JP3753281B2 - 井型断面中空複合繊維 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、保温性が要求される衣料用途等に好適な蓄熱保温性能を有するとともに、独特の光沢感を有し、白度に優れる布帛とすることができる井型断面形状の中空複合繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
保温性が要求される防寒衣料や野外でのスポーツ、レジャー用衣料に好適な繊維として、炭化ジルコニウム微粒子等を配合させ、太陽光を吸収する蓄熱保温性の繊維が開発されている(特公平3−9202号公報)。この繊維は芯鞘形状のものであり、芯部に炭化ジルコニウム微粒子等が配合されている。しかしながら、この繊維は、芯部の炭化ジルコニウム微粒子等の色が繊維表面に表れて着色しているため、白度の要求される用途に使用しがたいという問題があった。
【0003】
そこで、この問題を解決するものとして、特開平3−51312 号公報には、炭化ジルコニウム微粒子と、酸化錫と酸化アンチモンで表面被覆した酸化チタン微粒子とを含有する熱可塑性ポリマーを芯部に用いた芯鞘構造の蓄熱保温性繊維が提案されている。
この繊維は、炭化ジルコニウム微粒子と酸化錫と酸化アンチモンで表面被覆した酸化チタン微粒子とを併用することによって、炭化ジルコニウム微粒子の量を減じても、蓄熱保温性を低下させることがなく、また、炭化ジルコニウム微粒子を芯部に配合しているので、炭化ジルコニウムの着色が鞘成分で隠蔽され、白度を向上させることができるものである。しかしながら、この繊維の白度の向上は十分でないという問題があった。
【0004】
また、特開平2−269808号公報には、芯部のポリマーが炭化ジルコニウム微粒子を含有し、鞘部のポリマーはこれらの粒子を含有しない芯鞘構造の繊維であって、さらに、芯部に独立気泡が形成されているものが提案されている。この繊維は芯部の独立気泡によって入射光が乱反射され、白度が向上するものである。
しかしながら、この繊維の独立気泡は芯部に形成されており、しかも独立気泡は小さいので入射光が十分に乱反射されない。したがって、ある程度は白度が向上するが十分ではなく、独特の光沢を有する繊維とはならないという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述した問題点を解決し、炭化ジルコニウム微粒子を含有し、蓄熱保温性に優れると同時に、独特の光沢を有し、白度が向上した布帛を得ることができる井型断面形状の中空複合繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究の結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、断面形状が四角形であり、中心部付近に中空部を有する四角形部のそれぞれの角に、略直角をなす2つの突起部を有する井型断面形状を呈する中空繊維であって、四角形部が炭化ジルコニウム微粒子を繊維全体で0.5 〜7.0 重量%含有する熱可塑性ポリマー、突起部が熱可塑性ポリマーからなり、繊維の横断面における全面積のうち突起部の面積の割合が30%以上であり、繊維の嵩高率が20%以上、明度が45以上であることを特徴とする井型断面中空複合繊維を要旨とするものである。
【0007】
なお、本発明における繊維の嵩高率とは、横断面における中空部と突起部で形成されるデッドエアー部の面積の割合をいう。測定法は、ニコン社製マイクロフォトS光学顕微鏡に顕微鏡写真撮影装置を取り付け、6本の単糸について、単糸の横断面形状を撮影し、図3の本発明の井型断面中空複合繊維の断面模式図に示すように、面積Aと面積Bの値を算出し、次のようにして求めるものであり、6本の平均値とする。
嵩高率(%)=〔(面積A)/(面積A+面積B)〕×100
【0008】
また、明度(光沢)とは、繊度60d/16fの繊維を織物(経密度113 本/2.54cm,緯密度77本/2.54cmの平織物)とし、この織物を8枚重ねて以下のような条件でL値を測定するものである。
測定機:島津社製UV−3101PC
測定波長:380 〜780 nm
標準白板:硫酸バリウム
光源:D65
【0009】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について詳細に説明する。
