JP5815706B2 - 空気入りタイヤ用トレッド - Google Patents

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Description

本発明は、空気入りタイヤ用トレッドに関し、詳しくは、トレッドの主溝にフレキシブルフェンスを形成して気柱共鳴音を低減し、排水性能を維持しつつ、フレキシブルフェンスとトレッド部を同程度に摩耗させることが出来る空気入りタイヤ用トレッド、およびそのようなトレッドを有する空気入りタイヤに関する。
タイヤのトレッドに形成された主溝の気柱共鳴音は、その主溝と路面とで形成される管内(気柱)の共鳴により発生し、その共鳴周波数は、路面との間で形成される主溝の気柱の長さに依存する。
この気柱共鳴音は車輌内外の騒音という形で現れ、多くの場合人間の耳に届きやすい1kHz前後にそのピークを持つ。この主溝の気柱共鳴音を低減させる技術として、主溝の溝壁や溝底から延び、主溝の全て、もしくは大半を遮断する、いわゆるフレキシブルフェンス、つまり突起物を設け、主溝の形成方向の空気の流れを遮ることにより、気柱共鳴音を低減させるようにする技術が知られている。しかしながら、主溝の形成方向の空気の流れを遮ることにより、濡れた路面を走行した際に、主溝内に入り込んだ水の主溝内の流れもが遮られることになり、空気入りタイヤと路面との間に介在する水の排水性が低下するため、濡れた路面での操縦安定性が低下する。
特許文献1の図4には、主溝内に、その溝内の対向する溝壁及び溝底からそれぞれ延びる3つのグルーブフェンス3(フレキシブルフェンス)を互いに隙間を設けて配置することにより、気柱共鳴音の低減と排水性を両立させるようにした技術が開示されている。
また、特許文献2の図3には、主溝内の溝底から延びる隔壁30(フレキシブルフェンス)を、主溝開口部からの大部分を溝壁に接触しないように配置することにより、気柱共鳴音の低減と排水性を両立させるようにした技術が開示されている。
特開平11−105511号公報 特開2006−341655号公報
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に開示された技術では、フレキシブルフェンスを機能させるために、フレキシブルフェンスのタイヤ周方向の厚みが薄く変形しやすいものとなっている。そのため、使用する材料によっては、走行を重ねていった際、変形し易いフレキシブルフェンスがトレッド部に比べて摩耗しにくく、フレキシブルフェンスとトレッド部との摩耗量に差異が生じることになる。このような摩耗量の差異に起因して、フレキシブルフェンスがトレッド部の表面(トレッド踏面を形成するトレッドの面)から突出するようになり、走行時、そのようなトレッド面から突出するようになったフレキシブルフェンスが路面を叩いて異音が発生するという問題点がある。このような異音の発生は、気柱共鳴音を低減させて騒音を低下させるという、上述したフレキシブルフェンスの本来の役割に反するものである。また、このようなフレキシブルフェンスのトレッド部からの突出によってフレキシブルフェンスの意図しない部分が路面と接地することなどにより、フレキシブルフェンスが早期に摩耗或いは破損してしまうという問題点がある。
そこで本発明は、上述した従来技術が抱える問題点を解決するためになされたものであり、排水性能を維持しつつ、フレキシブルフェンスのトレッド部からの突出を抑制し、また、フレキシブルフェンスの早期摩耗に起因する気柱共鳴音低減効果の低下を抑制することが出来る空気入りタイヤ用トレッド及びそのトレッドを有する空気入りタイヤを提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、本発明は、タイヤ転動時に路面と接触する、ゴム組成物により形成された空気入りタイヤ用トレッドであって、底面及び対向する2つの壁面を有し且つ深さD及び幅Wを有する少なくとも一本の主溝が形成されたトレッド部と、複数のフレキシブルフェンスであって、厚さEを有し、主溝の断面積の少なくとも70%を遮るように主溝内で延び、且つ、タイヤ転動時、トレッド踏面内の主溝内に少なくとも1つ存在するような間隔で配置された、複数のフレキシブルフェンスと、を有し、複数のフレキシブルフェンスは、少なくともトレッド部のゴム組成物と異なるフェンス用ゴム組成物により形成され、フレキシブルフェンスのフェンス用ゴム組成物は、トレッド部のゴム組成物の摩耗性指数に対し2倍以上の摩耗性指数を有することを特徴としている。
