JP3777422B2 - グルタミン酸脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素をコードするdna、グルタミン酸脱水素酵素が発現可能な形態で導入された微生物、および、グルタミン酸脱水素酵素の製造方法 - Google Patents
グルタミン酸脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素をコードするdna、グルタミン酸脱水素酵素が発現可能な形態で導入された微生物、および、グルタミン酸脱水素酵素の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、グルタミン酸脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素をコードするDNA、グルタミン酸脱水素酵素が発現可能な形態で導入された微生物、および、グルタミン酸脱水素酵素の製造方法に関し、特に、耐熱性がありNADを補酵素とするグルタミン酸脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素をコードするDNA、グルタミン酸脱水素酵素が発現可能な形態で導入された微生物、および、グルタミン酸脱水素酵素の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
L-グルタミン酸(L-glutamic acid)はタンパク質を構成するアミノ酸のうちの一つであり、生体内で極めて有用なアミノ酸である。実際に、グルタミン酸を含めて、アミノ酸はアミノ酸輸液などの医薬としても広く用いられている。
【0003】
ここで、L-グルタミン酸と2-オキソグルタル酸(2-oxoglutaric acid)との間に、グルタミン酸脱水素酵素(GluDH)とGluDHの補酵素(NAD(P))とを介した次の反応が知られている。
【0004】
【式1】
なお、式1では、NAD(P)を、NAD(ニコチンアミド−アデニンジヌクレオチド)とNADP(ニコチンアミド−アデニンジヌクレオチドリン酸)をまとめた表現として示している。これは、GluDHの補酵素要求性の違いによるものである。すなわち、GluDHは3種類の型があり、第一に、NADを特異的に要求する酵素で動物組織、植物、細菌に分布するもの(NAD-GluDH:EC1.4.1.2)、第二に、NADPを特異的に要求する酵素で酵母、細菌に存在するもの(NADP-GluDH:EC1.4.1.4)、第三に、NAD,NADPのどちらも補酵素とすることができる酵素で動物の肝、腎などのミトコンドリアに局在するもの(NAD(P)-GluDH:EC1.4.1.3)が知られている。
【0005】
従来では、このようなグルタミン酸を含んだ反応系を触媒するGluDHとして、特開平6−327471「耐熱性グルタミン酸脱水素酵素及びその製造方法」に開示されるものが知られている。この公報では、Thermococcus litoralis GluDHが開示され、極めて高い耐熱性を備えることが報告されている。
【0006】
同様に、グルタミン酸を含んだ反応系を触媒するGluDHとして、特開平6−38744「新規な耐熱性グルタミン酸脱水素酵素及びその製造方法」に開示されるものが知られていた。この公報では、Bacillus acidocaldarius GluDHが開示され、こちらも極めて高い耐熱性を備えることが報告されている。
【0007】
酵素が耐熱性を備えるということは、工業的な利便性が高いほか、保存性の観点からも好ましく定量試薬として用いるような場合でも操作性や取扱性に優れることを意味する。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、補酵素NADとNADPを比較すると、NADがNADPに比して1/3の価格で提供されるので、式1の反応を用いる系では、NADを補酵素とするGluDHを用いることが好ましい。また、酵素は、一般に、長期間安定である(耐熱性がある)ことに加えて、加温や冷却が必要でないまたは僅かで済む温度領域、則ち、常温(15℃〜40℃)付近で高い活性をもつものが望まれる。
【0009】
しかしながら、特開平6−32741号公報に開示されるThermococcus litoralisは、生育温度が88℃と極めて高温で、しかも嫌気環境を必要とするため、培養に特殊な装置が必要となり、大量に調製するのは困難であるという問題点があった。さらに、Thermococcus litoralis GluDHは、NADP型であるという問題点もある。
【0010】
一方、特開平6−38744号公報に開示されるBacillus acidocaldarius GluDHはNAD型であるものの、Bacillus acidocaldariusの最適培養温度が55℃であり、必ずしも簡便には培養できないという問題点があった。しかも、Bacillus acidocaldarius GluDHは、常温下での培養環境や試験環境で活性が低いという問題点があった。
【0011】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、耐熱性があり、常温環境下における活性が高い酵素であって、NADを補酵素とするグルタミン酸脱水素酵素、当該グルタミン酸脱水素酵素をコードするDNA、当該グルタミン酸脱水素酵素が発現可能な形態で導入された微生物、および、当該グルタミン酸脱水素酵素の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、定方向進化(directed evolution)に基づく戦略を用い、Bacillus subtilis(バチルス ズブチルス:枯草菌)由来のグルタミン酸脱水素酵素(GluDH)yweBの一部のアミノ酸残基を変異させることにより本発明を完成するに至った。なお、yweBはrocGまたはipa-75Dとも表現されるが、本願においてはyweBと表記することとする。
【0013】
すなわち本発明は以下のとおりである。
1.:
下記(A)又は(B)に示すタンパク質。
