JP3759027B2 - ガスセンサとその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の利用分野】
この発明は金属酸化物半導体の抵抗値の変化を用いたガスセンサとその製造方法に関し、特にヒータ膜の基板への密着性の向上や、金属酸化物半導体膜の基板への付着力を向上したガスセンサとその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
Pt膜を基板にスパッタリングし、ウェットエッチングによりパターニングして、金属酸化物半導体ガスセンサのヒータ膜とすることが知られている(特開平9−318579号公報)。またこの公報では、ガスセンサのヒータ膜にパルス的に電力を加えて、いわゆるパルス駆動することを記載している。しかしながら発明者らは、スパッタリングで成膜したPt膜からなるヒータ膜に繰り返しパルス的に通電すると、ヒータ膜の抵抗値が変化することを見出した。
【0003】
【発明の課題】
この発明の課題は、ガスセンサのヒータ膜の基板への密着強度を改善し、ヒータ膜の耐久性を向上することにある(請求項1,2)。
この発明での追加の課題は、ヒータ膜の周囲の基板に凹部を形成し、感ガス膜の基板への付着力を改善することにある。
【0004】
【発明の構成】
この発明のガスセンサは、基板上にヒータ膜と感ガス膜とを設けたガスセンサにおいて、該ヒータ膜が白金を主成分とする有機金属化合物膜を焼成したもので、複数の屈曲部が表れるようにパターニングされており、かつ前記複数の屈曲部の周囲で、前記ヒータ膜の底面を除いて前記基板に凹部が形成され、該凹部と前記複数の屈曲部とを覆うように、金属酸化物半導体の厚膜からなる感ガス膜が形成されていることを特徴とする(請求項1)。またヒータ膜が電極膜を兼用し、しかも唯一の電極膜であっても良い。
【0005】
この発明のガスセンサの製造方法は、基板上にヒータ膜と感ガス膜とを設けたガスセンサの製造方法において、白金を金属成分中の主成分とする有機金属化合物の膜を基板上に形成・焼成して、白金を主成分とするヒータ膜を基板上に成膜する工程と、焼成後のヒー タ膜上にレジスト膜のマスクを形成し、イオンミリングにより前記マスクで覆われていない部分のヒータ膜を前記基板を掘り下げるようにミリングすることにより、ヒータ膜が複数の屈曲部を有するようにパターニングすると共に、該複数の屈曲部の周囲で、パターニングされたヒータ膜の底面を除き、基板に凹部を形成する工程と、該凹部とヒータ膜とを覆うように、金属酸化物半導体の厚膜を形成して焼成して感ガス膜とする工程とを設けたことを特徴とする(請求項2)。
【0006】
【発明の作用と効果】
この発明では、Ptを主成分とする有機金属化合物の膜を焼成してヒータ膜を形成するので、基板へのヒータ膜の密着性が高く、多数回の熱衝撃を経験してもヒータ膜の抵抗値が安定である。このためヒータ膜の抵抗値の安定性を高めることができる。なおPtを主成分とする有機金属化合物の膜を焼成することと、基板へのヒータ膜の密着性が向上することとには明確な因果関係があるが、このような因果関係が生じる機構は不明である、また特に限定するものではないが、ヒータ膜の抵抗値の安定性が高いので、ヒータ膜への投入電力を周期的に変化させるガスセンサの場合、ヒートショックへのヒータ膜の耐久性が向上する(請求項1,2)。
【0007】
さらにこの発明では、ヒータ膜の周囲の基板に凹部を設けるので、金属酸化物半導体の厚膜が、凹部とそれよりも高い表面を持つヒータ膜との段差により基板に固定され、基板への付着力が増す。なお特に限定するものではないが、このことは、ヒータ膜への投入電力を周期的に変化させるガスセンサの場合、ヒートショックに対する金属酸化物半導体の厚膜の耐久性を向上させる。
【0008】
請求項の発明では、ヒータ膜のパターニングとその周囲の凹部の形成を同じ工程で行えるので、効率的である。
【0009】
【実施例】
