以下に、本発明に係る可変容量形ポンプの実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、各実施形態では、可変容量形ポンプを、自動車用内燃機関の摺動部や機関弁の開閉時期制御に供するバルブタイミング制御装置(VTC)に対して機関の潤滑油を供給するためのオイルポンプとして適用した例を示している。
〔第1実施形態〕
このオイルポンプ1は、図外の内燃機関のシリンダブロックやバランサ装置の各前端部に設けられ、図1及び図2に示すように、一端側が開口形成され内部にポンプ収容室3が設けられた縦断面ほぼコ字形状のポンプボディ1及び該ポンプボディ1の前記一端開口を閉塞するカバー部材2とからなるポンプハウジングと、このポンプハウジングに回転自在に支持され、前記ポンプ収容室3のほぼ中心部を貫通して図外のクランクシャフトないしバランサシャフト等により回転駆動される駆動軸4と、前記ポンプ収容室3内に移動(揺動)可能に収容され、後述する第1,第2制御油室21,22やコイルばね23と協働してポンプ室13の容積変化量を変更させるカムリング5と、該カムリング5の内周側に収容され、駆動軸4によって図1中の反時計方向に回転駆動されることによって、前記カムリング5との間に形成される複数の作動油室であるポンプ室13の容積を増減させることによってポンプ作用を行うポンプ構成体と、前記ポンプハウジング(カバー部材2)に付設され、第2制御油室22への油圧の給排を制御する制御機構であるパイロット弁30と、該パイロット弁30と後述する吐出通路18との間に形成される後述の制御圧導入通路60上に設けられ、吐出されたオイルの前記パイロット弁30側への導入を切り替え制御する切替機構であるソレノイドバルブ50と、を備えている。
前記ポンプ構成体は、カムリング5の内周側において回転自在に収容され、中心部が駆動軸4の外周に結合されたロータ6と、該ロータ6の外周部に放射状に切欠形成された複数のスリット6a内においてそれぞれ出没自在に収容されたベーン7と、前記ロータ6より小径に形成され、このロータ6の内周側両側部に配設された一対のリング部材8,8と、から構成されている。
前記ポンプボディ1は、アルミニウム合金材により一体に形成され、図1に示すように、上下方向に長い矩形状に形成されていると共に、その幅長さWが上下方向の長さに比較して小さく形成されている。また、ポンプボディ1は、ポンプ収容室3の底壁を構成する端壁1aのほぼ中央位置に駆動軸4の一端部を回転自在に支持する軸受孔1bが穿設されていると共に、ポンプ収容室3の内周壁の所定位置には、棒状の揺動支点であるピボットピン9を介してカムリング5を揺動自在に支持する横断面ほぼ半円状の支持溝1cが切欠形成されている。
さらに、ポンプ収容室3の内周面には、軸受孔1bの中心と支持溝1c(ピボットピン9)の中心とを通る直線(以下「カムリング基準線」という。)Mに対して図1中の左半側に、カムリング5の外周部に配設される第1シール部材10aが摺接する第1シール摺接面1dが形成されている。この第1シール摺接面1dは、支持溝1c中心から所定半径R1をもって構成される円弧面状に形成されると共に、カムリング5が偏心揺動する範囲において前記第1シール部材10aが常時摺接可能な周方向長さに設定されている。同様に、前記カムリング基準線Mに対して図1中の右半側にも、カムリング5の外周部に配設される第2シール部材10bが摺接する第2シール摺接面1eが形成されている。この第2シール摺接面1eは、支持溝1cの中心から所定半径R2をもって構成される円弧面状に形成され、カムリング5が偏心揺動する範囲において第2シール部材10bが常時摺接可能な周方向長さに設定されている。
また、前記ポンプ収容室3の内周面における前記支持溝1cと第1シール摺接面1dによって隔成される第1制御油室21との間には、後述する低圧室41を構成する円弧状の凹溝40が形成されていると共に、該凹溝40の第1制御油室21側の内側面に、カムリング5の外周部に配設される第3シール部材10cが摺接する第3シール摺接面1fが形成されている。この第3シール摺接面1fは、支持溝1cの中心から所定半径R3をもって構成される円弧面状に形成され、カムリング5が偏心揺動する範囲において第3シール部材10cが常時摺接可能な周方向長さに設定されている。
なお、R1、R2及びR3の周方向長さの関係は、R1>R2>R3となっている。
