JP3749435B2 - 薄膜形成方法 - Google Patents

薄膜形成方法 Download PDF

Info

Publication number
JP3749435B2
JP3749435B2 JP2000346886A JP2000346886A JP3749435B2 JP 3749435 B2 JP3749435 B2 JP 3749435B2 JP 2000346886 A JP2000346886 A JP 2000346886A JP 2000346886 A JP2000346886 A JP 2000346886A JP 3749435 B2 JP3749435 B2 JP 3749435B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
thin film
hard coat
substrate
vacuum
film
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Lifetime
Application number
JP2000346886A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2002155353A (ja
Inventor
耀 小田切
肇 神谷
博国 世田
武 桜井
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Shincron Co Ltd
Original Assignee
Shincron Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Shincron Co Ltd filed Critical Shincron Co Ltd
Priority to JP2000346886A priority Critical patent/JP3749435B2/ja
Publication of JP2002155353A publication Critical patent/JP2002155353A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP3749435B2 publication Critical patent/JP3749435B2/ja
Anticipated expiration legal-status Critical
Expired - Lifetime legal-status Critical Current

Links

Images

Landscapes

  • Coating Of Shaped Articles Made Of Macromolecular Substances (AREA)
  • Physical Vapour Deposition (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄膜形成方法に係り、特に、プラスチック基板と、誘電体光学薄膜または吸収膜を含む光学薄膜との密着強度向上、およびプラスチック基板の擦傷防止のための薄膜を、形成可能な薄膜形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
プラスチック基板の表面に誘電体・金属・透明導電体等の薄膜を形成して種々の機能を付与する処理が、一般的に行われている。例えば、カメラ等のレンズ、眼鏡やサングラスのレンズ、CRTパネル等では、プラスチック基板の表面に反射防止膜等の薄膜を蒸着法、スパッタ法等で形成することが行われている。
【0003】
このとき、プラスチック基板上に、そのまま光学薄膜を蒸着法、スパッタ法等で成膜した場合、プラスチック基板と光学薄膜との間で、十分な密着強度が得られない。そこで、密着強度を向上させるため、予め、プラスチック基板に、真空チャンバー内でプラズマ処理を施しておき、その後光学薄膜を同じ真空チャンバー中で成膜することにより、基板と光学薄膜との密着強度を向上させる技術が一般的に行われている。
【0004】
しかし、プラズマ処理を行うこの技術を、代表的なプラスチック基板の一つであるポリメタアクリレートに適用すると、基板が劣化してしまうという問題点がある。ポリメタアクリレートは、「崩壊型ポリマー」、すなわち荷電粒子の照射によって劣化する性質を有するポリマーだからである。また、上記技術をスパッタリング法で光学薄膜を形成して行った場合、基板と光学薄膜との間の密着強度がきわめて弱くなるという問題点がある。
【0005】
一方、プラスチック基板と光学薄膜との密着強度を向上させる技術として、基板上にハードコート膜を設け、その上に光学膜を蒸着法、スパッタ法等によって成膜する技術も、一般的に行われている。ここで、ハードコート膜とは、一般的に、基板の擦傷防止機能および基板と光学薄膜との密着強度向上機能を有する膜をいい、酸化ケイ素(SiO2、SiO)等の無機物からなるものと有機物からなるものとに分類される。通常、硬度が低く柔らかいプラスチック基板の擦傷防止のため、基板の硬度よりも高い硬度を有するように形成されている。
【0006】
上記基板上にハードコート膜を設ける技術としては、酸化ケイ素(SiO2、SiO)等の無機物が、有機物であるプラスチック基板及び光学薄膜の両者との相性がよいことから、従来、基板上に無機物からなるハードコート膜を、蒸着等のドライプロセスで形成する技術が多用されてきた。しかし、この無機物からなるハードコート膜は、膜厚を厚くするとクラックが生じ易いという問題点があった。
【0007】
そこで、ハードコート膜として有機物を形成する次のような技術が行われるようになった。すなわち、まず、大気中或いは常圧下で、ディッピング、スピンコート、はけぬり、散霧、印刷等の手段により、ハードコートの原料液を基板上に塗布する塗布工程、溶媒等を蒸発させて固体上又は半固体上にし、予備的に膜の形を決めるセッティング工程、熱硬化、UV(紫外線)硬化、EB(電子ビーム)硬化等の硬化工程を順次行い、プラスチック基板上に有機物ハードコート膜を形成する。その後、得られたハードコート付基板を真空チャンバー内に入れ、ハードコートの上に、蒸着またはスパッタリング等により、光学薄膜を形成し、目的とする光学薄膜で被覆されたプラスチック物品を得る。
【0008】
しかし、この有機物ハードコート膜を形成する技術によると、大気中におけるハードコート膜形成と真空中における光学薄膜形成とを行う必要があり、ウェットプロセスとドライプロセスという2段階のプロセスが必要となるため、工程が複雑で、且つ設備費が大きくなるという問題点があった。
【0009】
また、ハードコート膜の成膜条件を安定に維持管理することが難しいという問題点があった。例えば、塗布工程、特にその中でもディッピング法による場合、液の濃度、温度、粘度、基板の昇降速度等のコート条件を一定の値に維持することが難しく、その結果、ハードコート膜の膜厚、硬度が安定しにくいという問題点があった。さらに、ハードコート膜が安定しにくいため、ひいては、光学薄膜について、所望の膜厚精度を得られないという問題点も生じていた。また、UV硬化法を採用する場合は、UV硬化を大気中で行っているために、酸素を避けるために置換ガスを導入しなければならず、工程が煩雑になる等の問題点があった。一方、プラスチック基板等の表面にハードコート膜を形成して、表面に傷がつき難い眼鏡用レンズ等の製品を製造することが一般的に行われている。この場合にも、ハードコート膜の形成は、通常ディッピング法等により行われており、ハードコート膜の膜厚、硬度が安定しにくいという問題点があった。また、ディッピング法等のウェットプロセスでは、作業の効率があまりよくないという問題点もあった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題点を解決するものであり、本発明の目的は、ドライプロセスのみによる単純化された工程で、真空を破ることなく、有機物ハードコート膜と光学薄膜とを連続して堆積することが可能な薄膜形成方法を提供することにある。本発明の更に他の目的は、安定したコート条件を維持可能で、所望の膜厚精度を維持可能で、膜の硬度の安定化可能なハードコート膜および光学薄膜の薄膜形成方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、請求項1に係る発明によれば、真空槽内で、プラスチック基板上に、該プラスチック基板よりも硬度の高い有機物ハードコート膜と光学薄膜とを順次形成する方法であって、前記基板を、前記真空槽内に導入する基板真空槽導入工程と、前記真空槽内において、オリゴマーおよびポリマー、モノマー、光開始剤、溶剤を混合した蒸着材料有機物を貯留するボートを加熱して前記蒸着材料有機物を蒸発させることで蒸着を行うことにより、前記基板上に、有機物を堆積させて、前記ハードコート膜を形成する真空蒸着工程と、該真空蒸着工程と同時にまたは前記真空蒸着工程に連続して、前記ハードコート膜を硬化させる硬化工程と、該硬化工程で得られたハードコート膜上に、前記真空槽内において、真空中で光学薄膜を堆積させる光学薄膜形成工程と、該光学薄膜形成工程で得られた光学薄膜上に、表面処理膜を堆積させる表面処理膜形成工程と、