(A)配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号3に記載のアミノ酸配列において、先頭から144番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、野生型yweBに比して7℃以上の耐熱性を備えたグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。ここで、先頭から144番目以外のアミノ酸を置換等するとは、配列番号3の先頭から数えて144番目に位置するアルギニンを据え置き、他のアミノ酸配列を置換等することを意味する。したがって、例えば欠失、付加により、このアルギニン残基の位置が144番目からシフトしたとしてもこのアルギニン残基は残存させておくことを意味する。
【0014】
2.:
下記(A)又は(B)に示すタンパク質をコードするDNA。
(A)配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号3に記載のアミノ酸配列において、先頭から144番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、野生型yweBに比して7℃以上の耐熱性を備えたグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。ここで、先頭から144番目以外のアミノ酸を置換等するとは、配列番号3の先頭から数えて144番目に位置するアルギニンを据え置き、他のアミノ酸配列を置換等することを意味する。したがって、例えば欠失、付加により、このアルギニン残基の位置が144番目からシフトしたとしてもこのアルギニン残基は残存させておくことを意味する。
【0015】
3.:
下記(C)又は(D)に示すタンパク質。
(C)配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(D)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、先頭から27番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、野生型yweBに比して7℃以上の耐熱性を備えたグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。ここで、先頭から27番目以外のアミノ酸を置換等するとは、配列番号4の先頭から数えて27番目に位置するフェニルアラニンを据え置き、他のアミノ酸配列を置換等することを意味する。したがって、例えば欠失、付加により、このフェニルアラニン残基の位置が27番目からシフトしたとしてもこのフェニルアラニン残基は残存させておくことを意味する。
【0016】
4.:
下記(C)又は(D)に示すタンパク質をコードするDNA。
(C)配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(D)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、先頭から27番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、野生型yweBに比して7℃以上の耐熱性を備えたグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。ここで、先頭から27番目以外のアミノ酸を置換等するとは、配列番号4の先頭から数えて27番目に位置するフェニルアラニンを据え置き、他のアミノ酸配列を置換等することを意味する。したがって、例えば欠失、付加により、このフェニルアラニン残基の位置が27番目からシフトしたとしてもこのフェニルアラニン残基は残存させておくことを意味する。
【0017】
5.:
下記(E)又は(F)に示すタンパク質。
(E)配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(F)配列番号5に記載のアミノ酸配列において、先頭から144番目と27番目の2つのアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、野生型yweBに比して7℃以上の耐熱性を備えたグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。ここで、先頭から144番目と27番目の2つのアミノ酸以外のアミノ酸を置換等するとは、配列番号5の先頭から数えて144番目に位置するアルギニンと27番目に位置するフェニルアラニンを共に据え置き、他のアミノ酸配列を置換等することを意味する。したがって、例えば欠失、付加により、このアルギニン残基とフェニルアラニン残基の位置がそれぞれ個別にシフトしたとしてもこのアルギニン残基とフェニルアラニン残基は残存させておくことを意味する。
【0018】
6.:
下記(E)又は(F)に示すタンパク質をコードするDNA。
(E)配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(F)配列番号5に記載のアミノ酸配列において、先頭から144番目と27番目の2つのアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、野生型yweBに比して7℃以上の耐熱性を備えたグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。ここで、先頭から144番目と27番目の2つのアミノ酸以外のアミノ酸を置換等するとは、配列番号5の先頭から数えて144番目に位置するアルギニンと27番目に位置するフェニルアラニンを共に据え置き、他のアミノ酸配列を置換等することを意味する。したがって、例えば欠失、付加により、このアルギニン残基とフェニルアラニン残基の位置がそれぞれ個別にシフトしたとしてもこのアルギニン残基とフェニルアラニン残基は残存させておくことを意味する。
【0019】
7.:
上記2.4.または6.に記載のDNAによりコードされるタンパク質が発現可能な形態で導入された微生物。
【0020】
8.:
上記7.に記載の微生物を培地で培養し、培養物中にグルタミン酸脱水素酵素を生成蓄積させ、該培養物よりグルタミン酸脱水素酵素を採取することを特徴とするグルタミン酸脱水素酵素の製造方法。
