JP3754186B2 - 電子線光学装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は電子線を利用した装置に用いられる電子線光学装置に関するものであり、特に走査型電子顕微鏡の電子線光学装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
走査型電子顕微鏡を利用する分野は半導体素子、液晶、光磁気ディスク等の先端科学分野、金属、化学等の材料分野、医学、生物、医薬分野等多岐に亘る。
【0003】
例えば半導体製造プロセスに於いてはパターン成形時のレジストの線幅の測定等が走査型電子顕微鏡(SEM)により行われている。レジストの線幅等を観察する場合、残渣の検査、裾引き、オーバハング、異物の検査を行うのが好ましい。
【0004】
残渣の検査、裾引き、オーバハング、異物の検査は立体的な観察が必要である。立体的に試料の観察を行う場合は、電子線を試料に対して傾斜させ入射させる必要があるが、従来の電子線光学装置では試料に対して常に垂直に電子線を入射させるので、試料に対する電子線の走査は試料を保持するステージを傾斜させ対象物の側面が観察できる様にしている。
【0005】
レンズの収差には、物点が光軸から外れた場合に生ずる像のコマ、非点、歪み、湾曲軸外色収差等の軸外収差、又物点が光軸にある場合に生ずる色収差、球面収差等の軸上収差がある。いずれも分解能に影響を及ぼすものである。前記した従来の電子線光学装置で、試料側を傾斜させ電子線を傾斜させていないのは、電子線を傾斜させた場合には、電子線が対物レンズの光軸から外れ、軸外収差を発生し、小さなプローブを形成することができず分解能が低下するのを避けたからである。
【0006】
尚、軸外収差を補正する電子線光学装置としては電子描画装置に用いられている図6、図7に示すものがある。先ず、図6に示す電子線光学装置1について説明する。
【0007】
図中、2は電子線光学装置の光軸、3は電子線の偏向軌道、4は試料を示している。前記光軸2上に第1走査コイル5(第1偏向系)、第2走査コイル6(第2偏向系)、磁界型レンズである対物レンズ7(図中では等価な光学レンズとして示してある)、対物レンズ7のレンズ磁場の上に電気的に重なる様に補正偏向コイル8が配設されている。
【0008】
図示しないフィラメントより発せられた電子線は、前記第1走査コイル5により光軸2に対して偏角が与えられ、又前記第2走査コイル6により前記光軸2と平行に偏向される。前記偏角を0〜所定角度範囲で変更することで前記偏向軌道3は前記試料4に対して走査される。前記電子線が走査されることで電子線の偏向軌道3は前記対物レンズ7の光軸2から外れるが、前記補正偏向コイル8により補正偏向磁場が与えられ、前記偏向軌道3と対物レンズ7の光軸が一致する様に、前記磁界型対物レンズ7は傾斜することなく平行移動する。而して走査した場合の軸外収差が補正される。
【0009】
次に、図7に示す電子線光学装置10について説明する。尚、図6中で示したものと同一のものには同符号を付してある。
【0010】
図中、電子線光学装置10の光軸2上に第1走査コイル5、磁界型レンズである対物レンズ7(図中では等価な光学レンズとして示してある)、対物レンズ7のレンズ磁場の上に重合せる様に補正偏向コイル8が配設されている。
【0011】
図示しないフィラメントより発せられた電子線は、前記第1走査コイル5により光軸2に対して偏角が与えられ、前記第1走査コイル5により前記偏角を0〜所定角度範囲で変化させることで前記偏向軌道3は前記試料4に対して走査される。前記電子線が走査されることで電子線の偏向軌道3は前記対物レンズ7の光軸2から外れるが前記補正偏向コイル8により補正偏向磁場が与えられ、前記偏向軌道3と対物レンズ7の光軸が一致する様に、前記対物レンズ7が前記偏角と同角度で傾斜されると共に移動する。而して走査した場合の軸外収差が補正される。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上記した様に試料を立体的に観察する場合は、試料に対する電子線を傾斜させる必要がある。ステージを傾斜した場合ステージの位置精度を出す為にレーザ干渉計を搭載する必要があるが、レーザ干渉計は重くステージの傾斜機構には搭載することができない。この為、観察する試料が半導体素子の様に極微細のものでは傾斜観察を行うことが極めて困難であり、実際には測定は常に表面からの観察となり、立体像は得ていない。この為、充分な観察ができないので必要とする種々の情報を得ることができなかった。
【0013】
又、電子線光学装置1,10で示したものは、電子描画装置として開発されたものであり、加速電圧は50〜100KVと高い。半導体材料を観察する場合は入射電圧は500〜800V である必要があり、電子線光学装置1,10では半導体材料に損傷を与えてしまう。而もできるだけ、試料に入射する角度が垂直或は垂直に近い角度としている。この為、軸外収差を補正することはできるが立体観察はできない。ここで試料に損傷を与えない様に加速電圧を低くした場合、対物レンズの汚れやチャージアップにより電子線が錯乱され、計算通りに縮小されず分解能が劣化する。更に、加速電圧が低いと電子銃での空間電荷の影響により、電子銃での輝度が劣化し、理論輝度が得られない。更に又、色収差、球面収差等の軸上収差は電子線が試料に入射する時の入射電圧(VL :ランディングボルテージ)、加速電圧(V0 )の比、V0 /VL に略比例して減少するので、加速電圧を低くすると収差が大きくなり分解能が低下するという問題があった。
