JP3808832B2 - ポリエステル系合成繊維の難燃加工方法および難燃性処理されたポリエステル系合成繊維 - Google Patents

ポリエステル系合成繊維の難燃加工方法および難燃性処理されたポリエステル系合成繊維 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリエステル系合成繊維の難燃加工方法に関する。さらに詳しくは、ポリエステル系合成繊維、ポリエステル系合成繊維からなる綿、糸、編織物もしくは不織布、またはそのポリエステル系合成繊維と他の天然繊維、無機繊維、半合成繊維もしくは合成繊維との交織織物、もしくは混紡繊維からなる綿、糸、編織物もしくは不織布からなる、繊維または繊維製品を後加工により難燃化するのに好適な難燃加工方法を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ポリエステル繊維、特に、布帛に後加工によって難燃性を付与するための方法が種々知られている。
例えば、分散剤を用いて、1,2,5,6,9,10−ヘキサブロモシクロドデカンのような臭素化シクロアルカンを難燃剤として水に分散させてなる難燃加工剤をポリエステル繊維布巾に付着させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】
特公昭53−8840号公報
【0004】
しかしながら、このように、ポリエステル繊維布巾にハロゲン系化合物を付着させて、難燃性を付与する方法によれば、そのようなポリエステル繊維布巾が燃焼したとき、有害なハロゲン化ガスが発生し、これが環境に有害な影響を及ぼす等の問題がある。そこで、近年においては、難燃剤として、ハロゲン系化合物を用いることが規制されるに至っている。
そこで、ハロゲン系化合物に変わる難燃剤成分として、有機リン系化合物がポリエステル繊維に良好な難燃性を有することが見いだされている。
【0005】
しかし、有機リン系化合物はポリエステル繊維に対する付着性が悪く、有効な難燃性を得るためには大量の難燃剤処理に使用した投入した難燃剤の有機リン系化合物の大半が処理浴中に残存するため、廃液の負荷が大きく、環境に悪影響を及ぼす問題を有する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、後加工でも有機リン系化合物を効率良く、ポリエステル系合成繊維に付与せしめ、耐久性のある難燃性を付与する難燃加工方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、1種以上の有機リン系化合物(a)からなる難燃剤(A)を含有する処理液(I)によるポリエステル系合成繊維の難燃加工方法において、該処理液(I)のゼータ電位が−20mv〜−80mvに調整され、かつ、該有機リン系化合物(a)が平均粒子径2μm以下の微粒子として該処理液(I)中に分散されていることを特徴とするポリエステル系合成繊維の難燃加工方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明において用いられる有機リン系化合物(a)としては、5価のリン原子を含むリン原子含有官能基(P)を分子内に含む低分子有機リン系化合物(a1)または高分子有機リン系化合物(a2)である。
具体的には、リン酸基(P1)、ホスホン酸基(P2)、ホスフィン酸基(P3)およびホスフィンオキサイド基(P4)から選ばれた少なくとも1種のリン原子含有官能基(P)を有する化合物である。
【0009】
低分子有機リン系化合物(a1)でリン酸基(P1)を含有するものとしては、一般式(1)で表される構造を有するリン酸エステル(a1−1)を用いることができる。
【0010】
【化1】
Figure 0003808832
【0011】
式中、R1 、R2 、R3は炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、または炭素数1〜4のアルキレン基置換のアリールアルキル基であり、同一でもよいし、異なっていてもよく、さらにR1 、R2 、R3 のうちの2つが互いに結合してPとOとともに環を形成していてもよい。
【0012】
置換基R1 〜R3のアルキル基としては、炭素数1〜22で直鎖または分岐のアルキル基であり、たとえばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、3−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、2−エチルヘキシル基、イソノニル基、n−デシル基、イソデシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基、n−イコシル基、n−ドコシル基が挙げられる。リン含量の観点から、それらのうち、炭素数1〜10のアルキル基が好ましい
【0013】
置換基R1 〜R3のアルケニル基としては炭素数2〜22で直鎖または分岐のアルケニル基であり、たとえばビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、エイコセニル基、ドコセニル基が挙げられる。リン含量の観点から、それらのうち炭素数2〜6のアルケニル基が好ましい
置換基R1 〜R3のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基である。
【0014】
置換基R1 〜R3 のアリール基としては炭素数6〜14のアリール基であり、たとえばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、オクチルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、が挙げられ、フェニル基、ビフェニリル基が好ましい。
置換基R1 〜R3 のアリールアルキル基としては炭素数1〜4のアルキレン基で置換された炭素数7〜18のアリールアルキル基であり、ベンジル基、フェネチル基が好ましい。
【0015】
