JP3805466B2 - 組換えダニアレルゲンDer f 1およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なアレルゲン物質及びその産生方法に係わり、さらに詳細には、コナヒョウヒダニ由来の物質であって組換えDer f 1アレルゲンの糖鎖欠損型及び高分子量糖鎖の結合した組換えDer f 1アレルゲン及びこれらの産生方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年アレルギー性疾患が増加しており、これらアレルギー疾患の代表的なものとして、花粉症、アトピー性皮膚炎及びアトピー性喘息を挙げることができる。特に、アトピー性喘息は室内塵によって発症することが多い。室内塵の中にはダニの虫体及び排泄物、カビの菌糸や胞子、飼育しているペットの体毛などが含まれていることが知られている。
【0003】
ここで、アレルギーを引き起こす原因物質をアレルゲンと称するが、上記室内塵の成分中では、ダニ由来の蛋白質が最も重要なアレルゲンであることが知られている。そして、家庭内にアレルゲンをばらまくダニの種類としては、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae(以下、「Der f」と略す))と、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinuss(以下、「Der p」と略す))とがあり、日本には主としてDer fが多く生息していることが知られている。
【0004】
上記ダニが産生するアレルゲンの中で特に問題となるものは、その排泄物中に多く含まれる分子量約25キロダルトン(以下、「kDa」と略す)のグループ1と虫体内に多く含まれる分子量約14kDaのグループ2と称されるアレルゲンであり、これらは由来するダニの種類によってそれぞれDer f 1、Der f 2及びDer p 1、Der p 2とに分類されている。この二つのグループのアレルゲンに対し、アトピー性喘息患者及びアトピー性皮膚炎患者の過半数が反応することが知られている(Heymann, P. W., et al.: J. Allergy Clin. Immunol., 83, 1055-1067, 1989)。
【0005】
既に、上記アレルゲンは、それぞれ天然からその純品が精製され(Yasueda, H. et al.: Int. Arch. Allergy Appl. Immunol., 88, 402-407, 1989)、またこれらアレルゲンをコードする遺伝子もcDNAとしてクローニングされており(Dilworth, R. J., et al.: Clinical and Experimental Allergy, 21, 25-32, 1991、Chua, K. Y., et al.: The Rockfeller University Press, 167, 175-182,1988、Yuuki, T., et al.: Jpn. J. Allergol., 39, 557-561, 1990、Chua, K. Y., et al.:Int. Arch. Allergy Appl. Immunol., 91, 118-123, 1990)、これらの結果から、Der f 1とDer p 1及びDer f 2とDer p 2とはそれぞれ高い相同性を有することも確認されている。
【0006】
一般にアレルギーの発症機作には、4つのタイプがあるとされており、アレルゲンにより引き起こされるものはI型アレルギーに属する。このタイプのアレルギーでは、先ずアレルゲンが様々な形で人に取り込まれ感作される。次いで、このアレルゲンに特異的なIgE抗体が産生され、産生されたIgE抗体は気管、消化管、鼻粘膜及び皮膚等に存在している肥満細胞や好塩基球上のIgE抗体に特異的な受容体に結合する。その後、先のアレルゲンが再び体内に取り込まれると、このアレルゲンとこれに特異的なIgE抗体が抗原抗体反応し肥満細胞、好塩基球の受容体の架橋を引き起こす。その結果、肥満細胞あるいは好塩基球からヒスタミンに代表される化学伝達物質が放出されアレルギーが引き起こされる。
【0007】
このような発症機作のアレルギーは、即時型アレルギーと称され、アトピー性喘息も通常このI型アレルギーに属する。
現在、アレルギーに対して種々の治療が行われているが、そのほとんどが対症療法であり、完治は困難な状況である。一方、原因アレルゲンを少量づつ体内に投与し原因アレルゲンに対するアレルギー反応を抑止するいわゆる減感作療法が知られている。近年ではホヤ抗原に対して実施され著しい治療効果が得られている。
