JP3836640B2 - 耐摩耗性に優れた硬質皮膜および硬質皮膜被覆部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フライス加工,切削加工,穿孔加工等の加工に使用される切削工具の表面被覆材、或は金型,軸受け,ダイス,ロールなど高硬度が要求される耐摩耗部材の表面被覆材、もしくは成形機用スクリューやシリンダ等の耐熱・耐食部材の表面被覆材として有用な硬質皮膜に関し、更には該硬質皮膜を被覆することによって優れた耐摩耗性を発揮する硬質皮膜被覆部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高速度工具や超硬合金工具など高い耐摩耗性が要求される切削工具は、工具の基材表面にTiNやTiCN等の硬質皮膜を形成することにより耐摩耗性の向上が図られている。
【0003】
またこれらの皮膜より一層優れた特性を示す皮膜材料として、Tiと、Ti以外の4a,5a,6a族金属元素の複合(炭)窒化物が提案されている(例えば、特開昭60−248879号,特開平4−221057号,特開平7−173608号)。具体的には、(Ti,M)(N,C)[但し、MはTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W]で示される硬質皮膜であり、これらの皮膜は耐摩耗性の上では非常に優れた特性を発揮するが、TiNやTiCNに比べると密着性が不十分であり、使用中に皮膜が剥離するという問題があった。
【0004】
そこで、例えば特開平10−158861号公報に示されている様に、TiNを中間層に用いることにより密着性の改善が試みられているが、十分な密着性は得られていなかった。特に、切削工具に使用した場合には、密着性が不十分であることに加えて、折角、高硬度の(Ti,M)(N,C)膜をコーティングしているにもかかわらず、中間層のTiNの硬度が高くないために耐摩耗性が劣化するという問題があった。即ち、上記(Ti,M)(N,C)を切削工具用の耐摩耗コーティング材料に用いた場合は、耐摩耗特性で優れた性能を発揮することで最近注目されている(Ti,Al)N膜と比較すると、S50C等の炭素鋼に代表される低硬度材の切削においては同程度の耐摩耗特性を示すものの、SKD61焼入れ鋼等に代表される高硬度材の切削に至っては、上記(Ti,Al)N膜に比べ耐摩耗特性が劣ることが指摘されていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に着目してなされたものであって、耐摩耗性及び密着性に優れた硬質皮膜と、上記硬質皮膜が形成された硬質皮膜被覆部材を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成した本発明とは、基材表面に形成される硬質皮膜であって、
基材側に形成される第1層の組成は、
(AlxTi1−x)(NyC1−y)
但し0.25≦x≦0.75,0.6≦y≦1
であると共に、0.01〜10μmの厚さで形成されており、
表面側に積層された第2層の組成は、
(VuTi1−u)(NvC1−v)
但し0.25≦u≦0.75,0.6≦u≦1
であると共に、0.4〜10μmの厚さで積層されており、
且つ前記第1層と第2層の間に、4a,5a,6a族の金属からなる中間層が500nm以下の厚みで形成されたものであることを要旨とするものである。この硬質皮膜においては、中間層の厚みは5nm以上であることが好ましい。
【0007】
上記課題は、基材表面に形成される硬質皮膜であって、
基材側に形成される第1層の組成は、
(AlxTi1−x)(NyC1−y)
但し0.25≦x≦0.75,0.6≦y≦1
であると共に、0.01〜10μmの厚さで形成されており、
表面側に積層された第2層の組成は、
(VuTi1−u)(NvC1−v)
但し0.25≦u≦0.75,0.6≦v≦1
であると共に、0.4〜10μmの厚さで積層されており、
且つ前記第1層と第2層の間に、VpTiq(但し、0≦p≦1,0≦q≦1,p+q=1)からなる中間層が500nm以下の厚みで形成されたものであるような構成を採用することによっても達成される。こうした構成の硬質皮膜においても、中間層の厚みは5nm以上であることが好ましい。
【0008】