リン酸基(P1)を含有するリン酸エステル(a1−1)の具体例としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリイソブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸トリキシリル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸メチルジフェニル、リン酸フェニルジエチルなどがあげられる。これらのうち好ましいものはリン酸トリフェニルである。
【0016】
低分子有機リン系化合物(a1)でホスホン酸基(P2)を含有するものとしては、一般式(2)で表される構造を有するホスホン酸エステル(a1−2)を用いることができる。
【0017】
【化2】
Figure 0003808832
【0018】
式中のR1 、R2 、R3は(a1−1)で例示した置換基と同一の置換基が挙げられる。
【0019】
ホスホン酸基(P2)を含有するホスホン酸エステル(a1−2)の具体例としては、メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジエチル、メチルホスホン酸ジプロピル、メチルホスホン酸トリブチル、ブチルホスホン酸ジブチル、フェニルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジクレジル、フェニルホスホン酸ジキシリル、フェニルホスホン酸フェニルクレジルなどがあげられる。これらのうち好ましいものはフェニルホスホン酸ジフェニルである。
【0020】
低分子有機リン系化合物(a1)でホスフィン酸基(P3)を含有するものとしては、一般式(3)で表される構造を有するホスフィン酸エステル(a1−3)を用いることができる。
【0021】
【化3】
Figure 0003808832
【0022】
式中のR1 、R2 、R3は(a1−1)で例示した置換基と同一の置換基が挙げられる。
【0023】
ホスフィン酸基(P3)を含有するホスフィン酸エステル(a1−3)の具体例としては、ジメチルホスフィン酸ジメチル、ジエチルホスフィン酸エチル、ジメチルホスフィン酸プロピル、ジチルホスフィン酸ブチル、ジフェニルホスフィン酸フェニル、ジフェニルホスフィン酸クレジル、ジフェニルホスフィン酸ジキシリなどがあげられる。これらのうち好ましいものはジフェニルホスフィン酸フェニルである。
【0024】
低分子有機リン系化合物(a1)でホスフィンオキサイド基(P4)を含有するものとしては、一般式(4)で表される構造を有する化合物(a1−4)を用いることができる。
【0025】
【化4】
Figure 0003808832
【0026】
式中のR1 、R2 、R3は(a1−1)で例示した置換基と同一の置換基が挙げられる。
【0027】
ホスフィンオキサイド基(P4)を含有する化合物(a1−4)の具体例としては、トリメチルホスフィンオキサイド、トリエチルホスフィンオキサイド、トリ−n−プロピルホスフィンオキイド、トリ−n−ブチルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリ−n−ヘキシルホスフィンオキイド、トリ−n−オクチルホスフィンオキサイド、トリス−3−ヒドロキシプロピルホスフィンオキサイドなどがあげられる。これらのうち好ましいものはトリフェニルホスフィンオキサイドである。
【0028】
高分子有機リン系化合物(a2)としては、一般式(5)、(6)で表される縮合型リン酸エステル(a2−1)、縮合型ホスホン酸エステル(a2−2)を用いることができる。
【0029】
【化5】
Figure 0003808832
【0030】
【化6】
Figure 0003808832
【0031】
(式中、R4 〜R7 は炭素数6〜14のアリール基、または炭素数1〜4のアルキレン基で置換された炭素数7〜18のアリールアルキル基であり、これらは同一でもよいし、異なっていてもよい。V、Wはアリーレン基を示す。nは1〜5の整数を示す。)
【0032】
置換基R4 〜R7 のアリール基としては、炭素数6〜14のアリール基であり、たとえばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、オクチルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、が挙げられ、フェニル基、ビフェニリル基が好ましい。
また、置換基R4 〜R7 のアリールアルキル基としては炭素数1〜4のアルキレン基で置換された炭素数7〜18のアリールアルキル基であり、ベンジル基、フェネチル基が好ましい。
【0033】
V、Wのアリーレン基としては炭素数6から20のアリーレン基であり、フェニレン基、ナフチレン基、フェナントレン基などが挙げられる。
【0034】
縮合型リン酸エステル(a2−1)の具体例としては、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジクレジルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジクレジルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAジフェニルホスフェート)ビスフェノールAビス(ジクレジルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジキシレニルホスフェート)などが挙げられる。一般式(5)で表される縮合型高分子リン酸エステル(a2−1)は重量平均分子量が通常500〜2000、好ましくは700〜1500である。
【0035】
縮合型ホスホン酸エステル(a2−2)の具体例としては、レゾルシノール(フェニルホスホン酸フェニル)、、ハイドロキノン(フェニルホスホン酸フェニル)、ビスフェノールA(フェニルホスホン酸フェニル)などが挙げられる。一般式(6)で表される縮合型リン酸エステル(a2−2)は重量平均分子量が通常500〜2000、好ましくは700〜1500である。
【0036】
