JP3747107B2 - 電動機 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、冷凍機や空調機の圧縮機駆動用電動機等に代表される永久磁石界磁を有する同期電動機に関し、特に回転子の鉄心の内部に磁石を埋め込んで構成するいわゆる埋込磁石構造(以下IPMと称す)の回転子を備えた電動機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
IPMの回転子として、一般に図11に示す構成のものが知られている。この回転子は、軸孔5に嵌入される軸によって支持されて、ケーシングに固定された電動機固定子の内側に配置され、回転子鉄心1の外周部が固定子鉄心の内周部との間に所定の空隙を介して対向するように構成される。回転子鉄心1は所定形状に打ち抜いた0.35mm,0.50mm等の板厚の薄鉄板を多数積層して形成されており、収納した磁石の軸方向両端部を密閉するために端板10を装着し、軸方向に貫通する複数のカシメピン9によって回転子鉄心1と端板10とが固定されている。
【0003】
図11に示した回転子の平面断面を図12に示す。薄鉄板の打ち抜きによって形成された回転子鉄心1は、磁石6の収容孔2、カシメピン9の挿通孔8及び軸孔5を備え、各薄鉄板に設けた切り起こし突起による凹凸部を軸方向に隣接する薄鉄板相互で嵌合させて固定する周知のカシメクランプ手段7によって固定されて構成されている。積層後の回転子鉄心1の複数の収容孔2には、これと略相似形の磁石6がすきまばめあるいは圧入等によって挿入され、しかる後、端板10がカシメピン9によって固定されて収容孔2に蓋がなされるようになっている。
【0004】
複数片の磁石6は、主にフェライト磁石あるいは希土類磁石が用いられ、磁極軸と平行に磁気配向させた極異方性、あるいは径方向に磁気配向させたラジアル異方性に形成され、1片の磁石が1極を形成するように着磁されて界磁を形成するようになっており、図12に示すものは4極の界磁構成の場合を示している。この回転子において、磁石6の断面形状は、外径側が円弧状で内径側が直線状の略蒲鉾形をなし、この磁石6の円弧状外周部は回転子鉄心1の外周部と同心状の円弧に形成されている。この結果、回転子鉄心1における外周部と磁石6の円弧状外周部との間に介在する鉄心部分(以下ブリッジ部と称す)3は等幅に形成されている。そしてこのブリッジ部3は、周方向に隣接する磁石6の相互間に介在する鉄心部分(以下ガード部と称す)4によって支持された構成となっている。
【0005】
磁石の形状としては、図12に示したもの以外に、外径側と内径側の双方を同心の円弧状に形成した平面断面形状が弓形のもの等も一般に多用されている。この場合、鉄心に設ける複数の収容孔の形状もこの磁石形状と略相似形とすることは勿論である。以上説明したような回転子は、例えば特願平8−95825号等に示されている。
【0006】
上記回転子は、三相巻線を有する固定子内に配置されて永久磁石型の同期電動機を構成し、インバータを介して固定子巻線を励磁することによって回転を行うようになっている。図13は、図12に示す回転子を固定子と対向配置した状態を模式的に示したものである。固定子は、複数のスロット13を有する固定子鉄心11に絶縁物を介して三相巻線14a,14bが巻回されて構成されている。この固定子鉄心11のスロット13は開口部17を有する半閉スロットとなっており、隣接するスロット間には歯部12を備えており、この歯部の内周部に回転子鉄心1の外周部がエアギャップ16を介して対向している。
【0007】
このようなIPMの電動機の場合、磁石の磁極中心と回転軸心を結んだ方向をd軸とし、このd軸に対する電気角90゜位相をq軸とすると、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqの関係がLd<Lqなるいわゆる逆突極性を示すため、低速域においては、これにより生じるリラクタンストルクと磁石により生じる主磁束トルクの双方のトルクの和が最大となるポイントで駆動するいわゆる最大トルク制御を行い、一方高速域においては進み位相制御を行うのが有効であり、前述の圧縮機等の駆動に用いられている。
【0008】
