JP7200062B2 - 荷電粒子ビーム装置 - Google Patents
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Description
荷電粒子ビーム装置の中でも、結像機能を持ち、微細な描画、造形、および観察等を目的とする装置は、用いるビームの収差およびぼけが小さいことを要求される。電子ビーム描画装置、電子ビーム3次元造形装置、走査型電子顕微鏡、および透過型電子顕微鏡は、そのような装置の代表である。
可変成形電子ビーム描画装置は、微細な描画を可能としつつ、かつ高い描画スループットを得ることを目的に生み出された電子ビーム描画装置である。可変成形電子ビーム描画装置は、主に、半導体デバイス製造用のフォトマスクの描画に用いられる。
可変成形電子ビーム描画装置は、上記目的のため、被描画材料(被露光材料)上における電子ビームの断面の形状および寸法を可変とし、その形状および寸法を、描画されるパターンに応じて制御する。ここで、被描画材料上における電子ビームの断面は、そのビームにより一度に露光される領域を決定する。
上記照射の結果、第1の成形開口板3の下に、光源の像5が結ばれる。光源の像5の位置は、図22において、光源4の高さ位置に起点を持つ光線(二点鎖線)が交わる位置に一致する。上記光学系の生む光源の像(光源の像5、16、および19)は、いずれも、これら光線が交わる位置に結ばれる。
上記光学系は、次に、第1の成形開口板3の開口の像を、成形レンズ6により、第2の成形開口板7に投影する。その像の位置は、図22において、第1の成形開口板3の高さ位置に起点を持つ光線(実線)が最初に交わる位置に一致する。上記光学系の生む成形開口板の開口の像(投影図形11を含む)は、いずれも、これら光線が交わる位置に結ばれる。
上記光学系は、そして、第1の成形開口板3の開口の像と第2の成形開口板7の開口との重なりにより生じる図形(論理積)の像を、縮小レンズ8と対物レンズ9により、材料10に投影する。即ち、材料10が露光される。材料10には、レジスト(感光材料)が塗布されている。
上記露光の結果、材料10上のレジストが感光する。即ち、投影図形11が材料10上のレジストに転写される。
従って、投影図形11の形状、寸法、位置、および露光時間を制御することで、材料10に所望のパターンが描画できる。
対物偏向器13は、8極の静電偏向器(多極子)である。対物偏向器13の目的は電子ビーム1の二次元偏向であるから、対物偏向器13の極数は4極(X偏向およびY偏向用にそれぞれ2極)としてもよいが、その場合、対物偏向器13の中心からの半径に対し非線形な電位成分が新たに生じ、従って、その電位成分に由来する偏向収差が無視できなくなる。対物偏向器13の極数を8極とすることで、その電位成分が低減され、従って、その電位成分に由来する偏向収差が低減される。
ブランカー15は、図22に示すように、上下2段の構成となっている。これは、ブランカー15に2つの自由度を持たせることで、ブランカー15の偏向支点の高さ位置と偏向量の両方を制御するためである。より具体的には、ブランカー15の偏向支点の高さ位置を第1の成形開口板3の高さ位置に一致させるとともに、ブランキング開口板17の開口の中心からの光源の像16の位置を変えるためである。ここで、ブランカー15の偏向支点の高さ位置を第1の成形開口板3の高さ位置に一致させるのは、ブランカー15の作動とともに投影図形11の電流密度分布(明るさ分布)の形が変わるのを防ぐためである。
ここで、ブランキング開口板17は、縮小レンズ8と対物レンズ9から構成されるケーラー照明光学系において、ブランカー15の作動とともに投影図形11の全体的な明るさを制限する絞り(明るさ絞り)と見なせる。ブランキング開口板17は、また、ブランカー15の作動とともに、材料10の高さ位置における電子ビーム1の収束角を制限する絞りとも見なせる。これに対し、第1の成形開口板3および第2の成形開口板7は、上記照明光学系において視野を制限する絞り(視野絞り)と見なせる。
可変成形電子ビーム描画装置の描画スループットおよび寸法精度の向上には、材料10上において、電子ビーム1の電流密度が高いこと、および電子ビーム1のぼけが小さいことがそれぞれ要求される。ここで、電子ビーム1のぼけは、電子ビーム1の電流密度が高いほど大きくなりやすい。従って、描画スループットを向上させようとするほど、電子ビーム1のぼけを小さくする必要が増す。可変成型電子ビーム描画装置に要求される描画スループットと寸法精度は年々高くなっているから、その必要は、年々増している。
図22の光学系は、上記アライメントのため、アライナ18を備えている。アライナ18は、磁界型の偏向器である。
材料10上に現れる軸外色収差は、上記理由から、投影図形11内の座標に依存するとともに、電子ビーム1に含まれる主光線の、対物レンズ9(または、その他のレンズ)の中心からの全体的な位置ずれにも依存する。本明細書においては、前者(投影図形11内の座標)への依存よりも、後者(電子ビーム1に含まれる主光線の対物レンズ9またはその他のレンズの中心からの全体的な位置ずれ)への依存を重視し、特に明示のない限り、専ら、後者に依存する色収差を、軸外色収差とする。ただし、後者に依存する色収差であっても、偏向器類(対物偏向器13およびアライナ18)による電子ビーム1の偏向に原因する色収差は、本明細書においては、特に、偏向色収差と称する。
補足すれば、電子ビーム1に含まれる各主光線は、材料10上において、軸外色収差のみを示すが、その各主光線周りの光線は、材料10上において、軸外色収差と軸上色収差の和を示す。ここで、軸上色収差は、その一般の定義通り、電子ビームに含まれる各主光線周りの光線が像面(図22の光学系においては、材料10の表面)上においてその各主光線に対して示す色収差を指す。
このように荷電粒子ビームの加速電圧またはそのビームに対するレンズ類の励磁電流を増減する動作は、一般に、ウォブリング(wobbling)と呼ばれる。荷電粒子ビームの加速電圧またはそのビームに対するレンズ類の励磁電流のウォブリングを利用した軸外色収差測定およびビームアライメントは、電子ビーム描画装置や電子顕微鏡を始めとする荷電粒子ビーム装置に、広く用いられている。これらの装置においては、加速電圧またはレンズ励磁電流のウォブリングを利用した軸外色収差測定およびビームアライメントにより決定された荷電粒子ビームの軌道に対し、一般に、それぞれ電圧軸または電流軸との名称が付される。
補足すれば、対物レンズ9の中心は、必ずしも対物レンズ9の機械的な中心を意味しない。さらに補足すれば、材料10上の軸外色収差は、電子ビーム1の、対物レンズ9の中心からの位置ずれだけでなく、電子ビーム1の、それ以外のレンズ(即ち、縮小レンズ8)の中心からの位置ずれにも、また、アライナ18による電子ビーム1の偏向の大きさにも、依存する。しかし、以降では、説明の便宜上、上記軸外色収差が零となるとき、電子ビーム1は対物レンズ9の中心を通ると見なす。
アライナ18がこのように上下2段構成になっているのは、アライナ18の偏向支点の高さ位置とアライナ18による電子ビーム1の偏向量との両方を制御するためである。そのような制御としては、例えば、アライナ18の偏向支点の高さ位置を、第2の成形開口板7(物面)の高さ位置に一致させつつ、対物レンズ9の高さ位置における電子ビーム1の位置を変える制御、即ち、投影図形11の位置を変えることなく、電子ビーム1の対物レンズ9の中心からの位置ずれを変える制御が考えられる。この制御によれば、アライナ18を作動させることと、ナイフエッジ法による測定を行うことの交互の繰り返しが容易となる。
上記制御が可能なのは、第2の成形開口板7(物面)の高さ位置と、材料10の表面(像面)の高さ位置が、互いに光学的に共役な関係にあることによる。即ち、上記偏向支点が像面に写像されることによる。ただし、上記偏向支点は、見かけ上の偏向支点、即ち、アライナ18により偏向された電子ビーム1の軌道を電子ビーム1の上流側に延長して定義される偏向支点である。
アライナ18による電子ビーム1のアライメントに関する自由度は、合計4つである。これは、合計2段のアライナ(アライナ18Uおよび18L)のそれぞれにより、互いに線形独立な2方向(X方向およびY方向)に電子ビーム1が偏向されることによる。これに対し、ブランカー15による電子ビーム1の偏向に関する自由度は、先述のように合計2つである。これは、ブランカー15による電子ビーム1の偏向の方向は、ブランカー1段当たり1つの方向で済むことによる。
図23に示す電流密度分布は、ぼけのない投影図形11の電流密度分布(矩形分布)と、電子ビーム1のぼけの分布(例えばガウス分布)を畳み込んだ結果であり、即ち、投影図形11の現実の電流密度分布を表す。その分布は、電子ビーム1のぼけが小さいときは、図23中に実線で示すように、エッジの鋭い(傾斜の立った)分布となるが、電子ビーム1のぼけが大きいときは、図23中に破線で示すように、エッジの鈍い(傾斜の寝た)分布となる。
ただし、可変成型電子ビーム描画装置においては、上記偏向収差の全てが補正されるわけではない。具体的には、上記偏向収差のうち、通常補正されるのは、偏向歪収差、偏向像面湾曲収差、および、偏向非点収差(2回非点収差)である。これらのうち、偏向歪収差は、偏向信号に歪補正信号を重畳することにより補正され、偏向像面湾曲収差および偏向非点収差は、それぞれ、静電型のフォーカス補正器(図示せず)および非点補正器(図示せず)で補正される。ただし、偏向像面湾曲収差および偏向非点収差は、それぞれ、偏向信号にフォーカス補正信号および非点補正信号を重畳する(対物偏向器13にフォーカス補正器および非点補正器を兼ねさせる)ことによっても補正されうる(特許文献2を参照)。
ここで、偏向像面湾曲収差および偏向非点収差が静電型の補正器で補正されるのは、これらの補正が動的補正であることによる。即ち、これらの補正は、偏向座標に応じて高速に行われる必要がある。一方、先述のアライメント後に材料10上に残るデフォーカスと非点収差の補正は、静的補正であり、従って、高速に行われる必要はない。
そのような測定系を構成したうえで、材料ステージ14によりナイフエッジ20およびファラデーカップ21を電子ビーム1の入射位置まで移動させ、対物偏向器13により電子ビーム1を微小偏向することにより、ナイフエッジ20をそのエッジの方向と垂直な方向に走査し、その間、電子ビーム1がナイフエッジ20に遮られることにより変化する電子ビーム1の電流をファラデーカップ21で受ければ、目的の信号(ファラデーカップ吸収電流信号)が得られる。
ここで、ファラデーカップ21で受けられる電流は、電子ビーム1の、ナイフエッジ20により遮られなかった部分の電流である。もし可能なら、その電流の代わりに、ナイフエッジ20により遮られた部分の電流を検出することによっても、同様の信号が得られる。ただし、その際は、ナイフエッジ20に吸収された部分の電流を検出する。
ファラデーカップ吸収電流信号から投影図形11の位置、大きさ、およびエッジの鈍さ(ぼけの大きさ)を得るには、ファラデーカップ吸収電流信号を解析装置(図示せず)に入力し、その解析装置によりファラデーカップ吸収電流信号を時間(あるいは位置XまたはY)で微分すればよい。そうすれば、図23に示すような電流密度分布を反映した信号波形が得られ、従ってその信号波形から、これら目的の量が抽出できる。即ち、その信号波形の時間(あるいは位置XまたはY)軸方向位置、より具体的には、その信号波形の立ち上がりおよび立ち下がりのエッジの位置から、投影図形11の位置および大きさが得られ、その信号波形の鈍りから、投影図形11のエッジの鈍さ(ぼけの大きさ)が得られる。
図24には便宜上、ナイフエッジ20が1つしか描かれていないが、図24の測定系には、X偏向用とY偏向用のナイフエッジ20が備えられる。ここで、X偏向用およびY偏向用のナイフエッジは、それぞれ、Y方向およびX方向のエッジを有する。従って、ナイフエッジ20により、X方向およびY方向の上記量が得られる。
上記測定は、ナイフエッジ20を、電子反射体、例えば重金属製の細線(図示せず)に置き換えても可能である。ただしその場合は、その電子反射体を、対物偏向器13により電子ビーム1を偏向することにより走査し、その電子反射体で反射される電子を反射電子検出器(図示せず)で受け、それから得られる反射電子信号の波形を解析する。その反射電子検出器は、例えば、対物レンズ9の直下に設ける。
上記のような電子反射体は、例えばAu薄膜からなり、従って多くの場合、自立させるのが困難である。そのため、一般に、上記のような電子反射体は、それより原子番号の小さい材料でできた基板、例えばSi基板上に形成される。ここで、その基板の原子番号をその基板上の電子反射体の原子番号より小さくするのは、その基板で反射される電子の量と、その基板上の電子反射体で反射される電子の量との間に差を設けるためである。即ち、上記測定に十分な反射電子コントラストを得るためである。
ここで、残存する一部の収差とは、具体的には、コマ収差である。このコマ収差は、より具体的には、図22の光学系に寄生するコマ収差であり、さらに具体的には、図22中のレンズ類を始めとする光学系要素の加工・組立誤差に原因し、対物偏向器13により電子ビーム1を偏向しない状態において、材料10またはナイフエッジ20上に現れるコマ収差である。便宜上、以降の説明におけるコマ収差およびその他の収差は、材料10またはナイフエッジ20上に現れるそれらであるものとする。
このコマ収差は、幸い、原理的に補正可能である。これは、このコマ収差は、原理的に、軸外色収差と同様に、電子ビーム1に含まれる主光線の軌道に依存し、従って電子ビーム1の軌道次第で零になりうることによる。このようにコマ収差が零となる電子ビームの軌道およびアライメント条件を、一般に、それぞれコマフリー軸およびコマフリー条件と呼ぶ。
ナイフエッジ法によるコマ収差の測定およびコマフリー条件の特定は、簡単には、例えば、ナイフエッジ20により、コマ収差によるぼけを含む電子ビーム1のぼけを測定し、そのぼけが最小となるようにアライナ18により電子ビーム1をアライメントすれば、可能と考えられる。しかし、そのような測定およびアライメントを繰り返しても、実際には、多くの場合、コマフリー条件は特定されえない。
これは、コマ収差を小さくすべく上記アライメントにより電子ビーム1に含まれる主光線の軌道を変えると、多くの場合、それとともにコマ収差以外の収差およびぼけが予期せず変化することによる。即ち、コマ収差の減少が、それ以外の収差またはぼけの増加により見かけ上打ち消され、そのため逆に増加として観測されうる。
その状況下で上記測定およびアライメントを繰り返した末に見つかるのは、あくまでも、コマ収差を含む全ての収差およびぼけの合成による全体のぼけを最小とするアライメント条件であり、コマ収差を最小とするアライメント条件ではなく、コマ収差以外の収差およびぼけを最小とするアライメント条件でもない。即ち、コマ収差と、それ以外の収差およびぼけは、多くの場合、同時にはそれぞれ最小とならない。
ここで注意すべきは、寸法精度向上という先述の目的のためには、コマ収差を含め全ての補正可能な収差およびぼけを同時または段階的にそれぞれ最小即ち零とすることが望ましいが、そうするには、いずれはコマ収差を零とする必要があることである。即ち、コマ収差以外の収差およびぼけの如何によらず、コマフリー条件を特定する必要がある。ここでさらに注意すべきは、コマ収差を含め全ての補正可能な収差およびぼけを同時または段階的にそれぞれ零とするには、コマ収差だけを零とするアライメント条件即ちコマフリー条件と、それ以外の補正可能な収差およびぼけを零とするアライメント条件のいずれかまたは両方ではなく、コマ収差を零とし、かつそれ以外の補正可能な収差およびぼけも同時に零とするアライメント条件を、いずれは特定する必要があることである。
ここで、ナイフエッジ20に由来する見かけ上のぼけとは、ナイフエッジ20の実効的な厚さが、ナイフエッジ20の先端からの距離に依存することに原因して発生するぼけである。その実効的な厚さは、電子ビーム1の流れる方向がナイフエッジ20のエッジ端面に対して成す角度が零でない限り、ナイフエッジ20の先端からの距離とともに増加する。
その角度とともに上記見かけ上のぼけが変わるのは、その角度とともにナイフエッジ20の実効的な厚さが変わることによる。以降で、このことを、図26Aおよび図26Bを用いて説明する。図26Aは、ナイフエッジ20の上下2つのエッジのうち、より鋭角なエッジが電子ビーム1の上流側にある場合における、電子ビーム1およびナイフエッジ20を示す。図26Bは、ナイフエッジ20の上下2つのエッジのうち、より鋭角なエッジが電子ビーム1の下流側にある場合における、電子ビーム1およびナイフエッジ20を示す。
図26Aおよび図26Bに示すように、電子ビーム1の流れる方向がナイフエッジ20のエッジ端面に対して成す角度をβ(>0、rad)と置き、さらにナイフエッジ20の先端からの距離をx、ナイフエッジ20の本来の厚さをt、ナイフエッジ20の実効的な厚さ、即ち電子ビーム1から見たナイフエッジ20の厚さをt’と置けば、t’は、0≦x<βt、およびx≧βtの範囲において、それぞれ、(1)および(2)式で表せる。
もしβが零であれば、ナイフエッジ20の実効的な厚さt’は、零付近のxに対してステップ的な変化を、即ち、最小値から最大値(または最大値から最小値)への急峻な変化を示す。従って、電子ビーム1を構成する電子に対するナイフエッジ20の見かけ上の透過率も、零付近のxに対して急峻な変化を示す。その結果、ファラデーカップ吸収電流信号の波形から得られる電子ビーム1の電流密度分布は、鋭いエッジを示す。
しかし、βが零でなければ、ナイフエッジ20の実効的な厚さt’、および上記透過率はともに、0≦x<βtの範囲のxに対してなだらかな変化を示す。その結果、ファラデーカップ吸収電流信号の波形から得られる電子ビーム1の電流密度分布は、鈍いエッジを示す。つまり、βtの分だけ、電子ビーム1のぼけが、見かけ上、大きくなる。
これらの軸の全てが同時に一致しなければ、先述の測定およびアライメントを繰り返しても、コマ収差、軸外色収差、および上記見かけ上のぼけが同時にそれぞれ最小となることはない。その結果、全体のぼけの最小値が、即ち、コマ収差、軸外色収差、上記見かけ上のぼけ、およびアライメント条件に依存しないぼけ(主として軸上色収差)の全ての合成によるぼけの最小値が、大きくなる。
これについて、以下で、図27A、図27B、および図27Cを用いて説明する。ただし、これらの図では、便宜上、コマ収差、軸外色収差、および上記見かけ上のぼけのうち、コマ収差と軸外色収差を扱う。
まず、図27Aに、コマ収差と軸外色収差のうち仮に軸外色収差のみが存在する場合における、電子ビーム1のぼけとアライメント信号との関係の例を示し、次に、図27Bに、コマ収差と軸外色収差の両方が存在し、かつコマフリー軸と電圧軸または電流軸とが互いに一致しない場合における、電子ビーム1のぼけとアライメント信号との関係の例を示す。より詳細には、図27Aには、軸外色収差、およびアライメント信号に依存しないぼけ(主として軸上色収差)とともに、これらの合成による全体のぼけを示し、図27Bには、コマ収差、軸外色収差、およびアライメント信号に依存しないぼけとともに、これらの合成による全体のぼけを示す。図27Aおよび図27Bにおいて、Iaは、アライナ18に入力されるアライメント信号の一成分を表す。
図27Aから分かるように、上記前者の場合においては、全体のぼけを最小とするIaの強度は、軸外色収差を最小とするIaの強度に一致する。しかし、図27Bから分かるように、上記後者の場合においては、全体のぼけを最小とするIaの強度は、コマ収差を最小とするIaの強度にも、軸外色収差を最小とするIaの強度にも一致しない。その結果、図27Aと図27Bを見比べれば分かるように、上記後者の場合(図27B)における全体のぼけの最小値は、上記前者の場合(図27A)におけるそれより大きくなっている。
同様のことは、コマ収差と上記見かけ上のぼけの両方が存在し、かつコマフリー軸と上記見かけ上のぼけを最小とする軸とが互いに一致しない場合にも言える。さらには、コマ収差、軸外色収差、および上記見かけ上のぼけの全てが存在し、かつコマフリー軸、電圧軸または電流軸、および上記見かけ上のぼけを最小とする軸の全てが同時に一致することのない場合にも言える。
上記のような理想的な軸を特定するには、コマ収差をそれ以外の収差およびぼけと区別して測定することと、軸外色収差をそれ以外の収差およびぼけと区別して測定することとが必要となる。即ち、コマ収差の選択的測定と、軸外色収差の選択的測定とが必要となる。これらのうち、後者は、先述の、加速電圧またはレンズ励磁電流のウォブリングを利用した軸外色収差の測定方法により可能である。しかし、前者を可能とする手段は、先述のように、これまで確立されていない。
上記光学系は、上記荷電粒子ビームにより照射される被照射面に上記荷電粒子ビームを伝送する少なくとも1段のレンズを備える。
上記少なくとも1段のレンズは、上記被照射面上に、上記光源の像か、上記光学系内に配置され、上記荷電粒子ビームにより照射される開口板の開口の透過像か、または、上記光学系内に配置され、上記荷電粒子ビームにより照射される薄膜の透過像かを結ぶ。
上記ぼけ測定手段は、上記被照射面の高さ位置における、上記荷電粒子ビームのぼけを測定する。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記3回非点発生信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の互いに直交する2方向のそれぞれに沿って測定し、上記ぼけのその2方向のうちの1方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度と、上記ぼけのその2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度との差を、第一の差として決定し、この差により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を表すという第一の方法か、または、上記3回非点発生信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の単一の方向に沿って測定し、上記ぼけのその単一の方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度と、上記3回非点発生信号の強度を増減しながら上記ぼけの大きさをその単一の方向に沿って測定する前における上記3回非点発生信号の強度との差を、第二の差として決定し、この差により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を表すという第二の方法により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を取得するように構成されている。
これにより、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の大きさを評価することができるようになる。ここで、そのコマ収差は、上記荷電粒子ビームの軌道に依存するその他の収差またはぼけと区別して測定される。そのような収差またはぼけには、上記被照射面上に現れる軸外色収差が含まれる。
即ち、上記構成により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差が選択的に測定できる。従って、上記構成によれば、そのコマ収差の測定の結果に基づきそのコマ収差を補正することが可能な荷電粒子ビーム装置が実現できる。
