JP3775215B2 - 磁気シールド材、磁気シールド材用鋼板とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カラーテレビ等のブラウン管の内部に装着される磁気シールド材、そのための鋼板、そしてその製造方法に関する。以下、磁気シールド材としてブラウン管の組み込まれるインナーシールドを例にとって説明する。
【0002】
【従来の技術】
カラーテレビのブラウン管の基本構成は、電子銃と電子ビームを映像に変える蛍光面からなり、このブラウン管の内部には、電子ビームに対する地磁気その他の外部磁気の影響を避けるため、インナーシールドと呼ばれる磁気シールド材が組み込まれる。
【0003】
この種の磁気シールド材に要求される重要な特性として、主として下記▲1▼〜▲4▼が求められる。
▲1▼地磁気 (約0.35 Oe :エルステッド) のような低磁場において高い透磁率を有すること。
【0004】
▲2▼消磁特性を向上 (消磁コイルの巻数・電流の低減と同義) させるため、保持力を低減すること。
▲3▼使用中のブラウン管内部の熱を効率的に外部に放出できる熱放射性に優れること。
【0005】
▲4▼種々のインナーシールドの形状に適合しうる加工性に優れること。
インナーシールドに用いられる磁気シールド材用鋼板としては、一般に板厚が0.1 〜0.25mmの極薄鋼板が用いられており、通常は、所定のインナーシールドの形状に成形した後、その成形加工された薄鋼板の表面に黒化処理 (黒化焼鈍) が施される。この場合の黒化処理は、水蒸気または二酸化炭素等の酸化性の雰囲気中で薄鋼板を560 〜600 ℃×5〜20分加熱することにより、その表面に厚さ約1〜6μm のマグネタイト (Fe3O4 ) を主体とした黒化膜を形成するものである。この黒化処理の後に所望の磁気特性を備えていることがインナーシールドに求められる。
【0006】
近年、カラーテレビの画質の向上への要求が高まり、直流磁界0.3 Oe (μ0.3)の直流比透磁率が750 以上、最大磁化力10 Oe での保磁力Hcが1.2 Oe以下とする発明も特開平2−61029 号公報に開示されている。
【0007】
保磁力の低減の目的は、テレビの向きを変更した場合、シールド材に帯磁した磁気を消磁するために、低く抑える必要があるからである。この保磁力Hcは、μ0.35と強い相関を有することが知られており、μ0.35の低さは、Hcの低さと同義であるとされている。
【0008】
透磁率と伸びを高め、保磁力を抑制するために、粒径を大きくし、鋼中炭素を極力抑制する必要があり、特開昭58−81926 号、特開昭62−280329号等の各公報に開示されるように、低炭素アルミキルド鋼からなる熱延鋼板を酸洗後、冷間圧延を行い、引続き、OCA脱炭焼鈍 (オープンコイルを用いた脱炭焼鈍) で鋼中炭素を水蒸気脱炭により10ppm 以下に低減させた上で、軽圧下冷間圧延と箱焼鈍を施し、フェライトを粗粒化させる方法が用いられてきた。
【0009】
さらに、OCA脱炭焼鈍を用いずに、かつリムド鋼も採用せずに高い透磁率と、安定した黒化膜の形成を両立しうる方法としては、近年発達した真空脱ガス技術と、製鋼脱酸でAl使用量を最適化した極めてAlの低い極低炭素鋼 (以下「未脱酸キルド鋼」と呼称) を用いた技術が、例えば特開平8−260051号公報に開示されている。
【0010】
ここで開示された技術ではAl、Siを低減した未脱酸キルド鋼を用い、熱延鋼板を酸洗した後、焼鈍を施し、引続き冷間圧延と箱焼鈍を2回以上施し、フェライト粒径を粗大化した冷延鋼帯を素材とし、さらに冷間圧延と、連続焼鈍を施すことにより透磁率を高め、保持力を低く抑えるとともに、黒化膜の安定化を図る方法が紹介されている。
【0011】
この方法は、OCA脱炭焼鈍を用いるプロセスに比べて、フェライト粒径は細かく、透磁率等の磁気特性においては若干劣る点があるが、生産上の経済性を考慮すると有効な方法であると考えられる。また、黒化膜の安定性において、低Si、Alの未脱酸キルド鋼を用いることで、リムド鋼と同様の特性が得られる期待がある。
【0012】
しかし、この方法では、フェライト粒径を粗大化する目的で熱延板に焼鈍を施した上で、その微細化を図るべく、中間工程での軽圧下率の冷間圧延と箱焼鈍等を2回以上繰り返す必要がある。したがって、プロセス上、冷間圧延と焼鈍と多くの製造工程が必要となり、経済的な製造方法とは言えない。
