JP3787086B2 - 磁気記録媒体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は磁気記録媒体の製造方法に関し、詳しくは、金属薄膜型磁性層を有する磁気記録媒体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、磁気記録媒体としては、塗布により磁性層を形成するものが一般に広く用いられている。これらは一般に、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等のバインダー中に、磁性材料とその他添加剤とを分散させた磁性材料を塗布、乾燥することにより作製される。
【0003】
一方で、Co−Ni合金等の強磁性金属材料をポリエチレンテレフタレート(PET)等のフィルム状の基体上に真空薄膜成形技術(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等)により成膜した、いわゆる金属薄膜型磁気記録媒体の提案もなされている。このような金属薄膜型磁気記録媒体は、従来の塗布型磁気記録媒体に比べ磁性層の厚さを極めて薄くすることが可能であり、保磁力や角形比等に優れるために短波長での電磁変換特性に優れ、また、磁性層中に非磁性材料である有機バインダー等が存在しないために磁性材料の充填密度が高く、記録密度を向上させることができるなどの利点から、実用化されてきている。
【0004】
しかし、金属薄膜型磁気記録媒体は、磁性金属を直接基体上に成膜して形成されるために磁性層表面が極めて平滑で実質的な接触面積が大きく、また、磁性金属自体が潤滑性を有しないことから、表面の摩擦係数が大きくなって走行安定性や摩擦安定性に問題を生じやすい。そのため、金属薄膜型磁気記録媒体においては、表面の摩擦係数を低くして走行性を向上するために、磁性層の表面に、硬質炭素膜等の保護層を介して潤滑層を設けることが提案されている。
【0005】
かかる潤滑層により良好な摩擦安定性および走行安定性を得るためには、潤滑層を形成する潤滑剤の潤滑性能はもとより、潤滑層の形成状態が重要となると考えられる。これに対し、保護層に対する潤滑剤の固定の観点から種々の技術が提案されてきており、例えば、潤滑層の形成後に熱処理を行う技術として、特開平4−172619号公報には、高分子フィルム上に強磁性金属薄膜からなる磁気記録層と、その上に硬質炭素膜からなる保護膜と、さらにその上に潤滑剤層とを形成後、潤滑剤の融点以上の温度でアニール処理を行う磁気テープの製造方法が開示されている。この技術は保護層上の潤滑剤量の減少を長期にわたり防止することを目的とするものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記公報に記載の「アニール処理」は、実施例の記載より1、2または3日と長時間を要し、さらに、ボビン等に巻き取った状態で行う等工程数の増加を招くものであった。
【0007】
そこで本発明の目的は、簡便かつ短時間に走行安定性および摩擦安定性に優れた金属薄膜型磁気記録媒体を得ることのできる磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基体の一方の面上に、少なくとも金属磁性層、保護層および潤滑層を順次形成する磁気記録媒体の製造方法において、潤滑剤を溶剤に溶解して得た潤滑剤溶液を前記保護層表面に塗布し、次いで、該溶剤を除去するための乾燥炉に通過させた後、該潤滑剤の融点以上の温度の固定炉に0.5〜5秒間通過させて前記潤滑層を形成することを特徴とするものである。
【0009】
本発明においては、前記保護層として硬質炭素膜を形成することが好ましく、前記乾燥炉と固定炉とを連続的に通過させることが好ましい。また、前記固定炉の温度を50〜120℃の範囲内とすることが好ましく、前記潤滑剤として、フッ素原子を含有する化合物を用いることが好ましい。
【0010】
本発明の製造方法によれば、潤滑剤溶液の塗工後の乾燥処理に際し、潤滑剤溶液中の溶剤を除去するための乾燥炉に加えて、所定温度の固定炉を所定時間使用することにより、潤滑剤の保護層上への付着を簡便かつ短時間に良好に得ることができ、従来になく優れた摩擦安定性と走行安定性とを備えた磁気記録媒体を得ることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の具体的な実施の形態について詳細に説明する。
