JP3797124B2 - n型GaP単結晶基板、その製造方法、GaP緑色系発光ダイオード用エピタキシャル基板およびGaP緑色系発光ダイオード - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明はGaP緑色系発光ダイオード用エピタキシャル基板に使用されるn型GaP単結晶基板とその製造方法に関するものであり、特に高輝度で、かつ低い順方向電圧で駆動可能なGaP緑色系発光ダイオードを作製するために好適に用いられるn型GaP単結晶基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
GaPは緑色に対応するバンドギャップ(約2.26eV)を持つ化合物半導体であり、主に緑色の発光ダイオード(LED)の材料として用いられている。
【0003】
GaPは間接遷移型の結晶であるため内部量子効率が低く、原理的に輝度が低い。これを改善する方法として、発光層(通常はpn接合を形成するn層)に窒素(N)を発光中心としてドープすると輝度が飛躍的に向上することが発見され、実用化に至っている。Nの形成する準位は伝導帯から約7meV下にあるため、このNをドープしたLEDの発光波長は565〜570nmとなり、色としては黄緑色になる(黄緑色LED)。
【0004】
また、基板と発光層の間にバッファ層を積層することにより、GaP単結晶基板からその上にエピタキシャル成長させたpn接合構造の発光層へ伝搬する結晶欠陥を低減する技術や、GaP層のエピタキシャル成長中に主にリン(P)の脱離でGaP層中に発生する結晶欠陥をエピタキシャル成長雰囲気中のP分圧を制御して低減する技術などの開発により、発光中心をドープしない緑色のLEDについても高輝度化が実現された。このLEDはNのような発光中心を用いないので、輝度は黄緑色LEDよりも低いが、発光波長は約555nmであり、色としては純緑色になる(純緑色LED)。
【0005】
これら黄緑色LEDと純緑色LEDをあわせて、GaP緑色系発光ダイオード(GaP緑色系LED)と呼ぶ。
以下にGaP緑色系LEDについて図を用いてさらに詳細に説明する。
【0006】
黄緑色LEDの一般的な構造の概略を図1に示す。まず、n型GaP単結晶基板1の上に、必要に応じてn型GaPバッファ層2を成長する。n型GaPバッファ層2は、成長させなくともかまわないが、一般に、成長させた方がその上に形成するGaP層の結晶性は向上し、より高輝度のLEDが得られる。n型GaPバッファ層2は複数の層を積層しても良い。次に、その上に、n型GaPエピタキシャル層3、Nをドープしたn型GaPエピタキシャル層4、およびp型GaPエピタキシャル層5を順次成長させる。
【0007】
純緑色LEDの一般的な構造の概略を図2に示す。まずn型GaP単結晶基板6の上に、必要に応じてn型GaPバッファ層7を成長させる。黄緑色LEDの場合と同様、n型GaPバッファ層7は、成長させなくともかまわないが、一般に、成長させた方がその上に形成するGaP層の結晶性は向上し、より高輝度のLEDが得られる。n型GaPバッファ層7は複数の層を積層しても良い。次に、その上に、Nをドープしないn型GaPエピタキシャル層8,およびp型GaPエピタキシャル層9を順次成長させる。
【0008】
このようにGaP単結晶基板上にGaPエピタキシャル層を積層した基板を本明細書ではエピタキシャル基板と呼ぶ。上記のようにして作製したLED用エピタキシャル基板のn型の表面とp型の表面にそれぞれAuGe、AuBe等の電極用金属薄膜を蒸着し、熱処理によりこれらの電極用金属薄膜材料とエピタキシャル基板を合金化する。さらに、フォトリソグラフィーによりn電極、p電極を形成して、ダイシングによりLEDに分離する。
【0009】
