JP3752989B2 - 印刷媒体に応じた副走査送り誤差の設定 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、印刷媒体上に画像の記録を行う印刷技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンピュータの出力装置としては、インクをヘッドから吐出するインクジェットプリンタやレーザプリンタが普及している。特に、近年では、カラーインクを用いたカラープリンタも広く利用されている。インクの発色性は、印刷媒体の種類に大きく依存するので、プリンタメーカは、カラー印刷専用の各種の印刷媒体を供給している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
印刷媒体の種類は、インクの発色性のみでなく、印刷媒体の送り(以下、「紙送り」と呼ぶ)の精度に影響を与える。例えば、表面が滑り易い印刷媒体と、表面が滑り難い印刷媒体では、同じ紙送り動作を行っても、実際の送り量がかなり異なる場合がある。
【0004】
送り精度の良否は、画質の良否に大きな影響がある。しかし、従来は、印刷媒体の種類に応じた紙送りの精度に関しては、あまり考慮がなされていなかった。このような問題は、カラープリンタのみでなく、他の印刷装置においても共通する問題であった。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、印刷媒体の種類に応じた紙送りの精度を考慮して、画質を向上させることが可能な技術を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
上記目的を達成するために、本発明の印刷装置は、前記印刷媒体を間欠的に多数回の送りで移動させる送り機構を備える。前記送り機構は、前記印刷装置での使用が予定されている複数種類の印刷媒体の中で、最も滑り易い印刷媒体に関する平均送り誤差δave がゼロ近傍の値を取るように調整されていることを特徴とする。
【0007】
このような印刷装置では、最もすべり易い印刷媒体に関する平均送り誤差δave がゼロ近傍の値に調整されているので、特に滑り易い印刷媒体に関しても、画質を向上させることが可能である。
【0008】
なお、印刷装置は、インクを吐出して前記印刷媒体上にドットを形成するための印刷ヘッドを備え、前記印刷ヘッドは、少なくとも1色分のインクに関して、前記印刷媒体の送り方向に沿ってピッチk・D(kは1以上の整数、Dは前記送り方向における最小のドットピッチ)で配列されて同一のインクを吐出するN個(Nは2以上の整数)のノズルを有しているようにしてもよい。このとき、前記最も滑り易い印刷媒体に関する前記平均送り誤差δave は、前記送りをN×(k・D)以下の送り量で実行したときの平均誤差である。
【0009】
また、前記最も滑り易い印刷媒体に関する前記平均送り誤差δave は、約−0.5Dと約+0.5Dとの間にあることが好ましい。
【0010】
さらに、前記印刷装置での使用が予定されている前記複数種類の印刷媒体のすべてに関して、前記平均送り誤差δave が約−0.5Dと約+0.5Dとの間にあることが好ましい。この構成では、すべての印刷媒体に関して画質を向上させることが可能である。
【0011】
なお、前記整数kが2以上の値であるときに、前記最も滑り易い印刷媒体に関する前記平均送り誤差δave に(k−1)を乗じた値(k−1)δave は、約−0.5Dと約+0.5Dとの間にあることが特に好ましい。
【0012】
整数kが2以上のとき(すなわちノズルピッチが2D以上のとき)には、隣接するラスタラインの間に(k−1)δave の送り誤差が累積される可能性がある。従って、この累積誤差(k−1)δave の値を約−0.5Dと約+0.5Dとの間の値に設定すれば、より画質を向上させることが可能である。
【0013】
前記印刷装置での使用が予定されている前記複数種類の印刷媒体の中で、前記最も滑り易い印刷媒体以外の印刷媒体に関する前記平均送り誤差δave は、プラスの値であるようにしてもよい。また、前記最も滑り易い印刷媒体に関する前記平均送り誤差δave は、マイナスの値であるようにしてもよい。
【0014】
これらの構成では、各種の印刷媒体の送り誤差の全体のバランスをうまくとることによって、この印刷装置の画質を全体として向上させることが可能である。
