JP3746780B2 - 無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液及びその製造方法 - Google Patents

無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液及びその製造方法 Download PDF

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Description

技術分野
本発明は、無細胞タンパク質合成用の胚芽抽出液及びその製造方法に関する。更に詳しくは合成効率の高い無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液及びそれを工業的に効率よく製造するための方法等に関するものである。
背景技術
細胞内でおこなわれているタンパク質の合成反応は、まず遺伝情報をもつDNAからその情報がmRNAに転写され、そしてリボソームがそのmRNAの情報を翻訳して、タンパク質を合成するという工程で進行している。現在、この細胞内におけるタンパク質合成を試験管等の生体外で行う方法として、例えばリボソームを生物体から抽出し、これらを用いて試験管内でタンパク質合成反応を行わせしめる、無細胞タンパク質合成の研究が盛んに行われている(特開平6−98790号公報、特開平6−225783号公報、特開平7−194号公報、特開平9−291号公報、特開平7−147992号公報)。この方法には、リボソームの原料として、大腸菌、植物胚芽、家兎網状赤血球等が用いられてきた。
植物胚芽からリボソームを含有する無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液を得る方法としては、通常、植物種子を粉砕した後、種皮や胚乳画分を取り除いて粗胚芽画分を取得し、更に洗浄により胚乳成分を除去した後、粉砕、抽出、精製する方法が行われている。
従来の胚芽の微粉砕方法としては、リボソームやtRNA等のタンパク質合成成分を含む水溶性成分の抽出の効率化を図るために、胚芽をできるだけ細かく粉砕することが必要だと考えられていた。しかしながら、胚芽は小さく強度も高いため容易に粉砕することができない。従って、従来は、洗浄後の胚芽を予め液体窒素等で凍結した後、乳鉢、スタンプミル、ボールミル等で摩砕又は圧砕することにより微粉砕する方法が広く用いられており、このように微粉砕された胚芽に抽出溶媒を加えて攪拌した後、遠心分離等により胚芽抽出物含有液(胚芽抽出液)を回収、精製したものを無細胞タンパク質合成反応のための“酵素原液”として利用していた。この“酵素原液”中には、タンパク質合成反応に関与しない不要な成分が多く含まれており、またタンパク質合成阻害作用を有するものが存在している可能性がある。
また、上記従来法によって得られた抽出液にはタンパク質合成反応に必要とされる量のtRNAが含まれていないことから、別途調製したtRNAを追加することが必須要件であった。さらに、上記従来法では短時間に大量の抽出液を得ることが困難であった。
発明の開示
本発明者らは、上記課題を解決するために、無細胞タンパク質合成系に使用する胚芽抽出液のタンパク質の合成効率を上げるとともに、その抽出液を工業的に実施可能な程度に効率的に製造し、植物胚芽から効率的にタンパク質合成に必要な因子を抽出する方法について検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)リボヌクレアーゼ活性が低減された、植物胚芽抽出液。
(2)リボヌクレアーゼ活性がRNaseA換算で10pg/μl以下である、上記(1)記載の胚芽抽出液。
(3)抽出溶媒非存在下に植物胚芽を摩砕または圧砕して細分化する工程を含む方法(以下、単に従来法ともいう)により得られる胚芽抽出液と比較してリボヌクレアーゼ活性が80%以下に低減された上記(1)または(2)記載の胚芽抽出液。
(4)260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90の時のDNA含有量が230μg/ミリリットル以下であることを特徴とする植物胚芽抽出液。
(5)260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90の時の総脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸)含有量の合計量が0.03g/100g以下である植物胚芽抽出液。
(6)260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90の時のDNA含有量が230μg/ミリリットル以下であり、かつ総脂肪酸含有量が0.03g/100g以下である植物胚芽抽出液。
(7)植物胚芽が、コムギ、オオムギ、イネ又はコーンの胚芽である上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の胚芽抽出液。
(8)植物胚芽を衝撃又は切断により細分化する工程を含む、植物胚芽抽出液の製造方法。
(9)抽出溶媒の存在下に植物胚芽を細分化する工程を含む、植物胚芽抽出液の製造方法。
(10)抽出溶媒が、緩衝液、カリウムイオン、マグネシウムイオン及びチオール基の酸化防止剤からなる群より選択される1以上を含むものである上記(9)記載の製造方法。
(11)細分化が衝撃又は切断により行われるものである、上記(9)記載の製造方法。
(12)植物胚芽が、胚乳成分が実質的に夾雑しないものである上記(8)〜(11)のいずれか1項に記載の製造方法。
(13)植物胚芽が、コムギ、オオムギ、イネ又はコーンの胚芽である上記(8)〜(12)のいずれか1項に記載の製造方法。
(14)上記(8)〜(13)のいずれか1項に記載の製造方法により得られる植物胚芽抽出液。
(15)上記(1)〜(7)および(14)のいずれか1項に記載の胚芽抽出液を使用することを特徴とする無細胞タンパク質合成方法。
(16)上記(1)〜(7)および(14)のいずれか1項に記載の胚芽抽出液、ATP、GTP、クレアチンリン酸、クレアチンキナーゼ、L型アミノ酸、カリウムイオン及びマグネシウムイオンを含有することを特徴とする無細胞タンパク質合成用溶液。
(17)少なくとも、上記(1)〜(7)および(14)のいずれか1項に記載の胚芽抽出液を含有する無細胞タンパク質合成用溶液であって、tRNAを添加しなくとも十分なタンパク質合成活性を有することを特徴とする無細胞タンパク質合成用溶液。
(18)少なくとも、上記(1)〜(7)および(14)のいずれか1項に記載の胚芽抽出液を含むことを特徴とする無細胞タンパク質合成を行うためのキット。
(19)少なくとも、上記(16)または(17)記載の無細胞タンパク質合成用溶液を含むことを特徴とする無細胞タンパク質合成を行うためのキット。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1で得られた胚芽粉砕物の粒径分布を示す図である。
図2は、比較例1で得られた胚芽粉砕物の粒径分布を示す図である。
図3は、実施例2及び比較例2で合成したGFPの蛍光強度を示す図である。
図4は、実施例7及び比較例6でのDHFRの合成結果を示す図である。縦軸はタンパク質に取り込まれた放射活性([14C]−ロイシン取り込み量:dpm/5μl)を、横軸はtRNAの添加量を示す。
図5は、本発明の胚芽抽出液および従来法による抽出によって得られる胚芽抽出液のリボヌクレアーゼ活性を測定した結果を表す電気泳動像である。(A)は、基質であるmRNAを、濃度を4段階に変えて調製したRNaseA含有溶液で処理した場合のRNA分解の様子を示した図である。(B)基質であるmRNAを、本発明の胚芽抽出液および従来法による抽出によって得られる胚芽抽出液でそれぞれ処理した場合のRNAの分解を示す図である。尚、Mはマーカーを表す。
