JP3763117B2 - 簡易でかつ再現性に富む自立ゼオライト膜の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気泳動によるゼオライト粒子の堆積層の形成と水熱緻密固化反応とを組み合わせた、緻密固化したゼオライト自立膜の形成方法に関する。
【0002】
【従来技術】
ゼオライトは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を持つ結晶性アルミノケイ酸塩である。SiO4四面体の4頂点にある酸素原子の全てが共有され、分子レベルの細孔を内包した三次元の骨格構造をもっている。骨格を構成するケイ素原子の一部がアルミニウム原子に置換されており、アルミニウム原子の酸化数がケイ素原子の酸化数よりも1低いことから、電気的に中和し安定化するために正の電荷を補い当量の陽イオンを取り込む性質を示す。ゼオライトは、水熱合成によって粉末状として得られる。このゼオライトを取扱いに容易な膜状にするため、ポリマー中に分散させたり、無機多孔質の表面でゼオライトを結晶化させる方法が採用されている。最近では、ゼオライト結晶単独で作製された薄膜も開発されている。たとえば、コロイダルシリカ,硝酸アルミニウム,水酸化ナトリウム,結晶化調整剤等を配合した水性ゲル混合物を適宜の基板に接触させ、水熱処理するとき、基板表面にゼオライト膜が形成される(日本化学雑誌1992年第8号第877〜880頁参照)。
【0003】
「表面」Vol.34No.7(1996)16-25では、「ゼオライト分離膜の新展開」と題した報告がされている。その中で、
(1)ゼオライトの特異な構造・物性を高度に利用する目的で、ゼオライトの薄膜構造化の研究がなされていること。
(2)膜の技術概念には、メンブレーンとフイルム(デバイス的な用途)の2つの意味が含まれていること。更に、自立性を有するかどうかでも、分類されること。
(3)メンブレーンとして、従来、実用に供されているものは有機高分子膜が主であったが、現在、分離膜の用途が耐熱性、耐薬品性、機械的強度などの特性が要求される分野へ広がってきていることから、無機膜の要求が高まっていること。
(4)更に、ゼオライトの持つ特異性が、特に分離性能と結びつき注目されること。
(5)支持性膜の合成技術としては、水熱合成法、気相輸送法、レーザーアブレーション法、メッキ法、ナノ結晶−セラミックコンポジット法などがあること。
(6)水溶液、ガスなどの分離特性。
などが記載されている。
しかし、本発明者等の知るところでは、膜構造、ゼオライト結晶構造の制御、膜構造の再現性などに種々の問題が残されているため、人工ゼオライト膜の実用化は、未だほとんどなされていないといえる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記人工ゼオライト膜の製造における問題点である、膜構造、膜構造の再現性などを改善した方法を提供することを課題とするものである。
そこで、前記従来の方法とは異なる膜の形成方法はないかと検討する中で、ゼオライト粉末を電気泳動により電極基材上に堆積させることを考えた。
しかしながら、電気泳動により堆積しただけの膜は粉末化しやすく、自立性の膜を形成する強度を持たないものであった。
【0005】
先行技術として、特開平8−134697号公報には、「電気泳動を利用した抗菌性及び防カビ性のあるゼオライトのコーティング方法」に関する発明が記載されている。そこでは、ゼオライト粒子を各種溶媒、具体的にはアルコールに分散させると、ゼオライト粒子が荷電し、前記ゼオライト粒子を分散させた浴に30〜1000Vの電圧を印加すると、ゼオライト粒子は電極表面全体に、均一に且つ緻密性良く析出して来ることが記載されている。その中で、陽極表面に電気泳動により析出したままのゼオライト粒子は基体に対する付着性が十分でなく、摺擦によって基体表面から剥離し易いものであったこと。そこで、ゼオライト粒子が析出した基体を200〜700℃に1〜10分間加熱することにより、ゼオライトを焼成し基体に焼き付ける処理をすること。このようにすると緻密なゼオライト層が形成できることが記載されている。
