JP3735195B2 - 鋼材の熱間レーザー溶接用メタルコアード型フィラワイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼材を赤熱温度域でレーザー溶接する場合に、高能率でかつ溶接部の欠陥が少ない良好な溶接部の得られるフィラワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
レーザーを熱源として用いるレーザー溶接は、熱の集中性が高く、かつ低入熱溶接が可能であることから、薄板分野の溶接に利用されている。また、近年では、数10kW超級の大出力レーザー溶接装置が開発され、鉄鋼製造プロセスにおける厚板のインライン溶接や大型の鋼構造物への適用が検討されている。特に鉄鋼製造プロセスにおいては、高温・高酸化性雰囲気の中で迅速に厚板を溶接する必要があり、高エネルーギー密度でかつ高速性に優れるレーザー溶接が有効である。
【0003】
レーザー溶接用フィラワイヤおよびフィラワイヤを用いる溶接法としては、特開平8−300002号公報にAl、Ti、Siのいずれか1種または2種以上含有する鉄合金ワイヤフィラーを用いて熱間溶接する例が、また、特開平8−309402号公報にアルミニウム、シリコン、チタンの1種又は2種以上を0.03〜3%含むワイヤを用いて熱間溶接を行う方法が開示されている。これらに用いられるフィラワイヤは何れも鉄合金フィラーワイヤであり、鉄合金の形でフィラーを供給する方法である。
【0004】
また、レーザー用フィラワイヤとしてフラックス入りワイヤを用いる方法として、特開平3−230880号公報に薄板のレーザー溶接用として、脱酸剤を含有するフラックス入りワイヤを用いる方法が記載されている。
しかし、鋼材が赤熱状態にある高温・高酸化性雰囲気の中で大出力レーザーにより厚板の溶接を行う場合に、メタルコアード型フィラワイヤの適正成分を検討した例は見あたらない。
【0005】
【発明が解決すべき課題】
鋼材製造プロセス、例えば連続熱間圧延工程において鋼材を接合する場合に、鋼材の温度は1000℃付近の温度に加熱されている。この温度は鋼材が熱間脆化を起こす温度であり、熱間脆化は鋼材中のSやOと関係が深いことが知られている。熱間温度で溶接を行った場合、冷間温度における溶接よりも溶接金属の冷却速度が著しく遅く、最終凝固部にSやOが偏析しやすい。さらに、熱間温度における溶接においては、溶接開先部即ち鋼材の端面が著しく酸化しており、従来のフィラワイヤでは、脱酸が不充分となり、溶接金属の最終凝固部の一次結晶粒界に酸化皮膜が発生し易く、脆化を起こすという課題があった。
【0006】
また、レーザー溶接では溶融金属部が図1に示すように、幅が狭くかつ溶融深さが著しく大きい溶込み形状、いわゆるキーホール状の溶込み形状となるのが特長であるが、このキーホール形状はレーザーの出力が大きい程深く、また被溶接材の温度が高い程表面部の拡がりが大きいことが特徴である。そして、このキーホールの形状が深くかつキーホール壁面の安定した保持が困難である場合には空隙や酸化物が溶融金属に巻き込まれ易く、気泡状やスラグ巻込みといった溶接欠陥が形成されやすい。
【0007】
これらは熱間温度で大出力レーザーによる溶接を行った場合には特に顕著であり、従来の鉄合金フィラワイヤの脱酸能では、健全な溶接部の形成が困難な場合があった。この場合、鉄合金フィラワイヤの強脱酸剤組成をさらに高合金化して、脱酸能を増加させることも考えられるが、鉄合金として実用可能な合金成分としては、特開平8−300002号公報に記載されているようにAlおよびTiがそれぞれ0.1%未満程度のレベルであり、Al、TiさらにはMg等を多量に添加し、合金化してさらに伸線加工等によりフィラワイヤとすることは、工業的には容易でなくこのようなフィラワイヤの適用は困難であった。
【0008】
