JP3765136B2 - ネジを研削する方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、センターレス研削技術を援用して丸棒状の素材をネジ切り加工する研削方法、および、同じく粗仕上げされたネジ素材をネジ研摩加工するネジ研削方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
機械加工によってオネジ部材を構成する方法は種々あるが、表面あらさの小さい精密なオネジを加工するには、ネジ溝を回転砥石で研削する方法が好適である。
ネジ溝を研削してオネジ部材を構成する方法を大別すると、円柱面を有する丸棒状の部材からネジ溝に相当する部分を削り落としてネジ山を作り出す方式と、オネジ形状に粗仕上げされたネジ素材を研摩して仕上げる方式とが有る。
【0003】
上記双方の方式の技術には類似点も多いが、丸棒からオネジ部材を削り出そうとする場合はネジ溝,ネジ山の形状を制御するのみでなく、ネジのピッチ寸法も制御しなければならない。
これに比して粗仕上げされたネジ素材を研摩する場合は、ネジ素材のピッチに倣いながらネジ山の形を整えながら表面の凹凸を滑らかにするように磨き上げれば良いので、ネジピッチの制御が容易であるという点で、前記双方の技術は相異している。
以下、説明の便宜上、丸棒素材からオネジ部材を削り出す加工をネジ切りといい、粗仕上げされたネジ素材を磨き上げる加工をネジ研摩といい、ネジ切りとネジ研摩とを総称してネジ研削という。
一方、丸棒素材を研削して真直円柱面を形成するための、造円作用を有する加工方式としてセンターレス研削が有る。そして、このセンターレスグラインダを用いて高精度のネジ研削を行なう技術も公知である。
【0004】
図8は、センターレスグラインダの基本的な構造・機能を説明するために示した模式的な正面図である。
円柱面状外周面を有する被加工物1は、ブレード2の上に載置され、該ブレード2と調整砥石3とによって支承される。この支承は、ブレード2の頂面と調整砥石3の外周面とによって為され、被加工物1の中心軸を検出して位置決めすることは行なわれない。上記の調整砥石3は、図示しない駆動装置により矢印R1方向に回転しており、これと接触している被加工物1は矢印Lのごとく回転せしめられる。
研削砥石4は、上記矢印Lの方向に回転している被加工物1の周速よりも大きい周速で矢印R2方向に回転駆動されつつ、該被加工物1に摺触して、これを真円柱面に研削する。
図示の角αはブレード2の頂角、
同じく寸法Hは心高、
同じく角βは研削砥石に関する心高角、
同じく角γは調整砥石に対する心高角であって、
角(β+γ)は心高角と呼ばれる。これらの諸数値は高精度のセンターレス研削を行なうため厳密に管理されねばならないが、公式によって一義的に算出することは困難であり、高度の知識と多年の経験に基づいて設定される要素を含んでいるのが現状である。
【0005】
図示のX−Xは、本図においては調整砥石3の中心点3sと、研削砥石4の中心点4sとを結ぶ直線であって、必ずしも水平軸とは限らない。本図に示されている構成を立体的に理解すると、X−Xは平面を表わしている。このX−Xは、調整砥石3の中心線3sと、研削砥石4の中心線4sとを含む面である。説明の便宜上、この面を基準面と呼ぶことにする。
前記調整砥石3の中心線3sを基準面に対して垂直面y−y内で微小角度だけ傾けると、仮想線で描いた3′のようになる。このような傾斜角は送り角と呼ばれ、被加工物1は調整砥石から受ける摩擦力の正弦分力によって軸心方向に移動され、いわゆる通し送りされる。この軸心方向の移動量は、前記の送り角を調整して可成り高精度に制御することができる。
【0006】
図9は公知のセンターレス研削機を用いてネジ研削を行なっている状態を示す模式的な平面図であって、(A)は丸棒状の素材をネジ切り加工しているところを描き、(B)は粗仕上げされたネジ素材をネジ研摩して精密仕上げしているところを描いてある。
(図9(A)参照)研削砥石5に付記した矢印R2は研削砥石5の回転方向を示し、この矢印R2は前掲の図8に付記した矢印R2と同じ方向を表している。調整砥石3に付記した矢印R1も同様に回転方向を表している。図示の6は素材としての丸棒であるが、この右半部は既にネジ切り加工されてオネジ状になっている。本例においてはボールネジ用のネジ切り加工を行なっており、従ってそのネジ山の形状は三角ネジや台形ネジではなく、ボールの転動面を形成する断面円弧状のネジ溝が削り込まれる。上記ネジ溝の削り込みは、研削砥石5に形成されたリング状の突条5aによって行なわれる。
