JP3758352B2 - 車両挙動制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばヨーレートや車両横滑り角等の車両挙動情報と、車両モデルに基づいて算出されるそれらの車両挙動の目標値とから、各車輪の制動力を制御することによりアンチスピンモーメントなどの車両挙動修正モーメントを発生させるようにした車両挙動制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の車両挙動制御装置として種々のものが提案されている。そのうち、例えば特開平3−276852号公報に記載されるものは、車両挙動の評価指標としてヨーレートを用い、例えば舵角や車体速度等からヨーレートの目標値を算出し、一方で車両に発生するヨーレートを検出し、両者の偏差に応じて、例えばヨーレートの実際値を目標値に一致させるような力を得るために、例えば左右輪間で必要な制動力の差,即ち制動用シリンダへの制動流体圧差を求め、その制動流体圧差が得られるように各車輪の制動用シリンダへの制動流体圧を制御する。また、このような力を、車両平面挙動のうちの自転運動を抑制(或るときには促進)するものとして、アンチスピンモーメントなどの車両挙動修正モーメントと呼んでいる。そして、このような車両挙動制御装置によれば、例えば車両がオーバステアやアンダステア等のような旋回状態になった場合に、例えば前記ヨーレートの実際値が目標値に近づくように、各車輪の制動流体圧を制御することによって車両挙動修正モーメントを発生させ、結果的にオーバステアやアンダステア等のような好ましからざる旋回挙動を抑制防止することができるのである。なお、このような車両挙動制御装置には、ヨーレートの目標値を車両モデルから算出するものもある。また、車両挙動の評価には、ヨーレートに加えて又は単独で車両横滑り角を用いるものもある。また、特開平4−193658号公報に記載されるように、前述のような車両挙動修正モーメントを得るために、例えば左右輪間のスリップ率の差の目標値を算出し、この目標スリップ率差を満足する各車輪の目標スリップ率に各車輪のスリップ率が一致するように各車輪の制動用シリンダへの制動流体圧を制御するものもある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記特開平3−276852号公報に記載される車両挙動制御装置は、路面摩擦係数状態(以下、単にμとも記す)が低い低μ路面のように、車両挙動制御の伴う制動によって車輪がスリップする領域に入った場合のことが考慮されておらず、そのように車輪がスリップする領域に入った場合には、制動力と制動流体圧との関係が非線型領域に入り、車両挙動制御が困難となってしまう。
【0004】
一般的には、このような車両挙動制御装置に加えて所謂アンチロックブレーキ制御装置を併設し、例えば低μ路面で車輪がスリップする領域に入った場合には、アンチロックブレーキ制御,つまり制動流体圧の減圧制御を優先することで車輪のロック傾向を回避できるようにすると共に、それによる車輪速度の回復を待って再び車両挙動制御を行うことも可能である。しかしながら、例えば低μ路面での車両挙動制御によって車輪が急速にスリップする領域に入ると、続くアンチロックブレーキ制御によって最初の減圧制御が行われるため、車両挙動修正に重要な車両挙動制御初期の制動力が十分に得られないという問題がある。
【0005】
また、本出願人が先に提案した特開平4−257755号公報に記載される車両挙動制御装置では、車両挙動制御による制動流体圧制御とアンチロックブレーキ制御による制動流体圧制御とが同時に発生する場合でも、前者による制動流体圧差と後者による制動流体圧差とを比較し、結果的に車両挙動制御に必要な制動流体圧差が得られるように最終的な制動流体圧を設定するようにしている。これによれば、アンチロックブレーキ制御中にも車両挙動を制御することが可能となる。しかしながら、この従来例でも、アンチロックブレーキ制御が開始された時点で、制動流体圧を減圧する,つまり制動力を減少することには変わりがなく、従って低μ路面での車両挙動制御によって急速に車輪がスリップする領域に入るような場合には、車両挙動修正に重要な車両挙動制御初期の制動力が十分に得られないという問題が残存する。また、例えば運転者による制動入力があるときに、全ての車輪がスリップしない領域で、更に制動流体圧差を発生させようとすると、何れかの車輪の制動力が積極的に減少されることになるから、結果として車両減速度が小さくなる恐れがある。
【0006】
また、前記特開平4−193658号公報に記載される車両挙動制御装置では、各車輪間のスリップ率差で車両挙動を制御するため、路面μが低い低μ路面のように、制動によって車輪がすぐにスリップする領域に入ってしまう状況では、各車輪をスリップ領域に入れないで車両挙動を制御できるという利点がある。しかしながら、路面μが高い高μ路面では、車輪がスリップしない領域,所謂線形領域が広いために、この領域でスリップ率の制御を行おうとすると、僅かなスリップ率の違いで大きな制動力或いは制動流体圧の制御幅が必要となる。このため、例えば車両挙動に対する制動流体圧制御のゲインが大きい場合には、ときとして大きな制動力差が発生して車両挙動が大きく修正されたり、逆に車両挙動に対する制動流体圧制御のゲインが小さい場合には、ときとして十分な制動力差が発生せずに車両挙動が少ししか修正されないという問題が発生する。
【0007】
本発明はこれらの諸問題に鑑みて開発されたものであり、車両挙動修正モーメントを発生させるための各車輪間の目標制動流体圧差と目標スリップ率差とを同時に設定し、その夫々を達成するための第1及び第2の目標制動流体圧を算出し、その何れか小さい方を最終的な目標制動流体圧に設定することで、低μ路面では目標スリップ率差に応じた第2の目標制動流体圧が,また高μ路面では目標制動流体圧差に応じた第1の目標制動流体圧が選択され、結果的に各路面μで車輪のスリップと車両挙動とを最適の状態に制御できる車両挙動制御装置を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記の目的のために、本発明のうち請求項1に係る車両挙動制御装置は、車両挙動の状態としてヨーレートを検出する車両挙動検出手段と、舵角及び車体速度に基づいて目標ヨーレートを設定する目標車両挙動設定手段と、少なくとも前記車両挙動検出手段で検出されたヨーレートと目標車両挙動設定手段で設定された目標ヨーレートとの偏差に応じて車両挙動を修正するヨーモーメントの発生に必要な各車輪間の目標制動流体圧差を算出する目標制動流体圧差算出手段と、この目標制動流体圧差算出手段で算出された目標制動流体圧差に基づいて各車輪の制動用シリンダへの第1の目標制動流体圧を算出する第1目標制動流体圧算出手段と、少なくとも前記車両挙動検出手段で検出されたヨーレートと目標車両挙動設定手段で設定された目標ヨーレートとの偏差に応じて車両挙動を修正するヨーモーメントの発生に必要な各車輪間の目標車輪スリップ率差を算出する目標スリップ率差算出手段と、各車輪の車輪速度又はスリップ率を検出する車輪回転状態検出手段と、記目標スリップ率差算出手段で算出された目標車輪スリップ率差に応じた目標車輪速度又は目標車輪スリップ率に、前記車輪回転状態検出手段で検出された各車輪の車輪速度又はスリップ率を追従させるための各車輪の制動用シリンダへの第2の目標制動流体圧を算出する第2目標制動流体圧算出手段と、前記第1目標制動流体圧算出手段で算出された第1の目標制動流体圧及び前記第2目標制動流体圧算出手段で算出された第2の目標制動流体圧のうち何れか小さい方を目標制動流体圧に設定することで路面摩擦係数状態に応じて有効な目標制動流体圧を自動的に選択する目標制動流体圧設定手段と、この目標制動流体圧設定手段で設定された目標制動流体圧に実際の制動流体圧を追従させるように制御する制動流体圧制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のうち請求項2に係る車両挙動制御装置は、前記請求項1の発明において、前記第1目標制動流体圧算出手段は、運転者による制動入力があったときには、当該運転者による制動入力の制動流体圧に基づいて前記第1の目標制動流体圧を算出することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のうち請求項3に係る車両挙動制御装置は、前記請求項1又は2の発明において、前記第2目標制動流体圧算出手段は、運転者による制動入力があったときには、当該運転者による制動入力の制動流体圧に基づいて前記第2の目標制動流体圧を算出することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のうち請求項4に係る車両挙動制御装置は、前記請求項1乃至3の発明において、前記目標制動流体圧差及びスリップ率差算出手段は、車輪のタイヤ特性に応じて目標とする制動力とスリップ率とを設定し、それらに基づいて目標制動流体圧差及びスリップ率差を算出することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のうち請求項5に係る車両挙動制御装置は、前記請求項4の発明において、路面の摩擦係数状態を検出する路面摩擦係数状態検出手段を備え、前記目標制動流体圧差及びスリップ率差算出手段は、前記車輪のタイヤ特性として、前記摩擦係数状態検出手段で検出された路面の摩擦係数状態から目標制動力に応じた目標スリップ率を設定することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のうち請求項6に係る車両挙動制御装置は、前記請求項5の発明において、前記路面摩擦係数状態検出手段として、車両に発生する加速度を検出する加速度検出手段を備えたことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のうち請求項7に係る車両挙動制御装置は、前記請求項1乃至6の発明において、前記目標車両挙動設定手段は、少なくとも舵角及び車体速度及び車両横滑り角から車両挙動の目標状態を設定することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のうち請求項8に係る車両挙動制御装置は、前記請求項1乃至7の発明において、前記車両挙動検出手段は、少なくとも車両のヨーレート及び車両横滑り角を検出することを特徴とするものである。
【0016】
【発明の効果】
而して、本発明のうち請求項1に係る車両挙動制御装置によれば、少なくとも検出された車両挙動の状態とその目標状態との偏差に応じて車両挙動を修正するモーメントの発生に必要な各車輪間の目標制動流体圧差及び目標車輪スリップ率差を算出し、このうち目標制動流体圧差に基づいて各車輪の制動用シリンダへの第1の目標制動流体圧を算出すると共に、前記目標車輪スリップ率差に応じた目標車輪速度又は目標車輪スリップ率に各車輪の車輪速度又はスリップ率を追従させるために各車輪の制動用シリンダへの第2の目標制動流体圧を算出し、算出された第1の目標制動流体圧及び第2の目標制動流体圧のうち何れか小さい方を最終的な目標制動流体圧に設定して、この目標制動流体圧に実際の制動流体圧を追従させるように制御する構成としたため、車両挙動の状態と目標状態とのフィードバックによって算出される第1及び第2の目標制動流体圧は、路面の摩擦係数状態が低ければ車輪スリップ率が追従し易い分だけ第2の目標制動流体圧が小さく設定され、高ければ車両挙動そのものを追従し易い分だけ第1の目標制動流体圧が小さく設定されるから、最終的に設定され追従制御される目標制動流体圧には、低摩擦係数状態路面で有効なスリップ率差制御用の第2の目標制動流体圧と高摩擦係数状態路面で有効な制動流体圧差制御用の第1の目標制動流体圧とが自動的に選択されることになり、各路面で車輪のスリップと車両挙動とを最適の状態に制御することが可能となる。