これらのLED用エピタキシャル基板は、通常液体封止チョクラルスキー法(LEC法)で育成したGaP単結晶インゴットを切断、研磨して作製されるGaP単結晶基板を使用して製造される。また、n型GaP単結晶基板のドーパントとしてはS、Si、及びTeが一般的に用いられている。これらのドーパントのうち特にSは、特開平11−97740号公報に示されているように、前述の黄緑色LEDの輝度を低下させる原因となるので、エピタキシャル層が基板起因のSで汚染されることを回避するために、GaP緑色系発光ダイオード用エピタキシャル基板の作製には使用されていない。
【0010】
また上記のエピタキシャル層は、主に液相エピタキシャル成長法により製造されている。液相エピタキシャル法は、結晶性の良い高品質なエピタキシャル層を大量に安価に製造することができる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようにして作製されるGaP緑色系LED用エピタキシャル基板及び発光ダイオードは、市場の高輝度化への要求に対応するために、前述のようなエピタキシャル層構造の最適化や液相エピタキシャル成長方法の改良により特性向上を図ってきた。
【0012】
これに加えて、エピタキシャル基板に用いるGaP単結晶基板についても特性改善が図られてきた。GaP単結晶基板の特性改善の指標としては、結晶欠陥に対応するEPD(エッチピット密度)の低減とキャリヤ濃度の最適化の2つがある。このうち、EPD低減のためにはGaP単結晶インゴットの育成技術の改良が検討されているが本発明の目的とは離れるので詳細は省略する。
【0013】
一方GaP単結晶基板のキャリヤ濃度については、GaP単結晶基板のキャリヤ濃度は低い方が基板による発光の吸収が小さくなるので、LEDの高輝度化のためには有効であるが、同時に基板のキャリヤ濃度が低いと基板自身の電気抵抗が上昇する。そのためLEDを作製した場合、基板のキャリヤ濃度が低いと電極と結晶間の接触抵抗と基板のバルク抵抗が上昇し、LEDに定格電流を流すために必要な順方向電圧(VF)の値が大きくなるためLEDの寿命特性が低下するという性質がある。反対に、GaP単結晶基板のキャリヤ濃度が高いとLEDのVFは低減できるが、基板による発光の吸収によりLEDの輝度が低下する。
【0014】
このようにGaP単結晶基板のキャリヤ濃度に関してLEDの輝度とVFにはトレードオフの関係がある。従って、基板のキャリヤ濃度には最適範囲があり、従来一般にはキャリア濃度が1〜20×1017cm-3程度のGaP単結晶基板が、GaP緑色系LED用エピタキシャル基板の作製に利用されていた。
【0015】
ところが、近年、LEDの小サイズ化、消費電力低減の要求が高まっており、高輝度であり、かつ低VFのLEDが求められている。前記のように、GaP単結晶基板のキャリヤ濃度に対する輝度とVFの関係はトレードオフにあるため、この市場要求に応じるためにはGaP単結晶基板のキャリヤ濃度の最適範囲をLEDの輝度、VFの目標値に合わせて変更する必要がある。
【0016】
即ち、輝度向上のためにキャリヤ濃度の上限値を下げ、低VF化のためにキャリヤ濃度の下限値を上げる必要があり、その結果として新たに求められる最適キャリヤ濃度範囲は従来と比較して狭くなる。
【0017】
ところが、GaP単結晶基板のキャリヤ濃度の最適範囲を狭めると、Teドープのn型GaP単結晶インゴットからGaP単結晶基板を作製する場合、一本のインゴットの中でキャリヤ濃度が新たな最適範囲からはずれてLED用の基板として使用できない領域が増加する。そのため、一本のインゴットからの製造できる基板の枚数が少なくなる結果、基板のコストアップにつながる。
【0018】
一方、Siドープのn型GaP単結晶インゴットの場合は、インゴット内のキャリヤ濃度変化はTeドープの場合と比較すると小さい。しかし、このインゴットを用いてキャリヤ濃度を限定したSiドープのGaP単結晶基板を作製し、GaPエピタキシャル層を積層してLEDを作製してもVFがばらつくという不具合があった。
【0019】
