以下、本発明の実施例について、図面に基づいて詳細に説明する。尚、実施例を説明するための全図において、同一の要素には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。以下、電子線を使用した検査装置における実施例を示すが、イオンビームを使用する場合、また、計測装置や一般的な電子顕微鏡の場合においても本発明の効果は失わない。また、実施例では、電子線を使用した例を示すが、電子に限らず荷電粒子を用いる場合において応用でき、その場合には、夫々の構成の名称につき、電子を荷電粒子と置き換えて考慮すればよい。
図2は、本発明の第1の実施例に係るマルチビーム型の電子線検査装置の概略構成を示す図である。
まず、装置構成について説明する。電子銃201は、仕事関数の低い物質よりなる陰極202、陰極202に対して高い電位を持つ陽極205、陰極と陽極の間に形成される加速電界に磁場を重畳する電磁レンズ204からなる。本実施例では、大きな電流が得やすく電子放出も安定したショットキー型の陰極を用いた。電子銃201から一次電子ビーム203が引出される下流方向には、マルチビーム形成部102、ビームセパレーター211が配置される。ここで、本実施例においては、マルチビーム形成部102は、コリメーターレンズ207、同一基板に複数の開口を配列したアパーチャーアレイ208、複数の開口を有するレンズアレイ209から構成される。図2においてはビームセパレーター211の左側に収差補正器212、静電ミラー213を、ビームセパレーター211の下側に対物レンズ214、走査偏向用偏向器215、ステージ218を、ビームセパレーター211の右側に二次電子検出器223a~c等を配置して構成している。さらに、電子光学系には、電流制限用絞り、一次ビームの中心軸(光軸)調整用アライナ等も付加されている(図示せず)。ステージ218は上にウェハ217を載置して移動する。
ウェハ217には後述するように負の電位(以下、リターディング電位と称する)を印加する。図示していないが、ウェハ217とステージ218の間にはウェハと導通の取れた状態でウェハホルダが介在し、このウェハホルダにリターディング電源219aを接続してウェハホルダ、およびウェハ217に所望の電圧を印加する構成としている。
ウェハ217から電子銃方向側には、表面電界制御電極216を設置している。走査偏向用偏向器215には走査信号発生装置237、表面電界制御電極216には表面電界制御電源219bを接続している。電子銃201、コリメーターレンズ207、レンズアレイ209、ビームセパレーター211、収差補正器212、静電ミラー213、対物レンズ214、リターディング電源219a、及び表面電界制御電源219bの各部には、光学系制御部239が接続し、さらに光学系制御部239にはシステム制御部235が接続している。ステージ218にはステージ制御装置238が接続し、さらに、二次電子検出器223a~c、走査偏向用偏向器215も同様にシステム制御部235に接続している。システム制御部235には記憶装置232、演算部233、欠陥判定部234が配置され、画像表示装置236が接続している。また、図示していないが、制御系、回路系以外の構成要素は真空容器内に配置しており、真空排気して動作させていることは言うまでもない。また、真空外からウェハをステージ上に配置するウェハ搬送系が具備されていることも言うまでもない。
次に、この電子線検査装置を使用したウェハパターン検査について説明する。
電子源202から放出された一次ビーム203は、電磁レンズ204による集束作用を受けながら陽極205の方向に加速され、第一の電子源像206(ビーム径が極小になる点)を形成する。図示しないが、一般的な電子銃によく見られるように電子銃201には絞りを配置しており、所望の電流範囲の電子ビームが絞りを通過するように構成している。陽極205、電磁レンズ204に印加する電流、電圧等を変えれば、絞りを通過する一次ビームの電流量を所望の電流量に調節することが可能となっている。また、図示しないが電子銃202とコリメーターレンズ207の間には一次電子ビームの光軸を補正するアライナが配置され、電子ビームの中心軸が絞りや電子光学系に対してずれている場合に補正できる構成となっている。第一の電子源像206を光源としてコリメーターレンズ207は一次ビームを略平行に整える。本実施形態においてコリメーターレンズ207は電磁レンズである。アパーチャーアレイ208は複数の開口を有し、一次ビームはアパーチャーアレイ208の開口を通過したビームの数に分割される。図2においては、そのうち3本のビームについて図示する。分割された一次ビームはレンズアレイ209によって個別に集束され、複数の第二の電子源像210a,210b,210cが形成される。レンズアレイ209は、それぞれ複数の開口を有する3枚の電極からなり、このうち中央の電極に電圧を印加することにより、開口部を通過する一次ビームに対してアインツェルレンズとして作用するものである。尚、本出願人は先に、ビームの本数を複数にしたマルチビーム型の荷電粒子線応用装置として、例えば特開2007-317467号「荷電粒子線応用装置」を提案し、レンズアレイの構成を開示しており、該公知のレンズアレイを用いてもよい。
レンズアレイ209により個別に集束された一次ビーム203はビームセパレーター211内に入射する。本実施形態においては、ビームセパレーター211は磁界プリズムで構成し、入射ビームと出射ビーム軌道を逆向きに90度偏向して分離させる機能を持つものとしたが、偏向の方向や角度が異なる場合においても、本発明の効果は失われない。また、磁界プリズム以外のビームセパレーター、例えば一次ビームの入射方向に対して垂直な面内に互いに直交する磁場と電場を発生させる、ウィーンフィルターなどを使用した場合においても本発明の効果は失われない。
磁界プリズムによる収差の発生をさけるため、複数の第二の電子源像210a,210b,210cはビームセパレーター211の入射面に形成する。図2の紙面上側からビームセパレーター211に射した一次ビーム203が、図2の紙面左側に出射され、複数の第二の電子源像210a,210b,210cと対応する複数の第三の電子源像220a,220b,220cがビームセパレーター211の出射面に形成される。尚、ビームセパレーター211にAdv. Imaging and Electron Physics(Ed. Hawkes), Vol. 120, 41, (2001). に報告された磁界プリズムを採用すると、プリズムの入射面と出射面だけでなく、経路の丁度半分の位置にも像を形成し、その面において軌道は反対称となるため、プリズム分離器による収差を回避することができる。
ビームセパレーター211を出射し、複数の第三の電子源像220a,220b,220cを形成した後、一次ビーム203は収差補正器212に入射し、静電ミラー213に照射される。一次ビーム203は静電ミラー213により反射され、再び収差補正器212を通過し、ビームセパレーター211に入射する。このため、一次ビーム203は、静電ミラー213による反射の前後で二回収差補正器212を通過する。詳細は後述するが、収差補正器212の通過の前後で一次ビーム軌道は等倍の電子光学系を構成するので、ビームセパレーター211の入射面、すなわち第三の電子源像と同じ位置に第四の電子源像220a,220b,220cを形成する。