また母材が赤熱温度の状態で大出力レーザー溶接を行う場合、従来の鉄合金フィラワイヤを用いた場合には、スパッタやヒュームの発生量が著しく多く、安定な溶接が行えない上に、スパッタによりレーザー溶接装置に損傷を与えることがあり、その解決が課題となっていた。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために、フィラワイヤを鋼製外皮に強脱酸剤を多量に含む金属粉を充填したメタルコアード型とし、さらに熱間で大出力レーザー溶接を行った場合に必要なフィラワイヤの成分、成分元素の添加量および添加方法を種々検討した。その結果、本発明のフィラワイヤを使用することによって、良好な溶接性と健全な溶接金属を兼ね備えた溶接が可能であることを見い出した。
【0010】
すなわち、本発明のフィラワイヤは、Feを主体とした金属粉を95重量%以上含む粉体を、鋼製外皮中に、ワイヤ全重量に対して10〜30重量%充填し、ワイヤ成分が、ワイヤ全体に対する重量%で、
C:0.05〜0.20%、
Si:2.0〜4.0%、
Mn:2.0〜5.0%
かつ、Al、Mg、Tiの1種または2種以上を金属粉として添加し、Al、Mg、Tiの合計が、ワイヤ全体に対する重量%で5.0〜15.0%であり、残部がFeおよび不可避不純物であることを特徴とする鋼材の熱間レーザー溶接用メタルコアード型フィラワイヤである。また、ワイヤに充填するAl粉、Mg粉、Ti粉およびそれらの合金粉の粒径が75μm以上200μm以下の範囲のものであることが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明のフィラワイヤの形態についてであるが、本発明のフィラワイヤは、鋼材の熱間大出力レーザー溶接に必要な各種元素を所定量含有することが大きな特徴であるが、本発明の成分を添加した鉄合金ワイヤは溶解および伸線加工が著しく困難であり、そのため本発明ではフィラワイヤの形態を鋼製外皮にFeを主体とした金属粉を充填した、いわゆるメタルコアード型とした。また、充填する粉体にスラグ剤を添加したフラックス入りワイヤとすることも考えられるが、スラグ剤を多量に添加した場合には、スパッタの発生量が著しく多くなる上に、スラグの跳ね上がりによりミラーや溶接トーチ部を損傷させる可能性が大となる。そのため、本発明では充填粉の95重量%以上をFeを主体とした金属粉とした。さらに、充填率は10重量%未満では溶融プール中に添加される脱酸剤の量が不足し、充填率が30重量%を超える場合には、ワイヤの安定した製造が困難であると共に、ヒュームが多く発生すると共に、レーザープラズマの発生によりレーザー光の散乱、吸収が起こり、安定した溶接が行えない。そのため、充填率は10〜30重量%とした。
【0012】
次に、本発明のフィラワイヤの化学成分限定理由について説明する。本発明では熱間温度でかつ数10kwの大出力レーザーを用いて溶接を行うため、これらの特殊な条件下で添加元素が効果的に作用させるためには、ワイヤ成分を適正な範囲に調整する必要がある。本発明のフィラワイヤの成分範囲は、熱間温度で最大出力45kW仕様のレーザ溶接装置を用い、種々の成分のフィラワイヤを用いて溶接試験を行った結果をもとに得られたものであり、粉粒体の強脱酸剤を鋼外皮に充填したタイプのメタルコアード型フィラワイヤを用いた溶接では、脱酸剤の作用効果も独特のものとなり、ワイヤ成分は以下の理由により適正範囲とする必要がある。なお、以下において%は重量%を意味する。
【0013】
Cは溶融金属中の酸素と反応してCOまたはCO2 となることにより溶融金属の脱酸を行うと共に、溶接金属中に適正量歩留ることにより溶接金属の高温強度を確保する。Cが0.05%未満では脱酸が不充分となる上に溶接金属の高温強度も不充分となる。Cが0.20%を超える場合には、溶接金属の強度が過大となる上に、スパッタが多く発生し、安定なレーザー溶接が行えない。