しかしこの膜は、自立性の膜を構成するものではなく、分離膜などの機能を持った膜の形成を意図していない。また、加熱するためゼオライトの構造、特に機能性を持った構造が保持されているとは考えにくい。
【0006】
これに対して、本発明者らは、電気泳動法によるゼオライト層を自立膜となりうる強度を持ち、かつ機能性をもった膜にする方法について鋭意検討する中で、電気泳動法によるゼオライト粒子堆積層の形成に水熱固化反応を組み合わせることによって、電気泳動法によるゼオライト粒子堆積層を機能性を維持しつつ、自立性の強度をもった緻密固化ゼオライト膜を形成できることを発見し、前記本発明の課題を解決したものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ゼオライト粉末を有機溶媒又は水に分散させ、10〜1000Vの電圧を印加することにより基板の表面に前記ゼオライト粉末を泳動電着させ、該ゼオライト粉末が電着した基板表面に該ゼオライトの堆積層を形成し、該ゼオライトの堆積層が形成された基板を、アルカリ源、アルミナ源、シリカ源を水に加えて調製した原料溶液中に、該原料溶液の温度を25℃乃至220℃に保持した状態で浸し、該堆積したゼオライトの堆積層を水熱緻密固化してゼオライト膜化し、次いで前記緻密固化ゼオライト膜を前記基板から剥離して,前記ゼオライトの自立膜を形成する方法である。好ましくは、前記ゼオライト粉末がゼオライト−Y、ゼオライト−X、ゼオライト−A、モルデナイトまたはZSM−5から選択された粒径0.2μm〜40μmものであることを特徴とする前記のゼオライトの自立膜を形成する方法である。
本発明者らは、電気泳動によるゼオライト粒子の堆積層の形成と水熱緻密固化反応とを組み合わせることにより、前記課題を解決したものである。
【0008】
【本発明の実施の態様】
本発明を詳細に説明する。
A.ゼオライト粒子堆積層の形成について。
1.基本的には、ゼオライト粒子の懸濁液(泳動溶液:E.P.S)から、前記粒子を電気泳動電着により電極上、例えばゼオライト−Yを用いた場合には陽極上、に析出堆積させてグリーンフィルム(G.F)を得る工程である。
基板(B.P)を構成する電極材料としては、ステンレス板、炭素板、白金などが使用できる。また、対向電極材料は、基板を構成する材料と同じでも、異なっていても良い。
2.ゼオライト粒子(Z.P)の懸濁液を作るのに用いる分散媒としては、水でも、有機溶媒でも使用でき、基本的にはゼオライト粒子に安定な電荷を付与し、前記粒子の安定な分散液を提供しうるものであればよい。
有機溶媒としては、例えばアセトン、アルコール類、アセトニトリルなどを挙げることができる。特に、グリーンフィルムを次工程の水熱緻密固化反応に移すまでの間に前記分散媒が揮発飛散してしまわない比較的高い沸点温度を持つものが好ましい。
3.電気泳動電着時に加える電圧としては、10〜1000V(/10mm:以下同じ)、好ましくは、10〜100Vである。実験結果からは、グリーンフイルムの緻密性は、泳動条件の緩やかな方が良い結果が得られた。
分散媒として、純水、アセトンを使用した場合における泳動時間と堆積量の関係は、堆積量は泳動時間の1/2乗に比例することが観察された(図3)(電気泳動電圧条件は、水では10V、アセトンでは50Vを採用した。)。また、電荷移動量(μA/dm2×min、μA/dm2×min)と堆積量(mg/dm2)(図4−a、b)からは、アセトンの方が電荷移動当たりの堆積量の関係からすると有利であることが理解できる。
しかしながら、堆積ゼオライト層の緻密性、水熱緻密固化浴への移動までのグリーンフイルムの品質維持(乾燥による劣化)の点からは、水の方が有利である。ただ、水の場合には、陽極上での酸素の発生のために、高電圧を採用できないという問題がある。
4.泳動溶液のゼオライト粒子の濃度は、0.01g/50ml〜1g/50ml、好ましくは0.1g/50ml〜0.4g/50mlに調整するのが好ましい。
