JP3777166B2 - 高強度極細鋼線の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スチールタイヤコード、スチールベルトコード等の素線として使用され、線径が0.05〜0.4mmであり、特に撚り線加工性と疲労特性が優れ、強度が3800MPa以上の高強度極細鋼線に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
軽量化などのために極細鋼線に対する高強度化の要求は一段と高まっている。従来、自動車用タイヤ、産業用各種ベルト類などの補強用に使用されている極細鋼線は、高炭素鋼の熱間圧延線材から中間伸線、パテンティング処理を繰り返し所定の線径にした後、最終パテンティング処理を行い、伸線加工性およびゴムとの接着性を向上させるめっき処理を施し所定の線径まで湿式伸線加工することにより製造される。例えばスチールタイヤコードは、上記のように製造される素線を最終的にダブルツイスタなどの撚り線機を用いて撚り線加工することによって製造される。
【0003】
上記のような製造工程において、極細鋼線の高強度化を図るためには、最終パテンティング処理後の素線強度を上げるか、最終の伸線加工歪を増加させる必要がある。ところが、最終パテンティング処理後の素線強度ないしは伸線加工歪を増加させて極細鋼線の高強度化を図っても、伸線加工後の撚り線加工工程で断線が頻発し、生産性が極めて悪化する。このため、例えばSWRS82Aを用いた線径が0.3mmφの鋼線では撚り線加工が可能な引張強さとして3400MPaが限界であり、これ以上の高強度の極細鋼線の製造は工業的には困難であった。また、極細鋼線の強度が増加しても、疲労強度はむしろ劣化するという問題がある。
【0004】
これに対して、強度を増加させた高炭素鋼線の撚り線加工性を向上させる従来の知見としては、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3にはそれぞれC、Si、Mn、Cr等の化学成分を規制することにより撚り線加工工程での断線回数の少ない極細線用高炭素線材が提案されている。しかしこれらの実施例からもわかるように鋼線の引張強さは最大でも3500〜3600MPaであり、極細鋼線の高強度化には限界があった。
【0005】
一方、極細鋼線の疲労特性を向上させる手段として、例えば、特許文献4には極細線中の微細不均一歪の分布を制御することにより、特許文献5には極細鋼線の表層と内部の強度差を制御することにより、疲労特性を向上させる技術が開示されているが、本発明者らの詳細な研究によれば、このような技術を適用しても極細鋼線の高疲労強化には限界があった。
【0006】
以上のように、従来技術では撚り線加工性と疲労特性の優れた高強度極細鋼線を実現することが不可能であった。
【特許文献1】
特開昭60−204865号
【特許文献2】
特開昭63−24046号
【特許文献3】
特公平3−23674号
【特許文献4】
特開平5−195457号公報
【特許文献5】
特開平6−184962号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の如き実状に鑑みなされたものであって、線径が0.05〜0.4mmの極細鋼線を高強度化する際に問題となる撚り線加工性と疲労特性の劣化を防止する技術を確立し、強度が3800MPa以上である撚り線加工性および疲労強度の優れた高強度極細鋼線を実現することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはまず高強度極細鋼線の撚り線加工時に多発する断線の破面形態を解析した。撚り線加工ではねじり応力、引張応力、曲げ応力が鋼線にかかる。この結果、鋼線を高強度化していくと伸線方向に沿って亀裂(デラミネーション)が発生しやすくなり、このため撚り線加工工程において断線が頻発することが明らかとなった。そこでデラミネーションの発生に及ぼす鋼線の化学成分、最終パテンティング処理後の引張強さ、伸線加工歪、伸線加工方法等の影響について検討し、高強度極細鋼線のデラミネーションの発生要因について詳細に解析した。