JP3777229B2 - 耐摩耗性・非粘着性コーティング剤および摺動部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コーティング剤および摺動部材に関し、とくに耐摩耗性および非粘着性に優れたコーティング剤およびそれを用いた摺動部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
製品あるいは部位それ自身を非粘着性部材で作製することが困難な摺動部材にあっては、通常非粘着性コーティング剤を表面に塗布することにより、非粘着性被覆層を形成して非粘着性製品あるいは部位とすることが行われている。
従来、このような非粘着性コーティング剤としては、固体潤滑剤を結着性樹脂などに配合したものが知られており、固体潤滑剤には、二硫化モリブデン、フッ素系樹脂、グラファイト等が、結着性樹脂には、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が多用されている。
また、非粘着性とともに耐摩耗性を付与する必要がある場合、被覆層にチタン酸カリクムウィスカやウォラストナイト等の針状や燐片状の各種充填剤を添加したコーティング剤も知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、固体潤滑剤と結着性樹脂とからなるコーティング剤は、耐摩耗性が十分でなく、コーティング剤により形成された被覆層が経時的に短期間で摩耗し基材の下地が露出しやすいという問題があった。
また、針状や燐片状の各種充填剤を添加したコーティング剤の場合、簡易な塗布方法が困難であったり、被覆層の表面粗さが著しく粗くなったり、自身の耐摩耗性は向上したが相手材を摩耗させたり、非粘着性を低下させたりする問題があった。このように、実用性があり耐摩耗性と非粘着性を両立させたコーティング剤は得られていないのが実情である。
さらに、コーティング剤を塗布することにより、非粘着性被覆層を形成してなる摺動部材は、耐久性に劣るとの問題があった。
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、簡易な塗布方法で耐摩耗性と非粘着性を両立させることのできる耐摩耗性・非粘着性コーティング剤およびそれを用いて耐摩耗性・非粘着性被覆層を形成してなる摺動部材を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る耐摩耗性・非粘着性コーティング剤は、固形分がポリテトラフルオロエチレン樹脂 100 重量部とポリアミドイミド樹脂 100 〜 150 重量部と酸化鉄粉末 5 〜 20 重量部とからなることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る摺動部材は、基材表面に摺動性被覆層を有してなる摺動部材であって、摺動性被覆層が上述の耐摩耗性・非粘着性コーティング剤を用いて形成された樹脂被覆層であることを特徴とする。
【0008】
本発明は、酸化鉄粉末をフッ素系樹脂および耐熱性樹脂に配合することにより、スプレーコーティングなどの簡易な塗布方法で耐摩耗性と非粘着性を両立させることができるとともに、耐久性に優れた摺動部材が得られることを見出だしたことに基づきなされたものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に使用される酸化鉄粉末、フッ素系樹脂および耐熱性樹脂について説明する。
本発明に使用することのできる酸化鉄粉末は、酸化鉄(II)、三酸化二鉄、四酸化三鉄等があり、いずれも使用することができる。これら酸化鉄の形状は、球状、鱗片状、針状などあらゆる形状の粉末が使用できる。酸化鉄粉末の平均粒径は、いかなる粒径であってもよいが、たとえば0.1 μm 〜10μm 、具体的には 0.1μm 〜1 μm が好ましく、より好ましくは 0.2μm 〜0.5 μm である。平均粒径が0.1 μm 未満であると、凝集して分散性が悪くなり、1 μm を越えると被覆層の耐摩耗性が安定しなくなる。なお、酸化鉄粉末の平均粒径はBET法により測定することができるが、とくにこの測定方法に限られるものでなくてもよい。
【0010】
