端には、固定軸26が設けられている。エンジンンマウント20は、固定軸26によって車体10に固定され、固定軸25にエンジン11を取り付けることにより、エンジン11を支持している。
【0047】
エンジン11のクランク軸には回転数センサ12が取り付けられており、またシート13の下部にはピックアップ加速度センサ14が取り付けられている。回転数センサ12は、クランク軸回転パルス信号を出力し、これに基づいて制御部31は、出力信号の基本周波数を決定する。また、ピックアップ加速度センサ14は、誤差信号を出力し、システムの位相特性も予め測定して出力する。
【0048】
振動除去システムの電気制御装置30は、マイクロコンピュータよりなる制御部31を備えており、その一部にDXHS LMSによる適応制御部40を設けている。制御部31のROMには、図4のフローチャートに示す「振動制御Iプログラム」が記憶されており、さらに全制御周波数範囲において所定周波数毎(例えば1Hz毎)に予め求められた抑制係数R(Fr)のデータが記憶されている。この抑制係数R(Fr)については、予め図15に示す適用制御系において安定制御が行われている状態で求められた適正な振幅係数を用いて、その振幅係数値を中心値とした振幅係数値の±5%の範囲内で決められた値として規定される。制御部31は、上記「振動制御Iプログラム」を実行するものである。
制御部31の入力側には、上記回転数センサ12及びピックアップ加速度センサ14が接続されている。また、制御部31の出力側には、パルス幅変調ドライバ(PWMドライバ)32を介してエンジンマウント20のアクチュエータ23が接続されている。
【0049】
適応制御部40は、図3に示すように、基本的には図15に示したDXHS LMSを用いた適応制御系で構成され、これに加えてさらにデジタルフィルタ45の出力側に振幅係数判定出力部47を設けている。振幅係数判定出力部47は、デジタルフィルタ45で更新された振幅係数Am(Fr)が抑制係数R(Fr)より大きいか否かを判定し、その判定結果が振幅係数Am(Fr)が抑制係数R(Fr)より小さいときは、そのまま振幅係数Am(Fr)を適応フィルタ42に戻し、振幅係数Am(Fr)が抑制係数R(Fr)より大きいときに振幅係数Am(Fr)を抑制係数R(Fr)の値と等しくして、適応フィルタ42に戻すようになっている。
【0050】
つぎに、上記参考例1の動作について説明する。
制御部31は、図4に示す「振動制御Iプログラム」の実行をステップ60において開始し、ステップ61にて各種変数の初期設定を行った後、回転数センサ12からの入力パルス信号sに基づいて周波数判定部41において制御周波数Frを算出すると共に、制御周波数Frの正弦波信号である入力信号xを出力する(ステップ62,63)。つぎに、制御部31は、入力された誤差信号eを処理する(ステップ64)。この誤差信号eと、制御対象系の予め規定された推定伝達関数44により入力信号xを処理して得られた処理信号gとを用いて、デジタルフィルタ45により振幅係数Am(Fr)及び位相係数φ(Fr)の更新処理が行われ、更新された振幅係数Am(Fr)及び位相係数φ(Fr)が出力される(ステップ65)。
【0051】
つぎに、制御部31は、ROMから制御周波数Frにおける抑制係数R(Fr)を読み出し(ステップ66)、この抑制係数R(Fr)データと、更新された振幅係数Am(Fr)の大小について、振幅係数判定出力部47で比較判定させる(ステップ67)。振幅係数Am(Fr)が抑制係数R(Fr)以下のときは、振幅係数Am(Fr)は更新されたそのままの値が適応フィルタ42に出力される(ステップ68)。適応フィルタ42においては、更新されたフィルタ係数によって、入力信号xの振幅補償及び位相補償が行われ、出力信号yが出力される(ステップ69)。
【0052】
そして、制御対象系の経時変化等により振幅係数Am(Fr)が抑制係数R(Fr)より大きくなると、振幅係数判定出力部47では、振幅係数Am(Fr)が抑制係数R(Fr)より大と判定され(ステップ68)、これに応じて振幅係数Am(Fr)の値が抑制係数R(Fr)に更新されて、適応フィルタ42に出力される(ステップ70,69)。
【0053】