このように構成された本発明においては、主溝内に形成され、主溝の断面積の少なくとも70%を遮断し、タイヤ転動時、トレッド踏面内の主溝内に少なくとも1つ存在するような間隔で配置されるフレキシブルフェンスにより、路面との間で形成される主溝の気柱の長さを、フレキシブルフェンスを形成しない場合に対して変更して、気柱共鳴音のピークを人間の耳に届きやすい周波数帯から外すことが容易になり、その結果、気柱共鳴音による騒音が改善される。
さらに本発明においては、フェンス用ゴム組成物に、トレッド部を形成するゴム組成物の摩耗性指数の2倍以上の摩耗性指数を有するゴム組成物を使用しているため、フレキシブルフェンスをトレッド部と同程度に摩耗させることができる。当業者であれば、本明細書を読んだ後、トレッド部のゴム組成物の摩耗性指数に対し2倍以上の摩耗性指数を有するフェンス用ゴム組成物を得るために、フェンス用ゴム組成物を構成する成分として、例えば、従来のトレッドのゴム組成物より相対的に高い、代表例として50phr以上の、1μmよりも大きな中央値粒度(重量平均)を有する微粒子(非補強用)を充填剤として使用するなどの方法により、ゴム組成物の配合を適宜調整して、トレッド部と同程度に摩耗し易いフェンス用ゴム組成物の配合を得ることは可能であろう。
当業者には周知であるように、1μmよりも大きな中央値粒度(重量平均)を有する微粒子は、非補強用充填剤とも呼ばれ、補強性を全く、もしくはほとんど有しないため摩耗性指数が高くなり、このような微粒子を含有するゴム組成物の摩耗速度は速くなる。このような微粒子には、例えばチョーク、天然ケイ酸塩、沈降シリカ、アルミナ、化学合成により得られた充填剤、硫酸バリウム塩、金属酸化物(Mg、Zn、Alなど)およびそれらの混合物のような無機充填剤や、短繊維、熱可塑性繊維、生分解性化合物、セルロース誘導体およびそれらの混合物のような有機充填剤などがある。なお、このような微粒子は、トレッド部には、全く、もしくはほとんど使われないこと、例えば40phr未満、より好ましくは30phr未満であることが好ましい。
微粒子の粒度測定および中央値粒度(もしくはほぼ球状であると推測される微粒子の見掛けの中央値直径)測定に関しては、例えばレーザー回折(例えばISO-8130-13またはJIS K5600-9-3 参照)など、既知の様々な手法を使用することができる。好ましくは機械的スクリーニングによる粒度分析を単純に使用し得る。操作は、規定量のサンプル(例えば、200g)を、振動テーブル上で、種々のスクリーン直径によって(例えば、累進比率1.26に従って、1000,800,630,500,400、…、100,80,、63μmとメッシュサイズを変化させることによって)30分間スクリーニングすることからなる。各スクリーン上で集めた超過サイズを精密天秤で秤量し、この秤量から、物質の総質量に対する各メッシュ直径における超過サイズの%を推定し、最後に、質量による中央値粒度(または見掛けの中央値直径)または平均粒度(または見掛けの平均直径)を、粒度分布のヒストグラムから既知の方法で算出する。
また、フェンス用ゴム組成物の摩耗性指数を、トレッド部を形成するゴム組成物の摩耗性指数の2倍とする方法の他の例として、上述したような非補強用充填剤を添加すると共に或いは添加せずに、フェンス用ゴム組成物を構成する成分のうち補強用充填剤を相対的に低い量、代表例として50phrより少なくすると同時に、好ましくはトレッド部を形成するゴム組成物を構成する成分のうち補強用充填剤を相対的に高い量、代表例として70phrより多くすることもできる。
