JP3831199B2 - 電子回路 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、単電子トランジスタを用いて構成された電子回路に関する。
【0002】
【従来の技術】
単電子トランジスタは、2つのトンネル接合に挟まれた単電子島と呼ばれる微小な導電性の島の電位をゲートキャパシタを介して制御することにより、クーロンブロッケイド状態(島の帯電エネルギーが大きいため、電子のトンネリングが禁止された状態)の発現・非発現を制御して、ソース・ドレイン間の電流を制御するトランジスタである。
【0003】
図11は、一般的な単電子トランジスタの等価回路図である。単電子トランジスタ1は、ソース電極S及びドレイン電極Dのそれぞれと単電子島5との間にトンネル接合3,2が設けられ、ゲート電極Gが単電子島5に容量結合した構造をしている。
図12は、単電子トランジスタ1のソース・ドレイン間を流れる電流Id のゲート・ソース間電圧Vgs依存性を示す特性図である。ソース電極Sとドレイン電極Dとの間に微小な電圧Vdsを印加した状態でゲート・ソース間電圧Vgsを掃引すると、ドレイン電流Id の値は図12に示すように周期的に増減する。以下に、その原理を説明する。
【0004】
単電子島5はトンネル接合2,3に挟まれているために、電子1個が単電子島5に入ることによるエネルギー増加分に相当するエネルギー準位ができる(以下、エネルギー準位はすべて電子に対するものとする)。ゲート・ソース間電圧Vgsを変化させると、ゲート電極Gと単電子島5との容量的な結合により、このエネルギー準位が一定のギャップを保ったまま上下する。
ソース・ドレイン間電圧Vdsがこのギャップよりも小さい場合、ギャップ内にソースとドレインの両方の伝導可能な準位が入ると、ソース・ドレイン間に電流Id が流れないクーロンブロッケード状態となる。一方、ソースとドレインの準位の間に単電子島5の準位のいずれかが入ると、単電子島5の準位を介してソース・ドレイン間に電流Id が流れる状態になる。
【0005】
よって、あるゲート・ソース間電圧Vgsではブロッケードの効果で単電子島5内の電子個数がn個(nは整数)で安定となり、電流Id は流れないが、ゲート・ソース間電圧Vgsが増加するとブロッケードが破れ、もう1個電子が増えることが可能となる。後者の領域にゲート・ソース間電圧Vgsが入ると、単電子島5の電子数がnとn+1の両方の値をとれるので、電子が1個島5内に入り、次に出て行く(島5内の電子数はnとn+1との間を往復する)ことで電流Id が流れるようになる。したがって、ゲート・ソース間電圧Vgsを変化せると、ソース・ドレイン間の電流Id が振動することになる。
この単電子トランジスタ1は、低電圧・微小電流で動作するので消費電力が極めて小さいこと、また素子面積が極めて小さいことなどの理由により、論理回路・記憶回路応用の観点からも注目を集めている。
【0006】
単電子トランジスタ1の従来の論理回路応用の例は、IBMJ.Res.Develop.Vol.32,p.144.1988(K.K.Likharev)などに見られる。図13は、単電子トランジスタ1を用いた抵抗負荷型のインバータの構成を示す回路図である。単電子トランジスタ1のドレイン電極Dは負荷抵抗119を介して電源端子106に接続され、ソース電極Sは接地端子107に接続されている。また、ゲート電極Gに入力端子108が接続され、ソース電極Sと負荷抵抗119との接続点に出力端子109が接続されている。この回路構成は、従来用いられていた電界効果トランジスタやバイポーラトランジスタを単に単電子トランジスタ1に置き換えたものであり、以下の条件の下で、従来のインバータと同じ機能を実現できる。
【0007】
すなわち、単電子トランジスタ1のソース・ドレイン間電圧Vdsが、e/Ctotal よりも小さい場合に、クーロンブロッケイド状態が発現し、ソース・ドレイン間が非導通状態となる。ここに、eは電気素量であり、Ctotal は単電子トランジスタ1の全容量(ゲートキャパシタ4の容量Cg 、ソース電極S及びドレイン電極Dのトンネル接合3,2の容量Cs ,Cd の総和)である。したがって、クーロンブロッケイド状態が発現するように、電源電圧Vddをe/Ctotal より小さくする必要がある。
