JP3776601B2 - 可変容量型ベーンポンプ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば車両のパワーステアリング装置に用いられる可変容量型ベーンポンプの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の可変容量型ベーンポンプは、例えば特開平8−200239号公報に開示されているように、各ベーンを取り囲むカムリングを支持ピンを介して回動可能に支持し、ロータ軸芯に対するカムリングの偏心量を変化させることにより、ポンプ吐出流量を調節するものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の可変容量型ベーンポンプにあっては、支持ピンが吐出ポート側に配置されていたため、ポンプ室の圧力によりカムリングを支持ピンに押し付けるラジアル荷重が働き、カムリングに応力集中が生じやすいという問題点があった。
【0004】
また、カムリングを回動させてポンプ吐出流量を大きくすると、ロータの回転に伴ってポンプ室が吸込行程から吐出行程に移る過程でポンプ室が圧縮される予圧縮量が不足し、ベーンポンプの振動や騒音が増大する可能性があった。
【0005】
また、これを防止するため、カムリング中心を吸込ポート側に予めずらしておき、予圧縮量を確保する方法があるが、この場合、カムリング偏心量が小さい場合に予圧縮量が過大となり、ベーンポンプの振動や騒音が大きくなるという問題がある。
【0006】
本発明は上記の問題点を鑑みてなされたものであり、可変容量型ベーンポンプにおいて、強度の向上をはかるとともに、振動や騒音を低減することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、回転するロータから摺動可能に突出する複数のベーンと、各ベーンの外周端部を摺接させてポンプ室を画成するカムリングと、ロータの回転に伴って拡がるポンプ室に作動流体を流入させる吸込ポートと、ロータの回転に伴って収縮するポンプ室から作動流体を流出させる吐出ポートと、カムリングを回動させてポンプ押しのけ容積を変化させる可変容量機構とを備える可変容量型ベーンポンプにおいて、吸込ポートと吐出ポートをロータの軸芯Opを挟んで対向させ、カムリングの回動支点Pをロータの軸芯Opについて吐出ポートより吸込ポート側に配置し、カムリングがポンプ押しのけ容積が増大する方向に回動するのに伴いポンプ室の予圧縮量が増大する構成とし、カムリングの外周面に摺接するシール材を備え、シール材により第一カム圧力室と第二カム圧力室をカムリングを挟むようにして画成し、第一カム圧力室と第二カム圧力室にカムリングを転動させる駆動圧を導く構成とし、第一カム圧力室と第二カム圧力室との間でカムリングを囲むようにして画成される第三カム圧力室と、第三カム圧力室の圧力を逃がす通路とを備え、第三カム圧力室をロータの軸芯Opについてカムリングの回動支点P側に配置した
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、吸込ポートと吐出ポートの間に位置する圧力遷移区間を均等に分割する平面をケーシング遷移区間分割面Spとし、ケーシング遷移区間分割面Spに直交しロータの軸芯Opと交わる直線をケーシング中心線Mとしたとき、ケーシング中心線M上にカムリングの回動支点Pが来るように配置するものとした。
【0009】
第3の発明は、第2の発明において、カムリングを回動可能に収装するアダプタリングを備え、アダプタリングにカムリングを摺接させるスライド面を形成し、スライド面をカムリングの回動支点Pを中心とする円弧状に湾曲させるものとした。
【0012】
【発明の作用および効果】
第1の発明において、支持ピンがロータの軸芯Opより吸込ポート側に配置されるため、ポンプ室の圧力によりカムリングを支持ピンに押し付けるラジアル荷重が働かず、カムリングに応力集中が生じることを抑え、カムリングの強度向上がはかれる。
【0013】
また、支持ピンがロータの軸芯Opより吸込ポート側に配置されるため、カムリングをポンプ押しのけ容積が増大するのに伴いポンプ室の予圧縮量が増大するように回動させることが可能となり、カムリングが回動してもポンプ室の圧力が滑らかに変化する状態が維持され、ベーンポンプの振動や騒音を低減できる。