以上に説明したように、参考例1においては、予め振幅係数Am(Fr)の適正値である抑制係数R(Fr)が、全制御周波数帯域にわたって所定周波数毎に定められており、この抑制係数R(Fr)とデジタルフィルタ45により更新された振幅係数Am(Fr)の値との大小が比較される。更新された振幅係数Am(Fr)が抑制係数R(Fr)以下のときは、振幅係数Am(Fr)の値がそのままフィルタ係数として使用され、入力信号xに対して適応フィルタ42により振幅及び位相補償が行われて、適正な出力信号が形成される。そのため、振動制御システムにおいて発散等の不具合の発生を抑えることができる。また、更新された振幅係数Am(Fr)が抑制係数R(Fr)より大きいときは、振幅係数Am(Fr)として安定した適応制御が行われる保証がされている抑制係数R(Fr)の値が使用され、入力信号xに対して適応フィルタ42により振幅及び位相補償が行われるので、やはり発散等の不具合発生のおそれはない。
【0054】
さらに、参考例1においては、単に抑制係数R(Fr)を閾値として振幅係数Am(Fr)の切替を行う制御になっているため、制御構成が簡易であると共に制御を短時間で行うことができ、さらに、振幅係数の切替制御において、オーバーシュートの発生を防止することができる。
【0055】
その結果、参考例1においては、制御対象における経時変化、温度等の環境変化等により、制御対象系の予め定めた推定伝達関数データと実際の伝達関数との間に差が生じ、適応制御自体が安定して行われる範囲を超えた場合でも、制御対象系において生じる発散や過電流等の不具合を、簡易な構成により短時間にかつ安価に抑制することができる。
【0056】
なお、参考例1においては、抑制係数R(Fr)として、適応制御が行われている状態での適正な振幅係数Am(Fr)値を中心としたその±5%の範囲内で決められた値が用いられているが、これに限るものではない。抑制係数R(Fr)についての他の決定方法としては、非制御時において制御対象系の誤差測定点で計測された振動レベルを、制御対象系の予め規定された推定伝達関数G^のゲインAω^で割った値に基づいて実験的に決めるようにしてもよい。この場合も、上記参考例1に示した適応制御構成及び振動制御フローチャートを変更することなくそのまま使用することができる。
【0057】
つぎに、上記参考例1の具体的実施例について説明する。
制御周波数Fr=30Hzで、制御対象系の位相の推定値と実際の値との差Δφが0であり、抑制係数を0.728(最大許容振幅を1としている)としたときの、誤差信号eと出力信号yとの関係及び振幅係数Amと位相係数φとの関係を、それぞれ図6(a),(b)に示す。この場合は、位相差が0なので、制御は安定して行われており、出力信号yの振幅は一定であり、誤差信号eは適正に収束している。つぎに、同一制御周波数Fr、同一抑制係数で、制御対象系の位相の推定値と実際の値との差Δφを90°と大きく変更したとき、図7に示すように、制御は安定して行われており、出力信号yの振幅は一定であり、誤差信号eは適正に収束している。さらに、制御対象系の位相の推定値と実際の値との差Δφを120°と大きく変更したときでも、図8に示すように、制御は安定して行われており、出力信号yの振幅は一定であり、誤差信号eはわずかに広がりが発生するが、不規則な発散は生じない。すなわち、位相差Δφが90°、さらに120°のように大きく変化した場合でも、抑制係数を適正に設定したことにより、出力信号y及び誤差信号eの発散がなく、適正な振動制御が行われる。
【0058】
これに対して、従来例では抑制係数について考慮されておらず、出力信号の最大許容振幅が1である。従来例において、制御周波数Fr=30Hzで、制御対象系の位相の推定値と実際の値との差Δφが0のときは、誤差信号eと出力信号yとの関係、及び振幅係数と位相係数との関係については図6とほぼ同様に傾向であり、出力信号は一定であり、誤差信号eは適正に収束する。しかし、制御対象系の位相の推定値と実際の値との差Δφを90°と大きく変更したときは、図12に示すように、誤差信号e及び出力信号y共に、波動を繰返す発散状態になっている。さらに、制御対象系の位相の推定値と実際の値との差Δφを120°と大きく変更したときは、図13に示すように、誤差信号eが大きな変動を繰返し、振幅係数Am及び位相係数φも大きな変動を繰返す、完全な発散状態になる。
以上の具体的な実施例に示したように、参考例1の結果は、従来例に比べて明らかに発散を抑える効果が得られることが確認された。