また、単電子トランジスタ1のドレイン電流Id は図12に示したようにゲート・ソース間電圧Vgsに対して周期的に増減するので、一般的な2値のインバータとして使用するためには、ドレイン電流Id が単調に増加する範囲にゲート・ソース間電圧Vgsすなわち入力電圧Vinを設定する必要がある。
【0008】
単電子トランジスタ1の従来の記憶回路応用の例は、特開平7−86614号公報などに見られる。図14は、単電子トランジスタ1を用いた記憶回路の要部構成を示す回路図である。この記憶回路は、図13に示したインバータ2つをたすきがけ接続することによって構成されており、2値の情報をスタティックに保持することができる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
単電子トランジスタ1においては、ドレイン電極Dのトンネル接合2の容量Cd を介した結合により、ドレイン電圧が単電子島5の電位に影響を与え負帰還がかかるため、電圧利得(の絶対値)はCg /Cd に制限される。ここに、電圧利得とは、ドレイン電圧(出力電圧)の振幅をゲート電圧(入力電圧)の振幅で割った値である。
一般に論理回路では、信号が次段以降に伝搬できるように、電圧利得を1より大きく取る必要がある。信号伝搬時の電圧の減衰や設計のマージンなどを考慮すると、電圧利得は大きければ大きいほど良い。このためには、図13に示したような単電子トランジスタ論理回路ではCg を大きくするか、Cd を小さくするかしか選択の余地はない。Cd はトンネル接合2の容量であり、小さくするのは難しい。したがって、Cg を大きくすることになる。
【0010】
一方、単電子トランジスタ1の動作可能な温度Tは、kをボルツマン定数とすると、
2/2/Ctotal > kT
を満足しなければならない。したがって、単電子トランジスタ1が高温で動作するためには、単電子トランジスタ1の全容量Ctotal を小さく設定する必要がある。しかし、Ctotal はCg を含んでいるので、電圧利得を大きくするためにCg を大きくするとCtotal が大きくなることになり、動作温度Tが低温領域に制限されてしまうという問題があった。
【0011】
また、図14に示した単電子トランジスタを用いた記憶回路は、2値の情報しかスタティックに保持できなかった。単電子トランジスタ1を用いて3値以上の多値のスタティック記憶回路を構成する場合には、バイポーラトランジスタやMOS型トランジスタを用いる場合と同様に、多数の素子が必要であるという問題があった。
【0012】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、単電子トランジスタを用いた論理回路の動作温度Tを低温領域に制限することなく、電圧利得を大きくすることにある。
また、他の目的は、簡単な構成で多値記憶回路を実現することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するために、本発明の電子回路は、ソース電極及びドレイン電極のそれぞれと単電子島との間にトンネル接合が設けられ,ゲート電極が単電子島に容量結合した単電子トランジスタと、第1〜第3の端子を有し,第1の端子と第2の端子との間に流れる電流を第3の端子に与えられる信号により制御する3端子素子と、単電子トランジスタのソース電極とドレイン電極との間に流れる電流の最大値より小さく最小値より大きい電流を流す負荷素子とを備え、単電子トランジスタのドレイン電極は3端子素子の第1の端子に接続され、単電子トランジスタのゲート電極は入力端子に接続され、3端子素子の第2の端子及び負荷素子の一端は出力端子に接続され、負荷素子の他端は電源端子に接続され、単電子トランジスタのソース電極は接地端子に接続され、3端子素子の第1の端子の電圧が電気素量を単電子トランジスタの全容量で割った値以下となるように3端子素子の第3の端子の電圧が設定されていることを特徴とする。
【0014】
単電子トランジスタにおいて、クーロンブロッケイド状態が発現してオフ状態となると、3端子素子の第1の端子と第2の端子との間に十分な電流が流れず、出力端子の電圧は電源端子の電圧とほぼ等しくなる。一方、クーロンブロッケイド状態が発現せずオン状態となると、3端子素子の第1の端子と第2の端子との間に十分な電流が流れ、出力端子の電圧は3端子素子の第1の端子の電圧とほぼ等しくなる。したがって、電源端子の電圧と3端子素子の第1の端子の電圧との差が出力振幅になる。
