JP3815758B2 - 重荷重用空気入りタイヤ - Google Patents

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、走行時の騒音を長期に亘り低減した重荷重用空気入りタイヤに関する。
【０００２】
【従来の技術】
近年、自動車に起因する公害問題として騒音が取り上げられ、タイヤが走行中に発する騒音は、主としてタイヤのトレッドと路面間においてトレッドに設けられた溝から排出される空気に伴う音である。タイヤのトレッドは、左右に入りくんだ山と谷からなる溝に区分されたリブ、ブロックなどの陸部と、これらに適宜設けたサイプなどのトレッド構成要素を周方向にエンドレスに配列して形成される。
【０００３】
タイヤが走行するとタイヤの回転に伴い接地面内において、かかるリブまたはラグ間の溝およびサイプ内の空気が振動するため、トレッド構成要素が１秒間に何回接地するかによってその音の高さ、即ち周波数が決まり、ある高さの音となって人の耳に入ってくる。そこで通常、長さが異なる複数のトレッド構成要素、即ちピッチを用いて周波数変調論などに基づくピッチバリエーション手法をトレッド構成要素に適用することにより、特定の周波数を分散させて気にならない音にすることがなされてきた。
【０００４】
一方、高速道路網の目覚ましい整備により高速走行する機会が増え、この場合懸念される耐ウエットスキッド性への配慮から、トレッドの陸部を区分する溝は広幅の直線状周方向溝が基調として用いられるようになってきた。このような周方向溝は溝内に気柱管共鳴が生じ、新たな騒音悪化問題の一因となってきた。気柱管共鳴とは、タイヤの接地転動中に溝幅が踏み込み部／蹴り出し部で、外力の作用によって急変動するのに伴い、溝壁（または陸部壁）に高周波振動が発生し、それが接地面における周方向溝内、即ち管内の空気を振動させ、それに基づく音響的共鳴作用によって騒音が悪化することである。
【０００５】
この気柱管共鳴による騒音の悪化を防止することを目的として、特にトラック・バス用の重荷重用空気入りタイヤにおいては、トレッドゴムの一部が溝壁または溝底から空気の流れを遮る方向に延びる柔軟なグルーブフェンスまたは遮断物を周方向に所定間隔をもって設けることが行われている。従来のグルーブフェンスは、図６に示すように、周方向溝の両壁２から陸部をなすゴムの一部が中央に１ｍｍ程度のスペースを残して延びた両開き扉タイプで、荷重走行時にはこの扉が閉じて上述の気柱管共鳴を遮断するものが一般的である。
【０００６】
【発明が解決しようとする課題】
図６に示すような従来のグルーブフェンスは、上述の気柱管共鳴を低下させるという点では効果があるものの、荷重時に溝幅が縮小した際に、両扉の突起物同士が当接して変形し、その結果、図９に示すように、走行とともに突起物３の根本にクラック４が発生し、そのクラックが進展すると、突起物自体が取れてしまう等の問題があった。
【０００７】
そこで本発明の目的は、走行時の騒音問題の原因となる気柱管共鳴をグルーブフェンスにより低減させるとともに、走行により該グルーブフェンスにクラックが発生することのない重荷重用空気入りタイヤを提供することにある。
【０００８】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、荷重時にグルーブフェンスの突起物同士が当接して変形しない特定条件下でグルーブフェンスを設けることにより、周方向溝を遮蔽して気柱管共鳴を低減させる効果を損なうことなくクラック発生や突起物の損傷を防止することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【０００９】
即ち、本発明の重荷重用空気入りタイヤは以下の通りである。
（１）周方向に延びる複数の周方向溝とこれら周方向溝によって区分された陸部とを含み、上記周方向溝にこの溝を遮る方向に延びるグルーブフェンス部を有するトレッドを備えた重荷重用空気入りタイヤにおいて、
上記グルーブフェンス部が、溝壁および／または溝底から延びる少なくとも２枚の突起物からなり、通常の内圧時に互いの突起物間の隙間がタイヤ幅方向に０．５〜２．０ｍｍであり、かつ荷重時に突起物同士が当接しないように周方向に０．４〜３．０ｍｍのずれを有することを特徴とする重荷重用空気入りタイヤである。
【００１０】
ここで、「通常の内圧」とは、下記標準規格機関によって指定された規格に規定された標準タイヤ内圧であって、JATMA YEAR BOOKにおいては「最大負荷能力に対応する空気圧（最高空気圧）」をいう。
また、「荷重時」の荷重とは、下記標準規格機関によって指定された規格に規定された標準タイヤ荷重であって、例えば、JATMA YEAR BOOKにおいては最高負荷能力（最大荷重）をいう。
加えて、ここで規格とは、当該タイヤの使用地または製造地における標準規格機関によって指定された現行における規格により規定されている。例えば、アメリカ合衆国では「TRA(THE TIRE AND RIM ASSOCIATION)」による「YEAR BOOK」、欧州では「ETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organization)」による「STANDARDS MANUAL」、日本ではJATMA（日本自動車タイヤ協会）による［JATMA YEAR BOOK］である。
【００１１】
（２）上記重荷重用空気入りタイヤにおいて、上記グルーブフェンス部が、タイヤ走行時に形成される接地面内の各周方向溝に該グルーブフェンス部が常時実質上１箇所だけ含まれる周方向間隔をもって設けられているとともに、上記グルーブフェンス部は各周方向溝間で周方向に位相差をもって設けられている重荷重用空気入りタイヤである。