0.01g/50mlより低い濃度では、電着速度が小さすぎるし、1g/50mlより大きいと、均一なゼオライト堆積層を得ることができない。
【0009】
B.利用ゼオライト粒子について。
1.電気泳動電着現象を利用するものであるから、基本的には、分散媒体中で安定な電荷を持って、かつ安定に分散するものであれば良い。
ゼオライト−Y粒子の場合は、水中でもアセトン中でもマイナスに荷電していることが観察された。
2.ゼオライト粒子としては、ゼオライト−Y(Na56(Al56Si136O384)・250H2O)、ゼオライト−X(Na56(Al86Si104O384)・264H2O)、ゼオライト−A(Na12(Al12Si12O48)・27H2O)、モルデナイト(Na8(Al8Si40O96)・24H2O)、ZSM−5(Nan(AlnSi96-nO192)・16H2O)(n<27)などのゼオライト群から選択された粒径0.2μm〜40μmのものを好ましい材料として挙げることができる。ゼオライトの種類、粒径などは膜の特性と関係する要素であるから、膜の使用目的との関連で適宜決定される。
ゼオライト粒子を複数種使用しても良い。
C.グリーンフイルムのXRD(粉末X線回折)による観察により、堆積層にゼオライトによるピークが現れ、水熱固化後もゼオライト構造が保持された(図5)。
【0010】
D.水熱緻密固化反応について。
1.基本的には水熱固化反応は、原料溶液(S.S)より発生する微粒子が電気泳動によって得られた粒子集合体中の粒子間の結合を強固にすると共に、堆積層の空隙を結晶析出により充填することを目的とした工程である。これによって粒子の凝集層から、水熱緻密固化したゼオライト自立膜へと変化するものと考えることができる。
また、水熱固化反応として、電気泳動電着に,微粒子,例えばnm程度の微粒子を使用してゼオライトの堆積層を形成し、該微粒子堆積層の粒子間の結合反応を優先的に進行させて、構造を制御したゼオライト膜(Z.M)の形成も可能と考えられる。
この場合には、水熱固化反応中に新たな核を発生させない、Si成分を含まない原液溶液を用いる。
2.水熱緻密固化反応を行わせる原料溶液としては、基本的には、処理されるグリーンフイルムを構成するゼオライト組成と同じ組成の原液を用いるが、異なるものでも良い。
3.原料溶液を例示すると、アルカリ源に水酸化ナトリウム、アルミナ源にアルミン酸ナトリウム、シリカ源にコロイダルシリカを用い、それらを水に撹拌しながら加えたものが使用される。
原料溶液を製造するための水としては、特に純度の高いものが良く、好ましいものとして、イオン交換水、蒸留水などを挙げることができる。
水熱緻密固化反応は、前記原料溶液を、温度25〜220℃に維持し、撹拌しながら0.5〜100時間かけて実施される。水熱緻密固化させる際、溶液中から新たな粒子が基板に堆積していることも確認された(図6)。この時の堆積量は、溶液の撹拌速度に依存することが観察されている。
前記水熱固化反応中に起こる、原液溶液からの新たな堆積現象から、グリーンフイルムに水熱緻密固化反応を行う際、該フイルムを前記原料溶液中で、垂直に保持するか、水平に保持するかも膜厚の均一性に影響することも考慮する必要がある。
4.水熱緻密固化反応は、グリーンフイルム形成時の基体を付けたまま実施される。緻密固化反応が時間と共に基体方向に進行していることが断面像(図7:特に矢印の範囲)(上から、0時間、3時間後、12時間後)から理解される。
【0011】
E.自立膜の完成。
水熱緻密固化反応処理が完了したものは、イオン交換水などで軽く洗浄後、25〜80℃のオーブン中で乾燥される。
その後、乾燥膜は基板からはぎ取ることによって得ることができる。
F.本発明の全体のプロセスを図8に示す。
【0012】
【実施例】
実施例1
A.:グリーンフイルムの形成。
100mlビーカー中に粒径1μmの市販のゼオライト−Y(触媒化成製)と超純水から泳動溶液(0.2g/50ml)(E.P.S)を調製した。
前記調製した泳動溶液に超音波洗浄機(38kHz、120W)を使用して10分間懸濁した。