【0059】
次に、第1実施形態について説明する。
上記参考例1において、振動制御システムが適応された自動車の運転状態、例えばシフトポジションが、ニュートラルからドライブに変更されたときは、制御対象系に大きな変化が生じる。このような運転状態の変化に対して、上記抑制係数R(Fr)が一定値のままでは不都合が生じる可能性がある。例えば、ニュートラルのときに適正な抑制係数R(Fr)が、ドライブのときには大きすぎるため、ニュートラルのときは問題がなくても、ドライブでは発散することがある。これに対して、抑制係数R(Fr)を小さめに設定すると、ドライブでは問題がなくても、ニュートラルのときには、出力が抑えられて振動抑制効果が不十分になることがある。第1実施形態では、このような運転状態の変化に応じて、抑制係数R(Fr)を変更させるようにしたものである。
【0060】
具体的には、シフトレバー位置を検出するシフト位置検出センサ17を設けて、それを制御部31の入力に接続させた。さらに、制御部31により実行される振動制御プログラムの一部を図5に示すように変更した。シフトレバー16がニュートラルからドライブ側に切り替えられると、これに応じて抑制係数R(Fr)が、m・R(Fr)に変更されるようになっている(ステップ71,72)。mは、運転状態の変化の程度に応じて予め定められる1より小さい定数である。さらに出力信号形成後には、抑制係数R(Fr)はもとの値に戻される(ステップ73)。その他の構成については、参考例1と同様である。
【0061】
上記構成の第1実施形態においては、振動制御の実行中に、シフトレバー16がニュートラルからドライブ側に切り替えられると、制御部31は、これに応じて抑制係数R(Fr)を、それより小さい値のm・R(Fr)に変更する。そのため、ニュートラル状態及びドライブ状態のそれぞれに応じて、制御の発散を抑えることができると共に、出力が低く抑えられることもない。その結果、シフトレバー16の位置の変更に対しても、より適正な振動制御を行うことができる。
【0062】
次に、本発明の参考例2について説明する。
参考例2においては、抑制係数R(Fr)を適応制御前に予め決定しておくのではなく、実際に適応制御が行われている過程で、全周波数帯域にわたって順次決定するようにしたものである。参考例2においては、適応制御部50は、図9に示すように、図15に示すDXHS-LMSを用いた適応制御系に対して、さらに安定状態判定部51、抑制係数決定部52、振幅係数判定部53及び抑制係数更新部54を設けている。
【0063】
安定状態判定部51は、図9に示すように、誤差信号eに基づいて制御が安定状態にあるか否かを判定するものである。抑制係数決定部52は、制御が安定状態にあるときの更新された振幅係数Am(Fr)を抑制係数R(Fr)として決定するもので、すでに抑制係数R(Fr)が決定されているときはそのままの状態を維持するものである。振幅係数判定部53は、更新された振幅係数Am(Fr)が、抑制係数R(Fr)に対する所定の「抑制範囲」であるR(Fr)(1±α)内にあるか否かを判定し、「抑制範囲」内にないときは振幅係数Am(Fr)値として抑制係数R(Fr)値に置き換えて適応フィルタ42に出力し、「抑制範囲」内にあるときはそのまま抑制係数更新部54に出力する。抑制係数更新部54は、振幅係数判定部53からの振幅係数Am(Fr)についてこれを新たな抑制係数R(Fr)値に更新する。抑制係数更新部54は、振幅係数Am(Fr)に適応フィルタ42に出力すると共に、この更新した抑制係数R(Fr)を振幅係数判定部53に戻して新たな抑制係数R(Fr)とさせる。また、制御部31のROMには、図10に示す「振動制御IIプログラム」が格納されている。
【0064】
つぎに、上記参考例2の動作について説明する。
制御部31は、図10に示す「振動制御IIプログラム」の実行をステップ90において開始し、各種変数の初期化すると共に、制御周波数Frでの抑制フラグRFG(Fr)を「0」に設定をする(ステップ91)。その後、回転数センサ12からの入力パルス信号に基づいて周波数判定部41において制御周波数Frが算出されると共に、制御周波数の正弦波信号である入力信号xが出力される(ステップ92,93)。つぎに、制御部31は、入力された誤差信号eを処理する(ステップ94)。この誤差信号eと、制御対象系の予め規定された推定伝達関数により入力信号を処理して得られた処理信号gとを用いて、デジタルフィルタ45により振幅係数Am(Fr)及び位相係数φ(Fr)の更新処理が行われ、更新された振幅係数Am(Fr)及び位相係数φ(Fr)が得られる(ステップ95)。
