JP7200062B2 - 荷電粒子ビーム装置 - Google Patents

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Description

本発明は、結像機能を持つ荷電粒子ビーム装置に関する。そのような装置には、電子ビーム描画装置、電子ビーム3次元造形装置、走査型電子顕微鏡(SEM)、および透過型電子顕微鏡(TEM)が含まれる。
荷電粒子ビーム装置とは、ある目的のために荷電粒子ビームを制御および利用する装置である。荷電粒子ビームは、電子ビームとイオンビームに大別される。
荷電粒子ビーム装置の中でも、結像機能を持ち、微細な描画、造形、および観察等を目的とする装置は、用いるビームの収差およびぼけが小さいことを要求される。電子ビーム描画装置、電子ビーム3次元造形装置、走査型電子顕微鏡、および透過型電子顕微鏡は、そのような装置の代表である。
上記のような装置の一つとして、可変成形電子ビーム描画装置(特許文献1および非特許文献1を参照)を、以下に説明する。
可変成形電子ビーム描画装置は、微細な描画を可能としつつ、かつ高い描画スループットを得ることを目的に生み出された電子ビーム描画装置である。可変成形電子ビーム描画装置は、主に、半導体デバイス製造用のフォトマスクの描画に用いられる。
可変成形電子ビーム描画装置は、上記目的のため、被描画材料(被露光材料)上における電子ビームの断面の形状および寸法を可変とし、その形状および寸法を、描画されるパターンに応じて制御する。ここで、被描画材料上における電子ビームの断面は、そのビームにより一度に露光される領域を決定する。
可変成形電子ビーム描画装置で用いられる光学系の例を、図22に示す。図22においては、便宜上、光学系の構成要素(レンズ、偏向器、および開口類)がZ軸に沿って配置され、Z軸の正の向きに電子ビーム1が流れるものとする。この光学系のレンズおよび偏向器類は、特に明示のない限り、それぞれ磁界型及び静電型とする。
上記光学系は、まず、図22に示すように、電子ビーム1を、照射レンズ2により収束する。そして、電子ビーム1により、第1の成形開口板3を照射する。ここで、電子ビーム1の供給源、即ち光源4としては、一般には、電子銃(図示せず)中に形成されるクロスオーバを考えればよい。
上記照射の結果、第1の成形開口板3の下に、光源の像5が結ばれる。光源の像5の位置は、図22において、光源4の高さ位置に起点を持つ光線(二点鎖線)が交わる位置に一致する。上記光学系の生む光源の像(光源の像5、16、および19)は、いずれも、これら光線が交わる位置に結ばれる。
上記光学系は、次に、第1の成形開口板3の開口の像を、成形レンズ6により、第2の成形開口板7に投影する。その像の位置は、図22において、第1の成形開口板3の高さ位置に起点を持つ光線(実線)が最初に交わる位置に一致する。上記光学系の生む成形開口板の開口の像(投影図形11を含む)は、いずれも、これら光線が交わる位置に結ばれる。
上記光学系は、そして、第1の成形開口板3の開口の像と第2の成形開口板7の開口との重なりにより生じる図形(論理積)の像を、縮小レンズ8と対物レンズ9により、材料10に投影する。即ち、材料10が露光される。材料10には、レジスト(感光材料)が塗布されている。
上記露光の結果、材料10上のレジストが感光する。即ち、投影図形11が材料10上のレジストに転写される。
従って、投影図形11の形状、寸法、位置、および露光時間を制御することで、材料10に所望のパターンが描画できる。
投影図形11の形状と寸法を制御するには、成形偏向器12を用いる。成形偏向器12により電子ビーム1を偏向すれば、上述した重なりにより生じる図形の形状と寸法が変わり、従って投影図形11の形状と寸法も変わる。
投影図形11の位置(二次元)を制御するには、対物偏向器13と材料ステージ14を併用する。対物偏向器13の偏向可能領域、即ち偏向フィールド(正方形または長方形)には制限があるため、まず材料ステージ14により材料10を移動させ、ステップの大きな位置決めを実施し、そのうえで対物偏向器13により電子ビーム1を偏向し、ステップの小さな位置決めを実施する。ここで、対物偏向器13の偏向フィールドの制限は、対物偏向器13を駆動する電源(図示せず)の定格出力および対物偏向器13の偏向感度(材料10の表面の高さ位置における、単位印加電圧当たりの偏向量)による。
対物偏向器13は、8極の静電偏向器(多極子)である。対物偏向器13の目的は電子ビーム1の二次元偏向であるから、対物偏向器13の極数は4極(X偏向およびY偏向用にそれぞれ2極)としてもよいが、その場合、対物偏向器13の中心からの半径に対し非線形な電位成分が新たに生じ、従って、その電位成分に由来する偏向収差が無視できなくなる。対物偏向器13の極数を8極とすることで、その電位成分が低減され、従って、その電位成分に由来する偏向収差が低減される。
投影図形11の露光時間を制御するには、ブランカー15を用いる。ブランカー15を作動させない間は、電子ビーム1が材料10に入射し、材料10が露光されるが、ブランカー15を作動させると、電子ビーム1が途中で遮断され、材料10は露光されなくなる。従って、上記露光時間は、ブランカー15の作動を一旦解除してからそれを再び開始するまでの時間となる。ここで、ブランカー15の作動により電子ビーム1が遮断されるのは、その作動による電子ビーム1の偏向の結果、電子ビーム1がブランキング開口板17の非開口部に入射することによる。
ブランカー15は、図22に示すように、上下2段の構成となっている。これは、ブランカー15に2つの自由度を持たせることで、ブランカー15の偏向支点の高さ位置と偏向量の両方を制御するためである。より具体的には、ブランカー15の偏向支点の高さ位置を第1の成形開口板3の高さ位置に一致させるとともに、ブランキング開口板17の開口の中心からの光源の像16の位置を変えるためである。ここで、ブランカー15の偏向支点の高さ位置を第1の成形開口板3の高さ位置に一致させるのは、ブランカー15の作動とともに投影図形11の電流密度分布(明るさ分布)の形が変わるのを防ぐためである。
ブランキング開口板17は、対物レンズ9の高さ位置と光学的に共役の高さ位置に配置される。ブランキング開口板17および対物レンズ9の高さ位置には、それぞれ、光源の像16および19が結ばれる。
ここで、ブランキング開口板17は、縮小レンズ8と対物レンズ9から構成されるケーラー照明光学系において、ブランカー15の作動とともに投影図形11の全体的な明るさを制限する絞り(明るさ絞り)と見なせる。ブランキング開口板17は、また、ブランカー15の作動とともに、材料10の高さ位置における電子ビーム1の収束角を制限する絞りとも見なせる。これに対し、第1の成形開口板3および第2の成形開口板7は、上記照明光学系において視野を制限する絞り(視野絞り)と見なせる。
可変成形電子ビーム描画装置の重要な性能指標は、描画スループット(描画速度)と描画精度である。描画精度は、位置精度と寸法精度に分けられるが、以降では、これらのうち、寸法精度を主に論じる。
可変成形電子ビーム描画装置の描画スループットおよび寸法精度の向上には、材料10上において、電子ビーム1の電流密度が高いこと、および電子ビーム1のぼけが小さいことがそれぞれ要求される。ここで、電子ビーム1のぼけは、電子ビーム1の電流密度が高いほど大きくなりやすい。従って、描画スループットを向上させようとするほど、電子ビーム1のぼけを小さくする必要が増す。可変成型電子ビーム描画装置に要求される描画スループットと寸法精度は年々高くなっているから、その必要は、年々増している。
可変成型電子ビーム描画装置の光学系、即ち図22の光学系においては、上記必要を満たす方策として、ビームアライメントおよび収差補正が定期的に実施される。図22の光学系に対するビームアライメントおよび収差補正の概要を、以下に示す。
図22の光学系においては、電子ビーム1のぼけの低減のため、第一に、電子ビーム1が、それが対物レンズ9の中心を通るように、アライメントされる。その結果、材料10上に現れる軸外色収差が零になるとともに、材料10上に現れるその他の収差も低減される。
図22の光学系は、上記アライメントのため、アライナ18を備えている。アライナ18は、磁界型の偏向器である。
上記軸外色収差は、電子ビーム1に含まれる主光線が、材料10の表面、即ち像面(より具体的には、近軸像面)上において示す色収差である。その色収差は、電子ビーム1を構成する電子のエネルギー分散(速度分散)に主に原因し、電子ビーム1に含まれる主光線の、対物レンズ9の中心からの位置ずれとともに大きくなる。ここで、電子ビーム1に含まれる主光線は、投影図形11内の像点の数(無数)だけ存在し、それら主光線は全て光源の像5,16,19のそれぞれの中心を通る。即ち、電子ビーム1に含まれる主光線は、光源の像5,16,19のそれぞれの高さ位置において、1点に交わる。
材料10上に現れる軸外色収差は、上記理由から、投影図形11内の座標に依存するとともに、電子ビーム1に含まれる主光線の、対物レンズ9(または、その他のレンズ)の中心からの全体的な位置ずれにも依存する。本明細書においては、前者(投影図形11内の座標)への依存よりも、後者(電子ビーム1に含まれる主光線の対物レンズ9またはその他のレンズの中心からの全体的な位置ずれ)への依存を重視し、特に明示のない限り、専ら、後者に依存する色収差を、軸外色収差とする。ただし、後者に依存する色収差であっても、偏向器類(対物偏向器13およびアライナ18)による電子ビーム1の偏向に原因する色収差は、本明細書においては、特に、偏向色収差と称する。
補足すれば、電子ビーム1に含まれる各主光線は、材料10上において、軸外色収差のみを示すが、その各主光線周りの光線は、材料10上において、軸外色収差と軸上色収差の和を示す。ここで、軸上色収差は、その一般の定義通り、電子ビームに含まれる各主光線周りの光線が像面(図22の光学系においては、材料10の表面)上においてその各主光線に対して示す色収差を指す。
上記アライメントにおいて、電子ビーム1が対物レンズ9の中心を通っているか否か、即ち、上記軸外色収差が零になっているか否かは、電子ビーム1の加速電圧を増減、または対物レンズ9の励磁電流を増減し、その際の材料10面内における電子ビーム1の位置の変化を見れば分かる。その際の材料10面内の電子ビーム1の位置の変化は、電子ビーム1が対物レンズ9の中心を通っていれば零であるが、そうでなければ零でない。その大きさおよび向きは、ナイフエッジ法により測定できる。ナイフエッジ法については、後述する。
このように荷電粒子ビームの加速電圧またはそのビームに対するレンズ類の励磁電流を増減する動作は、一般に、ウォブリング(wobbling)と呼ばれる。荷電粒子ビームの加速電圧またはそのビームに対するレンズ類の励磁電流のウォブリングを利用した軸外色収差測定およびビームアライメントは、電子ビーム描画装置や電子顕微鏡を始めとする荷電粒子ビーム装置に、広く用いられている。これらの装置においては、加速電圧またはレンズ励磁電流のウォブリングを利用した軸外色収差測定およびビームアライメントにより決定された荷電粒子ビームの軌道に対し、一般に、それぞれ電圧軸または電流軸との名称が付される。
補足すれば、対物レンズ9の中心は、必ずしも対物レンズ9の機械的な中心を意味しない。さらに補足すれば、材料10上の軸外色収差は、電子ビーム1の、対物レンズ9の中心からの位置ずれだけでなく、電子ビーム1の、それ以外のレンズ(即ち、縮小レンズ8)の中心からの位置ずれにも、また、アライナ18による電子ビーム1の偏向の大きさにも、依存する。しかし、以降では、説明の便宜上、上記軸外色収差が零となるとき、電子ビーム1は対物レンズ9の中心を通ると見なす。
アライナ18は、より詳細には、図22に示すように、上下2段構成となっている。以降では、アライナ18の上段および下段を、それぞれアライナ18Uおよびアライナ18Lと称す。アライナ18Uおよびアライナ18Lは、いずれも、X偏向用コイルとY偏向用コイルからなる。
アライナ18がこのように上下2段構成になっているのは、アライナ18の偏向支点の高さ位置とアライナ18による電子ビーム1の偏向量との両方を制御するためである。そのような制御としては、例えば、アライナ18の偏向支点の高さ位置を、第2の成形開口板7(物面)の高さ位置に一致させつつ、対物レンズ9の高さ位置における電子ビーム1の位置を変える制御、即ち、投影図形11の位置を変えることなく、電子ビーム1の対物レンズ9の中心からの位置ずれを変える制御が考えられる。この制御によれば、アライナ18を作動させることと、ナイフエッジ法による測定を行うことの交互の繰り返しが容易となる。
上記制御が可能なのは、第2の成形開口板7(物面)の高さ位置と、材料10の表面(像面)の高さ位置が、互いに光学的に共役な関係にあることによる。即ち、上記偏向支点が像面に写像されることによる。ただし、上記偏向支点は、見かけ上の偏向支点、即ち、アライナ18により偏向された電子ビーム1の軌道を電子ビーム1の上流側に延長して定義される偏向支点である。
アライナ18による電子ビーム1のアライメントに関する自由度は、合計4つである。これは、合計2段のアライナ(アライナ18Uおよび18L)のそれぞれにより、互いに線形独立な2方向(X方向およびY方向)に電子ビーム1が偏向されることによる。これに対し、ブランカー15による電子ビーム1の偏向に関する自由度は、先述のように合計2つである。これは、ブランカー15による電子ビーム1の偏向の方向は、ブランカー1段当たり1つの方向で済むことによる。
図22の光学系においては、電子ビーム1のぼけの低減のため、第二に、上記アライメント後に材料10上に残っているデフォーカス(フォーカスずれ)と非点収差(2回非点収差)が測定および補正される。これらのうち、デフォーカスは、対物レンズ9の励磁電流を増減することにより測定および補正され、非点収差は、非点補正器(図示せず)の作動により測定および補正される。これらの測定および補正にも、ナイフエッジ法が用いられる。ここで、電子ビーム1のぼけは、投影図形11の電流密度分布のエッジの鈍さとして評価される。
投影図形11の電流密度分布を、図23に示す。図23の縦軸および横軸は、それぞれ電流密度および位置を表す。その位置は、差し当たり、X方向の位置とする。
図23に示す電流密度分布は、ぼけのない投影図形11の電流密度分布(矩形分布)と、電子ビーム1のぼけの分布(例えばガウス分布)を畳み込んだ結果であり、即ち、投影図形11の現実の電流密度分布を表す。その分布は、電子ビーム1のぼけが小さいときは、図23中に実線で示すように、エッジの鋭い(傾斜の立った)分布となるが、電子ビーム1のぼけが大きいときは、図23中に破線で示すように、エッジの鈍い(傾斜の寝た)分布となる。
図22の光学系においては、電子ビーム1のぼけの低減のため、第三に、偏向収差が測定および補正される。ここで、偏向収差とは、材料10上の投影図形11の位置を変えるべく電子ビーム1を対物偏向器13により偏向することに伴い、材料10上に現れる収差である。その偏向収差は、偏向歪収差、偏向像面湾曲収差、偏向非点収差、偏向コマ収差、および偏向色収差に分類できる。これらのうち、偏向歪収差は電子ビーム1の位置ずれに寄与し、その他は電子ビーム1のぼけに寄与する。
ただし、可変成型電子ビーム描画装置においては、上記偏向収差の全てが補正されるわけではない。具体的には、上記偏向収差のうち、通常補正されるのは、偏向歪収差、偏向像面湾曲収差、および、偏向非点収差(2回非点収差)である。これらのうち、偏向歪収差は、偏向信号に歪補正信号を重畳することにより補正され、偏向像面湾曲収差および偏向非点収差は、それぞれ、静電型のフォーカス補正器(図示せず)および非点補正器(図示せず)で補正される。ただし、偏向像面湾曲収差および偏向非点収差は、それぞれ、偏向信号にフォーカス補正信号および非点補正信号を重畳する(対物偏向器13にフォーカス補正器および非点補正器を兼ねさせる)ことによっても補正されうる(特許文献2を参照)。
ここで、偏向像面湾曲収差および偏向非点収差が静電型の補正器で補正されるのは、これらの補正が動的補正であることによる。即ち、これらの補正は、偏向座標に応じて高速に行われる必要がある。一方、先述のアライメント後に材料10上に残るデフォーカスと非点収差の補正は、静的補正であり、従って、高速に行われる必要はない。
ナイフエッジ法とは、一般に、ナイフエッジ(エッジの鋭い薄板または薄膜)を測定媒体とし、これを荷電粒子ビーム(またはその他のビーム)で走査して得られる信号から、そのビームの位置、断面の大きさ、およびぼけの大きさの、いくつかまたは全てを測定する手法を指す。そのためのナイフエッジは、例えば、Siウェハーを微細加工することで作製される。
ナイフエッジ法による上記の測定を図22の光学系において行うには、まずはその前提として、図24に例示するような測定系を構成する。図24の測定系では、ナイフエッジ20およびファラデーカップ21を、材料ステージ14上の、材料10とは別の領域に設けている。ここで、ナイフエッジ20の表面の高さ位置は、材料10の表面の高さ位置に一致させる。
そのような測定系を構成したうえで、材料ステージ14によりナイフエッジ20およびファラデーカップ21を電子ビーム1の入射位置まで移動させ、対物偏向器13により電子ビーム1を微小偏向することにより、ナイフエッジ20をそのエッジの方向と垂直な方向に走査し、その間、電子ビーム1がナイフエッジ20に遮られることにより変化する電子ビーム1の電流をファラデーカップ21で受ければ、目的の信号(ファラデーカップ吸収電流信号)が得られる。
ここで、ファラデーカップ21で受けられる電流は、電子ビーム1の、ナイフエッジ20により遮られなかった部分の電流である。もし可能なら、その電流の代わりに、ナイフエッジ20により遮られた部分の電流を検出することによっても、同様の信号が得られる。ただし、その際は、ナイフエッジ20に吸収された部分の電流を検出する。
ファラデーカップ吸収電流信号から投影図形11の位置、大きさ、およびエッジの鈍さ(ぼけの大きさ)を得るには、ファラデーカップ吸収電流信号を解析装置(図示せず)に入力し、その解析装置によりファラデーカップ吸収電流信号を時間(あるいは位置XまたはY)で微分すればよい。そうすれば、図23に示すような電流密度分布を反映した信号波形が得られ、従ってその信号波形から、これら目的の量が抽出できる。即ち、その信号波形の時間(あるいは位置XまたはY)軸方向位置、より具体的には、その信号波形の立ち上がりおよび立ち下がりのエッジの位置から、投影図形11の位置および大きさが得られ、その信号波形の鈍りから、投影図形11のエッジの鈍さ(ぼけの大きさ)が得られる。
図24には便宜上、ナイフエッジ20が1つしか描かれていないが、図24の測定系には、X偏向用とY偏向用のナイフエッジ20が備えられる。ここで、X偏向用およびY偏向用のナイフエッジは、それぞれ、Y方向およびX方向のエッジを有する。従って、ナイフエッジ20により、X方向およびY方向の上記量が得られる。
上記測定は、ナイフエッジ20を、電子反射体、例えば重金属製の細線(図示せず)に置き換えても可能である。ただしその場合は、その電子反射体を、対物偏向器13により電子ビーム1を偏向することにより走査し、その電子反射体で反射される電子を反射電子検出器(図示せず)で受け、それから得られる反射電子信号の波形を解析する。その反射電子検出器は、例えば、対物レンズ9の直下に設ける。
上記のような電子反射体は、例えばAu薄膜からなり、従って多くの場合、自立させるのが困難である。そのため、一般に、上記のような電子反射体は、それより原子番号の小さい材料でできた基板、例えばSi基板上に形成される。ここで、その基板の原子番号をその基板上の電子反射体の原子番号より小さくするのは、その基板で反射される電子の量と、その基板上の電子反射体で反射される電子の量との間に差を設けるためである。即ち、上記測定に十分な反射電子コントラストを得るためである。
特開2007-67192号公報 特開2014-194982号公報
K. Komagata, Y. Nakagawa, H. Takemura and N. Gotoh, Proc. SPIE, Vol.3096, pp.125-136, (1997)
上述のアライメントと、デフォーカスおよび非点収差の補正とを実施すれば、理想的には、全ての補正可能な収差が補正されるが、現実には、一部の収差が残存する。現在、このことが、可変成形電子ビーム描画装置における課題の一つとなっている。これは、先述のように、寸法精度に対する要求が年々高くなっていることによる。即ち、現在、電子ビーム1のぼけを最小とすべく、全ての補正可能な収差を補正することが求められている。
ここで、残存する一部の収差とは、具体的には、コマ収差である。このコマ収差は、より具体的には、図22の光学系に寄生するコマ収差であり、さらに具体的には、図22中のレンズ類を始めとする光学系要素の加工・組立誤差に原因し、対物偏向器13により電子ビーム1を偏向しない状態において、材料10またはナイフエッジ20上に現れるコマ収差である。便宜上、以降の説明におけるコマ収差およびその他の収差は、材料10またはナイフエッジ20上に現れるそれらであるものとする。
このコマ収差は、幸い、原理的に補正可能である。これは、このコマ収差は、原理的に、軸外色収差と同様に、電子ビーム1に含まれる主光線の軌道に依存し、従って電子ビーム1の軌道次第で零になりうることによる。このようにコマ収差が零となる電子ビームの軌道およびアライメント条件を、一般に、それぞれコマフリー軸およびコマフリー条件と呼ぶ。
しかし、電子ビーム描画装置(可変成形電子ビーム描画装置を含む)において、コマ収差を測定する方法およびコマフリー条件を特定する方法は、いずれもこれまで確立されていない。即ち、ナイフエッジ法によるコマ収差の測定方法及びコマフリー条件の特定方法は、いずれもこれまで確立されていない。
ナイフエッジ法によるコマ収差の測定およびコマフリー条件の特定は、簡単には、例えば、ナイフエッジ20により、コマ収差によるぼけを含む電子ビーム1のぼけを測定し、そのぼけが最小となるようにアライナ18により電子ビーム1をアライメントすれば、可能と考えられる。しかし、そのような測定およびアライメントを繰り返しても、実際には、多くの場合、コマフリー条件は特定されえない。
これは、コマ収差を小さくすべく上記アライメントにより電子ビーム1に含まれる主光線の軌道を変えると、多くの場合、それとともにコマ収差以外の収差およびぼけが予期せず変化することによる。即ち、コマ収差の減少が、それ以外の収差またはぼけの増加により見かけ上打ち消され、そのため逆に増加として観測されうる。
その状況下で上記測定およびアライメントを繰り返した末に見つかるのは、あくまでも、コマ収差を含む全ての収差およびぼけの合成による全体のぼけを最小とするアライメント条件であり、コマ収差を最小とするアライメント条件ではなく、コマ収差以外の収差およびぼけを最小とするアライメント条件でもない。即ち、コマ収差と、それ以外の収差およびぼけは、多くの場合、同時にはそれぞれ最小とならない。
ここで注意すべきは、寸法精度向上という先述の目的のためには、コマ収差を含め全ての補正可能な収差およびぼけを同時または段階的にそれぞれ最小即ち零とすることが望ましいが、そうするには、いずれはコマ収差を零とする必要があることである。即ち、コマ収差以外の収差およびぼけの如何によらず、コマフリー条件を特定する必要がある。ここでさらに注意すべきは、コマ収差を含め全ての補正可能な収差およびぼけを同時または段階的にそれぞれ零とするには、コマ収差だけを零とするアライメント条件即ちコマフリー条件と、それ以外の補正可能な収差およびぼけを零とするアライメント条件のいずれかまたは両方ではなく、コマ収差を零とし、かつそれ以外の補正可能な収差およびぼけも同時に零とするアライメント条件を、いずれは特定する必要があることである。
上記補正可能な(零に低減されうる)収差およびぼけには、コマ収差、軸外色収差、像面湾曲収差(デフォーカス)、非点収差、およびナイフエッジ20に由来する見かけ上のぼけが含まれる。これらは、いずれも上記アライメントに依存する。
ここで、ナイフエッジ20に由来する見かけ上のぼけとは、ナイフエッジ20の実効的な厚さが、ナイフエッジ20の先端からの距離に依存することに原因して発生するぼけである。その実効的な厚さは、電子ビーム1の流れる方向がナイフエッジ20のエッジ端面に対して成す角度が零でない限り、ナイフエッジ20の先端からの距離とともに増加する。
上記見かけ上のぼけが上記アライメントに依存するのは、対物レンズ9の中心に対する電子ビーム1の位置を変えれば、対物レンズ9の収束作用のため、図25に示すように、ナイフエッジ20に対する電子ビーム1の入射角が変わること、そして、その入射角とともに、電子ビーム1の流れる方向がナイフエッジ20のエッジ端面に対して成す角度が変わることによる。即ち、その角度とともに、上記見かけ上のぼけが変化する。図25において、実線は、対物レンズ9の中心を通る電子ビーム1を表し、破線は、対物レンズ9の中心を通らない電子ビーム1を表す。
その角度とともに上記見かけ上のぼけが変わるのは、その角度とともにナイフエッジ20の実効的な厚さが変わることによる。以降で、このことを、図26Aおよび図26Bを用いて説明する。図26Aは、ナイフエッジ20の上下2つのエッジのうち、より鋭角なエッジが電子ビーム1の上流側にある場合における、電子ビーム1およびナイフエッジ20を示す。図26Bは、ナイフエッジ20の上下2つのエッジのうち、より鋭角なエッジが電子ビーム1の下流側にある場合における、電子ビーム1およびナイフエッジ20を示す。
図26Aおよび図26Bに示すように、電子ビーム1の流れる方向がナイフエッジ20のエッジ端面に対して成す角度をβ(>0、rad)と置き、さらにナイフエッジ20の先端からの距離をx、ナイフエッジ20の本来の厚さをt、ナイフエッジ20の実効的な厚さ、即ち電子ビーム1から見たナイフエッジ20の厚さをt’と置けば、t’は、0≦x<βt、およびx≧βtの範囲において、それぞれ、(1)および(2)式で表せる。
Figure 0007200062000001
ただし(1)および(2)式は、βが十分に小さく、かつナイフエッジ20に対する電子ビーム1の入射角およびナイフエッジ20のエッジ角がいずれも、ほぼ直角であることを前提とする。可変成形電子ビーム描画装置では、通常、この前提は満たされる。これは、可変成形電子ビーム描画装置では、βはせいぜい数十mradであり、かつ、ナイフエッジ20に対する電子ビーム1の入射角およびナイフエッジ20のエッジ角のいずれについても、直角からのずれがせいぜい数十mradに収まることによる。
もしβが零であれば、ナイフエッジ20の実効的な厚さt’は、零付近のxに対してステップ的な変化を、即ち、最小値から最大値(または最大値から最小値)への急峻な変化を示す。従って、電子ビーム1を構成する電子に対するナイフエッジ20の見かけ上の透過率も、零付近のxに対して急峻な変化を示す。その結果、ファラデーカップ吸収電流信号の波形から得られる電子ビーム1の電流密度分布は、鋭いエッジを示す。
しかし、βが零でなければ、ナイフエッジ20の実効的な厚さt’、および上記透過率はともに、0≦x<βtの範囲のxに対してなだらかな変化を示す。その結果、ファラデーカップ吸収電流信号の波形から得られる電子ビーム1の電流密度分布は、鈍いエッジを示す。つまり、βtの分だけ、電子ビーム1のぼけが、見かけ上、大きくなる。
上記補正可能な収差およびぼけ(コマ収差、軸外色収差、像面湾曲収差、非点収差、および上記見かけ上のぼけ)のうち、像面湾曲収差および非点収差は、残りの補正可能な収差およびぼけ、即ちコマ収差、軸外色収差、および上記見かけ上のぼけに比べると、あまり問題とならない。これは、コマ収差、軸外色収差、および上記見かけ上のぼけの変化は、電子ビーム1に含まれる主光線の軌道の変化のみに原因するのに対し、像面湾曲収差および非点収差の変化は、電子ビーム1に含まれる主光線の軌道の変化に加え、対物レンズ9の励磁電流の増減および非点補正器の作動に原因することによる。即ち、像面湾曲収差および非点収差は、コマ収差、軸外色収差、および上記見かけ上のぼけとは独立に、かつ容易に補正できる。そこで、以降では、上記補正可能な収差およびぼけのうち、像面湾曲収差および非点収差は議論せず、コマ収差、軸外色収差、および上記見かけ上のぼけを議論する。
これら補正可能な収差およびぼけは、先述のように、多くの場合、同時にはそれぞれ最小即ち零とならない。このことは、多くの場合、コマフリー条件、軸外色収差が零となる条件、および上記見かけ上のぼけが零となる条件のうち、いずれの1つも残りの2つと一致しないことを意味する。即ち、コマフリー軸、電圧軸または電流軸、および上記見かけ上のぼけを最小とする軸のうち、いずれの1つも残りの2つと一致しないことを意味する。
これらの軸の全てが同時に一致しなければ、先述の測定およびアライメントを繰り返しても、コマ収差、軸外色収差、および上記見かけ上のぼけが同時にそれぞれ最小となることはない。その結果、全体のぼけの最小値が、即ち、コマ収差、軸外色収差、上記見かけ上のぼけ、およびアライメント条件に依存しないぼけ(主として軸上色収差)の全ての合成によるぼけの最小値が、大きくなる。
これについて、以下で、図27A、図27B、および図27Cを用いて説明する。ただし、これらの図では、便宜上、コマ収差、軸外色収差、および上記見かけ上のぼけのうち、コマ収差と軸外色収差を扱う。
まず、図27Aに、コマ収差と軸外色収差のうち仮に軸外色収差のみが存在する場合における、電子ビーム1のぼけとアライメント信号との関係の例を示し、次に、図27Bに、コマ収差と軸外色収差の両方が存在し、かつコマフリー軸と電圧軸または電流軸とが互いに一致しない場合における、電子ビーム1のぼけとアライメント信号との関係の例を示す。より詳細には、図27Aには、軸外色収差、およびアライメント信号に依存しないぼけ(主として軸上色収差)とともに、これらの合成による全体のぼけを示し、図27Bには、コマ収差、軸外色収差、およびアライメント信号に依存しないぼけとともに、これらの合成による全体のぼけを示す。図27Aおよび図27Bにおいて、Iは、アライナ18に入力されるアライメント信号の一成分を表す。
図27Aから分かるように、上記前者の場合においては、全体のぼけを最小とするIの強度は、軸外色収差を最小とするIの強度に一致する。しかし、図27Bから分かるように、上記後者の場合においては、全体のぼけを最小とするIの強度は、コマ収差を最小とするIの強度にも、軸外色収差を最小とするIの強度にも一致しない。その結果、図27Aと図27Bを見比べれば分かるように、上記後者の場合(図27B)における全体のぼけの最小値は、上記前者の場合(図27A)におけるそれより大きくなっている。
同様のことは、コマ収差と上記見かけ上のぼけの両方が存在し、かつコマフリー軸と上記見かけ上のぼけを最小とする軸とが互いに一致しない場合にも言える。さらには、コマ収差、軸外色収差、および上記見かけ上のぼけの全てが存在し、かつコマフリー軸、電圧軸または電流軸、および上記見かけ上のぼけを最小とする軸の全てが同時に一致することのない場合にも言える。
しかし幸い、原理的には、コマフリー軸であり、かつ電圧軸または電流軸でもある軸も、コマフリー軸であり、かつ上記見かけ上のぼけを最小とする軸でもある軸も、さらにはこれら全てを兼ねる軸も、存在しうる。ただし、上記見かけ上のぼけは材料10上では発生しないため、これらのうち二番目および三番目の軸を特定することに意味はない。そのような軸よりは、一番目の軸、即ち、コマフリー軸であり、かつ電圧軸または電流軸でもある軸を特定すべきである。もしそのような理想的な軸が特定できれば、即ちコマフリー軸と電圧軸または電流軸とが互いに一致すれば、図27Bに示した電子ビーム1のぼけとアライメント信号との関係は、図27Cのようになる。その際(図27C)における全体のぼけの最小値は、上記前者の場合(図27A)におけるそれに等しい。
上記のような理想的な軸を特定するには、コマ収差をそれ以外の収差およびぼけと区別して測定することと、軸外色収差をそれ以外の収差およびぼけと区別して測定することとが必要となる。即ち、コマ収差の選択的測定と、軸外色収差の選択的測定とが必要となる。これらのうち、後者は、先述の、加速電圧またはレンズ励磁電流のウォブリングを利用した軸外色収差の測定方法により可能である。しかし、前者を可能とする手段は、先述のように、これまで確立されていない。
以上で説明したように、コマフリー条件を特定するには、コマ収差を選択的に測定する手段、即ち、コマ収差を、軸外色収差および上記見かけ上のぼけと区別して測定する手段が必要となる。
本発明は、自身の生むコマ収差を選択的に測定することができ、さらにはそのコマ収差の測定の結果に基づきそのコマ収差を補正することができる荷電粒子ビーム装置を提供するものである。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、荷電粒子ビームを生成する光源と、その荷電粒子ビームに対する光学系と、その荷電粒子ビームに対するぼけ測定手段を備える。
上記光学系は、上記荷電粒子ビームにより照射される被照射面に上記荷電粒子ビームを伝送する少なくとも1段のレンズを備える。
上記少なくとも1段のレンズは、上記被照射面上に、上記光源の像か、上記光学系内に配置され、上記荷電粒子ビームにより照射される開口板の開口の透過像か、または、上記光学系内に配置され、上記荷電粒子ビームにより照射される薄膜の透過像かを結ぶ。
上記ぼけ測定手段は、上記被照射面の高さ位置における、上記荷電粒子ビームのぼけを測定する。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記光源、開口板、または薄膜から、上記被照射面までの間に、静電型または磁界型の多極子を備え、その多極子に3回非点収差を発生させるための3回非点発生信号を、その多極子に入力することで、上記被照射面の高さ位置に3回非点収差を発生するように構成されている。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記3回非点発生信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の互いに直交する2方向のそれぞれに沿って測定し、上記ぼけのその2方向のうちの1方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度と、上記ぼけのその2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度との差を、第一の差として決定し、この差により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を表すという第一の方法か、または、上記3回非点発生信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の単一の方向に沿って測定し、上記ぼけのその単一の方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度と、上記3回非点発生信号の強度を増減しながら上記ぼけの大きさをその単一の方向に沿って測定する前における上記3回非点発生信号の強度との差を、第二の差として決定し、この差により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を表すという第二の方法により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を取得するように構成されている。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、上述したように、上記多極子に3回非点収差を発生させるための3回非点発生信号を上記多極子に入力することで、上記被照射面の高さ位置に3回非点収差を発生するように構成されている。また、上記第一の方法または第二の方法により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を取得するように構成されている。
これにより、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の大きさを評価することができるようになる。ここで、そのコマ収差は、上記荷電粒子ビームの軌道に依存するその他の収差またはぼけと区別して測定される。そのような収差またはぼけには、上記被照射面上に現れる軸外色収差が含まれる。
即ち、上記構成により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差が選択的に測定できる。従って、上記構成によれば、そのコマ収差の測定の結果に基づきそのコマ収差を補正することが可能な荷電粒子ビーム装置が実現できる。
本発明の実施例1の可変成形電子ビーム描画装置の光学系、測定系、および制御系の構成を示す図である。 実施例1における偏向信号、フォーカス補正信号、2回非点補正信号、および3回非点補正信号が従う電極電圧配分を示す図である。 A V3Aが作るX方向およびY方向のぼけとV3Aの関係の例を示す図である。B V3Bが作るX方向およびY方向のぼけとV3Bの関係の例を示す図である。C、D V3BおよびV3Aがともに零のときにナイフエッジ上に現れている3回非点収差が零でない場合における、V3A(またはV3B)が作るX方向およびY方向のぼけと、V3A(またはV3B)の関係の例を示す図である。 A XY差DおよびDとアライメント信号Iとの関係の例を示す図である。B XY差DおよびDとアライメント信号Iとの関係の例を示す図である。 実施例1における測定および補正の手順のフローチャートである。 図5中のサブルーチンのフローチャートである。 実施例1で用いられるアライナの偏向支点の高さ位置が第2の成形開口板の高さ位置に一致している状態を示す図である。 コマ収差図形Sの例を示す図である。 A 3回非点収差図形Sの例を示す図である。B、C 3回非点収差図形Sとデフォーカスを表す収差図形Sとの合成による収差図形の半径が回転角θの変化とともに増減することを示す図である。 A V3B=0が成立するときにV3Aが作る収差図形S+Sの例を示す図である。B V3A=0が成立するときにV3Bが作る収差図形S+Sの例を示す図である。 A V3B=0が成立するときにV3Aが作る収差図形S+Sの楕円成分が、X軸またはY軸に平行な長軸または短軸を有する状態を示す図である。B V3A=0が成立するときにV3Bが作る収差図形S+Sの楕円成分が、X軸およびY軸に対しπ/4(45°)だけ回転している長軸または短軸を有する状態を示す図である。C xおよびyが、それぞれ、収差図形S+Sの楕円成分のx方向およびy方向の幅であることを示す図である。 実施例4の可変成形電子ビーム描画装置の光学系および制御系の構成を示す図である。 電子ビームに含まれる主光線が光源の像の高さ位置において一点に交わっている状態を示す図である。 実施例6の可変成形電子ビーム描画装置の光学系および制御系の構成を示す図である。 実施例7で用いられるアライナの偏向支点の高さ位置がブランキング開口板の高さ位置に一致している状態を示す図である。 電子ビームによりブランキング開口板を走査することで得られる画像を示す図である。 軸外色収差図形Sの例を示す図である。 異なる複数の値を持つΔIに対して得られるSの実部および虚部の例を示す図である。 実施例12の可変成形電子ビーム描画装置の光学系および制御系の構成を示す図である。 実施例15のスポット電子ビーム描画装置の光学系の構成を示す図である。 実施例17の透過型電子顕微鏡の光学系の構成を示す図である。 可変成形電子ビーム描画装置で用いられる光学系の例を示す図である。 図22の投影図形の電流密度分布を示す図である。 可変成形電子ビーム描画装置で用いられる測定系の例を示す図である。 ナイフエッジに対する電子ビームの入射角が変わることを説明する図である。 A、B ナイフエッジに由来する見かけ上のぼけが発生および変化する原理を説明する図である。 A ナイフエッジ上に、コマ収差と軸外色収差のうち仮に軸外色収差のみが存在する場合における、電子ビームのぼけとアライメント信号との関係の例を示す図である。B ナイフエッジ上に、コマ収差と軸外色収差の両方が存在し、かつコマフリー軸と電圧軸または電流軸とが互いに一致しない場合における、電子ビームのぼけとアライメント信号との関係の例を示す図である。C ナイフエッジ上に、コマ収差と軸外色収差の両方が存在し、かつコマフリー軸と電圧軸または電流軸とが互いに一致する場合における、電子ビームのぼけとアライメント信号との関係の例を示す図である。