丸棒6は矢印L方向に回転しつつ矢印F方向に通し送りされるので、研削砥石5の突条5aに接触する個所は、該丸棒6を基準として考えると、その外周面に螺旋を描く。このため該丸棒6は研削砥石5の突条5aによって矢印a,矢印b,矢印c,矢印dのように、順次に螺旋状のネジ溝が研削されてゆく。
【0007】
(図9(B)参照)粗仕上げされたネジ7をネジ素材として、これを矢印F方向に送りつつネジ研摩を行なう場合も、前述のネジ切りに類似した手法で施工することができる。ただし、この場合は送り角を付して通し送りすることはかわらないが、粗仕上げされたネジ溝に倣いつつ磨き上げてゆけば良い。磨き上げてゆく経路は前掲の(A)図に示したネジ切り加工の場合とほぼ同じで、(B)図に示した矢印e,矢印f,矢印g,矢印hのように螺旋状の軌跡を辿ってゆく。この場合、図の左右方向に関して研削砥石5は移動せず、粗仕上げネジ7が矢印L方向に回転しつつ自身のネジ溝によってネジ送りされて矢印F方向に移動しつつ研摩を受ける。調整砥石のみでは研削反力を充分に支承できない場合は、静止部材であるシュー(図示省略)が設けられる。このシューは円柱状被加工物のセンターレス研削に用いられる公知の部材である。
【0008】
次に、図9(B)について以上に説明したネジ研摩の従来例の変形例を説明する。実線で示したリング状の突条5bと並べて、仮想線で描いた予備加工用の突条5cが設けられている。この予備加工用突条は、仕上げ加工用の突条よりも先行して矢印e〜矢印hのように粗仕上げネジ溝に沿って接触しつつこれを中仕上げし、これを追って仕上げ加工用突条5bが精密に仕上げしてゆく。
図9(A)および図9(B)を参照して以上に説明したのは、センターレス研削機を用いてネジ研削を行なう公知技術である。この公知技術に係る研削機は研削砥石に突条が形成されているので、狭義のセンターレス研削機ではないが、被加工物をチャックしてその中心線を位置決めして回転駆動することをせず、該被加工物をブレード2と調整砥石3とによって支承し、その中心線を位置決めすることなく調整砥石3からの摩擦伝動で回転させながら研削砥石で研削するのであるから、少なくともセンターレス研削機に極めて近似する研削機である。
上記と異なる従来例として、被加工物をチャックして軸心まわりに回転駆動しつつ歯形グラインダで研削したり総形グラインダで研削する技術も公知(例えば工業技術研究会編・機械用語辞典)であるが、これらの公知技術は本質的にセンターレス研削とは全く異なり、被加工物をチャックしたり、心出ししたり、チャックを解除したりしなければならないので多くの工数を要し、心出し精度の良否によって製品の精度が変化するので、センターレス研削におけるがごとき高能率高精度は得られない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
図9について説明した公知技術に係るネジ研削方法によると、被加工物である丸棒状素材もしくは粗仕上げされたネジ素材をチャックしたり、心出ししたり、チャック解除したりする必要が無いので所要工数が少なくて高能率であり、しかも、心出し精度が製品の精度に影響を及ぼさず高精度の製品(オネジ部材)が得られる。
しかし乍ら、1個もしくは2個の突条によって被加工物の外周面にネジ溝を仕上げなければならないので該突条の損耗・減寸の進行が速やかである。このように、研削砥石の耐久性が充分でないため、
(a)工業的にオネジ部材を大量生産する場合、研削砥石の交換頻度が高く、研削工程をしばしば中断しなければならないので生産能率を阻害されてコスト高の要因となり、
(b)研削砥石の取外し、ツルーイング、取付け、調整に高度の熟練と多大の労力とを要し、コスト高の要因となり、
(c)ネジ溝の形状を決定する突条の損耗減寸が比較的速やかであるため、製品の精度確保を困難ならしめる。
【0010】
本発明は上述の事情に鑑みて為されたもので、請求項1の発明の目的は、
(イ)被加工物である丸棒状の素材を1個ずつチャックし、心出しし、チャック解除する手数を必要とせず、
