JP3831095B2 - 表面性状に優れた良加工性熱延鋼板の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱延鋼板の製造方法に関するものであり、詳しくは、熱延鋼板を巻き戻す際に鋼板表面に発生する腰折れと呼ばれる縞模様を防止し、かつ優れた穴拡げ性を付与することのできる表面性状に優れた熱延鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱延鋼板、特に黒皮材(無酸洗材)については、形状を矯正することが必要な場合以外、本来ならば精整工程を経る必要はない。しかし、鋼板を巻き戻す際に腰折れが発生することがあるため、この黒皮材についても一旦巻き戻しを行い、その際にプレッシャーロールやスキンパス圧延などによる腰折れ防止策がとられている。
【0003】
最近、この方法による通板条件が詳細に検討され、特開平7−11209号公報にあるように、通板時の張力とプレッシャーロールのロール径により、通板材のサイズおよび板温度によらず、腰折れを防止する方法が提案されている。しかし、この方法は、熱延巻取材を精整などのために巻き戻す際の手段について述べたものである。従って、黒皮材については本来精整通板の必要はなく、その分コストアップとなっている。
【0004】
また、特開平4−56732号公報では、B添加鋼で仕上圧延後の冷却条件と巻取温度を規定し、固溶窒素はBNとして高温の熱間圧延中に析出させ、かつ固溶炭素をセメンタイトとして粒内に効率的に析出させることによって、腰折れおよびスレッチャー・ストレインの発生を防止する方法が提案されている。しかし、この方法では、延性を確保するために空冷時間を確保し、αへの変態率を十分に高くすることが示されているが、最終的に得られる組織が不均一になりやすく、その結果、加工性として重要な因子の1つである穴拡げ性の劣化が懸念される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、本来精整工程を通板する必要のない熱延黒皮材(無酸洗材)について、腰折れの発生を防止するとともに、優れた穴拡げ性を付与する方法を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため、Bを添加した低炭素鋼(0.048%C−0.01%Si−0.26%Mn−0.014%P−0.008%S−0.0025%B−0.0015%N)を用い、腰折れの発生に及ぼす圧延後の冷却速度と巻取温度の影響、および穴拡げ性に及ぼす冷却速度の影響を詳細に調査した結果、以下の知見を得た。
【0007】
(1)熱延黒皮材(無酸洗材)における腰折れの発生原因としては、熱延後に残存する固溶炭素あるいは固溶窒素に起因することが知られている。しかし、実際の発生状況を詳細に調査してみるとそれだけではなく、熱延後に可動転位量が十分に存在しないこともその一因であることが明らかとなった。つまり、熱延工程での仕上圧延終了後の冷却中に起こるγからαへの変態時の冷却速度によっては、その体積変化に起因して、ある程度の可動転位を導入することが可能であることが判った。仕上圧延後、Ar3 変態点〜(Ar3 変態点−150℃)の温度範囲を通過する際の冷却速度と腰折れ発生状況の関係を図1に示すが、冷却速度が50℃/s以上となると腰折れの発生が全くなくなることが判る。こうした現象が生じた原因としては、ベイニィティックフェライトの形成による部分的な可動転位の増加によるものと推察される。また、穴拡げ性についてもベイニィティックフェライトの形成により向上することが明らかとなった。すなわち、図2は前記仕上圧延後の冷却速度と穴拡げ比(d/do)の関係を示すものであるが、冷却速度が50℃/s以上になると、穴拡げ比(d/do)が2.5を超えることが判る。
【0008】