高分子有機リン系化合物(a2)としては、上述の縮合型リン酸エステル(a2−1)、縮合型ホスホン酸エステル(a2−2)以外に、ヒドロキシル基を有するポリマー(フェノール樹脂、ポリアクリルジオールなど)のリン酸エステル(a2−3)、ホスホン酸エステル(a2−4)、ホスフィン酸エステル(a2−5)が挙げられる。これらはフェノール樹脂、ポリアクリルジオールなどのヒドロキシル基を有するポリマーと、上述の(a1−1)〜(a1−3)とのエステル交換反応で得られる。
【0037】
さらに本発明の高分子有機リン系化合物(a2)として、下記一般式(7)〜(11)で表される低分子有機リン系化合物(a’−1)〜(a’−5)とジカルボン酸および/またはそのエステル形性成誘導体(c)とジオール(d)をポリエステル化反応して得られるポリエステル(e)が挙げられる。
【0038】
【化7】
Figure 0003808832
【0039】
[Rは1価の有機基を表す。]
【0040】
【化8】
Figure 0003808832
【0041】
[Rは1価の有機基を表す。]
【0042】
【化9】
Figure 0003808832
【0043】
[Rは1価の有機基、Yは2価もしくは3価の有機残基、Zは1価のエステル形成官能基を表す。]
【0044】
【化10】
Figure 0003808832
【0045】
[Rは1価の有機基、Yは2価もしくは3価の有機残基、Zは1価のエステル形成官能基を表す。]
【0046】
【化11】
Figure 0003808832
【0047】
[R’、R”は1価の有機基、Yは2価もしくは3価の有機残基、Zは1価のエステル形成官能基、nは1または2の整数を表す。]
【0048】
一般式(7)で表されるポリエステル(e)の原料である低分子有機リン系化合物(a’−1)は、前述の(a1−1)と同じ化合物が使用できる。
一般式(8)で表される原料の低分子有機リン系化合物(a’−2)は前述の(a1−2)と同じ化合物が使用できる。
【0049】
一般式(9)で表される原料の低分子有機リン系化合物(a’−3)、一般式(10)で表される原料の低分子有機リン系化合物(a’−4)、一般式(11)で表される原料の低分子有機リン系化合物(a’−5)は、カルボキシル基、カルボキシル基の低級アルキル(炭素数1〜4)、アルキレングリコールエステル、ヒドロキシル基などのエステル形成性官能基を有する化合物である。
【0050】
一般式(7)で表される原料の化合物の具体例として、トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェートなどが挙げられる。
【0051】
一般式(8)で表される原料の化合物の具体例として、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジメチルなどが挙げられる。
【0052】
一般式(9)で表される原料の化合物の具体例として、2−カルボキシエチル−メチルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−エチルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−プロピルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−フェニルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−m−トルイルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−p−トルイルフェニルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−キシリルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−ベンジルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−メチルホスフィン酸、2−カルボキシエチル−プロピルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−フェニルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−m−トルイルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−p−トルイルフェニルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−キシリルホスフィン酸、2−カルボキシメチル−ベンジルホスフィン酸、およびその無水物、その低級アルキル(炭素数1〜4)エステル、ハライド(クロライドなど)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらにこれらの混合物を用いることも可能である。
【0053】
一般式(10)で表される原料の化合物の具体例として、ビス−(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)m−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)m−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)p−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)キシリルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシエチル)ベンジルホスフィンオキシド、 ビス−(2−カルボキシメチル)フェニルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)m−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)m−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)p−トルイルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)キシリルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)ベンジルホスフィンオキシド、ビス−(2−カルボキシメチル)−m−エチルベンジルホスフィンオキシド、およびその無水物、その低級アルキル(炭素数1〜4)エステル、ハライド(クロライドなど)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらにこれらの混合物を用いることも可能である。