【0026】
なお、本発明では、耐熱性を有するとは、変異させる前、則ち野生型(WT)のBacillus subtilis由来GluDH(yweB)に比して失活温度Tmが上昇していることをいう。また、以降ではBacillus subtilis由来GluDH(yweB)を単にyweBとのみ表記する場合がある。
【0027】
【発明の実施の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は記載した形態のみに限定されるものではなく、本明細書の記載およびび当分野で公知の技術に基づいて当業者が容易に修飾およびび改変し得る技術については本発明の範囲内に含まれるものである。なお、本明細書において、定方向進化とは、変異導入、選択、選択した変異体の増幅と、その変異体への更なる変異導入を繰り返し行うことにより、目的とする機能を向上させる手法をいう。
【0029】
ここでは、まず、Bacillus subtilis由来GluDH遺伝子のクローニングについて述べ、続いて、Bacillus subtilis由来GluDHの精製について言及する。そして、従来明らかでなかったBacillus subtilis由来GluDH(yweB)の性質について述べ、最後に、Bacillus subtilis由来GluDH(yweB)の耐熱化について詳細に述べる。なお、遺伝子の単離およびびこの遺伝子を含有する組み換えベクターの作成、組み換えベクターによる形質転換体の作成、並びに形質転換体の培養等に関しては公知の方法、例えばモレキュラー・クローニング(コールドスプリングハーバー出版社、1989年)、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(ウィリー・インターサイエンス出版社、1989年)等に挙げられている方法を組み合わせて行うことができるので、その詳細な記載を省略する。
【0030】
〔Bacillus subtilis由来GluDH遺伝子のクローニング:染色体DNAの調製〕
まず、Bacillus subtilis由来グルタミン酸脱水素酵素遺伝子をクローニングするため、Bacillus subtilis ATCC 23857をLB培地2 ml で37℃、18〜20 hr振とう培養を行い、遠心(15000rpm, 5分)にて集菌後、CTAB(hexadecyltrimethylammonium bromide)法(Nucleic Acids Research, 8, 4321-4325, 1980)を用いて染色体DNAの調製を行った。
【0031】
〔Bacillus subtilis由来GluDH遺伝子のクローニング:PCR によるGluDH 遺伝子の増幅〕
次に、目的遺伝子(yweB, ypca)の塩基配列情報 (EMBL Z99123, EMBL L47648)に基づきプライマーをデザインし、PCRを用いてyweBおよびypcAを含むDNA断片の増幅を行った。yweBとypcAは共に、Bacillus subtilis由来のGluDHである。
【0032】
センスプライマーは図1に示す要領でデザインした。センスプライマー(配列番号6、7参照)の5'末端にはBamHIサイトを、アンチセンスプライマー(配列番号8、9参照)にはPstIサイトをつけてデザインした。
【0033】
図2に、実験に用いたPCR反応液の成分構成を示す。また、図3に、PCRサーマールサイクラー条件を示す。なお、実験では、Takara DNA Thermal CyclerのPCR装置を用いた。
【0034】
〔Bacillus subtilis由来GluDH遺伝子のクローニング:形質転換大腸菌の作製〕以上の手段ないし工程により、CTAB 法によるゲノムDNAの調製を行い、PCR により増幅させたyweB、ypcAを得た。得られたPCR増幅産物(yweB, ypcA共に約1.4kb)をアガロースゲル電気泳動で分離した後、そのバンドを切り出し、GENE CLEAN II(フナコシ社製)により精製した。これらのDNA断片は、それぞれpUC18ベクター(タカラ酒造社製)のBamHIおよびPstIサイトにライゲーションし組み換えDNAを得た。得られた組み換えDNAを大腸菌(E. coli) MV1184コンピテントセル(日本ジーン社製)に導入し形質転換した。 形質転換株はLBプレート(アンピシリン、X-Gal、IPTG含有)上でホワイトコロニーを形成することで選択した。この形質転換株からアルカリ-SDS法によりプラスミドDNAを調製し、一部をBamHIとPstIで制限酵素処理し、電気泳動によりインサートDNAを確認した。これらの形質転換体の保持していたプラスミドを、yweB形質転換体についてはpYWE、ypcAについてはpYPCと命名した。yweB形質転換株については、SDS-PAGEでタンパク発現が確認でき、GluDH 活性も確認された。ypcA形質転換株についてはSDS-PAGEでの発現確認はできたが、GluDH活性は全く検出されなかった。
【0035】
〔GluDHの活性測定〕
還元型補酵素NADH は340 nm に吸収極大をもつ。このことを利用して反応時の340nm におけるNADH(分子吸光係数6.2 mmol-1・cm-1)の吸収の増減を追跡することにより活性測定を行った。活性(Activity)の表示は、1 分間に1 μmol のNAD+あるいはNADHの生成を触媒する酵素量を1 unit と定義し、比活性は1 mg protein 当たりのunit 数でunits/(mg protein) と表した。
【0036】
活性の評価式を式2に示す。
【式2】
また、アミノ化反応の概要を図4に、脱アミノ反応の概要を図5に示した。なお、タンパク量は、Bio-Rad Protein Assay Kit(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)を用い、牛血清アルブミンを標準タンパク質として検量線を作成し、そのタンパク量を求めた。
【0037】
〔Bacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の精製〕