本発明に使用することのできるフッ素系樹脂は、低摩擦で非粘着性を被覆層に付与でき、かつ摺動部材の使用温度雰囲気に耐える耐熱性を有するものであれば使用することができる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(融点 327℃、連続使用温度 260℃、以下、 PTFE と略称する)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(融点 270℃、連続使用温度 200℃)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(融点 310℃、連続使用温度 260℃)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(融点 270℃、連続使用温度 150℃)、ポリクロロトリフルオロエチレン(融点 210℃、連続使用温度 120℃)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(融点 240℃、連続使用温度 150℃)などが挙げられる。これらは、それぞれ単独もしくは、 2種以上の共重合体や 3元共重合体等であってもよい。
【0011】
このうち PTFE は、−CF2 CF2 −の繰り返し単位より構成され、約 340〜 380℃で溶融粘度が約1010〜1011Pa・s と高く、融点を越えても流動し難く、フッ素系樹脂の中では最も耐熱性に優れており、また、低温下でも優れた性質を示し、摺動性、非粘着性(接触角 104°(対水))にも優れており、本発明に好適である。このような理由から、本発明で使用される用途部位は、たとえば -273 ℃〜 260℃の雰囲気下での使用部位はもとより、耐熱性を利用して常温(たとえば 20 ℃〜 25 ℃)以上、とくに 60 ℃〜 260℃の雰囲気下で連続使用される部位に適していると考えられる。
PTFE の中でも使用に際しては、滑剤級の粉末 PTFE を用いるのがとくに好ましい。滑剤級の粉末 PTFE の市販品としては、フルオンL169、同170、同171(以上、英国アイ・シー・アイ社製商品名)、ポリフロンM15、ルブロンL−2、同L−5、同LD−1(以上、ダイキン工業社製商品名)、テフロン7J、同TLP−10、同TLP−10F−1(以上、デュポン社製商品名)、フルオンG163(旭硝子社製商品名)等を挙げることができる。ここで滑剤級の粉末 PTFE とは、一度焼成した PTFE を粉砕した再生 PTFE や、 PTFE にγ線照射処理をして低分子量化した PTFE 粉末をいう。γ線照射処理をした市販の潤滑剤用 PTFE としては、喜多村社製商品名、KT400Hを例示することができる。
【0012】
PTFE の形態は、成形用の粉末であってもよく、また、いわゆる固体潤滑剤の微粉末であってもよい。その平均粒径は 0.1〜20μm 、好ましくは 0.2〜10μm の範囲である。平均粒径がこの範囲内にあると、コーティング剤中で凝集などを起こさず、また塗布乾燥焼成後の被覆層の平滑性が維持される。
【0013】
本発明に使用することのできる耐熱性樹脂は、摺動部材の使用時に熱劣化することのない耐熱性と、フッ素系樹脂粉末を結着させ、コート層を下地に強固に密着させることのできる樹脂であれば使用することができる。具体的には、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、シリコーン系樹脂などを挙げることができる。これらの中でもポリイミド系樹脂が耐熱性と下地との密着性に優れているため好ましい。
【0014】
本発明に使用することのできるポリイミド系樹脂とは、分子内に少なくともイミド結合を有する樹脂であって、摺動部材の使用時に熱劣化することなく、フッ素系樹脂と酸化鉄粉末とを結着するとともに、下地との接着性に優れた樹脂であれば使用することができる。たとえばポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルアミドイミド樹脂等を挙げることができる。
これらポリイミド系樹脂の中で、ポリイミド樹脂およびポリアミドイミド樹脂が好適である。また、イミド結合またはアミド結合とが芳香族基を介して結合している芳香族系ポリイミド樹脂または芳香族系ポリアミドイミド樹脂がとくに好ましい。芳香族系樹脂であると、フッ素系樹脂と酸化鉄粉末との結着性に優れ、かつ得られる被覆層の耐熱性が優れる。
【0015】