図6は図5で得られた電気泳動像においてバンドの濃さを測定し、RNaseA未処理の場合を100%(RNAは分解しない)として、残存するRNAの量を表したグラフである。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明で用いられる植物胚芽は、植物種子より取得できる。用い得る植物種子としては、通常、コムギ、オオムギ、イネ、コーン等のイネ科の植物から選択される植物の種子が挙げられる。これらの中でも、本発明に好適な植物種子として、上記コムギ、オオムギ、イネまたはコーンが挙げられ、特に好適なものとしてコムギが挙げられる。
植物種子に含まれる胚芽の量は少ないため、胚芽を効率的に取得するためには胚芽以外の部分をできるだけ除去しておくことが好ましい。通常、まず、植物種子に機械的な力を与えることにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得、該混合物から、胚乳破砕物、種皮破砕物等を取り除いて粗胚芽画分(胚芽を主成分とし、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物)を得る。植物種子に加える力は、植物種子から胚芽を分離することができる程度の強さであればよい。
通常は、公知の粉砕装置を用いて、植物種子を粉砕することにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得る。
植物種子の粉砕は、通常公知の粉砕装置を用いて行うことができるが、ピンミル、ハンマーミル等の被粉砕物に対して衝撃力を加えるタイプの粉砕装置を用いることが好ましい。粉砕の程度は、使用する植物種子胚芽の大きさに応じて適宜選択すればよいが、例えばコムギ種子の場合は、通常、最大長さ4mm以下、好ましくは最大長さ2mm以下の大きさに粉砕する。また、粉砕は乾式で行うのが好ましい。
次いで、得られた植物種子粉砕物から、自体公知の分級装置、例えば、篩を用いて粗胚芽画分を取得する。例えば、コムギ種子の場合、通常、メッシュサイズ0.5mm〜2.0mm、好ましくは0.7mm〜1.4mmの粗胚芽画分を取得する。さらに、必要に応じて、得られた粗胚芽画分に含まれる種皮、胚乳、ゴミ等を風力、静電気力を利用して除去してもよい。
また、胚芽と種皮、胚乳の比重の違いを利用する方法、例えば重液選別により、粗胚芽画分を得ることもできる。より多くの胚芽を含有する粗胚芽画分を得るために、上記の方法を複数組み合わせてもよい。さらに、得られた粗胚芽画分から、例えば目視や色彩選別機等を用いて胚芽を選別する。
このようにして得られた胚芽画分は、胚乳成分が付着している場合があるため、通常、胚芽純化のために更に洗浄処理することが好ましい。
洗浄処理としては、通常10℃以下、好ましくは4℃以下に冷却した水又は水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させ、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することが好ましい。また、通常10℃以下、好ましくは4℃以下で、界面活性剤を含有する水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させて、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄するのがより好ましい。界面活性剤としては、非イオン性のものが好ましく、非イオン性界面活性剤であるかぎりは、広く利用ができる。具体的には、例えば、好適なものとして、ポリオキシエチレン誘導体であるブリッジ(Brij)、トリトン(Triton)、ノニデット(Nonidet)P40、ツイーン(Tween)等が例示される。なかでも、ノニデット(Nonidet)P40が最適である。これらの非イオン性界面活性剤は、例えば0.5%の濃度で使用することができる。
水又は水溶液による洗浄処理および界面活性剤による洗浄処理は、どちらか一方でもよいし、両方実施してもよい。また、これらの洗浄処理は、超音波処理との組み合わせで実施してもよい。
上記のように植物種子を粉砕して得られた粉砕物から植物胚芽を選別した後、洗浄して得られた無傷(発芽能を有する)の胚芽を抽出溶媒の存在下または非存在下に細分化して、後者の場合、さらに該細分化された植物胚芽を抽出溶媒で抽出することによって胚芽抽出物を得、胚芽抽出物含有液(以下単に胚芽抽出液)を分離・精製する。
本発明において細分化は、摩砕、圧砕等の胚芽の粉砕方法として従来公知の方法を用いて行うこともできるが、衝撃または切断により胚芽を細分化することがより好ましい。特に、抽出溶媒の非存在下に胚芽を細分化するに際しては、衝撃または切断によることが望ましい。ここで、「衝撃または切断により細分化する」とは、植物胚芽の細胞核、ミトコンドリア、葉緑体等の細胞小器官(オルガネラ)、細胞膜や細胞壁等の破壊を、従来の摩砕又は圧砕と比べて最小限に止めうる条件で植物胚芽を破壊することを意味する。
衝撃または切断により胚芽を細分化する際に用いることのできる装置や方法としては、上記条件を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、ワーリングブレンダーのような高速回転する刃状物を有する装置を用いることが好ましい。刃状物の回転数は、通常1000rpm以上、好ましくは5000rpm以上であり、また、通常30000rpm以下、好ましくは25000rpm以下である。刃状物の回転時間は、通常5秒以上、好ましくは10秒以上である。回転時間の上限は特に限定されないが、通常10分以下、好ましくは5分以下である。細分化する際の温度は、胚芽のタンパク質合成能力が失われない温度であれば特に限定されないが、好ましくは10℃以下で細分化の操作が可能な温度範囲、特に好ましくは4℃程度が適当である。
一方、摩砕、圧砕により胚芽を細分化する場合には、乳鉢と乳棒、スタンプミル、ボールミル等の公知の装置を用いて、抽出溶媒の存在下で胚芽を磨り潰し又は圧し潰すことにより行うことができる。この場合の溶媒としては上記したものと同様のものが好ましい。
特に好適な細分化法としては、上述のように衝撃または切断による細分化が挙げられるが、かかる手法を用いることにより、胚芽の細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁を全て破壊してしまうのではなく、少なくともその一部を破壊することなく残すことが可能になる。即ち、胚芽の細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁が必要以上に破壊されることがないため、それらに含まれるDNAや脂質等の不純物の混入が少なく、細胞質に局在するタンパク質合成に必要なRNAやリボソーム等を高純度で効率的に胚芽から抽出することができる。
胚芽の細分化は抽出溶媒の存在下あるいは非存在下で行うことができる。
胚芽の細分化を抽出溶媒の存在下で行う場合には、具体的には以下のような手順で行なわれる。
胚芽を細分化(好ましくは、衝撃または切断により)する際に抽出溶媒を存在させることにより、植物胚芽を細分化する工程と細分化された植物胚芽を抽出溶媒で抽出する工程とを同時に行う。この場合、胚芽と抽出に必要な量の抽出溶媒とを混合し、抽出溶媒の存在下に胚芽を細分化する。抽出溶媒の量は、洗浄前の胚芽1gに対して、通常0.1ミリリットル以上、好ましくは0.5ミリリットル以上、より好ましくは1ミリリットル以上である。抽出溶媒量の上限は特に限定されないが、通常、洗浄前の胚芽1gに対して、10ミリリットル以下、好ましくは5ミリリットル以下である。混合物を遠心分離等により分離し、得られる上清を胚芽抽出液として回収する。さらにゲルろ過等の精製工程に付してもよい。
細分化と溶媒抽出とを同時に一つの工程として行えば、効率的に胚芽抽出液を得ることができ、細分化後に抽出を行う場合に比べて、胚芽の細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁の破壊が抑えられた状態でも細胞質に局在するタンパク質合成に必要な因子を十分に抽出することができる。