【0015】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、印刷装置、紙送り装置、および、それらの調整方法等の態様で実現することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.装置の全体構成:
B.副走査送り精度と画質劣化:
C.実施例における送り精度の設定:
D.変形例:
【0017】
A.装置の全体構成:
図1は、本発明の一実施例としてのカラーインクジェットプリンタ20の主要な構成を示す概略斜視図である。このプリンタ20は、用紙スタッカ22と、図示しないステップモータで駆動される紙送りローラ24と、プラテン板26と、キャリッジ28と、キャリッジモータ30と、キャリッジモータ30によって駆動される牽引ベルト32と、キャリッジ28のためのガイドレール34とを備えている。キャリッジ28には、多数のノズルを備えた印刷ヘッド36が搭載されている。
【0018】
印刷用紙Pは、用紙スタッカ22から紙送りローラ24によって巻き取られてプラテン板26の表面上を副走査方向へ送られる。キャリッジ28は、キャリッジモータ30により駆動される牽引ベルト32に牽引されて、ガイドレール34に沿って主走査方向に移動する。主走査方向は、副走査方向に垂直である。
【0019】
図2は、プリンタ20の電気的な構成を示すブロック図である。プリンタ20は、ホストコンピュータ100から供給された信号を受信する受信バッファメモリ50と、印刷データを格納するイメージバッファ52と、プリンタ20全体の動作を制御するシステムコントローラ54とを備えている。システムコントローラ54には、キャリッジモータ30を駆動する主走査駆動ドライバ61と、紙送りモータ31を駆動する副走査駆動ドライバ62と、印刷ヘッド36を駆動するヘッド駆動ドライバ63とが接続されている。
【0020】
主走査駆動ドライバ61と、キャリッジモータ30と、牽引ベルト32(図1)と、ガイドレール34は、主走査駆動機構を構成している。また、副走査駆動ドライバ62と、紙送りモータ31と、紙送りローラ24(図1)は、副走査駆動機構(または「送り機構」と呼ぶ)を構成している。
【0021】
ホストコンピュータ100のプリンタドライバ(図示せず)は、印刷を行うための印刷データを生成して、プリンタ20に転送する。転送された印刷データは、一旦、受信バッファメモリ50に蓄えられる。プリンタ20内では、システムコントローラ54が、受信バッファメモリ50から印刷データの中から必要な情報を読取り、これに基づいて、各ドライバ61,62,63に対して制御信号を送る。
【0022】
イメージバッファ52には、受信バッファメモリ50で受信された印刷データを色成分毎に分解して得られた複数の色成分のイメージデータが格納される。ヘッド駆動ドライバ63は、システムコントローラ54からの制御信号に従って、イメージバッファ52から各色成分のイメージデータを読出し、これに応じて印刷ヘッド36に設けられた各色のノズルアレイを駆動する。
【0023】
図3は、印刷ヘッド36の下面におけるノズル配列を示す説明図である。印刷ヘッド36の下面には、ブラックインクを吐出するためのブラックインクノズル群KD と、濃シアンインクを吐出するための濃シアンインクノズル群CD と、淡シアンインクを吐出するための淡シアンインクノズル群CL と、濃マゼンタインクを吐出するための濃マゼンタインクノズル群MD と、淡マゼンタインクを吐出するための淡マゼンタインクノズル群ML と、イエローインクを吐出するためのイエローインクノズル群YD とが形成されている。
【0024】
なお、各ノズル群を示す符号における最初のアルファベットの大文字はインク色を意味しており、また、添え字の「D 」は濃度が比較的高いインクであることを、添え字の「L 」は濃度が比較的低いインクであることを、それぞれ意味している。
【0025】
各ノズル群の複数のノズルは、副走査方向SSに沿って一定のノズルピッチk・Dでそれぞれ整列している。ここで、Dは副走査方向における最小のドットピッチ(すなわち、副走査方向の最高印刷解像度でのドットピッチ)であり、kは1以上の整数である。ドットピッチDは、例えば副走査方向の最高印刷解像度が720dpiのときには、1/720インチ(=35.3μm)である。整数kとしては、例えば4や6などの値が使用される。
【0026】
各ノズルには、各ノズルを駆動してインク滴を吐出させるための駆動素子としてのピエゾ素子(図示せず)が設けられている。印刷時には、キャリッジ28(図1)とともに印刷ヘッド36が主走査方向MSに移動しつつ、各ノズルからインク滴が吐出される。