そこで本発明の目的は、高輝度で、かつ低い順方向電圧で駆動可能な緑色系発光ダイオードを作製するために好適に用いることができるn型GaP単結晶基板とその製造方法を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明は、
(1)n型のドーパントとしてSiとTeが同時にドープされたn型GaP単結晶基板において、該n型GaP単結晶基板中のSi濃度とTe濃度の和が2×1017cm-3以上2×1018cm-3以下であり、かつSi濃度が2×1016cm-3以上8×1017cm-3以下であり、かつTe濃度が1×1017cm-3以上2×1018cm-3以下であることを特徴とするn型GaP単結晶基板である。
【0021】
(2)(1)に記載のn型GaP単結晶基板は、n型キャリヤ濃度が1.5×1017cm-3以上10×1017cm-3以下であることが好ましい。
【0022】
(3)特に(1)に記載のn型GaP単結晶基板は、n型キャリヤ濃度が2×1017cm-3以上8×1017cm-3以下であることが好ましい。
【0023】
(4)(1)乃至(3)に記載のn型GaP単結晶基板は、液体封止チョクラルスキー法により育成されたn型GaP単結晶インゴットから作製されたものであることが好ましい。
【0024】
また本発明は、
(5)(1)乃至(4)に記載のn型GaP単結晶基板を用いて作製したGaP緑色系発光ダイオード用エピタキシャル基板である。
【0025】
また本発明は、
(6)(5)に記載のエピタキシャル基板から作製されたGaP緑色系発光ダイオードである。
【0026】
また本発明は、
(7)n型のドーパントとしてSiとTeを同時にドープしてn型GaP単結晶インゴットを育成し該インゴットからn型GaP単結晶基板を作製するn型GaP単結晶基板の製造方法において、n型GaP単結晶基板中のSi濃度とTe濃度の和を2×1017cm-3以上2×1018cm-3以下とし、かつSi濃度を2×1016cm-3以上8×1017cm-3以下とし、かつTe濃度を1×1017cm-3以上2×1018cm-3以下とするように、GaP単結晶インゴットの原料にSiとTeを添加することを特徴とするn型GaP単結晶基板の製造方法である。
【0027】
(8)(7)に記載のn型GaP単結晶基板のキャリヤ濃度は1.5×1017cm-3以上10×1017cm-3以下とすることが好ましい。
【0028】
(9)特に(7)に記載のn型GaP単結晶基板のキャリヤ濃度は2×1017cm-3以上8×1017cm-3以下とすることが好ましい。
【0029】
(10)(7)乃至(9)に記載のn型GaP単結晶基板の製造方法は、液体封止チョクラルスキー法によりn型GaP単結晶インゴットを育成することが好ましい。
【0030】
【発明の実施の形態】
GaP緑色系発光ダイオードに対する高輝度化かつ低VF化の市場要求に応えるためのGaP単結晶基板のキャリヤ濃度の最適範囲を、n型GaP単結晶基板を用いて実験的に求めたところ、最適キャリヤ濃度範囲は1.5×1017cm-3以上10×1017cm-3以下、さらに好ましくは2×1017cm-3以上8×1017cm-3以下であることがわかった。TeドープのGaPインゴットの場合、従来の最適キャリヤ濃度範囲である1.0〜20×1017cm-3に対しては単結晶領域の95%以上がその範囲に入っていたが、新たな最適キャリヤ濃度範囲である1.5〜10×1017cm-3を採用すると、その範囲に入るインゴットの単結晶領域の割合(合格率)は70%に低下した。
【0031】
インゴット育成時のTeの添加条件を種々検討しても、新たな最適キャリア濃度範囲である1.5〜10×1017cm-3に対してTeドープのGaP単結晶インゴットの合格率は改善できなかった。これはTeのGaPに対する偏析係数が1より小さいので、インゴット内のキャリヤ濃度が単結晶育成開始部分(以下、トップ部)では低く、単結晶育成終了部分(以下ボトム部)に向かって高くなるためである。従って、TeドープGaP単結晶基板のキャリヤ濃度を前記の最適範囲に限定すると、一本のインゴット内でキャリヤ濃度の規格をはずれる領域が大きくなり、基板収率が低下してGaP単結晶基板のコストアップになる。