【0017】
また、本発明のうち請求項2に係る車両挙動制御装置によれば、運転者による制動入力があったときには、当該運転者による制動入力の制動流体圧に基づいて第1の目標制動流体圧を算出する構成としたため、同等の目標制動流体圧差を得るにしても運転者による制動入力の制動流体圧を基準とすることで、車両全体としての制動力を確保して車両減速度を確保したり、或いは特に高摩擦係数状態路面で車両挙動修正モーメントを確実に得たりすることができる。
【0018】
また、本発明のうち請求項3に係る車両挙動制御装置によれば、運転者による制動入力があったときには、当該運転者による制動入力の制動流体圧に基づいて第2の目標制動流体圧を算出する構成としたため、同等の目標スリップ率差を得るにしても運転者による制動入力の制動流体圧を基準とすることで、車両全体としての制動力を確保して車両減速度を確保したり、或いは特に低摩擦係数状態路面で各車輪のスリップを確実に制御したりすることができる。
【0019】
また、本発明のうち請求項4に係る車両挙動制御装置によれば、車輪のタイヤ特性に応じて目標とする制動力とスリップ率とを設定し、それらに基づいて目標制動流体圧差及びスリップ率差を算出する構成としたため、例えば路面の摩擦係数状態で変化するタイヤ特性に応じて最適な目標制動力と目標スリップ率とを設定することにより、当該路面で有効に車両挙動を修正するモーメントを得るための目標制動流体圧差やスリップ率差を算出することが可能となり、結果的に各路面で車輪のスリップと車両挙動とを最適の状態に制御することができる。
【0020】
また、本発明のうち請求項5に係る車両挙動制御装置によれば、車輪のタイヤ特性として、検出された路面の摩擦係数状態から目標制動力に応じた目標スリップ率を設定する構成としたため、当該路面で有効に車両挙動を修正するモーメントを得るための目標制動力と目標スリップ率を設定することが可能となるから、それらに基づく目標制動流体圧差やスリップ率差に応じて各路面で車輪のスリップと車両挙動とを最適の状態に制御できる。
【0021】
また、本発明のうち請求項6に係る車両挙動制御装置によれば、車両に発生する加速度から路面摩擦係数状態を検出する構成としたため、当該路面で有効に車両挙動を修正するモーメントを得るための目標制動力と目標スリップ率を最適に設定することができる。
【0022】
また、本発明のうち請求項7に係る車両挙動制御装置によれば、少なくとも舵角及び車体速度及び車両横滑り角から車両挙動の目標状態を設定する構成としたため、特に旋回状態における車両挙動の目標状態を理想的なものとすることができる。
【0023】
また、本発明のうち請求項8に係る車両挙動制御装置によれば、少なくとも車両のヨーレート及び車両横滑り角を車両挙動の状態として検出する構成としたため、特に旋回状態における車両挙動の状態を正確に把握することができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の車両挙動制御装置の第1実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0025】
図1は本実施形態の車両挙動制御装置を,FR(フロントエンジン・リアドライブ)方式をベースにしたアンチロックブレーキ制御装置搭載の後輪駆動車両に展開した一例である。
【0026】
図中、1FL,1FRは前左右輪、1RL,1RRは後左右輪であって、後左右輪1RL,1RRにエンジンEGからの回転駆動力が変速機T、プロペラシャフトPS及びディファレンシャルギヤDGを介して伝達される。また、各車輪1FL〜1RRには、それぞれ制動用シリンダとしてのホイールシリンダ2FL〜2RRが取付けられており、マスタシリンダ5の二系統の制動流体圧がアクチュエータユニット19を介して供給される。なお、各ホイールシリンダ2FL〜2RRは、ディスクロータにパッドを押付けて制動する,所謂ディスクブレーキである。
【0027】
図2には、各ホイールシリンダ2FL〜2RRの制動流体系統,特に前記アクチュエータユニット19内の構成について示す。図中、マスタシリンダ5は、ブレーキペダル4の踏込みに応じて2系統のマスタシリンダ圧を発生する。そして、各ホイールシリンダ2FL〜2RRとの接続構造は、マスタシリンダ5の一方の系統に前左ホイールシリンダ2FLと後左ホイールシリンダ2RLを接続し、他方の系統に前右ホイールシリンダ2FRと後右ホイールシリンダ2RRとを接続する。
【0028】
そして、まず従来のアンチロックブレーキシステムと同様に、マスタシリンダ5の夫々の系統に接続されているホイールシリンダ2FL,2RL又は2FR,2RRの夫々の上流側に該当する増圧制御弁8FL,8RL又は8FR,8RRを介装する。なお、これらの増圧制御弁8FL〜8RRの上流側での制動流体圧を、便宜上、ライン圧とも記す。また、これらの増圧制御弁8FL,8RL又は8FR,8RRには、夫々のバイパス流路に逆止弁9FL,9RL又は9FR,9RRを設けて、ブレーキペダルの踏込みを解除したときにホイールシリンダ2FL,2RL又は2FR,2RR内の制動流体が早急にマスタシリンダ5側に還元されるようにする。
【0029】
また、前記マスタシリンダ5の夫々の系統には個別の主ポンプ11LH,11RHの吐出側を夫々接続し、それらの吸入側とホイールシリンダ2FL,2RL又は2FR,2RRとの間に減圧制御弁10FL,10RL又は10FR,10RRを介装する。なお、前記二つの主ポンプ11LH,11RHは一つのポンプモータを兼用する。また、各減圧制御弁10FL,10RL又は10FR,10RRと主ポンプ11LH,11RHとの間にはリザーバ18LH,18RHを接続する。また、各リザーバ18LH,18RHと主ポンプ11LH,11RHとの間には、主ポンプ11LH,11RH側からの流出を遮断する逆止弁26LH,26RHを介装する。
【0030】
一方、所謂トラクションコントロールシステムのように、運転者による制動入力がないときにも、前記マスタシリンダ5の代わりにライン圧を供給できるように、前記主ポンプ11LH,11RHの吸入側には、ゲートイン弁7LH,7RHを介してマスタシリンダリザーバ5aを接続する。なお、主ポンプ11LH,11RHと各ゲートイン弁7LH,7RHとの間には、主ポンプ11LH,11RH側からの流出を遮断する逆止弁25LH,25RHを介装する。また、マスタシリンダリザーバ5aから吸入した制動流体で各主ポンプ11LH,11RHによって創成されたライン圧がマスタシリンダ5a側に還流するのを防止するために、主ポンプ11LH,11RHとマスタシリンダ5との間には逆止弁22LH,22RHを介装し、更にそのバイパス回路にゲートアウト弁6LH,6RHを介装する。
【0031】
また、各ゲートイン弁7LH,7RHとマスタシリンダリザーバ5aとの間には、当該マスタシリンダリザーバ5aの制動流体を吸入して加圧する二系統の補助ポンプ3LH,3RHと、ライン圧のマスタシリンダ5側への還流を規制して前記主ポンプ11LH,11RHの初期昇圧応答性を向上するためのプリチャージピストン20LH,20RHとを介装し、当該プリチャージピストン20LH,20RHのピストンストローク入力として前記補助ポンプ3LH,3RHの吐出圧を用いる。そして、このプリチャージピストン20LH,20RHの一方の吐出側と主ポンプ11LH,11RHの吐出側との間に、当該主ポンプ11LH,11RHの吐出側圧,つまり前記ライン圧を調圧するリリーフ弁21LH,21RHを介装し、当該プリチャージピストン20LH,20RHの他方の吐出側は前記マスタシリンダ5の各系統に接続する。なお、前記補助ポンプ3LH,3RHは、前記主ポンプ11LH,11RHのポンプモータを共用する。また、これら補助ポンプ3LH,3RHの吐出圧は再び合流されており、従って前記プリチャージピストン20LH,20RHのピストン入力である補助ポンプ3LH,3RHの吐出圧は、当該補助ポンプ3LH,3RHの吐出側と吸入側との間に介装されているピストンストローク調整弁24とリリーフ弁23によって調圧される。
【0032】
これらの各圧力制御弁は、後述するコントロールユニットからの駆動信号によって切換えられる二位置電磁切換弁であり、それらはフェールセーフのために、例えばゲートアウト弁6LH,6RHは常時開、ゲートイン弁7LH,7RHは常時閉、増圧制御弁8FL,8RL又は8FR,8RRは常時開、減圧制御弁10FL,10RL又は10FR,10RRは常時閉となっており、前記駆動信号によって各電磁切換弁のソレノイドが励磁されると、逆の開閉状態に切換わる。また、前記補助ポンプ3LH,3RHや主ポンプ11LH,11RH或いはピストンスロトーク調整弁24もコントロールユニットからの駆動信号によって駆動制御される。
【0033】
従って、この制動流体圧回路では、後述する車両挙動制御を行うために制動力を制御するにあたり、各ホイールシリンダ2FL〜2RRの制動流体圧(以下、ホイールシリンダ圧とも記す)を増圧する場合には、例えば前記ゲートアウト弁6LH,6RHが閉、ゲートイン弁7LH,7RHが開の状態で主ポンプ11LH,11RHを駆動し、その吐出圧,つまりライン圧を、前記各減圧制御弁10FL〜10RRが閉の状態で増圧制御弁8FL〜8RRを開制御して、各ホイールシリンダ2FL〜2RRに供給する。
【0034】
また、前記各ホイールシリンダ2FL〜2RRのホイールシリンダ圧増圧後に、各ホイールシリンダ圧を減圧する場合には、例えば前記ゲートアウト弁6LH,6RHが閉、ゲートイン弁7LH,7RHが閉の状態で、主ポンプ11LH,11RHを駆動し、各増圧制御弁8FL〜8RRが閉の状態で減圧制御弁10FL〜10RRを開制御して、各ホイールシリンダ2FL〜2RR内の制動流体を排出する。
【0035】
なお、各増圧制御弁8FL〜8RRや減圧制御弁10FL〜10RRの開制御については後段に説明する。また、ゲートイン弁7LH,7RHやゲートアウト弁6LH,6RHの開閉制御は、例えばそのときのライン圧を用いて行われる図示されない個別に演算処理に従うものとする。また、前記ブレーキペダル4への反力を軽減するために、ブレーキペダル4の踏込み時には前記ゲートアウト弁6LH,6RHを開状態としてもよい。また、制動力を増加することと制動流体圧(ホイールシリンダ圧)を増圧すること,並びに制動力を減少することと制動流体圧(ホイールシリンダ圧)を減圧することとは同じ意味であるから、これ以後は、両者を同義に取扱う。
【0036】
一方、前記各車輪1FL〜1RRには、通常のアンチロックブレーキシステムと同様、図1に示すように、当該車輪の回転速度に相当する車輪速度(以下、車輪速とも記す)を検出するために、当該車輪速に応じた正弦波信号を出力する車輪速センサ12FL〜12RRが取付けられている。
【0037】
