JP3845625B2 - ポリエステル系合成繊維の難燃加工方法 - Google Patents

ポリエステル系合成繊維の難燃加工方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリエステル系合成繊維の難燃加工方法、難燃加工したポリエステル系合成繊、および難燃加工したポリエステル系合成繊維品関する。さらに詳しくは、ポリエステル系合成繊維品、特にポリエステル系合成繊維布帛を後加工することによって、初期だけでなく洗濯後およびドライクリーニング後の難燃性を付与することのできるポリエステル系合成繊維の簡易な難燃加工方法および難燃加工したポリエステル系合成繊維品に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ポリエステル系合成繊維の難燃加工用処理剤としては、ヘキサブロモシクロドデカンの水性分散液が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】
特開昭57−137377号公報
【0004】
しかし、このようなハロゲン化合物を付与したポリエステル系合成繊維を燃焼させた際発生するハロゲン化ガスが、環境に有害な影響を及ぼすとの観点からハロゲン化合物の使用は問題となってきており、非ハロゲン系の難燃加工剤が求められている。
【0005】
そこで、ハロゲン化合物の代わりにリン酸エステル系化合物を用いることにより、ポリエステル系合成繊維を難燃化する方法が提案されている(例えば特許文献2)。
【0006】
【特許文献2】
特開2000−328445号公報
特開2001−254268号公報
特開2002−88368号公報
【0007】
しかし、これらの化合物は、難燃剤を水分散させるために大量の乳化剤が必要であり、これを難燃加工後のポリエステル系合成繊維から完全に除去できないため難燃性が充分でない。また、これらの難燃剤をポリエステル系合成繊維布帛にパディングにて処理した場合、難燃加工後に乳化剤を除去するための精練工程が必須であり、処理方法が煩雑であった。
【0008】
また、特定の化学構造のホスフィン酸誘導体からなるジカルボン酸をジカルボン酸成分単位として含むポリエステルがハロゲンを含まない難燃剤として提案されている(例えば特許文献3)。
【0009】
【特許文献3】
特開2000−154465号公報
【0010】
しかし、このポリエステルは分子量が高いため、このポリエステルを用いてポリエステル系合成繊維布帛を処理した場合、風合いが粗硬になったり、チョークマークが発生するなどの問題があった。
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ハロゲン原子を含まない難燃剤を用いて、ポリエステル系合成繊維に良好な風合いで、チョークマークが発生することなく、初期だけでなく洗濯後およびドライクリーニング後の難燃性を付与することのできるポリエステル系合成繊維に難燃性を後加工で簡易に付与することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、良好な風合いで、チョークマークが発生することなく、良好な難燃性と耐久性(耐洗濯性、耐ドライクリーニング性など)をポリエステル系合成繊維に後加工で付与できる加工方法を見いだし、本発明に到達した。
即ち本発明は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体(a)、ジオール成分(b)および下記一般式(1)で示されるホスフィン酸誘導体(c)から誘導されてなるポリエステル(A)と、下記一般式(4)で表されるホスホン酸誘導体(d)と多価アルコール(e)との反応で得られる生成物(B)からなる処理液を付着させ加工することを特徴とするポリエステル系合成繊維の難燃加工方法;並びに上記の方法により得られた難燃性の合成繊維物品である。
Figure 0003845625
[式中、R1 、R2 はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、または炭素数1〜4のアルキレン基置換のアリールアルキル基を表し、さらにR1 とR2 が互いに結合してPとOとともに環を形成していてもよい。Qは下記一般式(2)または(3)で示される1価の有機基を表す。]
Figure 0003845625
[式中、R3 は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
【0012】
【化4】
Figure 0003845625
【0013】
Figure 0003845625
(式中、R4は炭素数1〜10の炭化水素基、R5は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜3の炭化水素基を表す。)
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明において、ポリエステル(A)の原料である芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体(a)としては、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸、その無水物、その低級アルキル(炭素数1〜4)エステル、酸ハライド(酸クロライドなど)が挙げられ、具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、これらのメチルエステル、酸クロライドなどがあげられる。好ましいものは、テレフタル酸およびそのジメチルエステルである。