【0054】
一般式(11)のR’、R''は同一または異なる1価の有機残基を表し、互いに環を形成していてもかまわない。
(11)で示される低分子有機リン系化合物の具体例としては次に示される(12)〜(19)のジカルボン酸化学構造の低級アルコール(炭素数1〜4)ジエステル、エチレングリコールジエステル、プロピレングリコールジエステル;その酸無水物、そのハライド(クロライドなど)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらにこれらの混合物を用いることも可能である。
【0055】
【化12】
Figure 0003808832
【0056】
【化13】
Figure 0003808832
【0057】
【化14】
Figure 0003808832
【0058】
【化15】
Figure 0003808832
【0059】
【化16】
Figure 0003808832
【0060】
【化17】
Figure 0003808832
【0061】
【化18】
Figure 0003808832
【0062】
【化19】
Figure 0003808832
【0063】
本発明の高分子有機リン系化合物(a2)の1例としてのポリエステル(e)を製造する際の原料であるジカルボン酸および/またはこれらの酸無水物(c)としては、芳香族ジカルボン酸、芳香脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸;およびこれらの酸無水物、低級アルキル(炭素数1〜4)エステル、酸ハライド(酸クロライドなど)などが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、炭素数8〜20、たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(1,5−、2,5−、2,6−および2,7−体)酸、ビフェニルジカルボン酸(2,2’−、3,3’−および4,4’−体)、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、2,5−アントラセンジカルボン酸(2,5−および2,6−体)およびこれらの混合物が挙げられる。
芳香脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数9〜20、たとえばフェニレンジアセティック酸(o−、m−およびp−体)、フェニレンジプロピオン酸(o−、m−およびp−体)、フェニルマロン酸、フェニルグルタル酸およびジフェニルコハク酸が挙げられる。
【0064】
脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数2〜20の飽和または不飽和ジカルボン酸、たとえばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、マレイン酸、フマール酸およびイタコン酸が挙げられる。
【0065】
脂環式ジカルボン酸としては、炭素数6〜50、たとえば1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−ジカルボキシメチルシクロヘキサン、1,4−ジカルボキシメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシル−4,4’−ジカルボン酸およびダイマー酸が挙げられる。
【0066】
本発明におけるポリエステル(e)を製造する際のもう1つの原料であるジオール(d)としては、低分子ジオールと高分子ジオールが挙げられる。
低分子ジオールとしては、脂肪族ジオール(炭素数2〜10のアルキレングリコール、たとえばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール);脂環式ジオール[炭素数5〜20、たとえばシクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、水添ビスフェノ―ルA];芳香脂肪族ジオール[炭素数10〜20、たとえばビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、ビスヒドロキシメチルジフェニルエーテルなど];およびこれらのジオールまたは2価フェノール[炭素数6〜20、たとえば単環2価フェノール(ハイドロキノンなど)、ビスフェノール(ビスフェノールAなど)]のアルキレン(炭素数2〜4)オキシド低モル付加物(数平均分子量500以下);およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0067】
また、高分子ジオールとしては、通常ポリエステルの製造に用いられるポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリアクリルジオール、ポリブタジエンジオール、およびこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。
【0068】
さらに、ラクトンを開環重合反応させて本発明のポリエステル(e)を製造することができる。この際、ジカルボン酸(c)とジオール(d)を併用しても差し支えがない。ラクトンとしては、炭素数3〜20のもの、たとえばβ−ラクトン(β−プロピオラクトンなど)、γ−ラクトン(γ−ブチロラクトンなど)、δ−ラクトン(δ−バレロラクトンなど)、ε−ラクトン(ε−カプロラクトンなど)、大環状ラクトン(エナントラクトン、ウンデカノラクトン、ドデカラクトンなど)などが挙げられる。ラクトンを構成するアルキレン基は直鎖状、分岐状いずれでもよい。
【0069】