【0065】
つぎに、制御部31は、抑制フラグRFG(Fr)が「1」か否かを判定する(ステップ96)。現時点ではRFG(Fr)=0なので、「NO」との判定の基にプログラムはステップ97に移される。つぎに、安定状態判定部51で制御が安定状態にあるか否かが判定される(ステップ97)。安定状態にないときは、更新された振幅係数Am(Fr)データは抑制係数決定部52及び振幅係数判定部53をそのまま通過して適応フィルタ42に送られ、適応フィルタ42において振幅及び位相補償された出力信号yが生成される(ステップ98)。
【0066】
制御が安定状態になると、抑制係数決定部52において更新された振幅係数Am(Fr)値が抑制係数R(Fr)として決定され、さらに抑制係数R(Fr)が決定されたことに応じて抑制フラグRFG(Fr)=1に設定される(ステップ99,100)。この抑制係数R(Fr)にされた振幅係数Am(Fr)に基づいて適応フィルタ42において振幅及び位相補償された出力信号が生成される(ステップ98)。
【0067】
同様に、入力パルス信号が処理され、制御周波数Frが算出され、誤差信号が処理されて、デジタルフィルタにおいてフィルタ係数が更新された後に、制御周波数Frにおいて抑制フラグRFG(Fr)が「1」に設定されているか否かが判定される(ステップ96)。RFG(Fr)=1になっているときは、プログラムはステップ101に移され、抑制係数R(Fr)の許容範囲である上限値R+(Fr)及び下限値R−(Fr)が算出され、制御部31のRAMに記憶される(ステップ101,102)。つぎに、振幅係数判定部53において、振幅係数Am(Fr)が、上限値R+(Fr)及び下限値R−(Fr)の間の範囲(以下、「抑制範囲」と記す)内にあるか否かが判定される(ステップ103)。振幅係数Am(Fr)が、「抑制範囲」内の値であるときは、プログラムはステップ104に移され、さらに制御が安定状態であるか否かが判定される(ステップ104)。制御が安定状態にあるときは、抑制係数更新部54において、この振幅係数Am(Fr)の値によって抑制係数R(Fr)が置き換えられ、さらに振幅整数判定部53における抑制係数R(Fr)が、抑制係数更新部54で置き換えられた抑制係数R(Fr)の値に置き換えられる(ステップ105)。その後、振幅係数Am(Fr)は適応フィルタ42に出力され、適応フィルタ42においては、更新されたフィルタ係数によって、入力信号xの振幅補償及び位相補償が行われ、出力信号yとして出力される(ステップ68)。
【0068】
一方、振幅係数Am(Fr)が上記「抑制範囲」内の値であっても制御が不安定状態にあるときは、振幅係数Am(Fr)はそのまま適応フィルタ42に出力される。適応フィルタ42においては、更新されたフィルタ係数によって、入力信号xの振幅補償及び位相補償が行われ、出力信号yとして出力される(ステップ98)。
【0069】
そして、制御系の経時変化等により振幅係数Am(Fr)が「抑制範囲」から外れると、ステップ103にて「NO」との判定の基にプログラムはステップ106に移され、振幅係数判定部53において振幅係数Am(Fr)の値が抑制係数R(Fr)に更新され、適応フィルタ42に出力される。適応フィルタ42においては、更新されたフィルタ係数によって、入力信号xの振幅補償及び位相補償が行われ、出力信号yとして出力される(ステップ98)。
【0070】
以上に説明したように、参考例2においては、適応制御の実行中に、安定状態での適正な振幅係数Am(Fr)値に基づいて抑制係数R(Fr)が、全制御周波数帯域において所定周波数毎に定められ、この抑制係数R(Fr)に基づいてその前後の抑制係数の±αを含む範囲が「抑制範囲」として定められる。そして、デジタルフィルタ45により更新される振幅係数Am(Fr)が、この「抑制範囲」内に含まれるか否かが判定される。更新された振幅係数Am(Fr)が「抑制範囲」内にあるときは、振幅係数Am(Fr)の値がそのままフィルタ係数として使用され、入力信号に対して適応フィルタ42により振幅及び位相補償が行われるので、発散等の不具合発生のおそれはない。また、更新された振幅係数Am(Fr)が「抑制範囲」を外れたときは、振幅係数Am(Fr)の値として安定した適応制御が行われる保証がされている抑制係数R(Fr)が使用され、入力信号に対して適応フィルタ42により振幅及び位相補償が行われるので、やはり発散等の不具合発生のおそれはない。