【0032】
一方SiをドーパントとするGaP単結晶インゴットの場合、インゴット内のキャリヤ濃度はトップ部からボトム部に向かって減少するが、その変化率はTeドープのインゴットの場合よりも小さいので、新たに定めた最適キャリヤ濃度範囲に適合した基板を単結晶インゴットからの基板収率低下を招かずに育成することができる。
【0033】
しかし、実際にSiドープのGaP単結晶基板を用いてその上にエピタキシャル層を成長し、GaP緑色系LEDを作製したところ、同じキャリヤ濃度の基板を使用してもLEDのVFがばらつき、VFの規格値を超えるものが発生した。この現象はインゴットにドープするSiの添加量を増量してキャリヤ濃度を前記の実験で求めた最適値の上限付近に設定しても発生した。さらにSi添加量を上げると作製したLEDの輝度も低下した。
【0034】
この原因について調査した結果、SiドープのGaP単結晶基板におけるキャリアの移動度がインゴットのトップ部からボトム部に向かって減少していることがわかった。結晶の抵抗率は結晶のキャリヤ濃度とキャリアの移動度の積に反比例する。前述のようにSiドープGaP単結晶ではインゴット全域のキャリヤ濃度の変化は小さいが、ボトム部側でキャリアの移動度が減少しているために抵抗率が上昇し、この単結晶基板を使用したエピタキシャル基板から作製したLEDのVFが上昇したものと考えられる。
【0035】
SiドープのGaP単結晶インゴットにおいて、キャリアの移動度がトップ部からボトム部に向かって減少する原因は、インゴットの育成方向(トップ部からボトム部)に向かってSiの活性化率が低下すること、即ちキャリヤとして寄与しないSiがインゴットのボトム部側で増加することで、GaP単結晶の結晶性がボトム部側で悪化するためと推測される。Si添加量を増量するとこの傾向が更に高まるため、輝度も低下するものと考えられる。
【0036】
尚、TeドープのGaP単結晶インゴットについても同様にボトム部側で移動度が減少しているが、減少の割合はSiドープのインゴットの場合よりも小さく、またTeドープのGaP単結晶インゴットでは、前述のようにボトム部側でキャリヤ濃度も同時に上昇しているため抵抗率はあまり上昇しない。
【0037】
以上の知見から、GaP単結晶インゴットのキャリヤ濃度をインゴットの広い領域で最適範囲に制御し、高輝度で順方向電圧の低い発光ダイオードを作製するためのGaP単結晶基板を収率良く製造することは、単独のドーパントを用いてn型GaP単結晶インゴットを育成する方法では困難であると考えられる。そこで本発明者は、SiとTeを同時にGaP単結晶インゴットの原料に添加してインゴットを育成することにより、前述のTeやSiを単独でドープしたGaP単結晶基板の欠点を補償する方法について検討した。
【0038】
即ち本発明者は、インゴットに同時にドープするTeとSiの添加量を調整して、GaP単結晶インゴットの全単結晶領域でキャリヤ濃度を最適範囲内に納める条件を検討した。また、前述のようにTeやSiは共に、結晶へのドープ量が増加すると結晶内での活性化率が減少すると考えられるので、GaP単結晶のキャリヤ濃度のみを規定するのではVFを制御できない。そのためGaP単結晶基板内に実際に取り込まれたSiとTeの濃度についても最適範囲を検討した。
【0039】
本発明者は以上の方針で、n型GaP単結晶のインゴット育成の際にドープするSiおよびTeの添加量を検討し、n型GaP単結晶基板中のSi濃度とTe濃度を最適化することにより本発明に至った。本発明では、n型のドーパントとしてSiとTeが同時にドープされたn型GaP単結晶基板において、n型GaP単結晶基板中のSi濃度とTe濃度の和が2×1017cm-3以上2×1018cm-3以下とする。
【0040】