【0008】
従って、ダニアレルゲンに起因するアトピー性喘息を、ダニ由来の2種類のアレルゲンを用いた減感作療法により効果的に治療できる可能性がある。しかし、かかる減感作療法を実施するにあたっては、該アレルゲンが大量に必要となるが、かかるアレルゲンは室内塵及びダニ虫体中に含まれる割合が極めて少なく、これを大量に得ることは実質的に不可能であったことから、該アレルゲンを大量にかつ安価に製造する方法の確立が望まれていた。
【0009】
最近になって、遺伝子組換え技術の手法を用いグループ2のアレルゲンについては、大腸菌を用いて製造する方法が確立されている(Iwamoto, N., et al.: Int. Arch. Allergy Immunol., 109, 356-361, 1996)。また、グループ1アレルゲンについては大腸菌での発現に成功していないが、昆虫細胞を用いた製造法が確立されている(Shouji, H., et al.: Biosci. Biotech. Biochem., 60, 621-625, 1996)。しかし、グループ1アレルゲンは糖鎖を保有することが明らかとなっており、ダニ由来のグループ1アレルゲンと遺伝子組換えで作製した該アレルゲンとでこの糖鎖まで同じにすることは不可能であった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
減感作療法を考えた場合、糖鎖が異なれば新たな抗原となりうる可能性があり糖鎖を同じにするかあるいは糖鎖を持たないグループ1アレルゲン並びにその製造法の確立が望まれている。
一方、極めて大きな分子量の糖鎖が結合したグループ1アレルゲンは診断薬あるいは抗原特異的なIgE抗体、IgG抗体の精製に使用できることから、高分子量糖鎖の結合したグループ1アレルゲン及びその製造法の確立が望まれている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、酵母ピヒア・パストリス(Pichia pastoris)を用い該アレルゲンをコードする遺伝子を改変することにより上記課題が解決できることを見いだし本発明を完成するに至った。
従って、本発明の組換えDer f 1アレルゲン物質は配列表の配列番号:3(糖鎖欠損型)及び配列番号:4および5(高分子量糖鎖結合型)で表されるアミノ酸配列を有することを特徴とする。ここで「糖鎖欠損型」とは糖鎖を結合していないタイプのものを意味し、「高分子量糖鎖結合型」とは分子量1万以上の糖鎖が結合したタイプのものを意味する。
【0012】
また、本発明のアレルゲン物質の産生方法は、遺伝子組換えによりDer f 1遺伝子を改変し酵母で発現させ得られた組換えDer f 1アレルゲンプロ体からプロ配列を除去することにより活性化することを特徴とする。
以下、本発明の組換えDer f 1アレルゲンについて説明する。
本アレルゲンは、配列表の配列番号:6(糖鎖欠損型、プロ配列付加)及び配列番号:7(高分子量糖鎖結合型、プロ配列付加)に示すアミノ酸配列を有する蛋白質として培地中に分泌される。従って、従来のように可溶化剤による可溶化、透析等による脱塩を行って精製する必要がなく、リフォールディングを考慮しなくとも良い。本発明のプロ体を含有する溶液を濃縮し種々の分離精製で容易に高純度の該アレルゲンを調製することができる。精製したプロ配列を有する該アレルゲン溶液のpHを酸性側、好ましくはpH=3-5、さらに好ましくはpH=4に調整し適当な温度、好ましくは0ー30℃、さらに好ましくは4ー10℃にて適当な期間維持することによりプロ配列が除去された成熟型該アレルゲンを得ることができる。
【0013】
上述のごとく、本発明においては、天然のDer f 1アレルゲンと同等のアレルゲン活性を有する組換えDer f 1を大量に得ることができるので、該アレルゲンに感作されることによって発症しているアトピー性喘息等の治療に有効な減感作療法剤を提供できる。特に、本発明の糖鎖を有しない組換えDer f 1は、糖鎖の違いによる新たな抗原となる可能性がなく減感作療法剤として優れている。また、本発明における高分子量糖鎖の結合した組換えDer f 1は、その糖鎖に修飾を加え適当な担体、例えばセファロース(Pharmacia社製)等に適当な間隔で結合させることができる。