【0014】
本発明は斯かる実情に鑑み軸外収差を補正し、電子線光学装置の分解能を向上させると共に電子線光学装置が走査型電子顕微鏡に使用された場合に半導体素子の観察を可能とし、而も立体観察をも可能にしようとするものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、静電磁界複合対物レンズ(減速場)を持つ走査型電子顕微鏡に於いて、少なくとも1つの偏向系を有し、該偏向系により偏向された電子線の偏向軌道に対応して対物レンズ近傍に補正偏向磁場と補正偏向電場を重合わせた電子線光学装置に係り、又補正偏向磁場、補正偏向電場の少なくとも1方により下記式を略満たす電子線光学装置に係るものである。
【0016】
(1/2)rB′+r′B+(1/2)rΦ″+r′Φ′
B:対物レンズの軸上磁場分布、Φ:対物レンズの軸上静電ポテンシャル、r:光軸からの距離、′:光軸座標(Z)に関する1階微分、″:光軸座標(Z)に関する2階微分
補正偏向磁場、補正偏向電場により軸外収差が補正され、高分解能が実現され、更に減速場を形成することで高い加速電圧を用い而も試料の損傷を抑制する。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
図1は本発明の第1の実施の形態を示しており、図中、2は電子線光学装置の光軸、3は電子線の偏向軌道、4は試料を示している。前記光軸2上に第1走査コイル5、対物レンズ7(図中では等価な光学レンズとして示してある)、該対物レンズ7のレンズ磁場に重合せる様に補正偏向コイル8が配設され、この磁界型レンズである対物レンズ7の軸外収差を補正する為に、補正偏向コイル8が設けられる。又、試料4には減速電圧を印加し、この減速場により減速静電レンズ12を形成すると共に、減速静電レンズ12の軸外収差補正の為に補正偏向電極9が設けられる。この様に、補正偏向コイル8により補正された磁界型対物レンズ7と、補正偏向電極9により補正された減速静電レンズ12を重合わせることにより、補正された静電磁界複合対物レンズを形成する。
【0019】
図示しないフィラメントより発せられた電子線の加速電圧は3KV(電子ボルト)とし、又前記試料4への減速電圧の印加は−2.2KVとし、入射電圧VL が800V に制限をしている。尚、加速電圧の値、前記試料4への減速電圧の値は適宜選択すればよい。
【0020】
前記電子線は、前記第1走査コイル5により光軸2に対して偏角が与えられ、前記第1走査コイル5により所定角度偏向させ、その偏向角度を中心として所定範囲で前記偏向軌道3は前記試料4に対して走査される。前記電子線が偏向されることで偏向軌道3は前記対物レンズ7の光軸2から外れるが、前記補正偏向コイル8により補正偏向磁場が与えられ、前記偏向軌道3と対物レンズ7の光軸が一致する様に、前記対物レンズ7が前記偏角と同角度で傾斜されると共に移動する。而して走査した場合の軸外収差が補正される。更に、前記減速静電レンズ12により、軸上収差が補正されると共に、補正偏向電極9により、この減速静電レンズ12の軸外収差の補正がなされる。
【0021】
次に、前記補正偏向磁場、補正偏向電場の作用について説明する。
【0022】
補正偏向磁場、補正偏向電場のない場合の対物レンズを含む近軸の一般式は数式1で表される。
【0023】
【数式1】
ω″+ψ′ω′/2ψ+ψ″ω/4ψ−i[√(η/2ψ)](Bω′+B′ω/2)=0
【0024】
次に、補正偏向磁場、補正偏向電場、静電磁界複合対物レンズを含む近軸の一般式は数式2で表される。
【0025】
【数式2】
ω″+ψ′ω′/2ψ+ψ″ω/4ψ−i[√(η/2ψ)](Bω′+B′ω/2)=−VF1 /2ψ+[√(η/2ψ)]ID1
式中、η=e/m、ωはrの複素表示である。
【0026】
ここでψは軸上の静電ポテンシャルで減速場がない磁界レンズのみの時はψ=constant=V0 (加速電圧)でψ′=ψ″=0となり、数式2は数式3となる。
【0027】
【数式3】
ω″−i[√(η/2V0 )](Bω′+B′ω/2)=[√(η/2V0 )]ID1
【0028】
上記電子線光学装置1、電子線光学装置10では補正偏向コイル8により補正偏向磁場ID1 として(Bω′+B′ω/2)を加えることにより、ω″=0となり、補正偏向磁場により軸外収差が補正され、前記偏向軌道3が対物レンズ7の中心を通過することと等価になる。
【0029】
更に、減速場がある時は、ψ≠constantとなり、ψ′ω′+ψ″ω/2の項が追加されることとなる。この項は減速場の軸外収差を表すことになり補正偏向電極9により補正偏向電場VF1 として(ψ′ω′+ψ″ω/2)を加えることで更に減速場の軸外収差が補正される。