ポリイミド樹脂は、酸二無水物とジアミンとをN-メチル-2- ピロリドン(NMP)やジメチルアセトアミド(DMAC)等の非プロトン系極性溶媒中で開環重付加反応により得られるポリイミド前駆体のポリアミドカルボン酸を加熱脱水閉環することなどにより得られる。耐摩耗性・非粘着性コーティング剤における樹脂成分としては、ポリアミドカルボン酸の状態であっても、またポリイミドの状態であっても、さらにはこれらが混在している状態であっても使用することができる。
【0016】
ポリアミドイミド樹脂は、分子内にイミド結合とアミド結合とを有する樹脂である。また、芳香族系ポリアミドイミド樹脂のイミド結合は、ポリアミド酸などの前駆体であっても、また閉環したイミド環であってもよく、さらにはそれらが混在している状態であってもよい。
このような芳香族系ポリアミドイミド樹脂は、芳香族第一級ジアミン、たとえばジフェニルメタンジアミンと芳香族三塩基酸無水物、たとえばトリメリット酸無水物のモノまたはジアシルハライド誘導体から製造されるポリアミドイミド、芳香族三塩基酸無水物と芳香族ジイソシアネート化合物、たとえばジフェニルメタンジイソシアネートとから製造されるポリアミドイミドなどがあり、さらに、アミド結合に比べてイミド結合の比率を大きくしたポリアミドイミドとして、芳香族、脂肪族または脂環族ジイソシアネート化合物と芳香族四塩基酸二無水物および芳香族三塩基酸無水物とから製造されるポリアミドイミド等があり、いずれのポリアミドイミド樹脂であっても使用することができる。
【0017】
本発明に係る耐摩耗性・非粘着性コーティング剤により形成される樹脂被覆層における各成分の配合割合は、フッ素系樹脂 100重量部に対して、ポリイミド系樹脂 100〜 150重量部および酸化鉄粉末 5〜 20 重量部である。それぞれの成分をこの範囲に配合することにより、ポリイミド系樹脂を結着剤として、フッ素系樹脂を耐摩耗性向上剤として、その機能を発揮させることができる。
フッ素系樹脂 100重量部に対して、ポリイミド系樹脂が 100重量部未満であると、被覆層の密着性を損ない、剥がれの原因となる。また 150重量部を越えると、摺動特性および非粘着性を損ねるため好ましくない。
また、フッ素系樹脂 100重量部に対して、酸化鉄粉末 5重量部未満であると、耐摩耗性が向上せず、 20 重量部を越えると下地と被覆層との密着性を低下する。
【0018】
本発明に係るコーティング剤は、ディッピングやスプレーコーティングの場合には、フッ素系樹脂とポリイミド系樹脂と酸化鉄粉末とを溶剤類に分散または溶解させることにより得られる。
溶剤類としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルクロロホルム、トリクロロエチレン、トリクロロトリフルオロエタン等の有機ハロゲン化化合物類、N-メチル-2- ピロリドン(NMP)、メチルイソピロリドン(MIP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)等の非プロトン系極性溶剤類などを使用することができる。これらの溶剤類は、単独または混合物として使用することができる。
【0019】
ディッピングやスプレーコーティングに使用する場合のコーティング剤は、溶剤 100重量部に対して、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂および酸化鉄粉末の固形分が 5〜100 重量部(固形分濃度として、4.76〜 50 重量%)配合割合してなり、好ましくは固形分が 25 〜 50 重量部(固形分濃度として、 20 〜 50 重量%)である。固形分が 5重量部未満であると、下地層表面に十分な樹脂が付着しなくなる。また、過剰な溶剤分の処理工程が増えるため工程上不利となる。固形分が 100重量部を越えると、固形分量が多すぎることとなり、スプレーガン等の霧化手段のノズルの液づまりの原因となり易くなる。なお、コーティング剤に通常用いられるレベリング剤や分散剤などを添加することができる。
【0020】
上述のコーティング剤を下地面に塗布する方法は、ディッピング法(浸漬塗装法)、スプレーコート法(霧化塗装法)、刷毛塗り法など種々の方法を採用することができる。スプレーコート法(霧化塗装法)による塗装被覆方法では、塗布液が微小な粒子体となって被塗物に付着されるので、塗膜の厚みを精度よく形成することができる。
