JP3780905B2 - 容器用フィルムラミネート金属板 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として、飲料缶の缶体に用いられるラミネート金属板に関するものである。さらに詳しくは、製缶工程での成形性及び密着性が良好であり、レトルト殺菌処理後の耐食性に優れ、さらに味特性にも優れるる飲料缶の缶体に用いられるラミネート金属板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、食料缶や飲料缶などの缶体に用いられる金属缶用素材であるティンフリースチール(TFS)およびアルミニウム等の金属板には塗装が施されていた。この塗装を施す技術は、焼き付け工程が複雑であるばかりでなく、多大な処理時間を必要とし、さらに多量の溶剤を排出するという問題を抱えていた。そこで、これらの問題を解決するため、熱可塑性樹脂フィルムを加熱した金属板に積層する方法が数多く提案されている。例えば、特開昭64-22530号公報には、特定の密度・面配向係数を有する金属板ラミネート用ポリエステルフィルム、特開平2-57339号公報には特定の結晶性を有する金属板ラミネート用共重合ポリエステルフィルム等が開示されている。しかしながら、これらの提案は容器用途の多岐にわたる要求特性を総合的に満足できるものではなく、特に高度な成形性、優れた耐食性が要求される飲料缶の缶体用途では十分に満足できるレベルにあるとはいえなかった。
【0003】
また、特開平9-155969号公報には、特定の構造を有する金属板ラミネート用ポリエステルフィルム等が開示されている。この提案によって飲料缶の缶体用途における多岐にわたる要求特性がある程度解決されるが、飲料缶の缶体に成形する際の成形加工熱や成形後の加熱工程、内容物の充填後の高温殺菌工程(レトルト殺菌工程)で、密着性の劣化や加工性・耐食性の劣化等が生じる難点があった。また、レトルト殺菌処理後に缶の内容物の香り成分のフィルムへの吸着あるいはフィルムからの溶出物によって内容物の風味が損なわれるという問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
よって本発明は、上記事情を考慮し、容器用途、特に飲料缶の缶体加工用途に要求される成形性、密着性、及びレトルト殺菌処理後の耐衝撃性と耐食性に優れ、さらにレトルト殺菌処理後に内容物の風味が損なわれることを防止して味特性にも優れる容器用フィルムラミネート金属板を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)融点が240〜300℃、カルボキシル末端基が10〜50当量/トン、酸成分として実質的にイソフタル酸成分を含有しない二軸延伸ポリエステルフィルムであって、かつ面配向係数が0.100以上0.150以下、結晶化度が40%以上60%以下及び固有粘度(IV)が0.60以上0.75以下である樹脂フィルムを、金属板表面にラミネートしたことを特徴とする容器用フィルムラミネート金属板。
(2)ポリエステル単位の95モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることを特徴とする(1)に記載の容器用フィルムラミネート金属板。
(3)ラミネート後の樹脂フィルムの複屈折率が0.02以下である領域が、金属板との接触界面からフィルム厚み方向に5μm未満であることを特徴とする(1)または(2)に記載の容器用フィルムラミネート金属板。
【0006】
【発明の実施の形態】
ラミネート鋼板を用いた飲料缶の場合、潤滑油を用いて缶体を成形し、缶体成形後フィルム表面に残留した潤滑油を完全除去するため、通常、200℃以上の温度で2分30秒ほどの加熱処理が施され、さらに内容物を充填後、レトルト殺菌処理が施される。そのため、製缶工程での成形性及び密着性が良好であり、内容物充填・レトルト殺菌処理後の耐衝撃性と耐食性に優れることが必要であり、さらにレトルト殺菌処理後に内容物の風味が損なわれないことも必要である。なお、本明細書において、「飲料缶」は、「2ピース飲料缶」を指している。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に規定するフィルムがラミネートされたラミネート金属板によって、この目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いるポリエステルは、DSCにおける融点(融解ピーク温度)が240〜300℃であることが、味特性を良好とする点で必要であるが、好ましくは、融点が245〜300℃、特に好ましくは融点が246〜300℃であることが望ましい。なお、本発明において、味特性が良好とは、缶の内容物の香り成分のフィルムへの吸着あるいはフィルムからの溶出物によって内容物の風味が損なわれないことをいう。