精製にあたっては、E.coli MV1184/ yweB clone を、50 mg/ml Amp 3 μl を含むLB培地3 ml で37℃、18〜20 hr振とう培養を行い、次いで50 mg/ml Amp 750μl、1 M IPTG 150 μl を含むLB 培地750 ml にスケールアップし、18〜20 hr、37℃で振とう培養し、遠心8,000 rpm 10 min で集菌した。最終的には、図6に示した方法(30〜40%飽和硫安沈殿工程、イオン交換(DEAE)カラム工程、疎水性(Butyl)カラム工程)で精製した。最終精製倍率は約19 倍であり、図7に示したように、SDS-PAGE の結果からもほぼ均一に精製されていることが確認された。なお、精製表を図8に示した。
【0038】
〔Bacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の性質〕
次に、精製されたBacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の主な物理化学的および酵素化学的性質を調べた。
【0039】
〔Bacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の性質: N 末端アミノ酸配列決定〕
タンパク質の精製後、データベースに登録されている配列(SWISS-PROT; P39633)と確認するためにN 末端アミノ酸配列の確認を行った。方法として、PVDF膜を用いたエレクトロブロッティングによる調製を行った。サンプルを調製後、プロテインシーケンサー(島津製作所PPSQ-10)による解析を行った。
【0040】
15 cycles 行った結果、N 末端より15 残基についてデータベースに登録されている配列と同じであることを確認できた。なお、データベースに登録されている配列を、配列番号2に示す。
【0041】
〔Bacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の性質:項分子量の検討〕
Native 酵素の分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィーを用い、分子量マーカー(オリエンタル酵母工業社製:Glutamate dehydrogenase;290,000、Lactate dehydrogenase;142,000、Enolase;67,000、Myokinase;32,000、Cytochrome;12,400)を流し、その溶出時間より作製したキャリブレーションカーブから換算した。サブユニット分子量は、最終精製酵素標品を12.5% SDS-PAGE で泳動し、分子量マーカー(Pharmacia:Phosphorylaseβ;94,000、Albumin;67,000、Ovalbumin;43,000、Carbonic Anhydrase;30,000)との相対移動度の比較およびMALDI-TOF-Mass(PerSeptive Voyager DE-RP) スペクトル分析により算出した。
【0042】
その結果、Native 分子量は約270,000と算出された。サブユニット分子量はSDS-PAGE で約46,000、MALDI-TOF-Mass スペクトルで46,587であり、アミノ酸配列より予想される分子量46,638と極めて近い値が得られた。この結果、他の多くのGluDH 同様、本酵素は六量体であると考えられる。なお、図9に、分子量の検討結果を示した。
【0043】
〔Bacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の性質:最適pH の測定〕
本酵素の最適pH を、アミノ化、脱アミノ反応のそれぞれで活性測定を行うことにより決定した。Buffer は、pH 6.3〜7.6 でKP Buffer、pH 7.0〜8.8 でTris-HCl Buffer、pH 8.8〜9.6 でCarbonate Buffer を使用した。図10に示したように、yweBの最適pH はアミノ化反応ではpH 7.3 付近、脱アミノ反応ではpH 7.7
付近であった。
【0044】
〔Bacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の性質:反応速度論的解析〕
本酵素について、Kinetic Parameter の解析を行った。具体的には、kcatと Kmを求めた。また、kcat 値は、酵素の代謝回転数(turn number)または触媒定数と呼ばれ、酵素の活性部位が単位時間(通常1秒)ごとに触媒する反応回数(回転数)を表す。
【0045】
kcatと比活性と酵素の分子量の関係は式3で与えられる。
【式3】
なお、kcat / Km 値は見かけの二次反応速度定数であり、遊離の酸素と基質との間の反応性を示すため、酸素の触媒効率を表す指標となる。
【0046】
Km 値は、アミノ化反応、脱アミノ反応の両反応でそれぞれの基質を様々な濃度で測定し、Lineweaver-Burk の逆数プロットから求めた。kcat 値は、サブユニットあたりの1分間1 mg の酵素により触媒される生成量として表した。結果を図11に示す。他の多くのアミノ酸脱水素酵素と同様、アミノ化反応の2-オキソグルタル酸に対するkcat値は対応するL-グルタミン酸の脱アミノ反応に比べてかなり高いことが認められたが、その比率は20 分の1 と他のGluDH と比較して脱アミノ反応が低くなった。Km値においても、ほぼ他のGluDH 同様の値でアンモニアに対する値がかなり高くなることが確認できた。
【0047】
〔Bacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の性質:基質特異性〕
本酵素の基質特異性は、様々な補酵素、アミノ酸、ケト酸を指定濃度になるように加えて行った。反応はそれぞれのアミノ化、脱アミノ反応で行った。図12に示したように、本酵素はNADH およびNAD+を補酵素とし、2-オキソグルタル酸とL-グルタミン酸に対して高い特異性を示すことが確認された。
【0048】
〔Bacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の性質:耐熱性の検討〕