<1.本発明の概要>
本発明は、自身の生むコマ収差を選択的に測定することができ、そのコマ収差の測定の結果に基づきそのコマ収差を補正することが可能な荷電粒子ビーム装置を提供することを目的とする。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、上記目的のため、以下のように構成されている。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、光源と、光学系と、ぼけ測定手段を備える。
上記光源は、荷電粒子ビームを生成する。
上記光学系は、上記荷電粒子ビームに対して設けられる光学系であって、上記荷電粒子ビームにより照射される被照射面に上記荷電粒子ビームを伝送する少なくとも1段のレンズを備える。
上記少なくとも1段のレンズは、上記被照射面上に、上記光源の像か、上記光学系内に配置され、上記荷電粒子ビームにより照射される開口板の開口の透過像か、または、上記光学系内に配置され、上記荷電粒子ビームにより照射される薄膜の透過像かを結ぶ。
上記ぼけ測定手段は、上記荷電粒子ビームに対して設けられるぼけ測定手段であって、上記被照射面の高さ位置における、上記荷電粒子ビームのぼけを測定する。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、上記光源、開口板、または薄膜から、上記被照射面までの間に、静電型または磁界型の多極子を備える。
そして、その多極子に3回非点収差を発生させるための3回非点発生信号を、その多極子に入力することで、上記被照射面の高さ位置に3回非点収差を発生する。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、さらに、下記の2つの方法のいずれかにより、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を取得するように構成されている。
第一の方法は、上記3回非点発生信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の互いに直交する2方向のそれぞれに沿って測定し、上記ぼけのその2方向のうちの1方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度と、上記ぼけのその2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度との差を、第一の差として決定し、この差により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を表す。
第二の方法は、上記3回非点発生信号の強度を増減しながら、上記ぼけ測定手段により、上記ぼけの大きさを、上記被照射面内の単一の方向に沿って測定し、上記ぼけのその単一の方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度と、上記3回非点発生信号の強度を増減しながら上記ぼけの大きさをその単一の方向に沿って測定する前における上記3回非点発生信号の強度との差を、第二の差として決定し、この差により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を表す。
即ち、本発明の荷電粒子ビーム装置は、上記多極子に3回非点収差を発生させるための3回非点発生信号を上記多極子に入力することで、上記被照射面の高さ位置に3回非点収差を発生し、上記第一の方法または第二の方法により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を取得するように構成されている。
これにより、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の大きさを評価することができるようになる。ここで、そのコマ収差は、上記荷電粒子ビームの軌道に依存するその他の収差またはぼけと区別して測定される。そのような収差またはぼけには、上記被照射面上に現れる軸外色収差が含まれる。
即ち、上記構成により、上記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差が選択的に測定できる。従って、上記構成によれば、そのコマ収差の測定の結果に基づきそのコマ収差を補正することが可能な荷電粒子ビーム装置が実現できる。
上記第二の方法においては、予め、上記ぼけの、上記単一の方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度と、上記ぼけの、上記被照射面内で上記単一の方向に直交する方向の大きさを最小とする上記3回非点発生信号の強度との平均に等しい強度の上記3回非点発生信号を上記多極子に入力しておき、この平均を、上記3回非点発生信号の強度を増減しながら上記ぼけの大きさを上記単一の方向に沿って測定する前における上記3回非点発生信号の強度とすることができる。
これにより、上記第二の方法を採用する場合に、目的のコマ収差の成分をより高精度に評価することができる。
本発明の荷電粒子ビーム装置の構成は、さらに、上記荷電粒子ビームの2回非点収差を低減する2回非点補正手段を備え、上記第一または第二の方法において、上記3回非点発生信号の強度を増減する際に副次的に発生または変化する、上記被照射面の高さ位置における上記2回非点収差が、上記2回非点補正手段により低減されるように、上記多極子による上記3回非点収差の発生と上記2回非点補正手段による上記2回非点収差の低減とを互いに連動させる構成とすることができる。
これにより、目的のコマ収差の成分をより正確に評価することができる。
本発明の荷電粒子ビーム装置の構成は、さらに、上記被照射面の高さ位置に、上記ぼけを測定するためのナイフエッジ状のぼけ測定媒体を備え、上記光学系は、上記光源から上記被照射面までの間に、上記荷電粒子ビームの偏向により上記荷電粒子ビームで上記ぼけ測定媒体を走査する走査手段を備え、上記ぼけ測定手段は、その走査手段により上記ぼけ測定媒体を走査し、上記荷電粒子ビームの、上記ぼけ測定媒体に遮られなかった部分の電流、または、上記ぼけ測定媒体に遮られた部分の電流を検出し、そうして検出された電流の波形の鈍りに基づいて上記ぼけを評価する構成とすることができる。
上記ぼけ測定媒体は、上記荷電粒子ビームの軌道に依存するぼけとして、自身に対する上記荷電粒子ビームの入射角に依存する見かけ上のぼけを発生する。しかし、目的のコマ収差は、その見かけ上のぼけと区別して測定される。
この構成は、さらに、上記走査手段による上記ぼけ測定媒体の走査を、上記3回非点発生信号に、上記多極子に上記荷電粒子ビームを偏向させるための信号を重畳することによる構成とすることも可能である。
本発明の荷電粒子ビーム装置の構成は、さらに、上記3回非点発生信号は、互いに独立な2成分から構成され、上記3回非点発生信号を構成する互いに独立な2成分は、上記3回非点収差を構成する、互いに直交する2成分を発生させ、そのうえで、上記第一の方法または第二の方法によるコマ収差の成分の取得を、上記3回非点発生信号を構成する互いに独立な2成分のそれぞれについて行うことで、目的のコマ収差の2成分を取得する構成とすることも可能である。
これにより、目的のコマ収差の2成分を評価することができ、従って目的のコマ収差を確定させることができる。
本発明の荷電粒子ビーム装置の構成は、さらに、上記荷電粒子ビームの上記被照射面内の位置を測定するための位置測定手段を備え、上記荷電粒子ビームに含まれる主光線群が上記被照射面の高さ位置において示す色収差を軸外色収差とし、上記荷電粒子ビームの加速電圧に変化を与えるか、または上記少なくとも1段のレンズのうちのいくつかまたは全ての強度に変化を与え、その位置測定手段により、上記加速電圧の変化に伴う、または上記少なくとも1段のレンズのうちのいくつかまたは全ての強度の変化に伴う、上記荷電粒子ビームの上記被照射面内の位置の変化を測定し、そうして測定された上記被照射面内の位置の変化の互いに直交する2成分により、上記軸外色収差の2成分を表すことで、上記軸外色収差の2成分を取得する構成とすることも可能である。
これにより、目的のコマ収差の大きさに加え、上記軸外色収差の大きさも評価することができる。
本発明の荷電粒子ビーム装置の構成は、さらに、上記光源から上記被照射面までの間に、上記荷電粒子ビームを偏向することにより上記荷電粒子ビームをアライメントするアライメント手段を備え、そのアライメント手段の段数は、上記荷電粒子ビームの流れる方向に合計1段以上とし、そのアライメント手段の各段は、上記荷電粒子ビームを、上記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向に偏向する偏向手段からなり、そのうえで、目的のコマ収差の2成分が小さくなるように、そのアライメント手段により上記荷電粒子ビームの軌道を変化させる構成とすることも可能である。
これにより、目的のコマ収差を低減することができる。
この構成は、さらに、上記アライメント手段には、互いに独立な2成分から構成されるアライメント信号が入力され、上記偏向手段は、そのアライメント信号を構成する互いに独立な2成分を、またはそのアライメント信号を構成する互いに独立な2成分のそれぞれにそれぞれが比例する互いに独立な2成分を受け、そのアライメント信号を構成する互いに独立な2成分のそれぞれは、上記アライメント手段に、上記荷電粒子ビームの軌道を、上記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向のそれぞれに向けて変化させ、そのうえで、目的のコマ収差の2成分が小さくなるように上記アライメント手段により上記荷電粒子ビームの軌道を変化させる際は、上記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分の現在値と、目的のコマ収差の2成分の、上記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分に関する偏微分係数と、目的のコマ収差の2成分の現在値とから、目的のコマ収差の2成分を零とする、上記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分の強度を決定し、そうして決定された強度の、上記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分を、上記アライメント手段に入力する構成とすることも可能である。
これにより、目的のコマ収差をさらに低減して、零とすることができる。
本発明の荷電粒子ビーム装置の構成は、さらに、上記光源から上記被照射面までの間に、上記荷電粒子ビームを偏向することにより上記荷電粒子ビームをアライメントするアライメント手段を備え、そのアライメント手段の段数は、上記荷電粒子ビームの流れる方向に合計2段以上とし、上記光源、開口板、または薄膜から上記被照射面までの間に、上記光源の像、上記開口板の開口の透過像、または上記薄膜の透過像の明るさを制御する明るさ絞りを備え、上記アライメント手段の少なくとも1段を、その明るさ絞りより上記荷電粒子ビームの上流側に配置し、その明るさ絞りの開口の中心からの上記荷電粒子ビームの位置ずれを測定する手段を備え、上記アライメント手段の各段は、上記荷電粒子ビームを、上記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向に偏向する偏向手段からなり、そのうえで、上記位置ずれを測定する手段により、上記位置ずれの互いに線形独立な2成分を測定し、目的のコマ収差の2成分と上記位置ずれの互いに線形独立な2成分とが小さくなるように、上記アライメント手段により上記荷電粒子ビームの軌道を変化させる構成とすることも可能である。
これにより、上記光源の像、上記開口板の開口の透過像、または上記薄膜の透過像の明るさを制御しつつ、目的のコマ収差を低減することができる。
本発明の荷電粒子ビーム装置の構成は、さらに、上記光源から上記被照射面までの間に、上記荷電粒子ビームを偏向することにより上記荷電粒子ビームをアライメントするアライメント手段を備え、そのアライメント手段の段数は、上記荷電粒子ビームの流れる方向に合計2段以上とし、そのアライメント手段の各段は、上記荷電粒子ビームを、上記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向に偏向する偏向手段からなり、そのうえで、目的のコマ収差の2成分および軸外色収差の2成分が小さくなるように、そのアライメント手段により上記荷電粒子ビームの軌道を変化させる構成とすることも可能である。
これにより、目的のコマ収差および軸外色収差を低減することができる。
本発明の荷電粒子ビーム装置の構成は、さらに、上記光源から上記被照射面までの間に、上記荷電粒子ビームを偏向することにより上記荷電粒子ビームをアライメントするアライメント手段を備え、そのアライメント手段の段数は、上記荷電粒子ビームの流れる方向に合計3段以上とし、上記光源、開口板、または薄膜から上記被照射面までの間に、上記光源の像、上記開口板の開口の透過像、または上記薄膜の透過像の明るさを制御する明るさ絞りを備え、上記アライメント手段の少なくとも1段を、その明るさ絞りより上記荷電粒子ビームの上流側に配置し、その明るさ絞りの開口の中心からの上記荷電粒子ビームの位置ずれを測定する手段を備え、上記アライメント手段の各段は、上記荷電粒子ビームを、上記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向に偏向する偏向手段からなり、そのうえで、上記位置ずれを測定する手段により、上記位置ずれの互いに線形独立な2成分を測定し、目的のコマ収差の2成分および軸外色収差の2成分と上記位置ずれの互いに線形独立な2成分とが小さくなるように、上記アライメント手段により上記荷電粒子ビームの軌道を変化させる構成とすることも可能である。
これにより、上記光源の像、上記開口板の開口の透過像、または上記薄膜の透過像の明るさを制御しつつ、目的のコマ収差および軸外色収差を低減することができる。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、結像機能を持つ各種の電子ビーム装置として構成されうる。そのような装置には、電子ビーム描画装置、電子ビーム3次元造形装置、走査型電子顕微鏡、および透過型電子顕微鏡が含まれる。
本発明の荷電粒子ビーム装置は、また、結像機能を持つ各種のイオンビーム装置としても構成されうる。
<2.実施例>
以下に、本発明の荷電粒子ビーム装置の具体的な実施例を説明する。
(実施例1)
本発明の荷電粒子ビーム装置の基本的な実施例を、実施例1として、以下に説明する。 本実施例では、本発明の荷電粒子ビーム装置が、可変成形電子ビーム描画装置として構成されている。その装置の光学系、測定系、および制御系の構成を、図1に示す。
本実施例の装置の光学系は、基本的に、図22に示した可変成形電子ビーム描画装置の光学系と、構成を同じくする。
ただし、本実施例の装置の光学系においては、対物偏向器13による電子ビーム1の偏向に伴う偏向像面湾曲収差および偏向非点収差は、いずれも専用の動的補正器によっては補正されない。即ち、本実施例の装置の光学系には、そのような専用の補正器は備えられない。本実施例の装置の光学系では、それらの補正は、対物偏向器13が担う。即ち、本実施例の装置の光学系では、対物偏向器13は、動的なフォーカス補正器と非点補正器を兼ねる。
本実施例では、図1に示した装置の構成要素のうち、対物偏向器13とアライナ18が、制御対象として重要になる。対物偏向器13とアライナ18の詳細を、以下に説明する。
対物偏向器13およびアライナ18(アライナ18Uおよび18L)は、図22に示した可変電子ビーム描画装置の光学系におけるそれらと同様に、それぞれ静電型および磁界型の偏向器(多極子)とする。対物偏向器13およびアライナ18は、それぞれ静電型および磁界型のいずれであってもよいが、対物偏向器13は、応答速度の観点から、静電型とするのが有利である。
対物偏向器13は、より詳細には、π/4(45°)間隔で8つに等分割された、導電性の中空円筒からなる。対物偏向器13の極数は、8極以外(例えば12極)であってもよいが、以降では、対物偏向器13の極数を8極とする。
アライナ18Uおよび18Lは、図22の光学系におけるそれらと同様に、いずれも、X偏向用コイルとY偏向用コイルからなる。ここで、X偏向用コイルとY偏向用コイルは、いずれも、2極のコイルからなる。従って、アライナ18Uおよび18Lの極数は、いずれも4極である。
アライナ18Uおよび18Lは、図1に示すように、いずれも第2の成形開口板7とブランキング開口板17の間に配置される。より詳細には、アライナ18Uは、第2の成形開口板7の高さ位置付近に配置され、アライナ18Lは、縮小レンズ8の高さ位置付近に配置される。アライナ18Uおよび18Lは、あるいは、他の高さ位置に配置してもよい。例えば、アライナ18Uおよび18Lのうちの一方を、第2の成形開口板7とブランキング開口板17の間に配置し、もう一方を、縮小レンズ8と対物レンズ9の間に配置するようにしてもよい。
本実施例の装置の測定系は、基本的に、図24に示した測定系と、構成を同じくする。ただし、ナイフエッジ20は、2つのナイフエッジ、具体的にはナイフエッジ20Xおよび20Yからなる。ナイフエッジ20Xおよび20Yは、それぞれ、電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけを測定するためのナイフエッジである。即ち、ナイフエッジ20Xおよび20Yは、それぞれ、Y軸およびX軸に平行なエッジを持つ。
本実施例の装置の制御系は、図1に示すように、アライナ制御部23、レンズ制御部24、対物偏向器制御部25、材料ステージ制御部26、ファラデーカップ吸収電流信号処理部27、中央制御部28、および記憶部29からなる。これら制御部および記憶部のうち、アライナ制御部23、レンズ制御部24、対物偏向器制御部25、材料ステージ制御部26、ファラデーカップ吸収電流信号処理部27、および記憶部29は、全て、中央制御部28に接続されている。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置の動作は、基本的に、従来の可変成形電子ビーム描画装置の動作と同様とする。即ち、図1の光学系および測定系の動作は、基本的に、それぞれ図22の光学系および図24の測定系の動作と同様とする。
本実施例の装置は、しかし、自身の光学系に寄生するコマ収差を、その他の収差およびぼけと区別して測定および補正する。即ち、本実施例の装置は、自身の光学系におけるコマフリー条件を特定する。この点において、本実施例の装置は、従来の可変成形電子ビーム描画装置と動作を異にする。ここで、自身の光学系に寄生するコマ収差とは、より具体的には、図1中の光学系要素の加工・組立誤差に原因し、対物偏向器13により電子ビーム1を偏向しない状態において、材料10およびナイフエッジ20の高さ位置に現れているコマ収差である。
本実施例の装置は、上記コマ収差の測定のため、対物偏向器13により、ナイフエッジ20上に3回非点収差を発生させ、その状態で、電子ビーム1によりナイフエッジ20を走査する。ここで、3回非点収差の発生は、対物偏向器13に入力される偏向信号に、3回非点補正信号を重畳することによる。
本実施例の装置は、さらに、上記コマ収差の補正のため、上記コマ収差の測定値に基づき、アライナ18により電子ビーム1を偏向する。即ち、電子ビーム1に含まれる主光線の軌道を変更する。
上記3回非点補正信号は、元来は、本実施例の装置の光学系の生む3回非点収差、主に対物偏向器13による電子ビーム1の偏向に伴い発生する偏向3回非点収差の補正のために、上記偏向信号に重畳される信号である(特許文献2を参照)。即ち、本実施例の装置は、上記3回非点収差の補正と上記コマ収差の測定との両方を目的に、上記3回非点補正信号を用いる。
ただし、本実施例では、後述するように、対物偏向器13により電子ビーム1が大きく偏向されることはないため、上記3回非点補正信号は、主として上記コマ収差の測定のために用いられる。
上記偏向信号には、上記3回非点補正信号だけでなく、歪補正信号、フォーカス補正信号、および2回非点補正信号も重畳される(特許文献2を参照)。ここで、歪補正信号、フォーカス補正信号、および2回非点補正信号の重畳は、対物偏向器13による電子ビーム1の偏向に伴い発生する偏向歪収差、偏向像面湾曲収差、および偏向2回非点収差の補正を、それぞれ目的とする。
補足すれば、上記フォーカス補正信号の重畳による上記像面湾曲収差(またはデフォーカス)の補正は、その重畳の結果、対物レンズ9の磁場中において電子ビーム1が加速または減速され、従って、その磁場中における電子ビーム1のエネルギーが変わることによる。即ち、対物レンズ9の励磁電流が一定であっても、上記フォーカス補正信号の重畳の結果、対物レンズ9の収束作用の強度が変わる。
上記偏向信号、歪補正信号、フォーカス補正信号、2回非点補正信号、および3回非点補正信号は、いずれも、対物偏向器13に、電圧信号として入力される。その際にこれら信号が従う電極電圧配分(特許文献2を参照)を、図2に示す。ただし、これら信号のうち、上記偏向信号と上記歪補正信号は、電極電圧配分を互いに同じくする。以降では、便宜上、上記歪補正信号の説明は省略する。
図2において、8つの円弧は、対物偏向器13を構成する8つの電極を表し、8つの円弧の中の記号は、それぞれ、上記偏向信号、フォーカス補正信号、2回非点補正信号、および3回非点補正信号のいずれかの電極電圧配分を記述する分布関数を表す。図2において、Zの正の向きは、紙面から手前への向きである。つまり、紙面から手前への向きに電子ビーム1が流れる。
より詳細には、図2において、f1Aおよびf1Bは、上記偏向信号の直交2成分の電極電圧配分を記述する分布関数を表し、f0Aは、上記フォーカス補正信号の電極電圧配分を記述する分布関数を表し、f2Aおよびf2Bは、上記2回非点補正信号の直交2成分の電極電圧配分を記述する分布関数を表し、f3Aおよびf3Bは、上記3回非点補正信号の直交2成分の電極電圧配分を記述する分布関数を表す。これら分布関数は、いずれも、対物偏向器13の中心軸周りの角度の関数である。以降では、その角度をψとする。
角度ψは、8つの電極のうち紙面上で最も右に位置する電極の中心を基準即ち零とし、図2における反時計回りを、自身の正の向きとする。その電極の角度位置は、上記偏向信号の直交2成分が対物偏向器13に入力されたときに電子ビーム1が材料10またはナイフエッジ20上においてX方向およびY方向に偏向されるように、決定される。これにより、f1Aおよびf1Bの回転角だけでなく、残りの分布関数の回転角も決定される。
図2中の各円弧に添えられた数字は、f1A(ψ)およびf1B(ψ)、f0A(ψ)、f2A(ψ)およびf2B(ψ)、そしてf3A(ψ)およびf3B(ψ)のいずれかの、各電極位置(電極中心の角度位置)における値を表す。ここで、ψをπ/4(=2π/8)の整数倍に限定すれば、f1A(ψ)、f0A(ψ)、f2A(ψ)、およびf3A(ψ)は、それぞれcosψ、1(=cos0)、cos2ψ、およびcos3ψに一致し、f1B(ψ)、f2B(ψ)、およびf3B(ψ)は、それぞれsinψ、sin2ψ、およびsin3ψに一致する。即ち、f1A(ψ)、f2A(ψ)、およびf3A(ψ)と、f1B(ψ)、f2B(ψ)、およびf3B(ψ)とは、それぞれ、互いに線形独立であり、かつ互いに直交する(位相が互いにπ/2だけ異なる)。
上記分布関数を用いれば、対物偏向器13の電極電圧の成分、具体的には上記偏向信号、フォーカス補正信号、2回非点補正信号、および3回非点補正信号に対応する成分を表すことができ、さらにこれら成分を用いて、対物偏向器13の電極電圧を表すことができる。これら成分を、それぞれV、V、V、およびV(全て実数)とし、さらに対物偏向器13の電極電圧をV(実数)とすれば、V、V、V、V、およびVは、それぞれ、ψの関数として、(3)~(7)式で表せる。
(ψ)=V1A1A(ψ)+V1B1B(ψ) (3)
(ψ)=V0A0A(ψ) (4)
(ψ)=V2A2A(ψ)+V2B2B(ψ) (5)
(ψ)=V3A3A(ψ)+V3B3B(ψ) (6)
V(ψ)=V(ψ)+V(ψ)+V(ψ)+V(ψ) (7)
(3)~(7)式において、V1AおよびV1B、V0A、V2AおよびV2B、そしてV3AおよびV3B(全て実数)は、それぞれ、上記偏向信号の直交2成分、上記フォーカス補正信号、上記2回非点補正信号の直交2成分、そして上記3回非点補正信号の直交2成分を表す。これらは、図2において+1Vの電圧が印加される電極の電圧に相当する。
以降では、特に必要のない限り、V1AおよびV1B、V0A、V2AおよびV2B、そしてV3AおよびV3Bを、それぞれ単に、偏向信号、フォーカス補正信号、2回非点補正信号、そして3回非点補正信号と称す。
ただし、(7)式に基づく電極電圧Vを対物偏向器13に印加するには、原理的に、対物偏向器13の極数を7(=2×3+1)極以上とする必要がある。これは、f0A、fνA、およびfνB(いずれにおいてもν=1、2、または3)に基づく電極電圧を多極子(本実施例では対物偏向器13)に印加するには、即ち、その電極の位置に相当する角度ψにおいてf0A(ψ)=1(=cos0)、fνA(ψ)=cos(νψ)、およびfνB(ψ)=sin(νψ)(いずれにおいてもν=1、2、または3)を成立させるには、その極数を2ν+1極以上とする必要があることによる。本実施例においては、対物偏向器13の極数は8極であるから、この必要は満たされる。補足すれば、極数が2ν+1極(ν≧1)の多極子には、fνAおよびfνBの両方に基づく電極電圧が印加できるが、極数が2ν極の多極子には、fνAおよびfνBのいずれか一方に基づく電極電圧しか印加できない。
本実施例の装置は、基本的に、(3)~(7)式に基づく対物偏向器13の制御を含め、自身の光学系および測定系の制御を、上記制御系による。これらの制御は、中央制御部28により、それ以外の制御部が統合的に制御されることによる。即ち、中央制御部28は、アライナ制御部23、レンズ制御部24、対物偏向器制御部25、材料ステージ制御部26、ファラデーカップ吸収電流信号処理部27を制御する。中央制御部28は、さらに、これらを用いた測定および補正に必要なデータ、具体的には、偏向収差の測定および補正に加え、コマ収差の測定および補正に必要なデータを、記憶部29から読み込むとともに、必要な演算を行い、これらの測定および補正の結果を、記憶部29に書き込む。
ここで、アライナ制御部23は、アライナ18を介して、電子ビーム1の軌道を制御する。レンズ制御部24は、縮小レンズ8および対物レンズ9を介して、電子ビーム1の収束を制御する。対物偏向器制御部25は、対物偏向器13を介して、電子ビーム1の偏向を制御するとともに、電子ビーム1に関わる収差を制御する。材料ステージ制御部26は、材料ステージ14を介して、材料10およびナイフエッジ20(または電子反射体)の位置を制御する。ファラデーカップ吸収電流信号処理部27は、ファラデーカップ吸収電流信号をアナログ・デジタル変換し、そうして変換した信号を中央制御部28に入力する。
以降で、本実施例におけるコマ収差の測定および補正の原理を、詳細に説明する。
ただし、本実施例におけるコマ収差は、電子ビーム1がアライナ18により偏向されていない状態においてナイフエッジ20上に現れているコマ収差、および電子ビーム1がアライナ18により偏向されることでナイフエッジ20上に現れる偏向コマ収差のいずれか、またはこれらの和を指し、対物偏向器13による電子ビーム1の偏向に原因する偏向コマ収差を含まない。これは、本実施例においては、電子ビーム1がアライナ18により大きく偏向されることはありうるが、電子ビーム1が対物偏向器13により大きく偏向されることはないことによる。
本実施例において電子ビーム1が対物偏向器13により偏向されるのは、電子ビーム1がナイフエッジ20の走査のために微小偏向される際に限定される。即ち、本実施例では、電子ビーム1がそのために微小偏向されることを度外視すれば、対物偏向器13の偏向座標(偏向フィールド内座標)が、座標原点に限定される。
本実施例の装置は、ナイフエッジ20上のコマ収差の測定および補正に先立ち、まずは、従来の装置(図22を参照)と同様に、アライナ18により、対物レンズ9の中心に電子ビーム1をアライメントする。本実施例の装置は、その際のアライメント条件およびその際にアライナ18に入力されるアライメント信号を、それぞれ第0のアライメント条件および第0のアライメント信号とする。
アライナ18に入力されるアライメント信号は、互いに独立な2成分からなる。そのうちの1成分は、アライナ18のX偏向用コイルに入力され、もう1成分は、アライナ18のY偏向用コイルに入力される。従って、これらの2成分は、電子ビーム1を、互いに線形独立な2方向に偏向する。以降では、アライメント信号の互いに独立な2成分をIおよびI(ともに実数)とし、第n(n=0、1、または2)のアライメント信号の互いに独立な2成分をIanおよびIbnとする。以降では、特に必要のない限り、I、I、Ian、およびIbnを、単に、アライメント信号と称す。
アライナ18による偏向の、Iに起因する方向とIに起因する方向は、互いに線形独立であればよく、これらの方向が互いに直交することの必要性は低い。これに対し、対物偏向器13の発生する3回非点収差の、V3Aに起因する成分とV3Bに起因する成分が互いに直交することの必要性は高い。これらの理由は後述する。
本実施例の装置は、次に、従来の装置と同様に、上記アライメント後にナイフエッジ20上に残るデフォーカスと2回非点収差を測定および補正する。より詳細には、これらのうち、デフォーカスは、電子ビーム1によるナイフエッジ20の走査と、対物レンズ9の励磁電流の増減か、または対物偏向器13に入力される偏向信号へのフォーカス補正信号の重畳とにより測定および補正される。一方、2回非点収差は、電子ビーム1によるナイフエッジ20の走査と、静的な2回非点補正器(図示せず)の作動か、または対物偏向器13に入力される偏向信号への2回非点補正信号の重畳とにより測定および補正される。これらの測定および補正の結果、以降で測定されるコマ収差が、より敏感に測定され、従って、その測定精度が向上する。
このようなデフォーカスと2回非点収差の測定および補正は、以降でも、もしアライナ18により電子ビーム1の軌道を大きく変化させることがあれば、実施するのがよい。これは、その変化とともに、電子ビーム1に含まれる主光線の軌道が変わり、それゆえ新たなデフォーカスと2回非点収差が発生するからである。
本実施例の装置は、そして、第0のアライメント条件下で、3回非点補正信号を増減し、その強度毎に、ナイフエッジ20上における電子ビーム1のぼけを測定する。より具体的には、その条件下で、3回非点補正信号の離散的な微小変化によりナイフエッジ20上の3回非点収差の大きさを微小変化させながら、ナイフエッジ20の走査により電子ビーム1のぼけを測定する。そうすることで、X方向のぼけを最小とする3回非点補正信号と、Y方向のぼけを最小とする3回非点補正信号を決定する。
ここで、ナイフエッジ20の走査は、次のように行う。まず、材料ステージ14によりナイフエッジ20Xを電子ビーム1に向けて移動させたうえで、電子ビーム1を対物偏向器13によりX方向に微小偏向することで、ナイフエッジ20XをX方向に微小走査する。次に、材料ステージ14によりナイフエッジ20Yを電子ビーム1に向けて移動させたうえで、電子ビーム1を対物偏向器13によりY方向に微小偏向することで、ナイフエッジ20YをY方向に微小走査する。即ち、ナイフエッジ20の走査は、偏向信号V1AおよびV1Bのそれぞれを微小変化させることによる。ただし、ナイフエッジ20Xおよび20Yを微小走査する順序は、互いに前後してもよい。
本実施例の装置は、3回非点補正信号を増減する前の3回非点補正信号を、第0の3回非点発生信号と定義し、X方向のぼけを最小とする3回非点補正信号を、第1の3回非点発生信号と定義し、Y方向のぼけを最小とする3回非点補正信号を、第2の3回非点発生信号と定義する。本実施例においてこのように3回非点補正信号に3回非点発生信号という呼称を与えるのは、本発明では、ナイフエッジ20上のコマ収差の測定のために、3回非点収差を積極的に発生させることによる。
本実施例の装置は、さらに、第2の3回非点発生信号と第1の3回非点発生信号の差を、XY差と定義する。XY差は、ナイフエッジ20上のコマ収差の大きさを表す指標となる。即ち、XY差が零であれば、ナイフエッジ20上のコマ収差も零であるが、XY差が零でない限り、そのコマ収差は零ではなく、従って本実施例の装置はそのコマ収差の補正を実施する。
本実施例の装置は、XY差を、アライメント条件毎に測定する。以降では、第n(n=0,1,または2)のアライメント条件下のXY差を、第nのXY差と称す。
本実施例の装置は、また、XY差を、3回非点発生信号の成分毎に測定する。より詳細には、本実施例の装置は、まず、第n(n=0,1,または2)のアライメント条件下で、V3Aを増減し、その際の第1および第2の3回非点発生信号を決定し、これらの差、即ちXY差を、第nのXY差のA成分とする。本実施例の装置は、次に、同じアライメント条件下で、V3Bを増減し、その際の第1および第2の3回非点発生信号を決定し、これらの差、即ちXY差を、第nのXY差のB成分とする。ただし、V3AおよびV3Bを増減して上記AおよびB成分をそれぞれ決定する順序は、互いに前後してもよい。
3Aが作るX方向およびY方向のぼけとV3Aの関係の例を、図3Aに示し、V3Bが作るX方向およびY方向のぼけとV3Bの関係の例を、図3Bに示す。図3Aおよび図3Bは、それぞれV3BおよびV3Aが零であることを前提とする。図3Aおよび図3Bは、さらに、それぞれV3AおよびV3Bが零のときにナイフエッジ20上に現れている3回非点収差は零であることを前提とする。これら前提の下では、V3BおよびV3Aがともに零のときにナイフエッジ20上に現れている3回非点収差は、零である。
図3Aおよび図3Bにおいて、XY差は、X方向のぼけを表す曲線(実線)の谷の位置(第1の3回非点発生信号51)とY方向のぼけを表す曲線(破線)の谷の位置(第2の3回非点発生信号52)の差に相当する。もしXY差が零であれば、これらの谷の位置は互いに一致する。図3Aおよび図3Bからは、XY差のA成分およびB成分がそれぞれ得られる。
以降では、XY差のA成分およびB成分を、それぞれDおよびD(ともに実数)とし、第n(n=0、1、または2)のXY差のA成分およびB成分を、それぞれDAnおよびDBnとする。例えば、第0のXY差のA成分およびB成分は、それぞれDA0およびDB0である。
AnおよびDBnを含め、DおよびDの符号は、便宜上、それぞれ、第2の3回非点発生信号52の方が第1の3回非点発生信号51より大きい場合、および第1の3回非点発生信号51の方が第2の3回非点発生信号52より大きい場合に、正とする。この規則に従えば、図3Aおよび図3Bからは、正の符号を持つDおよびDがそれぞれ得られる。
図3Aおよび図3Bにおいて、第1の3回非点発生信号51と第2の3回非点発生信号52は、互いに強度の絶対値を同じくし、互いに強度の符号を逆にしている。これは、先述のように、図3Aおよび図3Bは、それぞれ、V3AおよびV3Bが零のときにナイフエッジ20上に現れている3回非点収差が零であることを前提としていることによる。
上記前提は、常に成立するわけではない。即ち、V3BおよびV3Aがともに零のときにナイフエッジ20上に現れている3回非点収差が零でない場合が存在しうる。これは、V3AおよびV3Bに原因しない3回非点収差がナイフエッジ20上に現れうることに相当する。そのような場合にV3A(またはV3B)が作るX方向およびY方向のぼけとV3A(またはV3B)との関係の例を、図3Cおよび図3Dに示す。
上記のような場合、具体的には、V3AおよびV3Bがともに零のときにアライナ18に原因する3回非点収差がナイフエッジ20上に現れているような場合は、図3Cおよび図3Dに示すように、第1の3回非点発生信号51と第2の3回非点発生信号52は、その3回非点収差の分だけ、互いに同じ向きに等しくシフトする。その結果、これらの信号は、互いに強度の絶対値を異にする。このことは、もしその3回非点収差がV3AおよびV3Bにより予め補正されていたとしても、即ち図3Dに示すように第0の3回非点発生信号50の強度が零でなくても、成立する。
しかし、上記のような場合においても、V3AおよびV3Bに原因しない3回非点収差は、XY差、即ち第2の3回非点発生信号52と第1の3回非点発生信号51の差を、変化させない。これは、上述のように、V3AおよびV3Bに原因しない3回非点収差による、第1の3回非点発生信号51および第2の3回非点発生信号52のシフトが、互いに向きおよび大きさを同じくすることによる。即ち、その3回非点収差は、第1の3回非点発生信号51および第2の3回非点発生信号52の決定誤差を生みうるが、それらの決定誤差は、XY差を測定した時点で相殺される。これが、本実施例においてXY差を求める所以である。
本実施例の装置は、第0のアライメント条件下で、第0のXY差DA0およびDB0を測定した後、これらをIa0およびIb0とともに記憶する。
本実施例の装置は、次に、アライメント信号IおよびIのうちのIに変化量を与えることで電子ビーム1を偏向し、その際のアライメント条件およびアライメント信号IおよびIを、それぞれ第1のアライメント条件および第1のアライメント信号Ia1およびIb1(=Ib0)とする。そして、第1のXY差DA1およびDB1を測定し、これらをIa1およびIb1とともに記憶する。
本実施例の装置は、さらに、アライメント信号IおよびIのうちのIに変化量を与えることで電子ビーム1を偏向し、その際のアライメント条件およびアライメント信号IおよびIを、それぞれ第2のアライメント条件および第2のアライメント信号Ia2(=Ia0)およびIb2とする。そして、第2のXY差DA2およびDB2を測定し、これらをIa2およびIb2とともに記憶する。
本実施例の装置は、次に、上記過程における、アライメント信号の変化量とXY差の変化量から、(8)~(11)式で表される係数を求める。
Figure 0007200062000002
(8)~(11)式で表される係数dAa、dAb、dBa、およびdBb(全て実数)は、DおよびDの、IおよびIに関する偏微分係数であり、従ってIおよびIに原因するXY差に関する係数を表す。言い換えれば、単位強度のアライメント信号IおよびIの生むXY差を表す。
(8)~(11)式において、ΔIおよびΔIは、それぞれIおよびIの変化量Iap-Ia0およびIbp-Ib0(いずれにおいてもp=1または2)を表し、ΔDおよびΔDは、それぞれDおよびDの変化量DAp-DA0およびDBp-DB0(いずれにおいてもp=1または2)を表す。以降では、D、D、I、およびIは、それぞれ、DAn、DBn、Ian、およびIbn(いずれにおいてもn=0、1、または2)の総称、またはDAn、DBn、Ian、およびIbnの更新値の総称とする。