かくして作製した担体を用いて効率的にDer f 1特異的な種々の抗体を精製することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に上述した本発明のプロ体の産生方法に係わる操作手順の一例を説明する。酵母Pichia pastorisで異種蛋白質を発現させるためには、酵母Pichia pastorisで効率よく働く転写プロモーターの支配下で当該遺伝子を挿入し、RNAを転写させる必要がある。この転写プロモーターは酵母で働く任意のものが使用できるが、 Pichia pastoris 由来のアルコールオキシダーゼ遺伝子(AOX1)の転写プロモーターが望ましい。この転写プロモーターは炭素源としてメタノールが存在する場合のみ誘導され、その転写されるmRNAの量は全mRNAの5%にも昇る強力なものである。この転写プロモーターを用いPichia pastoris で異種蛋白を発現させるための発現カセットベクターは既に知られている(例えば発現ベクターpHIL-D2(Invitrogen社製))。発現ベクターpHIL-D2は制限酵素EcoRI切断部位をはさんでAOX1の転写プロモーター(5'AOX1)と転写ターミネーター(3'AOX1)を保持し、EcoRI部位に異種遺伝子を挿入できるようにデザインされている。また、 pHIL-D2は3'AOX1領域にヒスチジン合成遺伝子(HIS4)が選択マーカーとして挿入されており、ヒスチジン合成遺伝子欠損株(his4株)を用い、栄養要求性で遺伝子の導入された株を選択することができる。そこでEcoRI部位に既にサブクローニングされているDer f 1の全遺伝子を挿入し、高分子糖鎖結合型Der f 1の発現プラスミドpHIL-D2::Der f 1を構築した。異種遺伝子の挿入方法は既知の遺伝子工学的手法を用いて任意に行うことができる。作製したプラスミドから、5'AOX1-Der f 1-3'AOX1(HIS4)を含む領域を線状DNAとして調製し、Pichia pastoris GS115(his4)に電気パルス法を用い導入した。 Pichia pastoris GS115(his4)は最小合成培地では生育できないが、導入した線状DNAが染色体上で組換えを起こした株はHIS4遺伝子が発現するため生育できる。さらにその中で、染色体上AOX1遺伝子座で相同組換えを起こした株はメタノールを唯一炭素源とする最小培地では、AOX1構造遺伝子の欠失に伴いメタノールを資化能を失うため生育できない。このように二段階で選択した組み換え酵母はメタノール培地で、AOX1遺伝子が誘導される代わりに、高分子の糖鎖が結合したプロDer f 1蛋白質を培地中に大量に発現することが確認できた。
【0015】
糖鎖欠損型プロDer f 1蛋白質を発現させるためにDer f 1遺伝子の改変を行った。Der f 1の糖鎖は53番目(配列表の配列番号:3に従う)のアスパラギン残基に結合している。このアミノ酸残基を遺伝子工学的手法を用い、他のアミノ酸残基に置換すればもはや糖鎖は付加しないと考えられる。このアスパラギン残基を同じ酸アミド基を持つグルタミン残基に置換する方法を一例として述べる。この置換体は合目的的な任意の方法で作製できるが部位特異的変異の方法が望ましい。先のアスパラギン残基に対応するコドンはAACである。これをグルタミン残基に対応するコドン、例えばCAAに部位特異的変異で置き換えた。部位特異的変異を行う手法は既に確立されており、キットとして販売されているものを用いると簡便に行うことができる(例えばPharmacia社のU. S.E. Mutagenesis Kit)。このようにして作製された変異Der f 1遺伝子は高分子糖鎖結合プロDer f 1と同様な操作で酵母中に導入でき、培地中に大量に分泌することができた。
【0016】
糖鎖欠損型Der f 1を産生する酵母Pichia pastoris NQ-124株および高分子量糖鎖の結合したDer f 1を産生する酵母Pichia pastoris HM-2218 株をそれぞれ工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した。前者の受託番号はFERM P−15710であり、後者の受託番号はFERM P−15709である。
【0017】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1 組換え糖鎖欠損型Der f 1発現用プラスミドの構築
