JP3817456B2 - 鍛造用金型 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鍛造用金型に関し、鍛造成形時に、金型内部で発生する応力集中を拡散(分散)させて、鍛造成形の押圧回数を増大させると共に、金型の長寿命化による鍛造品の製造コストの低廉化を図ることができる鍛造用金型に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、鍛造成形においては、図示しない歯車の素材であるSCR420H、SCM420H等の金属材料(以下、「ワーク」と記載。)を、金型によって圧縮成形することにより、前記材料に塑性変形を与え、所望の形状に成形して鍛造品を生産する。
【0003】
例えば、図4に示す歯車成形用金型の上型100は、鍛造装置と組み合わせることにより所定の歯車を成形するための金型であり、中央部分には径の異なる貫通孔104及び106が上下に連通して設けられている。また、貫通孔106よりも径が小さい前記貫通孔104の内壁部分における下部には、歯車成形用溝108を備えた歯車成形部110が構成されている。
【0004】
ここで、前記上型100を鍛造装置と組み合わせ、前記上型100をワークの上方から押圧すると、前記ワークは塑性変形し、金型に設けられた前記歯車成形部110によって、該ワークの外周部には外歯が付いた所定の歯車が形成される。そのとき、前記ワークから前記上型100に荷重が作用する。
【0005】
上型100に作用する荷重は、前記ワークから上型100に作用する引張荷重と、前記引張荷重の反発力として上型100から前記ワークに作用する圧縮荷重である。なお、前記引張荷重が作用する方向は、上型100を中心とした放射方向であり、他方、前記圧縮荷重が作用する方向は、前記上型100の中心に向かう方向である。
【0006】
図5は、前記引張荷重及び前記圧縮荷重の分布を、有限要素法を用いて解析した結果である画像120を示す。
【0007】
この結果から、貫通孔104及び106の段差部分には、前記ワークから前記上型100に作用する引張荷重分布122が存在し、一方、前記上型100が鍛造装置にチャックされる部分には、前記上型100から前記ワークに作用する圧縮荷重分布124が存在していることが分かる。
【0008】
ここで、前記引張荷重分布122と前記圧縮荷重分布124の位置関係について考察する。前記引張荷重分布は、貫通孔104及び106の段差部分に局部的に発生しており、引張荷重に応じて前記貫通孔104及び106の内壁部分は容易に塑性変形される。特に、前記貫通孔104の内壁部分では、鍛造成形回数の増加に伴い、前記塑性変形が顕著に現れる。
【0009】
図6は、歯車成形部110を含む前記貫通孔104の内壁部分を拡大したものである。異なる部品サイズ、異なる形状、または異なる負荷荷重で使用される鍛造用金型においては、前記上型100の鍛造成形回数が増加すると、歯車成形部110は、前記ワークからの引張荷重によって徐々に摩耗される。他方、前記貫通孔104の表面には、前記引張荷重によって凹状部112が発生する。この凹状部112は、前記引張荷重分布122及び前記圧縮荷重分布124の間に発生する。
【0010】
前記凹状部112は、鍛造成形回数の増加に伴い応力が徐々に蓄積される。そのため、ある限度以上の応力が蓄積されると、凹状部112は歪みの一部となり、最終的には凹状の永久歪みとして、前記上型100の表面に残存する。このような凹状部112に素材が流動する場合、鍛造成形によって形成された歯車外周部における溝部には、凸状のバリが発生する。前記バリは目視できる程の大きなバリであるため、前記上型100を修正して前記凹状部112を除去する必要がある。
【0011】