【0015】
ジオール成分(b)の具体例としては、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、アルキレングリコールのアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−、1,3−、1,4−ブチレンオキシド、スチレンオキシドなど)付加物、ビスフェノールAに代表される2価の芳香族ヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物などが挙げられる。これらのうち好ましいのはアルキレングリコールで、より好ましくは炭素数が2〜10の直鎖または分岐のアルキレングリコールで、エチレングリコ−ルが特に好ましい。また、該ジオール成分は2種以上を併用することも可能である。また、分子量は特に限定されないが、500以下が好ましく、500以下であるとリン含量が高くなり、難燃性が向上する。
【0016】
ポリエステル(A)の構成要素であるホスフィン酸誘導体(c)は下記一般式(1)で表される。
【0017】
Figure 0003845625
【0018】
一般式(1)中の置換基R1 、R2 は、水素原子、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、または炭素数1〜4のアルキレン基置換のアリールアルキル基を表し、同一でも、異なっていてもよい。さらにR1 とR2 が互いに結合してPとOとともに環を形成していてもよい。
【0019】
炭素数1〜22のアルキル基としては、炭素数1〜22で直鎖または分岐のアルキル基であり、たとえばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、3−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、2−エチルヘキシル基、イソノニル基、n−デシル基、イソデシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基、n−イコシル基、n−ドコシル基が挙げられ、リン含量の観点から、それらのうち、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0020】
置換基R1 、R2 のアルケニル基としては炭素数2〜22で直鎖または分岐のアルケニル基であり、たとえばビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプペニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、ドコセニル基が挙げられ、リン含量の観点からそれらのうち炭素数2〜6のアルケニル基が好ましい
炭素数5〜6のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基である。
【0021】
炭素数6〜14のアリール基としては炭素数6〜14のアリール基であり、たとえばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、オクチルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、が挙げられ、フェニル基、ビフェニリル基が好ましい。
アリールアルキル基としては炭素数1〜4のアルキレン基で置換されたアリールアルキル基であり、ベンジル基、フェネチル基が好ましい。
【0022】
一般式(1)中のQは、下記一般式(2)または(3)で示される1価の有機基である。
【0023】
Figure 0003845625
【0024】
【化5】
Figure 0003845625
【0025】
置換基R3 は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、メチル基が好ましい。
【0026】
本発明において、前記一般式(1)で示されるホスフィン酸誘導体(c)の具体的な例としては、次に示す化合物(c1)〜(c8)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
【化6】
Figure 0003845625
【0028】
【化7】
Figure 0003845625
【0029】
【化8】
Figure 0003845625
【0030】
【化9】
Figure 0003845625
【0031】
【化10】
Figure 0003845625
【0032】
【化11】
Figure 0003845625
【0033】
【化12】
Figure 0003845625
【0034】
【化13】
Figure 0003845625
【0035】
本発明に用いるホスフィン酸誘導体(c)としては式中の置換基R1 、R2 がビフェニル基で互いに環を形成している化学構造のホスフィン酸誘導体が好ましく、前記の化合物(c6)、(c7)が特に好ましい。
【0036】
上記ホスフィン酸誘導体(c)は、例えば、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキシド(以下「DOP」という)またはその核置換体と、エステル形成官能基を有する不飽和化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0037】