また、胚芽の細分化を抽出溶媒の非存在下で行う場合には、具体的には以下のような手順で行われる。まず細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁が必要以上に破壊されないように、細分化した、好ましくは、衝撃又は切断により細分化した胚芽に抽出溶媒を加えて攪拌した後、混合物を遠心分離等により分離し、得られる上清を胚芽抽出液として回収する。さらにゲルろ過等の精製工程に付してもよい。使用する抽出溶媒の量やその上限は、上記した抽出溶媒の存在下で胚芽を細分化する場合と同様な値が設定される。
細分化しようとする胚芽は従来のように凍結させたものを用いてもよいし、凍結させていないものを用いてもよいが、凍結させていないものを用いるのが好ましい。
抽出溶媒としては、緩衝液、カリウムイオン、マグネシウムイオン及びチオール基の酸化防止剤のうちの少なくとも1つを含む水溶液を用いることができる。また、必要に応じて、カルシウムイオン、L型アミノ酸等をさらに添加してもよい。例えば、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、L型アミノ酸及び/又はジチオスレイトールを含む溶液や、Pattersonらの方法を一部改変した溶液(HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、塩化カルシウム、L型アミノ酸及び/又はジチオスレイトールを含む溶液)を抽出溶媒として使用することができる。抽出溶媒中の各成分の組成・濃度はそれ自体既知であり、無細胞タンパク質合成用の胚芽抽出物の製造法に通常用いられるものを採用すればよい。
ゲルろ過としては、例えば予め溶液(HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、ジチオスレイトール又はL型アミノ酸を含む溶媒)で平衡化しておいたゲルろ過装置を用いて行うことができる。ゲルろ過溶液中の各成分の組成・濃度もそれ自体既知であり、無細胞タンパク質合成用の胚芽抽出物の製造法に通常用いられるものを採用すればよい。
ゲルろ過後の胚芽抽出液には、微生物、特に糸状菌(カビ)などの胞子が混入していることがあり、これら微生物を排除しておくことが好ましい。特に長期(1日以上)の無細胞タンパク質合成反応中に微生物の繁殖が見られることがあるので、これを阻止することは重要である。微生物の排除手段は特に限定されないが、ろ過滅菌フィルターを用いるのが好ましい。フィルターのポアサイズとしては、混入する可能性のある微生物が排除可能なサイズであれば特に限定されないが、通常0.1〜1マイクロメーター、好ましくは0.2〜0.5マイクロメーターが適当である。ちなみに、小さな部類の枯草菌の胞子サイズは0.5μmx1μmであることから、0.20マイクロメーターのフィルター(例えばSartorius製のMinisartTM等)を用いるのが胞子の除去にも有効である。ろ過に際して、先ずポアサイズが大きめのフィルターを用い、次に混入する可能性のある微生物が排除可能なポアサイズのフィルターを用いて、ろ過するのが好ましい。
本発明においては、好ましくは抽出溶媒の存在下で胚芽の細分化を行い、特に好ましくは抽出溶媒の存在下で衝撃又は切断化による胚芽の細分化を行う。
このようにして得られた胚芽抽出液は、原料細胞自身が含有する又は保持するタンパク質合成機能を抑制する物質(トリチン、チオニン、リボヌクレアーゼ、ホスファターゼ等の、mRNA、tRNA、翻訳因子タンパク質やリボソーム等に作用してその機能を抑制する物質)を含む胚乳が実質的に夾雑せず、純化されている。ここで、「胚乳が実質的に夾雑しない」とは、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳部分を取り除いた胚芽抽出物のことであり、また、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度とは、リボソームの脱アデニン化率が7%未満、好ましくは1%以下になっていることをいう。
また、当該胚芽抽出液中に混入し得る低分子量のタンパク質合成機能を抑制する物質を透析等により排除する工程を実施することにより、よりタンパク質合成能に優れた胚芽抽出液が得られる。かかる排除工程はATPやGTP、アミノ酸等の安定化成分の存在下で実施することが好ましい。
さらに本発明の胚芽抽出液、例えば上記した手順により得られる胚芽抽出液は、リボヌクレアーゼ活性が低減されていることを特徴とする。ここで「低減された」とは、従来公知の胚芽抽出液の調製方法によって得られた無細胞タンパク質合成用の植物胚芽抽出液と比較した場合にその活性がより低いことを意図し、具体的には植物胚芽の細分化を、抽出溶媒非存在下に摩砕又は圧砕して行う方法(即ち、従来法)により得られた胚芽抽出液と比較してリボヌクレアーゼ活性がRNaseA換算で85%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下に抑えられた胚芽抽出液が該当する。例えば本発明のリボヌクレアーゼが低減された胚芽抽出液は、リボヌクレアーゼ活性がRNaseA換算で10pg/μl以下である。
リボヌクレアーゼ活性はそれ自体既知の方法で測定することができるが、具体的にはリボヌクレアーゼの基質としてmRNA(当該mRNAの種類は特に限定されず、本発明の胚芽抽出液と対照となる胚芽抽出液(従来の抽出法により得られる胚芽抽出液)とによる比較実験において同種のものを使用する限り適宜選択し得ることは当業者には明らかである)を用い、当該mRNAを各胚芽抽出液で処理した際のRNA分解の程度を調べることによって本発明の胚芽抽出液に混入しているリボヌクレアーゼ活性を相対的に知ることができるし、また、その際、標準品として濃度既知のリボヌクレアーゼ、例えばRNaseAによるRNA分解の程度と比較することによって本発明の胚芽抽出液に混入しているリボヌクレアーゼの量を知ることができる。本明細書において「RNaseA換算で」とは、その値が、標準品として用いる濃度既知のリボヌクレアーゼとしてRNaseAを用いた場合に得られたものであることを示している。具体的手法は後述する。
また、本発明の胚芽抽出液、例えば上記した手順により得られる胚芽抽出液は260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90の時のDNA含有量が230μg/ミリリットル以下、好ましくは200μg/ミリリットル以下、より好ましくは180μg/ミリリットル以下である。本発明において、DNAの含有量は以下の方法により測定した値である。
DNA含有量の測定方法
PicoGreen dsDNA quantitation reagent(モレキュラープローブ社製)を用い、Calf Thymus DNA Standard(ファルマシアバイオテク社製)を標準試料として、マイクロプレート蛍光光度計(SPECTRAmax GEMINI XS,モレキュラーデバイス社製)を用いて測定する。
まず、試料200マイクロリットルにproteinase K(10mg/ミリリットル)を10マイクロリットル加え、55℃で一晩反応させる。反応液を等量のフェノールで抽出後、さらに等量のフェノール・クロロフォルム(1:1)で抽出して除蛋白し、1/10量の3モル/リットル酢酸ナトリウムおよび2倍量のエタノールを加えてエタノール沈澱を行う。70%エタノールで洗浄後、1ミリモル/リットル エチレンジアミン四酢酸ナトリウムを含む10ミリモル/リットル トリス塩酸緩衝液(pH8.0)(TE)に溶解する。この溶液にRNaseA(10mg/ミリリットル)を5マイクロリットル加えて37℃で一晩反応させ、上記と同様にフェノールおよびフェノール・クロロフォルムで抽出してRNAを除去する。試料はエタノール沈澱・洗浄し、TE200マイクロリットルに溶解する。TEで200倍に薄めたPicoGreen dsDNA quantitation reagentとTEで適当な濃度に薄めた試料を1:1の比率で混ぜ、励起/蛍光波長485/530nmで蛍光度測定して、標準曲線からDNA含有量を算出する。