【0027】
B.副走査送り精度と画質劣化:
図4は、送り誤差が無い場合の副走査とドット記録の様子を示す説明図である。この図では、説明の便宜上、印刷ヘッド36は1色分の7個のノズルのみを有するものとしている。このノズル群の副走査方向のノズルピッチk・Dは、ドットピッチDの4倍である。なお、印刷ヘッド36内において、丸の中に示されている数字0〜7は、ノズル番号を意味している。
【0028】
印刷媒体PMは、1回の主走査が終了するたびに、副走査駆動機構によって上方に一定の送り量L・D(Lは整数、Dはドットピッチ)で副走査送りされる。図4の例では、L=7である。なお、本明細書においては、1回分の主走査を「パス」とも呼ぶ。一定の送り量L・Dで副走査送りを行う場合には、整数Lとしては、整数Lを整数k(ノズルピッチを表す)で割ったときの余りが(k−1)になるような値を採用することが好ましい。
【0029】
「パス1」と記載された印刷媒体PM内において、丸で囲まれた数字は、1回目のパスにおいて記録対象となるラスタライン(「主走査ライン」とも呼ぶ)上のドット位置(「画素位置」とも呼ぶ)の記録を担当するノズル番号を表している。すなわち、パス1では、印刷ヘッド36が主走査方向に移動しつつ5番ないし6番ノズルからインクをそれぞれ吐出することによって、2本のラスタライン上のドット位置にドットを記録する。パス2に関しては、各ラスタラインのドット記録を担当するノズル番号が、正方形で囲まれた数字で表されており、また、パス3に関しては、六角形で囲まれた数字で、パス4に関しては八角形で囲まれた数字でそれぞれ表されている。パス2では、パス1で記録されたラスタラインの直ぐ上のラスタラインが記録される。また、パス3では、パス2で記録されたラスタラインの直ぐ上のラスタラインが記録される。このように、ほとんどのパスでは、その直前のパスで記録されたラスタラインの直ぐ上のラスタラインが記録されている。
【0030】
このように、図4の記録方式では、副走査送りが行われたびに印刷媒体PMが7ドット分ずつ上方にずれてゆき、各ノズルは、1回の主走査中にそれぞれのラスタライン上のすべてのドット位置を記録対象としてドット記録を実行する。なお、パス4の印刷媒体PMの右側に記されている「パス1」〜「パス4」の文字は、パス4までに記録されたドット位置が、それぞれどのパスで記録対象となったかを示している。
【0031】
図5は、送り誤差が存在する場合の副走査とドット記録の様子を示す説明図である。ここでは、各回の副走査送りの送り量Lが、一定のプラスの送り誤差δave を有しているものと仮定している。すなわち、図5のパス2では、図4の理想的な場合に比べて、印刷媒体PMが誤差δave だけ余分に上方に送られている。従って、パス2において記録されるラスタライン上のドット位置(四角で囲まれた数字で表されている)は、図4の場合に比べてやや上側にずれている。この結果、パス1で記録されるラスタラインと、パス2で記録されるラスタラインとは、やや重なり合っている。パス3とパス4においても、同様に、印刷媒体PMが誤差δave だけ余分に上方に送られるので、記録されるラスタライン上のドット位置は、δave ずつ上側にずれてゆく。
【0032】
なお、実際には、送り誤差は副走査送りのたびに異なる値を取るのが普通である。図5に示す送り誤差δave は、このような変動する送り誤差の平均値であると考えることができる。すなわち、図5は、各回の副走査送りが、平均送り誤差δave に等しい誤差を有しているような仮想的な場合を示している。
【0033】
図6(A)は、図5の各パスにおいて記録されるラスタラインの位置関係を示している。パス2において4番ノズルで記録されるラスタラインL5は、パス1において6番ノズルで記録されたラスタラインL6から(D−δave )だけ離れている。すなわち、これらのラスタラインL5,L6の間のピッチは、理想的なドットピッチD(すなわちラスタラインの理想ピッチ)よりも送り誤差δave だけ短い。このようなズレは、パス2とパス3の間、および、パス3とパス4の間においても同様に発生する。この結果、パス4において0番ノズルで記録されるラスタラインL3と、パス1において5番ノズルで記録されたラスタラインL2との間のピッチは(D+3δave )になり、ドットピッチDよりも3δave だけ大きい。換言すれば、パス1において記録されるラスタラインL2と、パス4において記録されるラスタラインL3との間には、3回分の送り誤差−3δave が累積されている。
