JP3749746B2 - 均質な酢酸セルロース - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はアセトンなどの有機溶媒への溶解性に優れる酢酸セルロースに関する。パルプ、リンター等のセルロースを原料として得られる酢酸セルロースはフィルム、繊維などに適した有用な化学品である。
【0002】
【従来の技術】
平均酢化度55%程度の酢酸セルロースはアセトンなどの有機溶媒に溶解した後、流延、乾式紡糸するなどして、フィルム材料や繊維材料に成形される。木材パルプから調製した一般の酢酸セルロースのアセトン溶液には通常3〜7重量%もの不溶物が存在しており、これらはフィルム成形品のフィッシュアイや紡糸時の紡糸性低下の原因となることが懸念されている。例えば、特開昭50−36724にはアセトンを溶媒とした乾式紡糸による繊維の製造において、アセトンを溶媒とするGPCで未溶解物として検出される成分が紡糸性を損なわしているとして、これらを除去する方法が開示されている。しかし、このような先行技術をもってしても、なお酢酸セルロースの溶液には数%の不溶物が存在することが問題視されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
酢酸セルロースをアセトンなどの有機溶媒に溶解し成形するプロセスにおいて、溶解性に優れ不溶物の少ない酢酸セルロースを提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
酢酸セルロースは水酸基が部分的あるいは完全にアセチル化されたグルコース残基を構成単位とする高分子化合物である。従来より衣料用の繊維、たばこフィルターなどの繊維材料や、めがねフレームなどの成形品として利用されている平均酢化度が55%程度(平均置換度2.45程度)の酢酸セルロースでは、それを構成する個々の分子に注目すると、平均酢化度55%を中心に酢化度の分布、いいかえると化学的不均一性を有している。本発明者らは、鋭意検討の結果、高酢化度の成分と低酢化度の成分はアセトン等の溶液中で各々および共に会合物を形成し、溶解性を損ねており、逆に化学的均一性の高い酢酸セルロースが溶解性に優れることを見い出し本発明を完成した。
【0005】
上述した酢酸セルロースの化学的均一性は、例えばJournal of Chromatography, 629, 243-254(1993) に記載されている高速液体クロマトグラフィーを用いる方法で調べることができる。該分析方法においては溶出曲線幅が広いことは化学的に不均一なことを表わし、狭いことは化学的均一性が高いことを意味する。
【0006】
本発明の酢酸セルロースは、一般的に木材パルプから調製した成形材料の原料として用いる平均酢化度53〜57%、粘度平均重合度200〜600、構成糖に占めるキシロースの割合が0.2〜2.0%、構成糖に占めるマンノースの割合が0.2〜2.0%の試料を対象とした場合、溶出曲線の半値幅が酢化度を単位として2.3%以下さらに望ましくは2.1%以下であることが好ましい。酢化度分布半値幅が2.3%よりも広い酢酸セルロースにおいては、アセトン不溶物が多量に形成されることになる。
【0007】
粘度平均重合度が600以上で、且つ実用に耐える濾過性を有する酢酸セルロースを得ることは難しい。また200以下のものを製造することは容易ではあるが、このような重合度では多くの場合、実用物性が不十分である。酢化度については、本発明がいわゆる二酢酸セルロース(平均酢化度55%付近)を対象としたものであり、平均酢化度が53〜57%の範囲外では本発明の価値はなくなる(例えば三酢酸セルロースにおいては、置換度の分布のないものを調製することは容易である)。
【0008】
構成糖に占めるキシロース又はマンノースの割合が0.2%未満の場合、本発明に依るまでもなく、溶解性に優れ不溶物の少ない酢酸セルロースを得ることは容易である場合が多く、キシロース又はマンノースの割合が2.0%を越える場合、キシロース又はマンノースに起因する不溶物を多量に含むため、本発明の効果が隠されてしまう。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明者らが採用した高速液体クロマトグラフィー分析条件を示す。
【0010】
高速液体クロマトグラフィー条件