【0009】
さらに本発明で用いるフィルムは、金属板との密着性、レトルト殺菌処理後の味特性を良好とする点でポリエステルのカルボキシル末端基量が10〜50当量/トンであることが必要である。カルボキシル末端基は極性を有するので、この量が増加すると密着性は良好となるが、内容物の香味成分を吸着しやすくなり味特性が劣るようになる。カルボキシル末端基量が10当量/トン未満では良好な密着性を得ることができず、50当量/トンを越えると味特性が劣化する。ポリエステルのカルボキシル末端基量が15〜48当量/トン、特に好ましくは15〜45当量/トンであると長期保存性に優れるので望ましい。
【0010】
本発明で用いるポリエステルは、酸成分として実質的にイソフタル酸成分を含有しないことが必要であるが、レトルト殺菌処理後の味特性を良好とする点、製缶工程での摩耗粉の発生を抑制する点で、エチレンテレフタレートおよび/またはエチレンナフタレートを主たる構成成分とすることが好ましい。なお、実質的にイソフタル酸を含有しないとは、不可避的に不純物として混入するもの以外に、意図的にイソフタル酸を含有させないことをいう。
【0011】
フィルム中に含まれる重合度が不十分な低分子量成分は、飲料等の内容物中へ溶出しやすいため、味特性を劣化させる。ポリエステル中に実質的にイソフタル酸成分を含有しないことによって、フィルム中の重合度が不十分な低分子量成分が減少するので、内容物中に溶出する低分子量成分が減少し、味特性の劣化が防止される。
【0012】
エチレンテレフタレートおよび/またはエチレンナフタレートを主たる構成成分とするポリエステルとは、ポリエステルの95質量%以上がエチレンテレフタレートおよび/またはエチレンナフタレートを構成成分とするポリエステルである。97質量%以上であると金属缶に内容物を長期充填しても味特性が良好であるのでさらに好ましい。
【0013】
一方、味特性を損ねない範囲で他のジカルボン酸成分、グリコール成分を共重合させてもよく、ジカルボン酸成分としては、例えば、ジフェニルカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸等を挙げることができる。
【0014】
一方、グリコール成分としては、例えばエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族グリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。なお、これらのジカルボン酸成分、グリコール成分は2種以上を併用してもよい。
【0015】
また、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、トリメリット酸、トリメシン酸、トリメチロールプロパン等の多官能化合物を共重合してもよい。
【0016】
本発明で用いるポリエステルに少量含有される成分としては、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、セバシン酸、ダイマー酸などがあるが、味特性が厳しい用途ではジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0017】
また、ポリエステルには、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、帯電防止剤、結晶核剤等を配合できる。
【0018】
食料缶の場合、内容物に含まれる固形物が取り出しやすいことが必要であり、そのためには、缶体内面に内容物(固形物)が付着しにくくする必要がある。缶体内面に内容物を付着しにくくするには、樹脂中のワックスを添加することが有効である。これに対して、飲料缶用途では、内容物が液体であるので、内容物の取り出し性は問題にならない。そのため、本発明では、前記樹脂中にワックスを含まない。