アライメント信号IおよびIは、アライナ18に入力されるが、より詳細には、アライナ18Uおよび18LのX偏向用およびY偏向用のコイルには、アライメント信号IおよびIそのものではなく、Iに比例するアライメント信号およびIに比例するアライメント信号が入力される。アライナ18UのX偏向用およびY偏向用コイルに入力されるアライメント信号を、それぞれI1aおよびI1bとし、アライナ18LのX偏向用およびY偏向用コイルに入力されるアライメント信号を、それぞれI2aおよびI2bとすれば、これらは、(12)~(15)式で与えられる。
1a=cI (12)
1b=cI (13)
2a=r211a=cr21 (14)
2b=r211b=cr21 (15)
(12)~(15)式において、c(実数)は比例定数を表し、r21(=I2a/I1a=I2b/I1b)(実数)はアライナ18Uとアライナ18Lの連動比を表す。これらアライナの連動比をどのように決定すべきかについては、後述する。
(12)~(15)式の演算は、中央制御部28による。それら演算の結果は、中央制御部28により、アライナ制御部23を介して、アライナ18Uおよび18LのX偏向用およびY偏向用コイルに入力される。
以降では、便宜上、(12)~(15)式中のcを1とする。即ち、(12)~(15)式を、(12’)~(15’)式に改める。
1a=I (12’)
1b=I (13’)
2a=r211a=r21 (14’)
2b=r211b=r21 (15’)
補足すれば、I1a、I1b、I2a、およびI2bは、r21の逆数を用いれば、(12’’)~(15’’)式でそれぞれ表せる。
1a=r122a=r12 (12’’)
1b=r122b=r12 (13’’)
2a=I (14’’)
2b=I (15’’)
(12’’)および(13’’)式において、r12(=1/r21)は、r21の逆数を表す。(12’’)~(15’’)式は、I1aおよびI1bがI2aおよびI2bによらず常に零となりうる場合のI1a、I1b、I2a、およびI2bの定義に適する。これに対し、(12’)~(15’)式は、I2aおよびI2bがI1aおよびI1bによらず常に零となりうる場合のI1a、I1b、I2a、およびI2bの定義に適する。
係数dAa、dAb、dBa、およびdBbを用いれば、DおよびDは、(16)および(17)式で表せる。(16)および(17)式は、(18)式で行列表示できる。(16)~(18)式において、DOAおよびDOBは定数を表す。
=DOA+dAa+dAb (16)
=DOB+dBa+dBb (17)
Figure 0007200062000003
(16)~(18)式は、アライナ18による偏向の、Iに起因する方向とIに起因する方向が互いに直交していなくても、これらの方向が互いに線形独立であれば、記述できる。これが、本実施例の装置の光学系において、アライナ18による偏向の、Iに起因する方向とIに起因する方向が互いに直交することの必要性が低い理由である。
およびDとIおよびIとの関係の例を、図4Aおよび図4Bに示す。図4Aには、互いに異なる値を持つIに対するDを表す2点を結ぶ直線、およびそれら値を持つIに対するDを表す2点を結ぶ直線が示されている。ここで、前者直線はdAa、後者直線はdBaに等しい勾配を持つ。図4Bには、互いに異なる値を持つIに対するDを表す2点を結ぶ直線、およびそれら値を持つIに対するDを表す2点を結ぶ直線が示されている。ここで、前者直線はdAb、後者直線はdBbに等しい勾配を持つ。
(18)式から、DおよびDを零とするIおよびIが求まる。そのIおよびIをそれぞれIa0’およびIb0’とすれば、Ia0’およびIb0’は、(19)式で表せる。
Figure 0007200062000004
(19)式において、Ia0およびIb0は、先述の定義の通り、第0のアライメント信号を表す。即ち、第0のアライメント条件下におけるIおよびIをそれぞれ表す。Ia0’およびIb0’は、それぞれIa0およびIb0の更新値を表す。
(19)式は、XY差の2成分を零とするアライメント信号の2成分(Ia0’およびIb0’)が、アライメント信号の2成分の現在値(Ia0およびIb0)と、XY差の2成分のIおよびIに関する偏微分係数(dAa、dBa、dBb、およびdBb)と、XY差の2成分の現在値(DA0およびDB0)とから決まることを表す。ここで、XY差の2成分が零になるのは、アライナ18により互いに線形独立な2方向に電子ビーム1が偏向され、従って電子ビーム1のアライメントに関する自由度が合計2つあることに基づく。
(19)式が成立するのは、第一に、(18)式から、DA0およびDB0が、(20)式に示すように表せることと、第二に、Ia0’およびIb0’をアライナ18に入力して得られるDA0およびDB0をそれぞれDA0’(=0)およびDB0’(=0)とすれば、(20)式から、DA0’およびDB0’が、(21)式に示すように表せることによる。即ち、(20)式と(21)式から、(19)式が導ける。
Figure 0007200062000005
本実施例の装置は、そして、(19)式で得られるIa0’およびIb0’を、アライナ18に入力する。その結果、原理上、DA0およびDB0は零(DA0’およびDB0’)になる。従って、ナイフエッジ20上のコマ収差は零となる。
しかし、現実には、(19)式で得られるIa0’およびIb0’をアライナ18へ入力しても、DA0およびDB0は完全に零とはならず、従って、ナイフエッジ20上のコマ収差も完全に零とはならない可能性がある。これは、XY差に関する係数dAa、dAb、dBa、およびdBbに含まれる誤差のためである。この誤差は、ナイフエッジ20による電子ビーム1のぼけの測定誤差のほか、3回非点発生信号V3AおよびV3Bの生む3回非点収差の2成分の直交誤差に由来する。これが、本実施例の光学系において、対物偏向器13の発生する3回非点収差の、V3Aに起因する成分とV3Bに起因する成分が、互いに直交することの必要性が高い理由である。
上記のような場合、DA0’およびDB0’を測定するとともに、Ia0’およびIb0’を新たなIa0およびIb0と見なし、さらにDA0’およびDB0’を新たなDA0およびDB0と見なし、それらを(19)式に代入することで、新たなIa0’およびIb0’を求め、それらをアライナ18に入力すればよい。そうすれば、DA0およびDB0は零に近づく。即ち、DA0およびDB0を零とするIa0およびIb0を(19’)式により更新することと、そうして更新されたIa0およびIb0をアライナ18に入力することを交互に繰り返せば、DA0およびDB0は零に近づき、従ってナイフエッジ20上のコマ収差は零に近づく。
Figure 0007200062000006
(19’)式において、Ia0 (m)およびIb0 (m)は、m(≧1)回目に更新されるIa0およびIb0をそれぞれ表し、DA0 (m-1)およびDB0 (m-1)は、Ia0 (m-1)およびIb0 (m-1)をアライナ18に入力して得られるDA0およびDB0をそれぞれ表す。(19’)式において、m=1のとき、Ia0 (m)およびIb0 (m)はそれぞれIa0’およびIb0’ を表し、Ia0 (m-1)およびIb0 (m-1)はそれぞれIa0およびIb0を表す。即ち、(19’)式は、(19)式を一般化したものである。
ただし、上述した繰り返しによっても、DA0およびDB0は、厳密には零に収束しない。そこで、DA0 (m)およびDB0 (m)に対する許容値を予め定めておき、それらの間の大小関係から、DA0 (m)およびDB0 (m)の収束を判定する。その判定条件は、(20A)および(20B)式に示す通りとする。
Figure 0007200062000007
(20A)および(20B)式において、ε(>0)は、DA0 (m)およびDB0 (m)に対する許容値を表す。本明細書では、便宜上、XY差(またはその他)の零への収束は、(20A)および(20B)式が示すようにXY差(またはその他)の絶対値が許容値以下に収まることを指す。
補足すれば、Ia0 (m-1)およびIb0 (m-1)からIa0 (m)およびIb0 (m)を求める際、その都度、XY差に関する係数dAa、dAb、dBa、およびdBbを求め直してもよいが、それは必要ではない。これは、これら係数は、XY差DおよびDとは異なり、電子ビーム1のアライメントに依存しないことによる。
以上で説明した測定および補正の手順のフローチャートを、図5に示す。ただし、図5のフローチャートが表すのは、XY差の測定(ナイフエッジ20上のコマ収差の測定)と、それを零にするための電子ビーム1のアライメント(ナイフエッジ20上のコマ収差の補正)とに関わる正味の手順のみである。即ち、まずは従来通り、電子ビーム1が対物レンズ9の中心を通るように電子ビーム1がアライメントされ、さらにナイフエッジ20上に残るデフォーカスと2回非点収差が測定および補正されてからの手順である。
図5のフローチャートは、その簡略化のため、サブルーチンを含む。便宜上、そのサブルーチンに、サブルーチン1との名称を与える。サブルーチン1のフローチャートを、図6に示す。
図5に示すように、上記測定および補正は、以下のステップからなるメインルーチンに従う。
まず、ステップS1において、nを零に設定する(n=0)。
次に、ステップS2において、サブルーチン1(図6を参照)を実行し、XY差DAnおよびDBn(DA0およびDB0)を決定する。
次に、ステップS3において、nを1に設定する(n=1)。
次に、ステップS4において、サブルーチン1(図6を参照)を実行し、XY差DAnおよびDBn(DA1およびDB1)を決定する。
次に、ステップS5において、nを2に設定する(n=2)。
次に、ステップS6において、サブルーチン1(図6を参照)を実行し、XY差DAnおよびDBn(DA2およびDB2)を決定する。
次に、ステップS7において、係数dAa、dAb、dBa、およびdBbを決定する。
次に、ステップS8において、nを零に設定する(n=0)とともに、mを1に設定する(m=1)。
次に、ステップS9において、Ia0 (m)およびIb0 (m)を決定する。
次に、ステップS10において、サブルーチン1(図6を参照)を実行し、XY差DAnおよびDBn(DA0 (m)およびDB0 (m))を決定する。
次に、ステップS11において、|DA0 (m)|<ε、かつ、|DB0 (m)|<εが成立するかどうか判断する。それが成立する場合には、本メインルーチンを終了する。それが成立しない場合には、ステップS12に進む。
ステップS12においては、m+1をmに代入する(m=m+1)。そして、ステップS9に戻る。
図6に示すように、サブルーチン1は、以下のステップからなる。
まず、ステップS21において、IanおよびIbn(ステップS10においては、Ia0 (m)およびIb0 (m))を、アライナ18に入力する。
次に、ステップS22において、V3Aを増減し、X方向およびY方向のぼけを測定する。
次に、ステップS23において、V3Bを増減し、X方向およびY方向のぼけを測定する。
次に、ステップS24において、XY差DAnおよびDBn(ステップS10においては、DA0 (m)およびDB0 (m))を決定する。
そして、サブルーチン1を終了して、上述のメインルーチン(図5を参照)に戻る。
補足すれば、ステップS22とステップS23は、互いに前後しても構わない。
図5に示す測定および補正の間、本実施例の装置は、アライナ18を一定の連動比に基づき制御する。その詳細を、以下に示す。
本実施例の装置は、上記測定および補正の間、アライナ18の偏向支点の高さ位置を、第2の成形開口板7(物面)の高さ位置に一致させる。即ち、本実施例の装置は、アライナ18により、投影図形11(像)の位置を変えることなく、対物レンズ9の高さ位置における電子ビーム1の位置を変える。そうすることで、アライナ18を作動させることと、ナイフエッジ20により電子ビーム1のぼけを測定することの交互の繰り返しが容易となる。
上記偏向支点は、見かけ上の偏向支点であり、アライナ18Uおよび18Lにより偏向された電子ビーム1の軌道を電子ビーム1の上流側に延長して定義される偏向支点である。即ち、アライナ18は、アライナ18Uおよび18Lにより偏向された電子ビーム1の軌道を電子ビーム1の上流側に延長して定義される仮想的な軌道の物面における移動を、零にする。ここで、その移動が零になるのは、その移動の、アライナ18Uによる成分と、アライナ18Lによる成分が、互いを打ち消すことによる。
上記移動を零とするアライナ18Uとアライナ18Lの連動比r21(=I2a/I1a=I2b/I1b)をrS21とし、さらに物面、即ち第2の成形開口板7からアライナ18Uおよび18Lまでの距離をそれぞれL01およびL02、アライナ18Uおよび18Lによる電子ビーム1の偏向角をそれぞれδS1およびδS2とすれば、rS21は、(22)式で与えられる。
S21=δS2/δS1=-L01/L02 (22)
(22)式が成立するのは、上記移動が零であれば、L01δS1+L02δS2=0が成立することによる。ただし、(22)式は、アライナ18Uおよび18Lが、偏向感度(単位強度のアライメント信号に対する電子ビーム1の偏向角)を互いに同じくすることを前提とする。もしアライナ18Uおよび18Lが偏向感度を互いに異にすれば、その分だけ、rS21の大きさが変わる。
(22)式が満たされ、従ってアライナ18の偏向支点の高さ位置が第2の成形開口板7(物面)の高さ位置に一致している状態を、図7に示す。
図7において、電子ビーム1の軌道は、その中心を成す主光線の軌道(実線)で表されている。図7に示すように、(22)式が満たされるとき、上述の仮想的な軌道(二点鎖線)が、物面と光学系の軸(一点鎖線)との交点を通る。即ち、アライナ18の偏向支点は、物面の高さ位置にある。
連動比rS21は、アライナ18のX偏向用コイルとY偏向用コイルとの両方に共通とする。即ち、(14’)および(15’)式中のr21を、(22)式の表すrS21とする。そうすれば、アライナ18の作動の際、投影図形11(図1を参照)の位置は、いずれの方向にも変化しない。
ただし、本実施例において、(22)式は、ナイフエッジ20による電子ビーム1のぼけの測定が困難とならない限り、厳密に成立させる必要はない。ここで、(22)式、即ち投影図形11の位置を変えないための条件式は、あくまでも、その測定を容易にするための条件式であり、従って、もし(22)式が成立しなくても、その測定の精度は低下しない。同じ理由から、アライナ18UのX偏向用およびY偏向用コイルによる偏向の向きと、アライナ18LのX偏向用およびY偏向用コイル偏向の向きを、それぞれ一致させる必要もない。
この考えをさらに推し進め、投影図形11の位置の変化を全く度外視すれば、(22)式の成立およびこれらの偏向の向きの一致はいずれも全く不要となり、従って、(19’)、(20A)、および(20B)式からDA0 (m)及びDB0 (m)が決定できさえすればよくなる。その場合、アライナ18を2段構成(アライナ18Uおよび18L)とする必要はなく、アライナ18を1段構成としてもよい。
以降で、XY差の起源を説明するとともに、XY差がナイフエッジ20上のコマ収差の大きさを表す指標となる理由を示す。そのため、まず、ナイフエッジ20上のコマ収差および3回非点収差を、これら収差を表す収差図形を用いて説明し、次に、これら収差図形の和から、XY差を導く。
上記コマ収差は、半径成分と長さ成分からなる。これら成分のうち、半径成分は、材料10およびナイフエッジ20の高さ位置における電子ビーム1の収束半角の2乗に比例する半径を有し、長さ成分は、その収束半角の2乗に比例する長さを有する。ここで、電子ビーム1の収束半角とは、電子ビーム1に含まれる各主光線周りの光線の収束半角を意味する。上記コマ収差のこのような性質は、一般のコマ収差にも、同様に当てはまる。
上記コマ収差を表す収差図形をコマ収差図形S(複素数)とすれば、Sは、上記収束半角を用いて、(23)式で表せる。
Figure 0007200062000008
(23)式右辺第1項および第2項は、それぞれ、上記半径成分および長さ成分を表す。ただし、(23)式において、αは、上記収束半角を表し、θは、上記各主光線周りの回転角を表す。αおよびθはともに、上記各主光線周りの光線の近軸軌道(収差を含まない軌道)に関する角度である。K(複素数)は、アライナ18U、アライナ18L、縮小レンズ8、および対物レンズ9の磁場分布と、上記各主光線の軌道とに依存する係数を表す。Kは、(24)式で記述できる。(24)式において、KおよびK(ともに実数)は、Kの実部および虚部をそれぞれ表す。
=K+iK (24)
コマ収差図形S(α,θ)は、0≦θ<2πの範囲内の全てのθ、および0≦α≦αmaxの範囲内の全てのαに対して定義される。ここで、αmaxは、電子ビーム1の径で決まるαの最大値を表す。
θおよびαをそれぞれ0≦θ<2πおよび0≦α≦αmaxの範囲内で適宜変化させて得られるコマ収差図形S(α,θ)の例を、図8に示す。図8のコマ収差図形S(α,θ)は、より詳細には、K>0かつK>0が成立するときの例である。
(α,θ)の表す収差がコマ収差と称されるのは、図8に示すように、αを異にする複数のSの群が、彗星のような形状を成すことによる。それらSを構成する各円が上記半径成分に相当し、その各円から原点Oまでの距離が上記長さ成分に相当する。その各円の半径とその距離の比は、1:2である。図8において、一点鎖線61は、大きさを異にする円に対する接線、即ち包絡線を表し、破線62は、それら包絡線に直交する半径(ただし、図8中で最大の円の半径)を表す。
上記各円は、θが0から2πまで変化する間に、反時計回りに2回描かれる。即ち、2重に描かれる。これは、上記半径成分即ちKαexp(i2θ)が、θが0から2πまで変化する間に、反時計回りに2回転することによる。
コマ収差図形S(α,θ)の大きさは、(23)式から分かるように、係数Kに依存する。より具体的には、(23)式から分かるように、コマ収差図形Sの半径成分((23)式右辺第1項)および長さ成分((23)式右辺第2項)の絶対値はともに、Kの絶対値に比例する。そのため、Kの絶対値が小さく(または大きく)なれば、これら成分の絶対値はともに小さく(または大きく)なり、もしKが零となれば、これら成分はいずれもαによらず零になり、従ってコマ収差図形S全体も零となる。
係数Kは、先述の依存性のため、縮小レンズ8および対物レンズ9の磁場分布が不変のもとで、アライメント信号が零のときの、任意の高さ位置(例えば材料10およびナイフエッジ20の高さ位置)における上記各主光線の位置および傾きと、アライメント信号との関数として表せる。より具体的には、Kは、上記各主光線の位置および傾きとアライメント信号との線形結合の形式で表せる。即ち、Kは、上記各主光線の位置および傾き、さらにはアライメント信号と、これらのいずれにも依存しない係数(コマ収差係数)との積の総和である。このことは、KおよびKにも当てはまる。
係数K、K、およびKは、従って、投影図形11内の位置に依存する。即ち、これら係数は、電子ビーム1に含まれる主光線毎に異なる。しかし、以降では、投影図形11の大きさは十分に小さく、従ってこれら係数は投影図形11内で一定と見なす。
一方、上記3回非点収差を表す収差図形を3回非点収差図形S(複素数)とすれば、Sは、(25)式で表せる。
(α,θ)=a3C3Cαexp(-i2θ) (25)
(25)式において、a3C(複素数)は定数を表す。a3Cは、(26)式で定義される。
3C=a3R+ia3I (26)
(26)式において、a3Rおよびa3I(ともに実数)は、a3Cの実部および虚部をそれぞれ表す。a3Cは、対物偏向器13のZ軸周りの回転角次第で実数(a3C=a3R、即ちa3I=0)となる。a3C、a3R、およびa3Iは、以降では3回非点収差係数と称す。V3C(複素数)は、3回非点発生信号(3回非点補正信号)を表し、(27)式で定義される。(27)式中のV3AおよびV3Bは、(6)式中のV3AおよびV3Bに、それぞれ同じである。
3C=V3A+iV3B (27)
3回非点収差図形S(α,θ)は、0≦θ<2πの範囲内の全てのθ、および0≦α≦αmax(αmaxはαの最大値)の範囲内の全てのαに対して定義される。あるいは、それらの集合体が3回非点収差図形であると考えてもよい。
θおよびαをそれぞれ0≦θ<2πおよび0≦α≦αmaxの範囲内で適宜変化させて得られる3回非点収差図形S(α,θ)の例を、図9Aに示す。
図9Aから分かるように、3回非点収差図形S(α,θ)は、円形を成し、αを異にする複数のSの群は、中心を同じくする。即ち、3回非点収差図形S(α,θ)は、同心円を形成する。
上記同心円を構成する各円は、θが0から2πまで変化する間に、時計回りに2回描かれる。即ち、3回非点収差図形S(α,θ)は、2重に描かれる。これは、(25)式右辺、即ちa3C3Cαexp(-i2θ)が、θが0から2πまで変化する間に、時計回りに2回転することによる。
(α,θ)の表す収差が3回非点収差と称されるのは、Sとデフォーカスを表す収差図形との合成による収差図形が、その半径を、θが0から2πまで変化する間に、3回増減することによる。その収差図形の半径がθの変化とともに増減することを、図9Bおよび図9Cに示す。図9Bには、V3B=0が成立するときにV3Aが作る収差図形S+Sが示されている。図9Cには、V3A=0が成立するときにV3Bが作る収差図形S+Sが示されている。ここで、S(複素数)は、フォーカス補正信号V0Aに起因するデフォーカスの収差図形を表し、S+Sは、SとSの合成による収差図形を表す。以降でも同様に、その収差図形を、収差図形S+Sと称す。ただし、図9Bおよび図9Cは、ある単一のαに関するS+SおよびSを、それぞれ実線および破線で示している。ここで、S(破線)は、上記3回非点収差が零となり、従って上記デフォーカスのみが存在する条件下における収差図形S+Sを意味する。
3B=0が成立するときにV3Aが作る収差図形S+S(図9B)と、V3A=0が成立するときにV3Bが作る収差図形S+S(図9C)は、(25)および(27)式より、(25’)および(25’’)式でそれぞれ表せる。(25’)および(25’’)式において、aは、上記デフォーカスに関する係数(実数)を表し、ζは、a3Cの偏角を表す。
+S=a3C3Aαexp(-i2θ)+a0Aαexp(iθ)
={|a3C|V3Aαexp(-i3(θ-ζ/3))+a0Aα}exp(i(θ-ζ/3))exp(iζ/3) (25’)
+S=a3C(iV3B)αexp(-i2θ)+a0Aαexp(iθ)
={|a3C|V3Bαexp(-i3(θ-ζ/3-π/6))+a0Aα}exp(i(θ-ζ/3-π/6))exp(i(ζ/3+π/6)) (25’’)
収差図形S+Sの半径は、(25’)式においては、|a3C|V3Aαexp(-i3(θ-ζ/3))+a0Aαに相当し、(25’’)式においては、|a3C|V3Bαexp(-i3(θ-ζ/3-π/6))+a0Aαに相当する。これらの大きさは、θが0から2πまで変化する間に、3回増減する。
3回非点収差図形S(α,θ)は、その大きさおよび回転角を、(25)式から分かるように、3回非点収差係数a3C(=a3R+ia3I)および3回非点発生信号V3C(=V3A+iV3B)に依存して変える。しかし、これらのうち、3回非点収差係数a3Cは、不変である。従って、3回非点収差図形Sの大きさおよび回転角は、3回非点発生信号V3Cのみにより制御されうる。ここで、3回非点収差係数a3Cが不変であるのは、3回非点発生信号V3Cの発生する対物偏向器13の中心軸周りの電位3次成分は原理的に主光線の軌道の位置および角度のいずれにも依存せず、従ってその電位成分は電子ビーム1のアライメントに依存しないことによる。
補足すれば、(25’)および(25’’)式の表す収差図形S+Sの回転角は、(25’)式右辺中のexp(i(ζ/3))と(25’’)式右辺中のexp(i(ζ/3+π/6))の作用により、それぞれ、ζ/3およびζ/3+π/6である。ここで、収差図形S+Sの回転角とは、S+Sの半径、即ち(25’)式における|a3C|V3Aαexp(-i3(θ-ζ/3))+a0Aα、または(25’’)式における|a3C|V3Bαexp(-i3(θ-ζ/3-π/6))+a0Aαが、最大または最小となる角度位置(0から2πの間に周期π/3で6つ存在するうちの1つ)を意味する。その角度位置は、V3AおよびV3Bのいずれにも依存しない。
上記回転角ζ/3およびζ/3+π/6の間の差は、π/6(30°)である。この差は、(6)式中の分布関数f3A(ψ)の回転角と、(6)式中のもう一つの分布関数f3B(ψ)の回転角の差に等しい。ここで、これら分布関数の回転角とは、f3A(ψ)およびf3B(ψ)をそれぞれcos3ψおよびsin3ψと見なせば、これら分布関数がそれぞれ最大または最小となる角度位置(0から2πの間に周期π/3で6つ存在するうちの1つ)に相当する。これら分布関数の回転角の差がπ/6であることは、f3A(ψ-π/6)(=cos(3(ψ-π/6))=cos(3ψ-π/2))が、f3B(ψ)(=sin3ψ)に一致することから確認できる。即ち、(25’)および(25’’)式の表す収差図形S+Sには、(6)式の表す対物偏向器13の電極電圧V(ψ)が反映されている。
さらに補足すれば、(25’)および(25’’)式右辺中の角度変数がθ-ζ/3、θ-ζ/3-π/6、またはその他であることは、(25’)および(25’’)式の表す収差図形S+Sを変形または回転させない。これは、(25’)および(25’’)式右辺中の角度変数の如何によらず、これら角度変数の示す各値(0から2πまで)に対し、収差図形S+S上の各点の位置が決まることによる。
(23)および(25)式より、(28)式が得られる。(28)式は、コマ収差図形Sと3回非点収差図形Sの合成による収差図形を表す。以降では、その収差図形を、収差図形S+Sと称す。
Figure 0007200062000009
(28)式右辺の実部および虚部は、それぞれ、X方向およびY方向のぼけに相当する。即ち、それぞれ、ナイフエッジ20Xおよび20Yで測定されるぼけに寄与する。
(28)式右辺第1項、第2項、および第3項は、θの0から2πまでの変化とともに、単独ではそれぞれ円形、線形、および円形を成すが、(28)式右辺第1項と第3項の和は、楕円(場合により、円または線分)を成す。即ち、その和は、収差図形S+Sの楕円成分を表す。この成分は、3回非点収差係数a3C、収束半角α、および係数Kが一定であっても、3回非点発生信号V3C(=V3A+iV3B)次第で、X方向およびY方向の幅を変える。このことを、以下で説明する。
ただし、以下の議論は、V3Cが零(V3C=0)、即ちV3AおよびV3Bがいずれも零(V3A=0かつV3B=0)のときに、ナイフエッジ20上の3回非点収差が零であること(図3Aおよび図3Bを参照)を前提とする。もし、その3回非点収差が零となるのが、V3AおよびV3Bがいずれも零のときではなく、V3AおよびV3Bのいずれかまたは両方が零でないときである場合(図3Cおよび図3Dを参照)は、その3回非点収差を零とするV3AおよびV3Bの値を、以下の議論におけるV3AおよびV3Bの零値と見なせばよい。
(28)式のS+Sは、V3B=0が成立するとき、(28’)式で表せ、V3A=0が成立するとき、(28’’)式で表せる。ただし、(28’)および(28’’)式のいずれにおいても、収差図形S+Sの楕円成分を表すのは、右辺第2項である。
Figure 0007200062000010
(28’)および(28’’)式において、γは、Kの偏角とa3Cの偏角との差の2分の1に等しく、ηは、これら偏角の平均に等しい。即ち、γおよびηは、これら偏角で決まる定数であり、V3AおよびV3Bのいずれにも依存しない。
(28’)および(28’’)式右辺第2項の表す楕円成分は、いずれも、V3AまたはV3Bの変化とともに、自身の径(長径および短径)を変えるが、自身の軸(長軸および短軸)の回転角は変えない。これは、第一に、これら楕円成分の軸の回転角は、(28’)および(28’’)式右辺第2項中のexp(iη)およびexp(i(η+π/4))の作用により決定されることと、第二に、ηは、上述のように、V3AおよびV3Bのいずれにも依存しないことによる。
(28’)および(28’’)式右辺第2項の表す楕円成分の長軸または短軸の回転角は、具体的には、上記作用により、それぞれ、ηおよびη+π/4である。即ち、V3B=0が成立するときにV3Aが作る収差図形S+Sの楕円成分と、V3A=0が成立するときにV3Bが作る収差図形S+Sの楕円成分は、互いの間に、それらの長軸または短軸の回転角の差として、π/4(45°)の差を呈する。
補足すれば、(28’)および(28’’)式右辺第2項中の角度変数がθ+γ/2、θ+γ/2-π/8、またはその他であることは、上記楕円成分を変形または回転させない。これは、これら角度変数の如何によらず、これら角度変数の示す各値(0から2πまで)に対し、上記楕円成分上の各点の位置が決まることによる。別の見方によれば、θに加算値(例えばγ/2やγ/2-π/8)が加算されれば、その加算値は、上記楕円成分を変形または回転させることなく、自身の大きさに相当する量だけ、上記各点に、上記楕円成分の外周上を移動せしめる。
3B=0が成立するときにV3Aが作る収差図形S+Sの例を、図10Aに示し、V3A=0が成立するときにV3Bが作る収差図形S+Sの例を、図10Bに示す。図10Aおよび図10Bには、これら収差図形の楕円成分が、V3AまたはV3Bに依存して変形し、従ってX方向およびY方向の幅を変える様子が示されている。これら幅のV3AおよびV3Bへの依存性は、それぞれ図3Aおよび図3Bに示した如きである。ただし、図10Aおよび図10Bに示されている収差図形は、αを異にする複数のS+Sではなく、ある単一のαに関するS+Sである。
上記回転角の差がπ/4であることは、互いに直交する2方向のエッジを持つナイフエッジ20により、収差図形S+Sの大きさが正しく評価でき、従って、ナイフエッジ20上のコマ収差が零(S=0)であれば、その判定が可能なことを意味する。言い換えれば、S≠0が成立しているときにXY差DおよびDの片方が零となっていることはありうるが、S≠0が成立しているときにDおよびDの両方が零となっていることはありえない。DおよびDの両方が零となる場合は、必ずS=0が成立する。
ここで、DおよびDの片方が零となっている場合とは、例えば、図11Aおよび11Bに示すように、V3B=0が成立するときにV3Aが作る収差図形S+Sの楕円成分は、X軸またはY軸に平行な長軸または短軸を有するが、V3A=0が成立するときにV3Bが作る収差図形S+Sの楕円成分は、X軸およびY軸に対しπ/4(45°)だけ回転している長軸または短軸を有する場合である。この場合、V3B=0が成立するときは、図11Aから明らかなように、D≠0が成立する。一方、V3A=0が成立するときは、図11Bから分かるように、X方向およびY方向のぼけはいずれも零ではないものの、XY差が発生しないため、D=0が成立する。
もし、収差図形S+Sの大きさがナイフエッジ20により正しく評価できない場合があるとすれば、それは、S≠0にもかかわらず、XY差DおよびDの両方が零となる場合である。それは、例えば、上記回転角の差が仮にπ/4ではなくπ/2(90°)であり、かつナイフエッジ20の2方向のエッジの成す角度がπ/2であり、かつ収差図形S+Sの楕円成分の長軸または短軸が、ナイフエッジ20の2方向のエッジに対してπ/4だけ回転している場合である。しかし、上記位相差は現実にはπ/2ではなく、π/4であるから、そのような場合は、現実にはありえない。即ち、現実には、収差図形S+Sの大きさは、その形状および回転の如何によらず、ナイフエッジ20により正しく評価できる。
補足すれば、ナイフエッジ20の2つのエッジ(ナイフエッジ20Xおよび20Yのエッジ)の方向がXY平面内で互いに直交している限り、それらエッジの方向は、いずれも、Y方向またはX方向に一致していなくてもよい。即ち、その一致の如何に関わらず、収差図形S+Sの大きさはナイフエッジ20により正しく評価できる。しかし、ナイフエッジ20Xおよび20Yのエッジの方向がそれぞれY方向およびX方向に一致していれば、これらナイフエッジに、対物偏向器13の偏向フィールド較正(偏向フィールドの大きさおよび回転の補正)のためのナイフエッジを兼ねさせることができる。
収差図形S+Sから、XY差DおよびDが導ける。より具体的には、収差図形S+Sから、XY差DおよびDと、係数Kおよび3回非点収差係数a3Cとの関係が導ける。これを、以下で説明する。
(28)式より、S+Sの実部は、それをxと置くと、(29)式に示す通りである。
x=Re(S+S
=α{(K+Re(a3C3C))cos2θ-(K-Im(a3C3C))sin2θ+2K} (29)
xがθ次第で最大または最小となるとき、(29)式をθで微分して得られる導関数は零となる。その導関数は、(30)式に示す通りである。
Figure 0007200062000011
(30)式で表される導関数が零となれば、(31)式が成立する。
(K+Re(a3C3C))sin2θ+(K-Im(a3C3C))cos2θ=0
(31)
(31)式を変形すると、(32)式が得られる。
[{(K+Re(a3C3C))/P}sin2θ+{(K-Im(a3C3C))/P}cos2θ]
=P{cosλ・sin2θ+sinλ・cos2θ}=Psin(2θ+λ)=0
(32)
(32)式より、(33)式が成立する。(33)式において、μは整数である。
θ=-λ/2+μ(π/2) (33)
(32)式中のP、cosλ、およびsinλは、それぞれ、(34),(35),および(36)式で与えられる。
={(K+Re(a3C3C))+(K-Im(a3C3C))1/2
(34)
cosλ=(K+Re(a3C3C))/P (35)
sinλ=(K-Im(a3C3C))/P (36)
以降では、(33)式を満たすθをθμとする。即ち、(33’)式が成立する。
2θμ=-λ+μπ (33’)
θ=θμが成立するとき、xは、(29)および(33’)式より、(37)式に示す通りとなる。ただし、(37)式の導出に、cos2θμ=cos(-λ+μπ)=+cosλまたは-cosλ、およびsin2θμ=sin(-λ+μπ)=-sinλまたは+sinλが成立することを用いた。
x=α{(K+Re(a3C3C))cos2θμ-(K-Im(a3C3C))sin2θμ+2K
=±α+2α(37)
(37)式は、xの最大値または最小値を表す。xの最大値と最小値の差をx(≧0)と置くと、xは、(38)式で与えられる。
=2α(38)
は、図11Cに示すように、収差図形S+Sの楕円成分のx方向の幅である。従って、xは、電子ビーム1のx方向のぼけに寄与する。
がV3AまたはV3B次第で最小となるとき、(38)式をV3AまたはV3Bで偏微分して得られる導関数は、いずれも零となる。その導関数は、(39)式または(40)式に示す通りである。
Figure 0007200062000012
即ち、(41)および(42)式が成立する。
Figure 0007200062000013
(41)および(42)式のV3AおよびV3Bは、先述の定義より、いずれも第1の3回非点発生信号51に相当する。(41)および(42)式から分かるように、xを最小とするV3AまたはV3Bは、それぞれV3BまたはV3Aに依存しない。ただし、このことは、V3AまたはV3Bを変化させる間に、それぞれV3BまたはV3Aを固定することを前提とする。
一方、S+Sの虚部は、それをyと置くと、(28)式より、(43)式に示す通りとなる。
y=Im(S+S
=α{(K-Re(a3C3C))sin2θ+(K+Im(a3C3C))cos2θ-2K}(43)
を求めた手法と同様の手法によりy(≧0)を求めると、yは、(44)式に示す通りとなる。
=2α(44)
ここで、yは、図11Cに示すように、収差図形S+Sの楕円成分のy方向の幅であり、従って電子ビーム1のy方向のぼけに寄与する。(44)式中のPは、(45)式で与えられる。
={(K-Re(a3C3C))+(K+Im(a3C3C))1/2
(45)
がV3AまたはV3B次第で最小となるとき、(44)式をV3AまたはV3Bで微分して得られる導関数は、いずれも零となる。その導関数は、(46)式または(47)式に示す通りである。
Figure 0007200062000014
即ち、(48)および(49)式が成立する。
Figure 0007200062000015
(48)および(49)式のV3AおよびV3Bは、先述の定義より、いずれも第2の3回非点発生信号52に相当する。(48)および(49)式から分かるように、yを最小とするV3AまたはV3Bは、それぞれV3BまたはV3Aに依存しない。ただし、このことは、V3AまたはV3Bを変化させる間に、それぞれV3BまたはV3Aを固定することを前提とする。
(41)、(42)、(48)、および(49)式から分かるように、Re(K3C)が零でない限り、xを最小とするV3Aとyを最小とするV3Aは互いに異なり、Im(K3C)が零でない限り、xを最小とするV3Bとyを最小とするV3Bは互いに異なる。ここで、a3Cは、先述のように、不変であり、零にはならない。従って、本実施例においては、Kが零でない限り、yを最小とするV3Aとxを最小とするV3Aの差、およびyを最小とするV3Bとxを最小とするV3Bの差の、少なくとも1つが、零でない値を持つ。これがXY差の起源である。
およびyは、ナイフエッジ20では直接測定できないが、これらがそれぞれ最小となるとき、ナイフエッジ20で測定される電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけもそれぞれ最小となる。これは、xおよびyがそれぞれ最小となるときは、図10A~図11Cの各図から分かるように、幾何学的理由から、収差図形S+S全体のX方向およびY方向の幅も最小となることによる。即ち、xおよびyから決まるXY差は、ナイフエッジ20で測定される電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけから決まるXY差に等しい。
ここで、xおよびyがナイフエッジ20で直接測定できないのは、xおよびyは、あくまでも収差図形S+Sの一要素、具体的にはS+Sの楕円成分の、X方向およびY方向の幅であり、S+S全体のX方向およびY方向の幅ではなく、従って、電子ビーム1の全体的なX方向およびY方向のぼけでもないことによる。ここで、S+S全体のX方向(またはY方向)の幅とは、上記楕円成分の、Y軸(またはX軸)に平行な2本の接線のうち、Y軸(またはX軸)から遠い方の接線からY軸(またはX軸)までの距離に相当する。
(41)、(42)、(48)、および(49)式から、XY差DおよびDを与える式が導出できる。先述の定義に従えば、(48)式のV3Aと(41)式のV3Aの差がXY差のA成分、即ちDであり、(49)式のV3Bと(42)式のV3Bの差がXY差のB成分、即ちDである。このことから、DおよびDを与える式は、(50)および(51)式となる。(50)および(51)式において、DおよびDの符号は、先述の規則に従う。
Figure 0007200062000016
(50)および(51)式より、(52)式が得られる。
Figure 0007200062000017
(52)式中のD(複素数)は、DおよびDと同様にXY差であり、(53)式を満たす。
=D+iD(53)
(50)および(51)式のDおよびDは、形式的に、それぞれ2で除してもよい。DおよびDをそのように改めれば、(50)、(51)、および(52)式は、それぞれ、(50’)、(51’)、および(52’)式に示す通り、簡単になる。
Figure 0007200062000018
これらの式は、もし対物偏向器13のZ軸周りの回転角がa3C=a3R(即ちa3I=0)を満たせば、それぞれ次のようにさらに簡単になる。
=K/a3R (50’’)
=K/a3R (51’’)