また、車両には、車両に発生する実ヨーレートψ' を検出するヨーレートセンサ13や、ステアリングホイールの操舵角から操舵輪の舵角θを検出する舵角センサ14や、車両に発生する横加速度及び前後加速度を検出する加速度センサ15や、前記ライン圧PMCを検出するライン圧センサ16や、必要に応じてブレーキペダル4の踏込みを検出してブレーキスイッチ信号SBRK を出力するブレーキスイッチなどが取付けられ、各センサやスイッチの検出信号は何れも後述するコントロールユニット17に入力される。なお、前記ヨーレートセンサ13からの実ヨーレートψ' や舵角センサ14からの舵角θには、例えば正負等の方向性があるが、両者の間には、例えばステアリングホイールを左切りしたときの舵角と、そのときに発生する左周りのヨーレートとの方向性が整合するように設定してあり、本実施形態では左旋回で舵角θ>0,ヨーレートψ' >0となるように設定してある。
【0038】
コントロールユニット17は、前述の各センサやスイッチ類からの検出信号を入力して、車両挙動制御並びにアンチロックブレーキ制御のために前記各切換弁への制御信号を出力するマイクロコンピュータと、このマイクロコンピュータから出力される制御信号を前述したような電磁切換弁などからなる各制御弁ソレノイドへの駆動信号に変換する駆動回路とを備えている。そして、前記マイクロコンピュータは、A/D変換機能等を有する入力インタフェース回路や、D/A変換機能等を有する出力インタフェース回路や、マイクロプロセサユニットMPU等からなる演算処理装置や、ROM,RAM等からなる記憶装置を備えている。なお、前記マイクロコンピュータは、その動作周波数が大変に高いことから、当該マイクロコンピュータからパルス幅変調されたディジタルデータの基準矩形波制御信号を出力するようにし、各駆動回路は単にそれを各アクチュエータ作動に適した駆動信号に変換,増幅するだけのものとして構成されている。また、前記マイクロコンピュータでは、前述のような各種の制御に必要な主要な制御信号の創成出力のみならず、例えばアンチロックブレーキ制御や車両挙動制御での減圧制御に必要な各ポンプの駆動制御信号や、アクチュエータそのものへの電源供給を司るアクチュエータリレーのスイッチ素子への制御信号なども平行して創成出力していることは言うまでもない。
【0039】
次に、車両挙動として主としてヨーレートを制御するために、前記コントロールユニット17内のマイクロコンピュータで実行される制動流体圧制御の演算処理について、添付図面中の各フローチャートに基づいて説明する。なお、この演算処理では特に通信のためのステップを設けていないが、前記マイクロコンピュータ内の記憶装置のROMに記憶されているプログラムやマップ或いはRAMに記憶されている各種のデータ等は常時演算処理装置のバッファ等に伝送され、また演算処理装置で算出された各算出結果も随時記憶装置に記憶される。また、これとは個別に、例えば本出願人が先に提案した特開平9−104336号公報に記載されるアンチロックブレーキ制御がタイマ割込処理によって平行して行われており、これによれば例えば各車輪速Vwi が後述する目標車輪速Vwi * を下回ると減圧し、車輪加減速度V'wi が増速側に転ずると低圧保持し、その状態で車輪速Vwi が目標車輪速Vwi * を上回ると緩増圧(規制された増圧を短時間毎に繰返す)し、車輪加減速度V'wi が大幅な減速側に転ずると増圧後の高圧保持するといったルーチンが繰返される。
【0040】
まず、図3には、制動力制御の全体的な流れ,所謂ゼネラルフローを示す。この演算処理は、例えば10msec. といった所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込として実行され、まずステップS1で、前記車輪速センサ12FL〜12RRからの正弦波信号に基づいて、図示されない演算処理によって各車輪速Vwi (i=FL,FR,RLorRR)を算出する。より具体的には、前記各車輪速センサ12FL〜12RRが、例えば本出願人が先に提案した特開平7−329759号公報に記載されるようなものである場合に、予め前記各車輪速センサ12FL〜12RRからの正弦波信号を矩形波信号に波形整形しておき、この矩形波信号のLo/Hiを短いサンプリング周期で読込んで当該矩形波信号のパルス幅を求め、そのパルス幅から車輪速Vwi を算出する。即ち、車輪速Vwi が大きくなれば前記波形整形された矩形波信号のパルス幅は短くなり、車輪速Vwi が小さくなればパルス幅は長くなる。この矩形波信号のパルス幅は、前述のようなセンサの所定の長さの歯が通過する所要時間と等価であるから、各車輪の回転角速度に反比例することになり、従ってこの矩形波信号のパルス幅が得られれば、各車輪の回転角速度が求められ、この回転角速度にタイヤ転がり動半径を乗じて各車輪速Vwi が算出される。勿論、所定時間内に幾つのパルスがカウントされるかによって車輪回転角速度を求める従来の手法でも同様に車輪速Vwi を算出可能である。
【0041】
次にステップS2に移行して、図示されない演算処理によって、前記各センサからの検出信号を読込む。
次にステップS3に移行して、下記1式に従って路面μを算出する。なお、厳密を期すならば、例えば路面μが比較的高い領域の路面や車両走行状況によっては,つまりタイヤの限界を越えていない状況では車輪がなかなかスリップせず、前後加速度XG や横加速度YG に変化が表れないから、アンチロックブレーキ制御やトラクションコントロール制御或いはこの演算処理による車両挙動制御が実行されるまでは路面μを“1”としておき、それらの制御が開始されたときに算出される路面μを用いるようにしてもよい。
【0042】
μ=(XG 2 +YG 2 1/2 ……… (1)
次にステップS4に移行して、例えば本出願人が先に提案した特開平8−150920号公報に記載される図示されない演算処理により推定車体速度VX を算出する。なお、この公報に記載される演算処理は、前後加速度を用いないで、車輪速Vwi のみから推定車体速度VX を算出するものであるが、本実施形態では前記加速度センサ15で前後加速度を検出しているので、その値を用いて補正を行ってもよい。
【0043】
次にステップS5に移行して、図示されない演算処理によって、例えば前記加速度センサ15からの横加速度YG 及び前記推定車体速度VX 及びヨーレートセンサ13からの実ヨーレートψ' から、下記2式に従って車両の横滑り加速度βddを算出する。
【0044】
βdd=YG −VX ・ψ' ……… (2)
次にステップS6に移行して、図示されない演算処理によって、例えば下記3式に従って車両の横滑り速度βd を算出する。また、例えば位相が適切に設定されたローパスフィルタ処理等によって、前記車両の横滑り加速度βddを時間積分して横滑り速度βd を算出してもよい。
【0045】
βd(n)=βd(n-1)+βdd・ΔT ……… (3)
次にステップS7に移行して、図示されない演算処理によって、前記車両の横滑り速度βd と推定車体速度VX との比βd /VX から車両の横滑り角βを算出する。
【0046】
次にステップS8に移行して、図示されない演算処理によって、目標ヨーレートψ'*を算出する。具体的には、例えば図4に示すような制御マップに従って舵角θと推定車体速度VX とに応じた基本ヨーレートψ'* 0 を算出し、この基本ヨーレートψ'* 0 に所定の時定数の一時遅れ処理を施した後、更に下記4式に従って目標ヨーレートψ'*を算出する。なお、目標ヨーレートψ'*とは、各車輪において予め設定されたコーナリングフォースが得られ、その結果車両がニュートラルステア状態で旋回しているときに達成されるヨーレートである。また、本実施形態では車両横滑り角βで目標ヨーレートを補正することにより、例えば車両のスピン状態の度合いに応じて、それを修正するモーメントを有効に発生させることができる。
【0047】
ψ'*=ψ'* 0 −KB ・β ……… (4)
但し、式中、
B :車両横滑り角制御ゲイン
である。
【0048】
次にステップS9に移行して、図示されない演算処理によって、現在の推定ホイールシリンダ圧Pi を算出する。具体的に、このステップS9では、既に車両挙動制御のためにホイールシリンダ圧の制御が開始されている場合には、その制御量,即ちホイールシリンダ増減圧量は後述のようにマイクロコンピュータ内で把握されていると共に、図4に示すようにホイールシリンダ圧に対する増減圧量(=開弁時間)の増減圧特性が予め分かっているので、例えば車両挙動制御が開始されたときのマスタシリンダ圧(=ライン圧)を初期値として、それに前回制御時間のホイールシリンダ増減圧量を累積して追跡すればよい。
【0049】
次にステップS10に移行して、図示されない演算処理により、前記目標ヨーレートψ'*と実ヨーレートψ' との偏差,即ち目標ヨーレート偏差Δψ'*を算出する。なお、ここでは目標ヨーレート偏差Δψ'*を下記5式で定義する。
【0050】
Δψ'*=ψ' −ψ'* ……… (5)
次にステップS11に移行して、図示されない演算処理によって、目標左右ホイールシリンダ圧差ΔP1 * を算出する。具体的には、例えば図6に示すように、実ヨーレートψ' が目標ヨーレートψ'*より大きく且つ前記横滑り角βが小さいオーバステア状態(図ではO.S)や、実ヨーレートψ' が目標ヨーレートψ'*より小さく且つ横滑り角βが大きいアンダステア状態(図ではU.S)等の車両挙動を修正するために必要な車両自転運動抑制若しくは促進モーメントとして目標モーメントM* を求め、更にこの目標モーメントM* の発生に必要な例えば前左右輪間或いは後左右輪間の制動力の差を目標左右ホイールシリンダ圧差ΔP1 * とする。本実施形態では、下記6式に従って簡易的に求める。
【0051】
ΔP1 * =Km ・Δψ'* ……… (6)
但し、式中、
m :目標左右ホイールシリンダ圧差制御定数
である。
【0052】
次にステップS12に移行して、前記ステップS11で得た目標左右ホイールシリンダ圧差ΔP1 * を発生するために、後述する図8の演算処理により、各ホイールシリンダ2FL〜2RRへの第1目標ホイールシリンダ圧P1i * を算出する。
【0053】
次にステップS13に移行して、図示されない演算処理によって、目標左右スリップ率差ΔS* を算出する。具体的には、例えば車両がニュートラルステア状態で旋回している或いは直進走行しているときの前左右輪間或いは後左右輪間の車輪速Vwi の差を推定車体速度との比で表して目標左右スリップ率差ΔS* とする。なお、車輪スリップ率とは、車体速度から各車輪速を減じた値を更に車体速度で除した値と定義する。本実施形態では、下記7式に従って簡易的に求める。
【0054】
ΔS* =Ks ・Δψ'* ……… (7)
但し、式中、
s :目標左右スリップ率差制御定数
である。
【0055】
次にステップS14に移行して、前記ステップS13で得た目標左右スリップ率差ΔS* を発生するために、後述する図9の演算処理により、各車輪の目標スリップ率Si * を算出する。
【0056】
次にステップS15に移行して、図示されない演算処理によって、前記ステップS14で算出された目標スリップ率Si * に応じた各車輪の目標車輪速Vwi * を下記8式に従って算出する。
【0057】
Vwi * =(1−Si * )・VX ……… (8)