【0019】
レトルト殺菌処理後の耐食性を向上させるためには、フィルムの面配向係数を0.100以上0.150以下、結晶化度を40%以上60%以下、及び固有粘度(IV)を0.60以上0.75以下に制御する必要がある。以下にその理由を説明する。
【0020】
ラミネート鋼板を用いた飲料缶の場合、缶体成形後フィルム表面に残留した潤滑油を完全に除去するため、200℃以上の温度で2分30秒ほどの加熱処理が施されるのが一般的である。この加熱処理により、缶体の胴部に位置するポリエステルフィルムは、缶体高さ方向に分子鎖が概ね一軸配向した構造へと変化する。分子鎖が一軸配向した場合、分子鎖間の結合力は分子間力のみとなるため、分子鎖に対して直角方向の結合力は非常に弱いものとなる。したがって、加熱処理後の缶胴部のフィルムは、缶胴周方向の強度が極めて弱く、レトルト殺菌処理時に発生する缶内での圧力によって、容易にフィルムが割れてしまうことになる。飲料缶の缶体用途で優れた耐食性を得るには、このフィルム割れを確実に防止する必要がある。
【0021】
このメカニズムに基づくフィルム割れの抑制を鋭意検討した結果、フィルム割れを抑制するためには、▲1▼加熱処理時に分子鎖が一軸配向することを抑制すること、▲2▼分子鎖の絡み合い度を増して、一軸配向時に分子鎖間の結合力を増加させることが、有効な技術であることが判明した。この技術は、フィルムの面配向係数、結晶化度、固有粘度(IV)を制御することにより、達成される。
【0022】
フィルムの面配向係数を0.100以上0.150以下とし、フィルムの結晶化度を40%以上60%以下とすることで、結晶部を剛直な構造として保持させ、かつ非晶部についてはルーズな部分を多く残すような構造とすることができる。これにより、結晶部は外的応力に対して構造変化しがたくなり、さらに非晶部がランダム化しているため、分子鎖の変化も困難となり、もって製缶・加熱処理後の一軸配向を抑制可能となる。
【0023】
面配向係数を0.100以上としたのは、フィルム製膜上の下限値であって、この値未満のフィルムが製造困難なためである。一方、面配向係数を0.150以下としたのは、面配向係数が0.150を超えると非晶部のランダム化が不十分となって、一軸配向を抑制する効果が乏しくなるためである。
【0024】
フィルム結晶化度を40%以上とすることで、結晶サイズが大きくなり、リジットな構造となる。これにより、分子鎖が動きにくい構造となり、加熱処理時における分子鎖の一軸配向が抑制される。ただし、60%を超えると、フィルムの柔軟性が損なわれ、延伸操作などの成膜操作が困難となりフィルムの製造自体が不可能となる。よって、フィルム結晶化度は、40%以上60%以下とする必要がある。
【0025】
フィルムの固有粘度(IV)は、フィルム分子量と相関があり、固有粘度(IV)が増せば分子量が増加する関係にある。分子量が増加すれば分子鎖長が長くなり、したがって分子鎖が絡み合う確率が大きくなる。0.60以上としたのは、この値未満であると分子鎖の絡み合いが不足するため、一軸配向時の結合力が不十分となるためである。一方、0.75以下としたのは、この値を超えるとポリマーの流動性が低下しフィルム製膜時の生産性が劣るためである。
【0026】
金属板上にラミネートされた後の該フィルムの構造としては、複屈折率が0.02以下である領域を、金属板との接触界面からフィルム厚み方向に5μm未満とすることが望ましい。ラミネート金属板の製造は、フィルムを熱せられた金属板に接触させ圧着することで金属板界面のフィルム樹脂を溶融させ金属板に濡れさせることでフィルムとの接着を行うのが通常である。従って、フィルムと金属板との密着性を確保するためにはフィルムが溶融していることが必要であり、必然的にラミネート後の金属板と接する部分のフィルム複屈折率は低下することとなる。本発明に示すようにこの部分のフィルム複屈折率が0.02以下であれば、ラミネート時のフィルム溶融濡れが十分であることを示し、従って優れた密着性を確保することが可能となる。
【0027】
このようなポリエステル樹脂の複屈折率は、以下の測定手法にて求められる値を採用する。
【0028】