本発明は、自身の生むコマ収差を選択的に測定することができ、そのコマ収差の測定の結果に基づきそのコマ収差を補正することが可能な荷電粒子ビーム装置を提供することを目的とする。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、上記目的のため、以下のように構成されている。
上記光源は、荷電粒子ビームを生成する。
上記光学系は、上記荷電粒子ビームに対して設けられる光学系であって、上記荷電粒子ビームにより照射される被照射面に上記荷電粒子ビームを伝送する少なくとも1段のレンズを備える。
上記少なくとも1段のレンズは、上記被照射面上に、上記光源の像か、上記光学系内に配置され、上記荷電粒子ビームにより照射される開口板の開口の透過像か、または、上記光学系内に配置され、上記荷電粒子ビームにより照射される薄膜の透過像かを結ぶ。
上記ぼけ測定手段は、上記荷電粒子ビームに対して設けられるぼけ測定手段であって、上記被照射面の高さ位置における、上記荷電粒子ビームのぼけを測定する。
そして、その多極子に3回非点収差を発生させるための3回非点発生信号を、その多極子に入力することで、上記被照射面の高さ位置に3回非点収差を発生する。
第一の方法は、上記3回非点発生信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の互いに直交する2方向のそれぞれに沿って測定し、上記ぼけのその2方向のうちの1方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度と、上記ぼけのその2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度との差を、第一の差として決定し、この差により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を表す。
第二の方法は、上記3回非点発生信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の単一の方向に沿って測定し、上記ぼけのその単一の方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度と、上記3回非点発生信号の強度を増減しながら上記ぼけの大きさをその単一の方向に沿って測定する前における上記3回非点発生信号の強度との差を、第二の差として決定し、この差により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を表す。
これにより、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の大きさを評価することができるようになる。ここで、そのコマ収差は、上記荷電粒子ビームの軌道に依存するその他の収差またはぼけと区別して測定される。そのような収差またはぼけには、上記被照射面上に現れる軸外色収差が含まれる。
即ち、上記構成により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差が選択的に測定できる。従って、上記構成によれば、そのコマ収差の測定の結果に基づきそのコマ収差を補正することが可能な荷電粒子ビーム装置が実現できる。
これにより、上記第二の方法を採用する場合に、目的のコマ収差の成分をより高精度に評価することができる。
これにより、目的のコマ収差の成分をより正確に評価することができる。
上記ぼけ測定媒体は、上記荷電粒子ビームの軌道に依存するぼけとして、自身に対する上記荷電粒子ビームの入射角に依存する見かけ上のぼけを発生する。しかし、目的のコマ収差は、その見かけ上のぼけと区別して測定される。
この構成は、さらに、上記走査手段による上記ぼけ測定媒体の走査を、上記3回非点発生信号に、上記多極子に上記荷電粒子ビームを偏向させるための信号を重畳することによる構成とすることも可能である。
これにより、目的のコマ収差の2成分を評価することができ、従って目的のコマ収差を確定させることができる。
これにより、目的のコマ収差の大きさに加え、上記軸外色収差の大きさも評価することができる。
これにより、目的のコマ収差を低減することができる。
この構成は、さらに、上記アライメント手段には、互いに独立な2成分から構成されるアライメント信号が入力され、上記偏向手段は、そのアライメント信号を構成する互いに独立な2成分を、またはそのアライメント信号を構成する互いに独立な2成分のそれぞれにそれぞれが比例する互いに独立な2成分を受け、そのアライメント信号を構成する互いに独立な2成分のそれぞれは、上記アライメント手段に、上記荷電粒子ビームの軌道を、上記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向のそれぞれに向けて変化させ、そのうえで、目的のコマ収差の2成分が小さくなるように上記アライメント手段により上記荷電粒子ビームの軌道を変化させる際は、上記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分の現在値と、目的のコマ収差の2成分の、上記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分に関する偏微分係数と、目的のコマ収差の2成分の現在値とから、目的のコマ収差の2成分を零とする、上記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分の強度を決定し、そうして決定された強度の、上記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分を、上記アライメント手段に入力する構成とすることも可能である。
これにより、目的のコマ収差をさらに低減して、零とすることができる。
これにより、上記光源の像、上記開口板の開口の透過像、または上記薄膜の透過像の明るさを制御しつつ、目的のコマ収差を低減することができる。
これにより、目的のコマ収差および軸外色収差を低減することができる。
これにより、上記光源の像、上記開口板の開口の透過像、または上記薄膜の透過像の明るさを制御しつつ、目的のコマ収差および軸外色収差を低減することができる。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、また、結像機能を持つ各種のイオンビーム装置としても構成されうる。
以下に、本発明の荷電粒子ビーム装置の具体的な実施例を説明する。
本発明の荷電粒子ビーム装置の基本的な実施例を、実施例1として、以下に説明する。 本実施例では、本発明の荷電粒子ビーム装置が、可変成形電子ビーム描画装置として構成されている。その装置の光学系、測定系、および制御系の構成を、図1に示す。
ただし、本実施例の装置の光学系においては、対物偏向器13による電子ビーム1の偏向に伴う偏向像面湾曲収差および偏向非点収差は、いずれも専用の動的補正器によっては補正されない。即ち、本実施例の装置の光学系には、そのような専用の補正器は備えられない。本実施例の装置の光学系では、それらの補正は、対物偏向器13が担う。即ち、本実施例の装置の光学系では、対物偏向器13は、動的なフォーカス補正器と非点補正器を兼ねる。
対物偏向器13およびアライナ18(アライナ18Uおよび18L)は、図22に示した可変電子ビーム描画装置の光学系におけるそれらと同様に、それぞれ静電型および磁界型の偏向器(多極子)とする。対物偏向器13およびアライナ18は、それぞれ静電型および磁界型のいずれであってもよいが、対物偏向器13は、応答速度の観点から、静電型とするのが有利である。
対物偏向器13は、より詳細には、π/4(45°)間隔で8つに等分割された、導電性の中空円筒からなる。対物偏向器13の極数は、8極以外(例えば12極)であってもよいが、以降では、対物偏向器13の極数を8極とする。
アライナ18Uおよび18Lは、図22の光学系におけるそれらと同様に、いずれも、X偏向用コイルとY偏向用コイルからなる。ここで、X偏向用コイルとY偏向用コイルは、いずれも、2極のコイルからなる。従って、アライナ18Uおよび18Lの極数は、いずれも4極である。
アライナ18Uおよび18Lは、図1に示すように、いずれも第2の成形開口板7とブランキング開口板17の間に配置される。より詳細には、アライナ18Uは、第2の成形開口板7の高さ位置付近に配置され、アライナ18Lは、縮小レンズ8の高さ位置付近に配置される。アライナ18Uおよび18Lは、あるいは、他の高さ位置に配置してもよい。例えば、アライナ18Uおよび18Lのうちの一方を、第2の成形開口板7とブランキング開口板17の間に配置し、もう一方を、縮小レンズ8と対物レンズ9の間に配置するようにしてもよい。
本実施例の装置は、さらに、上記コマ収差の補正のため、上記コマ収差の測定値に基づき、アライナ18により電子ビーム1を偏向する。即ち、電子ビーム1に含まれる主光線の軌道を変更する。
ただし、本実施例では、後述するように、対物偏向器13により電子ビーム1が大きく偏向されることはないため、上記3回非点補正信号は、主として上記コマ収差の測定のために用いられる。
補足すれば、上記フォーカス補正信号の重畳による上記像面湾曲収差(またはデフォーカス)の補正は、その重畳の結果、対物レンズ9の磁場中において電子ビーム1が加速または減速され、従って、その磁場中における電子ビーム1のエネルギーが変わることによる。即ち、対物レンズ9の励磁電流が一定であっても、上記フォーカス補正信号の重畳の結果、対物レンズ9の収束作用の強度が変わる。
より詳細には、図2において、f1Aおよびf1Bは、上記偏向信号の直交2成分の電極電圧配分を記述する分布関数を表し、f0Aは、上記フォーカス補正信号の電極電圧配分を記述する分布関数を表し、f2Aおよびf2Bは、上記2回非点補正信号の直交2成分の電極電圧配分を記述する分布関数を表し、f3Aおよびf3Bは、上記3回非点補正信号の直交2成分の電極電圧配分を記述する分布関数を表す。これら分布関数は、いずれも、対物偏向器13の中心軸周りの角度の関数である。以降では、その角度をψとする。
角度ψは、8つの電極のうち紙面上で最も右に位置する電極の中心を基準即ち零とし、図2における反時計回りを、自身の正の向きとする。その電極の角度位置は、上記偏向信号の直交2成分が対物偏向器13に入力されたときに電子ビーム1が材料10またはナイフエッジ20上においてX方向およびY方向に偏向されるように、決定される。これにより、f1Aおよびf1Bの回転角だけでなく、残りの分布関数の回転角も決定される。
図2中の各円弧に添えられた数字は、f1A(ψ)およびf1B(ψ)、f0A(ψ)、f2A(ψ)およびf2B(ψ)、そしてf3A(ψ)およびf3B(ψ)のいずれかの、各電極位置(電極中心の角度位置)における値を表す。ここで、ψをπ/4(=2π/8)の整数倍に限定すれば、f1A(ψ)、f0A(ψ)、f2A(ψ)、およびf3A(ψ)は、それぞれcosψ、1(=cos0)、cos2ψ、およびcos3ψに一致し、f1B(ψ)、f2B(ψ)、およびf3B(ψ)は、それぞれsinψ、sin2ψ、およびsin3ψに一致する。即ち、f1A(ψ)、f2A(ψ)、およびf3A(ψ)と、f1B(ψ)、f2B(ψ)、およびf3B(ψ)とは、それぞれ、互いに線形独立であり、かつ互いに直交する(位相が互いにπ/2だけ異なる)。
V1(ψ)=V1Af1A(ψ)+V1Bf1B(ψ) (3)
V0(ψ)=V0Af0A(ψ) (4)
V2(ψ)=V2Af2A(ψ)+V2Bf2B(ψ) (5)
V3(ψ)=V3Af3A(ψ)+V3Bf3B(ψ) (6)
V(ψ)=V1(ψ)+V0(ψ)+V2(ψ)+V3(ψ) (7)
(3)~(7)式において、V1AおよびV1B、V0A、V2AおよびV2B、そしてV3AおよびV3B(全て実数)は、それぞれ、上記偏向信号の直交2成分、上記フォーカス補正信号、上記2回非点補正信号の直交2成分、そして上記3回非点補正信号の直交2成分を表す。これらは、図2において+1Vの電圧が印加される電極の電圧に相当する。
以降では、特に必要のない限り、V1AおよびV1B、V0A、V2AおよびV2B、そしてV3AおよびV3Bを、それぞれ単に、偏向信号、フォーカス補正信号、2回非点補正信号、そして3回非点補正信号と称す。
ただし、(7)式に基づく電極電圧Vを対物偏向器13に印加するには、原理的に、対物偏向器13の極数を7(=2×3+1)極以上とする必要がある。これは、f0A、fνA、およびfνB(いずれにおいてもν=1、2、または3)に基づく電極電圧を多極子(本実施例では対物偏向器13)に印加するには、即ち、その電極の位置に相当する角度ψにおいてf0A(ψ)=1(=cos0)、fνA(ψ)=cos(νψ)、およびfνB(ψ)=sin(νψ)(いずれにおいてもν=1、2、または3)を成立させるには、その極数を2ν+1極以上とする必要があることによる。本実施例においては、対物偏向器13の極数は8極であるから、この必要は満たされる。補足すれば、極数が2ν+1極(ν≧1)の多極子には、fνAおよびfνBの両方に基づく電極電圧が印加できるが、極数が2ν極の多極子には、fνAおよびfνBのいずれか一方に基づく電極電圧しか印加できない。
ここで、アライナ制御部23は、アライナ18を介して、電子ビーム1の軌道を制御する。レンズ制御部24は、縮小レンズ8および対物レンズ9を介して、電子ビーム1の収束を制御する。対物偏向器制御部25は、対物偏向器13を介して、電子ビーム1の偏向を制御するとともに、電子ビーム1に関わる収差を制御する。材料ステージ制御部26は、材料ステージ14を介して、材料10およびナイフエッジ20(または電子反射体)の位置を制御する。ファラデーカップ吸収電流信号処理部27は、ファラデーカップ吸収電流信号をアナログ・デジタル変換し、そうして変換した信号を中央制御部28に入力する。
ただし、本実施例におけるコマ収差は、電子ビーム1がアライナ18により偏向されていない状態においてナイフエッジ20上に現れているコマ収差、および電子ビーム1がアライナ18により偏向されることでナイフエッジ20上に現れる偏向コマ収差のいずれか、またはこれらの和を指し、対物偏向器13による電子ビーム1の偏向に原因する偏向コマ収差を含まない。これは、本実施例においては、電子ビーム1がアライナ18により大きく偏向されることはありうるが、電子ビーム1が対物偏向器13により大きく偏向されることはないことによる。
本実施例において電子ビーム1が対物偏向器13により偏向されるのは、電子ビーム1がナイフエッジ20の走査のために微小偏向される際に限定される。即ち、本実施例では、電子ビーム1がそのために微小偏向されることを度外視すれば、対物偏向器13の偏向座標(偏向フィールド内座標)が、座標原点に限定される。
アライナ18に入力されるアライメント信号は、互いに独立な2成分からなる。そのうちの1成分は、アライナ18のX偏向用コイルに入力され、もう1成分は、アライナ18のY偏向用コイルに入力される。従って、これらの2成分は、電子ビーム1を、互いに線形独立な2方向に偏向する。以降では、アライメント信号の互いに独立な2成分をIaおよびIb(ともに実数)とし、第n(n=0、1、または2)のアライメント信号の互いに独立な2成分をIanおよびIbnとする。以降では、特に必要のない限り、Ia、Ib、Ian、およびIbnを、単に、アライメント信号と称す。
アライナ18による偏向の、Iaに起因する方向とIbに起因する方向は、互いに線形独立であればよく、これらの方向が互いに直交することの必要性は低い。これに対し、対物偏向器13の発生する3回非点収差の、V3Aに起因する成分とV3Bに起因する成分が互いに直交することの必要性は高い。これらの理由は後述する。
このようなデフォーカスと2回非点収差の測定および補正は、以降でも、もしアライナ18により電子ビーム1の軌道を大きく変化させることがあれば、実施するのがよい。これは、その変化とともに、電子ビーム1に含まれる主光線の軌道が変わり、それゆえ新たなデフォーカスと2回非点収差が発生するからである。
ここで、ナイフエッジ20の走査は、次のように行う。まず、材料ステージ14によりナイフエッジ20Xを電子ビーム1に向けて移動させたうえで、電子ビーム1を対物偏向器13によりX方向に微小偏向することで、ナイフエッジ20XをX方向に微小走査する。次に、材料ステージ14によりナイフエッジ20Yを電子ビーム1に向けて移動させたうえで、電子ビーム1を対物偏向器13によりY方向に微小偏向することで、ナイフエッジ20YをY方向に微小走査する。即ち、ナイフエッジ20の走査は、偏向信号V1AおよびV1Bのそれぞれを微小変化させることによる。ただし、ナイフエッジ20Xおよび20Yを微小走査する順序は、互いに前後してもよい。
本実施例の装置は、さらに、第2の3回非点発生信号と第1の3回非点発生信号の差を、XY差と定義する。XY差は、ナイフエッジ20上のコマ収差の大きさを表す指標となる。即ち、XY差が零であれば、ナイフエッジ20上のコマ収差も零であるが、XY差が零でない限り、そのコマ収差は零ではなく、従って本実施例の装置はそのコマ収差の補正を実施する。
本実施例の装置は、また、XY差を、3回非点発生信号の成分毎に測定する。より詳細には、本実施例の装置は、まず、第n(n=0,1,または2)のアライメント条件下で、V3Aを増減し、その際の第1および第2の3回非点発生信号を決定し、これらの差、即ちXY差を、第nのXY差のA成分とする。本実施例の装置は、次に、同じアライメント条件下で、V3Bを増減し、その際の第1および第2の3回非点発生信号を決定し、これらの差、即ちXY差を、第nのXY差のB成分とする。ただし、V3AおよびV3Bを増減して上記AおよびB成分をそれぞれ決定する順序は、互いに前後してもよい。
図3Aおよび図3Bにおいて、XY差は、X方向のぼけを表す曲線(実線)の谷の位置(第1の3回非点発生信号51)とY方向のぼけを表す曲線(破線)の谷の位置(第2の3回非点発生信号52)の差に相当する。もしXY差が零であれば、これらの谷の位置は互いに一致する。図3Aおよび図3Bからは、XY差のA成分およびB成分がそれぞれ得られる。
DAnおよびDBnを含め、DAおよびDBの符号は、便宜上、それぞれ、第2の3回非点発生信号52の方が第1の3回非点発生信号51より大きい場合、および第1の3回非点発生信号51の方が第2の3回非点発生信号52より大きい場合に、正とする。この規則に従えば、図3Aおよび図3Bからは、正の符号を持つDAおよびDBがそれぞれ得られる。
上記前提は、常に成立するわけではない。即ち、V3BおよびV3Aがともに零のときにナイフエッジ20上に現れている3回非点収差が零でない場合が存在しうる。これは、V3AおよびV3Bに原因しない3回非点収差がナイフエッジ20上に現れうることに相当する。そのような場合にV3A(またはV3B)が作るX方向およびY方向のぼけとV3A(またはV3B)との関係の例を、図3Cおよび図3Dに示す。
上記のような場合、具体的には、V3AおよびV3Bがともに零のときにアライナ18に原因する3回非点収差がナイフエッジ20上に現れているような場合は、図3Cおよび図3Dに示すように、第1の3回非点発生信号51と第2の3回非点発生信号52は、その3回非点収差の分だけ、互いに同じ向きに等しくシフトする。その結果、これらの信号は、互いに強度の絶対値を異にする。このことは、もしその3回非点収差がV3AおよびV3Bにより予め補正されていたとしても、即ち図3Dに示すように第0の3回非点発生信号50の強度が零でなくても、成立する。
しかし、上記のような場合においても、V3AおよびV3Bに原因しない3回非点収差は、XY差、即ち第2の3回非点発生信号52と第1の3回非点発生信号51の差を、変化させない。これは、上述のように、V3AおよびV3Bに原因しない3回非点収差による、第1の3回非点発生信号51および第2の3回非点発生信号52のシフトが、互いに向きおよび大きさを同じくすることによる。即ち、その3回非点収差は、第1の3回非点発生信号51および第2の3回非点発生信号52の決定誤差を生みうるが、それらの決定誤差は、XY差を測定した時点で相殺される。これが、本実施例においてXY差を求める所以である。
本実施例の装置は、次に、アライメント信号IaおよびIbのうちのIaに変化量を与えることで電子ビーム1を偏向し、その際のアライメント条件およびアライメント信号IaおよびIbを、それぞれ第1のアライメント条件および第1のアライメント信号Ia1およびIb1(=Ib0)とする。そして、第1のXY差DA1およびDB1を測定し、これらをIa1およびIb1とともに記憶する。
本実施例の装置は、さらに、アライメント信号IaおよびIbのうちのIbに変化量を与えることで電子ビーム1を偏向し、その際のアライメント条件およびアライメント信号IaおよびIbを、それぞれ第2のアライメント条件および第2のアライメント信号Ia2(=Ia0)およびIb2とする。そして、第2のXY差DA2およびDB2を測定し、これらをIa2およびIb2とともに記憶する。
(8)~(11)式において、ΔIaおよびΔIbは、それぞれIaおよびIbの変化量Iap-Ia0およびIbp-Ib0(いずれにおいてもp=1または2)を表し、ΔDAおよびΔDBは、それぞれDAおよびDBの変化量DAp-DA0およびDBp-DB0(いずれにおいてもp=1または2)を表す。以降では、DA、DB、Ia、およびIbは、それぞれ、DAn、DBn、Ian、およびIbn(いずれにおいてもn=0、1、または2)の総称、またはDAn、DBn、Ian、およびIbnの更新値の総称とする。
I1a=cIa (12)
I1b=cIb (13)
I2a=r21I1a=cr21Ia (14)
I2b=r21I1b=cr21Ib (15)
(12)~(15)式において、c(実数)は比例定数を表し、r21(=I2a/I1a=I2b/I1b)(実数)はアライナ18Uとアライナ18Lの連動比を表す。これらアライナの連動比をどのように決定すべきかについては、後述する。
(12)~(15)式の演算は、中央制御部28による。それら演算の結果は、中央制御部28により、アライナ制御部23を介して、アライナ18Uおよび18LのX偏向用およびY偏向用コイルに入力される。
以降では、便宜上、(12)~(15)式中のcを1とする。即ち、(12)~(15)式を、(12’)~(15’)式に改める。
I1a=Ia (12’)
I1b=Ib (13’)
I2a=r21I1a=r21Ia (14’)
I2b=r21I1b=r21Ib (15’)
補足すれば、I1a、I1b、I2a、およびI2bは、r21の逆数を用いれば、(12’’)~(15’’)式でそれぞれ表せる。
I1a=r12I2a=r12Ia (12’’)
I1b=r12I2b=r12Ib (13’’)
I2a=Ia (14’’)
I2b=Ib (15’’)
(12’’)および(13’’)式において、r12(=1/r21)は、r21の逆数を表す。(12’’)~(15’’)式は、I1aおよびI1bがI2aおよびI2bによらず常に零となりうる場合のI1a、I1b、I2a、およびI2bの定義に適する。これに対し、(12’)~(15’)式は、I2aおよびI2bがI1aおよびI1bによらず常に零となりうる場合のI1a、I1b、I2a、およびI2bの定義に適する。
DA=DOA+dAaIa+dAbIb (16)
DB=DOB+dBaIa+dBbIb (17)
DAおよびDBとIaおよびIbとの関係の例を、図4Aおよび図4Bに示す。図4Aには、互いに異なる値を持つIaに対するDAを表す2点を結ぶ直線、およびそれら値を持つIaに対するDBを表す2点を結ぶ直線が示されている。ここで、前者直線はdAa、後者直線はdBaに等しい勾配を持つ。図4Bには、互いに異なる値を持つIbに対するDAを表す2点を結ぶ直線、およびそれら値を持つIbに対するDBを表す2点を結ぶ直線が示されている。ここで、前者直線はdAb、後者直線はdBbに等しい勾配を持つ。
