JP3748085B2 - クロムフリー電磁鋼板表面処理用組成物及び表面処理電磁鋼板 - Google Patents
クロムフリー電磁鋼板表面処理用組成物及び表面処理電磁鋼板 Download PDFInfo
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、電磁鋼板の表面に塗布、乾燥することにより、電磁鋼板の上に絶縁性に優れ、かつ密着性、裸耐食性、溶接性、加工性、耐リン溶出性、耐スティッキング性に優れたクロムフリーの皮膜を形成する表面処理用組成物及びクロムフリーの皮膜を有する電磁鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電磁鋼板の絶縁性を確保するために電磁鋼板の表面に1〜5μの絶縁皮膜を形成することが一般的に行われている。
絶縁皮膜を形成するための絶縁被覆処理組成物は一般に有機樹脂のみのコーテイング剤、各種無機物質を混合したコーテイング剤及び有機樹脂と無機物質を混合したコーテイング剤に分けることができる。
ここで、有機樹脂のみのコーテイング剤は現在高級材の一部に3〜5μ塗布して使用されているが、極めてわずかである。
また、各種無機物質を混合したコーテイング剤も一部には使用されている形跡があるがほとんど使用されていない。
現在使用されているコーテイング剤の大部分は有機樹脂と無機物質を混合したいわゆる半有機と呼ばれているものである。
【0003】
有機樹脂と無機物質との混合によるコーテイング剤はいずれも有機樹脂−クロム酸−無機物系よりなり有機樹脂の多くはアクリル系樹脂が、また、無機物の多くはほう酸や酸化Mgなどが使用されている。
ここで、成分のうちクロム酸は必須で多量のクロム酸を添加し、クロム酸によってコーテイング皮膜の下地金属との密着性を確保するとともに造膜性と耐食性を維持している。また、同時に乾燥後クロム酸は大部分三価のクロム(Cr2O3、Cr(OH)3)となり絶縁性を確保する皮膜成分の一つにもなっている。
有機樹脂は一部コーテイング時の造膜成分として機能しているが、その主な機能は連続打ち抜き時の歯形破壊防止にある。
このように現在最も多く使用されている有機樹脂- 無機物混合系コーテイング剤はクロム酸を必須成分としている。
そのため、使用時皮膜から一部6価のクロムイオンが溶出する等の弊害が生じる。
【0004】
一方、最近の傾向として環境及び公害問題から、クロムに関する規制が大幅に強化されようとしている。
それに応じてクロムを用いないクロムフリーの絶縁皮膜用コーテイング剤が開発され一部市販され、使用されている。
これらはリン酸アルミとリン酸を主成分とし、一部有機樹脂を混合している。形成された皮膜は下地(電磁鋼板)との密着性が悪いため剥離し易い。また、造膜しにくいため脆く、加工時皮膜は破壊されやすく粉塵を発生し易い。また、造膜しにくいことから錆を発生し易く耐食性は得られにくい。耐蝕性を確保するために厚く塗布すると溶接性を阻害すると共に占積率が低下する。
また、コーテイング剤を建浴する際にリン酸アルミを溶解するため多量のリン酸を混合するため、実際に使用する際、皮膜から多量のリンが溶出しベトついて作業性を阻害し、また、焼鈍時スティッキング融着)をおこし易く、塗膜剥離をおこすなどの欠点を有する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これに対し、本発明は上記従来の技術の欠点を解決し、電磁鋼板にクロムフリーの極めて優れた絶縁皮膜を形成する表面処理剤を提供することを第一の目的とするものである。
第二の目的は電磁鋼板の上に上記処理剤によって、絶縁性、裸耐食性、下地金属との密着性、加工性、耐リン溶出性及び耐スティッキング性に優れたクロムフリーの皮膜を特定量形成せしめた表面処理電磁鋼板を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
水酸基含有モノマー成分を5〜60重量%、カルボキシル基含有モノマー成分を 0.5〜40重量%共重合成分として含有する有機樹脂 100重量部に対し、リン酸を5〜100 重量部、Mn、Mg、Al、Ba、Ca、Srの化合物の1種または2種以上を20〜200 重量部、SiO2, ZrO2, SnO2, Al2O3, Sb2O5のコロイド(ゾル)の1種あるいは2種以上を5〜150 重量部配合することを特徴とするクロムフリー電磁鋼板表面処理用組成物および、電磁鋼板の上に、前記の表面処理用組成物を塗布し形成された皮膜の付着量が 0.3〜5.0 g/m2有する事を特徴とする表面処理電磁鋼板である。