(ロ)被加工物の心出し精度の良否によって製品精度が影響を受けることなく、常に高精度の製品が得られ、
(ハ)研削砥石の損耗・減寸の進行が緩徐であって研削砥石交換作業の頻度が低く、メンティナンスの為の作業中断時間が少なく、
しかも、調整砥石の軸心方向を正確かつ容易に調節することができる、ネジを研削する方法を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するため本発明は、センターレス研削機もしくはセンターレス研削機に類似する機器を用いて、直円柱面を有する丸棒状の素材にネジ切り加工する方法において、上記の素材をブレードと調整砥石とによって支承しつつ、該調整砥石を回転させて、前記の素材を軸心まわりに回転せしめ、
回転砥石よりなる研削砥石の外周面に、多数のリング状突条を等間隔に形成して、前記の素材を軸心方向に送りつつ、前記研削砥石のリング状突条を素材の外周面に接触させ、
1条のネジ溝に対して、前記多数のリング状突条のそれぞれを、順次に接触せしめて、上記1条のネジ溝を多数のリング状突条によって順次に削り込んでゆく形に研削し、
前記の調整砥石およびその回転駆動手段を旋回ベース上に搭載するとともに、該旋回ベースを前記のセンターレス研削機もしくは研削機に類似する機器のベッドに対してピボット軸受によって回動可能に支承し、
前記ピボット軸受に関して点対称をなす2点において、ベッドに対する旋回ベースの移動量の絶対値を計測して、
上記2点それぞれの計測値が相互に等しい場合は前記の旋回ベースの回動状態が正常であると判定し、相互に等しくない場合は回動状態が異常であると判定することを特徴とする。
【0030】
【発明の実施の形態】
次に、図1ないし図7を順次に参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明を適用して丸棒状の素材にネジ切り加工を施した場合の工程を表し、(A)はネジ溝を研削し始めた初期の状態を描いた模式的な一部破断平面図、(B)はネジ溝研削の中期の状態を描いた模式的な平面図、(C)はネジ溝研削の末期の状態を模式的に描いた平面図であって、(B)および(C)については調整砥石の図示を省略してある。
(図1(A)参照)図示の2はセンターレス研削機のブレードと同様のブレードであり、3はセンターレス研削機の調整砥石と同様の調整砥石である。8は、センターレス研削機における研削砥石に対応する回転砥石であって、その外周に多数のリング状突条(本実施形態においては7個)8a〜8gが等間隔に設けられている。本発明においてリング状突条とは、研削砥石の回転中心軸に直交する仮想の平面に沿って、該回転中心軸と同心の円弧をなすように形成された突条を言う。
図示の6は被加工物である丸棒状の素材であるが、本図(A)においては既にネジ切り加工が始まっていて、図示右端部には浅いネジ溝が約3ピッチ形成されている。この丸棒6はブレード2と調整砥石3とによって無心的に支承され、矢印R2方向に回転する調整砥石3により、摩擦伝動で矢印L方向に回転している。
上記の丸棒6を、調整砥石3とブレード2とで支承しつつ、矢印F方向に送りつつ、研削砥石8の突条8a〜8gに接触せしめてネジ溝を研削する。
上述のように矢印F方向に送るための具体的手段としては、従来例を描いた図8について先に説明したように、調整砥石3に送り角を与えて通し送りをする。
この場合、例えばプッシャロッドのような剛性部材で押動すると、摩擦力が働いて無心的支承状態のバランスを崩す虞れが有るので、上述のようにして弾性的な推力を与えることが望ましい。
【0031】
被加工物である丸棒が矢印F方向に送られると、先ず最初に突条8が該丸棒6に接触し始める。該丸棒6は矢印L方向に回転しつつ矢印F方向に送られているので、突条8aが丸棒6の外周面に接触する軌跡は螺旋形をなす。
最初に接触した突条8aは浅い螺旋形のネジ溝を研削する。次いで突条8bが、前記の突条8aが削り出した浅いネジ溝に沿って、この浅いネジ溝をもう少しだけ深くするように軽い研削を行なう。本図1(A)は、最初のリング状突条8aが削成した浅いネジ溝を、2番目のリング状突条8bが少しだけ掘り下げた形になった状態が表されている。