(19)式は、XY差の2成分を零とするアライメント信号の2成分(Ia0’およびIb0’)が、アライメント信号の2成分の現在値(Ia0およびIb0)と、XY差の2成分のIaおよびIbに関する偏微分係数(dAa、dBa、dBb、およびdBb)と、XY差の2成分の現在値(DA0およびDB0)とから決まることを表す。ここで、XY差の2成分が零になるのは、アライナ18により互いに線形独立な2方向に電子ビーム1が偏向され、従って電子ビーム1のアライメントに関する自由度が合計2つあることに基づく。
(19)式が成立するのは、第一に、(18)式から、DA0およびDB0が、(20)式に示すように表せることと、第二に、Ia0’およびIb0’をアライナ18に入力して得られるDA0およびDB0をそれぞれDA0’(=0)およびDB0’(=0)とすれば、(20)式から、DA0’およびDB0’が、(21)式に示すように表せることによる。即ち、(20)式と(21)式から、(19)式が導ける。
上記のような場合、DA0’およびDB0’を測定するとともに、Ia0’およびIb0’を新たなIa0およびIb0と見なし、さらにDA0’およびDB0’を新たなDA0およびDB0と見なし、それらを(19)式に代入することで、新たなIa0’およびIb0’を求め、それらをアライナ18に入力すればよい。そうすれば、DA0およびDB0は零に近づく。即ち、DA0およびDB0を零とするIa0およびIb0を(19’)式により更新することと、そうして更新されたIa0およびIb0をアライナ18に入力することを交互に繰り返せば、DA0およびDB0は零に近づき、従ってナイフエッジ20上のコマ収差は零に近づく。
ただし、上述した繰り返しによっても、DA0およびDB0は、厳密には零に収束しない。そこで、DA0 (m)およびDB0 (m)に対する許容値を予め定めておき、それらの間の大小関係から、DA0 (m)およびDB0 (m)の収束を判定する。その判定条件は、(20A)および(20B)式に示す通りとする。
補足すれば、Ia0 (m-1)およびIb0 (m-1)からIa0 (m)およびIb0 (m)を求める際、その都度、XY差に関する係数dAa、dAb、dBa、およびdBbを求め直してもよいが、それは必要ではない。これは、これら係数は、XY差DAおよびDBとは異なり、電子ビーム1のアライメントに依存しないことによる。
図5のフローチャートは、その簡略化のため、サブルーチンを含む。便宜上、そのサブルーチンに、サブルーチン1との名称を与える。サブルーチン1のフローチャートを、図6に示す。
まず、ステップS1において、nを零に設定する(n=0)。
次に、ステップS2において、サブルーチン1(図6を参照)を実行し、XY差DAnおよびDBn(DA0およびDB0)を決定する。
次に、ステップS3において、nを1に設定する(n=1)。
次に、ステップS4において、サブルーチン1(図6を参照)を実行し、XY差DAnおよびDBn(DA1およびDB1)を決定する。
次に、ステップS5において、nを2に設定する(n=2)。
次に、ステップS6において、サブルーチン1(図6を参照)を実行し、XY差DAnおよびDBn(DA2およびDB2)を決定する。
次に、ステップS7において、係数dAa、dAb、dBa、およびdBbを決定する。
次に、ステップS8において、nを零に設定する(n=0)とともに、mを1に設定する(m=1)。
次に、ステップS9において、Ia0 (m)およびIb0 (m)を決定する。
次に、ステップS10において、サブルーチン1(図6を参照)を実行し、XY差DAnおよびDBn(DA0 (m)およびDB0 (m))を決定する。
次に、ステップS11において、|DA0 (m)|<εD、かつ、|DB0 (m)|<εDが成立するかどうか判断する。それが成立する場合には、本メインルーチンを終了する。それが成立しない場合には、ステップS12に進む。
ステップS12においては、m+1をmに代入する(m=m+1)。そして、ステップS9に戻る。
まず、ステップS21において、IanおよびIbn(ステップS10においては、Ia0 (m)およびIb0 (m))を、アライナ18に入力する。
次に、ステップS22において、V3Aを増減し、X方向およびY方向のぼけを測定する。
次に、ステップS23において、V3Bを増減し、X方向およびY方向のぼけを測定する。
次に、ステップS24において、XY差DAnおよびDBn(ステップS10においては、DA0 (m)およびDB0 (m))を決定する。
そして、サブルーチン1を終了して、上述のメインルーチン(図5を参照)に戻る。
補足すれば、ステップS22とステップS23は、互いに前後しても構わない。
本実施例の装置は、上記測定および補正の間、アライナ18の偏向支点の高さ位置を、第2の成形開口板7(物面)の高さ位置に一致させる。即ち、本実施例の装置は、アライナ18により、投影図形11(像)の位置を変えることなく、対物レンズ9の高さ位置における電子ビーム1の位置を変える。そうすることで、アライナ18を作動させることと、ナイフエッジ20により電子ビーム1のぼけを測定することの交互の繰り返しが容易となる。
上記偏向支点は、見かけ上の偏向支点であり、アライナ18Uおよび18Lにより偏向された電子ビーム1の軌道を電子ビーム1の上流側に延長して定義される偏向支点である。即ち、アライナ18は、アライナ18Uおよび18Lにより偏向された電子ビーム1の軌道を電子ビーム1の上流側に延長して定義される仮想的な軌道の物面における移動を、零にする。ここで、その移動が零になるのは、その移動の、アライナ18Uによる成分と、アライナ18Lによる成分が、互いを打ち消すことによる。
上記移動を零とするアライナ18Uとアライナ18Lの連動比r21(=I2a/I1a=I2b/I1b)をrS21とし、さらに物面、即ち第2の成形開口板7からアライナ18Uおよび18Lまでの距離をそれぞれL01およびL02、アライナ18Uおよび18Lによる電子ビーム1の偏向角をそれぞれδS1およびδS2とすれば、rS21は、(22)式で与えられる。
rS21=δS2/δS1=-L01/L02 (22)
(22)式が成立するのは、上記移動が零であれば、L01δS1+L02δS2=0が成立することによる。ただし、(22)式は、アライナ18Uおよび18Lが、偏向感度(単位強度のアライメント信号に対する電子ビーム1の偏向角)を互いに同じくすることを前提とする。もしアライナ18Uおよび18Lが偏向感度を互いに異にすれば、その分だけ、rS21の大きさが変わる。
図7において、電子ビーム1の軌道は、その中心を成す主光線の軌道(実線)で表されている。図7に示すように、(22)式が満たされるとき、上述の仮想的な軌道(二点鎖線)が、物面と光学系の軸(一点鎖線)との交点を通る。即ち、アライナ18の偏向支点は、物面の高さ位置にある。
ただし、本実施例において、(22)式は、ナイフエッジ20による電子ビーム1のぼけの測定が困難とならない限り、厳密に成立させる必要はない。ここで、(22)式、即ち投影図形11の位置を変えないための条件式は、あくまでも、その測定を容易にするための条件式であり、従って、もし(22)式が成立しなくても、その測定の精度は低下しない。同じ理由から、アライナ18UのX偏向用およびY偏向用コイルによる偏向の向きと、アライナ18LのX偏向用およびY偏向用コイル偏向の向きを、それぞれ一致させる必要もない。
この考えをさらに推し進め、投影図形11の位置の変化を全く度外視すれば、(22)式の成立およびこれらの偏向の向きの一致はいずれも全く不要となり、従って、(19’)、(20A)、および(20B)式からDA0 (m)及びDB0 (m)が決定できさえすればよくなる。その場合、アライナ18を2段構成(アライナ18Uおよび18L)とする必要はなく、アライナ18を1段構成としてもよい。
上記コマ収差を表す収差図形をコマ収差図形SK(複素数)とすれば、SKは、上記収束半角を用いて、(23)式で表せる。
KC=KA+iKB (24)
θおよびαをそれぞれ0≦θ<2πおよび0≦α≦αmaxの範囲内で適宜変化させて得られるコマ収差図形SK(α,θ)の例を、図8に示す。図8のコマ収差図形SK(α,θ)は、より詳細には、KA>0かつKB>0が成立するときの例である。
SK(α,θ)の表す収差がコマ収差と称されるのは、図8に示すように、αを異にする複数のSKの群が、彗星のような形状を成すことによる。それらSKを構成する各円が上記半径成分に相当し、その各円から原点Oまでの距離が上記長さ成分に相当する。その各円の半径とその距離の比は、1:2である。図8において、一点鎖線61は、大きさを異にする円に対する接線、即ち包絡線を表し、破線62は、それら包絡線に直交する半径(ただし、図8中で最大の円の半径)を表す。
上記各円は、θが0から2πまで変化する間に、反時計回りに2回描かれる。即ち、2重に描かれる。これは、上記半径成分即ちKCα2exp(i2θ)が、θが0から2πまで変化する間に、反時計回りに2回転することによる。
係数KCは、先述の依存性のため、縮小レンズ8および対物レンズ9の磁場分布が不変のもとで、アライメント信号が零のときの、任意の高さ位置(例えば材料10およびナイフエッジ20の高さ位置)における上記各主光線の位置および傾きと、アライメント信号との関数として表せる。より具体的には、KCは、上記各主光線の位置および傾きとアライメント信号との線形結合の形式で表せる。即ち、KCは、上記各主光線の位置および傾き、さらにはアライメント信号と、これらのいずれにも依存しない係数(コマ収差係数)との積の総和である。このことは、KAおよびKBにも当てはまる。
係数KC、KA、およびKBは、従って、投影図形11内の位置に依存する。即ち、これら係数は、電子ビーム1に含まれる主光線毎に異なる。しかし、以降では、投影図形11の大きさは十分に小さく、従ってこれら係数は投影図形11内で一定と見なす。
S3(α,θ)=a3CV3Cα2exp(-i2θ) (25)
(25)式において、a3C(複素数)は定数を表す。a3Cは、(26)式で定義される。
a3C=a3R+ia3I (26)
(26)式において、a3Rおよびa3I(ともに実数)は、a3Cの実部および虚部をそれぞれ表す。a3Cは、対物偏向器13のZ軸周りの回転角次第で実数(a3C=a3R、即ちa3I=0)となる。a3C、a3R、およびa3Iは、以降では3回非点収差係数と称す。V3C(複素数)は、3回非点発生信号(3回非点補正信号)を表し、(27)式で定義される。(27)式中のV3AおよびV3Bは、(6)式中のV3AおよびV3Bに、それぞれ同じである。
V3C=V3A+iV3B (27)
θおよびαをそれぞれ0≦θ<2πおよび0≦α≦αmaxの範囲内で適宜変化させて得られる3回非点収差図形S3(α,θ)の例を、図9Aに示す。
図9Aから分かるように、3回非点収差図形S3(α,θ)は、円形を成し、αを異にする複数のS3の群は、中心を同じくする。即ち、3回非点収差図形S3(α,θ)は、同心円を形成する。
上記同心円を構成する各円は、θが0から2πまで変化する間に、時計回りに2回描かれる。即ち、3回非点収差図形S3(α,θ)は、2重に描かれる。これは、(25)式右辺、即ちa3CV3Cα2exp(-i2θ)が、θが0から2πまで変化する間に、時計回りに2回転することによる。
S3(α,θ)の表す収差が3回非点収差と称されるのは、S3とデフォーカスを表す収差図形との合成による収差図形が、その半径を、θが0から2πまで変化する間に、3回増減することによる。その収差図形の半径がθの変化とともに増減することを、図9Bおよび図9Cに示す。図9Bには、V3B=0が成立するときにV3Aが作る収差図形S3+S0が示されている。図9Cには、V3A=0が成立するときにV3Bが作る収差図形S3+S0が示されている。ここで、S0(複素数)は、フォーカス補正信号V0Aに起因するデフォーカスの収差図形を表し、S3+S0は、S3とS0の合成による収差図形を表す。以降でも同様に、その収差図形を、収差図形S3+S0と称す。ただし、図9Bおよび図9Cは、ある単一のαに関するS3+S0およびS0を、それぞれ実線および破線で示している。ここで、S0(破線)は、上記3回非点収差が零となり、従って上記デフォーカスのみが存在する条件下における収差図形S3+S0を意味する。
V3B=0が成立するときにV3Aが作る収差図形S3+S0(図9B)と、V3A=0が成立するときにV3Bが作る収差図形S3+S0(図9C)は、(25)および(27)式より、(25’)および(25’’)式でそれぞれ表せる。(25’)および(25’’)式において、a0は、上記デフォーカスに関する係数(実数)を表し、ζは、a3Cの偏角を表す。
S3+S0=a3CV3Aα2exp(-i2θ)+a0V0Aαexp(iθ)
={|a3C|V3Aα2exp(-i3(θ-ζ/3))+a0V0Aα}exp(i(θ-ζ/3))exp(iζ/3) (25’)
S3+S0=a3C(iV3B)α2exp(-i2θ)+a0V0Aαexp(iθ)
={|a3C|V3Bα2exp(-i3(θ-ζ/3-π/6))+a0V0Aα}exp(i(θ-ζ/3-π/6))exp(i(ζ/3+π/6)) (25’’)
収差図形S3+S0の半径は、(25’)式においては、|a3C|V3Aα2exp(-i3(θ-ζ/3))+a0V0Aαに相当し、(25’’)式においては、|a3C|V3Bα2exp(-i3(θ-ζ/3-π/6))+a0V0Aαに相当する。これらの大きさは、θが0から2πまで変化する間に、3回増減する。
補足すれば、(25’)および(25’’)式の表す収差図形S3+S0の回転角は、(25’)式右辺中のexp(i(ζ/3))と(25’’)式右辺中のexp(i(ζ/3+π/6))の作用により、それぞれ、ζ/3およびζ/3+π/6である。ここで、収差図形S3+S0の回転角とは、S3+S0の半径、即ち(25’)式における|a3C|V3Aα2exp(-i3(θ-ζ/3))+a0V0Aα、または(25’’)式における|a3C|V3Bα2exp(-i3(θ-ζ/3-π/6))+a0V0Aαが、最大または最小となる角度位置(0から2πの間に周期π/3で6つ存在するうちの1つ)を意味する。その角度位置は、V3AおよびV3Bのいずれにも依存しない。
上記回転角ζ/3およびζ/3+π/6の間の差は、π/6(30°)である。この差は、(6)式中の分布関数f3A(ψ)の回転角と、(6)式中のもう一つの分布関数f3B(ψ)の回転角の差に等しい。ここで、これら分布関数の回転角とは、f3A(ψ)およびf3B(ψ)をそれぞれcos3ψおよびsin3ψと見なせば、これら分布関数がそれぞれ最大または最小となる角度位置(0から2πの間に周期π/3で6つ存在するうちの1つ)に相当する。これら分布関数の回転角の差がπ/6であることは、f3A(ψ-π/6)(=cos(3(ψ-π/6))=cos(3ψ-π/2))が、f3B(ψ)(=sin3ψ)に一致することから確認できる。即ち、(25’)および(25’’)式の表す収差図形S3+S0には、(6)式の表す対物偏向器13の電極電圧V3(ψ)が反映されている。
さらに補足すれば、(25’)および(25’’)式右辺中の角度変数がθ-ζ/3、θ-ζ/3-π/6、またはその他であることは、(25’)および(25’’)式の表す収差図形S3+S0を変形または回転させない。これは、(25’)および(25’’)式右辺中の角度変数の如何によらず、これら角度変数の示す各値(0から2πまで)に対し、収差図形S3+S0上の各点の位置が決まることによる。
ただし、以下の議論は、V3Cが零(V3C=0)、即ちV3AおよびV3Bがいずれも零(V3A=0かつV3B=0)のときに、ナイフエッジ20上の3回非点収差が零であること(図3Aおよび図3Bを参照)を前提とする。もし、その3回非点収差が零となるのが、V3AおよびV3Bがいずれも零のときではなく、V3AおよびV3Bのいずれかまたは両方が零でないときである場合(図3Cおよび図3Dを参照)は、その3回非点収差を零とするV3AおよびV3Bの値を、以下の議論におけるV3AおよびV3Bの零値と見なせばよい。
(28’)および(28’’)式右辺第2項の表す楕円成分は、いずれも、V3AまたはV3Bの変化とともに、自身の径(長径および短径)を変えるが、自身の軸(長軸および短軸)の回転角は変えない。これは、第一に、これら楕円成分の軸の回転角は、(28’)および(28’’)式右辺第2項中のexp(iη)およびexp(i(η+π/4))の作用により決定されることと、第二に、ηは、上述のように、V3AおよびV3Bのいずれにも依存しないことによる。
(28’)および(28’’)式右辺第2項の表す楕円成分の長軸または短軸の回転角は、具体的には、上記作用により、それぞれ、ηおよびη+π/4である。即ち、V3B=0が成立するときにV3Aが作る収差図形SK+S3の楕円成分と、V3A=0が成立するときにV3Bが作る収差図形SK+S3の楕円成分は、互いの間に、それらの長軸または短軸の回転角の差として、π/4(45°)の差を呈する。
補足すれば、(28’)および(28’’)式右辺第2項中の角度変数がθ+γ/2、θ+γ/2-π/8、またはその他であることは、上記楕円成分を変形または回転させない。これは、これら角度変数の如何によらず、これら角度変数の示す各値(0から2πまで)に対し、上記楕円成分上の各点の位置が決まることによる。別の見方によれば、θに加算値(例えばγ/2やγ/2-π/8)が加算されれば、その加算値は、上記楕円成分を変形または回転させることなく、自身の大きさに相当する量だけ、上記各点に、上記楕円成分の外周上を移動せしめる。
上記回転角の差がπ/4であることは、互いに直交する2方向のエッジを持つナイフエッジ20により、収差図形SK+S3の大きさが正しく評価でき、従って、ナイフエッジ20上のコマ収差が零(SK=0)であれば、その判定が可能なことを意味する。言い換えれば、SK≠0が成立しているときにXY差DAおよびDBの片方が零となっていることはありうるが、SK≠0が成立しているときにDAおよびDBの両方が零となっていることはありえない。DAおよびDBの両方が零となる場合は、必ずSK=0が成立する。
ここで、DAおよびDBの片方が零となっている場合とは、例えば、図11Aおよび11Bに示すように、V3B=0が成立するときにV3Aが作る収差図形SK+S3の楕円成分は、X軸またはY軸に平行な長軸または短軸を有するが、V3A=0が成立するときにV3Bが作る収差図形SK+S3の楕円成分は、X軸およびY軸に対しπ/4(45°)だけ回転している長軸または短軸を有する場合である。この場合、V3B=0が成立するときは、図11Aから明らかなように、DA≠0が成立する。一方、V3A=0が成立するときは、図11Bから分かるように、X方向およびY方向のぼけはいずれも零ではないものの、XY差が発生しないため、DB=0が成立する。
もし、収差図形SK+S3の大きさがナイフエッジ20により正しく評価できない場合があるとすれば、それは、SK≠0にもかかわらず、XY差DAおよびDBの両方が零となる場合である。それは、例えば、上記回転角の差が仮にπ/4ではなくπ/2(90°)であり、かつナイフエッジ20の2方向のエッジの成す角度がπ/2であり、かつ収差図形SK+S3の楕円成分の長軸または短軸が、ナイフエッジ20の2方向のエッジに対してπ/4だけ回転している場合である。しかし、上記位相差は現実にはπ/2ではなく、π/4であるから、そのような場合は、現実にはありえない。即ち、現実には、収差図形SK+S3の大きさは、その形状および回転の如何によらず、ナイフエッジ20により正しく評価できる。
補足すれば、ナイフエッジ20の2つのエッジ(ナイフエッジ20Xおよび20Yのエッジ)の方向がXY平面内で互いに直交している限り、それらエッジの方向は、いずれも、Y方向またはX方向に一致していなくてもよい。即ち、その一致の如何に関わらず、収差図形SK+S3の大きさはナイフエッジ20により正しく評価できる。しかし、ナイフエッジ20Xおよび20Yのエッジの方向がそれぞれY方向およびX方向に一致していれば、これらナイフエッジに、対物偏向器13の偏向フィールド較正(偏向フィールドの大きさおよび回転の補正)のためのナイフエッジを兼ねさせることができる。
x=Re(SK+S3)
=α2{(KA+Re(a3CV3C))cos2θ-(KB-Im(a3CV3C))sin2θ+2KA} (29)
xがθ次第で最大または最小となるとき、(29)式をθで微分して得られる導関数は零となる。その導関数は、(30)式に示す通りである。
(KA+Re(a3CV3C))sin2θ+(KB-Im(a3CV3C))cos2θ=0
(31)
(31)式を変形すると、(32)式が得られる。
P1[{(KA+Re(a3CV3C))/P1}sin2θ+{(KB-Im(a3CV3C))/P1}cos2θ]
=P1{cosλ・sin2θ+sinλ・cos2θ}=P1sin(2θ+λ)=0
(32)
(32)式より、(33)式が成立する。(33)式において、μは整数である。
θ=-λ/2+μ(π/2) (33)
(32)式中のP1、cosλ、およびsinλは、それぞれ、(34),(35),および(36)式で与えられる。
P1={(KA+Re(a3CV3C))2+(KB-Im(a3CV3C))2}1/2
(34)
cosλ=(KA+Re(a3CV3C))/P1 (35)
sinλ=(KB-Im(a3CV3C))/P1 (36)
以降では、(33)式を満たすθをθμとする。即ち、(33’)式が成立する。
2θμ=-λ+μπ (33’)
θ=θμが成立するとき、xは、(29)および(33’)式より、(37)式に示す通りとなる。ただし、(37)式の導出に、cos2θμ=cos(-λ+μπ)=+cosλまたは-cosλ、およびsin2θμ=sin(-λ+μπ)=-sinλまたは+sinλが成立することを用いた。
x=α2{(KA+Re(a3CV3C))cos2θμ-(KB-Im(a3CV3C))sin2θμ+2KA}
=±α2P1+2α2KA (37)
(37)式は、xの最大値または最小値を表す。xの最大値と最小値の差をxd(≧0)と置くと、xdは、(38)式で与えられる。
xd=2α2P1 (38)
xdは、図11Cに示すように、収差図形SK+S3の楕円成分のx方向の幅である。従って、xdは、電子ビーム1のx方向のぼけに寄与する。
xdがV3AまたはV3B次第で最小となるとき、(38)式をV3AまたはV3Bで偏微分して得られる導関数は、いずれも零となる。その導関数は、(39)式または(40)式に示す通りである。
y=Im(SK+S3)
=α2{(KA-Re(a3CV3C))sin2θ+(KB+Im(a3CV3C))cos2θ-2KB}(43)
xdを求めた手法と同様の手法によりyd(≧0)を求めると、ydは、(44)式に示す通りとなる。
yd=2α2P2 (44)
ここで、ydは、図11Cに示すように、収差図形SK+S3の楕円成分のy方向の幅であり、従って電子ビーム1のy方向のぼけに寄与する。(44)式中のP2は、(45)式で与えられる。
P2={(KA-Re(a3CV3C))2+(KB+Im(a3CV3C))2}1/2
(45)
ydがV3AまたはV3B次第で最小となるとき、(44)式をV3AまたはV3Bで微分して得られる導関数は、いずれも零となる。その導関数は、(46)式または(47)式に示す通りである。