【0014】
Siは溶接金属の脱酸を行うと共に、脱酸生成物がスラグとなって溶融金属表面を覆うことにより、熱間大出力レーザー溶接特有の溶込み形状に起因するキーホール壁面の溶融金属を垂れ難くし、気泡や酸化物巻込みによる溶接欠陥の発生を防止する。Siが2.0%未満ではこの溶融金属の垂れ防止効果は得らない。また、Siが4.0%を超える場合には、スラグが過大になりすぎ、スパッタが多く発生する。そのためSiは2.0〜4.0%の範囲とする。
【0015】
MnはSiと同様の脱酸を行うと共に、溶融金属に合金元素として添加される。そして、溶接金属中のMnはMnSを形成し、鋼材の熱間脆化を防止する役割を果たす。特に、熱間大出力レーザー溶接では、レーザービームの熱エネルギーが非常に大きいため、ワイヤ中のMnを蒸発または酸化消耗させずに溶融池に添加するにはワイヤ中Mnが2.0%以上必要である。逆にワイヤ中Mnを5.0%を超えて添加した場合には、スラグ量が過大になりスパッタ発生量が増加すると共に、スラグの溶融池保持作用が低下し、溶接欠陥が発生し易くなる。
【0016】
Al、MgおよびTiは強力な脱酸剤であり、鋼材の熱間溶接のように、開先部の酸化度が著しい場合に溶接金属の脱酸を強力かつ迅速に行うには、非常に有効な成分である。しかし、これらの成分を溶融金属中に歩留る程度に多量に添加した場合、溶接金属が脆弱な成分となり、溶接金属部の延性が低下する。本発明ではこれらの成分をメタルコアード型ワイヤ中に金属粉として適正量添加することにより、有効に作用させることが可能であることを見いだした。熱間大出力レーザー溶接において有効な脱酸効果を得るためには、Al、MgまたはTiの1種または2種以上が合計で5.0%以上添加されることが必要である。これらの成分が、15.0%を超える場合には、溶接金属が脆化すると共に、スラグの発生量も過大となり安定レーザー溶接が行えない。従ってAl、Mg、Tiの適正量は5.0%〜15.0%の範囲である。
【0017】
また、Al、MgおよびTi粉またはこれらの合金粉は、熱間大出力レーザー溶接における溶融池に添加される場合に、特に蒸発し易い成分であり、ワイヤ中に充填するAl、Mg、Tiの1種または2種以上を含む金属粉の粒径は、75μm未満の場合には、レーザービームにより蒸発し易く、また200μmを超える場合には溶接ビード表面近傍にこれらの成分が偏析し易いため75μm以上200μm以下の範囲のものとすることが好ましい。
【0018】
【実施例】
さらに、実施例により本発明の効果を説明する。以下の%は重量%を意味する。表1に試作したメタルコアード型フィラワイヤの成分を示す。これらの試作フィラワイヤは何れも、パイプ状の軟鋼外皮に所定成分の金属粉(95%以上)を充填し、ワイヤ径1.6mmに伸線加工し、製造した。尚、充填率30%を超えるワイヤは、伸線工程で断線したため、溶接試験には供することができなかった。尚、金属粉が95%未満のワイヤは、予備実験の結果スラグが非常に多量に発生したため、レーザー溶接による試験には供試しなかった。
【0019】
【表1】
【0020】
表1のフィラワイヤを用い、出力45kWのレーザー溶接装置により、熱間温度における鋼材の突合せ溶接試験を行った。鋼材はJIS G3131 熱間圧延軟鋼板 SPHC相当材の板厚25mmを用いた。試験材の開先形状寸法は図1に示すI型突合せとし、溶接試験板は溶接直前まで均熱炉中にて1050℃で加熱し、炉から取出した試験板を20秒以内に溶接する方法によりレーザー溶接を行った。
【0021】
レーザー溶接は、最大出力45kWのレ−ザー溶接装置を用い、実出力40kW、溶接速度3m/min、フィラワイヤ送給速度3m/min、フィラワイヤ挿入角度30゜(母材との角度、溶接前方から挿入)の条件で行った。センターガスおよびアシストガスとしてHeを使用した。
