JP3810924B2 - Tig溶接用活性フラックス組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、TIG溶接用活性フラックス組成物に関し、詳しくは、TIG溶接において、本フラックスを被溶接鋼板上に塗布することにより従来のTIG溶接に較べステンレス鋼の場合で2倍以上の溶け込み深さを与える活性フラックス組成物に関する。
【0002】
【技術の技術】
従来からTIG溶接は、不活性ガス気中での安定した溶接が可能であり、安定したビ−ドが得られ易い。このため、火力発電、原子力発電、化学機械等の配管のような外側からしか溶接できない小径パイプの第1層(ル−トパス)の溶接及び高品質の要求される継手に多く適用されている。
TIG溶接の場合、通常の条件では溶け込み深さが2〜3mm程度のため、3〜4mm以上の板厚の鋼を溶接する際には溶接部の開先加工が必要であり、多パス溶接を行う必要があった。さらに、パイプなどの円周溶接を行う場合、パイプが固定されている等の理由で、全姿勢溶接となることが多く、溶け込み深さを上昇させるために溶接電流を通常の溶接条件より上げることが困難であった。
【0003】
そこで、溶け込み深さの向上を目的としたTIG溶接用フラックス組成物として、酸化珪素を主成分としフッ化ナトリウム等を含有した組成物が知られている(Welding & Metal Fabrication,19〜23,Jaunary,1996)。
しかしながら、このTIG溶接用フラックス組成物では、組成範囲が限られているために被溶接物が限られるという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消して、通常の溶接条件でも、開先加工を必要とせず、どんな被溶接物でも、特に厚さ6mmのステンレス鋼板を1パスで溶融接合でき、高能率なTIG溶接を可能とする活性フラックス組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1は、Hfを除く遷移金属IVa族の酸化物もしくは純金属とWを除く遷移金属VIa族の酸化物との混合物からなり、前記混合物中の酸素原子の割合が24〜50%、金属原子の割合が50〜76%であるTIG溶接用活性フラックス組成物であり、本発明の第2は、ステンレス鋼を被溶接物とする前記のTIG溶接用活性フラックス組成物である。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を具体的に説明する。
本発明に用いるフラックス成分中の遷移金属IVa族の酸化物もしくは純金属としては、ア−ク熱により母材面から蒸発し易く、ア−ク中で酸素を放出するもの、もしくは溶接進行方向前部で空気中の酸素と比較的低温で反応し易いものである。
さらに母材面上で遷移金属VIa族の酸化物と反応し、スラグ化合物になったとき、溶融池表面の表面張力を減少させるものが好ましい。
Hfを除く理由は、Hfが高融点、高粘度であるためにビ−ド形状の不良を招くからである。
【0007】
本発明に用いるフラックス成分中の遷移金属IVa族の酸化物もしくは純金属源としては、例えば純チタニウム、チタン白、一酸化チタニウム、三酸化二チタニウム、純ジルコニウム、ジルコニア等である。
本発明に用いるフラックス成分中の遷移金属VIa族の酸化物としては、ア−ク熱により母材面から蒸発し易く、ア−ク中で酸素を放出するものである。さらに母材面上で遷移金属IVa族の酸化物もしくは純金属と反応し、スラグ化合物になったとき、溶融池表面の表面張力を減少させるものが好ましい。
Wを除く理由は、TIG溶接ではW−2%Th電極が用いられるため、Wの使用は電極との反応を招き、電極の消耗が激しくなるからである。
本発明に用いるフラックス成分中の遷移金属VIa族の酸化物源としては、例えばクロムグリ−ン、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン、五酸化二モリブデン、モリブデンブル−、酸化クロム、二酸化クロム、無水クロム酸等である。