ここで、タイヤ転動中、フレキシブルフェンスがトレッド踏面を通過時に直接路面と接触する状態のとき、フレキシブルフェンス先端部が路面と接触した際に受ける反力により、路面とフレキシブルフェンスとの間で接地圧力及び滑りを生じる。本発明においては、フェンス用ゴム組成物の摩耗性指数がトレッド部のゴム組成物の摩耗性指数よりも大きいため、フレキシブルフェンスの変形に起因して接地圧力及び滑り量が小さくなっても、効果的に摩耗を生じさせることができ、その結果、トレッド部の摩耗量と同程度にフレキシブルフェンスを摩耗させることが出来る。言い換えると、フェンス用ゴム組成物の摩耗性指数をトレッド部のゴム組成物の摩耗性指数の2倍より小さくすると、フレキシブルフェンスが路面と接触した際に発生する接地圧力及び滑り量が小さい場合に摩耗しにくく、トレッド部と同程度にフレキシブルフェンスを摩耗させることができなくなってしまうのである。この2倍以上の摩耗性指数は、本発明者らが、上述した、気柱共鳴音を低減し、排水性能を維持しつつ、フレキシブルフェンスをトレッド部と同程度に摩耗させる空気入りタイヤ用トレッドの開発にあたり、そのような作用(特に、排水性能、フレキシブルフェンスの摩耗性能)を評価する過程で適切なものとして見出した数値であり、その数値を上記範囲(2倍以上)とすれば、上述した作用が効果的に得られることを解析及び実験により見出したものである。
フレキシブルフェンスを備えたタイヤトレッドを製造する方法としては、例えば本出願人による2009年の特許出願(2010年10月23日公開の国際公開第WO2010/146180号)に記載の方法などがある。
ここで、「溝」とは、通常の使用条件下で相互に接触することのない二つの対向する面(壁面)を、他の面(底面)により接続して構成された、幅及び深さを持つ空間のことをいう。
また、「主溝」とは、流体の排水を主に受け持つ、トレッドに形成される種々の溝の中で比較的広い幅を持つ溝のことをいう。主溝は、多くの場合、直線状、ジグザグ状又は波状にタイヤ周方向に延びる溝を意味するが、タイヤ回転方向に対して角度を持って延びる、流体の排水を主に受け持つ比較的広い幅を持つ溝も含まれる。
また、「トレッド踏面」とは、タイヤを下記の産業規格で定められている適用リムに装着すると共に、定格内圧を充填し、定格荷重を負荷した際に路面と接触するトレッドの表面領域のことをいう。
また、「規格」とは、タイヤが生産または使用される地域に有効な産業規格によって定められるものである。例えば、産業規格は、欧州ではETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organization)の“STANDARDS MANUAL”であり、米国ではTRA(THE TIRE AND RIM ASSOCIATION INC.)の“YEAR BOOK”であり、日本では日本自動車タイヤ協会(JATMA)の“JATMA YEAR BOOK”である。また、「適用リム」とは、タイヤのサイズに応じてこれら規格に規定されたリムをいい、「定格内圧」とは、これらの規格において、負荷能力に対応して規定される空気圧をいい、「定格荷重」とは、これらの規格において、タイヤに負荷することが許容される最大の質量をいう。
また、「ゴム組成物の摩耗性」とは、JIS K6264−1およびJIS K6264−2に準拠して測定する、アクロン摩耗試験において得られるゴム組成物の摩耗体積のことをいう。ゴム組成物の摩耗体積は、前述した規格に基づき、アクロン摩耗試験機を用いて、加硫ゴム試験片の本試験運転の前後での質量の差から求められる。研磨輪の回転数は予備運転500回転、本試験3000回転とし、試験片と研磨輪との間には15度の傾角が与えられる。試験片は27.0Nの付加力で研磨輪に押し付けられ、試験片の回転速度は毎分100回転である。また、「摩耗性指数」とは、前記「ゴム組成物の摩耗性」を指数化したものであり、数値が大きいほど、摩耗体積が大きいすなわち摩耗速度が速い(摩耗し易い)ことを示す指数のことをいう。この「摩耗性指数」は、複数のゴム組成物の摩耗性を互いに比較するために設けられたものであり、上述した摩耗試験で得られた結果から、基準として所定のゴム組成物の摩耗性の数値を例えば1.00と換算し、一方、比較対象のゴム組成物の摩耗性の数値を同じ換算比率で算出することにより得られる数値である。摩耗性指数の数値が2倍である場合、比較対象のゴム組成物は基準となるゴム組成物より2倍早く摩耗することを示している。
ゴム組成物の各種構成成分の含有量はphr(エラストマーもしくはゴム100質量部当たりの質量部)で表される。更に、特に明示しない限りは割合(パーセント、%)は重量%を表し、「aとbの間」で表される間隔はaより大きくかつbより小さい(上限下限数値を含まない)ことを表し、また「aからbまで」で表される間隔はa以上b以下(上限下限数値を含む)であることを表す。