皮膜の厚さは第1層と第2層の合計で0.8μm以上であることが望ましく、本発明に係る上記硬質皮膜が形成されてなる硬質皮膜被覆部材は、優れた耐摩耗性を発揮する。尚、上記硬質皮膜を切削工具上に形成する場合には、皮膜厚さを20μm以下とすることが望ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、耐摩耗性及び密着性に優れた硬質皮膜の開発を目的として、鋭意研究を重ねた。その結果、基材表面に形成される硬質皮膜において、
基材側に形成される第1層として、
(AlxTi1−x)(NyC1−y)
但し0.25≦x≦0.75,0.6≦y≦1
で示される組成を有する皮膜を形成すると共に、この第1層の厚さを0.01〜10μmとし、その上の第2層として、
(VuTi1−u)(NvC1−v)
但し0.25≦u≦0.75,0.6≦u≦1
で示される組成を有する皮膜を形成すると共に、この第2層の厚さを0.4〜10μmのとし、
且つ前記第1層と第2層の間に、(1)4a,5a,6a族の金属からなる中間層が500nm以下の厚みで形成されたもの、或は(2)VpTiq(但し、0≦p≦1,0≦q≦1,p+q=1)からなる中間層が500nm以下の厚みで形成されたもの、等とすれば非常に優れた硬質皮膜を基材上に密着性良く形成できることを見出し、本発明に想到した。
【0010】
本発明に係る硬質皮膜が、優れた密着性を発揮する理由は、(AlxTi1-x)(NyC1-y)からなる層を、基材と(VuTi1-u)(NvC1-v)膜の間に形成することにより応力が緩和されるからであると考えられる。
【0011】
本発明において、基材側に形成される第1層の組成は、
(AlxTi1-x)(NyC1-y)
但し0.25≦x≦0.75,0.6≦y≦1
とすることが必要であり、xの範囲を0.25以上0.75以下に限定した理由は、以下の通りである。TiCNの結晶構造は、金属元素であるTi原子と、非金属元素であるC原子またはN原子とが3次元的に交互に並んだ岩塩(NaCl)型構造をとっている。このTiCNにVを添加していくと、Vは岩塩型構造を組んでいるTiCNのTiのサイトに置換型で入ると考えられるが、VはTiよりも原子半径が小さいために、Vの添加量が増加すると共に(V,Ti)(N,C)の格子定数は小さくなる。一方、(Al,Ti)(N,C)も岩塩型構造をとっており、Alの添加量が増えると、(Al,Ti)(N,C)の格子定数は小さくなる。後述する様な耐摩耗性で優れた性能を示す(VuTi1-u)(N,C)の組成範囲(0.25≦u≦0.75)における(V,Ti)(N,C)の格子定数と、xの範囲が0.25以上0.75以下の(AlxTi1-x)(N,C)の格子定数とが近い値を示すため、同じ岩塩型構造をとる(V,Ti)(N,C)と(Al,Ti)(N,C)の格子のミスマッチが小さくなり、このため(V,Ti)(N,C)の応力が緩和され優れた密着性を示すと考えられる。更にxの範囲が0.25以上0.75以下では、図1に示す様に、(Al,Ti)(N,C)の硬度も最も高くなり、優れた耐摩耗性を示す。また、xの値が0.75を超えると、(AlxTi1-x)(NyC1-y)の結晶構造が立方晶(岩塩型結晶構造)から第2層の(V,Ti)(N,C)と異なる六方晶に変化して、十分な密着力が得られなくなると共に、硬度も大幅に低下してしまう。なお、より高い密着性及び硬度を得る上で、xの範囲は0.40≦x≦0.70が望ましく、0.56≦x≦0.65であればより望ましい。
【0012】
またyの値は、0.6未満では、(AlxTi1-x)(NyC1-y)膜の靭性が低下し、十分な密着力が得られないので0.6≦y≦1とすることが必要である。
【0013】
本発明に係る硬質皮膜において、表面側に積層される第2層の組成は、
(VuTi1-u)(NvC1-v)
但し0.25≦u≦0.75,0.6≦v≦1
であることが必要である。その理由は、uの値が、0.25以上0.75以下の範囲において、(V,Ti)(N,C)膜の硬度が高くなり、(V,Ti)(N,C)膜を表面側に形成することによる優れた特性が発揮できるからであり、またVを添加することによる潤滑性と耐溶着性の向上効果が十分に得られるからである。なお、uの値は、高い硬度を得る上で0.30≦u≦0.70が望ましく、0.40≦u≦0.60がより望ましい。
【0014】
またvの値が0.6未満では、(V,Ti)(N,C)膜の靭性が低下し、十分な密着力が得られなくなるので、0.6≦v≦1であることが必要である。
【0015】