前記該硬化工程で得られたハードコート膜および前記光学薄膜形成工程で得られた光学薄膜が形成された基板を、前記真空槽から大気中に取り出す基板取出工程と、を備えることにより解決される。このように、真空蒸着により、プラスチック基板よりも硬度の高いハードコート膜を形成しているので、プラスチック基板の擦傷防止効果を有するハードコートを、ドライプロセスによるシンプルかつクリーンな方法で、形成することが可能となる。また、真空蒸着により、有機物ハードコート膜を形成しているので、クラックが発生し難い有機物ハードコートを、ドライプロセスによるシンプルかつクリーンな方法で、形成することが可能となる。同じ真空槽内で、真空蒸着工程と同時にまたは前記真空蒸着工程に連続して、ハードコート膜の真空蒸着工程と硬化工程とを行うように構成しているので、ドライプロセスによるシンプルな工程で、プラスチック基板上に、基板の擦傷防止のためのハードコート膜を形成することが可能となる。また、真空蒸着によりハードコート膜を形成しているため、膜厚・硬度の安定したハードコート膜を得ることが可能となる。また、同じ真空槽内で、ハードコート膜の真空蒸着工程と光学薄膜形成工程とを行うように構成することにより、ドライプロセスのみによる単純化された工程で、真空を破ることなく、ハードコート膜と光学薄膜とを連続して堆積することが可能となる。さらに、プラスチック基板と光学薄膜との間に、ハードコート膜を形成するので、表面が傷つきにくく、プラスチック基板と光学薄膜との密着強度の高い光学薄膜付基板を得ることが可能となる。また、光学薄膜形成工程で得られた光学薄膜の表面がポーラスで、表面についた汚れが取れ難いものになった場合でも、光学薄膜の上に表面処理膜を形成することにより、薄膜表面についた汚れが取れ易いものとすることが可能となる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は、プラスチック基板6a上に、プラスチック基板6aよりも硬度の高い有機物ハードコート膜を形成する薄膜形成方法である。この方法は、基板6aを、真空槽S2内に導入する基板真空槽導入工程と、真空槽S2内において、真空中で蒸着することにより、前記基板6a上に、有機物を堆積させて、ハードコート膜を形成する真空蒸着工程と、該真空蒸着工程と同時にまたは前記真空蒸着工程に連続して、前記真空蒸着工程で得られたハードコート膜を硬化させる硬化工程と、該硬化工程で得られたハードコート膜が形成された基板6aを、前記真空槽S2から大気中に取り出す基板取出工程と、を順次行う。
【0013】
この薄膜形成方法は、図6乃至図8に示す次の薄膜形成装置により実施可能である。すなわち、本発明の薄膜形成装置S2は、真空槽S2と、該真空槽S2内に配設された基板6aを支持可能な基板ホルダ6と、基板6a上に有機物を真空蒸着により堆積させる真空槽S2内に配設されたハードコート膜蒸着手段7と、基板6a上に真空蒸着された有機物を硬化可能な硬化手段25と、を備える。硬化手段25は、基板ホルダ6に支持された基板6aに対向するように配設されている。
【0014】
また、本発明は、プラスチック基板上にハードコート膜と光学薄膜とを順次形成する方法である。この方法は、プラスチック基板6aを真空槽S内に導入する基板真空槽導入工程と、前記真空槽S内において、真空中で蒸着することにより前記基板6a上に、有機物を堆積させて前記ハードコート膜を形成する真空蒸着工程と、該真空蒸着工程で得られたハードコート膜上に、前記真空槽S内において、真空中で光学薄膜を堆積させる光学薄膜形成工程と、該光学薄膜形成工程で得られたハードコート膜および光学薄膜が形成された基板6aを、前記真空槽Sから大気中に取り出す基板取出工程と、を順次行う。
【0015】
光学薄膜形成工程は、広義の真空蒸着法、広義のスパッタ法、広義のCVD法(化学気相成長法)を用いて行うことができる。広義の真空蒸着法としては、抵抗加熱法、電子ビーム蒸着法、二元蒸着法、フラッシュ蒸着法、三温度法、分子線エピタキシ法、イオンプレーティング法、レーザ蒸着法、レーザアブレーション法、反応性蒸着法等が挙げられる。また、広義のスパッタリング法としては、2極スパッタ法、マグネトロンスパッタ法、反応性スパッタ法等が挙げられる。広義のCVD法としては、プラズマCVD法、高密度プラズマCVD法、光CVD法等が挙げられる。なお、条件を選定することによって、熱CVD法、常圧CVD法等を用いることも可能である。
【0016】
このハードコート膜および光学薄膜を形成する薄膜形成方法は、図1に示す次のハードコート膜および光学薄膜形成装置により実施可能である。すなわち、このハードコート膜および光学薄膜形成装置Sは、真空槽Sと、該真空槽S内に配設された基板6aを支持可能な基板ホルダ6と、前記基板6a上に有機物を真空蒸着により堆積させるハードコート膜蒸着手段7と、前記基板6a上に光学薄膜を堆積させる光学薄膜堆積手段9、10と、ハードコート膜蒸着手段7により基板6a上に堆積したハードコート膜材料を硬化させる硬化手段25と、を備える。そして、ハードコート膜蒸着手段7および光学薄膜堆積手段9、10は、真空槽S内に、基板6aに対向するように配設されている。
【0017】
また、このとき、図4に示すように前記真空槽S内に、基板6a上に表面処理膜を堆積させる表面処理膜形成手段26が配設されるように構成してもよい。
【0018】
【実施例】
(実施例1)以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。本明細書において、ハードコート膜とは、基板の擦傷防止機能を有する膜、または、基板の擦傷防止機能および基板と光学薄膜との密着強度向上機能を有する膜をいう。硬度が低く柔らかいプラスチック基板の擦傷防止のため、基板の硬度よりも高い硬度を有するように形成されている。本例の真空槽としての薄膜形成装置Sは、図1に示すように、3槽式の真空蒸着装置からなる。なお、真空槽は、図1のような複数の槽を備えたものに限らず、1槽式のものであってもよい。
【0019】
薄膜形成装置Sは、図1に示すように、各槽ごとにポンプ15、17、19を備えた真空装置であり、大気中から基板ホルダ6を導入し、排気および基板6a上へのハードコート膜真空蒸着を行うハードコート膜蒸着室1A、基板6a上に光学薄膜を真空蒸着する光学薄膜蒸着室2A、リークおよび基板ホルダ6の大気中への取り出しを行う取出室3を備えている。ハードコート膜蒸着室1Aと光学薄膜蒸着室2Aとの間、光学薄膜蒸着室2Aと取出室3との間は、開閉可能なゲートバルブ4、5により、相互に気密にできるように構成されている。ここで、ハードコート膜蒸着室1Aと、光学薄膜蒸着室2Aと、取出室3とを含む光学薄膜形成装置Sが、真空槽を形成している。また、光学薄膜形成装置S外とハードコート膜蒸着室1Aとの間、ハードコート膜蒸着室1A、光学薄膜蒸着室2A、取出室3における基板ホルダ6の各固定位置の間、取出室3と薄膜形成装置S外との間で、基板ホルダ6を搬送可能な不図示の搬送機構が設けられている。
【0020】
ハードコート膜蒸着室1Aは、鋼製の略直方体からなり、光学薄膜蒸着室2A側の側面には、基板ホルダ6を搬送するためのゲートバルブ4を、ゲートバルブ4と反対側の側面には、基板ホルダ6を装置外から供給するためのゲートバルブ12を備えている。また、ハードコート膜蒸着室1Aには、バルブ14を介してポンプ15が接続され、また、リークバルブ20が接続されている。また、ハードコート膜蒸着室1A内には、基板ホルダ6上の基板6aに対向する位置に、ハードコート膜蒸着手段としてのハードコート膜蒸発源であるボート7が配置されている。
【0021】
ボートとは、蒸発材料を貯留可能なボート状に成型された容器をいう。ボートに電流を流すことにより、発生した熱で加熱された蒸発材料が蒸発し、蒸着が行われる。この蒸着方式は、直接加熱方式と呼ばれている。本例のボート7としては、モリブデン(Mo)からなり、ボート状に成型されたものを用いる。なお、Moの代わりに、タンタル(Ta)またはタングステン(W)からなるボートを用いてもよい。また、MoまたはTaまたはWからなるものの表面にアルミナ(Al2O3)等のセラミックスコートしてあるもの、あるいは窒化ホウ素(BN)からなるもの、あるいはBNコンポジットからなるものを用いてもよい。また、ボート7は、図示しない電源と接続され、電流が流れるように構成されている。
【0022】
なお、本例では、ハードコート膜蒸着手段としてボート7を用いているが、これに限定されるものでなく、ボート7の代わりにアルミナ(Al2O3)、ベリリア(BeO)等の高融点酸化物るつぼの周囲にヒータを巻いたものなどの外熱式容器を配設し、外熱法により加熱蒸発可能に構成してもよい。また、高周波誘導加熱により加熱蒸発可能に構成してもよい。電子ビーム蒸着法、フラッシュ蒸着法、イオンプレーティング法等によりハードコート膜を堆積するように構成してもよい。
【0023】
また、ハードコート膜蒸着室1Aは、図1に示すように、側面の所定箇所に、窓孔23が設けられ、この窓孔23には、石英製の板状体が嵌装されて、石英窓24が形成されている。この石英窓24の外側には、硬化手段としてのUV(紫外線)照射装置25が、石英窓24を介して、基板ホルダ6上の基板6aを紫外線照射可能な位置に、配置されている。基板6a上に、ボート7からハードコート膜を蒸着した後、このUV照射装置25でUV照射することにより、基板6aのハードコート膜を硬化可能に構成されている。なお、本例では、UV照射装置25をハードコート膜蒸着室1Aの外に配設しているが、ハードコート膜蒸着室1A内に配設してもよい。また、本例では、硬化手段としてUV照射装置25を用いているが、これに限定されず、加熱装置またはEB(電子ビーム)照射装置を用いてもよい。また、特に硬化手段による硬化工程を行わなくても、条件を選定することにより、結果的にハードコート膜を硬化させることができる場合には、硬化手段としての硬化装置を設けないこととしてもよい。
【0024】
光学薄膜蒸着室2Aは、鋼性の略直方体からなり、基板ホルダ6上の基板6aに対向する位置に、光学薄膜堆積手段としての光学薄膜蒸発源であるるつぼ9と、るつぼ9に対して電子線を照射するための電子銃10と、が配置されている。
【0025】
光学薄膜堆積手段としてのるつぼ9は、光学薄膜材料を貯留可能な容器である。るつぼ9に隣接する位置には、電子銃10が配置されている。本例では、光学薄膜として、単層からなる反射防止膜を形成するため、るつぼ9として、単一の槽からなるるつぼを用いるが、多層からなる光学薄膜を形成する場合には、複数の槽を有するるつぼを用いるとよい。この場合には、複数の槽のそれぞれに、異なる材料を貯留しておき、電子銃10により、各槽内の材料に、所定の順序で電子線を照射することにより、多層膜を形成する。電子銃10は、電子ビーム蒸着法で一般的に用いられる電子銃からなる。また、光学薄膜蒸着室2Aの外側には、基板6a上に堆積された薄膜の厚さを監視するためのモニタ機構11が配設されている。光学薄膜蒸着室2Aには、バルブ16を介してポンプ17が接続され、また、リークバルブ21が接続されている。
【0026】
取出室3は、鋼製の略直方体からなり、光学薄膜蒸着室2A側の側面には、基板ホルダ6を搬送するためのゲートバルブ5を、ゲートバルブ5と反対側の側面には、基板ホルダ6を装置外へ取り出すためのゲートバルブ13を備えている。また、取出室3には、バルブ18を介してポンプ19が接続され、また、リークバルブ22が接続されている。