ここで、xdおよびydがナイフエッジ20で直接測定できないのは、xdおよびydは、あくまでも収差図形SK+S3の一要素、具体的にはSK+S3の楕円成分の、X方向およびY方向の幅であり、SK+S3全体のX方向およびY方向の幅ではなく、従って、電子ビーム1の全体的なX方向およびY方向のぼけでもないことによる。ここで、SK+S3全体のX方向(またはY方向)の幅とは、上記楕円成分の、Y軸(またはX軸)に平行な2本の接線のうち、Y軸(またはX軸)から遠い方の接線からY軸(またはX軸)までの距離に相当する。
DC=DA+iDB (53)
(50)および(51)式のDAおよびDBは、形式的に、それぞれ2で除してもよい。DAおよびDBをそのように改めれば、(50)、(51)、および(52)式は、それぞれ、(50’)、(51’)、および(52’)式に示す通り、簡単になる。
DA=KA/a3R (50’’)
DB=KB/a3R (51’’)
DC=KC/a3R (52’’)
上記理由から、XY差を零に低減すればナイフエッジ20上のコマ収差の大きさが零となることが保証される。即ち、(19’)式に従って電子ビーム1をアライメントした結果、(54)および(55)式が成立すれば、(52)および(55)式から、(56)式が成立する。
DA=DB=0 (54)
DC=0 (55)
KC=0 (56)
(56)式が成立すれば、(56)および(23)式より、(57)式が成立する。
SK=0 (57)
以上のことは、収束半角αによらない。
上記のことを説明するため、係数KCを(58)式で表す。(58)式は、KcをIaおよびIbの線形結合の形式で表した式である。
KC=KOC+kCaIa+kCbIb (58)
係数KCが(58)式で表せるのは、KCは先述のように、アライメント信号が零のときの、任意の高さ位置における、電子ビーム1に含まれる各主光線の位置および傾きと、アライメント信号との線形結合の形式で表せることによる。
(58)式において、KOC(複素数)は、アライメント信号IaおよびIbがともに零のときにナイフエッジ20上に現れるコマ収差に関する係数を表し、ナイフエッジ20の高さ位置における上記各主光線の位置および傾きに依存する。kCaおよびkCb(ともに複素数)は、それぞれkCのIaおよびIbに関する偏微分係数であり、それぞれIaおよびIbに原因してナイフエッジ20上に現れる偏向コマ収差に関する係数を表す。KOC、kCa、およびkCbは、これら係数の実部および虚部を用いて、それぞれ(59)~(61)式で表せる。
KOC=KOA+iKOB (59)
kCa=kAa+ikBa (60)
kCb=kAb+ikBb (61)
(59)~(61)式を用いれば、(58)式は(62)式で表せる。
ナイフエッジ20上に現れているコマ収差が零のとき、即ちKC(=KA+iKB)=0が成立するとき、(58)および(62)式より、(63)および(64)式が成立する。
KOC=-(kCaIa+kCbIb) (63)
(63)および(64)式を満たすIaおよびIbは、(19)および(21)式を満たすIa’およびIb’である。即ち、(63)および(64)式は、(19)および(21)式と等価である。
ここで、(58)式中の偏向コマ収差係数kCaおよびkCbと、(19)および(21)式中のXY差に関する係数dAa、dAb、dBa、およびdBb((8)~(11)式を参照)とは、互いの間に、(65)~(68)式の関係を持つ。(65)~(68)式は、(58)式と、(50)および(51)式とから得られる。
上記コマ収差および軸外色収差の両方を同時に零とするアライメントについては、後述する(実施例10~実施例13を参照)。
本発明の荷電粒子ビーム装置の別の実施例を、実施例2として、以下に説明する。本実施例でも、本発明の荷電粒子ビーム装置が、可変成型電子ビーム描画装置として構成されている(実施例3~実施例14でも同様)。
ここで、第1の3回非点発生信号51と第0の3回非点発生信号50との差は、図3A~図3Cから分かるように、対物偏向器13に第0の3回非点発生信号50が入力されているときにナイフエッジ20上に現れている3回非点収差の大きさが零であれば、第2の3回非点発生信号52と第1の3回非点発生信号51との差の半分となる。これは、第1の3回非点発生信号51および第2の3回非点発生信号52の絶対値が互いに等しいこと、即ち(41)および(48)式の示すV3Aの絶対値が互いに等しく、さらには(42)および(49)式の示すV3Bの絶対値が互いに等しいことによる。
DhA=DA/2 (72)
DhB=DB/2 (73)
DhAおよびDhBを零とするIaおよびIbは、(74)式で与えられる。
もし、上記前提が満たされなければ、(72)および(73)式が成立せず、従って、ナイフエッジ20上のコマ収差が正確に測定されなくなる。その結果、見かけ上はそのコマ収差が零に収束するが、実際にはそのコマ収差が零から離れた値に収束する事態が、生じうる。即ち、(74)式によりIa0およびIb0を新たに決定することと、Ia0およびIb0をアライナ18に入力することを交互に繰り返しても、ナイフエッジ20上のコマ収差の補正残差が解消されない可能性が生じる。
上記3回非点補正信号V3AおよびV3Bの決定は、より詳細には、以下に説明するように行われる。
まず、V3AおよびV3Bのうち、V3A(またはV3B)を変化させながら、電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけを測定し、X方向のぼけを最小とするV3A(またはV3B)とY方向のぼけを最小とするV3A(またはV3B)の平均を求め、これを目的のV3Aとする。次に、V3B(またはV3A)を変化させながら、電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけを測定し、X方向のぼけを最小とするV3B(またはV3A)とY方向のぼけを最小とするV3B(またはV3A)の平均を求め、これを目的のV3Bとする。
ここで、X方向のぼけを最小とするV3A(またはV3B)と、Y方向のぼけを最小とするV3A(またはV3B)は、ナイフエッジ20上のコマ収差が零でない限り、互いに一致しない。これは、図3A~図3D、さらには(41)、(42)、(48)、および(49)式の示す通りである。
上記の副次的な2回非点収差およびデフォーカスは、対物偏向器13の中心軸周りの電位n次成分が生む、電子ビーム1に含まれる主光線周りの電位m(m=0、1、2、・・・、n-1)次成分に原因する。ここで、対物偏向器13の中心軸周りの電位n次成分は、n回非点収差の補正の際に対物偏向器13内に発生させる電位成分である。一方、電子ビーム1に含まれる主光線周りの電位m次成分は、電子ビーム1に含まれる各主光線周りの電位を多項式展開して得られる、n-1次以下の低次の電位成分に相当する(特許文献2を参照)。これら低次の電位成分は、電子ビーム1に含まれる各主光線の、対物偏向器13の中心軸からの位置ずれに依存する。
この理由から、上記の副次的な2回非点収差およびデフォーカスは、電子ビーム1のアライメントに依存する。従って、ナイフエッジ20上のコマ収差を低減すべくアライナ18により電子ビーム1を大きく偏向させた際は、その都度、ナイフエッジ20上の2回非点収差およびデフォーカスの補正を実施するのがよい。その実施は、電子ビーム1に含まれる主光線の対物レンズ9およびその他のレンズの中心からの位置ずれに原因する2回非点収差およびデフォーカスをも、さらにはアライナ18による電子ビーム1の偏向に原因する2回非点収差およびデフォーカスをも、補正する。
本実施例においてDhAおよびDhBを求めることは、事前に上記3回非点収差の測定および補正を行う限り、ナイフエッジ20上のコマ収差の正確な測定という意味において、実施例1においてXY差DAおよびDBを求めることと、実質的に同等である。従って、以降の実施例では、DAおよびDBと、DhAおよびDhBは、特に区別しない。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例3として、以下に説明する。
もし上記条件が成立しなければ、上記の副次的な2回非点収差およびデフォーカスの増加(または減少)のため、ナイフエッジ20上のコマ収差と3回非点収差の合成による収差(SK+S3)の減少(または増加)、またはその3回非点収差(S3)の減少(または増加)が、誤って、その収差(SK+S3またはS3)の増加(または減少)と認識されうる。そのため、そのコマ収差または3回非点収差の低減が、阻害されうる。
上記条件は、電子ビーム1に含まれる主光線の、対物偏向器13の中心軸からの全体的な位置ずれが大きくなるとともに、成立しにくくなる。即ち、その位置ずれが大きくなるとともに、上記の副次的な2回非点収差およびデフォーカスの発生または変化を打ち消す必要が増す。これは、3回非点発生信号の増減に原因する3回非点収差は、その位置ずれに依存しないが、その同じ増減に原因する副次的な2回非点収差およびデフォーカスは、その位置ずれとともに大きくなることによる。
まず、ナイフエッジ20上の3回非点収差およびデフォーカスが零に低減されていることを確認し、その状態で対物偏向器13に入力されている3回非点発生信号V3AおよびV3Bの現在値を、第0の3回非点発生信号V3A0およびV3B0とする。そして、2回非点補正信号V2AおよびV2Bの離散的な微小変化により2回非点収差の大きさを微小変化させながら、電子ビーム1のぼけを測定する。これにより、電子ビーム1のぼけ(X方向またはY方向)を最小とする2回非点補正信号V2AおよびV2Bを決定し、これらを第0の2回非点補正信号V2A0およびV2B0とする。
次に、V3Aに変化量を与え、その際の3回非点発生信号V3AおよびV3Bを、第1の3回非点発生信号V3A1およびV3B1(=V3B0)とする。そして、同様に電子ビーム1のぼけを最小とする2回非点補正信号V2AおよびV2Bを決定し、これらを第1の2回非点補正信号V2A1およびV2B1とする。
次に、V3Bに変化量を与え、その際の3回非点発生信号V3AおよびV3Bを、第2の3回非点発生信号V3A2(=V3A0)およびV3B2とする。そして、同様に電子ビーム1のぼけを最小とする2回非点補正信号V2AおよびV2Bを決定し、これらを第2の2回非点補正信号V2A2およびV2B2とする。
そして、上記過程における、V3AおよびV3Bの変化量とV2AおよびV2Bの変化量から、(75)~(78)式に示す係数を求める。
(75)~(78)式において、ΔV3AおよびΔV3Bは、それぞれ、V3Aの変化量V3Ap-V3A0およびV3Bの変化量V3Bp-V3B0(いずれにおいてもp=1または2)を表す。ΔV2AおよびΔV2Bは、それぞれ、V2Aの変化量V2Ap-V2A0およびV2Bの変化量V2Bp-V2B0(いずれにおいてもp=1または2)を表す。
ΔV2A0=ρ2A3AΔV3A+ρ2A3BΔV3B (79)
ΔV2B0=ρ2B3AΔV3A+ρ2B3BΔV3B (80)
対物偏向器13には、第0の2回非点補正信号V2A0およびV2B0に、それぞれΔV2A0およびΔV2B0が加算された2回非点補正信号が入力される。その2回非点補正信号をV2A0’およびV2B0’とすれば、V2A0’およびV2B0’は、(81)式で与えられる。
まず、ナイフエッジ20上の3回非点収差および2回非点収差が零に低減されていることを確認し、その状態で対物偏向器13に入力されている3回非点発生信号V3AおよびV3Bの現在値を、第0の3回非点発生信号V3A0およびV3B0とする。そして、フォーカス補正信号V0Aの離散的な微小変化によりデフォーカスの大きさを微小変化させながら、電子ビーム1のぼけを測定する。これにより、電子ビーム1のぼけ(X方向またはY方向)を最小とするフォーカス補正信号V0Aを決定し、これを第0のフォーカス補正信号V0A0とする。次に、同様に第1のフォーカス補正信号V0A1および第2のフォーカス補正信号V0A2を決定する。そして、(82)および(83)式の表す係数を求める。
これら係数から、上記フォーカス補正信号、即ち3回非点発生信号の増減に伴い発生するデフォーカスを打ち消すためのフォーカス補正信号が求められる。その打ち消しに必要となるフォーカス補正信号の変化量をΔV0A0とすれば、ΔV0A0は、(84)式で与えられる。
ΔV0A0=ρ0A3AΔV3A+ρ0A3BΔV3B (84)
対物偏向器13には、第0のフォーカス補正信号V0A0に、ΔV0A0が加算されたフォーカス補正信号が入力される。そのフォーカス補正信号をV0A0’とすれば、V0A0’は、(84)式より、(85)式で与えられる。
V0A0’ =V0A0+ρ0A3AΔV3A+ρ0A3BΔV3B (85)
まず、ナイフエッジ20上の3回非点収差および2回非点収差が零に低減されていることを確認し、その状態で対物偏向器13に入力されている2回非点補正信号V2AおよびV2Bの現在値を、第0の2回非点補正信号V2A0およびV2B0とする。そして、フォーカス補正信号V0Aの離散的な微小変化によりデフォーカスの大きさを微小変化させながら、電子ビーム1のぼけを測定する。これにより、電子ビーム1のぼけ(X方向またはY方向)を最小とするフォーカス補正信号V0Aを決定し、これを、第0のフォーカス補正信号V0A0とする。次に、同様に第1のフォーカス補正信号V0A1および第2のフォーカス補正信号V0A2を決定する。そして、(86)および(87)式の表す係数を求める。
これら係数から、ΔV2A0およびΔV2B0が大きい場合に副次的に発生するデフォーカスを打ち消すためのフォーカス補正信号が求められる。その打ち消しに必要となるフォーカス補正信号の変化量をΔV0A0とすれば、ΔV0A0は、(88)式で与えられる。
ΔV0A0=ρ0A3AΔV3A+ρ0A3BΔV3B+ρ0A2AΔV2A+ρ0A2BΔV2B
(88)
ただし、(88)式の表すΔV0A0には、(84)式の表すΔV0A0が加算されている。(88)式より、この場合におけるV0A0’は、(89)式で与えられる。
V0A0’ =V0A0+ρ0A3AΔV3A+ρ0A3BΔV3B+ρ0A2AΔV2A+ρ0A2BΔV2B (89)
ただし、3回非点発生信号の増減の際に発生または変化する副次的な2回非点収差およびデフォーカスの大きさの変化(絶対値)が、その同じ増減による3回非点収差の大きさの変化(絶対値)より十分に小さければ、これら係数を求め直す必要は薄まる。
以上にさらに補足すれば、3回非点発生信号の増減の際に発生または変化する副次的なデフォーカスの大きさが、その同じ増減の際に発生または変化する副次的な2回非点収差の大きさより十分に小さければ、そのデフォーカスを打ち消す必要は薄まる。即ち、その2回非点収差のみを打ち消せばよい。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例4として、以下に説明する。その説明のため、本実施例の可変成形電子ビーム描画装置の光学系および制御系の構成を、図12に示す。ただし、図12において、第2の成形開口板7より電子ビーム1の上流側の光学系、および3回非点発生器制御部31以外の制御部は、省略している。
ただし、本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、図12に示すように、3回非点発生器30を備える。3回非点発生器30は、本実施例においては磁界型の多極子(例えば8極子)とするが、あるいはこれを静電型の多極子としてもよい。3回非点発生器30は3回非点発生器制御部31に接続され、3回非点発生器制御部31は、中央制御部28に接続されている。
本実施例では、対物偏向器13に、フォーカス補正器および2回非点補正器を兼ねさせ、そのうえで、3回非点発生器30に、3回非点収差の発生を担わせる。あるいは、対物偏向器13に、フォーカス補正器を兼ねさせ、そのうえで、3回非点発生器30に、2回非点収差の補正および3回非点収差の発生を担わせてもよい。即ち、3回非点発生器30に入力される3回非点発生信号に、2回非点補正信号を重畳してもよい。ここで、3回非点発生器30は、3回非点発生器制御部31により制御され、3回非点発生器制御部31は、中央制御部28により制御される。
もし、3回非点発生器30の高さ位置と光源の像19または16の高さ位置とが互いに一致すれば、電子ビーム1に含まれる主光線が、3回非点発生器30の高さ位置において、一点に交わる。これは、それら主光線は全て、光源4を起点とし、従って光源の像19および16のそれぞれの高さ位置において、一点に交わることによる。
電子ビーム1に含まれる主光線が光源19の高さ位置において一点に交わっている状態を、図13に示す。図13は、電子ビーム1に含まれる主光線を実線で表し、電子ビーム1に含まれるその他の光線を破線で表している。
補足すれば、3回非点発生器30の高さ位置は、光源の像19の高さ位置よりも、光源の像16の高さ位置の方に、より近づけやすい。これは、光源の像19の高さ位置には、既に対物偏向器13が配置されていることによる。
上記主光線が3回非点発生器30の高さ位置において一点に交われば、上記位置ずれの、電子ビーム1のアライメントに依存しない成分が、最小となる。この位置ずれ成分は、上記主光線のそれぞれの、電子ビーム1の中心軸からの位置ずれに相当する。
この位置ずれ成分は、上記の副次的な2回非点収差およびデフォーカスを構成する成分として、投影図形11内の位置に依存する収差成分を生む。この収差成分は、2回非点補正器(本実施例では対物偏向器13または3回非点発生器30)およびフォーカス補正器(本実施例では対物偏向器13)によって補正できない。
これに対し、上記位置ずれの、電子ビーム1のアライメントに依存する成分(電子ビーム1の中心軸の、3回非点発生器30の中心軸からの位置ずれに相当)は、上記の副次的な2回非点収差およびデフォーカスを構成する収差成分として、投影図形11内の位置に依存しない成分(投影図形11内の全体的な収差成分)を生む。この収差成分は、2回非点補正器およびフォーカス補正器によって補正できる(実施例2および実施例3を参照)。
以上のことは、実施例1~実施例3における対物偏向器13にも当てはまる。即ち、実施例1~実施例3において、対物偏向器13の高さ位置は、図1から分かるように、光源の像19の高さ位置から大きく離れていない。従って、上記主光線の、対物偏向器13の高さ位置における、対物偏向器13の中心軸からの位置ずれを構成する成分のうち、電子ビーム1のアライメントに依存しない成分(上記主光線のそれぞれの、電子ビーム1の中心軸からの位置ずれ)が小さい。そのため、対物偏向器13による3回非点収差の発生とともに副次的に発生する2回非点収差およびデフォーカスの、投影図形11内の位置に依存する成分も小さい。ここで、上記主光線は、図13に示すように、光源の像19の高さ位置において、一点に交わっている。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例5として、以下に説明する。
ただし、その構成に3回非点発生器30を含む場合は、3回非点発生器30の高さ位置を、対物レンズ9より電子ビーム1の上流側とする。例えば、光源の像16の高さ位置の近くとする。
本実施例では、従って、必要なアライメント手段の段数が確保される限り、アライナ18は、2段構成(アライナ18Uおよび18L)ではなく、1段構成(アライナ18Uおよび18Lのいずれか)としてよいし、場合によっては、アライナ18を完全に削除してもよい。
ただし、電子ビーム1のアライメントのために、対物偏向器13、3回非点発生器30、またはこれらの両方により電子ビーム1を偏向すると、その分だけ、対物偏向器13、3回非点発生器30、またはこれらの両方の中心軸からの、電子ビーム1に含まれる主光線の全体的な位置ずれが大きくなりやすくなる。その結果、先述の副次的な2回非点収差およびデフォーカス(実施例2および実施例3を参照)が問題になりやすくなる。即ち、先述の2回非点収差およびデフォーカスの打ち消し(実施例3を参照)の必要性が高くなる。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例6として、以下に説明する。その説明のため、本実施例の可変成形電子ビーム描画装置の光学系および制御系の構成を、図14に示す。ただし、図14において、第2の成形開口板7より電子ビーム1の上流側の光学系、および対物偏向器制御部25以外の制御部は、省略している。図14には、便宜上、3回非点発生器30および3回非点発生器制御部31を含まない(実施例1~実施例3を参照)構成例を示した。
これに対し、実施例1~実施例5では、測定および補正対象を、図1の光学系に寄生するコマ収差とした。ここで、図1の光学系に寄生するコマ収差とは、対物偏向器13により電子ビーム1を偏向しない状態において材料10およびナイフエッジ20の高さ位置に現れているコマ収差であった。即ち、実施例1~実施例5では、対物偏向器13の偏向座標を座標原点に限定した。
これに対し、実施例1~実施例5では、図1の光学系に寄生し、上記高さ位置に現れるコマ収差を、アライナ18による電子ビーム1の偏向に原因して上記高さ位置に現れる偏向コマ収差で打ち消した。実施例1~実施例5では、そのため、アライナ18を、アライナ制御部23によって制御した。
補足すれば、対物偏向器13Lによる電子ビーム1の偏向に原因して上記高さ位置に現れる偏向コマ収差は、アライナ18による電子ビーム1の偏向に原因して上記高さ位置に現れる偏向コマ収差によっても打ち消せる。このことは、対物偏向器13を上下2段構成でなく、1段構成とする場合にも当てはまる。しかし、そのようにすると、アライナ18を、対物偏向器13Lまたは1段構成の対物偏向器13の高速動作に追従させるのが困難となる。これは、対物偏向器13Lまたは1段構成の対物偏向器13は上述のように静電型であるのに対し、アライナ18は先述のように磁界型の偏向器であることによる。従って、以降では、対物偏向器13Lによる電子ビーム1の偏向に原因して上記高さ位置に現れる偏向コマ収差を、上述のように、対物偏向器13Uによる電子ビーム1の偏向に原因して上記高さ位置に現れる偏向コマ収差で打ち消すものとする。
補足すれば、本実施例においては、先述の2回非点収差およびデフォーカスの打ち消し(実施例3を参照)および3回非点収差の補正(実施例2を参照)の必要性が高くなる。これは、次の理由による。
本実施例においては、対物偏向器13Lによる電子ビーム1の偏向のため、対物偏向器13Lの中心軸からの電子ビーム1の全体的な位置ずれが大きくなる。従って、3回非点収差の発生に伴う、副次的な2回非点収差およびデフォーカスが発生しやすくなるとともに、対物偏向器13Lの加工・組立誤差に原因する偏向3回非点収差が大きく発生しうる。
上記格子点上で上記測定および補正を行うには、まず、最初に測定および補正を行う格子点の座標にナイフエッジ20およびファラデーカップ21(図1および図24を参照)を移動させたうえで、その格子点上に電子ビーム1が入射するように、電子ビーム1を対物偏向器13Lで偏向する。もし電子ビーム1の対物偏向器13Lによる偏向に伴う非点収差、像面湾曲収差、および2回非点収差が予め補正されていなければ、この時点で、これらの補正を行う。次に、その格子点上において、対物偏向器13Lまたは3回非点発生器30により、3回非点収差を発生させ、その際の電子ビーム1のぼけを、ナイフエッジ20およびファラデーカップ21で測定する。そして、第0のXY差DA0およびDB0を決定し、これらを、その格子点上における偏向コマ収差とする。そして、これらを零とするアライメント信号を決定し、それらを対物偏向器13Uに入力する。即ち、その格子点上における偏向コマ収差を補正する。以降、同様の測定および補正を、残りの格子点上で実施する。