上記不飽和化合物としては、例えば、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸またはこれらの低級アルキルエステル、酸無水物等が挙げられる。
DOPまたはその核置換体と上記不飽和化合物とは、モル比がほぼ1:1になるように用いて反応を行うのが好ましいが、どちらか一方をやや過剰に用いてもよい。
【0038】
上記ホスフィン酸誘導体(c)を製造する一例として、DOPとイタコン酸メチルを出発物質として用いる場合について具体的に述べる。
各出発物質を室温で混合した後、不活性気体雰囲気下に100℃以上、好ましくは120〜200℃の温度で加熱、撹拌することにより目的とする物質を製造することができる。なお、反応を行う際に、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等の金属アルコキシドを触媒として用いるのが反応速度を大きくするために好ましいことが多い。さらに副反応を抑制するために、反応系にメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等の低級アルコールを存在させてもよい。
【0039】
ポリエステル化反応において、水酸基/カルボキシル基の当量比は通常1/1.5〜1.5/1、ポリエステル(A)の熱安定性の観点から好ましくは1.2/1〜1/1である。
得られるポリエステルの末端基は水酸基が好ましい。
【0040】
上記芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体(a)、ジオール成分(b)およびホスフィン酸誘導体(c)より得られる本発明のポリエステル(A)の重量平均分子量は、好ましくは500〜20000であり、さらに好ましくは1000〜20000である。500以上であると、難燃加工剤の耐久性がとくに良好である。20000以下であると、ポリエステルの分散性が良好であり、さらに合成繊維への吸着性も良好となる。
【0041】
ポリエステル(A)は、従来公知のポリエステルの製造法により製造することができる。
上記芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体(a)、ジオール成分(b)およびホスフィン酸誘導体(c)とを、従来公知の方法により脱水もしくは脱アルコール反応することによってエステル交換反応またはエステル化し、その後重縮合する方法により得られる。
【0042】
上記ポリエステル化反応において、(a):(b):(c)のモル比は特に限定されないが、好ましくは1:(1〜7):(0.2〜5)であり、さらに好ましくは、1:(1〜5):(0.3〜3)である。
【0043】
ポリエステル化反応は通常、触媒の存在下に行われる。触媒としては従来一般に用いられているIIA族(Mg、Caなど)、IIB族(Znなど)、IIIA族(Alなど)、IVA族(Ge、Snなど)、IVB族(Tiなど)、VA族(Sbなど)、VIIB族(Mnなど)、VIII族(Feなど)の金属の化合物〔酸化物、塩化物、有機金属化合物(テトラブチルチタネート、ジブチルチンオキサイドなど〕が挙げられ、これらの2種以上を併用してもよい。
【0044】
ポリエステル化反応の反応時間は、通常1〜50時間、好ましくは2〜20時間である。反応終点は得られたポリエステルの酸価または水酸基価で確認でき、通常、酸価は125以下、熱安定性の観点から好ましくは0〜60、さらに0〜5、とくに0である。水酸基価は、通常1〜250、好ましくは3〜110、とくに6〜110である。(酸価+水酸基価)は通常1〜375、好ましくは3〜170、とくに6〜110である。
【0045】
(A)のリン含量は、好ましくは1〜10重量%、さらに好ましくは3〜8重量%である。1重量%以上では、繊維または繊維製品に処理した場合の難燃性がとくに良好となり、10重量%以下であると摩擦堅牢度が良好である。
【0046】
本発明のもう1つの必須成分(B)の原料であるホスホン酸誘導体(d)は下記一般式(4)で示されるものである。
【0047】
Figure 0003845625
【0048】
上記一般式(4)中の置換基R4は、炭素数1〜10の炭化水素基であり、例えばアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基などが挙げられる。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、3−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、2−エチルヘキシル基、イソノニル基、n−デシル基、イソデシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基、n−イコシル基、n−ドコシル基が挙げられる。
リン含量の観点から、それらのうち、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、さらに好ましくは炭素数1〜3のアルキル基である。
【0049】
アルケニル基としては炭素数1〜10で直鎖または分岐のアルケニル基であり、たとえばビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、ドコセニル基が挙げられる。