図1〜図7に、実施例を示す。これらの図において、2は基板で、図3に示すように、下地のアルミナ基板18とその上部に設けた断熱ガラス膜20とから成っている。断熱ガラス膜20は、ここではオーバーグレーズ用のガラスを用い、膜厚は約100μmで、SiO2−SrO−BaO−Al2O3系のガラスである。断熱ガラス膜20は、アルミナに比べて熱伝導率の低い材質を用いればよく、基板を、石英ガラスなどのガラス基板や、熱伝導率の低いSiO2,TiO2,ZrO2などのセラミックス基板として、下地のアルミナ基板18を不要にしても良い。
【0010】
基板2の表面には電極膜4とヒータ膜6とが設けられ、8は電極膜4の引き出し部、9,10はヒータ膜6の両端の引き出し部で、12は金属酸化物半導体膜で、電極膜4とヒータ膜6とを直接被覆するように積層し、ここでは膜厚約20μmのSnO2膜とした。金属酸化物半導体膜12の種類は任意で、厚膜とは膜厚2〜100μmの膜を言う。電極膜4やヒータ膜6はPtを主成分とする膜で、電極膜4を設けず、ヒータ膜6をヒータの他に1個のみの電極として兼用しても良い。またヒータ膜6上に薄膜の絶縁体を積層し、ヒータ膜6が金属酸化物半導体膜12に直接触れないようにしても良い。
【0011】
ヒータ膜6や電極膜4の材質は、単味のPtの他に、Pt−IrやPt−Pd,Pt−W,Pt−Rh,Pt−CrなどのPtを主成分とする合金としてもよく、また電極膜4をヒータ膜6と異なる材質で成膜しても良い。電極膜4やヒータ膜6の膜厚は例えば0.1〜10μmとし、ここでは2.5μmとした。電極膜4やヒータ膜6は、最小の線幅を約20μmとし、電極膜4とヒータ膜6との間のギャップなどの間隔を最小で約10μmとした。また金属酸化物半導体膜12は1辺約200μmの正方形状としたが、円形状などの形状でもよい。さらに金属酸化物半導体膜12の上部には、適宜のフィルター膜などを積層してもよい。
【0012】
電極膜4やヒータ膜6はスクリーン印刷などにより設け、焼成後に不要部をイオンミリングによりエッチングしてパターニングする。またヒータ膜6には多数の屈曲部を設け、ヒータ膜の抵抗値を大きくして、引き出し部9,10での無効発熱の割合を小さくする。ヒータ膜6の周囲をミリングして凹部22を設けるので、金属酸化物半導体膜12から見て下地の凹凸が激しくなり、金属酸化物半導体膜12の基板への付着強度が増す。なおヒータ膜6や電極膜4の不要部を除去するので、電極膜4やヒータ膜6の下地膜としてTi膜やCr膜などを設けても、下地膜が露出して金属酸化物半導体膜12を汚染する恐れが少ない。このため電極膜4やヒータ膜6には、Ti膜やCr膜などの下地膜を設けてもよい。
【0013】
14は厚膜の金ペーストなどを焼成したパッドで、リード線16を取り付けるためのものである。そして基板2では、アルミナ基板18の底面側をプラスチックなどのベースに例えば接着剤で接着固定した後に、図示しないステムとパッド14との間に、リード線16をワイヤボンドする。
【0014】
図3は図2のC−C断面を拡大して示したもので、電極膜4やヒータ膜6をイオンミリングでパターニングする際に、スクリーン印刷したPt膜の不要部を除去した後もオーバーエッチングし、凹部22を設ける。凹部22の深さは、断熱ガラス膜の表面から見て例えば0.5〜10μmとし、ここでは2.5μmとした。このため、断熱ガラス膜20の表面よりも高い位置にあるヒータ膜6や電極膜4の上面と、低い位置にある凹部22とのため、金属酸化物半導体膜12はこれらの凹凸に食い込み、断熱ガラス膜20への金属酸化物半導体膜12の付着力が増す。
【0015】