=K/a3R (52’’)
(52)、(52’)、および(52’’)式から分かるように、DとKは互いに比例し、両者は3回非点収差係数a3C(場合によってはa3R)の複素共役で結ばれている。ここで、a3Cは、先述のように不変である。D、K、およびa3Cがこれらの性質を有することが、XY差がナイフエッジ20上のコマ収差の大きさを表す指標となる理由である。
上記理由から、XY差を零に低減すればナイフエッジ20上のコマ収差の大きさが零となることが保証される。即ち、(19’)式に従って電子ビーム1をアライメントした結果、(54)および(55)式が成立すれば、(52)および(55)式から、(56)式が成立する。
=D=0 (54)
=0 (55)
=0 (56)
(56)式が成立すれば、(56)および(23)式より、(57)式が成立する。
=0 (57)
以上のことは、収束半角αによらない。
本実施例の装置の光学系において係数K(=K+iK)が零になることは、ナイフエッジ20上のコマ収差を構成する成分のうち、アライナ18による電子ビーム1の偏向に原因しない成分が、その偏向に原因する成分により打ち消されることに相当する。ここで、アライナ18による電子ビーム1の偏向に原因しない成分とは、IおよびIがともに零であるときにナイフエッジ20上に現れるコマ収差であり、その偏向に原因する成分とは、IおよびIのいずれかまたは両方が零でないことに原因してナイフエッジ20上に現れる偏向コマ収差である。
上記のことを説明するため、係数Kを(58)式で表す。(58)式は、KをIおよびIの線形結合の形式で表した式である。
=KOC+kCa+kCb(58)
係数Kが(58)式で表せるのは、Kは先述のように、アライメント信号が零のときの、任意の高さ位置における、電子ビーム1に含まれる各主光線の位置および傾きと、アライメント信号との線形結合の形式で表せることによる。
(58)式において、KOC(複素数)は、アライメント信号IおよびIがともに零のときにナイフエッジ20上に現れるコマ収差に関する係数を表し、ナイフエッジ20の高さ位置における上記各主光線の位置および傾きに依存する。kCaおよびkCb(ともに複素数)は、それぞれkのIおよびIに関する偏微分係数であり、それぞれIおよびIに原因してナイフエッジ20上に現れる偏向コマ収差に関する係数を表す。KOC、kCa、およびkCbは、これら係数の実部および虚部を用いて、それぞれ(59)~(61)式で表せる。
OC=KOA+iKOB (59)
Ca=kAa+ikBa (60)
Cb=kAb+ikBb (61)
(59)~(61)式を用いれば、(58)式は(62)式で表せる。
Figure 0007200062000019
係数kCa、kCb、kAa、kBa、kAb、およびkBbは、係数Kとは異なり、アライメント信号が零のときの、任意の高さ位置における上記各主光線の位置および傾きにも、アライメント信号にも、依存しない。以降では、係数kCa、kCb、kAa、kBa、kAb、およびkBbを、偏向コマ収差係数と称す。
ナイフエッジ20上に現れているコマ収差が零のとき、即ちK(=K+iK)=0が成立するとき、(58)および(62)式より、(63)および(64)式が成立する。
OC=-(kCa+kCb (63)
Figure 0007200062000020
(63)および(64)式は、IおよびIが零であるときにナイフエッジ20上に現れるコマ収差と、IおよびIのいずれかまたは両方が零でないことに原因してナイフエッジ20上に現れる偏向コマ収差が、互いに、大きさを同じくし、向きを逆にすることを示す。
(63)および(64)式を満たすIおよびIは、(19)および(21)式を満たすI’およびI’である。即ち、(63)および(64)式は、(19)および(21)式と等価である。
ここで、(58)式中の偏向コマ収差係数kCaおよびkCbと、(19)および(21)式中のXY差に関する係数dAa、dAb、dBa、およびdBb((8)~(11)式を参照)とは、互いの間に、(65)~(68)式の関係を持つ。(65)~(68)式は、(58)式と、(50)および(51)式とから得られる。
Figure 0007200062000021
(63)および(64)式が(19)および(21)式と等価であるのと同様に、(58)および(62)式は(18)式と等価である。ここで、DOAおよびDOBとKOC(=KOA+iKOB)とは、互いの間に、(69)および(70)式の関係を持つ。(69)および(70)式は、I=I=0の条件下におけるK、D、およびDがそれぞれの定義からKOC、DOA、およびDOBであることに基づき、(50)および(51)式をそれぞれ書き換えたものである。
Figure 0007200062000022
補足すれば、DOAおよびDOBまたはKOAおよびKOBを求めること、即ちIおよびIが零であるときのXY差またはナイフエッジ20上のコマ収差を求めることは、本実施例において意味を持たない。本実施例において意味を持つのは、DA0およびDB0を零、または第0のアライメント条件下におけるKおよびKを零とするIa0およびIb0を求めること、即ち(19)式または(71)式を満たすIa0’およびIb0’を求めることである。
Figure 0007200062000023
(71)式は、(62)および(64)式から導出される。ただし、本実施例では、偏向コマ収差係数kAa、kBa、kAb、およびkBbは直接測定できないから、目的のIa0’およびIb0’は、(71)式からではなく、(19)式から求める。
以上で説明したように、本実施例においては、図1の光学系に寄生するコマ収差、即ち図1中の光学系要素の加工・組立誤差に原因し、対物偏向器13により電子ビーム1を偏向しない状態において材料10およびナイフエッジ20の高さ位置に現れているコマ収差が、測定および補正される。即ち、そのコマ収差を零とするアライメント条件が見出される。その結果、上記高さ位置における電子ビーム1のぼけが低減し、従って、本実施例の可変成形電子ビーム描画装置により得られる寸法精度が向上する。
以上に補足すれば、本実施例では、材料10およびナイフエッジ20の高さ位置におけるコマ収差は低減され、零となりうるが、それと同時に、その高さ位置における軸外色収差までもが零となるとは限らない。このことは、そのコマ収差を零とするアライメント条件と、その軸外色収差を零とするアライメント条件が、互いに一致するとは限らないことに相当する。これは先述の通りである。言い換えれば、本実施例におけるコマ収差補正が有効なのは、上記コマ収差の補正後に残存する上記軸外色収差の大きさが、無視できる程度に収まる場合においてである。
上記コマ収差および軸外色収差の両方を同時に零とするアライメントについては、後述する(実施例10~実施例13を参照)。
(実施例2)
本発明の荷電粒子ビーム装置の別の実施例を、実施例2として、以下に説明する。本実施例でも、本発明の荷電粒子ビーム装置が、可変成型電子ビーム描画装置として構成されている(実施例3~実施例14でも同様)。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、実施例1の可変成形電子ビーム描画装置と、構成を同じくする。即ち、本実施例の可変成形電子ビーム描画装置の光学系、測定系、および制御系の構成は、図1に示した装置のそれらの構成と同じである。
本実施例の装置の動作は、基本的に、実施例1の装置の動作と同様とするが、評価すべきコマ収差の大きさを、XY差、即ち第2の3回非点発生信号52と第1の3回非点発生信号51との差(またはその半分)ではなく、第1の3回非点発生信号51と第0の3回非点発生信号50との差で表す。
ここで、第1の3回非点発生信号51と第0の3回非点発生信号50との差は、図3A~図3Cから分かるように、対物偏向器13に第0の3回非点発生信号50が入力されているときにナイフエッジ20上に現れている3回非点収差の大きさが零であれば、第2の3回非点発生信号52と第1の3回非点発生信号51との差の半分となる。これは、第1の3回非点発生信号51および第2の3回非点発生信号52の絶対値が互いに等しいこと、即ち(41)および(48)式の示すV3Aの絶対値が互いに等しく、さらには(42)および(49)式の示すV3Bの絶対値が互いに等しいことによる。
対物偏向器13に第0の3回非点発生信号50が入力されているときにナイフエッジ20上に現れている3回非点収差の大きさが上述のように零であるとの前提のもとで、第1の3回非点発生信号51と第0の3回非点発生信号50との差のA成分およびB成分をそれぞれDhAおよびDhBとすれば、DhAおよびDhBは、それぞれ(72)および(73)式で表せる。(72)および(73)式の表すDhAおよびDhBは、(50’)および(51’)式の表すDおよびDに、それぞれ同じである。
hA=D/2 (72)
hB=D/2 (73)
hAおよびDhBを零とするIおよびIは、(74)式で与えられる。
Figure 0007200062000024
(74)式は、(19’)式中のDA0 (m-1)およびDB0 (m-1)と係数dAa、dAb、dBa、およびdBbとを、それぞれ、DhA0 (m-1)およびDhB0 (m-1)と係数dhAa、dhAb、dhBa、およびdhBbとに置き換えて得られる式である。従って、本実施例は、形式的に実施例1とほぼ同じである。(74)式において、DhA0 (m-1)およびDhB0 (m-1)は、Ia0 (m-1)およびIb0 (m-1)をアライナ18に入力して得られるDhA0およびDhB0をそれぞれ表し、DhA0およびDhB0は、第0のアライメント条件下におけるDhAおよびDhBをそれぞれ表す。係数dhAa、dhAb、dhBa、およびdhBbは、DhAおよびDhBに関する係数であり、係数dAa、dAb、dBa、およびdBbと同様に、(8)~(11)式から求められる。ただしその際は、(8)~(11)式中のDAnおよびDBn(いずれにおいてもn=0、1、または2)を、それぞれDhAnおよびDhBnに読み替え、(8)~(11)式中のdAa、dAb、dBa、およびdBbを、それぞれdhAa、dhAb、dhBa、およびdhBbに読み替える。
(74)式は、(72)および(73)式と同じく、対物偏向器13に第0の3回非点発生信号50が入力されているときにナイフエッジ20上に現れている3回非点収差の大きさが零であることを前提とする。そのような3回非点収差は、電子ビーム1のアライメントに依存して発生しうる。
もし、上記前提が満たされなければ、(72)および(73)式が成立せず、従って、ナイフエッジ20上のコマ収差が正確に測定されなくなる。その結果、見かけ上はそのコマ収差が零に収束するが、実際にはそのコマ収差が零から離れた値に収束する事態が、生じうる。即ち、(74)式によりIa0およびIb0を新たに決定することと、Ia0およびIb0をアライナ18に入力することを交互に繰り返しても、ナイフエッジ20上のコマ収差の補正残差が解消されない可能性が生じる。
そこで、ナイフエッジ20上のコマ収差の測定、即ちDhAおよびDhBの測定の前に、その時点においてナイフエッジ20上に現れている3回非点収差を測定および補正する。即ち、その3回非点収差に由来する電子ビーム1のぼけを最小とする3回非点補正信号V3AおよびV3Bを決定し、それらを対物偏向器13に入力する。その3回非点補正信号V3AおよびV3Bは、ナイフエッジ20上のコマ収差を零と仮定した場合の電子ビーム1のぼけを最小とする。このことは、電子ビーム1のアライメントによりナイフエッジ20上のコマ収差が零に低減された後における電子ビーム1のぼけが最小となることに相当する。
上記3回非点補正信号V3AおよびV3Bの決定は、より詳細には、以下に説明するように行われる。
まず、V3AおよびV3Bのうち、V3A(またはV3B)を変化させながら、電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけを測定し、X方向のぼけを最小とするV3A(またはV3B)とY方向のぼけを最小とするV3A(またはV3B)の平均を求め、これを目的のV3Aとする。次に、V3B(またはV3A)を変化させながら、電子ビーム1のX方向およびY方向のぼけを測定し、X方向のぼけを最小とするV3B(またはV3A)とY方向のぼけを最小とするV3B(またはV3A)の平均を求め、これを目的のV3Bとする。
ここで、X方向のぼけを最小とするV3A(またはV3B)と、Y方向のぼけを最小とするV3A(またはV3B)は、ナイフエッジ20上のコマ収差が零でない限り、互いに一致しない。これは、図3A~図3D、さらには(41)、(42)、(48)、および(49)式の示す通りである。
上記3回非点収差の測定および補正は、ナイフエッジ20上のコマ収差を低減すべくアライナ18により電子ビーム1を大きく偏向させた際には、その都度、実施するのがよい。これは、上記3回非点収差は、上述のように電子ビーム1のアライメントに依存して発生することによる。
ただし、上記3回非点補正に伴い、副次的に2回非点収差およびデフォーカスが発生しうる。これら副次的な2回非点収差およびデフォーカスが発生すれば、その分だけ収差図形S+Sの変化が敏感に測定されなくなる。即ち測定精度が低下する。従って、これら副次的な2回非点収差およびデフォーカスは、上記コマ収差を測定すべく3回非点補正信号を増減して電子ビーム1のぼけを測定する前に測定および補正しておくのがよい。このことは、本実施例に限らず、いずれの実施例にも当てはまる。
上記の副次的な2回非点収差およびデフォーカスは、対物偏向器13の中心軸周りの電位n次成分が生む、電子ビーム1に含まれる主光線周りの電位m(m=0、1、2、・・・、n-1)次成分に原因する。ここで、対物偏向器13の中心軸周りの電位n次成分は、n回非点収差の補正の際に対物偏向器13内に発生させる電位成分である。一方、電子ビーム1に含まれる主光線周りの電位m次成分は、電子ビーム1に含まれる各主光線周りの電位を多項式展開して得られる、n-1次以下の低次の電位成分に相当する(特許文献2を参照)。これら低次の電位成分は、電子ビーム1に含まれる各主光線の、対物偏向器13の中心軸からの位置ずれに依存する。
この理由から、上記の副次的な2回非点収差およびデフォーカスは、電子ビーム1のアライメントに依存する。従って、ナイフエッジ20上のコマ収差を低減すべくアライナ18により電子ビーム1を大きく偏向させた際は、その都度、ナイフエッジ20上の2回非点収差およびデフォーカスの補正を実施するのがよい。その実施は、電子ビーム1に含まれる主光線の対物レンズ9およびその他のレンズの中心からの位置ずれに原因する2回非点収差およびデフォーカスをも、さらにはアライナ18による電子ビーム1の偏向に原因する2回非点収差およびデフォーカスをも、補正する。
以上で説明したように、本実施例においては、ナイフエッジ20上のコマ収差の測定のため、XY差DおよびDの代わりに、第1の3回非点発生信号51と第0の3回非点発生信号50との差DhAおよびDhBを求め、DhAおよびDhBにより、ナイフエッジ20上のコマ収差の2成分を表す。DhAおよびDhBは、あるいは、第2の3回非点発生信号52と第0の3回非点発生信号50との差としてもよい。
本実施例においてDhAおよびDhBを求めることは、事前に上記3回非点収差の測定および補正を行う限り、ナイフエッジ20上のコマ収差の正確な測定という意味において、実施例1においてXY差DおよびDを求めることと、実質的に同等である。従って、以降の実施例では、DおよびDと、DhAおよびDhBは、特に区別しない。
(実施例3)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例3として、以下に説明する。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、実施例1および実施例2の可変成形電子ビーム描画装置と、構成を同じくする。
本実施例の装置の動作は、基本的に、実施例1および実施例2の装置の動作と同様とする。ただし、本実施例では、第1の3回非点発生信号51および第2の3回非点発生信号52の決定(ナイフエッジ20上のコマ収差の測定および補正)の際、またはこれらの決定と第0の3回非点発生信号50の決定(ナイフエッジ20上の3回非点収差の測定および補正)の両方の際に、3回非点発生信号(3回非点補正信号)の増減に原因する副次的な2回非点収差およびデフォーカス(実施例2を参照)の発生または変化を、それらに見合う新たな2回非点収差およびデフォーカスの発生または変化によって打ち消す。その新たな2回非点収差およびデフォーカスの発生または変化は、そのための2回非点補正信号およびフォーカス補正信号を、3回非点発生信号とともに、対物偏向器13に入力される偏向信号に重畳することによる。このようにすることで、第1の3回非点発生信号51および第2の3回非点発生信号52の決定と、第0の3回非点発生信号50の決定のいずれもが、正確になされるようになる。
これらの決定が正確になされるための条件は、3回非点発生信号の増減に原因する副次的な2回非点収差およびデフォーカスによる電子ビーム1のぼけの大きさの変化(絶対値)が、その同じ増減に原因する3回非点収差による電子ビーム1のぼけの大きさの変化(絶対値)よりも、小さいことである。
もし上記条件が成立しなければ、上記の副次的な2回非点収差およびデフォーカスの増加(または減少)のため、ナイフエッジ20上のコマ収差と3回非点収差の合成による収差(S+S)の減少(または増加)、またはその3回非点収差(S)の減少(または増加)が、誤って、その収差(S+SまたはS)の増加(または減少)と認識されうる。そのため、そのコマ収差または3回非点収差の低減が、阻害されうる。
上記条件は、電子ビーム1に含まれる主光線の、対物偏向器13の中心軸からの全体的な位置ずれが大きくなるとともに、成立しにくくなる。即ち、その位置ずれが大きくなるとともに、上記の副次的な2回非点収差およびデフォーカスの発生または変化を打ち消す必要が増す。これは、3回非点発生信号の増減に原因する3回非点収差は、その位置ずれに依存しないが、その同じ増減に原因する副次的な2回非点収差およびデフォーカスは、その位置ずれとともに大きくなることによる。
上記2回非点補正信号は、3回非点発生信号の増減と、その増減に伴い発生する2回非点収差を打ち消すのに必要となる2回非点補正信号の増減との関係から決定できる。その詳細を、以下に示す。
まず、ナイフエッジ20上の3回非点収差およびデフォーカスが零に低減されていることを確認し、その状態で対物偏向器13に入力されている3回非点発生信号V3AおよびV3Bの現在値を、第0の3回非点発生信号V3A0およびV3B0とする。そして、2回非点補正信号V2AおよびV2Bの離散的な微小変化により2回非点収差の大きさを微小変化させながら、電子ビーム1のぼけを測定する。これにより、電子ビーム1のぼけ(X方向またはY方向)を最小とする2回非点補正信号V2AおよびV2Bを決定し、これらを第0の2回非点補正信号V2A0およびV2B0とする。
次に、V3Aに変化量を与え、その際の3回非点発生信号V3AおよびV3Bを、第1の3回非点発生信号V3A1およびV3B1(=V3B0)とする。そして、同様に電子ビーム1のぼけを最小とする2回非点補正信号V2AおよびV2Bを決定し、これらを第1の2回非点補正信号V2A1およびV2B1とする。
次に、V3Bに変化量を与え、その際の3回非点発生信号V3AおよびV3Bを、第2の3回非点発生信号V3A2(=V3A0)およびV3B2とする。そして、同様に電子ビーム1のぼけを最小とする2回非点補正信号V2AおよびV2Bを決定し、これらを第2の2回非点補正信号V2A2およびV2B2とする。
そして、上記過程における、V3AおよびV3Bの変化量とV2AおよびV2Bの変化量から、(75)~(78)式に示す係数を求める。
Figure 0007200062000025
(75)~(78)式の表す係数ρ2A3A、ρ2A3A、ρ2B3A、およびρ2B3Bは、3回非点発生信号の増減に伴い発生する2回非点収差を打ち消すためのV2AおよびV2Bの、V3AおよびV3Bに関する偏微分係数である。従って、これら係数は、単位強度の3回非点発生信号V3AおよびV3Bの印加に伴い印加すべき2回非点補正信号V2AおよびV2Bを表す。
(75)~(78)式において、ΔV3AおよびΔV3Bは、それぞれ、V3Aの変化量V3Ap-V3A0およびV3Bの変化量V3Bp-V3B0(いずれにおいてもp=1または2)を表す。ΔV2AおよびΔV2Bは、それぞれ、V2Aの変化量V2Ap-V2A0およびV2Bの変化量V2Bp-V2B0(いずれにおいてもp=1または2)を表す。
これら係数から、上記2回非点補正信号、即ち、3回非点発生信号の増減に伴い発生する2回非点収差を打ち消すための2回非点補正信号が求められる。その打ち消しに必要となる2回非点補正信号の変化量をΔV2A0およびΔV2B0とすれば、ΔV2A0およびΔV2B0は、(79)および(80)式でそれぞれ与えられる。
ΔV2A0=ρ2A3AΔV3A+ρ2A3BΔV3B (79)
ΔV2B0=ρ2B3AΔV3A+ρ2B3BΔV3B (80)
対物偏向器13には、第0の2回非点補正信号V2A0およびV2B0に、それぞれΔV2A0およびΔV2B0が加算された2回非点補正信号が入力される。その2回非点補正信号をV2A0’およびV2B0’とすれば、V2A0’およびV2B0’は、(81)式で与えられる。
Figure 0007200062000026
一方、上記フォーカス補正信号は、3回非点発生信号の増減と、その増減に伴い発生するデフォーカスを打ち消すのに必要となるフォーカス補正信号の増減との関係から決定できる。その詳細を、以下に示す。
まず、ナイフエッジ20上の3回非点収差および2回非点収差が零に低減されていることを確認し、その状態で対物偏向器13に入力されている3回非点発生信号V3AおよびV3Bの現在値を、第0の3回非点発生信号V3A0およびV3B0とする。そして、フォーカス補正信号V0Aの離散的な微小変化によりデフォーカスの大きさを微小変化させながら、電子ビーム1のぼけを測定する。これにより、電子ビーム1のぼけ(X方向またはY方向)を最小とするフォーカス補正信号V0Aを決定し、これを第0のフォーカス補正信号V0A0とする。次に、同様に第1のフォーカス補正信号V0A1および第2のフォーカス補正信号V0A2を決定する。そして、(82)および(83)式の表す係数を求める。
Figure 0007200062000027
(82)および(83)式の表す係数ρ0A3Aおよびρ0A3Bは、3回非点発生信号の増減に伴い発生するデフォーカスを打ち消すためのV0Aの、V3AおよびV3Bに関する偏微分係数である。従って、係数ρ0A3Aおよびρ0A3Bは、それぞれ、単位強度の3回非点発生信号V3AおよびV3Bの印加に伴い印加すべきフォーカス補正信号V0Aを表す。
これら係数から、上記フォーカス補正信号、即ち3回非点発生信号の増減に伴い発生するデフォーカスを打ち消すためのフォーカス補正信号が求められる。その打ち消しに必要となるフォーカス補正信号の変化量をΔV0A0とすれば、ΔV0A0は、(84)式で与えられる。
ΔV0A0=ρ0A3AΔV3A+ρ0A3BΔV3B (84)
対物偏向器13には、第0のフォーカス補正信号V0A0に、ΔV0A0が加算されたフォーカス補正信号が入力される。そのフォーカス補正信号をV0A0’とすれば、V0A0’は、(84)式より、(85)式で与えられる。
0A0’ =V0A0+ρ0A3AΔV3A+ρ0A3BΔV3B (85)
ただし、ΔV2A0およびΔV2B0が大きい場合には、V2A0’およびV2B0’の対物偏向器13への入力に伴い副次的に発生するデフォーカスをも低減する必要が生じる。それへの対策を、以下に示す。
まず、ナイフエッジ20上の3回非点収差および2回非点収差が零に低減されていることを確認し、その状態で対物偏向器13に入力されている2回非点補正信号V2AおよびV2Bの現在値を、第0の2回非点補正信号V2A0およびV2B0とする。そして、フォーカス補正信号V0Aの離散的な微小変化によりデフォーカスの大きさを微小変化させながら、電子ビーム1のぼけを測定する。これにより、電子ビーム1のぼけ(X方向またはY方向)を最小とするフォーカス補正信号V0Aを決定し、これを、第0のフォーカス補正信号V0A0とする。次に、同様に第1のフォーカス補正信号V0A1および第2のフォーカス補正信号V0A2を決定する。そして、(86)および(87)式の表す係数を求める。
Figure 0007200062000028
(86)および(87)式の表す係数ρ0A2Aおよびρ0A2Bは、2回非点補正信号の増減に伴い発生するデフォーカスを打ち消すためのV0Aの、V2AおよびV2Bに関する偏微分係数である。従って、係数ρ0A2Aおよびρ0A2Bは、それぞれ、単位強度の2回非点補正信号V2AおよびV2Bの印加に伴い印加すべきフォーカス補正信号V0Aを表す。
これら係数から、ΔV2A0およびΔV2B0が大きい場合に副次的に発生するデフォーカスを打ち消すためのフォーカス補正信号が求められる。その打ち消しに必要となるフォーカス補正信号の変化量をΔV0A0とすれば、ΔV0A0は、(88)式で与えられる。
ΔV0A0=ρ0A3AΔV3A+ρ0A3BΔV3B+ρ0A2AΔV2A+ρ0A2BΔV2B
(88)
ただし、(88)式の表すΔV0A0には、(84)式の表すΔV0A0が加算されている。(88)式より、この場合におけるV0A0’は、(89)式で与えられる。
0A0’ =V0A0+ρ0A3AΔV3A+ρ0A3BΔV3B+ρ0A2AΔV2A+ρ0A2BΔV2B (89)
以上に補足すれば、係数ρ2A3A、ρ2A3B、ρ2B3A、ρ2B3B、ρ0A3A、ρ0A3B、ρ0A2A、およびρ0A2Bは、いずれも、電子ビーム1のアライメントに依存する。従って、ナイフエッジ20上のコマ収差を小さくすべくアライナ18により電子ビーム1を大きく偏向させた際には、これら係数を求め直すのがよい。
ただし、3回非点発生信号の増減の際に発生または変化する副次的な2回非点収差およびデフォーカスの大きさの変化(絶対値)が、その同じ増減による3回非点収差の大きさの変化(絶対値)より十分に小さければ、これら係数を求め直す必要は薄まる。
以上にさらに補足すれば、3回非点発生信号の増減の際に発生または変化する副次的なデフォーカスの大きさが、その同じ増減の際に発生または変化する副次的な2回非点収差の大きさより十分に小さければ、そのデフォーカスを打ち消す必要は薄まる。即ち、その2回非点収差のみを打ち消せばよい。
(実施例4)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例4として、以下に説明する。その説明のため、本実施例の可変成形電子ビーム描画装置の光学系および制御系の構成を、図12に示す。ただし、図12において、第2の成形開口板7より電子ビーム1の上流側の光学系、および3回非点発生器制御部31以外の制御部は、省略している。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、基本的に、実施例1~実施例3の可変成形電子ビーム描画装置と、構成を同じくする。
ただし、本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、図12に示すように、3回非点発生器30を備える。3回非点発生器30は、本実施例においては磁界型の多極子(例えば8極子)とするが、あるいはこれを静電型の多極子としてもよい。3回非点発生器30は3回非点発生器制御部31に接続され、3回非点発生器制御部31は、中央制御部28に接続されている。
本実施例の装置の動作は、基本的に、実施例1~実施例3の装置の動作と同様とするが、本実施例では、対物偏向器13に、フォーカス補正器、2回非点補正器、および3回非点発生器の全てを兼ねさせるのではない。
本実施例では、対物偏向器13に、フォーカス補正器および2回非点補正器を兼ねさせ、そのうえで、3回非点発生器30に、3回非点収差の発生を担わせる。あるいは、対物偏向器13に、フォーカス補正器を兼ねさせ、そのうえで、3回非点発生器30に、2回非点収差の補正および3回非点収差の発生を担わせてもよい。即ち、3回非点発生器30に入力される3回非点発生信号に、2回非点補正信号を重畳してもよい。ここで、3回非点発生器30は、3回非点発生器制御部31により制御され、3回非点発生器制御部31は、中央制御部28により制御される。
3回非点発生器30の高さ位置(3回非点発生器30の上端と下端の高さ位置の平均)は、光源の像19または16の高さ位置から大きく離さないのがよい。これには、電子ビーム1に含まれる主光線の、3回非点発生器30の高さ位置における、3回非点発生器30の中心軸からの位置ずれと、3回非点発生器30による3回非点収差の発生とともに副次的に発生する2回非点収差およびデフォーカス(実施例2および実施例3を参照)とが関係する。その詳細を、以下に示す。
もし、3回非点発生器30の高さ位置と光源の像19または16の高さ位置とが互いに一致すれば、電子ビーム1に含まれる主光線が、3回非点発生器30の高さ位置において、一点に交わる。これは、それら主光線は全て、光源4を起点とし、従って光源の像19および16のそれぞれの高さ位置において、一点に交わることによる。
電子ビーム1に含まれる主光線が光源19の高さ位置において一点に交わっている状態を、図13に示す。図13は、電子ビーム1に含まれる主光線を実線で表し、電子ビーム1に含まれるその他の光線を破線で表している。
補足すれば、3回非点発生器30の高さ位置は、光源の像19の高さ位置よりも、光源の像16の高さ位置の方に、より近づけやすい。これは、光源の像19の高さ位置には、既に対物偏向器13が配置されていることによる。
上記主光線が3回非点発生器30の高さ位置において一点に交われば、上記位置ずれの、電子ビーム1のアライメントに依存しない成分が、最小となる。この位置ずれ成分は、上記主光線のそれぞれの、電子ビーム1の中心軸からの位置ずれに相当する。
この位置ずれ成分は、上記の副次的な2回非点収差およびデフォーカスを構成する成分として、投影図形11内の位置に依存する収差成分を生む。この収差成分は、2回非点補正器(本実施例では対物偏向器13または3回非点発生器30)およびフォーカス補正器(本実施例では対物偏向器13)によって補正できない。
これに対し、上記位置ずれの、電子ビーム1のアライメントに依存する成分(電子ビーム1の中心軸の、3回非点発生器30の中心軸からの位置ずれに相当)は、上記の副次的な2回非点収差およびデフォーカスを構成する収差成分として、投影図形11内の位置に依存しない成分(投影図形11内の全体的な収差成分)を生む。この収差成分は、2回非点補正器およびフォーカス補正器によって補正できる(実施例2および実施例3を参照)。
以上のことは、実施例1~実施例3における対物偏向器13にも当てはまる。即ち、実施例1~実施例3において、対物偏向器13の高さ位置は、図1から分かるように、光源の像19の高さ位置から大きく離れていない。従って、上記主光線の、対物偏向器13の高さ位置における、対物偏向器13の中心軸からの位置ずれを構成する成分のうち、電子ビーム1のアライメントに依存しない成分(上記主光線のそれぞれの、電子ビーム1の中心軸からの位置ずれ)が小さい。そのため、対物偏向器13による3回非点収差の発生とともに副次的に発生する2回非点収差およびデフォーカスの、投影図形11内の位置に依存する成分も小さい。ここで、上記主光線は、図13に示すように、光源の像19の高さ位置において、一点に交わっている。
(実施例5)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例5として、以下に説明する。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、基本的に、実施例1~実施例4の可変成形電子ビーム描画装置と、構成を同じくする。
ただし、その構成に3回非点発生器30を含む場合は、3回非点発生器30の高さ位置を、対物レンズ9より電子ビーム1の上流側とする。例えば、光源の像16の高さ位置の近くとする。
本実施例の装置の動作は、基本的に、実施例1~実施例4の装置の動作と同様とするが、本実施例では、対物偏向器13、3回非点発生器30、またはこれら両方に、電子ビーム1のアライメントを部分的に担わせる。即ち、本実施例では、使用可能な電子ビーム1のアライメント手段の段数が増える。
本実施例では、従って、必要なアライメント手段の段数が確保される限り、アライナ18は、2段構成(アライナ18Uおよび18L)ではなく、1段構成(アライナ18Uおよび18Lのいずれか)としてよいし、場合によっては、アライナ18を完全に削除してもよい。
ただし、電子ビーム1のアライメントのために、対物偏向器13、3回非点発生器30、またはこれらの両方により電子ビーム1を偏向すると、その分だけ、対物偏向器13、3回非点発生器30、またはこれらの両方の中心軸からの、電子ビーム1に含まれる主光線の全体的な位置ずれが大きくなりやすくなる。その結果、先述の副次的な2回非点収差およびデフォーカス(実施例2および実施例3を参照)が問題になりやすくなる。即ち、先述の2回非点収差およびデフォーカスの打ち消し(実施例3を参照)の必要性が高くなる。
(実施例6)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例6として、以下に説明する。その説明のため、本実施例の可変成形電子ビーム描画装置の光学系および制御系の構成を、図14に示す。ただし、図14において、第2の成形開口板7より電子ビーム1の上流側の光学系、および対物偏向器制御部25以外の制御部は、省略している。図14には、便宜上、3回非点発生器30および3回非点発生器制御部31を含まない(実施例1~実施例3を参照)構成例を示した。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、基本的に、実施例1~実施例5の可変成形電子ビーム描画装置と構成を同じくするが、図14に示すように、対物偏向器13を上下2段構成とし、その上段および下段をそれぞれ対物偏向器13Uおよび13Lとする。対物偏向器13Uおよび13Lは、ともに静電型である。対物偏向器13Uおよび対物偏向器13Lは、また、ともに、対物偏向器制御部25に接続されている。
本実施例の装置の動作は、基本的に、実施例1~実施例5の装置の動作と同様とするが、本実施例では、測定および補正対象を、偏向コマ収差とする。ここで、偏向コマ収差とは、より具体的には、電子ビーム1が対物偏向器13Lで偏向されることにより材料10およびナイフエッジ20の高さ位置に現れる偏向コマ収差である。言い換えれば、本実施例では、対物偏向器13Lの偏向座標(偏向フィールド内座標)を、座標原点に限定しない。
これに対し、実施例1~実施例5では、測定および補正対象を、図1の光学系に寄生するコマ収差とした。ここで、図1の光学系に寄生するコマ収差とは、対物偏向器13により電子ビーム1を偏向しない状態において材料10およびナイフエッジ20の高さ位置に現れているコマ収差であった。即ち、実施例1~実施例5では、対物偏向器13の偏向座標を座標原点に限定した。
上記偏向コマ収差の補正は、対物偏向器13Uによる。即ち、本実施例では、上記偏向コマ収差を、対物偏向器13Uによる電子ビーム1の偏向に原因して上記高さ位置に現れる偏向コマ収差で打ち消す。本実施例では、そのため、対物偏向器13Lとともに、対物偏向器13Uを、対物偏向器制御部25によって制御する。
これに対し、実施例1~実施例5では、図1の光学系に寄生し、上記高さ位置に現れるコマ収差を、アライナ18による電子ビーム1の偏向に原因して上記高さ位置に現れる偏向コマ収差で打ち消した。実施例1~実施例5では、そのため、アライナ18を、アライナ制御部23によって制御した。
補足すれば、対物偏向器13Lによる電子ビーム1の偏向に原因して上記高さ位置に現れる偏向コマ収差は、アライナ18による電子ビーム1の偏向に原因して上記高さ位置に現れる偏向コマ収差によっても打ち消せる。このことは、対物偏向器13を上下2段構成でなく、1段構成とする場合にも当てはまる。しかし、そのようにすると、アライナ18を、対物偏向器13Lまたは1段構成の対物偏向器13の高速動作に追従させるのが困難となる。これは、対物偏向器13Lまたは1段構成の対物偏向器13は上述のように静電型であるのに対し、アライナ18は先述のように磁界型の偏向器であることによる。従って、以降では、対物偏向器13Lによる電子ビーム1の偏向に原因して上記高さ位置に現れる偏向コマ収差を、上述のように、対物偏向器13Uによる電子ビーム1の偏向に原因して上記高さ位置に現れる偏向コマ収差で打ち消すものとする。
対物偏向器13Lによる電子ビーム1の偏向に原因して上記高さ位置に現れる偏向コマ収差の測定は、実施例1~実施例5におけるコマ収差の測定、即ち図1の光学系に寄生するコマ収差の測定と同様に、XY差DおよびDの測定による。そのための3回非点収差の発生は、実施例1~実施例5においてそうしたように、対物偏向器13または3回非点発生器30による。ただし、ここで、対物偏向器13による3回非点収差の発生は、より詳細には、対物偏向器13Uおよび13Lのいずれかまたは両方による。これは、本実施例では、対物偏向器13は上述のように上下2段構成となっていることによる。以降では、便宜上、対物偏向器13による3回非点収差の発生は、対物偏向器13Lのみによるものとする。
補足すれば、本実施例においては、先述の2回非点収差およびデフォーカスの打ち消し(実施例3を参照)および3回非点収差の補正(実施例2を参照)の必要性が高くなる。これは、次の理由による。
本実施例においては、対物偏向器13Lによる電子ビーム1の偏向のため、対物偏向器13Lの中心軸からの電子ビーム1の全体的な位置ずれが大きくなる。従って、3回非点収差の発生に伴う、副次的な2回非点収差およびデフォーカスが発生しやすくなるとともに、対物偏向器13Lの加工・組立誤差に原因する偏向3回非点収差が大きく発生しうる。
上記偏向コマ収差の測定および補正は、より詳細には、対物偏向器13Lの偏向フィールドを、X方向およびY方向にそれぞれ等分割することで得られる格子点(偏向座標点)上で行う。ここで、偏向フィールドの分割数を例えばX方向およびY方向ともに2とすれば、そうして得られる格子点の数は、合計9(=3×3)点となる。
上記格子点上で上記測定および補正を行うには、まず、最初に測定および補正を行う格子点の座標にナイフエッジ20およびファラデーカップ21(図1および図24を参照)を移動させたうえで、その格子点上に電子ビーム1が入射するように、電子ビーム1を対物偏向器13Lで偏向する。もし電子ビーム1の対物偏向器13Lによる偏向に伴う非点収差、像面湾曲収差、および2回非点収差が予め補正されていなければ、この時点で、これらの補正を行う。次に、その格子点上において、対物偏向器13Lまたは3回非点発生器30により、3回非点収差を発生させ、その際の電子ビーム1のぼけを、ナイフエッジ20およびファラデーカップ21で測定する。そして、第0のXY差DA0およびDB0を決定し、これらを、その格子点上における偏向コマ収差とする。そして、これらを零とするアライメント信号を決定し、それらを対物偏向器13Uに入力する。即ち、その格子点上における偏向コマ収差を補正する。以降、同様の測定および補正を、残りの格子点上で実施する。
本実施例では、上記XY差およびアライメント信号の決定のため、第n(n=0,1,または2)のアライメント条件を、対物偏向器13Uにより構成し、第n(n=0,1,または2)のアライメント信号を、対物偏向器13Uに入力される偏向信号に対して定義する。
各格子点上においてDA0およびDB0を零とするアライメント信号(対物偏向器13Uに入力される偏向信号)は、(90)式で与えられる。
Figure 0007200062000029