【0007】
本発明は特殊有機樹脂、リン酸、特殊重金属化合物及び特殊コロイドからなる表面処理皮膜を電磁鋼板上に形成し、電磁鋼板と極めて優れた密着性を有し、かつ、絶縁性、裸耐食性、溶接性、加工性、耐リン溶出性、耐スティッキング性に優れた表面処理皮膜を形成させるクロムフリーの安定な表面処理剤である。この極めて優れた各種金属との密着性は特殊有機樹脂とリン酸との組合せによって確保される。また、極めて優れた絶縁性は特殊有機樹脂、特殊重金属化合物及びコロイドの組合せによって確保される。極めて優れた裸耐食性は特殊有機樹脂と特殊重金属化合物との組合せによって始めて実現できる。優れた溶接性は特殊有機樹脂と特殊重金属化合物を特定割合配合することによって確保される。優れた加工性(連続打ち抜き性)は特殊有機樹脂と特殊重金属化合物及びコロイドを特定の割合にすることによって確保される。また、優れた耐リン溶出性は特殊重金属化合物とリン酸との割合を限定することによって確保することができる。また、耐ブロッキング性は特殊重金属化合物とコロイドとの割合を限定することにより確保することができる。以下、本発明に使用する特殊有機樹脂、リン酸、特殊重金属化合物及びコロイドの内容と特殊有機樹脂、リン酸、特殊重金属化合物及びコロイドとの組合せによって形成された皮膜の特性がどのように変化するかを示す。
【0008】
【発明の実施形態】
本発明における特殊有機樹脂とは、水酸基含有モノマーを成分として5〜60重量%、カルボキシル基含有モノマーを成分として0.5〜40重量%含有する有機樹脂をいう(以下本有機樹脂と言う)。水酸基含有モノマー成分としては(メタ)アクリル酸−ヒドロキシルエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、アクリル酸2,2−ビス(ヒドロキシメチル)エチル、(メタ)アクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−クロル−2− ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシエステル類、アリルアルコール類及びN−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチロール(メタ)アクリルアミド等のアルコールアミド類の還元性水酸基を含有するモノマー及び酸性液中で水酸基と同様な反応性を期待できるグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、β−メチルグリシギル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のグリシギル基を有するモノマー、アクロレインアドのアルデヒド基を有するモノマーが使用できるが、特に好ましくはアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタアクリル酸2-ヒドロキシエチルである。なお、(メタ)アクリル酸〜は、メタアクリル酸〜及び/ 又はアクリル酸〜を表している。
【0009】
カルボキシル基含有モノマー成分としては例えばエチレン系不飽和カルボン酸やその共重合体樹脂を使用することができる。
エチレン系不飽和カルボン酸成分としては、例えばアクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸等のエチレン系不飽和モノカルボン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸等のエチレン系不飽和ジカルボン酸と、それらのカルボン酸アルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミンが使用できる。
【0010】
本有機樹脂は上記水酸基含有モノマー単独、あるいは上記水酸基含有モノマーに他の有機樹脂を水酸基含有モノマーが5〜60重量%となるように、また、カルボキシル基含有モノマー単独、あるいは上記カルボキシル基含有モノマーに他の有機樹脂をカルボキシル基含有モノマーが 0.5〜40重量%となるように共重合することにより得られる。