本実施例では、上記XY差およびアライメント信号の決定のため、第n(n=0,1,または2)のアライメント条件を、対物偏向器13Uにより構成し、第n(n=0,1,または2)のアライメント信号を、対物偏向器13Uに入力される偏向信号に対して定義する。
(90)式を一般化すれば、(90)式は、(90’)式となる。
(90’)式からVa0 (m)およびVb0 (m)を求めることと、それらを対物偏向器13Uに入力することを交互に繰り返せば、DA0およびDB0を零に収束させることができる。
ただし、そうして求められたVa0 (m)およびVb0 (m)を対物偏向器13Uに入力すると、その分だけ、対物偏向器13全体の偏向感度(対物偏向器13Uの偏向感度と対物偏向器13Lのそれとの和)および偏向フィールドの回転角が変化する。そして、対物偏向器13全体に原因する偏向収差も変化する。これは、対物偏向器13Uが零でない偏向感度を有することによる。従って、本実施例による偏向コマ収差補正を実施した後は、対物偏向器13全体の偏向フィールド較正(偏向フィールドの大きさおよび回転の補正)および偏向収差の補正を、改めて行う必要が生じる。
補足すれば、対物偏向器13Uおよび13Lに原因する偏向コマ収差は、電子光学計算(電磁場計算および軌道計算)により算出可能である。従って、電子光学計算によれば、上述の測定および補正を実施しなくても、対物偏向器13Lに原因する偏向コマ収差が対物偏向器13Uに原因する偏向コマ収差により打ち消されるように、対物偏向器13Uおよび13Lの寸法(長さおよび内径)、Z軸周りの回転角、および偏向信号を決定することが可能である。ここで、対物偏向器13Uおよび13LがZ軸周りの回転角を互いに異にすることを許すならば、対物偏向器13Uおよび13Lの寸法次第では、これら2つの対物偏向器に同じ偏向信号を入力すること、即ちこれら2つの対物偏向器を単一の電源(対物偏向器制御部25内に備えられる)により駆動することが可能である。
しかし、このような要領により対物偏向器13Uおよび13Lの寸法、回転角、および偏向信号を決定した場合においても、上述の測定は有用である。具体的には、上述の測定により、上記高さ位置に現れる偏向コマ収差の補正残差が確認できる。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例7として、以下に説明する。
本実施例では、より具体的には、ナイフエッジ20上のコマ収差が零になることと、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零とすることを、両立させる。即ち、上記コマ収差と上記位置ずれの両方を補正する。
これに対し、実施例1~実施例5では、ナイフエッジ20上のコマ収差の補正の際に、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを度外視した。より具体的には、実施例1~実施例5では、ナイフエッジ20上のコマ収差の補正の際に、その副作用としてブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれが発生または変化することを許した。即ち、その位置ずれまでは補正しなかった。
本実施例においては上記コマ収差および位置ずれを補正するから、本実施例における補正対象の数は、合計2つである。これらの補正は、合計2段のアライナ(アライナ18Uおよび18L)のそれぞれにより、互いに線形独立な2方向に電子ビーム1が偏向され、従って電子ビーム1のアライメントに関する自由度が合計4つあることに基づく。ここで、上記コマ収差および位置ずれは、いずれも、互いに直交する2成分からなる。ただし、上記位置ずれの補正は、少なくとも1段のアライナがブランキング開口板17より電子ビーム1の上流側に配置されることを前提とする。
これに対し、実施例1~実施例5においては、1種類のアライメント(上記位置ずれを度外視しつつ上記コマ収差を変化させるアライメント)しか実施しなかった。即ち、実施例1~実施例5では、そのアライメントの偏向支点を1つに固定していた。
上記2種類のアライメントの実施の順序は、これらアライメントを交互に繰り返す場合にも適用する。
rL21=δL2/δL1=-L13/L23 (91)
(91)式において、L13およびL23は、それぞれ、アライナ18Uおよび18Lからブランキング開口板17までの距離を表す。(91)式は、(22)式と同じく、アライナ18Uおよび18Lが、偏向感度(単位強度のアライメント信号に対する電子ビーム1の偏向角)を同じくすることを前提とする。
(91)式が満たされ、従ってアライナ18の偏向支点の高さ位置がブランキング開口板17の高さ位置に一致している状態を、図15に示す。図15において、電子ビーム1の軌道は、電子ビーム1の中心軸の軌道、即ち電子ビーム1の中心に位置する主光線の軌道(実線)として表されている。
ただし、(91)式に基づくアライメントは、ブランキング開口板17の高さ位置に関する前提を伴う。その前提は、具体的には、対物レンズ9の高さ位置と光学的に共役な高さ位置から、ブランキング開口板17の高さ位置が少しだけずれていることである。
もしその前提が成立しない場合、即ちブランキング開口板17の高さ位置が上記の光学的に共役な高さ位置に一致している場合は、ナイフエッジ20上のコマ収差が補正しきれなくなる可能性が生じる。これは、その場合、(91)式に基づくアライメントに原因する、対物レンズ9の高さ位置における電子ビーム1の移動(光源の像19の移動)が、零となるからである。その移動が零である限り、アライナ18により電子ビーム1の軌道を変化させても、ナイフエッジ20上のコマ収差は、ほとんど変化しない。
I1a=ISa+ILa (92)
I1b=ISb+ILb (93)
I2a=rS21ISa+rL21ILa (94)
I2b=rS21ISb+rL21ILb (95)
(92)~(95)式において、ISaおよびISbは、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。これらはアライナ18の偏向支点を第2の成形開口板7の高さ位置に一致させるから、これらは実施例1~実施例5におけるIaおよびIbにそれぞれ同じである。ILaおよびILbは、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させずにナイフエッジ20上のコマ収差を変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。
上記走査は、電子ビーム1をアライナ18で偏向することによる。その偏向の範囲、即ちブランキング開口板17の走査範囲には、その範囲内にブランキング開口板17の開口が含まれるだけの大きさを持たせる。ただし、上記走査の際に、ISaおよびISbは、互いに独立に変化させる。即ち、ISa(またはISb)の強度を変えるときは、ISb(またはISa)の強度を不変とする。
上記画像、即ち、図16における画像17Aの取得は、上記走査の間にブランキング開口板17の開口から電子ビーム1の下流側に流れ出る電流を、ファラデーカップ21で受け、そうして得られるファラデーカップ吸収電流信号を取得および蓄積することによる。その取得および蓄積の結果、図16に示すように、画像17Aに、そのファラデーカップ吸収電流信号の絶対値が大きい領域17Bが現れる。領域17Bは、ブランキング開口板17の開口に相当する。
上記制約を満たすには、上記走査を、例えば、ラスター走査とすればよい。より具体的には、上記ファラデーカップ吸収電流信号を取得および蓄積しながらISaをISa0-ISawからISa0+ISawまで変化させた後に、ISaをISa0-ISawに戻すとともにISbを小さなステップだけ増加させることを、ISb0-ISbwからISb0+ISbwまでの区間で続ければよい。その過程においては、ISaとISbを、互いに置き換えてもよい。そうして得られる画像は、横軸方向に2ISaw、縦軸方向に2ISbwの大きさを持ち、自身の中心の横軸および縦軸座標をそれぞれISa0およびISb0とする。ここで、ISa0およびISb0は、上記走査を開始する直前のISaおよびISb、即ちISaおよびISbに対して定義される第0のアライメント信号を表し、ISawおよびISbwは、上記走査時におけるISaおよびISbの変化幅(片側)を表す。
JSa0=ISa0-ISaR0 (96)
JSb0=ISb0-ISbR0 (97)
(96)および(97)式より、位置ずれJSa0およびJSb0を零とするには、ISa0およびISb0を、(98)式に示す通りに更新すればよい。
ここで、領域17Bの中心の横軸座標ISaR0および縦軸座標ISbR0は、それぞれ、例えば、画像17Aを構成する画素の強度(絶対値)が最大となる横軸および縦軸座標とすればよい。または、それぞれ、その画素の強度を重みとする、横軸および縦軸座標の加重平均とすればよい。
以上の要領により、位置ずれJSa0(=ISa0-ISaR0)およびJSb0(=ISb0-ISbR0)が零、即ちブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれが零となる。即ち、その位置ずれを零とするISaおよびISbが決定される。
DA=DOA+dASaISa+dASbISb+dALaILa+dALbILb (100)
DB=DOB+dBSaISa+dBSbISb+dBLaILa+dBLbILb (101)
(99)~(102)式中の係数dALa(DAのILaによる偏微分)、dALb(DAのILbによる偏微分)、dBLa(DBのILaによる偏微分)、およびdBLb(DBのILbによる偏微分)は、DAおよびDBのILaおよびILbに関する偏微分係数であり、ILaおよびILbに原因するXY差に関する係数を表す。これら係数の決定は、(8)~(11)式の表す係数dAa、dAb、dBa、およびdBbを決定する手順(実施例1を参照)と同様の手順による。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、IaおよびIbではなく、ILaおよびILbに対して定義する。即ち、第0、第1、および第2のアライメント信号を、IanおよびIbnではなく、ILanおよびILbn(いずれにおいてもn=0、1、または2)とする。
一方、(100)~(102)式中の係数dASa、dASb、dBSa、およびdBSbは、DAおよびDBのISaおよびISbに関する偏微分係数であり、ISaおよびISbに原因するXY差に関する係数を表す。これら係数は(99)式中に現れないため、これら係数の決定は不要である。ここで、これら係数が(99)式に現れないのは、ILa0およびILb0の更新中、ISa0およびISb0は固定されることによる。
これらのようなことが問題となる場合は、JSa0およびJSb0を零とするISa0およびISb0の更新およびそれらのアライナ18への入力と、DA0およびDB0を零とするILa0およびILb0の更新およびそれらのアライナ18への入力を、交互に繰り返せばよい。そうすれば、JSa0およびJSb0とDA0およびDB0との両方が、零に収束する。
その際は、ISaおよびISb、そしてILaおよびILbを、それぞれ、(98’)および(99’)式に従わせる。
補足すれば、本実施例では、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零にすべく、画像17Aから領域17Bの中心の座標を抽出したが、もし別の開口板がアライナ18Uおよび18Lより電子ビーム1の下流側にあれば、必要に応じて、その別の開口板の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零とすることも可能である。その際は、その別の開口板に対して画像17Aを取得し、それから領域17Bの中心の座標を抽出すればよい。
ただし、本実施例では、アライナの段数が合計2段(アライナ18Uおよび18L)であり、かつ補正対象の数が合計2つ(ナイフエッジ20上のコマ収差、およびブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ)である。そのため、ナイフエッジ20上のコマ収差の補正を前提とすれば、ブランキング開口板17および上記のような別の開口板の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれの補正は、1つの高さ位置においてのみ可能である。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例8として、以下に説明する。
具体的には、ナイフエッジ20上のコマ収差(XY差DAおよびDB)を変化させるアライメントにおいてブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ(位置ずれJSaおよびJSbと等価)を変化させないことを、または、そのことと、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させるアライメントにおいてナイフエッジ20上のコマ収差を変化させないこととの両方を、図る。
即ち、本実施例では、上記位置ずれを変化させずに上記コマ収差を変化させるアライメントと、上記コマ収差を度外視しつつ上記位置ずれを変化させるアライメントとの組み合わせ、または、上記位置ずれを変化させずに上記コマ収差を変化させるアライメントと、上記コマ収差を変化させずに上記位置ずれを変化させるアライメントとの組み合わせを、実施する。上記コマ収差を変化させるアライメントにおいて上記位置ずれを変化させないことは、実施例7にも通ずるが、本実施例では、そのことの徹底を図る。
I2a=rS21ISa+rL2a1aILa+rL2a1bILb (103)
I2b=rS21ISb+rL2b1aILa+rL2b1bILb (104)
(103)および(104)式右辺は、ILbおよびILaに原因する位置ずれを打ち消すための項(rL2a1bILbおよびrL2b1aILa)を含む。(103)および(104)式において、rL2a1a(I2aのI1aによる偏微分)、rL2a1b(I2aのI1bによる偏微分)、rL2b1a(I2bのI1aによる偏微分)、およびrL2b1b(I2bのI1bによる偏微分)は、いずれも、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させずにナイフエッジ20上のコマ収差(XY差DAおよびDB)を変化させる連動比であり、それぞれ、アライナ18UのX偏向用コイルとアライナ18LのX偏向用コイルの連動比、アライナ18UのY偏向用コイルとアライナ18LのX偏向用コイルの連動比、アライナ18UのX偏向用コイルとアライナ18LのY偏向用コイルの連動比、およびアライナ18UのY偏向用コイルとアライナ18LのY偏向用コイルの連動比を表す。
まず、これらの決定の直前におけるアライメント条件を第0のアライメント条件とし、第0のアライメント条件下におけるアライメント信号I1aおよびI1bを、それぞれ、第0のアライメント信号I1a0およびI1b0とする。そして、先述の要領(実施例7を参照)により、画像17Aを取得する。ただし、画像17Aの取得のために互いに独立に変化させるアライメント信号は、ISaおよびISbではなく、I2aおよびI2bとする。そして、画像17Aから、領域17Bの中心の横軸および縦軸座標を抽出し、これらをそれぞれI2aR0およびI2bR0とする。これらは、第0のアライメント条件下においてブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零とするI2aおよびI2bに相当する。
次に、I1aに変化量を与え、その際のアライメント条件を第1のアライメント条件とし、第1のアライメント条件下におけるアライメント信号I1aおよびI1bを、それぞれ、第1のアライメント信号I1a1およびI1b1(=I1b0)とし、同様に画像17A’(図示せず)を取得する。そして、画像17A’から、領域17B’(ブランキング開口板17の開口に相当する)の中心の横軸および縦軸座標を抽出し、これらをそれぞれI2aR1およびI2bR1とする。これらは、第1のアライメント条件下においてブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零とするI2aおよびI2bに相当する。
次に、I1bに変化量を与え、その際のアライメント条件を第2のアライメント条件とし、第2のアライメント条件下におけるアライメント信号I1aおよびI1bを、それぞれ、第2のアライメント信号I1a2(=I1a0)およびI1b2とし、同様に画像17A’’(図示せず)を取得する。そして、画像17A’’から、領域17B’’(ブランキング開口板17の開口に相当する)の中心の横軸および縦軸座標を抽出し、これらをそれぞれI2aR2およびI2bR2とする。これらは、第2のアライメント条件下においてブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零とするI2aおよびI2bに相当する。
最後に、上記過程における、アライメント信号の変化量と上記位置ずれを零とするI2aおよびI2bの変化量とから、連動比rL2a1a、rL2a1b、rL2b1a、およびrL2b1bを求める。これらは、それぞれ、(105)~(108)式で与えられる。
上記関係は、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれの横軸および縦軸成分をそれぞれJ1aおよびJ1bと置けば、(109)および(110)式で表せる。
J1a=JO1a+j1a1aI1a+j1a1bI1b+j1a2aI2a+j1a2bI2b
(109)
J1b=JO1b+j1b1aI1a+j1b1bI1b+j1b2aI2a+j1b2bI2b
(110)
(109)および(110)式において、JO1aおよびJO1bは、アライメント信号の全成分が零である条件下における上記位置ずれの横軸および縦軸成分をそれぞれ表す。j1a1a(J1aのI1aによる偏微分)、j1a1b(J1aのI1bによる偏微分)、j1a2a(J1aのI2aによる偏微分)、j1a2b(J1aのI2bによる偏微分)、j1b1a(J1bのI1aによる偏微分)、j1b1b(J1bのI1bによる偏微分)、j1b2a(J1bのI2aによる偏微分)、およびj1b2b(J1bのI2bによる偏微分)は、いずれも、上記位置ずれに関する偏向感度(ブランキング開口板17の高さ位置における、単位印加電流当たりの偏向量)を表す。
ΔJ1a=j1a1aΔI1a+j1a1bΔI1b+j1a2aΔI2a+j1a2bΔI2b
(111)
ΔJ1b=j1b1aΔI1a+j1b1bΔI1b+j1b2aΔI2a+j1b2bΔI2b
(112)
本実施例においてブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させずにナイフエッジ20上のコマ収差を変化させることは、ΔJ1aおよびΔJ1bをともに零としつつ、アライメント信号I1a、I1b、I2a、およびI2bを変化させることに相当する。ΔJ1aおよびΔJ1bがともに零であれば、(111)および(112)式から、(113)および(114)式が成立する。
0=ΔI1a+j1a2aΔI2a+j1a2bΔI2b (113)
0=ΔI1b+j1b2aΔI2a+j1b2bΔI2b (114)
ただし、(113)および(114)式の導出に、(115)~(118)式が成立することを用いた。(115)~(118)式の成立は、画像17Aは先述のようにアライメント信号I1aおよびI1bを互いに独立に変化させて取得され、従って画像17Aの横軸および縦軸がそれぞれI1aおよびI1bを表すことに基づく。
0=1+j1a2arL2a1a+j1a2brL2b1a (119)
0=j1b2arL2a1a+j1b2brL2b1a (120)
次に、(113)および(114)式の両辺をΔI1bで除せば、(121)および(122)式が得られる。(121)および(122)式中のrL2a1b(=ΔI2a/ΔI1b)およびrL2b1b(=ΔI2b/ΔI1b)は、(106)式で表されたrL2a1bおよび(108)式で表されたrL2b1bにそれぞれ一致する。
0=j1a2arL2a1b+j1a2brL2b1b (121)
0=1+j1b2arL2a1b+j1b2brL2b1b (122)
ただし、(120)および(121)式は、ΔI1b/ΔI1a=0およびΔI1a/ΔI1b=0を前提とする。ここで、ΔI1b/ΔI1aおよびΔI1a/ΔI1bは、それぞれ、I1bのI1aによる偏微分、およびI1aのI1bによる偏微分と見なす。即ち、I1aおよびI1bは、先述のように、互いに独立に変化させる。
(119)~(122)式から、(123)および(124)式が得られる。即ち、連動比rL2a1a、rL2b1a、rL2a1b、およびrL2b1bは、(123)および(124)式から求められる。
まず、偏向感度j1a2a、j1a2b、j1b2a、およびj1b2bの決定の直前におけるアライメント条件を第0のアライメント条件とし、第0のアライメント条件下におけるアライメント信号I2aおよびI2bを、それぞれ、第0のアライメント信号I2a0およびI2b0とする。そして、先述の要領(実施例7を参照)により、画像17Aを取得する。ただし、画像17Aの取得のために互いに独立に変化させるアライメント信号は、I1aおよびI1bとする。そして、画像17Aから、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれの横軸および縦軸成分を抽出し、これらをそれぞれJ1a0およびJ1b0とする。
次に、I2aに変化量を与え、その際のアライメント条件を第1のアライメント条件とし、第1のアライメント条件下におけるアライメント信号I2aおよびI2bを、それぞれ、第1のアライメント信号I2a1およびI2b1(=I2b0)とする。そして、同様に画像17A’(図示せず)を取得する。そして、画像17A’から、領域17B’の中心からの画像17A’の中心の位置ずれの横軸および縦軸成分を抽出し、これらをそれぞれJ1a1およびJ1b1とする。
次に、I2bに変化量を与え、その際のアライメント条件を第2のアライメント条件とし、第2のアライメント条件下におけるアライメント信号I2aおよびI2bを、それぞれ、第2のアライメント信号I2a2(=I2a0)およびI2b2とする。そして、同様に画像17A’’(図示せず)を取得する。そして、画像17A’’から、領域17B’’の中心からの画像17A’’の中心の位置ずれの横軸および縦軸成分を抽出し、これらをそれぞれJ1a2およびJ1b2とする。
最後に、上記過程における、アライメント信号の変化量と上記位置ずれの変化量から、偏向感度j1a2a、j1a2b、j1b2a、およびj1b2bを求める。これらは、それぞれ(125)~(128)式で与えられる。
ΔJ1aおよびΔJ1bは、また、それぞれ(129)および(130)式で求めてもよい。(129)および(130)式において、I1aRおよびI1bRは、領域17Bの中心の横軸および縦軸座標をそれぞれ表す。ΔI1aRおよびΔI1bRは、I1aRおよびI1bRの変化量、具体的には、領域17Bの中心の横軸および縦軸座標からの領域17B’または領域17B’’の中心の横軸および縦軸座標の差を、それぞれ表す。
ΔJ1a=-ΔI1aR (129)
ΔJ1b=-ΔI1bR (130)
