JP3759229B2 - ポリ−γ−グルタミン酸の単離法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、食品、化成品、医薬等の分野において機能性高分子として有用な高純度のポリ−γ−グルタミン酸(以下、単に「γ−PGA」と略記する)を、γ−PGA醗酵液から効率よく単離する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
γ−PGAは微生物を利用した発酵法によって産生されることはよく知られており、一般に数万から数百万の分子量を有している。蓄積量の増大に伴ない培養後の培養液は粘稠性の帯びたものとなり、γ−PGAの単離操作を困難ならしめる要因となっている。
【0003】
従来、γ−PGAの単離法については、古くは銅塩として沈澱する方法〔M.Bovarnick :J. Biol. Chem.,145, 415(1942)〕,アルコール沈殿法〔藤井久雄;農化, 37, 407(1963)〕,塩類による析出法(永井利影;特公昭52−8872号公報)等が知られている。
【0004】
しかしながら、いずれの方法に於ても、多量のアルコール・塩類を必要とすること、回分処理であり又、生成するγ−PGAが粘着性物質のため、器壁等に付着しやすく、スケール上の制約が生じること、更に又、微量のアルコール成分や無機物がγ−PGAポリマー中に取り込まれ、これらの混入のないγ−PGAを得ることは難しい等、工業的規模での実施には必ずしも適した方法とは言えない。
【0005】
最近、分離膜を用いて培養物からγ−PGAを単離しようとする試みも行われている。例えば、特開平1−174397号公報には、先ず、遠心分離または微細孔を有するフィルターろ過により菌体を除去し、3〜4倍量のエタノールなどを添加してγ−PGAを沈殿させ、そして沈殿物を水に溶解させ、不溶物を除去し、低分子物を透析、限外ろ過などにより除去し、有機溶媒による再沈殿を繰り返してγ−PGAを単離する方法が開示されている。又、特開平7−135991号公報によれば、共存する糖質の(固定した微生物あるいは酸素による)除去、エタノールによるγ−PGAの沈殿分離、透析あるいは分離膜による低分子物質の除去、分離γ−PGAの凍結乾燥を含む方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、特開平1−174397号公報及び同7−135991号公報記載の方法でも、やはりエタノール添加によるγ−PGAの沈殿分離工程を経由するものであり、前述したようにアルコール沈殿の場合には乾燥してもγ−PGAからアルコールを完全に除去することは困難であったり、菌体分離は遠心分離で行うことができたが、菌体含有液の高い粘度のため、分離膜による菌体分離は困難であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来法のようにアルコール沈澱や塩析法によらずに、分離膜による効率的なγ−PGAの単離法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、発酵液の如く、菌体や培地栄養成分の夾雑物を含有するγ−PGA水溶液のpHを酸性にすると、該水溶液の粘度が300センチポイズ(cp)以下になり、精密濾過膜処理が可能になることを見出した。また、アルコール沈殿法などの沈殿法を用いなくても、精密濾過膜を用いる除菌工程及び限外濾過膜を用いる透析処理工程からなる2段階の膜処理のみによって、高純度のγ−PGAを高収率で分離取得し得ることも見出した。本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、菌体を含むγ−PGAの水溶液に無機酸を添加し、pHを1.5〜3.5とした後、精密濾過膜を用いて菌体を除去し、次いで得られた透過液を限外濾過膜を用いて透析処理することを特徴とするγ−PGAの単離法である。
【0010】
【発明の実施の形態】
菌体を含むγ−PGAの水溶液としては、公知の方法により微生物例えばバチルス・ズブチルスに属する納豆菌を培養して得られるγ−PGA含有発酵液が挙げられる。該γ−PGA含有発酵液に無機酸、例えば塩酸、硫酸等を添加し、pHを3.5以下、好ましくは1.5〜3.5、特に好ましくは2.0〜2.5に調整する。溶液の粘度が一般に約300cp以下、特に200cp以下になるように添加するのが好ましい。