他の有機樹脂としてはエチレン系不飽和カルボン酸やその他のエチレン系不飽和化合物のいずれか1者あるいは2者を同時に使用することが望ましい。
エチレン系不飽和カルボン酸成分としては、例えばアクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸等のエチレン系不飽和モノカルボン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸等のエチレン系不飽和ジカルボン酸と、それらのカルボン酸アルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩が使用できる。
また、エチレン系不飽和化合物としてはエチレン系不飽和カルボン酸成分と水酸基含有モノマー成分の例示以外のエチレン系不飽和化合物であって、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及びその共重合体樹脂、およびその他のビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物などである。
【0011】
上記以外にエポキシ及びその共重合体樹脂、アクリル変成エポキシ及びその共重合体樹脂、ウレタン変成エポキシ及びその共重合体樹脂等のうち水酸基含有モノマーが5〜60重量%でカルボキシル基含有モノマーが 0.5〜40重量%のものであれば使用できる。あるいは上記エポキシ系樹脂と下記エポキシ系樹脂の中から1種あるいは2種以上を併用して使用することができる。
また、ポリエステル樹脂及びその共重合体樹脂等のうち水酸基含有モノマーが5〜60重量%でカルボキシル基含有モノマーが 0.5〜40重量%のものであれば使用できる。また、上記各樹脂の2種以上を混合して使用することもできる。
さらに、本発明の目的を損なわない範囲で上述した化合物以外の化合物等を含有させておくことは差し支えない。
【0012】
特殊重金属化合物としてはMn、Mg、Al、Ba、Ca、Srの化合物であり、好ましくはこれら重金属のリン酸化合物を使用することが望ましく、これら特殊重金属のリン酸化合物の1種あるいは2種以上を添加する。
上記水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーを主成分とした本有機樹脂 100重量部(以降単に部と示す)に対し、上記特殊重金属化合物の1種あるいは2種以上を20〜200 部配合する必要がある。
上記水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーを主成分とした本有機樹脂 100部に対し、リン酸を5〜100 部配合する必要がある。
また、さらに上記水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーを主成分とした本有機樹脂100 部に対し、SiO2, ZrO2, SnO2, Al2O3, Sb2O5のコロイド(ゾル)の1種あるいは2種以上を5〜150 部配合する必要がある。
【0013】
以下、本有機樹脂、特殊重金属化合物、リン酸及び特殊コロイドの共存する浴を作成し、電磁鋼板に皮膜を形成し特性がどのように変化するかを示す。本有機樹脂としてはヒドロキシエチルアクリレート45部−メタアクリル酸メチル45部−アクリル酸15部(水酸基含有モノマー成分:42.8重量%、カルボキシル基含有モノマー成分:14.3重量%)を共重合した樹脂を 100g/l(固形分)(100 部) 添加した。また、リン酸Mnを130g/l(固形分)(130 部) 、リン酸を25g/l(固形分)(25部) 添加し、さらにコロイダルシリカを種々の割合で添加した。これら水性液よりなる表面処理浴を作成し、電磁鋼板(JIS規格50A470) に全固形分が 2.1g/m2となるように塗布し、乾燥して形成した皮膜について素材(電磁鋼板)との密着性、絶縁性、裸耐食性、溶接性、加工性、耐リン溶出性及びスティッキング性について調査した。
【0014】
ここで、素材と本発明による表面処理皮膜との密着性はJEM 規定に準じて実施した。試験部をセロテープ剥離し、テープを転写して黒化度で評価した。
密着性試験は焼鈍前後で行った。
焼鈍条件は高純度窒素雰囲気で 750℃±20℃2時間加熱し、200 ℃まで炉冷して大気中に取り出した(JEM規定に準じる) 。