酵素を各温度で20 分間熱処理した後、アミノ化反応における残存活性を熱未処理の活性を100 としたときの相対活性として示した。また各酵素を様々な温度で20 minの熱処理後、50 %の残存活性を示す温度を失活温度Tm 値(Melting Temperature)として求めた。また、NADH を0.4 mM 加えて同様の処理を行い各酵素の残存活性を求めた。タンパク質濃度による保護効果の耐熱性への影響に考慮し、タンパク質濃度をほぼ等しくして実験を行った。図13に示したように、30℃付近より失活が認められた。50%の失活温度(Tm)は41℃であった。NADH 添加においても大幅な増強は見られなかった。
【0049】
さらに、本酵素を様々な温度でインキュベート後の残存活性を検討した。図14に示したように、野生型のyweBは非常に不安定であり、37℃ 30 min で、20%程度にまで残存活性が低下することが確認された。また45℃以上では、最初の10 min で急激な失活が起こり、その後時間と共に緩やかに低下してゆくという、二相性も観察された。なお、図では、各温度の0 min での活性を100 としたときの相対活性を対数で表示している。
【0050】
また、ここでは詳述しないが、本発明者は、別途検討により、尿素や塩酸グアニジンといったタンパク質の変性剤に対しても低い濃度で変性失活が生じることを確認している。また、酵素濃度の低下にしたがって、四次構造がくずれ、六量体から三量体あるいは二量体、単量体(サブユニット)となり、失活するという知見を得ている。
【0051】
〔Bacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の耐熱化と解析:定方向進化戦略による耐熱化クローンの獲得〕
次に、yweBを定方向進化に基づく戦略を用い耐熱化を図った。定方向進化法としてError-prone PCR によるランダム変異導入法を用いた。ランダム変異導入はLeng らの方法に基づき、低濃度dATP でのError prone PCR 法で行った。まず、各0.25 mM dGTP、dCTP、dTTP と4 μΜの低濃度dATP の状態で10 cyclesのミスセンスエラー誘発PCR を行った。引き続き、0.25 mM dATP の添加により25 cyclesの増幅PCR を行った。Primer はpUC18 に対するSequencing Primers M13-RV(タカラ酒造社製)、M13-M4(タカラ酒造社製)を用いた。
【0052】
実験概要を図15に示した。耐熱化クローンのスクリーニングにはNitro blue tetrazolium(NBT)の還元による発色法を用いた。NBT の還元は一般的にNADH からPhenazine methosulfate(PMS)を介して好気的条件下でO2 ‐の形成を通して起こる。GluDH の反応によりL-グルタミン酸(L-glutamate) から2-オキソグルタル酸(2-OG)を生成する際にNAD+がNADH に還元し、図16に示した発色系が進行する。
【0053】
PCR 産物を電気泳動で確認後、増幅産物をBamHI、PstIで制限酵素処理し、pUC18 にライゲーション後、得られた組み換えDNAを大腸菌MV1184コンピテントセル(日本ジーン社製)に導入し形質転換した。LBプレート(アンピシリン、X-Gal、IPTG含有)上のホワイトコロニーをピックアップし、50 mg/ml Amp 3 μl、1 M IPTG 3 μl を含むLB 培地3 mlで37℃、一晩振とう培養を行い、遠心15,000 rpm 5 min で集菌した。0.5 mg/ml Lysozymeを含む抽出バッファー[50 mM KP buffer pH 7.2(2 mM EDTA)]50 μl を加えVoltex で撹拌した。37℃ 30 分間インキュベート後、遠心(15,000 rpm 5 min)し、上清10 μl を96-well plateに添加した。続いて、抽出バッファー140 μl を添加し、60℃で、20 min間インキュベートした。その後、GluDH反応液(100 mM Tris buffer pH 7.7、0.5 mM NAD+、10 mM L-Glu、0.15% TritonX-100、0.3 mM NBT、0.1 mM PMS)を添加し、37℃ 20 min インキュベート後のブルーフォルマザンの発色で耐熱化変異体を選択した。
【0054】
最も耐熱性の見られた変異体を選択し、Error-prone PCR によるランダム変異導入処理および耐熱化yweBのスクリーニングを計5回繰り返して行った。2回目以降のスクリーニングは、それぞれ70℃、20 min、75℃、20 min、80℃、20 min、80℃、 40 min で行った。
【0055】
最終的に60℃ 20 min の処理で残存活性約60%を示す変異体を獲得した。図17に組み換え変異体と耐熱性の関係を示す。図示したように、野生型の残存活性は約0.8%であった。得られたすべての変異体の全塩基配列決定を行い、明らかにした変異部位を図18に示す。表の左側の二つの数字(A-B)は変異体の識別に用いたものであり、Aはラウンド回数を、Bはコロニーナンバーを示す。表に示したように、1-14 はE27V、2-26 はE27V とW100R、3-50 はE27V とR324A、4-18はE27V とQ144R、5-12 はE27V とQ144R とG255A の変異が起こっていることが確認された。すべての変異体にE27V 変異が保存されており、急激な耐熱性の増加が見られる4-18 ではQ144R の変異が確認されている。
【0056】
〔Bacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の耐熱化と解析:変異酵素の作成〕
続いて、変異の確認されたE27V、W100R、R324A、Q144R、G255A それぞれの耐熱性への関与を検討するためにシングルミュータントの作製を行った。
【0057】