図2の紙面左側より再びビームセパレーター211に入射した一次ビーム203は、今度は紙面下側へ出射し、出射面において第五の電子源像221a,221b,221cを形成する。対物レンズ214は電磁レンズであり、第五の電子源像221a,221b,221cを縮小投影する。収差補正器212の効果により電子光学系の各要素で発生した収差は補正され、試料であるウェハ217に到達した複数の一次ビーム203の拡がりは、検査に必要な分解能を満たす程度に、十分に小さく絞られる。
走査偏向用の偏向器215は、対物レンズ中に静電八極型で構成、設置されている。走査信号発生装置237により偏向器215に信号が入力されると、中を通過する複数本の一次ビーム203は、略同一方向に且つ略同一角度だけ偏向作用を受け、ウェハ217をラスタ走査する。
ウェハ217にはリターディング電源219aにより負の電位が印加されており、一次ビームを減速させる電界が形成される。リターディング電源219a、および表面電界制御電源219bは他の光学素子、即ち、電子銃201、コリメーターレンズ207、レンズアレイ209、ビームセパレーター211、収差補正器212、静電ミラー213、対物レンズ214と同様に、光学系制御部239を介してシステム制御部235により統一的に制御される。ステージ218はステージ制御装置238により制御される。システム制御部235はウェハ217上の所定の領域を、ステージ進行方向に並んだ1ストライプずつ検査すべく、走査信号発生装置237およびステージ制御装置238を統一的に制御し、予めキャリブレーションを実施する。尚、本実施例の検査装置では、検査実行時にはステージが連続に移動していて、走査による偏向とステージ移動の組合せにより、一次ビームが帯状の領域を順次走査するように制御される。この帯状領域は所定の検査領域を分割したものであり、複数の帯状領域を走査することによって所定の検査領域全体が走査される。
ウェハ217の表面に到達した複数本の一次ビーム203は、試料表面付近の物質と相互に作用する。これにより、反射電子、二次電子、オージェ電子等の二次的な電子が試料から発生し、二次ビーム222となる。
表面電界制御電極216は、ウェハ217の表面付近の電界強度を調整し、二次ビーム222の軌道を制御するための電極である。ウェハ217に対向して設置され、ウェハ217に対して正電位または負電位または同電位が表面電界制御電源219bにより印加される。表面電界制御電源219bにより表面電界制御電極216に印加される電圧は、ウェハ217の種類や観察対象に応じて適した値に調整する。例えば、発生した二次ビーム222を積極的にウェハ217の表面に戻したい場合には、表面電界制御電源219bには負電圧を印加する。逆に、二次ビーム222がウェハ217の表面に戻らないよう、表面電界制御電源219bには正電圧を印加することもできる。
表面電界制御電極216の通過後、二次ビーム222は、対物レンズ214の集束作用を受け、さらにビームセパレーター211により、図2紙面右側に偏向され、検出器223a、223b、223cに到達する。二次電子検出系240は、検出器223a~c、A/D変換器231、記憶装置232、演算部233、欠陥判定部234で構成される。欠陥判定部234では、検出された信号は増幅回路230a、230b、230cにより増幅され、A/D変換器231によりデジタル化され、システム制御部235内の記憶装置232に画像データとして一旦格納される。その後、演算部233が画像の各種統計量の算出を行い、最終的には欠陥判定部234が予め求めておいた欠陥判定条件に基づき欠陥の有無を判定する。判定結果は画像表示装置236に表示される。以上の手順で、ウェハ217内の検査すべき領域を端から順にパターン検査できる。
尚、本実施形態は、若干の変更点を加えることにより、描画装置としての適用が可能である。主な変更点は、マルチビーム形成部102と二次電子検出系240の2点である。描画装置として適用する場合においては、マルチビーム形成部102において、レンズアレイ209の下流に電子ビームを個別にON/OFFするブランカアレイが必要である。また、二次電子検出系240は、ビームキャリブレーションの実施などに応用可能であるが、必須の機構ではない。
次に、図2中の収差補正器212及び静電ミラー213の詳細について、図3~5を使用して説明する。
まず、静電ミラーによる反射がない場合の軸外収差の補正方法について説明する。図3は、軸外収差を補正するための四極子場及び八極子場強度と、収差補正器中における基準軌道を模式的に表したものである。基準軌道とは、空間をx, y, zの3軸による直交座標系で表現し、電子光学系光軸をz軸、かつ光軸からの離軸距離をr( = sqrt(x2+y2))とするとき、物面をr = 0、かつ光軸に対する軌道の傾きdr/dz = 1の条件で出射する電子ビーム軌道(軸上基準軌道)と、物面をr = 1、光軸と平行(dr/dz = 0)の条件で出射する電子ビーム軌道(軸外基準軌道)のことである。電子ビーム軌道は、近似的には二階の微分方程式で表され、軸上基準軌道と軸外基準軌道は、その方程式の2つの独立解であり、全ての理想的な軌道は軸上基準軌道と軸外基準軌道によって表現できる。
収差補正器は、2つのコリメーターレンズ301a,bの間に静電四極子、静電八極子、磁界四極子を配置して構成する。各静電四極子場の強度は302a~nに対応し、図3では14個の静電四極子を使用している。同様に、各静電八極子場の強度、各磁界四極子場の強度はそれぞれ303a~o(15個)、304a,b(2個)に対応する。電子光学系に四極子が配置されている場合、電子ビームの軌道は回転対称でなくなるため、x-y平面において2種類の基準軌道を考慮する必要がある。そこで、軸上基準軌道305、軸外基準軌道306のうち、それぞれaをx方向、bをy方向と呼ぶことにする。
収差を補正するためには凹レンズが必要である。回転対称な電子レンズでは凹レンズの場を形成できないため、多極子を使用する。各電子ビームが異なる軌道を通ることにより発生する収差(幾何収差)は、四極子場と八極子場を重畳すれば補正できる。電子ビームのエネルギーのばらつきによって発生する収差(色収差)は、四極子場を静電と磁界の両方で構成し、そのバランスを変えることによって補正できる。
