JP3769371B2 - インクジェット式記録ヘッドの駆動方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクを圧力発生手段で加圧してインクを吐出させて文字や図形を記録する記録ヘッドからインク滴を吐出させるための記録ヘッドの駆動方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット式記録ヘッドにおいて、インク滴の吐出重量を減らすことは、低濃度領域での粒状性を目立たなくすることができ、記録品質を高めることができる。例えば、特開昭55−17589号公報等に記載されているように、インクを収容した圧力発生室を膨張させてから収縮するという、いわゆる「引き打ち」を行うことによって、吐出するインク滴の重量を少なくし、記録ドット径を小さくすることが可能である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、いわゆる「引き打ち」のみで吐出インク重量を減らすためには、圧力発生室を収縮する直前に行う膨張工程における膨張量を増やす必要があり、収縮直前の膨張量が増えるほど、収縮直後に発生する圧力発生室の残留振動が大きくなり、吐出インク滴の直進性を損ねたり、意図しないインク滴の吐出を引き起こす可能性が高まる。
【0004】
そこで、本発明では、圧力発生室を収縮してインク滴を吐出させる工程の直前に行う膨張工程の膨張量を増やすことなく、吐出インク重量を減らして、記録品質を向上することのできる駆動方法を提供する。
【0005】
更に、本発明では、環境温度の変化に対しても均一量のインク吐出量を確保することのできる駆動方法を提供する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の問題を解決するために、本発明に於けるインクジェット式記録ヘッドの駆動方式は、ノズル開口と共通のインク室に連通する圧力発生室を備え、前記圧力発生室を圧電振動子により膨張、収縮させて前記圧力発生室へインクの補充、ノズル開口からのインク滴吐出を行うインクジェット式記録ヘッドにおいて、ノズルメニスカスが静止している状態から、圧力発生室を収縮(工程C1)もしくは膨張(工程D1)して圧力を増減し、増減後の圧力発生室の状態を保持している間のインクの流れによって、ノズルメニスカスが圧力発生室側に引きこまれた状態を捉えて、圧力発生室を膨張して最小圧力まで減圧し、その後に最大圧力まで圧力発生室を収縮させることを特徴とする。
【0007】
また、工程C1を行う場合は、工程C1によって収縮した圧力発生室の圧力をホールドする工程の時間が、ノズルメニスカスの固有振動周期Tの1/8倍以上3/8倍以下であることを特徴とする。
【0008】
また、工程D1を行う場合は、工程D1によって膨張した圧力発生室の圧力をホールドする工程の時間が、ノズルメニスカスの固有振動周期Tの5/8倍以上、7/8倍以下であることを特徴とする。
【0009】
また、工程C1もしくは工程D1において、環境温度が最高保証温度の場合は圧力発生室の収縮量もしくは膨張量を最小にし、最低保証温度に近づくに従って圧力発生室の収縮量もしくは膨張量を最高にすることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
(実施例1)
以下に本発明の詳細を図示した実施例に基づいて説明する。
【0012】
図1は本発明に使用するインクジェット記録ヘッドの一実施例を示すものであって、図中の符号1は、駆動ユニットで、ジルコニアの薄板からなる振動板2の表面に、後述する圧力発生室4に対向するようにPZTからなる圧電振動板3、3、3‥‥を一体に固定して構成されている。
【0013】
5はスぺーサーで、圧力発生室4を形成するのに適した厚さ、例えば100μmのジルコニア(ZrO2)などのセラミック板に圧力発生室4、4、4‥‥の形状に一致した通孔を一定ピッチで穿設して構成されている。
【0014】