【0022】
溶接試験における溶接作業性評価として、スパッタ発生量、ヒューム発生量を目視観察にて評価した。また、目視による溶接ビード外観観察と放射線透過試験による溶接欠陥の調査を行った。溶接欠陥は、溶接長に対する欠陥発生長さの割合を百分率で算出し溶接欠陥率とした。さらに、溶接後の試験体の板厚中央部から溶接方向と直角な方向にJIS G0567 I10型試験片を採取し、950℃にて高温引張試験を行い、破断位置で溶接性を評価した。
【0023】
表2に試験結果を示す。表2から明らかなように、充填率が10%未満でAl、Ti、Mgの合計も5.0%未満であるNo.6、Cが0.05%未満のNo.7、Siが2.0%未満のNo.9、Mnが2.0%未満のNo.11およびAl、Mg、Tiの合計が5.0%未満のNo.13については、何れもスパッタ発生量およびヒューム発生量は少なかったが、脱酸不足または溶融金属の垂れが原因と思われるスラグ巻込み等の溶接欠陥が多く発生し、950℃での引張試験結果も何れも溶接金属部で破断し、良好な溶接結果は得られなかった。
【0024】
【表2】
【0025】
また、Cが0.20%を超えるNo.8については、スパッタが多く発生すると共に、溶接ビード部に高温割れが発生した。
Siが4.0%を超えたNo.10は溶接欠陥は少なかったが、スパッタが非常に多く採用できなかった。また、Mnが5.0%を超えたNo.12はスラグが多く発生すると共に、スラグの巻込みによると思われる内部欠陥が発生し、良好な溶接結果が得られなかった。Al、Mg、Tiの合計が15.0%を超えるNo.14は、スラグが多量に発生し、スパッタおよびヒュームが多くなると共に、溶接ビード表面部にスラグが焼付き、良好な溶接結果は得られなかった。
【0026】
Al、Mg、Tiに粒度が75μm未満の金属粉を用いたNo.15は溶接作業性は良好であったが、気孔欠陥率がやや高めであった。また、Al、Mg、Tiに粒度200μmを超える金属粉を用いたNo.16はスパッタ、ヒュームがやや多くなると共に、溶接ビード表面に未溶融粉末の付着が認められた。
【0027】
これに対し、本発明例であるNo.1からNo.5の結果は何れのフィラワイヤもワイヤ成分が適正であり、溶接作業性および溶接金属性能共に良好な結果が得られている。
【0028】
【発明の効果】
以上のように、本発明のメタルコアード型フィラワイヤを用いることにより、熱間温度で鋼材を大出力レーザーにより溶接した場合に、スパッタ、ヒュームの発生が少なく、かつ溶接部の欠陥が少ない良好な溶接部を得ることが可能になった。その結果、鋼材製造における生産能率を大幅に向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】レーザー溶接の溶融池形状を示す模式図
【図2】実施例において使用した、溶接試験体の開先形状寸法を示す斜視図
Claims (2)
- Feを主体とした金属粉を95重量%以上含む粉体を、鋼製外皮中に、ワイヤ全重量に対して10〜30重量%充填し、
ワイヤ成分が、ワイヤ全体に対する重量%で、
C:0.05〜0.20%、
Si:2.0〜4.0%、
Mn:2.0〜5.0%
かつ、Al、Mg、Tiの1種または2種以上を金属粉として添加し、Al、Mg、Tiの合計が、ワイヤ全体に対する重量%で5.0〜15.0%であり、残部がFeおよび不可避不純物であることを特徴とする鋼材の熱間レーザー溶接用メタルコアード型フィラワイヤ。 - Al粉、Mg粉、Ti粉およびそれらの合金粉の粒径が75μm以上200μm以下の範囲であることを特徴とする請求項1記載の鋼材の熱間レーザー溶接用メタルコアード型フィラワイヤ。
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