○: 剥離無し
△: 少し剥離
×: やや多い
【0015】
表面処理皮膜の絶縁性は層間抵抗を求めて測定した。
層間抵抗は JIS C2550第2法に準じて実施した。30点測定しその平均値を求めた。測定は焼鈍前後で実施した。焼鈍条件は上記と同じである。
【0016】
表面処理皮膜の裸耐食性はJIS Z2371 に準じて実施した。SST 5時間行い、発錆状況を調べて評価した。測定は焼鈍前のサンプルについてのみ実施した。
◎: 赤錆発生率 0 %
○: 〃 0 % 超〜1 %
△: 〃 1 % 超〜10 %
×: 〃 10 % 超〜50 %
××: 〃 50 % 超
【0017】
表面処理皮膜の切断性は SKH9 35°ノッチ刃による切断荷重を測定して求めた。測定は焼鈍前のサンプルについてのみ実施した。
○: 最大荷重 800 kg 以下 切断面 刃面状況異常無し
△: 〃 800〜900 kg 切断面 刃面状況異常無し
×: 〃 900 kg 異常 切断面 刃面状況一部乱れ発生
【0018】
表面処理皮膜の溶接性は JEM規格に準ずる方法を採用した。
サンプル締め圧: 50 kg/cm2 、Ar流量: 5 l/min 、溶接電流: 100A、アーク長: 1.5 mm、電極材質: 2%ThO2-W、電極径: 2.4 mm、開先: 無し、サンプル積み厚: 〜30 mm で実施した。
評価方法はビード中に起泡が発生しない最大溶接速度(cm/min)にて評価した。
○: 20 cm/min 以上
△: 10〜20 cm/min
×: 10 cm/min 以下
【0019】
表面処理皮膜の耐リン溶出性は試料を沸騰水に30分浸漬し、前後のリンの減量を蛍光X線で測定して求めた。
○: Pの減量 30 mg/m2以下
△: 〃 30〜50 mg/m2
×: 〃 50 mg/m2以上
【0020】
表面処理皮膜の耐熱性(耐スティッキング性)は締め圧 60 kg/cm2で焼鈍し、焼鈍後剥離荷重を測定して求めた。焼鈍条件は前出と同じである。
○: 剥離荷重 20 g/cm2以下
△: 〃 20〜30 g/cm2
×: 〃 30 g/cm2以上
【0021】
形成した皮膜の電磁鋼板との密着性はコロイダルシリカの添加量によって左右され、150 部以下では鋼板と優れた密着性が得られるが 150部超になると密着性はやや低下する。
皮膜の絶縁性はコロイダルシリカの添加量によって特に左右されない。
裸耐食性はコロイダルシリカの添加量によって左右され、5部以上、150 部以下で優れた耐食性が得られるが、5部未満及び 150部超になると耐食性はやや低下する。
溶接性はコロイダルシリカの影響をうけ、150 部超になると溶接性は大幅に低下する。
加工性もコロイダルシリカの影響をうけ、150 部超になると加工性はやや低下する傾向を示す。
耐リン溶出性はコロイダルシリカの添加量によって特に影響を受けない。
耐スティッキング性はコロイダルシリカの影響を特にうけ、5部以上で大幅に向上する。
以上の結果から有機樹脂 100部に対し、コロイダルシリカの添加量は5部〜150 部とする。
これら結果はコロイダルシリカのかわりにCr2O3, Fe2O3, Fe3O4, MgO, ZrO2, SnO2, Al2O3, Sb2O5等のコロイド(ゾル)を用いてもほぼ同様の結果がえられた。
【0022】
次に本有機樹脂としてヒドロキシエチルアクリレート45部−メタアクリル酸メチル45部−アクリル酸15部(水酸基含有モノマー成分:42.8重量%、カルボキシル基含有モノマー成分:14.3重量%)を共重合した樹脂を100 g/l(固形分)(100 部) 添加した。また、リン酸Mnを130 g/l(固形分)(130 部) 、コロイダルシリカを50g/l(50部) 添加し、さらにリン酸を種々の割合で添加した。
これら水性液よりなる表面処理浴を作成し、電磁鋼板(JIS規格50A470) に全固形分が2.3 g/m2となるように塗布し、乾燥して形成した皮膜について特性調査を行った。
形成した皮膜の電磁鋼板との密着性はリン酸の添加量によって大きく左右され5部以上、100 部以下で極めて優れた密着性がえられる。
5部未満では密着性は低下し、100 部超になると素材をエッチングすることにより密着性は低下する。
皮膜の絶縁性はリン酸の添加量によって特に大きく左右されない。