また、「“ジエン”エラストマーまたはゴム」とは、知られている通りに、ジエンモノマー(共役型または共役型でない二個の炭素−炭素二重結合を有するモノマー)に少なくとも一部由来するエラストマー(または数種のエラストマー)、即ち、ホモポリマーまたはコポリマーのことをいう。
本発明において、好ましくは、フレキシブルフェンスを形成するフェンス用ゴム組成物の摩耗性指数が、トレッド部のゴム組成物の摩耗性指数に対し4倍以上且つ20倍以下である。このように構成された本発明においては、気柱共鳴音の低減を図りながら、排水性を確保し、より確実にトレッド部と同程度にフレキシブルフェンスを摩耗させることが出来る。即ち、フェンス用ゴム組成物の摩耗性指数を、トレッドを形成するゴム組成物の摩耗性指数の20倍よりも大きくすると、フレキシブルフェンスの摩耗速度が大きすぎることに起因して、主溝内のフレキシブルフェンスが早期に摩耗してしまい、フレキシブルフェンスによる気柱共鳴音の低減効果が低下する恐れがある。
本発明において、好ましくは、フレキシブルフェンスの厚さEは0.3mm以上1.0mm以下である。
このように構成された本発明においては、気柱共鳴音の低減を図りながら、排水性を確保し、トレッド部と同程度にフレキシブルフェンスを摩耗させることが出来る。即ち、フレキシブルフェンスの厚さを0.3mmよりも小さくすると、フレキシブルフェンスの寸法的な剛性の低下により、空気圧によってもフレキシブルフェンスが倒れ込んでしまい、気柱共鳴音の低減効果が減少する恐れがある。また、そのような倒れ込みにより、フレキシブルフェンスが地面と接触しにくくなるので、フレキシブルフェンスの摩耗の速さがトレッド部の摩耗の速さに対して著しく低下し、フレキシブルフェンスがトレッド部から突出する恐れがある。一方、フレキシブルフェンスの厚さを1.0mmよりも大きくすると、フレキシブルフェンスが主溝内に倒れこんだ際の主溝の断面の開口割合が小さくなり、排水性が低下する恐れがある。
本発明による空気入りタイヤトレッド及びそのトレッドを有する空気入りタイヤによれば、気柱共鳴音を低減し、排水性能を維持しつつ、トレッド部と同程度にフレキシブルフェンスを摩耗させることが出来る。
本発明の一実施形態による空気入りタイヤ用トレッドを模式的に示す図である。 図1のII−II線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドの拡大断面図である。 図1のIII−III線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドの拡大断面図である。 図2と同様に示す、図1のII−II線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドの拡大断面図であり、濡れた路面を走行中の状態を模式的に示す図である。 図3と同様に示す、図1のIII−III線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドの拡大断面図であり、濡れた路面を走行中の状態を模式的に示す図である。 図3と同様に示す、図1のIII−III線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドの拡大断面図であり、トレッド部の溝深さが約30%摩耗した状態を模式的に示す図である。
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。
先ず、図1及至図3により、本発明の一実施形態による空気入りタイヤ用トレッド及びそのトレッドを有する空気入りタイヤを説明する。
図1は、本発明の一実施形態による空気入りタイヤのトレッド部を模式的に示す図であり、図2は、図1のII−II線に沿って見た空気入りタイヤのトレッド部の拡大断面図であり、図3は、図1のIII−III線に沿って見た空気入りタイヤのトレッド部の拡大断面図である。
先ず、図1に示すように、符号1は、本実施形態による空気入りタイヤ用トレッド1を示し、この空気入りタイヤ用トレッド1は、トレッド部2と、後述するフレキシブルフェンス4とを有する。トレッド部2には、XX‘にて示すタイヤ周方向に延びる幅Wの二本の主溝3が形成されている。主溝3は、3つの面、即ち、対向する壁面31、32及び底面(底部)33を有する。なお、この例におけるタイヤサイズは225/55R16であり、トレッド部2のタイヤ回転方向は規定されていない。本実施形態においては、対向する壁面31、32はそれぞれタイヤ半径方向に垂直に延び、溝幅Wは14.5mmであり、溝深さDは8.0mmである。