本発明の井型断面中空複合繊維の四角形部と突起部とを構成する熱可塑性ポリマーとしては、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610等及びこれらを主成分とするポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等及びこれらを主成分とするポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等及びこれらを主成分とするポリオレフィン等が挙げられる。そして、四角形部と突起部の熱可塑性ポリマーは、同種のものでも異種のものでもよい。
【0010】
次に、本発明の繊維の形状について図面を用いて説明する。図1、図2は、本発明の井型断面中空複合繊維の実施態様を示す断面模式図である。
図1は、断面形状が四角形であり、中心部付近に中空部2を有する中空繊維の四角形部5のそれぞれの角に、略直角をなす2つの突起部4を有する井型断面形状を呈するものである。図2は、四角形部5が中心部付近に中空部2を有し、芯部1と鞘部3からなり、四角形部の鞘部3と突起部4が同じポリマーで形成されている芯鞘形状の井型断面中空複合繊維である。
【0011】
本発明の井型断面中空複合繊維を構成する熱可塑性ポリマーには、繊維全体に対する割合で、炭化ジルコニウム微粒子を0.5 〜7.0 重量%、好ましくは0.7 〜5.0 重量%含有させる。
すなわち、図1に示す形状のものは四角形部5を、図2に示す形状のものは四角形部5の芯部1を、炭化ジルコニウム微粒子を含有する熱可塑性ポリマーで構成するものである。
炭化ジルコニウム微粒子の含有量が0.5 重量%未満であると、十分な蓄熱保温性を付与することができない。一方、含有量が7.0 重量%を超えると、保温性の効果は飽和し、コストが高くなり、また、紡糸性が悪化し、繊維の強度が低下しやすくなる。
【0012】
本発明で使用する炭化ジルコニウムの微粒子としては、平均粒径が5μm以下のものが好ましく、さらには1μm以下がよい。平均粒径が5μmを超えると、紡糸工程においてろ材の目詰まりが生じやすく、これに起因して糸切れが生じやすくなる。
【0013】
本発明の井型断面中空複合繊維は、繊維の横断面における全面積のうち突起部の面積の割合が30%以上であり、繊維の嵩高率が20%以上であることが必要である。本発明の井型断面中空複合繊維は、このような突起部を有する井型の断面形状の中空繊維であるため、突起部により外部からの入射光が反射されるので、四角形部の炭化ジルコニウム微粒子の着色は隠蔽され、白度が向上するとともに、独特の光沢を呈し、明度が45以上の繊維とすることができる。さらに、製編織して布帛にしたときには、突起部により嵩高性が付与されると同時に、繊維間にデッドエアー部が形成され、保温性が向上するものである。
【0014】
さらに、中空部2が形成されていることにより、中空部2もデッドエアー部となるため、炭化ジルコニウム微粒子により蓄熱された熱を逃がしにくくなり、保温性が向上するとともに、中空部2を有することによって、軽量感にも優れる布帛となる。
【0015】
本発明においては、図2に示すように、四角形部5が中空部2を有し、芯部1と鞘部3からなる芯鞘形態を呈することによって、芯部1のポリマーに含有された炭化ジルコニウム微粒子の着色は、鞘部3により隠蔽され、図1に示す形状の繊維よりもさらに白度が向上したものとすることができる。
【0016】
図2に示すように、四角形部5が芯部1と鞘部3からなる芯鞘複合形態を呈する場合、鞘部と突起部は熱可塑性ポリマーからなり、繊維の横断面における全面積のうち芯部の面積の割合が20〜60%であることが好ましい。芯部1の割合が20%未満であると、芯部1のポリマー中の炭化ジルコニウム微粒子の割合が多くなりすぎ、繊維の強度が低下したり、繊維の形成性が悪くなりやすい。芯部1の割合が60%を超えると、鞘部の割合が少なくなりすぎ、芯部の着色を隠蔽する作用が乏しくなりやすい。
【0017】
図1、2に示す本発明の井型断面中空複合繊維は、繊維の横断面における全面積のうち突起部4の面積の割合が30%以上である。突起部4の面積の割合が30%未満であると、繊維全体に占める突起部の割合が少なくなり、外部からの入射光を十分に反射できず、明度が45以上の繊維とならず、また、得られる布帛に嵩高性や保温性を付与することができない。
突起部4の面積の割合の上限は特に限定されるものではないが、60%程度とすることが好ましい。面積の割合が60%を超えると、繊維の形状の維持が難しくなりやすい。
【0018】