【0014】
第2の発明において、ケーシング中心線M上にカムリングの回動支点Pを配置することにより、カムリングをポンプ押しのけ容積が増大するのに伴いポンプ室の予圧縮量が増大する回動範囲を最大限に確保できる。
【0015】
第3の発明において、カムリングに働くラジアル荷重は、カムリングが摺接するアダプタリングのスライド面に支持されるため、カムリングに応力集中が生じることを抑え、カムリングの強度向上がはかれる。
【0016】
の発明において、第一カム圧力室と第二カム圧力室に導かれる駆動圧によりカムリングが転動する。第一カム圧力室と第二カム圧力室をカムリングのまわに画成することにより、ベーンポンプのコンパクト化がはかれる。
【0017】
の発明において、圧力の低い第三カム圧力室がカムリングの回動支点P側に画成されることにより、カムリングを下方に押すラジアル荷重を小さくし、カムリングのスライド面とアダプタリングのスライド面間に生じる摩擦力を小さくし、カムリングを移動する駆動力を低減できる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を車両に搭載されるパワーステアリング装置の油圧源として設けられるベーンポンプに適用した実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に示すように、ベーンポンプ1は、ケーシング60に回転可能に収装されるロータ50と、ロータ50から摺動可能に突出する複数のベーン24と、各ベーン24を取り囲むカムリング70とを主体として構成される。
【0020】
ロータ50はエンジンからの回転が図示しない駆動軸とプーリおよびベルト等を介して伝達され、図に矢印で示すように左回り方向に回転する。各ベーン24は回転するロータ50に対しそのラジアル方向に出入りしながらそれぞれの外周端部をカムリング70の内周面に摺接させてポンプ室を拡縮する。ロータ50の回転に伴って各ベーン24間で拡がるポンプ室には吸込ポート41から作動油が吸込まれ、各ベーン24間で収縮するポンプ室から作動油が吐出ポート42に吐出される。吸込ポート41は図示しない吸込通路を介してタンクに連通し、吐出ポート42はポンプ吐出通路11を介して図示しないパワーステアリング装置の油圧シリンダに連通される。ポンプ吐出通路11の途中には可変オリフィス80が介装される。
【0021】
カムリング70の内周面の断面は略円形に形成され、図示するようにカムリング70の中心Ocがロータ50の軸芯Op上にあるとポンプ吐出流量が零となる。ロータ軸芯Opに対するカムリング中心Ocの偏心量が大きくなるほどポンプ押しのけ容積が増大し、ポンプ吐出流量が増える。
【0022】
ケーシング60にはカムリング70を回動可能に収装するアダプタリング90が設けられる。カムリング70は支持ピン75を介してアダプタリング90に回動可能に支持される。アダプタリング90とカムリング70には支持ピン75に係合する溝96,76がそれぞれ形成される。
【0023】
カムリング70の外周下部とアダプタリング90の内周底部には互いに摺接するスライド面71,91がカムリング70の回動支点(支持ピン75の軸芯)Pを中心とする円弧状に湾曲して形成される。
【0024】
ポンプ吐出流量を変化させる可変容量機構として、一対の第一カム圧力室7と第二カム圧力室8がカムリング70を挟むようにして画成される。アダプタリング90の内周上部にはカムリング70の外周上部に接するシール材22,23が介装され、第一カム圧力室7と第二カム圧力室8の密封が行われる。
【0025】
第一カム圧力室7は通路12を介して可変オリフィス80より上流側のポンプ吐出通路11に連通する一方、第二カム圧力室8は通路13を介して可変オリフィス80より下流側のポンプ吐出通路11に連通する。これによりポンプ吐出流量が増加して可変オリフィス80の前後差圧が上昇するのに伴ってアダプタリング90は図示しないスプリングに抗して左回り方向に回動し、ポンプ吐出流量が減少するようになっている。
【0026】
ここで、吸込ポート41と吐出ポート42の間に位置する圧力遷移区間を均等に分割し、ロータ軸芯Opを含む平面をケーシング遷移区間分割面Spとし、カムリング70内の空間を均等に分割し、ケーシング遷移区間分割面Spと平行な平面をカムリング遷移区間分割面Scと定義する。