この出力振幅を大きくするために電源端子の電圧を大きくしても、単電子トランジスタのドレイン電圧は、電気素量を単電子トランジスタの全容量で割った値以下に固定される。このため、出力振幅と入力振幅との比によって決まる電圧利得は、単電子島の電位に対する負帰還作用によってCg /Cd に制限されることはない。ここに、Cg はゲートキャパシタの容量であり、Cd はドレイン電極のトンネル接合の容量である。
【0015】
ここで、3端子素子は、電界効果トランジスタであり、3端子素子の第1の端子はソース電極であり、第2の端子はドレイン電極であり、第3の端子はゲート電極であり、このゲート電極は、電界効果トランジスタをオン状態にする電圧だけソース電極の電圧より高い電圧を印加するバイアス電圧端子に接続されている構成としてもよい。
特に、電界効果トランジスタは、デプレッション型であり、電界効果トランジスタのゲート電極に接続されるバイアス電圧端子は、接地端子であるという構成としてもよい。この場合、別個にバイアス電圧端子を設ける必要がない。
【0016】
また、負荷素子は、定電流源であってもよい。定電流源は、内部抵抗が高く、ゼロ近傍から電源端子の電圧までの広い電圧範囲を出力できるので、出力振幅及び電圧利得を大きくすることができる。
また、負荷素子は、ゲート電極・ソース電極間を短絡して一端とし、ドレイン電極を他端としたデプレッション型電界効果トランジスタであってもよい。このデプレッション型電界効果トランジスタは擬似的な定電流源として動作するので、定電流源を用いた場合と同様に、電圧利得等を大きくすることができる。
【0017】
また、入力端子と出力端子とを短絡して記憶ノードとしてもよい。電源端子から負荷素子、3端子素子、単電子トランジスタを経由して接地端子に流れる回路電流Iは記憶ノード電圧Vに対して周期的に増減する。負荷素子の負荷曲線と、周期的に増減するI−V特性との交点が安定点になり、多値記憶回路として機能する。
また、ビットラインと記憶ノードとの接続・接続断をワードラインに与えられる電圧により切り替えるスイッチを更に有するようにしてもよい。上記の多値記憶回路としての機能とスイッチとから多値メモリセルが構成される。
また、スイッチは、一方のソース・ドレイン電極がビットラインに接続され,他方のソース・ドレイン電極が記憶ノードに接続され,ゲート電極がワードラインに接続された電界効果トランジスタであってもよい。
【0018】
【発明の実施の形態】
次に、図面を参照して、本発明の電子回路の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態である単電子トランジスタ論理回路の構成を示す回路図である。この単電子トランジスタ論理回路は、図11に示したのと同じ構成の単電子トランジスタ1と、3端子素子としての電界効果トランジスタ21と、負荷素子10とから構成されている。単電子トランジスタ1のドレイン電極Dは電界効果トランジスタ21のソース電極(第1の端子)に接続され、電界効果トランジスタ21のドレイン電極(第2の端子)は負荷素子10の一端に接続されている。電界効果トランジスタ21のゲート電極(第3の端子)に、一定の電圧Vggを印加するバイアス電圧端子22が接続され、負荷素子10の他端に、電圧Vddを印加する電源端子が接続され、単電子トランジスタ1のソース電極Sに、接地端子が接続されている。また、単電子トランジスタ1のゲートGに入力端子8が接続され、電界効果トランジスタ21のドレイン電極と負荷素子10の接続点に出力端子9が接続されている。
【0020】
電界効果トランジスタ21をオン状態にする閾値電圧をVthとすると、電界効果トランジスタ21のソース電圧はVgg−Vthとなる。電界効果トランジスタ21のゲート電圧Vggは一定であり、また電界効果トランジスタ21のソース電圧はドレイン電圧(出力端子電圧Vout )の影響をほとんど受けないので、ソース電圧はVgg−Vthにほぼ固定される。単電子トランジスタ1のドレイン電圧は電界効果トランジスタ21のソース電圧Vgg−Vthに等しく、単電子トランジスタ1のソース電圧はゼロであるから、単電子トランジスタ1のソース・ドレイン間電圧VdsもVgg−Vthにほぼ固定される。したがって、Vgg−Vthがe/Ctota l 以下となるように設定することにより、単電子トランジスタ1においてクーロンブロッケイド状態を維持することができる。
【0021】
