JP3784636B2 - シート材の張力制御装置および印刷機 - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷機等に設けられた搬送機構により搬送されるシート材の張力を制御するシート材の張力制御装置に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
従来、例えば図５に示すように、シート材１がロール状に巻回された巻出ロール２と、この巻出ロール２からシート材１を所定の張力で引き出す引出部３と、この引出部３により供給されたシート材１に複数色のインクを順次塗布して印刷する印刷版胴４を有する複数の印刷ユニット５ａ〜５ｎと、最終段の印刷ユニット５ｎから導出された印刷後のシート材１を所定の張力で巻き取る巻取部６とを備えた印刷機において、図４に示すように、シート材１を搬送するインフィードローラ７と、タイミングベルト機構等の動力伝達機構８を介して上記インフィードローラ７を回転駆動する駆動モータ９と、上記インフィードローラ７から導出されたシート材１の弛みを吸収するとともに、シート材１の伸びを抑制するダンサー機構１０とを上記引出部３に設けることが行われている。
【０００３】
上記ダンサー機構１０は、インフィードローラ７とガイドローラ１１との間に配設されたダンサーローラ１２と、基端部に設けられた支持軸１３を支点にしてダンサーローラ１２を揺動自在に支持する支持アーム１４と、この支持アーム１４を押動する駆動シリンダ１５とを備え、この駆動シリンダ１５の駆動力に応じて支持アーム１４を付勢することにより、上記ダンサーローラ１２を所定の押圧力でシート材１に圧接させるように構成されている。
【０００４】
そして、上記シート材１の紙継時等に、その搬送張力が大きく変動すると、上記駆動シリンダ１５の付勢力に応じて支持アーム１４およびダンサーローラ１２が揺動変位することにより、上記シート材１の弛みや伸びが吸収されるようになっている。また、ポテンショメータ等からなるローラ位置検出手段１６により上記ダンサーローラ１２の揺動変位が検出されると、これに対応した制御信号を上記駆動モータ９に出力して上記インフィードローラ７の回転速度を調整することにより、ダンサーローラ１２を中立位置等の基準位置に復帰させる制御が実行され、これによってダンサーローラ１２の下流側におけるシート材１の張力を略一定に調節することが行われている。
【０００５】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようにダンサーローラ１２の揺動変位を検出してインフィードローラ７の回転速度を調整することにより、ダンサーローラ１２を基準位置に保持するように構成した場合には、外乱等に応じたシート材１の張力変動をある程度抑制することができるが、上記ダンサーローラ１２の揺動変位が生じない範囲の張力変動、具体的にはシート材１をガイドする各ガイドローラの回転抵抗の変動、またはシート材１を搬送駆動する駆動ローラの僅かな速度変化等に起因した微少な張力変動を抑制することができないという問題がある。
【０００６】
すなわち、上記駆動シリンダ１５には所定の作動抵抗があり、この駆動シリンダ１５により付勢されたダンサーローラ１２の押圧力と、これに対応して作用するシート材１の反力との偏差が一定値以上にならないと、上記ダンサーローラ１２が揺動変位しないため、上記シート材１の搬送張力に微少な変動が生じているにも拘わらず、この張力変動を抑制することができなかった。例えば、シート材１の搬送張力が１００Ｎに設定されている場合には、この搬送張力の基準値に対して３．５Ｎ〜５．０Ｎ程度以上の偏差が生じないと、上記ダンサーローラ１２が揺動変位しないので、３．５Ｎ未満の張力変動を抑制することができなかった。
【０００７】
したがって、上記シート材１の微少な張力変動に応じてシート材１に伸び縮みが発生することに起因した印刷位置のずれ、いわゆる見当ずれの発生を防止することができないという問題があった。特に、最近は、環境保護等の観点から包装用シート材等の厚みを小さくする傾向があり、シート材１の微少な張力変動に応じてシート材１が大きく伸び縮みすることにより、上記見当ずれに起因した印刷不良が発生し易いため、シート材１の微少な張力変動を効果的に抑制することが望まれている。
【０００８】
なお、上記シート材１の微少な張力変動を検出する張力検出手段を設け、その検出値に基づき、上記張力変動を抑制するようにインフィードローラ７の回転速度を制御することにより、上記微少な張力変動を抑制することも考えられるが、このように構成した場合には、シート材１の紙継時等に大きな張力変動が発生すると、これに追随した制御を実行することが困難であり、シート材１の張力が極端に低下してシート材１に弛みが生じたり、シート材１に過大な張力が作用して大きく引き伸ばされたりするのを防止することができないという問題がある。
【０００９】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、シート材の微少な張力変動および大きな張力変動の双方を効果的に抑制することができるシート材の張力制御装置および印刷機を提供することを目的としている。
【００１０】
【課題を解決するための手段】
請求項１に係る発明は、駆動モータにより回転駆動されてシート材を搬送するインフィードローラと、シート材の搬送路に設置されたダンサーローラを付勢してシート材の弛みを吸収するとともにシート材の伸びを抑制するダンサー機構と、上記ダンサーローラの位置変位を検出するローラ位置検出手段と、上記シート材の搬送張力を検出する張力検出手段と、上記ローラ位置検出手段の検出信号に応じてダンサーローラに位置変位が生じたか否かを判別する判別部と、ダンサーローラの位置変位が生じたことが確認された場合に、ダンサーローラを基準位置に復帰させるようにインフィードローラの回転速度を制御するとともに、上記張力検出手段の検出信号に応じてシート材の張力変動が発生したことが確認された場合に、この張力変動を抑制するようにインフィードローラの回転速度を制御する回転速度制御手段とを備え、上記ダンサーローラが基準位置に保持された不感帯領域で、上記張力検出手段の検出信号に応じたインフィードローラの回転速度制御を実行するとともに、上記判別部においてダンサーローラの位置変位が生じたと判別された場合に、上記張力検出手段の検出信号に応じた回転速度の制御を禁止するように構成したものである。
【００１１】