図4にガスセンサの製造工程を示す。予め断熱ガラス膜20を設けた基板2に、Ptの有機化合物膜をスクリーン印刷で成膜する。Pt成分にはプラチナレジネートなどのPtの有機化合物を用い、他にcis−ビスベンゾニトリルジクロロPt等でも良く、Ptの有機化合物の種類自体は任意である。成膜はスピンコートでもよい。例えばプラチナレジネート10wt%に樹脂系のバインダー5wt%とテルピネオール85wt%を混合してベヒクルにし、スクリーン印刷で1層ないしは複数層積層して、空気中900℃で焼成して、2.5μm厚のPt膜とした。このPt膜は室温でシート抵抗が0.6Ω/□であった。なおPt膜を積層する場合、スクリーン印刷後に乾燥してテルピネオールを除去した後に、次の層を重ねるようにした。引き出し部8〜10は電極膜4やヒータ膜6の部分のPt膜と同時に成膜し、Pt膜の焼成後に金のパッド14を形成した。
【0016】
Pt膜上にスピンコートなどにより紫外線硬化樹脂を塗布し、露光後に不要部を除去してレジストパターンを成膜した。レジストパターン上から、イオンミリングにより、電極膜4やヒータ膜6、引き出し部8〜10,パッド14を残して、不要部のPt膜を除去し、電極膜4やヒータ膜6をパターニングした。この時ミリング深さを過剰にし、ヒータ膜6と電極膜4の間の領域などに凹部22を形成した。イオンミリングには例えば直径500mmのアルゴンイオンビームを用い、投入電力500V×20mÅで120分間ミリングし、不要部のPt膜を除去すると共に、その部分をさらに2.5μmオーバーエッチングし、凹部22を形成した。凹部22の深さは0.5〜10μm程度が好ましい。
【0017】
電極膜4やヒータ膜6の断熱ガラス膜20への密着性は、Ptの有機化合物を印刷し焼成するプロセスによって得られる。同じ印刷膜でも、金属Ptの微粉を分散させたベヒクルを用いると、密着性は向上しなかった。イオンミリングを用いるのは、電極膜4やヒータ膜6をパターニングすると同時に凹部22を形成し、金属酸化物半導体膜12の付着強度を改善するためである。なお金属酸化物半導体膜12の付着強度を問題にしない場合、イオンミリングに代えてウェットエッチングやリフトオフなどによりPt膜を成膜してもよい。
【0018】
パターニング後に、SnO2からなる金属酸化物半導体膜12をスクリーン印刷し、700℃で焼成した。材料のSnO2粉体には貴金属を添加し、樹脂バインダーとテルピネオールなどの高沸点有機溶剤を混合してベヒクル化し、スクリーン印刷後に700℃で焼成した。焼成後の金属酸化物半導体膜12の膜厚は約20μmであった。金属酸化物半導体膜12の成膜後に、ウエハーをスクライブして個々の基板2を取り出し、ベースに接着剤で取り付け、リード線16をボンディングして実装した。
【0019】
このセンサを、硫化物系の悪臭検出用のセンサとした際の特性の例を図5に示す。ヒータ膜6に、例えば1.5Vのヒータ電圧を8m秒間250m秒周期で加えて駆動した。図5は、空気中での抵抗値、エタノール10ppm中での抵抗値、CO 30ppm中での抵抗値、及びメチルメルカブタン1ppm中での抵抗値を示す。1ppm程度のメチルメルカブタンを容易に検出できることが分かる。
【0020】
Ptの有機化合物を印刷し、焼成によってヒータ膜6や電極膜4としたのは、これらの基板への密着性を改善するためである。図6(A)は、プラチナレジネートを用いたヒータ膜6のヒートサイクルに対する耐久性を示し、(B)は同じテストでのPtのスパッタリング膜の耐久性を示す。なおPtのスパッタ膜は、DCスパッタで、投入電力400Wにより基板を加熱せずにスパッタリングしたものである。スパッタリング時の基板の最高温度は約100℃で、スパッタリング後に、有機金属化合物のPt膜との比較のため、空気中900℃で焼成し、熱王水によりパターニングした。Ptの有機物膜を用いた実施例の場合、ヒータ膜6に250m秒周期で1.9Vのヒータ電圧を8m秒加え、これを2000万サイクル以上繰り返した。Ptのスパッタ膜の場合、ヒータ抵抗の初期値が約5%低かったので、250m秒周期で1.7Vのヒータ電圧を8m秒加えるサイクルを繰り返し、約100万サイクルで全試料がヒータ断線したので、テストを打ち切った。
【0021】
