JP3814078B2 - ポリエステルフィラメントとその製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、産業資材用フィラメント、特に抄紙用カンバス糸、ベルト布、フィルター等に好適な優れた耐湿熱性能を有するポリエステルフィラメントとその製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステルフィラメントは優れた物理的性質を有し、産業資材用フィラメント、特に抄紙カンバスやベルト布あるいはフィルターに好適に使用されている。
しかし、産業資材用フィラメントは使用される環境が過酷であり、比較的短期間にフィラメントの劣化が起こり使用できなくなることがある。例えば、ポリエステルフィラメントを用いた抄紙カンバスは、抄紙プレスゾーン並びにその後の乾燥ゾーン等の工程に使用されるため、高温多湿状態にさらされる。そのため、水、熱、水蒸気の影響により、ポリエステルフィラメントが熱及び加水分解劣化を起こし、使用できなくなることが知られている。
【0003】
水、水蒸気によるポリエステルの加水分解は、水分子のエステル結合部分への攻撃によって分解し、カルボキシル基と水酸基が形成され、ポリマー鎖の分裂が起こり加水分解劣化が進行していく。さらに、これにより形成されたカルボキシル末端基は、ポリエステルの加水分解反応の触媒的な役割を担い、カルボキシル末端基量の増加に伴い、その加水分解速度は加速される。特に、熱が加わると加水分解は促進される。
【0004】
そこで、熱加水分解に対する対応策としてカルボキシル末端基量の少ないポリエステルとすることにより、フィラメントの耐湿熱性能を改良する方法が採用されている。例えば、特公平1-15604 号公報、特開平4-289221号公報には、カルボジイミド化合物を添加し、カルボキシル末端基の封鎖を行うことによって、耐湿熱性能が改善されたポリエステルフィラメントを得る方法が開示されている。しかしながら、ポリエステルフィラメント中のカルボキシル末端基量を低減させるだけでは、耐湿熱性能を長期間にわたって持続させることは困難であった。
【0005】
また、特公昭58-22567号公報には、ポリエステルにポリオレフィンを含有させ耐湿熱性能を向上させる方法が開示されている。しかし、含有させるポリオレフィンが官能基を有していないため、ポリエステルとの相分離を引き起こし、糸質性能が低下するという問題があった。
【0006】
そこで、先に本発明者等は、上記の問題点を解決するものとして、特願平9-138191号において、ポリエステルにエチレンとメタクリル酸グリシジルとの共重合体とカルボジイミド化合物を添加したポリエステルフィラメントを提案した。このフィラメントは、十分な耐湿熱性能と糸質性能を有していた。しかしながら、製造時に溶融ポリマー流の溶融粘度斑が生じ、これに起因する製糸性の悪化をもたらす場合があるという欠点があった。
【0007】
そのため、本発明者等は、特願平9-283386号において、予めエチレンとメタクリル酸グリシジルとの共重合体とポリオレフィン樹脂の溶融混練を行い、これをポリエステルに混練することによって溶融ポリマー流の粘度斑を減少させることができる製造方法を提案した。この方法により、製糸性の悪化に関する問題点は解消されたが、予備混練工程が必要であるため、工業的には、時間的ロスがある、手間がかかる、コストが高くなる等の問題が生じるようになった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を解決するものであって、糸質性能が良好で、優れた耐湿熱性能を長期間にわたって保持し、かつ、工業的に生産が容易であるポリエステルフィラメントとその製造法を提供しようとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、エチレン成分とメタクリル酸グリシジル成分を有する重合体(以下、P〔E−GMA〕と略す)、エチレン成分とアクリル酸エステル成分を有する重合体(以下、P〔E−AE〕と略す)及びカルボジイミド化合物(以下、CI化合物と略す)を含有するフィラメントとすることにより、糸質性能が良好で、優れた耐湿熱性能を長期間にわたって保持できるフィラメントとなり、予備混練工程を経なくても製糸性よく品位の高いフィラメントを得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(イ)ポリエチレンテレフタレート又はこれを主体とするポリエステルに、P〔E−GMA〕を 0.1〜30重量%、P〔E−AE〕を0.01〜10重量%、CI化合物を 0.3〜2.0 重量%添加してなる組成物からなり、相対粘度が1.4 以上、カルボキシル末端基量が10eq/t以下であることを特徴とするポリエステルフィラメント。