発現ベクターpHIL-S1(Invitrogen社)のXho I-Bam HI間隙にプロDer f 1 DNA断片をフレームが合うように挿入するために、Der f 1プロ配列5'側に部位特異的変異法によりXho Iサイトを導入した。鋳型DNAには完全長Der f 1 cDNAを含むpUC118::Der f 1 を、変異導入プライマーには5'-ACTGTTTATGCTCGAGCAGCTTCAATCAAA-3'を用い、U.S.E. Mutagenesis Kit(Pharmacia社)を用いて改変体を得た(pUC118::Der f 1(x))。さらに同様の手法で、Der f 1タンパク内のAsn型糖鎖添加シグナルの破壊を行った。pUC118::Der f 1(X)を鋳型にし、糖鎖付加シグナル破壊用プライマー5'-TTGGCCTACCGTCAAACGTCTTTGGAT-3'を用いて、U.S.E.Mutagenesis Kitに従い糖鎖欠損型Der f 1 DNAカセットベクター(pUC118::Der f 1(N/Q))を構築した。pUC118::Der f 1(N/Q)をXhoIとBamHIで切断して得られる約1kb長のAsn型糖鎖添加シグナルが破壊されたプロDer f 1 DNA断片(配列表の配列番号:1)を同制限酵素群で処理したpHIL-S1に連結し、組換え糖鎖欠損型Der f1発現ベクターpHIL-S1::Der f 1(N/Q)を構築した。(図1)pHIL-S1::Der f 1(N/Q)の2つのBgl IIサイト内にはAOX1プロモーターとそれに支配されるPichia pastoris由来のPHO1シグナル配列とプロ体Der f 1の融合タンパク構造遺伝子が存在している。
【0018】
実施例2 組換え野生型Der f 1発現ベクターの構築
プレ及びプロ配列を保持したDer f 1断片をpHIL-D2(Invitrogen社製)内のAOX1プロモーター下流に連結するためにpHIL-D2 のEcoRIサイトを破壊し、BamHIサイトの導入を行った。すなわち、pHIL-D2をEcoRIで切断し、DNA Blunting Kit(宝酒造社製)を用いて平滑化した後、8bpのBamHIリンカー(宝酒造社製)との連結反応、BamHI消化、自己閉環反応を行い、目的とする改変型ベクター(pHIL-D2(E/B))を構築した。挿入するプレプロDer f 1 DNA断片はpUC118::Der f 1を鋳型として5'-ATGAAATTCGTTTTGGCCATTGCC-3'と5'-AATACTCGCAAGAGTAGTTG-3'を用いたPCR法により増幅し、上述のように平滑化後、EcoRI-NotI-BamHIアダプター(宝酒造社製)を両末端に連結し、pBluescript II KS+(Stratagene社製)のEcoRIサイトにサブクローニングすることにより調製した(pBluescript II KS+::Der f 1)。このプラスミドをBamHI消化して得られる約1.1kbp長のプレプロDer f 1断片(配列表の配列番号:2)をpHIL-D2(E/B)のBamHIサイトに挿入し、野生型 Der f 1発現ベクターpHIL-D2::Der f 1を構築した。(図2)。
【0019】
実施例3 組換えDer f 1発現株の樹立
糖鎖欠損型及び高分子量糖鎖が結合した組換えDer f 1タンパク発現株は以下に示す同様の手法で樹立した。500mlのYPD培地(1% Yeast Extract、2% Bact-Pepton、2% Glucose)で酵母Pichia pastoris GS115(Invitrogen社製)を30℃でOD600=1.3〜1.5まで培養後、集菌(1500xg、5分、4℃)し、氷冷した250ml滅菌水で2回洗浄(1500xg、5分、4℃)した。続いて、氷冷した10mLの1Mソルビトール溶液で洗浄(1500xg、5分、4℃)後、1mlの1Mソルビトール溶液でGS115を懸濁し、GS115形質転換用細胞とした。この50μl細胞と適当な制限酵素(pHIL-S1はBgl II、pHIL-D2はNot I)で切断した2μg線状化Der f 1発現ベクターを混合し、エレクトロポレーション(Bio-Rad社製;200Ω、25μFD、2.0kV/0.2cm)に供した後、1mlの1Mソルビトール溶液と混合し、適当量をMD培地(1.34% Yeast Nitrogen base w/o a.a.、2% Glucose、4x10-6% Biotin、2% Agar)に塗布した。30℃で48時間培養後、出現したコロニーをMD培地とMM培地(1.34% Yeast Nitrogen base w/o a.a.、1% Methanol、4x10-6% Biotin、2% Agar)に塗布し、さらに30℃で48時間培養し、MD培地で正常な生育し、MM培地で生育しない株(約15%)を取得することで、組換えDer f 1高産生株を得た。
