JP3787226B2 - レース用タイヤトレッドゴム組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レース用タイヤトレッドゴム組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
降雨等で濡れた路面を走行することもあるレース用タイヤにおいては、そのウエットグリップ性能を高くすることが重要である。ウエットグリップ性を高めるために、一般に、(1)ヒステリシスロスを大きくすること、(2)粘着摩擦力を大きくすること、(3)掘り起こし摩擦力を大きくすること等が考えられている。
【0003】
そのため、近年では、充填剤としてシリカ等を多く配合し粘着摩擦力を大きくして、ウエットグリップ性を高めることが検討されているが、シリカが多く配合されたタイヤは製造にあたって多くの問題を有する。その最も大きな問題は、過密着とよばれる現象が発生することであり、ゴム組成物を混練したり、押出したりする際に、混練装置や押出し装置にゴム組成物が強固に付着してしまい、付着したゴム組成物を剥がすのが非常に困難であったり、バッチごとに上記装置を入念に洗浄する必要があるという問題が生じる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、ウエットグリップ性に優れたレース用タイヤの製造に用いられ、混練や押出し等のタイヤ製造工程において過密着を発生させないレース用タイヤトレッドゴム組成物を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、シリカを含むレース用タイヤトレッドゴム組成物に配合される添加剤の種類や、その配合量について鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明のレース用タイヤトレッドゴム組成物は、ジエン系ゴム100重量部に対し、シリカ20重量部以上を含む全量100〜250重量部の充填剤と5〜50重量部のファクチスとを配合してなる組成物である。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明のレース用タイヤトレッドゴム組成物は、ジエン系ゴムと、シリカを必須とする充填剤と、ファクチスとを含む組成物である。
〔ジエンゴム系〕
本発明で用いられるジエン系ゴムは、天然ゴムおよびジエン系合成ゴムからなる群の中から選ばれた少なくとも1種である。ジエン系合成ゴムとしては特に限定されないが、たとえば、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、イソプレン−イソブチレンゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)等を挙げることができ、1種のみ、または、必要に応じて2種以上を使用することができる。その中でも、ジエン系ゴムがスチレン・ブタジエンゴム(SBR)であると、ヒステリシスロスを大きくする点で好ましい。
〔充填剤〕
本発明で用いられる充填剤は、ゴム組成物を成形してレース用タイヤを製造した時に十分な硬度を得るために配合されるものである。充填剤としては、シリカを必須として含むものであれば特に限定されるものではない。シリカを含むことによって粘着摩擦力が向上し、ウエットグリップ性が向上する。
【0007】
シリカ以外の充填剤としては、たとえば、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、アルミナ、マイカ、グラファイト、ガラス粉等の無機質充填剤や、ハイスチレン樹脂、クマロンインデン樹脂、フェノール樹脂、変性メラミン樹脂、石油樹脂等からなる有機質充填剤が挙げられ、これらの少なくとも1種をシリカと併用することができる。
【0008】
レース用タイヤトレッドゴム組成物中の充填剤(シリカを含む)の配合割合は、ジエン系ゴム100重量部に対して100〜250重量部であり、好ましくは120〜200重量部、さらに好ましくは140〜180重量部である。充填剤の配合量が250重量部を超えると、混練や押出し等のタイヤ製造工程において大きな負荷が発生したり、過密着が生じるおそれがある。充填剤の配合量が100重量部未満であると、ヒステリシスロスが大きくなく、十分な摩擦力が得られず、ウエットグリップ性が低下するおそれがある。
【0009】
充填剤の必須成分であるシリカの配合割合は、ジエン系ゴム100重量部に対して20重量部以上である。シリカの配合割合が20重量部未満であると、十分な粘着摩擦力が得られず、ウエットグリップ性が低下するおそれがある。
シリカの配合割合は、好ましくは充填剤全量の50重量%以上、さらに好ましくは充填剤全量の70重量%以上である。シリカの配合割合が50重量%未満であると、粘着摩擦が十分に得られず、ウエットグリップ性が低下することがある。なお、シリカの配合割合を多くする場合は、過密着を避けるために後述のファクチスの配合割合も多くするほうが好ましい。
〔ファクチス〕