図2は、負荷素子10として定電流源を用いた場合の単電子トランジスタ論理回路の構成を示す回路図である。また、図3は、図2に示す論理回路の特性図である。この図において、(a)は単電子トランジスタ1のId −Vgs特性を示す図であり、(b)は図2に示す論理回路の入出力特性(Vout −Vin特性)を示す図である。
単電子トランジスタ1のドレイン電流Id は、図3(a)に示すように周期的に増減する。図2に示す定電流源11の電流I0 は、その単電子トランジスタ1のドレイン電流Id の最大値より小さく、最小値より大きい値に設定される。図3(a)では、電流I0 はドレイン電流Id の最大値と最小値の中間の値に設定されている。
【0022】
図3(a)において、単電子トランジスタ1のゲート・ソース間電圧Vgs(=入力端子電圧Vin)がV1 より小さい場合、単電子トランジスタ1のドレイン電流Id は定電流源11の電流I0 よりも小さいため、図3(b)に示すように電界効果トランジスタ21のドレイン電圧(=出力端子電圧Vout )は電源端子電圧Vddとほぼ等しくなる。このとき、単電子トランジスタ1のソース・ドレイン間電圧Vdsは出力端子電圧Vout =Vddの影響をほとんど受けず、ほぼVgg−Vth(<e/Ctotal )のままであるので、ドレイン電流Id の少ない状態(クーロンブロッケイド状態)は維持される。
【0023】
また、図3(a)において、Vgs(=Vin)がV1 より大きくなると、Id はI0 よりも大きくなりうるため、図3(b)に示すように電界効果トランジスタ21のドレイン電圧(=Vout )はソース電圧Vgg−Vthとほぼ等しくなる。したがって、V1 の前後で出力端子電圧Vout はハイレベルからローレベルに切り替わる。
また、図3(a)において、Vgs(=Vin)がV2 より大きくなると、図3(b)に示すように、再び電界効果トランジスタ21のドレイン電圧(=Vout )は電源端子電圧Vddとほぼ等しくなる。したがって、V2 の前後で出力端子電圧Vout はローレベルからハイレベルに切り替わる。
【0024】
以後これを繰り返し、V3 ,・・・,V11の前後で出力端子電圧Vout はハイレベルからローレベルに切り替わり、V4 ,・・・,V12の前後で出力端子電圧Vout はローレベルからハイレベルに切り替わる。
したがって、図2に示した論理回路は、入力端子電圧VinとしてゼロからV2 までの間を利用すれば、2値のインバータとして機能する。また、R値の多値入力に対しては、所定の入力レベルに対してゼロレベル又は(R−1)レベルを出力する一種のリテラルゲートとして機能する。
【0025】
この論理回路では、上述したように、出力端子電圧Vout が電源端子電圧Vddに等しいハイレベルの状態でも、単電子トランジスタ1のソース・ドレイン間電圧VdsはほぼVgg−Vthのままであり、ドレイン電流Id の少ない状態(クーロンブロッケイド状態)は維持される。よって、電源端子電圧Vddを大きくして、ハイレベルの電圧Vddとローレベルの電圧Vgg−Vthとの差である出力振幅を大きくすることができる。
【0026】
このように出力振幅を大きくするために電源端子電圧Vddを大きくしても、単電子トランジスタ1のドレイン電圧はVgg−Vthにほぼ固定される。このため、出力振幅と入力振幅との比によって決まる電圧利得は、単電子島5の電位に対する負帰還作用によってCg /Cd に制限されることはない。よって、ゲートキャパシタ4の容量Cg を小さく抑えても電圧利得を大きくすることができるので、論理回路の動作温度Tを低温領域に制限することなく電圧利得を大きくすることができる。
【0027】
図2に示した論理回路は、負荷素子10として定電流源11を用いている。定電流源11は、内部抵抗が高く、ゼロ近傍から電源端子電圧Vddまでの広い電圧範囲を出力できるので、出力振幅及び電圧利得を大きくすることができる。しかし、単調増加する電流・電圧特性を有していれば、例えば抵抗負荷などの他種の負荷素子10を用いても同様の機能を実現できる。
【0028】