6は圧力発生室4の他面を封止する基板で、圧力発生室4と対向する一端側には、ノズル開口7、7、7‥‥と圧力発生室4を接続する連通口8、8、8‥‥が、また他端側には圧力発生室4と各ノズル共通のインク室10とを接続する連通口11、11、11‥‥が設けられている。この連通口11、11、11‥‥はノズル開口7、7、7‥‥とほぼ同等の流路抵抗を有する流路制限孔の役割も担っている。
【0015】
これら3つの部材1、5、6はそれぞれユニットとして構成され、後述するユニット固定板12に取り付けられる。
【0016】
12は前述のユニット固定板で、一方の面に上述したユニットが所定の位置に接着剤で固定されており、連通口11と共通のインク室10とを接続する連通孔13が設けられ、また連通孔8に対向する位置にはノズル開口7と接続する連通孔14が設けられている。
【0017】
15は、後述する共通のインク室構成板16とユニット固定板12とを接合するための熱溶着フィルムで、共通のインク室10に一致する窓17、及びノズル開口7、7、7‥‥圧力発生室4、4、4‥‥とを接続する連通孔18、18、18‥‥とが穿設されている。
【0018】
16は、前述の共通のインク室構成板で、共通のインク室10を形成するに適した厚み、例えば120μmのステンレス鋼などの耐蝕性を備えた板材に、共通のインク室10の形状に対応する通孔と、圧力発生室4、4、4‥‥とノズル開口7、7、7‥‥とを接続する連通孔9、9、9‥‥を穿設して構成されている。
【0019】
25はノズルプレートで、圧力発生室4、4、4‥‥の一側よりにはノズル開口7、7、7‥‥が穿設されていて、連通孔8、14、18、9、及び19を介して各圧力発生室4、4、4‥‥に接続するように共通のインク室形成板16に熱溶着フィルム20で接着されている。
【0020】
このように構成されたインクジェット式記録ヘッドは、圧電振動板3に一定速度で上昇する電圧からなる駆動信号が印加されると、振動板2が圧力発生室4側を凸にするようにたわんで、圧力発生室4を収縮させる。これにより、圧力発生室4のインクが連通口8、14、18、9及び19を経由してノズル開口7に至り、ここからインク滴を吐出する。
【0021】
インク滴形成後に駆動電圧を一定の速度で低下させると、圧電振動板3は元の位置に徐々に復帰して、圧力発生室4が膨張する。この過程でインク滴の形成により消費された分のインクが共通のインク室10から連通口11を経由して圧力発生室4に流入する。
【0022】
図2は、上述した記録ヘッドにより圧電振動板3のたわみ変位によりインク滴を吐出させるのに適した駆動波形の一実施例を示すものである。
【0023】
図に示すように駆動信号は、前回のインク滴吐出の一連の工程終了時の駆動電圧(中間駆動電圧VM)を保持する第一のホールド工程C8、中間駆動電圧VMからインク滴を吐出させることなく圧力発生室4を収縮させて最大駆動電圧VHまで充電する第一の充電工程C1、工程C1によって収縮した圧力発生室4の状態を保持する第二のホールド工程C2、ノズル開口に形成されたインクのメニスカス(以降ノズルメニスカス)を圧力発生室4側に最大限引き込むための放電を行う第一の放電工程C3、インク滴を吐出させるためのタイミングを調整する第三のホールド工程C4、最大駆動電圧VHまで急激な充電を行って、インク滴を吐出させるため圧力発生室を急激に収縮させる第二の充電工程C5、インク滴吐出後に生じた大きなノズルメニスカス振動の減衰タイミングを調整している第四のホールド工程C6、中間駆動電圧VMまで放電し、第一の放電工程C3よりも圧力発生室の膨張量の小さい第二の放電工程C7とから構成されている。
【0024】
図3は図2で示した駆動信号を発生させる駆動回路の一実施例を示すもので、図中符号21、22、23、24はそれぞれ制御手段48から供給されるパルス信号からなる制御信号の入力端子で、図4に示す周期T0で出力される印字信号のタイミングに基づいて入力端子21には第一の充電工程C1を制御する時間幅T1の第一の充電パルス、入力端子22には第二の充電工程C5を制御する時間幅T5の第二の充電パルス、入力端子23には第一の放電工程C3を制御する時間幅T3の第一の放電パルス、入力端子24には第二の放電工程C7を制御する時間幅T7の第二の放電パルスがそれぞれ入力する。