即ち、一般にこのような電動機のトルクTは、主磁束トルクをT1、リラクタンストルクをT2とすると、
T=T1+T2 …(1)
であり、磁石による磁束量をΦ、q軸電流をIq、d軸電流をIdとすれば、
T1=Φ・Iq …(2)
T2=(Ld−Lq)Id・Iq …(3)
で表される。
【0009】
図13に示す巻線は模式的に示したものであるが、14aで示される巻線と14bで示される巻線には互いに逆方向の電流が通電されていることを示しており、これにより固定子鉄心11には図示するN,Sで示される固定子側の磁極が生じている状態を表している。一般にこのような電動機の固定子に対してなされる台形波120゜通電は、U−V,U−W,V−W,V−U,W−U,W−Vの6つの通電パターンより成り、各々の通電区間は電気角60゜となっている。従って、ある特定の巻線に電気角60゜の通電がなされる間、主磁束トルクとリラクタンストルクの和が最高のトルクを生じる関係となるように通電制御されるようになっている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、IPMの電動機のトルクTには、主磁束トルクT1以外にリラクタンストルクT2が大きく寄与しているのであるが、このリラクタンストルクには固定子鉄心の歯部12と回転子鉄心のガード部4の位置関係に起因するコギングトルク成分が多く含まれており、これによる電動機の振動や騒音が大きな問題となっている。
【0011】
図13の電動機において、固定子に対して例えばU−V通電を行うと、図示するような固定子側の磁極が生じ、この磁極の磁極軸OAにこれと極性を異にする回転子の磁石6の磁極軸が一致して静止する。尚、図中Oは回転軸心を示している。この回転子が静止する位置を0゜とし、一定電流にてU−V通電を継続しつつ回転子を正規の回転方向と逆方向へ回転させていった場合に、回転子の回転した機械角θに対するトルクTの値の変化を、図6に三角プロットを破線で結んだTbにて示す。破線Tbで明らかなように、この例の場合は回転子の角度θが40゜〜55゜近辺にかけてトルクが著しく上下動しており、このトルク変動が振動や騒音を発生させる大きな要素であることが解る。
【0012】
上記トルク変動を図14に基づいて説明する。図14は、回転子の角度θが47.5゜のポイントを図示しており、図13において固定子の磁極軸OAと一致していた回転子の磁極軸OBが回転方向と逆方向に47.5゜(電気角95゜)回転した状態である。この位置においては、固定子巻線14aの通電によって発生した固定子磁束の一部は、破線15aにて示すような磁路を生じることになる。即ち、固定子鉄心11の歯部12aからエアギャップ16を経由して回転子鉄心1のガード部4aへ入り、回転子鉄心内を通過して別のガード部4bからエアギャップ16を経由して固定子鉄心の別の歯部12dへ至る磁路である。この磁路15aにおいては、回転子鉄心のガード部4a及び4bがそれぞれ固定子鉄心の歯部12a及び12dよりも回転方向へ若干変位しているため、磁気的に安定しようとするリラクタンストルク成分、即ちコギングトルクが減速方向に発生することになる。このような現象は、歯部12とガード部4の位置関係によって、いくつかのポイントにおいて加速方向あるいは減速方向のコギングトルクとして発生することになり、この結果、図6に示したようなトルクTbの著しい上下動が生じてしまう。
【0013】
また、図12に示したような回転子鉄心1を構成する薄鉄板の打ち抜きは、順送プレス型を用いて行われるものであるが、ブリッジ部3を形成する場合、収容孔2を抜き落とすステーションと鉄心1の外周部を抜き落とすステーションでは抜き方向が異なる方向となる。この結果、図15に示すように、板厚がW2なる各薄鉄板には鉄心の外周部18と内周側の収容孔2との間に幅がW1なるブリッジ部3が打ち抜かれ、このブリッジ部3の内外周面のそれぞれはせん断面19と破断面20によって形成されており、破断面20の先端にはバリ21が生じている。また打ち抜き型の刃が打ち込まれる板面からせん断面19にかけては薄板材料が刃に引き込まれて生じるだれ込み部22が生じる。従ってだれ込み部22によって、ブリッジ部3の上下板面はせん断方向へ傾斜して形成されることになる。