次にステップS16に移行して、図示されない演算処理によって、下記9式に従って目標車輪速偏差ΔVwi * を算出する。
【0058】
ΔVwi * =Vwi −Vwi * ……… (9)
次にステップS17に移行して、図示されない演算処理によって、前記目標車輪速偏差ΔVwi * を達成するために必要な第2目標ホイールシリンダ増減圧量ΔP2i * を、所謂比例微分(PD)フィードバック制御法を用いた下記10式に従って算出する。
【0059】
ΔP2i * =KP ・ΔVwi * +KD ・(dΔVwi * /dt) ………(10)
但し、式中、
P :比例ゲイン
D :微分ゲイン
であり、目標車輪速偏差ΔVwi * が微小な領域では、例えば前記目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値(ΔPi * /2)程度になるように設定されている。また、これらのゲインは路面μや車体速度に応じて変化させるようにしてもよい。
【0060】
次にステップS18に移行して、図示されない演算処理によって、前記第2目標ホイールシリンダ増減圧量ΔP2i * を達成するために第2目標ホイールシリンダ圧P2i * を下記11式に従って算出する。
【0061】
2i * =Pi +ΔP2i * ………(11)
次にステップS19に移行して、図示されない演算処理によって、下記12式に従って、前記第1目標ホイールシリンダ圧P1i * 及び第2目標ホイールシリンダ圧P2i * のうち何れか小さい方を目標ホイールシリンダ圧Pi * として設定する。
【0062】
i * =min(P1i * ,P2i * ) ………(12)
但し、式中、
min:最小値選出
を示す。
【0063】
次にステップS20に移行して、図示されない演算処理によって、下記13式に従って、目標ホイールシリンダ増減圧量ΔPi * を算出する。
ΔPi * =Pi * −Pi ………(13)
次にステップS21に移行して、図示されない演算処理によって、前記目標ホイールシリンダ増減圧量ΔPi * を達成するために必要な各増減圧制御弁へのソレノイド駆動時間Ti を算出する。具体的には、前記図5に示すように、例えばライン圧とホイールシリンダ圧(正確には各制御弁の上流圧と下流圧)によって、同じ開弁時間におけるホイールシリンダ増減圧量は変わってくる(或いは変わらない)ので、例えば最小開弁時間をtu とし、例えば図7に示すように、この最小開弁時間tu での増減圧量ΔPi と、それが経過したときのホイールシリンダ圧Pi とを繰返して算出し、そのトータルが前記目標ホイールシリンダ増減圧量ΔPi * に到達するまでの回数と前記最小開弁時間tu との積値からソレノイド駆動時間Ti を求めればよい。
【0064】
次にステップS22に移行して、図示されない演算処理により、例えば前記ソレノイド駆動時間Ti と所定サンプリング時間ΔTとの比をデューティ比とするソレノイド駆動パルス制御信号を創成出力してからメインプログラムに復帰する。なお、このデューティ比に応じた駆動パルス信号の創成は、従来既存のPWM(Pulse Width Modulation)制御と同様であるから詳細な説明は省略する。
【0065】
次に、前記図3の演算処理のステップS12で実行される図8の演算処理について説明する。この演算処理では、まずステップS1201で、前記算出された目標左右ホイールシリンダ圧差ΔP1 * が正値であるか否かを判定し、当該目標左右ホイールシリンダ圧差ΔP1 * が正値である場合にはステップS1202に移行し、そうでない場合にはステップS1203に移行する。
【0066】
前記ステップS1202では、前記算出された前右ホイールシリンダ圧PFRが前記目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値(ΔP1 * /2)未満であるか否かを判定し、当該前右ホイールシリンダ圧PFRが目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値(ΔP1 * /2)未満である場合にはステップS1204に移行し、そうでない場合にはステップS1205に移行する。
【0067】
前記ステップS1204では、前記目標左右ホイールシリンダ圧差ΔP1 * から前右ホイールシリンダ圧PFRを減じた値を前輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPF(+)に設定すると共に、当該前右ホイールシリンダ圧PFRを前輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPF(-)に設定してからステップS1206に移行する。
【0068】
また、前記ステップS1205では、前記目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値(ΔPF * /2)を前輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPF(+)及び前輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPF(-)に夫々設定してから前記ステップS1206に移行する。
【0069】
そして、前記ステップS1206では、前記前右ホイールシリンダ圧PFRから前記前輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPF(-)を減じた値を前右目標ホイールシリンダ圧PFR * に設定すると共に、前左ホイールシリンダ圧PFLに前記前輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPF(+)を和した値を前左目標ホイールシリンダ圧PFL * に設定してからステップS1207に移行する。
【0070】
前記ステップS1207では、前記算出された後右ホイールシリンダ圧PRRが前記目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値(ΔP1 * /2)未満であるか否かを判定し、当該後右ホイールシリンダ圧PRRが目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値(ΔP1 * /2)未満である場合にはステップS1208に移行し、そうでない場合にはステップS1209に移行する。
【0071】
前記ステップS1208では、前記目標左右ホイールシリンダ圧差ΔP1 * から後右ホイールシリンダ圧PRRを減じた値を後輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPR(+)に設定すると共に、当該後右ホイールシリンダ圧PRRを後輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPR(-)に設定してからステップS1210に移行する。
【0072】
また、前記ステップS1209では、前記目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値(ΔP1 * /2)を後輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPR(+)及び後輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPR(-)に夫々設定してから前記ステップS1210に移行する。
【0073】
そして、前記ステップS1210では、前記後右ホイールシリンダ圧PRRから前記後輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPR(-)を減じた値を後右目標ホイールシリンダ圧PRR * に設定すると共に、後左ホイールシリンダ圧PRLに前記後輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPR(+)を和した値を後左目標ホイールシリンダ圧PRL * に設定してから前記図3の演算処理のステップS13に移行する。
【0074】
一方、前記ステップS1203では、前記算出された前左ホイールシリンダ圧PFLが前記目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値の絶対値|ΔP1 * /2|未満であるか否かを判定し、当該前左ホイールシリンダ圧PFLが目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値の絶対値|ΔP1 * /2|未満である場合にはステップS1211に移行し、そうでない場合にはステップS1212に移行する。
【0075】
前記ステップS1211では、前記目標左右ホイールシリンダ圧差の絶対値|ΔP1 * |から前左ホイールシリンダ圧PFLを減じた値を前輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPF(+)に設定すると共に、当該前左ホイールシリンダ圧PFLを前輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPF(-)に設定してからステップS1213に移行する。
【0076】
また、前記ステップS1212では、前記目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値の絶対値|ΔP1 * /2|を前輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPF(+)及び前輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPF(-)に夫々設定してから前記ステップS1213に移行する。
【0077】
そして、前記ステップS1213では、前記前右ホイールシリンダ圧PFRに前記前輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPF(+)を和した値を前右目標ホイールシリンダ圧PFR * に設定すると共に、前左ホイールシリンダ圧PFLから前記前輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPF(-)を減じた値を前左目標ホイールシリンダ圧PFL * に設定してからステップS1214に移行する。
【0078】
前記ステップS1214では、前記算出された後左ホイールシリンダ圧PRLが前記目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値の絶対値|ΔP1 * /2|未満であるか否かを判定し、当該後左ホイールシリンダ圧PRLが目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値の絶対値|ΔP1 * /2|未満である場合にはステップS1215に移行し、そうでない場合にはステップS1216に移行する。
【0079】