上記構成によれば、シート材の紙継時等に、その搬送張力が大きく変動した場合には、ダンサーローラが基準位置から変位することにより、上記張力変動に起因してシート材の伸びや縮みが発生することが防止されるとともに、上記ダンサーローラの変位量に応じてダンサーローラを基準位置に復帰させる制御が、上記回転速度制御手段において実行されることにより、上記ダンサーローラの下流側におけるシート材の搬送張力が略一定になるように調節されることになる。また、ダンサーローラが基準位置に保持された上記制御の不感帯領域で、上記張力検出手段の検出信号に応じてシート材の微少な張力変動が生じたことが確認された場合には、上記張力変動を抑制するように上記インフィードローラの回転速度が制御されることにより上記微少な張力変動が効果的に抑制されることになる。
【００１２】
請求項２に係る発明は、上記請求項１記載のシート材の張力制御装置において、上記回転速度制御手段は、ローラ位置検出手段の検出信号に応じてダンサーローラが基準位置の近傍で一定時間以上に亘り停止した状態にあることが確認された時点における上記張力検出手段の検出値を搬送張力の基準値として記憶する基準値記憶部と、この基準値記憶部に記憶された搬送張力の基準値と上記張力検出手段により検出されたシート材の搬送張力との偏差に対応したインフィードローラの回転速度の制御値を設定する制御値設定部とを備えたものである。
【００１３】
上記構成によれば、駆動シリンダにより付勢されたダンサーローラの押圧力と、これに対応したシート材の反力とがバランスして上記ダンサーローラに位置変位が生じていないことが確認された場合には、この時点における上記張力検出手段の検出値が搬送張力の基準値として記憶される。その後、上記搬送張力の基準値と、張力検出手段の検出値との偏差に基づいてインフィードローラの回転速度の制御値が制御値設定部において設定されるとともに、この制御値に基づいて上記インフィードローラの回転速度が調節されることによりシート材の張力変動が効果的に抑制されることになる。
【００１４】
請求項３に係る発明は、上記請求項１または２記載のシート材の張力制御装置において、インフィードローラに直結されたＡＣサーボモータからなる駆動モータを備えたものである。
【００１５】
上記構成によれば、ＡＣサーボモータによって直接駆動されるインフィードローラの回転速度が、上記回転速度制御手段から出力された制御信号に応じて迅速かつ正確に制御されるため、上記シート材の張力変動が効果的に抑制されることになる。
【００１６】
請求項４に係る発明は、請求項３記載のシート材の張力制御装置を備えた引出部と、この引出部から供給されたシート材にインクを塗布する印刷版胴とを有する印刷機において、上記印刷版胴に直結されたＡＣサーボモータからなる版胴駆動モータを備えたものである。
【００１７】
上記構成によれば、ＡＣサーボモータからなる版胴駆動モータが各印刷部にそれぞれ配設され、各印刷版胴がそれぞれ個別に駆動されるため、図５に示すように、各印刷ユニット５ａ〜５ｎに配設された印刷版胴４を一括して駆動するメインモータ２７と、その駆動力を各印刷版胴に伝達する動力伝達機構２８とを備えた一般的な印刷機のように、上記動力伝達機構２８等の作動抵抗に起因したシート材の張力変動が生じることがなく、この張力変動に起因した見当ずれの発生が効果的に防止されることになる。
【００１８】
【発明の実施の形態】
図１は、本発明に係るシート材の張力制御装置の実施形態を示している。この張力制御装置は、シート材１を搬送するインフィードローラ７と、このインフィードローラ７に直結されたＡＣサーボモータからなる駆動モータ１７と、シート材１の搬送路に設置されたダンサーローラ１２を付勢してシート材１の弛みを吸収するとともにシート材１の伸びを抑制するダンサー機構１０と、このダンサー機構１０の設置部よりもシート材１の搬送方向の下流側において、図３に示すように、最上流側に位置する印刷ユニット５ａの上流側に配設された張力検出手段１８と、シート材１の張力変動を抑制するようにインフィードローラ７の回転速度を制御する回転速度制御手段１９とを備えている。
【００１９】
上記ダンサー機構１０は、ガイドローラ１１、ダンサーローラ１２、支持アーム１４、駆動シリンダ１５およびローラ位置検出手段１６等を有し、この駆動シリンダ１５の駆動力に応じて支持アーム１４を付勢することにより、上記ダンサーローラ１２を所定の押圧力でシート材１に圧接させるとともに、シート材１の紙継時等に大きな張力変動が発生すると、上記駆動シリンダ１５の付勢力に応じて支持アーム１４およびダンサーローラ１２が揺動変位することにより、上記シート材１の弛みや伸びを吸収するように構成されている。
【００２０】
上記張力検出手段１８は、シート材１の搬送路に配設されたピックアップローラ２０と、このピックアップローラ２０の回転支持部に設けられた歪みゲージ方式またはインダクタンス方式の張力検出器２１とからなり、シート材１の搬送時に上記ピックアップローラ２０に作用する反力に対応したシート材１の搬送張力を上記張力検出器２１により検出し、この検出信号を上記回転速度制御手段１９に出力するように構成されている。
【００２１】
上記回転速度制御手段１９には、図２に示すように、上記ローラ位置検出手段１６の検出信号に応じてダンサーローラ１２に位置変位が生じたか否かを判別する判別部２２と、この判別部２２において上記位置変位が生じていないことが確認された場合に、その時点における上記張力検出手段１８の検出値を基準張力として記憶するとともに、予め中立位置等に設定されたダンサーローラ１２の基準位置を記憶する基準値記憶部２３と、上記インフィードローラ７の回転速度をフィードバック制御するための制御値を設定する制御値設定部２４とが設けられている。
【００２２】
上記判別部２２は、駆動シリンダ１５により付勢されてシート材１に圧接されたダンサーローラ１２の押圧力と、これに対応したシート材１の反力とがバランスすることにより、上記ダンサーローラ１２が中立位置の近傍で一定時間以上に亘り停止した状態にあることが上記ローラ位置検出手段１６の検出信号に応じて確認された場合に、ダンサーローラ１２に位置変位が生じてないと判別し、それ以外の場合にダンサーローラ１２に位置変位が生じたと判別するように構成されている。
【００２３】
上記基準値記憶部２３は、印刷機の始動後に、判別部２２においてダンサーローラ１２が中立位置の近傍で一定時間以上に亘り停止した状態にあると判別された時点で、上記張力検出手段１８により検出されたシート材１の搬送張力を基準値として記憶するように構成されている。また、上記判別部２２においてダンサーローラ１２に位置変位が生じたと判別された場合には、その後にダンサーローラ１２が中立位置の近傍で一定時間以上に亘り停止した状態となった時点で、上記基準値記憶部２３に記憶された搬送張力の基準値が、上記張力検出手段１８の検出信号に応じて更新されるようになっている。