本発明で遷移金属VIa族の純金属を用いない理由は、遷移金属IVa族の純金属より酸化力が劣ることと、酸化力が劣るため溶接部に純金属成分としてクロム、モリブデンが混入し易く、溶接金属のフェライト量が増加し、溶接金属の靱性が劣化する可能性があるためである。
【0008】
一般にア−クの収縮には、電磁ピンチ効果と熱的ピンチ効果とがある。前者は、ア−クの電磁力のために断面が収縮する現象であり、後者は、外周からの冷却作用が著しいとき、熱の放散を抑えるためにア−ク柱表面積を小さくするため、結果として断面が収縮する現象である。また一般に2原子分子は、解離によって熱を奪うためア−クに熱的ピンチ力が働き、ア−クは中心部に集中しようとする。集中すれば電磁的ピンチ力によってア−クはさらに収縮される。
本発明は、主として、前記の熱的ピンチ効果を利用しており、詳しくは、これら混合物中の母材面から気化した酸化物がア−ク中で酸素を放出し解離することで、ア−クに熱的ピンチ力が発生し、ア−クの電流密度が増加することで、被溶接物表面の単位面積当たりの熱量を増加させる。
【0009】
また、溶融池表面のこれら混合物のスラグ化合物は、溶融池の表面張力を減少させ、通常溶融池中心部から外側に向かう溶湯の流れを、外側から中心部に向かわせる。
本発明では、遷移金属IVa族の酸化物もしくは純金属と遷移金属VIa族の酸化物とを組み合わせて用いることが必要であり、どちらかの遷移金属が2種以上で結果として3種以上となってもかまわない。
本発明に用いる遷移金属IVa族の酸化物もしくは純金属と遷移金属VIa族の酸化物からなるフラックス組成物は、以下の理由で組成物中の酸素原子の割合が24〜50%であり、金属原子の割合が50〜76%でなければならない。
【0010】
フラックス組成物中の酸素量は、ア−ク中に気化した酸化物から、必要最低限の酸素を放出させ、ア−クを収縮させるのに必要な解離熱をア−クから奪い、十分な溶け込みを得るために酸素原子として24%以上が必要である。しかし、過度の酸素含有量は、フラックス組成物中の酸化物量を増加させ、溶融スラグの融点を上昇させ、粘性増加を招くことになる。その結果、溶接ビ−ド中へのスラグの巻き込みが起こり易くなり、溶融池表面の表面張力も上昇し、溶融池の対流を妨げる原因となるため50%以下でなければならない。
フラックス組成物中の金属量は、必要最低限の酸素原子を捕捉しておくために金属原子として50%以上が必要である。しかし過度の金属量は、捕捉酸素量の過度な増加を招き、フラックス組成物中の酸化物量を増加させ、溶融スラグの融点を上昇させ、粘性の増加を招くことになる。その結果、溶接ビ−ド中へのスラグの巻き込みが起こり易くなり、溶融池表面の表面張力も上昇し、溶融池の対流を妨げる原因となるため金属原子として76%以下でなければならない。
【0011】
本発明のフラックス組成物には、前記の特定成分以外に必要に応じて次のような成分を本発明の要旨を逸脱しない範囲で添加することができる。
例えば、スラグの融点、粘性、剥離性調整のために、NaF、MgO、V23、Fe23、NiO、CuO、SiO2等が添加できる。
【0012】
本発明のフラックス組成物は、被溶接物がステンレス鋼である場合に最も溶け込みがよくなるので特に好ましいが、ステンレス鋼以外の被溶接物にも使用できることはいうまでもない。
【0013】
【実施例】
次に本発明を実施例で具体的に説明する。
実施例1〜8
表1のIVa族の酸化物もしくは純金属とVIa族の酸化物とを用いて以下の方法でフラックスをそれぞれ調製した。
各成分を電子天秤で0.01gまで測定し、乳鉢にて乾式混合した。粒度調整は、乳鉢で混合した後、ボ−ルミルにて粉砕し、篩にて調整した。
前記のようにして調製されたそれぞれのフラックスを用いて以下に示す試験を行って溶接性の評価を行った。
【0014】
[試験方法]
試験材として、板厚10mm、幅100mm、長さ150mmのSUS304鋼板を用い、各フラックスをアセトンに分散させ、刷毛で前記鋼板表面に塗布したものを用いた。
溶接は、タッチア−ク方式の自動TIG溶接機を用い、前記試験材表面メルトランで行った。試験片溶接時の溶接条件は、電流170A、電圧10.5V、溶接速度7.6mm/minで、シ−ルドガスに100%アルゴンを用い、その流量を20 l/minとした。