【0013】
また、特開昭62−280328号公報では、sol.Al: 0.005〜0.06%とかなり多量に含有するスラブからインナーシールドを製造する方法が開示されているが、この場合には、フェライト粒成長、あるいは黒化皮膜形成の均一性が困難な場合が生じる。
【0014】
また、特開平9−806285号公報では、Cu:0.1 〜1.5 %とCu添加量が極めて高くする例が開示されているが、不経済である上、透磁率の向上に関しては考慮されていない。
【0015】
この他、特開平10−46249 号公報には、磁気特性を向上せしめるために、冷間圧延と焼鈍を3回繰り返す製造方法が開示されており、これでは経済性が悪化する恐れがある。
【0016】
さらに、特開2000−169945号公報には、Mgを必須成分として含有し、Si含有量が0.5 %以下と比較的高い組成が開示されているが、この場合には黒化膜の安定性が劣化する。
【0017】
また、ブラウン管内部からの熱放射には、シールド表面に黒化膜を形成し、その効率化を図ってきている。この黒化膜形成に際しては、一般に鋼の成分が大きく影響する。特に、鋼の成分中にSiやAlなどの酸化物生成元素が存在すると、マグネタイトの他にヘマタイト (Fe2O3)が多く生成しやすく、そのためブラウン管内で黒化膜が剥離するおそれがある。
【0018】
ヘマタイトは、鋼中にAl、Siが含有されると生成されやすい。このことから、Al、Siを抑えたリムド鋼が用いられることが多く、このことは、特開昭59−173219号等の公報に開示されている。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
このような製造プロセスの経済性を高める手段として、本発明の目的と同じテレビブラウン管用インナーシールドを提供することを前提として、特開平2−61029 号公報には、極低炭素鋼における合金元素比率とフェライト粒径を規定し、ある程度の透磁率と保磁力を有する磁気シールド材用鋼板の製造方法を開示している。しかし、この方法では最終の連続焼鈍工程での平坦等を改善するため、予め強度を高めることを目的として0.1 %以上のPを添加しており、かかる多量のPの添加は、磁気シールド製品における加工性等の劣化を招く。
【0020】
そこで、本発明者らは、このP添加を抑制すれば、最終の冷間圧延後の焼鈍を省略しても、インナーシールドとしての加工性を確保でき、極めて経済性の高い製造方法が確立されることになることに着目した。
【0021】
ここに、本発明の課題は、加工性を劣化するPを極力抑制しながら、透磁率、保磁力を確保し、しかも品質の良好な磁気シールド材を経済的に生産する技術を開発することである。
【0022】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく、結晶粒の粗大化による透磁率向上、保磁力の低減を図るため、未脱酸キルド鋼について種々検討したところ、次のような知見を得た。
【0023】
(1) 最終圧延前の結晶粒度を、JIS G0552に規定する比較法で測定した場合の粒度番号 5.0〜8.5 に調整し、最終圧延の圧下率を50〜80%の範囲に設定して冷間圧延すれば、中間焼鈍を介した2回の冷間圧延で、その後の黒化処理 (水蒸気またはCO2 ガス中で560 〜600 ℃×5〜20分) により直流磁界0.35 Oe で比透磁率が750 で、保磁力が1.25 Oe 以下 (最大磁化力10 Oe)の磁気特性が得られること。
【0024】
(2) この磁気特性を確保するためには、極低炭素鋼を前提としてMn、Al、S、Nを特定値以下に抑制し、かつCを加えたMn、Al、S、Nの合金成分の間に特定の相関を持たせることと、鋼中の酸化物の内、SiO2、MnO 、Al2O3 に特定の関係を持たせること。
【0025】
(3) 黒化膜の安定した生成のために、Si、Al、Mn等は、酸素と強い親和性を持つため黒化の際に酸化物を形成し、その下部または周辺に黒化むらや密着性の劣る黒化膜を形成することから、含有量を制限すること。
【0026】
以上の知見に基づき、本発明を完成した。
ここに、本発明は、