【0020】
実施例4 組換えDer f 1タンパクの発現
糖鎖欠損型及び高分子量糖鎖が結合した組換えDer f 1タンパクの発現は以下に示す同様の手法で行った。組換えDer f 1産生株を10ml YPD培地で30℃、24時間前培養後、500mlのYPD培地に接種し、30℃で36時間本培養後、集菌(4000xg室温)した。これらを50〜100mlのBMM培地(100mM potassium phosphate,pH6.0、1.34% Yeast Nitrogen base w/o a.a.、1% Methanol、4x10-6% Biotin)に懸濁し、30℃で48時間強振とうして組換えDer f 1タンパクを発現誘導し、この培養上清をマウス抗Der f 1モノクローナル抗体(12F1)を用いたウェスタンブロッティング法により、Der f 1タンパクが存在するか否かを分析した。
【0021】
すなわち、上記培養上清及び発現誘導酵母粗抽出液をSDS-PAGE(16%)に供した後、25mMトリス-192mMグリシン緩衝液を用いてニトロセルロース膜(Bio-Rad社製)に電気的に転写した。得られた膜を1%牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝塩溶液(Phosphate buffered Saline;以下「PBS」と略す。)でブロッキングした後、0.2%牛血清アルブミンを含むPBSで3,000倍希釈したマウス抗Der f 1モノクローナル抗体(12F1)と反応させた。続いて上記膜を0.05% Tween20を含むPBSで洗浄した後、0.2% 牛血清アルブミンを含むPBSで2,000倍に希釈したパーオキシダーゼ標識抗マウスIgGヤギ抗体(Bio-Rad社製)と反応させた。更に上記膜を0.05% Tween20を含むPBSで洗浄し、次いでPBSで1回洗浄し、4ークロロー1ーナフトール(Bio-Rad社製)を用いて発色させた。これら操作の結果、目的とする組換えタンパク質が培養上清のみに存在することが確認された。また、培養上清に存在するタンパク質の90%以上はDer f 1タンパクであり、糖鎖欠損型と高分子量糖鎖結合型ではそれぞれ約100mg/L、約200mg/Lの発現量であった。
【0022】
実施例5 組換えDer f 1タンパクの精製
▲1▼糖鎖欠損型Der f 1タンパク
糖鎖欠損型Der f 1発現誘導粗抽出液を遠心(1500xg、5min、4℃)し、培養上清を回収した。この上清に存在するDer f 1タンパクはウェスタンブロッティング法とN末端アミノ酸配列分析の結果、配列表の配列番号:4で示されるプロ体であることが確認されたため、小路らの方法(Shouji, H., et al.: Biosci. Biotech. Biochem., 60, 621-625, 1996)によりDer f 1タンパクの成熟化を試みた。すなわち、pH4.0の100mM酢酸緩衝液に対してDer f 1を含む培養上清を48時間4℃下に放置した。上記分析の結果、ほぼ全てのDer f 1タンパクのプロ配列は除去されており、成熟化していた(図3)。次にこれら成熟型Der f 1タンパクを20mMトリス緩衝液(pH8.0)に対して透析し、同緩衝液で平衡化したDEAE-Sepharoseクロマトグラフィーに供した後、0.1〜0.15MのNaClを含む上記緩衝液で溶出してくる画分を回収した。この画分をPBSに対して透析を行ったものを糖鎖欠損型Der f 1精製標品とした。最終的に得られた組換え糖鎖欠損型Der f 1は配列表の配列番号:1で表されるタンパク質である。
【0023】
▲2▼高分子量糖鎖が結合したDer f 1タンパクの精製
高分子量糖鎖が結合したDer f 1タンパクの精製は糖鎖欠損型Der f 1タンパクの精製方法にDEAE-Sepharoseクロマトグラフィーの操作を省いて行った。すなわち、配列表の配列番号:5で示される高分子量糖鎖の結合したプロ体Der f 1タンパクを成熟化した後、PBSに対して透析を行ったものを高分子量糖鎖が結合したDer f 1精製標品とした(図3)。最終的に得られた高分子糖鎖結合型組換えDer f 1は虫体由来Der f 1の4または6アミノ酸残基上流から始まるタンパク質の混合物であった。すなわち、配列表の配列番号:2および3で表されるタンパク質の1:1の混合物であった。