また、本発明の胚芽抽出液は、260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90の時の260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90の時の総脂肪酸含有量が0.03g/100g以下、好ましくは0.02g/100g以下、より好ましくは0.018g/100g以下である。本発明において、総脂肪酸含有量は以下の方法(ガスクロマトグラフ法)により測定した値である。本発明において、総脂肪酸含有量とは、パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸含有量の合計量である。
総脂肪酸含有量の測定法
試料5.0gに、ヘプタデカン酸2mg(内標準)、エタノール4ミリリットル、イオン交換水6.7ml及び12モル/リットルの塩酸8.3ミリリットルを添加し、酸分解を行う。次いで、エタノール16ミリリットルを添加し、ジエチルエーテル−石油エーテル混液(容量比1:1)100ミリリットルを添加して抽出処理し、該混液60ミリリットルによる抽出処理を2回行う。水洗、抽出溶媒留去の後、ACOS Official Method Ce 1b-89(1997)に準じて、けん化及びメチルエステル化を行った後、下記の操作条件でガスクロマトグラフによる測定を行う。
<ガスクロマトグラフ操作条件>
測定機種:島津製作所製 GC−17A
検出器 :FID
カラム :J&W製 DB−23,φ0.25mm×30mm,df.0.25μm
カラム温度:70℃(1分間保持)→170℃(10℃/分昇温)→210℃(1.2℃/分昇温)
注入口温度:250℃
検出器温度:250℃
ガス流量:ヘリウム 1.5ミリリットル/分
ガス圧力:水素 60kPa、空気 50kPa
導入系:スプリットレス
得られた測定値から下記式により、各脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸)の含有量を計算し、これらから総脂肪酸含有量を算出する。
各脂肪酸含有量(g/100g)=(E×F×H/D×G)×0.1
(上記式中、Dはヘプタデカン酸のピーク面積、Eは各脂肪酸のピーク面積、Fはヘプタデカン酸添加量(mg)、Gは試料採取量、Hは感度補正係数(予め測定したヘプタデカン酸に対する各脂肪酸の感度)を表す。)
さらに、本発明の胚芽抽出液、例えば上記した手順により得られる胚芽抽出液は、それを用いて無細胞タンパク質合成を行う際、従来の抽出法により得られる胚芽抽出液を用いた場合に比べ、ATP等のエネルギー源の消費を抑えることが可能である。このことは、本発明の胚芽抽出液のホスファターゼ活性が低減されている可能性を示唆するものである。
本発明はまた、本発明の胚芽抽出液を使用することを特徴とする無細胞タンパク質の合成方法を提供する。
当該無細胞タンパク質合成方法は、上記のようにして得られた胚芽抽出液を使用する点を除き、従来と同様の方法で行うことができる。この方法は、公知のバッチ法であってもよいし、Spirinら(A.S.Spirin et al.(1988),Science,242,1162-1164)や横山らの(木川ら、第21回日本分子生物学会、WID6)の連続式無細胞系タンパク質合成システムのようなアミノ酸、エネルギー源の連続供給系であってもよい。バッチ法ではタンパク質合成を長時間行うと反応が停止することがあるため、後者のアミノ酸、エネルギー源の連続供給系を使用することにより、反応を長時間維持させることができ、更なる効率化が可能となる。また、連続供給系でタンパク質を合成する場合には、透析法を使用することもできる。例えば、本発明の胚芽抽出液を透析内液に、エネルギー源やアミノ酸を含む混合液を透析外液に用いた限外濾過膜透析系では、タンパク質を連続的に大量調製することが可能である。ここで、エネルギー源としては、アデノシン三リン酸(ATP)、グアノシン三リン酸(GTP)、クレアチンリン酸等が挙げられ、アミノ酸としては20種類のL型アミノ酸が挙げられる。
本発明の胚芽抽出液(抽出溶媒の存在下に胚芽の細分化を行うことを特徴とする方法によって得られる胚芽抽出液、あるいは抽出溶媒非存在下に胚芽を衝撃又は切断によって細分化し、その後抽出溶媒で抽出することを特徴とする方法によって得られる胚芽抽出液)においては、その調製の際に胚芽の細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁等の必要以上の破壊が抑えられているので、例えばリボヌクレアーゼの混入が極めて低減化されている。このように、タンパク質合成に必要なtRNAがリボヌクレーゼによる分解を受けることが少ないので、本発明の胚芽抽出液にはタンパク質合成反応に必要とされる量のtRNAが通常含まれているため、従来のように、別途調製したtRNAを追加することは必須要件ではない。このような胚芽抽出液は、少なくとも植物胚芽抽出物を含有する無細胞タンパク質合成用溶液として機能し、タンパク質合成に必須あるいは適当とされる成分であるATP、GTP、クレアチンリン酸、クレアチンキナーゼ、L型アミノ酸、カリウムイオン及びマグネシウムイオン等が存在すればtRNAを添加しなくとも十分なタンパク質合成活性を有するものである。ここで、「tRNAを添加しなくとも十分なタンパク質合成活性を有する」無細胞タンパク質合成用溶液とは、後記実施例で示す通り、tRNAを添加しなくとも従来の植物胚芽を予め液体窒素等で凍結し、乳鉢等で摩砕又は圧砕した後で溶媒抽出して調製した胚芽抽出液に十分量(タンパク質合成量がプラトーに達する量)のtRNAを添加したものと少なくとも同等のタンパク質合成活性を有する無細胞タンパク質合成用溶液、好ましくは、tRNA無添加の場合のタンパク質合成活性が、tRNAを添加した際のタンパク質合成活性と同等あるいは同等以上である当該溶液を意味する。
さらに、上記したtRNAを添加しなくとも十分なタンパク質合成活性を有するような本発明の胚芽抽出液と、ATP、GTP、クレアチンリン酸、クレアチンキナーゼ、L型アミノ酸、カリウムイオン及びマグネシウムイオン等のタンパク質合成に必須あるいは適当とされる成分とを含有する水溶液はレディーメイド型無細胞タンパク質合成溶液として、簡便に使用することができる。上記成分の含有量は特に限定されず、無細胞タンパク合成反応を行いうる濃度であればよい。このようなレディーメイド型無細胞タンパク質合成溶液は、タンパク質合成に際して従来のように反応溶液の調製を必要とせず、目的とする翻訳鋳型(mRNA)を添加するだけで、簡便に、効率的に、大量にタンパク質を合成することができる。該タンパク質合成用溶液は、溶媒として上記抽出溶媒を用い、それに必要に応じて上記成分を添加することにより調製できる。
本発明の無細胞タンパク質合成を行うためのキットは、少なくとも上記胚芽抽出液または無細胞タンパク質合成用溶液を含み、任意の要素として、無細胞タンパク質合成に必要な他の試薬類や反応容器、例えば希釈液(緩衝液)、透析液、エネルギー源、発現ベクター、陽性コントロール用発現ベクター、基質となるアミノ酸、透析チューブ等を含んでいてもよい。また、該試薬キットにはRNAポリメラーゼ等の転写系に用いる試薬が含まれていてもよい。
実施例
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、下記の実施例は本発明についての具体的認識を得る一助とみなすべきものであり、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、lはリットル、mlはミリリットル、Mはモル/リットル、mMはミリモル/リットル、μgはマイクログラムをそれぞれ表す。