【0025】
第一の充電パルスは、NPN型トランジスタ26のベースに入力しており、NPN型トランジスタ26が導通すると、PNP型トランジスタ27、28及び抵抗29により構成された定電流回路30が作動して、ノズル開口7からインク滴を吐出させない程度の一定電流Iraでコンデンサ31を中間駆動電圧VMから最大駆動電圧VHまで充電させる。
【0026】
同様に、入力端子22に入力した第二の充電パルスは、NPN型トランジスタ32のベースに入力しており、NPN型トランジスタ32が導通すると、PNP型トランジスタ33、34及び抵抗35により構成された定電流回路36が作動し、零電位から最大駆動電圧VHまでコンデンサ31をインク滴を吐出させるのに適した一定電流Irbで充電させる。
【0027】
一方、入力端子23に入力した第一の放電パルスは、NPN型トランジスタ37、38及び抵抗39からなる定電流回路40により、コンデンサ31の電荷を一定電流Ifaで放電させてメニスカスを圧力発生室側に大きく引き込む。
【0028】
また、入力端子24に入力した第二の放電パルスは、NPN型トランジスタ41、42及び抵抗43からなる定電流回路44により、コンデンサ31の電荷を最大駆動電圧VHから中間駆動電圧VMまで一定電流Ifbで放電させ、以後この電位を維持して次のインク滴の吐出に備えてメニスカスを平定する。
【0029】
トランジスタ28のベース―エミッタ間電圧をVbe28、抵抗29の抵抗値をRraとすると、充電電流Iraは、Ira=Vbe28/Rraとなり、またコンデンサ31の容量をCCとすると、電圧ΔV分を充電するのに要する時間Traは、Tra=CC×ΔV/Iraとなる。また、定電流回路36についても同様であり、充電電流Irbは、Irb=Vbe34/Rrbとなり、電圧VHまで充電するに要する時間TrbはTrb=CC×VH/Irbとなる。
【0030】
一方、放電電流に関しては、定電流回路40のトランジスタ38のベース―エミッタ間電圧をVbe38、抵抗39の抵抗値をRfaとすると、Ifa=Vbe38/Rfaとなり、電圧ΔV分降下するのに要する時間Tfaは、Tfa=CC×ΔV/Ifaとなり、同様に、定電流回路44による放電電流Ifbは、Ifb=Vbe42/Rfbとなり、立ち下がり時間Tfbは、Tfb=CC×ΔV/Ifbとなる。なお、図中符号45、46により示すトランジスタは電流増幅器を構成している。
【0031】
次に上記のように構成した装置の動作を説明する。
【0032】
前回の吐出より十分な時間、つまり第一ホールド工程(C8)の時間が例えば300マイクロ秒、経過した後、ノズルメニスカスはほぼ振動が減衰し、静止した状態である。第一ホールド終了と同時に、次の印字信号がホストから出力されると、制御手段48は第一の充電パルスを出力して、圧力発生室4を収縮させる(工程C1)。
【0033】
充電工程C1によりノズルメニスカスはインク滴を吐出しない程度にノズル開口7の先端側に押し出される。しかしながら、ノズルメニスカスは充電傾きが緩い、つまりゆっくりと圧力発生室4を収縮させているときは、ノズル開口側にインク滴を押し出す力が弱いために、ノズル開口7の振動収束位置にメニスカスを回復させようとする力(工程C1では、ノズルメニスカスを圧力発生室側に押し戻す力になる)の影響を受けて、実際に圧力発生室からノズル開口側に押し出されるインク滴の量は少ない。
【0034】
工程C1によって圧力発生室4から排除されたインクの流れは、図5(a)の状態52で示すように圧力発生室4から排除されるインクのうち、ノズル開口側に向かう量は少なく、排除されたインクの多くが共通のインク室10側に向かい、圧力発生室4内でノズル開口7側から共通のインク室10側に向かう流れが発生する。尚、51はメニスカス振動静止時のメニスカス位置を示す。
