JP3834960B2 - D−アミノ酸の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は医薬品・化学品・化粧品分野で使用されるD−アミノ酸の製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、D−アミノ酸の製造法として、アシル化アミノ酸にD−アミノアシラーゼを作用させ、D−アミノ酸を得る方法が知られている。D−アミノアシラーゼの起源としては、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌(特開昭55−42534)、ストレプトミセス(Streptomyces)属細菌(特公昭53−36035)また、アルカリゲネス(Alcaligenes)属細菌(特開昭64−5488)等が知られている。
【0003】
しかしながら、今まで知られているD−アミノアシラーゼはいずれも活性が低い欠点を有する。また、活性を高めるために組み換え手法を用い、酵素活性を増幅して用いる方法も検討されてはいる(Protein Expression and purification第7巻、395頁 1996年)が、アルカリゲネス属細菌の酵素を大腸菌で発現させるものであり、異種遺伝子組み換えによる方法であることから、汎用性に乏しい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、D−アミノアシラーゼ活性の高い微生物、あるいはセルフクローニング容易な微生物を検索し、それらのD−アミノアシラーゼ活性の高い微生物を用いて工業的に実施するのに有利なD−アミノ酸の製造方法を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述の課題を解決すべくD−アミノ酸の製造法について鋭意研究を重ねた結果、新規に、アースロバクター(Arthrobacter )属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エルビニア(Erwinia)属、エセリシア(Escherichia)属、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属、ノカルディア(Nocardia)属、プロタミノバクター(Protaminobacter)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属またはキサントモナス(Xanthomonas)属に属する微生物が、D−アミノアシラーゼ活性を有し、アシルアミノ酸をD−アミノ酸に効率的に変換する能力を有することを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、アシルアミノ酸をD−アミノ酸に変換する能力を有し、アースロバクター(Arthrobacter)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エルビニア(Erwinia)属、エセリシア(Escherichia)属、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属、ノカルディア(Nocardia)属、プロタミノバクター(Protaminobacter)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属またはキサントモナス(Xanthomonas)属に属する微生物の培養物、該培養物より分離した微生物菌体もしくは該微生物菌体の処理物をアシルアミノ酸に作用させ、生成されるD−アミノ酸を採取することを特徴とするD−アミノ酸の製造方法に関するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明において用いられる微生物は、D−アミノアシラーゼ活性を有する、すなわちアシルアミノ酸をD−アミノ酸に変換する能力を有する、アースロバクター属、コリネバクテリウム属、エルビニア属、エセリシア属、フラボバクテリウム属、ノカルディア属、プロタミノバクター属、ロドコッカス属、及びキサントモナス属に属する微生物であればいずれのものでもよいが、具体的には、下記に示す微生物を例示することができる。
【0008】
Figure 0003834960
上記菌株の内、エセリシア コリ(Escherichia coli ) AJ2606(FERM BP-477)は、国際寄託当局:通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所)に昭和48年4月25日に寄託され、昭和58年4月25日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された受託番号FERM BP-477の菌株であり、フラボバクテリウム スワネンセ(Flavobacterium sewanense) AJ2476(FERM BP-476)は、同寄託当局に昭和48年4月25日に寄託され、昭和58年4月25日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された受託番号FERM BP-476の菌株であり、キサントモナス シトリ (Xanthomonas citri) AJ2785(FERM P-3396)は、同寄託当局に昭和51年1月27日に寄託された受託番号FERM P-3396の菌株である。
【0009】