質量%で、C:0.005%以下、Si:0.03%以下、Mn:0.10〜0.50%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、sol.Al:0.002%以下、N:0.0030%以下、O:0.030%以下、残部Feおよび不可避的不純物、かつ、C、Mn、S、sol.Al、Nが下記の(1)、(2)式を満足し、鋼中に存在する全酸化物が、質量%で、SiO2:25%以下、MnO:70%以上で、残部Al2O3からなることを特徴とする磁気シールド材用鋼板。
【0027】
NSR=N−14/27×sol.Al ・・・・・▲1▼
5.0 ≦ (Mn−55/32×S)/(55/12×C+55/14 ×NSR) ≦50・・・▲2▼
である。
【0028】
さらに、このとき、鋼中の酸化物において質量比で、SiO2≦25%、MnO≧70%で、残部が Al 2 O 3 からなり、さらに必要に応じて、鋼中のTi、Nb、W、VおよびZrの合計量が、質量比で0.01%未満であることを特徴とする磁気特性に優れた磁気シールド材用鋼板である。
【0029】
さらに、Snおよび/またはSbを必要に応じて合計量で0.0002%以上添加することで、さらに粒成長が促進され優れた磁気特性の磁気シールド材用鋼板が適用できる。好適範囲としては脆性を考慮して0.0050%以下とする。
【0030】
本発明は、別の面からは、溶製した溶鋼を連続鋳造でスラブとし、スラブ加熱温度をT(℃) としてT (℃) が下記の▲3▼式を満足した上で、仕上温度:750℃以上、巻取温度:550℃以上の条件で熱間圧延を行い、酸洗の後、圧下率60〜90%で冷間圧延を行って板厚0.3 〜0.6mm の冷延鋼板とし、次いで焼鈍を施すことで、JIS G0552に準拠して測定した結晶粒度が5.0 〜8.5 を満足することを特徴とする、前述の化学組成を有する磁気シールド材用鋼板の製造方法である。
【0031】
こうして製造された磁気シールド材用鋼板は、冷間圧延後フルハード (未焼鈍) の状態でプレス成形が可能で、成形後、水蒸気またはCO2 等の酸化雰囲気中で560 〜600 ℃×5〜20分黒化焼鈍される。このときJIS G0552 に準拠して測定した結晶粒度は 6.0〜9.0 を満足する。
【0032】
これにより、黒化膜形成と内部歪みの除去および一次再結晶が同時に行われて例えばカラーテレビ用のインナーシールドなどの所定の特性を備えた磁気シールド材が製造される。
【0033】
本発明によれば、特にカラーテレビ用のインナーシールド材に適したものとして、上記のような未脱酸キルド鋼を用いて高透磁率と高加工性とを併せ持つ磁気シールド材、具体的には0.35 Oe での比透磁率 (以下、比透磁率0.35 Oe と記す) が750 以上で且つ、保磁力が1.25 Oe 以下 (最大磁化力20 Oe)の磁気特性を得られる磁気シールド材の製造が可能となった。
【0034】
【発明の実施の形態】
本発明において鋼の化学組成その他を上述のように規定する理由を以下に示す。なお、本明細書において化学組成を規定する「%」は特にことわりがない限り、「質量%」である。
【0035】
鋼の化学組成:
C:透磁率を高めるためのフェライトの粒成長を促進する手段として、Cは極力抑える必要がある。そこで、本発明では、含有量の上限を0.005 %とした。望ましくは、0.002 %以下でより良好な特性が得られる。
【0036】
Si:インナーシールドの黒化膜の安定形成のためにSiは極力抑えることが望ましい。このためその含有量の上限を0.03%とした。望ましくは、0.01%以下でより良好な特性が得られる。
【0037】
Mn:Mnは、MnS (Mn 系硫化物) を微細析出し、フェライトの粒成長を著しく阻害する。フェライトの粒成長促進を目的として、MnS の析出量の抑制と、析出の粗大化を図る必要があることから、本発明ではMnS を形成するSの含有量を考慮して0.10〜0.50%添加することとする。望ましくは、0.10〜0.20%でより良好な特性が得られる。
【0038】
P:Pは、製鋼段階において不可避的に含有されるが、含有量が増大すると、本発明の目的となる磁気シールド材であるインナーシールドを加工する際に、加工割れが生じる場合がある。このことから、その含有量を極力抑制する必要があり、本発明ではその上限を0.020 %とした。望ましくは、0.015 %以下でより良好な特性が得られる。