前記ステップS1215では、前記目標左右ホイールシリンダ圧差の絶対値|ΔP1 * |から後左ホイールシリンダ圧PRLを減じた値を後輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPR(+)に設定すると共に、当該後左ホイールシリンダ圧PRLを後輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPR(-)に設定してからステップS1217に移行する。
【0080】
また、前記ステップS1216では、前記目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値の絶対値|ΔP1 * /2|を後輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPR(+)及び後輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPR(-)に夫々設定してから前記ステップS1217に移行する。
【0081】
そして、前記ステップS1217では、前記後右ホイールシリンダ圧PRRに前記後輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPR(+)を和した値を後右目標ホイールシリンダ圧PRR * に設定すると共に、後左ホイールシリンダ圧PRLから前記後輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPR(-)を減じた値を後左目標ホイールシリンダ圧PRL * に設定してから前記図3の演算処理のステップS13に移行する。
【0082】
次に、前記図3の演算処理のステップS14で実行される図9の演算処理について説明する。この演算処理では、まずステップS1401で、例えば前記ブレーキスイッチ信号SBRK が、ブレーキペダル踏込みを示すON状態であるか否かといった判定からブレーキペダル踏込み中か否かを判定し、ブレーキペダルの踏込み中である場合にはステップS1402に移行し、そうでない場合にはステップS1403に移行する。
【0083】
前記ステップS1402では、下記14−1式〜14−4式に従って各車輪の目標スリップ率Si * を算出してから前記図3の演算処理のステップS15に移行する。
【0084】
FL * =mid(S0 −ΔS* ,0.25,0.03) ………(14-1)
FR * =mid(S0 +ΔS* ,0.25,0.03) ………(14-2)
RL * =mid(S0 −ΔS* ,0.25,0.03) ………(14-3)
RR * =mid(S0 +ΔS* ,0.25,0.03) ………(14-4)
但し、式中、
mid:中間値選出
0 :予め設定された基準スリップ率(例えば0.15)
を示す。
【0085】
一方、前記ステップS1403では、前記目標左右スリップ率差ΔS* が正値であるか否かを判定し、当該目標左右スリップ率差ΔS* が正値である場合にはステップS1404に移行し、そうでない場合にはステップS1405に移行する。
【0086】
前記ステップS1404では、下記15−1式〜15−4式に従って各車輪の目標スリップ率Si * を算出してから前記図3の演算処理のステップS15に移行する。
【0087】
FL * =0 ………(15-1)
FR * =max(ΔS* ,0.03) ………(15-2)
RL * =0 ………(15-3)
RR * =max(ΔS* ,0.03) ………(15-4)
但し、式中、
max:最大値選出
を示す。
【0088】
前記ステップS1405では、下記16−1式〜16−4式に従って各車輪の目標スリップ率Si * を算出してから前記図3の演算処理のステップS15に移行する。
【0089】
FL * =max(|ΔS* |,0.03) ………(16-1)
FR * =0 ………(16-2)
RL * =max(|ΔS* |,0.03) ………(16-3)
RR * =0 ………(16-4)
次に、本実施形態の作用について説明する。まず、本実施形態の車両挙動制御の全体的な作用の前に、前記図8の演算処理の作用について説明する。
【0090】
前記図3の演算処理のステップS8で算出される目標ヨーレートψ'*は、前述のように例えばタイヤのグリップ範囲内で車両がニュートラルステアを達成するときの発生ヨーレートであるから、単純には実ヨーレート(の絶対値)ψ' が目標ヨーレート(の絶対値)ψ'*より小さければアンダステア状態,大きければオーバステア状態であると言える。そこで、同じく図3の演算処理のステップS11で算出される目標左右ホイールシリンダ圧差ΔP1 * は前述のように目標モーメントM* を発生し、この目標モーメントM* は、例えばアンダステア状態では、車両にオーバステア方向のアンチスピンモーメント(正確にはスピンモーメントと表記すべきであろう)を与え、オーバステア状態では、車両にアンダステア方向のアンチスピンモーメントを与える。従って、ヨーレートをフィードバックしながら、目標ホイールシリンダ圧が達成されれば、オーバステアやアンダステアが修正されて、タイヤのグリップ範囲内でのニュートラルステアが得られる。
【0091】
従って、例えば左旋回時にオーバステア状態となり、それを修正するために右回りの目標モーメントM* が必要になった場合を考えると、この図8の演算処理では、まずステップS1201で目標左右ホイールシリンダ圧差ΔP1 * が正値か否か, 即ち前左ホイールシリンダ圧PFLを前右ホイールシリンダ圧PFRより大きくするか或いは前右ホイールシリンダ圧PFRを前左ホイールシリンダ圧PFLより大きくするかの判定を行い、前者の場合にはステップS1202以後のフローへ進み、後者の場合にはステップS1203以後のフローへ進む。ここでは右回りの目標モーメントM* が必要なので、前右ホイールシリンダ圧PFRを前左ホイールシリンダ圧PFLより大きくするべきであるから、ステップS1203以後のフローについて考察する。このステップS1203以後のフローでは、例えばブレーキペダルが大きく踏込まれているなどにより、目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値の絶対値|ΔP1 * /2|(符号を修正しているだけで実質的には目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値(ΔP1 * /2)と同じ)が前左ホイールシリンダ圧PFL以上である場合にはステップS1212に移行して当該目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値の絶対値|ΔPF * /2|が前輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPF(-)と共に前輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPF(+)にも設定され、次のステップS1213では前左ホイールシリンダ圧PFLから前輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPF(-)が減じられて前左目標ホイールシリンダ圧PFL * となり、前右ホイールシリンダ圧PFRに前輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPF(+)が加えられて前右目標ホイールシリンダ圧PFR * となる。
【0092】
一方、ブレーキペダルが踏込まれていないとか、或いは少ししか踏込まれていないなどにより、元々、前右ホイールシリンダ圧PFLが小さく、その結果、目標左右ホイールシリンダ圧差の半分値の絶対値|ΔP1 * /2|が前左ホイールシリンダ圧PFL未満であると判定された場合には、ステップS1211に移行して前左ホイールシリンダ圧PFLが前輪ホイールシリンダ圧減少量ΔPF(-)に設定され、それが次のステップS1213でそのまま前左ホイールシリンダ圧PFLから減じられるので前左目標ホイールシリンダ圧PFL * は実質的に“0”になってしまうのである。これに対して、前記目標左右ホイールシリンダ圧差の絶対値|ΔP1 * |から前左ホイールシリンダ圧PFLを減じた値が前輪ホイールシリンダ圧増加量ΔPF(+)に設定され、それが次のステップS1213で前右ホイールシリンダ圧PFRに加えられて前右目標ホイールシリンダ圧PFR * になる。つまり、制御の直前に前左右ホイールシリンダ圧PFL,PFRが等しい状態から、これらの前左右目標ホイールシリンダ圧PFL * ,PFR * 達成されると、前左ホイールシリンダ圧PFLは“0”となるが、前右ホイールシリンダ圧PFRは実質的に目標左右ホイールシリンダ圧差の絶対値|ΔP1 * |と同じ値になり、必要な前左右輪間のホイールシリンダ圧差が得られるのである。
【0093】
これと同様の目標ホイールシリンダ圧Pi * の設定(後輪を含む)が、例えば前記ステップS1214以後のフロー(後輪側)及びステップS1202以後のフロー(前後輪側)で設定される。従って、例えば旋回中、最も大きなコーナリングフォースを発生している前旋回外輪ではホイールシリンダ圧がやや大きくなることから、当該前旋回外輪のグリップ力やコーナリングフォースがさほど低下することもなく、例えば走行ラインが外側にずれてしまうようなことを抑制防止でき、合わせて車両全体としてのホイールシリンダ圧は変化しないので、車体速度を適切に減速したり、制動距離を確保したりすることも可能である。なお、前左ホイールシリンダ圧PFLが目標左右ホイールシリンダ圧減少量ΔPF(-)に設定され且つ目標左右ホイールシリンダ圧差の絶対値|ΔP1 * |から前左ホイールシリンダ圧PFLを減じた値が目標左右ホイールシリンダ圧増加量ΔPF(+)に設定されるような場合には、前述のように、元々、ライン圧が小さいので、車両挙動制御の応答性を確保するためにより確実なホイールシリンダ圧差が得られるようにしているのである。
【0094】
次に、前記図3の演算処理のステップS13乃至ステップS18及び図9の演算処理の作用について説明する。
まず、前述のように図3の演算処理のステップS13で算出される目標左右スリップ率差ΔS* は、元来、例えば車両がニュートラルステア状態で旋回している或いは直進走行しているときの前左右輪間或いは後左右輪間の車輪速Vwi の差を推定車体速度との比で表したものであるから、目標ヨーレート偏差Δψ'*の大きさによって自ずと決まってくる。また、例えば高速で極端な操舵を行ったときのように目標ヨーレート偏差Δψ'*が過大となる状況を想定していないから、少なくとも左右何れか一方の車輪のスリップ率Si が“0”の状態で、他方の車輪のスリップ率Si を目標左右スリップ率差(又はその絶対値)ΔS* とするような場合でも、当該他方の車輪がスリップ過剰となってロック傾向に陥ることはない。
【0095】