この図上には、タイヤが定格内圧に充填され、定格荷重が負荷された際のトレッド踏面5及びその際のトレッド踏面長さLが図示されている。なお“ETRTO STANDARD MANUAL 2011”によれば、当該サイズの適用リムは7J、定格内圧は250kPa、定格荷重は690kgであり、本実施形態においては、踏面長さLは143mmである。
ここで、タイヤ転動中に、トレッド踏面5を通過する各主溝3は、路面との間に気柱を形成し、主溝3の共振周波数は、そのようにして形成された気柱の長さに依存する。本実施形態では、気柱の長さを変化させて気柱共鳴音の周波数を変化させるために、図1乃至図3に示すように、主溝3内にフレキシブルフェンス4が設けられている。図1に示すように、同一の主溝3内に形成される各フレキシブルフェンス4の設置間隔Pは、タイヤ転動中に、少なくとも一つのフレキシブルフェンスが各主溝3の踏面5内に常に存在するように、踏面長さLよりも短い間隔とされている。
次に、図2及び図3に示すように、このフレキシブルフェンス4は、その基底部41が、主溝3の溝底部33に図示するように接続され、図3に示すように、フレキシブルフェンス4がタイヤ半径方向(タイヤ回転軸に対して垂直方向)に延びるように設けられている。また、図2に示すように、フレキシブルフェンス4の両側の側面部42は、上述した接続部(33)を除き、その全体が、主溝3の対向する壁面31,32と所定の隙間を有するよう設けられている。
図1に示すように、フレキシブルフェンス4は、主溝3が延びる方向に対し垂直方向に延びるよう形成されている。フレキシブルフェンス4は、長方形の断面形状を有し、その長方形断面は、幅l(図2参照)と、厚さE(図3参照)とを有している。
また、図2に示すように、フレキシブルフェンス4は、主溝3の長手方向から見て(正面視)長方形状に形成され、図2及び図3に示すように、主溝3の深さDよりやや低い高さhを有している。
このフレキシブルフェンス4は、主溝3の断面積の少なくとも70%を遮断するよう形成され、主溝3内を流れる主に水のような液体による水圧により倒れこむように形成されている。本実施形態において、フレキシブルフェンス4の厚さEは0.6mmである。また、本実施形態においては、図2に示すように、フレキシブルフェンス4の高さh及び幅lは、主溝3の断面積の約87%を遮断するように、主溝3の深さD8.0mm及び溝幅W14.5mmに対して高さhが7.0mm、幅lが13.5mmに形成されている。
なお、例えば、本実施形態のタイヤの例において、フレキシブルフェンス4を、主溝3の断面積の少なくとも70%を遮断するように、およそ5.6mm以上の高さhを有する長方形状のものとしてもよい。なお、本実施形態の例に限らず、タイヤ主溝3の溝幅W及び溝深さDが変われば、このフレキシブルフェンス4の幅l及び高さhもそれに応じて変更して、主溝3の断面積の少なくとも70%を遮断するようにすればよい。
本実施形態では、フレキシブルフェンス4は、トレッド2とは異なるフェンス用ゴム組成物で構成されており、フェンス用ゴム組成物は、トレッド2よりも速い摩耗速度を生じさせるものとするために、トレッド2を構成するゴム組成物には通常含まれていない、1μm以上の中央値粒度(重量平均)を有する、50phrよりも多い量(本実施形態においては200phrである)の微粒子である非補強用充填剤を含んでいる。このような非補強用充填剤には、例えばチョーク、天然ケイ酸塩、沈降シリカ、アルミナ、化学合成により得られた充填剤、硫酸バリウム塩、金属酸化物(Mg、Zn、Alなど)およびそれらの混合物のような無機充填剤や、短繊維、熱可塑性繊維、生分解性化合物、セルロース誘導体およびそれらの混合物のような有機充填剤などを使用することができる。このような微粒子(非補強用)をトレッド2を構成するゴム組成物が含む場合は、その微粒子(非補強用)は微量であり、好ましくはフェンス用ゴム組成物との含有量の差が20phr以上、より好ましくは30phr以上である。言い換えると、フェンス用ゴム組成物がこのような微粒子(非補強用)を50phr以上含んでいる場合、トレッドを構成するゴム組成物はこのような微粒子(非補強用)を好ましくは30phr未満、より好ましくは20phr未満含む。