ΔJ1aおよびΔJ1bがそれぞれ(129)および(130)式で表せるのは、第一に、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれ(J1aおよびJ1b)が、画像17Aの中心からの領域17Bの中心の位置ずれと、大きさ(絶対値)を等しく、向きを逆にすることと、第二に、上記過程において、画像17Aの中心からの領域17Bの中心の位置ずれの変化は、領域17Bの座標(I1aRおよびI1bR)の変化に等しいことによる。
I1a=IKa+ILa (131)
I1b=IKb+ILb (132)
I2a=rK2a1aIKa+rK2a1bIKb+rL21ILa (133)
I2b=rK2b1aIKa+rK2b1bIKb+rL21ILb (134)
そうするだけでも、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させずにナイフエッジ20上のコマ収差を変化させるアライメントと、ナイフエッジ20上のコマ収差を変化させずにその位置ずれを変化させるアライメントの両方が可能となる。しかし、そのうえで、先述の不要な位置ずれ成分、即ちILaおよびILbに原因する位置ずれ成分の低減を推し進めれば、先述の不要なコマ収差成分および位置ずれ成分の両方の低減が徹底する。そうするには、I1aおよびI1bを(131)および(132)式に従わせ、I2aおよびI2bを(135)および(136)式に従わせればよい。
I2a=rK2a1aIKa+rK2a1bIKb+rL2a1aILa+rL2a1bILb (135)
I2b=rK2b1aIKa+rK2b1bIKb+rL2b1aILa+rL2b1bILb (136)
(133)~(136)式右辺は、先述の不要なコマ収差成分、即ちISbおよびISaに原因するコマ収差成分を打ち消すための項(rK2a1bIKbおよびrK2b1aIKa)を含む。ただし、(131)~(136)式において、ISaおよびISbは、それぞれIKaおよびIKbに書き変えられている。IKaおよびIKbは、ナイフエッジ20上のコマ収差(XY差DAおよびDB)を変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。
より具体的には、(103)および(104)式中の連動比rS21((22)式を参照)は、先述(実施例1および実施例7を参照)のように、アライナ18の偏向支点を第2の成形開口板7の高さ位置に一致させる連動比であり、アライナ18Uおよび18LのX偏向用コイルとY偏向用コイルの両方に共通であった。
これに対して、(133)~(136)式中の連動比rK2a1a(I2aのI1aによる偏微分)、rK2a1b(I2aのI1bによる偏微分)、rK2b1a(I2bのI1aによる偏微分)、およびrK2b1b(I2bのI1bによる偏微分)は、いずれも、ナイフエッジ20上のコマ収差を変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させる連動比であり、それぞれ、アライナ18UのX偏向用コイルとアライナ18LのX偏向用コイルの連動比、アライナ18UのY偏向用コイルとアライナ18LのX偏向用コイルの連動比、アライナ18UのX偏向用コイルとアライナ18LのY偏向用コイルの連動比、およびアライナ18UのY偏向用コイルとアライナ18LのY偏向用コイルの連動比を表す。
補足すれば、本実施例におけるXY差DAおよびDBは、(138)および(139)式で表せる。
DA=DOA+dALaILa+dALbILb (138)
DB=DOB+dBLaILa+dBLbILb (139)
(138)および(139)式から分かるように、DAおよびDBは、IKaおよびIKbのいずれにも依存しない。即ち、連動比rK2a1a、rK2a1b、rK2b1a、およびrK2b1bは、IKaおよびIKbによるXY差の変化を妨げる。
上記係数をdA1a(DAのI1aによる偏微分)、dA1b(DAのI1bによる偏微分)、dA2a(DAのI2aによる偏微分)、dA2b(DAのI2bによる偏微分)、dB1a(DBのI1aによる偏微分)、dB1b(DBのI1bによる偏微分)、dB2a(DBのI2aによる偏微分)、およびdB2b(DBのI2bによる偏微分)とすれば、XY差DAおよびDBは、これらを用いて、(140)および(141)式でそれぞれ表せる。
DA=DOA+dA1aI1a+dA1bI1b+dA2aI2a+dA2bI2b (140)
DB=DOB+dB1aI1a+dB1bI1b+dB2aI2a+dB2bI2b (141)
上記係数dA1a、dA1b、dA2a、dA2b、dB1a、dB1b、dB2a、およびdB2bは、(8)~(11)式の表すdAa、dAb、dBa、およびdBbを決定する手順(実施例1を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、これらのうちdA1a、dA1b、dB1aおよびdB1bを決定する際は、第0、第1、および第2のアライメント信号をI1aおよびI1bに対して定義し、dA2a、dA2b、dB2aおよびdB2bを決定する際は、第0、第1、および第2のアライメント信号をI2aおよびI2bに対して定義する。
(140)および(141)式から、DAおよびDBの全微分が得られる。それらは、(142)および(143)式の通りである。
ΔDA=dA1aΔI1a+dA1bΔI1b+dA2aΔI2a+dA2bΔI2b (142)
ΔDB=dB1aΔI1a+dB1bΔI1b+dB2aΔI2a+dB2bΔI2b (143)
本実施例においてナイフエッジ20上のコマ収差を変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させることは、ΔDAおよびΔDBをともに零としつつ、アライメント信号I1a、I1b、I2a、およびI2bを変化させることに相当する。ΔDAおよびΔDBがともに零であれば、(142)および(143)式より、(144)および(145)式が成立する。
0=dA1aΔI1a+dA1bΔI1b+dA2aΔI2a+dA2bΔI2b (144)
0=dB1aΔI1a+dB1bΔI1b+dB2aΔI2a+dB2bΔI2b (145)
(144)および(145)式の両辺をΔI1aで除せば、(146)および(147)式が得られる。
0=dA1a+dA2arK2a1a+dA2brK2b1a (146)
0=dB1a+dB2arK2a1a+dB2brK2b1a (147)
(144)および(145)式の両辺をΔI1bで除せば、(148)および(149)式が得られる。
0=dA1b+dA2arK2a1b+dA2brK2b1b (148)
0=dB1b+dB2arK2a1b+dB2brK2b1b (149)
(146)~(149)式中のrK2a1a(=ΔI2a/ΔI1a)、rK2b1a(=ΔI2b/ΔI1a)、rK2a1b(=ΔI2a/ΔI1b)、およびrK2b1b(=ΔI2b/ΔI1b)は、(133)~(136)式中のそれらに一致する。(146)および(147)式は、ΔI1b/ΔI1a=0を、(148)および(149)式は、ΔI1a/ΔI1b=0を前提とする。ここで、ΔI1b/ΔI1aおよびΔI1a/ΔI1bは、それぞれ、I1bのI1aによる偏微分、およびI1aのI1bによる偏微分と見なす。即ち、I1aおよびI1bは、先述のように、互いに独立に変化させる。
(146)~(149)式から、(150)および(151)式が得られる。即ち、連動比rK2a1a、rK2b1a、rK2a1b、およびrK2b1bは、(150)および(151)式から求められる。
I1a=IKa+ILa+ITa (152)
I1b=IKb+ILb+ITb (153)
(152)および(153)式において、ITaおよびITbは、画像17Aの取得に特化されたアライメント信号を表す。これらアライメント信号は、(133)~(136)、(152)、および(153)式から分かるように、アライナ18Uおよび18Lのうち、アライナ18Uのみに作用する。即ち、ブランキング開口板17の走査は、アライナ18Uのみによる。
このような工夫により、アライナ18Uの偏向感度がアライナ18Lの偏向感度により打ち消されることがなくなり、従って上記事態が回避できる。補足すれば、もしアライナ18Uによる電子ビーム1の偏向を補強すべく、アライナ18LにITaおよびITbに比例する成分を入力してこれらのアライナを連動させるならば、アライナ18の全体的な偏向感度が増し、上記事態の回避がより確実となる。
JTa=JOTa+jTaKaIKa+jTaKbIKb (154)
JTb=JOTb+jTbKaIKa+jTbKbIKb (155)
ただし、(154)および(155)式は、I1aおよびI1bがそれぞれ(152)および(153)式に従うことと、I2aおよびI2bがそれぞれ(135)および(136)式に従うことを前提とする。(154)および(155)式において、JOTaおよびJOTbは、アライメント信号IKaおよびIKbがともに零である条件下におけるJTaおよびJTbをそれぞれ表す。jTaKa(JTaのIKaによる偏微分)、jTaKb(JTaのIKbによる偏微分)、jTbKa(JTbのIKaによる偏微分)、およびjTbKb(JTbのIKbによる偏微分)は、IKaおよびIKbに原因する上記位置ずれに関する偏向感度(ブランキング開口板17の高さ位置における、単位印加電流当たりの偏向量)を表す。
(154)および(155)式から分かるように、JTaおよびJTbは、ILaおよびILbのいずれにも依存しない。即ち、上記連動比rL2a1a、rL2a1b、rL2b1a、およびrL2b1bは、ILaおよびILbによる、ブランキング開口板17の開口からの電子ビーム1の位置ずれの発生を妨げる。
(156)式を一般化すれば、(156)式は、(156’)式となる。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例9として、以下に説明する。
本実施例は、しかし、実施例8と、アライメント信号の決定および入力の方法を異にする。具体的には、本実施例では、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれ(J1a0およびJ1b0)とXY差(DA0およびDB0)をいずれも零とするアライメント信号(I1a0、I1b0、I2a0およびI2b0)の全てを一度に決定し、これらを一度にアライナ18(アライナ18Uおよび18L)に入力する。
これに対し、実施例8では、上記位置ずれを零とするアライメント信号(ISa0およびISb0、またはIKa0およびIKb0)の決定およびそれらのアライナ18への入力と、XY差(DA0およびDB0)を零とするアライメント信号(ILa0およびILb0)の決定およびそれらのアライナ18への入力とを、個別に行った。
(158)式を一般化すれば、(158)式は、(158’)式となる。
(158’)式からI1a0 (m)、I1b0 (m)、I2a0 (m)、およびI2b0 (m)を求めることと、それらをアライナ18に入力することを交互に繰り返せば、J1a0、J1b0、DA0、およびDB0を全て零に収束させることができる。即ち、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ、およびナイフエッジ20上のコマ収差を、ともに零に収束させることができる。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例10として、以下に説明する。
これに対し、実施例8では、ナイフエッジ20上の軸外色収差は度外視し、ナイフエッジ20上のコマ収差と、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれとを補正した。そのため、そのコマ収差を補正した後、ナイフエッジ20上に、軸外色収差が残存した。言い換えれば、その補正の副作用として、ナイフエッジ20上の軸外色収差が発生または変化することを許した。
本実施例では、上記目的、即ち上記コマ収差と軸外色収差の補正のため、2種類のアライメントを実施する。具体的には、上記軸外色収差を変化させずに上記コマ収差を変化させるアライメントと、上記コマ収差を変化させずに上記軸外色収差を変化させるアライメントを実施する。言い換えれば、本実施例は、実施例8と、アライメント信号I1a、I1b、I2b、およびI2bを従わせる式を異にする。
ナイフエッジ20上の軸外色収差を表す収差図形を軸外色収差図形SH(複素数)とすれば、SHは、図1の光学系における上記変動を用いて、(159)式に示すように表せる。
軸外色収差図形SH(ΔΦ0,ΔI1,ΔI2,…,ΔIQ)は、ΔΦ0min≦ΔΦ0≦ΔΦ0maxの範囲内の全てのΔΦ0、およびΔIqmin≦ΔIq≦ΔIqmax(1≦q≦Q)の範囲内の全てのΔIqに対して定義される。ここで、ΔΦ0minおよびΔΦ0maxは、ΔΦ0の最小および最大値をそれぞれ表し、ΔIqminおよびΔIqmaxは、ΔIqの最小および最大値をそれぞれ表す。
軸外色収差図形SHの例を、図17に示す。ただし、図17の軸外色収差図形SHは、便宜上、ΔΦ0min≦ΔΦ0≦ΔΦ0maxかつΔIq=0(1≦q≦Q)を前提とする。図17の軸外色収差図形SHは、より詳細には、HCΦの実部および虚部がともに正であるときの例である。
以降では、便宜上、(159)式を、(160)式に改める。(160)式において、I及びΔIは、全てのqに関するIqおよびΔIqの代表値をそれぞれ表す。ここで、全てのqに関するIqおよびΔIqは、IおよびΔIとの間に、(161)式に示す関係を持つ。これについては後述する。HCI(複素数)は、HCΦおよびHCIqと同様に、上記軸外色収差に関する係数である。HCIは、(162)式で与えられる。
SH(ΔΦ0,ΔI)=HCΦ(ΔΦ0/Φ0)-HCI(2ΔI/I) (160)
ΔIq/Iq=ΔI/I (161)
係数HCΦおよびHCIは、上記レンズおよびアライナ類の磁場分布と、電子ビーム1に含まれる各主光線の軌道とに依存する。HCΦおよびHCIは、従って、上記レンズ類の磁場分布が不変のもとで、アライメント信号が零のときの、任意の高さ位置(例えば材料10およびナイフエッジ20の高さ位置)における上記各主光線の位置および傾きと、アライメント信号との関数として表せる。より具体的には、HCΦおよびHCIはともに、上記各主光線の位置および傾きとアライメント信号との線形結合の形式で表せる。即ち、HCΦおよびHCIはともに、上記各主光線の位置および傾き、さらにはアライメント信号と、これらのいずれにも依存しない係数(軸外色収差係数)との積の総和である。HCΦおよびHCIは、従って投影図形11内の位置に依存するが、以降では、投影図形11の大きさは十分に小さく、従ってHCΦおよびHCIは投影図形11内で一定と見なす。
加速電圧変動ΔΦ0は、より具体的には、電子ビーム1を生む電子銃(図示せず)の中に備えられた陰極に印加される電圧(対接地電圧)の変動とともに、電子ビーム1を構成する電子のエネルギー分散(速度分散)をも表しうる。これは、ある荷電粒子ビームを構成する荷電粒子のエネルギー(速度)はその荷電粒子ビームの加速電圧に換算できることによる。これを考慮すれば、加速電圧変動ΔΦ0は、時間の関数として、(163)式で表せる。
ΔΦ0(t)=ΔΦ0C(t)+ΔΦ0E (163)
(163)式において、ΔΦ0C(t)は、上記陰極に印加される対接地電圧の変動(陰極電圧変動)を表し、tは、時間を表す。ΔΦ0Eは、電子ビーム1を構成する電子のエネルギー分散を加速電圧に換算したものを表す。ただし、便宜上、ΔΦ0Cの符号は、ΔΦ0の符号と同じとする。
励磁電流変動ΔIqは、より具体的には、レンズ制御部24およびアライナ制御部23の出力電流の変動を表す。この変動も、加速電圧変動ΔΦ0と同様に、時間の関数として表せる。
本実施例の装置を含め、可変成形電子ビーム描画装置においては、多くの場合、陰極電圧変動ΔΦ0Cおよび励磁電流変動ΔIqのいずれかまたは両方を故意に大きくしない限り、これらのいずれよりも、エネルギー分散ΔΦ0Eの方が大きい。そのため、ナイフエッジ20上の軸外色収差、即ち軸外色収差図形SHは、多くの場合、主にエネルギー分散ΔΦ0Eによる電子ビーム1のぼけとして表れる。従って、可変成形電子ビーム描画装置における軸外色収差図形SHは、多くの場合、電子ビーム1のぼけとして、(164)式で表して差し支えない。即ち、その収差図形は図17の収差図形と見なして差し支えない。(164)式において、ΔΦ0は、ΔΦ0Eに等しい。
SH=HCΦ(ΔΦ0/Φ0) (164)
補足すれば、電子ビーム1のぼけとしての軸外色収差図形SHを、ナイフエッジ20またはその他の手段により測定することは、もとより現実的ではない。これは、軸外色収差図形SHによるぼけを、それ以外のぼけと区別して測定することが困難であることによる。ここで、軸外色収差図形SHによるぼけ以外のぼけは、先述の、ナイフエッジ20に由来する見かけ上のぼけ、即ち、電子ビーム1の流れる方向がナイフエッジ20のエッジ端面に対して成す角度(図26Aおよび図26Bを参照)に依存するぼけを含む。
そのための測定系およびそれに対する制御は、従来の可変成形電子ビーム描画装置における測定系(図24を参照)およびそれに対する制御や、実施例1における測定系(図1を参照)およびそれに対する制御と、基本的に同じである。従って、ナイフエッジ20を、先述のように、電子反射体に置き換えてもよい。ただしその際は、電子反射体で反射される電子を、反射電子検出器(図示せず)で受け、それから得られる反射電子信号の波形を解析する。
補足すれば、本実施例の装置を含め、可変成形電子ビーム描画装置において、上記レンズおよびアライナ類の励磁電流として、対物レンズ9の励磁電流を変化させるのは一般的であるが、上述のように縮小レンズ8やアライナ18Uおよび18Lの励磁電流までをも変化させるのは、一般的ではない。ここで、もしアライナ18Uおよび18Lによる電子ビーム1の偏向量の絶対値が十分に小さければ、アライナ18Uおよび18Lによるナイフエッジ20上の軸外色収差も小さくなり、その分だけ、アライナ18Uおよび18Lの励磁電流を変化させる必要は低下する。さらには、もし縮小レンズ8の中心からの電子ビーム1の位置ずれも小さければ、縮小レンズ8の生むナイフエッジ20上の軸外色収差も小さくなり、その分だけ、縮小レンズ8の励磁電流を変化させる必要も低下する。
ただし、この電圧は、連続的に(滑らかに)ではなく、離散的に変化させる。即ち、電子銃制御部(図示せず)には、異なる複数の加速電圧からなるデータセットを与える。
ただし、これら励磁電流は、連続的にではなく、離散的に変化させる。即ち、アライナ制御部23およびレンズ制御部24には、異なる複数の励磁電流値からなるデータセットを与える。
(160)式は、さらに、(165)式に改められる。ただし、ここで、HCIは、HCΦとの間に(166)式の関係を持つ。
SH=HCΦ{(ΔΦ0/Φ0)-(2ΔI/I)} (165)
HCI=HCΦ (166)
このことは、(167)式が成立すれば、(165)式の表すSHは零になることを意味する。言い換えると、(168)式が成立すれば、電子ビーム1の加速電圧変動に由来する軸外色収差は、上記レンズおよびアライナ類の励磁電流変動に由来する軸外色収差に等しくなる。
ΔI/I=(ΔΦ0/Φ0)/2 (167)
ΔI/I=-(ΔΦ0/Φ0)/2 (168)
従って、上述のように全てのqに関するΔIqおよびIqに(161)式による制約を課せば、HCΦは、陰極電圧変動ΔΦ0Cからだけでなく、励磁電流変動ΔIからも求められる。同様に、HCIは、励磁電流変動ΔIからだけでなく、陰極電圧変動ΔΦ0Cからも求められる。ただし、ここで、ΔΦ0CはΔΦ0に等しい。
F(z,Φ0,B0,B1)
=d2u/dz2-i(η/Φ0 1/2){B0(du/dz)+(dB0/dz)u/2-B1}
=0 (169)
(169)式を満たす軌道の変化は、色収差に相当し、特に、(169)式を満たす軌道のうち主光線に対応する軌道の示す変化は、軸外色収差に相当する。(169)式において、u(複素数)は電子ビーム1を構成する光線の軌道、B0(実数)は軸上レンズ磁場、B1(複素数)は偏向磁場、η(={e/(2m)}1/2)は定数を表す。ここで、eは素電荷、mは電子質量を表す。以降では、(169)式を、便宜上、(170)式に置き換える。
F(z,Φ0,I)
=d2u/dz2-i(η/Φ0 1/2){IC0(du/dz)+I(dC0/dz)u/2-IC1} (170)
(169)式中のB0およびB1と、(170)式中のI、C0、およびC1との間には、(171)および(172)式で示される関係がある。
B0(z)=IC0(z) (171)
B1(z)=IC1(z) (172)
(168)式が成立すればΔΦ0およびΔIのいずれに対しても上記解、即ち上記軌道が近似的に同じ変化を示すのは、(168)式が成立するとき、上記加速電圧をΦ0からΦ0+ΔΦ0に変化させて得られる軌道方程式F(z,Φ0+ΔΦ0,I)と、上記励磁電流をIからI+ΔIに変化させて得られる軌道方程式F(z,Φ0,I+ΔI)が、近似的に互いに等しくなること、即ち(173)式が近似的に成立することによる。
F(z,Φ0+ΔΦ0,I)=F(z,Φ0,I+ΔI) (173)
(168)式が成立するときに(173)式が成立するのは、第一に、(173)式左辺および右辺が、(170)式より、近似的に、それぞれ(174)および(175)式で表せることと、第二に、(174)および(175)式は、(168)式が成立すれば、互いに等しくなることとによる。
F(z,Φ0+ΔΦ0,I)=d2u/dz2
-i(η/Φ0 1/2){IC0(du/dz)+I(dC0/dz)u/2-IC1}{1-(ΔΦ0/Φ0)/2} (174)
F(z,Φ0,I+ΔI)=d2u/dz2
-i(η/Φ0 1/2){IC0(du/dz)+I(dC0/dz)u/2-IC1}(1+ΔI/I) (175)
SH=-HC(2ΔI/I) (176)
HC=HA+iHB (177)
即ち、係数HCΦおよびHCIを、係数HC(複素数)に統一する。(176)式の表すSHは、(164)式の表す軸外色収差図形SHと、収差図形(図8を参照)の形を同じくする。
(177)式において、HAおよびHBは、HCの実部および虚部をそれぞれ表す。HC、HA、およびHBは、HCΦおよびHCIと同様に、上記レンズおよびアライナ類の磁場分布と、電子ビーム1に含まれる主光線の軌道とに依存する係数であり、ナイフエッジ20上の軸外色収差の指標となる。
補足すれば、本実施例の装置を含め、可変成形電子ビーム描画装置においては、電子ビーム1の加速電圧を変化させることよりも、上記レンズおよびアライナ類の励磁電流を変化させることの方が容易であることが多い。これは、可変成形電子ビーム描画装置においては、固定された上記レンズおよびアライナ類の励磁電流に対して電子ビーム1の加速電圧を調節することではなく、固定された電子ビーム1の加速電圧に対して上記レンズおよびアライナ類の励磁電流を調節することが普通であることによる。
上記実部および虚部は、ナイフエッジ20上の軸外色収差の直交2成分であり、それぞれ、(178)および(179)式で表せる。(178)および(179)式は、いずれも、(176)および(177)式から導出される。
Re(SH)=-HA(2ΔI/I)=(-2HA/I)ΔI (178)
Im(SH)=-HB(2ΔI/I)=(-2HB/I)ΔI (179)
(178)および(179)式から分かるように、上記実部および虚部に対する近似直線の勾配は、それぞれ、-2HA/Iおよび-2HB/Iに等しい。従って、これらをそれぞれ-2/Iで除せば、係数HAおよびHBが得られる。即ち、係数HC(=HA+iHB)が決定できる。あるいは、上記勾配は必ずしも-2/Iで除さなくてもよい。即ち、上記勾配-2HA/Iおよび-2HB/Iそのものを、上記軸外色収差の指標としてもよい。