【００１２】
（３）上記重荷重用空気入りタイヤにおいて、上記グルーブフェンスの高さが周方向溝深さの７０％以上１００％未満である重荷重用空気入りタイヤである。
【００１３】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図１〜４に基づき具体的に説明する。
本発明において、トレッドの周方向溝１を遮る方向に延びるグルーブフェンスは、溝壁２や溝底から延びる少なくとも２つの突起物３からなり、通常の内圧時における互いの突起物間の隙間ｔがタイヤ幅方向に０．５〜２．０ｍｍであり、かつ荷重走行時に突起物同士が当接しないように周方向に０．４〜３．０ｍｍのずれｓを有する。
【００１４】
突起物間の隙間ｔが０．５ｍｍ未満であると排水性に問題があり、一方２．０ｍｍを超えると荷重時にも隙間ｔが存在し、気柱管共鳴の低減効果が不十分となる。また、周方向のずれｓが０．４ｍｍ未満であるとタイヤにサイドフォース等の斜めの入力があったとき、突起物同士がぶつかってしまい、変形によるクラック発生を回避することができず、一方３．０ｍｍを超えるとそこから音が抜けてしまい、気柱管共鳴の低減効果が不十分となる。なお、突起物の周方向の厚みは、周方向溝内における水の流通維持の見地より１〜４ｍｍであることが好ましい。即ち、空気によっては開かず、水圧によって開く程度の剛性を有するようにして排水性を確保する。
【００１５】
図１の（イ）にタイヤ幅方向の断面図として、また（ロ）に平面図として示すグルーブフェンスの好適例においては、周方向溝１の両溝壁２から陸部をなすゴムの一部が中央に延び、ずれｓを有する両開き扉タイプとなっている。具体的寸法としては、例えばｈ＝１４．０ｍｍ、ｄ＝２．０ｍｍ、ｗ＝１１．０ｍｍ、ｔ＝１．０ｍｍ、ｓ＝０．６ｍｍとすることができる。また、図２に示す他の好適例においては、突起物の形状が非対称となっているが、この場合も、突起物上端間の隙間ｔおよびずれｓが上記範囲内である限り、荷重時に突起物同士がぶつかってしまうことがなく、本発明の効果を得ることができる。図３に示す他の好適例においては、突起物の形状が夫々凹形態と凸形態となっており、荷重時に突起物同士がぶつかることのないようになっている。この場合、ずれｓはｓ₁とｓ₂の合計の長さである。図４に示す更に他の好適例においては、一のグルーブフェンスに突起物が３つあり、溝壁２から延びる一対の突起物と、これら突起物の間で溝底から延びる１の突起物とからなる。この場合、突起物間の距離ｔは、ｔ₁とｔ₂の合計の距離である。なお、突起物の上辺は平坦である必要はなく、例えば傾斜を設けてもよい。
【００１６】
本発明の重荷重用空気入りタイヤにおいては、上述のグルーブフェンスは、タイヤ走行時に形成される接地面内の各周方向溝に該グルーブフェンスが常時実質上１箇所だけ含まれる周方向間隔をもって設けることが好ましい。このように、グルーブフェンス部が走行時接地面内において各周方向溝毎に複数含まれないようにすることで、溝内で圧縮された空気がはじけ出されるときのポンピング音の発生を回避することができる。
【００１７】
また、上記グルーブフェンスを各周方向溝間で周方向に位相差をもって設けることが好ましい。グルーブフェンスを位相差をもって設けた場合、周方向溝相互間の騒音のピークが分散し、即ち騒音の周波数帯をずらすことができ、またグルーブフェンスを周方向に互いに近接配置して構成することによって、より高い溝内の空気振動の伝播抑制効果を得ることができる。さらには、湿潤路面走行時には、グルーブフェンスが接地面内に複数含まれることがないことから周方向溝内の水の流通が実質上阻害されることがない。
【００１８】
さらに、上記グルーブフェンス部の高さを周方向溝深さｈの７０％以上１００％未満とすることが好ましい。気柱管共鳴はタイヤ転動時の周方向溝壁（または陸部壁）の高周波振動が周方向溝内の空気に伝播して発生する。このため、グルーブフェンスの高さを周方向溝の１００％とすると、周方向溝壁（または陸部壁）の振動をグルーブフェンスまで伝播してしまうため、周方向溝内の空気まで振動させてしまい十分な騒音抑制効果が得られず、また周方向溝の水の流通を十分に確保することが困難となり耐ウエットスキッド性を損なうおそれがある。但し、この周方向溝深さが７０％未満であると気柱管共鳴による騒音の悪化を防止する効果が十分に得られない。
【００１９】
【実施例】
実施例１〜４
図１〜４に示すものでかつ下記の表１に示す条件のグルーブフェンスを夫々４本の直線状周方向溝の夫々に、走行時の接地面内に該グルーブフェンスが常時実質上１箇所だけ含まれる周方向間隔をもって、かつ各周方向溝間で周方向に位相差をもって設けて、２４５／７０Ｒ１９．５サイズのラジアル構造のタイヤを試作した。このタイヤを実車に装着して騒音試験を行った。また、ドラム１０万ｋｍ走行後のグルーブフェンスの損傷の状態を調べた。
【００２０】
比較例１
図５に示すようにグルーブフェンスを全く有していない他は実施例と同様にしてタイヤを試作し、実施例と同様の試験を行った。
【００２１】
比較例２
図６に示すグルーブフェンスであって、周方向溝の両壁から突起物が両開き扉状に延び、荷重時には両突起物が図９に示すようにぶつかってしまうグルーブフェンスを用いた他は実施例と同様にしてタイヤを試作し、実施例と同様の試験を行った。
【００２２】
比較例３
図７に示すグルーブフェンスであって、周方向溝の両壁から突起物が両開き扉状に延び、荷重時にも両突起物間に隙間が存在するグルーブフェンスを用いた他は実施例と同様にしてタイヤを試作し、実施例と同様の試験を行った。
得られた結果を下記の表１に併記する。
【００２３】
【表１】