次に、図4及び図5により、本発明の一実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの、濡れた路面を走行中の状態を説明する。
図4は、図1のII−II線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドの濡れた路面を走行中の状態を示す拡大断面図であり、図5は、図1のIII−III線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドの濡れた路面を走行中の状態を示す拡大断面図である。
図4及び図5に示すように、上述したようにトレッド2とは異なるフェンス用ゴム組成物にて形成されたこのフレキシブルフェンス4は、濡れた路面を走行する際、主溝2内を通過する主に水のような液体の発生する水圧によって倒れこみ、或いは、曲げられ、結果としてその高さがh*まで減少し、その高さの減少により、主溝3の主要部分が開放され、排水性が確保される。
次に、図6により、本発明の一実施形態による空気入りタイヤ用トレッドの、トレッド摩耗後の状態を説明する。
図6は、図1のIII−III線に沿って見た空気入りタイヤ用トレッドの、溝深さが約30%摩耗した状態の拡大断面図である。
図6は、所定距離走行後、主溝3の溝深さDが、摩耗によりフレキシブルフェンス4の初期高さhよりも浅いD’まで減少した状態を示す。トレッド2とは異なるフェンス用ゴム組成物にて形成されたフレキシブルフェンス4は、所定距離走行後、路面と接触する先端部が斜めに摩耗し、その高さが、高い側でh’、低い側でh”までその初期高さhから減少し、低い側の高さh”は、主溝3の深さD’と同程度の高さとなっている。
なお、本実施形態の変形例として、上述した作用を有するものであれば、フェンス用ゴム組成物は、フレキシブルフェンス4が接続される上述した主溝3の底部33の一部(例えば、上述した接続部(33)(図2、図3参照))、または全部に使用してもよい(図示せず)。このような場合、フレキシブルフェンス4のみならず主溝3の底部33も同じフェンス用ゴム組成物によって形成されるため、製造工程を簡略化することができる。
また、本実施形態の他の変形例として、上述した作用を有するものであれば、フェンス用ゴム組成物にて形成されたフレキシブルフェンス4は、複数個に分割して形成されたり、主溝3の対抗する壁面31、32の両方またはどちらかに接続され溝幅方向に延びるよう形成されたり、或いは、このように壁面31、32に接続されるフレキシブルフェンスと主溝3の底部33に接続されるフレキシブルフェンス4とを組み合わせて形成されてもよい(図示せず)。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について記述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
次に、本発明の効果を明確にするため、本発明にかかるトレッドのフレキシブルフェンスを形成するためのゴム組成物を3通り、以下に述べる工程により製造した。
フェンス用ゴム組成物及びトレッド部を構成するゴム組成物は、好ましくは適切なミキサー内で、当業者にとって周知の2つの連続する製造段階、即ち、110℃と190℃の間、好ましくは130℃と180℃の間の最高温度での高温で熱機械的に加工または混合する第1段階(“非生産”段階と称する)、並びに、その後の典型的には110℃よりも低い、例えば、40℃と100℃の間の低めの温度での第2の機械加工段階(“生産”段階と称する)を使用して製造し、この仕上げ段階(生産段階)において架橋系を混入する。
フェンス用ゴム組成物の製造方法は、例えば、少なくとも下記の工程を含む:
第1(“非生産”)段階において、少なくとも、50phrよりも多い充填剤A (その粒子は、500nmよりも小さい平均粒度(重量平均)を有するナノ粒子である)、50phrよりも多い充填剤B (その粒子は、1μmよりも大きい中央値粒度(重量平均)を有する微粒子である)を、ジエンエラストマー中に混入し或いは混入しつつ、その混入により得られた混合物を、1回以上、110℃と190℃の間の最高温度に達するまで熱機械的に混合する工程;混合物を100℃よりも低い温度に冷却する工程;