ここで、前述のとおり、基準軌道はx方向及びy方向について考慮する必要がある。収差補正器の外側において、電子光学系は基本的に回転対称な場を通るので、収差補正器内の軌道もx方向、y方向で、総合して同じ軌道を通る必要がある。このため、静電四極子場の強度302a~n、静電八極子場強度303a~o、磁界四極子場強度304a,bの対称性が重要となる。図3において、各多極子場は、対称面307a~cに関し、対称あるいは反対称な場を形成している。例えば、矢印で示した領域Aにおいて、静電四極子場強度は対称面307aを境に302a = 302g、302b = 302f、302c = 302eであり対称な場、静電八極子場強度も303a = 303g、303b = 303f、303c = 303eであり対称な場を形成している。領域Bに関しても同様である。領域AとBを比較すると、四極子場は静電、磁界ともに対称面307bを境として反対称な場を形成している。例えば磁場四極子場強度は、304a = -304bのように符号が逆となっている。静電八極子場に関しては対称面307bを境として対称な場を形成している。このような対称性を考慮した場を形成することによって、x方向軸上基準軌道305aとy方向軸上基準軌道305bは、対称面307bを境として、互いの軌道を入れ替えた軌道をとる。x方向軸外基準軌道306aとy方向軸外基準軌道306bに関しても同様である。従って、収差補正器の構成は、基本的には等倍の電子光学系構成となる。
続いて、本実施形態における収差補正器と静電ミラーを組み合わせた場合に関して説明する。上述のとおり、軸外収差補正器には対称面が存在する。図3中の対称面307bの位置に静電ミラーを配置すれば、軌道は静電ミラーにより反射され、これまでの軌道を逆向きにたどり、対称な場を対称な軌道で通過する。従って、図3における領域Aの後に静電ミラー213を配置すれば、図3に示した多極子場を半数程度まで減らすことができる。図4は、静電ミラーと収差補正の為の多極子場を組み合わせた場合の多極子場強度と基準軌道を模式的に表した図であり、(a)に静電ミラーにより反射される前、(b)は、静電ミラーにより反射された後に関して示す。尚、図4(b)では図4(a)と同じ符号を用い、多極子場強度を表す符号に関しては「’」をつけて示した。
図4(a)における多極子場410は図2における収差補正器212を形成する場であり、磁界四極子場と静電八極子場の組み合わせで構成する。静電八極子場は、図3中の領域Aに配置されているものと同じ(静電八極子場強度303a~g)である。磁界四極子場強度404a~gは、図3中の領域Aに配置されている静電四極子場強度302a~gとほぼ同様の強度を示し、磁界四極子場強度404dは図3中の静電四極子場強度302dに磁界四極子場強度304aを足し合わせた強度である。すなわち、四極子場は磁界で形成し、八極子場は静電で形成する。これは、図3中の対称面307bに関し、八極子場が対称、四極子場が反対称だからである。図4(a)と(b)における多極子場をそれぞれ比較すると、例えば八極子場は303a = 303a’、303b = 303b’であるのに対し、四極子場は404a = -404a’、404b = -404b’となっており、八極子場は同一で、四極子場は全て正負が逆転させる必要がある。荷電粒子が磁界により受ける力の方向は、荷電粒子の進行方向によって変化するので、磁界で構成された多極子場の強度は、電子ビームの進行方向の反転に伴い、正負が反転する。四極子場を磁界で構成すると、静電ミラーの反射の前後、すなわち電子ビームの進行方向の反転に伴い、四極子場の正負が反転する。これが、静電八極子場と磁界四極子場で多極子場を構成した理由である。これにより、図4(a)、(b)で示したとおり、軸上基準軌道は、405aと405b’、405bと405a’が同じ軌道となり、x方向軸上基準軌道とy方向軸上基準軌道が総合的に同じ軌道となる。軸外基準軌道に関しても同様である。
図5に、本実施例における収差補正器212の構成を、静電ミラー213の概略図と合わせて示す。尚、図5の構成は図2と方向を合わせたため、図4とは左右が反転している。図4において磁界四極子場と静電八極子場の位置が一致しているもの(例えば磁界四極子強度404aと静電八極子強度303aなど)が5つ、一致していないものが、磁界四極子強度、静電八極子強度でそれぞれ2つずつある。これを受けて、図5は5つの静電八極子兼磁界四極子501a~e、2つの磁界四極子502a,b、2つの静電八極子503a,bで構成される。静電八極子兼磁界四極子501a~eの構成は、極子の数を12として、磁界、静電のそれぞれの場が四極、八極になるように電流電圧を調整してもよいし、また、電気的には8つの電極、磁気的には4つの磁極となるよう、電気的、或いは磁気的に絶縁した部品を組み合わせてもよい。
前述したとおり、幾何収差は四極子場に八極子場を重畳することによって補正し、色収差は四極子場を静電と磁界の両方で構成しそのバランスを変えることによって補正する。図4の構成では、四極子場を磁界のみで構成するため、色収差が補正できない。また、図4では、図3における八極子場強度303hを静電ミラーの位置に配置する必要があり、配置が難しい。図3における八極子場強度303hは、開口収差の補正に使用するものである。ここで、静電ミラーの構成として、例えばAdv. Imaging and Electron Physics(Ed. Hawkes), Vol. 120, 41, (2001).に示される構成をとれば、色収差及び開口収差を補正することが可能である。色収差及び開口収差を静電ミラー213で補正し、それ以外の収差を収差補正器212で補正する構成とすれば、ほぼ全ての収差に関して補正することが可能となる。尚、色収差、開口収差の補正が必要ない場合においては、静電ミラーの構成はもっと単純な構成、例えば一枚の平板電極に電子ビームの加速電圧と同程度の電圧を印加するような構成であっても構わず、それ以外の静電ミラーの構成であっても本発明の効果は失わない。
第一の実施例においては、図3に示す軸外収差補正器において、静電ミラーを対称面307bの位置に配置する構成とした。これに対し、本実施例においては、図3に示す軸外収差補正器の対称面307a及びcの位置に静電ミラーを配置し、収差補正器と静電ミラーの組み合わせを二箇所に配置する構成をとる。
図6は本発明の第二の実施例に係るマルチビーム型の電子線検査装置の概略図である。電子銃201、陰極202、陽極205、電磁レンズ、コリメーターレンズ207、アパーチャーアレイ208、レンズアレイ209の配置は、図2で示した配置に対して右回りに90度回転させ、ビームセパレーター211に対し図6紙面右側に配置する。構成及び機能は図2と同様である。図6においてはビームセパレーター211の上側に収差補正器601a、静電ミラー602aを、ビームセパレーター211の左側に収差補正器601b、静電ミラー602bを、ビームセパレーター211の下側にビームセパレーター603、対物レンズ214、走査偏向用偏向器215、ステージ218を配置している。更に、ビームセパレーター603の右側には二次電子検出器223a~c等を配置して構成している。
収差補正器601a,b、静電ミラー602a,b、及びビームセパレーター603は、他の構成要素と同様に光学系制御部239に接続する。それ以外の構成及びその接続に関しては、図2と同様であるためここでは説明を省略する。電子光学系には、電流制限用絞り、一次ビームの中心軸(光軸)調整用アライナ等も付加されている(図示せず)。また、図示していないが、制御系、回路系以外の構成要素は真空容器内に配置しており、真空排気して動作させていることは言うまでもない。また、真空外からウェハをステージ上に配置するウェハ搬送系が具備されていることも言うまでもない。