本発明の磁気記録媒体の製造方法においては、非磁性基体の一方の面上に、金属磁性層、保護層および潤滑層を順次形成する一連の工程において、潤滑層の塗布形成を所定の処理工程により行うことが重要である。
【0012】
具体的には、非磁性基体上に金属磁性層および保護層を形成し、この保護層表面に潤滑剤を溶剤に溶解して得た潤滑剤溶液を塗布した後、まず、溶剤を除去するための乾燥炉に通過させ、さらにその後、潤滑剤の融点以上の温度の固定炉に0.5〜5秒間通過させて、潤滑層を形成する。これにより、従来に比し極めて短時間で潤滑剤の保護層上への付着を良好に得ることができ、結果として得られる磁気記録媒体の走行安定性および摩擦安定性を良好に向上することができる。
【0013】
一般に、潤滑剤を溶剤に溶解、塗布して潤滑層を形成する際、ただ単に乾燥させるだけでは、基板上への強固な付着は得られない。即ち、単純に乾燥炉を通過させて大部分の溶剤を揮発させるのみでは、潤滑層中に微量な溶剤が残存する可能性があり、この残存溶剤が時間と共に揮発する過程において潤滑剤が移動して、凝集する現象が現れるのである。本発明においては、これを防止して潤滑剤の良好な分布状態を得るためにも、また、微量の残存溶剤を除去するか、または、溶剤が残存しない場合であっても十分に固着できない部分をなくすためにも、乾燥炉において大部分の溶剤を揮発させた後、固定のための加熱炉(固定炉)内を通過させて、潤滑剤を固定する。
【0014】
乾燥炉における溶剤の除去は、通常潤滑層形成後に行う乾燥条件にて行うことができ、特に制限はないが、例えば、温度70〜110℃にて、5〜15秒程度の時間で好適に行うことができる。
【0015】
固定炉を通過させる時間としては、上記したように、0.5〜5秒間、好ましくは3〜5秒間である。0.5秒未満では効果がなく、一方、5秒を超えると効果が飽和し、却って耐久性の悪化を招くことになる。勿論、固定炉の温度にも依存するが、概ね上記範囲内の時間で十分である。固定炉温度としては、潤滑剤の融点(M.P.)以上、好ましくは50〜120℃の範囲内とすることが必要であるが、後述する非磁性基体の材料としてのポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリアミド材等が変形する以上の温度は好ましくない。従って、走行速度や固定炉の空間体積に鑑みて、適宜決定すればよい。また、固定炉の温度は、乾燥炉の温度よりも高いことがより好ましい。
【0016】
本発明における乾燥炉および固定炉を通過させる上記二工程は、非磁性基体を搬送しながら行うが、設備上は連続的に行うことができれば最もよい。別ラインとして設けた固定炉を通過させても得られる効果には変わりはないが、費用的にも大きいし、ロスも出てしまう。勿論、自由度は広がるので、最適点を選択すればよい。
【0017】
本発明においては、潤滑層の形成時において上記の乾燥条件を満たしていればよく、潤滑層を形成するための潤滑剤および溶剤としては特に制限されず、従来用いられているものを適宜用いることができる。特に、好適な潤滑剤量の好適範囲を確保するためには、潤滑剤の自己集合性を分散させるために、潤滑層の塗布に用いる溶剤を、以下の3群(1)〜(3)より夫々少なくとも1種類ずつ選択される少なくとも3種の溶剤を混合してなる混合溶剤とすることが好ましい。
(1)沸点40〜130℃のケトン系溶剤:アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等
(2)炭素数4〜9の脂肪族炭化水素系溶剤:ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナンおよびこれらのISO体
(3)炭素数6以下、好ましくは4以下のアルコール系:メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールおよびこれらのISO体
【0018】
上記3群から選択される溶剤は夫々1種または複数種であってよく、各群の溶剤の混合比率は、好適には、(1)ケトン系溶剤5〜20重量%、(2)炭化水素系溶剤10〜40重量%、および、(3)アルコール系溶剤40〜80重量%である。混合比率がこの範囲から外れると、潤滑剤の自己集合性を回避して所望の範囲のカバー率を得ることが困難となる。特に、(1)ケトン系溶剤が多いと、強烈に海島状になって、走行不安定となる。また、(2)炭化水素系溶剤、(3)アルコール系溶剤が多いと、溶解性に難が生じ、不溶状態になって塗布不能となる。また、ミセル状になり、ミクロ的に海島状になる。(1)ケトン系溶剤の主な効果は潤滑剤の溶解であり、(2)炭化水素系溶剤については溶液の安定化の役目を果たしており、また、(3)アルコール系溶剤については、塗布性を確保する役割を担う。