リン含量の観点からそれらのうち炭素数2〜6のアルケニル基が好ましく、さらに好ましくは炭素数1〜3のアルケニル基である。置換基R4のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
【0050】
アリール基としては炭素数6〜14のアリール基であり、たとえばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、オクチルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基が挙げられ、リン含量の観点から、フェニル基、ビフェニリル基が好ましい。
【0051】
アリールアルキル基としては炭素数1〜4のアルキレン基置換のアリールアルキル基であり、リン含量の観点から、ベンジル基、フェネチル基が好ましい。
【0052】
前記一般式(4)中の置換基R5は、水素原子または炭素数1〜3の炭化水素基である。
炭化水素基としては例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基などが挙げらる。
反応性の観点から、置換基R5としては、水素原子、メチル基、エチル基が好ましい。
【0053】
本発明において、前記ホスホン酸誘導体と反応させる多価アルコール(e)としては、2〜8価の脂肪族または脂環族の多価アルコール;および該多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物;多価フェノール類のアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−、1,3−、2,3−もしくは1,4−ブチレンオキサイド、α−オレフィンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリンなどが挙げられる。
【0054】
上記2〜8価の脂肪族または脂環族の多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、2,2−ビス(4,4’−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンなどの2価アルコール;グリセリン、トリメチロールプロパンなどの3価アルコール;ペンタエリスリトール、ソルビタン、ジグリセリン、α−メチルグルコシド、ソルビト―ル、キシリット、マンニット、ジペンタエリスリト−ル、グルコース、フルクトース、ショ糖などの4〜8価のアルコールなどが挙げられる。
【0055】
上記の多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物としては、上記の2〜8価の脂肪族または脂環族の多価アルコールに上記の1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加したもので、2種以上のアルキレンオキサイドを付加する場合は、ランダムでもブロックでもよい。
【0056】
上記の多価フェノールのアルキレンオキサイド付加物としては、多価フェノールに、上記の1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加したもので、2種以上のアルキレンオキサイドを付加する場合は、ランダムでもブロックでもよい。多価フェノールとしては、1,4−ベンゼンジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどが挙げられる。
【0057】
本発明の(B)は、前記一般式(4)で示されるホスホン酸誘導体(d)と上記の多価アルコール(e)とを、従来公知の方法により脱水もしくは脱アルコール反応することによってエステル交換反応またはエステル化することにより得られる。
【0058】
上記エステル交換反応またはエステル化反応において、該ホスホン酸誘導体と多価アルコールのモル比は特に限定されないが、好ましくは1:1〜10:1、さらに好ましくは、1:1〜5:1である。
【0059】
エステル交換反応またはエステル化反応の反応時間は、通常1〜50時間、好ましくは2〜20時間である。反応終点は得られたエステルの酸価または水酸基価で確認でき、通常、酸価は150以下、熱安定性の観点から好ましくは0〜50である。水酸基価は、通常1〜250、好ましくは1〜150である。
【0060】
このようにして得られた(B)は単一化合物でも混合物でも構わない。
具体的には、例えば、メチルホスホン酸ジメチルエステルとペンタエリスリトールとのエステル交換反応では、▲1▼メチルホスホン酸ジメチルエステル1分子中のメタノール2分子がペンタエリスリト−ル1分子中の水酸基2個とエステル交換した反応生成物と、▲2▼メチルホスホン酸ジメチルエステル2分子中のメタノール4分子がペンタエリスリトール1分子中の水酸基4個とエステル交換した反応生成物などが得られるが、特に分離することなく用いることができる。
【0061】
(B)分子中のリン含量は、好ましくは10〜30重量%、さらに好ましくは15〜30重量%である。10重量%以上では、繊維または繊維製品に処理した場合の難燃性がとくに良好となり、30重量%以下であると摩擦堅牢度が良好である。
【0062】