補足すれば、上記近似関数は、原理的には、上記実部および虚部の測定点数をそれぞれ最低2点とすれば求められる。しかし、これら測定点数をそれぞれ3点以上とすれば、ナイフエッジ法に由来する測定誤差の影響が軽減され、従って係数HAおよびHBの測定の信頼性が向上する。
その説明のため、係数HCを、アライメント信号I1a、I1b、I2a、およびI2bの線形結合の形式で、(180)式で表す。
HC=HOC+hC1aI1a+hC1bI1b+hC2aI2a+hC2bI2b (180)
係数HCがこのように表せるのは、係数HCは、先述のように、アライメント信号が零のときの、任意の高さ位置における、電子ビーム1に含まれる各主光線の位置および傾きと、アライメント信号との線形結合の形式で表せることによる。(180)式において、HOC(複素数)は、アライメント信号の全成分が零のときにナイフエッジ20上に現れている軸外色収差に関する係数を表し、ナイフエッジ20の高さ位置における上記各主光線の位置と傾きに依存する。hC1a、hC1b、hC2a、およびhC2b(いずれも複素数)は、それぞれHCのI1a、I1b、I2a、およびI2bに関する偏微分係数であり、それぞれI1a、I1b、I2a、およびI2bに原因するナイフエッジ20上の軸外色収差に関する係数を表す。HOC、hC1a、hC1b、hC2a、およびhC2bは,それぞれの実部および虚部を用いて、それぞれ(181)~(183)式で表せる(いずれにおいてもp=1または2)。
HOC=HOA+iHOB (181)
hCpa=hApa+ihBpa (182)
hCpb=hApb+ihBpb (183)
(181)~(183)式を用いれば、(180)式は、(184)および(185)式で表せる。
HA=HOA+hA1aI1a+hA1bI1b+hA2aI2a+hA2bI2b (184)
HB=HOB+hB1aI1a+hB1bI1b+hB2aI2a+hB2bI2b (185)
(184)および(185)式から、HAおよびHBの全微分がそれぞれ得られる。それらは、(186)および(187)式の通りである。
ΔHA=hA1aΔI1a+hA1bΔI1b+hA2aΔI2a+hA2bΔI2b (186)
ΔHB=hB1aΔI1a+hB1bΔI1b+hB2aΔI2a+hB2bΔI2b (187)
係数hC1a、hC1b、hC2a、hC2b、hA1a、hA1b、hA2a、hA2b、hB1a、hB1b、hB2a、およびhB2bは、係数HCとは異なり、アライメント信号が零のときの、任意の高さ位置における上記各主光線の位置および傾きにも、アライメント信号にも、依存しない。以降では、係数hC1a、hC1b、hC2a、hC2b、hA1a、hA1b、hA2a、hA2b、hB1a、hB1b、hB2a、およびhB2bを、偏向色収差係数と称す。
I1a=IKa+IHa (188)
I1b=IKb+IHb (189)
I2a=rK2a1aIKa+rK2a1bIKb+rH2a1aIHa+rH2a1bIHb (190)
I2b=rK2b1aIKa+rK2b1bIKb+rH2b1aIHa+rH2b1bIHb (191)
(188)~(191)式において、IKaおよびIKbは、上記コマ収差(XY差DAおよびDB)を変化させずに上記軸外色収差(係数HAおよびHB)を変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表し、IHaおよびIHbは、上記軸外色収差を変化させずに上記コマ収差を変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。rH2a1a(I2aのI1aによる偏微分)、rH2a1b(I2aのI1bによる偏微分)、rH2b1a(I2bのI1aによる偏微分)、およびrH2b1b(I2bのI1bによる偏微分)は、いずれも、上記軸外色収差を変化させずに上記コマ収差を変化させる連動比であり、それぞれ、アライナ18UのX偏向用コイルとアライナ18LのX偏向用コイルの連動比、アライナ18UのY偏向用コイルとアライナ18LのX偏向用コイルの連動比、アライナ18UのX偏向用コイルとアライナ18LのY偏向用コイルの連動比、およびアライナ18UのY偏向用コイルとアライナ18LのY偏向用コイルの連動比を表す。
連動比rK2a1a、rK2a1b、rK2b1a、およびrK2b1b、即ち、上記コマ収差を変化させずに上記軸外色収差を変化させる連動比は、本実施例においても、(150)および(151)式で与えられる。
HA=HOA+hAKaIKa+hAKbIKb (194)
HB=HOB+hBKaIKa+hBKbIKb (195)
DA=DOA+dAHaIHa+dAHbIHb (196)
DB=DOB+dBHaIHa+dBHbIHb (197)
(194)および(195)式において、hAKa、hAKb、hBKa、およびhBKbは、IKaおよびIKbに原因するナイフエッジ20上の軸外色収差に関する偏向色収差係数を表す。これら偏向色収差係数は、(8)~(11)式の表す係数dAa、dAb、dBa、およびdBbを決定する手順(実施例1を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、IKaおよびIKbに対して定義し、さらに、測定対象を、係数HAおよびHBとする。(196)および(197)式において、dAHa、dAHb、dBHa、およびdBHbは、IHaおよびIHbに原因するXY差に関する係数を表す。これら係数も、(8)~(11)式の表す係数dAa、dAb、dBa、およびdBbを決定する手順(実施例1を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、IHaおよびIHbに対して定義する。
(198)および(199)式を一般化すれば、(198)および(199)式は、それぞれ(198’)および(199’)式となる。
(198’)式に基づくIKa0 (m)およびIKb0 (m)の決定およびそれらのアライナ18への入力と、(199’)式に基づくIHa0 (m)およびIHb0 (m)の決定およびそれらのアライナ18への入力を交互に繰り返せば、HA0、HB0、DA0、およびDB0を全て零に収束、即ちナイフエッジ20上の軸外色収差とコマ収差の両方を零に収束させることができる。即ち、ナイフエッジ20上の軸外色収差とコマ収差が、ともに補正される。
補足すれば、本実施例では、上述の通り、合計2つの補正対象に対しアライナの段数を合計2段としたが、これを合計3段以上としてもよい。そのようにしても、上記コマ収差および軸外色収差の両方を補正することができる。ただし、その場合、補正対象の数よりアライナの段数が多くなるので、電子ビーム1のアライメントに関する自由度が大きくなりすぎる。従って、それによる冗長性を解消することが必要になる。そのためには、先述(実施例7を参照)のように、合計3段以上のうちの1段を用いず、2段のみを用いることか、あるいは、合計3段以上のうちのいくつかを連動させることで、問題の自由度を減らせばよい。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例11として、以下に説明する。
本実施例は、しかし、実施例10と、アライメント信号の決定および入力の方法を異にする。具体的には、本実施例では、ナイフエッジ20上の軸外色収差に関する係数(HA0およびHB0)とXY差(DA0およびDB0)をいずれも零とするアライメント信号(I1a0、I1b0、I2a0、およびI2b0)の全てを一度に決定し、これらを一度にアライナ18(アライナ18Uおよび18L)に入力する。
これに対し、実施例10では、上記係数(HA0およびHB0)を零とするアライメント信号(IKa0およびIKb0)の決定およびそれらのアライナ18への入力と、XY差(DA0およびDB0)を零とするアライメント信号(IHa0およびIHb0)の決定およびそれらのアライナ18への入力とを、個別に行った。
(201’)式からI1a0 (m)、I1b0 (m)、I2a0 (m)、およびI2b0 (m)を求めることと、それらをアライナ18に入力することを交互に繰り返せば、HA0、HB0、DA0、およびDB0を全て零に収束させることができる。即ち、ナイフエッジ20上の軸外色収差およびコマ収差を、ともに零に収束させることができる。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例12として、以下に説明する。その説明のため、本実施例の可変成形電子ビーム描画装置の光学系および制御系の構成を、図19に示す。ただし、図19において、第2の成形開口板7より電子ビーム1の上流側の光学系、およびアライナ制御部23以外の制御部は、省略している。図19には、便宜上、3回非点発生器30および3回非点発生器制御部31を含まない構成例を示した。
これらのアライナの配置および段数は、しかし、上記に限定されない。例えば、アライナ18Uおよび18Lのうちの一方を、アライナ32とともに、縮小レンズ8と対物レンズ9の間に配置してもよいし、アライナ18およびアライナ32の段数をそれぞれ2段とし、アライナの段数を合計4段としてもよい。ただし、アライナの段数を4段以上とする場合は、先述の冗長性(実施例7および実施例10を参照)に注意する必要がある。以降では、アライナ18Uおよび18Lがともに第2の成形開口板7とブランキング開口板17の間に、アライナ32が縮小レンズ8と対物レンズ9の間に配置され、従ってアライナの段数が合計3段であるとの前提のもとで、議論を進める。
I1a=IKHa+ILKa+ILHa (202)
I1b=IKHb+ILKb+ILHb (203)
I2a=rKH2a1aIKHa+rKH2a1bIKHb
+rLK2a1aILKa+rLK2a1bILKb+rLH2a1aILHa+rLH2a1bILHb
(204)
I2b=rKH2b1aIKHa+rKH2b1bIKHb
+rLK2b1aILKa+rLK2b1bILKb+rLH2b1aILHa+rLH2b1bILHb
(205)
I3a=rKH3a1aIKHa+rKH3a1bIKHb
+rLK3a1aILKa+rLK3a1bILKb+rLH3a1aILHa+rLH3a1bILHb
(206)
I3b=rKH3b1aIKHa+rKH3b1bIKHb
+rLK3b1aILKa+rLK3b1bILKb+rLH3b1aILHa+rLH3b1bILHb
(207)
(202)~(207)式において、rKHpa1a(IpaのI1aによる偏微分)、rKHpa1b(IpaのI1bによる偏微分)、rKHpb1a(IpbのI1aによる偏微分)、およびrKHpb1b(IpbのI1bによる偏微分)(いずれにおいてもp=2または3)は、ナイフエッジ20上のコマ収差(XY差DAおよびDB)と軸外色収差(係数HAおよびHB)のいずれも変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ(位置ずれJ1a及びJ1bと等価)を変化させる連動比を表す。rLKpa1a(IpaのI1aによる偏微分)、rLKpa1b(IpaのI1bによる偏微分)、rLKpb1a(IpbのI1aによる偏微分)、およびrLKpb1b(IpbのI1bによる偏微分)(いずれにおいてもp=2または3)は、上記位置ずれおよびコマ収差のいずれも変化させずに上記軸外色収差を変化させる連動比を表す。rLHpa1a(IpaのI1aによる偏微分)、rLHpa1b(IpaのI1bによる偏微分)、rLHpb1a(IpbのI1aによる偏微分)、およびrLHpb1b(IpbのI1bによる偏微分)(いずれにおいてもp=2または3)は、上記位置ずれおよび軸外色収差のいずれも変化させずに上記コマ収差を変化させる連動比を表す。IKHaおよびIKHbは、上記コマ収差および軸外色収差のいずれも変化させずに上記位置ずれを変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。ILKaおよびILKbは、上記位置ずれおよびコマ収差のいずれも変化させずに上記軸外色収差を変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。ILHaおよびILHbは、上記位置ずれおよび軸外色収差のいずれも変化させずに上記コマ収差を変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。
まず、位置ずれJ1aおよびJ1bは、本実施例においては、(208)および(209)式で表せる。
J1a=JO1a+j1a1aI1a+j1a1bI1b+j1a2aI2a+j1a2bI2b+j1a3aI3a+j1a3bI3b (208)
J1b=JO1b+j1b1aI1a+j1b1bI1b+j1b2aI2a+j1b2bI2b+j1b3aI3a+j1b3bI3b (209)
(208)および(209)式において、j1a3a(J1aのI3aによる偏微分)、j1a3b(J1aのI3bによる偏微分)、j1b3a(J1bのI3aによる偏微分)、およびj1b3b(J1bのI3bによる偏微分)は、I3aまたはI3bによる上記位置ずれに関する偏向感度(ブランキング開口板17の高さ位置における、単位印加電流当たりの偏向量)を表す。偏向感度j1a3a、j1a3b、j1b3a、およびj1b3bは、(125)~(128)式の表す偏向感度j1a2a、j1a2b、j1b2a、およびj1b2bを決定する手順(実施例8を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、I3aおよびI3bに対して定義する。
補足すれば、本実施例では、偏向感度j1a3a、j1a3b、j1b3a、およびj1b3bは、いずれも零となる。これは、本実施例では、アライナ32が、ブランキング開口板17より電子ビーム1の下流側にあることによる。即ち、その位置関係が成立する限り、アライナ32によりブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれが変化することはない。
HA=HOA+hA1aI1a+hA1bI1b+hA2aI2a+hA2bI2b+hA3aI3a+hA3bI3b (210)
HB=HOB+hB1aI1a+hB1bI1b+hB2aI2a+hB2bI2b+hB3aI3a+hB3bI3b (211)
(210)および(211)式において、hA3a(HAのI3aによる偏微分)、hA3b(HAのI3bによる偏微分)、hB3a(HBのI3aによる偏微分)、およびhB3b(HBのI3bによる偏微分)は、I3aおよびI3bに原因するナイフエッジ20上の軸外色収差に関する偏向色収差係数を表す。これら偏向色収差係数は、(192)および(193)式中の偏向色収差係数hA1a、hA1b、hA2a、hA2b、hB1a、hB1b、hB2a、およびhB2bを決定する手順(実施例10を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、I3aおよびI3bに対して定義する。
DA=DOA+dA1aI1a+dA1bI1b+dA2aI2a+dA2bI2b+dA3aI3a+dA3bI3b (212)
DB=DOB+dB1aI1a+dB1bI1b+dB2aI2a+dB2bI2b+dB3aI3a+dB3bI3b (213)
(212)および(213)式において、dA3a(DAのI3aによる偏微分)、dA3b(DAのI3bによる偏微分)、dB3a(DBのI3aによる偏微分)、およびdB3b(DBのI3bによる偏微分)は、I3aおよびI3bに原因するXY差に関する係数を表す。これら係数は、(150)および(151)式中の係数dA1a、dA1b、dA2a、dA2b、dB1a、dB1b、dB2a、およびdB2bを決定する手順(実施例8を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、I3aおよびI3bに対して定義する。
ΔJ1a=j1a1aΔI1a+j1a1bΔI1b+j1a2aΔI2a+j1a2bΔI2b+j1a3aΔI3a+j1a3bΔI3b (214)
ΔJ1b=j1b1aΔI1a+j1b1bΔI1b+j1b2aΔI2a+j1b2bΔI2b+j1b3aΔI3a+j1b3bΔI3b (215)
ΔHA=hA1aΔI1a+hA1bΔI1b+hA2aΔI2a+hA2bΔI2b+hA3aΔI3a+hA3bΔI3b (216)
ΔHB=hB1aΔI1a+hB1bΔI1b+hB2aΔI2a+hB2bΔI2b+hB3aΔI3a+hB3bΔI3b (217)
ΔDA=dA1aΔI1a+dA1bΔI1b+dA2aΔI2a+dA2bΔI2b+dA3aΔI3a+dA3bΔI3b (218)
ΔDB=dB1aΔI1a+dB1bΔI1b+dB2aΔI2a+dB2bΔI2b+dB3aΔI3a+dB3bΔI3b (219)
(214)~(219)式より、(220)~(225)式が成立する。ここで、(220)および(221)式は、J1aおよびJ1bの変化がともに零(ΔJ1a=ΔJ1b=0)のときに成立し、(222)および(223)式は、HAおよびHBの変化がともに零(ΔHA=ΔHB=0)のときに成立し、(224)および(225)式は、DAおよびDBの変化がともに零(ΔDA=ΔDB=0)のときに成立する。(220)および(221)式の導出には、(115)~(118)式を用いた。
0=ΔI1a+j1a2aΔI2a+j1a2bΔI2b+j1a3aΔI3a+j1a3bΔI3b (220)
0=ΔI1b+j1b2aΔI2a+j1b2bΔI2b+j1b3aΔI3a+j1b3bΔI3b (221)
0=hA1aΔI1a+hA1bΔI1b+hA2aΔI2a+hA2bΔI2b+hA3aΔI3a+hA3bΔI3b (222)
0=hB1aΔI1a+hB1bΔI1b+hB2aΔI2a+hB2bΔI2b+hB3aΔI3a+hB3bΔI3b (223)
0=dA1aΔI1a+dA1bΔI1b+dA2aΔI2a+dA2bΔI2b+dA3aΔI3a+dA3bΔI3b (224)
0=dB1aΔI1a+dB1bΔI1b+dB2aΔI2a+dB2bΔI2b+dB3aΔI3a+dB3bΔI3b (225)
(220)~(225)式の両辺をΔI1aで除せば、(226)~(231)式が得られる。
0=1+j1a2ar2a1a+j1a2br2b1a+j1a3ar3a1a+j1a3br3b1a
(226)
0=j1b2ar2a1a+j1b2br2b1a+j1b3ar3a1a+j1b3br3b1a
(227)
0=hA1a+hA2ar2a1a+hA2br2b1a+hA3ar3a1a+hA3br3b1a
(228)
0=hB1a+hB2ar2a1a+hB2br2b1a+hB3ar3a1a+hB3br3b1a
(229)
0=dA1a+dA2ar2a1a+dA2br2b1a+dA3ar3a1a+dA3br3b1a
(230)
0=dB1a+dB2ar2a1a+dB2br2b1a+dB3ar3a1a+dB3br3b1a
(231)
(220)~(225)式の両辺をΔI1bで除せば、(232)~(237)式が得られる。
0=j1a2ar2a1b+j1a2br2b1b+j1a3ar3a1b+j1a3br3b1b
(232)
0=1+j1b2ar2a1b+j1b2br2b1b+j1b3ar3a1b+j1b3br3b1b
(233)
0=hA1b+hA2ar2a1b+hA2br2b1b+hA3ar3a1b+hA3br3b1b
(234)
0=hB1b+hB2ar2a1b+hB2br2b1b+hB3ar3a1b+hB3br3b1b
(235)
0=dA1b+dA2ar2a1b+dA2br2b1b+dA3ar3a1b+dA3br3b1b
(236)
0=dB1b+dB2ar2a1b+dB2br2b1b+dB3ar3a1b+dB3br3b1b
(237)
(226)~(237)式のそれぞれにおいて、連動比rpa1a(=ΔIpa/ΔI1a)、rpa1b(=ΔIpa/ΔI1b)、rpb1a(=ΔIpb/ΔI1a)およびrpb1b(=ΔIpb/ΔI1b)(いずれにおいてもp=2または3)は、それぞれ、ナイフエッジ20上のコマ収差(XY差DAおよびDB)と軸外色収差(係数HAおよびHB)のいずれも変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ(位置ずれJ1aおよびJ1bと等価)を変化させる連動比rKHpa1a(IpaのI1aによる偏微分)、rKHpa1b(IpaのI1bによる偏微分)、rKHpb1a(IpbのI1aによる偏微分)、およびrKHpb1b(IpbのI1bによる偏微分)(いずれにおいてもp=2または3)、上記位置ずれおよびコマ収差のいずれも変化させずに上記軸外色収差を変化させる連動比rLKpa1a(IpaのI1aによる偏微分)、rLKpa1b(IpaのI1bによる偏微分)、rLKpb1a(IpbのI1aによる偏微分)、およびrLKpb1b(IpbのI1bによる偏微分)(いずれにおいてもp=2または3)、そして上記位置ずれおよび軸外色収差のいずれも変化させずに上記コマ収差を変化させる連動比rLHpa1a(IpaのI1aによる偏微分)、rLHpa1b(IpaのI1bによる偏微分)、rLHpb1a(IpbのI1aによる偏微分)、およびrLHpb1b(IpbのI1bによる偏微分)(いずれにおいてもp=2または3)、のうちのいずれか2種類の連動比を表しうる。ただし、(226)~(237)式は、ΔI1b/ΔI1a=0およびΔI1a/ΔI1b=0を前提とする。ここで、ΔI1b/ΔI1aおよびΔI1a/ΔI1bは、それぞれ、I1bのI1aによる偏微分、およびI1aのI1bによる偏微分と見なす。即ち、(226)~(237)式は、I1aおよびI1bを互いに独立に変化させることを前提とする。
次に、ILKaおよびILKbの決定は、(245)式による。
そして、ILHaおよびILHbの決定は、(246)式による。
(244)~(246)式を一般化すれば、(244)~(246)式は、(244’)~(246’)式となる。
(244’)式に基づくIKHa0 (m)およびIKHb0 (m)の決定とそれらのアライナ18および32への入力、(245’)式に基づくILKa0 (m)およびILKb0 (m)の決定とそれらのアライナ18および32への入力、そして(246’)式に基づくILHa0 (m)およびILHb0 (m)の決定とそれらのアライナ18および32への入力を、順に繰り返せば、J1a0およびJ1b0、HA0およびHB0、そしてDA0およびDB0を、全て零に収束させることができる。即ち、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ、ナイフエッジ20上の軸外色収差、およびナイフエッジ20上のコマ収差を、全て零に収束させることができる。補足すれば、これらアライメント信号の決定および入力の順序は、ここで示した順序に限定されない。
上記偏向感度の減少が問題となる場合は、それを解消すべく、アライメント信号I2a、I2b、I3a、およびI3bは、(204)~(207)式に従わせるが、I1aおよびI1bは、(202)および(203)式ではなく、それぞれ(247)および(248)に従わせるようにすればよい。
I1a=IKHa+ILKa+ILHa+ITa (247)
I1b=IKHb+ILKb+ILHb+ITb (248)
(247)および(248)式中のITaおよびITbは、先述のように、画像17Aの取得に特化されたアライメント信号である。