前記凹溝40は、図1に示すように、前記ピボットピン9の図中左側に形成されて、全体がポンプボディ1の内周面から上下長手方向に沿って円弧状に形成されている。
また、前記ポンプボディ1の端壁1aの内側面には、特に図1に示すように、軸受孔1bの外周域に、前記ポンプ構成体によるポンプ作用に伴い各ポンプ室13の容積が拡大する領域(以下「吸入領域」という。)に開口するようにほぼ円弧凹状の吸入部である吸入ポート11aが、また、前記各ポンプ室13の容積が縮小する領域(以下「吐出領域」という。)に開口するようにほぼ円弧凹状の吐出部である吐出ポート12aが、それぞれ軸受孔1bを挟んでほぼ上下で対向するように切欠形成されている。
前記吸入ポート11aは、その周方向のほぼ中間位置に、後述するスプリング収容室16側へ膨出するように形成された図外の導入部が一体に設けられ、この導入部と吸入ポート11aの境界部近傍には、ポンプボディ1の端壁1aを貫通して外部へと開口する吸入口11bが貫通形成されている。したがって、内燃機関のオイルパン43に貯留されたオイルが、前記ポンプ構成体のポンプ作用に伴い発生する負圧に基づき吸入口11b及び吸入ポート11aを介して吸入領域に係る各ポンプ室13に吸入されるようになっている。
前記吐出ポート12aは、その始端部に、ポンプボディ1の端壁1aを貫通して外部へと開口する吐出口12bが貫通形成されている。したがって、前記ポンプ構成体によるポンプ作用により加圧されて吐出ポート12aへと吐出されたオイルは、図1に示すように、前記吐出口12bから前記シリンダブロック内部に設けられた吐出通路18を通って図外のメインオイルギャラリから機関内における各摺動部やVTC等へと供給される。なお、前記吐出通路18の下流側には、オイルクーラやオイルフィルタ70が設けられている。
また、前記吐出ポート12aには、該吐出ポート12aと軸受孔1bを連通する図外の連通溝が切欠形成されており、この連通溝を介して軸受孔1bにオイルを供給すると共に、ロータ6及び各ベーン7の側部にもオイルを供給することによって、各摺動部位の良好な潤滑が確保されている。
前記カバー部材2は、図2及び図3に示すように、ほぼ板状を呈し、ポンプボディ1の外形状に倣って上下方向に長い矩形状に形成され、図外の複数のボルトによって取り付け面2b側がポンプボディ1のポンプ収容室3の開口部側の取り付け面1gに取り付けられるものである。また、ポンプボディ1の軸受孔1bに対向する位置には、駆動軸4の他端側を回転自在に支持する軸受孔2aが貫通形成されている。そして、このカバー部材2の内側面にも、前記ポンプボディ1と同様に、吸入ポート11cや吐出ポート12c、連通溝15aが、ポンプボディ1の吸入ポート11aや吐出ポート12a、連通溝に対向配置されている。
前記駆動軸4は、図2に示すように、小径な一端部4aがポンプボディ1の端壁1aの軸受孔1bに軸支されている一方、他端部4b側の大径部4cがカバー部材2の軸受孔2aに軸支されつつ先端側が外部へと臨んで前記クランクシャフトなどに連係され、このクランクシャフトから伝達される回転力に基づきロータ6を図1中の時計方向へと回転させる。ここで、図1に示すように、この駆動軸4の中心を通り、かつ、前記カムリング基準線Mと直交する直線(以下「カムリング偏心方向線」という。)Nが、吸入領域と吐出領域の境界線となっている。
前記ロータ6は、図1に示すように、その中心側から径方向外側へ放射状に形成された前記複数のスリット6aの内側基端部には、それぞれ吐出油を導入する横断面ほぼ円形状の背圧室6bが設けられ、このロータ6の回転に伴う遠心力と背圧室6b内の圧力とによって各ベーン7が外方へと押し出されるようになっている。
前記各ベーン7は、ロータ6の回転時において、各先端面がカムリング5の内周面に摺接すると共に、各基端面が前記各リング部材8,8の外周面にそれぞれ摺接するようになっている。
前記カムリング5は、いわゆる焼結合金によりほぼ円筒状に一体形成され、その外周部の所定位置には、前記ピボットピン9に嵌合するほぼ円弧凹溝状のピボット部5aが軸方向に沿って切欠形成されると共に、このピボット部5aに対しカムリング5の中心を挟んだ反対側の位置には、所定のばね定数に設定された後述する付勢部材であるコイルばね23に連係するアーム部5bが径方向に沿って突設されている。