【0027】
次に、本例の薄膜形成方法で用いる材料について説明する。基板6aには、プラスチック基板を用いる。具体的には、ポリカーボネート、ジエチレングリコールジアリルカーボネート(商品名:CR−39)、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレートコポリマー、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート等を用いるが、特に限定されるものではなく、他の光学製品等に用いられる一般的なプラスチック材料を用いることができる。
【0028】
ハードコート膜の蒸着材料有機物としては、次のオリゴマーおよびポリマー、モノマー、光開始剤、溶剤を適当な割合で混合したものを用いる。オリゴマーおよびポリマーとしては、例えば、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリメチルメタアクリレート−co−グリシジルメタアクリレート、酸変性アクリレート、ポリブタジエンアクリレート、シリコンアクリレート、アミノプラスト型アクリレート、ビニルエーテル等を用いるが、特に限定されるものではなく、他のオリゴマーおよびポリマーを用いることもできる。
【0029】
モノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、イソプロピルメタアクリレート、n−ブチルメタアクリレート、イソブチルメタアクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシプローピルアクリレート、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリアミド、ジアセトンアクリルアミド、グリシジルメタクリレート、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、1、4−ブタンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジメチルアミノエチルマタクリレート、テトラヒドロフルフリールメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等を用いるが、特に限定されるものではなく、他のモノマーを用いることもできる。
【0030】
光開始剤としては、例えば、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、メチルベンゾイルフォメート、ベンゾインアルキルエーテル、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、α−ヒドロキシイソブチルフェノン、ベンゾイン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、2、2−ジメトキシ―2―フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−エチルアンスラキノン、ジベンゾスバロン、ベンゾフェノンアクリレート、ベンジル、チオキサントン、三級アミン、アゾビスイソブチロニトリル、tert−ジブチルペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、テトラメチルチウラムジスルフィドを用いるが、特に限定されるものではなく、他の光開始剤を用いることもできる。なお、本例では、後に説明するように、ハードコート膜の硬化工程をUV硬化法により行うため、蒸着材料有機物に光開始剤を添加しているが、硬化工程を熱硬化法、EB硬化法により行う場合には、光開始剤を添加する必要はない。
【0031】
溶剤としては、例えば、キシレン、酢酸エチル、n−ブタノール、プロパノール、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸n−ブチル等を用いているが、特に限定されるものではなく、他の一般的な有機溶剤を用いることもできる。溶剤は、蒸着材料の製造、保存、粘性の調整等における取り扱いを容易にするために添加するが、物性、蒸着条件によっては、添加しなくてもよい。なお、ハードコート膜の蒸着材料有機物としては、上に挙げたようなアクリル系以外に、アミノ系、メラニン系、シリコン系等のものも使用可能である。
【0032】
なお、蒸着材料有機物に含まれる各成分の蒸発速度が大きく異なると、最終的に基板上に形成されたハードコート膜の組成比が、蒸着前の蒸着材料有機物の組成比と、大きく異なってしまう場合がある。このような場合には、オリゴマーおよびポリマー、モノマー、光開始剤等の各成分を別個のボートに入れ、別々に蒸着条件を制御しながら、同時に蒸着してもよい。
【0033】
本例では、光学薄膜の材料としては、アルミニウム(Al)、クロミウム、ITO(透明導電層)、ZrO2(酸化ジルコニウム)、SiO2(二酸化けい素)、Y2O3(酸化イットリウム)、Nb2O5(五酸化二ニオブ)、MgF2(フッ化マグネシウム)、CeO2(酸化セリウム)、Ta2O5(五酸化二タンタル)、TiN(窒化チタン)、TiO(酸化チタン)、TiO2(二酸化チタン)、Yb2O3(酸化イッテルビウム)、MgO(酸化マグネシウム)、HfO2(二酸化ハフニウム)、ZnS(硫化亜鉛)等を用いる。但し、これに限定されず、光学薄膜形成の分野において、一般的に用いられる材料を用いることができる。本例によれば、アルミニウム、クロミウムなどの金属、ITO等の導電性膜、TiN等の吸収膜、TiO2、ZrO2、Ta2O5、SiO2等の誘電体膜等の光学薄膜が形成される。
【0034】
次に、本例の薄膜形成装置Sを用いた薄膜形成方法の手順について図1に基づき説明する。本例の薄膜形成方法は、ハードコート膜及び光学薄膜を形成する方法であり、基板真空導入工程と、有機物を堆積させる真空蒸着工程と、硬化工程と、光学薄膜形成工程と、基板取出工程と、を備えている。
【0035】
まず、ゲートバルブ4およびゲートバルブ13を閉め、ポンプ17、19により、光学薄膜蒸着室2Aおよび取出室3内を排気し、所定の真空度にする。基板ホルダ6に、プラスチック基板6aをセットする。この基板ホルダ6を、基板搬送機構により、ゲートバルブ12からハードコート膜蒸着室1A内に供給する。その後、基板真空導入工程を行う。すなわち、ゲートバルブ12を閉め、ハードコート膜蒸着室1A内をポンプ15により排気し、所定の真空度にする。
【0036】
ハードコート膜蒸着室1A内が所定の真空度になったら、基板上に、ハードコート膜材料有機物を蒸着する真空蒸着工程を行う。有機物の真空蒸着工程は、次のように行う。まず、基板ホルダ6とボート7との間に、不図示のシャッタを配置しておく。ボート7に電流を通電し、ボート7に貯留した有機物の蒸発を開始する。有機物の蒸発速度が安定したら、シャッタを開け、基板上に有機物膜を蒸着する。
【0037】
不図示の水晶膜厚計により、有機物膜が目標とする厚みまで堆積したことが確認されたら、シャッタを閉め、有機物の蒸着を終了する。なお、ハードコート膜の膜厚は、光学式膜厚計、蒸着時間方式膜厚計により確認してもよい。その後、堆積された有機物膜を硬化する硬化工程を行う。本例では、硬化工程は、UV硬化法により行う。UV照射装置25を作動させ、有機物膜が形成された基板上に、所定時間紫外線を照射する。なお、本例では、有機物膜を蒸着する真空蒸着工程を終えた後に、紫外線照射による硬化工程を行っているが、これに限定されず、真空蒸着工程と硬化工程とを同時に行ってもよい。また、条件を選定することにより、真空蒸着後放置によって自然に有機物膜を硬化させることができる場合には、硬化工程として放置工程を行ってもよい。さらに、真空蒸着中に、自然に硬化が進行する場合には、真空蒸着工程と同時に進行する自然硬化が、硬化工程に該当する。
【0038】
なお、硬化工程として、加熱装置により、基板6a薄膜側の面を加熱する熱硬化工程を行ってもよい。ただし、本例で用いるプラスチック基板は、一般に耐熱性が低いので、それぞれのプラスチックの耐熱温度を超えない程度に加熱する。例えば、基板としてポリメチルメタクリレール基板を用いる場合には、基板の温度が70℃〜80℃を超えないように加熱する。熱硬化工程は、有機物膜の真空蒸着工程と同時、または、有機物膜の真空蒸着工程を終了した後に行う。
【0039】
また、硬化工程として、EB照射装置により、有機物薄膜に電子ビームを照射するEB(電子ビーム)硬化工程を行ってもよい。EB硬化工程は、有機物膜の真空蒸着工程と同時、または、有機物膜の真空蒸着工程を終了した後に行う。
【0040】
その後、ゲートバルブ4を開け、基板搬送機構により、基板ホルダ6を、ハードコート膜蒸着室1Aと同じ真空度に保たれた光学薄膜蒸着室2A内に搬送する。次いで、ゲートバルブ4、5を閉め、光学薄膜形成工程を行う。光学薄膜の蒸着は、次のように行う。電子銃10を作動させ、電子線eをるつぼ9内の光学薄膜材料に照射し、光学薄膜材料の蒸発を開始する。光学薄膜材料の蒸発速度が安定したら、シャッタを開け、基板上に光学薄膜を蒸着する。モニタ機構11により、光学薄膜が目標とする厚みまで堆積したことが確認されたら、シャッタを閉め、光学薄膜の蒸着を終了し、光学薄膜形成工程を完了する。
【0041】
次に、ゲートバルブ5を開け、基板搬送機構により、基板ホルダ6を取出室3に搬送する。その後、基板取出工程を行う。すなわち、ゲートバルブ5を閉め、取出室3のリークバルブ22を開け、取出室3内に大気を導入し、取出室3内の圧力を大気圧に戻す。取出室3内の圧力が略大気圧となったら、ゲート13を開け、基板搬送機構により、基板ホルダ6を薄膜形成装置Sの外に取り出す。以上で、ハードコート膜および光学薄膜の形成を完了する。基板ホルダ6を供給した後蒸着を行い、基板ホルダ6を取り出すという上記手順を繰り返し、プラスチック基板上への真空蒸着工程、光学薄膜形成工程を、連続的に行う。なお、光学薄膜形成工程を、擦傷防止のためのハードコート膜を形成する真空蒸着工程の後に行うのは、擦傷防止効果のある膜を、光学薄膜の外側に形成すると、反射防止膜等の光学薄膜が、光学薄膜としての機能を果たさなくなるからである。
【0042】