従って、前記凹状部112の発生は、鍛造成形回数の低下と、鍛造品の歩留まりの低下と、鍛造製品の製造コストの増加をもたらす。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、鍛造用金型に関し、鍛造成形の過程で、異なる部品サイズ、異なる形状、または異なる負荷荷重で鍛造用金型の内部に発生する応力集中を拡散(分散)させて、鍛造成形回数を増大(長寿命化)させると共に、金型の長寿命化による鍛造品の製造コストの低廉化を図ることができる鍛造用金型を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る鍛造用金型は、異なる部品サイズ、異なる形状、または異なる負荷荷重で使用される鍛造用金型において、前記荷重は、金属材料からなる素材から前記金型に作用する引張荷重と、前記引張荷重の反発力である圧縮荷重とであり、鍛造成形時に前記金型内部に発生する前記各荷重を分散させると共に、前記各荷重の分布による応力集中を発生させ荷重分散用溝が、前記金型表面に設けられ、前記荷重分散用溝は、前記引張荷重の分布と前記圧縮荷重の分布との間における、該荷重分散用溝を設けない場合での前記金型内部の応力集中箇所の近傍に形成された歯車成形用溝から離間した位置に設けられることを特徴としている。前記荷重分散用溝を金型表面、例えば、荷重分散用溝を設けない場合における応力集中箇所の近傍に前記荷重分散用溝を設けることによって、該荷重分散用溝付近に前記応力集中(荷重分散用溝を設けない場合の応力集中)とは別の応力集中が発生し、金型にかかる荷重の分散を図ることができる。これにより、鍛造用金型に関し、鍛造成形の過程で、異なる部品サイズ、異なる形状、異なる負荷荷重で使用される鍛造用金型の内部に発生する応力集中を拡散(分散)させて、鍛造成形回数を増大させると共に、金型の長寿命化による鍛造品の製造コストの低廉化を図ることができる。
【0014】
また、引張荷重分布と圧縮荷重分布との間に該荷重分散用溝を設けることで、前記引張荷重分布と前記圧縮荷重分布とを分散させると共に、それらの荷重分布による応力集中を前記荷重分散用溝に発生させる。即ち、前記引張荷重分布と前記圧縮荷重分布を該荷重分散用溝の方向へ分散させる。これによって、前記引張荷重による金型表面への応力集中を効果的に分散化させ、鍛造成形回数の増加が可能となる。
【0015】
上記した効果以外にも、前記引張荷重分布と前記圧縮荷重分布とが近接することによって、それら荷重分布で金型に発生する曲げモーメントが低下し、たわみによる金型表面の塑性変形が抑制されるという効果も得られる。従って、前記荷重分散用溝の配設によって、鍛造用金型の押圧方向におけるサイズを減少することができ、該金型の製造コストの低減も実現できる。
【0016】
また、前記荷重分散用溝は、前記引張荷重によって前記金型の表面に発生する曲げモーメント及びたわみによる凹状部を抑制するための溝である。前記凹状部は、前記引張荷重によって発生し、該凹状部には前記引張荷重による応力集中が発生する。前記応力集中は、鍛造成形回数の増加に伴い金型表面の塑性変形を発生させるため、該金型では、最終的に摩耗や熱による型痩せやドグ歯刃先部の割れ、歯底部の摩耗が生じやすくなる。従って、前記荷重分散用溝を金型表面に設け、該荷重分散用溝に応力集中を発生させることによって、前記凹状部の発生は抑制されるので、金型形状の維持と鍛造成形回数の増加とを共に実現することが可能となる。
【0017】
なお、前記荷重分散用溝を、前記凹状部が発生すると予想される金型表面に設けると、前記凹状部の発生は効果的に抑制されるため、好適である。
【0018】
また、前記荷重分散用溝を有する鍛造用金型を構成する材料についても、該荷重分散用溝への応力集中によって金型の鍛造成形回数が増加するため、高硬度工具鋼を用いる必要はない。即ち、従来使用されている高速度工具鋼の替わりに、耐熱性を備えた高合金工具鋼等も好適に使用できる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る鍛造用金型を歯車成形用金型に適用した実施の形態例(以下、単に実施の形態に係る金型とも記す)について、図1〜図3を参照しながら説明する。
【0020】
本実施の形態に係る鍛造用金型10は、図1に示すように、円筒形の上型本体12を有して構成されている。
【0021】