【0019】
また、潤滑剤としては、フッ素原子を含有する化合物の潤滑剤を好適に用いることができ、これを上記3群より選択された溶剤の混合溶剤にて溶解し、潤滑層を塗布することができる。かかるフッ素原子を含有する化合物の潤滑剤は、基本構造として、R1−A−R2で表されるものである。ここで、R1、A、R2は夫々、
R1:CF3(CF2)n−、CF3(CF2)n(CH2)m−,CH3(CH2)p−、H
A:−COO−、−O−、−COOCH(CpH2p+1)CH2COO−
R2:CF3(CF2)n−、CF3(CF2)n(CH2)m−,CH3(CH2)p−、H
である。但し、R1とR2とは異なり、n=7〜17、m=1〜3、p=7〜30を満足するものが好ましい。また、R1、R2が直鎖のものであれば、潤滑効果が大きい。nが7より小さいと撥水効果が低い一方、nが17より大きいと潤滑剤と非磁性支持体あるいはバックコート層とのブロッキング現象が起こり、摩擦が低くならない。pについてもnと同様である。さらに、このような潤滑剤を2種以上混合して用いてもよい。
【0020】
非磁性基体は、蒸着工程に耐えられるものであればいかなるものであってもよく、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルフォン等のフィルムが挙げられる。その厚さは、磁気記録媒体が使用される用途により適宜選択されるが、例えば、磁気記録媒体がビデオテープとして使用される場合には、録画時間やシステム要求値に合わせて選択され、通常は5〜40μmである。
【0021】
金属磁性層の磁性材料としては、Co、Fe等の純金属、または、Co−Ni、Co−Fe、Co−Ni−Fe、Co−Cr、Co−Cu、Co−Ni−Cr、Co−Pt、Co−Pt−Cr、Co−Cr−Ta、Co−Ni−B、Co−Ni−Fe、Co−Fe−B、Co−Ni−Fe−B等の合金類を使用することができ、特には、CoまたはCo合金を用いることが、電磁変換特性の観点から好適である。通常は、非磁性基体上にこのような磁性材料を直接、または、非磁性基体上にNiを蒸着した後、蒸着して磁性層を形成する。磁性層の蒸着は、蒸着用チャンバー内を10-6Torr程度にまで排気した後、磁性材料を電子銃にて溶解し、磁性材料全体が溶解した時点で非磁性基体を冷却したメインローラに沿って走行させてメインローラ部にて蒸着を始める。この際、磁気特性を制御するために、酸素、オゾン、亜酸化窒素から選ばれる酸化性ガスを磁性層に導入する。
【0022】
保護層は、金属磁性層の腐食防止等の目的で設けるものであり、硬質炭素膜、SiO膜、SiOx膜等を用いることができるが、好適には硬質炭素膜を用いる。硬質炭素膜は、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法等により、また、SiO膜は真空蒸着法により、SiOx膜はプラズマCVD法により、夫々成膜することができる。硬質炭素膜については、特にはプラズマCVD法により成膜することが好ましく、耐摩耗性に優れた膜を得ることができる。
【0023】
非磁性基体の上記金属磁性層、保護層および潤滑層を形成した面の反対側の面上には、バックコート層を設けることができる。バックコート層は、結合材樹脂と無機化合物および/またはカーボンブラックとを有機溶媒に混合分散させたバックコート用塗料を、磁性層とは反対側の基体表面上に塗布することにより形成され、塗料組成としては、この種の磁気記録媒体に用いられるものであればいずれのものも使用できる。例えば、結合材樹脂としては塩化ビニル系共重合体、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂等であり、これらを単独または混合して、媒体の特性、工程条件により適宜選択して用いることができる。カーボンブラックとしてはファーネスカーボンブラック、サーマルカーボンブラック等を挙げることができ、無機化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、アルミナ、α−酸化鉄等を挙げることができる。これら粒子は媒体に要求される電気抵抗、摩擦特性等から粒子サイズを適宜選択すればよい。有機溶剤は、例えば、ケトン系、芳香族炭化水素系等であり、使用する結合材樹脂の溶解性を考慮して適宜選択すればよい。