【0034】
図6(B)は、送り誤差がマイナスの値−δave の場合を示している。この場合も、図6(A)と同様に、ラスタラインL2,L3の間の距離に、3回分の送り誤差−δave が累積されているが、その値の符号は図6(A)の場合と逆である。すなわち、これらの2本のラスタラインL2,L3の間のピッチは、ドットピッチDよりも3δave だけ小さい。
【0035】
図6(A),(B)から理解できるように、送り量が一定の副走査送り(「定則送り」と呼ぶ)を伴うインターレース印刷を実行すると、隣接するラスタライン間の累積送り誤差の最大値は、(k−1)δave になる場合が多い。ここで、kはノズルピッチを表す整数である。なお、「インターレース印刷」とは、整数kが2以上であって、1回のパスで記録されるラスタラインの間に記録されないラスタラインが挟まれるような印刷方式を意味する。
【0036】
図6(A)の場合には、ラスタラインL2,L3の間のピッチが理想的なピッチDよりも大きいので、この2本のラスタラインL2,L3の部分は、肉眼では色の薄い筋状の部分に見える。このような色の薄い筋状の部分(以下、「明バンディング」または「淡バンディング」と呼ぶ)は、画質劣化として観察される。
【0037】
一方、図6(B)の場合には、ラスタラインL2,L3の間のピッチが理想的なピッチDよりも小さいので、この2本のラスタラインL2,L3の部分は、肉眼では色の濃い筋状の部分に見える。このような色の濃い筋状の部分(以下、「暗バンディング」または「濃バンディング」と呼ぶ)も、画質劣化として観察される。
【0038】
このように、副走査送り量に誤差δave が存在すると、明バンディングや暗バンディングが発生する。従って、副走査送り機構は、その平均送り誤差δave がゼロ近傍の値をとるように調整されていることが好ましい。ここで、「ゼロ近傍の平均誤差δave 」とは、約−0.6D〜約+0.6D(Dは副走査方向の最高印刷解像度におけるドットピッチ)の範囲の値を意味している。なお、平均誤差δave としては、約−0.5D〜約+0.5Dの範囲の値であることが好ましい。また、図6(A),(B)から理解できるように、インターレース印刷では、隣接するラスタライン同士の間には、(k−1)δave だけずれることがある。そこで、このズレ量(k−1)δave が、ドットピッチDの約−0.5D〜約+0.5Dの範囲の値であることが特に好ましい。例えば、副走査方向の最高解像度が720dpiである場合には、平均送り誤差δave は、約−21μm〜約+21μmの範囲の値であれば良いが、約−18μm〜約+18μmの範囲の値であることが好ましく、特に、k=4の時には約−6μm〜約+6μmの範囲の値であることが好ましい。平均送り誤差δave がこのような範囲に収まっている場合には、送り誤差に起因するバンディングによる画質劣化を防止することが可能である。
【0039】
ところで、カラー印刷では、明バンディングよりも、暗バンディングの方が目立ち易い傾向にあることが判明した。この理由は、カラー印刷では、複数色のインクドットが記録されるので、明バンディングが発生しても、その影響が他のインクのドットによって緩和されるからであると推測される。従って、送り誤差δave としては、マイナスの値よりも、プラスの値の方が好ましい。
【0040】
但し、平均送り誤差δave の値は、印刷媒体の種類に依存する。すなわち、印刷媒体には、比較的滑り易いものと、比較的滑り難いものとが存在する。滑り易い印刷媒体では、平均送り誤差δave がマイナスになる傾向にあり、一方、滑り難い印刷媒体では、平均送り誤差δave がプラスになる傾向にある。また、プリンタ20は、通常は複数種類の印刷媒体を使用可能である。そこで、以下に説明するように、比較的滑り易い印刷媒体と、比較的滑り難い印刷媒体とに関して、送り誤差δave を適切に設定することによって、画質を向上させることができる。
【0041】
C.実施例における送り精度の設定:
図7は、ホストコンピュータ100(図2)の画面に表示されたプリンタドライバのユーザインタフェースを示す説明図である。ユーザは、このプリンタ20での使用が予定されている複数種類の印刷媒体(「印刷用紙」とも呼ぶ)の中から、実際に使用する印刷媒体を1つ選択することができる。ここで、「プリンタ20での使用が予定されている複数種類の印刷媒体」とは、このプリンタ20用として市販されている印刷媒体を意味している。