【0027】
各ベーン24の間に画成されるポンプ室はカムリング遷移区間分割面Scより図において上方の領域で拡大して吸込ポート41から作動油を吸込み、カムリング遷移区間分割面Scより図において下方の領域で収縮して作動油を吐出ポート42に吐出するが、ロータ50の回転に伴ってポンプ室が吸込行程から吐出行程に移る過程においてポンプ室が圧縮される予圧縮行程が存在し、ポンプ室の予圧縮量はカムリング遷移区間分割面Scが吸込ポート41側(上方向)に移動するほど増大する。また、ロータ50の回転に伴ってポンプ室が吐出行程から吸込行程に移る過程においてポンプ室が減圧される予減圧行程が存在し、ポンプ室の予減圧量はカムリング遷移区間分割面Scが吸込ポート41側に移動するほど増大する。
【0028】
本発明は、支持ピン75をロータ軸芯Opについて吐出ポート42より吸込ポート41側に配置する。これにより、ロータ軸芯Opに対するカムリング中心Ocの偏心量が大きくなるのに伴ってカムリング70の中心が吸込ポート41側に移動し、ポンプ押しのけ容積が増大するのに伴いポンプ室の予圧縮量が増大する構成とする。
【0029】
そして、ケーシング遷移区間分割面Spに直交しロータ軸芯Opと交わる直線をケーシング中心線Mと定義し、ケーシング中心線M上にカムリングの回動支点Pを配置する。
【0030】
カムリング70の外周上部にはシール材22,23およびアダプタリング90の間に第三カム圧力室9が画成される。第三カム圧力室9は支持ピン75側に位置して第一カム圧力室7および第二カム圧力室8の間に画成される。第三カム圧力室9は通路18を介してタンク19に連通し、その圧力が逃がされる。本実施の形態において、第三カム圧力室9の中央部に支持ピン75が配置されているが、支持ピン75の端部に形成された隙間によって支持ピン75の両側の空間が互いに連通している。
【0031】
以上のように構成される本発明の実施の形態につき、次に作用を説明する。
【0032】
ベーンポンプ1が停止状態からポンプ回転数が所定値まで上昇する間は、カムリング70がスプリングの付勢力により左側に位置してロータ軸芯Opに対するカムリング中心Ocの偏心量が最大となる状態に保持され、ロータ50の回転数が上昇するのに伴ってポンプ吐出通路11を流れる作動油量が増加する。これにより、車両の低速走行時からポンプ吐出圧が十分に上昇し、パワーステアリング装置に必要な油圧アシスト力を確保できる。
【0033】
ポンプ回転数が所定値を超えて上昇する作動領域にて、可変オリフィス80の前後差圧が所定値を超えて上昇すると、スプリングの付勢力に抗してカムリング70が左回り方向に回動し、ポンプ押しのけ容積が小さくなる。こうしてカムリング70の位置が自動的に調節され、ポンプ吐出量が制御されることにより、ベーンポンプ1からタンクに戻される作動油の流量を少なくして、無駄なエネルギ消費を少なくする。
【0034】
ところで、ポンプ室が吸込行程から吐出行程に移る予圧縮行程において、ポンプ室の圧力が滑らかに上昇しない場合に、振動や騒音が増大する。また、ポンプ室が吐出行程から吸込行程に移る予減圧行程において、ポンプ室の圧力が滑らかに降下しない場合に、振動や騒音が増大する。これに対処して従来のベーンポンプは、ポンプ室が吐出ポートに連通するタイミングを遅らせたり、カムリング遷移区間分割面をケーシング遷移区間分割面(ロータ軸芯)より吸込ポート側にずらして、予圧縮量を増減し調整していた。しかし、従来のカムリングの偏心量を変化させる可変容量型ベーンポンプでは、ポンプ押しのけ容積が増減するのに応じて適切な予圧縮量および予減圧量も変化するのに対して、すべての押しのけ容積(カムリングの偏心位置)で適切な予圧縮量(予減圧量)を確保することは困難であり、ポンプ押しのけ容積が変化するのに応じて予圧縮量および予減圧量が過大になったり不足して、振動や騒音が増大する。
【0035】
これに対処して本発明は、ロータ軸芯Opに対するカムリング中心Ocの偏心量が大きくなるのに伴ってポンプ押しのけ容積が増大するとともに、カムリング70が吸込ポート41側に移動してポンプ室の予圧縮量が増大することにより、ポンプ室における見かけ上の流量変化のタイミングが早まり、ポンプ室が吸込行程から吐出行程に移る予圧縮行程において圧力が滑らかに上昇する作動状態が維持されるとともに、ポンプ室が吐出行程から吸込行程に移る予圧縮行程において圧力が滑らかに降下する作動状態が維持され、ベーンポンプ1の振動や騒音を低減できる。