【0071】
さらに、参考例2においては、単に振幅係数Am(Fr)が抑制係数R(Fr)を中心値とした「抑制範囲」内にあるか否かによって振幅係数Am(Fr)の切替を行う制御になっているため、制御構成が簡易であると共に制御を短時間で行うことができ、さらに、振幅係数Am(Fr)の切替制御において、オーバーシュートの発生を防止することができる。その結果、参考例2においても、制御対象における経時変化等により、適応制御自体が安定して行われる範囲を超えた場合でも、制御対象系において生じる発散や過電流等の不具合を、簡易な構成により短時間にかつ安価に抑制することができる。
【0072】
また、参考例2においては、抑制係数R(Fr)が、振幅係数Am(Fr)が上記「抑制範囲」内にあってかつ制御が安定な状態のときの適正な振幅係数値によって更新しつづけられることにより、常に適正な値が得られる。そのため、この抑制係数R(Fr)に基づく振動制御も安定して行われ、発振等の不具合を確実に抑えることができる。
【0073】
つぎに、参考例2の変形例について説明する。
上記参考例2においては、振幅係数Am(Fr)が上記「抑制範囲」内にあってかつ制御が安定な状態のときの適正な振幅係数値によって抑制係数R(Fr)を更新することが行われているが、変形例として、これについては省略したものである。すなわち、振幅係数Am(Fr)が上記「抑制範囲」内にあるときは、制御の安定状態か否かを判断することなく、更新された振幅係数Am(Fr)を適応フィルタ42にそのまま入力することのみを行うようにしてもよい。この場合は、制御部31において、図9に示す抑制係数更新部54を削除し、振幅係数判定部53は、振幅係数Am(Fr)が「抑制範囲」内にあるときは、更新された振幅係数Am(Fr)をそのまま適応フィルタ42に出力すればよい。また、図10に示す「振動制御IIプログラム」において、ステップ104,105を廃止すればよい。これによっても、抑制係数の安定性は若干劣るが、出力信号の発振等を抑える効果は得られる。また、この場合、制御構成が簡略化される為、制御コストを低減することができる。
【0074】
また、参考例2においても、上記第1実施形態を同様に適用して第2実施形態とすることができる。制御対象系において運転状態が変更されたときに、これに応じて抑制係数R(Fr)を変更させることである。第2実施形態においても、具体的には、シフトレバー位置を検出するシフト位置検出センサを設けて、それを制御部31の入力に接続させる。さらに、制御部31により実行される振動制御プログラムの一部を図11に示すように変更した。
【0075】
これにより、シフトレバーがニュートラルからドライブ側に切り替えられると(ステップ107)、これに応じて抑制係数R(Fr)が、m・R(Fr)に変更されるようになっている(ステップ108)。さらに出力信号形成後には、抑制係数R(Fr)はもとの値に戻される(ステップ109)。かかる構成によっても、上記第1実施形態と同様に、振動制御の実行中に、運転状態が変更されても、それに応じて適正に制御の発散等を抑えられると共に、出力が低く抑えられることもなく、より適正な振動制御を行うことができる。
【0076】
なお、上記各実施形態においては、本発明に係るDXHS LMSによる適応制御を用いた振動除去システムが、自動車のエンジン振動に伴う制御対象系の振動を除去するため用いられているが、本発明に係る振動除去システムをその他の振動発生系における周期性振動や騒音の除去にも用いることができる。
【0077】
【発明の効果】