さらに、断面積における中空部と突起部で形成される繊維間のデッドエアー部の面積の割合である、繊維の嵩高率が20%以上であることが必要である。嵩高率が20%未満である場合、形成されるデッドエアー部が少なくなりすぎ、この繊維より得られた布帛は、保温性が不十分であり、軽量感にも乏しいものとなる。嵩高率の上限は、特に限定されるものではないが、40%程度とすることが好ましい。嵩高率が40%を超える場合、中空部が大きすぎる場合は中空割れの生じた繊維となりやすく、突起部の長さが長すぎる場合は、繊維の形状の維持が難しくなり、また、得られた布帛の品位が低下しやすい。
【0019】
さらに、本発明の井型断面中空複合繊維は、明度が45以上の繊維であることが必要である。この明度は、突起部による入射光の反射により影響される値であり、炭化ジルコニウム微粒子の含有量が増えれば、この明度の値は下がり、ポリマー中に酸化チタンを含有すれば、この明度の値はあがる。本発明の繊維は、突起部、四角形部ともに酸化チタンを含有しないポリマーからなる場合でも、明度が45以上となるものであり、突起部、四角形部のどちらか一方が酸化チタンを含有するポリマーからなるものである場合には、明度が50以上となるものである。
【0020】
酸化チタンを含まず、炭化ジルコニウム微粒子を本発明で規定する含有量程度を芯部に含む丸断面形状の芯鞘複合繊維では、この明度の値はせいぜい38程度である。本発明の繊維のように、突起部の割合が30%以上であり、繊維の嵩高率が20%以上である井型断面形状の繊維とすることにより、酸化チタンを含有していない場合でも明度が45以上の繊維とすることができる。
そして、明度が45以上の繊維とすることで、得られる布帛は炭化ジルコニウム微粒子による着色が隠蔽されて、独特の光沢感と優れた白度を有するものとなり、優れた染色性をも有するものとなる。
【0021】
四角形部や突起部のポリマーに酸化チタンを含有させる場合としては、炭化ジルコニウム微粒子に加えて、例えば特公昭60−21553 号公報に開示されているような白色導電性微粒子として知られている、酸化錫と酸化アンチモンで表面被覆した被覆酸化チタン微粒子を含有させてもよい。炭化ジルコニウム微粒子と被覆酸化チタン微粒子とを併用することによって、炭化ジルコニウム微粒子の量を減じても、蓄熱保温性を低下させることがないので、白度の向上した繊維とすることができる。
なお、炭化ジルコニウム微粒子と被覆酸化チタン微粒子とを併用する場合でも、炭化ジルコニウム微粒子は少なくとも0.5 重量%含有させ、両者の含有量は 7.0重量%を超えないものとする。
【0022】
本発明の井型断面中空複合繊維は、複合繊維の製造の常法に従い、複合紡糸装置を用いて製造することができ、生産性よく製造するためには、高速溶融紡糸法を採用することが望ましい。
【0023】
【作用】
本発明の井型断面中空複合繊維は、炭化ジルコニウム微粒子が配合されているため蓄熱保温性に優れ、突起部を有するため、外部からの入射光は突起部により反射され、炭化ジルコニウム微粒子の着色を隠蔽することができる。
すなわち、突起部の割合を特定のものとし、繊維の嵩高率が20%以上である井型断面形状の繊維であるため、外部からの入射光が突起部により良好に反射され、繊維の明度を45以上とすることができ、独特の光沢感と優れた白度を有し、良好な染色性をも有する布帛を得ることができる。そして、中空部により形成されるデッドエアー部と突起部により繊維間に形成されるデッドエアー部により、炭化ジルコニウム微粒子により蓄熱された熱を逃がしにくくなり、得られる布帛は保温性に優れ、軽量感にも優れるものとなる。さらに、四角形部が中空部を有する芯鞘形態を呈する複合繊維とすることによって、炭化ジルコニウム微粒子の着色を隠蔽する効果が向上し、さらに明度の高い繊維とすることができ、得られる布帛の光沢感と白度を向上させることができる。
【0024】
【実施例】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。
なお、繊維の断面形状と蓄熱保温性の測定は次のようにして行い、繊維の嵩高率と明度の評価は前記の方法で行った。
〔繊維の断面形状〕
ニコン社製マイクロフォトS光学顕微鏡に顕微鏡写真撮影装置を取り付け、6本の単糸について、単糸の横断面形状を撮影し、突起部と芯部の面積の割合をそれぞれ算出し、その平均値とした。
〔蓄熱保温性〕
得られた繊維を経、緯糸として用い、経密度113 本/2.54cm,緯密度77本/2.54cmの平織物を製織し、20℃、65%RHの恒温室内において1.5 mの距離から500 W白色電球の光を照射し、照射開始約3分後に反対側の表面温度を日本電子社製赤外センサー:サーモビュアによって測定した。