(ロ)次の工程を順次行うことを特徴とする(イ)記載のポリエステルフィラメントの製造法。
(1)相対粘度が1.4 以上のポリエステル(A)を製造する工程
(2)ポリエステル(A)にP〔E−GMA〕(B)、P〔E−AE〕(C)及びCI化合物(D)を添加して溶融紡糸し、相対粘度が1.4 以上で、カルボキシル末端基量が10.0eq/t以下のフィラメントを得る工程
(3) フィラメントを延伸する工程
【0011】
なお、本発明における相対粘度、カルボキシル末端基量及びフィラメント中に含まれる活性状態のCI化合物の含有量は次の方法で測定したものである。
〔相対粘度〕
フェノールと四塩化エタンとの等重量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl 、温度20℃の条件下でウベローデ型粘度計を用いて測定した。
〔カルボキシル末端基量〕
ポリエステルをベンジルアルコールに溶解し、0.1 規定の水酸化カリウムメタノール溶液で滴定して求めた。
〔活性状態のCI化合物の含有量〕
フィラメントをヘプタフルオロイソプロパノールとクロロホルム混合溶媒に溶解後、アセトニトリルでポリマー分を沈殿させ、濾過した溶液をHPLC測定して求めた。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明におけるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はこれを主体とするものであって、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が少量共重合されたものも用いることができる。
【0013】
そして、本発明のフィラメントは、上記のポリエステルにP〔E−GMA〕、P〔E−AE〕及びCI化合物を添加した組成物からなるものである。
まず、P〔E−GMA〕としては、ポリエチレンの主鎖中にメタクリル酸グリシジル(以下、GMAと略す)成分の共重合割合が1〜35モル%の共重合体が好ましく用いられる。また、効果を損なわない範囲であれば、その他の成分として、酢酸ビニル成分、スチレン成分等が共重合されていてもよい。
【0014】
P〔E−GMA〕を添加する理由は次のとおりである。ポリエステル主鎖中にポリオレフィン成分を含有させることで、エステル部分の加水分解反応を抑制し、耐湿熱性能を向上させることができるが、ポリエステルとオレフィン系ポリマーの相溶性は悪いため相分離を起こし、糸質性能の低下を引き起こす。そこで、ポリエステル末端基と反応するGMA成分を主鎖中に導入することで、得られるフィラメント中での相分離を低減させることが可能となる。
【0015】
P〔E−GMA〕の添加量は、0.1 〜30重量%とすることが必要である。添加量が0.1 重量%未満であると、上記のような耐湿熱性能の向上と相分離の低減を図ることができず、30重量%を超えると、ポリエステルとの反応が進行しすぎて溶融粘度が上昇し、粘度斑が生じて製糸性が悪化する。
【0016】
さらに、P〔E−GMA〕としては、前記のようにGMA成分の共重合割合が1〜35モル%の共重合体が好ましいが、GMA成分の共重合比が1モル%未満であると、ポリエステルとの反応が起こりにくく、相分離が起こり、得られるフィラメントは糸質性能の低いものとなるとともに、屈曲や摩擦等の疲労によりフィブリル化が起こりやすいものとなる。一方、GMA成分の共重合比が35モル%を超えると、ポリエステルとの反応が進行しすぎ、溶融粘度の上昇が顕著となり、製糸性が悪化しやすい。また、ポリオレフィン成分が少なくなるため、耐湿熱性能の向上効果が少なくなる。
【0017】
P〔E−AE〕としては、ポリエチレンの主鎖中にアクリル酸エステル(以下、AEと略す)成分の共重合割合が1〜40モル%の共重合体が好ましい。また、効果を損なわない範囲であれば、その他の成分が共重合されていてもよい。
【0018】