溶離液:アセトン/ 水/ メタノール(4/3/1、容量比)から15分間を要して、アセトンへグラジェント
カラム:ハミルトン社製PRP−1(4.1×150mm)
温度:35℃
流速:0.8ml/min
試料溶液:0.2%アセトン溶液
注入量:10μl
検出器:VAREX社MK111
(エバポレイティブ・チューブ温度105℃,
窒素流量2.4l/min)
該分析において、化学的均一性は溶出曲線の半値幅で定義することができる。すなわち、あらかじめ平均酢化度50%、52%、55%、60%程度の酢酸セルロースを用い溶出ピーク時間対平均酢化度の関係について、時間に関する2次関数で検量線を作成する。調べる試料の溶出曲線から、ピーク高さに対して1/2の高さを与える2点の溶出時間をもとめ、検量線から2点の溶出時間に相当する酢化度を算出する。得られた酢化度の差の絶対値を酢化度分布半値幅とする。
【0011】
化学的均一性の高い酢酸セルロースは例えば次のような方法で調製することができる。
【0012】
▲1▼化学的均一性の低い一般の酢酸セルロースを精製する方法。
一般の酢酸セルロースを、高酢化度成分、低酢化度成分に各々に選択性がある溶媒系で沈澱分別あるいは溶解分別を行う。高酢化度成分に対する選択溶解性が高い溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルムなどが例示される。低酢化度成分に対する選択溶解性が高い溶媒としては、アセトン/ メタノール(2/8、重量比)などが例示される。前述したように不溶物の形成には高酢化度成分、低酢化度成分の両方が関係するため、十分に溶解する酢酸セルロースを調製するには両成分を除去することが重要である。
【0013】
▲2▼酢酸セルロースのアセチル化反応において、反応の均一性を高める方法。
アセチル化反応において触媒量を増加させるなどして、アセチル化反応を均一に進める。
【0014】
▲3▼酢酸セルロースの熟成反応において、反応の均一性を高める方法。
熟成反応において反応温度を高めるなどして、脱アセチル化反応を均一に進める。
【0015】
▲4▼酢酸セルロースを合成する製造プロセスにおいて、反応物の滞留などをなくし、生成物の均一性を高める方法。
本発明の化学的均一性が高い酢酸セルロースを得る目的では、前記の方法を二つ以上組合わせてもよい。
【0016】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0017】
(平均酢化度)
乾燥した試料1.9000gを精秤しこれをW(g)とする。120mlのアセトンと70mlのジメチルスルフォキシドを精秤した試料にくわえ、溶解する。30mlの1N−NaOHをくわえ、撹拌しながら、室温で2時間ケン化する。100mlの熱水をくわえ、さらに15分間撹拌する。フェノールフタレインを指示薬としてくわえ、1N−硫酸で滴定し、使用量を0.01mlの精度で読み取り、これをA(ml)とする。同様にブランクテストを行い、このときの1N−硫酸の使用量をB(ml)とする。用いた1N−硫酸のファクターをfとして、次の式から平均酢化度を求める。
平均酢化度(%)=6.005×(B−A)×f/W
【0018】
(粘度平均重合度)
100ml容メスフラスコに乾燥した試料0.5000gを精秤し、これをC(g)とする。約70mlのアセトンを加え試料を溶解させた後、25℃に温調し、アセトンで全容を100mlに合わせる。その10mlをオストワルド粘度管にとり、25℃で標線間を流下する時間を0.01秒の精度で測定しこれをt(秒)とする。同様にブランクテストを行いこのときの流下時間をt0 (秒)とする。次の式から平均重合度を求める。
粘度平均重合度=169.93×[η] 1 . 6 2 3
ここに、 [ η]=(ηsp/C)/(1+k×ηsp)
ηsp=t/t 0 −1
k=0.366
【0019】
(酢化度分布半値幅)
試料の0.2%アセトン溶液を調製し、以下の条件で高速液体クロマトグラフィー分析を行う。
高速液体クロマトグラフィー条件
溶離液:アセトン / 水 / メタノール(4/3/1、容量比)から15分間を要して、アセトンへグラジェント
カラム:ハミルトン社製PRP−1(4.1×150mm)
温度:35℃
流速:0.8ml/min
試料溶液:0.2%アセトン溶液
注入量:10μl