本発明におけるポリエステル系合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/5−ソジオスルホイソフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリオキシベンゾイルおよびポリブチレンテレフタレート/イソフタレートなどのポリエステル系合成繊維があげられる。
【0063】
紡糸後のポリエステル系合成繊維に(A)および(B)を付着させる方法としては、(A)と(B)を別々に媒体中に溶解または分散させた液を混合してポリエステル系合成繊維に処理する方法;(A)と(B)を混合し、媒体中に溶解または分散させた液を、ポリエステル系合成繊維合成繊に処理する方法などが挙げられる。媒体としては、有機溶剤または水が挙げられるが、取り扱い上の観点から、水が好ましい。
【0064】
(A)を水に分散させる方法は、通常の方法、たとえば(A)と非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤などの界面活性剤と有機溶剤とを配合して均一に溶解し、徐々に水を加えて乳化分散させる方法が用いられる。
また、(B)は分子量が比較的低いため、通常(B)単独で水に溶解することができる。水に溶解しない場合は(A)と同じ方法で水に分散することができる。
【0065】
非イオン界面活性剤としては、たとえば、アルキレンオキシド(炭素数2〜4、たとえばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドおよびこれらの2種以上の併用、以下同じ)付加型非イオン界面活性剤[高級アルコール(炭素数8〜18)、高級脂肪酸(炭素数12〜24)または高級アルキルアミン(炭素数8〜24)などに直接アルキレンオキシドを付加させたもの(Mw158〜200,000);グリコールにアルキレンオキシドを付加させて得られるポリアルキレングリコール(Mw150〜6,000)に高級脂肪酸などを反応させたもの;多価(2価〜8価またはそれ以上)アルコール(炭素数8〜60、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン)に高級脂肪酸(炭素数12〜24、たとえばラウリン酸、ステアリン酸)を反応させて得られたエステル化物にアルキレンオキシドを付加させたもの(Mw250〜30,000);高級脂肪酸アミドにアルキレンオキシドを付加させたもの(Mw200〜30,000);多価(2価〜8価またはそれ以上)アルコールアルキル(炭素数8〜60)エーテルにアルキレンオキシドを付加させたもの(Mw120〜30,000)など]、および多価(2価〜8価またはそれ以上)アルコール(炭素数7〜60)型非イオン界面活性剤[多価アルコール脂肪酸(炭素数8〜60)エステル、多価(2価〜8価またはそれ以上)アルコールアルキル(炭素数7〜60)エーテル、脂肪酸(炭素数8〜60)アルカノールアミドなど)など]などが挙げられる。
【0066】
アニオン界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸(炭素数8〜22の飽和または不飽和脂肪酸)またはその塩(ナトリウム、カリウム、アンモニウム、アルカノールアミンなどの塩)、カルボキシメチル化物の塩(炭素数8〜16の脂肪族アルコールおよび/またはそのエチレンオキシド(1〜10モル)付加物などのカルボキシメチル化物の塩など)、硫酸エステル塩[高級アルコール硫酸エステル塩(炭素数8〜18の脂肪酸アルコールの硫酸エステル塩など)]、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩[炭素数8〜18の脂肪酸アルコールのエチレンオキシド(1〜10モル)付加物の硫酸エステル塩]、硫酸化油(天然の不飽和油脂または不飽和のロウをそのまま硫酸化して中和したもの)、硫酸化脂肪酸エステル(不飽和脂肪酸の低級アルコールエステルを硫酸化して中和したもの)、硫酸化オレフィン(炭素数12〜18のオレフィンを硫酸化して中和したもの)、スルホン酸塩[アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸ジエステル型、α−オレフィン(炭素数12〜18)スルホン酸塩、イゲポンT型など]およびリン酸エステル塩[高級アルコール(炭素数8〜60)リン酸エステル塩、高級アルコール(炭素数8〜60)エチレンオキシド付加物リン酸エステル塩、アルキル(炭素数8〜60)フェノールエチレンオキシド付加物リン酸エステル塩など]が挙げられる。
【0067】
これら界面活性剤の配合量は、(A)または(B)100重量部に対して、好ましくは0.001〜50重量部であり、さらに好ましくは0.05〜35重量部である。0.001重量部以上配合すれば、(A)または(B)の水中での分散安定性が良好であり、50重量部以下であれば、(A)と(B)からなる処理液により処理した繊維または繊維製品の洗濯後およびドライクリーニング後の難燃性がとくに良好となる。
【0068】
有機溶剤としては、トルエン,キシレン,アルキルナフタレンなどの芳香族炭化水素類;アセトン,メチルエチルケトンなどのケトン類;ジオキサン,エチルセロソルブなどのエ−テル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類およびこれらの二種以上の混合物があげられる。
【0069】