図6(A)の場合も(B)の場合も、ヒータ膜6の最高温度は約430℃で、試料数はいずれも8個で、スパッタ膜では100万回程度のサイクルによりいずれもヒータ抵抗が無限大になり、ヒータ膜6が基板2から剥離した。これに対してPtの有機物膜を焼成したものでは、2000万サイクル以上ヒートサイクルを繰り返しても、ヒータ膜の抵抗値に顕著な変化は見られなかった。以上のように、Ptの有機化合物を用いてヒータ膜を成膜することにより、パルス駆動のようにヒートサイクルを経験するガスセンサでの、ヒータ膜の耐久性を向上できる。
【0022】
図7(A)は、電極膜4やヒータ膜6のパターニングをイオンミリングにより行い、断熱ガラス膜20を2.5μmオーバーエッチングした際の、金属酸化物半導体膜12の付着強度を示す。図7(B)は、電極膜4やヒータ膜6のパターニングを熱王水により行った際の、金属酸化物半導体膜12の付着強度を示す。電極膜4やヒータ膜6は、いずれもPtの有機化合物をスクリーン印刷し、900℃で焼成したものである。ウエハー当たり数百個のガスセンサを設け、金属酸化物半導体膜12(SnO2膜)を成膜後700℃で焼成し、ウエハー全面にメンディングテープを貼り付け、100Nの錘を載せた。錘を取り外した後、メンディングテープを引き剥がし、損傷した金属酸化物半導体膜の数をカウントした。同じウエハーに対してテープ剥離試験を5回繰り返し、5回の試験で損傷した金属酸化物半導体膜12の累計値を図7(A),(B)に示す。イオンミリングによるオーバーエッチングを行うと、金属酸化物半導体膜12の基板2への付着強度が著しく改善されている。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例のガスセンサの要部平面図
【図2】 実施例のガスセンサでの電極膜とヒータ膜のパターンを示す図
【図3】 実施例のガスセンサでの、ガラス膜と電極膜やヒータ膜、及び金属酸化物半導体膜を示す要部断面図
【図4】 実施例のガスセンサの製造工程を示す図
【図5】 実施例のガスセンサのガスへの応答特性を示す図
【図6】 ヒートパルスによるガスセンサのヒータ膜の抵抗値の変化を示す図で、(A)は有機Pt膜をスクリーン印刷し、焼成後にイオンミリングでエッチングした場合の特性を、(B)はスパッタリングでPt膜を成膜した場合の特性を示す。
【図7】 テープ剥離試験により金属酸化物半導体膜が剥離したガスセンサの個数を示す図で、(A)は有機Pt膜をスクリーン印刷し、焼成後にイオンミリングでエッチングした際の特性を、(B)は有機Pt膜をスクリーン印刷し、ウェットエッチングした際の特性を示す。
【符号の説明】
2 基板
4 電極膜
6 ヒータ膜
8〜10 引き出し部
12 金属酸化物半導体膜
14 パッド
16 リード線
18 アルミナ基板
20 断熱ガラス膜
22 凹部

Claims (2)

  1. 基板上にヒータ膜と感ガス膜とを設けたガスセンサにおいて、該ヒータ膜が白金を主成分とする有機金属化合物膜を焼成したもので、複数の屈曲部が表れるようにパターニングされており、かつ前記複数の屈曲部の周囲で、前記ヒータ膜の底面を除いて前記基板に凹部が形成され、該凹部と前記複数の屈曲部とを覆うように、金属酸化物半導体の厚膜からなる感ガス膜が形成されていることを特徴とするガスセンサ。
  2. 基板上にヒータ膜と感ガス膜とを設けたガスセンサの製造方法において、
    白金を金属成分中の主成分とする有機金属化合物の膜を基板上に形成・焼成して、白金を主成分とするヒータ膜を基板上に成膜する工程と、
    焼成後のヒータ膜上にレジスト膜のマスクを形成し、イオンミリングにより前記マスクで覆われていない部分のヒータ膜を前記基板を掘り下げるようにミリングすることにより、ヒータ膜が複数の屈曲部を有するようにパターニングすると共に、該複数の屈曲部の周囲で、パターニングされたヒータ膜の底面を除き、基板に凹部を形成する工程と、
    該凹部とヒータ膜とを覆うように、金属酸化物半導体の厚膜を形成して焼成して感ガス膜とする工程とを設けたことを特徴とするガスセンサの製造方法。
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