実施例1 ワーリングブレンダーによる微粉砕抽出(1)
北海道産のチホク小麦(未消毒)を1分間に100gの割合でミル(Fritsch社製Rotor Speed Mill pulverisette 14型)に添加し、回転数7000rpmで種子を温和に破砕した。この破砕処理を4回繰り返して行った。篩いで発芽能を有する胚芽を含む画分(メッシュサイズ0.71mm〜1.00mm)を回収した後、四塩化炭素とシクロヘキサンの混合液[四塩化炭素:シクロヘキサン=2.4:1(容量比)]を用いた重液選別によって、発芽能を有する発芽を含む浮上画分を回収し、室温乾燥によって有機溶媒を除去した後、室温送風によって混在する種皮等の不純物を除去して粗胚芽画分を得た。
次に、ベルト式色彩選別機BLM−300K(製造元:株式会社安西製作所、発売元:株式会社安西総業)を用いて、次の通り、色彩の違いを利用して粗胚芽画分から胚芽を選別した。この色彩選別機は、粗胚芽画分に光を照射する手段、粗胚芽画分からの反射光及び/又は透過光を検出する手段、検出値と基準値とを比較する手段、基準値より外れたもの又は基準値内のものを選別排除する手段を有する装置である。
色彩選別機のベルト上に粗胚芽画分を1000乃至5000粒/m2となるように供給し、ベルト上の粗胚芽画分に蛍光灯で光を照射して反射光を検出した。ベルトの搬送速度は、50m/分とした。受光センサーとして、モノクロのCCDラインセンサー(2048画素)を用いた。
まず、胚芽より色の黒い成分(種皮等)を排除するために、ベージュ色のベルトを取り付け、胚芽の輝度と種皮の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。次いで、胚乳を選別するために、濃緑色のベルトに取り替えて胚芽の輝度と胚乳の輝度の間に基準値を設定し、基準値から外れるものを吸引により取り除いた。吸引は、搬送ベルト上方約1cm位置に設置した吸引ノズル30個(長さ1cm当たり吸引ノズル1個並べたもの)を用いて行った。
この方法を繰り返すことにより胚芽の純度(任意のサンプル1g当たりに含まれる胚芽の重量割合)が98%以上になるまで胚芽を選別した。
上記によって得られた小麦胚芽50gを4℃の蒸留水中に懸濁し、超音波洗浄器を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄した。次に、ノニデット(Nonidet)P40の0.5容量%溶液に懸濁し、超音波洗浄器を用いて洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄して胚乳分を除去した小麦胚芽を得た。
次いで、以下の操作を4℃で行い、胚芽抽出液(小麦胚芽抽出物含有液)を得た。まず、洗浄した小麦胚芽を抽出溶媒(HEPES−KOH(pH7.6)80mM、酢酸カリウム200mM、酢酸マグネシウム10mM、塩化カルシウム4mM、L型アミノ酸20種類各0.6mM及びジチオスレイトール8mM)100mlとともにワーリングブレンダーに入れ、回転数5000乃至20000rpmで30秒粉砕した。ブレンダー内壁に付着した胚芽等をかき落とした後再び5000乃至20000rpmで30秒粉砕する作業を2回行った。得られた胚芽粉砕物の粒径分布をレーザー散乱方式粒度分布装置(堀場製作所製LA−920)を用いて測定した。その結果を図1に示す。
得られた抽出液と粉砕胚芽の混合物を遠心管に移し30000g、30分間の遠心をかけ上清を採取した。これをさらに30000g、30分間の遠心をかけ上清を採取する操作を5回繰り返し濁りのない上清を得た。これをあらかじめ溶液(HEPES−KOH(pII7.6)40mM、酢酸カリウム100mM、酢酸マグネシウム5mM、L型アミノ酸20種類各0.3mM及びジチオスレイトール4mM)で平衡化しておいたセファデックスG−25カラムでゲルろ過を行った。得られた液を30000g、12分間の遠心をかけ上清を採取し、これを小麦胚芽抽出物含有液とした。試料の濃度は、260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が80〜150(A260/A280=1.5)になるように抽出溶媒で調整した。
実施例2 透析法による小麦胚芽無細胞タンパク質合成系の調製
実施例1で得られた小麦胚芽抽出物含有液を260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90になるよう抽出溶媒で濃度調整し、Green fluorescent Protein(GFP)の合成を“Endo,Y.et al.,PNAS,January 18,2000/vol.97/no.2/559-564”に記載の方法に準じて行った。GFP活性は、Turner Designs社製のTD-360 Mini-Fluorometerを用いて、490nmの励起波長で510nmの蛍光強度から定量した。図3に示すように(図3中、ブレンダー法と表示)蛍光強度が24時間後に約350000、48時間後に480000と観察され、GFPが合成されていることが確認できた。
実施例3 小麦胚芽抽出物含有液の分析(1)
北海道産のチホク小麦(未消毒)を用いて、実施例1と同様の方法で小麦胚芽抽出物含有液を調製した。試料を260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90になるように抽出溶媒で濃度調整し、各試料のDNA及びRNAの含有量を測定した。その結果を以下に示す。
Figure 0003746780
なお、DNA及びRNAの含有量の測定方法は以下の通りである。
DNA含有量の測定方法
PicoGreen dsDNA quantitation reagent(モレキュラープローブ社製)を用い、Calf Thymus DNA Standard(ファルマシアバイオテク社製)を標準試料として、マイクロプレート蛍光光度計(SPECTRAmax GEMINI XS,モレキュラーデバイス社製)を用いて測定した。
まず、試料200μlにproteinase K(10mg/ml)を10μl加え、55℃で一晩反応した。反応液を等量のフェノールで抽出後、さらに等量のフェノール・クロロフォルム(1:1)で抽出して除蛋白し、1/10量の3M酢酸ナトリウムおよび2倍量のエタノールを加えてエタノール沈澱を行った。70%エタノールで洗浄後、1mMエチレンジアミン四酢酸ナトリウムを含む10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)(TE)に溶解した。この溶液にRNaseA(10mg/ml)を5μl加えて37℃で一晩反応させ、上記と同様にフェノールおよびフェノール・クロロフォルムで抽出してRNAを除去した。試料はエタノール沈澱・洗浄し、TE200μlに溶解した。TEで200倍に薄めたPicoGreen dsDNA quantitation reagentとTEで100倍に薄めた試料を1:1の比率で混ぜ、励起/蛍光波長485/530nmで蛍光度測定して、標準曲線からDNA含有量を算出した。
RNA含有量の測定方法
蛍光試薬としてBioGreen RNA Quantitation reagent(モレキュラープローブ社製)を用い、Ribosomal RNA standard(16S and 23S rRNA from E.coli)(モレキュラープローブ社製)を標準RNAとして、マイクロプレート蛍光光度計(SPECTRAmax GEMINI XS,モレキュラーデバイス社製)を用いて測定した。
まず、抽出液100μlにDNaseI(RNase free,1U/μl)を3μl加え、37℃で30分反応させた。反応液に300μlの精製水を加え、400μlの水飽和フェノールで2回抽出後、さらに400μlのクロロフォルムで抽出してDNAを除去した。そこに、1/10量の3M酢酸ナトリウムおよび2倍量のエタノールを加えてエタノール沈澱を行い、100μlのTEに溶解した。さらにTEで1500倍に薄めた試料100μlにBioGreen RNA Quantitation reagentの200倍稀釈液100μlを加え、励起/蛍光波長480/520nmで蛍光度測定して、標準曲線からRNA含有量を算出した。