(2)巻取工程では、セメンタイトを効率よく析出させることにより固溶炭素量を低減させる必要がある。巻取温度と腰折れの発生状況との関係について調査した結果を図3に示す。なお、ここではγからαへの変態時の冷却速度を100℃/sとした。その結果、巻取温度が300〜500℃の場合に腰折れが発生しないことが明らかとなった。これは、この温度域でセメンタイトの核生成・成長が効率的に起こったためと考えられる。
【0009】
本発明者らは、以上の知見に基づいて、穴拡げ性に優れ、かつ腰折れが発生することのない表面性状に優れた良加工性熱延鋼板の製造方法を創案したものである。
すなわち、本発明の要旨とするところは、重量%で、C:0.015〜0.06%、Si:0.1%以下、Mn:0.08〜0.5%、S:0.005〜0.015%、N:0.0035%以下を含み、さらにBを添加量の比で1<B/N<2を満足するように添加し、残部Feおよび不可避的不純物元素からなる鋼を連続鋳造にてスラブとした後、再加熱してから、あるいは鋳造後直ちに粗圧延を実施し、Ar3 変態点以上の温度域で仕上圧延を終了させ、かつその温度域から冷却を開始するが、その際にAr3 変態点〜(Ar3 変態点−150℃)の温度範囲を通過する際の冷却速度を50℃/s以上として300〜500℃の温度域まで冷却後、その温度域で巻き取ることを特徴とする腰折れが発生することのない表面性状に優れた良加工性熱延鋼板の製造方法にある。
【0010】
【発明の実施の形態】
まず、本発明における成分組成の限定理由について述べる。
Cは0.06%以下としなくてはならない。これを超えて添加されると熱延板で析出するセメンタイトが多くなり、延性を大きく低下させるばかりでなく、固溶炭素が過度に残存して腰折れを防止することができない。また、0.015%より少ない場合には、セメンタイト析出の駆動力が大きく低下するため、巻取工程中で固溶炭素量の低減が図れずに熱延板に残存するため、腰折れが生じる。
【0011】
Siは鋼中に多く含有されると、熱延板にSiを含むスケールが不均一に形成されて外観を損なう。このため、本発明で対象とするような熱延黒皮材(無酸洗材)では特に好ましくないことから、Siは0.1%以下とした。
Mnについては、鋼を高強度化する際に添加されるが、過度の添加は延性を大きく低下させるため、0.5%を上限とする。しかし、0.08%より少ないとMnSが形成されないため、熱間脆性の原因となるので、0.08%を下限とする。
【0012】
SはMnとの結合によりA系介在物(JIS G0555)を形成し、延性を劣化させるばかりでなく、過度の添加は熱間割れを招くため、0.015%を上限とする。また、0.005%より低くすることは、製鋼でのコスト上昇につながるため好ましくなく、このため0.005%を下限とする。
Pは主として高強度化を目的として添加される元素であるが、本発明においては積極的な添加を必要とするものではないため、あえて規定する必要はない。しかし、過剰に含有されると延性を低下させるので好ましくない。このため、不可避的に含まれるものとして0.03%以下とするが、必要以上の低減は製鋼コストを上げるため好ましくない。
【0013】
Alも脱酸のために添加される元素であるため、本発明における目的を達成するには何ら寄与するものではない。しかし、0.005%未満では本来目的とする効果が発揮されない。一方、0.1%を超えて添加されると酸化物として鋼中に残存するため、加工性を損なうことが懸念される。
Nについては、Cと同様、腰折れ発生の原因となるため、熱延板段階で完全に析出物として固定する必要がある。本発明では、BNとして析出させて固溶窒素の固定を図るが、必要以上に含まれると、それに伴い添加B量も多くなるので、0.0035%を上限とする。
【0014】
BはNを固定するために添加するとともに、焼入れ性を向上させることにより、仕上圧延後の冷却中に変態ひずみによる可動転位を導入することを目的として添加する。Nのみの固定が目的ならば、B/N=1.0で十分と考えられるが、Ar3 変態点を下げることにより変態時に生じるひずみを確保するには、その変態点を下げることが必要である。このため、こうしたBの効果を有効に発揮させるためには、1<B/N<2を満足させる必要がある。下限は前述の理由から設定されるものであり、上限は、Bの過剰な添加が鋼材質を硬質化させることからこれを回避するために、またスラブ段階での割れ発生を回避するために設定される。すなわち、1<B/N<2の範囲とした。