前記の丸棒6が矢印F方向に送られて、その送り方向後端部が前記最初の突条8aおよび2番目の突条8bを通過した状態が本図1(B)に表されている。本実施形態においては、この(B)の状態で、前記の丸棒6は半製品9となり、その送り方向前端部を最後のリング状突条8gで仕上げ研削されている。従って、(B)図に表されている半製品9のネジ溝は図の左端部では浅く、図の右端部に向かって次第に深くなっており、右端の約半周は所望のネジ形状,寸法になっている。
上記の半製品9が、さらに図の右方へ送られつつ、多数のリング状突条によって順次にネジ溝を削り込まれると、本図1(C)に示したように製品としてのオネジ10になる。
【0032】
以上に説明したように、1条のネジ溝を多数のリング状突条8a〜8gによって順次に掘り下げる形に研削するので、各1個の突条は軽い研削を行なえば足りる。このようにして、多数のリング状突条によってネジ溝研削が分担されるので研削砥石の摩損の進行が緩やかとなり、耐用期間が長い。
その結果として、摩損した研削砥石を取り外し、ツルーイングした後、再び装着して該研削砥石の軸心方向を調整する作業の頻度が少なくて済む。この研削砥石交換頻度の減少は、単に煩わしさを解消するだけでなく、高度の熟練を要する作業が減少するので労務コストの低減に有効である上に、砥石交換による作業中断のロスタイムが減少して作業能率を向上せしめる。
【0033】
上述の効果(摩損の進行抑制)を達成するためには、ネジ溝研削の負担を各リング状突条に均等に分担させることが必要である。すなわち、丸棒6に対して最初に接触してネジ切り加工を始めるリング状突条8aから、最後にネジ溝を仕上げるリング状突条8gまでの間それぞれのリング状突条について、n番目に接触するリング状突条は、(n−1)番目のリング状突条が研削したネジ溝を、研削代の1/7だけ削り込むことが必要である(本実施形態のリング状突条の個数が7個であるから)。
さらに詳しくは、上記7個のリング状突条が7回に分けてネジ溝を研削する場合の研削代の分担は、最初のうちは1/7よりも僅かに大きく、最後に近づくにつれて1/7よりも僅かに小さくなると理想的である。その理由は次のごとくである。すなわち、
7個のリング状突条のそれぞれによって行なわれるネジ溝研削のうち、最後のリング状突条8gによって行なわれるネジ溝研削は仕上げ研削であるから、平均的な研削代(1/7)よりも少ないことが望ましい。同様に、最後から2番目の、仕上げ直前の研削を行なうリング状突条8fの研削代は平均的な研削代(1/7)よりも少な目であることが望ましい。このように考察を進めてゆくと、粗仕上げに相当するネジ溝研削を行なう最初のリング状突条8aによる研削代は平均的な研削代(1/7)よりも僅かに多く、それに続くリング状突条8bによる研削代は平均的な研削代(1/7)よりも多目であることが望ましい。このような非等分の分担をさせるための構成について以下に説明する。
【0034】
図2は、前掲の図1(B)に示した模式図の要部を拡大して描いた詳細な平面図であるが、模式化してあるため各部分の寸法比率は必ずしも実施形態を写実的に表していない。
X−X′は半製品9の中心線であり、該半製品9は該軸X−X′を中心として回転している。研削砥石8には7個のリング状突条8a〜8gが形成されている。
仮想線で示したχ−χは、上記7個のリング状突条の頂点を結ぶ線である。詳しくは、該7個のリング状突条の頂線に接する面であるが、研削砥石8の中心線(図外)と半製品9の中心線X−X′とを通る面による断面について考えると線である。
本図において、半製品9には未完成のネジ溝が形成されている。このネジ溝は1条の螺旋形をなし、図の左方から右方に向けて次第に深くなっており、リング状突条に接触するごとに深くなっている。説明の便宜上、このネジ溝に図のごとく9a〜9fと符号を付する。9aは最も浅い粗仕上げネジ溝、9fは仕上げ形状,寸法のネジ溝である。
本実施形態において、前記7個のリング状突条の頂点を結ぶ線χ−χは、ネジ溝9fのネジ溝底に接する、例えば半径36,000ミリメートルの円弧状をなしている。詳しくは、半製品9に向けて凸なる円弧状をなしている。これにより、前述のように、だんだん削り込む形の研削が可能となる。
ただし、半径36,000ミリメートルの円弧は曲率半径が非常に大きいので、これを直線と見做すこともできる。前記の線χ−χを直線と見做す場合は、線χ−χを線X−X′に対して微小角度だけ傾斜させる。すなわち、研削砥石8の入口側に設けられるリング状突条の外径を、同出口側のリング状突条の外径よりも僅かに小さくする。