(90)式において、VおよびVは、対物偏向器13Uに入力される偏向信号の互いに独立な2成分を表し、Va0およびVb0は、VおよびVに対して定義される第0のアライメント信号をそれぞれ表す。Va0’およびVb0’は、DA0およびDB0を零とすべく更新されるVa0およびVb0を表す。即ち、(90)式は、(19)式中のIa0、Ib0、Ia0’、およびIb0’を、それぞれVa0、Vb0、Va0’、およびVb0’に置き換えて得られる式である。(90)式中のDA0およびDB0は、対物偏向器13の偏向座標に依存する。(90)式中の係数dAa、dAb、dBa、およびdBbは、(19)式中のそれらと同様に、(8)~(11)式から求められる。ただし、その際、(8)~(11)式中のI、I、Ian、およびIbnを、それぞれV、V、Van、およびVbn(いずれにおいてもn=0、1、または2)に読み替える。
(90)式を一般化すれば、(90)式は、(90’)式となる。
Figure 0007200062000030
(90’)式において、Va0 (m)およびVb0 (m)は、m回目に更新されるVa0およびVb0をそれぞれ表し、DA0 (m-1)およびDB0 (m-1)は、Va0 (m-1)およびVb0 (m-1)を対物偏向器13Uに入力して得られるDA0およびDB0をそれぞれ表す。即ち、(90’)式は、(19’)式中のIa0 (m)、Ib0 (m)、Ia0 (m-1)、およびIb0 (m-1)を、Va0 (m)、Vb0 (m)、Va0 (m-1)、およびVb0 (m-1)にそれぞれ置き換えて得られる式である。
(90’)式からVa0 (m)およびVb0 (m)を求めることと、それらを対物偏向器13Uに入力することを交互に繰り返せば、DA0およびDB0を零に収束させることができる。
(90’)式により全ての格子点上におけるVa0 (m)およびVb0 (m)を求め、これらに対する近似平面(偏向座標に関する一次関数)を決定すれば、その近似平面から、任意の偏向座標におけるVa0 (m)およびVb0 (m)を求めることができる。即ち、対物偏向器13Lの偏向フィールド内の全域に渡って、対物偏向器13Lによる偏向コマ収差を補正することができる。
ただし、そうして求められたVa0 (m)およびVb0 (m)を対物偏向器13Uに入力すると、その分だけ、対物偏向器13全体の偏向感度(対物偏向器13Uの偏向感度と対物偏向器13Lのそれとの和)および偏向フィールドの回転角が変化する。そして、対物偏向器13全体に原因する偏向収差も変化する。これは、対物偏向器13Uが零でない偏向感度を有することによる。従って、本実施例による偏向コマ収差補正を実施した後は、対物偏向器13全体の偏向フィールド較正(偏向フィールドの大きさおよび回転の補正)および偏向収差の補正を、改めて行う必要が生じる。
以上で説明したように、本実施例では、対物偏向器13Lで電子ビーム1を偏向することにより材料10およびナイフエッジ20の高さ位置に現れる偏向コマ収差が、測定および補正される。さらに、対物偏向器13Lの偏向フィールド内の全域に渡って、対物偏向器13Lにより発生する偏向コマ収差が補正される。ここで、その偏向コマ収差が補正されるのは、その偏向コマ収差が、対物偏向器13Uによる電子ビーム1の偏向に原因して上記高さ位置に現れる偏向コマ収差により打ち消されることによる。
補足すれば、対物偏向器13Uおよび13Lに原因する偏向コマ収差は、電子光学計算(電磁場計算および軌道計算)により算出可能である。従って、電子光学計算によれば、上述の測定および補正を実施しなくても、対物偏向器13Lに原因する偏向コマ収差が対物偏向器13Uに原因する偏向コマ収差により打ち消されるように、対物偏向器13Uおよび13Lの寸法(長さおよび内径)、Z軸周りの回転角、および偏向信号を決定することが可能である。ここで、対物偏向器13Uおよび13LがZ軸周りの回転角を互いに異にすることを許すならば、対物偏向器13Uおよび13Lの寸法次第では、これら2つの対物偏向器に同じ偏向信号を入力すること、即ちこれら2つの対物偏向器を単一の電源(対物偏向器制御部25内に備えられる)により駆動することが可能である。
しかし、このような要領により対物偏向器13Uおよび13Lの寸法、回転角、および偏向信号を決定した場合においても、上述の測定は有用である。具体的には、上述の測定により、上記高さ位置に現れる偏向コマ収差の補正残差が確認できる。
(実施例7)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例7として、以下に説明する。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、基本的に、実施例1~実施例5の可変成形電子ビーム描画装置と、構成を同じくする。即ち、本実施例における可変成形電子ビーム描画装置の光学系、測定系、および制御系の構成は、図1(または図12)に示した装置の光学系、測定系、および制御系の構成と同じとする。
本実施例の装置の動作は、基本的に、実施例1~実施例5の装置の動作と同様とするが、本実施例では、図1の光学系に寄生するコマ収差を、ブランキング開口板17の高さ位置における電子ビーム1の位置を考慮しつつ補正する。ここで、図1の光学系に寄生するコマ収差とは、対物偏向器13により電子ビーム1を偏向しない状態において、材料10およびナイフエッジ20の高さ位置に現れているコマ収差である。
本実施例では、より具体的には、ナイフエッジ20上のコマ収差が零になることと、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零とすることを、両立させる。即ち、上記コマ収差と上記位置ずれの両方を補正する。
これに対し、実施例1~実施例5では、ナイフエッジ20上のコマ収差の補正の際に、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを度外視した。より具体的には、実施例1~実施例5では、ナイフエッジ20上のコマ収差の補正の際に、その副作用としてブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれが発生または変化することを許した。即ち、その位置ずれまでは補正しなかった。
本実施例において上記位置ずれを零とするのは、ブランカー15(図1を参照)を作動させていない間に、電子ビーム1の一部または全部がブランキング開口板17によりけられ、それゆえ電子ビーム1の電流が減少するという問題を防ぐ目的からである。この問題は、ブランキング開口板17の開口が小さいほど顕著になりやすい。
本実施例においては上記コマ収差および位置ずれを補正するから、本実施例における補正対象の数は、合計2つである。これらの補正は、合計2段のアライナ(アライナ18Uおよび18L)のそれぞれにより、互いに線形独立な2方向に電子ビーム1が偏向され、従って電子ビーム1のアライメントに関する自由度が合計4つあることに基づく。ここで、上記コマ収差および位置ずれは、いずれも、互いに直交する2成分からなる。ただし、上記位置ずれの補正は、少なくとも1段のアライナがブランキング開口板17より電子ビーム1の上流側に配置されることを前提とする。
本実施例では、上記コマ収差および位置ずれの補正のため、2種類のアライメントを実施する。具体的には、上記位置ずれを変化させずに上記コマ収差を変化させるアライメントと、上記コマ収差を度外視しつつ上記位置ずれを変化させるアライメントを実施する。これらのアライメントは、偏向支点の高さ位置を互いに異にする。即ち、本実施例では、偏向支点が複数あり、これらの切り替えが可能である。
これに対し、実施例1~実施例5においては、1種類のアライメント(上記位置ずれを度外視しつつ上記コマ収差を変化させるアライメント)しか実施しなかった。即ち、実施例1~実施例5では、そのアライメントの偏向支点を1つに固定していた。
上記2種類のアライメントのうち、本実施例において先に実施すべきは、上記後者、即ち上記コマ収差を度外視しつつブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させるアライメントである。これは、上記前者、即ち上記位置ずれを変化させずに上記コマ収差を変化させるアライメントに伴う上記位置ずれの変化は、零であるが、上記後者に伴う上記コマ収差の変化は、零ではないことによる。
上記2種類のアライメントの実施の順序は、これらアライメントを交互に繰り返す場合にも適用する。
以降で、上記2種類のアライメント、およびこれらアライメントを実現するアライメント信号を、詳細に説明する。ただし、便宜上、上記2種類のアライメントのうち、上記後者、即ちナイフエッジ20上のコマ収差を度外視しつつブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させるアライメントから説明する。
ナイフエッジ20上のコマ収差を度外視しつつブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させるアライメントは、その偏向支点の高さ位置を、第2の成形開口板7(物面)の高さ位置に一致させる。即ち、アライナ18Uおよび18Lの連動比r21(=I2a/I1a=I2b/I1b)を、(22)式の表すrS21(実施例1を参照)に一致させる。
一方、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させずにナイフエッジ20上のコマ収差を変化させるアライメントは、その偏向支点の高さ位置を、ブランキング開口板17の高さ位置に一致させる。そのための連動比r21は、これをrL21とし、さらにその際のアライナ18Uおよび18Lによる電子ビーム1の偏向角をδL1およびδL2とすれば、(91)式で表せる。
L21=δL2/δL1=-L13/L23 (91)
(91)式において、L13およびL23は、それぞれ、アライナ18Uおよび18Lからブランキング開口板17までの距離を表す。(91)式は、(22)式と同じく、アライナ18Uおよび18Lが、偏向感度(単位強度のアライメント信号に対する電子ビーム1の偏向角)を同じくすることを前提とする。
(91)式が満たされ、従ってアライナ18の偏向支点の高さ位置がブランキング開口板17の高さ位置に一致している状態を、図15に示す。図15において、電子ビーム1の軌道は、電子ビーム1の中心軸の軌道、即ち電子ビーム1の中心に位置する主光線の軌道(実線)として表されている。
ただし、(91)式に基づくアライメントは、ブランキング開口板17の高さ位置に関する前提を伴う。その前提は、具体的には、対物レンズ9の高さ位置と光学的に共役な高さ位置から、ブランキング開口板17の高さ位置が少しだけずれていることである。
もしその前提が成立しない場合、即ちブランキング開口板17の高さ位置が上記の光学的に共役な高さ位置に一致している場合は、ナイフエッジ20上のコマ収差が補正しきれなくなる可能性が生じる。これは、その場合、(91)式に基づくアライメントに原因する、対物レンズ9の高さ位置における電子ビーム1の移動(光源の像19の移動)が、零となるからである。その移動が零である限り、アライナ18により電子ビーム1の軌道を変化させても、ナイフエッジ20上のコマ収差は、ほとんど変化しない。
以上を踏まえれば、本実施例におけるアライメント信号は、(92)~(95)式に従わせればよい。
1a=ISa+ILa (92)
1b=ISb+ILb (93)
2a=rS21Sa+rL21La (94)
2b=rS21Sb+rL21Lb (95)
(92)~(95)式において、ISaおよびISbは、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。これらはアライナ18の偏向支点を第2の成形開口板7の高さ位置に一致させるから、これらは実施例1~実施例5におけるIおよびIにそれぞれ同じである。ILaおよびILbは、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させずにナイフエッジ20上のコマ収差を変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。
(92)~(95)式から分かるように、本実施例では、ISaおよびISbと、ILaおよびILbとが決定されれば、アライナ18Uに入力されるアライメント信号I1a、I1b、I2a、およびI2bがいずれも一意に決定される。ここで、rS21およびrL21は、それぞれ(22)および(91)式より既知である。以降で、まずはISaおよびISbの決定の原理を説明し、次にILaおよびILbの決定の原理を説明する。
まず、ISaおよびISbの決定は、第0のアライメント条件下において、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを測定し、それを零とすべくISaおよびISbを変化させることによる。ここで、電子ビーム1の位置ずれの測定は、電子ビーム1によるブランキング開口板17の走査により得られる画像に基づく。この走査により得られる画像の例を、図16に示す。
上記走査は、電子ビーム1をアライナ18で偏向することによる。その偏向の範囲、即ちブランキング開口板17の走査範囲には、その範囲内にブランキング開口板17の開口が含まれるだけの大きさを持たせる。ただし、上記走査の際に、ISaおよびISbは、互いに独立に変化させる。即ち、ISa(またはISb)の強度を変えるときは、ISb(またはISa)の強度を不変とする。
上記画像、即ち、図16における画像17Aの取得は、上記走査の間にブランキング開口板17の開口から電子ビーム1の下流側に流れ出る電流を、ファラデーカップ21で受け、そうして得られるファラデーカップ吸収電流信号を取得および蓄積することによる。その取得および蓄積の結果、図16に示すように、画像17Aに、そのファラデーカップ吸収電流信号の絶対値が大きい領域17Bが現れる。領域17Bは、ブランキング開口板17の開口に相当する。
画像17Aの横軸および縦軸は、図16に示すように、それぞれISaおよびISbを表す。即ち、画像17A内の各点の座標は、ISaおよびISbで表せる。これは、上記走査の際にISaおよびISbを互いに独立に変化させるという、上記制約の結果である。
上記制約を満たすには、上記走査を、例えば、ラスター走査とすればよい。より具体的には、上記ファラデーカップ吸収電流信号を取得および蓄積しながらISaをISa0-ISawからISa0+ISawまで変化させた後に、ISaをISa0-ISawに戻すとともにISbを小さなステップだけ増加させることを、ISb0-ISbwからISb0+ISbwまでの区間で続ければよい。その過程においては、ISaとISbを、互いに置き換えてもよい。そうして得られる画像は、横軸方向に2ISaw、縦軸方向に2ISbwの大きさを持ち、自身の中心の横軸および縦軸座標をそれぞれISa0およびISb0とする。ここで、ISa0およびISb0は、上記走査を開始する直前のISaおよびISb、即ちISaおよびISbに対して定義される第0のアライメント信号を表し、ISawおよびISbwは、上記走査時におけるISaおよびISbの変化幅(片側)を表す。
上記位置ずれ、即ちブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれは、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれと等価である。その位置ずれの横軸および縦軸成分をそれぞれJSaおよびJSbとし、第0のアライメント条件下におけるJSaおよびJSbをそれぞれJSa0およびJSb0とし、第0のアライメント条件下における領域17Bの中心の横軸および縦軸座標をそれぞれISaR0およびISbR0とすれば、JSa0およびJSb0は、それぞれ(96)および(97)式で表せる。
Sa0=ISa0-ISaR0 (96)
Sb0=ISb0-ISbR0 (97)
(96)および(97)式より、位置ずれJSa0およびJSb0を零とするには、ISa0およびISb0を、(98)式に示す通りに更新すればよい。
Figure 0007200062000031
この更新は、画像17Aの取得の際に電子ビーム1が領域17Bの中心の通過した瞬間を、後に再現することに他ならない。従って、ISa0’ およびISb0’の決定に必要なのは、結局は、ISaR0およびISbR0のみ、即ち、領域17Bの中心の横軸および縦軸座標のみである。
ここで、領域17Bの中心の横軸座標ISaR0および縦軸座標ISbR0は、それぞれ、例えば、画像17Aを構成する画素の強度(絶対値)が最大となる横軸および縦軸座標とすればよい。または、それぞれ、その画素の強度を重みとする、横軸および縦軸座標の加重平均とすればよい。
以上の要領により、位置ずれJSa0(=ISa0-ISaR0)およびJSb0(=ISb0-ISbR0)が零、即ちブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれが零となる。即ち、その位置ずれを零とするISaおよびISbが決定される。
次に、ILaおよびILbの決定は、(99)式による。
Figure 0007200062000032
(99)式は、(100)および(101)式、即ち(102)式から導出できる。(100)および(101)式、即ち(102)式は、アライナ18Uおよび18Lが連動比rS21およびrL21に基づき制御される条件下におけるXY差DおよびDを表す。ただし、(99)式の導出は、ILaおよびILbはISaおよびISbのいずれとも独立に変化させることを前提とする。
=DOA+dASaSa+dASbSb+dALaLa+dALbLb (100)
=DOB+dBSaSa+dBSbSb+dBLaLa+dBLbLb (101)
Figure 0007200062000033
(99)式において、ILa0およびILb0は、ILaおよびILbに対して定義される第0のアライメント信号をそれぞれ表す。ILa0’およびILb0’は、DA0およびDB0を零(DA0’およびDB0’)とすべく更新されるILa0およびILb0をそれぞれ表す。
(99)~(102)式中の係数dALa(DのILaによる偏微分)、dALb(DのILbによる偏微分)、dBLa(DのILaによる偏微分)、およびdBLb(DのILbによる偏微分)は、DおよびDのILaおよびILbに関する偏微分係数であり、ILaおよびILbに原因するXY差に関する係数を表す。これら係数の決定は、(8)~(11)式の表す係数dAa、dAb、dBa、およびdBbを決定する手順(実施例1を参照)と同様の手順による。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、IおよびIではなく、ILaおよびILbに対して定義する。即ち、第0、第1、および第2のアライメント信号を、IanおよびIbnではなく、ILanおよびILbn(いずれにおいてもn=0、1、または2)とする。
一方、(100)~(102)式中の係数dASa、dASb、dBSa、およびdBSbは、DおよびDのISaおよびISbに関する偏微分係数であり、ISaおよびISbに原因するXY差に関する係数を表す。これら係数は(99)式中に現れないため、これら係数の決定は不要である。ここで、これら係数が(99)式に現れないのは、ILa0およびILb0の更新中、ISa0およびISb0は固定されることによる。
ただし、(99)式に基づき決定されたILa0’およびILb0’をアライナ18に入力しても、DA0およびDB0は完全に零とはならない可能性、即ちナイフエッジ20上のコマ収差は完全に零とはならない可能性がある。このことは、係数dALa、dALb、dBLa、およびdBLbに含まれる誤差に原因する。さらには、そのILa0’およびILb0’をアライナ18に入力した際に、ブランキング開口板17の開口からの電子ビーム1の位置ずれが変化する可能性もある。このことは、連動比rL21に含まれる誤差に原因しうるが、より本質的には、ブランキング開口板17の開口からの電子ビーム1の位置ずれを変化させずにナイフエッジ20上のコマ収差を変化させるためのアライナ18Uとアライナ18Lの連動比が簡単にrL21だけで表されていることに原因する。即ち、その位置ずれの変化を完全に零にするには、これらアライナの連動比を、アライナ18U(または18L)のX偏向用コイルとアライナ18L(または18U)のX偏向用およびY偏向用コイルとの間、そしてアライナ18U(または18L)のY偏向用コイルとアライナ18L(または18U)のX偏向用およびY偏向用コイルとの間で、個別に定義する必要がある。その詳細は、後述する(実施例8を参照)。
これらのようなことが問題となる場合は、JSa0およびJSb0を零とするISa0およびISb0の更新およびそれらのアライナ18への入力と、DA0およびDB0を零とするILa0およびILb0の更新およびそれらのアライナ18への入力を、交互に繰り返せばよい。そうすれば、JSa0およびJSb0とDA0およびDB0との両方が、零に収束する。
その際は、ISaおよびISb、そしてILaおよびILbを、それぞれ、(98’)および(99’)式に従わせる。
Figure 0007200062000034
(98’)式において、ISa0 (m)およびISb0 (m)は、m(≧1)回目に更新されるISa0およびISb0をそれぞれ表し、ISaR0 (m-1)およびISbR0 (m-1)は、ISa0 (m-1)およびISb0 (m-1)をアライナ18に入力して得られるISaR0およびISbR0をそれぞれ表す。(99’)式において、ILa0 (m)およびILb0 (m)は、m回目に更新されるILa0およびILb0をそれぞれ表し、DA0 (m-1)およびDB0 (m-1)は、ILa0 (m-1)およびILb0 (m-1)をアライナ18に入力して得られるDA0およびDB0をそれぞれ表す。即ち、(98’)および(99’)式は、(98)および(99)式をそれぞれ一般化したものである。
以上で説明したように、本実施例では、ナイフエッジ20上のコマ収差と、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれが、ともに補正される。これらの補正は、先述のように、合計2段のアライナ(アライナ18Uおよび18L)のそれぞれにより、互いに線形独立な2方向に電子ビーム1が偏向され、従って電子ビーム1のアライメントに関する自由度が合計4つあることに基づく。
補足すれば、本実施例では、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零にすべく、画像17Aから領域17Bの中心の座標を抽出したが、もし別の開口板がアライナ18Uおよび18Lより電子ビーム1の下流側にあれば、必要に応じて、その別の開口板の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零とすることも可能である。その際は、その別の開口板に対して画像17Aを取得し、それから領域17Bの中心の座標を抽出すればよい。
ただし、本実施例では、アライナの段数が合計2段(アライナ18Uおよび18L)であり、かつ補正対象の数が合計2つ(ナイフエッジ20上のコマ収差、およびブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ)である。そのため、ナイフエッジ20上のコマ収差の補正を前提とすれば、ブランキング開口板17および上記のような別の開口板の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれの補正は、1つの高さ位置においてのみ可能である。
ブランキング開口板17およびその他の開口板の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれの補正を、2つ以上の高さ位置において可能とするには、電子ビーム1のアライメントに関する自由度を増やすべく、アライナの段数を増やせばよい。ただし、アライナの段数を増やす際は、制御の冗長性に注意する必要がある。例えば、アライナの段数を合計3段以上としてナイフエッジ20上のコマ収差の補正を実施するが、上記位置ずれの補正を1つの高さ位置においてのみ実施するような場合は、補正対象の数よりアライナの段数が多くなる。即ち、電子ビーム1のアライメントに関する自由度が大きくなりすぎる。従って、そのような場合には、制御の冗長性を解消する必要が生じる。そうするには、合計3段以上のうちの1段を用いず、2段のみを用いることか、あるいは、合計3段以上のうちのいくつかを連動させることで、電子ビーム1のアライメントに関する自由度を、2つに減らせばよい。
(実施例8)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例8として、以下に説明する。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、基本的に、実施例1~実施例5、および実施例7の可変成形電子ビーム描画装置と、構成を同じくする。
本実施例の装置の動作は、基本的に、実施例7の装置の動作と同様とする。ただし、本実施例では、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ、ナイフエッジ20上のコマ収差、またはこれら両方の零への収束を早めるべく、電子ビーム1のアライメントに関する合計4つの自由度を、より積極的に活用する。
具体的には、ナイフエッジ20上のコマ収差(XY差DおよびD)を変化させるアライメントにおいてブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ(位置ずれJSaおよびJSbと等価)を変化させないことを、または、そのことと、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させるアライメントにおいてナイフエッジ20上のコマ収差を変化させないこととの両方を、図る。
即ち、本実施例では、上記位置ずれを変化させずに上記コマ収差を変化させるアライメントと、上記コマ収差を度外視しつつ上記位置ずれを変化させるアライメントとの組み合わせ、または、上記位置ずれを変化させずに上記コマ収差を変化させるアライメントと、上記コマ収差を変化させずに上記位置ずれを変化させるアライメントとの組み合わせを、実施する。上記コマ収差を変化させるアライメントにおいて上記位置ずれを変化させないことは、実施例7にも通ずるが、本実施例では、そのことの徹底を図る。
上記アライメントのため、本実施例では、アライメント信号I1a、I1b、I2a、およびI2bを(92)~(95)式(実施例7を参照)に従わせることにより発生する不要な位置ずれ成分、不要なコマ収差成分、またはこれら両方を、別の新たな成分により打ち消す。ここで、不要な位置ずれ成分とは、上記位置ずれを構成する成分のうち、ILaおよびILbに原因する成分を指す。不要なコマ収差成分とは、上記コマ収差を構成する成分のうち、ISaおよびISbに原因する成分を指す。別の新たな成分とは、I2bおよびI2aの新たな増減により発生する上記位置ずれ、コマ収差、またはこれら両方を指す。言い換えれば、本実施例は、実施例7と、アライメント信号I1a、I1b、I2a、およびI2bを従わせる式を異にする。
上記不要な位置ずれ成分、即ちILaおよびILbに原因する位置ずれ成分を低減するには、I1aおよびI1bを(92)および(93)式に従わせ、I2aおよびI2bを、(103)および(104)式に従わせればよい。
2a=rS21Sa+rL2a1aLa+rL2a1bLb (103)
2b=rS21Sb+rL2b1aLa+rL2b1bLb (104)
(103)および(104)式右辺は、ILbおよびILaに原因する位置ずれを打ち消すための項(rL2a1bLbおよびrL2b1aLa)を含む。(103)および(104)式において、rL2a1a(I2aのI1aによる偏微分)、rL2a1b(I2aのI1bによる偏微分)、rL2b1a(I2bのI1aによる偏微分)、およびrL2b1b(I2bのI1bによる偏微分)は、いずれも、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させずにナイフエッジ20上のコマ収差(XY差DおよびD)を変化させる連動比であり、それぞれ、アライナ18UのX偏向用コイルとアライナ18LのX偏向用コイルの連動比、アライナ18UのY偏向用コイルとアライナ18LのX偏向用コイルの連動比、アライナ18UのX偏向用コイルとアライナ18LのY偏向用コイルの連動比、およびアライナ18UのY偏向用コイルとアライナ18LのY偏向用コイルの連動比を表す。
(92)、(93)、(103)、および(104)式から分かるように、本実施例でも、ISaおよびISbと、ILaおよびILbとが決定されれば、アライメント信号I1a、I1b、I2a、およびI2bがいずれも一意に決定される。ISa、ISb、ILa、およびILbの決定は、本実施例においても、(98’)および(99’)式によればよい。ただし、(99’)式中の係数dALa、dALb、dBLa、およびdBLbの値が、本実施例と実施例7の間で若干異なる。これは、I2aおよびI2bが従う式が、本実施例((103)および(104)式)と、実施例7((94)および(95)式)の間で、若干異なることによる。
連動比rL2a1a、rL2a1b、rL2b1a、およびrL2b1b、即ちブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させずにナイフエッジ20上のコマ収差を変化させる連動比は、アライメント信号I1aおよびI1bと、画像17Aから抽出される領域17Bの中心の座標との関係から決定できる。その詳細を、以下に示す。
まず、これらの決定の直前におけるアライメント条件を第0のアライメント条件とし、第0のアライメント条件下におけるアライメント信号I1aおよびI1bを、それぞれ、第0のアライメント信号I1a0およびI1b0とする。そして、先述の要領(実施例7を参照)により、画像17Aを取得する。ただし、画像17Aの取得のために互いに独立に変化させるアライメント信号は、ISaおよびISbではなく、I2aおよびI2bとする。そして、画像17Aから、領域17Bの中心の横軸および縦軸座標を抽出し、これらをそれぞれI2aR0およびI2bR0とする。これらは、第0のアライメント条件下においてブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零とするI2aおよびI2bに相当する。
次に、I1aに変化量を与え、その際のアライメント条件を第1のアライメント条件とし、第1のアライメント条件下におけるアライメント信号I1aおよびI1bを、それぞれ、第1のアライメント信号I1a1およびI1b1(=I1b0)とし、同様に画像17A’(図示せず)を取得する。そして、画像17A’から、領域17B’(ブランキング開口板17の開口に相当する)の中心の横軸および縦軸座標を抽出し、これらをそれぞれI2aR1およびI2bR1とする。これらは、第1のアライメント条件下においてブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零とするI2aおよびI2bに相当する。
次に、I1bに変化量を与え、その際のアライメント条件を第2のアライメント条件とし、第2のアライメント条件下におけるアライメント信号I1aおよびI1bを、それぞれ、第2のアライメント信号I1a2(=I1a0)およびI1b2とし、同様に画像17A’’(図示せず)を取得する。そして、画像17A’’から、領域17B’’(ブランキング開口板17の開口に相当する)の中心の横軸および縦軸座標を抽出し、これらをそれぞれI2aR2およびI2bR2とする。これらは、第2のアライメント条件下においてブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零とするI2aおよびI2bに相当する。
最後に、上記過程における、アライメント信号の変化量と上記位置ずれを零とするI2aおよびI2bの変化量とから、連動比rL2a1a、rL2a1b、rL2b1a、およびrL2b1bを求める。これらは、それぞれ、(105)~(108)式で与えられる。
Figure 0007200062000035
連動比rL2a1a、rL2a1b、rL2b1a、およびrL2b1b、即ちブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させずにナイフエッジ20上のコマ収差を変化させる連動比は、画像17Aの取得のために互いに独立に変化させるアライメント信号を、I2aおよびI2bではなく、I1aおよびI1bとしても求められる。そうするには、アライメント信号I1a、I1b、I2a、およびI2bと、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれ(ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれと等価)との関係を利用する。その詳細を、以下に示す。
上記関係は、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれの横軸および縦軸成分をそれぞれJ1aおよびJ1bと置けば、(109)および(110)式で表せる。
1a=JO1a+j1a1a1a+j1a1b1b+j1a2a2a+j1a2b2b
(109)
1b=JO1b+j1b1a1a+j1b1b1b+j1b2a2a+j1b2b2b
(110)
(109)および(110)式において、JO1aおよびJO1bは、アライメント信号の全成分が零である条件下における上記位置ずれの横軸および縦軸成分をそれぞれ表す。j1a1a(J1aのI1aによる偏微分)、j1a1b(J1aのI1bによる偏微分)、j1a2a(J1aのI2aによる偏微分)、j1a2b(J1aのI2bによる偏微分)、j1b1a(J1bのI1aによる偏微分)、j1b1b(J1bのI1bによる偏微分)、j1b2a(J1bのI2aによる偏微分)、およびj1b2b(J1bのI2bによる偏微分)は、いずれも、上記位置ずれに関する偏向感度(ブランキング開口板17の高さ位置における、単位印加電流当たりの偏向量)を表す。
(109)および(110)式から、J1aおよびJ1bの全微分が得られる。それらは、(111)および(112)式の通りである。
ΔJ1a=j1a1aΔI1a+j1a1bΔI1b+j1a2aΔI2a+j1a2bΔI2b
(111)
ΔJ1b=j1b1aΔI1a+j1b1bΔI1b+j1b2aΔI2a+j1b2bΔI2b
(112)
本実施例においてブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させずにナイフエッジ20上のコマ収差を変化させることは、ΔJ1aおよびΔJ1bをともに零としつつ、アライメント信号I1a、I1b、I2a、およびI2bを変化させることに相当する。ΔJ1aおよびΔJ1bがともに零であれば、(111)および(112)式から、(113)および(114)式が成立する。
0=ΔI1a+j1a2aΔI2a+j1a2bΔI2b (113)
0=ΔI1b+j1b2aΔI2a+j1b2bΔI2b (114)
ただし、(113)および(114)式の導出に、(115)~(118)式が成立することを用いた。(115)~(118)式の成立は、画像17Aは先述のようにアライメント信号I1aおよびI1bを互いに独立に変化させて取得され、従って画像17Aの横軸および縦軸がそれぞれI1aおよびI1bを表すことに基づく。
Figure 0007200062000036
(113)および(114)式の両辺をΔI1aで除せば、(119)および(120)式が得られる。(119)および(120)式中のrL2a1a(=ΔI2a/ΔI1a)およびrL2b1a(=ΔI2b/ΔI1a)は、(105)式で表されたrL2a1aおよび(107)式で表されたrL2b1aにそれぞれ一致する。
0=1+j1a2aL2a1a+j1a2bL2b1a (119)
0=j1b2aL2a1a+j1b2bL2b1a (120)
次に、(113)および(114)式の両辺をΔI1bで除せば、(121)および(122)式が得られる。(121)および(122)式中のrL2a1b(=ΔI2a/ΔI1b)およびrL2b1b(=ΔI2b/ΔI1b)は、(106)式で表されたrL2a1bおよび(108)式で表されたrL2b1bにそれぞれ一致する。
0=j1a2aL2a1b+j1a2bL2b1b (121)
0=1+j1b2aL2a1b+j1b2bL2b1b (122)
ただし、(120)および(121)式は、ΔI1b/ΔI1a=0およびΔI1a/ΔI1b=0を前提とする。ここで、ΔI1b/ΔI1aおよびΔI1a/ΔI1bは、それぞれ、I1bのI1aによる偏微分、およびI1aのI1bによる偏微分と見なす。即ち、I1aおよびI1bは、先述のように、互いに独立に変化させる。
(119)~(122)式から、(123)および(124)式が得られる。即ち、連動比rL2a1a、rL2b1a、rL2a1b、およびrL2b1bは、(123)および(124)式から求められる。
Figure 0007200062000037
偏向感度j1a2a、j1a2b、j1b2a、およびj1b2bは、アライメント信号I2aおよびI2bと、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれJ1aおよびJ1bとの関係から決定できる。その詳細を、以下に示す。
まず、偏向感度j1a2a、j1a2b、j1b2a、およびj1b2bの決定の直前におけるアライメント条件を第0のアライメント条件とし、第0のアライメント条件下におけるアライメント信号I2aおよびI2bを、それぞれ、第0のアライメント信号I2a0およびI2b0とする。そして、先述の要領(実施例7を参照)により、画像17Aを取得する。ただし、画像17Aの取得のために互いに独立に変化させるアライメント信号は、I1aおよびI1bとする。そして、画像17Aから、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれの横軸および縦軸成分を抽出し、これらをそれぞれJ1a0およびJ1b0とする。
次に、I2aに変化量を与え、その際のアライメント条件を第1のアライメント条件とし、第1のアライメント条件下におけるアライメント信号I2aおよびI2bを、それぞれ、第1のアライメント信号I2a1およびI2b1(=I2b0)とする。そして、同様に画像17A’(図示せず)を取得する。そして、画像17A’から、領域17B’の中心からの画像17A’の中心の位置ずれの横軸および縦軸成分を抽出し、これらをそれぞれJ1a1およびJ1b1とする。
次に、I2bに変化量を与え、その際のアライメント条件を第2のアライメント条件とし、第2のアライメント条件下におけるアライメント信号I2aおよびI2bを、それぞれ、第2のアライメント信号I2a2(=I2a0)およびI2b2とする。そして、同様に画像17A’’(図示せず)を取得する。そして、画像17A’’から、領域17B’’の中心からの画像17A’’の中心の位置ずれの横軸および縦軸成分を抽出し、これらをそれぞれJ1a2およびJ1b2とする。
最後に、上記過程における、アライメント信号の変化量と上記位置ずれの変化量から、偏向感度j1a2a、j1a2b、j1b2a、およびj1b2bを求める。これらは、それぞれ(125)~(128)式で与えられる。
Figure 0007200062000038
(125)~(128)式において、ΔI2aおよびΔI2bはそれぞれI2aおよびI2bの変化量I2ap-I2a0およびI2bp-I2b0(いずれにおいてもp=1または2)を表す。ΔJ1aおよびΔJ1bはそれぞれJ1aおよびJ1bの変化量J1ap-J1a0およびJ1bp-J1b0(いずれにおいてもp=1または2)を表す。