【0039】
S:Sは、上記のようにMnS(Mn系硫化物) を微細析出し、フェライトの粒成長を著しく阻害する。このことから、フェライトの粒成長促進を目的として、MnS の析出量の抑制を図るため、Sは極力含有量を抑えることとする。このためその含有量の上限を0.010 %とする。望ましくは、0.003 %以下でより良好な特性が得られる。
【0040】
sol.Al:sol.Alは、インナーシールドの黒化膜の安定した生成のためにその含有量を極力抑えることが望ましい。また同時に、熱間圧延から冷間圧延後の焼鈍過程において析出するAlN が著しくフェライトの粒成長を阻害するため、AlN の析出を極力抑え、かつ粗大化することが望ましい。このため、sol.Alは極力抑制する必要あり、本発明ではその上限を0.002 %と規定した。望ましくは、0.0015%以下でより良好な特性が得られる。
【0041】
N:Nは、前述のように鋼中のsol.AlとAlN を形成し、フェライトの粒成長を阻害することから極力低減する必要がある。そこで本発明では、その添加量の上限を0.0030%と規定した。望ましくは、0.0020%以下でより良好な特性が得られる。
【0042】
O (酸素) :本発明の対象鋼は、未脱酸キルド鋼であるため、鋼中においてOは、不可避的に含有される。このOは、フェライト粒成長を阻害し、さらには、本発明の目的であるインナーシールド製品の成形加工にも悪影響を及ぼす。このため、不可避的に含有されるとしてもその上限を0.030 %と規定した。望ましくは、0.020 %以下でより良好な特性が得られるが、0.010 %以下まで低減すると、Si、sol.Alの増大をともなう場合があり、黒化膜形成の安定化が困難となる。また、Si、sol.Alを増大させずに酸素を低減する場合、製鋼コストの増大を招くことになる。このように、品質と経済性の均衡を考慮すると、酸素量は0.010 〜0.020 %に調整することが望ましい。
【0043】
式▲1▼、▲2▼の規定理由:
本発明の対象となる磁気シールド材用鋼板では、フェライトを極力粗大化する必要がある。
【0044】
一方、本発明者らは、上述のような鋼の化学組成の調整によるMnS 、AlN 等の析出物の制御の他に、鋼中に固溶していると想定されるC、NとMn量の間に、特定の相関がある場合に効率的にフェライトが粒成長することを見出した。その条件として、下記▲1▼式に規定するNSRを、焼鈍時に固溶している鋼中のNとし、さらに鋼中のCと、鋼中のMnS を形成しないMnとの間に下記▲2▼式が成立する場合に、フェライト粒径が粗大化し易いことを経験則として見出した。このため、鋼中のC、Mn、S 、sol.Al、Nは下記▲1▼、▲2▼式を満足するように調整することと規定した。
【0045】
酸化物の組成:
鋼中に存在する全酸化物の内、SiO2、MnO が特定の組成比にある場合、製鋼過程においてMn2SiO4 の微細な酸化物を形成し、後の工程におけるフェライトの粒成長を著しく抑制することを本発明者らは見出した。この酸化物は、3MnO・Al2O3 ・3SiO2 のSpessortite の形態をとり、連続鋳造の際に比較的低い温度で、微細に形成されると考えられる。
【0046】
そこで、本発明の好適態様にあっては、鋼中の酸化物のバランスにおいてSiO2≦25%、MnO≧70%で、残部がAl2O3からなることとした。ここに、「Al2O3からなる」とは残部がAl2O3 であることを意味するのであり、SiO2−MnO−Al2O3を含有し、SiO2≦25%、MnO≧70%を満足する限り、特に制限されない。ただ、この時、Ti、Mg系の酸化物も磁気特性を阻害するので鋼中の含有を極力避けることが望ましい。
【0047】
さらに、窒化物、炭化物の形成を抑制するため、鋼中のTi、Nb、W、VおよびZrの総和を、重量比で0.01%未満に制限することも好ましい。
加えて、微量のSnおよび/またはSbの添加は、焼鈍中の表層の酸化を抑えながら、フェライト粒成長を促進し、磁気特性を高めることから、Snおよび/またはSbは合計量で0.0002%以上、好ましくは0.0050%以下添加することが本発明の目的に対して有効である。
【0048】
結晶粒度の規定:
本発明にかかる条件で得られる箱焼鈍後の板厚0.3 〜0.6mm の冷延鋼板は、結晶粒度 (JIS G0552に準拠して測定した数値) が5.0 〜8.5 を満足することがよい。8.5 を超えた微細なフェライト粒ではインナーシールドに加工し、適切な加熱により黒化膜を形成した後のフェライト粒径が小さく、高い透磁率が得られない。一方、5.0 を下回る粗大なフェライト粒では、箱焼鈍時間を増大することによる経済性の低下、あるいは箱焼鈍温度を上昇することによる表面欠陥が増大することから、箱焼鈍後のフェライト粒径の範囲を上記のように規定した。
【0049】
加熱条件の規定:
熱間圧延工程においても、前述のフェライト粒成長を阻害するMnS 、AlN の析出を極力抑制、および粗大化することを目的として、その適正な温度条件を適用する必要がある。本発明者らは種々の温度条件で熱間圧延を行い、下記▲3▼式を満足した上で、仕上温度≧750 ℃、巻取温度≧550 ℃で熱間圧延をすることと規定した。
【0050】
加熱温度が▲3▼式に規定した条件を超えるか、仕上、巻取温度がこの規定温度を下回る等、いずれか1つの条件でも逸脱した場合、冷間圧延・焼鈍した後のフェライト粒径、およびインナーシールドに加工し、適切な加熱により黒化膜を形成した後のフェライト粒径が小さく、高い透磁率が得られない。
【0051】
この時、前述のようなMn、Sに関する知見および酸化物に関する知見に基づいてスラブ加熱温度を規定する▲3▼式の条件が、本発明における金属組織の形成、および磁気特性の確保に必要であることを見出した。しかし、本発明に必要な仕上げ温度、巻取温度を確保するには1050℃以上を確保することが望ましい。
【0052】
冷間圧延:
得られた熱延鋼板は、酸洗後、圧下率60〜90%で冷間圧延が行われる。このときの圧下率は後述する焼鈍後に目的とする結晶粒度とするため、そして 0.3〜0.6mm の板厚さを確保するために上述の範囲内に規定する。
【0053】
焼鈍:
冷間圧延に続いて焼鈍を行い結晶粒度をJIS G0552 に準拠して測定して 5.0〜8.5 になるようにするが、換言すれば、そのような結晶粒度が得られる限り、具体的焼鈍条件等は制限されないが、一般には箱焼鈍を行えばよい。
【0054】
調質圧延:
このような条件で熱間圧延、酸洗、冷間圧延、そして焼鈍の工程を経た鋼板は、薄肉で軟質であることから、焼鈍中にコイル内で鋼板の表面同士が密着する「焼付き」現象を生じ、表面欠陥を生じる場合がある。このため、最終の冷間圧延の前に調質圧延を施し、適切な表面粗さを鋼板表面に付与することが、後工程における表面欠陥の防止に有効である。
【0055】
すなわち、圧延方向の鋼板表面粗さをRaL が0.4 μm 以上とした上で、この圧延方向に対し90°方向の表面粗さをRaT とした場合、表面粗さの異方性を示すRaL/RaT が、0.8 <RaL/RaT <1.2 となるように調質圧延を施すことが、この目的に対し適切な粗さ条件が得られることを見出した。この時、調質圧延で付与される伸び率は、表面粗度の均質化と、素材の硬質化を防ぐ目的で0.4 〜1.0 %とすることが望ましい。
【0056】
磁気シールド材としての特性は、本発明の場合、カラーテレビのブラウン管の特性向上を前提として、黒化焼鈍後に直流磁界0.35 Oe で比透磁率が750 以上で、保磁力が1.25 Oe 以下 (最大磁化力20 Oe)の磁気特性とし、この条件を満足する金属組織条件としては、フェライトが結晶粒度 (JIS G0552に準拠して測定した数値)6.0〜9.0 を満足するものとする。
【0057】
さらに、最終の冷間圧延を施された磁気シールド材の平坦度や、表面性状等の品質を確保するために、最終の冷間圧延における圧延ロールの表面硬さはHv800 以上とするのが望ましい。
【0058】
【実施例】
次に、実施例によって、本発明の作用効果をさらに具体的に示す。
[実施例1]
転炉溶製による試験製造として、表1に示す組成の溶鋼を溶製し、真空脱ガスした未脱酸キルド鋼のスラブとし、これに熱間圧延を施して、同表に示す厚さの熱延鋼板を製作した。
【0059】
次に、この熱延鋼板を酸洗し、熱延鋼板の板厚に応じて圧下率を種々調整して板厚0.35mmにまで冷間圧延を行った後、加熱温度670 ℃で箱焼鈍し、伸率0.5 %で調質圧延を行った。この時の、JIS G0552 に準拠してフェライト組織の粒度No. を測定した。
【0060】