ファクチスはシリカを配合することによる過密着の問題を解消するために配合される。ファクチスとは、通称「サブ」と呼ばれる成分であり、比重1.03〜1.05の硬化油でゴム類似の弾性のある脆い固形物である。ファクチスは、たとえば、ヨウ素価70以上の動植物油脂をイオウまたは塩化イオウ等の含イオウ化合物と加熱下で反応させて得られる。
【0010】
ファクチスには、イオウ含有量6〜8%の白色または淡黄色のシロサブ;酸化した植物油にイオウを加えて高温に加熱して得られる黒褐色弾性体でイオウ含有量15〜20%の黒サブ;塩化イオウだけの作用で製造した透明なあめサブ;その他原料動植物油脂の違いによる特殊ファクチス等を挙げることができる。これらファクチスの中では、黒サブが好ましい。その理由は、過密着を防ぐ防着効果が大きいためである。これらファクチスは1種のみ、または、必要に応じて2種以上を併用することができる。
【0011】
レース用タイヤトレッドゴム組成物中のファクチスの配合割合は、ジエン系ゴム100重量部に対して5〜50重量部である。ファクチスの配合割合は、好ましくは10〜40重量部、さらに好ましくは20〜30重量部である。ファクチスの配合割合が50重量部を超えると、ゴムが過度に柔軟になって耐摩耗性が低下するおそれがある。また、ファクチスの配合量が5重量部未満であると、ゴム練りや押出し等のタイヤ製造工程において過密着が発生する。
【0012】
ファクチスが上記配合範囲にある場合において、その割合が多いと、ウエットグリップ性がより向上するので好ましい。これは、ファクチスの配合割合が多いゴム組成物では、ゴム組成物を加硫して得られるゴムは柔軟性が高くなってヒステリシスロスは低下するものの、タイヤにした場合に路面との接触面積が広くなるので、結果としてウエットグリップ性が向上するのである。
【0013】
タイヤトレッド部分に含まれるファクチスは、トレッド部分の切断面を顕微鏡で観察することによって、容易に確認することができる。
〔その他の成分〕
レース用タイヤトレッドゴム組成物には、必要に応じて、ナフテン系プロセスオイル、アロマオイル等の軟化剤;フタル酸誘導体、アジピン酸誘導体、アゼライン酸誘導体、セバシン酸誘導体、リン酸誘導体等の低温可塑剤;イオウ、不溶性イオウ、硫黄化合物等の加硫剤;酸化亜鉛、ステアリン酸等の加硫助剤;メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)等のチアゾール系化合物や、ジフェニルグアニジン(DPG)等のグアニジン系化合物等からなる加硫促進剤;有機繊維;発泡剤;老化防止剤;ワックス等の添加剤を配合することができる。トレッドゴム組成物中のこれらの添加剤の配合割合は、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0014】
レース用タイヤトレッドゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を適用することができる。上記各成分を、たとえば、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて、通常の方法、条件で混練することによって得られる。なお、混練温度は120〜180℃であるのが好ましい。
レース用タイヤは、以上説明したレース用タイヤトレッドゴム組成物を成形加硫して得られる。
【0015】
【実施例】
以下に本発明の具体的な実施例および比較例を示すが、本発明は下記実施例に限定されない。
(実施例1〜5および比較例1〜5)
容量50リットルのバンバリ−型ミキサーを用い、下記の表1および表2に示した配合で、下記に示すように各成分を3回に分けて70%の充填率で、各4分間混練してレース用タイヤトレッドゴム組成物を調製した。
【0016】
1回目:SBRの全量、シリカの半量、カーボンブラックの半量、アロマオイルの半量、カップリング剤の全量、ファクチスの全量。
2回目:1回目の混練物、シリカの半量、カーボンブラックの半量、アロマオイルの半量、ステアリン酸の全量、酸化亜鉛の全量。
3回目:2回目の混練物、イオウの全量、加硫促進剤の全量。
【0017】
得られたトレッドゴム組成物を用いて、下記に示すように過密着を評価しながら、タイヤを作製した。
得られたタイヤのトレッド部分からミクロトームで厚み1.0〜1.5μmの薄片サンプルを切り取り、有機溶剤(キシレン)で膨潤させてガラスプレート上に貼り付け、顕微鏡で観察するとともに、上記薄片断面の顕微鏡写真をとった。図1は倍率×100倍、図2は倍率×200倍の顕微鏡写真である。写真の中央の直径0.1mm程度の塊状粒子が黒サブである。
【0018】
作製したタイヤについて、以下の評価方法で性能を評価した。その結果を表1および表2に併記した。
<評価方法>
1.タイヤ製造工程における密着(過密着の評価)
カートタイヤは、バンバリー型ミキサー(50リットル、株式会社神戸製鋼所製K50、回転数50rpm)と、シーターロール(24インチ、回転数20rpm、温調95℃)とを用いた混練(ゴム練り)工程と、押出し機(4.5インチ、コールドフィード型、回転数25rpm、ラインスピード5m/分)を用いた押出し工程とを経て製造された。以下に、混練工程および押出し工程を詳しく説明する。
混練(ゴム練り)工程