【0014】
積層直後の回転子鉄心は、図15に示すように各薄鉄板に生じたバリ21によって積層間が浮いた状態となっていて積層密度が悪いため、一般に積層方向に再加圧して増し締めがなされる。このとき鉄心のブリッジ部3においては、幅寸法W1が小さいために、この寸法W1に対する前述のだれ込み部22による傾斜部分の割合がかなり大きくなっており、この結果図16に示すように、加圧によってブリッジ部3の上下面が滑って積層間にズレが生じたり、ブリッジ部3自体が傾斜して収容孔2側あるいは外周部18側へ突出するといったいわゆる座屈現象を生じる。このようにブリッジ部3が本来のブリッジ幅W1に対して径方向内外へ凹凸を生じることにより、収容孔2への磁石6の挿入ができなくなったり、回転子の外周部18が固定子と接触して電動機として回転不能となったりする問題があった。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、IPMの電動機において、回転子鉄心におけるブリッジ部を、磁石の1片における周方向中央部と対向する部分に所定の範囲にわたって形成された広幅の部分と、この広幅の部分から周方向両側のガード部にわたって両側均等に形成された狭幅の部分とによって構成するものである。
【0016】
また電動機の極数をP、前記スロットの数をNsとしたとき、前記ブリッジ部の広幅の部分と狭幅の部分の境界から回転子極間部までの軸心からみた開角は、前記固定子鉄心におけるNs/(3P)個の隣接する歯部の最大開角の近辺の値に設定するものである。あるいはこのブリッジ部の広幅の部分と狭幅の部分の境界から回転子極間部までの軸心からみた開角は、前記固定子鉄心におけるNs/(3P)個の隣接するスロットの開口部の最大開角の近辺の値に設定するものである。
【0017】
このブリッジ部に設ける広幅の部分の形状は、内側へ向けた凸状または外側へ向けた凸状等により、狭幅の部分に対して磁気抵抗に差異が生じるように構成する。この場合、前記広幅の部分の幅は、機械的構成上は前記回転子鉄心を構成する薄鉄板の板厚以上とすることが好ましく、また磁気的構成上は前記狭幅の部分の幅の1.2倍以上とすることが好ましい。
【0018】
【作用】
回転子鉄心のブリッジ部の広幅の部分と狭幅の部分との間に磁気抵抗の差異が生じ、これによって固定子鉄心の歯部と回転子鉄心のガード部の位置関係によって生じるコギングトルクが、前記歯部と前記広幅の部分の位置関係によって生じるリラクタンストルクによって打ち消され、回転子位置の変化に伴うトルク変動が滑らかとなる。
【0019】
また回転子鉄心の製造過程において、鉄心ブリッジ部の広幅部においては、打ち抜きによるだれ込み部に対してブリッジ部の幅寸法が大きいために広幅部に平坦な板面が存在し、積層方向に鉄心を再加圧して増し締めを行う際に前記平坦な板面で加圧力を受けることができ、この結果ブリッジ部に座屈が生じることがない。
【0020】
【実施例】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は本発明の代表的な実施例を示す回転子の要部平面断面図である。この回転子鉄心1aのブリッジ部は、従来のように等幅に形成されるのではなく、周方向中央部に広幅部3aを、そして周方向端部のガード部4近傍の部分には狭幅部3bがそれぞれ設けてあり、この狭幅部3bは広幅部3aを挟んで両側均等に構成されている。広幅部3aは収容孔2a内へ突出した凸部によって形成されており、この構成は各極におけるブリッジ部で均等構成となっている。
【0021】
広幅部3aの内周部は回転子鉄心1aの外径18と同心状に形成され、この回転子鉄心1aの収容孔2aに磁石6aを挿入したとき、広幅部3aの内周部と磁石6aの円弧状外周部とは当接状態となり、狭幅部3bと磁石6aとは若干離間するように構成される。その他の構成に関しては、図11及び図12の従来例にて説明したものと同一または均等構成となっている。
【0022】