実施例4 小麦胚芽抽出物含有液の分析(2)
北海道産のチホク小麦(未消毒)を用いて、実施例1と同様の方法で小麦胚芽抽出物含有液を調製した。試料を260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90になるように抽出溶媒で濃度調整して、各試料の脂質(酸分解法)及び総脂肪酸(ガスクロマトグラフ法)の含有量を測定した。その結果を以下にに示す。
Figure 0003746780
なお、脂質及び脂肪酸の含有量の測定方法は以下の通りである。
脂質含有量の測定法(酸分解法)
容器中に試料(S)5.0g及び濃塩酸10ミリリットルを入れ、80℃の湯浴で40分間加熱して酸分解を行った。得られた分解物をエチルエーテルでマジョニア管に移し、ジエチルエーテル−石油エーテル混液(容量比1:1)で振とう抽出を行った。エーテル層が酸性を示さなくなるまでイオン交換水で洗浄した。エーテル層を回収して秤量容器(W1g)に移し、エーテルを留去した後、さらに105℃で1時間乾燥処理して、秤量した(W2g)。下記式により脂質含有量(g/100g)を算出した。
脂質含有量(g/100g)=(W2−W1)÷S×100
総脂肪酸含有量の測定法(ガスクロマトグラフ法)
試料5.0gに、ヘプタデカン酸2mg(内標準)、エタノール4ミリリットル、イオン交換水6.7ml及び12モル/リットルの塩酸8.3ミリリットルを添加し、酸分解を行った。次いで、エタノール16ミリリットルを添加し、ジエチルエーテル−石油エーテル混液(容量比1:1)100ミリリットルを添加して抽出処理し、該混液60ミリリットルによる抽出処理を2回行った。水洗、抽出溶媒留去の後、ACOS Official Method Ce 1b-89(1997)に準じて、けん化及びメチルエステル化を行った後、下記の操作条件でガスクロマトグラフによる測定を行った。
<ガスクロマトグラフ操作条件>
測定機種:島津製作所製 GC−17A
検出器 :FID
カラム :J&W製 DB−23,φ0.25mm×30mm,df.0.25μm
カラム温度:70℃(1分間保持)→170℃(10℃/分昇温)→210℃(1.2℃/分昇温)
注入口温度:250℃
検出器温度:250℃
ガス流量:ヘリウム 1.5ミリリットル/分
ガス圧力:水素 60kPa、空気 50kPa
導入系:スプリットレス
得られた測定値から下記式により、各脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸)の含有量を計算し、これらから総脂肪酸含有量を算出した。
各脂肪酸含有量(g/100g)=(E×F×H/D×G)×0.1
(上記式中、Dはヘプタデカン酸のピーク面積、Eは各脂肪酸のピーク面積、Fはヘプタデカン酸添加量(mg)、Gは試料採取量、Hは感度補正係数(予め測定したヘプタデカン酸に対する各脂肪酸の感度)を表す。)
実施例5 小麦胚芽抽出物含有液の分析(3)
岡山県産のシラサギ小麦(未消毒)を用いて、実施例1と同様の方法で小麦胚芽抽出物含有液を調製し、試料を260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90になるように抽出用緩衝液で調整し、DNA及びRNAの含有量を実施例3と同様の方法で測定した。その結果を以下に示す。
Figure 0003746780
比較例1 乳鉢による凍結微粉砕抽出(1)
北海道産のチホク小麦(未消毒)を実施例1と同様の方法で、粉砕、選別して、粗胚芽画分を得、色彩選別機で胚芽の純度が98%以上になるまで胚芽を選別した。更に、実施例1と同様の方法で胚芽を洗浄し、胚乳分を除去した小麦胚芽を得た。
次いで、以下の操作を4℃で行い、小麦胚芽抽出物含有液を得た。まず洗浄した小麦胚芽を液体窒素で凍結し乳鉢中で微粉砕した。得られた胚芽粉砕物の粒径分布を図2に示す。
抽出溶媒(HEPES−KOH(pH7.6)80mM、酢酸カリウム200mM、酢酸マグネシウム10mM、塩化カルシウム4mM、L型アミノ酸20種類各0.6mM及びジチオスレイトール8mM)10mlを乳鉢に加え混合した。得られた抽出液と粉砕胚芽の混合物を遠心管に移し30000g、30分間の遠心をかけ上清を採取した。これをさらに実施例1と同様の条件で、遠心分離して濁りのない上清を得、ゲルろ過後、遠心分離を行い、得られた上清を小麦胚芽抽出物含有液とした。試料の濃度は、260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が170〜250(A260/A280=1.5)になるように抽出溶媒で濃度調整した。
比較例2 透析法による小麦胚芽無細胞タンパク質合成系の調製
比較例1で得られた小麦胚芽抽出物含有液を260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90になるように抽出溶媒で濃度調整し、Green fluorescent protein(GFP)の合成を“Endo,Y.et al.,PNAS,January 18,2000/vol.97/no.2/559-564”に記載の方法に準じて行った。GFP活性は、Turner Designs社製のTD-360 Mini-Fluorometerを用いて、490nmの励起波長で510nmの蛍光強度から定量した。図3に示すように(図3中、乳鉢法と表示)蛍光強度が24時間後に約200000、48時間後に260000と観察され、GFPが合成されていることが確認できたが、実施例2に比べて低い値であった。
比較例3 小麦胚芽抽出物含有液の分析(1’)
北海道産のチホク小麦(未消毒)を用いて、比較例1と同様の方法で小麦胚芽抽出物含有液を調製した。試料を260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90になるように抽出溶媒で濃度調整して、各試料のDNA及びRNAの含有量を実施例3と同様の方法で測定した。その結果を以下に示す。
Figure 0003746780
上記結果から明らかな通り、RNA含有量は実施例3で得られた胚芽抽出物含有液の値とほぼ同様(試料a1と試料b1との比較では約1.1倍)であり、DNA含有量は約2倍であった。
比較例4 小麦胚芽抽出物含有液の分析(2’)
北海道産のチホク小麦(未消毒)を用いて、比較例1と同様の方法で小麦胚芽抽出物含有液を調製した。試料を260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90になるように抽出溶媒で濃度調整し、実施例4と同様に各試料の脂質(酸分解法)及び総脂肪酸(ガスクロマトグラフ法)含有量を測定した。その結果を以下に示す。
Figure 0003746780
上記結果から明らかな通り、脂質および総脂肪酸の含有量ともに、実施例4で得られた胚芽抽出物含有液の含有量の値よりも高く、総脂肪酸含有量については、試料a3と試料b4との比較において2倍であった。
実施例6 ワーリングブレンダーによる微粉砕抽出
北海道産のチホク小麦(未消毒)を用い、胚芽の抽出溶媒として塩化カルシウムを含有しない抽出溶媒(HEPES−KOH(pH7.8)80mM、酢酸カリウム200mM、酢酸マグネシウム10mM、L型アミノ酸20種類各0.6mM及びジチオスレイトール8mM)を用いた以外は実施例1と同様の方法で、小麦胚芽抽出物含有液を得た。試料の濃度は、260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が80〜150(A260/A280=1.5)になるように抽出溶媒で調整した。
実施例7 バッチ式小麦胚芽無細胞タンパク質合成反応(1)