検出器:VAREX社MK111(エバポレイティブ・チューブ温度105℃ , 窒素流量2.4l/min)
【0020】
平均酢化度50%、52%、55%、60%程度の酢酸セルロースを用い溶出ピーク時間対平均酢化度の関係について、時間に関する2次関数で検量線を作成する。調べる試料の溶出曲線から、ピーク高さに対して1/2の高さを与える2点の溶出時間をもとめ、検量線から2点の溶出時間に相当する酢化度を算出する。得られた酢化度の差の絶対値を酢化度分布半値幅とする。
【0021】
(アセトン不溶物)試料の2%アセトン溶液を調製し、15℃で50,000rpm−3時間の条件で遠心分離を行う。沈澱物は乾燥後、再びアセトンに分散し、同じ条件で遠心分離を行う。得られた沈澱物は恒量になるまで真空乾燥し、秤量する。遠心分離に供した試料量に対する沈澱物の割合を百分率で表わし、これをアセトン不溶物量とする。
【0022】
(構成糖)試料を72%硫酸で室温−4時間、次いで6%硫酸で110℃−3時間の条件で加水分解した生成物について、ダイオネクス社の糖分析システムで液体クロマトグラフィー分析し、グルコース、キシロース、マンノースを定量し、これら成分の総量に対する、各成分の割合を算出した。
【0023】
【実施例1】
αセルロース含量96%の針葉樹サルファイトパルプを酢酸/無水酢酸/硫酸を用いる公知の方法でアセチル化した後、酢酸/水系で160℃で熟成し、酢酸セルロースを調製した。得られた酢酸セルロースは、アセトン/メタノール(2/8、重量比)で抽出し4%の低酢化度成分を除去した後、クロロホルムで抽出し3%の高酢化度成分を除去した。精製後の酢酸セルロースの平均酢化度は55.5%、平均重合度は360、キシロースは0.3%、マンノースは0.7%で酢化度分布半値幅は2.02%であった。アセトン不溶物量を表1に示す。
【0024】
【実施例2】
αセルロース含量94%の針葉樹サルファイトパルプを酢酸/無水酢酸/硫酸を用いる公知の方法でアセチル化した後、酢酸/水系で150℃で熟成し、酢酸セルロースを調製した。得られた酢酸セルロースは、アセトン/メタノール(2/8、重量比)で抽出し2%の低酢化度成分を除去した後、クロロホルムで抽出し5%の高酢化度成分を除去した。精製後の酢酸セルロースの平均酢化度は55.1%、平均重合度は380、キシロースは0.5%、マンノースは0.8%で酢化度分布半値幅は2.15%であった。アセトン不溶物量を表1に示す。
【0025】
【比較例1】
αセルロース含量96%の針葉樹サルファイトパルプを酢酸/無水酢酸/硫酸を用いる公知の方法でアセチル化した後、酢酸/水/硫酸系で80℃で熟成し、酢酸セルロースを調製した。得られた酢酸セルロースは、ジクロロメタンで抽出し、4%の高酢化度成分を除去した。精製後の酢酸セルロースの平均酢化度は55.0%、平均重合度は380、キシロースは1.0%、マンノースは1.0%、酢化度分布半値幅は2.45%であった。アセトン不溶物量を表1に示す。
【0026】
【比較例2】
αセルロース含量96%の針葉樹サルファイトパルプを酢酸/無水酢酸/硫酸を用いる公知の方法でアセチル化した後、酢酸/水/硫酸系で80℃で熟成し、酢酸セルロースを調製した。得られた酢酸セルロースの平均酢化度は54.9%、平均重合度は370、キシロースは0.9%、マンノースは0.9%、酢化度分布半値幅は2.60%であった。アセトン不溶物量を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
【発明の効果】
酢酸セルロースをアセトンなどの有機溶媒に溶解し、フィルム、繊維などの成形品製造するプロセスにおいて、従来よりも不溶物の少ない溶液を提供する。
Claims (2)
- 粘度平均重合度が200〜600、平均酢化度が53〜57重量%、構成糖に占めるキシロースの割合が0.2〜2.0重量%、構成糖に占めるマンノースの割合が0.2〜2.0重量%の酢酸セルロースにおいて、酢化度分布半値幅が酢化度を単位として2.3%以下であることを特徴とする酢酸セルロース。
- 酢化度分布半値幅が酢化度を単位として2.1%以下であることを特徴とする請求項1記載の酢酸セルロース。
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1995
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