【００２４】
上記制御値設定部２４は、判別部２２においてダンサーローラ１２に位置変位が生じたと判別された場合に、上記基準値記憶部２３に記憶されたダンサーローラ１２の基準位置と、上記ローラ位置検出手段１６により検出されたダンサーローラ１２の現在位置との偏差を求めるとともに、この偏差に対応したインフィードローラ７の回転速度の制御値を設定し、この制御値に対応した制御信号を、上記インフィードローラ７を回転駆動する上記駆動モータ１７に出力するように構成されている。
【００２５】
上記回転速度制御値は、ダンサーローラ１２の位置変位を修正してダンサーローラ１２を基準位置に復帰させるようにインフィードローラ７の回転速度をフィードバック制御するための値であり、予め設定されたマップからダンサーローラ１２の位置変位量に対応した制御値が読み出され、あるいは各種の制御条件に基づいて上記制御値が演算されるようになっている。
【００２６】
例えば、何らかの原因でシート材１の搬送張力が基準値よりも小さくなると、上記駆動シリンダ１５により付勢されたダンサーローラ１２の押圧力がシート材１の反力よりも大きくなって、シート材１の弛みを吸収する方向（図１の矢印Ａ方向）にダンサーローラ１２が揺動変位するため、インフィードローラ７の回転速度を上昇させる方向に上記制御値を設定することにより、シート材１の搬送張力を増大してダンサーローラ１２が中立位置近傍の基準位置に復帰させることができる。
【００２７】
逆に、シート材１の搬送張力が基準値よりも大きくなると、上記駆動シリンダ１５により付勢されたダンサーローラ１２の押圧力がシート材１の反力よりも小さくなって、シート材１の伸びを抑制する方向（図１の矢印Ｂ方向）にダンサーローラ１２が揺動変位するため、インフィードローラ７の回転速度を低下させる方向に上記制御値を設定することにより、シート材１の搬送張力を減少させてダンサーローラ１２を中立位置近傍の基準位置に復帰させることができる。
【００２８】
また、上記制御値設定部２４は、上記基準値記憶部２３に記憶された搬送張力の基準値と、上記張力検出手段１８により検出されたシート材１の搬送張力の現在値との偏差を求めるとともに、この偏差に対応したインフィードローラ７の回転速度の制御値を設定することにより、少なくとも上記ダンサーローラ１２が基準位置に保持された不感帯領域で、インフィードローラ７の回転速度制御を実行するとともに、判別部２２においてダンサーローラ１２に位置変位が生じたと判別された場合に、上記張力検出手段１８の検出信号に応じたインフィードローラ７の回転速度制御を禁止するように構成されている。
【００２９】
すなわち、上記ダンサーローラ１２の位置変位が生じることのない微少な張力変動が発生し、シート材１の搬送張力が基準値から変動したことが上記制御値設定部２４において確認された場合には、上記搬送張力の変動を抑制する方向にインフィードローラ７の回転速度を制御して上記張力変動を抑制するための制御値が設定されるようになっている。
【００３０】
上記のように構成されたシート材１の張力制御装置を有する印刷機が作動状態となると、シート材１の搬送速度が安定して上記ダンサーローラ１２が中立位置近傍に停止した状態となったことが上記判別部２２において確認された時点で、上記張力検出手段１８の検出信号に応じてシート材１の搬送張力の基準値が基準値記憶部２３において記憶される。
【００３１】
その後、上記ローラ位置検出手段１６の検出信号に応じ、ダンサーローラ１２が上記基準位置から変位したことが上記判別部２２において確認された場合には、ダンサーローラ１２を基準位置に復帰させる方向に上記インフィードローラ７の回転速度を制御して、上記ダンサーローラ１２を予め設定された基準位置に復帰させることにより、その下流側におけるシート材１の搬送張力を略一定に調節する制御が上記回転速度制御手段１９において実行される。
【００３２】
また、上記ダンサーローラ１２が基準位置に保持された不感帯領域、つまりダンサーローラ１２の位置変位に対応した回転速度制御が実行されることのない領域で、シート材１の微少な張力変動が生じた場合には、上記張力検出手段１８の検出信号と、上記搬送張力の基準値とに基づいて搬送張力の変動量が制御値設定部２４において算出されるとともに、この搬送張力の変動を修正するように上記インフィードローラ７の回転速度を制御して、上記微少な張力変動の影響が張力検出手段１８の下流側に及ぶのを防止する制御が上記回転速度制御手段１９において実行されることになる。
【００３３】
このように駆動モータ１７により回転駆動されてシート材１を搬送するインフィードローラ７と、シート材１の搬送路に設置されたダンサーローラ１２を付勢してシート材１の弛みを吸収するとともにシート材１の伸びを抑制するダンサー機構１０と、上記ダンサーローラ１２の位置変位を検出するローラ位置検出手段１６と、このローラ位置検出手段１６の検出信号に応じてダンサーローラ１２が基準位置から変位したことが確認された場合に、ダンサーローラ１２を基準位置に復帰させるようにインフィードローラ７の回転速度を制御する回転速度制御手段１９とを設けたため、シート材１の紙継時等に、その搬送張力が大きく変動した場合に、ダンサーローラ１２を揺動変位させることにより、上記張力変動に起因してシート材１に伸びや縮みが発生するのを防止することができる。また、上記ローラ位置検出手段１６により検出されたダンサーローラ１２の変位量に応じて上記インフィードローラ７の回転速度を制御することにより、ダンサーローラ１２を基準位置に復帰させて、その下流側におけるシート材１の搬送張力を略一定に調節することができる。
【００３４】
そして、上記シート材１の搬送張力を検出する張力検出手段１８を設けるとともに、少なくともダンサーローラ１２が基準位置に保持された上記不感帯領域で、シート材１の搬送張力が基準値から変動する微少な張力変動が発生したことが上記張力検出手段１８の検出信号に応じて確認された場合に、回転速度制御手段１９によりインフィードローラ７の回転速度を制御して上記搬送張力の微少な変動を修正するように構成したため、上記微少な張力変動を効果的に抑制して、その影響が印刷ユニット５ａ〜５ｎ等に及ぶのを防止することができる。
【００３５】
したがって、伸縮率の大きな素材によって上記シート材１を形成し、またはシート材１の厚みを薄くした場合においても、上記張力変動に起因した印刷位置の見当ずれを効果的に防止して印刷不良の発生を抑制することができる。本発明者の行った実験によれば、厚みが２０μｍ程度のポリプロピレンフィルムまたは無延伸ポリプロピレン軟質塩ビフィルム等からなるシート材１を、５０Ｎ〜１００Ｎの張力で搬送した場合に、張力変動を０．５Ｎ未満に抑えることができ、見当ずれ量を０．０５ｍｍ未満に抑えることができた。これに対して上記張力検出手段１８の検出信号に基づく速度制御を実行しない場合には、見当ずれ量を０．１ｍｍ以下に抑えることができず、上記張力検出手段１８の検出信号に基づく速度制御を実行することにより、見当ずれを顕著に抑制できることが確認された。