【0025】
実施例1〜3、比較例1〜2
相対粘度(96%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dl、温度25℃で測定した。)3.5 のナイロン6ペレット96重量部と平均粒径0.7 μmの炭化ジルコニウム微粒子を4重量部を添加し、均一に溶融混合してマスターペレットを得た。このマスターペレット(四角形部を形成)と、炭化ジルコニウム微粒子を含有しない相対粘度3.5 のナイロン6ペレット(図1の形状においては突起部、図2の形状においては突起部と鞘部を形成)をそれぞれ別々のエクストルーダーに供給した。
そして、複合紡糸口金装置に導入し、紡糸温度 275℃で紡糸し、ローラ間で延伸を施し、3500m/分の速度で巻き取り、図1、図2に示すような井型断面形状の中空複合繊維(60d/16f)を得た。このとき、吐出量、延伸倍率を変更して表1に示すような断面形状を有する繊維を得た。
得られた繊維の横断面における突起部の割合、芯部の割合、嵩高率、明度、布帛の蓄熱保温性の評価を表1に示す。
【0026】
比較例3
突起部を有していない丸断面形状の芯鞘中空複合繊維とした以外は、実施例1と同様にして行った。
得られた繊維の横断面における芯部の割合、嵩高率、明度、布帛の蓄熱保温性の評価を表1に示す。
【0027】
実施例4〜5
四角形部を形成するポリマーを、ナイロン6ペレット94重量部と平均粒径0.7 μmの炭化ジルコニウム微粒子を4重量部、平均粒径0.2 μmの被覆酸化チタン微粒子〔三菱金属社製白色導電性微粒子W1(cTiO2)〕を2重量部を添加したものとし、突起部と鞘部を形成するポリマーを通常の酸化チタンを0.25%含有したものとした以外は、実施例1と同様に行った。
得られた繊維の横断面における突起部の割合、芯部の割合、嵩高率、明度、布帛の蓄熱保温性の評価を表1に示す。
【0028】
【表1】
Figure 0003753281
【0029】
表1より明らかなように、実施例1〜5の複合繊維は、蓄熱保温性に優れ、独特の光沢感と優れた白度を有する布帛とすることができた。
一方、比較例1、2の繊維は、横断面における突起部の割合が少なすぎたため、外部からの入射光を十分に反射できず、明度が45以上の繊維とならず、得られた布帛は独特の光沢感と白度に乏しく、また、蓄熱保温性にも劣るものであった。比較例3は、突起部を有していない丸断面形状の芯鞘中空複合繊維であったため、明度が低く、得られた布帛は独特の光沢感と白度を有しておらず、蓄熱保温性にも乏しいものであった。
【0030】
【発明の効果】
本発明の井型断面中空複合繊維は、製編織すれば、蓄熱保温性に優れると同時に、独特の光沢感と優れた白度を有し、染色性にも優れた布帛を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の井型断面中空複合繊維の一実施態様を示す断面模式図である。
【図2】本発明の井型断面中空複合繊維の他の実施態様を示す断面模式図である。
【図3】本発明の井型断面中空複合繊維の嵩高率の算出方法を示す断面模式図である。
【符号の説明】
1 芯部
2 中空部
3 鞘部
4 突起部
5 四角形部

Claims (3)

  1. 断面形状が四角形であり、中心部付近に中空部を有する四角形部のそれぞれの角に、略直角をなす2つの突起部を有する井型断面形状を呈する中空繊維であって、四角形部が炭化ジルコニウム微粒子を繊維全体で0.5 〜7.0 重量%含有する熱可塑性ポリマー、突起部が熱可塑性ポリマーからなり、繊維の横断面における全面積のうち突起部の面積の割合が30%以上であり、繊維の嵩高率が20%以上、明度が45以上であることを特徴とする井型断面中空複合繊維。
  2. 四角形部が中空部を有する芯鞘形態を呈し、芯部が炭化ジルコニウム微粒子を繊維全体で0.5 〜7.0 重量%含有する熱可塑性ポリマー、鞘部と突起部が熱可塑性ポリマーからなり、繊維の横断面における全面積のうち芯部の面積の割合が20〜60%である、請求項1記載の井型断面中空複合繊維。
  3. 四角形部を形成する熱可塑性ポリマーと突起部を形成する熱可塑性ポリマーの少なくとも一方が酸化チタンを含有し、明度が50以上である請求項1又は2記載の井型断面中空複合繊維。
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