【0024】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
実施例1〜3および比較例1〜4
厚み6μmのPENの非磁性基体上に、蒸着法により、酸素を導入しながら100%Coを2層成膜し、磁性層を形成した。厚みは1000/1000Åであり、φm=75mA(7.5memu/cm2)、Hc=119.4kA/m(1500Oe)であった。この上に、プラズマCVD法により硬質炭素膜(DLC膜)を成膜した。さらに、非磁性基体の他方の面上に塗布法により下記に示す組成のバックコート層(BC層)を乾燥後の厚みが0.4μmとなるように成膜して、これを基体サンプルとした。この基体サンプル上に、潤滑剤として、下記式、
により表されるフッ素原子を含有する化合物を0.2%となるように調整し、(1)メチルエチルケトン(MEK)/(2)ヘキサン/(3)エタノールを10/20/70(重量%)にて混合してなる混合溶剤にて塗布した。乾燥に際しては乾燥炉と固定炉とを併用し、温度70℃の乾燥炉にて通過時間10秒で溶剤を除去した後、温度80℃の固定炉を下記の表1に示す通過時間で通過させた。
【0025】
バックコート層塗布液の組成
カーボンブラック(粒径80nm) 10重量部
カーボンブラック(粒径20nm) 40重量部
炭酸カルシウム (粒径70nm) 50重量部
Nc(ニトロセルロース) 40重量部
(旭化成工業(株)製(BTH1/2S))
ポリウレタン樹脂(東洋紡績(株)製:UR−6300) 60重量部
メチルエチルケトン 800重量部
トルエン 640重量部
シクロヘキサノン 160重量部
ポリイソシアネート(固形分50%) 40重量部
(日本ポリウレタン工業(株)製:コロネートL)
【0026】
摩擦係数測定
各サンプルを、2mmφ・0.2SのSUS303ピンに、抱きつけ角90度で設置し、片側に0.1Nの荷重を与えて、その反対側をテンションメーターに固定した。サンプルを所定のスピードにて動かして、メーターの荷重を読み取ることにより、摩擦係数を測定した。下記表1中、静摩擦とは動き出す瞬間の値である。係数は、μ=1/πLn(T2/T1){π;抱きつけ角(red)、T1;荷重、T2;測定値}から算出した。
【0027】
耐久性評価
各サンプルの耐久性を、上記摩擦係数測定と同じ条件にて繰り返し摩擦係数測定を行うことにより、以下の基準に従って評価した。繰り返し回数は往復1000回とした。
○:上昇傾向がほとんどなく、問題なし。
△:上昇傾向がある。
×:上昇傾向があり、実用上難あり。または、貼り付き現象が発生し、測定が停止した。
【0028】
面観察評価
潤滑剤の分布状態を評価するために、各サンプルにつき面観察を行った。面観察には、100倍の光学顕微鏡を用いた。その評価基準は以下の通りである。
○:問題なし。
×:潤滑剤の析出が目視にて観察される。
これらの結果を下記の表1中に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、簡便かつ短時間に走行安定性および摩擦安定性に優れた金属薄膜型磁気記録媒体を得ることのできる磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
Claims (5)
- 非磁性基体の一方の面上に、少なくとも金属磁性層、保護層および潤滑層を順次形成する磁気記録媒体の製造方法において、潤滑剤を溶剤に溶解して得た潤滑剤溶液を前記保護層表面に塗布し、次いで、該溶剤を除去するための乾燥炉に通過させた後、該潤滑剤の融点以上の温度の固定炉に0.5〜5秒間通過させて前記潤滑層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
- 前記保護層として硬質炭素膜を形成する請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法。
- 前記乾燥炉と固定炉とを連続的に通過させる請求項1または2記載の磁気記録媒体の製造方法。
- 前記固定炉の温度を50〜120℃の範囲内とする請求項1〜3のうちいずれか一項記載の磁気記録媒体の製造方法。
- 前記潤滑剤として、フッ素原子を含有する化合物を用いる請求項1〜4のうちいずれか一項記載の磁気記録媒体の製造方法。
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