本発明の高分子有機リン系化合物(a2)の1例としてのポリエステル(e)を得る方法としては、通常のポリエステル製造に採用されている任意の方法で、低分子有機リン系化合物とジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体とジオールを重縮合させて製造することができる。
また、原料となる低分子有機リン化合物の添加方法、時期は特に限定されないが、その添加時期は、重縮合反応初期から後期までの任意の段階で添加できる。
【0070】
ポリエステル化反応は通常、触媒の存在下に行われる。触媒としては従来一般に用いられているIIA族(Mg、Caなど)、IIB族(Znなど)、IIIA族(Alなど)、IVA族(Ge、Snなど)、IVB族(Tiなど)、VA族(Sbなど)、VIIB族(Mnなど)、VIII族(Feなど)の金属の化合物〔酸化物、塩化物、有機(アルキル基、アリール基など)金属化合物など〕が挙げられ、これらの2種以上を併用してもよい。
ポリエステル化反応の反応時間は通常1〜50時間、好ましくは2〜20時間である。
【0071】
ポリエステル(e)の重量平均分子量(測定法:GPC法、以下同様。以下Mwと略記)は耐久難燃性の観点から好ましくは1,000〜100,000、さらに好ましくは5,000〜50,000である。
【0072】
ポリエステル(e)のリン含量は、難燃性および耐久難燃性の観点から、好ましくは0.5〜20重量%、さらに好ましくは3〜15重量%、特に好ましくは4〜10重量%である。
【0073】
本発明の難燃剤(A)は、有機リン系化合物(a)を水に分散させて製造される。(A)中の有機リン系化合物(a)の濃度は、通常10〜50重量%、好ましくは15〜40重量%である。
(a)を水に分散させる方法としては、例えば(a)と非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、およびこれらを併用し、必要により有機溶剤も配合して均一に溶解し、徐々に水を加えて乳化分散させる方法が挙げられる。
得られた水分散体は、さらに必要により常温まで冷却後、湿式粉砕機で微粒子化分散することもできる。
【0074】
非イオン界面活性剤としては、たとえば、アルキレンオキシド付加型非イオン界面活性剤、ポリアルキレングリコール類の高級脂肪酸エステル、多価アルコールの高級脂肪酸エステルのアルキレンオキシド付加物、高級脂肪酸アミドのアルキレンオキシド付加物、多価アルコールアルキルエーテルのアルキレンオキシド付加物、多価アルコ−ル型非イオン界面活性剤が挙げられる。
アルキレンオキシド付加型非イオン界面活性剤としては、高級アルコール(炭素数8〜18)、高級脂肪酸(炭素数12〜24)、高級アルキルアミン(炭素数8〜24)等に、直接アルキレンオキシド〔炭素数2〜4、たとえばエチレンオキシド(以下EOと略記)、プロピレンオキシド(以下POと略記)、ブチレンオキシド;およびこれらの2種以上の併用、以下同じ〕を付加させたものがあげられ、これらの数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフによる。以下Mnと略記する。)は158〜200,000である。
ポリアルキレングリコール類の高級脂肪酸エステルとしては、グリコール類にアルキレンオキシドを付加させて得られるMn150〜6,000のポリアルキレングリコール類に高級脂肪酸を反応させたものが挙げられる。
多価アルコールの高級脂肪酸エステルのアルキレンオキシド付加物としては、2価〜8価またはそれ以上の多価アルコール(炭素数2〜60、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン)に高級脂肪酸(炭素数12〜24、たとえばラウリン酸、ステアリン酸)を反応させて得られたエステル化物にアルキレンオキシドを付加させたもの(Mn250〜30,000)が挙げられる。
高級脂肪酸アミドのアルキレンオキシド付加物としては、高級脂肪酸アミドにアルキレンオキシドを付加させてMn200〜30,000としたものが挙げられる。
多価アルコールアルキルエーテルのアルキレンオキシド付加物としては、2価〜8価またはそれ以上の多価アルコールアルキル(炭素数3〜60)エーテルにアルキレンオキシドを付加させてMn120〜30,000としたものが挙げられる。
多価アルコ−ル型非イオン界面活性剤としては、2価〜8価またはそれ以上の多価アルコ−ルと(炭素数3〜60)と脂肪酸(炭素数3〜60)とのエステル;多価(2価〜8価またはそれ以上)アルコールアルキル(炭素数3〜60)エーテル;脂肪酸(炭素数3〜60)アルカノールアミドなどが挙げられる。
【0075】
アニオン界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸(炭素数8〜22の飽和または不飽和脂肪酸)またはその塩(ナトリウム、カリウム、アンモニウム、アルカノールアミンなどの塩);カルボキシメチル化物の塩(炭素数8〜16の脂肪族アルコールおよび/またはそのEO(1〜10モル)付加物などのカルボキシメチル化物の塩など);硫酸エステル塩[高級アルコール硫酸エステル塩(炭素数8〜18の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩など)];高級アルキルエーテル硫酸エステル塩[炭素数8〜18の脂肪族アルコールのEO(1〜10モル)付加物の硫酸エステル塩];硫酸化油(天然の不飽和油脂または不飽和のロウをそのまま硫酸化して中和したもの);硫酸化脂肪酸エステル(不飽和脂肪酸の低級アルコールエステルを硫酸化して中和したもの);硫酸化オレフィン(炭素数12〜18のオレフィンを硫酸化して中和したもの);スルホン酸塩[アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸ジエステル型、α−オレフィン(炭素数12〜18)スルホン酸塩、イゲポンT型など];リン酸エステル塩[高級アルコール(炭素数8〜60)リン酸エステル塩、高級アルコール(炭素数8〜60)EO付加物リン酸エステル塩、アルキル(炭素数4〜60)フェノールEO付加物リン酸エステル塩など]が挙げられる。