n型GaP単結晶基板中のSi濃度とTe濃度の和が2×1017cm-3より小さいと、この基板を用いて作製した前記GaP緑色系発光ダイオードのVFが上昇するため好ましくない。また、n型GaP単結晶基板中のSi濃度とTe濃度の和が2×1018cm-3より大きいとこの基板を用いて作製した前記GaP緑色系発光ダイオードの輝度が低下するため好ましくない。
【0041】
さらに本発明では、Si濃度とTe濃度の和が2×1017cm-3以上2×1018cm-3以下とすると同時に、n型GaP単結晶基板中のSi濃度を2×1016cm-3以上8×1017cm-3以下とする。Si濃度が2×1016cm-3より小さいと、この基板を用いて作製した前記GaP緑色系発光ダイオードのVFが上昇するため好ましくない。また、Si濃度が8×1017cm-3より大きいと、この基板を用いて作製した前記GaP緑色系発光ダイオードの輝度が低下するため好ましくない。
【0042】
さらに本発明では、上記のようにSi濃度を制御すると同時に、n型GaP単結晶基板中のTe濃度を1×1017cm-3以上2×1018cm-3以下とする。Te濃度が1×1017cm-3より小さいと、この基板を用いて作製した前記GaP緑色系発光ダイオードのVFが上昇するため好ましくない。また、Te濃度が2×1018cm-3以上であるより大きいと、この基板を用いて作製した前記GaP緑色系発光ダイオードの輝度が低下するため好ましくない。
【0043】
本発明では、SiとTeが同時にドープされたn型GaP単結晶基板のキャリヤ濃度範囲を、1.5×1017cm-3以上10×1017cm-3以下、さらに好ましくは2×1017cm-3以上8×1017cm-3以下に制御し、そのGaP単結晶基板を用いてGaP緑色系発光ダイオード用エピタキシャル基板を作製することにより、高輝度で、かつ低い順方向電圧で駆動可能なGaP緑色系発光ダイオードを作製することが出来る。
なお、本発明においてSi濃度やTe濃度あるいはキャリア濃度の測定値の有効数字は大きくて2桁程度であるため、3桁目は四捨五入するものとする。例えば、n型GaP単結晶基板中のSi濃度が2×1016cm-3、Te濃度が2×1018cm-3の場合、Si濃度とTe濃度の和は計算上2.02×1018cm-3となるが、この場合3桁目は四捨五入してSi濃度とTe濃度の和は2.0×1018cm-3とみなす。
【0044】
GaP単結晶インゴットの育成方法には、水平式ブリッジマン法や垂直式ブリッジマン法などがあるが、本発明では液体封止チョクラルスキー法によりn型GaP単結晶インゴットを育成するのが好ましい。液体封止チョクラルスキー法を用いると、結晶性の良いGaP単結晶インゴットを再現良く製造することができるという利点がある。
【0045】
【実施例】
以下、実施例を示しながら本発明をさらに詳細に説明する。
【0046】
(実験例1)
所定量のGaP多結晶と、GaP多結晶1000gに対してSiを100mg及びTeを500mgの割合で添加したものを原料として、通常の液体封止チョクラルスキー法によりn型GaP単結晶インゴットを育成した。育成温度は約1500℃、育成圧力は約50気圧とした。その他の引き上げ条件は、例えば特公昭59−12640号に記載されているような公知の方法を用いた。GaP単結晶インゴットの引き上げ方位は<111>方向とした。
【0047】
上記のようにして育成したGaP単結晶インゴットの単結晶領域を通常の外周研削工程、切断工程、研磨工程及びエッチング工程により加工し、n型GaP単結晶基板を作製した。
【0048】
次に、このn型GaP単結晶基板を用いて、液相エピタキシャル成長法により、図1に示した黄緑色LED用エピタキシャル基板を以下のように作製した。なお、この黄緑色LED用エピタキシャル基板の作製には、上記GaP単結晶インゴットのトップ部からボトム部までの間でおよそ等間隔の位置から取り出したn型GaP単結晶基板を計8枚使用した。
【0049】