偏光顕微鏡を用いてラミネート金属板の金属板を除去した後のフィルムの断面方向のレタデーションを測定し、樹脂フィルムの断面方向の複屈折率を求める。フィルムに入射した直線偏光は、二つの主屈折率方向の直線偏光に分解される。この時、高屈折率方向の光の振動が低屈折率方向よりも遅くなり、そのためフィルム層を抜けた時点で位相差を生じる。この位相差をレタデーションRと呼び、複屈折率△nとの関係は、式(1)で定義される。
【0029】
△n=R/d…(1)
但し、d:フィルム層の厚み
次に、レタデーションの測定方法について説明する。単色光を偏光板を通過させることで、直線偏光とし、この光をサンプル(フィルム)に入射する。入射された光は上記のように、レタデーションを生じるため、フィルム層を透過後、楕円偏光となる。この楕円偏光はセナルモン型コンペンセーターを通過させることにより、最初の直線偏光の振動方向に対してθの角度をもった直線偏光となる。このθを偏光板を回転させて測定する。レタデーションRとθの関係は式(2)で定義される。
【0030】
R=λ・θ/180 …(2)
但し、λ:単色光の波長
よって複屈折率△nは、式(1)、(2)から導き出される式(3)で定義される。
【0031】
△n=(θ・λ/180)/d…(3)
また、上記に示す複屈折率が0.02以下の部分の厚みは、金属板との接触界面からフィルム厚み方向へ5μm未満の領域に限定することが望ましい。この理由は以下のとおりである。
【0032】
本発明で使用するフィルムは固体高分解能NMRによる構造解析におけるカルボニル部の緩和時間T1ρで表現される分子運動性が低いという特徴を有し、以って優れた成形性・耐衝撃性を有するが、フィルムが完全溶融するとその効果が乏しくなり、以後の加工・加熱処理において容易に結晶化が生じフィルムの成形性が劣化してしまう欠点を有する。
【0033】
しかし、上記に示すようにフィルム密着性を確保するためには、フィルムの溶融濡れが必須となる。本発明者らが鋭意検討した結果によると、フィルムが溶融した部分すなわちフィルムの複屈折率が0.02以下である部分の厚みを5μm未満に規制することで、密着性を確保しつつ、成形性・耐衝撃性を高いレベルで両立することが可能となる。
【0034】
本発明で用いるフィルムは、ポリエステルを二軸延伸化することが必要である。
樹脂フィルムとして二軸延伸フィルムを使用するのは、該フィルムは未延伸フィルムに比べて優れた特徴をもち、引張強度、引裂強さ、衝撃強さ、水蒸気透過性、ガス透過性などの性質が著しく向上するためである。
二軸延伸の方法としては、同時二軸延伸、逐次二軸延伸のいずれであってもよい。用いる二軸延伸ポリエステルフィルムは、製缶工程で絞り成形後に200〜300℃程度の熱履歴を受けた後にネック部を加工する際の成形性向上の点で固体高分解能NMRによる構造解析におけるカルボニル部の緩和時間T1ρが270msec以上であることが好ましい。さらに好ましくは、280msec以上、特に好ましくは300msec以上である。
【0035】
さらに、本発明で用いるフィルムは、ネック部を加工する際の成形性向上の点でポリエステルの熱結晶化パラメータ△Tcg(昇温熱結晶化温度−ガラス転移温度)が60℃以上150℃以下が好ましく、特に好ましくは70℃以上150℃以下である。このような熱結晶性を付与する方法としては、触媒、分子量、ジエチレングリコールの含有量をコントロールすることにより達成しうる。
【0036】
本発明で用いる二軸延伸ポリエステルフィルムの構成としては、単層、複層の如何を問わない。ただし、少なくとも2層以上から構成される積層二軸延伸ポリエステルフィルムの場合、金属板に接するラミネート層と、この層を除く他の各々の層との固有粘度差が0.01〜0.5であることが、優れた成形性、耐衝撃性を発現させる点から望ましい。フィルム全体の厚みとしては、特に規定するものではないが、5〜60μmであることが望ましく、さらに好ましくは10〜40μmである。
【0037】
フィルム自体(積層フィルムを含む)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば各ポリエステルを必要に応じて乾燥した後、単独及び/または各々を公知の溶融積層押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押出し、静電印加等の方式によりキャスティングドラムに密着させ冷却固化し未延伸シートを得る。