この結果、高強度極細鋼線の断面内のフェライト中のC濃度分布がデラミネーションの発生に対して著しい影響を持つと言う全く新たな事実を見い出した。即ち、伸線加工歪の増加に伴いパーライト組織のフェライト中のC濃度が増加するが、この際に極細鋼線表層と中心部のC濃度差が大きくなるとデラミネーションが発生しやすくなることを発見したのである。更に、極細鋼線表層と中心部のC濃度差は、疲労特性にも大きな影響を及ぼすことを見出し、C濃度差を小さく制御することが高強度化に伴って劣化しやすくなる疲労特性の向上に対して極めて重要であるという新たな知見を得た。
【0009】
以上の検討結果に基づいて、高炭素鋼を用いた極細鋼線において、断面内の表層と中心部のC濃度差を制御すれば、デラミネーションの発生が抑制されるとともに疲労強度も向上し、撚り線加工性と疲労特性の優れた高強度極細鋼線を提供できるとの結論に達し、本発明をなしたものである。本発明は以上の知見に基づいてなされたものであって、その要旨とするところは、質量%で、
C :0.7〜1.1%、 Si:0.05〜2.0%、
Mn:0.2〜2.0%、 Al:0.005%以下
を含有するか、あるいは化学成分として更に
Cr:0.1〜1.0%、 Ni:0.1〜1.0%、
V :0.05〜0.5%
の1種または2種以上を含むとともに残部はFe及び不可避的不純物からなり、伸線加工されたパーライト組織を有し、鋼線表層部と鋼線中心部におけるフェライト中のC濃度比(鋼線表層部のフェライト中のC濃度/鋼線中心部のフェライト中のC濃度)が2以下である高強度極細鋼線の製造方法であって、下記Hと、A、B、C、D及びEの2種以上を組み合わせることを特徴とする高強度極細鋼線の製造方法にある。ここで、
A:パテンティング材強度を1300MPa以上にする、
B:アプローチ角度が8〜12°、ベアリング長さが0.2〜0.5D(D:ダイス径)であるダイスを用いて伸線加工を行う、
C:ダイヤモンドダイスを使用する、
D:伸線による加工発熱を抑える、
E:潤滑能力の高い潤滑剤を使用する、
H:伸線加工後、張力を付与しながら曲げ加工を行う、
であり、鋼線表層部とは、鋼線の表層から中心に向かって0.1D(D:線径)以内の領域を、鋼線中心部とは鋼線の表層から中心に向かって0.4〜0.6Dの領域を意味する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
はじめに、本発明の成分限定理由について述べる。
Cはパテンティング処理後の引張強さの増加および伸線加工硬化率を高める効果があり、より少ない伸線加工歪で極細鋼線の引張強さを高めることができる。Cが0.7%未満では本発明で目的とする3800MPa以上の高強度の極細鋼線を製造することが困難となり、一方1.1%を越えるとパテンティング処理時に初析セメンタイトがオーステナイト粒界に析出して伸線加工性が劣化し伸線加工工程あるいは撚り線加工工程で断線が頻発するため、Cを0.7〜1.1%の範囲に限定した。
【0011】
Siはパーライト中のフェライトを強化させるためと鋼の脱酸のために有効な元素である。0.05%未満では上記の効果が期待できず、一方2.0%を越えると伸線加工性に対して有害な硬質のSiO2系介在物が発生しやすくなるため、0.1〜2.0%の範囲に制限した。
Mnは脱酸、脱硫のために必要であるばかりでなく、鋼の焼入性を向上させパテンティング処理後の引張強さを高めるために有効な元素であるが、0.2%未満では上記の効果が得られず、一方2.0%を越えると上記の効果が飽和しさらにパテンティング処理時のパーライト変態を完了させるための処理時間が長くなりすぎて生産性が低下するため、0.2〜2.0%の範囲に限定した。
【0012】
Alは0.005%を越えると鋼中の介在物の中で最も硬質なAl2O3系介在物が生成しやすくなり、伸線加工あるいは撚り線加工の際の断線原因となるため、0.005%以下に制限した。