前記ポンプボディ1の内部には、図1に示すように、前記支持溝1cと対向する位置にスプリング収容室16が前記偏心方向線Nに沿うように設けられている。このスプリング収容室16には、その一端壁とアーム部5bの一側面との間に、所定のセット荷重W1を付与された前記コイルばね23が弾装されている。なお、このスプリング収容室16の他端壁は、カムリング5の偏心方向の移動範囲を規制する規制面16aとして構成され、この規制面16aにアーム部5bの他側面が当接することによって、カムリング5の偏心方向におけるそれ以上の移動(揺動)が規制されるようになっている。
このように、前記カムリング5は、コイルばね23の付勢力によって、アーム部5bを介してその偏心量が増大する方向(図1中の時計方向)へと常時付勢され、非作動状態では、図1に示すように、アーム部5bの他側面が規制面16aに押し付けられた状態となって、その偏心量が最大となる位置に規制されるようになっている。
また、前記カムリング5の外周部には、ポンプボディ1の内周壁によって構成される前記第1、第2、第3シール摺接面1d,1e、1fに対向して設けられ、この各シール摺接面1d、1e、1fと同心円弧状の第1、第2、第3シール面を有する一対の第1、第2、第3シール構成部5c,5d、5eが突出形成されると共に、これらシール構成部5c、5d、5eの各シール面に形成されたそれぞれのシール保持溝内には、カムリング5の偏心揺動時に前記各シール摺接面1d,1e、1fに摺接する前記第1、第2、第3シール部材10a、10b、10cがそれぞれ収容保持されている。
前記第1、第2、第3シール部材10a〜10cは、いずれも低摩擦特性を有するフッ素系樹脂材によってカムリング5の軸方向に沿って直線状に細長く形成され、各シール保持溝の底部にそれぞれ配設されたゴム製の弾性部材の弾性力をもって前記各シール摺接面1d〜1fに押し付けられることによって、この各シール摺接面1d〜1fと前記各シール面との間が液密的にシールされている。
さらに、前記カムリング5の外周面とポンプボディ1の内周面との間には、図1に示すように、前記ピボットピン9を中心とした円周方向の左右位置に前記第1制御油室21と第2制御油室22及び前記低圧室41が形成されている。
具体的に説明すると、前記第1制御油室21は、第1シール部材10aと第3シール部材10cとの間に隔成され、第2制御油室22は、ピボットピン9と第2シール部材10bとの間に隔成され、さらに低圧室41は、ピボットピン9と第3シール部材10cとの間にそれぞれ隔成されている。
したがって、カムリング5の外周面のうち、前記第1制御油室21に臨む第1受圧面5fは、前記ピボットピン9との間の前記低圧室41の存在によって小さく形成されて、ピボットピン9から円周方向に大きく延びる第2制御油室22に臨む第2受圧面5gの方が大きく形成されている。このため、第1、第2制御油室21,22の双方に同じ油圧が作用した場合には、全体としてその偏心量を増加させる方向(図1中の時計方向)へとカムリング5を付勢する構成となっている。
前記第1,第2制御油室21,22には、前記吐出通路18から分岐形成された制御圧導入通路60を介してポンプ吐出圧が導かれるようになっている。すなわち、第1制御油室21には、前記制御圧導入通路60からさらに二股に分岐された一方の分岐通路である第1導入通路61を介してポンプ吐出圧が供給される一方、第2制御油室22には、他方の分岐通路である第2導入通路62を通じて電磁切換弁50やパイロット弁30を経てポンプ吐出圧が供給される。そして、これらの各油圧がそれぞれ第1、第2制御油室21,22に面するカムリング5の第1、第2受圧面5f、5gに作用することによって、カムリング5に対し移動力(揺動力)が付与されることとなる。
したがって、前記オイルポンプは、コイルばね23のセット荷重W1に対して両制御油室21,22の内圧に基づく付勢力が小さいときは、カムリング5は図1に示すような最大偏心状態となる一方、吐出圧の上昇に伴い両制御油室21,22の内圧に基づく付勢力がコイルばね23のセット荷重W1を上回ったときは、その吐出圧に応じてカムリング5が同心方向へ移動することとなる。
また、前記低圧室41は、図1〜図3に示すように、前記凹溝40によってポンプボディ1の上下方向に沿って形成されていると共に、前記カバー部材2に貫通形成された連通孔42によってポンプの外部である大気に開放されつつオイルパン43に連通している。つまり、この低圧室41には、ポンプの作動によってポンプボディ1とカバー部材2との合わせ面(サイドクリアランス)からリークしたオイルや該オイル内に混入したいわゆるコンタミが流入し、これらのオイルやコンタミを、連通孔42を介してオイルパン43内に排出するようになっている。