本発明において、上記第1層と第2層の中間層として4a,5a,6a族の金属を用いることにより皮膜が優れた密着性を発揮する理由は、これらの金属は、▲1▼融点が1600℃以上と高いからであり、低融点の金属を用いると中間層形成時に溶融塊ができて平滑に薄膜を形成することができないが、上記の高融点金属を蒸発源として用いて中間層を形成すれば溶融塊が発生し難く平滑で均一な膜を得ることができること、▲2▼活性金属であり、(Al,Ti)Nや(Ti,V)(N,C)との親和性が高いこと、▲3▼(Al,Ti)Nや(Ti,V)(N,C)に比べ軟らかいために、これらの膜の応力を緩和する効果があること等の理由により、より強い密着力が得られるからである。
【0016】
また、上記第1層と第2層の中間層としてTiV合金を用いることにより、硬質皮膜が優れた密着性を示すのは、VpTiqからなる合金層を、基材と(VuTi1−u)(NvC1−v)膜の間に形成することで、(1)応力が緩和されること、(2)第1層のTiV合金が第2層の(V,Ti)(N,C)膜の生成核となり親和性を増すこと、(3)TiV合金と(V,Ti)(C,N)の界面に拡散層ができる等の理由から、より強い密着性が得られるからであると考えられる。
【0017】
TiV合金層の組成比については、第2層の(V,Ti)(N,C)膜の金属元素の組成比と近いものが密着性向上の観点から望ましいので、VpTiqで0.25≦p≦0.75とすることが望ましく(但し、p+q=1)、0.30≦p≦0.70であればより望ましく、0.40≦p≦0.60であれば更に望ましい。
【0018】
但し、本発明に係る中間層は表面側の第2層に比べると軟らかく、中間層が厚過ぎると、切削等による摩擦抵抗に耐え切れず剥離が発生する場合があるので、中間層は500nm以下とすることが望ましい。
【0019】
本発明に係る硬質皮膜の厚さは、薄過ぎると耐摩耗性が不十分となるので第1層と第2層の合計の厚さで0.8μm以上が望ましく、一方厚過ぎると膜自体にクラックが入り易くなって強度が不十分となるので第1層と第2層の合計の厚さは50μm以下とすることが望ましい。尚、第1層の厚みは、十分な密着性を得るためには0.01μm以上が望ましく、更に十分な耐摩耗性を発揮させるには0.4μm以上であることが望ましい。一方、第2層の厚みは、十分な耐摩耗性を得る上で、0.4μm以上とすることが望ましい。
【0020】
また、本発明に係る硬質皮膜を形成する方法としては、アークイオンプレーティング法を採用することが推奨される。その理由は、イオン化効率を高くすることや反応性を高めること、又は基板にバイアス電圧を印加することなどによって一層密着性の優れた皮膜を得ることができるからである。またカソードとして目的とする組成比の合金ターゲットを用いれば、皮膜組成のコントロールが容易であり推奨される。
【0021】
尚、本発明の硬質皮膜は切削工具の表面に形成することにより非常に優れた効果を発揮するが、皮膜が厚過ぎると切れ味が低下しチッピング等が発生するので、切削工具に適用する場合には、皮膜の厚さを20μm以下とすることが望ましい。
【0022】
また、本発明は硬質皮膜を被覆する基材の材質を限定するものではないが、基材表面に密着性よく被覆して優れた耐摩耗性を発揮させるためには、超硬合金,高速度工具鋼,ダイス鋼,サーメットまたはセラミック等の硬質物質が適している。
【0023】
以下実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではなく、前・後記の趣旨に徴して適宜変更することは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0024】
【実施例】
実施例1
超硬チップをアークイオンプレーティング装置内に置き、真空排気を行い、ヒータによって炉内雰囲気温度を約400℃で60分間保持した。その後、ワークに−150Vのバイアス電圧を印加すると共に、炉内に高純度N2/CH4混合ガスを7.0×10-3torrとなるまで導入し、種々の組成を有するTiAlカソードを用いてアーク放電を行い、表1に示す組成の第1層を成膜した。その後、種々の組成を有するTiVカソードを用いてアーク放電を行い、表1に示す組成の第2層を成膜した。尚、一部の例では、上記第1層と第2層の間に4a,5a,6a族の金属層またはTiV合金層からなる中間層を形成した。これらの皮膜の組成は、電子プローブX線マイクロアナリシス及びオージェ電子分光法により確認した。
【0025】
得られた試験片を用いてスクラッチテストを行い、夫々の皮膜の密着性を評価した。具体的には膜損傷時のAE信号の変化とテスト後の光学顕微鏡観察によって皮膜が損傷した荷重を密着力とした。結果は表1に併記する。
【0026】
【表1】
【0027】
本発明例であるNo.1〜14では臨界荷重が高く、超硬チップ上に形成された硬質皮膜の密着性が非常に優れている。