また、レンズ等の製品として使用中に表面に傷が付いた場合、傷がプラスチック基板まで到達しなければ、あまり目立たないため、プラスチック基板への擦傷さえ防止すれば、製品の外観に大きな影響はないからである。つまり、柔らかく厚みのあるプラスチック基板は、傷が付くと目立つが、厚みの薄い光学薄膜に入った傷は、外観的にあまり目立たないので、プラスチック基板のみ擦傷防止のためのハードコート膜で被覆すれば足りるからである。ハードコート膜は、プラスチック基板およびハードコートの材料によっても異なるが、プラスチック基板の擦傷防止可能な硬度、例えば、鉛筆硬度が、2H以上、4H以上、6H以上等の硬度になるように形成する。
【0043】
以上の本例の薄膜形成方法およびその装置によれば、有機物ハードコート膜を形成する真空蒸着工程と光学薄膜形成工程との双方を乾式法(ドライプロセス)で行うことができるので、単純でクリーンな製造工程により、プラスチック基板上に、有機物からなるハードコート膜と光学薄膜とを形成することが可能となる。また、本例の薄膜形成方法およびその装置によれば、一つの連続式真空蒸着装置内で、有機物ハードコート膜を形成する真空蒸着工程と光学薄膜形成工程とを連続的に行うことができるので、プラスチック基板上に、有機物ハードコート膜と光学薄膜とを形成する処理を、短時間で大量に行うことが可能となる。真空蒸着によりハードコート膜を形成しているため、膜厚・硬度の安定したハードコート膜を得ることが可能となる。ひいては、ハードコート膜の上に堆積させた光学薄膜をも膜厚の安定したものとすることが可能となる。
【0044】
また、真空蒸着により、プラスチック基板よりも硬度の高いハードコート膜を形成しているので、プラスチック基板の擦傷防止効果を有するハードコートを、ドライプロセスによるシンプルかつクリーンな方法で、形成することが可能となる。さらに、真空蒸着により、有機物ハードコート膜を形成しているので、クラックが発生し難い有機物ハードコートを、ドライプロセスによるシンプルかつクリーンな方法で、形成することが可能となる。
【0045】
また、ハードコート膜蒸着室1Aの他の例を、図2に示す。本例の薄膜形成方法およびその装置は、図2に示すハードコート膜蒸着室1Aを備えた装置によっても実施可能である。図2は、図1のボート7の代わりに、ハードコート膜蒸着手段としての原料貯蔵用容器31と開口33を配置したものである。図2に示すハードコート膜蒸着手段は、原料貯蔵容器31と、配管32と、開口33とを主要構成要素としている。原料貯蔵用容器31は、ハードコート膜材料有機物を貯蔵可能な密閉容器であり、薄膜形成装置Sの外に配置されている。原料貯蔵用容器31は、不図示のヒータを備えており、このヒータによって、原料貯蔵容器31内に貯蔵された有機物が、加熱可能に構成されている。また、原料貯蔵用容器31には、不図示のポンプが接続されており、容器内を真空・減圧可能に構成されている。この不図示のヒータとポンプとで減圧加熱することによって、液体材料有機物を、原料貯蔵用容器31内で蒸発させることが可能となる。蒸発した気体有機物は、原料貯蔵用容器31から吹き出し、基板6a上に蒸着する。このとき、原料貯蔵用容器31内の有機物は、容器内下方(斜線部分)では液体として、容器内上方では気体として存在することとなる。
【0046】
なお、原料貯蔵用容器31を複数備えるように構成してもよい。これにより、複数の原料貯蔵容器31のそれぞれに異なる材料有機物を入れることができる。この場合、複数の原料貯蔵容器31から、異なる材料を同時に蒸着させて単層複合膜を形成してもよいし、異なる材料を異なるタイミングで蒸着させて、多層膜を形成してもよい。
【0047】
配管32は、ハードコート膜蒸着室1Aの壁面を貫通して、原料貯蔵用容器31と、ハードコート膜蒸着室1A内とを接続する配管である。配管32の先端は、広がった開口33として形成され、開口33は、基板6aに対向するように広がっている。開口33の形状は、漏斗状、皿状、筒状等、いかなる形状であってもよい。また、配管32には、バルブ34が設けられている。原料貯蔵容器31内が減圧加熱され、容器内上方に有機物気体が充満するとき、この配管32のバルブ34までの部分にも、有機物気体が充満することとなる。
【0048】
図2に示すハードコート膜蒸着手段を用いた真空蒸着工程は、図1の薄膜形成方法において、真空蒸着工程の代わりに行うことができる。図2のハードコート膜蒸着手段を用いた有機物の真空蒸着工程は、次のように行う。
【0049】
原料貯蔵用容器31には、予め、ハードコート膜の液体材料有機物を貯蔵しておく。その後、不図示のポンプによって、原料貯蔵用容器31内を真空排気する。これにより、原料貯蔵用容器31内の液体材料有機物の脱ガスを行うことが可能となる。なお、この脱ガスは、バルブ34を開けておき、ハードコート膜蒸着室1A内をポンプ15で真空することによって行うことも可能である。次いで、基板ホルダ6と開口33との間に、不図示のシャッタを配置しておく。原料貯蔵用容器31の不図示のヒータを作動させ、内部に貯蔵されたハードコート膜材料有機物を加熱する。これにより、減圧された原料貯蔵容器31内温度が上昇して有機物が蒸発し、原料貯蔵容器31内と、バルブ34までの配管32が、有機物気体で充満する。その後、原料貯蔵用容器31内の温度が、所定の温度に達したら、バルブ34を開く。高温・減圧下の雰囲気により気化した有機物は、配管32を通って、開口33から噴出する。
【0050】
開口33からの噴出速度が略一定になったら、不図示のシャッタを開け、基板6a上に、ハードコート膜材料有機物の蒸着を行う。不図示の水晶膜厚計により、有機物が、所定の厚みに堆積したことを確認したら、不図示のシャッタおよびバルブ34を閉め、蒸着を完了する。なお、有機物ハードコート膜の膜厚は、光学式膜厚計、蒸着時間方式膜厚計により確認してもよい。
【0051】
図2のハードコート膜蒸着室1Aを備えた装置によって実施される薄膜形成方法およびその装置のその他の構成は、本例の図1で説明した構成と同様である。
【0052】
また、ハードコート膜蒸着室1Aのさらに他の例を、図3に示す。薄膜形成方法およびその装置は、図3に示すハードコート膜蒸着室1Aを備えた装置によっても実施可能である。図3は、図1のボート7の代わりに、ハードコート膜蒸着手段としての蒸発気化器39等を配置したものである。図3に示すハードコート膜蒸着手段は、原料貯蔵容器31と、導管35と、液送ポンプ36と、ノズル38と、蒸発気化器39とを主要構成要素としている。
【0053】
原料貯蔵用容器31は、ハードコート膜の液体材料有機物を貯蔵可能な密閉容器であり、薄膜形成装置Sの外に配置されている。導管35は、ハードコート膜蒸着室1Aの壁面を貫通して、原料貯蔵用容器31とノズル38とを接続する配管である。導管35の途中には、液送ポンプ36とバルブ37とが設けられている。液送ポンプ36は、原料貯蔵用容器31に貯蔵された液体有機物を加圧して液体のままノズル38に搬送する役割を果たす。
【0054】
ノズル38は、液送ポンプ36によって搬送された液体有機物を、蒸発気化器39に少量ずつ定量的に連続供給する極細い内径の噴出口である。蒸発気化器39は、上面に気体噴出口41が設けられた容器体であり、その底面に、高温加熱可能な蒸発気化部40が形成されている。また、その側面を貫通して、ノズル38が固定されている。蒸発気化部40は、ノズル38から滴下した液体有機物を急激に加熱して気化させる役割を果たす。気体噴出口41は、基板ホルダ6に対向するように設けられており、蒸発気化部40で気化した有機物が基板6a側へ進むための開口としての役割を果たす。
【0055】
図3に示すハードコート膜蒸着手段を用いた真空蒸着工程は、図1の薄膜形成装置Sを用いた薄膜形成方法において、真空蒸着工程の代わりに行うことができる。図3のハードコート膜蒸着手段を用いた有機物の真空蒸着工程は、次のように行う。
【0056】
原料貯蔵用容器31には、予め、ハードコート膜材料の有機物を貯蔵しておく。また、バルブ37は閉めておく。まず、基板ホルダ6と気体噴出口41との間に、不図示のシャッタを配置しておく。蒸発気化部40を加熱して、所定の温度に保持する。バルブ37を開け、液送ポンプ36を作動させ、原料貯蔵用容器31内の有機物を導管35を通してノズル38に導く。有機物液体がノズル38から蒸発気化部40に滴下すると、蒸発気化部40で有機物が気化し、気体噴出口41を通ってハードコート膜蒸着室1A内に噴出する。噴出スピードが安定したら、不図示のシャッタを開け、気体噴出口41から噴出した有機物を基板6a上に堆積させ、有機物の蒸着を行う。
【0057】
不図示の水晶膜厚計により、有機物が、所定の厚みに堆積したことを確認したら、不図示のシャッタおよびバルブ37を閉め、液送ポンプ36を止めて、蒸着を完了する。なお、有機物ハードコート膜の膜厚は、光学式膜厚計、蒸着時間方式膜厚計により確認してもよい。図3のハードコート膜蒸着室1Aを備えた装置によって実施される薄膜形成方法およびその装置のその他の構成は、本例の図1の構成と同様であるので省略する。
【0058】
なお、図1の取出室3の代わりに、図4で示すように、表面処理膜形成手段としてのボート26を配置した取出室3としてもよい。このボート26は、モリブデン製からなり、図示しない電源と接続され、電流による直接加熱方式で、ボート26内に貯蔵した表面処理剤を蒸着可能に形成されている。表面処理膜は、この表面処理剤が基板6a上に堆積されることにより形成される。本例では、表面処理剤として、液状の防汚剤を使用する。防汚剤27としては、光学薄膜表面処理に一般的に用いられるパーフルオロアルキルシラン等の防汚剤が用いられる。この液状の防汚剤は、多孔性タブレット27に含浸され、この多孔性タブレット27が、ボート26上に載置される。
【0059】
なお、表面処理剤として、他の防汚剤、撥水剤、撥油剤を用いてもよい。また、液状のものに限らず、固体のものを用いてもよい。多孔性タブレット27に含浸させずに、液状の防汚剤、撥水剤、撥油剤等を直接ボート26に貯留してもよい。表面処理膜形成手段としては、通電式のボート26を用いた蒸着装置に限定されず、外熱法蒸着装置、高周波誘導加熱による蒸着装置、電子ビーム蒸着装置、フラッシュ蒸着装置、イオンプレーティング装置等を用いてもよい。また、図2の原料貯蔵用容器を用いた方式、図3の蒸発気化器39を用いた方式で蒸着してもよい。