図2及び図3は、本発明の電動機における回転子鉄心と固定子鉄心との組み合わせ状態を説明するものであり、簡略化のため、例えば収容孔2a,2dのコーナー部の円弧等は省略して描いてある。回転子鉄心1a及び1dは、共に極数P=4なる4極界磁用の鉄心となっている。また図2の固定子鉄心11はスロット数Ns=12、図3の固定子鉄心11aはNs=24のものをそれぞれ示しており、これらスロット13の間にはスロット数と同数の歯部12が設けられ、隣接する歯部12のチップ間にはスロットの開口部17が形成されている。
【0023】
図2及び図3の電動機において、α1〜α4は軸心Oからみた開角を示しており、α1はブリッジ部の広幅部3a,3cの開角を表し、またα2は広幅部3a,3cと狭幅部3b,3dの境界から回転子極間部までの開角を表しており、機械角において、
α1=360/P−2α2 …(4)
なる関係にある。
【0024】
またα3及びα4は、
n=Ns/(3P) …(5)
なる関係によって算出された係数nをもとにして定めた開角であり、図2の電動機においてはNs=12であるためn=1となり、一方図3の電動機においてはNs=24であるためn=2となる。そしてα3はn個の隣接する歯部12のエアギャップ16に臨む部分の最大開角を表し、この場合の歯部とはチップ部の先端までも含めて考慮する。またα4はn個の隣接するスロット13の開口部17の最大開角を表している。
【0025】
本発明においては、概ねα2=α3あるいはα2=α4なる関係となるように、回転子鉄心1a,1dのブリッジ部の広幅部3a,3c及び狭幅部3b,3dの開角を設定する。いま、固定子鉄心のスロット数が12個の場合について考えると、図4に示す電動機は概ねα2=α3に設定したものを図示しており、この電動機には図13にて示した電動機と同様の磁極が形成される。即ち、固定子に対して例えばU−V通電を行って回転子が静止する位置OAを0゜とし、正規回転方向と逆方向への磁極軸OBの開角θが機械角にて47.5゜(電気角95゜)のポイントに回転子が位置した状態を示しており、図14に示した従来例と同一の状態を示している。固定子巻線14aへの通電によって発生した固定子磁束の一部は、破線15aのような減速方向へのコギングトルクを生じる磁路を形成することは図14の従来例にて説明したとおりである。本実施例の場合、これに加えて、固定子鉄心11の歯部12bからエアギャップ16を経由して回転子鉄心1aのブリッジ部広幅部3aへ入り、この広幅部3aを周方向へ抜けた後、エアギャップ16を経由して固定子鉄心の別の歯部12dへ至る固定子磁束の磁路15bを生じることになる。
【0026】
この結果、磁路15bにおいては、回転子鉄心1aのブリッジ部広幅部3aの軸心Oからみた開角が、固定子鉄心11の歯部12bから12dまでの開角よりも回転方向と逆方向へ若干変位しているため、磁気的に安定しようとするリラクタンストルク成分が加速方向に発生することになる。従って固定子磁束の磁路15aによる減速方向のトルクは、磁路15bによる加速方向のトルクによって打ち消されることになる。このように、歯部12a〜12eとガード部4a,4bとの位置関係によっていくつかのポイントにおいて発生する加速方向あるいは減速方向のコギングトルクは、歯部12a〜12eと広幅部3aとの位置関係によって発生する反対方向のリラクタンストルクによって打ち消されることになる。
【0027】
上記のような作用が生じるため、図4に示したようなα2=α3なる電動機において、固定子に対して例えばU−V通電を行って回転子が静止する位置を0゜とし、一定電流にてU−V通電を継続しつつ回転子を正規の回転方向と逆方向へ回転させていった場合に、回転子の回転した機械角θに対するトルクTの値の変化は、図6に丸印プロットを実線で結んだTaのようになり、従来例の破線Tbと比較してトルクの著しい上下動はなくなって滑らかとなり、この結果振動や騒音の少ない電動機が形成されたことが解る。尚、図6のものは、電動機として極数4、固定子外径φ105mm、スロット数12、回転子外径φ54.8mm、鉄心積厚68mmのものを用い、出力150w時の電流値にて通電を行った場合のデータである。また、この電動機における各部の開角は、α2=α3=23.75゜、α1=42.5゜、α4=6.25゜であり、またブリッジ部の狭幅部の径方向幅が0.5mm、広幅部の径方向幅が0.65mmであった。
【0028】