本発明による高強度極細鋼線においては、上記の元素に加えて、更にCr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、V:0.05〜0.5%の範囲で1種または2種以上を含有することができる。
【0013】
Crはパーライトのセメンタイト間隔を微細化しパテンティング処理後の引張強さを高めるとともに特に伸線加工硬化率を向上させる有効な元素であるが、0.1%未満では前記作用の効果が少なく、一方1.0%を越えるとパテンティング処理時のパーライト変態終了時間が長くなり生産性が低下するため、0.1〜1.0%の範囲に限定した。
【0014】
Niはパテンティング処理時に変態生成するパーライトを伸線加工性の良好なものにする作用を有するが、0.1%未満では上記の効果が得られず、1.0%を越えても添加量に見合うだけの効果が少ないためこれを上限とした。
Vはパーライトのセメンタイト間隔を微細化しパテンティング処理後の引張強さを高める効果があるが、この効果は0.05%未満では不十分であり、一方0.5%を越えると効果が飽和するため0.05〜0.5%の範囲に制限した。
【0015】
他の元素は特に限定しないが、P:0.015%以下、S:0.015%以下、N:0.0070%以下が望ましい範囲である。
次に、本発明で目的とする撚り線加工性および疲労特性を向上させる上で重要な伸線加工されたパーライト組織のフェライトにおける鋼線断面内の鋼線表層部と鋼線中心部のC濃度の比率(以下C濃度比とする)の限定理由について述べる。
【0016】
図1は線径が0.3mmであり、強度を4100MPaに調整した極細鋼線において、横断面内のフェライト中のC濃度を測定した一例を示す。同図において、鋼線Aは従来の極細鋼線であり、表層部のフェライト中のC濃度が高く、中心部が低くなっている。即ち、C濃度比が高くなっている。これに対して、鋼線Bは断面内のC濃度分布が鋼線Aに比べ均一であり、C濃度比が低くなっている。鋼線Bのような断面内のC濃度比が低い場合は、極細線の強度が高くてもデラミネーションが発生しにくく撚り線加工性が良好であり、更に疲労特性も向上する。
【0017】
図2に線径が0.3mmの極細鋼線における、C濃度比とデラミネーションが発生する鋼線の強度の関係について解析した一例を示す。同図から明らかなように、C濃度比が2を超えるとデラミネーションが発生する鋼線の強度が著しく低下する。ここで、デラミネーションが発生すると言うことは、撚り線加工時の断線回数が増加することを意味している。更に、図3は高強度極細鋼線の疲労強度とC濃度比の関係について解析した一例である。疲労強度もC濃度比が低いほど高く、C濃度比が2を越えると著しく低下することが明らかである。鋼種、線径、強度を種々に変化させた極細鋼線についても全く同様の結果が得られることから、C濃度比を2以下に制限した。
【0018】
ここで、C濃度比を2以下にする方法としては、下記のA〜Hの製造方法が有効であり、それぞれ単独の場合より組み合わせることが重要である。下記製造方法の中でも、A、B、C、D、E、Hが特に重要な技術である。このため、C濃度比が2以下の極細鋼線を製造するためには、下記HとA、B、C、D及びEの内、2種類以上、好ましくは3種類以上の方法を組み合わせる。
【0019】
A:パテンティング材強度を1300MPa以上にする。
B:アプローチ角度が8〜12°、ベアリング長さが0.2〜0.5D(D:ダイス径)であるダイスを用いて伸線加工を行う。
C:ダイヤモンドダイスを使用する。
D:伸線による加工発熱を抑える。
【0020】
E:潤滑能力の高い潤滑剤を使用する。
F:伸線加工の初期は1ダイス当たりの減面率を20%以上にし、最終のダイスでは3〜10%の減面率にする。
G:伸線加工後、150〜500℃の温度に加熱する。
H:伸線加工後、張力を付与しながら曲げ加工を行う。
【0021】
なお、フェライト中のC濃度比は、アトムプローブ電界イオン顕微鏡を用いれば、簡単に且つ正確に測定することができる。本発明において、フェライト中のC濃度Xは、アトムプローブ電界イオン顕微鏡による分析から、全検出イオン数をY(total)、Cの検出イオン数をY(carbon)とした時に、下式により求める。