【００３６】
また、上記実施形態に示すように、ローラ位置検出手段１６の検出信号に応じてダンサーローラ１２に位置変位が生じていないことが確認された時点における上記張力検出手段１８の検出値を搬送張力の基準値として記憶する基準値記憶部２３と、この基準値記憶部２３に記憶された搬送張力の基準値と上記張力検出手段１８により検出されたシート材１の搬送張力との偏差に対応したインフィードローラ８の回転速度の制御値を設定する制御値設定部１９とを上記回転速度制御手段１９に設けた場合には、駆動シリンダ１５により付勢されたダンサーローラ１２の押圧力と、これに対応したシート材１の反力とがバランスした時点における上記張力検出手段１８の検出値を、搬送張力の基準値として記憶させることができる。
【００３７】
したがって、シート材１の素材、環境条件等が変化した場合においても、常に搬送張力の基準値を適正値に設定することができ、この基準値と、上記張力検出手段１８の検出値との偏差に基づく、上記インフィードローラ７の回転速度制御を常に適正に実行することにより、シート材１の張力変動を効果的に抑制できるという利点がある。
【００３８】
特に、上記実施形態に示すように、インフィードローラ７に直結されたＡＣサーボモータからなる駆動モータ１７により、インフィードローラ７を直接駆動するように構成した場合には、図４に示すように、タイミングベルト機構等の動力伝達機構８を介して上記インフィードローラ７を回転駆動する従来技術に比べ、動力の伝達ロスを少なくすることができるため、上記回転速度制御手段１９から出力された制御信号に応じて上記インフィードローラ７の回転速度を迅速かつ正確に制御して、上記シート材１の張力変動を効果的に抑制することができる。
【００３９】
また、図３に示すように、各印刷ユニット５ａ〜５ｎに配設された印刷版胴４に直結されたＡＣサーボモータからなる版胴駆動モータ２５により、上記印刷版胴４を直接駆動するように構成した場合には、図５に示すように、各印刷ユニット５ａ〜５ｎに配設された印刷版胴４を一括して駆動するメインモータ２７と、その駆動力を各印刷版胴に伝達する動力伝達機構２８とを備えた一般的な印刷機のように、上記動力伝達機構２８の作動抵抗等に起因したシート材１の張力変動を生じることがないので、この張力変動に起因した見当ずれの発生を効果的に防止できるという利点がある。
【００４０】
また、上記実施形態に示すように、張力検出手段１８をダンサー機構１０の下流側に配設することにより、印刷ユニット５ａの近傍に上記張力検出手段１８を設置した場合には、上記印刷ユニット５ａへの導入部におけるシート材１の搬送張力を適正値に制御することにより、このシート材１に塗布されるインクの塗布位置を適正に調節できるという利点がある。
【００４１】
なお、上記実施形態では、複数の印刷ユニット５ａ〜５ｎを備えた印刷機に本発明に係るシート材の張力制御装置を適用した例について説明したが、これに限られず、シート材のラミネート機またはシート材にコーティング材を塗布する塗布機等についても本発明を適用可能である。
【００４３】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、駆動モータにより回転駆動されてシート材を搬送するインフィードローラと、シート材の搬送路に設置されたダンサーローラを付勢してシート材の弛みを吸収するとともにシート材の伸びを抑制するダンサー機構と、上記ダンサーローラの位置変位を検出するローラ位置検出手段と、上記シート材の搬送張力を検出する張力検出手段と、上記ローラ位置検出手段の検出信号に応じてダンサーローラに位置変位が生じたか否かを判別する判別部と、ダンサーローラの位置変位が生じたことが確認された場合に、ダンサーローラを基準位置に復帰させるようにインフィードローラの回転速度を制御するとともに、上記張力検出手段の検出信号に応じてシート材の張力変動が発生したことが確認された場合に、この張力変動を抑制するようにインフィードローラの回転速度を制御する回転速度制御手段とを備え、上記ダンサーローラが基準位置に保持された不感帯領域で、上記張力検出手段の検出信号に応じたインフィードローラの回転速度制御を実行するとともに、上記判別部においてダンサーローラの位置変位が生じたと判別された場合に、上記張力検出手段の検出信号に応じた回転速度の制御を禁止するように構成したため、シート材の微少な張力変動および大きな張力変動の双方を効果的に抑制して、印刷見当のずれが発生するのを効果的に防止できる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明に係るシート材の張力制御装置の実施形態を示す説明図である。
【図２】回転速度制御手段の具体的構成を示すブロック図である。
【図３】印刷機の全体構成を示す説明図である。
【図４】シート材の張力制御装置の従来例を示す説明図である。
【図５】印刷機の従来例を示す説明図である。
【符号の説明】
１ シート材
３ 引出部
７ インフィードローラ
１０ ダンサー機構
１２ ダンサーローラ
１６ ローラ位置検出手段
１７ 駆動モータ
１８ 張力検出手段
１９ 回転速度制御手段
２３ 基準値記憶部
２４ 制御値設定部
２５ 版胴駆動モータ
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷機等に設けられた搬送機構により搬送されるシート材の張力を制御するシート材の張力制御装置に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
従来、例えば図５に示すように、シート材１がロール状に巻回された巻出ロール２と、この巻出ロール２からシート材１を所定の張力で引き出す引出部３と、この引出部３により供給されたシート材１に複数色のインクを順次塗布して印刷する印刷版胴４を有する複数の印刷ユニット５ａ〜５ｎと、最終段の印刷ユニット５ｎから導出された印刷後のシート材１を所定の張力で巻き取る巻取部６とを備えた印刷機において、図４に示すように、シート材１を搬送するインフィードローラ７と、タイミングベルト機構等の動力伝達機構８を介して上記インフィードローラ７を回転駆動する駆動モータ９と、上記インフィードローラ７から導出されたシート材１の弛みを吸収するとともに、シート材１の伸びを抑制するダンサー機構１０とを上記引出部３に設けることが行われている。