まず、このn型GaP単結晶基板1上に通常の液相エピタキシャル成長法により、n型GaPバッファ層2を成長させた。このn型GaPバッファ層2はSiドープとし、キャリヤ濃度は4×1017cm-3、層厚は100μmとした。
【0050】
次いで、公知の横型スライドボートを用いた方法により、n型GaPバッファ層の上にGaPエピタキシャル層を成長させた。横型スライドボートの基板ホルダーに、前記n型GaPバッファ層を成長させた前記n型GaP単結晶基板をセットし、溶液溜には成長用溶液となるGaメタルを所定量セットした。基板とメタルを分離した状態のまま、このスライドボートをエピタキシャル成長炉にセットし、水素気流下で1000℃まで昇温し、基板ホルダーをスライドさせてn型GaPバッファ層とGaメタルを接触させ、1時間保持してGaメタルにn型GaPバッファ層の一部を飽和するまで溶解させた。この時、溶解したn型GaPバッファ層にドーパントとして含まれるSiと、エピタキシャル成長炉の反応管の石英が水素により還元されることにより発生したSiがGaメタル中に溶け込む。
【0051】
その後、960℃まで冷却してn型GaPバッファ層上にSiドープn型GaPエピタキシャル層を成長させた。次に温度を960℃に保持したまま、雰囲気ガスを水素から所定量のアンモニアガスを添加したアルゴンガスと水素ガスの混合ガスに切り換える。このようにすると、アンモニアガスがGaメタルと反応してGaメタル中に窒素(N)が取り込まれる。その後、900℃まで徐冷して、Siドープn型GaPエピタキシャル層上にNドープのn型GaPエピタキシャル層を成長させた。
【0052】
引き続き、温度を900℃に保持し、雰囲気ガスに亜鉛(Zn)蒸気を供給してGa溶液中にZnを所定量取り込ませた。再び温度を800℃まで徐冷してNドープのn型GaPエピタキシャル層上にZnドープp型GaPエピタキシャル層を成長させた。
【0053】
以上の手順で、n型GaPバッファ層2を成長させたn型GaP単結晶基板1の上に、Siドープのn型GaPエピタキシャル層3、Nドープのn型GaPエピタキシャル層4、Znドープのp型GaPエピタキシャル層5を順次積層した。
【0054】
エピタキシャル層の成長がすべて終了した後、基板ホルダーをスライドさせて成長溶液を分離し、室温まで冷却してGaP黄緑色LED用エピタキシャル基板を得た。このエピタキシャル基板の一部を劈開により切断し、測定用断片を作製した。この断片を使ってCV法によりGaP単結晶基板のキャリヤ濃度を測定した。また、SIMS法により同じ断片についてGaP単結晶基板中のSiとTeの濃度を測定した。
【0055】
次に、測定用断片を採取した残りのGaP黄緑色LED用エピタキシャル基板の両面をラップ加工およびポリッシュ加工した後、p側表面にAu−Be合金を、またn側表面にAu−Ge合金を蒸着し、通常のフォトリソグラフィーにより電極を形成した。また、GaP単結晶基板のVFへの影響を評価するため、この段階で基板側(n側表面)の最近接電極間の電気抵抗(以下、電極間抵抗(Rnn)という)を測定した。
【0056】
前述のように基板のキャリヤ濃度と移動度が基板のバルク抵抗を支配するので、このRnnの測定によりLEDのVFに対する基板の寄与が評価できる。RnnとVFには正相関があることがわかっている。そのためVFを低減する際の目標値に対応するRnnの値を定め、それと実際の基板のRnnの値と比較することにより、基板がVFを低減するのに十分なキャリヤ濃度とキャリアの移動度を持っているか否かを判定できる。
【0057】
その後、このGaP黄緑色LED用エピタキシャル基板を切断、分離してGaP黄緑色LEDを得た。このLEDについて輝度を評価した。輝度は前述のGaP黄緑色LED用エピタキシャル基板の一枚についてLEDを100点抽出して測定し、その平均値を代表値とした。
【0058】
(実験例2、3)