【0076】
これら界面活性剤の配合量は、(a)100重量部に対して、通常0.001〜35重量部であり、好ましくは0.05〜20重量部である。0.001重量部以上配合すれば、(a)の水中での分散安定性が良好であり、35重量部以下であれば、難燃性が良好である。
【0077】
有機リン系化合物(a)を水に分散させて本発明の難燃剤(A)を製造する際に、必要により非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤と併用される有機溶剤としては、トルエン、キシレン、アルキル(炭素数1〜4)ナフタレンなどの芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;ジオキサン、エチルセロソルブなどのエーテル;ジメチルホルムアミドなどのアミド;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド;メチレンクロライド、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素;およびこれらの二種以上の混合物が挙げられる。
【0078】
これら有機溶剤の配合量は、(a)100重量部に対して、好ましくは1〜100重量部であり、さらに好ましくは10〜90重量部である。1重量部以上配合すれば、(a)の水中での分散安定性が良好であり、100重量部以下であれば、難燃性が良好である。
【0079】
(A)中に分散している(a)の体積平均粒径は、通常2μm以下であり、ポリエステル繊維への均一付着性の観点から、好ましくは0.01〜1.5μm、より好ましくは0.02〜1μmである。
なお、この体積平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定法で測定できる(例えば、堀場製作所製LA−920による)。
【0080】
本発明の難燃加工方法は、難燃剤(A)を含有した処理液(I)に無機酸塩を添加しすることにより、(I)のゼータ電位を通常、−20mv〜−80mv、好ましくは−30mv〜−70mv、さらに好ましくは−35mv〜−65mvに調整する。
処理液(I)のゼーター電位が−20mvよりおおきくなると、難燃剤の凝集が起こり、ポリエステル系合成繊維への吸着に均一性が損なわれ、難燃性にバラツキが生じる。ゼータ電位が−80mvより小さくなると、ポリエステル系合成繊維への吸着性が低下し、難燃性が損なわれる。
なお、ゼータ電位は電気泳動光散乱法で測定できる(例えば、大塚電子(株)製ELS−800による)。
【0081】
(A)含有の処理液(I)のゼータ電位を好ましい範囲に調整する方法としては、無機塩(B)を添加する方法が挙げられ、この無機塩(B)としては、水への標準溶解エンタルピーが3〜25kJmol-1、好ましくは5〜20kJmol-1の、特に好ましくは6〜19kJmol-1のものが好ましい。
標準溶解エンタルピーが、3kJmol-1未満の無機酸塩を用いると、処理液(I)のゼーター電位が−20mvより大きくなるため、難燃剤の凝集が起こり、ポリエステル系合成繊維への吸着に均一性が損なわれ、難燃性にバラツキが生じる。または25kJmol-1を超えるものを用いると、ゼータ電位が−80mvより小さくなるため、ポリエステル系合成繊維への吸着性が低下し、難燃性が損なわれる。
なお、本発明において、「水への標準溶解エンタルピー」とは、化学便覧基礎編II(改訂4版)252〜255頁(1993)に記載のものである。
【0082】
本発明における無機酸塩(B)としては、アルカリ金属(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム、有機アミン等のカチオン成分と、塩酸、亜硝酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、過硫酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホウ酸、次亜塩素酸、過塩素酸等の無機酸との無機塩(カチオン成分がヒドラジンなどの有機アミンを含む)のうち、水への標準溶解エンタルピーが3〜25kJmol-1のものである。
具体例としては、アルカリ金属塩としてはLiF(4.7kJmol-1)、LiNO2・H2O(7.1)、NaBr・2H2O(18.6)、NaClO3(21.7)、NaClO4・H2O(22.5)、NaHCO3(19.1)、NaI・2H2O(16.1)、NaIO3(20.2)、NaNO2(13.8)、NaNO3(20.5)、KBr(19.9)、KCl(17.2)、KH2PO4(19.6)、KNO2(13.3)が挙げられる。アンモニウム塩としては例えば、NH4Br(16.8)、NH4Cl(14.8)、NH4HCO3(25)、(NH4)H3PO3(16.3)、(NH42HPO4(9.8)、(NH43SO4(6.6)、NH4HSO3(10.0)、NH4HSO4(7.1)、NH4NO2(19.2)が挙げられる。ヒドラジン塩としては例えば、N25Cl(21.8)が挙げられる。
これらのうちで特に(NH43SO4(6.6)、(NH42HPO4、(NH4)H3PO3(16.3)が好ましい。
【0083】
本発明の処理液(I)は、難燃剤(A)をあらかじめ、水で希釈し、ゼータ電位を−20mv〜−80mvに調整するために無機塩(B)を加えて作成する。
処理液(I)中の有機リン化合物(a)の濃度は、通常5質量%以下、好ましくは0.01〜3%、特に好ましくは0.05〜2質量%である。
無機塩(B)の添加量は特に限定されないが、(A)100質量部に対し、通常5〜100質量部、好ましくは、7質量部以上、80質量部以下である。(B)が5質量部以上ではポリエステル系合成繊維への難燃加工剤の吸着性が良好であり、100質量部以下の場合は難燃加工剤の均一付着性が良好である。
【0084】