溶接後、ビ−ド断面形状および溶け込み深さを次の方法で測定した。
[ビ−ド断面形状、溶け込み深さの測定]
ビ−ド断面形状、溶け込み深さ観察用の試験片は、溶接材をビ−ド断面方向に切断し、SiC研磨紙にて#240まで研磨した後、断面を塩酸にて腐食し作成した。その後5倍のマクロ写真撮影を行い、この際、ものさしも一緒に撮影し、写真上でノギスを用いビ−ド幅、溶け込み深さを0.05mmまで測定した。その際、一緒に撮影したものさしの1mm長さも同様に測定し、実寸法を計算から求めた。
【0015】
[スパッタ発生有無の評価]
目視にて観察した。
[電極の外観の評価]
目視にて陰極の酸化の有無を観察した。
表1に溶け込み量と溶接性評価結果を示す。また図1にフラックス中の酸素量と溶け込み深さの関係を示し、図2に酸素量を変化させた場合のフラックス中の酸素量とビ−ド断面形状との関係を示す。
【0016】
【表1】
Figure 0003810924
【0017】
比較例1〜8
表1の組成(本発明の範囲外である比較例1〜7)を用いて実施例に準じてフラツクスをそれぞれ調製した。各フラックスを用いて実施例と同じ試験を行って溶接性を評価し、結果を表1および図1、図2に示した。
なお比較例8はブランクとしてフラックスを塗布しない例であり同様に表1及び図1、図2に評価結果を示した。
【0018】
実施例1〜8は、いずれの場合も顕著な溶け込み深さの増加が認められた。溶け込み深さは、図1に示されるようにフラックス中の酸素含有量の増加に伴い、24〜50原子%においてほぼ一定して最大であり、その後減少する傾向が認められた。
図2よりビ−ド断面形状は、フラックス中の酸素含有量24〜50原子%においてレ−ザ−ビ−ム溶接のビ−ド形状に非常に似通った形であることが認められた。
また、これらフラックスを塗布した場合、ア−クのスタ−トと安定性は、ブランクと何等変わらないことが認められた。ビ−ド外観はビ−ド表面に薄いスラグが被覆したが、ワイヤブラシで簡単に除去できるものであった。
【0019】
これに対し、比較例1〜3は、フラックス中の酸素量が少なすぎる例であって、スパッタの発生が観察され、比較例4〜7は、フラックス中の酸素量が多い例であって、余分に放出された酸素がW−2%Th電極と反応し、電極の寿命を短くする傾向が確認された。
ビ−ド断面積は、被溶接物にフラックスを塗布しなかった場合に較べ、塗布した場合は、フラックス中酸素量に関与せず7mm2程度増加した。
フェライト量は、被溶接物にフラックスを塗布しなかった場合に較べ、塗布した場合は、酸素量に関与せず、2%程度減少した。
溶着金属の化学成分は、SUS304母材の化学成分とほとんど同じであるが、酸素量が、塗布したフラックスの酸素量増加に伴い、最大100ppm程度まで増加した。これは通常のTIG溶接金属の5倍程度である。しかし、酸素量の増加による溶接金属の靱性劣化は、0℃の衝撃試験においては認められなかった。
【0020】
【発明の効果】
本発明のTIG溶接用フラックス組成物を用いることにより、通常の溶接条件にて、開先加工を必要とせず、I型開先にて6mm厚のステンレス鋼板を1パスで溶融接合でき、高能率なTIG溶接が可能となる。さらに溶接金属部の機械的性能は、フラックスを用いない場合と同等である。
【図面の簡単な説明】
【図1】フラックス中の酸素量と溶け込み深さの関係を表す図である。図中のブランクは何も塗布していない場合の溶け込み深さである。母材はステンレス鋼板である。
【図2】フラックス中の酸素量とビ−ド断面形状の関係を表す図である。図は左から酸素量(原子%)0,12.0,24.7,37.3,48.0,57.5,71.7,何も塗布していない場合(ブランク)である。

Claims (2)

  1. Hfを除く遷移金属IVa族の酸化物もしくは純金属とWを除く遷移金属VIa族の酸化物との混合物からなり、該混合物中の酸素原子の割合が24〜50%、金属原子の割合が50〜76%であるTIG溶接用活性フラックス組成物。
  2. ステンレス鋼を被溶接物とする請求項1記載のTIG溶接用活性フラックス組成物。
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