裸耐食性はリン酸の添加量によって左右され、5部以上、100 部以下で優れた耐食性が得られるが、5部未満及び 100部超になると耐食性はやや低下する。
溶接性はリン酸の影響を一部うけ、添加量が多くなるにつれ溶接性はやや良くなる傾向を示す。
加工性もリン酸の影響を一部うけ、添加量が多くなると加工性はやや良くなる傾向を示す。
耐リン溶出性はリン酸の影響を特に受け、100 部を越えるとリンの溶出は著しく多くなる。
また、耐スティッキング性もリン酸の影響を特にうけ、100 部を越えると大幅に発生し易くなる。
以上の結果から有機樹脂 100部に対し、リン酸の添加量は5部〜100 部とする。
また、リン酸のかわりに次亜リン酸、亜リン酸あるいはポリリン酸等を用いてもほぼ同様の結果が得られた。
【0023】
次に本有機樹脂としてヒドロキシエチルアクリレート45部−メタアクリル酸メチル45部−アクリル酸15部(水酸基含有モノマー成分:42.8重量%、カルボキシル基含有モノマー成分:14.3重量%)を共重合した樹脂を100 g/l(固形分)(100 部) 添加した。また、コロイダルシリカを50g/l(50部) 添加し、リン酸を40g/l(40部) 添加し、さらにリン酸Mnを種々の割合で添加した。
これら水性液よりなる表面処理浴を作成し、電磁鋼板(JIS規格50A470) に全固形分が2.2 g/m2となるように塗布し、乾燥して形成した皮膜について特性調査を行った。
形成した皮膜の電磁鋼板との密着性はリン酸Mnの添加量によって特に大きな影響は受けない。
皮膜の絶縁性もリン酸Mnの添加量によって特に大きく左右されない。
裸耐食性はリン酸Mnの添加量によって左右され、20部以上、200 部以下で優れた耐食性が得られるが、20部未満及び 200部超になると耐食性はやや低下する。
溶接性及び加工性はリン酸Mnの影響を一部うけ、添加量が多くなるにつれ溶接性及び加工性はやや良くなる傾向を示す。
耐リン溶出性はリン酸Mnの影響を受け、200 部を越えるとリンの溶出はやや多くなる傾向を示す。
また、耐スティッキング性もリン酸Mnの影響を特にうけ、200 部を越えると発生し易くなる。
【0024】
以上の結果から有機樹脂 100部に対し、リン酸Mnの添加量は20部〜200 部とする。
また、リン酸Mnのかわりにリン酸Mg、リン酸Al、リン酸Ba、リン酸Ca、リン酸Srを用いてもほぼ同様の結果が得られた。また、これら化合物の2 種以上を混合して用いても同様の結果が得られた。
また、Mn、Mg、Al、Ba、Ca、Srの硫酸化合物、硝酸化合物あるいは塩化物などリン酸との共存で溶解し易い化合物であれば使用して差し支えない。
【0025】
次に本有機樹脂としてヒドロキシエチルアクリレート−メタアクリル酸メチルーアクリル酸系樹脂においてメタアクリル酸メチルの割合を固定し、ヒドロキシエチルアクリレートとアクリル酸の割合をそれぞれかえ、水酸基含有モノマーとカルボキシル基含有モノマーの割合の異なる樹脂を共重合して作成した。これら樹脂を100 g/l(固形分)(100 部) 添加し、さらにコロイダルシリカを50g/l(50部) 、リン酸を40g/l(40部) 、リン酸Mnを120g/l(120部) 添加した。
これら水性液よりなる表面処理浴を作成し、電磁鋼板(JIS規格50A470) に全固形分が2.2 g/m2となるように塗布し、乾燥して形成した皮膜について特性調査を行った。
【0026】
形成した皮膜の電磁鋼板との密着性は本有機樹脂の水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーの割合によって大きく影響を受け、水酸基含有モノマーが5重量%以上、60重量%以下で、かつ、カルボキシル基含有モノマーが 0.5重量%以上、40重量%以下で皮膜と電磁鋼板との密着性は著しく向上する。これに対し、水酸基含有モノマーが5重量%未満、60重量%超、あるいはカルボキシル基含有モノマーが 0.5重量%未満、40重量%超では皮膜と電磁鋼板との密着性は低下する。
裸耐食性は本有機樹脂の水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーの割合によって一部影響を受け、水酸基含有モノマーが5重量%以上、60重量%以下で、かつ、カルボキシル基含有モノマーが 0.5重量%以上、40重量%以下で耐食性は向上する。また、水酸基含有モノマーが5重量%未満、60重量%超、あるいはカルボキシル基含有モノマーが 0.5重量%未満、40重量%超では耐食性はやや低下する。