図7は、図6における特性改善効果の著しい機械角θ=40゜〜60゜の範囲をさらに詳細に説明する図であり、図4に示した電動機における開角α1を変えることによる特性の変化をみたものである。前述のようにTaは広幅部の開角α1=42.5゜に設定されたものであり、このときα2=α3となっている。Tbは均一ブリッジ幅の従来品の場合であり、Ta,Tbについては図6を拡大して示してある。他の折線における符号Tの添字はブリッジ部の広幅部の開角α1の機械角を表している。図に示されるように、α1が37.5゜から47.5゜まで変化することによってトルクの脈動幅も大きく変化しており、α1=42.5゜近辺即ちα2=α3の近辺で脈動幅が小さくなって滑らかなトルク変化が得られることが解る。図7に示されるように、本発明によるトルクの上下動の改善は、α1が40゜から45゜の範囲であれば概ね実用上の効果が期待でき、従って42.5゜を基準にすると、α1やα2の値を設定する上で、スロット開口部17の開角の約半分程度に相当する角度分の増減まで許容できる。
【0029】
図6のTaに示される特性の改善は、図2の電動機においてα2=α3とした場合のものであるが、図3に示すような24スロットの固定子においても前述の係数n=2とするのみであって、α2=α3とすれば同様の作用、効果が得られる。また本発明においては、α2=α4となるように設定しても同様の作用、効果が生じるものである。但し、図2に示すような12スロットの固定子を用いる場合は、開角α4が小さい値となるためにブリッジ部の凹凸の変化に乏しく、発明の効果が顕著に現れない。従ってα2=α4とする場合は、図3に示すような24スロットの固定子を用いる場合に適しているといえる。
【0030】
図5は、図3の24スロットの電動機において、概ねα2=α4に設定した場合の一例を示すものである。この図において、固定子側には図4の場合と略同様の磁極が形成されているが、巻線14aの数及び12f〜12j等で示す歯部の数は2倍となっている。図5は、固定子に対して例えばU−V通電を行って回転子が静止する位置OAを0゜とし、正規回転方向と逆方向への磁極軸OBの開角θが機械角にて50゜(電気角100゜)のポイントに回転子が位置した状態を示している。
【0031】
固定子巻線14aへの通電によって発生した固定子磁束の一部は、破線15cのような磁路を形成し、これは従来のIPMの電動機において生じている現象である。即ち、固定子鉄心11aの歯部12fからエアギャップ16を経由して回転子鉄心1dのガード部4cへ入り、回転子鉄心内を通過して別のガード部4dからエアギャップ16を経由して固定子鉄心の別の歯部12jへ至る磁路15cが生じ、このときガード部4c及び4dがそれぞれ歯部12f及び12jよりも回転方向と逆方向へ若干変位しているため、磁気的に安定しようとするコギングトルクが増速方向に発生することになる。これに対し、本発明の構成によりこの場合は、歯部12gからエアギャップ16を経由してブリッジ部の広幅部3cへ入り、この広幅部3cを周方向へ抜けた後、エアギャップ16を経由して別の歯部12hへ至る固定子磁束の磁路15dを生じることになり、この磁路15dにおいては、広幅部3cの開角が、歯部12gから12hまでの開角よりも回転方向へ若干変位しているため、磁気的に安定しようとするリラクタンストルクが減速方向に発生することになる。従って磁路15cによる加速方向のトルクは、磁路15dによる減速方向のトルクによって打ち消されることになる。尚図5において、α2=α3としても同様のコギングトルク低減効果が発揮される。
【0032】
また、図1に示される回転子鉄心1aにおいては、鉄心を構成する各薄鉄板を打ち抜く際、図15にて説明しただれ込み部22が生じるためにブリッジ部の板面はせん断方向へ傾斜して形成されるのであるが、広幅部3aを従来のブリッジ部に比べて広幅に形成することにより、だれ込み部に対するブリッジ幅W1の割合が大きくなるため、平坦な板面を多く残存させて打ち抜くことができる。このため積層方向に鉄心1aを再加圧して増し締めを行う際に、上記平坦な板面で加圧力を受けることができ、ブリッジ部の座屈が発生することが防止される。
【0033】