【0015】
なお、スクラップの利用による微量のCu、NiおよびSnの混入は、本発明における効果を損なうものではない。
本発明の熱延工程における加熱温度は、BNが比較的高温でも析出し得ることから特に規定されるものではない。また、本発明では、特開平4−56732号公報で開示されているようなMnSの析出サイズについては、何ら規定する必要はない。
【0016】
熱間圧延後の冷却条件は、本発明において最も重要な制御因子の一つである。すなわち、可動転位として必要なひずみ量を確保するためには、仕上圧延後のAr3 変態点〜(Ar3 変態点−150℃)の温度範囲を通過する際の冷却速度を速くとる必要がある。従って、この間の冷却速度が50℃/sより遅いと、変態時に導入されるひずみ量が不十分となることから、冷却速度の下限を50℃/sとする。ところで、冷却速度のさらなる緩和は、添加されるMnやB量を増加させることで可能と考えられるが、前述したような材質面からの理由によりMnおよびB量には上限があるため、冷却速度を50℃/s以上とした。なお、本発明では、γからαへの変態時にひずみを導入し、可動転位密度を確保することが特徴である。一方、穴拡げ性はベイニィティックフェライトを形成させることにより組織が均一化されて向上する。このため、本発明では、所定の組織を得るには変態時の冷却速度を速くとる必要があり、前述したように50℃/s以上とした。
【0017】
巻取温度については、冷却後セメンタイトが効率よく析出する温度域とする必要がある。本発明では、巻取温度を300〜500℃の範囲とする。巻取温度が300℃より低い温度域となると、Cが十分に拡散しなくなるため、巻取工程中でのCの固定が不十分となり、その結果として腰折れの発生が懸念される。一方、巻取温度が500℃を超えると、固溶状態で残存するCが多くなり、やはり腰折れが生じる危険性がある。
【0018】
なお、本発明は、主として熱延鋼板、特に黒皮材(無酸洗材)について精整工程の通板を省略することを目的としてなされたものであるが、酸洗材等の後工程を通板されるものに適用されてもかまわない。
【0019】
【実施例】
〔実施例1〕
C:0.045%、Si:0.01%、Mn:0.26%、P:0.014%、S:0.008%、Al:0.027%、N:0.0024%、B:0.0025%を含む鋼を転炉出鋼し、連続鋳造にてスラブとした。熱延は1200℃で加熱後、粗圧延を実施してから表1に示す温度域で仕上圧延を終了し、3.2mmの熱延板とした。その後、同じく表1に示すような条件で冷却および巻き取りを実施した。なお、ここでAr3 変態点は、916−50〔C(%)〕+27〔Si(%)〕−64〔Mn〕で概算すると、約892℃である。材質評価は巻き取ったコイルを巻き戻して腰折れの発生状況を調査するとともに、JIS Z 2201記載の5号試験片に加工し、JIS Z 2241記載の試験方法に従って引張試験を行った。また、穴拡げ性の調査は、30度円錐ポンチを使用して直径10mm(do)の穴を押し拡げ、割れが板厚を貫通した時点での穴径(d)を測定し、d/doで評価した。結果を同じく表1に示す。
【0020】
【表1】
Figure 0003831095
【0021】
本発明に従ったNo.2、3、4、5、6、7および8では、腰折れの発生はなく、また材質も軟質であるため延性も高く、さらに2.5を超えるd/doが得られている。
一方、巻取温度が本発明の範囲から外れたNo.1および10では、仕上圧延後の急冷によって変態ひずみを導入しても、固溶炭素の残存量が多いためYP−Elが大きいばかりでなく、腰折れを防止することができない。No.9では仕上圧延後の冷却速度が本発明の範囲から低く外れたため、本発明で目的とするγからαへの変態時に導入されるひずみが少なく、その結果、高いYP−Elを示し、やはり腰折れが生じるとともに穴拡げ性も悪い。さらに、仕上温度がAr3 変態点よりも低くなったNo.11では、γからαへの変態時に導入されるひずみが少ないため、腰折れを防止することができないばかりでなく、穴拡げ性も悪く、また組織が不均一となるため延性も低い。