本実施形態においては、以上に説明したように、最初に浅いネジ溝を研削して、これを次第に削り下げてゆく。図9(A)に示した従来例において、丸棒6の右端に、最初から仕上げ形状,寸法のネジ溝を切り込んでゆくのに比して、研削の開始がスムースに行なわれる。
【0035】
(図1(A),(B)参照)丸棒6にネジ溝が切られて半製品9になってゆく状態が表されており、このネジ溝に対して多数のリング状突条8a〜8gが、一つ置きに接触している。これは、以下に述べるように研削砥石のツルーイングを考慮した構成である。
図3は、前掲の図1(C)に示した実施形態におけるオネジと研削砥石とを対比し易いように対向,離間せしめて描いた模式図である。
オネジ10に形成されたネジ溝のピッチ寸法を図示のごとくPとすると、本実施形態における研削砥石8のリング状突条8a〜8g(図には8c〜8eが現れている)の配置間隔寸法は2Pである。本発明を実施する際、リング状突条の配置間隔(中心線間距離)はネジピッチ寸法の整数倍でなければならないことは本図3から容易に理解されるが、整数倍の内で2倍が最も好ましい。その理由は、3倍以上にするとリング状突条の個数が減少して1個当りの研削負担が大きくなって、摩損進行速さの抑制効果が減少するからである。次に、リング状突条の配置間隔を少なくとも2Pに設定すべき理由を説明する。
図4は、研削砥石のリング状突条が摩損したとき、ロータリードレッサーでツルーイングしている状態を説明するために示した模式図であって、研削砥石の一部を切断して描いてある。
いま仮に、仮想線で描いた突条8u,8vを形成しようとすると、リング状突条8dをツルーイングする際、ロータリードレッサー11が仮想の突条8u,8vと干渉してこれを削ってしまう。上記仮想の突条8u,8vと干渉しないようなロータリードレッサー(図示省略)を作ると、刃先の部分が細く鋭くなって強度的に耐え得ない。こうした考察および実験に基づいて、本実施形態においてはネジ溝ピッチ寸法をPとして、リング状突条の配置間隔を2Pとした。本実施形態の変形例として、多数のリング状突条の間隔寸法が2Pの個所と3Pの個所とを混在せしめてもネジ研削を行ない得るが、一律に2Pに設定したときよりも該リング状突条の耐用期間が短くなる上、別段の利点が無い。
【0036】
図5は参考のために示したもので、多数のリング状突条を設けた研削砥石の外観斜視図である。
図6は、前掲の図1に示した実施形態と異なる実施形態を説明するために示したもので、研削砥石と、粗仕上げされたネジ素材と、研摩された製品としてのオネジとを配列して描いた工程説明図であり、調整砥石およびブレードの図示を省略するとともに研削砥石の一部を破断して描いてある。
図1について先に説明した実施形態においては丸棒状の素材にネジ切り加工したのに比して、本図6の実施形態においては粗仕上げされたネジ素材7を矢印F方向に移動せしめつつ研削砥石のリング状突条に接触させてネジ研摩加工する。
前述の実施形態(図1)においては、調整砥石3に送り角を付し、もしくは被加工物に送り方向の外力を与えて該被加工物を矢印F方向に送らねばならなかったが、本実施形態(図6)においては粗仕上げされたネジ素材7のネジ山が研削砥石8のリング状突条8a〜に係合して、該ネジ素材7の調整砥石による回転(円弧矢印ψ)によってネジ送りされつつ、ネジ溝を浚う形に研摩される。この実施形態(図6)においても、研削砥石8の損耗の進行が緩徐であることや、被加工物のチャック作業が不要でローディング,アンローディングが迅速,容易に行なわれることや、被加工物の心狂いに因る誤差を生じないこと等、前述した実施形態(図1)におけると同様の効果が得られる。
【0037】
図7は、本発明の実施形態においてブレードと協働して被加工物を支承する調整砥石の支持機構を示す2面図であって、(A)は旋回ベースの平面外観図、(B)は正面図である。
研削装置のベッド13の上に、ピボット軸受14によって旋回ベース12が支承されており、この旋回ベース12は基準面(必ずしも水平面ではない)Stに沿って回動自在に案内されている。前記のピボット軸受14は凸円錐状の軸と凹円錐面状の軸受座との対偶よりなり、円柱軸−凹円柱面メタル軸受対偶よりなる通常の軸受におけるがごとき軸受クリヤランスを必要としないので、旋回中心点が高精度に規制される。旋回ベースの回転中心軸は、地球を基準として水平もしくは垂直な方向が基本的構成であるが、水平もしくは垂直に比して意図的に傾斜させる場合も有る。