ΔJ1aおよびΔJ1bは、また、それぞれ(129)および(130)式で求めてもよい。(129)および(130)式において、I1aRおよびI1bRは、領域17Bの中心の横軸および縦軸座標をそれぞれ表す。ΔI1aRおよびΔI1bRは、I1aRおよびI1bRの変化量、具体的には、領域17Bの中心の横軸および縦軸座標からの領域17B’または領域17B’’の中心の横軸および縦軸座標の差を、それぞれ表す。
ΔJ1a=-ΔI1aR (129)
ΔJ1b=-ΔI1bR (130)
ΔJ1aおよびΔJ1bがそれぞれ(129)および(130)式で表せるのは、第一に、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれ(J1aおよびJ1b)が、画像17Aの中心からの領域17Bの中心の位置ずれと、大きさ(絶対値)を等しく、向きを逆にすることと、第二に、上記過程において、画像17Aの中心からの領域17Bの中心の位置ずれの変化は、領域17Bの座標(I1aRおよびI1bR)の変化に等しいことによる。
一方、先述の不要なコマ収差成分、即ちISaおよびISbに原因するXY差を低減するには、I1a、I1b、I2a、およびI2bを、(131)~(134)式に従わせればよい。
1a=IKa+ILa (131)
1b=IKb+ILb (132)
2a=rK2a1aKa+rK2a1bKb+rL21La (133)
2b=rK2b1aKa+rK2b1bKb+rL21Lb (134)
そうするだけでも、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させずにナイフエッジ20上のコマ収差を変化させるアライメントと、ナイフエッジ20上のコマ収差を変化させずにその位置ずれを変化させるアライメントの両方が可能となる。しかし、そのうえで、先述の不要な位置ずれ成分、即ちILaおよびILbに原因する位置ずれ成分の低減を推し進めれば、先述の不要なコマ収差成分および位置ずれ成分の両方の低減が徹底する。そうするには、I1aおよびI1bを(131)および(132)式に従わせ、I2aおよびI2bを(135)および(136)式に従わせればよい。
2a=rK2a1aKa+rK2a1bKb+rL2a1aLa+rL2a1bLb (135)
2b=rK2b1aKa+rK2b1bKb+rL2b1aLa+rL2b1bLb (136)
(133)~(136)式右辺は、先述の不要なコマ収差成分、即ちISbおよびISaに原因するコマ収差成分を打ち消すための項(rK2a1bKbおよびrK2b1aKa)を含む。ただし、(131)~(136)式において、ISaおよびISbは、それぞれIKaおよびIKbに書き変えられている。IKaおよびIKbは、ナイフエッジ20上のコマ収差(XY差DおよびD)を変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。
KaおよびIKbは、ISaおよびISbと、上記位置ずれを変化させるという点では同じであるが、(103)および(104)式と(133)~(136)式とを見比べれば分かるように、IKaおよびIKbは、ISaおよびISbと、アライナ18Uおよび18Lの連動比を異にする。
より具体的には、(103)および(104)式中の連動比rS21((22)式を参照)は、先述(実施例1および実施例7を参照)のように、アライナ18の偏向支点を第2の成形開口板7の高さ位置に一致させる連動比であり、アライナ18Uおよび18LのX偏向用コイルとY偏向用コイルの両方に共通であった。
これに対して、(133)~(136)式中の連動比rK2a1a(I2aのI1aによる偏微分)、rK2a1b(I2aのI1bによる偏微分)、rK2b1a(I2bのI1aによる偏微分)、およびrK2b1b(I2bのI1bによる偏微分)は、いずれも、ナイフエッジ20上のコマ収差を変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させる連動比であり、それぞれ、アライナ18UのX偏向用コイルとアライナ18LのX偏向用コイルの連動比、アライナ18UのY偏向用コイルとアライナ18LのX偏向用コイルの連動比、アライナ18UのX偏向用コイルとアライナ18LのY偏向用コイルの連動比、およびアライナ18UのY偏向用コイルとアライナ18LのY偏向用コイルの連動比を表す。
KaおよびIKb、即ち、ナイフエッジ20上のコマ収差を変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させるアライメント信号の決定は、(98’)式によればよい。ただし、その際は、(98’)式において、ISa0 (m)およびISb0 (m)をそれぞれIKa0 (m)およびIKb0 (m)に読み替え、ISaR0 (m-1)およびISbR0 (m-1)をそれぞれIKaR0 (m-1)およびIKbR0 (m-1)に読み替える。ここで、IKa0 (m)およびIKb0 (m)は、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零とすべくm回目に更新されるIKa0およびIKb0をそれぞれ表し、IKa0およびIKb0は、IKaおよびIKbに対して定義される第0のアライメント信号をそれぞれ表す。IKaR0 (m-1)およびIKbR0 (m-1)は、IKa0 (m-1)およびIKb0 (m-1)をアライナ18に入力して得られるIKaR0およびIKbR0をそれぞれ表し、IKaR0およびIKbR0は、第0のアライメント条件下における領域17Bの中心の横軸および縦軸座標をそれぞれ表す。即ち、IKaおよびIKbの決定は、(137)式による。
Figure 0007200062000039
LaおよびILb、即ち、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させずにナイフエッジ20上のコマ収差を変化させるアライメント信号の決定は、本実施例においても、(99’)式によればよい。ただし、その際は、(99’)式中の係数dALa、dALb、dBLa、およびdBLbの値を改める必要がある。これは、I2aおよびI2bが従う式が、本実施例((133)および(134)式、または(135)および(136)式)と、実施例7((94)および(95)式)の間で異なることによる。
補足すれば、本実施例におけるXY差DおよびDは、(138)および(139)式で表せる。
=DOA+dALaLa+dALbLb (138)
=DOB+dBLaLa+dBLbLb (139)
(138)および(139)式から分かるように、DおよびDは、IKaおよびIKbのいずれにも依存しない。即ち、連動比rK2a1a、rK2a1b、rK2b1a、およびrK2b1bは、IKaおよびIKbによるXY差の変化を妨げる。
連動比rK2a1a、rK2a1b、rK2b1a、およびrK2b1b、即ち、ナイフエッジ20上のコマ収差を変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させる連動比は、アライメント信号I1a、I1b、I2a、およびI2bに原因するXY差DおよびDに関する係数から決定できる。その詳細を、以下に示す。
上記係数をdA1a(DのI1aによる偏微分)、dA1b(DのI1bによる偏微分)、dA2a(DのI2aによる偏微分)、dA2b(DのI2bによる偏微分)、dB1a(DのI1aによる偏微分)、dB1b(DのI1bによる偏微分)、dB2a(DのI2aによる偏微分)、およびdB2b(DのI2bによる偏微分)とすれば、XY差DおよびDは、これらを用いて、(140)および(141)式でそれぞれ表せる。
=DOA+dA1a1a+dA1b1b+dA2a2a+dA2b2b (140)
=DOB+dB1a1a+dB1b1b+dB2a2a+dB2b2b (141)
上記係数dA1a、dA1b、dA2a、dA2b、dB1a、dB1b、dB2a、およびdB2bは、(8)~(11)式の表すdAa、dAb、dBa、およびdBbを決定する手順(実施例1を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、これらのうちdA1a、dA1b、dB1aおよびdB1bを決定する際は、第0、第1、および第2のアライメント信号をI1aおよびI1bに対して定義し、dA2a、dA2b、dB2aおよびdB2bを決定する際は、第0、第1、および第2のアライメント信号をI2aおよびI2bに対して定義する。
(140)および(141)式から、DおよびDの全微分が得られる。それらは、(142)および(143)式の通りである。
ΔD=dA1aΔI1a+dA1bΔI1b+dA2aΔI2a+dA2bΔI2b (142)
ΔD=dB1aΔI1a+dB1bΔI1b+dB2aΔI2a+dB2bΔI2b (143)
本実施例においてナイフエッジ20上のコマ収差を変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させることは、ΔDおよびΔDをともに零としつつ、アライメント信号I1a、I1b、I2a、およびI2bを変化させることに相当する。ΔDおよびΔDがともに零であれば、(142)および(143)式より、(144)および(145)式が成立する。
0=dA1aΔI1a+dA1bΔI1b+dA2aΔI2a+dA2bΔI2b (144)
0=dB1aΔI1a+dB1bΔI1b+dB2aΔI2a+dB2bΔI2b (145)
(144)および(145)式の両辺をΔI1aで除せば、(146)および(147)式が得られる。
0=dA1a+dA2aK2a1a+dA2bK2b1a (146)
0=dB1a+dB2aK2a1a+dB2bK2b1a (147)
(144)および(145)式の両辺をΔI1bで除せば、(148)および(149)式が得られる。
0=dA1b+dA2aK2a1b+dA2bK2b1b (148)
0=dB1b+dB2aK2a1b+dB2bK2b1b (149)
(146)~(149)式中のrK2a1a(=ΔI2a/ΔI1a)、rK2b1a(=ΔI2b/ΔI1a)、rK2a1b(=ΔI2a/ΔI1b)、およびrK2b1b(=ΔI2b/ΔI1b)は、(133)~(136)式中のそれらに一致する。(146)および(147)式は、ΔI1b/ΔI1a=0を、(148)および(149)式は、ΔI1a/ΔI1b=0を前提とする。ここで、ΔI1b/ΔI1aおよびΔI1a/ΔI1bは、それぞれ、I1bのI1aによる偏微分、およびI1aのI1bによる偏微分と見なす。即ち、I1aおよびI1bは、先述のように、互いに独立に変化させる。
(146)~(149)式から、(150)および(151)式が得られる。即ち、連動比rK2a1a、rK2b1a、rK2a1b、およびrK2b1bは、(150)および(151)式から求められる。
Figure 0007200062000040
補足すれば、これら連動比は、(150’)および(151’)式によっても表せる。
Figure 0007200062000041
(150’)および(151’)式は、(150)および(151)式中のXY差に関する係数dA1a、dA1b、dA2a、dA2b、dB1a、dB1b、dB2a、およびdB2bを、それぞれ偏向コマ収差係数kA1a(KのI1aによる偏微分)、kA1b(KのI1bによる偏微分)、kA2a(KのI2aによる偏微分)、kA2b(KのI2bによる偏微分)、kB1a(KのI1aによる偏微分)、kB1b(KのI1bによる偏微分)、kB2a(KのI2aによる偏微分)、およびkB2b(KのI2bによる偏微分)に置き換えて得られる式である。ただし、これら偏向コマ収差係数は、本実施例では直接測定できない。本実施例で直接測定できるのは、XY差に関する係数dA1a、dA1b、dA2a、dA2b、dB1a、dB1b、dB2a、およびdB2bである。
以上で説明したように、本実施例では、ナイフエッジ20上のコマ収差を変化させるアライメントにおいて、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させないことを、または、そのことと、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させるアライメントにおいてナイフエッジ20上のコマ収差を変化させないこととの両方を、図る。これらアライメントのうち前者においてブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させないことは、実施例7にも通ずるが、本実施例では、そのことの徹底を図る。これらの工夫により、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ、ナイフエッジ20上のコマ収差、またはこれら両方の、零への収束が早まる。
ただし、アライナ18Uおよび18Lを、連動比rK2a1a、rK2a1b、rK2b1a、およびrK2b1bに基づき制御すると、その際のアライナ18の全体的な偏向感度が減少する。その結果、画像17Aから領域17Bの中心の座標IKaR0 (m-1)およびIKbR0 (m-1)が抽出できず、それゆえIKa0 (m)およびIKb0 (m)が決定できない事態が生じうる。これは、その偏向感度の減少とともに画像17Aが小さくなり、その結果、画像17Aに領域17Bが含まれなくなるか、または画像17Aの大きさが領域17Bの大きさより小さくなる可能性があることによる。このようなアライナ18の偏向感度の減少は、アライナ18Uの偏向感度を、アライナ18Lの偏向感度が打ち消すことによる。
上記偏向感度の減少が問題となる場合は、アライメント信号I2aおよびI2bは、上述したようにそれぞれ(133)および(134)式、または(135)および(136)式に従わせるが、I1aおよびI1bは、それぞれ(131)および(132)式ではなく、(152)および(153)式に従わせるようにすればよい。
1a=IKa+ILa+ITa (152)
1b=IKb+ILb+ITb (153)
(152)および(153)式において、ITaおよびITbは、画像17Aの取得に特化されたアライメント信号を表す。これらアライメント信号は、(133)~(136)、(152)、および(153)式から分かるように、アライナ18Uおよび18Lのうち、アライナ18Uのみに作用する。即ち、ブランキング開口板17の走査は、アライナ18Uのみによる。
このような工夫により、アライナ18Uの偏向感度がアライナ18Lの偏向感度により打ち消されることがなくなり、従って上記事態が回避できる。補足すれば、もしアライナ18Uによる電子ビーム1の偏向を補強すべく、アライナ18LにITaおよびITbに比例する成分を入力してこれらのアライナを連動させるならば、アライナ18の全体的な偏向感度が増し、上記事態の回避がより確実となる。
TaおよびITbにより画像17Aを取得すれば、画像17Aの横軸および縦軸は、それぞれITaおよびITbを表すようになる。そのうえで、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれ(ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれと等価)をJTaおよびJTbとすれば、JTaおよびJTbは、それぞれ(154)および(155)式で表せる。
Ta=JOTa+jTaKaKa+jTaKbKb (154)
Tb=JOTb+jTbKaKa+jTbKbKb (155)
ただし、(154)および(155)式は、I1aおよびI1bがそれぞれ(152)および(153)式に従うことと、I2aおよびI2bがそれぞれ(135)および(136)式に従うことを前提とする。(154)および(155)式において、JOTaおよびJOTbは、アライメント信号IKaおよびIKbがともに零である条件下におけるJTaおよびJTbをそれぞれ表す。jTaKa(JTaのIKaによる偏微分)、jTaKb(JTaのIKbによる偏微分)、jTbKa(JTbのIKaによる偏微分)、およびjTbKb(JTbのIKbによる偏微分)は、IKaおよびIKbに原因する上記位置ずれに関する偏向感度(ブランキング開口板17の高さ位置における、単位印加電流当たりの偏向量)を表す。
(154)および(155)式から分かるように、JTaおよびJTbは、ILaおよびILbのいずれにも依存しない。即ち、上記連動比rL2a1a、rL2a1b、rL2b1a、およびrL2b1bは、ILaおよびILbによる、ブランキング開口板17の開口からの電子ビーム1の位置ずれの発生を妨げる。
目的のIKaおよびIKb、即ち(154)および(155)式の表すJTaおよびJTbを零とするIKaおよびIKbは、(156)式で与えられる。
Figure 0007200062000042
(156)式は、(154)および(155)式から導出される。(156)式において、IKa0およびIKb0は、IKaおよびIKbに対して定義される第0のアライメント信号をそれぞれ表し、IKa0’およびIKb0’は、JTa0およびJTb0を零とすべく更新されるIKa0およびIKb0をそれぞれ表す。ここで、JTa0およびJTb0は、第0のアライメント条件下におけるJTaおよびJTbをそれぞれ表す。
(156)式を一般化すれば、(156)式は、(156’)式となる。
Figure 0007200062000043
(156’)式において、IKa0 (m)およびIKb0 (m)は、m回目に更新されるIKa0およびIKb0をそれぞれ表し、JTa0 (m-1)およびJTb0 (m-1)は、IKa0 (m-1)およびIKb0 (m-1)をアライナ18に入力して得られるJTa0およびJTb0をそれぞれ表す。偏向感度jTaKa、jTaKb、jTbKa、およびjTbKbの決定は、(125)~(128)式の表す偏向感度j1a2a、j1a2b、j1b2a、およびj1b2bを決定する手順と同様の手順による。ただしその際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、IKaおよびIKbに対して定義し、測定対象を、位置ずれJTaおよびJTbとする。
(実施例9)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例9として、以下に説明する。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、基本的に、実施例1~実施例5、実施例7、および実施例8の可変成形電子ビーム描画装置と、構成を同じくする。
本実施例の装置の動作は、ナイフエッジ20上のコマ収差に加え、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを補正するという点において、基本的に、実施例8の装置の動作と同様とする。これらの補正は、先述のように、合計2段のアライナ(アライナ18Uおよび18L)のそれぞれにより、互いに線形独立な2方向に電子ビーム1が偏向され、従って電子ビーム1のアライメントに関する自由度が合計4つあることに基づく。ただし、上記位置ずれの補正は、少なくとも1段のアライナがブランキング開口板17より電子ビーム1の上流側に配置されることを前提とする。
本実施例は、しかし、実施例8と、アライメント信号の決定および入力の方法を異にする。具体的には、本実施例では、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれ(J1a0およびJ1b0)とXY差(DA0およびDB0)をいずれも零とするアライメント信号(I1a0、I1b0、I2a0およびI2b0)の全てを一度に決定し、これらを一度にアライナ18(アライナ18Uおよび18L)に入力する。
これに対し、実施例8では、上記位置ずれを零とするアライメント信号(ISa0およびISb0、またはIKa0およびIKb0)の決定およびそれらのアライナ18への入力と、XY差(DA0およびDB0)を零とするアライメント信号(ILa0およびILb0)の決定およびそれらのアライナ18への入力とを、個別に行った。
より詳細には、本実施例では、J1a、J1b、D、およびDを、(157)式で表す。(157)式は、(109)、(110)、(140)、および(141)式を1つにまとめた式である。本実施例では、そして、J1a0、J1b0、DA0、およびDB0を全て零とするI1a0、I1b0、I2a0およびI2b0を、(158)式から決定する。
Figure 0007200062000044
(158)式は、(157)式から導出される。(158)式において、I1a0、I1b0、I2a0、およびI2b0は、I1a、I1b、I2a、およびI2bに対して定義される第0のアライメント信号をそれぞれ表す。J1a0およびJ1b0は、第0のアライメント条件下におけるJ1aおよびJ1bをそれぞれ表す。I1a0’、I1b0’、I2a0’、およびI2b0’は、J1a0、J1b0、DA0、およびDB0を全て零とすべく更新されるI1a0、I1b0、I2a0、およびI2b0をそれぞれ表す。
(158)式を一般化すれば、(158)式は、(158’)式となる。
Figure 0007200062000045
(158’)式において、I1a0 (m)、I1b0 (m)、I2a0 (m)、およびI2b0 (m)は、m回目に更新されるI1a0、I1b0、I2a0、およびI2b0をそれぞれ表す。J1a0 (m-1)、J1b0 (m-1)、DA0 (m-1)、およびDB0 (m-1)は、I1a0 (m-1)、I1b0 (m-1)、I2a0 (m-1)、およびI2b0 (m-1)をアライナ18に入力して得られるJ1a0、J1b0、DA0、およびDB0をそれぞれ表す。
(158’)式からI1a0 (m)、I1b0 (m)、I2a0 (m)、およびI2b0 (m)を求めることと、それらをアライナ18に入力することを交互に繰り返せば、J1a0、J1b0、DA0、およびDB0を全て零に収束させることができる。即ち、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ、およびナイフエッジ20上のコマ収差を、ともに零に収束させることができる。
(実施例10)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例10として、以下に説明する。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、基本的に、実施例1~実施例5、および実施例7~実施例9の可変成形電子ビーム描画装置と、構成を同じくする。即ち、本実施例における可変成形電子ビーム描画装置の光学系、測定系、および制御系の構成は、図1(または図12)に示した装置の光学系、測定系、および制御系の構成に同じとする。
本実施例においても、アライナ18Uは、図1に示すように、第2の成形開口板7の高さ位置付近に配置され、アライナ18Lは、縮小レンズ8の高さ位置付近に配置されるが、これらは、先述(実施例1を参照)のように、他の高さ位置に配置してもよい。例えば、これらのうちの一方を第2の成形開口板7とブランキング開口板17の間に配置し、もう一方を縮小レンズ8と対物レンズ9の間に配置するようにしてもよい。ただし、以降では、アライナ18Uは第2の成形開口板7の高さ位置付近に配置され、アライナ18Lは縮小レンズ8の高さ位置付近に配置されるものとする。
本実施例の装置の動作は、基本的に、実施例8の装置の動作と同様とするが、本実施例では、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれは度外視し、ナイフエッジ20上のコマ収差と軸外色収差とを補正する。これらの補正は、合計2段のアライナ(アライナ18Uおよび18L)のそれぞれにより、互いに線形独立な2方向に電子ビーム1が偏向され、従って電子ビーム1のアライメントに関する自由度が合計4つあることに基づく。ここで、ナイフエッジ20上のコマ収差および軸外色収差は、いずれも、互いに直交する2成分からなる。
これに対し、実施例8では、ナイフエッジ20上の軸外色収差は度外視し、ナイフエッジ20上のコマ収差と、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれとを補正した。そのため、そのコマ収差を補正した後、ナイフエッジ20上に、軸外色収差が残存した。言い換えれば、その補正の副作用として、ナイフエッジ20上の軸外色収差が発生または変化することを許した。
本実施例では、上記目的、即ち上記コマ収差と軸外色収差の補正のため、2種類のアライメントを実施する。具体的には、上記軸外色収差を変化させずに上記コマ収差を変化させるアライメントと、上記コマ収差を変化させずに上記軸外色収差を変化させるアライメントを実施する。言い換えれば、本実施例は、実施例8と、アライメント信号I1a、I1b、I2b、およびI2bを従わせる式を異にする。
以降で、本実施例のコマ収差および軸外色収差補正の詳細を説明する。ただし、まずはその前提として、ナイフエッジ20上の軸外色収差、その測定、そして上記2種類のアライメントを、順に説明する。
一般に、荷電粒子ビームの軸外色収差は、そのビームの加速電圧の変動に原因する成分と、そのビームに対するレンズおよびアライナ類の励磁電流の変動に原因する成分とから成る。これら成分は、そのアライナ類の励磁電流の変動に原因する成分を除けば、いずれも、そのビームの軌道に依存する。
ナイフエッジ20上の軸外色収差を表す収差図形を軸外色収差図形S(複素数)とすれば、Sは、図1の光学系における上記変動を用いて、(159)式に示すように表せる。
Figure 0007200062000046
(159)式において、Φは、電子ビーム1の加速電圧(軸上電位)を表し、ΔΦは、その変動を表す。I(1≦q≦Q)は、ナイフエッジ20上の軸外色収差を生みうるレンズおよびアライナ類の励磁電流を表し、ΔIは、それら励磁電流の変動を表す。従って、(159)式右辺第1および第2項は、それぞれ、電子ビーム1の加速電圧変動、およびそれらレンズおよびアライナ類の励磁電流変動に由来する軸外色収差成分に相当する。ここで、qは、ナイフエッジ20上の軸外色収差を生みうるレンズおよびアライナ類に与えられる番号を表し、Qは、それらレンズおよびアライナ類の最大個数を表す。本実施例においてナイフエッジ20上の軸外色収差を生みうるレンズおよびアライナ類は、具体的には、縮小レンズ8、対物レンズ9、アライナ18U、およびアライナ18Lである。従って、本実施例において、Qは4に等しい。HCΦおよびHCIq(ともに複素数)は、ともに、ナイフエッジ20上の軸外色収差に関する係数を表す。
軸外色収差図形S(ΔΦ,ΔI,ΔI,…,ΔI)は、ΔΦ0min≦ΔΦ≦ΔΦ0maxの範囲内の全てのΔΦ、およびΔIqmin≦ΔI≦ΔIqmax(1≦q≦Q)の範囲内の全てのΔIに対して定義される。ここで、ΔΦ0minおよびΔΦ0maxは、ΔΦの最小および最大値をそれぞれ表し、ΔIqminおよびΔIqmaxは、ΔIの最小および最大値をそれぞれ表す。
軸外色収差図形Sの例を、図17に示す。ただし、図17の軸外色収差図形Sは、便宜上、ΔΦ0min≦ΔΦ≦ΔΦ0maxかつΔI=0(1≦q≦Q)を前提とする。図17の軸外色収差図形Sは、より詳細には、HCΦの実部および虚部がともに正であるときの例である。
以降では、便宜上、(159)式を、(160)式に改める。(160)式において、I及びΔIは、全てのqに関するIおよびΔIの代表値をそれぞれ表す。ここで、全てのqに関するIおよびΔIは、IおよびΔIとの間に、(161)式に示す関係を持つ。これについては後述する。HCI(複素数)は、HCΦおよびHCIqと同様に、上記軸外色収差に関する係数である。HCIは、(162)式で与えられる。
(ΔΦ,ΔI)=HCΦ(ΔΦ/Φ)-HCI(2ΔI/I) (160)
ΔI/I=ΔI/I (161)
Figure 0007200062000047
軸外色収差図形S(ΔΦ,ΔI)の大きさは、(160)式から分かるように、係数HCΦおよびHCIに依存する。より具体的には、(160)式から分かるように、電子ビーム1の加速電圧変動に由来する軸外色収差成分は、HCΦに比例し、上記レンズおよびアライナ類の励磁電流変動に由来する軸外色収差成分は、HCIに比例する。そのため、係数HCΦおよびHCIは、ナイフエッジ20上の軸外色収差の指標となる。
係数HCΦおよびHCIは、上記レンズおよびアライナ類の磁場分布と、電子ビーム1に含まれる各主光線の軌道とに依存する。HCΦおよびHCIは、従って、上記レンズ類の磁場分布が不変のもとで、アライメント信号が零のときの、任意の高さ位置(例えば材料10およびナイフエッジ20の高さ位置)における上記各主光線の位置および傾きと、アライメント信号との関数として表せる。より具体的には、HCΦおよびHCIはともに、上記各主光線の位置および傾きとアライメント信号との線形結合の形式で表せる。即ち、HCΦおよびHCIはともに、上記各主光線の位置および傾き、さらにはアライメント信号と、これらのいずれにも依存しない係数(軸外色収差係数)との積の総和である。HCΦおよびHCIは、従って投影図形11内の位置に依存するが、以降では、投影図形11の大きさは十分に小さく、従ってHCΦおよびHCIは投影図形11内で一定と見なす。
加速電圧変動ΔΦは、より具体的には、電子ビーム1を生む電子銃(図示せず)の中に備えられた陰極に印加される電圧(対接地電圧)の変動とともに、電子ビーム1を構成する電子のエネルギー分散(速度分散)をも表しうる。これは、ある荷電粒子ビームを構成する荷電粒子のエネルギー(速度)はその荷電粒子ビームの加速電圧に換算できることによる。これを考慮すれば、加速電圧変動ΔΦは、時間の関数として、(163)式で表せる。
ΔΦ(t)=ΔΦ0C(t)+ΔΦ0E (163)
(163)式において、ΔΦ0C(t)は、上記陰極に印加される対接地電圧の変動(陰極電圧変動)を表し、tは、時間を表す。ΔΦ0Eは、電子ビーム1を構成する電子のエネルギー分散を加速電圧に換算したものを表す。ただし、便宜上、ΔΦ0Cの符号は、ΔΦの符号と同じとする。
励磁電流変動ΔIは、より具体的には、レンズ制御部24およびアライナ制御部23の出力電流の変動を表す。この変動も、加速電圧変動ΔΦと同様に、時間の関数として表せる。
上記変動および分散、即ち、陰極電圧変動ΔΦ0C、エネルギー分散ΔΦ0E、および励磁電流変動ΔIのうち、エネルギー分散ΔΦ0Eは電子ビーム1のぼけに寄与し、陰極電圧変動ΔΦ0Cおよび励磁電流変動ΔIは電子ビーム1の位置ずれに寄与する。ただし、もしΔΦ0CおよびΔIの変動速度が速く、それゆえ投影図形11の露光時間(多くの場合、1μs以下)内にこれらが大きく変動すれば、ΔΦ0CおよびΔIは、電子ビーム1の位置ずれよりも電子ビーム1のぼけに、より大きく寄与する。
本実施例の装置を含め、可変成形電子ビーム描画装置においては、多くの場合、陰極電圧変動ΔΦ0Cおよび励磁電流変動ΔIのいずれかまたは両方を故意に大きくしない限り、これらのいずれよりも、エネルギー分散ΔΦ0Eの方が大きい。そのため、ナイフエッジ20上の軸外色収差、即ち軸外色収差図形Sは、多くの場合、主にエネルギー分散ΔΦ0Eによる電子ビーム1のぼけとして表れる。従って、可変成形電子ビーム描画装置における軸外色収差図形Sは、多くの場合、電子ビーム1のぼけとして、(164)式で表して差し支えない。即ち、その収差図形は図17の収差図形と見なして差し支えない。(164)式において、ΔΦは、ΔΦ0Eに等しい。
=HCΦ(ΔΦ/Φ) (164)
ただし、本実施例の装置を含め、可変成形電子ビーム描画装置における軸外色収差の測定は、電子ビーム1のぼけとしての軸外色収差図形Sを、ナイフエッジ20またはその他の手段により測定することによるのではなく、陰極電圧変動ΔΦ0Cまたは励磁電流変動ΔIを故意に大きく発生させ、その変動による電子ビーム1の位置ずれとしての軸外色収差図形Sを、ナイフエッジ20またはその他の手段により測定することによる。この測定の目的は、Sの大きさの取得ではなく、HCΦあるいはHCIq(またはHCI)の大きさの取得である。この測定は、先述の、加速電圧またはレンズ励磁電流のウォブリングを利用した軸外色収差測定と原理を同じくする。
補足すれば、電子ビーム1のぼけとしての軸外色収差図形Sを、ナイフエッジ20またはその他の手段により測定することは、もとより現実的ではない。これは、軸外色収差図形Sによるぼけを、それ以外のぼけと区別して測定することが困難であることによる。ここで、軸外色収差図形Sによるぼけ以外のぼけは、先述の、ナイフエッジ20に由来する見かけ上のぼけ、即ち、電子ビーム1の流れる方向がナイフエッジ20のエッジ端面に対して成す角度(図26Aおよび図26Bを参照)に依存するぼけを含む。
本実施例における軸外色収差の測定は、より具体的には、電子ビーム1の加速電圧または縮小レンズ8、対物レンズ9、アライナ18U、およびアライナ18Lの励磁電流を変化、即ちΦ0CまたはI(1≦q≦Q)を変化させ、これらの変化に伴う投影図形11のX方向およびY方向の位置の変化を、ナイフエッジ法により評価することによる。その際、電子ビーム1により、ナイフエッジ20Xおよび20Yが、それぞれX方向およびY方向に走査され、そうして得られるファラデーカップ吸収電流信号の波形から、投影図形11のX方向およびY方向の位置が抽出される。
そのための測定系およびそれに対する制御は、従来の可変成形電子ビーム描画装置における測定系(図24を参照)およびそれに対する制御や、実施例1における測定系(図1を参照)およびそれに対する制御と、基本的に同じである。従って、ナイフエッジ20を、先述のように、電子反射体に置き換えてもよい。ただしその際は、電子反射体で反射される電子を、反射電子検出器(図示せず)で受け、それから得られる反射電子信号の波形を解析する。
補足すれば、本実施例の装置を含め、可変成形電子ビーム描画装置において、上記レンズおよびアライナ類の励磁電流として、対物レンズ9の励磁電流を変化させるのは一般的であるが、上述のように縮小レンズ8やアライナ18Uおよび18Lの励磁電流までをも変化させるのは、一般的ではない。ここで、もしアライナ18Uおよび18Lによる電子ビーム1の偏向量の絶対値が十分に小さければ、アライナ18Uおよび18Lによるナイフエッジ20上の軸外色収差も小さくなり、その分だけ、アライナ18Uおよび18Lの励磁電流を変化させる必要は低下する。さらには、もし縮小レンズ8の中心からの電子ビーム1の位置ずれも小さければ、縮小レンズ8の生むナイフエッジ20上の軸外色収差も小さくなり、その分だけ、縮小レンズ8の励磁電流を変化させる必要も低下する。
上記測定において電子ビーム1の加速電圧を変化させるには、電子ビーム1を発生する電子銃(図示せず)を電子銃制御部(図示せず)により制御する。より具体的には、その電子銃内の陰極に印加される対接地電圧を変化させる。
ただし、この電圧は、連続的に(滑らかに)ではなく、離散的に変化させる。即ち、電子銃制御部(図示せず)には、異なる複数の加速電圧からなるデータセットを与える。
上記測定において縮小レンズ8、対物レンズ9、アライナ18U、およびアライナ18Lの励磁電流を変化させるには、レンズ制御部24およびアライナ制御部23の出力電流を変化させる。その際は、これら励磁電流を、同時に同じ割合だけ変化させる。即ち、全てのqに関するΔIおよびIに、(161)式に示した制約を課す。
ただし、これら励磁電流は、連続的にではなく、離散的に変化させる。即ち、アライナ制御部23およびレンズ制御部24には、異なる複数の励磁電流値からなるデータセットを与える。
上述のように全てのqに関するΔIおよびIに(161)式による制約を課せば、(159)式は、(160)式に改められる。
(160)式は、さらに、(165)式に改められる。ただし、ここで、HCIは、HCΦとの間に(166)式の関係を持つ。
=HCΦ{(ΔΦ/Φ)-(2ΔI/I)} (165)
CI=HCΦ (166)
このことは、(167)式が成立すれば、(165)式の表すSは零になることを意味する。言い換えると、(168)式が成立すれば、電子ビーム1の加速電圧変動に由来する軸外色収差は、上記レンズおよびアライナ類の励磁電流変動に由来する軸外色収差に等しくなる。
ΔI/I=(ΔΦ/Φ)/2 (167)
ΔI/I=-(ΔΦ/Φ)/2 (168)
従って、上述のように全てのqに関するΔIおよびIに(161)式による制約を課せば、HCΦは、陰極電圧変動ΔΦ0Cからだけでなく、励磁電流変動ΔIからも求められる。同様に、HCIは、励磁電流変動ΔIからだけでなく、陰極電圧変動ΔΦ0Cからも求められる。ただし、ここで、ΔΦ0CはΔΦに等しい。
このことは、(168)式が成立すれば、(169)式を満たす解が、ΔΦおよびΔIのいずれに対しても、近似的に同じ変化を示すことを意味する。ここで、(169)式は、電子ビーム1を構成する光線の軌道に関する方程式(軌道方程式)であり、(169)式を満たす解は、それら光線の軌道を表す。
F(z,Φ,B,B
=du/dz-i(η/Φ 1/2){B(du/dz)+(dB/dz)u/2-B
=0 (169)
(169)式を満たす軌道の変化は、色収差に相当し、特に、(169)式を満たす軌道のうち主光線に対応する軌道の示す変化は、軸外色収差に相当する。(169)式において、u(複素数)は電子ビーム1を構成する光線の軌道、B(実数)は軸上レンズ磁場、B(複素数)は偏向磁場、η(={e/(2m)}1/2)は定数を表す。ここで、eは素電荷、mは電子質量を表す。以降では、(169)式を、便宜上、(170)式に置き換える。
F(z,Φ,I)
=du/dz-i(η/Φ 1/2){IC(du/dz)+I(dC/dz)u/2-IC} (170)
(169)式中のBおよびBと、(170)式中のI、C、およびCとの間には、(171)および(172)式で示される関係がある。
(z)=IC(z) (171)
(z)=IC(z) (172)
(168)式が成立すればΔΦおよびΔIのいずれに対しても上記解、即ち上記軌道が近似的に同じ変化を示すのは、(168)式が成立するとき、上記加速電圧をΦからΦ+ΔΦに変化させて得られる軌道方程式F(z,Φ+ΔΦ,I)と、上記励磁電流をIからI+ΔIに変化させて得られる軌道方程式F(z,Φ,I+ΔI)が、近似的に互いに等しくなること、即ち(173)式が近似的に成立することによる。
F(z,Φ+ΔΦ,I)=F(z,Φ,I+ΔI) (173)
(168)式が成立するときに(173)式が成立するのは、第一に、(173)式左辺および右辺が、(170)式より、近似的に、それぞれ(174)および(175)式で表せることと、第二に、(174)および(175)式は、(168)式が成立すれば、互いに等しくなることとによる。
F(z,Φ+ΔΦ,I)=du/dz
-i(η/Φ 1/2){IC(du/dz)+I(dC/dz)u/2-IC}{1-(ΔΦ/Φ)/2} (174)
F(z,Φ,I+ΔI)=du/dz
-i(η/Φ 1/2){IC(du/dz)+I(dC/dz)u/2-IC}(1+ΔI/I) (175)
以降では、便宜上、係数HCΦを、陰極電圧変動ΔΦ0Cからではなく、励磁電流変動ΔIから求めるものとする。即ち、陰極電圧は不変(加速電圧Φは不変)とし、そのうえで、縮小レンズ8、対物レンズ9、アライナ18U、およびアライナ18Lの励磁電流に、(161)式による制約を課す。そして、軸外色収差図形Sを、(176)式で表す。(176)式中の係数Hは、(177)式で記述できる。
=-H(2ΔI/I) (176)
=H+iH (177)
即ち、係数HCΦおよびHCIを、係数H(複素数)に統一する。(176)式の表すSは、(164)式の表す軸外色収差図形Sと、収差図形(図8を参照)の形を同じくする。