【0030】
前記試料4に減速電圧を印加することで加速電圧を高電圧に維持して該試料4に対する損傷を抑制する。前述した様に、収差は入射電圧VL 、加速電圧V0 の比、V0 /VL に略比例して減少するので軸上収差を減少させ得る。而して、軸外収差、軸上収差が補正でき高分解能が実現できる。
【0031】
次に、図2により第2の実施の形態について説明する。
【0032】
第2の実施の形態では第1の実施の形態に第2走査コイル6を追加したものである。第2走査コイル6の追加により、試料4に対して電子線を傾斜方向を変えながら光軸を中心として走査させることができ、試料の立体的な観察を行うことができる。
【0033】
次に、図1に示す本件発明の走査型電子顕微鏡を利用し、試料を斜め方向から観察した像を表示する為の表示装置に関して述べる。
【0034】
図3は、走査型電子顕微鏡の光軸O方向から見た試料の模式図を示すもので、13は試料であるウェーハ上に並んだ凸状の各レジストパターンを示すもので、電子線をX軸の正方向に偏向させた場合にはAの領域が、それと逆方向の場合にはCの領域でのレジストパターンが走査され、同様に、Y軸方向に電子線を偏向させた場合には、Bの領域及びDの領域が走査されることになる。
【0035】
図4A〜Dは、前記A〜Dの4つの領域でのそれぞれの観察像を示すもので、図4Aには、凸状のレジストパターンの左傾斜部を含めた像が観察され、同様に図4Bは下傾斜部、図4Cは右傾斜部、図4Dは上傾斜部の像を含めたレジストパターン像が観察される。この様に電子線の光軸を中心とした同心円状で少なくとも4つの方向に電子線を偏向させ、それぞれの方向から見たレジストパターン像を記憶し、この記憶された各像を同時に並べて表示装置上に表示することにより、凸状の各レジストパターンの略全周方向から見た立体像を認識することができる。
【0036】
尚、図5は前記4つの観察像を重合わせて表示したものである。尚、これらの4つの観察像を基に、コンピューターにより演算を行い、真の立体観察像を表示する様にすることも可能である。尚、図2に示す本件発明の走査型電子顕微鏡を利用した場合には、光軸上のレジストパターンの周囲の傾斜面を同時に観察することができる。
【0037】
尚、本発明に斯かる走査型電子顕微鏡を半導体製造工程に利用した場合、半導体産業では単位時間当たりのスループットがコストダウンに重要な影響を果たしているが、立体的な観察を行うのに試料を傾斜させる必要がない為、ステージの傾斜機構が省略できる。更に、機械的に試料を傾斜した場合、視野がずれるので視野を戻す作業が必要となり、多くの時間を要するが、斯かる時間ロスを無くすことができ、スループットを向上させ得る。更に又、傾斜機構等の機構部分が省略できるので、ステージの耐振性や位置精度が大幅に向上する。
【0038】
【発明の効果】
以上述べた如く本発明によれば、加速電圧を低くすることなく試料に与える損傷を抑制でき、走査型電子顕微鏡への実施が可能であると共に、高分解能を実現でき、更に高加速電圧とすることから電子線が絞りの汚れに影響を受けることがなく長期間の高分解能を維持でき、又理論輝度が得られ、明るいSEM像が得られる。又試料に減速電圧を印加し、減速電場を形成しているので小さい偏向角度でより大きな入射角が得られる為、偏向収差も小さく抑えられる。
【0039】
更に、試料に対して電子線を傾斜して入射できるので、傾斜機構等の機構を設けることなく立体観察が可能となり、更に傾斜機構等の機構部分が省略できるので、ステージの耐振性や位置精度が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す概念図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態を示す概念図である。
【図3】本発明に於ける光軸に対する試料の位置及び走査範囲を示す説明図である。
【図4】試料の位置に対応して得られる像の説明図である。
【図5】図4A,B,C,Dを合成した像の説明図である。
【図6】従来例の電子線光学装置を示す概念図である。
【図7】従来例の他の電子線光学装置を示す概念図である。
【符号の説明】
1 電子線光学装置
2 光軸
3 偏向軌道
4 試料
5 第1走査コイル
6 第2走査コイル
7 対物レンズ
8 補正偏向コイル
9 補正偏向電極
10 電子線光学装置
12 減速静電レンズ
Claims (2)
- 減速静電レンズと磁界型レンズとの重合わせから成る静電磁界複合対物レンズを持つ走査型電子顕微鏡に於いて、少なくとも1つの偏向系を有し、該偏向系により偏向された電子線の偏向軌道に対応して前記磁界型レンズの軸外収差を補正する為の補正偏向磁場と、前記減速静電レンズの軸外収差を補正する為の補正偏向電場とを前記静電磁界複合対物レンズに重合わせたことを特徴とする電子線光学装置。
- 電子線を試料面上で光軸に対する略同心円状の各領域に偏向し、各領域での像を同時に表示する請求項1の電子線光学装置。
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