また、当該微生物を親株として人工的に変異処理、あるいは、組み換えDNA操作を用いることにより、L−アミノアシラーゼ等の夾雑酵素活性を低減、もしくは失活させた改良株、もしくはD−アミノアシラーゼ活性を増強した改良株を用いることも可能である。特に、人工的変異処理により、夾雑酵素であるL−アミノアシラーゼを失活させた変異株の取得方法は、特開昭62-126969、または特開昭62-126976に詳細が記載されており、容易に取得することができることから、L−アミノアシラーゼを失活させた変異株を用いることにより、DL体のアシルアミノ酸から光学純度の高いD−アミノ酸製造が可能となる。
【0010】
このような微生物の菌体を得るには、当該微生物を適当な培地で培養増殖せしめるとよい。そのような培地には格別の制限はなく、通常の炭素源、窒素源、無機イオン、更に必要に応じアミノ酸、ビタミン等の有機栄養源を含む通常の培地でよい。炭素源としては、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトース、ラクト−ス等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、更には酢酸等の有機酸、エタノール等のアルコール類、グリセリン等も使用される。窒素源としてはアンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、ペプトン等のペプチド類等が使用される。無機イオンとしてはリン酸イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオン、マンガンイオン等が適宜添加される。また本発明の微生物にアミノ酸等の要求性物質がある場合には、その要求物質を添加しなければならない。
【0011】
微生物の培養条件にも格別の制限はなく、例えば、好気的条件下にて、pH5ないし8、温度25ないし40℃の範囲内でpH及び温度を適当に制御しつつ12〜48時間程度培養を行なえばよい。培養液のpHは、無機あるいは有機の酸、アルカリ性物質、更には尿素、炭酸カルシウム、アンモニアガスなどによって予め定められた値に調節すればよい。
【0012】
上記微生物をアシルアミノ酸に作用せしめる方法としては、かくして得られる微生物培養物をそのまま用いる方法、微生物培養物から遠心分離等により菌体を分離し、これをそのままもしくは洗浄した後、緩衝液、水等に再懸濁したものに、アシルアミノ酸を添加し反応させる方法等がある。また、微生物菌体の処理物としては、菌体破砕物、アセトン処理菌体、凍結乾燥菌体、あるいは、これらの菌体あるいは菌体処理物をポリアクリルアミドゲル法、カラギーナン法、アルギン酸法等の公知の方法で固定化した菌体を用いることができる。更に、微生物菌体処理物としては、菌体抽出物もしくはこれより公知の方法を組み合わせて精製取得したD−アミノアシラーゼ活性を有する酵素も使用できる。この場合、機械的磨砕菌体、超音波処理破砕菌体あるいはリゾチーム等で処理して得られた菌体処理物から、D−アミノアシラーゼ活性を有する画分を精製して用いれば良く、その精製法としては、通常の酵素を精製する方法、すなわち硫安分画、イオン交換クロマト分画、疎水クロマト分画、アフィニティークロマト分画等を挙げることができる。
【0013】
菌体または菌体処理物の使用量としては、通常の反応の場合において目的とする効果を発揮する量(有効量)であればよく、この有効量は当業者であれば簡単な予備実験により容易に求められるが、例えば、洗浄湿潤菌体の場合、反応液1リットル当たり10〜400gである。
【0014】
アシルアミノ酸はそのまま、あるいは、水に溶解し、または反応に影響を与えないような有機溶媒に溶解したり、界面活性剤等に分散させたりして、反応始めから一括にあるいは分割して添加して用いても良い。
【0015】
反応pHはpH3〜9、好ましくはpH5〜8、反応温度は10〜60℃好ましくは20〜40℃の範囲で、1〜120時間程度、撹拌下あるいは静置下で行う。基質の使用濃度は特に制限されないが、1%〜30%程度が好ましい。
【0016】
反応終了後、蓄積生成したD−アミノ酸は、反応液から、濃縮晶析、冷却晶析などの晶析方法により、晶析分離される。分離した粗D−アミノ酸は、再度溶解し、活性炭などで不純物淘汰後、再結精製される。
【0017】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
【実施例】
実施例1:新規D−アミノアシラーゼ活性する微生物によるD−フェニルアラニン(D-Phe)の生産
N-アセチル-D-フェニルアラニン(N-Ac-D-Phe)2g/L、酵母エキスS(日本製薬製)10g/L、ポリペプトン(日本製薬製) 10g/L、KH2PO4 1g/dL、K2HPO4 3g/L、MgSO4・7H20 0.5g/L、をKOHでpH7.0に調整し、寒天20g/Lを加えて120℃、15分間殺菌して、調製した平板培地に、あらかじめブイヨン寒天培地で30℃にて、24時間培養した、表1に示す微生物を接種し、24時間培養した。培養後、菌体をかき取り、集めた。
【0018】