前記金型10は、貫通孔14と歯車成形用溝18とを有する第1金型部10aと、貫通孔16を有する第2金型部10bと、第3金型部10cとから構成されている。そして、前記第1金型部10aと前記第2金型部10bには、MH85等の耐熱性を有する高合金工具鋼が好適に使用される。また、第3金型部10cには、SKD61等の高合金工具鋼が好適に使用される。そして、前記金型10は、第3金型部10cを形成した後に、第2金型部10bを形成し、最後に第1金型部10aを形成することによって作製される。
【0022】
また、前記上型本体12は、中央部分に径の異なる貫通孔14及び16が上下に連通して設けられ、上部に位置する径の小さい貫通孔14の内壁部分における下部に歯車成形用溝18が形成されて歯車成形部20が構成されている。
【0023】
特に、本実施の形態に係る鍛造用金型10は、該金型10による鍛造成形時に該金型10内部に発生する荷重を分散するための荷重分散用溝22が形成されている。この荷重分散用溝22は、図2に示すように、例えば幅10mm、深さ2mmを備える溝であり、歯車成形部20から25mm離れた貫通孔14の内周に沿って円環状に設けられている。そして、前記荷重分散用溝22は、例えば切削加工により、歯車成形用溝18から離間した位置に形成されている。なお、前記溝22の幅として上記した例では10mmとしたが、この幅は任意の大きさでよい。また、該溝22の形状は円環状に限定されず、半円状の切り込み等で構成することも可能であることは勿論である。
【0024】
そして、この荷重分散用溝22は、鍛造成形回数の増加によって、前記内壁面には図6に示す凹状部112の発生を抑制するために設けられる。
【0025】
即ち、前記凹状部112は、鍛造成形回数の増加に伴い応力が徐々に蓄積される。そのため、ある限度以上の応力が蓄積されると、凹状部112は歪みの一部となり、最終的には凹状の永久歪みとして、図4に示す上型100の表面に残存する。このような凹状部112に素材が流動する場合、鍛造成形によって形成された歯車外周部における溝部には、凸状のバリが発生する。前記バリは目視できる程の大きなバリであるため、鍛造用金型10を修正して前記凹状部112を除去する必要がある。従って、前記凹状部112の発生は、鍛造成形回数の低下と、鍛造品の歩留まりの低下と、鍛造製品の製造コスト増加をもたらす。それ故、前記荷重分散用溝22に応力集中を発生させて、前記凹状部112の発生を抑制させるのである。
【0026】
次に、本実施の形態に係る鍛造用金型10を用いて歯車を成形する工程について説明する。
【0027】
前記金型10を用いて歯車を成形するには、前記金型10を上型として鍛造装置(例えば、特開平8−276238号公報参照)と組み合わせた後、前記金型10を歯車の素材である金属材料(ワーク)の上方から押圧し、前記ワークを塑性変形させ、所定の歯車を成形することによって完成される。この鍛造成形時に、前記金型10に作用する荷重は、前記ワークから前記金型10に作用する引張荷重と、前記引張荷重の反発力として前記金型10から前記ワークに作用する圧縮荷重である。なお、前記引張荷重が作用する方向は、金型10を中心とした放射方向であり、他方、前記圧縮荷重が作用する方向は、前記金型10の中心に向かう方向である。
【0028】
図3は、前記引張荷重及び前記圧縮荷重の分布を、有限要素法を用いて解析した結果である画像30を示す。
【0029】
この結果から、貫通孔14及び16の段差部分には、前記ワークから前記金型10に作用する引張荷重分布32が発生し、一方、荷重分散用溝22周辺の広い部分に、前記金型10から前記ワークに作用する圧縮荷重分布34が発生していることがわかる。
【0030】
ここで、前記引張荷重分布32及び前記圧縮荷重分布34と、図5に示す従来技術に基づく上型100の引張荷重分布122及び圧縮荷重分布124とをそれぞれ比較すると、荷重分散用溝22を貫通孔14の内壁面に設けることによって、前記引張荷重分布32及び前記圧縮荷重分布34を前記荷重分散用溝22の近辺にまで分散させることができる。
【0031】
その結果、荷重分散用溝22に応力集中が発生し、貫通孔14の他の内壁面における応力集中を低減することができる。従って、前記荷重分散用溝22の配設によって凹状部112の発生は抑制され、鍛造成形回数が増加し、鍛造用金型10の長寿命化が図られ鍛造品の製造コストの低廉化を有効に図ることができる。