実施例6で得られた小麦胚芽抽出物含有液を260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が110になるように抽出溶媒で濃度調整し、反応溶液の調製および反応方法は既報(Madin,K.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2000,97,559-564)に従って、これを一部改変して行った。すなわち、下記(*1)に示した組成の反応溶液の調製を行った。
コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系専用発現ベクター(pEU)に組み込んだジヒドロ葉酸脱水素酵素(DHFR)遺伝子から転写して調製したDHFR mRNA(キャップ構造なし)をモデル翻訳鋳型(WO01/27260号公報)として、60μg/ml添加し、26℃で合成反応を行った。合成活性は26℃、2時間の反応で5μl反応溶液中のタンパク質に取り込まれた[14C]−ロイシンから測定した。
ここで、tRNAの添加要否を確認するため、tRNAの添加量を0μg/ml、50μg/ml、100μg/ml、150μg/mlの4ケースで合成を行った結果、tRNAを添加しなくとも十分な合成活性が得られた(図4中、ブレンダー法と表示)。また、この結果から、抽出溶媒にカルシウムが存在しなくとも充分なタンパク質合成活性を有する胚芽抽出物含有液が得られることが明らかとなった。
(*1)コムギ胚芽無細胞タンパク質合成溶液の組成
反応溶液は、260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が200の抽出液では反応容量の24%のコムギ胚芽抽出液(従って、260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が110の場合では43.5%)を含み、次の成分組成である。30mM HEPES−KOH(pH7.6)、95mM酢酸カリウム、2.65mM酢酸マグネシウム、2.85mMジチオスレイトール、1.2mMアデノシン三リン酸(ATP)、0.25mMグアノシン三リン酸(GTP)、16mMクレアチンリン酸、0.5mg/mlクレアチンキナーゼ、0.380mMスペルミジン、20種類のL型アミノ酸(各0.3mM)、1000units/mlリボヌクレアーゼ阻害剤(RNaseインヒビター)。
比較例5 乳鉢による凍結微粉砕抽出(2)
北海道産のチホク小麦(未消毒)を用い、胚芽の抽出溶媒として塩化カルシウムを含有しない抽出溶媒(HEPES−KOH(pH7.8)80mM、酢酸カリウム200mM、酢酸マグネシウム10mM、L型アミノ酸20種類各0.6mM及びジチオスレイトール8mM)を用いた以外は実施例1と同様の方法で、小麦胚芽抽出物含有液を得た。試料の濃度は、260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が170〜250(A260/A280=1.5)になるように抽出溶媒で調整した。
比較例6 バッチ式小麦胚芽無細胞タンパク質合成反応
比較例5で得られた小麦胚芽抽出物含有液を260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が210になるよう濃度調整し、実施例7と同様に、反応溶液を調製して、タンパク質合成を行い、タンパク質に取り込まれた[14C]−ロイシンを測定した。なお、反応溶液は、260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が200の抽出液では反応容量の24%のコムギ胚芽抽出液(従って、260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が210の場合では22.8%)を含むものを用いた。
図4から明らかな通り、実施例7と同様にtRNAの添加量を0μg/ml、50μg/ml、100μg/ml、150μg/mlの4ケースで合成を行った結果、tRNAを添加しない場合は十分な合成活性が得られなかった(図4中、乳鉢法と表示)。
実施例8 リボヌクレアーゼ活性の測定
(1)胚芽抽出液
リボヌクレアーゼ活性測定用のコムギ胚芽抽出液として、本発明の胚芽抽出液(実施例1)と、従来法により抽出することによって得られる抽出液(比較例1)を用いた。活性測定のため、従来の胚芽抽出液は、30mM Hepes−KOH(pH 7.8)、1.2mM ATP、0.25mM GTP、16mM ホスホクレアチン、2mM ジチオスレイトール、0.3mM スペルミジン、0.3mM 20種アミノ酸、2.5mM 酢酸マグネシウム、100mM酢酸カリウム、0.005% アジ化ナトリウム(以下、D.B.と称す)を含む、MicroSpin G−25 Columnで交換したものを用いた。本発明の抽出液は、D.B.を含んでいる。0D260測定値に基づいて、両胚芽抽出液(本発明の胚芽抽出液および従来法で抽出して得られる胚芽抽出液)の濃度を揃えた。
(2)反応液の調製
リボヌクレアーゼの基質として、pEU−DHFR(WO01/27260号公報参照)をセンスプライマーとアンチセンスプライマーを用いてPCRを行い、それを鋳型に転写し得られたmRNAを用いた。転写は、80mM Hepes−KOH、16mM酢酸マグネシウム、2mM スペルミジン、10mM DTT、3mM NTP、1U/μl SP6RNAポリメラーゼ、1U/μl RNaseインヒビター(RNasin)、10% PCR産物となるように反応系400μlを調製し、37℃、3時間保温した。mRNAをラジオアイソトープ32Pで標識する場合は、UTPの濃度を1.2mMにした反応系400μl中に[α−32P]UTP 8μlを加えた。保温後、10,000g、2分間遠心後の、上清に7.5M酢酸アンモニウム 53μl、エタノール1mlを加え、20,000g、15分遠心を行った。沈殿を1mlの70%エタノールで洗ったあと、80μlのD.B.に溶かしたRNAを用いた。以下にそれぞれの組成を示す。
Figure 0003746780
Figure 0003746780
(3)RNA分解のコントロール(RNaseAの標準品による検定)
RNA分解のコントロールとしてmRNA(ラジオアイソトープ無し)2μl、mRNA(ラジオアイソトープ有り)1μlにRNaseAをそれぞれ30pg、300pg、3ng、30ng加えて、30μlの反応系になるようにD.B.で調製し、26℃、30分保温した。以下にそれぞれの組成を示す。
Figure 0003746780
本発明の胚芽抽出液と従来法による胚芽抽出液に含まれるリボヌクレアーゼの活性は、反応系にmRNA(ラジオアイソトープ無し)2μl、mRNA(ラジオアイソトープ有り)1μlと、終濃度を40OD260/mlとなるようにそれぞれ8μlあるいは12μlを加えD.B.で30μlにする。各4本調製し26℃保温した。
Figure 0003746780
保温10分、30分後に、液体窒素で凍らし反応を停止する。Milli Q水 255μl、10%SDS 15μl、フェノール/milli Q水 300μlを加え10分間ボルテックスをかけ、20,000gで10分間遠心した。水相300μlを新しいチューブに移し、フェノール/milli Q 300μlを加え10分間ボルテックスをかけ、20,000gで10分間遠心した。水相300μlを新しいチューブに移し、クロロホルム300μlを加え10分間ボルテックスをかけ、20,000g、1分間遠心した。水相300μlを新しいチューブに移し、5M塩化ナトリウム30μl、エタノール 750μlを加え、20,000g、15分遠心した。沈殿を1mlの70%エタノールで洗ったあと、54μlのmilli Q水に溶かし6μlの10×Sample buffer(0.25%ブロモフェノールブルー、50mM Tris−HCl pH7.6、6%グリセロール)を加え、5μlのサンプルを1.2%アガロースで電気泳動を行った。オートラジオグラム(FUJIFILM:BAS−2500)でRNAの分解の有無を確認した。結果を図5に示す。Mはマーカーを表す。(A)は、基質であるmRNAを、濃度を4段階に変えて調製したRNaseA含有溶液で処理した場合のRNA分解の様子を示した図である。