これら有機溶剤の配合量は、(A)または(B)100部に対して、好ましくは1〜100重量部であり、さらに好ましくは10〜90重量部である。1重量部以上配合すれば、(A)または(B)の水中での分散安定性が良好であり、100重量部以下であれば、(A)と(B)からなる処理液により処理した繊維の難燃性が良好である。
【0070】
本発明において(A)と(B)からなる処理液中の(A)と(B)の固形分濃度は、60重量%以下が好ましく、5〜40重量%がさらに好ましい。また、(A)/(B)の重量比は、好ましくは10/90〜90/10であり、さらに好ましくは20/80〜80/20である。(A)の重量比が10以上では、繊維または繊維製品に処理した場合の洗濯後およびドライクリーニング後の難燃性がとくに良好となり、重量比が90以下であれば、繊維または繊維製品に処理した場合の風合いが良好である。
【0071】
本発明において(A)と(B)のポリエステル系合成繊維に対する付着量は、繊維または繊維製品の種類によって異なるが、(A)と(B)の合計量(固形分)で好ましくは0.1〜15重量%であり、さらに好ましくは1〜10重量%である。0.1重量%以上では、繊維または繊維製品に処理した場合の難燃性がとくに良好となり、15重量%以下であれば処理された繊維または繊維製品の風合いが良好である。
【0072】
本発明の(A)の分散液、(B)の分散液、(A)と(B)からなる処理液は、その他の繊維加工剤、安定剤を含んでいても構わない。
このような繊維加工剤、安定剤としては、柔軟剤(シリコーン系エマルション、たとえば三洋化成工業製サファノールN−750)、吸水加工剤(ポリエステル系樹脂エマルション、たとえば三洋化成工業製パーマリンMR−100)、帯電防止剤(リン酸エステル塩系界面活性剤、たとえば三洋化成工業製サンスタットKT−600)、撥水撥油剤(パラフィン系ワックス、たとえば三洋化成工業製アイソトールH)、スリップ防止剤(コロイダルシリカ、たとえば三洋化成工業製パーマリンSCC−A)、硬仕上剤、風合い調整剤、防腐剤、酸化防止剤、PH調整剤などが挙げられ、本発明を阻害しない範囲で同浴でも別浴でも使用可能である。
同浴または別浴で用いる場合の上記その他の繊維加工剤の使用量は、本発明の加工剤中の(A)と(B)の合計重量に対して、それぞれ好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。
【0073】
本発明の(A)の分散液、(B)の分散液、(A)と(B)からなる処理液をポリエステル系合成繊維および繊維製品に付着させる方法の具体例としては、これらの液をパディング処理もしくはスプレー処理により、ポリエステル系合成繊維および繊維製品に含浸させた後、テンター等で140〜200℃で加熱処理を行う方法が好ましい。その処理時間は20秒〜5分であることが好ましく、160〜190℃で30秒〜1分間の処理をすることがさらに好ましい。この加熱処理は、乾熱処理もしくは湿熱処理、またはその両方の加熱処理でも良い。140℃以上で処理を行うと、洗濯やドライクリーニング後の難燃性が向上する。また、200℃以下であると、ポリエステル系合成繊維の黄変脆化、さらに染料の昇華などが生じる恐れがなく好ましい。
【0074】
本発明において処理され得る物品はポリエステル系合成繊維、ポリエステル系合成繊維からなる綿、糸、編織物もしくは不織布、またはそのポリエステル系合成繊維と綿、麻、羊毛または絹のなどの天然繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維もしくはアスベスト繊維などの無機繊維、レーヨンもしくはアセテートなどの半合成繊維または2種以上の合成繊維との交織織物、もしくは混紡繊維からなる綿、糸、編織物もしくは不織布があげられる。
【0075】
本発明で処理された物品の用途としては自動車、鉄道、船舶、航空機などの交通機関用、劇場、病院、ホテルなどの公共施設用、または家庭用のシート、シートカバー、カーテン、ロールカーテン、壁・天井クロス、障子紙、カーペット、どん帳、建築用養生シート、防護用ネット、テントなどの繊維または繊維製品があげられる。
【0076】
【実施例】
以下実施例により本発明をさらに説明するが本発明はこれに限定されるものではない。実施例中の部は重量部、%は重量%、比は重量比を示す。
【0077】
特性の評価は以下の測定法により行った。
(1)難燃性
JIS L 1091D法(接炎試験)に準じて評価した。
(2)洗濯方法
JIS L 1042法に従い実施した。
(3)ドライクリーニング法
JIS L 1018法に従い実施した。
(4)チョークマーク
テープカッターで布表面を引っ掻き、チョークマークの発生有無を目視判定した。チョークマークの発生の無いものを○、発生したものを×とした。
(5)風合い
試料(加工布)を、温度20℃、湿度65%で24時間調整後、純曲げ試験機〔カトーテック(株)製、KES−FB−2〕にて、曲げ剛性を測定した。
【0078】
合成例1
ジメチルテレフタレ−ト65部、エチレングリコ−ル290部および前記化合物(c7)のホスフィン酸誘導体125部、触媒としてジメチルテレフタレートおよびホスフィン酸誘導体に対し0.1%の酢酸マンガン、0.5%の酢酸リチウムおよび0.03%の三酸化アンチモンを混合し、常圧で160〜220℃で3時間加熱してエステル交換反応を行い、ほぼ理論量のメタノ−ルを留去し、次いで系の温度を250℃とし、圧力を徐々に減じ1Torr以下にし、6時間反応させて重量平均分子量9,000、リン含有量5.5%のポリエステルを得た。