安定な電気泳動電着を行なうため、前処理として直流電圧85V(定電圧)を1時間、懸濁液に印加した。
泳動装置を図1に示す。基板(B.P)としてステンレス板を使用した。
次に10分間超音波洗浄機で泳動溶液を懸濁し、10V(定電圧)で電着を行い、そこで得られたグリーンフィルムを最終製品のゼオライト膜製造の試料とした。
B.前記グリーンフイルムの水熱緻密固化
固化装置を図2に示す。水熱合成を行うための加熱手段が付設されている。
固化に用いる原料溶液は、アルカリ源に水酸化ナトリウム、アルミナ源にアルミン酸ナトリウム、シリカ源にコロイダルシリカを用い、それらをイオン交換水にいれ、十分撹拌調製した。その組成を表1に示す。
【0013】
【表1】
Figure 0003763117
【0014】
グリーンフイルムは、乾燥させずに基板とともに直ちに、500mlのテフロン広口瓶内に入れられた前記原料溶液に浸した。(乾燥させると粒子の凝集力が弱まり、溶液に浸す際に基板から剥がれてしまうためである。)
ホットスターラー上で、撹拌しながら溶液の温度を80℃に保ち、0.5〜100時間かけて膜を固化させた。
得られた試料は、残った母液を除去するために、基板ごとイオン交換水で軽くすすいだ後、50℃に保持したオーブン内で1時間乾燥させた。その後、試料を基板から剥ぎ取り、自立膜を得た。
【0015】
他の、ゼオライト成分を用いた場合にも、実施例1と同様の自立膜が形成できることが確認されている。
【0016】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の、電気泳動法によるゼオライト粒子堆積層の形成に水熱緻密固化反応を組み合わせる構成により、出発原料ゼオライト粒子の機能性を維持しつつ、自立性の強度をもった緻密固化ゼオライト膜を得ることができる、という優れた効果がもたらされる。
また、電気泳動法によるゼオライト粒子堆積層の形成には、種々のゼオライト粒子を用いることが可能であるから、使用するゼオライト粒子の選択により容易に種々の目的の自立性のゼオライト膜が得られることの可能性を提供したこと、更に、使用するゼオライト粒子としてナノサイズのものを使用すれば得られる膜の機能の多様化が期待できるなどのことから、多大の効果をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明で使用した泳動装置
【図2】 本発明で使用した水熱緻密固化装置
【図3】 分散媒として、純水、アセトンを使用した場合における泳動時間(1/2乗)と堆積量の関係
【図4】 a、b:電荷移動量と堆積量の関係
【図5】 水熱緻密固化前後のゼオライト堆積層のXRD
【図6】 溶液中からの新たな粒子の基板への析出(SEM)
【図7】 緻密固化反応の進行状態の断面像(SEM)(上から、0時間、3時間後、12時間後)
【図8】 本発明の全体のプロセス
【符号の説明】
E.P.S 泳動溶液 B.P 基板
Z.P ゼオライト粒子 G.F グリーンフィルム S.S 原料溶液
Z.M ゼオライト膜

Claims (2)

  1. ゼオライト粉末を有機溶媒又は水に分散させ、10〜1000Vの電圧を印加することにより基板の表面に前記ゼオライト粉末を泳動電着させ、該ゼオライト粉末が電着した基板表面に該ゼオライトの堆積層を形成し,該ゼオライトの堆積層が形成された基板を、アルカリ源、アルミナ源、シリカ源を水に加えて調製した原料溶液中に、該原料溶液の温度を25℃乃至220℃に保持した状態で浸し、堆積したゼオライトの堆積層を水熱緻密固化して膜化し、次いで前記緻密固化ゼオライト膜を前記基板から剥離して、前記ゼオライトの自立膜を形成する方法。
  2. ゼオライト粉末がゼオライト−Y、ゼオライト−X、ゼオライト−A、モルデナイトまたはZSM−5から選択された粒径0.2μm〜40μmものであることを特徴とする請求項1に記載のゼオライトの自立膜を形成する方法。
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