【0036】
ケーシング中心線M上にカムリング70の回動支点Pを配置することにより、カムリング70をポンプ押しのけ容積が増大するのに伴いポンプ室の予圧縮量が増大する回動範囲を最大限に確保できる。
【0037】
なお、ケーシング中心線M上以外にカムリング70の回動支点Pを配置して、ポンプ室の予圧縮量および予減圧量を任意に設定してもよい。
【0038】
また、ポンプ室の圧力によりカムリング70を下方に押すラジアル荷重が働くが、このラジアル荷重はカムリング70のスライド面71に対して面接触するアダプタリング90のスライド面91に支持されるため、カムリング70に応力集中が生じることを抑え、カムリング70の強度向上がはかれる。この結果、カムリング70の大型化が避けられ、ベーンポンプ1のコンパクト化がはかれる。
【0039】
カムリング70の外周上部にはシール材22,23およびアダプタリング90の間に第三カム圧力室9が画成される。
【0040】
タンク19に連通する第三カム圧力室9は吐出ポート42より吸込ポート41側に位置して第一カム圧力室7および第二カム圧力室8の間に画成されるため、カムリング70を下方に押すラジアル荷重を小さくし、カムリング70のスライド面71とアダプタリング90のスライド面91間に生じる摩擦力を小さくし、カムリング70を移動する駆動力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態を示すベーンポンプの断面図。
【符号の説明】
1 ベーンポンプ
7 第一カム圧力室
8 第二カム圧力室
9 第三カム圧力室
11 ポンプ吐出通路
22 シール材
23 シール材
24 ベーン
50 ロータ
60 ケーシング
70 カムリング
71 スライド面
90 アダプタリング
91 スライド面
P 回動支点
Oc カムリング中心
Op ロータ軸芯
Sc カムリング遷移区間分割面
Sp ケーシング遷移区間分割面

Claims (3)

  1. 回転するロータから摺動可能に突出する複数のベーンと、前記各ベーンの外周端部を摺接させてポンプ室を画成するカムリングと、前記ロータの回転に伴って拡がる前記ポンプ室に作動流体を流入させる吸込ポートと、前記ロータの回転に伴って収縮する前記ポンプ室から作動流体を流出させる吐出ポートと、前記カムリングを回動させてポンプ押しのけ容積を変化させる可変容量機構と、を備える可変容量型ベーンポンプにおいて、前記吸込ポートと前記吐出ポートを前記ロータの軸芯Opを挟んで対向するように配置し、前記カムリングの回動支点Pを前記ロータの軸芯Opについて前記吐出ポートより前記吸込ポート側に配置し、前記カムリングがポンプ押しのけ容積が増大する方向に回動するのに伴いポンプ室の予圧縮量が増大する構成とし、前記カムリングの外周面に摺接するシール材を備え、前記シール材により第一カム圧力室と第二カム圧力室を前記カムリングを挟むようにして画成し、前記第一カム圧力室と前記第二カム圧力室にカムリングを転動させる駆動圧を導く構成とし、前記第一カム圧力室と前記第二カム圧力室との間で前記カムリングを囲むようにして画成される第三カム圧力室と、前記第三カム圧力室の圧力を逃がす通路とを備え、前記第三カム圧力室を前記ロータの軸芯Opについて前記カムリングの回動支点P側に配置したことを特徴とする可変容量型ベーンポンプ。
    たことを特徴とする可変容量型ベーンポンプ。
  2. 前記吸込ポートと前記吐出ポートの間に位置する圧力遷移区間を均等に分割する平面をケーシング遷移区間分割面Spとし、前記ケーシング遷移区間分割面Spに直交し前記ロータの軸芯Opと交わる直線をケーシング中心線Mとしたとき、前記ケーシング中心線M上に前記カムリングの回動支点Pが来るように配置したことを特徴とする請求項1に記載の可変容量型ベーンポンプ。
  3. 前記カムリングを回動可能に収装するアダプタリングを備え、前記アダプタリングに前記カムリングを摺接させるスライド面を形成し、前記スライド面を前記カムリングの回動支点Pを中心とする円弧状に湾曲させたことを特徴とする請求項1または2に記載の可変容量型ベーンポンプ。
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