【0035】
工程C1終了時点では、図5(b)の状態53に示すように、圧力発生室4の収縮により排除されたインクはノズルメニスカスをノズル開口7側にわずかに押し出し、ノズル開口7から圧力発生室4、共通のインク室10へと向かう流れを持った状態になる。
【0036】
充電工程C1終了後、ホールド工程C2に推移すると、ノズルメニスカスは工程C1終了直後の位置を初期位置とし、図5(b)の状態53に示すように、充電工程C1終了直後では、インク流路の流れ方向は、ノズル開口7側から圧力発生室4側に向いているので、まず、ノズルメニスカスはホールド工程C2開始時より、圧力発生室4側に引き込まれる方向に進む。ノズルメニスカスは自身の固有振動周期Tで振動し、挙動は図6に示すようになり、ホールド工程C2の開始より、時間の推移に伴って、状態61(工程C2開始直後)、62(最大引き込み時)、63、64、65、66、と振幅を減衰しながら変位していく。
【0037】
工程C2が終了すると、制御手段48は第一の放電パルスを出力して、最大駆動電圧VHと零電位との電位差相当分だけ圧力発生室4が膨張してノズルメニスカスを大きく引き込み(工程C3)、第三ホールド(工程C4)を挟んで、制御手段48は、第二の充電パルスを出力して圧力発生室4を急激に収縮させる(工程C5)。工程C3から工程C5までの一連の動作によって、ノズル開口4からインク滴が吐出する。
【0038】
工程C3からC5を行う過程で、充電工程C5の直前のノズルメニスカスの引き込み量が大きいほど充電C5の収縮工程において、インクの吐出重量を減らすことができ、本実施例1においては、放電C3直前の駆動電圧を最大駆動電圧VHと同じにするまで高めることで、ノズルメニスカスを大きく引き込むようにしている。
【0039】
ホールド工程C6が終了すると、制御手段48は第二の放電パルスを出力する。工程C6のホールド時間と工程C7の第二放電の時間を、工程C5における急激な充電によって発生した圧電振動板3の残留振動を発振させないような時間を捉えて設定することにより、充電工程C5によって吐出したインク滴以外の不必要なインク滴の吐出を押さえるようにし、なおかつ放電工程C7終了時に中間駆動電圧VMの電位を持たせ、以後、次の印字信号が発生するまで電位をホールドし、ノズルメニスカスを平定させる(工程C8)。
【0040】
図7に充電工程C1とホールド工程C2を行わずに放電C3以降の工程を行った場合の駆動波形の図を示す。図7の駆動波形71では放電C3の開始電位が工程C8のホールド電位に等しくなるため、最高駆動電圧VHと中間駆動電圧VMが等しくなり、必然的に放電工程C7が存在しなくなるが、工程C7はインク滴を吐出した直後の工程であり、インク滴の吐出量や吐出速度には関係ない。
【0041】
図8は、本実施例1の駆動波形において、ホールド工程C2の時間と吐出インク滴の重量の関係を示したものであり、図中の81が前記C2時間とインク重量の関係であり、図7の駆動波形71で示した駆動における吐出量を1としてある。
【0042】
工程C2を図6の状態62で示すように、ノズルメニスカスが最も圧力発生室4側に引き込まれた時点近傍を捉えて終了し、工程C3以降を行うと、工程C1とC2を行わずに工程C3以降を行う駆動波形71時と比べて工程C3の直前にノズルメニスカスが引き込まれている分だけ、吐出インク重量を減らすことができ、この時のインク重量の減少は図8の83に示す範囲(工程C2時間がTの1/8倍以上3/8倍以下)で顕著であった。また、インクの吐出速度も駆動波形71で示される駆動を行う時と同等の吐出速度が得られ、その結果インク重量を減らすことができ、記録品質の向上を図ることができた。
【0043】