次いで、さらに0.15mm厚に冷間圧延を行った後、焼鈍を施すことなく、直接にインナーシールド製品の形状に加工したもの、およびJIS C2531 に規定する打抜加工したリングにそれぞれ12%CO2 ガス雰囲気中で570 ℃×10分で黒化焼鈍を行った。
【0061】
インナーシールドについては、箱形の各辺部の曲げ加工部が設計で規定される曲率0.5 mmR を確保できるか否かで加工性の判定を行い、「○」、「×」で評価し、また、黒化膜の着色状態の均一性を目視で判定し、「良」を「○」で、「不可」を「×」で評価した。
【0062】
リング試験片については、焼鈍後のフェライト組織の粒度と、透磁率、保磁力を測定した。
この時、一次焼鈍後のフェライト粒度はJIS G0552 に準拠して測定して5.0 〜8.5 、黒化焼鈍後のフェライト粒度は同じく 6.0〜9.0 、直流磁界0.35 Oe での比透磁率μ0.35は750 以上を、最大磁化力20 Oe での保磁力Hcは1.25 Oe を下回ることを本発明目的の充足判断基準とした。
【0063】
【表1】
【0064】
24種の鋼種で比較した結果、鋼No.3では、C量が本発明の範囲を超え、鋼No.4ではSiが、鋼No.5、6ではMnが、それぞれ本発明の範囲を外れるために所定の磁気特性が得られない。また、鋼No.7ではNが、鋼No.8では、Sが、鋼No.10 ではsol.Alが、さらに、鋼No.12 ではOが本発明の範囲を外れるために所定の磁気特性が得られない。さらに、鋼No.9、14ではPが本発明の範囲を超え、この時、磁気シールド材の加工において、コーナーの曲率で所定の形状が得られない。この他、鋼No.11 は、化学組成は本発明の範囲を満足するが、式▲2▼の値が本発明の規定範囲を外れるために、所望の磁気特性が得られない。
【0065】
その他の鋼からなる冷延鋼板、およびインナーシールドは、本発明の目標とする条件をいずれも満足した。
[実施例2]
実施例1で得られた知見に基づき、表2に示す本発明の化学組成を充足する溶鋼に対し、製鋼段階での脱ガス条件を種々変化させた。
【0066】
これらの鋼を、熱延鋼板の板厚を1.6mm 、冷延鋼板の板厚を0.4mm として、690 ℃で箱焼鈍後、伸率0.5 %で調質圧延を行った。この時、JIS G0552 に準拠してフェライト組織の粒度No. を測定した。
【0067】
さらに最終冷延鋼板の板厚を0.15mmとした後、打抜リングに加工して、実施例1と同じ黒化焼鈍を行い、フェライト組織の粒度No. 、磁気特性を調査した。
この時、1次冷間圧延後の冷延鋼板より、鋼中の介在物清浄度をJIS G0555 に準拠して測定すると共に、冷延鋼板中に介在物として含有される酸化物の組成比を、ヨードメタノールで抽出し、アルカリ処理した残磋から定量した重量比を求めた。ヨードメタノール抽出法は、日本鉄鋼協会、鉄鋼分析部会「鋼中酸化物系介在物の抽出分離定量法」昭和62年1月鋼中非金属介在物分析小委員会編に準拠した。
【0068】
この値と、フェライト組織、磁気特性の相関を表2に整理した。本例におけるフェライト組織と磁気特性の判定基準は実施例1と同じ条件とした。酸化物の評価ではSiO2 ≦25%、MnO2 ≧70%を合格とした。
【0069】
【表2】
【0070】
鋼No.30 、31、34、36は、SiO2、MnO が本発明で規定した範囲を外れ、この時に、フェライト粒度、磁気特性が本発明の範囲を外れることが見出された。このため、本発明で規定する酸化物質量比を満足することが、本発明の目的となる磁気特性を得るために必要であることが確認された。
【0071】
[実施例3]
転炉溶製した表3に示す本発明の化学組成を充足する溶鋼に対し、Ti、Nb、V、W、Zrの炭、窒化物を形成する微量元素を分析すると共に、これら鋼を、実施例2と同じ、熱間圧延から最終冷間圧延までのプロセスを施し、さらに、処理後の素材から打抜リングを加工して、実施例2と同じ黒化焼鈍を行い、フェライト組織の粒度、磁気特性を調査した。この時、酸化物分析は、実施例2の条件に準拠して行った。
【0072】
この値と、フェライト組織、磁気特性の相関を表3に整理した。この時、フェライト組織と磁気特性の判定基準は実施例1と同じ条件とした。
【0073】
【表3】
【0074】