組換えDer f 1タンパクのN末端アミノ酸配列の決定は、目的タンパクをSDS-PAGEにより分離し、PVDF(ポリフッ化ビニリデン膜、ミリポア社製)に電気的に転写した後、分析対象のバンドを切り取り、N末端アミノ酸分析機(Applied Biosystems社製)を用いて決定した。
【0024】
実施例6 RAST-EIA法によるアレルゲン(IgE結合)活性の測定
組換えDer f 1タンパクのRAST活性はRAST-EIA Kit(Pharmacia社製)を用いて測定した。Incubation buffer、Washing buffer、酵素結合抗IgE抗体、基質溶液及び反応停止液はRAST- EIA Kitに含まれるものを使用した。すなわち、測定しようとする組換えDer f 1タンパク溶液を、臭化シアンで活性化した濾紙に遮光下に室温で一晩結合させた後、1M βーエタノールアミン(pH9.0)を加え、室温で3時間放置した。次いで、0.1M NaHCO3で1回、0.1M 酢酸緩衝液(pH4.0)で3回、Incubation bufferで2回洗浄し、更にヒト抗ダニIgE血清を加え、37℃で3時間放置した。次いで、Washing bufferで3回洗浄し、基質溶液を加え37℃で2時間放置した。しかる後、反応停止液を加え、OD420を測定した。得られた結果を図4および5に示す。なお、虫体由来の天然Der f 1および大腸菌由来の組換えDer f 1のRAST結果にについても付記する。
【0025】
図4および5から明らかなように、糖鎖欠損型、高分子量糖鎖の結合した組換えDer f 1タンパクいづれの場合においても、成熟後の組換えDer f 1タンパクのIgE結合活性は虫体由来のものと同等であることがわかる。このことから、Der f 1タンパクのアレルゲン性を決定するのはタンパク質部分のみであり、糖鎖部分は関与しないと考えられる。
【0026】
【配列表】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【図面の簡単な説明】
【図1】糖鎖欠損型 Der f 1タンパク発現用プラスミドの構築の概略図。
【図2】高分子量糖鎖の結合した Der f 1タンパク発現用プラスミドの構築の概略図。
【図3】糖鎖欠損型と糖鎖結合型の2種の組換え Der f 1タンパク発現を比較するグラフ。
【図4】糖鎖欠損型組換え Der f 1タンパクのIgE結合活性(RAST-EIA法)を示すグラフ。
【図5】高分子量糖鎖の結合した Der f 1タンパクのIgE結合活性(RAST-EIA法)を示すグラフ。
Claims (7)
- ダニ主要アレルゲンDer f 1をコードする遺伝子中の糖鎖結合部位であるアスパラギン残基(配列表の配列番号:4の57番目)をコードするコドンを他のアミノ酸をコードするコドンに変更した遺伝子を用い、組換え技術により酵母で発現させ、更に酵母細胞外に分泌させることを特徴とする組換え糖鎖欠損型ダニアレルゲンDer f 1の製造方法。
- 他のアミノ酸がグルタミンである配列番号1の遺伝子を用いた請求項1記載の製造方法。
- 酵母がピヒア・パストリス (Pichia pastoris) である請求項1または2記載の製造方法。
- 組換え糖鎖欠損型ダニアレルゲン Der f 1 を産生し、配列番号1の遺伝子を有する酵母ピヒア・パストリス(Pichia pastoris) であって、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した受託番号FERMP−15710の株である形質転換体。
- ダニ主要アレルゲンDer f 1をコードする遺伝子を酵母で発現させ、更に酵母細胞外に分泌させることを特徴とする分子量1万以上の糖鎖が結合した組換え高分子量糖鎖結合型ダニアレルゲンDer f 1の製造方法。
- 酵母がピヒア・パストリス (Pichia pastoris) である請求項5記載の製造方法。
- 組換え高分子量糖鎖結合型ダニアレルゲン Der f 1 を産生し、配列番号2の遺伝子を有する酵母ピヒア・パストリス (Pichia pastoris) であって、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した受託番号FERMP−15709の株である形質転換体。
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