上記の実験例1におけるSiとTeの添加量を変更し、実験例1とSiおよびTe濃度の異なるGaP単結晶インゴットを育成した。GaP多結晶1kg当たりに添加するSiとTeの量は、以下の表1のようにした。これらのGaP単結晶インゴットを用いて、実験例1と同様の手順でエピタキシャル基板の製造に用いるn型GaP単結晶基板、GaP黄緑色LED用エピタキシャル基板、及びGaP黄緑色LEDを順次作製し、輝度およびRnnについて特性測定を実施した。
【0059】
【表1】
【0060】
上記の実施例1、2、3で作製したGaP単結晶基板中のSi濃度、Te濃度と、黄緑色LEDの電極間抵抗および輝度特性の判定結果の関係を図3に示す。図3において、実験例1で作製したLEDサンプルの測定値は○、実験例2で作製したLEDサンプルの測定値は□と■、実験例3で作製したLEDサンプルの測定値は△と▲でプロットしてある。○、□、△のマークは電極間抵抗、輝度ともに目標レベルを満足している点を示しており、実験例2の■のマークは輝度が目標レベルを下回るサンプル、実験例3の▲のマークは電極間抵抗が目標値を上回るサンプルを示している。また、図中にはSiとTe濃度の和が一定の点を結んだ曲線を補助線として5本、挿入してある。図3でA、B、Cの添え字のある測定点については後述の図4、5で説明する。
【0061】
図3より、実験例1で得られたLEDサンプルは全ての点が電極間抵抗、輝度のいずれも目標レベルを満足していることがわかる。即ち、実験例1の条件で作製したGaP単結晶インゴットのどの領域から作製したGaP単結晶基板を使用しても、輝度および電極間抵抗が目標特性を満たすGaP黄緑色LEDを作製することができることがわかる。
【0062】
これに対して、実験例2及び実験例3で作製されたインゴットからサンプリングした基板を使用して黄緑色LEDを作製した場合、同じインゴットを使用しても目標とする輝度および電極間抵抗に到達できるLEDサンプルと到達できないサンプルがあることがわかる。また図3より、Si濃度とTe濃度の和が2×1017cm-3以上2×1018cm-3以下であり、かつSi濃度が2×1016cm-3以上8×1017cm-3以下であり、かつTe濃度が1×1017cm-3以上2×1018cm-3以下のGaP単結晶基板を使用すると電極間抵抗、輝度特性がいずれも目標レベルを満足することがわかる。
【0063】
また、GaP単結晶基板のキャリヤ濃度と得られたLEDの輝度の関係を図4に示す。この図のマークは図3と同じである。図4にA、Bの添え字のある点(■のマーク)は図3のA、Bと同じLEDサンプルの測定値である。これら2点のキャリヤ濃度は8〜9×1017cm-3であるが、図3に示したようにSi濃度が8×1017cm-3以上であるために輝度が低下している。従って図4より、輝度についてはキャリヤ濃度が10×1017cm-3以下、より好ましくは8×1017cm-3以下であれば目標レベルを達成できることがわかる。
【0064】
また、GaP単結晶基板のキャリヤ濃度と電極間抵抗の関係を図5に示す。この図のマークも図3と同じである。図5にCの添え字のある点(▲のマーク)は図3のCと同じLEDサンプルの測定値である。このLEDサンプルのキャリヤ濃度は1.8×1017cm-3であるが、図3に示したようにSi濃度が2×1016cm-3以下であるために電極間抵抗が上昇している。従って図5より、電極間抵抗についてはキャリヤ濃度が1.5×1017cm-3以上、より好ましくは2×1017cm-3以上であれば目標レベルを達成できることがわかる。
【0065】
以上の結果をまとめると、輝度と電極間抵抗(すなわち電極間抵抗に対応するVF)の目標レベルを同時に満足するためには、エピタキシャル成長に使用するn型GaP単結晶基板はn型のドーパントとしてSiとTeが同時にドープされており、前記n型GaP単結晶基板中のSi濃度とTe濃度の和が2×1017cm-3以上2×1018cm-3以下であり、かつ前記n型GaP単結晶基板中のSi濃度が2×1016cm-3以上8×1017cm-3以下であり、かつ前記n型GaP単結晶基板中のTe濃度が1×1017cm-3以上2×1018cm-3以下であるとよい。