前記連通孔42は、低圧室41の重力方向下側のピボットピン9寄りに配置されていると共に、カバー部材2の壁部を貫通した小径な細長い孔によってほぼ水平に形成され、一端部42aが低圧室41の底部側に開口形成されていると共に、他端部42bがカバー部材2の外面に開口形成されて、オイルパン43に臨んでいる。
また、この連通路42の一端部42aは、前記カムリング5のいずれの揺動位置においてもカムリング5によって閉塞されることなく、常に低圧室41とオイルパン43とを連通する位置に形成されている。
前記パイロット弁30は、図1に示すように、ポンプボディ1のカバー部材2と重合して設けられる長手方向の上端部に横方向に沿って配置され、前記カバー部材2の外側まで延設された筒状のバルブボディ31と、該バルブボディ31の底部開口を閉塞するプラグ32と、前記バルブボディ31の内部軸方向に形成されたバルブ収容孔31a内に摺動自在に収容され、バルブボディ31の内周面と摺接する一対の第1、第2ランド部33a,33bによって第2制御油室22に対しての油圧の給排制御に供するスプール弁体33と、前記バルブボディ31の他端側内周においてプラグ32とスプール弁体33の間に所定のセット荷重をもって弾装され、スプール弁体33をバルブボディ31の一端側へ常時付勢するバルブスプリング34と、から主として構成されている。
前記バルブボディ31の一端部には、第2導入通路62の下流側の通路(以下、下流側通路という。)62aを介してソレノイドバルブ50と接続される導入ポート63が開口形成されていると共に、バルブボディ31とポンプボディ1の内部には、その軸方向中間位置に、一端側が第2制御油室22に接続されると共に他端側が後述する中継室31bと常時接続されることによって第2制御油室22に対する油圧を給排する給排ポート64が開口形成される。また、バルブボディ31の周壁の軸方向のほぼ中央位置に、一端側が外部へ直接開口又は吸入側に接続され、後述する中継室31bとの接続を切り替えることによってこの中継室31bを介して第2制御油室22内の油圧排出に供される第1ドレンポート65が開口形成されている。前記バルブボディ31の後述する背圧室と重合する軸方向位置にも、前記第1ドレンポート65と同様に、外部へ直接開口又は吸入側に接続される第2ドレンポート66が開口形成されている。
また、前記バルブボディ31の周壁には、ポンプボディ1と協働してスプール弁体33が図1中の左端側の位置にある状態で、後述する中継室31bを連通する連通油路67が形成されている。
前記スプール弁体33は、軸方向の両端部の前記第1、第2ランド部33a,33b間に設けられた小径軸部33cを有していると共に、バルブボディ31内の第1ランド部33aの軸方向外端側に形成されて、導入ポート63から吐出圧が導かれる圧力室68と、前記小径軸部33cの外周に形成されて、スプール弁体33の軸方向位置によって給排ポート64と連通油路67又は第1ドレンポート65とを中継する中継室31bと、第2ランド部33bとプラグ42との間に設けられ、第2ランド部33bの外周側(微小隙間)を通じて中継室31bより漏出したオイルの排出に供する背圧室と、をそれぞれ隔成している。
このような構成から、前記パイロット弁30は、導入ポート63より圧力室68に導かれる吐出圧が所定圧(後述するスプール作動油圧Ps)以下の状態では、前記バルブスプリング34の付勢力によってスプール弁体33がバルブ収容部31aの一端側に位置することとなる(図1参照)。すなわち、スプール弁体33が前記一端側に位置することにより、連通油路67が中継室31bに連通される一方、第2ランド部33bによって第1ドレンポート65と中継室31bの連通が遮断されて、給排ポート64を介して第2制御油室22と中継室31bが連通される結果、通路62aから連通油路67を通って導かれる油圧が中継室31bと給排ポート64を介して第2制御油室22へと供給されることとなる。
そして、前記圧力室68に導かれる吐出圧が前記所定圧を超えると、前記バルブスプリング34の付勢力に抗してスプール弁体33が前記一端側から他端側へと移動して、最大この他端側に位置することとなる。この最大他端側に位置することによって、給排ポート64を介して第2制御油室22は中継室31bとの連通が維持される一方、第1ランド部33aによって連通油路67と中継室31bとの連通が遮断されて、第1ドレンポート65を介して中継室31bとオイルパン43が連通される結果、第2制御油室22内のオイルが給排ポート64と中継室31bを通って第1ドレンポート65からオイルパン43へ排出される。