【０００３】
上記ダンサー機構１０は、インフィードローラ７とガイドローラ１１との間に配設されたダンサーローラ１２と、基端部に設けられた支持軸１３を支点にしてダンサーローラ１２を揺動自在に支持する支持アーム１４と、この支持アーム１４を押動する駆動シリンダ１５とを備え、この駆動シリンダ１５の駆動力に応じて支持アーム１４を付勢することにより、上記ダンサーローラ１２を所定の押圧力でシート材１に圧接させるように構成されている。
【０００４】
そして、上記シート材１の紙継時等に、その搬送張力が大きく変動すると、上記駆動シリンダ１５の付勢力に応じて支持アーム１４およびダンサーローラ１２が揺動変位することにより、上記シート材１の弛みや伸びが吸収されるようになっている。また、ポテンショメータ等からなるローラ位置検出手段１６により上記ダンサーローラ１２の揺動変位が検出されると、これに対応した制御信号を上記駆動モータ９に出力して上記インフィードローラ７の回転速度を調整することにより、ダンサーローラ１２を中立位置等の基準位置に復帰させる制御が実行され、これによってダンサーローラ１２の下流側におけるシート材１の張力を略一定に調節することが行われている。
【０００５】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようにダンサーローラ１２の揺動変位を検出してインフィードローラ７の回転速度を調整することにより、ダンサーローラ１２を基準位置に保持するように構成した場合には、外乱等に応じたシート材１の張力変動をある程度抑制することができるが、上記ダンサーローラ１２の揺動変位が生じない範囲の張力変動、具体的にはシート材１をガイドする各ガイドローラの回転抵抗の変動、またはシート材１を搬送駆動する駆動ローラの僅かな速度変化等に起因した微少な張力変動を抑制することができないという問題がある。
【０００６】
すなわち、上記駆動シリンダ１５には所定の作動抵抗があり、この駆動シリンダ１５により付勢されたダンサーローラ１２の押圧力と、これに対応して作用するシート材１の反力との偏差が一定値以上にならないと、上記ダンサーローラ１２が揺動変位しないため、上記シート材１の搬送張力に微少な変動が生じているにも拘わらず、この張力変動を抑制することができなかった。例えば、シート材１の搬送張力が１００Ｎに設定されている場合には、この搬送張力の基準値に対して３．５Ｎ〜５．０Ｎ程度以上の偏差が生じないと、上記ダンサーローラ１２が揺動変位しないので、３．５Ｎ未満の張力変動を抑制することができなかった。
【０００７】
したがって、上記シート材１の微少な張力変動に応じてシート材１に伸び縮みが発生することに起因した印刷位置のずれ、いわゆる見当ずれの発生を防止することができないという問題があった。特に、最近は、環境保護等の観点から包装用シート材等の厚みを小さくする傾向があり、シート材１の微少な張力変動に応じてシート材１が大きく伸び縮みすることにより、上記見当ずれに起因した印刷不良が発生し易いため、シート材１の微少な張力変動を効果的に抑制することが望まれている。
【０００８】
なお、上記シート材１の微少な張力変動を検出する張力検出手段を設け、その検出値に基づき、上記張力変動を抑制するようにインフィードローラ７の回転速度を制御することにより、上記微少な張力変動を抑制することも考えられるが、このように構成した場合には、シート材１の紙継時等に大きな張力変動が発生すると、これに追随した制御を実行することが困難であり、シート材１の張力が極端に低下してシート材１に弛みが生じたり、シート材１に過大な張力が作用して大きく引き伸ばされたりするのを防止することができないという問題がある。
【０００９】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、シート材の微少な張力変動および大きな張力変動の双方を効果的に抑制することができるシート材の張力制御装置および印刷機を提供することを目的としている。
【００１０】
【課題を解決するための手段】
請求項１に係る発明は、駆動モータにより回転駆動されてシート材を搬送するインフィードローラと、シート材の搬送路に設置されたダンサーローラを付勢してシート材の弛みを吸収するとともにシート材の伸びを抑制するダンサー機構と、上記ダンサーローラの位置変位を検出するローラ位置検出手段と、上記シート材の搬送張力を検出する張力検出手段と、上記ローラ位置検出手段の検出信号に応じてダンサーローラに位置変位が生じたか否かを判別する判別部と、ダンサーローラの位置変位が生じたことが確認された場合に、ダンサーローラを基準位置に復帰させるようにインフィードローラの回転速度を制御するとともに、上記張力検出手段の検出信号に応じてシート材の張力変動が発生したことが確認された場合に、この張力変動を抑制するようにインフィードローラの回転速度を制御する回転速度制御手段とを備え、上記ダンサーローラが基準位置に保持された不感帯領域で、上記張力検出手段の検出信号に応じたインフィードローラの回転速度制御を実行するとともに、上記判別部においてダンサーローラの位置変位が生じたと判別された場合に、上記張力検出手段の検出信号に応じた回転速度の制御を禁止するように構成したものである。
【００１１】
上記構成によれば、シート材の紙継時等に、その搬送張力が大きく変動した場合には、ダンサーローラが基準位置から変位することにより、上記張力変動に起因してシート材の伸びや縮みが発生することが防止されるとともに、上記ダンサーローラの変位量に応じてダンサーローラを基準位置に復帰させる制御が、上記回転速度制御手段において実行されることにより、上記ダンサーローラの下流側におけるシート材の搬送張力が略一定になるように調節されることになる。また、ダンサーローラが基準位置に保持された上記制御の不感帯領域で、上記張力検出手段の検出信号に応じてシート材の微少な張力変動が生じたことが確認された場合には、上記張力変動を抑制するように上記インフィードローラの回転速度が制御されることにより上記微少な張力変動が効果的に抑制されることになる。
【００１２】
請求項２に係る発明は、上記請求項１記載のシート材の張力制御装置において、上記回転速度制御手段は、ローラ位置検出手段の検出信号に応じてダンサーローラが基準位置の近傍で一定時間以上に亘り停止した状態にあることが確認された時点における上記張力検出手段の検出値を搬送張力の基準値として記憶する基準値記憶部と、この基準値記憶部に記憶された搬送張力の基準値と上記張力検出手段により検出されたシート材の搬送張力との偏差に対応したインフィードローラの回転速度の制御値を設定する制御値設定部とを備えたものである。
【００１３】