なお、粉体塗装などにより被覆層を形成することもでき、その場合は、無溶剤塗装となる。
【0021】
これらの方法により塗布された被覆層は、焼成後の厚さで 5〜 40 μm の層厚が好ましい。層厚が 5μm 未満であると、被覆層に片当たり等が生じた場合に局部的な摩耗が発生することがあり、 40 μm を越える層厚では、被覆層の剥離が発生しやすくなるので好ましくない。なお、被覆層の好適な層厚範囲は 10 〜 30 μm である。
【0022】
コーティング剤を塗布された摺動部材は乾燥後焼成される。乾燥は、 50 ℃〜 100℃の範囲で 30 分〜120 分保持させることが好ましい。これにより、塗膜の発泡などを抑えることができる。
【0023】
被覆層の焼成温度は耐熱性樹脂の種類によって異なるが、ポリアミドイミド樹脂の場合は 180〜280 ℃が適当である。 180℃未満であるとポリアミドイミド樹脂の硬化反応が進行せず、被覆層の下地表面に対する密着性が期待できないことも推定される。 280℃を越え、とくにフッ素系樹脂の融点を越えると、フッ素系樹脂の分解が進み始めるので好ましくない。また、被覆層の下地表面に対する密着性は、280 ℃付近で平衡となるので昇温に要する電力消費量を考慮すると280 ℃以下で焼成することが好ましい。
【0024】
ポリアミドイミド樹脂の焼成は、たとえば 80 ℃〜 130℃〜 180℃というように数段階に分け、 30 分〜240 分の範囲内で 30 分〜120 分ごとに徐々に昇温させることが好ましい。これにより、結着性樹脂などの硬化反応が徐々に確実に進行し、均一な密着強度を有する被覆層を形成することができる。また、被覆層にちぢみ、しわ、わき、われ等の発生を防ぐこともできる。
【0025】
焼成時の最高温度の保持時間は、焼成での最高温度にもよるが、最高温度が 180℃であれば 12 時間程度、最高温度が 240℃であれば 60 分間程度、最高温度が 280℃であれば 30 分間程度が好ましい。各最高温度での保持時間が所定の時間より極端に短いとポリアミドイミド樹脂の硬化が不十分であり望ましい密着性や硬度が得られ難くなる。また、保持時間が所定の時間より極端に長いと昇温に要する電力消費や製造時間が長くかかるなどして好ましくない。
【0026】
ポリイミド樹脂の場合、被覆層の焼成温度は 200〜350 ℃が適当である。 200℃未満では、前駆体であるポリアミド酸のイミド化反応が十分でない場合があり、350 ℃を越え、とくにフッ素系樹脂の融点を越えると、フッ素系樹脂の分解が進み始めるので好ましくない。
【0027】
なお、焼成温度は下地材によっても影響を受け、たとえば下地材がアルミニウム合金等の軽量鋳物金属系合金等である場合、焼成温度が 250℃を越えると下地材への熱的影響(たとえば、ソリの発生等)がでるおそれがあるため、 250℃以下で焼成することが好ましい。
【0028】
焼成工程後の冷却は、焼成工程時と逆の段階を経て冷却してもよく、また 60 〜180 分程度の時間をかけて連続的に徐冷してもよい。このように徐冷することにより被覆層と下地材とが互いに均一に精度よく収縮し、精度の高い摺動部材を得ることができる。合計の焼成時間としては約 2〜 10 時間に調整することが好ましい。
【0029】
本発明に係る摺動部材は、耐摩耗性・非粘着性に優れ、耐久性があるので、ワッシャやベーン、スライドガイド、ガイドピン、カーテンウォール部材、免震装置の滑り部等の摺動部に好適に使用することができる。
【0030】
【実施例】
耐摩耗性・非粘着性コーティング剤の実施例および比較例に使用する材料を以下に示す。
(1)酸化鉄粉末:トダカラー160ED(平均粒径 0.27 μm )(戸田工業社製、商品名)
(2)フッ素系樹脂:フルオンL169(アイ・シー・アイ社製、商品名)
(3)ポリアミドイミド樹脂:トーロンAI−10(テイジンアモコエンジニアリングプラスチックス社製、商品名)
(4)二硫化モリブデン:モリコートZ(ダウコーニング社製、商品名)
(5)ブロンズ粉末:At−35(福田金属箔粉工業社製、商品名)
(6)黒鉛粉末:ロンザKS10(ロンザ社製、商品名)
【0031】
実施例1〜実施例3、比較例1〜比較例7