P〔E−AE〕を添加させる理由は次のとおりである。前記のようにポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂は相溶性が悪く、本発明では、その点を改良するために、P〔E−GMA〕のような化学的にポリエステルに反応する組成物を添加する。GMA成分はポリエステル末端基と反応して相分離を低減させるが、溶融粘度の上昇を引き起こしやすく、これにより、溶融ポリマー流は溶融粘度斑を有するようになり、製糸性が悪化しやすい。
【0019】
そこで、双方に対して相溶性が良好である成分を含有するP〔E−AE〕を添加することでその問題が解決される。すなわち、P〔E−AE〕はエチレン成分を含有しているためP〔E−GMA〕との相溶性が良好であり、かつアクリル酸エステル成分を含有しているためポリエステルとの相溶性も良好であり、P〔E−AE〕をポリエステルとP〔E−GMA〕ブレンド物に添加すると、物理的に親和性が向上し、溶融粘度の上昇を低減させることができる。また、ポリエステルマトリックス中のP〔E−GMA〕ドメインの分散性を良化させるため、斑のない溶融ポリマーを得ることができ、紡糸操業性が向上し、得られる繊維の糸質物性も向上させることが可能となる。
【0020】
P〔E−AE〕の添加量は、0.01〜10重量%とすることが必要である。添加量が0.01重量%未満であると、上記のような、P〔E−GMA〕が添加されたポリエステルの溶融粘度の上昇を防ぐことができず、10重量%を超えると、アクリル酸エステル成分が増えるために、エステル結合部分が増加し、結果として耐湿熱性能が低下する。また、P〔E−AE〕は化学的にポリエステルと結合されないため、添加量が増えると製糸性も悪化する。
【0021】
そして、P〔E−AE〕としては、ポリエチレンの主鎖中にAE成分の共重合割合が1〜40モル%の共重合体が好ましいが、AE成分の共重合比が1モル%未満であるとポリエステルとの相分離を低減させることができず、糸質性能の低下、製糸性の悪化が起こる。また、AE成分の共重合比が40モル%を超えると、オレフィン成分が少なくなるため、フィラメント中にエステル結合部分を増加させることになり、得られるフィラメントの耐湿熱性能の低下が起こりやすい。
【0022】
CI化合物としては、N,N'−ビス(2,6−ジメチルフェニル) カルボジイミド、N,N'−ビス(2,6−ジエチルフェニル) カルボジイミド、N,N'−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル) カルボジイミド、N,N'−ビス(2−イソプロピルフェニル) カルボジイミド等が挙げられる。この中でも、耐熱性、工業レベルでの使用が可能であるためN,N'−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル) カルボジイミドが好ましい。
【0023】
CI化合物の添加量は、0.3 〜2.0 重量%とすることが必要である。0.3 重量%未満であると、カルボキシル末端基の封鎖が不十分となり、カルボキシル末端基量が10eq/t以下の繊維とすることができず、耐湿熱性能が不十分な繊維となる。一方、2.0 重量%を超えると製糸性が悪化する。
【0024】
そして、活性状態のCI化合物が20〜18000ppm、さらに好ましくは200 〜9000ppm 含有されていることが好ましい。活性状態とは、カルボキシ基や水分子と反応可能な状態のことをいい、含有量が20ppm 以下であるとCI化合物の効果が発現され難く、18000ppmを超えるようにすることは、CI化合物の添加量の上限が2.0 重量%であることから困難である。
【0025】
また、本発明のポリエステルにおいては、前記したような3成分の他にも、各種の用途に適合させるため、糸質性能に影響を与えない範囲であれば、酸化チタン等の無機粒子、着色剤、可塑剤、改質剤等を含有していてもよい。
【0026】
そして、本発明のポリエステルフィラメントは、相対粘度が1.4 以上、カルボキシル末端基量が10eq/t以下であることが必要である。
フィラメントのカルボキシル末端基量が10eq/tより多いと、長期間の湿熱処理により糸質の低下が顕著となり、十分な耐湿熱性能を有するフィラメントとならない。相対粘度が1.4 未満であると、フィラメントの摩耗による劣化に対する耐性が悪化し、耐摩耗性に劣ったものとなり、実用に供することができない。
【0027】