【0028】
No.15,16は第2層のVの量が少な過ぎる場合と多過ぎる場合の比較例であり、No.17,18は第2層のAl量が少な過ぎる場合と多過ぎる場合の比較例であり、更にNo.19,20は膜厚が厚過ぎる場合と薄過ぎる場合の比較例である。No.17及びNo.18はAl量が本発明範囲をはずれていることから応力緩和が十分ではなく、またNo.19は膜厚が厚過ぎるために膜にクラックが生じて剥離に至っており、これらの比較例はいずれも本発明例に比べ密着性が乏しいことが分かる。
【0029】
No.21〜25は第1層と第2層の間に中間層を形成した場合の本発明例であり、臨界荷重がより一層高くなっている。尚、中間層が厚過ぎる場合の比較例であるNo.26では、中間層を形成していない場合よりも臨界荷重は低くなった。
【0030】
No.27,28は従来例であり、No.27では第1層が形成されておらず、またNo.28では第1層としてTiNが形成されている従来例であるが、いずれも本発明例に比べて硬質皮膜の密着性が大幅に劣ることが分かる。
【0031】
実施例2
耐摩耗性の評価を目的として、ボールオンディスク試験を実施した。ボールとしては、鏡面仕上げした直径10mmの超硬球の表面に実施例1と同様の方法により表2に示す組成及び層を有する皮膜を形成した超硬球を用い、S55C製のディスクに対し、荷重10N、摺動速度1m/sec、温度500℃、摺動距離500mの条件で摺動試験を行い、摩耗量と摩擦係数を測定した。なお摩耗量は超硬球に生じた摺動痕の幅をとった。結果は表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
No.1〜14及びNo.21〜25は本発明例であり、No.15〜20及びNo.26は比較例、No.27〜29は従来例である。本発明例は比較例及び従来例に対し、摩耗量が非常に小さいことが分かる。これは本発明に係る硬質皮膜の密着性が優れるためであると考えられる。
【0034】
実施例3
超硬合金製ボールエンドミル(径5R)に対し、実施例1と同様の方法により表3に組成及び膜厚を示す硬質皮膜を形成し、切削試験を行った。切削試験に用いた被削材はS55Cであり、切削速度は98m/min、送りは1刃あたり0.05mm、切り込み量はピックフィード0.5mm、軸方向切り込みは4.0mmで、エアブローしながらダウンカットにて切削を行い、切削長50mを加工した後の先端部と境界部の摩耗量を測定した。結果は表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
No.1〜11及びNo.18〜22は本発明例であり、No.12〜17及びNo.23は比較例、No.24〜26は従来例である。本発明例は、先端部と境界部のいずれにおいても比較例及び従来例と比べて摩耗量が非常に小さく、優れた耐摩耗性を発揮することが分かる。
【0037】
実施例4
実施例3と同じ超硬合金製ボールエンドミル(径5R)に対し、実施例1と同様の方法により表4に組成及び膜厚を示す硬質皮膜を形成し、SKD61(硬さ:HRC52)を被削材として切削試験を行った。切削試験における切削速度は308m/min、送りは1刃あたり0.05mm、切り込み量はピックフィード0.5mm、軸方向切り込みは4.0mmで、エアブローしながらダウンカットにて切削を行い、切削長80mを加工した後の先端部と境界部の摩耗量を測定した。結果は表4に示す。
【0038】
【表4】
【0039】
No.1〜4は本発明例であり、No.5〜6は従来例である。本発明例は、(Al,Ti)Nからなる第1層の上に(V,Ti)Nを形成することで、SKD61の様な硬い被削材に対しても優れた性能を示すことが分かる。
【0040】
実施例5
高速度鋼製JIS標準ストレートドリル(外径φ6.0mm)に対し、実施例1と同様の方法により表5に示す硬質皮膜を形成し、切削試験を行った。被削材としてはS50Cを用い、切削速度30m/min、送り0.18mm/rev.、切削油はエマルションという切削条件にて穴深さ16mmの貫通穴を穿孔し、寿命までの穴明け数を調べた。各皮膜につき3本の切削試験を行い、穴明け数の平均を算出した。結果は表5に示す。
【0041】
【表5】
【0042】
No.1〜11及びNo.17〜21は本発明例であり、No.12〜16及びNo.22は比較例、No.23〜26は従来例である。本発明例は、比較例及び従来例と比べて大幅に寿命が改善されていることが分かる。これは、本発明に係る皮膜を形成したドリルでは、耐摩耗性及び密着性が非常に優れているからであると考えられる。