この菌体を、150mM(31.1mg/L)のN-Ac-D-Pheを含む、0.1Mのリン酸緩衝液中(pH7.0)に、湿重量で5%(w/v)になるように添加し、30℃で42時間反応を行わせた。反応液中の生成D-Pheを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量し、その結果を表1に示した。比較例として、公知のD−アミノ酸生産菌ストレプトマイセス ツリウス(Streptomyces turius) IFO13418(特開昭62-12969、または、Agric. Biol. Chem. 44巻 1089頁、1980)を用いた場合の結果を示したが、今回新規に見いだされた菌は、いずれも比較例に比べ、D-Phe生産性が高いことが示された。なお、分析条件は、カラム nacalaitesque COSMOSIL 5C18 4.6×50mm、及び三菱化成MCI GEL CRS10W(DLAA)4.6×50mmの直列通液;検出はUV254nm;移動相は、2mM CuSO4水溶液:メタノール=85:15;流量、1.0ml/min.;温度、50℃とした。リテンションタイムは、D-Phe 7.5min.、L-Phe 8.8min.である。
【0019】
【表1】
Figure 0003834960
【0020】
実施例2:各種D-アミノ酸の生産
N-アセチル-D-フェニルアラニン 2g/L、酵母エキスS(日本製薬製)10g/L、ポリペプトン(日本製薬製) 10g/L、KH2PO4 1g/L、K2HPO4 03g/L、MgSO4・7H20 0.5g/L、フマル酸20g/Lを含む培地(pH7.0)を500ml容フラスコに50mlいれ、120℃で15分間殺菌した。これにブイヨン寒天培地で30℃にて、24時間培養した、 アースロバクター ハイドロカーボグルタミカス ATCC15583を接種し、24時間培養した。培養後、培養液全量を、同じ培地2lを張り込み、同様に殺菌された小型発酵槽(5l容)に移液し、温度30℃、撹拌速度350rpm、通気毎分1リットル、培養pH無制御の条件で29時間培養した。培養後、菌体を遠心分離(10,000G、15分間)により採取した。
【0021】
菌体(湿重量1g)に9mlの100mMリン酸緩衝液(pH6.0)を加え、菌体濃厚懸濁液とした。次に各々10g/LのN-アセチル-D-アラニン、N-アセチル-D-バリン、N-アセチル-D-ロイシン、N-アセチル-D-イソロイシン、N-アセチル-D-トリプトファン、N-アセチル-D-メチオニンを100mMリン酸緩衝液(pH6.0)に溶解した基質液0.5mlに菌体濃厚懸濁液0.5mlを添加し、30℃、24時間反応を行った。
反応後、反応液中に生成されたD-アミノ酸を実施例1と同様にHPLCで分析した結果、表2のようになり、各アセチルアミノ酸より良好に対応するD-アミノ酸が得られた。
【0022】
【表2】
Figure 0003834960
【0023】
実施例3:菌体処理物である、精製酵素によるD−フェニルアラニンの生産
実施例2と同様に、アースロバクター ハイドロカーボグルタミカス ATCC15583を培養し、採取された湿重量100gの菌体ペーストに、20mMリン酸緩衝液を40ml加え、菌体濃厚懸濁液とした後、ビーズビーター(バイオスペック社製、ガラスビーズ直径0.1mmを使用)で5分間、菌体破砕処理を行った後、20mMリン酸緩衝液(pH7.0)を加え、全量100mlとした。デカンテーションでガラスビーズを除いた菌体破砕液をとり、さらに遠心分離(10,000G、15分間)により未破砕残査を除去した。その後、得られた遠心分離上清に0.1gのプロタミンを加え、核酸成分を沈殿除去させた後、これを粗酵素液とした。
【0024】
粗酵素液50mlに氷冷下、硫安を40%飽和になるよう添加した。その後、40%硫安飽和20mMリン酸緩衝液(pH7.0)で平衝化したブチルトヨパール 650M カラム( φ2.5 ×30cm) に通液し、酵素を吸着させた。500ml の 40%硫安飽和同緩衝液でカラムを洗浄した後、(NH4)2SO4 飽和度50〜0%のリニアグラジエントで酵素を溶出させた( 流速70ml/分, 10mlずつ分画) 。活性画分(20%〜0%硫安飽和液での溶出画分)200mlを得た。その後、 活性画分を限外濾過膜( 排除分子量MW10,000) を用いて、10ml に濃縮し、再度20mM リン酸緩衝液 (pH 6.0)で透析し、精製酵素液とした。
【0025】
20.7g/LのN-アセチル-D,L-フェニルアラニンを100mM リン酸緩衝液(pH6.0)に溶解した基質液 9mlに精製酵素液 1mlを添加し、30℃で40時間インキュベートした。その後、反応液を 100℃ 5分間煮沸することににより反応を停止させ、実施例1と同じ様に、HPLCで反応液中のフェニルアラニンの生成量を分析した。その結果、反応液中に6.4g/LのD-フェニルアラニンが生成していた。また、L-フェニルアラニンはほとんど生成しなかった。
【0026】
【発明の効果】
上記のように、本発明によれば、アシルアミノ酸から、容易かつ効率的に対応するD−アミノ酸が製造可能となる。

Claims (1)

  1. N−アセチルアミノ酸をD−アミノ酸に変換する能力を有し、アースロバクター(Arthrobacter)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エルビニア(Erwinia)属、エシェリヒア(Escherichia)属,フラボバクテリウム(Flavobacterium)属、ノカルディア(Nocardia)属、プロタミノバクター(Protaminobacter)属またはキサントモナス(Xanthomonas)属に属する微生物の培養物、該培養物より分離した微生物菌体もしくは該微生物菌体の処理物をN−アセチルアミノ酸に作用させ、生成されるD−アミノ酸を採取することを特徴とするD−アミノ酸の製造方法。
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