上記構成によれば、駆動シリンダにより付勢されたダンサーローラの押圧力と、これに対応したシート材の反力とがバランスして上記ダンサーローラに位置変位が生じていないことが確認された場合には、この時点における上記張力検出手段の検出値が搬送張力の基準値として記憶される。その後、上記搬送張力の基準値と、張力検出手段の検出値との偏差に基づいてインフィードローラの回転速度の制御値が制御値設定部において設定されるとともに、この制御値に基づいて上記インフィードローラの回転速度が調節されることによりシート材の張力変動が効果的に抑制されることになる。
【００１４】
請求項３に係る発明は、上記請求項１または２記載のシート材の張力制御装置において、インフィードローラに直結されたＡＣサーボモータからなる駆動モータを備えたものである。
【００１５】
上記構成によれば、ＡＣサーボモータによって直接駆動されるインフィードローラの回転速度が、上記回転速度制御手段から出力された制御信号に応じて迅速かつ正確に制御されるため、上記シート材の張力変動が効果的に抑制されることになる。
【００１６】
請求項４に係る発明は、請求項３記載のシート材の張力制御装置を備えた引出部と、この引出部から供給されたシート材にインクを塗布する印刷版胴とを有する印刷機において、上記印刷版胴に直結されたＡＣサーボモータからなる版胴駆動モータを備えたものである。
【００１７】
上記構成によれば、ＡＣサーボモータからなる版胴駆動モータが各印刷部にそれぞれ配設され、各印刷版胴がそれぞれ個別に駆動されるため、図５に示すように、各印刷ユニット５ａ〜５ｎに配設された印刷版胴４を一括して駆動するメインモータ２７と、その駆動力を各印刷版胴に伝達する動力伝達機構２８とを備えた一般的な印刷機のように、上記動力伝達機構２８等の作動抵抗に起因したシート材の張力変動が生じることがなく、この張力変動に起因した見当ずれの発生が効果的に防止されることになる。
【００１８】
【発明の実施の形態】
図１は、本発明に係るシート材の張力制御装置の実施形態を示している。この張力制御装置は、シート材１を搬送するインフィードローラ７と、このインフィードローラ７に直結されたＡＣサーボモータからなる駆動モータ１７と、シート材１の搬送路に設置されたダンサーローラ１２を付勢してシート材１の弛みを吸収するとともにシート材１の伸びを抑制するダンサー機構１０と、このダンサー機構１０の設置部よりもシート材１の搬送方向の下流側において、図３に示すように、最上流側に位置する印刷ユニット５ａの上流側に配設された張力検出手段１８と、シート材１の張力変動を抑制するようにインフィードローラ７の回転速度を制御する回転速度制御手段１９とを備えている。
【００１９】
上記ダンサー機構１０は、ガイドローラ１１、ダンサーローラ１２、支持アーム１４、駆動シリンダ１５およびローラ位置検出手段１６等を有し、この駆動シリンダ１５の駆動力に応じて支持アーム１４を付勢することにより、上記ダンサーローラ１２を所定の押圧力でシート材１に圧接させるとともに、シート材１の紙継時等に大きな張力変動が発生すると、上記駆動シリンダ１５の付勢力に応じて支持アーム１４およびダンサーローラ１２が揺動変位することにより、上記シート材１の弛みや伸びを吸収するように構成されている。
【００２０】
上記張力検出手段１８は、シート材１の搬送路に配設されたピックアップローラ２０と、このピックアップローラ２０の回転支持部に設けられた歪みゲージ方式またはインダクタンス方式の張力検出器２１とからなり、シート材１の搬送時に上記ピックアップローラ２０に作用する反力に対応したシート材１の搬送張力を上記張力検出器２１により検出し、この検出信号を上記回転速度制御手段１９に出力するように構成されている。
【００２１】
上記回転速度制御手段１９には、図２に示すように、上記ローラ位置検出手段１６の検出信号に応じてダンサーローラ１２に位置変位が生じたか否かを判別する判別部２２と、この判別部２２において上記位置変位が生じていないことが確認された場合に、その時点における上記張力検出手段１８の検出値を基準張力として記憶するとともに、予め中立位置等に設定されたダンサーローラ１２の基準位置を記憶する基準値記憶部２３と、上記インフィードローラ７の回転速度をフィードバック制御するための制御値を設定する制御値設定部２４とが設けられている。
【００２２】
上記判別部２２は、駆動シリンダ１５により付勢されてシート材１に圧接されたダンサーローラ１２の押圧力と、これに対応したシート材１の反力とがバランスすることにより、上記ダンサーローラ１２が中立位置の近傍で一定時間以上に亘り停止した状態にあることが上記ローラ位置検出手段１６の検出信号に応じて確認された場合に、ダンサーローラ１２に位置変位が生じてないと判別し、それ以外の場合にダンサーローラ１２に位置変位が生じたと判別するように構成されている。
【００２３】
上記基準値記憶部２３は、印刷機の始動後に、判別部２２においてダンサーローラ１２が中立位置の近傍で一定時間以上に亘り停止した状態にあると判別された時点で、上記張力検出手段１８により検出されたシート材１の搬送張力を基準値として記憶するように構成されている。また、上記判別部２２においてダンサーローラ１２に位置変位が生じたと判別された場合には、その後にダンサーローラ１２が中立位置の近傍で一定時間以上に亘り停止した状態となった時点で、上記基準値記憶部２３に記憶された搬送張力の基準値が、上記張力検出手段１８の検出信号に応じて更新されるようになっている。
【００２４】
上記制御値設定部２４は、判別部２２においてダンサーローラ１２に位置変位が生じたと判別された場合に、上記基準値記憶部２３に記憶されたダンサーローラ１２の基準位置と、上記ローラ位置検出手段１６により検出されたダンサーローラ１２の現在位置との偏差を求めるとともに、この偏差に対応したインフィードローラ７の回転速度の制御値を設定し、この制御値に対応した制御信号を、上記インフィードローラ７を回転駆動する上記駆動モータ１７に出力するように構成されている。
【００２５】
上記回転速度制御値は、ダンサーローラ１２の位置変位を修正してダンサーローラ１２を基準位置に復帰させるようにインフィードローラ７の回転速度をフィードバック制御するための値であり、予め設定されたマップからダンサーローラ１２の位置変位量に対応した制御値が読み出され、あるいは各種の制御条件に基づいて上記制御値が演算されるようになっている。
【００２６】
例えば、何らかの原因でシート材１の搬送張力が基準値よりも小さくなると、上記駆動シリンダ１５により付勢されたダンサーローラ１２の押圧力がシート材１の反力よりも大きくなって、シート材１の弛みを吸収する方向（図１の矢印Ａ方向）にダンサーローラ１２が揺動変位するため、インフィードローラ７の回転速度を上昇させる方向に上記制御値を設定することにより、シート材１の搬送張力を増大してダンサーローラ１２が中立位置近傍の基準位置に復帰させることができる。