また、本発明のポリエステルフィラメントは、モノフィラメントであってもマルチフィラメントであってもよい。
【0028】
次に、本発明のフィラメントの製造法について説明する。
まず、相対粘度が1.4 以上のポリエステルを製造する。溶融紡糸前のポリエステルの相対粘度が1.4 未満であると、製糸性が悪化したり、得られるフィラメントの糸質性能が不十分なものとなったり、得られるフィラメントの相対粘度を1.4 以上にすることができなくなる。
【0029】
また、このポリエステルのカルボキシル末端基量は、20eq/t以下とすることが好ましい。この条件が満たされないと、溶融紡糸して得られるフィラメントのカルボキシル末端基量を10eq/t以下とすることが困難となる場合がある。
【0030】
そして、このようなポリエステルを得るには、通常、溶融重合法によって相対粘度が1.2 〜1.4 のプレポリマーを得る。次いで、このプレポリマーを固相状態で減圧下又は不活性ガス流通下に加熱して固相重合反応を行い、所定の相対粘度とカルボキシル末端基量のポリエステルとする。プレポリマーの相対粘度が適当でないと、トータルの重合時間が著しく長くなったり、固相重合後のポリエステルの相対粘度を1.4 以上にすることができなかったりする。
【0031】
なお、固相重合により得られるポリエステルの相対粘度が、プレポリマーよりも0.1 〜0.4 程度高くなるように固相重合の条件を選定することが好ましい。この固相重合によりポリエステルのカルボキシル末端基量が減少するとともに、オリゴマー等の不純物が除去される。
【0032】
次に、このようなポリエステルにP〔E−GMA〕、P〔E−AE〕、CI化合物を添加し、溶融紡糸を行う。
P〔E−GMA〕とP〔E−AE〕の添加方法は、予め溶融混練を行いマスターバッチ化を行う方法を採用することもできるが、原料として直接ブレンドする方法を採用しても溶融粘度に斑のないポリマーを得ることが可能である。したがって、工業的に生産が容易であり、コストアップも少ないため、直接ブレンドする方法を採用することが好ましい。
【0033】
また、このとき、ポリエステルとポリオレフィン成分との相分離を抑制するために、紡糸ライン中やノズルパック中にスタティックミキサー等の物理的に混練を可能にするミキサー等を含有させることが好ましい。
【0034】
そして、溶融紡糸の方法は特に限定するものではなく、常法によって行うことができるが、紡糸温度は350 ℃以下、好ましくは300 ℃以下とすることが好ましい。紡糸温度が高すぎるとポリエステル及び添加物が熱分解を起こし、円滑な紡糸が困難になるとともに得られるフィラメントの物性が劣ったものとなる。また、ポリエステルの熱分解反応に伴ってカルボキシル末端基が生成し、溶融紡糸時に末端基封鎖剤が多量に消費されてしまい、得られるフィラメントのカルボキシル末端基量が10eq/tを超えるものとなりやすい。
【0035】
紡出されたフィラメントは、0〜100 ℃、好ましくは20〜90℃の液体(モノフィラメントの場合)、または、0 〜100 ℃、好ましくは10〜40℃の空気中(マルチフィラメントの場合)で冷却する。冷却温度をあまり低くすると温度管理及び作業性等に困難をきたし、高すぎると冷却不足となり最終的に得られるフィラメントの糸質性能が劣ったものとなる。
【0036】
次いで、冷却固化したフィラメントは、一旦巻き取った後又は巻き取ることなく延伸される。延伸は一段又は二段以上の多段で行うことができる。第1段延伸は3.0 〜6.5 倍の延伸倍率で行い、第2段延伸以降は、第1段延伸より高温で全延伸倍率が5.0 〜8.0 倍となるように行う。
マルチフィラメントの場合は、第1段延伸を70〜200 ℃程度の温度で、第2段延伸以降を第1段延伸よりも高温で、かつ150 〜300 ℃程度の温度で行う。
モノフィラメントの場合は、第1段延伸を延伸点の移動を起こさない60〜100 ℃程度の温度の液体中で、第2段延伸以降を第1段延伸よりも高温で、かつ130 〜300 ℃程度の温度の液体又は気体中で行う。
【0037】
延伸温度が上記の範囲より低いと加熱不足となり、延伸斑及び糸切れが発生しやすく、一方、延伸温度が高すぎるとフィラメントの融解及び熱劣化が起こり、好ましくない。また、全延伸倍率が5.0 倍未満であると得られるフィラメントの糸質特性、特に直線強度が低くなりやすい。一方、全延伸倍率を8.0 倍より大きくすると繊維内での塑性変形に分子配向が対応できなくなるため、繊維中にミクロボイドが発生し、満足な性能を示すフィラメントが得られない。