【0043】
実施例6
炭窒化チタン基サーメット製フライス加工用チップ(SDKN42,JIS P10)に対し、実施例1と同様の方法により表6に示す硬質皮膜を形成し、切削試験を行った。切削試験に用いた被削材はS50Cであり、切削速度は200m/min、送りは1刃あたり0.15mm、切り込み量は2.0mm、乾式にて切削を行い、切削長50mでの逃げ面摩耗幅を測定した。結果は表6に示す。
【0044】
【表6】
【0045】
No.1〜11及びNo.17〜21は本発明例であり、No.12〜17及びNo.22は比較例、No.23〜26は従来例である。本発明例は、比較例及び従来例と比べて逃げ面摩耗幅が非常に小さく、優れた耐摩耗性を発揮し、長寿命であることが分かる。
【0046】
実施例7
Al2O3−TiCセラミックス製の旋削加工用チップに対し、実施例1と同様の方法により表7に示す硬質皮膜を形成し、連続旋削加工での切削試験を行った。切削試験に用いた被削材はFCD45であり、切削速度は300m/min、送りは0.15mm/回転、切り込み量は0.3mm、乾式にて切削を行い、切削長50mでの逃げ面摩耗幅を測定した。結果は表7に示す。
【0047】
【表7】
【0048】
No.1〜11及びNo.18〜22は本発明例であり、No.12〜17及びNo.23は比較例、No.24〜26は従来例である。本発明例は、比較例及び従来例と比べて逃げ面摩耗幅が非常に小さく、優れた耐摩耗性を発揮し、長寿命であることが分かる。
【0049】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されているので、これまでに開発してきた硬質皮膜の優れた特性を生かしつつ、一段と優れた耐摩耗性及び密着性を発揮する硬質皮膜を提供することが可能となり、更には高い耐摩耗性が要求される部材に上記硬質皮膜を密着性良く被覆した硬質皮膜被覆部材が提供できることとなった。
【0050】
特に切削工具に使用する場合には、本発明皮膜の優れた密着性により、低硬度材の切削においては従来例よりも優れた耐摩耗性が得られると共に、高硬度材の切削においても十分な耐摩耗性が得られ、低硬度材から高硬度材まで切削が可能な切削工具が提供できることとなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】(Al,Ti)N膜と(V,Ti)N膜における組成と硬度の関係を示すグラフである。
Claims (7)
- 基材表面に形成される硬質皮膜であって、
基材側に形成される第1層の組成は、
(AlxTi1−x)(NyC1−y)
但し0.25≦x≦0.75,0.6≦y≦1
であると共に、0.01〜10μmの厚さで形成されており、
表面側に積層された第2層の組成は、
(VuTi1−u)(NvC1−v)
但し0.25≦u≦0.75,0.6≦v≦1
であると共に、0.4〜10μmの厚さで積層されており、
且つ前記第1層と第2層の間に、4a,5a,6a族の金属からなる中間層が500nm以下の厚みで形成されたものであることを特徴とする耐摩耗性に優れた硬質皮膜。 - 前記中間層の厚みが5nm以上である請求項1に記載の硬質皮膜。
- 基材表面に形成される硬質皮膜であって、
基材側に形成される第1層の組成は、
(AlxTi1−x)(NyC1−y)
但し0.25≦x≦0.75,0.6≦y≦1
であると共に、0.01〜10μmの厚さで形成されており、
表面側に積層された第2層の組成は、
(VuTi1−u)(NvC1−v)
但し0.25≦u≦0.75,0.6≦v≦1
であると共に、0.4〜10μmの厚さで積層されており、
且つ前記第1層と第2層の間に、VpTiq(但し、0≦p≦1,0≦q≦1,p+q=1)からなる中間層が500nm以下の厚みで形成されたものであることを特徴とする耐摩耗性に優れた硬質皮膜。 - 前記中間層の厚みが5nm以上である請求項3に記載の硬質皮膜。
- 皮膜の厚さが第1層と第2層の合計で0.8μm以上である請求項1〜4のいずれかに記載の硬質皮膜。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の硬質皮膜が形成されてなる硬質皮膜被覆部材。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の硬質皮膜が20μm以下の厚さで形成されてなる切削工具。
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