【0038】
この未延伸シートをフィルムの長手方向及び幅方向に延伸することにより二軸延伸フィルムを得る。延伸倍率は目的とするフィルムの配向度、強度、弾性率等に応じて任意に設定することができるが、好ましくはフィルムの品質の点でテンター方式によるものが好ましく、長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する逐次二軸延伸方式、長手方向、幅方向をほぼ同じに延伸していく同時二軸延伸方式が望ましい。
【0039】
次に、これらのフィルムを金属板にラミネートしてラミネート金属板を製造する方法について述べる。本発明では、金属板をフィルムの融点を超える温度で加熱し、その両面に該樹脂フィルムを圧着ロール(以後ラミネートロールと称す)を用いて接触させ熱融着させる方法を用いる。
【0040】
ラミネート条件については、本発明に規定するフィルム構造が得られるものであれば特に制限されるものではない。例えば、ラミネート開始時の温度を280℃以上とし、ラミネート時にフィルムの受ける温度履歴として、フィルムの融点以上の温度になる時間を1〜20msecの範囲とすることが好適である。このようなラミネート条件を達成するためには、高速でのラミネートに加え接着中の冷却も必要である。
【0041】
ラミネート時の加圧は特に規定するものではないが、面圧として1〜30kgf/cm2が好ましい。この値が低すぎると、融点以上であっても時間が短時間であるため十分な密着性を得難い。また、加圧が大きいとラミネート金属板の性能上は不都合がないものの、ラミネートロールにかかる力が大きく設備的な強度が必要となり装置の大型化を招くため不経済である。
【0042】
金属板としては、缶用材料として広く使用されているアルミニウム板や軟鋼板等を用いることができ、特に下層が金属クロム、上層がクロム水酸化物からなる二層皮膜を形成させた表面処理鋼板(所謂TFS)等が最適である。
【0043】
TFSの金属クロム層、クロム水酸化物層の付着量についても、特に限定されないが、加工後密着性・耐食性の観点から、何れもCr換算で、金属クロム層は70〜200mg/m2、クロム水酸化物層は10〜30mg/m2の範囲とすることが望ましい。
【0044】
金属板表面に前記したフィルムをラミネートする方法としては、熱融着法が一般的であるが、これに限定されるものではない。
【0045】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
厚さ0.18mm・幅977mmの冷間圧延、焼鈍、調質圧延を施した鋼板を、脱脂、酸洗後、クロムめっきを行い、クロムめっき鋼板を製造した。クロムめっきは、CrO3、F-、SO4 2-を含むクロムめっき浴でクロムめっき、中間リンス後、CrO3、F-を含む化成処理液で電解した。その際、電解条件(電流密度・電気量等)を調整して金属クロム付着量とクロム水酸化物付着量を、それぞれ120mg/m2、15mg/m2に調整した。
【0046】
次いで、図1に示す金属帯のラミネート装置を用い、前記で得たクロムめっき鋼板1を金属帯加熱装置2で加熱し、ラミネートロール3で前記クロムめっき鋼帯1の一方の面に、容器成形後に容器内面側になる樹脂フィルム4a、他方の面に、容器成形後に容器外面側となる樹脂フィルム4bをラミネート(熱融着)し、ラミネート金属帯を製造した。樹脂フィルムを金属板にラミネートする際に、金属板に接する界面のフィルム温度がフィルムの融点以上になる時間を1〜20msecの範囲内にした。ラミネートした樹脂フィルムの内容を表1に記載する。ラミネートロール3は内部水冷式とし、ラミネート中に冷却水を強制循環し、フィルム接着中の冷却を行った。
【0047】
なお、▲1▼ポリエステルのカルボキシル末端基量、▲2▼ポリエステルの融点、▲3▼ポリエステルの面配向係数、▲4▼ポリエステルの結晶化度、▲5▼固有粘度、▲6▼ポリエステルの緩和時間T1ρについては、以下の方法にて測定した。また、以上の方法で製造したラミネート金属板に対し、以下の方法で、▲7▼複屈折率を測定し、(1)成形性、(2)密着性、(3)耐衝撃性、(4)味特性、(5)耐食性を評価した。
【0048】
▲1▼ポリエステルのカルボキシル末端基量