この電子線検査装置を使用したウェハパターン検査方法は、実施例1とほぼ同じであるので、ここでは、主に実施例1と異なる箇所について説明する。電子銃201から出射した一次ビーム605は、コリメーターレンズ207、アパーチャーアレイ208、レンズアレイ209を通過して個別に集束され、複数の第二の電子源像604a,604b,604cを形成し、ビームセパレーター211に入射する。第一の実施形態と同様に、本実施形態においても、ビームセパレーター211は磁界プリズムで構成し、入射ビームと出射ビーム軌道を逆向きに90度偏向して分離させる機能を持つものとした。実施例1で述べたとおり、ビームセパレーターとして、偏向の方向や角度が異なる磁界プリズムを採用する場合、また、磁界プリズム以外の、ウィーンフィルターなどを採用した場合においても本発明の効果は失われない。磁界プリズムによる収差の発生をさけるため、複数の第二の電子源像604a,604b,604cはビームセパレーター211の入射面に形成する。また、符号による説明は省略したが、実施例1で延べたとおり、ビームセパレーター211の入射面に形成された複数の電子源像604a,604b,604cは、ビームセパレーター211を通過するたびに入射面及び出射面に投影され、ビームセパレーター211による収差の発生を回避する。
図6の紙面右側からビームセパレーター211に射した一次ビーム605は、紙面上側に出射されて収差補正器601aに入射し、静電ミラー602aに照射される。静電ミラー602aにより反射され、再び収差補正器601aを通過し、ビームセパレーター211に入射する。紙面上側より再びビームセパレーター211に入射した一次ビーム605は、今度は紙面左側へ出射し、同様に収差補正器601bに入射し、静電ミラー602bに照射、反射され、再び収差補正器601bを通過し、ビームセパレーター211に入射し、紙面下側へ出射する。従って、一次ビーム605は、静電ミラー602a,bによる反射の前後で、それぞれ二回ずつ収差補正器601a,bを通過する。
ビームセパレーター211を出射した一次ビーム605は、ビームセパレーター603に入射する。ビームセパレーター603は、一次ビーム605と二次ビーム606を分離する目的で使用され、本実施形態においては、一次ビームの入射方向に対して概略垂直な面内に互いに直交する磁場と電場を発生させ、通過する電子に対してそのエネルギーに対応した偏向角度を与えるウィーンフィルターを採用した。本実施形態においては、一次ビームが直進するように磁場と電場の強さを設定し、さらに、反対方向から入射する二次電子ビームに対しては所望の角度に偏向するように電磁場の強さを調節・制御する。ウィーンフィルターにより発生する収差の影響を考慮する場合には、一次ビームの結像面、すなわち複数の電子源像604a,604b,604cの投影面をビームセパレーター603の高さに合わせて配置することが好ましい。そのためにはビームセパレーター603とビームセパレーター211の間に1つ以上の電磁レンズ或いは静電レンズを追加すればよい。
尚、本実施形態においては、ウェハ217における一次ビームによる二次ビームの発生を含めると、電子ビームの方向が反転する箇所が3箇所存在する。ビームセパレーターが偏向角90度の磁界プリズム(ビームセパレーター211)の一つのみでは空間が不足するため、ウィーンフィルター(ビームセパレーター603)との組み合わせを採用する形態としたが、これ以外の形式を採用した場合においても本発明の効果は失われない。例えば、偏向角108度の磁界プリズムを利用すれば、一つのビームセパレーターのみで電子ビームの反転箇所を3箇所とることが可能である。
実施例1で示したとおり、一次ビーム605は、ビームセパレーター603を通過した後、対物レンズ214による集束作用を受けて試料であるウェハ217の表面に照射される。システム制御部235はウェハ217上の所定の領域を、ステージ進行方向に並んだ1ストライプずつ検査すべく、走査信号発生装置237およびステージ制御装置238を統一的に制御し、予めキャリブレーションを実施する。尚、本実施例の検査装置では、検査実行時にはステージが連続に移動していて、走査による偏向とステージ移動の組合せにより、一次ビームが帯状の領域を順次走査するように制御される。この帯状領域は所定の検査領域を分割したものであり、複数の帯状領域を走査することによって所定の検査領域全体が走査される。
収差補正器601a,bの効果により電子光学系の各要素で発生した収差は補正され、試料であるウェハ217に到達した複数の一次ビーム605の拡がりは、検査に必要な分解能を満たす程度に、十分に小さく絞られる。
ウェハ217から発生した二次ビーム606は、対物レンズ214の集束作用を受け、さらにビームセパレーター603により、図6紙面右側に偏向され、検出器223a、223b、223cに到達する。表面電界制御電極216による電界強度調整や検出器信号の処理などは実施例1と同様である。
尚、本実施形態は、若干の変更点を加えることにより、描画装置としての適用が可能である。主な変更点は、マルチビーム形成部102と二次電子検出系240の2点である。描画装置として適用する場合においては、マルチビーム形成部102において、レンズアレイ209の下流に電子ビームを個別にON/OFFするブランカアレイが必要である。また、二次電子検出系240は、ビームキャリブレーションの実施などに応用可能であるが、必須の機構ではない。
次に、図6中の収差補正器601a,b及び静電ミラー602a,bの詳細について、図3及び図7~9を使用して説明する。
既に述べたとおり、本実施例においては、図3における収差補正器の対称面のうち、307a及び307cの位置に静電ミラーを配置する。図3中の対称面307aの位置に静電ミラーを配置すれば、電子ビームの軌道は、静電ミラーにより反射され、これまでの軌道を逆向きにたどり、対称な場を対称な軌道で通過し、領域Aにおける多極子場の数を半分程度まで減らすことができる。また、対称面307cの位置に静電ミラーを配置する場合、領域Aを出射した電子ビームの軌道を考えると、対称な場を対称な軌道で通過し、領域Bにおける多極子場の数を半分程度まで減らすことができる。つまり、領域Aにおける多極子場強度と基準軌道を実現する為の構成が図6における収差補正器601a及び静電ミラー602aであり、領域Bにおける多極子場強度と基準軌道を実現する為の構成が図6における収差補正器601b及び静電ミラー602bである。図3における領域Aと領域Bは、対称面307bを境として対称或いは反対称な場、及び軌道となっているので、いずれか一方を説明すれば十分である。そこで、以下では、領域Aに関して、すなわち図6における収差補正器601a及び静電ミラー602aについてのみ言及する。