【0011】
上記のpHに調整した後、精密ろ過膜を用いて除菌する。この際、菌体以外に菌体由来の蛋白質、糖類等の凝集沈殿物も同時に除去される。他方、酸性条件下で溶存するγ−PGAは無機塩類、単糖、オリゴ糖等の低分子化合物と共に膜を透過する。精密ろ過膜の材質は耐酸性のものであればよく、例えばテフロン、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート等が好適なものとして挙げられる。また、セラミック膜等の無機材質からなら精密濾過膜も使用に好適である。精密ろ過膜の膜孔径は一般的に0.01〜0.5μm、特に0.05〜0.2μmであるのが好ましい。具体例を商品名で示せばグレースジャパン(株)製 H15MP01−43、旭化成工業(株)製 PSP−013等が挙げられる。膜の形状は平膜状、管状、スパイラル状、中空子状等のいずれの形状であってもよい。装置は通常の膜分離装置を用い、循環液の温度は10〜60℃、好ましくは30〜50℃にコントロールし、圧力は特に制限はないが透過速度を上げるために膜が耐えられるかぎりの圧をかけ膜分離を行う。循環液量が少量になったところで純水を加え、透過液のホールド分を流し出す。次いで、透過液について限外ろ過膜を用いて透析処理を行なう。
【0012】
限外ろ過膜の材質としては、耐酸性の各種ポリマー膜であればよく、例えば、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、ポリエーテルサルホン等が用いられる。具体例を商品名で示せば、ダイセル化学工業(株)製 FUS−3081、グレースジャパン(株)製 H15P30−43、日東電工(株)製 NTU−3250 C3R等が挙げられる。膜の形状としては、平膜状、管状、スパイラル状、中空子状等のいずれの形状であってもよい。使用する限外ろ過膜の分画分子量は一般的に2,000〜200,000、好ましくは3,000〜40,000である。装置は通常の膜分離装置を用い、循環液の温度は10〜60℃、好ましくは30〜50℃にコントロールし、圧力は特に制限はないが透過速度を上げるために膜が耐えられるかぎりの圧をかけ膜分離を行う。透過液量と同量の純水を循環液に加え、循環液量が常に等量になるようコントロールする。透過液の電導度をチェックし、10mS/cmより低くなったところで膜分離を中止する。無機塩類や単糖類、オリゴ糖等の低分子化合物は膜を透過するが、他方、γ−PGAは膜を透過しないで濃縮されて濃縮液として得られる。得られた濃縮液は、充分高純度であり、エタノール沈殿等の沈殿精製方法を用いることなく、そのまま乾燥することにより、固体化された高純度のγ−PGAを得ることができる。乾燥法としては、凍結乾燥法、噴霧乾燥法等が適用される。
【0013】
以下、参考例、実施例により具体的に説明する。
参考例:γ−PGAの製造
市販の納豆より分離した納豆菌を、3Lのミニジャーを用いて、麦芽エキス0.3%、酵母エキス0.3%、ポリペプトン0.5%、グルコース1.0%からなる培養液(pH6.0)で32℃、24時間シード培養した。次に500Lのジャーを用いて、グルコース7.5%、硫安1.5%、硫酸マグネシウム7水和物0.035%、硫酸マンガン0.005%、リン酸水素カリウム0.15%、グルタミン酸モノナトリウム塩5.0%、塩化ナトリウム1.0%からなる培養液(pH6.4)にシード培養後の培養液を0.5%接種し、37℃、48時間メイン培養した。培養後の培養液についてGPC法によりγ−PGAの含量を測定したところ、0.80g/dlであった。
【0014】
【実施例】
実施例1