この調査の結果、Ti、Nb、V、W、Zrの総和が本発明の範囲を超える鋼No.39 、40においては、それぞれの焼鈍後のフェライト粒度Noが本発明の範囲を超え、透磁率、磁気特性が目標値を充足しないことがわかった。
【0075】
[実施例4]
転炉溶製した表4に示す本発明の化学組成を充足する溶鋼に対し、Ti、Nb、V、W、Zrに加え、Sn、Sbの炭、窒化物を形成する微量元素を分析すると共に、これら鋼を、実施例2と同じ、熱間圧延から最終冷間圧延までのプロセスを施し、さらに、処理後の素材から打抜リングを加工して、実施例2と同じ黒化焼鈍を行い、フェライト組織の粒度、磁気特性を調査した。
【0076】
酸化物分析は、実施例2と同じ条件で実施した。
この値と、フェライト組織、磁気特性の相関を表4に整理した。この時、フェライト組織と磁気特性の判定基準は実施例1と同じ条件とした。
【0077】
【表4】
【0078】
本発明の好適態様ではSn、Sbの合計量を0.0002%以上と規定したが、本例により、Sn、Sbがこの下限以上、未満含有する場合についてそれぞれ調査の結果、鋼No.42 、43、46では、比較例の鋼No.44 、45よりもややフェライト粒が粗大化し、磁気特性の向上が見られる。
【0079】
[実施例5]
実施例1の知見に基づき、表5の鋼No.50 、51に対し、熱間圧延条件、冷間圧延条件を変化させて、磁気特性との関係を整理した。
【0080】
評価の手法としては、熱延鋼板を酸洗後、表6に示す冷延鋼板の板厚へ冷間圧延し、さらに、その冷延鋼板を670 ℃で箱焼鈍した後、板厚0.15mmへ冷間圧延し、実施例1で採用した打抜リングを加工した。このリング試験片に対し、12%CO2 ガス雰囲気中で570 ℃×10分の黒化焼鈍を施し、黒化焼鈍後のフェライト組織の粒度と、透磁率、保磁力を測定した。この時、実施例1と同様に、比透磁率μ0.3 は750 以上を、保磁力Hcは1.25 Oe を下回ることを本発明目的の充足判断基準とした。
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
調査の結果、条件A、E、Fでは、熱間圧延仕上温度、あるいは巻取温度が本発明の範囲を下回り、また、条件Dでは、熱間圧延時のスラブ加熱温度が本発明の範囲を上回り、フェライト組織の粒度が微細で黒化焼鈍後の磁気特性を充足しない。また、条件Iでは、熱間圧延条件が本発明の範囲から外れるため、同じくフェライト組織の粒度が微細で黒化焼鈍後の磁気特性を満足しない。さらに、条件Jでは、加熱温度が本発明の範囲を超えるため、条件Kでは、1回目の冷間圧延の圧下率が本発明の範囲から外れるために、所望の磁気特性が得られない。
【0084】
[実施例6]
さらに、コイル製品の擦れ疵防止を図るため、第1回目の焼鈍後に調質圧延を加えた効果を調査した。
【0085】
素材は、実施例5で用いた鋼No.50 を表7に示す条件で冷間圧延焼鈍した素材を用い、表8に示すプロセス条件L〜Rの7条件で調質圧延条件を変化させ、最終冷間圧延後にコイル全長において表裏面に長さ5mm以上の擦れ疵が生じた場合を△とした。この結果、同じく表8に示すように、表面粗さ異方性指数RaL/RaT が本発明の範囲を外れる条件L、M、Q、Rで、判定に該当する疵が見られた。
【0086】
【表7】
【0087】
【表8】
【0088】
[実施例7]
実施例5で用いたプロセスB、C、G、Hに準じて表5の鋼No.50 、51について表9の条件で製作した冷間圧延コイルに対し、表10に示すように最終の冷間圧延の圧下率をプロセスS、T、U、V、W、Xの条件に分け、その圧下率の磁気特性に及ぼす影響を調査した。
【0089】
本例における焼鈍条件、最終の黒化焼鈍条件、および磁気測定方法は実施例2に同じとする。
最終の冷間圧延の圧下率が本発明の範囲を超えると黒化焼鈍後のフェライト組織が微細で、所定の磁気特性が得られない。また、圧下率が本発明の範囲の下限においては、保磁力が増大しており、これを下回る圧下率で、製造した場合、所定の磁気特性が得られない。
【0090】
【表9】
【0091】
【表10】
【0092】
[実施例8]
本発明で規定される任意のプロセスで製造される冷延鋼板において、最終の冷間圧延後の平坦度の、圧延長さの増大に伴う劣化の度合いと、ロール硬さの相関について調査した。
【0093】