図7は、本実施形態における、静電ミラーと収差補正の為の多極子場を組み合わせた場合の、多極子場強度と基準軌道を模式的に表した図である。実施例1で説明したとおり、対称面を境として、多極子場が対称な場合には静電、反対象の場合には磁界で多極子場を形成すればよい。図3における対称面307aでは、全ての多極子場及び電子ビーム軌道が対称となるので、四極子場、八極子場はともに静電とする。すなわち、図7は、収差補正器を構成する多極子場は、静電四極子場強度302a~c及び703、静電八極子場強度303a~dとなり、静電ミラー602a、コリメーターレンズ301aとの組み合わせで収差補正器が実現できる。このとき、静電四極子場強度703は、図3中の静電四極子場強度302dに磁界四極子場強度304aを足し合わせた強度となる。
ここで、静電四極子強度703、静電八極子強度303dを形成するための多極子は、静電ミラー602aの位置に配置する必要があるが、四極子場は基準軌道の形成に不可欠であり、静電四極子強度703は省略できない。そこで、本実施形態においては、静電ミラーの反射電位を形成する電極の形状を12極に分割し、静電ミラー場と多極子場を重畳する。図8は、静電ミラー場と多極子場を重畳する構成及び方法に関する図である。図8(a)に静電ミラー602aの反射電位を形成する電極の形状を、x軸及びy軸と合わせて示す。通常、静電ミラーを構成する電極は、光軸方向に沿って複数枚の電極を配置する場合には、各電極に異なる電圧を印加するが、光軸上で同じ位置に配置する電極は一枚であり、印加する電圧は1種類である。すなわち、反射電位を形成する電極も一枚で形成し、印加電圧は反射電位電圧のみとすることが一般的である。これに対し、本実施形態においては、図8に示したように、静電ミラー602aの反射電位を形成する電極は12個の電極801~812に分割され、十二極子の形状をとる。ここで、図8(b)~(d)は、電極801~812に印加する電圧を成分ごとに分解して示したものであり、それぞれ(b)反射電位成分、(c)静電四極子場成分、(d)静電八極子場成分を表す。静電ミラーの効果を持たせるためには、図8(b)に示すように、全電極に反射電位Vmを印加する。静電四極子場を形成するためには、静電四極子電位Vqを、図8(c)に示すように印加する。静電八極子場を形成するためには、静電八極子電圧Voを、図8(d)に示すように印加する。各電極に図8(b)~(d)の成分を足した電圧を印加すれば、3つの場を重畳することができる。この様子を示したものが図8(e)であり、ここに示す電圧を図8(a)における電極801~812に印加すれば、静電ミラー場と多極子場を重畳することが可能となる。
図9に、本実施例における収差補正器601aの構成を、静電ミラー602aの概略図と合わせて示す。尚、図9の構成は図6と方向を合わせたため、図7と比較して90度左回転している。収差補正器601aは、2つの静電八極子兼静電四極子901a,b、1つの静電四極子902、1つの静電八極子903で構成される。静電八極子兼静電四極子の構成は、図8で説明した場の重畳の方法を利用して、極子の数を12とし、それぞれの場が四極、八極になるように電圧を調整すれば実現可能である。
ここで、図3で示したとおり、幾何収差は四極子場に八極子場を重畳することによって補正し、色収差は四極子場を静電と磁界の両方で構成しそのバランスを変えることによって補正する。図7の構成では、四極子場を静電のみで構成するため、色収差が補正できない。また、図7では、図3における、開口収差の補正に使用するための八極子場強度303hはビームセパレーター211の位置に配置する必要があり、配置が難しい。そこで、本実施例においても実施例1同様、静電ミラーとして例えばAdv. Imaging and Electron Physics(Ed. Hawkes), Vol. 120, 41, (2001).に示される構成をとれば、色収差及び開口収差を補正することが可能である。色収差及び開口収差を静電ミラー602a,bで補正し、それ以外の収差を収差補正器601a,bで補正する構成とすれば、ほぼ全ての収差に関して補正することが可能となる。尚、色収差、開口収差の補正が必要ない場合においては、静電ミラーの構成はもっと単純な構成であっても勿論構わず、それ以外の静電ミラーの構成であっても本発明の効果は失わない。
第一の実施例においては、図3における軸外収差補正器における静電八極子場強度303hの位置が、静電ミラー213の位置と一致したため、静電八極子場強度303hに対応する静電八極子を配置しなかった。これに対し、第二の実施例においては、図3における軸外収差補正器における静電四極子場強度302d及び静電八極子場強度303dの位置が、静電ミラー601aの位置と一致したが、静電ミラー601aの構成を工夫することにより多極子場と静電ミラー場の重畳を実現する方法を示した。そこで、本実施例においては、第一の実施例の装置構成において、静電ミラー213に静電八極子場強度303hを重畳する方法を示す。本実施例は静電ミラー213の構成以外においては実施例1と同様であるので、静電ミラー213の構成及び場の重畳方法に関する説明のみ行う。それ以外の項目に関しては、実施例1を参照されたい。
図10は、本実施例における静電ミラー場と多極子場を重畳する構成及び方法に関する図である。図10(a)に静電ミラー312の反射電位を形成する電極の形状を、x軸及びy軸と合わせて示す。実施例2で説明したとおり、静電ミラーの反射電位を形成する電極は一枚で形成し、印加電圧は反射電位電圧のみとすることが一般的である。これに対し、本実施形態においては、図10に示したように、静電ミラー312の反射電位を形成する電極は8個の電極1001~1008に分割され、八極子の形状をとる。ここで、図10(b)(c)は、電極1001~1008に印加する電圧を成分ごとに分解して示したものであり、それぞれ(b)反射電位成分、(c)静電八極子場成分を表す。静電ミラーの効果を持たせるためには、図10(b)に示すように、全電極に反射電位Vmを印加する。静電八極子場を形成するためには、静電八極子電圧Voを、図10(c)に示すように印加する。各電極に図10(b)(c)の成分を足した電圧を印加すれば、2つの場を重畳することができる。この様子を示したものが図10(d)であり、ここに示す電圧を図10(a)における電極1001~1008に印加すれば、静電ミラー場と多極子場を重畳することが可能となる。
本実施例においては、実施例1或は3で示した収差補正器を写像型検査装置に適用する。
図11は、本発明の第4の実施例に係る写像型の電子線検査装置の概略構成を示す図である。
電子銃1101は、仕事関数の低い物質よりなる陰極1102、陰極1102に対して高い電位を持つ陽極1105、陰極と陽極の間に形成される加速電界に磁場を重畳する電磁レンズ1104からなる。本実施例では、大きな電流が得やすく電子放出も安定したショットキー型の陰極を用いた。電子銃1101から一次電子ビーム1103が引出される下流方向には、ビームセパレーター211が配置される。図11においてはビームセパレーター211の下側に対物レンズ1106、ステージ1107を、ビームセパレーター211の右側に収差補正器212、静電ミラー213を、ビームセパレーター211の上側には投影レンズ1108、検出器1109を配置して構成している。さらに、電子光学系には、電流制限用絞り、一次ビームの中心軸(光軸)調整用アライナ、二次ビームの中心軸(光軸)調整用アライナ等も付加されている(図示せず)。ステージ1107は上にウェハ217を載置して移動する。