従って、次のステップS14で図9の演算処理が行われると、まずステップS1401でブレーキペダルの踏込み中であるか否かを判定する。これは、後述する目標スリップ率Si * に前記通常アンチロックブレーキ制御用の基準スリップ率S0 を設定するためであり、前述のようにブレーキペダルを踏込んでいないときに前記目標左右スリップ率差(又はその絶対値)ΔS* が或る車輪の目標スリップ率Si * に設定されてもその車輪がロック傾向に陥ることはないから、ステップS1404やステップS1405では、後述の上限規制値(0.25)を設けない。そして、ブレーキペダルの踏込み中にはステップS1402に移行して、前記14−1式〜14−4式に従って各車輪の目標スリップ率Si * が設定される。ここで、前記目標左右スリップ率差ΔS* の絶対値が比較的小さな領域では、前記通常アンチロックブレーキ制御用の基準スリップ率S0 と当該目標左右スリップ率差ΔS* との加減算値が目標スリップ率Si * に設定されるが、当該基準スリップ率S0 に目標左右スリップ率差ΔS* を和した値が大き過ぎる場合には上限規制値(0.25),つまり25%でリミッタとなる。また、基準スリップ率S0 から目標左右スリップ率差ΔS* を減じた値が小さ過ぎる場合には、制動力の抜けを防止するために下限規制値(0.03),つまり3%でリミッタとなる。つまり、凡そブレーキペダルの踏込み中には、前記通常アンチロックブレーキ制御用の基準スリップ率S0 を中心として、発生する目標ヨーレート偏差Δψ'*の方向を反映し且つ当該目標ヨーレート偏差Δψ'*の大きさに比例した分だけ、目標スリップ率Si * が増減されることになる。
【0096】
一方、ブレーキペダルを踏込んでいないときにはステップS1403に移行して前記目標ヨーレート偏差Δψ'*,即ち目標左右スリップ率差ΔS* の方向性,つまり何れの車輪に制動力を与え、何れの車輪には制動力を与えないかが判定される。そして、目標ヨーレート偏差Δψ'*の方向性から前後右輪に制動力を付与する場合にはステップS1404に移行して前記15−1式〜15−4式に従って各車輪の目標スリップ率Si * が設定され、前後左輪に制動力を付与する場合にはステップS1405に移行して前記16−1式〜16−4式に従って各車輪の目標スリップ率Si * が設定される。ここでは、左右何れか一方の車輪の目標スリップ率Si * は零となるから制動力は付与されず、他方の車輪にのみ主として目標左右スリップ率差(又はその絶対値)ΔS* からなる目標スリップ率Si * を達成するように制動力が付与されることになる。但し、このときの下側リミッタは下限規制値(0.03),つまり3%である。
【0097】
図3の演算処理における次のステップS15では、前記算出された各車輪の目標スリップ率Si * に応じた各車輪の目標車輪速Vwi * が算出される。ここで、若し目標ヨーレート偏差(又はその絶対値)Δψ'*が大きくなれば目標左右スリップ率差(又はその絶対値)ΔS* が大きくなるから、前記目標スリップ率Si * が増加される車輪の目標車輪速Vwi * は小さくなる。つまり、目標ヨーレート偏差Δψ'*が発生すると、制動力を増加させる側の車輪の目標車輪速Vwi * が小さくなるのである(但し、制動中はリミッタがある)。
【0098】
そして、次のステップS16で現在の車輪速Vwi から目標車輪速Vwi * を減じて目標車輪速偏差ΔVwi * が算出され、次のステップS17で当該目標車輪速偏差ΔVwi * 及びその時間微分値に応じた第2目標ホイールシリンダ増減圧量ΔP2i * が算出され、次のステップS18で現在のホイールシリンダ圧Pi に前記第2目標ホイールシリンダ増減圧量ΔP2i * を和して第2目標ホイールシリンダ圧P2i * が算出される。つまり、前述のように制動力を増加させる側の車輪の目標車輪速Vwi * は目標ヨーレート偏差Δψ'*の発生と共に小さく設定されてゆくのであるが、高μ路面などで制動力を付与しても実際の車輪速Vwi が減速しない場合には目標車輪速偏差ΔVwi * が大きくなり、その結果、第2目標ホイールシリンダ増減圧量ΔP2i * が大きくなって第2目標ホイールシリンダ圧P2i * も大きくなる。一方、低μ路面などで制動力を付与すると車輪速Vwi が直ぐに減速してしまい、目標車輪速偏差ΔVwi * と共に第2目標ホイールシリンダ増減圧量ΔP2i * が小さくなって第2目標ホイールシリンダ圧P2i * も小さな値になる。
【0099】
従って、図3の演算処理において、ステップS19で目標ホイールシリンダ圧Pi * の選択が行われると、低μ路面では第2目標ホイールシリンダ圧P2i * が小さな値になる傾向から当該第2目標ホイールシリンダ圧P2i * が目標ホイールシリンダ圧Pi * に設定される。一方、高μ路面では第2目標ホイールシリンダ圧P2i * が大きな値になる傾向から、相対的に前記第1目標ホイールシリンダ圧P1i * が小さくなって当該第1目標ホイールシリンダ圧P1i * が目標ホイールシリンダ圧Pi * に設定される。このようにして目標ホイールシリンダ圧Pi * が設定されると、続くステップS20乃至ステップS22で当該目標ホイールシリンダ圧Pi * への各車輪のホイールシリンダ圧追従制御が行われる。
【0100】
次に、この実施形態によって車両挙動を制御したシミュレーションについて説明する。図10は高μ路面で反転舵角を与えたときのヨーレートの追従修正制御のタイミングチャートである。なお、このシミュレーションでは、目標ヨーレート偏差Δψ'*の微小領域に前述の演算処理には示されていない不感帯領域(−Δψ'0〜+Δψ'0)を設けてある。また、ブレーキペダルは踏込まれているが、各ホイールシリンダ圧Pi は発生しない状況を想定し、その結果、各車輪の目標車輪速Vwi * には、基本的に、前記アンチロックブレーキ制御の基準スリップ率S0 を反映した値が設定されたものとする。
【0101】
このシミュレーションは、舵角中庸状態から時刻t01で左切りし、一旦切り戻して、時刻t03から右切りして再び切り戻す,所謂スラローム走行を行ったものであり、時刻t06では中庸状態に復帰する。この舵角θの経時変化に対し、前記図3の演算処理のステップS8で算出される目標ヨーレートψ'*は一定の遅れを伴って同図に破線で示すように設定される。これに対して、タイヤグリップ力の高い高μ路面では、前記目標ヨーレートψ'*からさほど遅れることなく、実線で示すようなヨーレートψ' が発生しようとした。このヨーレートψ' の目標ヨーレートψ'*に対する遅れから、目標ヨーレート偏差Δψ'*が前記時刻t01から次第に正の領域で増加し、時刻t02で正の不感帯閾値(+Δψ'0)を上回った。その結果、当該時刻t02以後、前右ホイールシリンダ圧PFRに対する前右目標ホイールシリンダ圧PFR * が設定され、それが達成されることによって推定車体速度VX は次第に減速することになる。このとき、高μ路面でのヨーレートψ' は目標ヨーレートψ'*に対してさほど遅れないので、目標ヨーレート偏差Δψ'*もさほど大きな値にならず、前記正の不感帯閾値(+Δψ'0)よりも大きい当該目標ヨーレート偏差Δψ'*だけを反映して図3の演算処理のステップS12で算出された前右第1目標ホイールシリンダ圧P1FR * は比較的小さな値となった。
【0102】
一方、前記正の不感帯閾値(+Δψ'0)を越える目標ヨーレート偏差Δψ'*に応じて図3の演算処理のステップS13乃至15では目標左右スリップ率差ΔSi * ,目標スリップ率Si * ,目標車輪速Vwi * が算出される。即ち、図10に破線で示すように、前右目標車輪速VwFR * は前記基準スリップ率S0 に応じた値よりも小さく設定され、前左目標車輪速VwFL * はそれより大きく設定される。この制動力制御の初期段階では、前右目標車輪速VwFR * に対する前右輪速VwFRが高いので、図3の演算処理のステップS16で算出される前右目標車輪速偏差ΔVwFR * も大きく、従って続くステップS17で算出される前右第2目標ホイールシリンダ増減圧量ΔP2FR * が大きくなり、続くステップS18で算出される前右第2目標ホイールシリンダ圧P2FR * も大きくなる。そのため、続くステップS19で前記前右第1目標ホイールシリンダ圧P1FR * が前右目標ホイールシリンダPFR * に設定される。しかしながら、タイヤグリップ力の高い高μ路面では、制動力が大きくなったその後も前右輪速VwFRがさほど減速せず、従って前右目標車輪速偏差ΔVwFR * も大きいままであるために前右第2目標ホイールシリンダ圧P2FR * も大きく、結果的に前記前右第1目標ホイールシリンダ圧P1FR * が前右目標ホイールシリンダPFR * に設定され続けることになった。なお、この前右目標ホイールシリンダPFR * に追従した前右ホイールシリンダ圧PFRは、当該高μ路面で車輪をロックさせるロック圧PFR-LOCK よりも小さく、アンチロックブレーキ制御は開始されなかった。
【0103】
やがて、時刻t04で目標ヨーレート偏差Δψ'*は正の不感帯閾値(+Δψ'0)以下となったため、前右ホイールシリンダ圧PFRに対する前右目標ホイールシリンダ圧PFR * は零となり、合わせて前右目標車輪速VwFR * 及び前左目標車輪速VwFL * は前記基準スリップ率S0 に応じた値に復帰するが、その後、目標ヨーレート偏差Δψ'*は負の領域での減少に転じ、やがて時刻t05で負の不感帯閾値(−Δψ'0)を下回った。そのため、この後は前左ホイールシリンダ圧PFLに対する前左目標ホイールシリンダ圧PFL * が設定され、それが達成されることによって推定車体速度VX は次第に減速することになる。このときも、高μ路面での目標ヨーレート偏差Δψ'*は小さく、前記負の不感帯閾値(−Δψ'0)よりも小さい当該目標ヨーレート偏差(の絶対値)Δψ'*だけを反映した前左第1目標ホイールシリンダ圧P1FL * は比較的小さく、前左目標車輪速偏差ΔVwFL * の大きな前左第2目標ホイールシリンダ圧P2FL * は大きかったので、結果的に前記前左第1目標ホイールシリンダ圧P1FL * が前左目標ホイールシリンダPFL * に設定され続けることになった。
【0104】
その後、揺り返しによる左回りのヨーレートψ' が僅かに発生したが、目標ヨーレート偏差Δψ'*が正の不感帯閾値(+Δψ'0)を上回ることはなく、制動力制御は行われなかった。
【0105】
次に、本実施形態により低μ路面で反転舵角を与えたときのヨーレートの追従修正制御について図11のタイミングチャートを用いて説明する。このシミュレーションの前提条件は前記図10のそれと同様である。
【0106】
このシミュレーションは、舵角中庸状態から時刻t11で左切りし、切り戻してから、時刻t14から右切りに転じ、再び切り戻してスラローム走行を行ったものであり、時刻t22では中庸状態に復帰する。この舵角θの経時変化に対する目標ヨーレートψ'*も、前記図10に示すものと同様、一定の遅れを伴って同図に破線で示すように設定される。これに対して、タイヤグリップ力の低い低μ路面では、前記目標ヨーレートψ'*からやや遅れて、実線で示すようなヨーレートψ' が発生しようとした。このヨーレートψ' の目標ヨーレートψ'*に対する遅れから、目標ヨーレート偏差Δψ'*が前記時刻t11から次第に正の領域で増加し、時刻t12で正の不感帯閾値(+Δψ'0)を上回った。その結果、当該時刻t12以後、前右ホイールシリンダ圧PFRに対する前右目標ホイールシリンダ圧PFR * が設定され、それが達成されることによって推定車体速度VX は次第に減速することになる。このときは、低μ路面でのヨーレートψ' が目標ヨーレートψ'*に対して大きく遅れようとするので、目標ヨーレート偏差Δψ'*は比較的大きな値となり、前記正の不感帯閾値(+Δψ'0)よりも大きい当該目標ヨーレート偏差Δψ'*だけを反映して算出される前右第1目標ホイールシリンダ圧P1FR * は同図に二点鎖線で示すように比較的大きな値となった。