変異導入するにあたり、プラスミドpYWEを制限酵素BamHIとPstIで切断し、アガロースゲル電気泳動でyweBを分離した後、そのバンドを切り出し、GENE CLEAN II(フナコシ社製)により精製した。このDNA断片を、pKF18kベクター(タカラ社製)のBamHIおよびPstIサイトにライゲーションし組み換えDNAを得た。この際の宿主はE.coli JM109を使用しカナマイシン含有培地を用いてブルー/ホワイト セレクションにより組み換え体を選択した。また、変異導入用合成オリゴヌクレオチド(Mutagenic oligonucleotide)はSelection Primerとは反対側の鎖にアニーリングさせなければならないので、lacZ 遺伝子の−鎖と相補的になるよう設計した。変異導入に用いた合成オリゴヌクレオチドを、E27V に対しては配列番号10に、W100Rに対しては配列番号11に、R324Aに対しては配列番号12に、Q144Rに対しては配列番号13に、G255Aに対しては配列番号14にそれぞれ示す。
【0058】
変異導入はMutan-Super Express Km ( タカラ酒造社製 ) を用いて行った。このPCRについて図19に示した。これをE.coli MV118に形質転換し、カナマイシン含有培地を用いて変異組み換え体を選択した。選択したシングルコロニーからプラスミドDNA を調製してDNA塩基配列決定により変異の導入を確認した。
【0059】
変異の確認には、ABI PRISM, Dye Terminator Cycle Sequencing Kit (ABI)を用いるABI PRISM 377 DNA Sequencer (ABI)を使用した。変異確認用Primerは、ベクタープラスミドに対するPrimer RV、および本酵素遺伝子の配列確認のために作製されたオリゴヌクレオチドより、E27V にはM13 Primer RV(タカラ酒造社製)、W100R にはYw 5(配列番号15参照)、R324A にはYw 6(配列番号16参照)、Q144R にはYw 2(配列番号17参照)、G255A にはYw 3(配列番号18参照) を選んで使用した。
【0060】
変異確認ができたコロニーよりプラスミドを調製し、BamHIとPstIで制限酵素処理、発現ベクターpUC18 へライゲーションし、E.coli MV1184 を形質転換した。このときLB-プレート(アンピシリン、X-Gal、IPTG含有)でブルー/ホワイトセレクションにより選択する。生育してきたコロニーからプラスミドを調製し、アガロースゲル電気泳動により、サイズ確認を行った。得られた形質転換株についてSDS-PAGEを用いて発現確認を行ったところ、すべてに発現が確認され、GluDH活性も認められたので耐熱性を含めて性質を調べた。
【0061】
〔Bacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の耐熱化と解析:変異酵素の耐熱性検討〕
各変異酵素の耐熱性をCrude extractで検討した。LB 培地40 ml(50 mg/ml Amp 40 μl、1 M IPTG 40 μl)で18〜20 hr、37℃で振とう培養後、超音波破砕し、遠心分離によりCrude extractを調製した。50、60℃ 20 min の熱処理後の残存活性を検討した。ここで、熱未処理のものの活性を100 としたときの相対活性で示した。図20に結果を示す。
【0062】
図に示したように、Q144R変異体について顕著な耐熱性の上昇が確認された。統合計算化学システムMOE(Chemical Computing Group Inc. )のホモロジーモデリング機能で、Thermococcus litoralis GluDHの三次元座標をテンプレートとしてyweBおよびこれらの変異酵素の三次元構造モデル並びに四次構造モデルを作製した。図21は、作製したyweB四次構造モデルの概観図である。なお、図は、二量体を示しており、上下のサブユニットが上下対称となっていることがわかる。また、図の中央にQ(グルタミン)を明示したように、本酵素は144番目のアミノ酸残基がきわめて近接した場所に位置している。六量体はこの上下の対が三組束になった構造をとる。
【0063】
解析の結果、Q144 は構造上でサブユニット間のインターフェース部分(上下のサブユニット対の境界面部分)に位置しており、この部位が塩基性残基のArg に置換されることで、相手方のサブユニットの主鎖とArgのグアニジノ基との間で水素結合が形成され、サブユニットインターフェースが安定化したと思料される。また、E27V についても僅かながら耐熱性の増加が見られた。E27 は構造上で二つのドメイン間のヒンジ領域に位置している。この部位が疎水性アミノ酸に置換され、疎水性コアパッキングが増すことで安定化に影響を与えたと思料される。
【0064】
〔Bacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の耐熱化と解析:変異酵素の作製〕
次に、より高い熱安定性をもった変異体を獲得するために、さらに変異体の作製を行った。Q144 に関しては、正電荷を与えるK、H、負電荷を与えるD、E、疎水性残基であるL、サブユニット間のスペースを大きくするA、N、そしてサブユニット間のジスルフィド結合が期待されるC への置換を行った。E27 に関しては、疎水性残基であるF、正電荷を与えるK、R、そして構造上サイズの小さくなるAへの置換を行った。変異体の作製については前述のシングルミュータントの作製と同様に行った。
【0065】
変異導入に用いた合成オリゴヌクレオチドを、Q144Dに対しては配列番号19に、Q144Eに対しては配列番号20に、Q144Kに対しては配列番号21に、Q144Hに対しては配列番号22に、Q144Nに対しては配列番号23に、Q144Aに対しては配列番号24に、Q144Lに対しては配列番号25に、Q144Cに対しては配列番号26に、E27Kに対しては配列番号27に、E27Rに対しては配列番号28に、E27Aに対しては配列番号29に、E27Fに対しては配列番号30にそれぞれ示す。
【0066】
〔Bacillus subtilis 由来GluDH(yweB)の耐熱化と解析:変異酵素の耐熱性検討〕
得られた各変異酵素の耐熱性をCrude extractで検討した。LB 培地40 ml(50 mg/ml Amp 40 μl、1 M IPTG 40 μl)で18〜20 hr、37℃で振とう培養後、超音波破砕し、遠心分離によりCrude extractを調製した。50、60、70℃ 20 min の熱処理後の残存活性を検討した。ここで熱未処理のものの活性を100 としたときの相対活性で示した。