ウェハ217には後述するように負の電位(以下、リターディング電位と称する)を印加する。図示していないが、ウェハ217とステージ1107の間にはウェハと導通の取れた状態でウェハホルダが介在し、このウェハホルダにリターディング電源1110を接続してウェハホルダ、およびウェハ217に所望の電圧を印加する構成としている。
電子銃1101、ビームセパレーター211、対物レンズ1106、収差補正器212、静電ミラー213、投影レンズ1108、リターディング電源1110の各部には、光学系制御部1130が接続し、さらに光学系制御部1130にはシステム制御部1131が接続している。ステージ1107にはステージ制御装置1137が接続し、さらに、検出器1109は検出信号処理回路1132を通じてシステム制御部1131に接続している。システム制御部1131には記憶装置1133、演算部1134、欠陥判定部1135が配置され、画像表示装置1136が接続している。また、図示していないが、制御系、回路系以外の構成要素は真空容器内に配置しており、真空排気して動作させていることは言うまでもない。また、真空外からウェハをステージ上に配置するウェハ搬送系が具備されていることも言うまでもない。
次に、この電子線検査装置を使用したウェハパターン検査について説明する。
電子源1102から放出された一次ビーム1103は、電磁レンズ1104による集束作用を受けながら陽極1105の方向に加速され、ビームセパレーター211に入射する。図示しないが、一般的な電子銃によく見られるように電子銃1101には絞りを配置しており、所望の電流範囲の電子ビームが絞りを通過するように構成している。陽極1105、電磁レンズ1104に印加する電流、電圧等を変えれば、絞りを通過する一次ビームの電流量を所望の電流量に調節することが可能となっている。また、図示しないが電子銃1102とビームセパレーター211の間には一次電子ビームの光軸を補正するアライナが配置され、電子ビームの中心軸が絞りや電子光学系に対してずれている場合に補正できる構成となっている。
実施例1~3同様、本実施形態においては、ビームセパレーター211は磁界プリズムで構成し、入射ビームと出射ビーム軌道を逆向きに90度偏向して分離させる機能を持つものとしたが、偏向の方向や角度が異なる場合においても、本発明の効果は失われない。磁界プリズム以外のビームセパレーター、例えば一次ビームの入射方向に対して垂直な面内に互いに直交する磁場と電場を発生させる、ウィーンフィルターなどを使用した場合においても本発明の効果は失われない。
図11紙面左側よりビームセパレーターに入射した一次ビーム1103は紙面下側へ出射し、電子源像1111を対物レンズ1106の前焦点面に形成する。これにより、一次ビーム1103は略平行に整えられ、試料であるウェハ217の広い領域を一度に照射することができる。
ウェハ217にはリターディング電源1110により負の電位が印加されており、一次ビームを減速させる電界が形成される。リターディング電源1110は他の光学素子、即ち、電子銃1101、ビームセパレーター212、対物レンズ1106、静電ミラー213、投影レンズ1108と同様に、光学系制御部1130を介してシステム制御部1131により統一的に制御される。ステージ1107はステージ制御装置1137により制御され、システム制御部1131はウェハ217上の所定の領域をステージ進行方向に並んだ1ストライプずつ検査すべく、ステージ制御装置1137を制御する。また、予めキャリブレーションが施される。
一次ビーム1103を試料表面上に衝突させる場合、試料表面付近の物質と相互に作用し、反射電子、二次電子、オージェ電子等の二次的な電子が試料から発生し、二次ビーム1120となる。或いは、リターディング電位による減速効果を強くし、一次ビーム1103を試料表面上に衝突させずに引き戻し、ミラー電子となった一次ビーム1103を二次ビーム1120として利用することも可能である。
二次ビーム1120は、リターディング電源1110による加速効果を受けて対物レンズに入射する。対物レンズのレンズ作用により、ウェハを物面とした場合の対物レンズ像面位置にウェハ投影面1121を形成する。写像型検査装置においては、ウェハ投影面を検出器上に拡大投影することにより検査を行う。
二次ビームは、対物レンズ通過後に再びビームセパレーター211に入射する。磁界プリズムによる収差の発生をさけるため、ウェハ投影面1121はビームセパレーター211の入射面に形成する。図11の紙面下側からビームセパレーター211に射した二次ビーム1120が、紙面右側に出射され、ウェハ投影面1121と対応するウェハ投影面1122がビームセパレーター211の出射面に形成される。尚、ビームセパレーター211にAdv. Imaging and Electron Physics(Ed. Hawkes), Vol. 120, 41, (2001). に報告された磁界プリズムを採用すると、プリズムの入射面と出射面だけでなく、経路の丁度半分の位置にも像を形成し、その面において軌道は反対称となるため、プリズム分離器による収差を打ち消すことができる。
ビームセパレーター211を出射し、ウェハ投影面1122を形成した後、二次ビーム1120は収差補正器212に入射し、静電ミラー213に照射される。二次ビーム1120は静電ミラー213により反射され、再び収差補正器212を通過し、ビームセパレーター211に入射する。二次ビーム1120は、静電ミラー213による反射の前後で二回収差補正器212を通過する。収差補正器212の通過の前後で等倍の電子光学系が構成されており、ビームセパレーター211の入射面に再びウェハ投影面を形成する。図11紙面右側より入射した二次ビームは、今度は紙面上側へ出射し、出射面においてウェハ投影面1123を形成する。このウェハ投影面1123を投影レンズ1108によって検出器1109上に拡大投影し、ウェハの拡大投影像を得る。尚、図11に示された投影レンズ1108は1つの電磁レンズを想定したが、拡大倍率の増大や像歪の補正などの目的で、複数の電磁レンズ、一つ或いは複数の静電レンズ、或いはその組み合わせで構成される場合もある。
収差補正器212の効果により、電子光学系の各要素で発生した収差は打ち消され、検査に必要な分解能を満たす程度に鮮明なウェハの拡大投影像が取得できる。
検出器1109は、CCDカメラやTDIセンサ等の、画素数に対応した複数の検出デバイスを空間的に分布させて構成する。ウェハの拡大投影像は、それぞれ対応する位置に配置された検出デバイスにより信号検出され、その信号を検出信号処理回路1132に伝達する。システム制御部1131内の記憶装置1133に画像データとして一旦格納された後、演算部1134が各種統計量の算出を行い、最終的には欠陥判定部1135が予め求めておいた欠陥判定条件に基づき欠陥の有無を判定する。判定結果は画像表示装置1136に表示される。以上の手順で、ウェハ217内の検査すべき領域を端から順にパターン検査できる。