【００２７】
逆に、シート材１の搬送張力が基準値よりも大きくなると、上記駆動シリンダ１５により付勢されたダンサーローラ１２の押圧力がシート材１の反力よりも小さくなって、シート材１の伸びを抑制する方向（図１の矢印Ｂ方向）にダンサーローラ１２が揺動変位するため、インフィードローラ７の回転速度を低下させる方向に上記制御値を設定することにより、シート材１の搬送張力を減少させてダンサーローラ１２を中立位置近傍の基準位置に復帰させることができる。
【００２８】
また、上記制御値設定部２４は、上記基準値記憶部２３に記憶された搬送張力の基準値と、上記張力検出手段１８により検出されたシート材１の搬送張力の現在値との偏差を求めるとともに、この偏差に対応したインフィードローラ７の回転速度の制御値を設定することにより、少なくとも上記ダンサーローラ１２が基準位置に保持された不感帯領域で、インフィードローラ７の回転速度制御を実行するとともに、判別部２２においてダンサーローラ１２に位置変位が生じたと判別された場合に、上記張力検出手段１８の検出信号に応じたインフィードローラ７の回転速度制御を禁止するように構成されている。
【００２９】
すなわち、上記ダンサーローラ１２の位置変位が生じることのない微少な張力変動が発生し、シート材１の搬送張力が基準値から変動したことが上記制御値設定部２４において確認された場合には、上記搬送張力の変動を抑制する方向にインフィードローラ７の回転速度を制御して上記張力変動を抑制するための制御値が設定されるようになっている。
【００３０】
上記のように構成されたシート材１の張力制御装置を有する印刷機が作動状態となると、シート材１の搬送速度が安定して上記ダンサーローラ１２が中立位置近傍に停止した状態となったことが上記判別部２２において確認された時点で、上記張力検出手段１８の検出信号に応じてシート材１の搬送張力の基準値が基準値記憶部２３において記憶される。
【００３１】
その後、上記ローラ位置検出手段１６の検出信号に応じ、ダンサーローラ１２が上記基準位置から変位したことが上記判別部２２において確認された場合には、ダンサーローラ１２を基準位置に復帰させる方向に上記インフィードローラ７の回転速度を制御して、上記ダンサーローラ１２を予め設定された基準位置に復帰させることにより、その下流側におけるシート材１の搬送張力を略一定に調節する制御が上記回転速度制御手段１９において実行される。
【００３２】
また、上記ダンサーローラ１２が基準位置に保持された不感帯領域、つまりダンサーローラ１２の位置変位に対応した回転速度制御が実行されることのない領域で、シート材１の微少な張力変動が生じた場合には、上記張力検出手段１８の検出信号と、上記搬送張力の基準値とに基づいて搬送張力の変動量が制御値設定部２４において算出されるとともに、この搬送張力の変動を修正するように上記インフィードローラ７の回転速度を制御して、上記微少な張力変動の影響が張力検出手段１８の下流側に及ぶのを防止する制御が上記回転速度制御手段１９において実行されることになる。
【００３３】
このように駆動モータ１７により回転駆動されてシート材１を搬送するインフィードローラ７と、シート材１の搬送路に設置されたダンサーローラ１２を付勢してシート材１の弛みを吸収するとともにシート材１の伸びを抑制するダンサー機構１０と、上記ダンサーローラ１２の位置変位を検出するローラ位置検出手段１６と、このローラ位置検出手段１６の検出信号に応じてダンサーローラ１２が基準位置から変位したことが確認された場合に、ダンサーローラ１２を基準位置に復帰させるようにインフィードローラ７の回転速度を制御する回転速度制御手段１９とを設けたため、シート材１の紙継時等に、その搬送張力が大きく変動した場合に、ダンサーローラ１２を揺動変位させることにより、上記張力変動に起因してシート材１に伸びや縮みが発生するのを防止することができる。また、上記ローラ位置検出手段１６により検出されたダンサーローラ１２の変位量に応じて上記インフィードローラ７の回転速度を制御することにより、ダンサーローラ１２を基準位置に復帰させて、その下流側におけるシート材１の搬送張力を略一定に調節することができる。
【００３４】
そして、上記シート材１の搬送張力を検出する張力検出手段１８を設けるとともに、少なくともダンサーローラ１２が基準位置に保持された上記不感帯領域で、シート材１の搬送張力が基準値から変動する微少な張力変動が発生したことが上記張力検出手段１８の検出信号に応じて確認された場合に、回転速度制御手段１９によりインフィードローラ７の回転速度を制御して上記搬送張力の微少な変動を修正するように構成したため、上記微少な張力変動を効果的に抑制して、その影響が印刷ユニット５ａ〜５ｎ等に及ぶのを防止することができる。
【００３５】
したがって、伸縮率の大きな素材によって上記シート材１を形成し、またはシート材１の厚みを薄くした場合においても、上記張力変動に起因した印刷位置の見当ずれを効果的に防止して印刷不良の発生を抑制することができる。本発明者の行った実験によれば、厚みが２０μｍ程度のポリプロピレンフィルムまたは無延伸ポリプロピレン軟質塩ビフィルム等からなるシート材１を、５０Ｎ〜１００Ｎの張力で搬送した場合に、張力変動を０．５Ｎ未満に抑えることができ、見当ずれ量を０．０５ｍｍ未満に抑えることができた。これに対して上記張力検出手段１８の検出信号に基づく速度制御を実行しない場合には、見当ずれ量を０．１ｍｍ以下に抑えることができず、上記張力検出手段１８の検出信号に基づく速度制御を実行することにより、見当ずれを顕著に抑制できることが確認された。
【００３６】
また、上記実施形態に示すように、ローラ位置検出手段１６の検出信号に応じてダンサーローラ１２に位置変位が生じていないことが確認された時点における上記張力検出手段１８の検出値を搬送張力の基準値として記憶する基準値記憶部２３と、この基準値記憶部２３に記憶された搬送張力の基準値と上記張力検出手段１８により検出されたシート材１の搬送張力との偏差に対応したインフィードローラ８の回転速度の制御値を設定する制御値設定部１９とを上記回転速度制御手段１９に設けた場合には、駆動シリンダ１５により付勢されたダンサーローラ１２の押圧力と、これに対応したシート材１の反力とがバランスした時点における上記張力検出手段１８の検出値を、搬送張力の基準値として記憶させることができる。
【００３７】