【0060】
図4に示す薄膜形成装置Sを用いてハードコート膜、光学薄膜、表面処理膜を形成する方法について説明する。まず、図1に係る薄膜形成装置Sを用いた薄膜形成方法と同様に、基板真空導入工程と、有機物を堆積させる真空蒸着工程と、硬化工程と、光学薄膜形成工程を行う。その後、ゲートバルブ5を開け、基板搬送機構により、基板ホルダ6を取出室3に搬送し、基板上に、表面処理剤である防汚剤を蒸着する表面処理膜形成工程を行う。表面処理膜形成工程は、次のように行う。ボート26の上に、予め、液状の防汚剤を含浸させた多孔性タブレット27を載せておく。基板ホルダ6とボート26との間に、不図示のシャッタを配置しておく。ボート26に電流を通電し、ボート26上に載せた防汚剤の蒸発を開始する。防汚剤の蒸発速度が安定したら、シャッタを開け、基板6a上に表面処理膜としての防汚膜を蒸着する。
【0061】
不図示の水晶膜厚計により、防汚膜が目標とする厚みに堆積したことが確認されたら、シャッタを閉め、防汚膜の蒸着を終了する。なお、防汚膜の膜厚は、光学式膜厚計、蒸着時間方式膜厚計により確認してもよい。その後、ゲートバルブ5を閉め、リークバルブ22を開けて取出室3内を大気圧に戻した後、ゲート13から基板ホルダ6を薄膜形成装置Sの外に取り出す。以上で、薄膜形成方法の各工程を完了する。基板ホルダ6を供給した後蒸着を行い、基板ホルダ6を取り出すという上記手順を繰り返し、プラスチック基板上へのハードコート膜、光学薄膜、表面処理膜形成工程を、連続的に行う。
【0062】
以上の図4に示す薄膜形成装置Sを用いた薄膜形成方法によれば、防汚膜、撥水膜、撥油膜等を形成する表面処理膜形成工程を行っているので、光学薄膜形成工程で得られた光学薄膜の表面がポーラスになった場合でも、薄膜表面についた汚れが取れ易いものとすることが可能となる。すなわち、本例の薄膜形成方法では、プラスチック基板を用いているため、光学薄膜工程では、基板温度を高くすることができず、光学薄膜の緻密さが充分得られない場合がある。この場合には、得られた薄膜付き基板は、薄膜表面がポーラスになって、汚れがつくと取れ難い製品となってしまう。本例では、ドライプロセスによる光学薄膜形成工程後に、撥水、撥油、防汚効果のある表面処理膜形成工程を行っているため、表面に汚れがつき難い製品を供給することができ、ついた汚れが取れ難いという問題点を解決することが可能となるのである。
【0063】
(実施例2)次に、本発明の他の実施例について説明する。本例では、上記実施例1と同様の構成には、同じ符号を付している。上記実施例1と同様の構成については、説明を省略する。本例は、プラスチック基板上にハードコート膜、光学薄膜を堆積する薄膜形成方法及びその装置の他の例である。本例の薄膜形成装置を、図5に示す。図5に示す薄膜形成装置Sは、蒸着室2Bに、ハードコート膜蒸着手段としてのボート7と、光学薄膜堆積手段としてのるつぼ9、電子銃10とを備えている。以下、図5に示す薄膜形成装置Sと、薄膜形成装置Sを用いた薄膜形成方法について説明する。
【0064】
図5の薄膜形成装置Sは、各槽ごとにポンプ15、17、19を備えた真空装置であり、大気中から基板ホルダ6を導入し、排気・前処理を行う供給室1B、基板ホルダ6に支持された基板6a上に薄膜を真空蒸着する蒸着室2B、後処理・リーク・基板ホルダ6の大気中への取り出しを行う取出室3を備えている。供給室1Bと蒸着室2Bとの間、蒸着室2Bと取出室3との間は、開閉可能なゲートバルブ4、5により、それぞれ相互に気密にできるように構成されている。また、基板ホルダ6を搬送可能な不図示の搬送機構が設けられている点は、実施例1に係る図1の薄膜形成装置Sと同様である。
【0065】
供給室1Bは、ハードコート膜蒸着手段および硬化手段を備えない点を除いては、実施例1に係る図1のハードコート膜蒸着室1Aと同様の構成である。
【0066】
蒸着室2Bには、ハードコート膜蒸着手段としてのボート7と、光学薄膜堆積手段としてのるつぼ9と、るつぼ9に対して電子線を照射するための電子銃10と、が配置されている。
【0067】
また、蒸着室2Bは、図5に示すように、側面所定箇所の窓孔23に、石英製板状体の石英窓24が嵌装されている。この石英窓24の外側には、硬化手段としてのUV(紫外線)照射装置25が、石英窓24を介して、基板ホルダ6上の基板6aを紫外線照射可能な位置に、配置されている。なお、本例では、UV照射装置25を蒸着室2Bの外に配設しているが、蒸着室2B内に配設してもよい。また、本例では、硬化手段としてUV照射装置25を用いているが、これに限定されず、加熱装置またはEB(電子ビーム)照射装置を用いてもよい。ボート7、るつぼ9、電子銃10、UV照射装置25の構成は、実施例1に係る図1のそれぞれの構成と同様である。また、蒸着室2Bのその他の構成は、実施例1に係る図1の光学薄膜蒸着室2Aの構成と同様である。
【0068】
また、取出室3の構成は、実施例1に係る図1の取出室3の構成と同様である。
【0069】
次に、本例の薄膜形成方法の手順について図5に基づき説明する。本例の薄膜形成方法は、基板真空導入工程と、有機物を堆積させる真空蒸着工程と、硬化工程と、光学薄膜形成工程と、基板取出工程と、を備えている。
【0070】
まず、ゲートバルブ4、ゲートバルブ13を閉め、ポンプ17、19により、蒸着室2B、取出室3内を排気し、所定真空度にする。プラスチック基板6aをセットした基板ホルダ6を、基板搬送機構で、ゲートバルブ12から供給室1B内に供給する。ゲートバルブ12を閉め、供給室1B内をポンプ15で排気し、所定真空度にする。所定真空度に達したら、基板真空導入工程を行う。すなわち、ゲートバルブ4を開け、基板搬送機構で、基板ホルダ6を所定真空度に保たれた蒸着室2B内に搬送する。
【0071】
その後、ゲートバルブ4、5を閉め、基板上に、ハードコート膜材料有機物を蒸着する真空蒸着工程を行う。有機物の真空蒸着工程は、上記実施例1と同様の手順で行う。その後、この真空蒸着工程で形成された有機物ハードコート膜を硬化する硬化工程を、上記実施例1と同様の手順で行う。引き続いて、光学薄膜形成工程を行う。光学薄膜形成工程は、上記実施例1と同様の手順で行う。
【0072】
次に、基板取出工程を行う。すなわち、ゲートバルブ5を開け、基板搬送機構により、基板ホルダ6を取出室3に搬送する。ゲートバルブ5を閉め、リークバルブ22を開けて、取出室3内の圧力を大気圧に戻す。取出室3内が略大気圧となったら、ゲート13を開け、基板ホルダ6を薄膜形成装置Sの外に取り出し、ハードコート膜および光学薄膜の形成を完了する。基板ホルダ6を供給した後蒸着を行い、基板ホルダ6を取り出すという上記手順を繰り返し、プラスチック基板上への真空蒸着工程および光学薄膜形成工程を、連続的に行う。
【0073】
なお、本例では、薄膜形成装置Sを、3槽式の連続式真空蒸着装置から構成しているが、これに限定されるものでなく、図5の蒸着室2Bのみからなる1槽式のバッチ式真空蒸着装置から構成してもよい。この場合には、バッチ式蒸着装置内に基板ホルダ6を供給し、ポンプ17により装置内を減圧する基板真空導入工程を行い、その後真空蒸着工程および光学薄膜形成工程を行う。その後、リークバルブ21を開けて、装置内を大気圧に戻し、基板ホルダ6を取り出す基板取出工程を行う。
【0074】
(実施例3)次に、本発明のさらに他の実施例について説明する。本例では、上記実施例1、2と同様の構成には、同じ符号を付している。上記実施例1、2と同様の構成については、説明を省略する。本例は、プラスチック基板上にハードコート膜を堆積する場合の薄膜形成方法およびその装置の例である。本例の真空槽としての薄膜形成装置S2は、図6に示すように、バッチ式の真空蒸着装置からなる。なお、真空槽は、図6のような1槽式のものに限られず、複数のチャンバを備えたものであってもよい。薄膜形成装置S2は、図6に示すように、基板ホルダ6、ボート7、ポンプ17を備えた真空槽である。るつぼ9、電子銃10、ゲートバルブ4、5を備えない点を除いては、図5に示す上記実施例2の蒸着室2Bと同様の構成である。
【0075】
本例の薄膜形成方法で用いる材料について説明する。基板6aには、プラスチック基板を用いる。具体的には、上記実施例1で具体的に列挙したものを用いる。また、ハードコート膜蒸着材料の有機物としては、上記実施例1で説明したと同様に、オリゴマーおよびポリマー、モノマー、光開始剤、溶剤を適当な割合で混合したものを用いる。
【0076】
次に、本例の薄膜形成装置S2を用いた薄膜形成方法の手順について図6に基づき説明する。本例の薄膜形成方法は、蒸着材料導入工程と、基板真空槽導入工程と、減圧工程と、有機物を堆積させる真空蒸着工程と、硬化工程と、基板取出工程と、を備えている。
【0077】
まず、蒸着材料導入工程を行う。るつぼ6に、有機物からなる蒸着材料を入れる。ついで、基板真空槽導入工程を行う。この工程では、まず基板ホルダ6に、プラスチック基板6aをセットする。薄膜形成装置S2の不図示の蓋を開け、装置S2内に、基板ホルダ6をセットする。次に、減圧工程を行う。この工程では、不図示の蓋を閉め、ポンプ17により、装置S2内を排気し、所定の真空度にする。
【0078】
装置S2内が所定の真空度になったら、基板6a上に、ハードコート膜材料である有機物を蒸着する真空蒸着工程を行う。有機物の真空蒸着工程は、上記実施例1と同様の手順により行う。ハードコート膜の蒸着を終了した後、形成されたハードコート膜を硬化する硬化工程を行う。硬化工程は、上記実施例1と同様の手順により行う。なお、条件を選定することにより、真空蒸着後放置によって自然に有機物膜を硬化させることができる場合には、硬化工程として放置工程を行ってもよい。さらに、真空蒸着中に、自然に硬化が進行する場合には、真空蒸着工程と同時に進行する自然硬化が、硬化工程に該当する。
【0079】
次に、リークバルブ16を開け、装置S2内に大気を導入し、装置S2内の圧力を大気圧に戻す。装置S2内の圧力が略大気圧となったら、不図示の蓋を開け、基板ホルダ6を装置S2の外に取り出す基板取出工程を行う。以上で、ハードコート膜の形成を完了する。ハードコート膜は、プラスチック基板およびハードコートの材料によっても異なるが、プラスチック基板の擦傷防止可能な硬度、例えば、鉛筆硬度が、2H以上、4H以上、6H以上等の硬度になるように形成する。