参考例で得た培養液200mlを濃塩酸でpH2.0に調整した。精密ろ過膜を内蔵したMFモジュールとして旭化成工業(株)製 module PSP−013(孔径0.1μm、膜面積0.017m2、モジュール材質はポリスルホン、スパイラルタイプ)を用い、温度30℃、圧力1.0Kgf/cm2、循環線速0.12m/secの条件で菌体分離を行った。循環液量が100mlになったところで水600mlを加え、再度膜分離を行い、循環液が100ml、透過液が700mlとなったところで膜処理を終了した。培養液のγ−PGAの94%が透過液側に移行した。この透過液を今度は旭化成工業(株)製 UF module SIP−0013(分子量分画6000、膜面積0.017m2)を用い、透過液量と同量の水を循環液側に加えつつ、温度30℃、圧力1.0Kgf/cm2、循環線速0.11m/secの条件で膜処理を行った。差し水量が600mlになったところで差し水を終了し、循環液を濃縮した。循環液量が65mlになったところで膜処理を終了した。この濃縮液には培養液のγ−PGAの91%が含まれていた。得られた濃縮液を凍結乾燥することにより総収率87%で固体化したγ−PGAを1.4g得た。このγ−PGA中にはカルシウム0.04%、糖0.45%、リン0.03%含まれていた。
【0015】
実施例2
参考例と同様の方法で得た培養液1KLを加熱により蛋白を変成させた後、塩酸でpH3に調整し、旭化成工業(株)製 module MICROZAPV−313(孔径0.1μm、膜面積2.9m2)を用い、温度40〜50℃、圧力1.0〜1.2Kg/cm2、循環線速1.2m/secの条件で菌体分離を行った。次にこの透過液を日東電工(株)製 UF module NTU−3000C3RX(分子量分画20,000、膜面積3.9m2)を用い、温度40〜50℃・圧力1.0〜1.2Kg/cm2、循環線速1.1m/secの条件で透析処理を行った後、循環液を180Lまで濃縮した。得られた濃縮液を凍結乾燥することにより総収率85%で固体化したγ−PGAを6.8Kg得た。
【0016】
比較例
参考例で得た培養液200mlを濃塩酸でpH2.0に調整し、遠心分離機により菌体を分離した後、得られた菌体分離液を3倍量のエタノール中に滴下した。生成した沈殿をろ過し粗γ−PGAを得た。これを200mlの水に溶解させ、旭化成工業(株)製 UF module SIP−0013(分子量分画6000、膜面積0.017m2)を用い、透過液量と同量の水を循環液側に加えつつ、温度30℃、圧力1.0Kgf/cm2、循環線速0.11m/secの条件で膜処理を行なった。差し水量が600mlになったところで差し水を終了し、循環液を濃縮した。循環液量が65mlになったところで膜処理を終了した。次に、循環液を3倍量のエタノール中に滴下し、精製した沈殿をろ過し、棚段乾燥機で減圧乾燥することにより、総収率57%でγ−PGAを0.91g得た。このγ−PGA中にカルシューム0.10%、糖0.40%、リン0.10%が含まれており、また2%の残存エタノールも確認された。
【0017】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の方法により、菌体を含むγ−PGAの水溶液のpHを酸性にすることで精密ろ過膜による菌体分離を可能にすることができるようになり、結果として精密ろ過膜処理と限外ろ過膜処理の2段階の膜処理のみによって高純度のγ−PGAを高収率に得ることができる。また、本発明の分離膜によるγ−PGAの単離法は、全ての工程を水媒体で処理することにより、従来行われていたアルコール沈殿や塩析工程での煩雑な粘性固体の分離工程を省略し、効率的でスケールアップが容易であるという利点がある。また単離のために必要な副原料は無機酸のみであり、しかもアルコール等の可燃性有機溶剤は不必要であることから、防災設備の面でも有利である上に、得られるγ−PGA中にアルコールが残存することもない。本法では、精製のために膜設備のみで良いため、単離コスト面でも効果的な方法であるといえる。

Claims (3)

  1. 菌体を含むポリ−γ−グルタミン酸の水溶液に無機酸を添加し、pHを1.5〜3.5とした後、精密濾過膜を用いて菌体を除去し、次いで得られた透過液を限外濾過膜を用いて透析処理することを特徴とするポリ−γ−グルタミン酸の単離法。
  2. 限外濾過膜を用いて透析処理して得られた濃縮液をそのまま凍結乾燥または噴霧乾燥することを特徴とする請求項1に記載のポリ−γ−グルタミン酸の単離法。
  3. 精密濾過膜の膜孔径が0.05〜0.2μmであり、限外濾過膜の分子量分画が3,000〜40、000であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリ−γ−グルタミン酸の単離法。
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