【0022】
〔実施例2〕
表2、表3(表2のつづき−1)、表4(表2のつづき−2)に示す種々の鋼を転炉出鋼し、連続鋳造でスラブとした。熱延は1150〜1250℃で加熱後、粗圧延および仕上圧延を実施して、同じく表2〜4に示すような板厚の熱延板を製造した。なお、仕上圧延はいずれもAr3 変態点以上の温度域で終了した。さらに、仕上圧延後の冷却速度は本発明の範囲内の条件となるように、冷却ゾーンにおける水量を調整した。冷却後、350℃で巻き取りを行い、巻き取ったコイルを巻き戻しながら腰折れの発生状況を調査するとともに、実施例1と同様に引張試験による材質評価と穴拡げ性評価を実施した。結果を同じく表2〜4に示す。
【0023】
【表2】
Figure 0003831095
【0024】
【表3】
Figure 0003831095
【0025】
【表4】
Figure 0003831095
【0026】
本発明に従ったB、C、D、E、FおよびG鋼では、腰折れが発生することなく、2.5を超える穴拡げ性が得られている。
一方、炭素量が本発明の範囲を低く外れたA鋼は、巻取中の固溶炭素量が低減せず、腰折れが生じるとともに、YP−Elが大きい。また、炭素量が本発明の範囲を高く外れたH鋼では、材質が硬質化するとともに、YP−Elが大きいため腰折れが発生している。I鋼は、N量が本発明の範囲を大きく外れ、またB/Nも低く外れたために、固溶窒素が残存し、延性が低いばかりでなく、腰折れを防止することができない。また、J鋼では、N量は本発明の範囲内であるが、Bの添加量が低く、B/Nが本発明の範囲から低く外れたために腰折れが顕著であり、さらに穴拡げ性も良くない。また、B/Nが本発明の範囲から高く外れ、固溶Bが多く残存するN鋼でも、腰折れは発生していないが、強度が高過ぎる。Si量が本発明の範囲を高く外れたK鋼では、Siに起因したスケール疵が発生している。Mn量が本発明の範囲を低く外れたL鋼、およびS量が本発明の範囲を高く外れたM鋼は、熱間圧延でエッジ部に割れが生じた。なお、L鋼ではベイニティックフェライトが得られないため、穴拡げ性が低い。
【0027】
【発明の効果】
本発明により、熱延鋼板、特に黒皮材(無酸洗材)において、精整工程を通板することなく、腰折れの発生を防止することができるとともに、優れた穴拡げ性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Ar3 変態点〜(Ar3 変態点−150℃)の温度範囲を通過する際の冷却速度と腰折れ発生状況の関係を示す図である。
【図2】Ar3 変態点〜(Ar3 変態点−150℃)の温度範囲を通過する際の冷却速度と穴拡げ比の関係を示す図である。
【図3】巻取温度と腰折れの発生状況との関係を示す図である。

Claims (1)

  1. 重量比で、
    C:0.015〜0.06%、
    Si:0.1%以下、
    Mn:0.08〜0.5%、
    S:0.005〜0.015%、
    N:0.0035%以下
    を含み、さらにBを添加量の比で1<B/N<2を満足するように添加し、残部Feおよび不可避的不純物元素からなる鋼を連続鋳造にてスラブとした後、再加熱してから、あるいは鋳造後直ちに粗圧延を実施し、Ar3 変態点以上の温度域で仕上圧延を終了させ、かつその温度域から冷却を開始するが、その際にAr3 変態点〜(Ar3 変態点−150℃)の温度範囲を通過する際の冷却速度を50℃/s以上として300〜500℃の温度域まで冷却後、その温度域で巻き取ることを特徴とする腰折れが発生することのない表面性状に優れた良加工性熱延鋼板の製造方法。
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