(177)式において、HおよびHは、Hの実部および虚部をそれぞれ表す。H、H、およびHは、HCΦおよびHCIと同様に、上記レンズおよびアライナ類の磁場分布と、電子ビーム1に含まれる主光線の軌道とに依存する係数であり、ナイフエッジ20上の軸外色収差の指標となる。
補足すれば、本実施例の装置を含め、可変成形電子ビーム描画装置においては、電子ビーム1の加速電圧を変化させることよりも、上記レンズおよびアライナ類の励磁電流を変化させることの方が容易であることが多い。これは、可変成形電子ビーム描画装置においては、固定された上記レンズおよびアライナ類の励磁電流に対して電子ビーム1の加速電圧を調節することではなく、固定された電子ビーム1の加速電圧に対して上記レンズおよびアライナ類の励磁電流を調節することが普通であることによる。
係数Hを決定するには、まず、(168)式による制約のもとで、IおよびΔIを、例えばそれぞれ対物レンズ9の励磁電流およびその変化とし、ΔIの値を変え、その値毎に、軸外色収差図形Sの実部および虚部を、それぞれナイフエッジ20Xおよび20Yにより測定する。その際、軸外色収差図形Sの実部および虚部は、それぞれ、投影図形11のX方向およびY方向の位置の変化として表れる。次に、異なる複数の値を持つΔIに対してプロットされたこれらの測定値に対する近似直線のそれぞれの勾配(1次係数)を求める。異なる複数の値を持つΔIに対して得られる軸外色収差図形Sの実部および虚部の例を、図18に示す。
上記実部および虚部は、ナイフエッジ20上の軸外色収差の直交2成分であり、それぞれ、(178)および(179)式で表せる。(178)および(179)式は、いずれも、(176)および(177)式から導出される。
Re(S)=-H(2ΔI/I)=(-2H/I)ΔI (178)
Im(S)=-H(2ΔI/I)=(-2H/I)ΔI (179)
(178)および(179)式から分かるように、上記実部および虚部に対する近似直線の勾配は、それぞれ、-2H/Iおよび-2H/Iに等しい。従って、これらをそれぞれ-2/Iで除せば、係数HおよびHが得られる。即ち、係数H(=H+iH)が決定できる。あるいは、上記勾配は必ずしも-2/Iで除さなくてもよい。即ち、上記勾配-2H/Iおよび-2H/Iそのものを、上記軸外色収差の指標としてもよい。
補足すれば、上記近似関数は、原理的には、上記実部および虚部の測定点数をそれぞれ最低2点とすれば求められる。しかし、これら測定点数をそれぞれ3点以上とすれば、ナイフエッジ法に由来する測定誤差の影響が軽減され、従って係数HおよびHの測定の信頼性が向上する。
係数H、H、およびHは、先述の依存性のため、アライメント信号次第で零となる。これら係数が零であれば、ΔΦおよびΔIのいずれにもよらず、上記軸外色収差は零となる。先述の、加速電圧またはレンズ励磁電流のウォブリングを利用したビームアライメントは、この原理に基づく。本実施例では、係数HおよびHを零とするアライメント信号とともに、XY差D及びDを零とするアライメント信号を決定する。
その説明のため、係数Hを、アライメント信号I1a、I1b、I2a、およびI2bの線形結合の形式で、(180)式で表す。
=HOC+hC1a1a+hC1b1b+hC2a2a+hC2b2b (180)
係数Hがこのように表せるのは、係数Hは、先述のように、アライメント信号が零のときの、任意の高さ位置における、電子ビーム1に含まれる各主光線の位置および傾きと、アライメント信号との線形結合の形式で表せることによる。(180)式において、HOC(複素数)は、アライメント信号の全成分が零のときにナイフエッジ20上に現れている軸外色収差に関する係数を表し、ナイフエッジ20の高さ位置における上記各主光線の位置と傾きに依存する。hC1a、hC1b、hC2a、およびhC2b(いずれも複素数)は、それぞれHのI1a、I1b、I2a、およびI2bに関する偏微分係数であり、それぞれI1a、I1b、I2a、およびI2bに原因するナイフエッジ20上の軸外色収差に関する係数を表す。HOC、hC1a、hC1b、hC2a、およびhC2bは,それぞれの実部および虚部を用いて、それぞれ(181)~(183)式で表せる(いずれにおいてもp=1または2)。
OC=HOA+iHOB (181)
Cpa=hApa+ihBpa (182)
Cpb=hApb+ihBpb (183)
(181)~(183)式を用いれば、(180)式は、(184)および(185)式で表せる。
=HOA+hA1a1a+hA1b1b+hA2a2a+hA2b2b (184)
=HOB+hB1a1a+hB1b1b+hB2a2a+hB2b2b (185)
(184)および(185)式から、HおよびHの全微分がそれぞれ得られる。それらは、(186)および(187)式の通りである。
ΔH=hA1aΔI1a+hA1bΔI1b+hA2aΔI2a+hA2bΔI2b (186)
ΔH=hB1aΔI1a+hB1bΔI1b+hB2aΔI2a+hB2bΔI2b (187)
係数hC1a、hC1b、hC2a、hC2b、hA1a、hA1b、hA2a、hA2b、hB1a、hB1b、hB2a、およびhB2bは、係数Hとは異なり、アライメント信号が零のときの、任意の高さ位置における上記各主光線の位置および傾きにも、アライメント信号にも、依存しない。以降では、係数hC1a、hC1b、hC2a、hC2b、hA1a、hA1b、hA2a、hA2b、hB1a、hB1b、hB2a、およびhB2bを、偏向色収差係数と称す。
本実施例で実施する2種類のアライメント、即ち、ナイフエッジ20上の軸外色収差を変化させずにそこに現れているコマ収差を変化させるアライメントと、ナイフエッジ20上のコマ収差を変化させずにそこに現れている軸外色収差を変化させるアライメントは、それぞれ、(186)および(187)式のΔHおよびΔHを零としつつXY差DおよびDを変化させるアライナ18Uと18Lの連動比と、(142)および(143)式(実施例8を参照)のΔDおよびΔDを零としつつ係数HおよびHを変化させるアライナ18Uと18Lの連動比に基づく。即ち、本実施例では、アライメント信号I1a、I1b、I2a、およびI2bを、(188)~(191)式に従わせる。
1a=IKa+IHa (188)
1b=IKb+IHb (189)
2a=rK2a1aKa+rK2a1bKb+rH2a1aHa+rH2a1bHb (190)
2b=rK2b1aKa+rK2b1bKb+rH2b1aHa+rH2b1bHb (191)
(188)~(191)式において、IKaおよびIKbは、上記コマ収差(XY差DおよびD)を変化させずに上記軸外色収差(係数HおよびH)を変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表し、IHaおよびIHbは、上記軸外色収差を変化させずに上記コマ収差を変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。rH2a1a(I2aのI1aによる偏微分)、rH2a1b(I2aのI1bによる偏微分)、rH2b1a(I2bのI1aによる偏微分)、およびrH2b1b(I2bのI1bによる偏微分)は、いずれも、上記軸外色収差を変化させずに上記コマ収差を変化させる連動比であり、それぞれ、アライナ18UのX偏向用コイルとアライナ18LのX偏向用コイルの連動比、アライナ18UのY偏向用コイルとアライナ18LのX偏向用コイルの連動比、アライナ18UのX偏向用コイルとアライナ18LのY偏向用コイルの連動比、およびアライナ18UのY偏向用コイルとアライナ18LのY偏向用コイルの連動比を表す。
連動比rH2a1a、rH2a1b、rH2b1a、およびrH2b1b、即ち、上記軸外色収差を変化させずに上記コマ収差を変化させる連動比は、(192)および(193)式で与えられる。
Figure 0007200062000048
(192)および(193)式は、それぞれ、(150)および(151)式中のXY差に関する係数dA1a、dA1b、dA2a、dA2b、dB1a、dB1b、dB2a、およびdB2b(実施例8を参照)を、偏向色収差係数hA1a、hA1b、hA2a、hA2b、hB1a、hB1b、hB2a、およびhB2bに置き換えて得られるものである。これら偏向色収差係数は、(150)および(151)式中の係数dA1a、dA1b、dA2a、dA2b、dB1a、dB1b、dB2a、およびdB2bを決定する手順(実施例8を参照)と同様の手順により決定できる。ただしその際は、測定対象を係数HおよびHとする。
連動比rK2a1a、rK2a1b、rK2b1a、およびrK2b1b、即ち、上記コマ収差を変化させずに上記軸外色収差を変化させる連動比は、本実施例においても、(150)および(151)式で与えられる。
上記連動比に基づきアライナ18Uおよび18Lを制御すれば、係数HおよびHは、(194)および(195)式でそれぞれ表せ、XY差DおよびDは、(196)および(197)式でそれぞれ表せる。
=HOA+hAKaKa+hAKbKb (194)
=HOB+hBKaKa+hBKbKb (195)
=DOA+dAHaHa+dAHbHb (196)
=DOB+dBHaHa+dBHbHb (197)
(194)および(195)式において、hAKa、hAKb、hBKa、およびhBKbは、IKaおよびIKbに原因するナイフエッジ20上の軸外色収差に関する偏向色収差係数を表す。これら偏向色収差係数は、(8)~(11)式の表す係数dAa、dAb、dBa、およびdBbを決定する手順(実施例1を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、IKaおよびIKbに対して定義し、さらに、測定対象を、係数HおよびHとする。(196)および(197)式において、dAHa、dAHb、dBHa、およびdBHbは、IHaおよびIHbに原因するXY差に関する係数を表す。これら係数も、(8)~(11)式の表す係数dAa、dAb、dBa、およびdBbを決定する手順(実施例1を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、IHaおよびIHbに対して定義する。
(194)および(195)式から、(198)式が得られ、(196)および(197)式から、(199)式が得られる。(198)式は、HA0およびHB0を零とするIKa0およびIKb0を与える式である。(199)式は、DA0およびDB0を零とするIHa0およびIHb0を与える式である。
Figure 0007200062000049
Figure 0007200062000050
(198)および(199)式において、HA0およびHB0は、第0のアライメント条件下におけるHおよびHをそれぞれ表す。IKa0およびIKb0は、IKaおよびIKbに対して定義される第0のアライメント信号をそれぞれ表し、IKa0’およびIKb0’は、HA0およびHB0を零とすべく更新されるIKa0およびIKb0をそれぞれ表す。IHa0およびIHb0は、IHaおよびIHbに対して定義される第0のアライメント信号をそれぞれ表し、IHa0’およびIHb0’は、DA0およびDB0を零とすべく更新されるIHa0およびIHb0をそれぞれ表す。
(198)および(199)式を一般化すれば、(198)および(199)式は、それぞれ(198’)および(199’)式となる。
Figure 0007200062000051
(198’)および(199’)式において、IKa0 (m)、IKb0 (m)、IHa0 (m)、およびIHb0 (m)は、m回目に更新されるIKa0、IKb0、IHa0、およびIHb0をそれぞれ表す。HA0 (m-1)およびHB0 (m-1)は、IKa0 (m-1)およびIKb0 (m-1)をアライナ18に入力して得られるHA0およびHB0をそれぞれ表す。DA0 (m-1)およびDB0 (m-1)は、IHa0 (m-1)およびIHb0 (m-1)をアライナ18に入力して得られるDA0およびDB0をそれぞれ表す。
(198’)式に基づくIKa0 (m)およびIKb0 (m)の決定およびそれらのアライナ18への入力と、(199’)式に基づくIHa0 (m)およびIHb0 (m)の決定およびそれらのアライナ18への入力を交互に繰り返せば、HA0、HB0、DA0、およびDB0を全て零に収束、即ちナイフエッジ20上の軸外色収差とコマ収差の両方を零に収束させることができる。即ち、ナイフエッジ20上の軸外色収差とコマ収差が、ともに補正される。
以上で説明したように、本実施例では、ナイフエッジ20上のコマ収差と軸外色収差が、ともに補正される。これらの補正は、合計2段のアライナ(アライナ18Uおよび18L)のそれぞれにより、互いに線形独立な2方向に電子ビーム1が偏向され、従って電子ビーム1のアライメントに関する自由度が合計4つあることに基づく。
補足すれば、本実施例では、上述の通り、合計2つの補正対象に対しアライナの段数を合計2段としたが、これを合計3段以上としてもよい。そのようにしても、上記コマ収差および軸外色収差の両方を補正することができる。ただし、その場合、補正対象の数よりアライナの段数が多くなるので、電子ビーム1のアライメントに関する自由度が大きくなりすぎる。従って、それによる冗長性を解消することが必要になる。そのためには、先述(実施例7を参照)のように、合計3段以上のうちの1段を用いず、2段のみを用いることか、あるいは、合計3段以上のうちのいくつかを連動させることで、問題の自由度を減らせばよい。
(実施例11)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例11として、以下に説明する。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、基本的に、実施例1~実施例5、および実施例7~実施例10の可変成形電子ビーム描画装置と、構成を同じくする。
本実施例は、ナイフエッジ20上のコマ収差と軸外色収差の両方を補正するという点において、基本的に、実施例10と動作を同じくする。これらの補正は、先述のように、合計2段のアライナ(アライナ18Uおよび18L)のそれぞれにより、互いに線形独立な2方向に電子ビーム1が偏向され、従って電子ビーム1のアライメントに関する自由度が合計4つあることに基づく。
本実施例は、しかし、実施例10と、アライメント信号の決定および入力の方法を異にする。具体的には、本実施例では、ナイフエッジ20上の軸外色収差に関する係数(HA0およびHB0)とXY差(DA0およびDB0)をいずれも零とするアライメント信号(I1a0、I1b0、I2a0、およびI2b0)の全てを一度に決定し、これらを一度にアライナ18(アライナ18Uおよび18L)に入力する。
これに対し、実施例10では、上記係数(HA0およびHB0)を零とするアライメント信号(IKa0およびIKb0)の決定およびそれらのアライナ18への入力と、XY差(DA0およびDB0)を零とするアライメント信号(IHa0およびIHb0)の決定およびそれらのアライナ18への入力とを、個別に行った。
より詳細には、本実施例では、H、H、D、およびDを、(200)式で表す。(200)式は、(184)、(185)、(140)、および(141)式を1つにまとめた式である。本実施例では、そして、HA0、HB0、DA0、およびDB0を全て零とするI1a0、I1b0、I2a0、およびI2b0を、(201)式から決定する。(201)式は、(200)式から導出される。
Figure 0007200062000052
(201)式を一般化すれば、(201)式は、(201’)式となる。
Figure 0007200062000053
(201’)式において、I1a0 (m)、I1b0 (m)、I2a0 (m)、およびI2b0 (m)は、m回目に更新されるI1a0、I1b0、I2a0、およびI2b0をそれぞれ表し、HA0 (m-1)、HB0 (m-1)、DA0 (m-1)、およびDB0 (m-1)は、I1a0 (m-1)、I1b0 (m-1)、I2a0 (m-1)、およびI2b0 (m-1)をアライナ18に入力して得られるHA0、HB0、DA0、およびDB0をそれぞれ表す。
(201’)式からI1a0 (m)、I1b0 (m)、I2a0 (m)、およびI2b0 (m)を求めることと、それらをアライナ18に入力することを交互に繰り返せば、HA0、HB0、DA0、およびDB0を全て零に収束させることができる。即ち、ナイフエッジ20上の軸外色収差およびコマ収差を、ともに零に収束させることができる。
(実施例12)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例12として、以下に説明する。その説明のため、本実施例の可変成形電子ビーム描画装置の光学系および制御系の構成を、図19に示す。ただし、図19において、第2の成形開口板7より電子ビーム1の上流側の光学系、およびアライナ制御部23以外の制御部は、省略している。図19には、便宜上、3回非点発生器30および3回非点発生器制御部31を含まない構成例を示した。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、基本的に、実施例1~実施例5、および実施例7~実施例11の可変成形電子ビーム描画装置と構成を同じくするが、本実施例では、アライナの段数の合計数が増える。より具体的には、本実施例では、アライナ18に加え、アライナ32が用いられる。
図19から分かるように、本実施例では、上記アライナのうち、アライナ18が第2の成形開口板7とブランキング開口板17の間に配置され、アライナ32が縮小レンズ8と対物レンズ9の間に配置される。アライナ18およびアライナ32の段数は、それぞれ2段および1段であり、従って、本実施例におけるアライナの段数は、合計3段となる。
これらのアライナの配置および段数は、しかし、上記に限定されない。例えば、アライナ18Uおよび18Lのうちの一方を、アライナ32とともに、縮小レンズ8と対物レンズ9の間に配置してもよいし、アライナ18およびアライナ32の段数をそれぞれ2段とし、アライナの段数を合計4段としてもよい。ただし、アライナの段数を4段以上とする場合は、先述の冗長性(実施例7および実施例10を参照)に注意する必要がある。以降では、アライナ18Uおよび18Lがともに第2の成形開口板7とブランキング開口板17の間に、アライナ32が縮小レンズ8と対物レンズ9の間に配置され、従ってアライナの段数が合計3段であるとの前提のもとで、議論を進める。
本実施例の装置の動作は、基本的に、実施例10の装置の動作と同様とするが、本実施例では、ナイフエッジ20上のコマ収差と軸外色収差を補正するだけでなく、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれをも補正する。従って、本実施例における補正対象の数は、合計3つである。これらの補正は、合計3段のアライナ(アライナ18U、18L、および32)のそれぞれにより、互いに線形独立な2方向に電子ビーム1が偏向され、従って電子ビーム1のアライメントに関する自由度が合計6つあることに基づく。ここで、ナイフエッジ20上のコマ収差、ナイフエッジ20上の軸外色収差、およびブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれは、いずれも、互いに直交する2成分からなる。ただし、上記位置ずれの補正は、少なくとも1段のアライナがブランキング開口板17より電子ビーム1の上流側に配置されることを前提とする。
本実施例では、上記目的のため、3種類のアライメントを実施する。具体的には、ナイフエッジ20上のコマ収差と軸外色収差のいずれも変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させるアライメント、その位置ずれと上記コマ収差のいずれも変化させずに上記軸外色収差を変化させるアライメント、およびその位置ずれと上記軸外色収差のいずれも変化させずに上記コマ収差を変化させるアライメント、を実施する。
本実施例では、上記3種類のアライメントのため、実施例1~実施例5、および実施例7~実施例11においてそうしたように、アライナ18UのX偏向用およびY偏向用コイルに入力されるアライメント信号をI1aおよびI1bとし、アライナ18LのX偏向用およびY偏向用コイルに入力されるアライメント信号をI2aおよびI2bとし、そのうえで、アライナ32のX偏向用およびY偏向用コイルに入力されるアライメント信号を、I3aおよびI3bとする。そして、これらのアライメント信号を、(202)~(207)式に従わせる。
1a=IKHa+ILKa+ILHa (202)
1b=IKHb+ILKb+ILHb (203)
2a=rKH2a1aKHa+rKH2a1bKHb
+rLK2a1aLKa+rLK2a1bLKb+rLH2a1aLHa+rLH2a1bLHb
(204)
2b=rKH2b1aKHa+rKH2b1bKHb
+rLK2b1aLKa+rLK2b1bLKb+rLH2b1aLHa+rLH2b1bLHb
(205)
3a=rKH3a1aKHa+rKH3a1bKHb
+rLK3a1aLKa+rLK3a1bLKb+rLH3a1aLHa+rLH3a1bLHb
(206)
3b=rKH3b1aKHa+rKH3b1bKHb
+rLK3b1aLKa+rLK3b1bLKb+rLH3b1aLHa+rLH3b1bLHb
(207)
(202)~(207)式において、rKHpa1a(IpaのI1aによる偏微分)、rKHpa1b(IpaのI1bによる偏微分)、rKHpb1a(IpbのI1aによる偏微分)、およびrKHpb1b(IpbのI1bによる偏微分)(いずれにおいてもp=2または3)は、ナイフエッジ20上のコマ収差(XY差DおよびD)と軸外色収差(係数HおよびH)のいずれも変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ(位置ずれJ1a及びJ1bと等価)を変化させる連動比を表す。rLKpa1a(IpaのI1aによる偏微分)、rLKpa1b(IpaのI1bによる偏微分)、rLKpb1a(IpbのI1aによる偏微分)、およびrLKpb1b(IpbのI1bによる偏微分)(いずれにおいてもp=2または3)は、上記位置ずれおよびコマ収差のいずれも変化させずに上記軸外色収差を変化させる連動比を表す。rLHpa1a(IpaのI1aによる偏微分)、rLHpa1b(IpaのI1bによる偏微分)、rLHpb1a(IpbのI1aによる偏微分)、およびrLHpb1b(IpbのI1bによる偏微分)(いずれにおいてもp=2または3)は、上記位置ずれおよび軸外色収差のいずれも変化させずに上記コマ収差を変化させる連動比を表す。IKHaおよびIKHbは、上記コマ収差および軸外色収差のいずれも変化させずに上記位置ずれを変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。ILKaおよびILKbは、上記位置ずれおよびコマ収差のいずれも変化させずに上記軸外色収差を変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。ILHaおよびILHbは、上記位置ずれおよび軸外色収差のいずれも変化させずに上記コマ収差を変化させるアライメント信号の互いに独立な2成分を表す。
上記連動比は、位置ずれJ1aおよびJ1b、係数HおよびH、そしてXY差DおよびDから決定できる。その詳細を、以下に示す。
まず、位置ずれJ1aおよびJ1bは、本実施例においては、(208)および(209)式で表せる。
1a=JO1a+j1a1a1a+j1a1b1b+j1a2a2a+j1a2b2b+j1a3a3a+j1a3b3b (208)
1b=JO1b+j1b1a1a+j1b1b1b+j1b2a2a+j1b2b2b+j1b3a3a+j1b3b3b (209)
(208)および(209)式において、j1a3a(J1aのI3aによる偏微分)、j1a3b(J1aのI3bによる偏微分)、j1b3a(J1bのI3aによる偏微分)、およびj1b3b(J1bのI3bによる偏微分)は、I3aまたはI3bによる上記位置ずれに関する偏向感度(ブランキング開口板17の高さ位置における、単位印加電流当たりの偏向量)を表す。偏向感度j1a3a、j1a3b、j1b3a、およびj1b3bは、(125)~(128)式の表す偏向感度j1a2a、j1a2b、j1b2a、およびj1b2bを決定する手順(実施例8を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、I3aおよびI3bに対して定義する。
補足すれば、本実施例では、偏向感度j1a3a、j1a3b、j1b3a、およびj1b3bは、いずれも零となる。これは、本実施例では、アライナ32が、ブランキング開口板17より電子ビーム1の下流側にあることによる。即ち、その位置関係が成立する限り、アライナ32によりブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれが変化することはない。
次に、係数HおよびHは、本実施例においては、(210)および(211)式で表せる。
=HOA+hA1a1a+hA1b1b+hA2a2a+hA2b2b+hA3a3a+hA3b3b (210)
=HOB+hB1a1a+hB1b1b+hB2a2a+hB2b2b+hB3a3a+hB3b3b (211)
(210)および(211)式において、hA3a(HのI3aによる偏微分)、hA3b(HのI3bによる偏微分)、hB3a(HのI3aによる偏微分)、およびhB3b(HのI3bによる偏微分)は、I3aおよびI3bに原因するナイフエッジ20上の軸外色収差に関する偏向色収差係数を表す。これら偏向色収差係数は、(192)および(193)式中の偏向色収差係数hA1a、hA1b、hA2a、hA2b、hB1a、hB1b、hB2a、およびhB2bを決定する手順(実施例10を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、I3aおよびI3bに対して定義する。
そして、XY差DおよびDは、本実施例においては、(212)および(213)式で表せる。
=DOA+dA1a1a+dA1b1b+dA2a2a+dA2b2b+dA3a3a+dA3b3b (212)
=DOB+dB1a1a+dB1b1b+dB2a2a+dB2b2b+dB3a3a+dB3b3b (213)
(212)および(213)式において、dA3a(DのI3aによる偏微分)、dA3b(DのI3bによる偏微分)、dB3a(DのI3aによる偏微分)、およびdB3b(DのI3bによる偏微分)は、I3aおよびI3bに原因するXY差に関する係数を表す。これら係数は、(150)および(151)式中の係数dA1a、dA1b、dA2a、dA2b、dB1a、dB1b、dB2a、およびdB2bを決定する手順(実施例8を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、I3aおよびI3bに対して定義する。
(208)~(213)式から、J1aおよびJ1b、HおよびH、そしてDおよびDの全微分が得られる。それらは、(214)~(219)式の通りである。
ΔJ1a=j1a1aΔI1a+j1a1bΔI1b+j1a2aΔI2a+j1a2bΔI2b+j1a3aΔI3a+j1a3bΔI3b (214)
ΔJ1b=j1b1aΔI1a+j1b1bΔI1b+j1b2aΔI2a+j1b2bΔI2b+j1b3aΔI3a+j1b3bΔI3b (215)
ΔH=hA1aΔI1a+hA1bΔI1b+hA2aΔI2a+hA2bΔI2b+hA3aΔI3a+hA3bΔI3b (216)
ΔH=hB1aΔI1a+hB1bΔI1b+hB2aΔI2a+hB2bΔI2b+hB3aΔI3a+hB3bΔI3b (217)
ΔD=dA1aΔI1a+dA1bΔI1b+dA2aΔI2a+dA2bΔI2b+dA3aΔI3a+dA3bΔI3b (218)
ΔD=dB1aΔI1a+dB1bΔI1b+dB2aΔI2a+dB2bΔI2b+dB3aΔI3a+dB3bΔI3b (219)
(214)~(219)式より、(220)~(225)式が成立する。ここで、(220)および(221)式は、J1aおよびJ1bの変化がともに零(ΔJ1a=ΔJ1b=0)のときに成立し、(222)および(223)式は、HおよびHの変化がともに零(ΔH=ΔH=0)のときに成立し、(224)および(225)式は、DおよびDの変化がともに零(ΔD=ΔD=0)のときに成立する。(220)および(221)式の導出には、(115)~(118)式を用いた。
0=ΔI1a+j1a2aΔI2a+j1a2bΔI2b+j1a3aΔI3a+j1a3bΔI3b (220)
0=ΔI1b+j1b2aΔI2a+j1b2bΔI2b+j1b3aΔI3a+j1b3bΔI3b (221)
0=hA1aΔI1a+hA1bΔI1b+hA2aΔI2a+hA2bΔI2b+hA3aΔI3a+hA3bΔI3b (222)
0=hB1aΔI1a+hB1bΔI1b+hB2aΔI2a+hB2bΔI2b+hB3aΔI3a+hB3bΔI3b (223)
0=dA1aΔI1a+dA1bΔI1b+dA2aΔI2a+dA2bΔI2b+dA3aΔI3a+dA3bΔI3b (224)
0=dB1aΔI1a+dB1bΔI1b+dB2aΔI2a+dB2bΔI2b+dB3aΔI3a+dB3bΔI3b (225)
(220)~(225)式の両辺をΔI1aで除せば、(226)~(231)式が得られる。
0=1+j1a2a2a1a+j1a2b2b1a+j1a3a3a1a+j1a3b3b1a
(226)
0=j1b2a2a1a+j1b2b2b1a+j1b3a3a1a+j1b3b3b1a
(227)
0=hA1a+hA2a2a1a+hA2b2b1a+hA3a3a1a+hA3b3b1a
(228)
0=hB1a+hB2a2a1a+hB2b2b1a+hB3a3a1a+hB3b3b1a
(229)
0=dA1a+dA2a2a1a+dA2b2b1a+dA3a3a1a+dA3b3b1a
(230)
0=dB1a+dB2a2a1a+dB2b2b1a+dB3a3a1a+dB3b3b1a
(231)
(220)~(225)式の両辺をΔI1bで除せば、(232)~(237)式が得られる。
0=j1a2a2a1b+j1a2b2b1b+j1a3a3a1b+j1a3b3b1b
(232)
0=1+j1b2a2a1b+j1b2b2b1b+j1b3a3a1b+j1b3b3b1b
(233)
0=hA1b+hA2a2a1b+hA2b2b1b+hA3a3a1b+hA3b3b1b
(234)
0=hB1b+hB2a2a1b+hB2b2b1b+hB3a3a1b+hB3b3b1b
(235)
0=dA1b+dA2a2a1b+dA2b2b1b+dA3a3a1b+dA3b3b1b
(236)
0=dB1b+dB2a2a1b+dB2b2b1b+dB3a3a1b+dB3b3b1b
(237)
(226)~(237)式のそれぞれにおいて、連動比rpa1a(=ΔIpa/ΔI1a)、rpa1b(=ΔIpa/ΔI1b)、rpb1a(=ΔIpb/ΔI1a)およびrpb1b(=ΔIpb/ΔI1b)(いずれにおいてもp=2または3)は、それぞれ、ナイフエッジ20上のコマ収差(XY差DおよびD)と軸外色収差(係数HおよびH)のいずれも変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ(位置ずれJ1aおよびJ1bと等価)を変化させる連動比rKHpa1a(IpaのI1aによる偏微分)、rKHpa1b(IpaのI1bによる偏微分)、rKHpb1a(IpbのI1aによる偏微分)、およびrKHpb1b(IpbのI1bによる偏微分)(いずれにおいてもp=2または3)、上記位置ずれおよびコマ収差のいずれも変化させずに上記軸外色収差を変化させる連動比rLKpa1a(IpaのI1aによる偏微分)、rLKpa1b(IpaのI1bによる偏微分)、rLKpb1a(IpbのI1aによる偏微分)、およびrLKpb1b(IpbのI1bによる偏微分)(いずれにおいてもp=2または3)、そして上記位置ずれおよび軸外色収差のいずれも変化させずに上記コマ収差を変化させる連動比rLHpa1a(IpaのI1aによる偏微分)、rLHpa1b(IpaのI1bによる偏微分)、rLHpb1a(IpbのI1aによる偏微分)、およびrLHpb1b(IpbのI1bによる偏微分)(いずれにおいてもp=2または3)、のうちのいずれか2種類の連動比を表しうる。ただし、(226)~(237)式は、ΔI1b/ΔI1a=0およびΔI1a/ΔI1b=0を前提とする。ここで、ΔI1b/ΔI1aおよびΔI1a/ΔI1bは、それぞれ、I1bのI1aによる偏微分、およびI1aのI1bによる偏微分と見なす。即ち、(226)~(237)式は、I1aおよびI1bを互いに独立に変化させることを前提とする。
(226)~(237)式から、(238)~(243)式が導出できる。(238)~(243)式は、ナイフエッジ20上のコマ収差と軸外色収差のいずれも変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを変化させる連動比rKHpa1a、rKHpa1b、rKHpb1a、およびrKHpb1b(いずれにおいてもp=2または3)を与える式、上記位置ずれおよびコマ収差のいずれも変化させずに上記軸外色収差を変化させる連動比rLKpa1a、rLKpa1b、rLKpb1a、およびrLKpb1b(いずれにおいてもp=2または3)を与える式、そして上記位置ずれおよび軸外色収差のいずれも変化させずに上記コマ収差を変化させる連動比rLHpa1a、rLHpa1b、rLHpb1a、およびrLHpb1b(いずれにおいてもp=2または3)を与える式である。
Figure 0007200062000054
(238)~(243)式の表す連動比に基づきアライナ18および32を制御すれば、ナイフエッジ20上のコマ収差と軸外色収差のいずれも変化させずにブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを補正すること、その位置ずれと上記コマ収差のいずれも変化させずに上記軸外色収差を補正すること、およびその位置ずれと上記軸外色収差のいずれも変化させずに上記コマ収差を補正することが、いずれも可能となる。
本実施例におけるアライメント信号のうち、まず、IKHaおよびIKHbの決定は、(244)式による。
Figure 0007200062000055
(244)式において、IKHa0’およびIKHb0’は、J1a0およびJ1b0を零とすべく更新されるIKHa0およびIKHb0をそれぞれ表し、IKHa0およびIKHb0は、IKHaおよびIKHbに対して定義される第0のアライメント信号をそれぞれ表す。IKHaR0およびIKHbR0は、第0のアライメント条件下における、領域17B(図16を参照)の中心の横軸および縦軸座標をそれぞれ表す。即ち、IKHaR0およびIKHbR0は、画像17A(図16を参照)から決定する。ただし、本実施例では、画像17Aの横軸および縦軸は、それぞれ、ISaおよびISbではなく、IKHaおよびIKHbを表す。
次に、ILKaおよびILKbの決定は、(245)式による。
Figure 0007200062000056
(245)式において、ILKa0およびILKb0は、ILKaおよびILKbに対して定義される第0のアライメント信号をそれぞれ表し、ILKa0’およびILKb0’は、HA0およびHB0を零とすべく更新されるILKa0およびILKb0をそれぞれ表す。hALKa、hALKb、hBLKa、およびhBLKbは、ILKaおよびILKbに原因する軸外色収差に関する偏向色収差係数を表す。これら偏向色収差係数の決定は、(198)および(198’)式中のhAKa、hAKb、hBKa、およびhBKbを決定する手順(実施例10を参照)と同様の手順による。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、ILKaおよびILKbに対して定義する。
そして、ILHaおよびILHbの決定は、(246)式による。
Figure 0007200062000057
(246)式において、ILHa0およびILHb0は、ILHaおよびILHbに対して定義される第0のアライメント信号をそれぞれ表し、ILHa0’およびILHb0’は、DA0およびDB0を零とすべく更新されるILHa0およびILHb0をそれぞれ表す。dALHa、dALHb、dBLHa、およびdBLHbは、ILHaおよびILHbに原因するXY差に関する係数を表す。これら係数の決定は、(199)および(199’)式中の係数dAHa、dAHb、dBHa、およびdBHbを決定する手順(実施例10を参照)と同様の手順による。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、ILHaおよびILHbに対して定義する。
(244)~(246)式を一般化すれば、(244)~(246)式は、(244’)~(246’)式となる。
Figure 0007200062000058
(244’)~(246’)式において、IKHa0 (m)、IKHb0 (m)、ILKa0 (m)、ILKb0 (m)、ILHa0 (m)、およびILHb0 (m)は、m回目に更新されるIKHa0、IKHb0、ILKa0、ILKb0、ILHa0、およびILHb0をそれぞれ表す。IKHaR0 (m-1)およびIKHbR0 (m-1)は、IKHa0 (m-1)およびIKHb0 (m-1)をアライナ18(アライナ18Uおよび18L)および32に入力して得られるIKHaR0およびIKHbR0をそれぞれ表す。HA0 (m-1)およびHB0 (m-1)は、ILKa0 (m-1)およびILKb0 (m-1)をアライナ18および32に入力して得られるHA0およびHB0をそれぞれ表す。DA0 (m-1)およびDB0 (m-1)は、ILHa0 (m-1)およびILHb0 (m-1)をアライナ18および32に入力して得られるDA0およびDB0をそれぞれ表す。
(244’)式に基づくIKHa0 (m)およびIKHb0 (m)の決定とそれらのアライナ18および32への入力、(245’)式に基づくILKa0 (m)およびILKb0 (m)の決定とそれらのアライナ18および32への入力、そして(246’)式に基づくILHa0 (m)およびILHb0 (m)の決定とそれらのアライナ18および32への入力を、順に繰り返せば、J1a0およびJ1b0、HA0およびHB0、そしてDA0およびDB0を、全て零に収束させることができる。即ち、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ、ナイフエッジ20上の軸外色収差、およびナイフエッジ20上のコマ収差を、全て零に収束させることができる。補足すれば、これらアライメント信号の決定および入力の順序は、ここで示した順序に限定されない。
ただし、アライナ18およびアライナ32を連動比rKHpa1a、rKHpa1b、rKHpb1a、およびrKHpb1bに基づき制御すると、アライナ18の全体的な偏向感度の絶対値が減少し、それとともに画像17Aの大きさが小さくなり、その結果、画像17Aに領域17Bが含まれなくなるか、または画像17Aの大きさが領域17Bの大きさより小さくなる可能性がある。このようなアライナ18の偏向感度の減少は、先述のように、アライナ18Uの偏向感度を、アライナ18Lの偏向感度が打ち消すことによる(実施例8を参照)。
上記偏向感度の減少が問題となる場合は、それを解消すべく、アライメント信号I2a、I2b、I3a、およびI3bは、(204)~(207)式に従わせるが、I1aおよびI1bは、(202)および(203)式ではなく、それぞれ(247)および(248)に従わせるようにすればよい。
1a=IKHa+ILKa+ILHa+ITa (247)