上記効果を得るためのブリッジ部の広幅部3aの幅寸法は、概ね薄鉄板の板厚以上とすることにより、良好な効果が発揮されることが発明者らによって確認されている。この場合、ブリッジ部の狭幅部3bは、鉄心のガード部4に近接しているため、この部分については加圧による座屈は発生しにくい構成となっているため、従来通りの幅あるいは必要に応じてさらに狭幅に形成することも可能である。また図4及び図5にて説明したコギングトルクを打ち消してトルクを滑らかにするといった作用を得るためには、ブリッジ部の広幅部3aと狭幅部3bのそれぞれの径方向の幅は、それらの境界部分において磁気抵抗が明確に変わる程度の差が必要であり、実験的には広幅部3aの幅が狭幅部3bの幅の1.2倍以上の域において顕著な効果が得られるようになる。また前記境界部分は、形状あるいは磁気抵抗がなだらかに変化するように形成しても効果は得られるが、理想的には前述の磁気抵抗が明確に変化するような段差形状が好ましい。
【0034】
尚、固定子鉄心や回転子鉄心は打ち抜きによって形成されるため、コーナー部分は円弧等によって形成されている場合が多く、これにより固定子鉄心の歯部のチップ部、回転子鉄心のガード部、あるいはブリッジ部の広幅部と狭幅部の境界部分における磁束の流れに若干の変化が生じるため、本発明におけるブリッジ部の広幅部や狭幅部の設定に際しては、前記円弧等による鉄心部分の目減りや増加を考慮に入れて広幅部及び狭幅部の開角を設定することは勿論である。
【0035】
図8乃至図10は、本発明による回転子のそれぞれ別の実施例を示したものである。図8の回転子は、図1に示した磁石6aに代えて、ブリッジ部の狭幅部3bに当接するまで磁石の量を増加したものである。磁石6bの磁気抵抗は空気同様であるので、このように構成した場合でも、ブリッジ部の広幅部3aと狭幅部3bとによる本発明の効果は図1の場合と同様であり、磁石の量が増加したことにより、主磁束量が若干増加することになる。
【0036】
図9の回転子は、弓形の磁石6cを使用した回転子に本発明を適用した場合の例を示しており、回転子鉄心1bは、収容孔2bの内径側が磁石形状に合わせた円弧状である点以外は図1に示した回転子鉄心1aと同様の構成であり、作用、効果に関しても何等変わることはない。この場合は、図1の回転子と比較して、磁石6cの内周側の鉄心部分に余裕があるため、例えば圧縮機駆動用電動機等においては、圧縮機構の軸受部分を逃げた空洞部をこの部分に設けることが可能となったり、圧縮機構のアンバランスを矯正するための空孔を鉄心1bに設ける等種々の構成に都合がよい。
【0037】
図10の回転子は、ブリッジ部の広幅部3aを外側へ向けた凸状に形成したものである。図10のような鉄心1cにおいては、図1に示した回転子と同様の作用、効果を得ることができるとともに、磁石の量を増加させて主磁束量を増すことができる。尚、広幅部3aの突出によって回転子と固定子間の空隙が縮小するが、前述したブリッジ部の座屈が発生した場合に比べれば突出寸法は相対的に小さなものであり、且つ寸法上の品質も安定しているので、固定子との間に所定の空隙を維持して回転子が回転を行うに際して支障は生じない。但し、エアギャップ寸法が小さい場合や、狭幅部3bの幅が小さくて鉄心が変形する不安等がある場合は、図1に示した内側へ向けた凸状の広幅部3aとすることが好ましい。また広幅部3aは、内側と外側の両側へ向けた凸状となる形状に構成してもよいことは勿論である。
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、固定子鉄心の歯部と回転子鉄心のガード部の位置関係によって生じるコギングトルクが、ブリッジ部の広幅の部分と狭幅の部分の磁気抵抗の差異によって生じるリラクタンストルクによって打ち消され、回転子位置の変化に伴うトルク変動が滑らかとなる。この結果、電動機の振動や騒音が大幅に低減されるものである。また鉄心ブリッジ部の広幅部の存在によって、積層方向に鉄心を加圧して増し締めを行う際にブリッジ部に積層間のズレや傾斜による座屈が発生することが防止される。この結果、鉄心の収容孔への磁石の挿入が容易となって製造上の歩留まりが向上するとともに、回転子の外周部が固定子と接触するといった事故をなくすことができ、品質の良い電動機を提供できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例を示す電動機の回転子の要部平面断面図。