【0080】
以上の本例の薄膜形成方法およびその装置によれば、有機物ハードコート膜を乾式法で形成することができるので、単純でクリーンな製造工程により、プラスチック基板上に、有機物からなるハードコート膜を形成することが可能となる。また、真空蒸着によりハードコート膜を形成しているため、膜厚・硬度の安定したハードコート膜を得ることが可能となる。したがって、表面の擦傷防止効果のあるハードコート膜付の眼鏡等を、高品質なものとすることが可能となる。また、真空蒸着により、プラスチック基板よりも硬度の高いハードコート膜を形成しているので、プラスチック基板の擦傷防止効果を有するハードコートを、ドライプロセスによるシンプルかつクリーンな方法で、形成することが可能となる。さらに、真空蒸着により、有機物ハードコート膜を形成しているので、クラックが発生し難い有機物ハードコートを、ドライプロセスによるシンプルかつクリーンな方法で、形成することが可能となる。
【0081】
なお、本例では、薄膜形成装置S2を、1槽式のバッチ式真空蒸着装置から構成しているが、これに限定されるものでなく、図6の薄膜形成装置S2の両側に、基板ホルダ供給室と基板ホルダ取出室を備えた図5に示すような3槽式の連続式真空蒸着装置から構成してもよい。すなわち、図5において、るつぼ9と電子銃10とを備えないように構成するとよい。
【0082】
また、薄膜形成装置S2の他の例を、図7に示す。薄膜形成方法および装置は、図7に示す薄膜形成装置S2によっても実施可能である。図7は、図6のボート7の代わりに、ハードコート膜蒸着手段としての原料貯蔵用容器31に接続された開口33を配置したものである。図7のハードコート膜蒸着手段である原料貯蔵容器31、配管32、開口33、バルブ34の構成およびこれらの構成を用いた有機物の真空蒸着工程については、上記実施例1における図2の説明と同様であるので、省略する。
【0083】
また、薄膜形成装置S2のさらに他の例を、図8に示す。薄膜形成方法および装置は、図8に示す薄膜形成装置S2によっても実施可能である。図8は、図6のボート7の代わりに、ハードコート膜蒸着手段としての蒸発気化器39を配置したものである。図8のハードコート膜蒸着手段である原料貯蔵容器31、導管35、液送ポンプ36、ノズル38、蒸発気化器39等の構成およびこれらの構成を用いた有機物の真空蒸着工程については、上記実施例1における図3の説明と同様であるので、省略する。
【0084】
(具体的実施例1)本例では、図1に示す薄膜形成装置Sを用いて、プラスチック基板上にハードコート膜および光学薄膜の一例としての反射防止膜を形成した。本例の薄膜形成装置Sとしては、ステンレス(SUS304)製からなるものを用いた。また、ボート7として、モリブデン製ボートを用いた。プラスチック基板6aとしては、ポリメチルメタクリレート基板(三菱レイヨン株式会社製)アクリペットVH(以降PMMAと表記する)を用いた。
【0085】
基板6aを基板ホルダ6にセットし、ハードコート剤をボート7に入れ、反射防止膜原料であるSiO2とZrO2とを別々のるつぼ9に入れた。その後、上記実施例1と同様の手順により、基板真空導入工程と、有機物を堆積させる真空蒸着工程を行った。なお、このときボート7は、約400℃まで昇温させた。その後、薄膜形成装置Sの外に設置されたUV照射装置25としての高圧水銀ランプ(HL400DL/H/S−1、400W:ウシオ電機株式会社社製)から、石英窓24を通して、ハードコート原料が蒸着された基板6aに、光を4秒照射し、硬化工程を行った。
【0086】
その後、SiO2を貯留するるつぼ9とZrO2を貯留するるつぼ9とに、電子銃10から交互に電子線eを照射し、SiO2とZrO2の5層の交互層からなる反射防止膜を形成し、光学薄膜形成工程を行った。以上のようにして、ハードコート膜と、光学薄膜としての反射防止膜とが形成された基板6aを得た。
【0087】
得られたハードコート膜と反射防止膜とが形成された基板6aについて、薄膜の密着性テストを行った。この密着性テストは、試料となる基板の表面を、1mm間隔で100目クロスカットし、その上に、セロハン粘着テープ(商品名:セロテープ、ニチバン株式会社製)を貼り、その後、そのセロハン粘着テープを剥離した。セロハン粘着テープ貼りと剥離との動作を1セットとして行い、その都度、100目のうちセロハン粘着テープにより剥がれなかった目の数(残数)を数えた。前記1セットの動作と、残数を数える動作とを3回行ったところ、結果は3回とも100/100であり、すべての目が剥がれずに残っていた。以上のように、本例のハードコート膜および光学薄膜形成方法によれば、密着性の良好なハードコート膜および光学薄膜が得られることが分かった。
【0088】
また、得られたハードコート膜と反射防止膜とが形成された基板6a上の各層の屈折率(Refractive Index)および各層の膜厚(Optical Thickness)を表1
【0089】
【表1】
Figure 0003749435
【0090】
に示す。なお、Airは、大気の反射率を、1〜5は、5層に形成された反射防止膜の各層を、6の「HC」は、ハードコート膜を、「Substrate」は、基板6aを示す。また、図9は、得られたハードコート膜と反射防止膜とが形成された基板6aの各波長における反射率を示す図である。この表1および図9の結果より、得られたハードコート膜と反射防止膜とが形成された基板6aは、表面の反射防止効果が十分であることが分かった。
【0091】
(具体的実施例2)本例では、図4に示す薄膜形成装置S2を用いて、プラスチック基板上にハードコート膜を形成した。本例の薄膜形成装置S2としては、ステンレス(SUS304)製からなるものを用いた。また、図4のポンプ17として、ドライポンプ(ドライバック 100P:ライボルト社製)17a、メカニカルブースターポンプ(WS501:ライボルト社製)17b、ターボ分子ポンプ(TG 3400VW:大阪真空社製)17cの3つを用いた。また、ボート7として、モリブデン製ボートを用いた。プラスチック基板6aとしては、ポリメチルメタクリレート基板(三菱レイヨン株式会社製)アクリペットVH(以降PMMAと表記する)を用いた。
【0092】
基板6aをセットした基板ホルダ6を装置S2に設置しハードコート剤を、ボート7に入れて、不図示の蓋を閉め、ポンプ17a〜cを作動させ、装置S2内を所定の真空度になるように排気した。所定の真空度に達したところで、ボート7を加熱して約400℃まで昇温させ、ボート7内のハードコート膜材料を基板6a上に蒸着する真空蒸着工程を行った。モニタ機構11で、基板6a上のハードコート膜材料の堆積を監視し、所定の厚みまで、ハードコート膜材料が堆積したところで、ボート7の加熱を止め、蒸着を終了した。その後、装置S2の外に設置されたUV照射装置25としての高圧水銀ランプ(HL400DL/H/S−1、400W:ウシオ電機株式会社社製)から、石英窓24を通して、ハードコート膜材料が蒸着された基板6aに、光を4秒照射し、硬化工程を行った。
【0093】
その後、装置S2中を大気圧に戻し、基板6aを大気中に取出し、ハードコート膜が形成された基板を得た。得られたハードコート膜が形成された基板について、鉛筆硬度を測定したところ、6Hであった。また、屈折率は1.54であり、物理膜厚は1μmであった。以上のように、本例の薄膜形成方法によれば、表面の硬度の高いハードコート膜が得られることが分かった。
【0094】
【発明の効果】
以上のように発明によれば、プラスチック基板上にハードコート膜と光学薄膜とを順次形成する方法であって、同じ真空槽内で、ハードコート膜の真空蒸着工程と光学薄膜形成工程とを行うように構成しているので、ドライプロセスのみによる単純化された工程で、真空を破ることなく、ハードコート膜と光学薄膜とを連続して堆積することが可能となる。また、同じ真空槽内で、ハードコート膜を形成する真空蒸着工程と同時または前記真空蒸着工程に連続して、硬化工程を行うように構成しているので、ドライプロセスによるシンプルな工程で、プラスチック基板上に、基板の擦傷防止のためのハードコート膜を形成することが可能となる。また、真空蒸着によりハードコート膜を形成しているため、膜厚・硬度の安定したハードコート膜を得ることが可能となる。また、真空蒸着により、プラスチック基板よりも硬度の高いハードコート膜を形成しているので、プラスチック基板の擦傷防止効果を有するハードコートを、ドライプロセスによるシンプルかつクリーンな方法で、形成することが可能となる。また、真空蒸着により、有機物ハードコート膜を形成しているので、クラックが発生し難い有機物ハードコートを、ドライプロセスによるシンプルかつクリーンな方法で、形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例に係る薄膜形成装置の概略説明図である。
【図2】 図1のハードコート膜蒸着室の他の例を示す概略説明図である。
【図3】 図1のハードコート膜蒸着室のさらに他の例を示す概略説明図である。
【図4】 本発明のさらに他の実施例に係る薄膜形成装置の概略説明図である。
【図5】 本発明の他の実施例に係る薄膜形成装置の概略説明図である。
【図6】 本発明の他の実施例に係る薄膜形成装置の概略説明図である。
【図7】 本発明の他の実施例に係る薄膜形成装置の概略説明図である。
【図8】 本発明の他の実施例に係る薄膜形成装置の概略説明図である。
【図9】 本発明の具体的実施例により、ハードコート膜と反射防止膜とが形成された基板の各波長における反射率を示す図である。
【符号の説明】
S、S2 薄膜形成装置
1A ハードコート膜蒸着室
1B 供給室
2A 光学薄膜蒸着室
2B 蒸着室
3 取出室
4、5、12、13 ゲートバルブ
6 基板ホルダ
6a 基板
7、26 ボート
8 ハードコート膜材料
9 るつぼ
10 電子銃
11 モニタ機構
14、16、18、34、37 バルブ
15、17、17a、17b、17c、19 ポンプ
20、21、22 リークバルブ
23 窓孔
24 石英窓
25 UV(紫外線)照射装置
27 多孔性タブレット
31 原料貯蔵用容器
32 配管
33 開口
35 導管
36 液送ポンプ
38 ノズル
39 蒸発気化器
40 蒸発気化部
41 気体噴出口