処理液(I)中に分散している(a)の平均粒子径は、体積平均粒径として通常2μm以下であり、ポリエステル繊維への均一付着性の観点から、好ましくは0.01〜1.5μm、より好ましくは0.02〜1μmである。処理液(I)のゼーター電位が大きくなり過ぎると(a)の微粒子の凝集が起こりやすくなり、その結果、ポリエステル系合成繊維への吸着に均一性が損なわれ、難燃性にバラツキが生じる。標準エンタルピーが適切な無機塩(例えば硫酸アンモニウム;6.6kJmol-1)を使用しても、添加量が多すぎてゼーター電位が大きくなりすぎると凝集するため、平均粒子径が2μmを超えてしまい、問題がある。
【0085】
有機リン系化合物(a)の繊維に対する付与量は、繊維または繊維製品形態の種類によって異なるが、通常0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%、特に好ましくは1〜15%である。付与量が0.1質量%以上であると難燃性が良好となり、30質量%以下であると処理された繊維または繊維製品の風合いが良好である。
【0086】
本発明において、処理浴でバッチ式処理法により、処理液(I)中でポリエステル系合成繊維に難燃剤(A)を付与する方法は、以下のとおりである。
液流染色機、ビーム染色機、チーズ染色機等のパッケージ染色機中で、(A)を水に分散させて、さらに(B)を添加して混合する。
【0087】
処理浴の浴比は、好ましくは1:5〜1:50、さらに好ましくは1:10〜1:40である。
処理温度は50℃〜140℃、処理時間は10分〜90分間であることが好ましく、70℃〜130℃で20分〜60分間の処理をすることがさらに好ましい。処理温度が140℃を超えると、処理液の分散安定性が損なわれ、難燃剤の付着ムラを生じ、難燃性にムラを生じる。50℃未満の温度では難燃剤の付着性が悪く、難燃性を得ることができない。
難燃剤処理後、処理した繊維製品を水洗した後、乾燥し、さらにテンター等で加熱処理を施す。水洗は常温〜80℃での水で行うことが好ましい。この水洗工程で(B)は実質上、繊維表面から除かれる。次いで、好ましくは90℃〜130℃の温度で乾燥し、さらに、好ましくは140〜200℃の温度で加熱処理を行う。加熱処理時間は20秒〜5分間であることが好ましい。特に160〜190℃で30秒〜1分間の処理をすることが好ましい。140℃以上で処理を行うと、洗濯やドライクリーニング後の難燃性が向上する。また、200℃以下であると、ポリエステル系繊維の黄変脆化、さらに染料の昇華などが生じる恐れがなく好ましい。
なお、(A)、(B)の混合順序は、とくに限定されない。
【0088】
本発明の難燃加工法においては、(A)をポリエステル系合成繊維に付与する際に、その他の繊維加工剤と併用することもできる。このような繊維加工剤としては、柔軟剤(シリコーン系エマルション等、たとえば三洋化成工業製サファノールN−750)、吸水加工剤(ポリエステル系樹脂エマルション等、たとえば三洋化成工業製パーマリンMR−100)、帯電防止剤(リン酸エステル塩系界面活性剤等、たとえば三洋化成工業製サンスタットKT−600)、撥水撥油剤(パラフィン系ワックス等、たとえば三洋化成工業製アイソトールH)、スリップ防止剤(コロイダルシリカ等、たとえば三洋化成工業製パーマリンSCC−A)、硬仕上剤および風合い調整剤などが挙げられる。また、本発明を阻害しない範囲で同浴でも別浴でも使用可能である。
同浴または別浴で用いる場合の、上記のその他の繊維加工剤の使用量は、(A)の質量に基づいて、使用量が、好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0089】
本発明において処理され得る物品は、ポリエステル系合成繊維、ポリエステル系合成繊維からなる綿、糸、編織物もしくは不織布、またはそのポリエステル系合成繊維と綿、麻、羊毛または絹などの天然繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維もしくはアスベスト繊維などの無機繊維、レーヨンもしくはアセテートなどの半合成繊維またはポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリルもしくはポリプロピレンなどの合成繊維との交織織物、もしくは混紡繊維からなる綿、糸、編織物もしくは不織布があげられる。
【0090】
本発明において、適用するポリエステル系合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/5−ソジオスルホイソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリオキシベンゾイル、およびポリブチレンテレフタレート/イソフタレートなどのポリエステル繊維が挙げられる。
【0091】
本発明で処理された物品の用途としては、自動車、鉄道、船舶、航空機などの交通機関用;劇場、病院、ホテルなどの公共施設用;または家庭用の、シート、シートカバー、カーテン、壁・天井クロス、障子紙、カーペット、どん帳、建築用養生シート、防護用ネット、帆布、テントなどの繊維または繊維製品が挙げられる。
【0092】
【実施例】
以下実施例により本発明をさらに説明するが本発明はこれに限定されるものではない。実施例中の部は質量部、%は質量%、比は質量比を示す。特性の評価は以下の測定法により行った。
(1)難燃剤の平均粒子径
レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置[堀場製作所(株)製LA−920]を用いて測定した。
(2)ゼータ電位の測定
電気泳動光散乱光度計[大塚電子(株)製ELS−800]を用いて測定した。
(3)難燃性
JIS L 1091D法(接炎試験)に準じて評価した。
(4)水洗濯
JIS K 3371に従って、弱アルカリ性第一種洗剤1g/Lの割合で用い、浴比1:40として、60±2℃で15分間洗濯した後、40℃±2℃で5分間のすすぎを3回行い、遠心脱水を2分間行い、その後、60℃±5℃で乾燥する処理を1サイクルとし、これをを5サイクル実施した。
(5)缶体汚染性
難燃加工後、カラーマスター用容器より内容物を取り出し、容器内部の残留付着物の有無を肉眼で確認した。
(6)難燃剤付着率
はつれ防止のために周囲を溶融切断した重さ約10gのポリエステル未染色織布を105℃で1時間乾燥させ、小数点3桁まで精秤した重量を基準に、難燃加工後、水洗、乾燥、加熱処理を実施後の重量増加を%で表した。