【0038】
上記のように高精度で回転可能に支持された旋回ベースの上に調整砥石3、および、その支持・回転駆動機構(図示せず)が搭載されている。本発明を実施する際、調整砥石の軸心方向を精密に調整しなければならないので、ピボット軸受による支持は好適である。調整を完了したならば、これを確実に保持するようロックすれば良い。しかし乍らピボット軸受は、調整作業中にラジアル方向に異常な外力を受けたとき、軸受の心狂いを生じる虞れ無しとしない。そこで、平面図(図A)においてピボット軸受14の中心点Psに関して点対称をなすように、1対の位置センサを配設する。すなわち、上記の点Psを通り基準面Stに平行な直線A−Aを想定し、上記直線A−A上に、点Psからの距離L1と距離L2とが等しいような2点Ms1,Ms2を取り、この2つの点に位置センサを配設する。上記の位置センサはベッド13に装着されて旋回ベース12の移動量を検出するものであっても良く、旋回ベース12に装着されてベッド13に対する相対的な移動量を検出するものであっても良い。
旋回ベース12が点Psを中心として回動したときは、前記2個の位置センサMs1,Ms2の検出値が等しくなり、心狂いしていると等しくならないので、これらの検出値を比較することによってピボット軸受14が正しく機能しているか否かを判定することができる。この場合の移動量の検出は、理論的には方向も含めたベクトル量である。ただし簡便法として絶対値(スカラー量)を検出して判定することもできる。
【0039】
上記と異なる実施形態として、2点Ms1,Ms2における計測を、単に相対的な移動量に留めず、相対的な移動方向も検出すればいっそう望ましい。2個所における相対的な移動の方向と量とが求まれば、例えばマイコンを用いることによって回動の中心点の座標値を容易に、かつ即時に算出することができ、ピボット軸受による旋回ベース支持状態の正常,異常を判定し得る。
【0040】
【発明の効果】
以上に本発明の実施形態を挙げてその構成・機能を明らかならしめたように、請求項1の発明によると、直円柱面を有する丸棒状の素材にネジ切り加工する場合、これをチャックして心出しすることなく、ブレードと調整砥石との上に該素材を置くだけで研削を開始することができるので、チャックに要する時間,労力や心出しに要する時間,労力を費やさないため高能率で安価に加工することができる上に、心狂いに因る加工誤差を生じる虞れが無いので、高度の熟練を要せず高精度のネジ切り加工が可能となり、同様の理由によって作業の自動化に適している。
さらに、研削砥石に形成された多数のリング状突条を用いて、形成されるネジの1条に対して該多数のリング状突条を、その配列順に接触させて順次に掘り下げてゆくので、1個のリング状突条に掛かる負担が軽く、従って摩損の進行が緩やかである。
多条ネジをネジ切り加工する場合も、該多条ネジを形成する複数条のネジ溝について上述の作用が働いて1個のリング状突条に掛かる負担が軽く、摩損の進行が緩やかである。
研削砥石の摩損の進行速さは、前記多数のリング状突条の個数にほぼ反比例して遅くなるので、該研削砥石を取り外してツルーイングすべき頻度が著しく減少する。
ツルーイング頻度の減少は、ツルーイング所要工数を減少させるだけでなく、研削砥石の交換による研削作業の中断時間が少なくなってネジ切り加工作業の能率が向上する。さらに、研削砥石の交換に伴う調整作業が少なくなるので高熟練度の作業員を必要とする作業が減り、労働コスト単価の低減にも有効である上に製品(ネジロッド)の品質が均一化して安定する。
その上、センターレス研削機の調整砥石機構の支持手段として従来一般に用いられていた軸−プレーンメタル軸受対偶に代えてピボット軸受を用いたので、軸受クリアランスに因るガタが無く、精密な回動支持が可能である。しかし乍ら、従来例の軸−プレーンメタル軸受対偶が大きいラジアル方向の外力に耐えるのに比して、ピボット軸受が大きいラジアル方向の外力を受けると円錐軸が凹円錐面に対して位置ずれを生じる虞れが有る。位置ずれを生じると調整砥石機構の旋回中心が心狂いして正確な研削が遂行されなくなる。