ポリエステルをO−クレゾール/クロロホルム(質量比7/3)に90〜100℃で20分の条件で溶解し、アルカリで電位差滴定を行い求めた。
▲2▼ポリエステルの融点
熱結晶化パラメータポリエステルを乾燥、溶融後急冷し、示差走査熱量計(パーキン・エルマー社製DSC−2型)により、16℃/minの昇温速度で測定した。
【0049】
▲3▼面配向係数
ナトリウムD線(波長589nm)を光源として、アッベ屈折計を用いて(a)延伸方向の屈折率、(b)延伸に直角方向の屈折率、(c)厚み方向の屈折率を測定し、以下の計算式にて、面配向係数を求めた。
面配向係数(Ns)=(nMD+nTD )/2−nZ
MD:延伸方向の屈折率
TD:延伸に直角方向の屈折率
Z:厚み方向の屈折率
▲4▼結晶化度
密度勾配法にて求めたフィルムの密度から下記式に従いフィルムの結晶化度を求めた。
【0050】
【数1】
Figure 0003780905
【0051】
なお、密度勾配法による密度の測定は、JIS K 7112の密度勾配管による測定方法に準じて、以下のように行った。
(i)高密度、低密度溶液を用いて密度勾配管を作成する。
(ii)比重既知のフロートを用いて、密度勾配管の水深と密度の関係を求める。
(iii)試料片を密度勾配管に入れ、2時間後、試料片が静止した位置(水深)を読み取る。
(iv)密度勾配管の水深と密度の関係より、試料片の密度を求める。
【0052】
▲5▼固有粘度
フィルムをオルソクロロフェノールに溶解して、25℃にてオストワルド粘度管を用いて粘度を測定し、この値を用いて固有粘度を求めた。
▲6▼固体高分解能NMRによる緩和時間T1ρ
固体NMRの測定装置は、日本電子製スペクトロメータJNM−GX270、日本電子製固体アンプ、MASコントローラNM−GSH27MU、日本電子製プローブNM−GSH27Tを用いた。測定は、13C核のT1ρ(回転座標における縦緩和)測定を実施した。測定は、温度24.5℃、湿度50%RH、静磁場強度6.34T(テスラ)下で、1H、13Cの共鳴周波数はそれぞれ270.2MHz、67.9MHzである。ケミカルシフトの異方性の影響を消すためにMAS(マジック角度回転)法を採用した。回転数は、3.5〜3.7kHzで行った。パルス系列の条件は、1Hに対して90°、パルス幅4μsec、ロッキング磁場強度62.5kHzとした。1Hの分極を13Cに移すCP(クロスポーラリゼーション)の接触時間は1.5msecである。また保持時間τとしては、0.001、0.5、0.7、1、3、7、10、20、30、40、50msecを用いた。保持時間τ後の13C磁化ベクトルの自由誘導減衰(FID)を測定した(FID測定中1Hによる双極子相互作用の影響を除去するために高出力カップリングを行った。なお、S/Nを向上させるため、512回の積算を行った)。また、パルス繰り返し時間としては、5〜15secの間で行った。
【0053】
T1ρ値は、通常I(t)=Σ(Ai)exp(−t/T1ρi)で記述することができ、各保持時間に対して観測されたピーク強度を片対数プロットすることにより、その傾きからもとめることができる。ただし、Ai:T1ρiに対する成分の割合である。
【0054】
ここでは2成分系(T1ρ1:非晶成分、T1ρ2:結晶成分)で解析し、下記の式を用い最小2乗法フィッティングによりその値を求めた。
【0055】
【数2】
Figure 0003780905
【0056】
ここでT1ρとしてはT1ρ2を用いる。
【0057】
▲6▼複屈折率
ラミネート金属板の金属板を除去した後のフィルムについて、偏光顕微鏡を用いてフィルムの断面方向のレタデーションを測定し、断面方向の複屈折率を求めた。
【0058】
(1)成形性
ラミネート金属板にワックス塗布後、直径179mmの円板を打ち抜き、絞り比1.6で浅絞り缶を得た。次いで、この絞りカップに対し、絞り比2.10及び2.80で再絞り加工を行った。このようにして得た深絞り缶のフィルムの損傷程度を目視観察した。
(評点について)
◎:成形後フィルムに損傷なく、フィルム剥離も認められない。
○:成形可能であるが、ごく僅かにフィルム剥離が認められる。
△:成形可能であるが、明確なフィルム剥離が認められる。
×:缶が破胴し、成形不可能。
【0059】
(2)密着性