＊図８においてｔで示す距離をマイナスを付けて表わした。
【００２４】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明の重荷重用空気入りタイヤにおいては、走行中の騒音を低減効果を長期に亘り維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明に係るグルーブフェンスの一例を示す断面図である。
【図２】グルーブフェンスの他の例を示す断面図である。
【図３】グルーブフェンスの他の例を示す断面図である。
【図４】グルーブフェンスの他の例を示す断面図である。
【図５】比較例１としてグルーブフェンスのない例を示す断面図である。
【図６】比較例２のグルーブフェンスを示す断面図である。
【図７】比較例３のグルーブフェンスを示す断面図である。
【図８】荷重時における本発明に係るグルーブフェンスの状態を示す平面図である。
【図９】荷重時における図６のグルーブフェンスの状態を示す平面図である。
【符号の説明】
１ 周方向溝
２ 溝壁
３ 突起物
４ クラック

Claims (6)

1. 周方向に延びる複数の周方向溝とこれら周方向溝によって区分された陸部とを含み、上記周方向溝にこの溝を遮る方向に延びるグルーブフェンス部を有するトレッドを備えた重荷重用空気入りタイヤにおいて、上記グルーブフェンス部が、溝壁および／または溝底から延びる少なくとも２枚の突起物からなり、通常の内圧時に互いの突起物間の隙間がタイヤ幅方向に０．５〜２．０ｍｍであり、かつ荷重時に突起物同士が当接しないように周方向に０．４〜３．０ｍｍのずれを有することを特徴とする重荷重用空気入りタイヤ。
2. 前記グルーブフェンス部が２枚の突起物からなり、該２枚の突起物の形状が非対称である請求項１記載の重荷重用空気入りタイヤ。
3. 前記グルーブフェンス部が２枚の突起物からなり、該２枚の突起物の形状が夫々凹形態と凸形態とをなす請求項１記載の重荷重用空気入りタイヤ。
4. 前記グルーブフェンス部が、溝壁から延びる一対の突起物と、該一対の突起物間で溝底から延びる一枚の突起物とからなる請求項１記載の重荷重用空気入りタイヤ。
5. 上記グルーブフェンス部が、タイヤ走行時に形成される接地面内の各周方向溝に該グルーブフェンス部が常時実質上１箇所だけ含まれる周方向間隔をもって設けられているとともに、上記グルーブフェンス部は各周方向溝間で周方向に位相差をもって設けられいる請求項１〜４のうちいずれか一項記載の重荷重用空気入りタイヤ。
6. 上記グルーブフェンスの高さが周方向溝深さの７０％以上１００％未満である請求項１〜４のうちいずれか一項記載の重荷重用空気入りタイヤ。

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