【0066】
さらに前記n型GaP単結晶基板のキャリヤ濃度が1.5×1017cm-3以上10×1017cm-3以下、より好ましくは2×1017cm-3以上8×1017cm-3以下であると、輝度と電極間抵抗の特性に優れたGaP黄緑色発光ダイオードを作製することができる。
【0067】
また、実験例1に示したSiとTeの添加条件でGaP単結晶インゴットを育成すると、インゴットの全領域から上記のSi濃度、Te濃度およびキャリア濃度の最適条件が満たされたGaP単結晶基板を作製することができ、キャリヤ濃度の最適範囲を狭めてもGaP単結晶インゴットからの基板の合格率は低下しないことがわかる。なお、このようなSiとTeの最適添加条件は、液体封止チョクラルスキー法等によるGaP単結晶インゴットの育成条件に合わせて、実験により決めることができる。
【0068】
本発明者はGaP純緑色LEDについても同様の実験を行い、GaP単結晶基板のSi濃度、Te濃度およびキャリア濃度の最適値についてGaP黄緑色LEDと同様の結果が得られた。
【0069】
【発明の効果】
以上のように本発明の結果、GaP緑色系発光ダイオードの高輝度化および低VF化の要求に対応するために、n型GaP単結晶基板のキャリヤ濃度の最適範囲を狭めても、基板収率を低下させないGaP単結晶インゴットを作製することができる。また、そのインゴットからGaP緑色系LEDの製造に好適に用いることができるGaP単結晶基板を製造することができる。
【0070】
本発明のGaP単結晶基板を用いてGaP緑色系発光ダイオード用エピタキシャル基板を作製すると、GaP単結晶基板に起因するVFのばらつきや輝度低下が発生しない高輝度でかつVFの低減された発光ダイオードを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】GaP黄緑色発光ダイオードの構造の概略図
【図2】GaP純緑色発光ダイオードの構造の概略図
【図3】本発明の実験例1、2、3で作製したLEDサンプルについて、GaP単結晶基板中のSi濃度及びTe濃度と輝度、電極間抵抗の判定結果の関係を示す図
【図4】本発明の実験例1、2、3について、GaP単結晶基板のキャリヤ濃度と輝度の関係を示す図
【図5】本発明の実験例1、2、3について、GaP単結晶基板のキャリヤ濃度と電極間抵抗の関係を示す図
【符号の説明】
1 n型GaP単結晶基板
2 n型GaPバッファ層
3 n型GaPエピタキシャル層
4 Nドープn型GaPエピタキシャル層
5 p型GaPエピタキシャル層
6 n型GaP単結晶基板
7 n型GaPバッファ層
8 n型GaPエピタキシャル層
9 p型GaPエピタキシャル層
Claims (3)
- n型のドーパントとしてSiとTeを同時にドープしてn型GaP単結晶インゴットを育成し、該インゴットからn型GaP単結晶基板を作製するn型GaP単結晶基板の製造方法において、n型GaP単結晶基板中のSi濃度とTe濃度の和を2×1017cm-3以上2×1018cm-3以下とし、かつSi濃度を2×1016cm-3以上8×1017cm-3以下とし、かつTe濃度を1×1017cm-3以上2×1018cm-3以下とするように、GaP単結晶インゴットの原料にSiとTeを添加することを特徴とするn型GaP単結晶基板の製造方法。
- n型GaP単結晶基板のキャリヤ濃度を1.5×1017cm-3以上10×1017cm-3以下とすることを特徴とする請求項1に記載のn型GaP単結晶基板の製造方法。
- n型GaP単結晶基板のキャリヤ濃度を2×1017cm-3以上8×1017cm-3以下とすることを特徴とする請求項1に記載のn型GaP単結晶基板の製造方法。
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