(B)は、基質であるmRNAを、本発明の胚芽抽出液あるいは従来法による抽出によって得られる胚芽抽出液で処理した場合のRNAの分解を示す図である。
RNaseA処理においては、100pg/mlのRNAaseAでmRNAはほぼ完全に分解された。本発明の胚芽抽出液と従来の胚芽抽出液のそれぞれのバンド強度は、RNaseA未処理のものを100%としてImageGauge(FUJIFILM:BAS2500)のPLSから算出した。結果を図6に示す。本発明の抽出液あたりのリボヌクレアーゼは、RNaseA換算で10pg/μl以下であることが分かる。
本発明により、上記した優れた特性を有する胚芽抽出液が得られる理由は必ずしも明確ではないが、次の通りと考えられる。
植物胚芽中のタンパク質合成系(リボソーム、tRNA、アミノアシルtRNA酵素、翻訳因子等)は、発芽時の細胞核における転写に続いて細胞質へ移送されるmRNAの供給に呼応して始動する活発なタンパク質合成に備えて準備されているが、そのすべての因子は、翻訳反応に生じる細胞質内にのみ局在している。即ち、タンパク質合成に関与する因子は、細胞質以外の部分(胚芽の細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁等)には存在していない。細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁等にはタンパク質合成に関与しない不要なDNAや脂質が含まれているため、従来のように凍結した胚芽を、乳鉢、スタンプミル、ボールミル等によって摩砕又は圧砕することにより微粉砕し、その後で抽出溶媒で抽出するという方法によって得られた胚芽抽出物含有液にはこれらのタンパク質合成反応に関与しない不要な成分が多く含まれている。
タンパク質合成反応に関与しない成分には、タンパク質合成反応を阻害したり、合成産物の高次構造形成や、機能解析において妨害作用を示したりするものがある。例えば、DNAは酸性のポリマーであり、リボソームタンパク質等の塩基性タンパク質に結合して翻訳反応を阻害し得るし、さらにDNA結合タンパク質合成時においては、胚芽由来のDNA断片の中にこれに強く結合する塩基配列を有するものがあり得る。また、脂肪成分は一般的にタンパク質の精製過程の妨害物質であることが多く、通常、前処理操作で除去することが必要となっている。その他、低分子量物質の他にはタンパク質合成阻害作用を有するものも存在している可能性がある。
又、リボヌクレアーゼの混入は、鋳型mRNAの分解を招き、ホスファターゼの混入はATP等のエネルギー源の分解を招く。
本発明では細分化を抽出溶媒存在下に行うか、あるいは衝撃または切断により胚芽を細分化した後抽出溶媒を添加し抽出する、胚芽抽出液(無細胞タンパク質合成系に有用である)を提供する。細分化にあたり衝撃または切断という従来用いられてこなかった新しい手法を利用することにより、細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁等が必要以上に破壊されることなく、従って、従来法で問題となっていたタンパク質合成反応に関与しない不要な成分あるいは悪影響を及ぼす成分が抽出されるのを防ぐことができる。また、細分化を摩砕や圧砕といった従来法を利用して胚芽抽出液を調製する場合でも、当該細分化を抽出溶媒存在下で行うことにより、より迅速な抽出が可能となり、それに伴って細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁等が必要以上に破壊されることなく、従って、やはりタンパク質合成反応に関与しない不要な成分あるいは悪影響を及ぼす成分が抽出されるのを防ぐことができる。
産業上の利用可能性
本発明によれば、タンパク質合成に必要な因子を効率的に細胞質から抽出し、細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁等に含まれるDNAや脂質等の不純物の少ない胚芽抽出液を得ることができるため、安定で高い効率の無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液および無細胞タンパク質合成用溶液を提供することができる。本発明のタンパク質合成用胚芽抽出液またはタンパク質合成用溶液を用いることにより、安定で高い効率の無細胞タンパク質合成が達成できる。また、短時間に高純度の胚芽抽出液を大量に製造することができるため、タンパク質の無細胞系での大量調製、たとえば、進化分子工学の分野での新しい酵素や抗体の大量調製に極めて有用である。
本出願は、日本で出願された特願2002−23138、特願2002−23139及び特願2002−23140を基礎としておりそれらの内容は本明細書に全て包含されるものである。

Claims (18)

  1. 胚乳を実質的に除去した植物胚芽を衝撃または切断により細分化する工程によって得られる胚芽由来のリボヌクレアーゼ活性の夾雑が低減されたタンパク質合成活性を維持する胚芽抽出液。
  2. 植物胚芽を衝撃または切断により細分化する工程を含む方法により得られるタンパク質合成活性を維持する胚芽抽出液。
  3. 前記衝撃または切断により細分化する工程が、高速回転する刃状物を有する装置で行われることを特徴とする請求の範囲1又は2に記載の胚芽抽出液。
  4. 前記刃状物の回転数が、1000〜30000rpmであることを特徴とする請求の範囲3に記載の胚芽抽出液。
  5. 前記細分化する工程が、抽出溶媒の存在下で行われることを特徴とする請求の範囲1〜4のいずれか1項に記載の胚芽抽出液。
  6. 前記植物胚芽が、コムギ、オオムギ、イネ又はコーンの胚芽である請求の範囲1〜5のいずれか1項に記載の胚芽抽出液。
  7. 植物胚芽を衝撃または切断により細分化する工程を含むタンパク質合成活性を維持する胚芽抽出液の製造方法。
  8. 前記衝撃または切断により細分化する工程が、高速回転する刃状物を有する装置で行われることを特徴とする請求の範囲7に記載の胚芽抽出液の製造方法。
  9. 前記刃状物の回転数が、1000〜30000rpmであることを特徴とする請求の範囲8に記載の胚芽抽出液の製造方法。
  10. 前記細分化する工程が、抽出溶媒の存在下で行われることを特徴とする請求の範囲7〜9のいずれか1項に記載の胚芽抽出液の製造方法。
  11. 前記抽出溶媒が、緩衝液、カリウムイオン、マグネシウムイオン及びチオール基の酸化防止剤からなる群より選択される1以上を含むものである請求の範囲10項に記載の胚芽抽出液の製造方法。
  12. 前記植物胚芽が、胚乳成分が実質的に夾雑しないものである請求の範囲7〜11のいずれか1項に記載の胚芽抽出液の製造方法。
  13. 前記植物胚芽が、コムギ、オオムギ、イネ又はコーンの胚芽である請求の範囲7〜12のいずれか1項に記載の胚芽抽出液の製造方法。
  14. 請求の範囲7〜13のいずれか1項に記載の胚芽抽出液の製造方法により得られうる植物胚芽抽出液。
  15. 請求の範囲1〜6または14のいずれか1項に記載の胚芽抽出液を使用することを特徴とする無細胞タンパク質合成方法。
  16. 請求の範囲1〜6または14のいずれか1項に記載の胚芽抽出液、ATP、GTP、クレアチンリン酸、クレアチンキナーゼ、L型アミノ酸、カリウムイオン及びマグネシウムイオンを含有することを特徴とする無細胞タンパク質合成用溶液。
  17. 請求の範囲1〜6または14のいずれか1項に記載の胚芽抽出液を含むことを特徴とする無細胞タンパク質合成を行うためのキット。
  18. 請求の範囲16に記載の無細胞タンパク質合成用溶液を含むことを特徴とする無細胞タンパク質合成を行うためのキット。
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