アライメント信号I2a、I2b、I3a、およびI3bを(204)~(207)式、I1aおよびI1bを(247)および(248)式に従わせれば、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれJTaおよびJTb(ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれと等価)は、それぞれ(249)および(250)式で表せる。
JTa=JOTa+jTaKHaIKHa+jTaKHbIKHb (249)
JTb=JOTb+jTbKHaIKHa+jTbKHbIKHb (250)
(249)および(250)式において、jTaKHa(JTaのIKHaによる偏微分)、jTaKHb(JTaのIKHbによる偏微分)、jTbKHa(JTbのIKHaによる偏微分)、およびjTbKHb(JTbのIKHbによる偏微分)は、IKHaおよびIKHbに原因する上記位置ずれに関する偏向感度(ブランキング開口板17の高さ位置における、単位印加電流当たりの偏向量)を表す。これら偏向感度は、(156)および(156’)式中の偏向感度jTaKa、jTaKb、jTbKa、およびjTbKbを決定する手順(実施例8を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、IKHaおよびIKHbに対して定義する。
目的のIKHaおよびIKHb、即ち(249)および(250)式の表すJTaおよびJTbを零とするIKHaおよびIKHbは、(251)式で与えられる。(251)式において、IKHa0 (m)およびIKHb0 (m)は、JTa0およびJTb0を零とすべくm回目に更新されるIKHa0およびIKHb0をそれぞれ表し、JTa0 (m-1)およびJTb0 (m-1)は、IKHa0 (m-1)およびIKHb0 (m-1)をアライナ18および32に入力して得られるJTa0およびJTb0をそれぞれ表す。
これは、ブランキング開口板17の高さ位置における電子ビーム1の軌道に関する自由度は4つ(その軌道の位置および角度のそれぞれにつき、互いに線形独立な2成分)しかなく、従って、ブランキング開口板17からナイフエッジ20までの範囲における、電子ビーム1のアライメントに関する自由度も4つしかないことによる。即ち、例えばブランキング開口板17の開口の中心に電子ビーム1を通せば、電子ビーム1のアライメントに関する自由度は2つ(上記軌道の角度の互いに線形独立な2成分)しか残らず、従って、ナイフエッジ20上のコマ収差および軸外色収差のいずれか一方しか補正できない。
上記軸外色収差の発生または変化(上記第一の点)が不可能なのは、ブランキング開口板17の高さ位置における電子ビーム1の軌道(位置および角度)が一意に決まれば、第2の成形開口板7からブランキング開口板17までの範囲(レンズ磁場のない範囲)において発生する軸外色収差も一意に決まることによる。上記コマ収差の打ち消し(上記第二の点)が非現実的なのは、その範囲で発生するコマ収差は、ブランキング開口板17からナイフエッジ20までの範囲で発生するコマ収差、即ち縮小レンズ8および対物レンズ9の生むコマ収差に比べて、桁違いに小さいことによる。
補足すれば、第2の成形開口板7からブランキング開口板17までの範囲において発生する軸外色収差は、その範囲において偏向された電子ビーム1の軌道を電子ビーム1の上流側に延長して定義される仮想的な軌道の、物面(第2の成形開口板7)における位置の変動に換算できる。その位置は、第2の成形開口板7からブランキング開口板17までの範囲における電子ビーム1の軌道の詳細によらず、ブランキング開口板17の高さ位置における電子ビーム1の軌道で決まる。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例13として、以下に説明する。
本実施例は、しかし、実施例12と、アライメント信号の決定および入力の方法を異にする。具体的には、本実施例では、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれ(J1a0およびJ1b0)、ナイフエッジ20上の軸外色収差に関する係数(HA0およびHB0)、そしてXY差(DA0およびDB0)をいずれも零とするアライメント信号(I1a0、I1b0、I2a0、I2b0、I3a0、およびI3b0)の全てを一度に決定し、これらを一度にアライナ18(アライナ18Uおよび18L)および32に入力する。
これに対し、実施例12では、上記位置ずれを零とするアライメント信号(IKHa0およびIKHb0)の決定およびそれらのアライナ18および32への入力と、上記係数(HA0およびHB0)を零とするアライメント信号(ILKa0およびILKb0)の決定およびそれらのアライナ18および32への入力と、XY差(DA0およびDB0)を零とするアライメント信号(ILHa0およびILHb0)の決定およびそれらのアライナ18および32への入力とを、個別に行った。
(253)式を一般化すれば、(253)式は、(253’)式となる。(253’)式において、I3a0 (m)およびI3b0 (m)は、m回目に更新されるI3a0およびI3b0をそれぞれ表す。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例14として、以下に説明する。
ただし、本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、アライナ類(アライナ18U、18L、および32)を備える代わりに、レンズ類(縮小レンズ8および対物レンズ9)の機械的軸合わせのための機構(XY移動機構、図示せず)、および開口類(ブランキング開口板17)の機械的軸合わせのための機構(XY移動機構、図示せず)を備える。
これに対して、実施例1~実施例5、および実施例7~実施例13では、アライナ類(実施例1~実施例5および実施例7~実施例11では、アライナ18Uおよび18L、実施例12および実施例13では、アライナ18U、18L、および32)により電子ビーム1を偏向することにより、電子ビーム1を、縮小レンズ8、対物レンズ9、およびブランキング開口板17に対してアライメントしていた。
上記機構は、縮小レンズ8、対物レンズ9、およびブランキング開口板17のそれぞれを、互いに線形独立な2方向に移動させる。従って、上記機構によるこれら3要素のアライメントは、合計6(=2×3)つの自由度を有する。そのため、本実施例では、ナイフエッジ20上のコマ収差、ナイフエッジ20上のコマ収差とブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれとの両方、ナイフエッジ20上のコマ収差と軸外色収差との両方、そしてナイフエッジ20上のコマ収差および軸外色収差とブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれとの全ての、いずれもが補正可能である。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(スポット電子ビーム描画装置)を、実施例15として、以下に説明する。その説明のため、本実施例のスポット電子ビーム描画装置の光学系の構成を、図20に示す。図20には、便宜上、3回非点発生器30および先述の機構(実施例14を参照)を含まない構成例を示した。
ただし、本実施例では、ナイフエッジ20が、可変成形ビームとしての電子ビーム1ではなく、スポットビームとしての電子ビーム1により走査される。
第1の成形開口板3または第2の成形開口板7を上述のように明るさ絞りとして利用する場合は、第1の成形開口板3または第2の成形開口板7、即ち明るさ絞りを、X方向およびY方向に移動させることを、電子ビーム1のアライメントの一部とすることが可能である。即ち、その明るさ絞りのX方向およびY方向の移動により、電子ビーム1に含まれる主光線の軌道が変わる。従って、その明るさ絞りに機械的軸合わせのための機構(XY移動機構、図示せず)を設ければ、その機構および明るさ絞りを、アライナの代わりとして用いることができる。
補足すれば、上記球面収差および軸上色収差の測定および補正の際に、上記コマ収差および軸外色収差が低減されていれば、上記球面収差および軸上色収差の測定感度は向上し、従ってこれらの測定および補正精度が向上する。即ち、上記コマ収差および軸外色収差の測定および補正と、上記球面収差および軸上色収差の補正は、交互に繰り返すのがよい。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(走査型電子顕微鏡)を、実施例16のとして、以下に説明する。
従って、本実施例の目的は、電子ビーム描画装置における寸法精度の向上ではなく、これら電子顕微鏡における観察分解能の向上である。
上記観察試料上における電子ビーム1のぼけの測定、即ち上記コマ収差の測定は、より具体的には、上記観察試料の走査により得られる電子像の画像解析(二次元フーリエ解析、例えば、特開平9-82257号公報、および特開平10-106469号公報を参照)、または上記観察試料の走査の際に得られる電子信号の信号解析(例えば、特開平7-153407号公報を参照)による。これら手法は、コマ収差の測定および補正ではなく、デフォーカスおよび非点収差のいずれかまたは両方の測定および補正に向けられたものであるが、これら手法は、原理的に、直交2方向のぼけの大きさを測定可能とする。より詳細には、上記画像解析においては、上記電子像に表れるぼけの、任意の直交2方向の大きさが、フーリエ空間上で、その直交2方向の波数の小ささとして、互いに独立に評価できる。上記信号解析においては、上記観察試料を、任意の直交2方向のそれぞれに沿って走査すれば、そうして得られる2つの電子信号から、上記観察試料上のぼけの、その直交2方向の大きさが、互いに独立に評価できる。従って、これら手法は、上記コマ収差の測定および補正に応用できる。
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(透過型電子顕微鏡)を、実施例17として、以下に説明する。その説明のため、本実施例の透過型電子顕微鏡の光学系の構成を、図21に示す。図21では、対物レンズ9より電子ビーム1の上流側の光学系が省略されている。
ただし、本実施例では、図21に示すように、観察試料33の下方(電子ビーム1の下流側)に、拡大光学系34および透過電子像検出器35が設けられる。観察試料33は、薄膜状の試料である。拡大光学系34は、図21から分かるように、対物レンズ9’と、拡大レンズ36および37と、アライナ18U、18L、および32とからなる。対物レンズ9’と拡大レンズ36および37は、対物レンズ9とともに、レンズ制御部24(図1を参照)により制御され、アライナ18U、18L、および32は、アライナ制御部23(図1を参照)により制御される。
ここで、対物絞り38は、明るさ絞りとして働く。対物絞り38の高さ位置は、透過電子像検出器35と光学的に共役でない高さ位置とする。対物絞り38の高さ位置は、より具体的には、対物レンズ9’の後方焦点面の高さ位置とするか、またはその高さ位置と光学的に共役な高さ位置とする。図21の光学系では、対物絞り38の高さ位置は、対物レンズ9’の後方焦点面の高さ位置としてある。
上記照射のため、本実施例では、図21に示すように、光源の像19が、対物レンズ9より電子ビーム1の上流側に結ばれる。より詳細には、光源の像19の高さ位置は、対物レンズ9の物側焦点面の高さ位置に一致する。これは、観察試料33に、平行ビームとしての電子ビーム1を当てる目的からである。
これに対し、実施例16では、光源の像19は、観察試料(図示せず)の高さ位置に結ばれていた。従って、その高さ位置において、電子ビーム1のビーム径が最小となっていた。
そのため、本実施例では、透過電子像検出器35により観察試料の像39が電子画像として取得され、さらに、透過電子像検出器35上のコマ収差が、または透過電子像検出器35上のコマ収差と軸外色収差の両方が、補正される。
ここで、透過電子像検出器35上のコマ収差および軸外色収差とは、より詳細には、観察試料33から透過電子像検出器35までの間で発生し、透過電子像検出器35(像面)上に現れるコマ収差および軸外色収差である。
補足すれば、上記コマ収差および軸外色収差の測定および補正と、上記球面収差および軸上色収差の補正は、先述(実施例15を参照)のように、交互に繰り返すのがよい。
Claims (12)
- 荷電粒子ビームを生成する光源と、
前記荷電粒子ビームに対する光学系と、
前記荷電粒子ビームに対するぼけ測定手段を備え、
前記光学系は、前記荷電粒子ビームにより照射される被照射面に前記荷電粒子ビームを伝送する少なくとも1段のレンズを備え、
前記少なくとも1段のレンズは、前記被照射面上に、前記光源の像か、前記光学系内に配置され、前記荷電粒子ビームにより照射される開口板の開口の透過像か、または、前記光学系内に配置され、前記荷電粒子ビームにより照射される薄膜の透過像かを結び、
前記ぼけ測定手段は、前記被照射面の高さ位置における、前記荷電粒子ビームのぼけを測定する、
ことを前提とする荷電粒子ビーム装置であって、
前記光源、前記開口板、または前記薄膜から、前記被照射面までの間に、静電型または磁界型の多極子を備え、
前記多極子に3回非点収差を発生させるための3回非点発生信号を、前記多極子に入力することで、前記被照射面の高さ位置に前記3回非点収差を発生し、
前記3回非点発生信号の強度を増減しながら、前記ぼけ測定手段により、前記ぼけの大きさを、前記被照射面内の互いに直交する2方向のそれぞれに沿って測定し、前記ぼけの前記2方向のうちの1方向の大きさを最小とする前記3回非点発生信号の強度と、前記ぼけの前記2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする前記3回非点発生信号の強度との差を、第一の差として決定し、前記第一の差により、前記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を表すという第一の方法か、
または、前記3回非点発生信号の強度を増減しながら、前記ぼけ測定手段により、前記ぼけの大きさを、前記被照射面内の単一の方向に沿って測定し、前記ぼけの前記単一の方向の大きさを最小とする前記3回非点発生信号の強度と、前記3回非点発生信号の強度を増減しながら前記ぼけの大きさを前記単一の方向に沿って測定する前における前記3回非点発生信号の強度との差を、第二の差として決定し、前記第二の差により、前記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を表すという第二の方法により、
前記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を取得するように構成された
ことを特徴とする荷電粒子ビーム装置。 - 前記第二の方法において、予め、前記ぼけの、前記単一の方向の大きさを最小とする前記3回非点発生信号の強度と、前記ぼけの、前記被照射面内で前記単一の方向に直交する方向の大きさを最小とする前記3回非点発生信号の強度との平均に等しい強度の前記3回非点発生信号を、前記多極子に入力しておき、
前記平均を、前記3回非点発生信号の強度を増減しながら前記ぼけの大きさを前記単一の方向に沿って測定する前における前記3回非点発生信号の強度とする、請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置。 - 前記荷電粒子ビームの2回非点収差を低減する2回非点補正手段をさらに備え、
前記第一の方法または前記第二の方法において、前記3回非点発生信号の強度を増減する際に副次的に発生または変化する、前記被照射面の高さ位置における前記2回非点収差が、前記2回非点補正手段により低減されるように、前記多極子による前記3回非点収差の発生と前記2回非点補正手段による前記2回非点収差の低減とを互いに連動させる、請求項1または請求項2に記載の荷電粒子ビーム装置。 - 前記被照射面の高さ位置に、前記ぼけを測定するためのナイフエッジ状のぼけ測定媒体をさらに備え、
前記光学系は、前記光源から前記被照射面までの間に、前記荷電粒子ビームの偏向により前記荷電粒子ビームで前記ぼけ測定媒体を走査する走査手段を備え、
前記ぼけ測定手段は、前記走査手段により前記ぼけ測定媒体を走査し、前記荷電粒子ビームの、前記ぼけ測定媒体に遮られなかった部分の電流、または、前記ぼけ測定媒体に遮られた部分の電流を検出し、該検出された電流の波形の鈍りに基づいて前記ぼけを評価する、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム装置。 - 前記走査手段による前記ぼけ測定媒体の走査は、前記3回非点発生信号に、前記多極子に前記荷電粒子ビームを偏向させるための信号を重畳することによる、請求項4に記載の荷電粒子ビーム装置。
- 前記3回非点発生信号は、互いに独立な2成分から構成され、
前記3回非点発生信号を構成する互いに独立な2成分は、前記3回非点収差を構成する、互いに直交する2成分を発生させ、
前記第一の方法または前記第二の方法による前記コマ収差の成分の取得を、前記3回非点発生信号を構成する互いに独立な2成分のそれぞれについて行うことで、前記コマ収差の2成分を取得する、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム装置。 - 前記荷電粒子ビームの前記被照射面内の位置を測定するための位置測定手段をさらに備え、
前記荷電粒子ビームに含まれる主光線群が前記被照射面の高さ位置において示す色収差を、軸外色収差とし、
前記荷電粒子ビームの加速電圧に変化を与えるか、または前記少なくとも1段のレンズのうちのいくつかまたは全ての強度に変化を与え、
前記位置測定手段により、前記加速電圧の変化に伴う、または前記少なくとも1段のレンズのうちのいくつかまたは全ての強度の変化に伴う、前記荷電粒子ビームの前記被照射面内の位置の変化を測定し、
該測定された前記被照射面内の位置の変化の互いに直交する2成分により、前記軸外色収差の2成分を表すことで、前記軸外色収差の2成分を取得する、請求項6に記載の荷電粒子ビーム装置。 - 前記光源から前記被照射面までの間に、前記荷電粒子ビームを偏向することにより前記荷電粒子ビームをアライメントするアライメント手段を備え、
前記アライメント手段の段数は、前記荷電粒子ビームの流れる方向に合計1段以上とし、
前記アライメント手段の各段は、前記荷電粒子ビームを、前記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向に偏向する偏向手段からなり、
前記コマ収差の2成分が小さくなるように、前記アライメント手段により前記荷電粒子ビームの軌道を変化させる、請求項6または請求項7に記載の荷電粒子ビーム装置。 - 前記アライメント手段には、互いに独立な2成分から構成されるアライメント信号が入力され、
前記偏向手段は、前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分を、または前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分のそれぞれにそれぞれが比例する互いに独立な2成分を受け、
前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分のそれぞれは、前記アライメント手段に、前記荷電粒子ビームの軌道を、前記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向のそれぞれに向けて変化させ、
前記コマ収差の2成分が小さくなるように前記アライメント手段により前記荷電粒子ビームの軌道を変化させる際は、
前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分の現在値と、前記コマ収差の2成分の、前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分に関する偏微分係数と、前記コマ収差の2成分の現在値とから、前記コマ収差の2成分を零とする、前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分の強度を決定し、該決定された強度の、前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分を、前記アライメント手段に入力する、請求項8に記載の荷電粒子ビーム装置。 - 前記光源から前記被照射面までの間に、前記荷電粒子ビームを偏向することにより前記荷電粒子ビームをアライメントするアライメント手段を備え、
前記アライメント手段の段数は、前記荷電粒子ビームの流れる方向に合計2段以上とし、
前記光源、前記開口板、または前記薄膜から前記被照射面までの間に、前記光源の像、前記開口板の開口の透過像、または前記薄膜の透過像の明るさを制御する明るさ絞りを備え、
前記アライメント手段の少なくとも1段を、前記明るさ絞りより前記荷電粒子ビームの上流側に配置し、
前記明るさ絞りの開口の中心からの前記荷電粒子ビームの位置ずれを測定する手段を備え、
前記アライメント手段の各段は、前記荷電粒子ビームを、前記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向に偏向する偏向手段からなり、
前記位置ずれを測定する手段により、前記位置ずれの互いに線形独立な2成分を測定し、前記コマ収差の2成分と前記位置ずれの互いに線形独立な2成分とが小さくなるように、前記アライメント手段により前記荷電粒子ビームの軌道を変化させる、請求項6または請求項7に記載の荷電粒子ビーム装置。 - 前記光源から前記被照射面までの間に、前記荷電粒子ビームを偏向することにより前記荷電粒子ビームをアライメントするアライメント手段を備え、
前記アライメント手段の段数は、前記荷電粒子ビームの流れる方向に合計2段以上とし、
前記アライメント手段の各段は、前記荷電粒子ビームを、前記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向に偏向する偏向手段からなり、
前記コマ収差の2成分と前記軸外色収差の2成分とが小さくなるように、前記アライメント手段により前記荷電粒子ビームの軌道を変化させる、請求項7に記載の荷電粒子ビーム装置。 - 前記光源から前記被照射面までの間に、前記荷電粒子ビームを偏向することにより前記荷電粒子ビームをアライメントするアライメント手段を備え、
前記アライメント手段の段数は、前記荷電粒子ビームの流れる方向に合計3段以上とし、
前記光源、前記開口板、または前記薄膜から前記被照射面までの間に、前記光源の像、前記開口板の開口の透過像、または前記薄膜の透過像の明るさを制御する明るさ絞りを備え、
前記アライメント手段の少なくとも1段を、前記明るさ絞りより前記荷電粒子ビームの上流側に配置し、
前記明るさ絞りの開口の中心からの前記荷電粒子ビームの位置ずれを測定する手段を備え、
前記アライメント手段の各段は、前記荷電粒子ビームを、前記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向に偏向する偏向手段からなり、
前記位置ずれを測定する手段により、前記位置ずれの互いに線形独立な2成分を測定し、前記コマ収差の2成分と前記軸外色収差の2成分と前記位置ずれの互いに線形独立な2成分とが小さくなるように、前記アライメント手段により前記荷電粒子ビームの軌道を変化させる、請求項7に記載の荷電粒子ビーム装置。
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