先に述べたとおり、収差補正器212及び静電ミラー213の構成及び機能は、実施例1或いは3におけるものと同様であるため、ここでは説明を省略する。図3、4、5、9、10を参照されたい。
本実施例においては、実施例2で示した収差補正器を写像型検査装置に適用する。
図12は、本発明の第5の実施例に係る写像型の電子線検査装置の概略構成を示す図である。電子銃1101の構成及び機能は図11と同様であるので説明を省略する。電子銃1101の下流にはビームセパレーター1202が配置され、ビームセパレーター1202の下側には物レンズ1106、ステージ1107を配置する。ビームセパレーター1202の上側には中間レンズ1201を配置し、その更に上にビームセパレーター211を配置する。ビームセパレーター211の右側に収差補正器601a、静電ミラー602aを、ビームセパレーター211の上側に収差補正器601b、静電ミラー602bを、ビームセパレーター211の上側に投影レンズ1108、検出器1109を配置して構成している。
収差補正器601a,b、静電ミラー602a,b、中間レンズ1201及びビームセパレーター1202は、他の構成要素と同様に光学系制御部1130に接続する。それ以外の構成及びその接続に関しては、図11と同様であるためここでは説明を省略する。電子光学系には、電流制限用絞り、一次ビームの中心軸(光軸)調整用アライナ等も付加されている(図示せず)。また、図示していないが、制御系、回路系以外の構成要素は真空容器内に配置しており、真空排気して動作させていることは言うまでもない。また、真空外からウェハをステージ上に配置するウェハ搬送系が具備されていることも言うまでもない。
この電子線検査装置を使用したウェハパターン検査方法は、実施例4とほぼ同じであるので、ここでは、主に実施例4と異なる箇所について説明する。電子銃201から出射した一次ビーム1203は、ビームセパレーター1202に入射する。ビームセパレーター1202は、一次ビーム1203と二次ビーム1204を分離する目的で使用され、本実施形態においては、二次ビームの入射方向に対して概略垂直な面内に互いに直交する磁場と電場を発生させ、通過する電子に対してそのエネルギーに対応した偏向角度を与えるウィーンフィルターを採用した。本実施形態においては、二次ビームが直進するように磁場と電場の強さを設定し、さらに、反対方向から入射する一次電子ビームに対しては所望の角度に偏向するように電磁場の強さを調節・制御する。ウィーンフィルターにより発生する収差の影響を考慮するためには、二次ビームのウェハ投影面1121をビームセパレーター1202の高さに合わせて配置することが好ましい。詳細は後述する。
ビームセパレーター1202を通過した一次ビーム1203は、実施例4と同様に電子源像1111を対物レンズ1106の前焦点面に形成し、ウェハ217の広い領域を一度に照射する。ステージ1107はステージ制御装置1137により制御され、システム制御部1131はウェハ217上の所定の領域をステージ進行方向に並んだ1ストライプずつ検査すべく、ステージ制御装置1137を制御する。また、予めキャリブレーションが施される。
二次ビーム1204が発生し、リターディング電位による加速効果を受けて対物レンズに入射する。対物レンズのレンズ作用により、ウェハを物面とした場合の対物レンズ像面位置にウェハ投影面1121を形成する。先に述べたとおり、ビームセパレーター1202の収差の影響を避ける為、二次ビームのウェハ投影面1121をビームセパレーター1202の高さに合わせて配置する。実施例4で説明したとおり、磁界プリズムによる収差の発生を回避するため、ウェハ投影面はビームセパレーター211の入射面に形成する。中間レンズ1201はウェハ投影面1121をビームセパレーター211の入射面に投影するべくレンズ強度を調整する。尚、本実施形態において中間レンズ1201は電磁レンズを想定しているが、静電レンズを使用する場合でも本発明の効果は失われない。
二次ビーム1204は、対物レンズ、ビームセパレーター1202、中間レンズを通過してビームセパレーター211に入射し、中間レンズ1201によりウェハ投影面1121を投影し、ビームセパレーター211の入射面にウェハ投影面1205を形成する。第四の実施形態と同様に、本実施形態においても、ビームセパレーター211は磁界プリズムで構成し、入射ビームと出射ビーム軌道を逆向きに90度偏向して分離させる機能を持つものとした。実施例4で述べたとおり、ビームセパレーターとして、偏向の方向や角度が異なる磁界プリズムを採用する場合、また、磁界プリズム以外の、ウィーンフィルターなどを採用した場合においても本発明の効果は失われない。また、符号による説明は省略したが、実施例4で延べたとおり、ビームセパレーター211の入射面に形成されたウェハ投影面1205は、ビームセパレーター211を通過するたびに入射面及び出射面に投影され、ビームセパレーター211による収差の発生を回避する。尚、本実施形態においては、ウェハ217における一次ビームによる二次ビームの発生を含めると、電子ビームの方向が反転する箇所が3箇所存在する。ビームセパレーターが偏向角90度の磁界プリズム(ビームセパレーター211)の一つのみでは空間が不足するため、ウィーンフィルター(ビームセパレーター1202)との組み合わせを採用する形態としたが、これ以外の形式を採用した場合においても本発明の効果は失われない。例えば、偏向角108度の磁界プリズムを利用すれば、一つのビームセパレーターのみで電子ビームの反転箇所を3箇所とることが可能である。
図12の紙面下側からビームセパレーター211に射した二次ビーム1204は、紙面右側に出射されて収差補正器601aに入射し、静電ミラー602aに照射される。静電ミラー602aにより反射され、再び収差補正器601aを通過し、ビームセパレーター211に入射する。紙面右側より再びビームセパレーター211に入射した一次ビーム605は、今度は紙面上側へ出射し、同様に収差補正器601bに入射し、静電ミラー602bに照射、反射され、再び収差補正器601bを通過し、ビームセパレーター211に入射し、紙面左側へ出射する。従って、二次ビーム1204は、静電ミラー602a,bによる反射の前後で、それぞれ二回ずつ収差補正器601a,bを通過する。
ビームセパレーター211を出射した二次ビーム1204は、投影レンズ1108を通過して検出器に到達する。このとき、ウェハ投影面1123を投影レンズ1108によって検出器1109上に拡大投影し、ウェハの拡大投影像を得る。尚、図11と同様に、投影レンズ1108は1つの電磁レンズを想定したが、複数の電磁レンズ、一つ或いは複数の静電レンズ、或いはその組み合わせで構成される場合もある。