【0067】
図22および図23に結果を示す。図に示したように、Q144 に関しては、元々の変異体であるQ144R が最も高い熱安定性を示した。E27 に関しては、E27F が50℃での残存活性が約66%と最も高い値を示した。
【0068】
よって、Q144 については、50℃での残存活性が30%以上を示したQ144R、C、D、および正電荷を与えるものとしてK を選び、E27 については、50℃での残存活性が30%以上を示したE27F、K および元々の変異体であるV を選び更なる検討を行った。検討に際しては、変異酵素Q144R、C、D、K、E27F、K、V そして変異体獲得における最終産物5-12 の培養を行い、硫安沈殿、DEAE カラムまでの部分精製(純度60%以上)を行い、耐熱性の検討、および反応速度論的解析を行った。Q144RおよびE27Fについては、上記精製工程の後にButylカラム工程を加え純度95%以上にまで精製したものを用いた。耐熱性の検討については、様々な温度で20 min インキュベート後の残存活性を検討し、それぞれの50 %の残存活性を示す温度をTm 値(MeltingTemperature)として求めた。熱未処理のものの活性を100 としたときの相対活性で示した。反応速度論的解析については、アミノ化反応における各基質のKm 値の測定を行った。また、変異酵素Q144R、E27F について、酵素を様々な濃度の下で4℃ 30 min 放置した前後の残存活性を検討した。
【0069】
図24〜図27に結果を示す。図示したように、Q144 については、Q144R がTm値約62℃と野生型と比べて約20℃の上昇が見られた。他の変異酵素についても、多少の上昇が見られた。前述のように、Q144 は構造上でサブユニット間のインターフェース部分に位置しており、この部位が塩基性残基のArg に置換されることで、対を形成する相手方のサブユニットの主鎖とArg のグアニジノ基との間で水素結合が形成され、イオン対ネットワーク(ion-pair net-work)効果によりサブユニットインターフェースが安定化したと思料される。
【0070】
E27 については、E27F がTm 値約48℃と野生型と比べて約7℃の上昇が見られた。E27は構造上で分子表面に位置している。始めに見つかったE27V よりもE27Fの方がTm 値の増加(約7℃)が見られることから、同じ疎水性残基でも構造的に大きいサイズのものになることによって分子内の空洞(Cavity)をなくし、このスペースを最密充填に近づけ安定性の増加につながったのではないかと示唆される。
【0071】
Km 値について野生型のものと比較して大幅な変化は見られなかった。精製標品としてQ144R、E27F についてのkcat 値を算出した結果、野生型よりも増加が見られた(図24および図25参照)。これは安定性が増加したことで、反応速度に影響を及ぼしたためと考えられる。また、これらの変異部位では模型図の観察などから酵素活性に与える影響は少ないと思料された。
【0072】
注目すべきは比活性である。ここで、Q144Rタイプが、耐熱性を有する従来のGluDHと比較し、常温で著しく高活性であることを示す。図25で示したkcatはアミノ化の際の値であるが、Q144Rの脱アミノ(deaminating)のkcatは37℃で22.8であった。これを式3に当てはめると、Q144Rの脱アミノの比活性が29.8U/(mg protein)であることが分かる。一方、従来技術で挙げた特開平6−38744号に開示されるBacillus acidocaldarius GluDHの37℃における脱アミノの比活性は2.1 U/(mg protein)である。したがって、どちらのGluDHもNAD型で、著しい耐熱性を示すが、本変異酵素は37℃で比活性が29.8/2.1≒14倍高いことが確認された。
【0073】
また、Q144R、E27F について、タンパク濃度の影響を検討してみたところ、低タンパク濃度下で野生型に比して安定性の増強が見られる(図27参照)。この結果からも、変異によりサブユニット間の相互作用が安定化され、四次構造の解離を防ぐ結果となったと思料される。
【0074】
なお、図28に二量体構造を、図29に六量体構造の概念図を示した。計算機上で二量体を回転させたところ、Q144は二量体の二回軸近傍に位置していることが確認できた。二回軸とは二量体を180度回転させたときに一致する対象軸である。Q144RがTm値の著しい上昇をもたらす一因として、二回軸近傍に上下のサブユニットの橋渡しをする水素結合が形成されたことが挙げられる。したがって、本発明では、適宜Q144前後のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入、付加などして、サブユニット間の境界面付近または回転軸付近に水素結合の数を増やすように設計した酵素としても良い。
【0075】
【発明の効果】
以上説明したように、グルタミン酸脱水素酵素yweBの耐熱化を目的として、ランダムPCR とNBT の還元発色によるスクリーニングとを組み合わせ、合計5 ラウンドの変異導入を行い、最終的に60℃ 20 min の処理で残存活性約60%を示す変異体が獲得できた。これは、野生型と比較してTm 値が22℃も上昇した変異体であり、酵素の耐熱化が種々報告されている中、類を見ないほどの上昇であることが確認できた。
【0076】
また、全塩基配列決定し変異確認を行ったところ、Q144およびE27の変異が耐熱性に貢献していたので、この部位のアミノ酸残基を種々置換して検討を行った結果、Q144R 変異体のTm 値が野生型と比べて20℃上昇し、E27F 変異体のTm値は野生型と比べて約7℃上昇することが確認できた。
【0077】
Q144R、E27F 変異体について、タンパク濃度の影響を検討してみたところ、野生型と比して明らかに低タンパク濃度下で安定性の増強が見られた。
【0078】
また、耐熱性を備えNAD型のGluDHであるBacillus acidocaldarius GluDHと比較しても、37℃における脱アミノの比活性が14倍高く、高い活性を示すことが確認できた。
【0079】