【0042】
図8は、3種類の印刷媒体に関する送り誤差δの第1の設定例を示す説明図である。図8(A)には、普通紙と、光沢フィルムと、写真用紙の3種類の印刷媒体に関する送り誤差δの変動が示されている。送り誤差δは、副走査のたびに変動しているが、平均的な送り誤差はほぼ一定している。すなわち、平均送り誤差δave は、普通紙では約15μmであり、光沢フィルムでは約8μm、写真用紙は約0μmである。
【0043】
ところで、滑り難い印刷媒体が副走査駆動機構によって送られると、ほとんど滑りの無い状態で送られる。一方、滑り易い印刷媒体は滑りながら送られるので、滑る難い印刷媒体よりも送られる量が少なくなる。すなわち、印刷媒体が「より滑り易い」という文言は、送り誤差δの値がより小さいことを意味している。これから理解できるように、図8の3種類の印刷媒体の中では、普通紙が最も滑り難く、写真用紙が最も滑り易い。写真用紙は、図7に示した複数種類の印刷媒体の中で最も滑りやすいものである。図8(B)は、これらの印刷媒体に関する累積送り誤差Σδを示している。
【0044】
なお、本明細書において、「送り誤差δ」は、プリンタ20内において副走査駆動機構に与えられた送り量の命令と、実際の送り量との差を意味している。例えば、図8(A)の送り誤差δの値は、システムコントローラ54(図2)から副走査駆動ドライバ62に7ドット分送ることが命令されたときに、実際の送り量が7D+δであったことを意味している。
【0045】
送り誤差δは、例えば一定の送り量で副走査送りを繰り返し実行した場合について測定される。なお、副走査送り量は、一般に、N×(k・D)以下の値となる。ここで、Nは副走査方向に沿って配列された1色分のノズルの個数、k・Dはノズルピッチである。この理由は、N×(k・D)を超える送り量で副走査送りを行うと、記録できないラスタラインが残ってしまうからである。但し、送り誤差δおよびその平均値δave の測定時には、プリンタ20で実行することが予定されている副走査送りを実際に実行して、送り誤差δの測定を行うことが好ましい。
【0046】
図8(A)の例では、プリンタ20での使用が予定されている複数種類の印刷媒体の中で、最も滑り易い写真用紙の平均送り誤差δave がほぼ0になるように、副走査送り機構が調整されている。また、他の印刷媒体の平均送り誤差δave の値はプラスなので、図6で説明したように、他の印刷媒体では明バンディングが発生する可能性がある。しかし、バンディングとしては、暗バンディングよりも明バンディングの方が目立ちにくく、画質に与える影響が少ない。従って、暗バンディングの発生を防止するという意味からは、図8(A)のような設定が好ましい。
【0047】
なお、図8の例では、副走査方向の最高解像度が720dpiであり、これに相当するドットピッチDは35.3μmである。従って、普通紙の平均送り誤差δave は、このドットピッチDの約0.42倍である。前述したように、この明細書においては、平均送り誤差δave が約−0.6D〜約+0.6Dの範囲の値であるときには、その平均送り誤差δave は「ゼロ近傍にある」と言う。従って、図8の例においては、3種類のすべての印刷媒体に関して、平均送り誤差δave がゼロ近傍にあると言える。
【0048】
図9は、3種類の印刷媒体に関する送り誤差δの第2の設定例を示す説明図である。この例では、平均送り誤差δave は、普通紙では約10μmであり、光沢フィルムでは約3μm、写真用紙は約−5μmである。この設定例においても、すべての印刷媒体の平均送り誤差δave がゼロ近傍にある。
【0049】
図9の例では、写真用紙では暗バンディングが発生し、光沢フィルムや普通紙では明バンディングが発生する可能性がある。しかし、写真用紙に関する平均送り誤差δave は0に極めて近い値なので、暗バンディングの程度も比較的軽い。一方、普通紙の送り誤差δの値は図8の場合よりも小さくなっており、従って、送り誤差δに起因する明バンディングも図8の設定例よりも軽減される。このように、図9の設定例では、各種の印刷媒体に関する平均送り誤差δave が、全体として、図8の設定例よりもゼロに近くなるように副走査送り機構が調整されている。従って、どの印刷媒体を使用しても、過度なバンディングが発生することが無いという利点がある。
【0050】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0051】
D1.変形例1:
上記実施例では、副走査送り量として一定の値を採用する「定則送り」を行うプリンタについて説明したが、副走査送り量として異なる複数の値を採用する「変則送り」を行うプリンタについても、本発明を適用することが可能である。
【0052】
D2.変形例2:
上記実施例では、カラーインクジェットプリンタについて説明したが、本発明は、モノクロプリンタにも適用可能であり、また、インクジェット方式以外のプリンタにも適用可能である。本発明は、一般に、印刷媒体上に画像の記録を行う印刷装置に適用可能であり、例えばファクシミリ装置やコピー機にも適用することが可能である。
【0053】
D3.変形例3:
上記実施例では、ノズルピッチを表す整数kが4の場合について説明したが、この整数kは1以上の任意の整数を取りうる。但し、k=1の時には、ノズルピッチがドットピッチDに等しいので、図6において説明したような送り誤差の累積の問題は発生しない。従って、本発明は、特に整数kが2以上の場合に適用した場合に顕著な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例としてのカラーインクジェットプリンタ20の主要な構成を示す概略斜視図。
【図2】プリンタ20の電気的な構成を示すブロック図。
【図3】印刷ヘッド36の下面におけるノズル配列を示す説明図。
【図4】送り誤差が無い場合の副走査とドット記録の様子を示す説明図。
【図5】送り誤差が存在する場合の副走査とドット記録の様子を示す説明図。
【図6】送り誤差δave がプラスの場合とマイナスの場合とにおけるラスタラインのズレを示す説明図。
【図7】プリンタドライバのユーザインタフェースを示す説明図。
【図8】印刷媒体に関する送り誤差δの第1の設定例を示す説明図。
【図9】印刷媒体に関する送り誤差δの第2の設定例を示す説明図。
【符号の説明】
20…カラーインクジェットプリンタ
22…用紙スタッカ
24…紙送りローラ
26…プラテン板
28…キャリッジ
30…キャリッジモータ
31…紙送りモータ
32…牽引ベルト
34…ガイドレール
36…印刷ヘッド
50…受信バッファメモリ
52…イメージバッファ
54…システムコントローラ
61…主走査駆動ドライバ
62…副走査駆動ドライバ
63…ヘッド駆動ドライバ
100…ホストコンピュータ
Claims (7)
- 印刷媒体上に画像の記録を行う印刷装置であって、
前記印刷媒体を間欠的に多数回の送りで移動させる送り機構を備え、
前記送り機構は、前記印刷装置での使用が予定されている複数種類の印刷媒体の中で、最も滑り易い印刷媒体に関する平均送り誤差δave がゼロ近傍の値を取るように調整されていることを特徴とする印刷装置。 - 請求項1記載の印刷装置であって、さらに、
インクを吐出して前記印刷媒体上にドットを形成するための印刷ヘッドを備え、
前記印刷ヘッドは、少なくとも1色分のインクに関して、前記印刷媒体の送り方向に沿ってピッチk・D(kは1以上の整数、Dは前記送り方向における最小のドットピッチ)で配列されて同一のインクを吐出するN個(Nは2以上の整数)のノズルを有しており、
前記最も滑り易い印刷媒体に関する前記平均送り誤差δave は、前記送りをN×(k・D)以下の送り量で実行したときの平均誤差である、印刷装置。 - 請求項2記載の印刷装置であって、
前記最も滑り易い印刷媒体に関する前記平均送り誤差δave は、約−0.5Dと約+0.5Dとの間にある、印刷装置。 - 請求項3記載の印刷装置であって、
前記印刷装置での使用が予定されている前記複数種類の印刷媒体のすべてに関して、前記平均送り誤差δave が約−0.5Dと約+0.5Dとの間にある、印刷装置。 - 請求項3または4記載の印刷装置であって、
前記整数kは2以上の値であり、
前記最も滑り易い印刷媒体に関する前記平均送り誤差δave に(k−1)を乗じた値(k−1)δave は、約−0.5Dと約+0.5Dとの間にある、印刷装置。 - 請求項2ないし5のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記印刷装置での使用が予定されている前記複数種類の印刷媒体の中で、前記最も滑り易い印刷媒体以外の印刷媒体に関する前記平均送り誤差δave は、プラスの値である、印刷装置。 - 請求項6記載の印刷装置であって、
前記最も滑り易い印刷媒体に関する前記平均送り誤差δave は、マイナスの値である、印刷装置。
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