ピボット軸受の中心点に関して点対称をなす2個所の点を取って、それぞれの点における調整砥石機構のベースに対する移動を考察すると、該ピボット軸受の機能が正常である場合は該2点それぞれにおける相対的移動のスカラー量は同一であり、該ピボット軸受が心狂いしていると上記2点それぞれにおける相対的移動のスカラー量は相互に異なる値をとる。この故に、ピボット軸受に関して点対称をなす2個所における、ベッドに対する旋回ベースの移動量を計測して比較することにより、該ピボット軸受によって支承された旋回ベースの回動中心位置が正常であるか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用して丸棒条の素材にネジ切り加工を施した場合の工程を表し、(A)はネジ溝を研削し始めた初期の状態を描いた模式的な一部破断平面図、(B)はネジ溝研削の中期の状態を描いた模式的な平面図、(C)はネジ溝研削の末期の状態を模式的に描いた平面図であって、(B)および(C)については調整砥石の図示を省略してある。
【図2】前掲の図1(B)に示した模式図の要部を拡大して描いた詳細な平面図であるが、模式化してあるため各部分の寸法比率は必ずしも実施形態を写実的に表していない。
【図3】前掲の図1(C)に示した実施形態におけるオネジと研削砥石とを対比し易いように対向,離間せしめて描いた模式図である。
【図4】研削砥石のリング状突条が摩損したとき、ロータリードレッサーでツルーイングしている状態を説明するために示した模式図であって、研削砥石の一部を破断して描いてある。
【図5】参考のために示したもので、多数のリング状突条を設けた研削砥石の外観斜視図である。
【図6】前掲の図1に示した実施形態と異なる実施形態を説明するために示したもので、研削砥石と、粗仕上げされたネジ素材と、研摩された製品としてのオネジとを配列して描いた工程説明図であり、調整砥石およびブレードの図示を省略するとともに研削砥石の一部を破断して描いてある。
【図7】本発明の実施形態においてブレードと協働して被加工物を支持する調整砥石の支持機構を示す2面図であって、(A)は旋回ベースの平面図、(B)は正面図である。
【図8】センターレスグラインダの基本的な構造・機能を説明するために示した模式的な正面図である。
【図9】公知のセンターレス研削機を用いてネジ研削を行なっている状態を示す模式的な平面図であって、(A)は丸棒状の素材をネジ切り加工しているところを描き、(B)は粗仕上げされたネジ素材をネジ研摩して精密仕上げしているところを描いてある。
【符号の説明】
1…被加工物、2…ブレード、3…調整砥石、4…研削砥石、5…ネジ研削用研削砥石、5a…突条、5b…仕上げ加工用突条、5c…予備加工用突条、6…丸棒状の素材、7…粗仕上げされたネジ素材、8…研削砥石、8a〜8g…リング状突条、9…半製品、10…オネジ、11…ロータリードレッサー、12…旋回ベース、13…ベッド、14…ピボット軸受。

Claims (1)

  1. センターレス研削機もしくはセンターレス研削機に類似する機器を用いて、直円柱面を有する丸棒状の素材にネジ切り加工する方法において、上記の素材をブレードと調整砥石とによって支承しつつ、該調整砥石を回転させて、前記の素材を軸心まわりに回転せしめ、
    回転砥石よりなる研削砥石の外周面に、多数のリング状突条を等間隔に形成して、前記の素材を軸心方向に送りつつ、前記研削砥石のリング状突条を素材の外周面に接触させ、
    1条のネジ溝に対して、前記多数のリング状突条のそれぞれを、順次に接触せしめて、上記1条のネジ溝を多数のリング状突条によって順次に削り込んでゆく形に研削し、
    前記の調整砥石およびその回転駆動手段を旋回ベース上に搭載するとともに、該旋回ベースを前記のセンターレス研削機もしくは研削機に類似する機器のベッドに対してピボット軸受によって回動可能に支承し、
    前記ピボット軸受に関して点対称をなす2点において、ベッドに対する旋回ベースの移動量の絶対値を計測して、
    上記2点それぞれの計測値が相互に等しい場合は前記の旋回ベースの回動状態が正常であると判定し、相互に等しくない場合は回動状態が異常であると判定することを特徴とするネジを研削する方法。
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