1b=IKHb+ILKb+ILHb+ITb (248)
(247)および(248)式中のITaおよびITbは、先述のように、画像17Aの取得に特化されたアライメント信号である。
アライメント信号I2a、I2b、I3a、およびI3bを(204)~(207)式、I1aおよびI1bを(247)および(248)式に従わせれば、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれJTaおよびJTb(ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれと等価)は、それぞれ(249)および(250)式で表せる。
Ta=JOTa+jTaKHaKHa+jTaKHbKHb (249)
Tb=JOTb+jTbKHaKHa+jTbKHbKHb (250)
(249)および(250)式において、jTaKHa(JTaのIKHaによる偏微分)、jTaKHb(JTaのIKHbによる偏微分)、jTbKHa(JTbのIKHaによる偏微分)、およびjTbKHb(JTbのIKHbによる偏微分)は、IKHaおよびIKHbに原因する上記位置ずれに関する偏向感度(ブランキング開口板17の高さ位置における、単位印加電流当たりの偏向量)を表す。これら偏向感度は、(156)および(156’)式中の偏向感度jTaKa、jTaKb、jTbKa、およびjTbKbを決定する手順(実施例8を参照)と同様の手順により決定できる。ただし、その際は、第0、第1、および第2のアライメント信号を、IKHaおよびIKHbに対して定義する。
目的のIKHaおよびIKHb、即ち(249)および(250)式の表すJTaおよびJTbを零とするIKHaおよびIKHbは、(251)式で与えられる。(251)式において、IKHa0 (m)およびIKHb0 (m)は、JTa0およびJTb0を零とすべくm回目に更新されるIKHa0およびIKHb0をそれぞれ表し、JTa0 (m-1)およびJTb0 (m-1)は、IKHa0 (m-1)およびIKHb0 (m-1)をアライナ18および32に入力して得られるJTa0およびJTb0をそれぞれ表す。
Figure 0007200062000059
以上で説明したように、本実施例では、ナイフエッジ20上のコマ収差と軸外色収差が補正されるだけでなく、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれが補正される。これらの補正は、先述のように、合計3段のアライナ(アライナ18U、18L、および32)のそれぞれにより、互いに線形独立な2方向に電子ビーム1が偏向され、従って電子ビーム1のアライメントに関する自由度が合計6つあることに基づく。
補足すれば、もしアライナ32をアライナ18Uおよび18Lとともにブランキング開口板17より電子ビーム1の上流側に配置すると、アライナの段数が、実質的に、3段ではなく2段となる。即ち、電子ビーム1のアライメントに関する自由度が、実質的に、6つではなく4つとなる。従って、第一にナイフエッジ20上のコマ収差を補正すること、第二にナイフエッジ20上の軸外色収差を補正すること、第三にブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを零とすることを、同時に実現することが困難になる。
これは、ブランキング開口板17の高さ位置における電子ビーム1の軌道に関する自由度は4つ(その軌道の位置および角度のそれぞれにつき、互いに線形独立な2成分)しかなく、従って、ブランキング開口板17からナイフエッジ20までの範囲における、電子ビーム1のアライメントに関する自由度も4つしかないことによる。即ち、例えばブランキング開口板17の開口の中心に電子ビーム1を通せば、電子ビーム1のアライメントに関する自由度は2つ(上記軌道の角度の互いに線形独立な2成分)しか残らず、従って、ナイフエッジ20上のコマ収差および軸外色収差のいずれか一方しか補正できない。
ここで留意すべきは、次の2点である。第一の点は、ブランキング開口板17からナイフエッジ20までの範囲における電子ビーム1の軌道を変化させることなく第2の成形開口板7からブランキング開口板17までの範囲における電子ビーム1の軌道を変化させることで、第2の成形開口板7からブランキング開口板17までの範囲において自由に軸外色収差を発生または変化させることは、アライナ18U、18L、および32の全てが磁界型である限り、不可能なことである。第二の点は、第2の成形開口板7からブランキング開口板17までの範囲におけるコマ収差の発生または変化により、ブランキング開口板17からナイフエッジ20までの範囲において発生しているコマ収差を打ち消すことは、非現実的なことである。
上記軸外色収差の発生または変化(上記第一の点)が不可能なのは、ブランキング開口板17の高さ位置における電子ビーム1の軌道(位置および角度)が一意に決まれば、第2の成形開口板7からブランキング開口板17までの範囲(レンズ磁場のない範囲)において発生する軸外色収差も一意に決まることによる。上記コマ収差の打ち消し(上記第二の点)が非現実的なのは、その範囲で発生するコマ収差は、ブランキング開口板17からナイフエッジ20までの範囲で発生するコマ収差、即ち縮小レンズ8および対物レンズ9の生むコマ収差に比べて、桁違いに小さいことによる。
補足すれば、第2の成形開口板7からブランキング開口板17までの範囲において発生する軸外色収差は、その範囲において偏向された電子ビーム1の軌道を電子ビーム1の上流側に延長して定義される仮想的な軌道の、物面(第2の成形開口板7)における位置の変動に換算できる。その位置は、第2の成形開口板7からブランキング開口板17までの範囲における電子ビーム1の軌道の詳細によらず、ブランキング開口板17の高さ位置における電子ビーム1の軌道で決まる。
(実施例13)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例13として、以下に説明する。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、基本的に、実施例12の可変成形電子ビーム描画装置と、構成を同じくする。即ち、本実施例における可変成形電子ビーム描画装置の光学系も、図19に示すように、アライナ32を備える。
本実施例の装置の動作は、ナイフエッジ20上のコマ収差と軸外色収差に加え、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれを補正するという点において、基本的に、実施例12の装置の動作と同様とする。これらの補正は、先述のように、合計3段のアライナ(アライナ18U、18L、および32)のそれぞれにより、互いに線形独立な2方向に電子ビーム1が偏向され、従って電子ビーム1のアライメントに関する自由度が合計6つあることに基づく。ただし、上記位置ずれの補正は、少なくとも1段のアライナがブランキング開口板17より電子ビーム1の上流側に配置されることを前提とする。
本実施例は、しかし、実施例12と、アライメント信号の決定および入力の方法を異にする。具体的には、本実施例では、領域17Bの中心からの画像17Aの中心の位置ずれ(J1a0およびJ1b0)、ナイフエッジ20上の軸外色収差に関する係数(HA0およびHB0)、そしてXY差(DA0およびDB0)をいずれも零とするアライメント信号(I1a0、I1b0、I2a0、I2b0、I3a0、およびI3b0)の全てを一度に決定し、これらを一度にアライナ18(アライナ18Uおよび18L)および32に入力する。
これに対し、実施例12では、上記位置ずれを零とするアライメント信号(IKHa0およびIKHb0)の決定およびそれらのアライナ18および32への入力と、上記係数(HA0およびHB0)を零とするアライメント信号(ILKa0およびILKb0)の決定およびそれらのアライナ18および32への入力と、XY差(DA0およびDB0)を零とするアライメント信号(ILHa0およびILHb0)の決定およびそれらのアライナ18および32への入力とを、個別に行った。
より詳細には、本実施例では、J1a、J1b、H、H、D、およびDを、(252)式で表す。(252)式は、(208)~(213)式を1つにまとめた式である。本実施例では、そして、J1a0、J1b0、HA0、HB0、DA0、およびDB0を全て零とするI1a0、I1b0、I2a0、I2b0、I3a0、およびI3b0を、(253)式から決定する。(253)式は、(252)式から導出される。
Figure 0007200062000060
(253)式において、I3a0およびI3b0は、I3aおよびI3bに対して定義される第0のアライメント信号をそれぞれ表し、I3a0’およびI3b0’は、J1a0、J1b0、HA0、HB0、DA0、およびDB0を全て零とすべく更新されるI3a0およびI3b0をそれぞれ表す。ここで、I3a0’およびI3b0’は、I1a0’、I1b0’、I2a0’、およびI2b0’との連携のもとで、J1a0、J1b0、HA0、HB0、DA0、およびDB0を全て零とする。ただし、(253)式中のj1a3a、j1a3b、j1b3a、およびj1b3bは、先述のように、いずれも零となる(実施例12を参照)。
(253)式を一般化すれば、(253)式は、(253’)式となる。(253’)式において、I3a0 (m)およびI3b0 (m)は、m回目に更新されるI3a0およびI3b0をそれぞれ表す。
Figure 0007200062000061
(253’)式からI1a0 (m)、I1b0 (m)、I2a0 (m)、I2b0 (m)、I3a0 (m)、およびI3b0 (m)を求めることと、それらをアライナ18および32に入力することを交互に繰り返せば、J1a0、J1b0、HA0、HB0、DA0、およびDB0を全て零に収束させることができる。即ち、ブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれ、ナイフエッジ20上の軸外色収差、およびナイフエッジ20上のコマ収差を全て零に収束させることができる。
(実施例14)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(可変成形電子ビーム描画装置)を、実施例14として、以下に説明する。
本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、基本的に、実施例1~実施例5、および実施例7~実施例13の可変成形電子ビーム描画装置と、構成を同じくする。
ただし、本実施例の可変成形電子ビーム描画装置は、アライナ類(アライナ18U、18L、および32)を備える代わりに、レンズ類(縮小レンズ8および対物レンズ9)の機械的軸合わせのための機構(XY移動機構、図示せず)、および開口類(ブランキング開口板17)の機械的軸合わせのための機構(XY移動機構、図示せず)を備える。
本実施例では、上記機構によって縮小レンズ8、対物レンズ9、およびブランキング開口板17を移動させることにより、縮小レンズ8、対物レンズ9、およびブランキング開口板17を、電子ビーム1に対してアライメントする。言い換えれば、本実施例では、ナイフエッジ20上のコマ収差、ナイフエッジ20上の軸外色収差、およびブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれの、いくつかまたは全ての変化を、アライメント信号(I1a、I1b、I2a、およびI2b、または、I1a、I1b、I2a、I2b、I3a、およびI3b)の増減によるのではなく、縮小レンズ8、対物レンズ9、およびブランキング開口板17の移動による。
これに対して、実施例1~実施例5、および実施例7~実施例13では、アライナ類(実施例1~実施例5および実施例7~実施例11では、アライナ18Uおよび18L、実施例12および実施例13では、アライナ18U、18L、および32)により電子ビーム1を偏向することにより、電子ビーム1を、縮小レンズ8、対物レンズ9、およびブランキング開口板17に対してアライメントしていた。
上記機構は、縮小レンズ8、対物レンズ9、およびブランキング開口板17のそれぞれを、互いに線形独立な2方向に移動させる。従って、上記機構によるこれら3要素のアライメントは、合計6(=2×3)つの自由度を有する。そのため、本実施例では、ナイフエッジ20上のコマ収差、ナイフエッジ20上のコマ収差とブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれとの両方、ナイフエッジ20上のコマ収差と軸外色収差との両方、そしてナイフエッジ20上のコマ収差および軸外色収差とブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれとの全ての、いずれもが補正可能である。
(実施例15)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(スポット電子ビーム描画装置)を、実施例15として、以下に説明する。その説明のため、本実施例のスポット電子ビーム描画装置の光学系の構成を、図20に示す。図20には、便宜上、3回非点発生器30および先述の機構(実施例14を参照)を含まない構成例を示した。
本実施例のスポット電子ビーム描画装置は、基本的に、実施例1~実施例14の可変成形電子ビーム描画装置と、構成を同じくする。ただし、本実施例では、電子ビーム1を、可変成形ビームではなく、スポットビームとする。
本実施例の装置において電子ビーム1をスポットビームとするには、簡単には、照射レンズ2、成形レンズ6、縮小レンズ8、および対物レンズ9の励磁電流を適宜調整することで、図20に示すように、光源の像16を縮小レンズ8と対物レンズ9の間に結び、さらに光源の像19を材料10またはナイフエッジ20上に結べばよい。その際は、第1の成形開口板3、第2の成形開口板7、および成形偏向器12(図1を参照)は、いずれも不要であるが、これらのうち第1の成形開口板3または第2の成形開口板7は、明るさ絞りとして有効利用できる。このことから、本実施例においては、これら開口板の開口の形状は円形としてもよい。
本実施例の装置の動作は、基本的に、実施例1~実施例14の装置の動作と同様とする。即ち、本実施例でも、材料10およびナイフエッジ20の高さ位置に現れるコマ収差、その高さ位置に現れるコマ収差とブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれとの両方、その高さ位置に現れるコマ収差と軸外色収差との両方、または、その高さ位置に現れるコマ収差および軸外色収差とブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれとの全て、が補正される。
ただし、本実施例では、ナイフエッジ20が、可変成形ビームとしての電子ビーム1ではなく、スポットビームとしての電子ビーム1により走査される。
第1の成形開口板3または第2の成形開口板7を上述のように明るさ絞りとして利用する場合は、第1の成形開口板3または第2の成形開口板7、即ち明るさ絞りを、X方向およびY方向に移動させることを、電子ビーム1のアライメントの一部とすることが可能である。即ち、その明るさ絞りのX方向およびY方向の移動により、電子ビーム1に含まれる主光線の軌道が変わる。従って、その明るさ絞りに機械的軸合わせのための機構(XY移動機構、図示せず)を設ければ、その機構および明るさ絞りを、アライナの代わりとして用いることができる。
上記コマ収差および軸外色収差の際、ナイフエッジ20上の球面収差および軸上色収差が低減されていれば、上記コマ収差がより敏感に測定され、従って上記コマ収差の測定および補正精度が向上する。ただし、その球面収差および軸上色収差の低減(補正)には、図20の光学系に、球面収差補正器(図示せず)および色収差補正器(図示せず)を設けることが必要となる。
補足すれば、上記球面収差および軸上色収差の測定および補正の際に、上記コマ収差および軸外色収差が低減されていれば、上記球面収差および軸上色収差の測定感度は向上し、従ってこれらの測定および補正精度が向上する。即ち、上記コマ収差および軸外色収差の測定および補正と、上記球面収差および軸上色収差の補正は、交互に繰り返すのがよい。
(実施例16)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(走査型電子顕微鏡)を、実施例16のとして、以下に説明する。
本実施例の走査型電子顕微鏡は、基本的に、実施例15のスポット電子ビーム描画装置と、構成を同じくする。ただし、本実施例では、材料10を、観察試料(図示せず)に置き換える。
本実施例の走査型電子顕微鏡には、二次電子検出器(図示せず)または透過電子検出器(図示せず)が設けられる。これらのうち、二次電子検出器は、上記観察試料より上方(電子ビーム1の上流側)に設けられ、透過電子検出器は、上記観察試料より下方(電子ビーム1の下流側)に設けられる。
本実施例の電子顕微鏡の動作は、基本的に、実施例15のスポット電子ビーム描画装置の動作と同様とする。即ち、本実施例でも、電子ビーム1により照射される面の高さ位置に現れるコマ収差、その高さ位置に現れるコマ収差とブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれとの両方、その高さ位置に現れるコマ収差と軸外色収差との両方、または、その高さ位置に現れるコマ収差および軸外色収差とブランキング開口板17の開口の中心からの電子ビーム1の位置ずれとの全て、が補正される。ただし、本実施例では、電子ビーム1により照射される面は、材料10の表面ではなく、上記観察試料の表面、またはナイフエッジ20の表面である。
本実施例の電子顕微鏡は、電子ビーム1を、材料10に対する描画ではなく、上記観察試料の観察に用いる。より詳細には、上記観察試料を電子ビーム1で走査する際に、上記二次電子検出器により二次電子を検出すれば、走査型電子顕微鏡(SEM)観察が可能となり、上記透過電子検出器により透過電子を検出すれば、走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察が可能となる。
従って、本実施例の目的は、電子ビーム描画装置における寸法精度の向上ではなく、これら電子顕微鏡における観察分解能の向上である。
本実施例でも、実施例15でそうしたように、上記高さ位置に現れるコマ収差および軸外色収差のいずれかまたは両方を測定する測定媒体として、ナイフエッジ20(または電子反射体)を走査すればよいが、本実施例では、ナイフエッジ20を走査する代わりに、上記観察試料を走査してもよい。そうして得られる像または信号を解析すれば、上記観察試料上における電子ビーム1のぼけおよび位置が測定でき、従って、上記観察試料上におけるコマ収差および軸外色収差が測定できる。
上記観察試料上における電子ビーム1のぼけの測定、即ち上記コマ収差の測定は、より具体的には、上記観察試料の走査により得られる電子像の画像解析(二次元フーリエ解析、例えば、特開平9-82257号公報、および特開平10-106469号公報を参照)、または上記観察試料の走査の際に得られる電子信号の信号解析(例えば、特開平7-153407号公報を参照)による。これら手法は、コマ収差の測定および補正ではなく、デフォーカスおよび非点収差のいずれかまたは両方の測定および補正に向けられたものであるが、これら手法は、原理的に、直交2方向のぼけの大きさを測定可能とする。より詳細には、上記画像解析においては、上記電子像に表れるぼけの、任意の直交2方向の大きさが、フーリエ空間上で、その直交2方向の波数の小ささとして、互いに独立に評価できる。上記信号解析においては、上記観察試料を、任意の直交2方向のそれぞれに沿って走査すれば、そうして得られる2つの電子信号から、上記観察試料上のぼけの、その直交2方向の大きさが、互いに独立に評価できる。従って、これら手法は、上記コマ収差の測定および補正に応用できる。
上記観察試料上における電子ビーム1の位置の測定、即ち上記軸外色収差の測定は、より具体的には、上記観察試料の走査により得られる電子像の、電子ビーム1の加速電圧のウォブリングまたは上記軸外色収差を生みうるレンズおよびアライナ類の励磁電流のウォブリングによる、全体的な移動を、画像解析により評価することによる。この測定は、従来から走査電子顕微鏡において実施されている軸外色収差の測定と基本的に同じである。
(実施例17)
本発明の荷電粒子ビーム装置のさらに別の実施例(透過型電子顕微鏡)を、実施例17として、以下に説明する。その説明のため、本実施例の透過型電子顕微鏡の光学系の構成を、図21に示す。図21では、対物レンズ9より電子ビーム1の上流側の光学系が省略されている。
本実施例の透過型電子顕微鏡は、部分的に、実施例16の走査型電子顕微鏡と構成を同じくする。
ただし、本実施例では、図21に示すように、観察試料33の下方(電子ビーム1の下流側)に、拡大光学系34および透過電子像検出器35が設けられる。観察試料33は、薄膜状の試料である。拡大光学系34は、図21から分かるように、対物レンズ9’と、拡大レンズ36および37と、アライナ18U、18L、および32とからなる。対物レンズ9’と拡大レンズ36および37は、対物レンズ9とともに、レンズ制御部24(図1を参照)により制御され、アライナ18U、18L、および32は、アライナ制御部23(図1を参照)により制御される。
拡大光学系34には、透過電子像検出器35上に形成される像を明視野像または暗視野像とするための絞りとして、対物絞り38が設けられる。以降では、便宜上、その像は明視野像とする。
ここで、対物絞り38は、明るさ絞りとして働く。対物絞り38の高さ位置は、透過電子像検出器35と光学的に共役でない高さ位置とする。対物絞り38の高さ位置は、より具体的には、対物レンズ9’の後方焦点面の高さ位置とするか、またはその高さ位置と光学的に共役な高さ位置とする。図21の光学系では、対物絞り38の高さ位置は、対物レンズ9’の後方焦点面の高さ位置としてある。
拡大光学系34には、さらに、3回非点収差を発生させる多極子として、3回非点発生器30が設けられる。3回非点発生器30は、図21においては磁界型の多極子(例えば8極子)であるが、これを、静電型の多極子としてもよい。3回非点発生器30の高さ位置は、対物絞り38と同じ高さ位置(またはその付近)とするか、または、その高さ位置と光学的に共役な高さ位置(拡大レンズ36の下方)とする。図21の光学系では、3回非点発生器30の高さ位置は、対物絞り38の高さ位置と光学的に共役な高さ位置としてある。3回非点発生器30は、3回非点発生器制御部31(図12を参照)により制御される。
本実施例では、まず、観察試料33が電子ビーム1により照射される。そして、観察試料33を透過した電子ビーム1が、拡大光学系34により、透過電子像検出器35まで伝送される。ここで、拡大光学系34は、観察試料33(物面)に対する結像光学系として、観察試料の像39を、透過電子像検出器35(像面)上に結ぶ。即ち、本実施例の光学系(拡大光学系34を含む)は、透過型電子顕微鏡(TEM)として機能する。
上記照射のため、本実施例では、図21に示すように、光源の像19が、対物レンズ9より電子ビーム1の上流側に結ばれる。より詳細には、光源の像19の高さ位置は、対物レンズ9の物側焦点面の高さ位置に一致する。これは、観察試料33に、平行ビームとしての電子ビーム1を当てる目的からである。
これに対し、実施例16では、光源の像19は、観察試料(図示せず)の高さ位置に結ばれていた。従って、その高さ位置において、電子ビーム1のビーム径が最小となっていた。
本実施例の目的は、観察試料33の透過電子顕微鏡観察、およびその際における観察分解能の向上である。
そのため、本実施例では、透過電子像検出器35により観察試料の像39が電子画像として取得され、さらに、透過電子像検出器35上のコマ収差が、または透過電子像検出器35上のコマ収差と軸外色収差の両方が、補正される。
ここで、透過電子像検出器35上のコマ収差および軸外色収差とは、より詳細には、観察試料33から透過電子像検出器35までの間で発生し、透過電子像検出器35(像面)上に現れるコマ収差および軸外色収差である。
透過電子像検出器35上のコマ収差および軸外色収差の測定は、観察試料の像39から、電子ビーム1のぼけおよび位置を抽出することによる。これらの抽出には、先述の、画像解析により電子ビーム1のぼけおよび位置を得る手法(実施例16を参照)が適用できる。従って、本実施例には、ナイフエッジ20(または電子反射体)およびその走査はいずれも不要であり、その走査に用いられる偏向器、即ち対物偏向器13も不要である。
本実施例において3回非点発生器30の高さ位置を上記高さ位置とするのは、電子ビーム1に含まれる主光線の、3回非点発生器30の高さ位置における、3回非点発生器30の中心軸からの位置ずれを構成する成分のうち、電子ビーム1のアライメントに依存しない成分(それら主光線のそれぞれの、電子ビーム1の中心軸からの位置ずれ)が大きくなることを防ぐためである。その位置ずれ成分が大きくなると、3回非点発生器30による3回非点収差の発生とともに副次的に発生する収差を構成する成分のうち、補正できない成分が大きくなる(実施例2および実施例3を参照)。3回非点発生器30の高さ位置を上記高さ位置とすれば、電子ビーム1に含まれる主光線は、3回非点発生器30の高さ位置において一点に交わり、従って、その位置ずれ成分が最小となる。ここで、それら主光線は、全て、対物絞り38の開口の中心を通る。
本実施例における電子ビーム1のアライメントは、基本的には、アライナ18U、18L、および32のいくつかまたは全てによるが、そのアライメントの一部を、光源の像19をX方向およびY方向に移動させることに置き換えることが可能である。これは、光源の像19の移動により、観察試料33に対する電子ビーム1の入射角が変わり、従って、観察試料33を透過する電子ビーム1の出射角が変わることによる。ただしその際は、電子ビーム1の出射角の変化に応じて、対物絞り38をX方向およびY方向に移動させる。ここで、光源の像19の移動は、光源の像19より電子ビーム1の上流側にアライナ(図示せず)を設け、それにより電子ビーム1を偏向することによればよく、対物絞り38の移動は、対物絞り38に機械的軸合わせのための機構(XY移動機構、図示せず)を設け、その機構を働かせることによればよい。
上記コマ収差および軸外色収差の測定の際、透過電子像検出器35上の球面収差および軸上色収差が低減されていれば、上記コマ収差および軸外色収差がより敏感に測定され、従って、上記コマ収差および軸外色収差の測定および補正精度が向上する。ただし、その球面収差および軸上色収差の低減(補正)には、図21の光学系に、球面収差補正器(図示せず)および色収差補正器(図示せず)を設けることが必要となる。
補足すれば、上記コマ収差および軸外色収差の測定および補正と、上記球面収差および軸上色収差の補正は、先述(実施例15を参照)のように、交互に繰り返すのがよい。
本発明は、上述した各実施例の構成を採りうるだけでなく、請求の範囲に規定された範囲内の任意の構成を採りうるものである。例えば、実施例1~実施例17において、電子ビーム1をイオンビーム(図示せず)に置き換えてもよい。ただしその際は、電子ビーム1を発生する電子銃(図示せず)を、所望のイオンビームを発生するイオンビーム源(図示せず)に置き換える。
1 電子ビーム、2 照射レンズ、3 第1の成形開口板、4 光源、5,16,19 光源の像、6 成形レンズ、7 第2の成形開口板、8 縮小レンズ、9,9’ 対物レンズ、10 材料、11 投影図形、12 成形偏向器、13,13U,13L 対物偏向器、14 材料ステージ、15 ブランカー、17 ブランキング開口板、18,18U,18L,32 アライナ、20 ナイフエッジ、21 ファラデーカップ、23 アライナ制御部、24 レンズ制御部、25 対物偏向器制御部、26 材料ステージ制御部、27 ファラデーカップ吸収電流信号処理部、28 中央制御部、29 記憶部、30 3回非点発生器、31 3回非点発生器制御部、33 観察試料、34 拡大光学系、35 透過電子像検出器、36,37 拡大レンズ、38 対物絞り、39 観察試料の像、50 第0の3回非点発生信号、51 第1の3回非点発生信号、52 第2の3回非点発生信号、61 包絡線、62 半径、S 軸外色収差図形

Claims (12)

  1. 荷電粒子ビームを生成する光源と、
    前記荷電粒子ビームに対する光学系と、
    前記荷電粒子ビームに対するぼけ測定手段を備え、
    前記光学系は、前記荷電粒子ビームにより照射される被照射面に前記荷電粒子ビームを伝送する少なくとも1段のレンズを備え、
    前記少なくとも1段のレンズは、前記被照射面上に、前記光源の像か、前記光学系内に配置され、前記荷電粒子ビームにより照射される開口板の開口の透過像か、または、前記光学系内に配置され、前記荷電粒子ビームにより照射される薄膜の透過像かを結び、
    前記ぼけ測定手段は、前記被照射面の高さ位置における、前記荷電粒子ビームのぼけを測定する、
    ことを前提とする荷電粒子ビーム装置であって、
    前記光源、前記開口板、または前記薄膜から、前記被照射面までの間に、静電型または磁界型の多極子を備え、
    前記多極子に3回非点収差を発生させるための3回非点発生信号を、前記多極子に入力することで、前記被照射面の高さ位置に前記3回非点収差を発生し、
    前記3回非点発生信号の強度を増減しながら、前記ぼけ測定手段により、前記ぼけの大きさを、前記被照射面内の互いに直交する2方向のそれぞれに沿って測定し、前記ぼけの前記2方向のうちの1方向の大きさを最小とする前記3回非点発生信号の強度と、前記ぼけの前記2方向のうちのもう1方向の大きさを最小とする前記3回非点発生信号の強度との差を、第一の差として決定し、前記第一の差により、前記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を表すという第一の方法か、
    または、前記3回非点発生信号の強度を増減しながら、前記ぼけ測定手段により、前記ぼけの大きさを、前記被照射面内の単一の方向に沿って測定し、前記ぼけの前記単一の方向の大きさを最小とする前記3回非点発生信号の強度と、前記3回非点発生信号の強度を増減しながら前記ぼけの大きさを前記単一の方向に沿って測定する前における前記3回非点発生信号の強度との差を、第二の差として決定し、前記第二の差により、前記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を表すという第二の方法により、
    前記被照射面の高さ位置に現れているコマ収差の成分を取得するように構成された
    ことを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
  2. 前記第二の方法において、予め、前記ぼけの、前記単一の方向の大きさを最小とする前記3回非点発生信号の強度と、前記ぼけの、前記被照射面内で前記単一の方向に直交する方向の大きさを最小とする前記3回非点発生信号の強度との平均に等しい強度の前記3回非点発生信号を、前記多極子に入力しておき、
    前記平均を、前記3回非点発生信号の強度を増減しながら前記ぼけの大きさを前記単一の方向に沿って測定する前における前記3回非点発生信号の強度とする、請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置。
  3. 前記荷電粒子ビームの2回非点収差を低減する2回非点補正手段をさらに備え、
    前記第一の方法または前記第二の方法において、前記3回非点発生信号の強度を増減する際に副次的に発生または変化する、前記被照射面の高さ位置における前記2回非点収差が、前記2回非点補正手段により低減されるように、前記多極子による前記3回非点収差の発生と前記2回非点補正手段による前記2回非点収差の低減とを互いに連動させる、請求項1または請求項2に記載の荷電粒子ビーム装置。
  4. 前記被照射面の高さ位置に、前記ぼけを測定するためのナイフエッジ状のぼけ測定媒体をさらに備え、
    前記光学系は、前記光源から前記被照射面までの間に、前記荷電粒子ビームの偏向により前記荷電粒子ビームで前記ぼけ測定媒体を走査する走査手段を備え、
    前記ぼけ測定手段は、前記走査手段により前記ぼけ測定媒体を走査し、前記荷電粒子ビームの、前記ぼけ測定媒体に遮られなかった部分の電流、または、前記ぼけ測定媒体に遮られた部分の電流を検出し、該検出された電流の波形の鈍りに基づいて前記ぼけを評価する、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム装置。
  5. 前記走査手段による前記ぼけ測定媒体の走査は、前記3回非点発生信号に、前記多極子に前記荷電粒子ビームを偏向させるための信号を重畳することによる、請求項4に記載の荷電粒子ビーム装置。
  6. 前記3回非点発生信号は、互いに独立な2成分から構成され、
    前記3回非点発生信号を構成する互いに独立な2成分は、前記3回非点収差を構成する、互いに直交する2成分を発生させ、
    前記第一の方法または前記第二の方法による前記コマ収差の成分の取得を、前記3回非点発生信号を構成する互いに独立な2成分のそれぞれについて行うことで、前記コマ収差の2成分を取得する、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム装置。
  7. 前記荷電粒子ビームの前記被照射面内の位置を測定するための位置測定手段をさらに備え、
    前記荷電粒子ビームに含まれる主光線群が前記被照射面の高さ位置において示す色収差を、軸外色収差とし、
    前記荷電粒子ビームの加速電圧に変化を与えるか、または前記少なくとも1段のレンズのうちのいくつかまたは全ての強度に変化を与え、
    前記位置測定手段により、前記加速電圧の変化に伴う、または前記少なくとも1段のレンズのうちのいくつかまたは全ての強度の変化に伴う、前記荷電粒子ビームの前記被照射面内の位置の変化を測定し、
    該測定された前記被照射面内の位置の変化の互いに直交する2成分により、前記軸外色収差の2成分を表すことで、前記軸外色収差の2成分を取得する、請求項6に記載の荷電粒子ビーム装置。
  8. 前記光源から前記被照射面までの間に、前記荷電粒子ビームを偏向することにより前記荷電粒子ビームをアライメントするアライメント手段を備え、
    前記アライメント手段の段数は、前記荷電粒子ビームの流れる方向に合計1段以上とし、
    前記アライメント手段の各段は、前記荷電粒子ビームを、前記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向に偏向する偏向手段からなり、
    前記コマ収差の2成分が小さくなるように、前記アライメント手段により前記荷電粒子ビームの軌道を変化させる、請求項6または請求項7に記載の荷電粒子ビーム装置。
  9. 前記アライメント手段には、互いに独立な2成分から構成されるアライメント信号が入力され、
    前記偏向手段は、前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分を、または前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分のそれぞれにそれぞれが比例する互いに独立な2成分を受け、
    前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分のそれぞれは、前記アライメント手段に、前記荷電粒子ビームの軌道を、前記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向のそれぞれに向けて変化させ、
    前記コマ収差の2成分が小さくなるように前記アライメント手段により前記荷電粒子ビームの軌道を変化させる際は、
    前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分の現在値と、前記コマ収差の2成分の、前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分に関する偏微分係数と、前記コマ収差の2成分の現在値とから、前記コマ収差の2成分を零とする、前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分の強度を決定し、該決定された強度の、前記アライメント信号を構成する互いに独立な2成分を、前記アライメント手段に入力する、請求項8に記載の荷電粒子ビーム装置。
  10. 前記光源から前記被照射面までの間に、前記荷電粒子ビームを偏向することにより前記荷電粒子ビームをアライメントするアライメント手段を備え、
    前記アライメント手段の段数は、前記荷電粒子ビームの流れる方向に合計2段以上とし、
    前記光源、前記開口板、または前記薄膜から前記被照射面までの間に、前記光源の像、前記開口板の開口の透過像、または前記薄膜の透過像の明るさを制御する明るさ絞りを備え、
    前記アライメント手段の少なくとも1段を、前記明るさ絞りより前記荷電粒子ビームの上流側に配置し、
    前記明るさ絞りの開口の中心からの前記荷電粒子ビームの位置ずれを測定する手段を備え、
    前記アライメント手段の各段は、前記荷電粒子ビームを、前記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向に偏向する偏向手段からなり、
    前記位置ずれを測定する手段により、前記位置ずれの互いに線形独立な2成分を測定し、前記コマ収差の2成分と前記位置ずれの互いに線形独立な2成分とが小さくなるように、前記アライメント手段により前記荷電粒子ビームの軌道を変化させる、請求項6または請求項7に記載の荷電粒子ビーム装置。
  11. 前記光源から前記被照射面までの間に、前記荷電粒子ビームを偏向することにより前記荷電粒子ビームをアライメントするアライメント手段を備え、
    前記アライメント手段の段数は、前記荷電粒子ビームの流れる方向に合計2段以上とし、
    前記アライメント手段の各段は、前記荷電粒子ビームを、前記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向に偏向する偏向手段からなり、
    前記コマ収差の2成分と前記軸外色収差の2成分とが小さくなるように、前記アライメント手段により前記荷電粒子ビームの軌道を変化させる、請求項7に記載の荷電粒子ビーム装置。
  12. 前記光源から前記被照射面までの間に、前記荷電粒子ビームを偏向することにより前記荷電粒子ビームをアライメントするアライメント手段を備え、
    前記アライメント手段の段数は、前記荷電粒子ビームの流れる方向に合計3段以上とし、
    前記光源、前記開口板、または前記薄膜から前記被照射面までの間に、前記光源の像、前記開口板の開口の透過像、または前記薄膜の透過像の明るさを制御する明るさ絞りを備え、
    前記アライメント手段の少なくとも1段を、前記明るさ絞りより前記荷電粒子ビームの上流側に配置し、
    前記明るさ絞りの開口の中心からの前記荷電粒子ビームの位置ずれを測定する手段を備え、
    前記アライメント手段の各段は、前記荷電粒子ビームを、前記荷電粒子ビームの流れる方向に垂直で互いに線形独立な2方向に偏向する偏向手段からなり、
    前記位置ずれを測定する手段により、前記位置ずれの互いに線形独立な2成分を測定し、前記コマ収差の2成分と前記軸外色収差の2成分と前記位置ずれの互いに線形独立な2成分とが小さくなるように、前記アライメント手段により前記荷電粒子ビームの軌道を変化させる、請求項7に記載の荷電粒子ビーム装置。
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