また、図1,図2に示した論理回路では、単電子トランジスタ1のドレイン電圧を固定するために電界効果トランジスタ21を用いたが、相互コンダクタンスの逆数が単電子トランジスタ1のトンネル接合2,3の抵抗に比べて充分に小さく、負荷素子10に接続された第2の端子の出力抵抗が単電子トランジスタ1のトンネル接合2,3の抵抗に比べて充分に大きく、入力端子となる第3の端子のリーク電流及びオフ状態における上記第2の端子のリーク電流がオン状態における単電子トランジスタ1のドレイン電流に比べて充分に小さいならば、他種の3端子素子を用いてもよい。ここに、3端子素子とは、第1の端子と第2の端子との間に流れる電流を第3の端子に与えられる信号により制御する素子のことであり、例えばバイポーラトランジスタなども利用可能である。
【0029】
また、図1,図2に示した論理回路では、単電子トランジスタ1のソース電極Sを接地端子7に接続しているが、これは単電子トランジスタ1のソース電圧を論理回路の電圧レベルの基準としていることを意味している。したがって、この意味において、接地端子7はゼロ電位である必要はない。
【0030】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の第2の実施の形態である単電子トランジスタ論理回路の構成を示す回路図である。この図では、図1,図2と同一部分を同一符号で示している。
この単電子トランジスタ論理回路では、単電子トランジスタ1のドレイン電圧を固定するためにデプレッション型すなわち閾値電圧Vthがマイナスである電界効果トランジスタ23を用い、かつ電界効果トランジスタ23のゲート電極を接地端子7に接続してゼロ電位としている。
【0031】
この場合、電界効果トランジスタ23のソース電圧は閾値電圧Vthの絶対値にほぼ固定される。単電子トランジスタ1のドレイン電圧は電界効果トランジスタ23のソース電圧(閾値電圧Vthの絶対値)に等しく、単電子トランジスタ1のソース電圧はゼロであるから、単電子トランジスタ1のソース・ドレイン間電圧Vdsも閾値電圧Vthの絶対値にほぼ固定される。単電子トランジスタ1がクーロンブロッケイド状態を維持できるようように、閾値電圧Vthの絶対値はe/Ctotal 以下の値に設定されている。
このようにデプレッション型電界効果トランジスタ23を用いれば、電界効果トランジスタ23のゲート電極を接地するだけでよく、別個にバイアス電圧Vggを供給する必要がないので、論理回路の構成を簡略化することができる。
【0032】
また、図4に示した論理回路では、負荷素子10としてデプレッション型電界効果トランジスタ12を用いている。この電界効果トランジスタ12は、ゲート電極・ソース電極間を短絡して電界効果トランジスタ23のドレイン電極及び出力端子9に接続され、ドレイン電極が電源端子6に接続されている。これにより、電界効果トランジスタ12は内部抵抗の高い擬似的な定電流源として動作するので、出力振幅及び電圧利得を大きくすることができる。
このようにデプレッション型電界効果トランジスタ12,23を用いることにより、素子の種類が2種類、素子の数が3個で論理回路を構成できる。このため、論理回路の製造工程を簡略化することができ、また論理回路の占有面積を小さくすることができる。
【0033】
(第3の実施の形態)
図5は、本発明の第3の実施の形態である多値記憶回路の構成を示す回路図である。この図では、図1,図2と同一部分を同一符号で示している。この多値記憶回路では、図1,図2に示した単電子トランジスタ論理回路の入力端子8と出力端子9とを短絡して記憶ノード31としている。単電子トランジスタ1のドレイン電圧が電界効果トランジスタ21の作用によりほぼ一定に保たれているため、多値記憶回路のI−V特性はドレイン電圧が固定された状態の単電子トランジスタ1のId −Vgs特性とほぼ等しくなり、回路電流Iは記憶ノード電圧Vに対して周期的に増減する。このI−V特性に対して負荷曲線が交わるような負荷素子10を接続すると、周期的に増減するI−V特性に対応して多数の安定点が生じる。
【0034】
図6は、図5に示した多値記憶回路の回路電流・記憶ノード電圧間のI−V特性を示す図である。破線の負荷曲線は、負荷素子10として用いられる電流I0 の定電流源11の特性を表している。この破線の負荷曲線が実線のI−V特性と交わる点P1 ,P2 ,・・・,P6 が安定点となる。なお、I−V特性の傾きがマイナスの部分で交わる点は不安定なため実現しない。
図1,図2に示した論理回路では出力端子9の電圧振幅である出力振幅を大きくできるので、図5に示した多値記憶回路では記憶ノード31に入力される多値信号の各レベルの電圧を安定点P1 〜P6 の電圧に対応させ、それらの安定点の電圧をスタティックに保持させることができる。