【0027】
水酸基含有モノマーとカルボキシル基含有モノマーを特定の割合存在せしめると耐食性が向上するのは水酸基含有モノマーとカルボキシル基含有モノマーの存在によって緻密な皮膜が形成されるためと思われる。
また、皮膜の絶縁性、溶接性、加工性、耐リン溶出性及び耐スティッキング性は本有機樹脂の水酸基含有モノマー及びカルボキシル基含有モノマーの割合がかわっても特に大きな影響は認められない。
上記結果はアクリル系樹脂について述べたが、アクリル系樹脂以外の例えばポリエステル系樹脂或いはエポキシ系樹脂等についても水酸基含有モノマーとカルボキシル基含有モノマーを特定の割合存在せしめるとほぼ同様の結果が得られた。
【0028】
以上の結果から、本発明は水酸基含有モノマー成分5〜60重量%、カルボキシル基含有モノマー成分 0.5〜40重量%を共重合成分として含有する有機樹脂100 部に対し、Mn、Mg、Al、Ba、Ca、Sr化合物の1種あるいは2種以上を20〜200 部、リン酸5〜100 部及びSiO2, ZrO2, SnO2, Al2O3, Sb2O5の1種或いは2種以上を5〜150 部配合することを特徴とする電磁鋼板用クロムフリーの表面処理用組成物とする。
【0029】
ここで、クロム酸を用いずに素材(電磁鋼板)と優れた密着性を有する皮膜を形成出来ることは極めて重要である。
従来のクロム酸含有コーテイング剤は素材と皮膜との密着性をクロム酸の存在によって確保していた。
これに対し、クロム酸を用いずに素材と皮膜に優れた密着性を確保することはクロムフリーコーテイング剤の開発において最も重要な要因の一つである。
本発明者等は有機樹脂の水酸基含有モノマーとカルボキシル基含有モノマーを特定の割合にすると樹脂皮膜と素材(電磁鋼板)との間に極めて優れた密着性が生じることを見出した。
ここで、水酸基含有モノマーとカルボキシル基含有モノマーを特定の割合にすると樹脂皮膜と素材(電磁鋼板)との間に極めて優れた密着性が生じる理由について必ずしも明確ではないが、水酸基含有モノマーとカルボキシル基含有モノマーを特定の割合にすると樹脂皮膜界面と素材(金属)との間に強いファンデアワールス力が生じ、それによって優れた密着性が確保されるものと思われる。
【0030】
ここで、電磁鋼板に適用する場合の皮膜の付着量は 0.3〜5.0g/m2 が望ましい。0.3g/m2 未満では、皮膜の絶縁性、耐食性等が不充分となり、5.0 gm2 超では溶接性等が低下するからである。
【0031】
また、本発明による表面処理剤を電磁鋼板に塗布するには、ロールコート、スプレー塗装、刷毛塗り、浸漬塗装、カーテンフロー等いずれの塗装方法を用いても良い。
【0032】
これまで、本有機樹脂−リン酸−重金属化合物−コロイド系のコーテイング用組成物についてしめした。これは電磁鋼板に最小限塗布することにより、電磁鋼板用皮膜として極めて優れた特性が確保される。
しかし、本有機樹脂のみをあるいは本有機樹脂 100部にリン酸5〜100 部配合した組成液を電磁鋼板に塗布し、密着性の優れた皮膜を形成することができる。その際、耐食性あるいは絶縁性を充分確保するために、本有機樹脂−リン酸−重金属化合物−コロイド系に比べやや多めに塗布する必要がある。
【0033】
以上示すように本発明による表面処理剤はクロムを使用しないノンクロメート剤として従来使用されている塗布クロメート、電解クロメート、樹脂クロメート及び反応クロメートなどいわゆるクロメート剤の代替として使用することができるとともに、クロムを使用しない無公害の表面処理剤であることから、用途は大きく広がるものと思われる。
【0034】
以下、実施例について詳しく述べる。
実施例1
電磁鋼板(JIS規格50A470) にアクリル酸2-ヒドロキシブチル40部−メタアクリル酸メチル15部−アクリル酸ブチル40部−スチレン40部−メタアクリル酸40部−アクリル酸10部の共重合体樹脂(水酸基含有モノマー成分:21.6重量%、カルボキシル基含有モノマー成分:27.0重量%)100g/l、リン酸35g/l 、リン酸Mn120g/l、リン酸Mg10g/l 、コロイダルシリカ30g/l を配合した水性液をロールで塗布し、 300℃で乾燥して全付着量が 2.3g/m2となるように皮膜を形成した。
【0035】
実施例2