ところで、ノズルメニスカスが静止している状態でインク滴を吐出しない程度に充電工程C1を行い、続いてホールド工程C2に移行すると、圧電振動板3は自身の固有振動周期TCで振動を始める。圧電振動板3の固有振動によって、ノズルメニスカスは前記圧電振動板3の振動に同期して周期TCで振動する。また、充電工程C1によって収縮された圧力発生室4が排除したインクが作り出す流れによって、ノズルメニスカスは自身の固有振動周期Tで振動する。従って、充電工程C1によってノズルメニスカスは圧電振動板3の固有振動周期TCとノズルメニスカスの固有振動周期Tの周期の異なる二つの振動を持つようになる。
【0044】
圧電振動板3の固有振動周期TCでの振動は圧電振動板3を急激に変位させると発生しやすく、充電の傾き(電圧変化量/充電時間)が急峻であるほど、振動振幅は大きくなり、減衰しにくくなる。
【0045】
ノズルメニスカスの固有振動周期Tでの振動は充電工程C1によって圧力発生室4から排除された体積が大きいほど、ノズル側連通口または共通のインク室に流れこむ流量が多く、ノズルメニスカスの振動振幅を大きくし、減衰しにくくなる。
【0046】
ここで、圧電振動板3の固有振動周期TCは、次の式で表される。
【0047】
TC=2π/√{(Mn+Ms)/(Mn×Ms)/(Ci+Cv)}
但し、Mnはノズル開口のイナータンス、Msはインク供給口のイナータンス、Ciは圧力発生室のインクの圧縮性に起因する流体コンプライアンス、Cvは圧電振動板などの材料自体による剛性コンプライアンスである。
【0048】
また、ノズルメニスカスの固有振動周期Tは、インク流路の粘性抵抗を無視できる場合は、
T=2π×√{(Mn+Ms)×Cn}
で表される。但し、Cnはノズルメニスカスのコンプライアンスである。
【0049】
更に、圧力発生室の体積をV,インクの密度をρ、インク中での音速をcとすると、流体コンプライアンスCiは、
Ci=V/ρc2
で表され、剛性コンプライアンスCvは、圧力発生室に単位圧力を印加したときの圧力発生室の静的な変形率に一致する。
【0050】
具体例を挙げると、流体コンプライアンスCiが1×10−20m5N−1、剛性コンプライアンスCvが1.5×10−20m5N−1、ノズルメニスカスのコンプライアンスCnが、8.5×10−19m5N−1、イナータンスMnが2×108kgm−4、イナータンスMsが1×108kgm−4、のときの圧電振動板3の固有振動周期TCは8μs、ノズルメニスカスの固有振動周期Tは100μsになる。
【0051】
上記TCとTの周期のとき、TCはTに比べて非常に小さく、充電工程C1によって発生するノズルメニスカスの振動は図9で示すようになる。前記したように、周期TCの振動は、充電の傾きが急峻であるほど振幅が大きいが、例えば、充電時間をTC以上の時間幅で設定すると圧電振動板3が周期TCで引き起こす振動の振幅は非常に小さくなり、これと同期して振動するノズルメニスカスの振動振幅も小さくなり、ノズルメニスカス自身の固有振動周期Tで起きる振動振幅よりも小さくなる。周期TCによる振動が無視できる程度の緩やかな充電工程C1により圧力発生室4から排除されたインクは図5中の状態52で示すように、ノズル開口側に流入するものと共通のインク室に流入するものに別れ、充電傾きが緩いほど共通のインク室への流入割合が多くなる。
【0052】
従って充電工程C1の終了時点のノズルメニスカスの押し出し位置は、図10に示すように充電傾きが緩いほど(図10中のグラフ101、102、103の内で、グラフ101が最も充電傾きがきつく、グラフ103が最も充電傾きが緩く、グラフ102は101と103の中間である)ノズルメニスカスの振動静止位置に近い位置をとる。
【0053】
つまり、充電傾きが緩いほど、充電工程C1終了直後のノズルメニスカスの振動の位相が一定に漸近する。充電工程C1終了直後の時間を時間0とし、インク滴吐出方向を正方向とすると、ノズルメニスカスの位置Yは、
Y=A×e( ―B×t )×(−1)×SIN(2π/T×t)
(但し、AとBは正の数、eは指数関数、tは充電工程C1終了からの経過時間(つまり、ホールド工程C2の時間)、Tはノズルメニスカスの固有振動周期)で示される関数にノズルメニスカスの振動は位相が漸近する。
【0054】