前記ソレノイドバルブ50は、図1に示すように、前記制御圧導入通路60の途中に介在する図外のバルブ収容孔内に収容配置され、内部軸方向に沿って油通路54が貫通形成された円筒状のバルブボディ51と、前記油通路54の先端側内部に固定されて、第2導入通路62の上流側と接続される導入ポート55を有するシート部材52と、該シート部材52の内端部開口縁に形成されるバルブシートに対して離着座自在に設けられ、前記導入ポート55の開閉に供するボール弁体53と、前記バルブボディ51の他端部に設けられたソレノイド56と、から主として構成されている。
前記バルブボディ51は、ボール弁体53を収容する弁体収容部57の内端部開口縁にも、前記シート部材52に有するバルブシートと同様のバルブシートが形成されている。さらに、バルブボディ51の周壁のうち、その一端側となる前記弁体収容部57の外周部に、下流側通路62aと接続されてパイロット弁30に対する油圧の給排に供する給排ポート58が径方向に沿って貫通形成されると共に、その他端側となる油通路54の外周部に、オイルパン43に連通するドレンポート59が径方向に沿って貫通形成されている。
前記ソレノイド56は、ケーシング内部に収容されるコイルに通電されることにより発生する電磁力によって、このコイルの内周側に配置されるアーマチュア及びこれに固定されるロッド56aが図1中の下方向へと進出移動するようになっている。
このソレノイド56には、内燃機関の油温や水温、機関回転数など所定のパラメータによって検出ないし算出された機関運転状態に基づいて車載のECU(図示外)から励磁電流が通電されることとなる。
したがって、前記ソレノイド56への通電時には、ロッド56aが進出移動することによってこのロッド56aの先端部に配置されるボール弁体53がシート部材52側のバルブシートへと押し付けられ、前記導入ポート55と給排ポート58の連通を遮断し、油通路54を介して給排ポート58とドレンポート59が連通することとなる。一方、このソレノイド56の非通電時には、導入ポート55より導かれる吐出圧に基づいてボール弁体53が後退移動してバルブボディ51側のバルブシートへと押し付けられ、導入ポート55と給排ポート58が連通状態となると共に、給排ポート58とドレンポート59の連通が遮断されることとなる。
以下に、本実施形態に係るオイルポンプの作用について説明する。
まず、前記オイルポンプの作用説明に入る前に、このオイルポンプの吐出圧制御の基準となる内燃機関の必要油圧について、図5に基づいて説明すれば、図中のP1は、例えば燃費向上等に供するVTCの要求油圧に相当する機関要求油圧を、P2は、ピストンの冷却に供するオイルジェットの要求油圧に相当する機関要求油圧及び機関高回転時の前記クランクシャフトの軸受部の潤滑に要する機関要求油圧を、それぞれ示し、これら点P1〜P2を実線により繋いだものが、内燃機関の機関回転数に応じた理想的な必要油圧(吐出圧)Pを表している。
また、同図中におけるPcは前記セット荷重W1に基づくコイルばね23の付勢力に抗してカムリング5が同心方向へ移動を開始するカムリング作動油圧を、Psは前記セット荷重W2に基づくバルブスプリング34の付勢力に抗してスプール弁体33が一端側の位置から他端側の位置へと移動を開始し、第1ドレンポート65の開口が始まるスプール作動油圧を、それぞれ示している。
このような設定から、機関始動から低回転域までの回転域に相当する図5中の区間aでは、前記電磁切換弁50のソレノイド56に励磁電流が通電され、前記導入ポート55と給排ポート58の連通が遮断される一方、給排ポート58とドレンポート59が連通する。これにより、第2制御油室22(パイロット弁30)側には吐出圧Pが導入されず、パイロット弁30のスプール弁体33は図1に示す最大左側の位置に保持されることとなる。この結果、第2制御油室22内のオイルは下流側通路62a及び油通路54を介してソレノイドバルブ50のドレンポート59からオイルパン43内に排出され、第1制御油室21のみに吐出圧Pが供給される。この機関回転域では吐出圧(機関内油圧)Pがカムリング作動油圧Pcよりも低い状態となっているため、カムリング5が最大偏心状態に保持されて、吐出圧Pは機関回転数にほぼ比例するかたちで増大する特性となる。