このように、ドレイン電流Id がゲート・ソース間電圧Vgsに対して周期的に増減するという単電子トランジスタ1特有の性質を利用することにより、簡単な構成で多値記憶回路を実現することができる。
【0035】
(第4の実施の形態)
図7は、本発明の第4の実施の形態である多値記憶回路の構成を示す回路図である。この図では、図4と同一部分を同一符号で示している。この多値記憶回路では、図4に示した単電子トランジスタ論理回路の入力端子8と出力端子9とを短絡して記憶ノード31としている。図4に示した論理回路と同様に、バイアス電圧Vggの供給が不要で、少ない種類や数の素子で構成できる。
図8は、図7に示した多値記憶回路の回路電流・記憶ノード電圧間のI−V特性を示す図である。破線の負荷曲線は、負荷素子10として用いられるゲート電極・ソース電極間を短絡したデプレッション型電界効果トランジスタ12の特性を表している。この負荷曲線が理想的な定電流特性から外れるため、安定点P1 ,P2 ,・・・,P5 の生じる電圧が等間隔でなくなる等の現象には注意を払う必要がある。
【0036】
(第5の実施の形態)
図9は、本発明の第5の実施の形態である多値メモリセルの構成を示す回路図である。この図では、図7と同一部分を同一符号で示している。図9に示す多値メモリセル40は、図7に示した多値記憶回路と、アクセス制御用電界効果トランジスタ41とから構成されている。電界効果トランジスタ41の一方のソース・ドレイン電極が、多値信号が与えられるビットライン42に接続され、電界効果トランジスタ41の他方のソース・ドレイン電極が、図7に示した多値記憶回路の記憶ノード31に接続され、電界効果トランジスタ41のゲート電極が、選択電圧が与えられるワードライン43に接続されている。この電界効果トランジスタ41は、ビットライン42と記憶ノード31との接続・接続断をワードライン43に与えられる電圧により切り替えるスイッチとして機能する。
【0037】
図10に示すように、多数のビットライン42及びワードライン43を互いに交差するように配線し、その交差する領域毎に多値メモリセル40を配置することにより、多数の多値メモリセル40の中から所望のセルを選択して読み出し・書き込みができるようになり、大規模な多値記憶回路を実現できる。
同様に、図5に示した多値記憶回路を用いて、多値メモリセルを構成してもよい。
【0038】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明では、単電子トランジスタのドレイン電極にカスコード接続された3端子素子の作用により、出力端子電圧にかかわりなく、単電子トランジスタのドレイン電圧がクーロンブロッケイド状態を維持できる程度の低い値に保たれる。加えて、出力端子から単電子島の電位に対する負帰還作用も抑えられる。この結果、出力振幅及び電圧利得が大きい単電子トランジスタ論理回路を実現できる。単電子トランジスタのゲート容量を小さく抑えても高い電圧利得が得られるので、動作温度の高温化に対する制限が緩和される。
【0039】
また、上記の単電子トランジスタ論理回路において、3端子素子としてデプレッション型電界効果トランジスタを用いる。これにより、バイアス電圧の供給が不要となる。さらに、負荷素子にもデプレッション型電界効果トランジスタを用いる。これにより、素子の種類や数が少ない回路構成となり、論理回路の製造工程を簡略化することができ、また論理回路の占有面積を小さくすることができる。
【0040】
また、上記の単電子トランジスタ論理回路において、入力端子と出力端子を短絡して記憶ノードとすることにより、簡単な構成で多値記憶回路を実現できる。また、上記の多値記憶回路の記憶ノードをスイッチを介してビットラインとワードラインに接続することにより、多数のセルから選択して読み出し・書き込みが可能な大規模な多値記憶回路を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施の形態である単電子トランジスタ論理回路の構成を示す回路図である。
【図2】 負荷素子として定電流源を用いた場合の単電子トランジスタ論理回路の構成を示す回路図である。
【図3】 図2に示す論理回路の特性図である。
【図4】 本発明の第2の実施の形態である単電子トランジスタ論理回路の構成を示す回路図である。
【図5】 本発明の第3の実施の形態である多値記憶回路の構成を示す回路図である。