この式にて、極小値をとる時の時間tの値は(1/4)×Tになり、この時、ノズルメニスカスは最も圧力発生室4側に引き込まれた状態になり、図6における状態62と同一になる。従ってホールド工程C2時間を(1/4)×Tの近傍、例えば(1/8)×T以上(3/8)×T以下、にすることで、図7に示す駆動波形71よりも吐出インク重量の減少が顕著になる。
【0055】
(実施例2)
実施例2は実施例1の構成に準じている。実施例2が実施例1と異なる点は、第一充電工程C1に変えて放電工程D1を備えている点である。また、工程D1直後に続くホールド工程は実施例1ではC2としたが、本実施例ではD2と名称を変更している。しかし、工程D2の構成・機能は実施例1の工程C2と全く同一である。
【0056】
本実施例の駆動波形は図11中の駆動波形111に示す通りであり、中間駆動電圧VMは、工程D2における電位(第二ホールド電圧VS)よりも高い電位を持ち、第二ホールド電圧VSは、零電位以上の電位を持っている。また、図11中の112に示す波形は放電工程D1とそれに続くホールド工程D2を持たない駆動波形である。
【0057】
なお、駆動波形111と112では、第三放電工程C7の傾きが異なっているが、第三放電部分はインク滴を吐出した直後の波形なので、直接インク滴の吐出量や速度には関係ない。
【0058】
実施例1では、ホールド工程C2中でノズルメニスカスを振動させるのは充電工程C1の作用によるものだったが、本実施例では、ホールド工程D2中でメニスカスを振動させるのは、実施例1における充電工程C1に対応する放電工程D1の作用であり、実施例1とは充電C1と放電D1が入れ替わるだけなので、ホールド工程D2中でのノズルメニスカスの振動は図12に示すように、実施例1における図6の振動の位相が反転したものになり、ホールド工程D2の開始より、時間の推移に伴って、状態121(工程D2開始直後)、122、123、124(最大引き込み時)、125、126と振幅を減衰させながら変位していく。
【0059】
実施例1の場合は、ホールド工程C2の時間をノズルメニスカスの固有振動周期Tの(1/8)倍以上(3/8)倍以下にすることで、工程C2終了後のノズルメニスカスは圧力発生室4側に引き込まれ、以降の工程C3以降で吐出させるインク滴の吐出量を、工程C1とC2のない駆動波形に比べて減らすことができたが、本実施例では、ホールド工程D2の振動位相を実施例1に比べて反転させたとき、つまり、工程D2の時間がノズルメニスカスの固有振動周期Tの(5/8)倍以上(7/8)倍以下の時に、工程D2終了後のノズルメニスカスは圧力発生室4側に引き込まれ、以降の工程C3からは実施例1に示す駆動波形と同じなので、前記したホールド工程D2のタイミングを捉えることにより、工程D1とD2を持たない駆動波形、つまり図11中の112で示される駆動波形でインク滴を吐出させた場合に比べて吐出インク重量を減らすことができ、記録品質の向上を達成することができる。
【0060】
(実施例3)
実施例3は実施例1の構成に準じている。実施例3が実施例1と異なる点は、環境温度の変化に応じて、中間駆動電圧VMを変化させることで、充電工程C1による充電電圧量を増減させることを特徴とする点である。
【0061】
図13に環境温度が15℃、25℃と40℃のときの駆動波形を示す。環境温度が15℃のときは中間駆動電圧VMの電位を下げることで、充電C1工程による充電量を増やすことができる。環境温度が低い状態では、インクの粘度が増大するため、流路の抵抗が増大し、ノズルメニスカスの減衰がよくなり、メニスカス自身の固有振動の振幅も環境温度が高い場合に比べて小さくなる。そのため、充電工程C1によって発生させるノズルメニスカスの振動を温度環境に応じて一定にするために、工程C1による充電量を増やし、圧力発生室4から流出するインク量を増やすことで、インク粘度増加による流路抵抗の増加によるメニスカスの振動振幅の減少分を補い、工程C2による吐出減少量を25℃環境並みにすることができる。
【0062】