【0038】
また、フィラメントの用途にもよるが、延伸後、弛緩熱処理を施してもよい。このとき、150 〜500 ℃の気体中で1〜15%の弛緩率で行うことが好ましい。熱処理温度が150 ℃より低いとフィラメントに対する熱処理効果が不十分となりやすく、熱処理時間にも関係するが500 ℃より高くすると繊維表面でポリエステルの熱分解反応が起こりやすくなる。また、弛緩率を1%未満にすると、得られるフィラメントは、熱収縮率が高くなりすぎ、場合によっては実用に適さなくなり、弛緩率が15%を超えると、弛緩熱処理段階で糸のたるみが発生し、操業性が悪化するとともに、糸質性能が低下しやすい。
【0039】
【作用】
本発明においては、ポリエステルにCI化合物を添加し、かつ、ポリオレフィン成分を有するP〔E−GMA〕とP〔E−AE〕を添加させるので、低カルボキシル末端基量のフィラメントが得られ、耐湿熱性能を有するフィラメントとすることができる。
すなわち、GMA成分を含有することにより、ポリエステル末端基と化学的に結合し、ポリエステルとポリオレフィンの相分離が抑制され、さらに、AE成分を含有することにより、物理的に親和性が向上し、溶融ポリマーの溶融粘度斑も生じない。これにより、長期間にわたる耐湿熱性能を示し、糸質性能の低下もない優れたポリエステルフィラメントとなり、かつ予備混練工程の必要がなく、生産性よく品位の高い繊維を得ることが可能となる。
【0040】
【実施例】
次に、実施例によって本発明を具体的に説明する。
なお、実施例中の特性値の測定や評価は次のように行った。相対粘度、カルボキシル末端基量、活性状態のCI化合物の含有量の測定は前記の方法で行った。
〔強度、伸度〕
JIS L 1013に準じて測定した。
〔耐湿熱性能(強力保持率)〕
フィラメントを120 ℃の飽和水蒸気で10日間処理した後、未処理のフィラメントに対する強力保持率で評価した。
〔製糸性〕
紡出された糸条の採取が不可能であった場合を×として、サンプル採取可能であった場合を○として示した。
〔延伸糸表面凹凸〕
得られたフィラメントの繊維径をマイクロメーターで測定し、その繊維径値の変動率が10%以上のものを×とし、それ以外を○として示した。
【0041】
実施例1
PETオリゴマーとエチレングリコールを出発物質とする重縮合反応を行い、相対粘度1.3 、カルボキシル末端基量30eq/tのポリエステルペレット(プレポリマー)を得た。このペレットの固相重合反応を行い、相対粘度1.6 、カルボキシル末端基量16eq/tの固相重合ペレットを得た。このペレットに5.0 重量%のP〔E−GMA〕(elf atochem 製 LOTADER AX-8840)、0.5 重量%のP〔E−AE〕(elf atochem 製 LOTRYL 28MA07)及び1.5 重量%のN,N'- ビス(2.6- ジイソプロピルフェニル) カルボジイミドを添加して溶融紡糸した。
溶融紡糸は、エクストルーダー型紡糸装置を使用し、紡糸温度295 ℃で、孔径2.0mm の紡糸孔を有する口金を使用して行い、紡出糸条を70℃の水浴中で冷却し、未延伸糸を得た。この未延伸糸を90℃の水浴中で第一段階目の延伸(3.2 倍)を行い、次いで250 ℃の熱風雰囲気下で第二段階目の延伸(1.7 倍)を行い、全延伸倍率を5.5 倍とした。引き続いて400 ℃の熱風雰囲気下で10%の弛緩熱処理を行い、ポリエステルモノフィラメント(1600d)を得た。
得られたモノフィラメントの各種の物性値及び評価結果を表1に示す。
【0042】
実施例2〜4、比較例1〜6
P〔E−GMA〕、P〔E−AE〕、CI化合物の添加量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルモノフィラメントを得た。
得られたモノフィラメントの各種の物性値及び評価結果を表1に示す。
【0043】
実施例5
実施例1と同様にしてプレポリマーペレットを得た。このペレットの固相重合反応を行い、相対粘度1.5 、カルボキシル末端基量18eq/tの固相重合ペレットを得た。この固相重合ペレットに表1に示す量のP〔E−GMA〕、P〔E−AE〕、CI化合物を添加した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルモノフイラメントを得た。