本ポリエステル150部,ジメチルホルムアミド100部,ラウリルアルコールエチレンオキサイド15モル付加物50部を、80℃で均一に溶解し、湯(80℃)700部を徐々に加えて粒子化し、常温まで冷却後、ビスコミル(アイメックス製横型湿式微粉分散機)にて連続的に30分間粉砕し、分散体「1」1,000部を得た。分散体「1」は、乳白色の分散液で、粘度350cp(25℃)、平均粒径0.3ミクロン、pHは6.5であった。
【0079】
合成例2
メチルホスホン酸ジメチルエステル248部、ペンタエリスリトール136部、触媒として系全体に対し0.1%の酢酸マンガンを混合し、常圧で160〜200℃で5時間加熱してエステル交換反応を行い、ほぼ理論量のメタノ−ルを留去して反応生成物を得た。常温まで冷却した後、反応生成物150部に対し850部の水に溶解させ、溶液「2」1,000部を得た。
【0080】
合成例3
t−ブチルジフェニルホスフェート500部、ソルビタンモノステアレートエチレンオキサイド20モル付加物60部を60℃に加熱・均一化し、これを60℃の温水440部中に少しづつ加え乳化させ、分散体「3」1,000部を得た。
【0081】
実施例1〜3、比較例1〜3
表1に示す割合で分散体「1」、溶液「2」、分散体「3」を配合し、各難燃加工剤を得た。
難燃加工処理は300g/m2 のポリエステル織布に加工剤100g/Lの処理浴中でパディング処理(絞り率80%)後、乾燥(100℃×5分)し、乾熱処理(180℃×1分)した。なお、比較例2、3に関しては、乾熱処理後、浴比1:30、温度80℃で精練し、再び乾燥(100℃×5分)、乾熱処理(180℃×1分)を行った。
各加工布の特性を測定した結果を表1(実施例1〜3、比較例1〜3)に示した。
【0082】
【表1】
Figure 0003845625
【0083】
【発明の効果】
本発明の難燃加工剤は、合成繊維のうち特にポリエステル系合成繊維に処理することにより、従来のものに比較して、チョークマーク発生することなく、ハロゲン原子を含まない化合物を用いて後加工で耐久性に優れた難燃性を付与することができる。したがって、ポリエステル系合成繊維用後加工難燃剤として極めて有用である。

Claims (9)

  1. 芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体(a)、ジオール成分(b)および下記一般式(1)で表されるホスフィン酸誘導体(c)から誘導されてなるポリエステル(A)と、下記一般式(4)で表されるホスホン酸誘導体(d)と多価アルコール(e)との反応で得られる生成物(B)を合成繊維に付着させ加工することを特徴とするポリエステル系合成繊維の難燃加工方法。
    Figure 0003845625
    [式中、R1 、R2 はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜22のアルケニル基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、または炭素数1〜4のアルキレン基置換のアリールアルキル基を表し、さらにR1 とR2 が互いに結合してPとOとともに環を形成していてもよい。Qは下記一般式(2)または(3)で示される1価の有機基を表す。]
    Figure 0003845625
    [式中、R3 は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。]
    Figure 0003845625
    Figure 0003845625
    (式中、R4は炭素数1〜10の炭化水素基、R5は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜3の炭化水素基を表す。)
  2. ホスフィン酸誘導体(c)が下記一般式(5)または(6)で表される請求項1記載のポリエステル系合成繊維の難燃加工方法。
    Figure 0003845625
    Figure 0003845625
  3. 該(A)分子中のリン原子含量が1〜10重量%である請求項1または2記載のポリエステル系合成繊維の難燃加工方法。
  4. 該(A)の重量平均分子量が500〜20000である請求項1〜3いずれか記載のポリエステル系合成繊維の難燃加工方法。
  5. 該(B)分子中のリン原子含量が10〜30重量%である請求項1〜4いずれか記載のポリエステル系合成繊維の難燃加工方法。
  6. (A)/(B)の重量比が10/90〜90/10である請求項1〜5いずれか記載のポリエステル系合成繊維の難燃加工方法。
  7. ポリエステル系合成繊維に対して(A)と(B)の合計重量が0.1〜15重量%で付着させる請求項1〜6いずれか記載のポリエステル系合成繊維の難燃加工方法。
  8. 請求項1〜7いずれか記載の難燃加工方法により得られた難燃性ポリエステル系合成繊維。
  9. 請求項1〜7いずれか記載の難燃加工方法により得られた難燃性ポリエステル系合成繊維を用いてなるシート、シートカバー、カーテン、ロールカーテン、壁・天井クロス、障子紙、カーペット、どん帳、建築用養生シート、防護用ネット、帆布またはテント。
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