その後、第2(“生産”)段階において、架橋系を混入する工程;
その混合物を110℃よりも低い最高温度に達するまで混合する工程。
一例を挙げれば、上述した非生産段階は、1回の熱機械的工程において実施し、その工程の間において、第1に、全ての必須ベース成分(ジエンエラストマー、補強用充填剤Aおよび必要に応じてカップリング剤、非補強用充填剤Bおよび可塑化系)を、標準の密閉ミキサーのような適切なミキサー内に先ず導入し、その後、第2に、例えば1〜2分の混合後、架橋系を除いた他の添加剤、任意構成成分としての被覆剤または補完的加工助剤を導入する。この非生産段階における総混合時間は、好ましくは1分と15分の間である。
そのようにして得られた混合物を冷却した後、間もなく、架橋系を、低温(例えば、40℃と100℃の間)に維持した開放ミルのような開放ミキサー内に導入する。その後、その混合物を、数分間、例えば、2分〜15分間混合する(生産段階)。
架橋系は、好ましくは、硫黄および促進剤をベースとする加硫系である。硫黄の存在下にジエンエラストマーの加硫促進剤として作用し得る任意の化合物、特に、2‐メルカプトベンゾチアジルジスルフィド(“MBTS”と略記する)、N,N‐ジシクロヘキシル‐2‐ベンゾチアジルスルフェンアミド(“DCBS”と略記する)、N‐tert‐ブチル‐2‐ベンゾチアジルスルフェンアミド(“TBBS”と略記する)、N‐tert‐ブチル‐2‐ベンゾチアジルスルフェンイミド(“TBSI”と略記する)およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる化合物を使用し得る。好ましくは、スルフェンアミドタイプの一次促進剤を使用する。
各種既知の二次促進剤または加硫活性化剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、グアニジン誘導体(特に、ジフェニルグアニジン)等を、この加硫系に、上述した第1非生産段階中および/または上述した生産段階中に添加し得る。硫黄の含有量は、例えば、0.5phrと3.0phrの間にあり、また、一次促進剤の含有量は、0.5phrと5.0phrの間にある。
このようにして得られた最終組成物は、次に、例えば、シート状又はプラーク状にカレンダー加工され、或いは、例えば、タイヤトレッドとして使用し得るゴム形状要素の形で押出される。
下記の表1には、シリカを補強用充填剤として製造された、各種構成成分の含有量をphrにて示している。従来よりトレッド(トレッド部)及び従来技術によるフレキシブルフェンスのゴム組成物として使用されている1通りのゴム組成物(従来例1−1)、3通りの本発明に係るトレッドのフレキシブルフェンスに使用されるゴム組成物(実施例1−1、1−2、1−3)を準備した。これら4通りの各ゴム組成物は、補強用充填剤として100phrのシリカを含有しており、3通りの実施例のゴム組成物は、少なくとも50phrのチョーク微粒子を、非補強用充填剤として更に含有している。上述した従来例1−1のゴム組成物は、従来の製造方法で製造され、本発明にかかるトレッドのトレッド部2に使用される。即ち、下記の表1及び表2において、従来例1−1のゴム組成物の各値と、実施例1−1、1−2、1−3のゴム組成物の各値とに基づいて、本発明にかかるトレッドのトレッド部2のゴム組成物と、本発明にかかるトレッドのフレキシブルフェンス4のゴム組成物との、特性など(例えば「摩耗性指数」)の比較が可能である。
また、下記の表2には、各製造されたゴム組成物の摩耗性の測定値と、それら測定結果から計算される、従来例1−1を基準(1.00)とした摩耗性指数を示している。摩耗性指数の数値が大きいほど、ゴム組成物の摩耗速度が速いことを表す。
Figure 0005815706
(1)オイル増量した溶液SBR (乾燥SBRとして表す含有量):40.5%のスチレン、24%の1,2-ポリブタジエン単位および43%のトランス-1,4-ポリブタジエン単位 (Tg=-30℃);
(2)0.3%の1,2-、2.7%のトランス、97%のシス-1,4-を含むBR(Tg=-106℃);
(3)Rhodia社からのシリカ“Zeosil 1165”、”HD“タイプ(BETおよびCTAB:約160m2/g);