上記(1)で成形可能であった缶に対し、缶胴部よりピール試験用のサンプル(幅15mm×長さ120mm)を切り出した。切り出したサンプルの缶内面側の長辺側端部からフィルムを一部剥離し、引張試験機で剥離した部分のフィルムを、フィルムが剥離されたクロムめっき鋼板とは反対方向(角度:180°)に開き、引張速度30mm/minでピール試験を行い、密着力を評価した。なお、密着力測定対象面は、缶内面側とした。
(評点について)
◎:0.15kg/15mm以上。
○:0.10kg/15mm以上、0.15kg/15mm未満。
×:0.10kg/15mm未満。
【0060】
(3)耐衝撃性
上記(1)で成形可能であった缶に対し、常温で水を満注して蓋を巻き締めた。続いて、125℃×30分の条件でレトルト殺菌処理を行い、処理後40℃で三ヶ月経時を行った。その後、各試験について10個ずつを高さ1.25mから塩ビタイル床面へ落とした後、電極と金属缶に6Vの電圧をかけて3秒後の電流値を読み取り、10缶測定後の平均値を求めた。
(評点について)
◎:0.01mA未満。
○:0.01mA以上、0.05mA未満。
△:0.05mA以上、0.1mA未満。
×:0.1mA以上。
【0061】
(4)味特性
上記(1)で成形可能であった缶に120℃×30分のレトルト殺菌処理処理を行った後、香料水溶液d−リモネン25ppm水溶液を350ml充填し、40℃密封後45日放置し、その後開封して官能検査によって、臭気の変化を以下の基準で評価した。
○:臭気にほとんど変化は見られない。
△:臭気にやや変化が見られる。
×:臭気に変化が大きく見られる。
【0062】
(5)耐食性
上記(1)で成形可能であった缶に対してネック成形を施し、常温で水を満注して蓋を巻き締めた。続いて、125℃×30分の条件でレトルト殺菌処理を行い、処理後40℃で三ヶ月経時を行った。経時終了後、缶蓋を除去し、水を捨て、缶内面側の腐食状況を目視観察した。
(評点について)
○:赤錆発生あり
×:赤錆発生なし
結果を表1及び表2に記載した。
【0063】
【表1】
Figure 0003780905
【0064】
【表2】
Figure 0003780905
【0065】
表1及び表2に示すように、本発明範囲内の発明例の鋼板は、いずれも成形性、密着性、耐衝撃性、味特性、耐食性に優れている。
【0066】
本発明例において、フィルムの複屈折率の値が0.02以下である領域が金属板と接触界面から厚さが5μm未満のものは、成形性がより優れている。
【0067】
これに対し、樹脂フィルムが本発明範囲を外れる比較例は、成形性、密着性、耐衝撃性、味特性、耐食性のいずれかが不良であった。
【0068】
【発明の効果】
本発明に係るラミネート金属板は、成形性、密着性、耐衝撃性、味特性及び耐食性が良好であり、絞り加工等を行う容器用素材、特にDTR加工などの高度な加工が施される飲料缶(2ピース飲料缶)の缶体用素材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】金属板のラミネート装置の要部を示す図。
【符号の説明】
1 金属板(クロムめっき鋼板)
2 金属帯加熱装置
3 ラミネートロール
4a,4b フィルム

Claims (3)

  1. 融点が240〜300℃、カルボキシル末端基が10〜50当量/トン、酸成分として実質的にイソフタル酸成分を含有しない二軸延伸ポリエステルフィルムであって、かつ面配向係数が0.100以上0.150以下、結晶化度が40%以上60%以下及び固有粘度(IV)が0.60以上0.75以下である樹脂フィルムを、金属板表面にラミネートしたことを特徴とする容器用フィルムラミネート金属板。
  2. ポリエステル単位の95モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることを特徴とする請求項1に記載の容器用フィルムラミネート金属板。
  3. ラミネート後の樹脂フィルムの複屈折率が0.02以下である領域が、金属板との接触界面からフィルム厚み方向に5μm未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の容器用フィルムラミネート金属板。
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