【0032】
特に、前記引張荷重分布32と前記圧縮荷重分布34との間に荷重分散用溝22を設けることで、前記圧縮荷重分布34を前記引張荷重分布32の方向に分散することから、両者の分布を前記荷重分散用溝22へ近接させることができる。そのため、これらの荷重分布で金型10に発生する曲げモーメントは低下し、たわみによる貫通孔14の表面における凹状部112の発生が抑制される。従って、前記荷重分散用溝22の配設によって、金型10の押圧方向におけるサイズを減少でき、該金型10の製造コスト低減も実現できる。即ち、前記金型10の押圧方向のサイズは、従来の金型と比較して、約25%低減される。
【0033】
また、前記荷重分散用溝22の配設によって、鍛造成形回数が増加するため、第1金型部10aを構成する材料には、高速度工具鋼のような高硬度材料を使用しなくても構わない。本実施の形態で用いたMH85等の耐熱性を有する高合金工具鋼等も好適に使用できる。
【0034】
なお、上述の例は、本発明に係る鍛造用金型の一実施の形態として、歯車成形用の鍛造用金型について説明したが、前記歯車成形用以外の鍛造用金型にも適用できることは勿論である。また、鍛造成形方法についても、金型の材質を変えることによって、熱間鍛造に限らず、冷間鍛造を初め、爆発成形、放電成形、電磁成形等にも適用可能である。
【0035】
更に、この発明に係る鍛造用金型は、上述の実施の形態に限らず、この発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることは勿論である。
【0036】
【発明の効果】
以上、説明した本発明に係る鍛造用金型によれば、鍛造用金型に関し、鍛造成形の過程で、異なる部品サイズ、異なる形状、または異なる負荷荷重で使用される鍛造用金型の内部に発生する応力集中を拡散(分散)させて、鍛造成形回数を増大させると共に、金型の長寿命化による鍛造品の製造コストの低廉化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る鍛造用金型を示す縦断面図である。
【図2】荷重分散用溝を示す縦断面図である。
【図3】鍛造成形において、本実施の形態に係る金型の内部に発生する荷重の解析結果の画像を示す縦断面図である。
【図4】従来例に係る歯車成形用金型を示す縦断面図である。
【図5】鍛造成形において、従来例に係る歯車成形用金型の内部に発生する荷重の解析結果の画像を示す縦断面図である。
【図6】金型表面に発生する凹状部と歯車成形部における摩耗を示す縦断面図である。
【符号の説明】
10…鍛造用金型 10a…第1金型部
10b…第2金型部 10c…第3金型部
12…上型本体 14、16、104、106…貫通孔
18、108…歯車成形用溝 20、110…歯車成形部
22…荷重分散用溝 30、120…画像
32、122…引張荷重分布 34、124…圧縮荷重分布
100…上型 112…凹状部

Claims (2)

  1. 異なる部品サイズ、異なる形状、または異なる負荷荷重で使用される鍛造用金型において、
    前記荷重は、金属材料からなる素材から前記金型に作用する引張荷重と、前記引張荷重の反発力である圧縮荷重とであり、
    鍛造成形時に前記金型内部に発生する前記各荷重を分散させると共に、前記各荷重の分布による応力集中を発生させ荷重分散用溝が、前記金型表面に設けられ
    前記荷重分散用溝は、前記引張荷重の分布と前記圧縮荷重の分布との間における、該荷重分散用溝を設けない場合での前記金型内部の応力集中箇所の近傍に形成された歯車成形用溝から離間した位置に設けられていること
    を特徴とする鍛造用金型。
  2. 請求項記載の鍛造用金型において、
    前記荷重分散用溝は、前記引張荷重によって前記金型の表面に発生する曲げモーメント及びたわみによる凹状部を抑制するための溝であること
    を特徴とする鍛造用金型。
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