【0093】
製造例1
トリキシレニルホスフェート[大八化学工業(株)製:TXP]500重量部、ドデシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物50重量部とドデシルアルコールのエチレンオキサイド15モル付加物30重量部の混合物に水420重量部を撹拌しながら少しずつ加えて乳化分散し、難燃剤「1」1,000部を得た。難燃剤「1」は、乳白色の乳化分散液で、粘度120mPa・s(25℃)、平均粒径0.2ミクロン、pH6.5であった。
難燃剤「1」、無機塩(B)と浴比1:15となるよう水を混合し、処理液を調整した。難燃加工処理は、200g/m2 のポリエステル未染色織布に、表1の温度の処理浴中で、カラーマスター(辻井染機製染色機)によるバッチ式処理を行った。その後、80℃で10分間の水洗を2回行った後、乾燥(100℃×5分)し、乾熱処理(180℃×1分)した。各加工布の特性を測定した結果を表1(実施例1〜4、比較例1〜2)に示す。
【0094】
製造例2
芳香族縮合リン酸エステル[大八化学工業(株)製:CR−747]400重量部、ドデシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物60重量部とドデシルアルコールのエチレンオキサイド15モル付加物40重量部の混合物に水500重量部を撹拌しながら少しずつ加えて乳化分散し、難燃剤「2」1,000を得た。難燃剤「2」は、乳白色の乳化分散液で、粘度320mPa・s(25℃)、平均粒径0.3ミクロン、pH6.7であった。
難燃剤「2」、無機塩(B)と浴比1:15となるよう水を混合し、処理液を調整した。難燃加工処理は、200g/m2 のポリエステル未染色織布に、表1の温度の処理浴中で、カラーマスター(辻井染機製染色機)によるバッチ式処理を行った。その後、80℃で10分間の水洗を2回行った後、乾燥(100℃×5分)し、乾熱処理(180℃×1分)した。各加工布の特性を測定した結果を表2(実施例1〜4、比較例1〜2)に示す。
【0095】
製造例3
ジメチルテレフタレ−ト260部、エチレングリコ−ル1160部および下記式で示される有機リン系化合物(22)[三光株式会社製:2−(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−オキサイド−10ホスファフェナントレン−10−イル)メチルコハク酸ビス−(2−ヒドロキシエチル)]500部、触媒として、ジメチルテレフタレートおよびホスフィン酸誘導体に対し0.1%の酢酸マンガン、0.5%の酢酸リチウム、および0.03%の三酸化アンチモンを混合し、常圧で160〜220℃で3時間加熱してエステル交換反応を行い、ほぼ理論量のメタノ−ルを留去し、次いで系の温度を250℃とし、圧力を徐々に減じ1Torr以下にし、6時間反応させてMw9,000、リン含有量5.5%のポリエステルを得た。
本ポリエステル300部,ジメチルホルムアミド100部,ラウリルアルコールエチレンオキサイド15モル付加物50部を、80℃で均一に溶解し、湯(80℃)550部を徐々に加えて粒子化し、常温まで冷却後、ビスコミル(アイメックス製横型湿式微粉分散機)にて連続的に30分間粉砕し、難燃剤「3」1,000部を得た。難燃剤「3」は、乳白色の分散液で、粘度350mPa・s(25℃)、平均粒径0.3ミクロン、pH6.8であった。
難燃剤「3」、無機塩(B)と浴比1:15となるよう水を混合し、処理液を調整した。難燃加工処理は、200g/m2 のポリエステル未染色織布に、表1の温度の処理浴中で、カラーマスター(辻井染機製染色機)によるバッチ式処理を行った。その後、10分間の水洗を2回行った後、乾燥(100℃×5分)し、乾熱処理(180℃×1分)した。各加工布の特性を測定した結果を表3(実施例1〜4、比較例1〜2)に示す。
【0096】
【表1】
Figure 0003808832
【0097】
【表2】
Figure 0003808832
【0098】
【表3】
Figure 0003808832
【0099】
【発明の効果】
本発明のリン系化合物を用いた難燃加工方法によれば、従来のリン系難燃剤に比較して、ポリエステル系合成繊維に効率良く付着せしめ、洗濯しても耐久性のある難燃性を付与することが出来る。また、従来のリン系難燃剤に比べ処理浴のリン系化合物の含量が少なくても済むため、廃液処理の点でも優れる。

Claims (7)

  1. 1種以上の有機リン系化合物(a)からなる難燃剤(A)を含有する処理液(I)によるポリエステル系合成繊維の難燃加工方法において、該処理液(I)のゼータ電位が−20mv〜−80mvに調整され、かつ、該有機リン系化合物(a)が平均粒子径2μm以下の微粒子として該処理液(I)中に分散されていることを特徴とするポリエステル系合成繊維の難燃加工方法。
  2. 該有機リン系化合物(a)が、リン酸基(P1)、ホスホン酸基(P2)、ホスフィン酸基(P3)およびホスフィンオキサイド基(P4)から選ばれた少なくとも1種のリン原子含有官能基(P)を有する化合物である請求項1記載の難燃加工方法。
  3. 水への標準溶解エンタルピーが3〜25kJmol-1である無機酸塩(B)によって、該処理液(I)のゼータ電位を調整する請求項1または2記載のポリエステル系合成繊維の難燃加工方法。
  4. 処理液をバッチ法で繊維構造物にバッチ法で付与する請求項1〜3いずれか記載の難燃加工方法。
  5. ポリエステル系合成繊維を50〜140℃で浸漬して難燃剤を付与する請求項1〜4のいずれか記載の難燃加工方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか記載の難燃加工方法により処理して得られた難燃性ポリエステル系合成繊維。
  7. 請求項6記載の難燃性ポリエステル系合成繊維を用いてなるシート、シートカバー、カーテン、壁・天井クロス、障子紙、カーペット、どん帳、建築用養生シート、防護用ネット、帆布またはテントからなる難燃性繊維製品。
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