(4)Omya社からのチョーク“Omya BLS”(中央値粒度20μm);
(5)カップリング剤TESPT(Degussa社からの“Si69”);
(6)カーボンブラックN234(ASTM級);
(7)総TDAEオイル(SBR増量オイルも含む):H&R社からの“Vivatec 500”;
(8)Exxson Mobil社からのC5/C9炭化水素系樹脂“Escorez ECR-373”;
(9)酸化亜鉛(Umicore社からの工業級)
(10)ステアリン (Uniqume社からの“Pristerene 4931”);
(11)N‐(1,3‐ジメチルブチル)‐N‐フェニル‐パラ‐フェニレンジアミン (Flexsys社からの“Santoflex 6‐PPD”);
(12)ジフェニルグアニジン (Flexsys社からの“DPG Perkacit”);
(13)N‐シクロヘキシル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミド (Flexsys社からの“CBS Santocure”)。
Figure 0005815706
表2に示される如く、フレキシブルフェンスに使用される実施例1−1、1−2および1−3は、トレッド部に使用される従来例1−1に対して2倍より高い摩耗性指数を有する。即ち、実施例品は、その摩耗速度が従来例1−1と比較して大きくなるので、フレキシブルフェンス4とトレッド部2とを同程度に摩耗させることができるものである。
1 空気入りタイヤ用トレッド
2 トレッド部
3 主溝
31 主溝の対抗する壁面
32 主溝の対向する壁面
33 主溝の底部
4 フレキシブルフェンス
41 フレキシブルフェンス4の底部(主溝3の溝底部33との接続部)
42 フレキシブルフェンス4の両側の側面部
5 トレッド踏面

Claims (7)

  1. タイヤ転動時に路面と接触する、ゴム組成物により形成された空気入りタイヤ用トレッドであって、
    底面及び対向する2つの壁面を有し且つ深さD及び幅Wを有する少なくとも一本の主溝が形成されたトレッド部と、
    複数のフレキシブルフェンスであって、0.3mm以上1.0mm以下である厚さEを有し、前記主溝の断面積の少なくとも70%を遮るように前記主溝内で延び、且つ、タイヤ転動時、トレッド踏面内の前記主溝内に少なくとも1つ存在するような間隔で配置された、複数のフレキシブルフェンスと、を有し、
    前記複数のフレキシブルフェンスは、少なくとも前記トレッド部のゴム組成物と異なるフェンス用ゴム組成物により形成され、前記フレキシブルフェンスのフェンス用ゴム組成物は、前記トレッド部のゴム組成物の摩耗性指数に対し2倍以上の摩耗性指数を有することを特徴とする空気入りタイヤ用トレッド。
  2. 前記フェンス用ゴム組成物が微粒子充填剤を含む請求項1に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
  3. 前記フェンス用ゴム組成物中の微粒子充填剤は、チョーク、天然ケイ酸塩、沈降シリカ、アルミナ、化学合成により得られた充填剤、硫酸バリウム塩、金属酸化物、有機充填剤およびそれらの混合物からなる群から選ばれる請求項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
  4. 前記フェンス用ゴム組成物中の微粒子充填剤の微粒子の含有量が50phr以上である請求項又は請求項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
  5. 前記トレッド部を形成するゴム組成物が微粒子充填剤を含み、この微粒子充填剤の微粒子の含有量が30phr未満である請求項2乃至4の何れか一項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
  6. 前記フェンス用ゴム組成物の摩耗性指数が、前記トレッド部のゴム組成物の摩耗性指数に対し4倍以上かつ20倍以下である請求項1及至の何れか一項に記載の空気入りタイヤ用トレッド。
  7. 請求項1及至の何れか1項に記載のトレッドを有することを特徴とする空気入りタイヤ。
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