その後、機関回転数が上昇して吐出圧Pがカムリング作動油圧Pcに到達すると(図5参照)、ソレノイド56への通電状態が維持され、引き続き第1制御油室21のみに吐出圧Pが供給される。これにより、第1制御油室21の内圧に基づく付勢力がコイルばね23の付勢力W1に打ち勝ち、カムリング5が同心方向へと移動を始める。この結果、前述したカムリング5が最大偏心状態にあるときと比べて、この吐出圧Pの増加量が小さくなる(図5中の区間b)。
機関回転数がさらに上昇し、機関運転状態において機関要求油圧P2が必要になると(図5参照)、ソレノイド56への通電が遮断され、導入ポート55と給排ポート58が連通する一方、給排ポート58とドレンポート59の連通が遮断される(図5中の時点X)。この結果、制御圧導入通路60から第2導入通路62へ供給される吐出圧Pが下流側通路62aを介してパイロット弁30側へと導かれる。このとき、吐出圧Pは未だスプール作動油圧Psに達していなければ、パイロット弁30のスプール弁体33は一端側に位置することとなり(図1に示す位置)、連通油路67を通じて中径部31bと給排ポート64が連通するので、前記吐出圧が第2制御油室22へと供給される。これにより、コイルばね23の付勢力W1と第2制御油室22の内圧に基づく付勢力との合力からなる偏心方向の付勢力が第1制御油室21の内圧に基づく同心方向の付勢力を上回って、カムリング5が偏心方向へと押し戻され、吐出圧Pの増加量が再び大きくなり、高圧特性となる(図中の区間c)。
その後、かかる増大特性に基づき吐出圧Pが上昇してスプール作動油圧Psに到達すると、パイロット弁30によって導入ポート63より圧力室68に導入される吐出圧Pに基づいてスプール弁体33がバルブスプリング34の付勢力W2に抗してプラグ32側へと移動し、その位置が一端側から他端側へと切り替わる。
これにより、連通油路67のバルブ収容部31a側開口が第1ランド部33aによって遮断されると共に、中継室31bを介して給排ポート64と第1ドレンポート65が連通することによって、第2制御油室22内のオイルは排出することにより減圧され、吐出圧Pよりも低くなる。この結果、第1制御油室22の内圧に基づく同心方向の付勢力がコイルばね23の付勢力W1と第2制御油室22の内圧に基づく付勢力との合力からなる偏心方向の付勢力を上回って、カムリング5が図4に示すように同心方向へ移動することにより、吐出圧Pが減少する。
すると、この吐出圧Pの減少によりスプール弁体33の一端に作用する油圧(吐出圧P)がスプール作動油圧Psを下回ると、この吐出圧Pによる付勢力にバルブスプリング34の付勢力W2が打ち勝ち、スプール弁体33が導入ポート63側へと移動する。これにより、パイロット弁30の連通油路67と給排ポート64が連通して、第2制御油室22に再び第2吐出圧が供給される。この結果、カムリング5は、偏心方向へと押し戻されて、吐出圧Pが再び増大して高圧特性(図5の区間d)となる。
その後、この吐出圧Pの増大によって、スプール弁体33の一端に作用する油圧がスプール作動油圧Psを上回ると、このスプール弁体33がバルブスプリング34の付勢力W2に抗して再び他端側へと移動する。これにより、前述のように、第2制御油室22内のオイルは排出されて、第1制御油室21のみに吐出圧Pが供給される結果、第1制御油室22の内圧に基づく同心方向の付勢力がコイルばね23の付勢力W1と第2制御油室22の内圧に基づく付勢力との合力からなる前記偏心方向の付勢力を上回って、カムリング5が同心方向へ移動することにより、吐出圧Pが再び減少する。
このように、オイルポンプは、パイロット弁30のスプール弁体33によって、第2制御油室22に連通する給排ポート64と連通油路67又は第1ドレンポート65との接続が連続的に交互に切り替わることにより、吐出圧Pがスプール作動油圧Psに維持されるように調整されることとなる。
このとき、かかる調圧は、パイロット弁30における給排ポート64の切替によって行われるため、コイルばね23のばね定数による影響を受けることがない。また、前記調圧は、前記給排ポート64の切替に係るスプール弁体33の極狭いストロークの範囲で行われるため、バルブスプリング34のばね定数による影響を受けるおそれもない。その結果、本区間では、オイルポンプの吐出圧Pが機関回転数の上昇に伴い比例的に増大するのではなくほぼフラットな特性となり、前記理想的な必要油圧に極力近づけることが可能となる。