得られたモノフィラメントの各種の物性値及び評価結果を表1に示す。
【0044】
比較例7
固相重合反応により相対粘度1.39の固相重合ペレットを得た以外は、実施例5と同様にしてポリエステルモノフィラメントを得た。
得られたモノフィラメントの各種の物性値及び評価結果を表1に示す。
【0045】
実施例6、比較例8
実施例1と同じ固相重合ペレットに表1に示す量のP〔E−GMA〕、P〔E−AE〕、CI化合物を添加し、溶融紡糸した。溶融紡糸は、エクストルーダー型紡糸装置を使用し、紡糸温度295 ℃で、孔径0.4mm の紡糸孔を48個有する紡糸用口金を使用して行い、紡出糸条を20℃の空気で冷却し、未延伸糸を得た。この未延伸糸を90℃に加熱し、第一ローラと230 ℃に加熱した第二ローラとの間で6.3 倍の延伸を行い、次いで170 ℃に加熱して6%の弛緩熱処理を行い、ポリエステルマルチフィラメント( 300d/48f)を得た。
得られたマルチフィラメントの各種の物性値及び評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1から明らかなように、実施例1〜5で得られたモノフィラメント及び実施例6で得られたマルチフィラメントは、強度、伸度に優れ、湿熱処理後の強力保持率も高かった。また、糸表面の凹凸がないことから、予備混練工程を経なくても、溶融粘度の斑を生じることなく、品位の高い繊維を生産性よく得ることができた。
一方、比較例1、比較例8のフィラメントは、P〔E−AE〕を添加していなかったため、溶融ポリマーに溶融粘度斑が生じ、繊維表面に凹凸が生じたものとなった。さらに、単糸切れによる毛羽立ちが生じ、糸条を巻き取ることはできたが、糸切れも発生した。比較例2のフィラメントは、P〔E−GMA〕を添加していなかったため、長期間にわたる耐湿熱性能を有していなかった。比較例3のフィラメントは、CI化合物を添加していなかったため、耐湿熱性能を有していなかった。比較例4ではP〔E−GMA〕の添加量が多すぎたため、比較例5ではP〔E−AE〕の添加量が多すぎたため、比較例6ではCI化合物の添加量が多すぎたため、ともに製糸性が悪く、フィラメントを得ることができなかった。また、比較例7のフィラメントは、相対粘度が低すぎたため、強度が低く、耐湿熱性能にも劣るものであった。
【0048】
【発明の効果】
本発明のポリエステルフィラメントは、優れた耐湿熱性能を長期間にわたって保持することができ、かつ強度、伸度等の糸質性能が良好で、かつ、工業的に生産性よく得ることが可能であり、産業資材用フィラメント、特に工業用織物である抄紙用カンバス糸、ベルト布、フィルター等として好適に用いることができる。また、本発明の製造法によれば、このようなポリエステルフィラメントを工業的に生産性よく得ることが可能となる。
Claims (5)
- ポリエチレンテレフタレート又はこれを主体とするポリエステルに、エチレン成分とメタクリル酸グリシジル成分を有する重合体を 0.1〜30重量%、エチレン成分とアクリル酸エステル成分を有する重合体を0.01〜10重量%、カルボジイミド化合物を 0.3〜2.0 重量%添加してなる組成物からなり、相対粘度が1.4 以上、カルボキシル末端基量が10eq/t以下であることを特徴とするポリエステルフィラメント。
- フィラメント中に活性状態のカルボジイミド化合物を20〜18000ppm含有する請求項1記載のポリエステルフィラメント。
- カルボジイミド化合物が、N,N'- ビス(2,6- ジイソプロピルフェニル) カルボジイミドである請求項1又は2記載のポリエステルフィラメント。
- 次の工程を順次行う、請求項1又は2記載のポリエステルフィラメントの製造法。
(1)相対粘度が1.4 以上のポリエステル(A)を製造する工程
(2)ポリエステル(A)にエチレン成分とメタクリル酸グリシジル成分を有する重合体(B)、エチレン成分とアクリル酸エステル成分を有する重合体(C)、カルボジイミド化合物(D)を添加して溶融紡糸し、相対粘度が1.4 以上で、カルボキシル末端基量が10.0eq/t以下のフィラメントを得る工程
(3) フィラメントを延伸する工程 - カルボジイミド化合物(D)が、N,N'- ビス(2,6- ジイソプロピルフェニル) カルボジイミドである請求項4記載のポリエステルフィラメントの製造法。
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