【0107】
一方、前記正の不感帯閾値(+Δψ'0)を越える目標ヨーレート偏差Δψ'*が大きいために目標左右スリップ率差ΔSi * ,目標スリップ率Si * も共に大きくなり、その結果、図11に破線で示すように、前右目標車輪速VwFR * は前記基準スリップ率S0 だけに応じた値よりも小さく設定され、前左目標車輪速VwFL * はそれより大きく設定される。但し、前右目標車輪速VwFR * は時刻t13の近傍で前記前右目標スリップ率SFR * に上限規制値(0.25)のリミッタがかかり、前左目標車輪速VwFL * は時刻t14の近傍で前記前左目標スリップ率SFL * に下限規制値(0.03)のリミッタがかかった。これに対して、制動力制御の初期段階では、前右目標車輪速VwFR * に対する前右輪速VwFRが高いので前右目標車輪速偏差ΔVwFR * も大きく、従って前右第2目標ホイールシリンダ増減圧量ΔP2FR * も前右第2目標ホイールシリンダ圧P2FR * も大きくなる。そのため、前記前右第1目標ホイールシリンダ圧P1FR * が前右目標ホイールシリンダPFR * に設定される。
【0108】
しかしながら、タイヤグリップ力の低い低μ路面では、制動力が大きくなったその後、前右輪速VwFRが急速に減速し、従って前右目標車輪速偏差ΔVwFR * も小さくなる。特に、前記前右目標スリップ率SFR * に上限規制値(0.25)のリミッタがかかる時刻t13近傍から前右目標車輪速偏差ΔVwFR * が急速に小さくなり、その結果、前右第2目標ホイールシリンダ圧P2FR * が前記前右第1目標ホイールシリンダ圧P1FR * より小さくなって、その後は同図に実線で示す当該前右第2目標ホイールシリンダ圧P2FR * が前右目標ホイールシリンダPFR * に設定されることになった。これにより、前右目標ホイールシリンダPFRの増圧代,つまり前右輪の制動力の増加率は小さくなったが、前記前右第1目標ホイールシリンダ圧P1FR * がロック圧PFR-LOCK を越えてアンチロックブレーキ制御による減圧が開始されるのを遅らせることはできた。
【0109】
しかしながら、前記前右第2目標ホイールシリンダ圧P2FR * からなる前右目標ホイールシリンダPFR * に追従した前右ホイールシリンダ圧PFRも、時刻t15で、当該低μ路面で前右輪をロックさせるロック圧PFR-LOCK を上回り、その結果、前右輪速VwFRが前右目標車輪速VwFR * を下回ったため、当該前右ホイールシリンダ圧PFRに対してアンチロックブレーキ制御による減圧制御が開始され、続いて前右輪加減速度V'wFRが増速側に転じて低圧保持された。また、続く時刻t16では緩増圧が行われ、時刻t17で前右輪加減速度V'wFRが減速側所定値を下回って高圧保持となったが、時刻t18で再び前右輪速VwFRが前右目標車輪速偏差ΔVwFR * を下回って減圧され、以後、時刻t19で緩増圧が行われることになった。この時刻t19以後、前右輪速VwFRは増速傾向にあり、アンチロックブレーキ制御を終了してもよい条件が整っており、同時に算出され続けていた前右目標車輪速偏差ΔVwFR * は次第に増加していて前右第2目標ホイールシリンダ圧P2FR * も大きくなっていた。そして、続く時刻t20では、目標ヨーレート偏差Δψ'*の減少に伴って、再び、前記前右第1目標ホイールシリンダ圧P1FR * が前右第2目標ホイールシリンダ圧P2FR * よりも小さくなり、当該前右第1目標ホイールシリンダ圧P1FR * が前右目標ホイールシリンダPFR * に設定されることとなった。なお、目標ヨーレート偏差Δψ'*の減少に伴って、前右目標車輪速VwFR * 及び前左目標車輪速VwFL * は前記基準スリップ率S0 に応じた値に近づいている。
【0110】
やがて、時刻t21で目標ヨーレート偏差Δψ'*は正の不感帯閾値(+Δψ'0)以下となったため、前右ホイールシリンダ圧PFRに対する前右目標ホイールシリンダ圧PFR * は零となり、合わせて前右目標車輪速VwFR * 及び前左目標車輪速VwFL * は前記基準スリップ率S0 に応じた値に復帰するが、その後、目標ヨーレート偏差Δψ'*は負の領域での減少に転じた。しかしながら、前記時刻t13以後、前右第2目標ホイールシリンダ圧P2FR * を前右目標ホイールシリンダPFR * に設定することで、制動力の増加率は小さくなったものの、車両挙動制御に重要な制御初期に制動力を付与し続けることができ、しかも全体的にもアンチロックブレーキ制御による減圧代を小さくすることができたので、結果的にヨーレートψ' を目標ヨーレートψ'*に近づけることが可能となった。そして、これ以後、揺り返しによるヨーレートψ' が僅かに発生したが、それによる目標ヨーレート偏差Δψ'*が正負の不感帯閾値(±Δψ'0)を越えることはなく、制動力制御は行われなかった。また、時刻t23では、前右輪速VwFRが推定車体速度VX に復帰した。
【0111】
次に、従来例により低μ路面で反転舵角を与えたときのヨーレートの追従修正制御について図12のタイミングチャートを用いて説明する。このシミュレーションの前提条件は前記図11のそれと同様である。但し、本実施形態の比較例であるから、図3の演算処理のステップS13乃至ステップS18がなく、前記第1目標ホイールシリンダ圧P1i * がそのまま目標ホイールシリンダPi * に設定されるものとする。また、アンチロックブレーキ制御の基準スリップ率S0 は一定であるものとする。
【0112】
このシミュレーションも、舵角中庸状態から時刻t31で左切りし、一旦切り戻して、時刻t34から右切りして再び切り戻し、時刻t46では中庸状態に復帰する。この舵角θの経時変化に対する目標ヨーレートψ'*も、前記図11に示すものと同様、一定の遅れを伴って同図に破線で示すように設定される。これに対して、前記目標ヨーレートψ'*からやや遅れて、実線で示すようなヨーレートψ' が発生しようとした。従って、目標ヨーレート偏差Δψ'*が前記時刻t31から次第に正の領域で増加し、時刻t32で正の不感帯閾値(+Δψ'0)を上回った。その結果、当該時刻t32以後、前右ホイールシリンダ圧PFRに対する前右目標ホイールシリンダ圧PFR * が設定され、それが達成されることによって推定車体速度VX は次第に減速することになる。この前右目標ホイールシリンダ圧PFR * に設定される前記前右第1目標ホイールシリンダ圧P1FR * は、同図に二点鎖線で示すように目標ヨーレート偏差Δψ'*が大きい分だけ大きな値になる。この前右目標ホイールシリンダPFR * に追従すると、車両挙動制御のための制動力制御開始の初期段階,つまり時刻t33で前右ホイールシリンダ圧PFRが前右ロック圧PFR-LOCK を上回り、その結果、前右輪速VwFRが前右目標車輪速VwFR * を下回ったため、当該前右ホイールシリンダ圧PFRに対してアンチロックブレーキ制御による減圧制御が開始されてしまった。これ以後、時刻t35では低圧保持,時刻t36では緩増圧,時刻t37で高圧保持となり、時刻t38で再び前右輪速VwFRが前右目標車輪速偏差ΔVwFR * を下回って減圧され、以後、時刻t39で低圧保持,時刻t40で緩増圧,時刻t41で高圧保持,時刻t42で減圧,時刻t43で低圧保持と繰返された。つまり、制動力制御が開始されると直ぐにアンチロックブレーキ制御が介入して車両挙動制御に重要な制御開始初期の制動力を小さくし、全体的にも制動力を小さめにしてしまったため、ヨーレートψ' は目標ヨーレートψ'*になかなか近づかないという結果になった。
【0113】
やがて、目標ヨーレート偏差Δψ'*の減少に伴って、前記前右第1目標ホイールシリンダ圧P1FR * からなる前右目標ホイールシリンダ圧PFR * が、前右ロック圧PFR-LOCK 以下の領域で、時刻t44でアンチロックブレーキ制御による前右ホイールシリンダ圧PFR以下となったため、これ以後、当該前右第1目標ホイールシリンダ圧P1FR * からなる前右目標ホイールシリンダPFR * の追従制御が行われた。そして、時刻t45で目標ヨーレート偏差Δψ'*は正の不感帯閾値(+Δψ'0)以下となったため、前右ホイールシリンダ圧PFRに対する前右目標ホイールシリンダ圧PFR * は零となり、その後、目標ヨーレート偏差Δψ'*は負の領域での減少に転じた。しかしながら、目標ヨーレート偏差Δψ'*は未だ十分に収束しておらず、やがて時刻t47で負の不感帯閾値(−Δψ'0)を下回った。つまり、その分だけ、車両挙動修正制御が遅れてしまったことを意味する。そのため、この後は前左ホイールシリンダ圧PFLに対する前左目標ホイールシリンダ圧PFL * が設定され、それが達成されることによって推定車体速度VX は次第に減速することになる。このときには、前記負の不感帯閾値(−Δψ'0)よりも小さい当該目標ヨーレート偏差(の絶対値)Δψ'*だけを反映した前左第1目標ホイールシリンダ圧P1FL * ,つまり前左目標ホイールシリンダ圧PFL * は比較的小さく、それに追従する前左ホイールシリンダ圧PFLがロック圧PFL-LOCK を越えることはなかったので、アンチロックブレーキ制御は介入しなかった。
【0114】
その後、揺り返しによる左回りのヨーレートψ' が僅かに発生したが、目標ヨーレート偏差Δψ'*が正の不感帯閾値(+Δψ'0)を上回ることはなく、制動力制御は行われなかった。
【0115】
このように本実施形態では、特に低μ路面でアンチロックブレーキ制御が開始される以前に、第2目標ホイールシリンダ圧P2i * を目標ホイールシリンダPi * に設定することで、アンチロックブレーキ制御による減圧を遅らせて、車両挙動制御に重要な制御初期に制動力を付与し続けることができ、全体的にもアンチロックブレーキ制御による減圧代を小さくすることを可能として、ヨーレートψ' を目標ヨーレートψ'*に速やかに近づけることが可能となった。また、最終的に設定され追従制御される目標ホイールシリンダ圧Pi * に、低μ路面で有効なスリップ率差制御用の第2目標ホイールシリンダ圧P2i * と高μ路面で有効なホイールシリンダ圧差制御用の第1目標ホイールシリンダ圧P1i * とを自動的に選択設定することができ、各路面で車輪のスリップと車両挙動とを最適の状態に制御することが可能となる。また、運転者による制動入力があっても、そのときのホイールシリンダ圧Pi に基づいて第1目標ホイールシリンダ圧P1iや第2目標ホイールシリンダ圧P2i * を算出するため、車両全体としての制動力を確保して車両減速度を確保したり、或いは高μ路面で車両挙動修正モーメントを確実に得たり、或いは低μ路面で各車輪のスリップを確実に制御したりすることができる。
【0116】
以上より、前記図1に示すヨーレートセンサ13及び加速度センサ15及び図3の演算処理のステップS2乃至7が本発明の車両挙動検出手段を構成し、以下同様に、前記図3の演算処理のステップS8が目標車両挙動設定手段を構成し、前記図3の演算処理のステップS10乃至ステップS12及びステップS13が目標制動流体圧差及びスリップ率差算出手段を構成し、前記図3の演算処理のステップS12及び前記図8の演算処理全体が第1目標制動流体圧算出手段を構成し、前記図3の演算処理のステップS14乃至ステップS18及び前記図9の演算処理全体が第2目標制動流体圧算出手段を構成し、前記図3の演算処理のステップS19が目標制動流体圧設定手段を構成し、図3の演算処理のステップS20乃至ステップS22及び図1のコントロールユニット17が制動流体圧制御手段を構成している。