耐摩耗性・非粘着性コーティング剤を以下のように調製した。ポリアミドイミド樹脂(トーロンAI−10)をN-メチル-2- ピロリドン(NMP)に溶解させ、この樹脂溶液にフッ素系樹脂(フルオンL169)、酸化鉄粉末(トダカラー160ED)を配合して均一な組成物とし、固形分濃度が約 23 重量%となるように、N-メチル-2- ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、キシレンおよび酢酸エチルの混合溶媒で希釈してコーティング剤を得た。コーティング剤の組成を表1に示す。なお、比較例5〜比較例7用として、酸化鉄粉末の代わりに二硫化モリブデン、ブロンズ粉末または黒鉛粉末を用いたコーティング剤を調製した。
【0032】
これらのコーティング剤を用いて樹脂被覆層を有するディスク状の摺動部材を作製した。まず焼成後の樹脂被覆層厚が約 20 μm となるようにスプレーコート法でコーティング剤をディスク状のアルミニウム合金(AC8C)製摺動部材表面に吹き付けた。この摺動部材を 80 ℃で 15 分間乾燥させ、さらに 80 〜160 ℃に 30 分かけて昇温し、160 ℃で 30 分間保持した。ついで、 160〜240 ℃まで 30 分かけて昇温し、240 ℃で 60 分間保持した。その後、室温まで 60 分かけて自然冷却して樹脂被覆層を有するディスク状の摺動部材を得た。
【0033】
得られたディスク状の摺動部材を、ボールオンディスク型試験機を用いて表2に示す条件で耐摩耗性試験を行った。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表1に示すように、フッ素系樹脂 100重量部に対して酸化鉄 5〜 20 重量部、ポリイミド系樹脂 100〜 150重量部を含有する実施例は比較例に比較して樹脂被覆層の摩耗量が非常に少なく、かつ摩擦係数が小さく、耐摩耗性と非粘着性との両方に優れていた。
【0037】
つぎに、上述の試料を用いて被覆層の特性を以下の方法で評価した。結果を表3に示す。
(1)密着強度
密着強度は、樹脂被覆層を形成したディスク状の摺動部材を試験片として使用してクロスカット試験で評価した。クロスカット試験とは、カッターナイフで試験片のほぼ中央に素地に達する 1mm間隔の直交する縦横 11 本の線を切り込むことにより 100個の碁盤目を付け、その上からセロハンテープを圧着した後、セロハンテープをはがし被覆材が基材に残っている碁盤目の個数によって密着強度を評価する方法である。
(2)表面硬度
表面硬度は、JIS−K6894(四フッ化エチレン樹脂処埋被膜)に準拠し、鉛筆硬度で評価する。
(3)付着力
付着力は、JIS−K6894(四フッ化エチレン樹脂処理被膜)に準拠し、線画試験により評価する。
(4)非粘着性
非粘着性は、接触角を自動接触角計(協和界面科学社製)を用い、試験片の表面をアセトンで洗浄した後、イオン交換水との接触角を測定する。
【0038】
【表3】
【0039】
表1および表3の結果から、実施例1、2および3のコーティング剤を塗布したものは、耐摩耗性と非粘着性とを両立させていることがわかる。酸化鉄粉末の配合量が少ない比較例1は耐摩耗性が十分でなく、酸化鉄粉末が多量な比較例2は密着強度が不足する。耐熱性樹脂の配合量が少量な比較例3は密着強度が不十分であり、耐熱性樹脂が多量な比較例4は非粘着性が低下している。
【0040】
【発明の効果】
本発明に係るコーティング剤は、耐摩耗性と非粘着性とを両立させることができ、さらに被覆層表面がきわめて平滑である。また、スプレーコーティング等の簡易な塗布方法を採用できる優れたコーティング剤である。
本発明に係る摺動部材は、上述のコーティング剤により得られる表面被覆層を有しているので、摺動部分の摩耗量が少なく、耐久性に優れている。
Claims (2)
- 固形分がポリテトラフルオロエチレン樹脂 100 重量部とポリアミドイミド樹脂 100 〜 150 重量部と酸化鉄粉末 5 〜 20 重量部とからなることを特徴とする耐摩耗性・非粘着性コーティング剤。
- 基材表面に摺動性被覆層を有してなる摺動部材であって、前記摺動性被覆層は、固形分がポリテトラフルオロエチレン樹脂 100 重量部とポリアミドイミド樹脂 100 〜 150 重量部と酸化鉄粉末 5 〜 20 重量部とからなる耐摩耗性・非粘着性コーティング剤を用いて形成された樹脂被覆層であることを特徴とする摺動部材。
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