したがって、本発明によれば、耐熱性があり、常温(15−40℃)程度の温度環境下における活性が高い酵素であって、NADを補酵素とするグルタミン酸脱水素酵素、当該グルタミン酸脱水素酵素をコードするDNA、当該グルタミン酸脱水素酵素が発現可能な形態で導入された微生物、および、当該グルタミン酸脱水素酵素の製造方法を提供できた。
【0080】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】プライマーのデザインを示した図である。
【図2】実験に用いたPCR反応液の成分構成を示した図である。
【図3】 PCRサーマールサイクラー条件を示した図である。
【図4】アミノ化反応の概要を示した図である。
【図5】脱アミノ反応の概要を示した図である。
【図6】精製法の手順を示した図である。
【図7】 SDS-PAGE により精製の確認を示した図である。
【図8】精製表を示した図である。
【図9】分子量の検討結果を示した図である。
【図10】最適pHの検討結果を示した図である。
【図11】 GluDHのカイネティックスパラメーターを示した図である。
【図12】基質特異性の検討結果を示した図である。
【図13】耐熱性の検討結果を示した図である。
【図14】 GluDH安定性における熱と時間効果の検討結果を示した図である。
【図15】耐熱化クローンを得るための実験概要を示した図である。
【図16】活性染色法によるスクリーニング系を示した図である。
【図17】野生型(WT)および変異体GluDHの耐熱性検討結果を示した図である。
【図18】変異酵素の変異部位を示した図である。
【図19】変異導入PCRのプロトコルを示した図である。
【図20】変異酵素の残存活性について示した図である。
【図21】 yweB四次構造モデルの概観図である。
【図22】 Q144の変異酵素の耐熱性を示した図である。
【図23】 E27の変異酵素の耐熱性を示した図である。
【図24】野生型および変異酵素のカイネティックスパラメーターとTM値を示した図である。
【図25】野生型および変異酵素のカイネティックスパラメーターを示した図である。
【図26】野生型および各変異酵素の耐熱性を示した図である。
【図27】
野生型および変異酵素のタンパク濃度の関係を示した図である。
【図28】四次構造(二量体)の変異部位を拡大した図である。
【図29】六量体構造の概念図を示した図である。
Claims (8)
- 下記(A)又は(B)に示すタンパク質。
(A)配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号3に記載のアミノ酸配列において、先頭から144番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、野生型yweBに比して7℃以上の耐熱性を備えたグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。 - 下記(A)又は(B)に示すタンパク質をコードするDNA。
(A)配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号3に記載のアミノ酸配列において、先頭から144番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、野生型yweBに比して7℃以上の耐熱性を備えたグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。 - 下記(C)又は(D)に示すタンパク質。
(C)配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(D)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、先頭から27番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、野生型yweBに比して7℃以上の耐熱性を備えたグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。 - 下記(C)又は(D)に示すタンパク質をコードするDNA。
(C)配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(D)配列番号4に記載のアミノ酸配列において、先頭から27番目のアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、野生型yweBに比して7℃以上の耐熱性を備えたグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。 - 下記(E)又は(F)に示すタンパク質。
(E)配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(F)配列番号5に記載のアミノ酸配列において、先頭から144番目と27番目の2つのアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、野生型yweBに比して7℃以上の耐熱性を備えたグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。 - 下記(E)又は(F)に示すタンパク質をコードするDNA。
(E)配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(F)配列番号5に記載のアミノ酸配列において、先頭から144番目と27番目の2つのアミノ酸以外の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、野生型yweBに比して7℃以上の耐熱性を備えたグルタミン酸脱水素酵素活性を有するタンパク質。 - 請求項2、請求項4又は請求項6に記載のDNAによりコードされるタンパク質が発現可能な形態で導入された微生物。
- 請求項7に記載の微生物を培地で培養し、培養物中にグルタミン酸脱水素酵素を生成蓄積させ、該培養物よりグルタミン酸脱水素酵素を採取することを特徴とするグルタミン酸脱水素酵素の製造方法。
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