以上のことから、本実施形態に係るオイルポンプでは、前記パイロット弁30による調圧制御に基づき、高い所定圧(スプール作動油圧Ps)に維持することが要請される機関回転域(図5中の区間d)において、吐出圧Pをこの高圧に維持することができる。
しかも、本実施形態では、前記ポンプボディ1に低圧室41を設けたことによって、カムリング5の前記第1制御油室21に位置する第1受圧面5fが相対的に小さくなって、この第1受圧面5fの受圧面積C1が第2制御油室22に位置する第2受圧面5gの受圧面積C2の方が大きくなっていることから、前記吐出圧が高圧特性(図5のP2)の状態のときの例えば各ポンプ室13内でのエアレーションやキャビティーションなどに起因してオイル内に混入した気泡によるカムリング5の挙動の不安定化を抑制することができる。
すなわち、前記従来技術の課題において記載したように、特に機関高回転域では、吸入中においてエアレーションやキャビティーションなどに起因して各ポンプ室13のオイル内に多くの気泡が発生し易くなり、このオイルを圧縮して吐出する吐出領域で気泡の潰れなどの現象を起こして前記各ポンプ室13の内圧のバランスが崩れてしまい、この結果、カムリング5の挙動が不安定になって、設定した作動油圧に達する前にカムリング5が同心方向へ揺動してしまい、機関高回転時における高圧特性(図5のP2)の制御が不安定になって、図中破線で示すように、設定した制御油圧より低くなってしまうおそれがある。
そこで、本実施形態では、第1受圧面5fと第2受圧面5gの両受圧面積を、受圧面積C1<受圧面積C2の関係に設定したことから、前記高圧特性時においてカムリング5に対する第2制御油室22内の作動油圧による付勢力(揺動トルク)が第1制御油室21内の作動油圧による付勢力(揺動トルク)よりも大きくなる。これによって、カムリング5は、前記各ポンプ室13内に発生した気泡に影響を受けることなく、第2制御油室22内の作動油圧によって偏心量が増大する方向へ安定に維持される。これによって、ポンプ吐出圧Pの高圧特性時P2においては、図5の実線で示すように、安定した特性が得られる。
さらに、前記低圧室41を、前記ピボットピン9と前記第1制御油室21の間に設けたことによって、第1制御油室21内の作動油圧による付勢力(揺動トルク)が、カムリング5を移動(揺動)させやすい方向に発生している。この結果、前記カムリング5の挙動と制御性が安定し、ピボットピン9とアーム部5aとの間で発生する異常摩耗を抑制することができる。
なお、第2受圧面5gの面積を小さくする場合には、ピポットピン9と第2制御室22の間に低圧室41を配置することも可能である。この場合においても、第2受圧面5gが、カムリング5の移動(揺動)させやすい方向に発生し、ピポットピン9にカムリング5を移動(揺動)させない方向へ無用な付勢力が作用することを抑制できる。この結果、第1実施形態と同様にカムリング5の挙動と制御性が安定し、ピボットピン9とアーム部5aとの間で発生する異常摩耗を抑制することによってカムリング5の耐久性を向上させることができる。
前記低圧室41には、ポンプボディ1とカバー部材2の間のサイドクリアランスなどからリークしたオイルやこのオイルと一緒に金属粉であるコンタミなどが流入して一旦捕集されるが、ここから連通孔42を通ってオイルパン43内に効率良く排出される。このため、ポンプ収容室3内のポンプ構成体などの各構成部品が、コンタミなどによる異常摩耗などの発生を抑制することができる。この結果、ポンプの耐久性を向上できる。
さらに、前記低圧室41を構成する凹溝40を、ポンプボディ1の図1に示す幅長さ(W)方向ではなく、ポンプボディ1の既存の長さ方向の中で上下方向に形成したことから、低圧室41を設けたことによるポンプボディ1の幅長さWを大きくする必要がない。したがって、ポンプボディ1の大型化を抑制することが可能になる。これによって、オイルポンプと他の機器類との干渉を回避できると共に、レイアウトの自由度を確保することができる。
また、カバー部材2に貫通形成された前記連通孔42を、低圧室41の重力方向の下側のアーム部5b及びピボットピン9の近傍位置に形成したことから、低圧室41内に流入したコンタミをオイルと一緒に連通孔42からオイルパン43内へ速やかに排出させるので、アーム部5b及びピボットピン9の近傍にコンタミが滞留することを低減でき、コンタミによるカムリング5の作動不良を抑制することができる。