【図2】図1の回転子鉄心と固定子鉄心との組み合わせ状態を説明する要部平面図。
【図3】図1の回転子鉄心と別の固定子鉄心との組み合わせ状態を説明する要部平面図。
【図4】図1の回転子を用いた電動機における固定子磁束の流れを示す説明図。
【図5】図1の回転子を用いた電動機における固定子磁束の流れを示す説明図。
【図6】固定子に対する特定の通電パターン時における回転子位置による電動機のトルクの変化を示す特性図。
【図7】図6の要部の詳細を説明する特性図。
【図8】本発明の第2実施例を示す回転子の要部平面断面図。
【図9】本発明の第3実施例を示す回転子の要部平面断面図。
【図10】本発明の第4実施例を示す回転子の要部平面断面図。
【図11】一般的なIPMの回転子を示す斜視図。
【図12】従来例を示す回転子の平面断面図。
【図13】図12の回転子を用いた電動機における磁極構成を示す説明図。
【図14】図13の電動機における固定子磁束の流れを示す説明図。
【図15】従来の回転子鉄心のブリッジ部の打ち抜き後の状態を示す正面断面図。
【図16】図15のブリッジ部の加圧後の状態を示す正面断面図。
【符号の説明】
1,1a,1b,1c,1d 回転子鉄心
2,2a,2b,2c,2d 収容孔
3 ブリッジ部
3a,3c 広幅部
3b,3d 狭幅部
4,4a,4b,4c,4d ガード部
5 軸孔
6,6a,6b,6c、6d 磁石
7,7a カシメクランプ手段
9 カシメピン
11,11a 固定子鉄心
12,12a〜12j 歯部
13 スロット
14a,14b 巻線
15a,15b,15c,15d 固定子磁束
16 エアギャップ
17 スロット開口部

Claims (7)

  1. 固定子鉄心の半閉スロットに巻線を装着した固定子と、回転子鉄心の内部に複数片の磁石を装着した回転子とを、前記固定子鉄心の歯部の内周部に前記回転子鉄心の外周部がエアギャップを介して対向するように配置して構成される電動機において、前記回転子鉄心は、その外周部と前記磁石の円弧状外周部との間に介在するブリッジ部と、周方向に隣接する前記磁石の相互間に介在するガード部とを備え、前記ブリッジ部は、前記磁石の1片における周方向中央部と対向する部分に所定の範囲にわたって形成された広幅の部分と、この広幅の部分から周方向両側の前記ガード部にわたって両側均等に形成された狭幅の部分とを備えていることを特徴とする電動機。
  2. 電動機の極数をP、前記スロットの数をNsとしたとき、前記ブリッジ部の広幅の部分と狭幅の部分の境界から回転子極間部までの軸心からみた開角を、前記固定子鉄心におけるNs/(3P)個の隣接する歯部の最大開角の近辺の値に設定したことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
  3. 前記ブリッジ部の広幅の部分と狭幅の部分の境界から回転子極間部までの軸心からみた開角を、前記固定子鉄心におけるNs/(3P)個の隣接するスロットの開口部の最大開角の近辺の値に設定したことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
  4. 前記ブリッジ部の広幅の部分は、内側へ向けた凸状に形成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電動機。
  5. 前記ブリッジ部の広幅の部分は、外側へ向けた凸状に形成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電動機。
  6. 前記ブリッジ部の広幅の部分の幅を、前記回転子鉄心を構成する薄鉄板の板厚以上としたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電動機。
  7. 前記ブリッジ部の広幅の部分の幅を、前記狭幅の部分の幅の1.2倍以上としたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の電動機。
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