Claims (1)

  1. 真空槽内で、プラスチック基板上に、該プラスチック基板よりも硬度の高い有機物ハードコート膜と光学薄膜とを順次形成する方法であって、
    前記基板を、前記真空槽内に導入する基板真空槽導入工程と、
    前記真空槽内において、オリゴマーおよびポリマー、モノマー、光開始剤、溶剤を混合した蒸着材料有機物を貯留するボートを加熱して前記蒸着材料有機物を蒸発させることで蒸着を行うことにより、前記基板上に、有機物を堆積させて、前記ハードコート膜を形成する真空蒸着工程と、
    該真空蒸着工程と同時にまたは前記真空蒸着工程に連続して、前記ハードコート膜を硬化させる硬化工程と、
    該硬化工程で得られたハードコート膜上に、前記真空槽内において、真空中で光学薄膜を堆積させる光学薄膜形成工程と、
    該光学薄膜形成工程で得られた光学薄膜上に、表面処理膜を堆積させる表面処理膜形成工程と、
    前記該硬化工程で得られたハードコート膜および前記光学薄膜形成工程で得られた光学薄膜が形成された基板を、前記真空槽から大気中に取り出す基板取出工程と、を備えることを特徴とする薄膜形成方法。
JP2000346886A 2000-11-14 2000-11-14 薄膜形成方法 Expired - Lifetime JP3749435B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2000346886A JP3749435B2 (ja) 2000-11-14 2000-11-14 薄膜形成方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2000346886A JP3749435B2 (ja) 2000-11-14 2000-11-14 薄膜形成方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2002155353A JP2002155353A (ja) 2002-05-31
JP3749435B2 true JP3749435B2 (ja) 2006-03-01