逆に温度環境が40℃のとき、中間駆動電圧VMの電位を上げることで、充電C1工程による充電量を減らすことができる。環境温度が高い状態では、インクの粘度が減少するため、流路の抵抗が減少し、ノズルメニスカスの減衰が悪くなり、ノズルメニスカス自身の固有振動の振幅も環境温度が低い場合に比べて大きくなる。そのため、充電工程C1によって発生させる振動を温度環境によって一定にするために、工程C1による充電量を減らし、圧力発生室から流出するインク量を減らすことで、インク粘度減少による流路抵抗の減少によるメニスカスの振動振幅の増加分を押さえ、工程C2による吐出減少量を25℃環境並みにすることができる。
【0063】
以上の手法から環境温度の変化に関わらず、充電工程C1によって発生したノズルメニスカスの振動振幅を一定にすることができるので、ホールド工程C2の時間を実施例1に示したように、(1/8)×T以上(3/8)×T以下に設定すると、図7で示した駆動波形71のときに比べて、インク重量を環境温度によらず一定量減らすことができた。
【0064】
(実施例4)
実施例4は実施例2の構成に準じている。実施例4が実施例2と異なる点は、環境温度の変化に応じて、中間駆動電圧VMを変化させることで、放電工程D1による放電電圧量を増減させることを特徴とする点である。
【0065】
図14に環境温度が15℃、25℃と40℃のときの駆動波形を示す。環境温度が15℃のときは中間駆動電圧VMの電位を上げることで、放電D1工程による放電量を増やすことができる。環境温度が低い状態では、インクの粘度が増大するため、流路の抵抗が増大し、ノズルメニスカスの減衰がよくなり、メニスカス自身の固有振動の振幅も環境温度が高い場合に比べて小さくなる。そのため、放電工程D1によって発生させるノズルメニスカスの振動を温度環境に応じて一定にするために、工程D1による放電量を増やし、圧力発生室4に流入するインク量を増やすことで、インク粘度増加による流路抵抗の増加によるノズルメニスカスの振動振幅の減少分を補い、工程D2による吐出量減少を25℃環境並みに得ることができる。
【0066】
逆に温度環境が40℃のとき、中間駆動電圧VMの電位を下げることで、放電D1工程による放電量を減らすことができる。環境温度が高い状態では、インクの粘度が減少するため、流路の抵抗が減少し、ノズルメニスカスの減衰が悪くなり、ノズルメニスカス自身の固有振動の振幅も環境温度が低い場合に比べて大きくなる。そのため、放電工程D1によって発生させる振動を温度環境によって一定にするために、工程D1による放電量を減らし、圧力発生室に流入するインク量を減らすことで、インク粘度減少による流路抵抗の減少によるメニスカスの振動振幅の増加分を押さえ、工程D2による吐出量減少を25℃環境並みにすることができる。
【0067】
以上の手法から環境温度の変化に関わらず、放電工程D1によって発生したノズルメニスカスの振動振幅を一定にすることができるので、ホールド工程D2の時間を実施例2に示したように、(5/8)×T以上(7/8)×T以下に設定すると、図11で示した駆動波形112のときに比べて、インク重量を環境温度によらず一定量減らすことができ、記録品質を向上することができた。
【0068】
更に、以上4つの実施例において、圧電振動子はたわみ振動型のPZTに限らず、縦振動横効果のPZTであってもよい。ただしこの場合、充電と放電が入れ替わることになる。
【0069】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明では、静止状態にある圧力発生室に、収縮ないしは膨張工程を加え、収縮(または膨張)後に圧力発生室の状態を保持する工程を一定時間保ち、その間のインクの流れによってノズルメニスカスが圧力発生室側に引き込まれている状態を捉えて、最小圧力まで圧力発生室を膨張し、その後に圧力発生室を最大圧力まで収縮することによりインク滴を飛ばす。これによって、単に最小圧力まで圧力発生室を膨張してその直後に最大圧力まで圧力発生室を収縮してインク滴を飛ばす場合よりも吐出インク重量を減らすことができ、記録品質の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に使用するインクジェット式記録ヘッドの一実施例を示す断面図である。