電磁鋼板(JIS規格50A470) にアクリル酸2-ヒドロキシブチル50部- メタアクリル酸メチル20部−アクリル酸ブチル40部−スチレン60部−メタアクリル酸30部−アクリル酸15部の共重合体樹脂(水酸基含有モノマー成分:23.3重量%、カルボキシル基含有モノマー成分:20.9重量%)100g/l、リン酸50g/l 、リン酸Al 80g/l、リン酸Ba10g/l 、ZrO2のコロイド(ゾル)10g/l 、SnO2のコロイド(ゾル)5g/l を配合した水性液をロールで塗布し、300 ℃で乾燥して全付着量が 2.5g/m2となるように皮膜を形成した。
【0036】
実施例3
電磁鋼板(JIS規格50A470) にメタアクリル酸2,3-ジヒドロキシプロピル60部−メタアクリル酸メチル35部−アクリル酸ブチル50部−グリシジルメタアクリレート20部−メタアクリル酸30部−アクリル酸10部の共重合体樹脂(水酸基含有モノマー成分:29.3重量%、カルボキシル基含有モノマー成分:19.5重量%) 80g/l、リン酸 60g/l、リン酸Ca 70 g/l 、リン酸Sr10 g/l、Al2O3 のコロイド(ゾル)10g/l 、Sb2O3 のコロイド(ゾル)10g/l を配合した水性液をロールで塗布し、300 ℃で乾燥して全付着量が 2.5g/m2となるように皮膜を形成した。
【0039】
比較例1
電磁鋼板(JIS規格50A470) に市販のクロム酸含有コーテイング剤(アクリル系樹脂50g/l 、クロム酸90g/l 、ほう酸30g/l 、酸化マグネシウム30g/l)の水性液をロールで塗布し、300 ℃で乾燥して全付着量が2.1 g/m2となるように皮膜を形成した。
【0040】
比較例2
電磁鋼板(JIS規格50A470) にアクリル系樹脂(水酸基含有モノマー成分:0%、カルボキシル基含有モノマー成分:0%)を配合した水性液をロールで塗布し、300 ℃で乾燥して全付着量が 5.0g/m2となるように皮膜を形成した。
【0041】
比較例3
電磁鋼板(JIS規格50A470) にアクリル系樹脂(水酸基含有モノマー成分:0%、カルボキシル基含有モノマー:0%)100g/lにリン酸20g/l を配合した水性液をロールで塗布し、300 ℃で乾燥して全付着量が4.5 g/m2となるように皮膜を形成した。
【0042】
表1における実施例1〜3及び比較例1〜3は電磁鋼板に処理した例である。実施例1〜3に対する比較例が比較例1である。評価項目は前出の通りであり、また、評価方法も前出の通りである。評価項目は前出の通りであり、また、評価方法も前出の通りである。表1から明らかなように、クロムフリーの本発明によるコーチング皮膜は従来のクロム酸含有コーチング皮膜と比べ、下地金属との密着性、裸耐食性、絶縁性、加工性、耐リン溶出性及び耐スティッキング性などいずれの評価項目においても同等以上でありクロムフリーでありながらクロム酸含有コーチング皮膜を凌ぐ極めて優れた皮膜であることが明らかである。
【0044】
【発明の効果】
以上示したように本発明による表面処理剤はクロムを使用しない、いわゆる無公害のノンクロメート剤として電磁鋼板の絶縁皮膜に使用することができ、従来のクロム含有コーテイング剤を上回る皮膜特性を得ることができ、クロムに関連する公害問題を一気に解決することができる。また、従来自動車、家電、建材、容器関連、食器関連、玩具類、屋内用建材に至まで、現在使用されている塗布クロメート、電解クロメート、樹脂クロメート及び反応クロメートなど全てのクロメート剤の代替として無公害の表面処理剤として使用することができる。
【0045】
【表1】
Claims (2)
- 水酸基含有モノマー成分を5〜60重量%及びカルボキシル基含有モノマー成分を 0.5〜40重量%共重合成分として含有する有機樹脂 100重量部に対し、リン酸を5〜100 重量部、Mn、Mg、Al、Ba、Ca、Srの化合物の1種または2種以上を20〜200 重量部、SiO2, ZrO2, SnO2, Al2O3, Sb2O5のコロイド(ゾル)の1種あるいは2種以上を5〜150 重量部配合することを特徴とするクロムフリー電磁鋼板表面処理用組成物。
- 電磁鋼板の上に、請求項1 の表面処理用組成液を塗布し形成された皮膜の付着量が 0.3〜5.0 g/m2有する事を特徴とする表面処理電磁鋼板。
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