上記請求項1の発明によれば、予め決められた適正な振幅係数の値である抑制係数とデジタルフィルタにより更新された振幅係数の値との大小が比較され、出力信号の発振の可能性がある振幅係数が抑制係数より大きくなるときに、振幅係数として安定した適応制御が行われることが保証されている抑制係数の値が使用されるため、出力信号の発散等の不具合を確実に抑制でき、オーバーシュートの発生も防止できる。その結果、請求項1の発明においては、制御対象における経時変化、温度等の環境変化等により、制御対象系の予め定めた推定伝達関数データと実際の伝達関数との間に差が生じ、適応制御自体が安定して行われる範囲を超えた場合でも、制御対象系において生じる発散や過電流等の不具合を、簡易な構成により短時間にかつ安価に抑制することができる。さらに、制御対象系の運転状態の変更に応じて、抑制係数の値を変更することにより、運転状態の変更に応じて振動抑制制御を適正に行うことができる。
【0078】
また、抑制係数としては、適応制御が行われている状態での適正な振幅係数値を中心としてその±5%の範囲内で決められた値とすることができる。また、適正な抑制係数として、非制御時において制御対象系での誤差測定点で得られた振動レベルを、制御対象系の予め規定された推定伝達関数のゲインで割った値に基づいて決められた値でもよい(請求項2、3の発明の効果)。
【0079】
また、上記請求項4の発明によれば、適応制御の実行中に、安定状態で規定された抑制係数について、さらにその前後を含む所定範囲が抑制範囲として定められ、この抑制範囲によって振幅係数の値が判定される。振幅係数が、制御において発振等が起こり易い範囲として決められた抑制範囲外となったときに、振幅係数として安定した適応制御が行われることが保証されている抑制係数の値が使用されるため、発散等の不具合の発生を抑えることができ、オーバーシュートの発生も防止できる。その結果、請求項4の発明においては、制御対象における経時変化等により、適応制御自体が安定して行われる範囲を超えた場合でも、制御対象系において生じる発散や過電流等の不具合を、簡易な構成により短時間にかつ安価に抑制することができる。さらに、制御対象系の運転状態の変更に応じて、抑制係数の値を変更することにより、運転状態の変更に応じて振動抑制制御を適正に行うことができる。
【0080】
なお、上記抑制範囲の適正な値として、抑制係数値を中心としてその±5%の範囲とすることができる(請求項5の発明の効果)。また、更新された振幅係数が抑制範囲内にあり、かつ適応制御が安定状態で行われているとき、抑制係数を振幅係数の値によって更新しつづけることにより、常に適正な抑制係数が得られる(請求項6の発明の効果)。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の参考例1であるDXHS LMSによる適応制御法を用いた能動的振動除去システムを概略的に示す模式図である。
【図2】同振動除去システムを適用した車両に使用されるエンジンマウントの一例を示す一部断面図である。
【図3】同振動除去システムの適応制御系を示すブロック図である。
【図4】図1の制御部により実行される「振動制御Iプログラム」のフローチャートである。
【図5】第1実施形態にかかる「振動制御Iプログラム」の変更部分を示すフローチャートの一部である。
【図6】参考例1の具体的実施例において、制御対象系の位相の推定値と実際の位相値との位相差Δφが0°のときのエラー及び出力特性と、フィルタ係数の特性を示すグラフである。
【図7】同具体的実施例において、位相差Δφが90°のときのエラー及び出力特性と、フィルタ係数の特性を示すグラフである。
【図8】同具体的実施例において、位相差Δφが120°のときのエラー及び出力特性と、フィルタ係数の特性を示すグラフである。
【図9】参考例2に係る適応制御系を示すブロック図である。
【図10】参考例2において制御部により実行される「振動制御IIプログラム」のフローチャートである。
【図11】第2実施形態にかかる「振動制御IIプログラム」の変更部分を示すフローチャートの一部である。
【図12】従来例において、位相差Δφが90°のときのエラー及び出力特性と、フィルタ係数の特性を示すグラフである。
【図13】従来例において、位相差Δφが120°のときのエラー及び出力特性と、フィルタ係数の特性を示すグラフである。
【図14】従来例である適応制御系(Filtered-X LMS)を示すブロック図である。
【図15】従来例である適応制御系(DXHS LMS)を示すブロック図である。
【符号の説明】