したがって、シート材１の素材、環境条件等が変化した場合においても、常に搬送張力の基準値を適正値に設定することができ、この基準値と、上記張力検出手段１８の検出値との偏差に基づく、上記インフィードローラ７の回転速度制御を常に適正に実行することにより、シート材１の張力変動を効果的に抑制できるという利点がある。
【００３８】
特に、上記実施形態に示すように、インフィードローラ７に直結されたＡＣサーボモータからなる駆動モータ１７により、インフィードローラ７を直接駆動するように構成した場合には、図４に示すように、タイミングベルト機構等の動力伝達機構８を介して上記インフィードローラ７を回転駆動する従来技術に比べ、動力の伝達ロスを少なくすることができるため、上記回転速度制御手段１９から出力された制御信号に応じて上記インフィードローラ７の回転速度を迅速かつ正確に制御して、上記シート材１の張力変動を効果的に抑制することができる。
【００３９】
また、図３に示すように、各印刷ユニット５ａ〜５ｎに配設された印刷版胴４に直結されたＡＣサーボモータからなる版胴駆動モータ２５により、上記印刷版胴４を直接駆動するように構成した場合には、図５に示すように、各印刷ユニット５ａ〜５ｎに配設された印刷版胴４を一括して駆動するメインモータ２７と、その駆動力を各印刷版胴に伝達する動力伝達機構２８とを備えた一般的な印刷機のように、上記動力伝達機構２８の作動抵抗等に起因したシート材１の張力変動を生じることがないので、この張力変動に起因した見当ずれの発生を効果的に防止できるという利点がある。
【００４０】
また、上記実施形態に示すように、張力検出手段１８をダンサー機構１０の下流側に配設することにより、印刷ユニット５ａの近傍に上記張力検出手段１８を設置した場合には、上記印刷ユニット５ａへの導入部におけるシート材１の搬送張力を適正値に制御することにより、このシート材１に塗布されるインクの塗布位置を適正に調節できるという利点がある。
【００４１】
なお、上記実施形態では、複数の印刷ユニット５ａ〜５ｎを備えた印刷機に本発明に係るシート材の張力制御装置を適用した例について説明したが、これに限られず、シート材のラミネート機またはシート材にコーティング材を塗布する塗布機等についても本発明を適用可能である。
【００４３】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、駆動モータにより回転駆動されてシート材を搬送するインフィードローラと、シート材の搬送路に設置されたダンサーローラを付勢してシート材の弛みを吸収するとともにシート材の伸びを抑制するダンサー機構と、上記ダンサーローラの位置変位を検出するローラ位置検出手段と、上記シート材の搬送張力を検出する張力検出手段と、上記ローラ位置検出手段の検出信号に応じてダンサーローラに位置変位が生じたか否かを判別する判別部と、ダンサーローラの位置変位が生じたことが確認された場合に、ダンサーローラを基準位置に復帰させるようにインフィードローラの回転速度を制御するとともに、上記張力検出手段の検出信号に応じてシート材の張力変動が発生したことが確認された場合に、この張力変動を抑制するようにインフィードローラの回転速度を制御する回転速度制御手段とを備え、上記ダンサーローラが基準位置に保持された不感帯領域で、上記張力検出手段の検出信号に応じたインフィードローラの回転速度制御を実行するとともに、上記判別部においてダンサーローラの位置変位が生じたと判別された場合に、上記張力検出手段の検出信号に応じた回転速度の制御を禁止するように構成したため、シート材の微少な張力変動および大きな張力変動の双方を効果的に抑制して、印刷見当のずれが発生するのを効果的に防止できる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明に係るシート材の張力制御装置の実施形態を示す説明図である。
【図２】回転速度制御手段の具体的構成を示すブロック図である。
【図３】印刷機の全体構成を示す説明図である。
【図４】シート材の張力制御装置の従来例を示す説明図である。
【図５】印刷機の従来例を示す説明図である。
【符号の説明】
１ シート材
３ 引出部
７ インフィードローラ
１０ ダンサー機構
１２ ダンサーローラ
１６ ローラ位置検出手段
１７ 駆動モータ
１８ 張力検出手段
１９ 回転速度制御手段
２３ 基準値記憶部
２４ 制御値設定部
２５ 版胴駆動モータ
Claims (4)
- 駆動モータにより回転駆動されてシート材を搬送するインフィードローラと、シート材の搬送路に設置されたダンサーローラを付勢してシート材の弛みを吸収するとともにシート材の伸びを抑制するダンサー機構と、上記ダンサーローラの位置変位を検出するローラ位置検出手段と、上記シート材の搬送張力を検出する張力検出手段と、上記ローラ位置検出手段の検出信号に応じてダンサーローラに位置変位が生じたか否かを判別する判別部と、ダンサーローラの位置変位が生じたことが確認された場合に、ダンサーローラを基準位置に復帰させるようにインフィードローラの回転速度を制御するとともに、上記張力検出手段の検出信号に応じてシート材の張力変動が発生したことが確認された場合に、この張力変動を抑制するようにインフィードローラの回転速度を制御する回転速度制御手段とを備え、上記ダンサーローラが基準位置に保持された不感帯領域で、上記張力検出手段の検出信号に応じたインフィードローラの回転速度制御を実行するとともに、上記判別部においてダンサーローラの位置変位が生じたと判別された場合に、上記張力検出手段の検出信号に応じた回転速度の制御を禁止するように構成したことを特徴とするシート材の張力制御装置。
- 請求項１記載のシート材の張力制御装置において、上記回転速度制御手段は、ローラ位置検出手段の検出信号に応じてダンサーローラが基準位置の近傍で一定時間以上に亘り停止した状態にあることが確認された時点における上記張力検出手段の検出値を搬送張力の基準値として記憶する基準値記憶部と、この基準値記憶部に記憶された搬送張力の基準値と上記張力検出手段により検出されたシート材の搬送張力との偏差に対応したインフィードローラの回転速度の制御値を設定する制御値設定部とを備えたことを特徴とするシート材の張力制御装置。
- 請求項１または２記載のシート材の張力制御装置において、インフィードローラに直結されたＡＣサーボモータからなる駆動モータを備えたことを特徴とするシート材の張力制御装置。
- 請求項３記載のシート材の張力制御装置を備えた引出部と、この引出部から供給されたシート材にインクを塗布する印刷版胴とを有する印刷機において、上記印刷版胴に直結されたＡＣサーボモータからなる版胴駆動モータを備えたことを特徴とする印刷機。
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