【0117】
以下、本発明の車両挙動制御装置の第2実施形態について説明する。本実施形態の制動流体圧制御装置の概要は、前記第1実施形態の図1及び図2に示す制動流体圧・電気系統図と同様である。また、車両に設けられた各種のセンサや制御を司るコンロールユニットの構成についても、前記第1実施形態のものと同様である。
【0118】
本実施形態では、前記コントロールユニットで実行される制動力制御のゼネラルフローが、前記第1実施形態の図2に示すものから図13のフローチャートに示すものに変更されている。この図13の演算処理では、前記第1実施形態でのステップS13による目標左右スリップ率差の直接的な算出ステップが削除され、そのプロセスを含んだステップS14’による目標スリップ率Si * に変更されているのである。
【0119】
本実施形態では、この図13の演算処理のステップS14’で、例えば図14に示す制御マップに従って各車輪の目標スリップ率Si * を算出する。この制御マップは、横軸に前記第1目標ホイールシリンダ圧P1i * をとり、縦軸に目標スリップ率Si * を示すものであり、減速として第1目標ホイールシリンダ圧P1i * の増加と共に目標スリップ率Si * が増加するが、当該目標スリップ率Si * の最大値は前記上限規制値(0.25)で飽和する。また、特徴的なのは、路面μに応じて目標スリップ率Si * の増加傾きが変化することで、ここでは路面μが高くなるほど小さく、低くなるほど大きく設定されている。つまり、同等の第1目標ホイールシリンダ圧P1i * では、路面μが高いほど目標スリップ率Si * が小さく、低いほど大きく設定されることになる。
【0120】
この制御マップによれば、前記車両挙動を修正するモーメントの発生に必要な第1目標ホイールシリンダ圧P1i * を供給したときの路面μに応じた目標スリップ率Si * が設定される。つまり、例えば高μ路面では比較的高い第1目標ホイールシリンダ圧P1i * を供給しても車輪スリップ率Si は大きくならないから、逆に車輪スリップ率Si が大きくなり過ぎるようなときには車両挙動制御が過大になる可能性が高く、それを回避するように目標スリップ率Si * を小さめに設定する。一方、低μ路面では比較的低い第1目標ホイールシリンダ圧P1i * でも車輪スリップ率Si は大きくなってしまうのであるから、アンチロックブレーキ制御が介入しないレベルで予め目標スリップ率Si * を大きめに設定しておけば、この目標スリップ率Si * に車輪スリップ率Si を追従させることで、制動力制御の初期段階でも、小さめながらも制動力を付与し続けることができ、その分だけ車両挙動制御を効率よく行うことができる。
【0121】
従って、このような目標スリップ率Si * の下で設定される増圧側の第2目標ホイールシリンダ圧P2i * は、低μ路面で小さく且つ高μ路面で大きく設定される傾向にあり、従って図13の演算処理のステップS19では、高μ度面で第1目標ホイールシリンダ圧P1i * が、低μ路面で第2目標ホイールシリンダ圧P2i * が目標ホイールシリンダ圧Pi * に設定されることに変わりなく、前記第1実施形態と同様の作用効果が得られる。また、路面μに応じて変化するタイヤ特性に鑑みて、当該路面で有効に車両挙動を修正するモーメントを得るための目標制動力と目標スリップ率を設定することが可能となるから、それらに基づいて各路面で車輪のスリップと車両挙動とを最適の状態に制御することができる。
【0122】
以上より、前記図1に示すヨーレートセンサ13及び加速度センサ15及び図13の演算処理のステップS2乃至7が本発明の車両挙動検出手段を構成し、以下同様に、前記図13の演算処理のステップS8が目標車両挙動設定手段を構成し、前記図13の演算処理のステップS10乃至ステップS12及びステップS14’が目標制動流体圧差及びスリップ率差算出手段を構成し、前記図13の演算処理のステップS12及び前記図8の演算処理全体が第1目標制動流体圧算出手段を構成し、前記図1に示す加速度センサ15が加速度検出手段を構成し、前記図13のステップS3が路面摩擦係数状態検出手段を構成し、前記図13の演算処理のステップS14’乃至ステップS18及び前記図9の演算処理全体が第2目標制動流体圧算出手段を構成し、前記図13の演算処理のステップS19が目標制動流体圧設定手段を構成し、図13の演算処理のステップS20乃至ステップS22及び図1のコントロールユニット17が制動流体圧制御手段を構成している。
【0123】
なお、前記実施形態では、横加速度等から車両横滑り速度や横滑り角を算出したが、例えば車両モデルからなるオブザーバ,即ち状態推定器を用いて横加速度を推定してもよい。この場合には、車両モデルに含まれるその他の状態量とその推定値とから当該車両モデルを修正してゆくことで、より正確な横滑り速度や横滑り角を得ることができる。
【0124】
また、前記実施形態はコントロールユニットとしてマイクロコンピュータを適用した場合について説明したが、これに代えてカウンタ,比較器等の電子回路を組み合わせて構成することもできる。
【0125】
また、上記実施形態では制御車両挙動としてヨーレートを代表して用いたが、その他の車両挙動を同時に制御するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1のアクチュエータユニット内の流体圧系統図である。
【図3】図1のコントロールユニット内で実行される演算処理の第1実施形態を示すフローチャートである。
【図4】図3の演算処理で用いられる基本ヨーレート設定のための制御マップである。
【図5】図3の演算処理で用いられる増減圧特性の説明図である。
【図6】図2の演算処理で設定される車両挙動修正用の目標モーメントと第1目標ホイールシリンダ圧の説明図である。
【図7】図3の演算処理で用いられるソレノイド駆動時間設定のための説明図である。
【図8】図3の演算処理で行われるマイナプログラムの一例を示すフローチャートである。
【図9】図3の演算処理で行われるマイナプログラムの一例を示すフローチャートである。
【図10】図3の演算処理による高μ路面車両挙動制御のタイミングチャートである。
【図11】図3の演算処理による低μ路面車両挙動制御のタイミングチャートである。
【図12】従来例による低μ路面車両挙動制御のタイミングチャートである。
【図13】図1のコントロールユニット内で実行される演算処理の第2実施形態を示すフローチャートである。
【図14】図13の演算処理で用いられる目標スリップ率設定のための制御マップである。
【符号の説明】
1FL〜1RRは車輪
2FL〜2RRはホイールシリンダ
3LH,3RHは補助ポンプ
4はブレーキペダル
5はマスタシリンダ
6LH,6RHはゲートアウト弁
7LH,7RHはゲートイン弁
8FL〜8RRは増圧制御弁
9FL〜9RRは逆止弁
10FL〜19RRは減圧制御弁
11LH,11RHは主ポンプ
12FL〜12RRは車輪速センサ
13はヨーレートセンサ
14は舵角センサ
15は加速度センサ
16はライン圧センサ
17はコントロールユニット
18LH,18RHはリザーバ
19はアクチュエータユニット
20LH,20RHはプリチャージピストン
21LH,21RHはリリーフ弁
23はリリーフ弁
24はピストンストローク調整弁

Claims (8)

  1. 車両挙動の状態としてヨーレートを検出する車両挙動検出手段と、舵角及び車体速度に基づいて目標ヨーレートを設定する目標車両挙動設定手段と、少なくとも前記車両挙動検出手段で検出されたヨーレートと目標車両挙動設定手段で設定された目標ヨーレートとの偏差に応じて車両挙動を修正するヨーモーメントの発生に必要な各車輪間の目標制動流体圧差を算出する目標制動流体圧差算出手段と、この目標制動流体圧差算出手段で算出された目標制動流体圧差に基づいて各車輪の制動用シリンダへの第1の目標制動流体圧を算出する第1目標制動流体圧算出手段と、少なくとも前記車両挙動検出手段で検出されたヨーレートと目標車両挙動設定手段で設定された目標ヨーレートとの偏差に応じて車両挙動を修正するヨーモーメントの発生に必要な各車輪間の目標車輪スリップ率差を算出する目標スリップ率差算出手段と、各車輪の車輪速度又はスリップ率を検出する車輪回転状態検出手段と、記目標スリップ率差算出手段で算出された目標車輪スリップ率差に応じた目標車輪速度又は目標車輪スリップ率に、前記車輪回転状態検出手段で検出された各車輪の車輪速度又はスリップ率を追従させるための各車輪の制動用シリンダへの第2の目標制動流体圧を算出する第2目標制動流体圧算出手段と、前記第1目標制動流体圧算出手段で算出された第1の目標制動流体圧及び前記第2目標制動流体圧算出手段で算出された第2の目標制動流体圧のうち何れか小さい方を目標制動流体圧に設定することで路面摩擦係数状態に応じて有効な目標制動流体圧を自動的に選択する目標制動流体圧設定手段と、この目標制動流体圧設定手段で設定された目標制動流体圧に実際の制動流体圧を追従させるように制御する制動流体圧制御手段とを備えたことを特徴とする車両挙動制御装置。
  2. 前記第1目標制動流体圧算出手段は、運転者による制動入力があったときには、当該運転者による制動入力の制動流体圧に基づいて前記第1の目標制動流体圧を算出することを特徴とする請求項1に記載の車両挙動制御装置。
  3. 前記第2目標制動流体圧算出手段は、運転者による制動入力があったときには、当該運転者による制動入力の制動流体圧に基づいて前記第2の目標制動流体圧を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両挙動制御装置。
  4. 前記目標制動流体圧差及びスリップ率差算出手段は、車輪のタイヤ特性に応じて目標とする制動力とスリップ率とを設定し、それらに基づいて目標制動流体圧差及びスリップ率差を算出することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の車両挙動制御装置。
  5. 路面の摩擦係数状態を検出する路面摩擦係数状態検出手段を備え、前記目標制動流体圧差及びスリップ率差算出手段は、前記車輪のタイヤ特性として、前記摩擦係数状態検出手段で検出された路面の摩擦係数状態から目標制動力に応じた目標スリップ率を設定することを特徴とする請求項4に記載の車両挙動制御装置。
  6. 前記路面摩擦係数状態検出手段として、車両に発生する加速度を検出する加速度検出手段を備えたことを特徴とする請求項5に記載の車両挙動制御装置。
  7. 前記目標車両挙動設定手段は、少なくとも舵角及び車体速度及び車両横滑り角から車両挙動の目標状態を設定することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の車両挙動制御装置。
  8. 前記車両挙動検出手段は、少なくとも車両のヨーレート及び車両横滑り角を検出することを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の車両挙動制御装置。
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