【図2】同上記録ヘッドを動作させる駆動波形の工程図である。
【図3】同上記録ヘッドの要部を示す回路図である。
【図4】同上記録ヘッドの駆動波形の制御パルスを示した図である。
【図5】実施例1における工程C1中とC1終了時のインク流路の流れを示した図である。
【図6】実施例1における工程C2中でのノズルメニスカスの挙動を示した図である。
【図7】工程C1と工程C2を用いない従来例の駆動波形図である。
【図8】工程C2時間と吐出インク重量の関係を示した図である。
【図9】ノズルメニスカスの変位の例を示す線図である。
【図10】実施例1における工程C1の充電傾きによるノズルメニスカスの変位の違いを示す線図である。
【図11】実施例2における駆動波形図である。
【図12】実施例2における工程D2中でのノズルメニスカスの挙動を示した図である。
【図13】実施例3における駆動波形図である。
【図14】実施例4における駆動波形図である。
【符号の説明】
3 圧電振動板
4 圧力発生室
7 ノズル開口
Claims (4)
- ノズル開口と共通のインク室に連通する圧力発生室を備え、前記圧力発生室を圧電振動子により膨張、収縮させて前記圧力発生室へインクの補充、ノズル開口からのインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、
ノズルメニスカスが静止している状態から、圧力発生室を収縮させて最大圧力以下の範囲で圧力を高め、共通のインク室側へのインクの流れを生じさせる工程C1と、
この工程C1終了後の圧力発生室の状態を保持する工程C2と、
この工程C2でのインクの流れによって、ノズルメニスカスが圧力発生室側に引きこまれた状態を捉えて、圧力発生室を膨張させて最小圧力まで減圧する工程C3と、
インク滴を吐出させるためのタイミングを調整する工程C4と、
この工程C4終了直後に最大圧力まで圧力発生室を収縮させてインク滴を吐出させる工程C5とを経ることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。 - 前記工程C2において、環境温度が最高保証温度の場合は圧力発生室の収縮量を最小にし、最低保証温度に近づくに従って圧力発生室の収縮量を最高にすることを特徴とする請求項1記載のインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
- ノズル開口と共通のインク室に連通する圧力発生室を備え、前記圧力発生室を圧電振動子により膨張、収縮させて前記圧力発生室へインクの補充、ノズル開口からのインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドの駆動方法において、
ノズルメニスカスが静止している状態から、圧力発生室を膨張させて最小圧力より高い範囲で減圧し、ノズル開口側へのインクの流れを生じさせる工程D1と、
この工程D1終了後の圧力発生室の状態を保持する工程D2と、
この工程D2でのインクの流れによって、ノズルメニスカスが圧力発生室側に引きこまれた状態を捉えて、圧力発生室を膨張させて最小圧力まで減圧する工程C3と、
インク滴を吐出させるためのタイミングを調整する工程C4と、
この工程C4終了直後に最大圧力まで圧力発生室を収縮させてインク滴を吐出させる工程C5とを経ることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。 - 前記工程D1において、環境温度が最高保証温度の場合は圧力発生室の膨張量を最小にし、最低保証温度に近づくに従って圧力発生室の膨張量を最高にすることを特徴とする請求項3記載のインクジェット式記録ヘッドの駆動方法。
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