【図6】 図5に示した多値記憶回路の回路電流・記憶ノード電圧間のI−V特性を示す図である。
【図7】 本発明の第4の実施の形態である多値記憶回路の構成を示す回路図である。
【図8】 図7に示した多値記憶回路の回路電流・記憶ノード電圧間のI−V特性を示す図である。
【図9】 本発明の第5の実施の形態である多値メモリセルの構成を示す回路図である。
【図10】 複数の多値メモリセルにより構成された多値メモリセルアレーの構成を示すブロック図である。
【図11】 一般的な単電子トランジスタの等価回路図である。
【図12】 単電子トランジスタのソース・ドレイン間を流れる電流のゲート・ソース間電圧依存性を示す特性図である。
【図13】 単電子トランジスタを用いた抵抗負荷型のインバータの構成を示す回路図である。
【図14】 単電子トランジスタを用いた記憶回路の要部構成を示す回路図である。
【符号の説明】
1…単電子トランジスタ、2…ドレイントンネル接合、3…ソーストンネル接合、4…ゲートキャパシタ、5…単電子島、6…電源端子、7…接地端子、8…入力端子、9…出力端子、10…負荷素子、11…定電流源、12…電界効果トランジスタ(デプレッション型)、21…電界効果トランジスタ、22…バイアス電圧端子、23…電界効果トランジスタ(デプレッション型)、31…記憶ノード、40…多値メモリセル、41…電界効果トランジスタ、42…ビットライン、43…ワードライン。

Claims (8)

  1. ソース電極及びドレイン電極のそれぞれと単電子島との間にトンネル接合が設けられ、ゲート電極が前記単電子島に容量結合した単電子トランジスタと、
    第1〜第3の端子を有し、前記第1の端子と第2の端子との間に流れる電流を前記第3の端子に与えられる信号により制御する3端子素子と、
    前記単電子トランジスタのソース電極とドレイン電極との間に流れる電流の最大値より小さく最小値より大きい電流を流す負荷素子とを備え、
    前記単電子トランジスタのドレイン電極は前記3端子素子の第1の端子に接続され、前記単電子トランジスタのゲート電極は入力端子に接続され、前記3端子素子の第2の端子及び前記負荷素子の一端は出力端子に接続され、前記負荷素子の他端は電源端子に接続され、前記単電子トランジスタのソース電極は接地端子に接続され、
    前記3端子素子の第1の端子の電圧が電気素量を前記単電子トランジスタの全容量で割った値以下となるように前記3端子素子の第3の端子の電圧が設定されていることを特徴とする電子回路。
  2. 請求項1記載の電子回路において、
    前記3端子素子は、電界効果トランジスタであり、
    前記3端子素子の第1の端子はソース電極であり、前記第2の端子はドレイン電極であり、前記第3の端子はゲート電極であり、このゲート電極は、前記電界効果トランジスタをオン状態にする電圧だけ前記ソース電極の電圧より高い電圧を印加するバイアス電圧端子に接続されていることを特徴とする電子回路。
  3. 請求項2記載の電子回路において、
    前記電界効果トランジスタは、デプレッション型であり、
    前記バイアス電圧端子は、前記接地端子であることを特徴とする電子回路。
  4. 請求項1〜3いずれか1項記載の電子回路において、
    前記負荷素子は、定電流源であることを特徴とする電子回路。
  5. 請求項1〜3いずれか1項記載の電子回路において、
    前記負荷素子は、ゲート電極・ソース電極間を短絡して前記一端とし、ドレイン電極を前記他端としたデプレッション型電界効果トランジスタであることを特徴とする電子回路。
  6. 請求項1〜5いずれか1項記載の電子回路において、
    前記入力端子と前記出力端子とを短絡して記憶ノードとすることを特徴とする電子回路。
  7. 請求項6記載の電子回路において、
    ビットラインと前記記憶ノードとの接続・接続断をワードラインに与えられる電圧により切り替えるスイッチを更に有することを特徴とする電子回路。
  8. 請求項7記載の電子回路において、
    前記スイッチは、一方のソース・ドレイン電極が前記ビットラインに接続され他方のソース・ドレイン電極が前記記憶ノードに接続されゲート電極が前記ワードラインに接続された電界効果トランジスタであることを特徴とする電子回路。
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