さらに、前記連通孔42は、カムリング5が最大偏心方向の位置と同心方向位置の間のいずれの揺動位置においても、低圧室41とオイルパン43を常に連通させた状態になっていることから、前記コンタミなどの排出性が良好になる。
本実施形態では、前記連通孔42をカバー部材2に貫通形成したが、ポンプボディ1の端壁1aに貫通形成することも可能である。
〔第2実施形態〕
図6〜図8は本発明の第2実施形態を示し、オイルポンプの配置を第1実施形態のものに対して逆さまに配置すると共に、連通孔42をカバー部材2の取り付け面2bの下部に上下方向に沿って形成したものである。なお、オイルポンプの構造は第1実施形態と同じであるから、同一の符番を付して具体的な説明は省略する。
すなわち、この実施形態では、コイルばね23が図中上側、つまり重力方向の上側に配置されていると共に、低圧室41が重力方向の下側に配置されている。
また、連通孔42は、図7及び図8に示すように、カバー部材2のポンプボディ1との取り付け面2bの下部に細長い溝状に形成されていると共に、前記低圧室41の底面に開口した一端部42a側から下方のオイルパン43に向かって開口した他端部42bまで上下垂直方向に沿って形成されて、前記取り付け面2bにポンプボディ1の取り付け面1gが当接した状態で連通孔として構成されている。
他の構成は第1実施形態と同じであるから、同一の作用効果が得られると共に、特に前記連通孔42が低圧室41の底面側から垂直下方向へ形成されていることから、低圧室41に流入、捕集されたオイルやコンタミが連通孔42を通ってオイルパン43内へ自重により自然に落下する。したがって、これらの排出効率が向上する。特に、ポンプの作動が停止した状態であっても、連通孔42を通って自然落下するので、低圧室41内の殆どのオイルやコンタミを効率よく排出することが可能になる。
この実施形態では、前記連通孔42がカバー部材2側に形成されているものを示したが、これをポンプボディ1の周壁を径方向から貫通形成することも可能である。
ところで、前記オイルポンプは、一般に機関の下部周辺に設けられ、この周囲には、クランクシャフトや前記オイルパン43の他に、例えばバランサ装置などの機器類が近接して配置されることが多く、搭載方向も搭載空間に合わせた箇所に配置されることになる。したがって、オイルポンプの搭載姿勢が常に一定になるとは限らず、特に近時のダウンサイジングの要請からそのレイアウトも極めて制限的となる。このため、オイルポンプの周辺機器との配置関係によっては、前記低圧室41や連通孔42の形成位置も制約を受けてしまう場合がある。そこで、第2実施形態のように連通孔42をオイルポンプの下側で駆動軸4に対して軸直角方向に形成することによって、低圧室41内のコンタミやリークオイルを自重によって自然落下させることにより、オイルパン43内に速やかに排出することができる。
本発明は、前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば前記連通孔42を、カバー部材2とポンプボディ1のいずれかに形成することが可能であり、また、この連通孔42を複数形成することも可能である。
また、前記各実施形態では、連通孔42を、低圧側であるオイルパン43(大気)に連通させているが、場合によっては吸入負圧が発生する前記吸入口11b側などに連通させることも可能である。
さらに、前記低圧室41は、凹溝40を介して比較的大きな円弧状に形成されているが、コンタミなどを流入、捕集できる大きさであれば良く、さらに小さく形成することも可能である。
前記ポンプハウジングを、機関のシリンダブロックなどに取り付ける際におけるその向きは任意に選択でき、例えば機関などの大きさや仕様などに応じて自由に変更することも可能である。
前記各実施形態では、前記カムリング5を揺動させることで吐出量を可変にする形態を例に説明しているが、この吐出量を可変にする手段としては、前記揺動に係る手段のみならず、例えばカムリング5を径方向へと直線的に移動させることによって行うこととしてもよい。
さらに、前記各実施形態では、電磁切換弁50の弁体としてボール弁体53を用いているが、例えばスプール弁を用いることも可能である。
なお、前記各実施形態では、オイルポンプ1にベーン7を用いたポンプを用いているが、例えばギヤポンプを用いることも可能である。