その評価を、圧延長さが10000 mにおける平坦度で判定した結果、硬度の異なる3種類のロールで比較したところ表面硬さHv800(ショア硬さからの換算値) を超えると、この圧延長さにおいても平坦が劣化しないことが確認された。
【0094】
【表11】
【0095】
【発明の効果】
本発明により、従来のリムド鋼の採用や、OCA脱炭焼鈍、酸洗後の熱延板焼鈍、2回を超える複数の冷間圧延といった煩雑な製造工程を用いることなく経済的で、優れた磁気特性を発揮しうる磁気シールド材・磁気シールド材用鋼板の製造が可能となった。
Claims (9)
- 質量%で、C:0.005%以下、Si:0.03%以下、Mn:0.10〜0.50%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、sol.Al:0.002%以下、N:0.0030%以下、O:0.030%以下、残部Feおよび不可避的不純物、かつ、C、Mn、S、sol.Al、Nが下記の(1)、(2)式を満足し、鋼中に存在する全酸化物が、質量%で、SiO2:25%以下、MnO:70%以上で、残部Al2O3からなることを特徴とする磁気シールド材用鋼板。
NSR=N−14/27×sol.Al・・・・・(1)
5.0≦(Mn−55/32×S)/(55/12×C+55/14×NSR)≦50・・・(2) - 鋼中のTi、Nb、W、V、およびZrの合計量が、質量%で、0.01%未満であることを特徴とする請求項1記載の磁気シールド材用鋼板。
- さらに、Snおよび/またはSbを、質量%で、合計0.0002%以上含有することを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の磁気シールド材用鋼板。
- 溶製した溶鋼を連続鋳造でスラブとし、スラブ加熱温度をT(℃)としてT(℃)が下記の(3)式を満足した上で、仕上温度:750℃以上、巻取温度:550℃以上の条件で熱間圧延を行い、酸洗の後、圧下率60〜90%で冷間圧延を行って板厚0.3〜0.6mmの冷延鋼板とし、次いで焼鈍を施すことで、JIS G0552に準拠して測定した結晶粒度が5.0〜8.5を満足することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の磁気シールド材用鋼板の製造方法。
9020
T(℃)≦──────────────── −200・・・・・(3)
2.929−log[Mn・S] - 前記焼鈍の後、圧延方向の鋼板表面粗さRaLが0.4μm以上で、圧延方向に対し90°方向の表面粗さをRaTとした場合、表面粗さの異方性を示すRaL/RaTが、0.8<RaL/RaT<1.2となるように調質圧延を施すことを特徴とする請求項4記載の磁気シールド材用鋼板の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の鋼板から構成され、板厚0.1〜0.3mm、黒化焼鈍後にJIS G0552に準拠して測定した結晶粒度が6.0〜9.0を満足し、直流磁界0.35 Oeで比透磁率が750以上で、保磁力が1.25 Oe以下(最大磁化力20 Oe)の磁気特性が得られる磁気シールド材。
- 請求項4または5において得られる鋼板に対して、さらに圧下率50〜80%で板厚0.1〜0.3mmにまで冷間圧延を行った後、直接に目的製品形状に加工することを特徴とする、黒化焼鈍後にJIS G0552に準拠して測定した結晶粒度6.0〜9.0を満足し、直流磁界0.35 Oeで比透磁率が750以上で、保磁力が1.25 Oe以下(最大磁化力20 Oe)の磁気特性を備えた磁気シールド材の製造方法。
- 請求項4または5において得られる鋼板を用いて、さらに表面硬度がHv800以上のロールを用いて、圧下率50〜80%で板厚0.1〜0.3mmにまで冷間圧延を行った後、直接に目的製品形状に加工することを特徴とする、黒化焼鈍後にJIS G0552に準拠して測定した結晶粒度6.0〜9.0を満足し、直流磁界0.35 Oeで比透磁率が750以上で、保磁力が1.25 Oe以下(最大磁化力20 Oe)の磁気特性を備えた磁気シールド材の製造方法。
- 前記目的製品がテレビのブラウン管用のインナーシールドである請求項8記載の磁気シールド材の製造方法。
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