バンバリー型ミキサーで上記成分を3回にわけて混練して(3ステージ練り)、ゴム組成物をバンバリー型ミキサーから排出する際にゴム組成物がローターに密着する度合と、排出後のゴム組成物をシーターロールでシート物にする際にシート物がロールに密着する度合とを、それぞれ観察した。シート物を冷却して得られるストックゴムは、次の押出し工程で加工される。
押出し工程
押出しトレッドは、ストックゴムを押出し機に直接投入(コールドフィード)し、押出し機から排出されて、冷却工程を経てリールで巻き取られる。ここで冷却される前の加熱状態にある押出しトレッドは、押出し機から排出後冷却工程に到達するまでの間に多数のローラーコンベアによって移送される。押出し工程では、加熱状態にある押出しトレッドがロールに密着する度合を観察した。
【0019】
密着については、上記ゴム練り時と、押出し時とに分けて、以下の評価基準に基づいて評価した。
〔ゴム練り時〕
◎:バンバリー内のローターおよびシーターロールへの密着がなく、標準作業が可能。
【0020】
○:バンバリー内で若干の密着はあるが、時間をかけると密着は解消する。
△:密着はあるものの、ローターおよびシーターロールの回転数を変化させることにより作業は可能。
×:バンバリー内のローターへの密着が強く、手がき棒等で密着を取り除く作業が必要。また、シーターロールへの密着が強く、離型剤を使用してようやく作業可能となる。
【0021】
××:バンバリー内のローターおよびシーターロールへの密着がひどく、全くタイヤを製造することができない。
〔押出し時〕
◎:ローラーへの密着が低く、標準作業が可能。
○:ローラーへの密着が若干あるが、作業に支障はない。
【0022】
△:密着がかなり強く、押出しトレッドにローラーの型がつく。
×:密着がかなり強く、押出しトレッドにローラーの型がつき、押出しトレッドが冷却工程に進行する時にローラーで伸ばされて寸法変化が大きい。
××:ローラーへの密着が強すぎて、作業できない。
なお、比較例3では、タイヤ製造工程が悪く、タイヤを製造することができなかった。
【0023】
2.サーキット走行時のラップタイム(ウエットグリップ性の評価)
上記で得られたカートタイヤ(サイズ:Front 10*4.50−5 KT6、Rear 11*6.50−5 KT6)を装着したレース用自動車を、1周約700mのぬれたサーキットにおいて10周走行させ、1周当たりの走行時間が速い上位の3データの平均値を算出した。
【0024】
なお、比較例5では、走行時に激しく摩耗し、耐摩耗性が悪かった。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
*1 スチレン−ブタジエンゴム(旭化成、タフデン3330)、137.5重量部中、100重量部はスチレン−ブタジエンゴム、残り37.5重量部は油展オイル
*2 N220(三菱化学製)
*3 ULTRASILVN3(デグサ製)
*4 黒サブ、(天満サブ製)
*5 プロセスX−260(ジャパンエナジー製)
*6 桐(日本油脂製)
*7 酸化亜鉛 2種(三井金属製)
*8 X50−S(デグサ製)
*9 酸化亜鉛5%入り粉末イオウ(軽井沢製練所製)
*10 N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、サンセラー CM−G(三新化学製)
*11 ジフェニルグアニジン(DPG)、ソクシノールD(住友化学製)
<評価結果>
実施例1〜5では、タイヤ製造工程時にゴム練り、押出しした際に、過密着は発生せず、密着があっても少なかった。また、ぬれた路面におけるサーキット走行時のラップタイムも満足できるものである。なお、実施例4では、若干摩耗性能が劣っていた。それに対して、比較例1、2および5では、タイヤ製造工程時にゴム練り、押出しした際に、過密着は発生せず、密着があっても少ないが、サーキット走行時のラップタイムが十分でなかったり、ラップタイムがよくても、タイヤが激しく摩耗した。特に比較例5は摩耗性能が極端に悪かった。また、比較例3および4では、タイヤ製造工程時に過密着が発生した。特に比較例3では、過密着が激しいためタイヤを製造することができなかった。
【0028】
【発明の効果】
本発明のレース用タイヤトレッドゴム組成物は、ウエットグリップ性に優れたレース用タイヤの製造に用いられ、混練や押出し等のタイヤ製造工程において過密着を発生させないレース用タイヤトレッドゴム組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1のタイヤのトレッド部分の切断面を観察して、黒サブの塊状粒子の構造を示した顕微鏡写真である。
【図2】 図1の顕微鏡観察において倍率を拡大した顕微鏡写真である。
Claims (2)
- ジエン系ゴム100重量部に対し、シリカ20重量部以上を含む全量100〜250重量部の充填剤と5〜50重量部のファクチスとを配合してなるレース用タイヤトレッドゴム組成物。
- シリカが充填剤全量中の50重量%以上を占める請求項1に記載のレース用タイヤトレッドゴム組成物。
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