収差補正器601a,bの効果により、電子光学系の各要素で発生した収差は打ち消され、検査に必要な分解能を満たす程度に鮮明なウェハの拡大投影像が取得できる。実施例4と同様に、検出器1109からウェハの拡大投影像の信号を検出信号処理回路1132に伝達し、システム制御部1131内の記憶装置1133、演算部1134、欠陥判定部1135を通じて欠陥判定条件に基づき欠陥の有無を判定する。判定結果は画像表示装置1136に表示される。
先に述べたとおり、収差補正器601a,b及び静電ミラー602a,bの構成及び機能は、実施例2におけるものと同様であるため、ここでは説明を省略する。図3、6、7、8を参照されたい。
実施例1において、一般的な静電ミラーが適用可能であるため静電ミラーの構成に関して詳細を記述せず、実施例2~5において、図8及び図10に示すとおり、静電ミラーの反射電位を形成する電極を分割し、静電ミラー場と多極子場を重畳する構成に関して記述した。本実施例においては、静電ミラーの反射電位を形成する電極を同心円状に分割し、複数の電極として配置する構成に関して記述する。
図13に静電ミラーの反射電位を形成する電極形状の概略図を示す。図13(a)は、従来構成の概略図であり、静電ミラーを収差補正器として用いた場合に、反射電位を形成する電極1301と、電極1301に印加する反射電圧用電源1310、電極1301付近で形成される等電位面1302の様子を、z-x平面図(或いはz-y平面図)で示している。静電ミラーを収差補正器として機能させるためには、静電ミラーの反射面が凹面鏡の役割を果たす必要がある。このため、等電位面1302は、荷電粒子と反発する電位で凹面とする構成が必要であり、図13(a)に示すように、電極1301を凹面形状とし、反射電圧用電源1310には負電圧を印加する。例えばAdv. Imaging and Electron Physics(Ed. Hawkes), Vol. 120, 41, (2001).に、反射電位を形成する電極の表面形状が凹面であることが記述されている。
これに対し、本実施形態における静電ミラーの反射電位を形成する電極形状は、平面上に同心円状の電極を複数並べる構成とする。図13(b)にそのx-y平面における概略図、図13(c)にz-x或いはz-y平面における概略図を示す。図13(c)には等電位面1302’を併せて示す。本実施例においては、静電ミラーの反射電位を形成する電極(反射電極)は電極1303~1305の三枚とし、それぞれの電極に個別に電圧を印加するため、反射電圧用電源1311~1313を接続する。等電位面を凹面とするためには、中心よりも外部の方が、より高い負電圧となるため、中心電極1303に印加するための電圧よりも、中間電極1304、外部電極1305と外に進むほど印加電圧が高くなるよう、反射電圧用電源1311~1313の出力電圧を設定する。これにより、等電位面1302’は、図13(a)における等電位面1302と同様の形状とすることが可能である。また、上述の物理的な凹面形状を有する一枚の電極1301では、凹面の曲率と単一の電位で収差の補正量が決まっていたのに対し、本発明の静電ミラーでは、同心円状に分割された複数の電極1303~1305により実効的な凹面の曲率を任意に設定できるので、収差の補正量を制御することが可能である。さらに、例えばマスキングと露光により、図13(b)(c)に示す同心円状の電極を作成すれば、簡単に同軸度の高い電極を作ることができ、静電ミラーの調整が簡単になる。
次に、本発明に係る静電ミラーを用いた荷電粒子線応用装置の構成について、説明する。これまでの実施例2~5については、軸外収差の補正を可能とする収差補正について説明したが、本発明については、軸外収差とは異なる軸上収差、すなわち、球面収差及び軸上色収差を補正することを可能とする装置について説明する。ここでは、図2のマルチビーム型の電子線検査装置を例にして、説明する。本発明に係る静電ミラーを用いた電子線検査装置では、図2のような、マルチビーム型の電子線検査装置のみならず、一次電子ビームを複数の電子ビームに分割しない一般的な単一の一次電子ビームによる電子線装置にも適用可能である。以下、図2との相違点について述べる。
図2では、マルチビーム形成部102が配置されているが、この静電ミラーにおいては、マルチビーム形成部102が不要であり、電子線が複数に分割されずに、ビームセパレーター211に入射する構成とする。この場合には、マルチビーム形成部102の代わりに一次電子ビームを集束させるための集束レンズを設ければよい。また、この場合において、ビームセパレーター211から出射した一次電子ビームは、実質的に軸外軌道を含まない一次電子ビームであるため、収差補正器212は不要となる。そして、静電ミラー213として上述の構成の静電ミラーが用いられる。中心電極1303、中間電極1304、外部電極1305は光学系制御部239に接続され、それぞれの電極は光学系制御部239により制御される。その静電ミラーは、軸上収差、すなわち球面収差及び軸上色収差を補正する機能を備えているので、一次電子ビームがこの静電ミラーにより反射されることにより球面収差及び軸上色収差を補正することができる。反射後の一次電子ビームは、ビームセパレーター211に再入射し、ウェハに照射される。なお、ビームセパレーター211を2回通過する構成で説明したが、この実施形態に限定されるものではなく、夫々別のビームセパレーターに1回ずつ入射するよう2つのビームセパレーターを用いてもよいし、1つのビームセパレーターを用いて、静電ミラーに入射前、又は反射前に1回のみ通過する構成であってもよい。つまり、ビームセパレーターは、一次電子ビームが、電子源から静電ミラーを経由して、ウェハに到達するために用いられるものであって、この経路を辿れば、どのようにビームセパレーターを配置しても構わない。また、二次電子検出系240の二次電子検出器223a~cについては、複数あっても構わないが、少なくとも1つの二次電子検出器があればよい。
本実施形態においては、一般的な単一の一次電子ビームによる電子線装置に適用した例について記述したが、実施例1〜5における静電ミラー(静電ミラー213、静電ミラー602a、bのいずれか或いはその両方)として本実施例に係る静電ミラーを適用すれば、軸上収差、すなわち球面収差及び色収差を補正することが可能である。
尚、本実施形態においては、同心円状電極の数を3としたが、電極の数が変動した場合においても発明の効果は失わない。つまり、電極の数が2以上あれば良い。また、図13(b)は、静電ミラーの一次電子ビームの反射に主に寄与する箇所の構成であって、静電ミラーの反射に主に作用する電極に図13(b)の構成が含まれていれば静電ミラーとして図示しない構成があっても構わない。
以上に詳述してきた数々の実施例においては、電子線を使用した検査に関する例を示したが、イオンビームを使用する場合、計測装置や描画装置等一般的な電子顕微鏡の場合においても本発明の効果は失わない。また、以上に示した実施例においては、観察対象である試料としてウェハを例にとりあげたが、ウェハの一部分を切り出したもの、あるいは磁気ディスクや生物試料等の半導体以外の構造物である場合においても、本発明の効果は失わない。