10…車体、11…エンジン、12…回転数センサ、14…ピックアップ加速度センサ、17…シフト位置検出センサ、20…エンジンマウント、23…アクチュエータ、30…電気制御装置、31…制御部、35…振動発生源、36…伝達系、40…適応制御部、42…適応フィルタW、43…制御対象系伝達経路(伝達関数G)、44…推定伝達関数G^、45…デジタルフィルタ(DXHS LMS)、47…振幅係数判定出力部、50…適応制御部、51…安定状態判定部、52…抑制係数決定部、53…振幅係数判定部、54…抑制係数更新部。
Claims (6)
- 振動発生源からの周期性の入力パルス信号に応じて周波数判定部により該入力パルス信号の周波数である制御周波数を求めると共に該制御周波数の正弦波である入力信号を形成し、該入力信号に対して適応フィルタの振幅係数及び位相係数の関数であるフィルタ係数により振幅及び位相補償を行い、振幅及び位相補償された出力信号が制御対象系の伝達経路を通過した後、該伝達経路通過後の出力と前記振動発生源からの外力を加算し、該加算の結果である誤差と前記制御対象系の予め規定された推定伝達関数により前記入力信号を振幅及び位相処理した処理信号とに基づいてデジタルフィルタにより前記振幅係数及び位相係数の逐次更新を行い、前記伝達経路通過後の出力によって前記外力を抑制するようにした遅延調和シンセサイザ最小平均自乗フィルタによる適応制御法を用いた能動的振動制御方法において、
予め、前記振幅係数の適正な値を抑制係数として全制御周波数帯域にわたって所定周波数毎に定めておき、前記デジタルフィルタによって更新された振幅係数が前記抑制係数より小さいときは、該振幅係数をそのまま使用し、前記更新された振幅係数が該抑制係数より大きいときは、該振幅係数として該抑制係数の値を使用するようにし、
前記制御対象系の運転状態の変更に応じて、前記抑制係数の値を変更するようにしたことを特徴とする適応制御法を用いた能動的振動制御方法。 - 前記抑制係数として、適応制御が行われている状態での適正な振幅係数値を中心とした該振幅係数の±5%の範囲内で決められた値とすることを特徴とする前記請求項1に記載の適応制御法を用いた能動的振動制御方法。
- 前記抑制係数が、非制御時において制御対象系での誤差測定点で得られた振動レベルを、前記制御対象系の予め規定された推定伝達関数のゲインで割った値に基づいて決められることを特徴とする前記請求項1に記載の適応制御法を用いた能動的振動制御方法。
- 振動発生源からの周期性の入力パルス信号に応じて周波数判定部により該入力パルス信号の周波数である制御周波数を求めると共に該制御周波数の正弦波である入力信号を形成し、該入力信号に対して適応フィルタの振幅係数及び位相係数の関数であるフィルタ係数により振幅及び位相補償を行い、振幅及び位相補償された出力信号が制御対象系の伝達経路を通過した後、該伝達経路通過後の出力と前記振動発生源からの外力を加算し、該加算の結果である誤差と前記制御対象系の予め規定された推定伝達関数により前記入力信号を振幅及び位相処理した処理信号とに基づいてデジタルフィルタにより前記振幅係数及び位相係数の逐次更新を行い、前記伝達経路通過後の出力によって前記外力を抑制するようにした遅延調和シンセサイザ最小平均自乗フィルタによる適応制御法を用いた能動的振動制御方法において、
全制御周波数帯域にわたって所定周波数毎に、制御対象系が安定状態で適応制御が行われているときの振幅係数を求めて、該振幅係数の値を抑制係数として規定し、さらに該抑制係数の前後を含む所定範囲を抑制範囲として定めておき、その後の適応制御の際に、前記更新された振幅係数が前記抑制範囲内にあるときは、該振幅係数をそのまま使用し、前記更新された振幅係数が該抑制範囲を外れたときは、該振幅係数として前記抑制係数の値を使用するようにし、
前記制御対象系の運転状態の変更に応じて、前記抑制係数の値を変更するようにしたことを特徴とする適応制御法を用いた能動的振動制御方法。 - 前記抑制範囲として、前記抑制係数値を中心とした該抑制係数の±5%の範囲としたことを特徴とする前記請求項4に記載の適応制御法を用いた能動的振動制御方法。
- 前記更新された振幅係数が前記抑制範囲内にあり、かつ適応制御が安定状態で行われているときに、該振幅係数の値によって前記抑制係数を更新するようにしたことを特徴とする前記請求項4又は5に記載の適応制御法を用いた能動的振動制御方法。
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