Family

ID=18820697

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2000346886A Expired - Lifetime JP3749435B2 (ja) 2000-11-14 2000-11-14 薄膜形成方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP3749435B2 (ja)

Families Citing this family (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP4738113B2 (ja) * 2005-09-15 2011-08-03 株式会社東芝 真空蒸着装置用るつぼおよびそれを用いた有機elディスプレイの製造方法
JP5647854B2 (ja) * 2010-10-15 2015-01-07 株式会社アルバック 成膜装置及び成膜方法
JP7363056B2 (ja) * 2019-03-01 2023-10-18 株式会社ニデック ハードコート付きレンズの製造方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP2002155353A (ja) 2002-05-31

Similar Documents

Publication Publication Date Title
CA2194323C (en) Apparatus and method for plasma processing
CN101588912B (zh) 在塑料表面上产生纳米结构的方法
US6001429A (en) Apparatus and method for plasma processing
EP2085496B1 (en) Method for producing functional film
JP5116812B2 (ja) 成膜方法及び撥油性基材
WO1997037051A1 (fr) Procede de fabrication d'un substrat a couche mince et dispositif de fabrication
JP2010247369A (ja) ガスバリア積層体の製造方法およびガスバリア積層体
JP2012198330A (ja) 光学部材及びその製造方法
WO2015097898A1 (ja) 多層反射防止膜の成膜方法
WO2014163062A1 (ja) ガスバリアー性フィルムの製造方法、ガスバリアー性フィルム及び電子デバイス
JP4873455B2 (ja) 光学薄膜形成方法および装置
JP4753973B2 (ja) 成膜方法及び成膜装置
JP3749435B2 (ja) 薄膜形成方法
JP2004035941A (ja) 表面処理方法及び光学部品
JP2003276115A (ja) 積層体およびその製造方法
WO2014050918A1 (ja) 機能性フィルム
JP2005133131A (ja) 屈折率変化層の形成方法
CN101932753B (zh) 成膜装置及成膜方法
JP2004084027A (ja) 機能体及びその形成方法
JP4019712B2 (ja) プラズマ放電処理装置及びプラズマ放電処理方法
JPH09113702A (ja) 光学物品およびその製造方法
JPS61167903A (ja) 合成樹脂製光学部品のコ−テイング方法
JP2018138329A (ja) ガスバリア性フィルム
JPH0990102A (ja) 被膜を備えた光学物品およびその製造方法
JP2017001219A (ja) ガスバリア性フィルム

Legal Events

Date Code Title Description
A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20040120

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20040322

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20051101

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20051201

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 3749435

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20081209

Year of fee payment: 3

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20091209

Year of fee payment: 4

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20101209

Year of fee payment: 5

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20101209

Year of fee payment: 5

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20111209

Year of fee payment: 6

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20111209

Year of fee payment: 6

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20121209

Year of fee payment: 7

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20121209

Year of fee payment: 7

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20131209

Year of fee payment: 8

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

EXPY Cancellation because of completion of term