X=[Y(carbon)/Y(total)]×100 (原子%)
C濃度比は、鋼線表層部のフェライト中のC濃度X(表層)と、鋼線中心部のフェライト中のC濃度X(中心)を上記方法により求め、X(表層)/X(中心)により求める。なお、より良い定量精度を得るために、全検出イオン数Y(total)は10,000個以上にすることが好ましい測定条件である。
【0022】
【実施例】
以下、実施例により本発明の効果をさらに具体的に説明する。表1に供試材の化学組成を示す。
【0023】
【表1】
【0024】
これらの供試材を用いて線径が0.15〜0.37mmのブラスめっきを有する極細鋼線を試作した。表2および表3に極細鋼線の製造条件およびC濃度比、撚り線加工時の断線回数、疲労強度等の極細鋼線の機械的特性を示す。
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
同表において製造条件の記号であるB〜Hは前述した内容である。また、撚り加工性は極細鋼線の重量1000kg当たりの断線回数で評価し、疲労強度(107サイクル)は、回転曲げ疲労試験で評価した結果である。表2および表3において、試験No.(2)、(4)、(8)、(10)、(12)が本発明例であり、その他は比較例である。同表に見られるように、本発明例はいずれも高強度極細鋼線の表層部と中心部のC濃度比が2以下となっており、このため高強度であるにもかかわらずデラミネーションの発生が無く撚り線加工時の断線回数が極めて少ない。更に、比較例に比べ、疲労強度の高い高強度極細鋼線が実現されている。
【0028】
これに対して比較例であるNo.1、3、5、7、9、11は、いずれも従来の方法で極細鋼線の高強度化を図ったものであり、C濃度比が2を越えているためデラミネーションが発生し、この結果、撚り線加工時の断線回数が急激に増加している。また、疲労強度も低くなっている。
【0029】
【発明の効果】
以上の実施例からも明かなごとく、本発明は高強度極細鋼線のデラミネーションの発生を防止し撚り線加工性を向上させるとともに疲労強度を向上させることに対して、極細鋼線の表層部と中心部のフェライト中のC濃度比を2以下にすることが極めて有効であることを見出し、撚り線加工性と疲労特性の優れた高強度極細鋼線を実現したものであり、産業上の効果は極めて顕著なものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】極細鋼線のフェライト中のC濃度について測定した一例である。
【図2】極細鋼線のC濃度比とデラミネーションが発生する強度の関係について解析した一例である。
【図3】極細鋼線のC濃度比と疲労強度の関係について解析した一例を示す図である。
Claims (2)
- 質量%で、
C :0.7〜1.1%、
Si:0.05〜2.0%、
Mn:0.2〜2.0%、
Al:0.005%以下、
残部はFeおよび不可避的不純物からなり、伸線加工されたパーライト組織を有し、鋼線表層部と鋼線中心部におけるフェライト中のC濃度比(鋼線表層部のフェライト中のC濃度/鋼線中心部のフェライト中のC濃度)が2以下である高強度極細鋼線の製造方法であって、下記Hと、A、B、C、D及びEの2種以上を組み合わせることを特徴とする高強度極細鋼線の製造方法。
ここで、
A:パテンティング材強度を1300MPa以上にする、
B:アプローチ角度が8〜12°、ベアリング長さが0.2〜0.5D
(D:ダイス径)であるダイスを用いて伸線加工を行う、
C:ダイヤモンドダイスを使用する、
D:伸線による加工発熱を抑える、
E:潤滑能力の高い潤滑剤を使用する、
H:伸線加工後、張力を付与しながら曲げ加工を行う、
である。 - 質量%で、
Cr:0.1〜1.0%、
Ni:0.1〜1.0%、
V :0.05〜0.5%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の高強度極細鋼線の製造方法。
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